勇者「隻眼の魔女」 (58)


・魔王勇者系SSです
・一般的な魔王勇者系SSと同じような程度で、グロ描写が多かれ少なかれ戦闘等の内に含まれます
・地の文はほぼありません

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「――出でよ! 鋼鉄の鳥、ステュパリデス!!」

ボフンッ!!

「……また失敗かー」

「まあ、そう焦ることもないんじゃないですか。紅茶が入りましたよ、魔女さん」

魔女「焦るもなにも、また魔法陣の組み直しかと思うとそりゃ疲れますよ。紅茶ありがと、勇者」ズズ…

勇者「私でよければお手伝い致しますが」

魔女「気持ちは嬉しいんですけどね、あなた聖なる加護受けてるでしょ。魔物召喚とか無理ですよ」

勇者「私には無理でも、魔女さんならきっと出来ますよ。疲れたなら休めばいいのですから。
    魔女さんには負けますが、回復魔法くらいなら使えますし」


魔女「まぁねえ、確かにヒマですしね」

勇者「あっいえ、決してそのような意味ではありません」

魔女「いいんですいいんです、どうせ私はお飾りで四天王やってますし」

勇者「そんなことはありません。魔女さんは人間で最も優れた方ですから、当然の地位です」

魔女「人間ねえ。はたして今の私を人間と言っていいのかどうか」

勇者「悪魔と契約していようがなんだろうが、心が有るかぎり魔女さんは人間ですよ」

魔女「確かに、ゾンビだのゴーストだのに心があるとは思えませんけど、そういうのとはちょっと違うんですよ」


勇者「というと」

魔女「やー……なんていうの? 同じ魔物の分類でもアンデッドは肉体が死んでますけど、私は生きてる、みたいな違いです」

勇者「??」

魔女「私は生きたまま力を得る代償として、右目を差し出しました。成り立ちから違うんですね」

勇者「そういうものなのですか」

魔女「そういうものなのです」

勇者「なんにせよ、魔女さんがお飾りだなんて私は思っていませんよ」


魔女「そもそも、自分を差し置いて私がもっとも優れたとか言わないで欲しいですね」

勇者「いいえ、私など魔女さんの足元にも及びません」

魔女「容姿端麗、頭脳明晰、神から授かった力、篤い人望、しかも王子とかいう地位のおまけつきな、
    まるで勇者に生まれるべくして生まれたみたいなあなたが一体なに言ってるんですか」

勇者「誉めても何も出ませんよ。それに私は孤児院育ちです」

魔女「あーもう、ああ言えばこう言う。ほら、紅茶飲み終わったから片付けてきてください!」

勇者「そろそろアップルパイが焼きあがる頃ですが、そちらはいかがですか?」

魔女「下さいよ!」


勇者「わかりました。お持ちします」

魔女「……あー。勇者といると調子狂うわ、ホント」

「大変ですねえ」

魔女「ひいっ!? ちょ、氷王! あんた音もなく背後に立たないでよ!」

氷王「ふー、あついあつい。魔王城っていつになっても涼しくなりませんねえー」

魔女「……そりゃまあ火山洞窟の奥底にあるわけだしね。なるわけがない」

氷王「なんでまたこんなあついところに魔王城を建てたんでしょうねー、ねえ? 団扇が手放せませんよもう」


魔女「むしろなんであんたがここで暮らしていけるのかわからない」

氷王「まあー、腐っても四天王ですから。油断してると溶けちゃいそうになりますけどー」

魔女(……ホントに溶けてたことがあるとは言わないでおこう)

