インデックス「お腹がすいたんだよ」一方通行「そォか」(582)

一方通行「テメエの指でもしゃぶってろ」

インデックス「どーしてそんな冷たいことを言うの!?」

一方通行「半日で冷蔵庫カラにしといてそンなセリフ吐きやがるヤロォにどうやって優しくしろっつンだ? オイ」

インデックス「あくせられーたはもっと広い心を持つべきなんだよ!」

一方通行「テメエの胃袋並みにか? そりゃあ無理だ。聖母マリアだって匙投げンぜ実際」

インデックス「うう~……結局コーヒーでお腹を誤魔化すしかないんだよ……」ンゴクッゴクッゴクッゴク プハァー

一方通行「人のコーヒーを何勝手に飲ンでやがンだしかもそれ最後の一本じゃねェかコラァァァア!!!!!!」

インデックス「じゃあお買い物にいこ? コーヒー無いとあくせられーたも困るよね?」

一方通行「…こンのクソガキ……!」イライライラ…

インデックスが上条さんより先に一方さんに出会っていたらという妄想
時期的には原作一巻の後くらい
原作上条さんの如く一方さんは記憶を失ってしまった設定

インデックス「ご飯くれるとうれしいな」一方通行「あァ?」
インデックス「ご飯くれるとうれしいな」一方通行「あァ?」 - SSまとめ速報
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これの人カナ

インデックス「ごっはん♪ ごっはん♪」

一方通行「目障りだからハシャイでンじゃねェよクソガキ。メシを恵ンでもらうンならそれ相応に頭垂れてろ」

インデックス「む」

 あまりにもぞんざいな一方通行の態度にインデックスが口をへの字に曲げる。
 唇の隙間からギラリと覗く牙に、一方通行の顔が青ざめた。

一方通行「…言っとくがソレやったら絶対メシ食わせねェからな」

 学園都市第一位の能力者である(らしい、一方通行自身はそのことを覚えていない)一方通行。
 あらゆる力の『向き』をコントロールする力、その力でもって自分に害をなすあらゆる『力』を反射できる彼がこれほど顔色を変えるのには理由がある。

インデックス「……」ムッス~

 むくれた顔で一方通行の隣を歩く少女、インデックス。
 彼女の纏う修道服――『歩く教会』により、一方通行の『反射』はどういうわけか無効化されてしまうのである。


 ※インデックスは上条さんと出会っていないため、『歩く教会』が健在です

>>8 それの人

 ふと、一方通行は足を止める。

一方通行「おい」

インデックス「なに?」

一方通行「チッと野暮用が出来た。先に行ってろ。いつものファミレスだ」

インデックス「どうしたの? 何かあった?」

一方通行「便所だ便所」

インデックス「……もう少しでお店につくのに?」

一方通行「漏れそうなンだよ。だからサッサと消えろクソガキ。それとも俺の脱糞ショーを見てェかよ?」

インデックス「だ、だっぷ…!! うう、さ、先に行ってるからね!!」タタタタ…!

一方通行「……」

 インデックスが離れていくのを確認すると、一方通行は大通りを外れ、人気の無い路地へと消えていく。
 一方通行はカエルに良く似た顔の医者が言った言葉を思い出していた。

『さて、君はこれから自分が一体どういう人間なのか、どういった人生を送ってきたのか手探りで探していくことになると思うけど』

『なに、慌てることはない。君はのんびり日々を過ごしているといい』

『三日もたたないうちにわかるよ。君がどういう人間だったのか』

『そうだね。ちょっと仰々しい言い方をするならこうなるかな?』



 ――世界は、そんなに長く君を放っておいてはくれないよ?



一方通行「ハ」

 口を歪めて一方通行は笑う。
 完全に人通りの切れたその場所で、学園都市に数多存在する影の一つで。
 一方通行は6人の男達に囲まれていた。

一方通行「成程、わっかりやすいねェ。随分恨みを買うよォな人間だったワケだ」

 ニヤニヤ笑いながら自分を見る男達に、一方通行は少しだけ眉をひそめた。

一方通行(随分と見下してくれンじゃねェか。俺ァ学園都市最強の超能力者(LEVEL5)で通ってンじゃなかったンかよ)

 だが、一方通行の小さな疑念は男達の言葉でアッサリと氷解した。

男1「へへ! てめえがどういうわけかひでえ怪我して入院したって聞いた時には耳を疑ったがよぉ!」

男2「まさか、カワイイオンナノコとデートするような腑抜けだったとはな!!」

男3「そりゃどこぞの誰かにボッコボコにやられちまってもしょうがないっすよ『最強』さんよぉ!」

男1~6「「「ギャッハッハッハッハ!!!!」」」

一方通行(あァ、そういうことか)

 一方通行は男達に対して腹を立てたりはしなかった。
 ただ、ほんの少し。本当にほんの少しだけ哀れに思っただけだった。



 確かにオンナノコに振り回される『最強』などお笑い種かもしれないが。

 それでも、『最強』であることに何ら変わりは無いというのに。

一方通行「…ン? 終わったか?」

 まるで他人事のように一方通行は口にする。
 事実、彼は男達に対してまったく手を出さなかった。

男4「う…がぁぁ……!」

男1「いてぇ…! 手が…足がぁぁ…!!」

 にもかかわらず、男達は一人残らずうめき声を上げ、地面に転がっている。
 繰り返すが、一方通行は何もしていない。
 それこそ息を吸って吐くような自然さで、男達の攻撃を『反射』しただけだった。

 闘いにすらなっていない。最強はやはり最強だった。

男5「すいません…俺たちが調子に乗ってましたぁ…! 勘弁してくださいぃぃ……!!」

 迫る死の恐怖に男達は口々に、無様に命乞いをする。
 だが、当の一方通行本人はあっさりとその場所から姿を消していた。

一方通行「……」

インデックス「あ、遅かったねあくせられーた!」

 とあるファミリーレストランで、目の前の光景に一方通行は頭を抱えていた。

インデックス「あまりにも遅かったから、さきにいただいちゃってるんだよ!!」

一方通行「…あァ……」

 まったくもって、恐れ入る。

 インデックスは大量のカレーをガツガツと口に運んでいた。

一方通行「ったく、たまンねェな、実際」

 一方通行は頭をガシガシと掻きながら当て所なく街を歩く。
 どうしてこんな風に街をブラブラしているかというと、部屋に居るとテレビに大ハシャギの居候がうざったくてしょうがなかったからだ。
 とはいえ、流石にそれだけでアッサリと部屋の占有権をインデックスに引き渡す一方通行ではない。
 街を適当にぶらつくには、それとは別にもうひとつ理由がある。


 一方通行は記憶喪失だ。


 自分がどんな人間であったかを知るためには、先ほどの男達のような『イベント』が起こったほうが都合がいい。

一方通行(ン…? もし、さっきみてェな連中が、俺の留守中に俺の部屋に乗り込ンできたりしたら…)

 一方通行の脳裏にインデックスの顔が浮かぶ。
 その姿は目に涙を浮かべて体を震わせ、非常に庇護欲をそそられるものだったがしかし、一瞬後にはそのイメージは『歩く教会』を盾に一方通行に牙を突きたてる獣の姿へと一変した。

一方通行(…心配なンぞいらねェか。俺にどうこうできねェヤツが、この街の誰かにどうこうされるなンて考えられねェしな)

 一歩通行は街を歩く。
 歩いて、歩いて、歩いて―――意図的に街から外れた、廃工場が立ち並ぶ区画へと入っていく。

一方通行(ったく、完全に釣りしてる気分だな。テメエの体を餌にしといてボウズだってンじゃ笑えねェぞ)