氷王「それで? その四天王の一角である、毒王さまはなにをしていらっしゃるのかしら?」

魔女「休憩」

氷王「違いますよー、勇者さんのことですよー」

魔女「なりゆき」


氷王「なりゆきって言われてもねえ。人間からの刺客ですようー? 魔王様におこられちゃいますよ、こんなところに置いといたら」

魔女「あたしの部屋こんなところって言った」

氷王「言葉のあやですってばー」

魔女「はぁ。まあ、魔王様もお気づきだと思うけどね、勇者がいるって」

氷王「お仲間はどうしたんですか」

魔女「なんか帰ったらしいけど知らない」

氷王「魔王様も勇者さんと戦うときを待っていらっしゃるんじゃないかって気がしますけどー」


魔女「気になるなら魔王様に訊いてきたらいいじゃない」

氷王「やーですよ、文字通り昇華しちゃいますってば、そんなことしたら」

魔女「あんたヘタレだもんねえ」

勇者「アップルパイ出来ましたよ。あれ、氷王さん」

氷王「やっほー、勇者さ~ん」

勇者「ちょうどいいところにいらっしゃいました。アップルパイはいかがですか?」

氷王「やったー! 頂きますうー」


魔女「えぇ?(焼き立て熱々のパイなんか食ってこいつ平気なの?)」

勇者「どうぞ、お座りください」

氷王「ありがとう。言葉遣い丁寧だし、椅子引いてくれるし、勇者さんってホント紳士だよねー」

勇者「恐れ入ります」

氷王「いただきま~す! んー! おいひい! これで料理も一流なんだもん、もう完璧ー」

勇者「お褒めの言葉をあずかり、光栄です」

氷王「あーもう身も心もとろけそうなほどあまーい! おいしーい!」


魔女(いやそれ、本当に溶けてるんじゃ……)

勇者「私としても作り甲斐があります」

氷王「ところで勇者さん、いつまでここにいらっしゃるんですかあ?」

勇者「用事が済むまでです」

氷王「へー。用事って?」

魔女「こらこら、あまり詮索しない」

氷王「だって気になるじゃん」


魔女「勇者ならいいんかい」

勇者「はは、構いませんよ。まあ、平たく言えば敵戦力の観察ですね」

氷王「魔王様にいることバレてるっぽいですけど、平気なんです?」

勇者「バレてるのはちょっと困りますねー」

氷王「あはははは」

魔女「ちょっと氷王……」

勇者「いいんです、いいんです」


氷王「勇者さんって面白いですねー。ごちそうさま、おいしかったよアップルパイ! ばいばーい!」

勇者「またいつでもご用意します」

氷王「あはは、ありがとー!」

魔女「……」

勇者「……」

魔女「またってなんですか、もうあいつ部屋に入れませんよ」

勇者「そうしたら、私が氷王さまの部屋に持っていきますよ」


魔女「ちょっ、あいつの部屋ン中知ってるんですか? 冷凍庫どころじゃありません、一瞬で氷づけになりますよ」

勇者「お部屋の外でお渡しすればよろしいかと」

魔女「はぁ。あなた、いつもそんなだから――」

コンコン

魔女「はい、どちら様ですか?」カチャ

「こんにちは」

魔女「あれ、鋼王さん。いらっしゃい」


鋼王「お取り込み中でしたか?」

魔女「いえ、お気遣いなく」

鋼王「ではお言葉に甘えて、お邪魔します」

魔女「あっ、どうぞお座りください」

鋼王「失礼します。アップルパイください」

魔女「また唐突ですね」

鋼王「いやー、氷王がめずらしく上機嫌で走り回ってたもんで。話聞いたらアップルパイが美味かったと」


魔女「あーもうあいつは余計なことばっかり……」

鋼王「勇者さんの作る食べ物はもうね、うちの料理長と首挿げ替えたいくらい美味しいですからね。いてもたってもいられなくて」

勇者「恐れ入ります、どうぞお召し上がりください」

鋼王「わあ美味そう。いつもいつもだーらだらしてる氷王が飛び上がって喜ぶの仕方ないですよ、本能的に」

魔女「まぁねえ。あのクソコックとは確かに比べもんになりませんからね」

鋼王「ほーんと、ひどいったらないですよね。あー、ぺっぺっ」

勇者「お二人がそれほどに仰るとは、一体どのような方なのですか?」


鋼王「まあ、性格がひどいですね」

魔女「あと料理にハーブ入れすぎ」

鋼王「塩も入れすぎですね」

魔女「やる気がない」

鋼王「ダルそう」

魔女「肉料理しか取り柄がない」

勇者「あ、あはは……」


鋼王「もうねあんなのでよく料理長がつとまるなって感じなんですよ」

魔女「事実、出てくる料理はほとんど副料理長が指示出してますからねえ」

鋼王「それで余計に拗ねちゃって、もうダメダメですよ」

魔女「最近は肉の食いすぎでデブってるらしいし」

鋼王「そうそう、魔女さん聞きました? この前それが原因で地下食料庫から出られなくなったとか」

魔女「聞きました聞きました。入口につっかえたって話でしょ?」

鋼王「まーこれが別の場所だったら痩せるし出られるしで一石二鳥なんですけどね。場所が悪かった」


魔女「食料庫じゃ食べ物にも困りませんしね」

鋼王「結局二日がかりで転移魔法陣描いて、やっとのことで出てきたときにはそれはもうデブってたらしいですよ」

魔女「誰も助けないっていうのがこれまた哀愁を誘いますよね」

鋼王「ホント情けない話ですよ。料理長がいなくて肉料理を副料理長が作って、そのおかげで料理長探すなんて考えが浮かばないくらい忙しかったらしいですから」

魔女「皮肉ですねえ」

鋼王「しかも『隠し味によさそうな物を探しに行く』って言って調理場から消えたらしいですし、そりゃほとんど使われない地下食料庫じゃあ気付きませんよね」

魔女「ですよね。あーもう、早く定年にならないかな」


鋼王「あと50年くらいですかね、定年」

魔女「きっとそれ超えても居座るんだろうなって思うと……あーやだやだ」

鋼王「居座るでしょうね、『俺がいないとまともな肉料理は魔王様にお出しできんだろう』とか言って」

魔女「それホントに言いそう、ひひ」

鋼王「『まだまだ副料理長には料理長の座は早いわ』とか」

魔女「ひーっ、や、やめてくださっ、くくっ、いよ、鋼王さん! いき、息できな、ひい、ひぃ」

鋼王「く、くくっ」


魔女「ひ、ひーっ、ひーっ、なーにが『まだ早いわ』ですか、もう追い抜かれてますっての!」

鋼王「ほん、そ、それ! 的確! くくくくくくっ」

魔女「はーっ、はーっ、ふへー」

鋼王「すぅー、はぁー、すぅー、はぁー」

魔女「……ふー、やっと落ち着いた」

鋼王「ふぅぅーー。あ、そうそう、魔女さん、これ」

魔女「ん? 何ですか?」ペラッ


鋼王「炎王さんから仕事のお願いだそうです。装備品にエンチャントして欲しいと」

魔女「以前、鋼王さんが作ったものにですか?」

鋼王「そうですね、ミスリル製なので扱いやすいかと思います」

魔女「えーと、『精鋭の部下50人の為にバッドステータスの重力と疲労の付加、同数。
   我用に重力、疲労、中度の意識混濁、それから重量の増加プラス200%を装備2セット分頼み申す』」