 既に夕暮れに赤く染まり始めた空を見て、一方通行はため息をつく。
 そして――

???「『実験』を開始いたしますが、準備は出来ていますか? とミサカは奇襲をしかけることなく確認を取ります」

一方通行「あァ?」

 魚は釣れた。
 記憶をなくした一方通行には知る由も無かったが――


 ――釣れたのは『一方通行』という人間の根幹にも関わる―――大物だった。

              .  -――‐- .
           ,. イ            `|
          / ,. -―ァ ¨ ̄/ ̄)`:|
          r' {//⌒) 7 + /⌒)+ ,|
          |  |:x/)  ん / __,∠:|
          |  |:/ 廴ムr :7l丁:「|ハ∧:|
         }  |:イ i ∧ レlハl斗z≦|
        | ノ./|-从{≦{     ' fぅ:|
        l/'{ i :ト:l,ィiぅ::ハ       込|
         | 八トト.ヘ V:.ツ  、   ,(i)
          }    |∧ ´        ト、i)
         ,′  |:.小.    , -―(ヽi)
          i    j:.:、!:.:> .      (`i′
          |    ∧:. V:._l_レ≧,一彡ヘ|
          !    |_:l>、.ヽ_ヽ:ヽ.    /,.|
       |    {iう厂\\ヽ:ヽミ.///}
       |   /` ===}ト、.゙〈:.:__V '/ {
       |  ./     ∧ ヽ(こ,|  |
       ,.| /      i  ヽ }、ヽj  {
        /  }     |  ,.イ´...{  }
     /   ノ      l/ /.:.:.:ハ ノ
      /  / ___,/   /:.:.:./  ヽ |
    i /´ ̄ ´ /    ノ:.:.:/  __,.ィ|
    }' /  /     /:.:.:./  /  |
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 一方通行は声のしたほうを振り返る。
 そこにいたのは『まったく見覚えの無い少女だった』。

一方通行(あの制服は…確か常盤台のモンだったか?)

 一方通行は『知識』として残っていた部分を総動員して現状の把握に努めようとする。
 だが、ダメだ。
 どうしても答えが出せない。


 名門女子中学生とごっついガトリング・ガンという組み合わせが何を示しているのか想像もつかない。


???「ミサカの検体番号は10020号です、とミサカは申告します。実験の準備は整っていますか? とミサカは返事をしないあなたに苛立ちつつ再度確認を取ります」

一方通行「…ハ、ワケわかンねェことをベラベラと……」


 現状の把握は出来ぬまま、しかし一方通行は学園都市第一位に相応しい不敵な笑みを浮かべていった。

一方通行「イイから来いよ。心配しなくても俺はいつだってギンッギンだぜェ?」

ミサカ10020号「それでは実験を開始します、とミサカは引き金に指をかけつつ告げました」

 ドルルルルル!!!! と連続して爆裂音が響く。
 毎分200発という連射性能を誇るガトリング・ガンが惜しげもなくそのスペックを発揮し、次々と弾丸を吐き出していく。

一方通行「ギャッハハハハハハ!!!!」

 だがその弾丸は一発として一方通行の体には届かない。
 一方通行の体に触れた弾丸は、その皮膚をすべる様に『右へ左へ方向を変えていく』。
 絶え間なく弾丸を撃ち出していた銃口は、しかしその全てを吐ききる前に動きを止めた。

ミサカ10020号「どういうつもりですか? とミサカはあなたに問いかけます」

一方通行「あァ?」

ミサカ10020号「どうして弾丸を『反射』せずわざわざ『コントロール』して受け流しているのです? とミサカは矢継ぎ早に疑問を呈します」

一方通行「はァ?」

 何言ってるンだこの女? 一方通行はそう思った。


 そのまま『反射』なんかしたら、テメエが死ぬだろォが。


 一方通行は何の疑問も抱かず、そう思った。

 一方通行は『実験』というキーワードから、今の状況にある程度当たりをつけていた。

一方通行(学園都市で次々発明される新兵器の実験台ってトコかァ? ったく、随分体張って生活費稼いでたモンだな俺ァ)

 一方通行はその体に触れた弾丸の『力』を、あらゆる方面から分析できる。
 人を殺すためにはもっとこうしたほうがいい、という改良点を見つけ出すことなんて朝飯前だろう。

一方通行(ンで、くっだらねェレポート出して実験終了ってトコかァ?)

 もし『実験』が自分の想像していた通りの内容だとしたら、もう十分にデータは集まっている。
 一方通行がそう思って気を抜いたその時―――

 再び、山のような弾丸が一方通行の体に降り注ぎ。


 一方通行の左腕が吹き飛んだ。

一方通行「…チッ」

ミサカ10020号「……!!」

 その『まさかの出来事』に驚いていたのは、吹き飛ばされた一方通行よりも吹き飛ばした少女のほうだった。
 無敵の防御力を誇る一方通行に何故こうも簡単に弾丸が通ったのか。
 合点がいかない。
 ミサカ10020号を名乗った少女は目を皿のようにして一方通行を注視する。
 そして、気付く。

 吹き飛んだ左腕から血が出ていない。

ミサカ10020号「義手――!?」

一方通行「正解。ったく、クッソ高ェンだぞコレよォ」

 そう、今の一方通行に左腕は無い。
 一方通行が記憶を失くしたその時、同時に彼は左腕も失った。

一方通行「『反射』はあくまで『俺の体を覆うように』出来てっからよォ、ただの物質であるコレには適用されねェわけだ」

ミサカ10020号「…成程、つまりあなたの反射を初めて打ち破れたミサカの喜びはぬか喜びだったわけですね、とミサカはがっくり肩を落とします」

一方通行「ま、そォいうこった。残念だったなァ」

 ひらひらと手を振って一方通行は少女に背を向ける。



 ――三度、弾丸が一方通行の背中に降り注いだ。

一方通行「オイオイ」

 一方通行は振り返る。
 少女の右肩。制服が破れ、血が流れ出している。
 突然のことに『コントロール』が効かなかった。
 ただ単純に『反射』された弾丸の一部が少女の肩を掠めたらしい。
 少女の扱っていた武器がガトリング・ガンだったのが幸いだった。
 本来反射によって真っ直ぐ銃口に帰るはずだった弾丸は、次に発射される弾丸に相殺され、一部『ブレ』によって弾道がずれたものだけが少女を襲ったらしかった。

ミサカ10020号「く…」

一方通行「まだ続けンのかよ? つーか、一体どうなったらこの『実験』は終わるンだ?」

 一方通行はため息をつきながらガシガシと頭を掻く。

ミサカ10020号「…その結末をミサカ自身に言わせようとするあなたに空恐ろしさを覚えつつ、ミサカはあえてあなたの問いに答えます」

 10020番目のミサカを名乗った少女は平坦な声で言った。



ミサカ10020号「あなたによってミサカが殺されたときです、とミサカは断言します」

 一方通行の動きが止まる。

一方通行「なン…だと…?」

ミサカ10020号「かつてあなたが5463番目のミサカの首を刎ね飛ばしたように、かつてあなたが10000番目のミサカを13の肉片に解体したように」

 少女は極めて事務的に、提出されたレポートを読み上げるように続けた。

ミサカ10020号「あなたがこのミサカの心臓を止めたとき、晴れて今回の実験は終了になります。とミサカは――」

 少女の声は途中から聞こえていなかった。
 一方通行は考えていた。
 『実験』。『検体番号』。『10020番目のミサカ』。

一方通行「よォ…ついでだ。もうひとつ復習させてくれよ」

ミサカ10020号「なんでしょう? とミサカはとことん答える覚悟で聞き返します」

一方通行「この『実験』の目的はなンだったっけか?」

 一方通行の問いに、少女は何だそんなことか、と呆れた顔をした。

ミサカ10020号「学園都市第一位の能力者である『一方通行』をLVEL6に到達させるための『実験』――『妹達(シスターズ)』と呼ばれる二万人のミサカを二万通りの方法で虐殺することでそこに至るという試み」