鋼王「相変わらずマゾいですね」

魔女「『謝礼は魔力結晶30個、火炎結晶5個、イモリの黒焼き10本、トウガラシ100本也』。すごい豪華」

鋼王「謝礼の内容もマゾいですね。火炎結晶5個ってそうとう頑張ってますよ」


魔女「使い道は限られてるけど強力ですからね」

鋼王「炎王さんも気前がいいですよね。僕のときもそうとう頑張ってましたよ」

魔女「これじゃあ割に合わないし、なにかしてあげられることがあればいいんですが」

鋼王「そうですね。僕も考えてみます」

魔女「ありがとうございます」

鋼王「いえいえ。それでは、そろそろお暇させて頂きましょう。勇者さん、アップルパイありがとうございます。絶品でした」

勇者「ありがとうございます」


鋼王「いやもうそれはこちらの台詞ですよ。またなにかお作りになったら、是が非でも呼んで下さい。呼んで下さい」

勇者「はい、もちろんです」

鋼王「お願いしますよ? では魔女さん、お邪魔しました。お仕事のほうよろしくお願いします」

魔女「こちらこそ、またいらっしゃって下さい」

鋼王「ではでは、よしなに」バタン

勇者「楽しい方ですね」

魔女「一緒にいると飽きませんよ」


勇者「本当にそうですね、お友達になれればと思います」

魔女「鋼王さんのお部屋にでもお邪魔してきたらいいんじゃないですか」

勇者「と言われましても、なんとなく気が引けてしまうというか」

魔女「あーまあ、それは分かります。でも鋼王さん、そういうの気にしない人ですよ」

勇者「それは分かっているのですが……」

魔女「逆に行きづらいと」

勇者「そうなんです」


魔女「仕方ないですよ。行くまでがモヤモヤしてるのであって、行ってみればどうということはない、そんなものです」

勇者「そう、ですね。勇気を出して行ってみます」

魔女「いつ行くんですか?」

勇者「……考えます」

魔女「早くしないと、タイミング失っちゃいませんか?」

勇者「はい」

魔女「……」


勇者「……魔女さんは、どうして魔王に仕えているのですか?」

魔女「だって、人間は迫害するでしょう? それに向こうは、労働条件が劣悪どころじゃありませんから」

勇者「迫害だなんて、そんな……。王城にだって、大魔導士や魔術師団はいます」

魔女「あのねえ、私と彼らじゃあ成り立ちが根本的に違うの」

勇者「悪魔と契約して魔女になったからですか」

魔女「そう。「神聖」な王国騎士団や教会がそんなの認めるわけがない。分かりますよね」

勇者「神聖だなんて名ばかりです」


魔女「その名前を維持するのにどれほどの力と金をそそいでいるのやら」

勇者「本当に神聖だったら、権力やお金など必要ないはずなのに」

魔女「そのあたりは難しいところですけどね」

勇者「なぜですか?」

魔女「どんな組織もお金がなければ動かないものなんですよ」

勇者「この魔王城も、ですか」

魔女「もちろん」


勇者「……私の父も同じことを言っていました」

魔女「勇者さんは非常に賢いです。あなたとあなたの国が置かれている状況をきちんと理解している。

   ですがだからこそ、それがあなたが動けない理由なんです」

魔女「なにが正しいのか、分からなくなっているから」

勇者「……そうです。私はなにが正しいのか分からない」

勇者「人間と魔王の戦争が始まった頃、魔界の領土は非常に狭く、また資源にも人員にも乏しかった」

勇者「対して、人間界は広大、ゆえに資源にも人にも恵まれ、非常に栄えていたと聞き及んでおります」


魔女「今はそれが逆に、魔界こそが世界のほぼ全土となり、土地も資源もそこにいた人間も魔王様のものとなりました、と」

勇者「王国は……王国は驕っていたのです!! 腐敗した議会、腐敗した教会、腐敗した社会……

   気付けば王国の領土はいくつかの直轄領、王都のみとなってしまった!」

魔女「人口もだんだんと減っているのでしょう?」

勇者「その通りです。一度でも魔界へ出た人間は、みな王国の、教会の規律になど従っていられないと言い、王国を出て行きます」

勇者「私にはそれが堪えられないのです!!」

魔女「あなたたちの信奉する神とやらは規律が大好きですからねえ」


勇者「ですが、しかし、私には、自分がなにに堪えられないのかすら、判断できませんでした……」

魔女「だから判断はさておき、あなたは王国の腐敗を正す道をえらんだ」

勇者「……。議会は……教会は、神様は、私を選ばれました。そして力を与えてくださいました。
   勇者として、社会の混沌と絶望をふりまく魔王を討ち倒して来いと。それこそが世界平和への道なのだと」