ミサカ10020号「今回は、その10020回目の実験になります」

一方通行「ハ…」

 一方通行は理解した。
 その歪んだ口からこぼれる笑みは、果たしてどのような意味を含むのか。

一方通行「…ク…クククク……!!」

 まずい。あァ、まずい。

一方通行「イイねェイイねェ」

 どうしたって口が笑ってしまう。楽しくって仕方が無い。
 知っていた。知ってはいたのだ。

 だってそれだけは覚えていた。
 自分がクソッタレの悪党だってことは覚えていたのだ。

 一方通行は笑う。
 楽しくて仕方が無いと、嬉しくて仕方が無いと、一方通行は嘲笑う。


一方通行「イイねェ…想像以上にクソッタレじゃねェか、一方通行(アクセラレータ)ちゃんよォ!!!!」

ミサカ10020号「それでは実験を再開します、とミサカはあなたに告げます」

一方通行「ハ、それにしてもかたくなに実験進めようとすンのな」

ミサカ10020号「それがミサカの存在理由(レゾンテートル)です」

一方通行「あ、そォ。つまりオマエはそんなに死にたいワケ?」

ミサカ10020号「……」

一方通行「俺に殺されンのがオマエの願いだと、そォ言うわけだ」

ミサカ10020号「はい、とミサカは肯定します」

一方通行「オッケェオッケェ。じゃあ話は簡単だ」




一方通行「俺はテメエを殺さねェ」

一方通行「改めて自覚したぜ。俺ァ悪党だ。世界中の全ての人間に唾吐きかけられても文句を言えねェようなクソッタレだ」

 まァ実際唾を吐きかけられたらそいつァ殺すけどよ、と一方通行は笑う。

一方通行「人のことなンてどォでもいい、他人がどォなろうが知ったこっちゃねェ。悪党ってのはそォいうモンだ。どこまでも我がままに自己中に。そォだろォ?」

ミサカ10020号「…?」

 ミサカ10020号は答えない。答えられない。一方通行の意図が掴めない。
 構わず一方通行は口を開く。

一方通行「そンな『世にはばかる大悪党』であるこの俺がよォ」




一方通行「テメエみてェな小娘の願いなンて聞き届けるわきゃねェだろォが」

ミサカ10020号「な…」

一方通行「ンじゃ、あばよ。どうしても死にたきゃ石抱いて川に飛び込みな。『俺は知らねェ』」

 一方通行はミサカ10020号に背を向けて、今度こそ悠々と歩き出す。
 その無防備な背にミサカ10020号は銃口を向けたが、引き金は引けなかった。
 引き金は――引けなかった。

 カッチコッチと音が鳴る。
 ブツン、とようやく扱いを覚えたリモコンでテレビを消して、インデックスは時計に目を向けた。

インデックス「……帰ってこない」

 ソファーにちょこんと腰掛けたまま、入り口のドアに目を向ける。
 やっぱりドアが開く気配はない。

インデックス「人がてれびに夢中になってる間に行き先も告げずにコソっと出て行くなんて卑怯なんだよ、まったくもう」

 軽口を叩きながらも、その顔は決して明るくはない。
 インデックスは何となく知っているからだ。記憶を失う前の彼は、この街のかなりきな臭い領域と関わりがあったことを。

インデックス「……きめた!」

 インデックスはいつまでも開かないドアを自分からこじ開けて外に飛び出した。
 あたりは既に漆黒の闇。白い修道服のインデックスはどこまでも異質だった。
 まるで、そこだけが闇に飲まれず輝いているようだった。

インデックス「あくせられーたを探しに行く!」

 だって、彼のことが心配だし、それに―――

インデックス「一刻も早く見つける必要があるんだよ!!」グゥ~キュウルルル~!

 また、お腹も減ってきたし。

 インデックスは夜の街を当て所なく駆け回っていた。
 何しろ、インデックスはこの学園都市の地理はまださっぱりだし、一方通行の行きそうなところにもまったく心当たりはない。

インデックス「うう…いくらなんでも勢いに任せすぎたかも……」

 元気よく駆けていた足は次第にとぼとぼ歩きになり、インデックスはちょっぴり後悔しそうになった。

インデックス「う、ううん! どのみちあのまま部屋でじっとしていることなんて出来なかったんだから私は間違ってない! …かも」

 ぶんぶんと頭を振って気持ちを振り立たせる。
 そうして彼女がとった行動は。

インデックス「あ、あの、あくせられーたを知りませんか?」

通行人「え?」

 聞き込み調査という地道なものだった。

 聞き込みの成果は散々なものだった。
 『一方通行(アクセラレータ)』の名を聞いて、ある者は口をつぐみ、ある者は敵意の眼差しを向け、ある者は唾を吐き捨てた。

 わかったのは、『一方通行』がこの街でどのように思われているかというだけだった。

インデックス(あくせられーたを知っている人たちは、みんないやな顔をした)

 その嫌悪の表情が、完全記憶能力を持つインデックスには克明に思い出される。
 見つけてあげたい。インデックスはそう思った。

インデックス「すいません、あくせられーたを知りませんか?」

 インデックスは聞き込みを再開する。
 その姿は売れないマッチを何とかして売ろうとする少女のようにも見えた。

 それは本当に突然だった。

インデックス「きゃあ!!」

 聞き込みを続け、街をさ迷っていたインデックスは突然『誰か』に押し倒された。

インデックス「なに? なになに?」

 インデックスは混乱したまま自分を押し倒した人物を見る。
 それは薄汚れた男だった。
 きちんとオールバックにして纏められていたのだろう緑色の髪は乱れ、純白のスーツは地べたを這いずり回ったのかひどく薄汚れている。

???「う、あ…ああ…」

 そして男は――ひどく怯えていた。

???「い…いんで…いんで…っくす…!!」

インデックス「…!?」

 名前を、呼ばれた気がした。
 でも、わからない。
 『インデックスはこの男のことなど何も覚えていない』。

???「うぁ…うあぁ…!!」

 男は耐え難い恐怖から逃げ出すようにインデックスの胸に縋りつく。

インデックス「……何か、怖いことがあったの?」

 インデックスは優しく男に声をかける。
 男は声もなく何度も首を縦に振った。

インデックス「…いいよ……怖いのがなくなるまで、一緒に居てあげる」

???「あ…あぁ……」

 慈しむように男の頭を撫でるインデックス。その様は紛れもなく迷い子を救うシスターの姿だった。

 どれ程そうしていたのか。
 気付けば、男はすっかり落ち着きを取り戻していた。

???「…依然。優しいな、君は」

 呟くように言って、男は名残惜しそうにインデックスの体から顔を離す。

インデックス「落ち着いた?」

???「無論、この上なくな。感謝しよう、『名も知らぬシスター』」

 男は立ち上がる。その姿に先ほどまでの無様さはどこにも無かった。

インデックス「ねえ…もしかして、私、あなたと会ったことがある?」

???「いいや」

 男はその顔に微笑を浮かべて言った。

???「私は君のことなど知らないし、君も私のことなど知るまい? つまりはそういう事だ。『名も知らぬシスター』」

 男はインデックスに背を向けて両腕を上げる。
 インデックスは不思議に思ってその彼の歩む先を覗き込んでみた。


 そこには、見覚えのある赤髪の魔術師と、見たことの無い黒いツンツン頭の少年が立っていた。

???「幾久しく健やかに、インデックス」

 緑髪の男は最後にそう言い残して去っていった。
 インデックスはわけがわからない、と首を傾げる。


 でも、それはとても簡単な話。


 少女のあずかり知らぬところで男は独り夢を見て。

 少女のためだけを思って見たその夢は、けれども少女に一切伝わることなく終わりを告げた。




 ―――ただ、それだけの話だった。

御坂「ターボスマッシャーパーンチッ!!」

黒子「お姉さま!?腕が!!!」

御坂「腕がないよおおおおお!!ちょっきぷるるるりりりぃいぃいいいいいい!!」

黒子「!?」

御坂「ファイヤーブラスターーーッ!!!!!」

御坂「乳首ワロスwwwwwwwwチョッキプル理理理理いいいいりぃぃいいいぃいいい!!!」

黒子「きめぇwwwwwwwてめぇには愛想尽かしたぜwwwwwwwwwwおっぱい!」

御坂「んほおおおwwwwwうほwっうほうほwwんーwwwwんーwwww」

黒子「一人でやってろよ!!ぶっ飛ばすぞ!!」

御坂「ところがどっこい!」

黒子「死ね!」

ふむう、すまんがちっとばかり休憩
眠って脳みそを休ませつつ、プロットを整理しつつ……
なるべく早く再開できるように努力はするぜよ

御坂「おいらはどらまー!おいらはどらまー!おいらがどっこいおっぱいがぼよよん♪」

黒子「きさまぁあああぁぁああああ!!!!!!!」

御坂「お前は!?黒子ンドルジョバンニ!?」

御坂「高子力ビーーーーーーーーーーーーーームッ!!」

黒子「ンホゥホゥ(o-∀-))ーーwwwwwwwwwッウホwwッウッホwwッウォーwww」

ドカーーーーーーーーーーン!!!!

御坂「どんなもんだい!」

黒子「てめぇには愛想つきんたま!死ぬがいい!!!マンコビーーーーーーーーーム!」

御坂「ちょっきぷるるりいいぃぃいいいぃぃwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」

黒子「やったか・・・」

黒子「!?」

御坂「ふっははははははははは!!」

黒子「お前・・・男モンのパンツ履くなっていったろ!!」

御坂「ボクサーパンツ!ピッチwwwwピッチwwwwwwひゃっほーwwwwwwwww」

黒子「だめだ・・!?古傷が痛むぜ・・・」

御坂「おれっちが以前貴様の腹部に突っ込んだままのスプーンがついに覚醒するのさ!!」

黒子「んほおおおおおおおwwwwwwwwwwwうっほうっほwwwwふぉおおおおおおおおwwwwwwwww」

御坂「ちぇんじ!御坂ドラゴン!」

黒子「ぬッふぉおおおおおおおおーーーーーーーwwwwwwwwwwwwwww」

御坂「じゃあね・・・黒子」

黒子「お姉さま・・・」

御坂「泣くんじゃないわよ」

黒子「お姉さまぁぁああぁぁああああぁぁぁああ!!!」

御坂「トゥギャザーしようぜぇええええぇえええええ!!」

ドッカーーーーーーーーーーーン!!!!!!!

正気に戻った御坂は黒子から取り出した
チェンジ御坂ドラゴンスプーン2000Xぼよよんで共同生活スプーンフォークを覚醒させ
みずから飲み込み爆発して皆を守った・・・

ーーーーーーーーーーーーー2年後ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

黒子「お姉さまは世界を守った英雄ですの・・・・」

佐天さん「あたしゃねぇええぇえぇぇええぇえええwwwwwwwww」
         
                                          おわり

 夜が明け、既に日も高く上ったころ。
 一方通行は学園都市を一望できる高台の公園にいた。
 結局、あの後も部屋に戻る気は起きず、昨夜は適当に屋根のある倉庫で眠った。
 自分が一万余の人間を殺した悪党だと知った今、どうしてかあの大食い少女とは会いたくなかった。

一方通行「…チッ。気分わりィぜ、ったく」ズズ…

 一方通行は缶コーヒーをすすりながら愚痴を吐く。
 自分が何故こんなに腹を立てているのかわからない。
 原因がわからないことが彼をさらに苛立たせていた。

 いや、と彼は思い直す。
 原因のひとつははっきりしていた。

一方通行「…ンで、テメエはいつまで俺に付き纏う気なンだ? オイ」

ミサカ10020号「チチチチ…」

猫「にゃー」タタッ!

ミサカ10020号「あ…」

ミサカ10020号「あなたのせいで猫が逃げました、とミサカは謝罪と賠償を要求します」

一方通行「ざけンな。あの猫ハナっからテメエに怯えてただろが」

ミサカ10020号「ミサカたちの体から発せられる微弱な電波に反応していたんです、とミサカはあなたの言葉を否定します。決して、ミサカという存在そのものに怯えていたわけでは…」