勇者「私は……しかし、ここに来るまでに幾つか訪れた、今では魔界となった人間の町で、目にしてしまった」

勇者「人々の、笑顔を」

魔女「きつかったでしょう」

勇者「ええ……。確かに、人々は欲望のままに振舞っていました。ですがそこに、混沌や絶望などといったものは、ひとかけらもなかったのです」


勇者「『規律』はなくとも、魔王の『掟』があるだけでした」

勇者「なぜ今までこんな簡単なことも分からなかったのかと、自分を責めました」

魔女「まぁねえ。あの規律って、基本的には神が自分に人間を従わせて逃れられないようにする代物ですからねえ。
   無理もないですよ、自分であの束縛から逃れられる人間なんてそうそういませんから」

勇者「反対に『掟』は……社会に混乱が起きないように、それのみを追求して作られたのだと、そう感じました」

勇者「規律など必要ない。今必要なのはこの掟なのだと!」

勇者「もちろん、盲信的にそればかりを信じるわけではありません。なにが間違いか、なにが正しいのか、それを見極めてこその法律」

魔女「本当にそうですか? あなたにはそうする権利がありますか?」


勇者「権利はありません。義務もありません」

勇者「しかし」

勇者「勇者というのは、新しい道を切り拓いてこそ勇者なのです。それが、私の信念です」

魔女「気持ちは変わりませんか」

勇者「ええ」

魔女「約束の物はお渡しします。それをあなたがどう使おうと、あなたの自由です」

勇者「ええ」


魔女「これから、どうするおつもりですか?」

勇者「魔王と戦います」

魔女「その後のことも?」

勇者「考えてあります」

魔女「そうですか。魔王様と戦う前に、一度私のところに来てください。転移魔法の使えない道中、消耗するでしょうから」

勇者「ありがとうございます。わざわざ回復して頂けるとは」

魔女「その代わり、手加減はしませんよ」


勇者「もちろん」

魔女「私たちを倒した後にあなたがどんな世界を創るのか、楽しみにしています」

勇者「最後に一つ、いいですか?」

魔女「なんでしょう?」

勇者「魔女さんは、どうして魔女になったのですか?」

魔女「私の信じていたものは、私の信じていた通りのものではなかったからです」

魔女「そう、80年前。私が悪魔と契約をしたあの日から――」





私の心の中には、神など存在していないのです。




――――

魔王「勇者よ、そしてその仲間よ。よくぞここまで辿り着いた」

勇者「ああ」

魔王「闘う準備は出来ているか」

勇者「ああ」

魔王「闘う覚悟は出来ているか」

勇者「ああ」


魔王「貴様はなんのために闘う」

勇者「信念のためだ」

魔王「では貴様の信念とはなんだ」

勇者「勇者であることだ」

魔王「勇者だから魔王と戦うのか」

勇者「そうだ」

魔王「これは滑稽だ。その程度の奴だったとは拍子抜けよ! 勇者!!」


勇者「やっと分かったんだ」

魔王「貴様が滑稽だということがか?」

勇者「腐りきった王国の現状に堪えられなかったのではない、王子でありながら勇者でありながら!」

勇者「それを変えられなかった自分に堪えられなかったのだっ!!」

魔王「ならば我輩が貴様の遺志を継いでやろう」

魔王「その腐りきった人間どもの国とやらは消滅する」

魔王「喜ぶがいい。我輩が貴様の理想通りに世界を変えるのだ」


勇者「魔王よ……確かにお前の創った世界は理想的だったよ」

魔王「ふむ。ならばなぜ我輩と戦おうとする? 勇者だからか?」

勇者「そうだ。"勇者"とは、呪いだ」

勇者「使命を果たすまで死ねず、別の運命を辿ることも許されず!」

勇者「自分だけ肉体は衰えぬまま幾千数多の友人の死を見させられ! たとえ自分の仕える神がどんな■■であろうとも!」

勇者「魔王を倒すまでは解放されることのない存在なんだッ!!」

魔王「信念であり、呪いでもある……か」


勇者「そうだ」

魔王「貴様の思い描く勇者と、今ここに在る勇者、その存在は別物だと!」