一方通行「そォか。消えろ」

ミサカ10020号「ミサカは電球じゃねーんだからついたり消えたりできねーよ、とミサカは子供のやり口で切り返しました」

一方通行「そンじゃ、俺の力で消してやろォかオイ」

ミサカ10020号「それこそミサカの本懐です、とミサカは目を閉じてその時を待ちます」

一方通行「…クソッタレが」

 一方通行は苛立たしげにわしゃわしゃと髪を掻き毟った。

ミサカ10020号「真面目な話をすれば」

一方通行「あァ?」

ミサカ10020号「ここ数日あなたが『実験』を欠席していたため、かなりスケジュールに遅れがでています」

ミサカ10020号「故に、ミサカは研究所から『殺されるまで戻ってくるな』と厳命を受けています、とミサカはミサカの抱える事情を吐露します」

一方通行「…気持ちイイくらい矛盾してンなあオイ」

 一方通行は右手に持った缶コーヒーをすする。
 何もかもが最悪の気分だったが、新発売とうたわれていたソレが存外旨かったことだけが救いだった。

ミサカ10020号「以上の事情でもってミサカは実験の再開を求めます」

 だというのに、コレだ。
 自分の命をなんとも思わぬ少女の発言。
 気持ち悪ィ、と一方通行は断じた。
 こんな気分では旨いコーヒーも台無しである。

一方通行「そンで、俺にはコーヒーすすりながらアンニュイな午後を過ごす暇もねェってか?」

ミサカ10020号「それが研究所の意向です、とミサカは…」

一方通行「もォいい。つまりアレだな?」

 グシャ、と鈍い音が鳴る。
 一方通行の右手でまだ中身が残っていた缶コーヒーがぐしゃぐしゃに潰されていた。



一方通行「『絶対能力進化計画(テメエら)』この一方通行(アクセラレータ)にケンカ売ってンだな?」

ミサカ10020号「え?」

一方通行「結構結構。実は最近暇してたンでなァ。そのケンカ、俺の全能力(全財産)で買ってやるよ」

ミサカ10020号「? ? ? とミサカはいくつもの疑問符を頭に浮かべて大混乱しています」

一方通行「良かったじゃねェかオイ。泣いて喜べ」

ミサカ10020号「意味が分かりません、とミサカはあなたに説明を求めます」

一方通行「馬鹿な実験計画者のおかげで結果的には命拾いだ。俺ァ俺の気分を害した奴ァ許さねェ。よって潰す。完膚なきまでに、塵ひとつ残さずな」

ミサカ10020号「な……!」

ミサカ10020号「本気ですか? とミサカは確認を取ります」

一方通行「ったくよォ、折角命拾いしたってのに何だその顔は。もっと小躍りして喜ンだらどうだ」

ミサカ10020号「ミ、ミサカ達は実験動物(モルモット)ですから、突然実験が中止になると言われても、その、どうしたらいいか」

一方通行「オイオイ頼むぜ」

 太陽が彼の体を照らしている。
 真っ白な光に包まれて、真っ白な少年が歪に笑う。

一方通行「俺ァ一万もの人間を殺してきた悪党だ。狂った虐殺者だ。でもよォ…」

一方通行「あいにく、『人形』の手足もいでケタケタ笑う性癖はねェんだわ」

一方通行「いいか? 俺は人形遊びで喜ぶ変態になンぞ死ンでもなりたかねェからよォ」


一方通行「テメエはあくまで『人間』でいてくれよ」

ミサカ10020号「……!!」

一方通行「…なンて顔してンだオマエ。さっきまでのポーカーフェイスはどォした」

ミサカ10020号「…つい、先ほどのことです」

一方通行「あン?」

ミサカ10020号「このミサカの12番目の妹に当たるミサカも、似たようなことを一人の少年から言われました。もっとも、言葉に込められた意図はまったくの正反対だったでしょうが」

一方通行「…細かくメールのやり取りでもしてンの? オマエら」

ミサカ10020号「ミサカネットワーク。ミサカ達『妹達(シスターズ)』は欠陥電気(レディオノイズ)の能力で脳波をリンクさせ、記憶を共有することが出来るのです、とミサカは補足説明をします」

ミサカ10020号「このことは、当然あなたも知っていることだと思いますが?」

一方通行「…興味ねェことはすぐ忘れンだよ俺ァ」

ミサカ10020号「ほぼ同時刻に同じ事を頼まれては、さすがのミサカも無碍には出来ません。ミサカは『あなた達』の願いを聞き届けることにしましょう」

一方通行「ちょっと待てコラ。何で上から目線入ってンだテメエ」

ミサカ10020号「…名前」

一方通行「あァ?」

ミサカ10020号「人間には名前があるものです。ミサカを識別する『ミサカ10020号』はあくまで検体番号に過ぎません」

一方通行「ほォ、で? 何でテメエは物欲しそうな顔で俺を見てンだオイ」

ミサカ10020号「……ミサカはあなたに名前をつけてほしい、と甘酸っぱい心中を隠さず吐露します」

一方通行「あァァ!?」

一方通行「オイオイオイオイ正気かテメエ? 何で俺がそこまで懇切丁寧にテメエの世話しなきゃなンねェンだ?」

ミサカ10020号「じ~~~~」

一方通行「指くわえてこっち見てンじゃねェ!!」

ミサカ10020号「じ~~~~、とミサカは粘つく視線であなたにおねだりを続けます」

一方通行「いい加減にしろ。知らねェぞ俺ァ」

ミサカ10020号「じ~~~~~~~~~~~~~~」

一方通行「………」

ミサカ10020号「……どうあっても名づけてはくれませんか? とミサカは縋るような思いで再度確認を取ります」

一方通行「………」

ミサカ10020号「わかりました。ミサカはあなたへの2割ほどのリスペクトと8割ほどの嫌がらせでもって今後『一方通子(いっぽうつうこ)』と名乗ります、とミサカは一大決心しました」

一方通行「待て待て待て待て」

一方通子(仮)「なんでしょう? とミサカは首を傾げます」

一方通行「やめろ。わかった。考えてやる。やるからそれはマジでやめろ」

ミサカ10020号「わかりました。ならばミサカは座してその時を待ちます」

一方通行「……」

ミサカ10020号「……」

一方通行「…………」

ミサカ10020号「…………」

一方通行(……ヤベエ。マジで死ぬほどどーでもいい。何で俺はこンなクソくだらねェことで頭悩ませてンだァ?)

ミサカ10020号「……」ワクワクテカテカ

一方通行(……めんどくせェ)

一方通行「……ミサカでいいだろ」

ミサカ10020号「え?」

一方通行「検体番号が気にいらねェんならそれを抜け。そンでいいだろもう」

 疲れたような一方通行の声は、もう勘弁してくれという響きを含んでいた。

ミサカ10020号「何て投げやりな…とミサカは失望を隠さずため息をつきます」

一方通行「どォせ名前変えても一人称変わンねえだろォがテメエ」

ミサカ10020号「あ」

 ミサカ10020号改め『ミサカ』はそれで納得したようだった。

ミサカ「しかし成程、この名前には『妹達(シスターズ)』の中でも唯一無二のミサカとなれ、という意味が込められているのですね、とミサカはあなたの深謀遠慮に感動を覚えつつ……」

一方通行「なにやらひたってっとこ悪ィがよ」

 ぶつぶつと呟くミサカに一方通行は声をかける。

一方通行「近頃物忘れが激しくってなァ。研究所に俺を連れて行け」

ミサカ「研究所をひとつ潰してもまた別の研究所にデータが移されるだけですが」

一方通行「そりゃハンパにやるからだ。やるなら徹底的に、研究に関わった学者さンを皆殺しにする勢いでいかなきゃよォ」

ミサカ「…まあ、確かに実験の要であるあなたがそのように動けば、実験はたちどころに中止でしょうが、とミサカは自ら自分の問いに答えます」

一方通行「なンでもいい。とにかく連れて行け」

ミサカ「了解しました、とミサカは従順に首を縦に振ります」

一方通行「あァその前にまずは病院だ」

ミサカ「病院?」

一方通行「俺の左手吹き飛ばしたンはテメエだろうがよ」

ミサカ「ついでにミサカの肩の傷も治療しろ、というあなたなりの優しさですね、わかります。とミサカはわかりました」

一方通行「おめでてェ脳ミソだなァオイ。勝手に言ってろボケ」

 一夜が明けて、インデックスはフラフラだった。

インデックス「うぅ~、あくせられーたは見つからないし、お腹はすくし、寝不足だし、もう散々なんだよ」

 グゥ~キュルル~、と3m離れていても聞こえるような音を鳴らしながらインデックスは歩く。

インデックス「ごはん…あくせられーた…ごはん…あくせられーた……」ブツブツ…

 ぼんやりしていたのが良くなかった。
 ドン、と誰かにぶつかった。慎ましい胸にインデックスの顔が埋もれる。

インデックス「わっぷ! ご、ごめんなさい」

???「構いません、今のはコチラも不注意でした、とミサカは気遣いの言葉をかけます」

インデックス「あ、あの…ごはん…じゃなかった、あくせられーたを知りませんか?」

???「…! 知っています、とミサカは即答します」

インデックス「や、やった! ようやく報われるときがきたんだよ!!」

???「知っている、というどころではなく、実はミサカは今彼の元に向かっている真っ最中です」

インデックス「ほ、ほんと!?」

ミサカ10032号「一緒に来ますか? とミサカはあなたに問いかけます」

インデックス「うん!!」

 小高い丘に立ちながら一方通行は眼下の研究所を睨みつける。

ミサカ「現在実験データの分析は主に二つの研究所が担っています。あそこに見えるのがそのひとつです」

ミサカ「何か作戦はあるのですか? とミサカは確認を取ります」

一方通行「オイオイ、誰に向かってクチ聞いてンだ?」

ミサカ「学園都市第一位であり最強の能力者、一方通行に対してです」

一方通行「よォくわかってンじゃねェか。なら黙って成り行きを見守ってな」

 一方通行が地を蹴る。その体が宙を舞う。
 その白い髪をたなびかせて、酷薄な悪魔が舞い降りる。

一方通行「果たして何分持つかなァ」

 本当に楽しそうに一方通行は笑った。

 研究所は恐慌状態だった。
 その研究所は一方通行に嬲られ、蹂躙された場所とはまた別の場所。
 『欠陥電気(レディオノイズ)』計画発案者、天井亜雄(アマイアオ)が勤めるソコは、まさに『実験』の中核と言える場所だった。

天井「くそ! 何故、何でこんなことに!!」

 一方通行が反乱を起こした。その知らせを受けたのはつい十分前だった。
 だというのに、その三分後には壊滅したとの連絡が入って、その五分後には彼がここに現れたという情報が入った。
 まさにそれは悪夢としか言いようがなかった。

天井「くそ、くそ、くそ!! おい、何を落ち着いているんだ!! お前もデータ持ち出しを手伝え!!」

 天井亜雄が怒声を飛ばす。
 くたびれたジーンズに白いTシャツ、その上から白衣を羽織るというシンプルな服装のその女の名は芳川桔梗(ヨシカワキキョウ)。
 芳川は天井とは対照的にひどく落ち着いた様子だった。

芳川「いつか、こんな日がくるんじゃないかとは思っていたわ。あの子は私と違って『優しい』子だったから」

天井「優しい? ふざけたことを言うな!! 今まさにあの悪魔はここを襲撃している真っ最中だろうが!!」

芳川「知ってる? あの子ね、自分から人を殺したことはなかったの」

天井「…若年性痴呆にでもかかったか?」

芳川「失礼ね。私の脳は健在よ」

 そう、芳川桔梗は知っていた。彼女はその『甘さ』でもって実験対象の過去を調べずにはいられなかった。
 そして知った。
 彼は、襲い来る脅威を、ただ迎え撃っていただけだった。
 その彼が初めて自らその武器を振るったそのワケは―――

芳川「これが優しさじゃなくて、何なのかしらね?」

「うあぁーー!!!!」

「く、くるなーーーー!!!!」

 悲鳴が聞こえた。近い。
 悪魔は、もうすぐそこまで迫っている。

天井「ひ、ひいぃ!!」

 天井は実験データを諦めた。
 彼はただ自分の命を優先した。
 死にたくない。いやだ。
 どうすれば、どうすれば、助かる?

 ――賭けるしかない。芳川桔梗の戯言に。

 もし、あの悪魔が『そんな理由』でここに来たというならば。
 とるべき道は、ひとつしかない。

天井「うああああ!!!!」

 絶叫と共に彼は駆け出した。
 彼の切り札が眠る、その部屋へ。

一方通行「こォ~ンにィ~ちわァ~~」

 バゴン、と扉が弾けて一方通行が顔を覗かせた。

芳川「久しぶりね、一方通行」

一方通行「ハ、悪ィな。最近物忘れがひどくってよォ、どうでもイイやろォの顔なんて覚えてねェんだわ」

芳川「冷たいわね。それで、私も殺すのかしら?」

ミサカ「勘違いしないでください」

 芳川の言葉を訂正したのは遅れて部屋に入ってきたミサカだった。

ミサカ「この人は未だ誰一人殺してはいません、とミサカはあなたの言葉を否定します」

芳川「そうなの?」キョトン

一方通行「…チッ、だから何だっつーンだオイ」

芳川「優しくなったわね、一方通行。本当に…優しくなった」

一方通行「ナニ愉快な戯言ぬかしてンだコラ。クチ開けねェように顔面グシャグシャにしてやろォかァ?」

芳川「あら、だったら早く逃げなきゃね。優しい悪魔の気が変わる前に」

一方通行「…ホントに舌ねじ切るぞテメエ」

芳川「一方通行、あなたにコレを渡しておくわ」

一方通行「聞いちゃいねェな。トコトン人を舐め腐りやがって。で? こりゃナニよ」

芳川「『ある女の子』人格プログラムよ。『甘い』私にはあの男を止められなかった。もしかしたら、これが必要になるときがきてしまうかもしれない」

 データを受け取って目を通してから、一方通行は気付く。
 芳川の白いシャツが一部赤く染まっている。
 じわじわと広がる赤い染みは、もはや芳川の手で覆い隠せる範囲ではなくなっていた。

 ――『甘い』私では彼を止めることが出来なかった、とっは、成程そォいうことか。

 一方通行は納得する。

一方通行「……悪党の分際で、ここぞという時ばっか偽善者ヅラすンじゃねェよ。胸糞悪ィ」

 それは、果たして誰に対しての言葉だったのか。
 芽生えた疑念を一方通行は頭を振って振り払った。

 一方通行は歩みだす。

 傷ついた芳川になど目も向けない。

 ただ、彼の『敵』の居場所だけを聞き出して、彼は進む。

一方通行「サッサと消えろ。5分でここは消し飛ぶぜ」

 それでも、たった一言。

 気遣いなど何もない。

 『威圧』のためだけの言葉を彼は残した。

 そこは、その研究所の最深部にあった。
 人目をはばかるように建てられた研究所のさらに奥、何重ものセキュリティをかけられたその先に『彼女』は居た。

天井「く、くく…遅かったな一方通行」

 カプセルの中で浮かぶ『彼女』の傍で、天井亜雄が笑っている。
 狂った笑みを浮かべている。

天井「にわかには信じ難かったが…実験動物(モルモット)と仲良く並んでいるところを見ると、本当に『そう』らしいな一方通行」

一方通行「はァ? 何がよ」

天井「10019人も殺しておいて、今さら救おうというのか? ふざけたことをぬかすなよ快楽殺人者」

一方通行「オイオイ、テメエこそ腹がよじれそォな捏造はやめてくれよ。いいか、テメエがここで死ぬのは、たったひとつのシンプルな理由なンだぜェ? いいかオイ…」

一方通行「『テメェ等は俺を怒らせた』。それだけが理由だ。よォく頭に叩き込んで来世まで持っていけ」

天井「ふん…真実はすぐにわかるさ。さて、それでは『彼女』の紹介をさせてもらおう」

 天井亜雄は傍らのカプセルに浮かぶ少女を指した。

天井「彼女の名は『打ち止め(ラストオーダー)』。検体番号は20001。『妹達(シスターズ)』を統括する上位個体だ」

 目を瞑ってフワフワと水中を漂う少女の顔は、確かに隣にいるミサカに良く似ていた。
 だが、明確に違う点がひとつ。
 幼い。
 『打ち止め』と呼ばれた少女はおおよそ10歳ほどの体格だ。