魔王「その矛盾を打ち壊し、呪いを解くためだけに我輩を倒そうとっ!!」

魔王「――そう、言うのだな?」

勇者「そうだ」

魔王「くくく、やはり滑稽だな」

魔王「我輩らと闘って生きて帰れると思っているとはッ!」

勇者「もはや言葉は無用。来い」

魔王「上等だッ! 安心しろ、貴様を殺した後、二度と生意気な口がきけぬように――その悪神、消滅させてくれるわっ!!」

勇者「望むところだッ!!」


――――

勇者「なあ……魔王」

勇者「私が勝ってしまったよ……」

勇者「答えろ……」

勇者「私を殺して、■■を消滅させてくれるんだろう……」

勇者「くそっ……またか……神を冒涜する言葉が掻き消される……まだ呪いが解けていないのか……私はまだ勇者なのか……」

勇者「なぜだ……魔王……」


勇者「なぜ理想の世界を創ろうとしたお前が死に……」

勇者「なぜそれを殺そうとした私が生きている……」

勇者「賢者も……武闘家も……踊り子も……」

勇者「魔女も……氷王も……鋼王も……炎王もみな死んだ……」

勇者「私は……」

勇者「……」

勇者「私の手は血塗れだ……」


勇者「そう……」

勇者「血塗れついでに……貴様を殺してやる……」

勇者「神……いや。神などではない……。貴様は何だ……」

勇者「神の名を騙るとは大それた……」

勇者「……」

勇者「悪魔と契約した筈の魔女が……神を信ずるものだけが使える回復魔法を、使えるわけがない……」

勇者「神と悪魔……貴様は同義の存在だ……」


勇者「そこにいるんだろう? ……」

勇者「魔女の剣……最高のミスリルに、神殺しの毒を染み込ませたというこの業物ならば……」

勇者「触れるだけで、こいつを存在ごと抹消できる……」

勇者「そうだろう? 魔女さん、鋼王さん、……」

勇者「……」チャキッ

勇者「■■よ、我々の怒りを受けてみろ……魔女の眼帯の中、眼窩に存在する闇こそが……貴様だッ!!」

ドスッ!!



――勇者が魔女の眼窩に剣を突き刺すと、なにかが音を立てて崩れた。

それは永きに渡って世界を支配し、玩具として扱ってきた「なにか」の断末魔。

そして、使命を終え、崩れ落ちる命がもうひとつ。



勇者「80年前の恨み、果たしましたよ……魔女さん、いえ、僧侶さん……」サラサラ…



――勇者の身体は本来の年月を取り戻し、やがて土と化した。

すでに風化していた魔女の身体に覆い被さるように崩れる。

後には、墓標のように突き立った剣が、一振り。


―――――――エピローグ

ピシピシ…パキパキ…

氷王「ううっぐ……痛い……」

氷王「いくら死なない身体だからってこんなところで蒸散したらさすがに存在かき消えちゃうー……」

氷王「あれ……魔王様……死んでる……」

氷王「みんなも……かな……」

氷王「1、2、3、4、5……5人……か……」


氷王「あの帽子と鎧は……魔女さんと勇者さん……だね……」

氷王「あとで、お墓、作らなきゃ……」

氷王「もう、やだよう……」

氷王「いつも、一人……寂しい……」

氷王「溶けちゃいたい……」ズルッ

氷王「でもこのままだとホントに溶けちゃう……ちょっとだけ、みんなの、魔力、もらおう……」

氷王「そしたら……忘れない、よね」


 終

思いつきと勢いだけで書きました
未回収の伏線とか超展開とかひどいですね……反省

HTML化は今すぐには依頼しません、よろしくお願いします

ここまで作者以外0レスだと……

コピペ大好き
マジレスすると勇者魔王の世界観って出来上がってるから描写いらないしオリ要素入れると手軽に差が出せるから楽なんよね

>>51
仕方ないね、レスもらえるだけでもうありがたいです

駆け足の展開だったけどおもしろかった

一応、明日くらいには依頼出しておきますね

>>56
ありがとうございます
レスいただけるともう感激で死にそうです

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