天井「『上位個体』…その意味がわかるか?」

 天井の言葉にミサカの顔色が変わる。

ミサカ「駄目!! 早く!!」

天井「もう遅い!! 命令(コマンド)は入力済みだ!! 『妹達(シスターズ)』、一方通行を殲滅せよ!!!!」

 天井の指がコンソール上のスイッチを―――押した。

 『打ち止め(ラストオーダー)』と呼ばれた少女がゆっくりと目を開く。

ミサカ「はやく逃げて! とミサカは――!!」

天井「はははは!! 貴様の馬鹿げた反乱が、モルモットのためではないとしたら、その手で薙ぎ払ってみせろ!! 一方通行!!!!」

一方通行「…くっだらねェ真似しやがって!!」

天井「さあやれ! 『反射』を許すな!! 爆弾を抱いて突っ込むくらいのことはやってみせろ!!」




打ち止め「やだ」



天井「…はぁ?」

 その場の空気が止まった。

 カプセルの中で、打ち止めと呼ばれた少女が拳を握る。

天井「待て、オイ、何をしている。私はそんな命令(コマンド)入力していない!!!!」

打ち止め「やぁーーーー!!!!」

 バリン! とガラスの割れる音がした。
 バシャバシャとカプセルを満たしていた液体が盛大にあふれ出す。
 少女は飛び散ったガラスの破片を器用に避けて着地した。

打ち止め「おぉ! いちかばちかだったけどこの上なくうまくいったよ! ってミサカはミサカは自画自賛してみる!!」

天井「ふざけるな! 私の命令に従え!! このモルモットが!!!!」

打ち止め「実験動物(モルモット)じゃない!!」

 打ち止めは真っ直ぐに天井亜雄の目を見つめる。

打ち止め「ミサカは、ミサカ達は『人間』だもん!! ってミサカはミサカの革命宣言!!!!」

 完全無欠に素っ裸のまま、打ち止めはぐん、と胸を張った。

一方通行「…ありゃなンの冗談だ?」

ミサカ「残念ながらこの上なく本人は真剣です、とミサカは頭を抱えます。それと、一つだけ弁明させていただきますが」

一方通行「あァ?」

ミサカ「今のミサカは『あれ』よりはまだ育っています、とミサカはなけなしのプライドを振りかざします」

一方通行「心底どォでもいい情報をありがとよ」

打ち止め「うぎゃーー!! ミサカ裸じゃん!! とミサカはミサカは今さらながら気付いてみたりっていやいやそんな舐めまわすように見ないで誰か助けてーーー!!!!」

一方通行「…『上位』個体なんだよな?」

ミサカ「認めたくないことですが」

打ち止め「おお! 何故かこんなところに毛布発見!! この子を当面の相棒に決定!! ってミサカはミサカは運命の出会いに感謝してみる!!」

一方通行「…なンかどっとやる気失せたなァオイ」

一方通行「ま、そォも言ってられねェか」

天井「あ、あう…う……!!」

一方通行「さァて、舐めた真似かましてくれた天井君とやらよォ。どうしたい? どうして欲しい?」

 ニタニタ笑いながら一方通行が近づいてくる。

一方通行「Aコース! 全身の骨バッキバキのマリオネット状態!! Bコース! 脳天から皮をひン剥いていく『バナナの気持ち実感コース』!! えェと、それからァ…」

天井「は…はあぁ…!」

 カプセルから溢れてきた液体に、別の液体が混じりだす。
 一方通行は本当に嬉しそうだった。

打ち止め「うわぁ、あの人真性のSなんだねってミサカはミサカはちょっと引いてみたり」

ミサカ「もしかすると極度の被虐主義の裏返しなのかもしれません、とミサカは一般論を振りかざします」

打ち止め「そうなのかな? ちょっとそれは想像できないなってミサカはミサカは自分の想像力の貧困さにがっくりしてみる」

ミサカ「まあ、どちらだとしてもミサカは対応してみせますが」

打ち止め「えっ?」

ミサカ「えっ?」

 轟音と共に、そんな軽口を叩きあっていた二人の体が吹き飛んだ。
 一方通行は振り返る。
 轟音の正体は爆発だった。
 自分達が入ってきた入り口が、もくもくと煙を上げている。

打ち止め「う…」

ミサカ「うぅ……」

 爆風に吹き飛ばされた二人の口からか細いうめき声が響く。
 チリ…と一方通行のうなじが逆立った。

 いる。煙の奥に、誰かが立っている。

 その男は白衣を羽織っていた。
 その顔には研究者なのに刺青が入っていた。
 男の両手には、奇妙なグローブがついていた。

一方通行「…で、誰よテメエ」

???「ハ! 研究所を襲い始めたって連絡受けたときは気持ち悪ぃ正義感に目覚めちまったかと心配しちまったがよぉ」

 男は一方通行を恐れていない。相手が一方通行と知りながら、その顔には微塵の怯えも見えない。

木原「変わらぬムカツキっぷりで嬉しいぜぇ!! アクセラレータぁ!!」

 男は――学園都市の暗部『猟犬(ハウンドドック)』リーダー、木原数多(きはらあまた)は笑った。 

飯食ってきまうす

とあるindexで木原を検索したらなんて戦い方する奴なんだこいつwwwwwwwwwwwww

木原「ディキシッ!ディキシッ!」
一方「……」

一方通行「ンで、もう一回聞くけど、誰オマエ?」

木原「おいおい、誰がお前の能力を開発してあげたと思ってんの? さすがにちょっと薄情すぎるだろアクセラちゃん」

 木原が瓦礫を乗り越えて部屋に侵入する。
 木原はどこまでも無防備に一方通行に迫る。

木原「この木原数多のおかげでオマエはガキ共の頂点で粋がってられんのよ? そこんとこちゃんとわかってるかぁ?」

一方通行「あ、そォ。そういうことだったンデスカ。そりゃ失礼いたしましたねェ」

 一方通行も進む。二人の距離が急速に近づく。

一方通行「お礼に、一瞬で消してやるよォ!!!!」

 一方通行が右手を伸ばす。それで木原の体を掴んで、ハイ終わり。
 そのはずだった。

 木原数多の拳が一方通行の顔に突き刺さる。

一方通行「が…ァ…?」

木原「ほらほらほらぁ!!!!」

 一体どういうわけなのか、木原の拳は一方通行の反射を軽々と突破する。
 
一方通行「ご…!!」

 一方通行の膝が折れた。

木原「おまけぇ!!!!」

 地に膝をついた一方通行の顔面に木原は膝を叩き込む。
 ミシリ、と鼻が嫌な音を立てた。
 学園都市第一位の超能力者が無様に地面を転がる。

一方通行「な…ンだとォ……」

 ぼたぼたと零れる血を拭い、一方通行は何とか体を起こす。

木原「『反射』をあまり過信すんなよ一方通行。そんなうっすい防御、やろうと思えばこんな風に簡単に突破できるんだぜえ?」

一方通行「グ…!」

 一方通行は震える膝で体を支えつつ、考える。
 何かタネがあるはずだ。
 それは、何だ?

なン……だと……?

つーか前から思ってたんだけど反射じゃなくて操作したらいいのに。
あと遠距離から物投げればいいのに。

木原「そらよお!!」

 木原の拳が飛ぶ。速い。その拳を掴もうとしても追いきれない。
 当然だ。
 能力のない一方通行の身体能力は、そこらの一般高校生と大差はない。
 だが、触れた。一瞬だけ。ほんの一瞬だけ。
 それで、十分。

木原「おぉ?」

 木原の右手を覆っていたグローブがぼろぼろに破れて落ちた。

木原「やっべえ。触られてたか。ちょっと調子乗りすぎたなぁ」

一方通行(これで…どうだ…?)

木原「あれ? 何その顔。一糸報いたって顔しちゃってまぁ」

 木原の右拳が再び一方通行に叩きつけられる。

木原「ざぁんねん。無駄でした~」

一方通行「が…!!」

一歩通行(ク…ソ…! タネはグローブじゃねェのか!?)

木山「おいここは暑いな、こんな服など着ていられいるか」・・・ぬぎぬぎ

禁書「はわわ・・・服は着ていないとだめなんだよ」

木原「この木原神拳に勝てるわけねえだろうが」

一方通行「糞がァ…」

「どんな拳とて」

木原「誰だ!?」

「我が北斗の拳に勝るもの無し!!」

木原「教えてやろうか? 別に分かったからってどうなるもんでもねえし」

 再び地面に転がった一方通行を見下して、木原数多は嘲笑う。

木原「簡単な話だ。オマエの『反射』が始まる瞬間に拳を戻してんのよ。本当にただそんだけ」

一方通行「はァ…?」

木原「オマエは戻っていこうとするベクトルを『反射』して自分に叩きつけてるんだよ。このどMちゃんがぁ!!」

一方通行「な…に…?」

 一歩通行は絶句した。
 ふざけるな。なんだそれは。あまりにも常識を外れている。

木原「もちろんこれはオマエを知り尽くしてる俺だからこそ出来る芸当だ。他の誰にも真似はできやしねえ」

木原「…だから今日もこうやって呼び出されてんだけどな。ったく、折角今日は非番で、死ぬほど女抱こうと思ってたのによぉ」

 倒れる一方通行の腹に木原の蹴りが突き刺さる。

木原「せめてオマエが俺を楽しませてくれよぉ? まだまだこんなもんじゃ足りねぇぞコラ」

>一歩通行は絶句した。
>ふざけるな。なんだそれは。あまりにも常識を外れている。
お前が言うなwwwwwwwwwwwwwww

>>167 シーッ!!

一方通行「ごは…!!」

木原「おいおいマジでもう終わりかよ一方通行。ちょっとひ弱すぎんぞテメエ」

一方通行「ぐ…!」

 一方通行が右手を伸ばす。木原は油断なくその右手を踏み潰した。

一方通行「ぎ…!!」

木原「はぁ…もういいや。オマエはそこで寝てろ」

 木原数多はもう飽きたと言わんばかりに倒れる一方通行から離れていく。

一方通行(ヤロォ…どこへ…?)

 木原の歩む先、そこに転がるものを見て、一方通行は目を見開く。

一方通行「て…めェ…!!」

 木原の足元には、倒れ付すミサカの姿があった。

 木原はきょろきょろと辺りを見回した。

木原「あら? ちっせえガキと天井ちゃんが消えてんなぁ。ったく、メンドクセエな」

一方通行「何…!?」

 木原の言葉に一方通行も必死で顔を動かす。
 いない。倒れていた打ち止めと天井亜雄の姿が消えている。

一方通行(このクソッタレ共がァァァァ!!!!)

 どうしようもない怒りが込み上げてくる。
 何故。何故この体は立ち上がれない。

一方通行「ガ…アァァァァ!!!!!」

木原「おーおー頑張ってんな一方通行。負けずに俺も頑張るわ」

 木原はまるでゴミ袋を持つような気軽さで、ミサカの髪の毛を掴んでいる。

木原「いや、マジでこんなガキには興味ねえんだけどよ。てめーのその顔オカズに何とか自分を奮い立たせることにするぜ」

一方通行「木ィ原ァァァァああああァァァァあ!!!!」

木原「体動かねえだろ? 芋虫みてえに這いずって追って来な。サッサとしねえとこのガキの穴という穴に棒突っ込んじゃうぜ? あぁ、それと一応言っとくけどよ」

 木原は笑いながら言った。

木原「お前に比べりゃまだ俺は良心的だぜ? なんせ一万人だろ? アクセラちゃんよぉ」

 木原数多のその言葉は、どんな拳よりも重く一方通行を打ちのめした。

 笑いながら木原は消えた。
 ずるずるとミサカの体を引き摺りながら消えていった。

一方通行(…クソッ…タレが……)

 意識が闇に沈んでいく。
 何が最強だ。何が学園都市第一位の超能力者(LEVEL5)だ。
 自分のやりたいことさえ満足に出来ず、こうして地面を舐めている。
 なんと、無様。

 最初から、滑稽ではあったのだ。
 木原数多の言うとおりなのだ。
 一万人の『妹達』を虐殺した自分に、今の木原を責める資格などありはしない。
 結局、なるようになっただけ。
 少女達は最初の予定通りに救われることはなかったということ。

 ただ、それだけの話。

 それでいい。
 『俺は』それでいい。
 無様に地面を舐めて、このまま死んでしまったってかまわない。
 俺のよォなクソッタレの悪党には、こんな無様こそ相応しい。

一方通行「だけど…アイツ等は違ェだろうが」

 そうだ、違う。
 猫に懐いてもらえなくて頬を膨らませていたミサカも。
 人間だと宣言し、小さな胸を張った打ち止めも。
 決して、一方通行のような悪党ではありはしない。


 なら、その結末は。

 ハッピーエンドでなければならない。

 バッドエンドは悪党だけの特権だ。


 一方通行は立ち上がる。

 その赤い瞳に、確かな光を湛えて。

木原「ったく、メンドクセエ。本当メンドクセエ真似しやがってあの野郎」

 木原は苛立たしげに舌打ちしながら廊下を進む。
 木原数多は打ち止めと共に消えた天井亜雄を探していた。

木原「天井ちゃんはあのガキの重要性をまるで認識しちゃいねえからな。頼むからヒステリックに壊したりしてんなよぉ。統括理事長さんに怒られんのはごめんだぜ」

 とはいえ、追跡はすぐに終わりそうだった。
 カプセルに満ちていた液体か、それとも他の何かかは分からないが、とにかく廊下には水の後が点々と残っている。
 そしてその雫はある部屋の中に続いていた。

木原「メインコンピュータールーム…おいおい、めんどくせえことになってる予感しかしねえぞ」

 木原数多は舌を鳴らしながら部屋に飛び込んだ。

 ミサカを廊下に放置し、勢い良くドアを開ける。

天井「ひぃぃ!!」

 天井亜雄は飛び込んできた人物が誰か確認する前に発砲してきた。
 予測済みの展開に木原はあっさりと天井の懐にもぐり込む。
 そして、強烈な一撃を腹に叩き込んだ。

天井「げ…ぇ…!!」

木原「ちょっと大人しくしてな。天井ちゃん」

 木原は所狭しとスパコンが並べられた部屋を見回す。
 いた。打ち止めはテーブルの上に仰向けに寝かされている。
 その打ち止めの頭に貼り付けられたいくつかの装置を見て、木原は顔をしかめた。

木原「くそったれが。やっぱめんどくせえことしてやがった」

木原「簡潔に説明してくれよ天井ちゃん。コレ何? 何してんのあんた」

天井「ふ…ふふ…! どうせ、どうせ私はもうおしまいだ。なら、ならいっそ…!」

 木原の拳が天井の顔に飛んだ。

天井「ぎゃっ!!」

木原「おーい、簡潔にって言ってんだろ。恐怖で頭やるのは勝手だけどよぉ、頼むからこれ以上俺の仕事増やしてくれんな」

天井「…ウイルスを仕込んだ。何かに使えるかもと思って前々から準備はしてたんだ」

木原「ういるすぅ?」

天井「このプログラムにしたがって『最終信号(ラストオーダー)』から発信された信号を受け取ったシスターズはただひとつの命令を実行する兵士になる」

天井「命令(コマンド)の内容は近くの人間を手当たりしだい攻撃せよ、だ!!」

天井「さっきの簡易命令とは違い、このプログラムには絶対に逆らえない!! ざまあみろ! ははは!!」

木原「それ何の意味があんのよ?」

天井「当然、シスターズの存在が明るみにでる! 必然、『絶対能力進化計画』もな!! 計画を黙認してた理事会はさぞ慌てふためくだろう!!」

木原「だぁから、それに何の意味があるんだっての」

天井「知るか! 私の研究所は壊れた!! だったら学園都市も壊れるべきだ!! 私だけ死ぬなんて許しはしないさ!!」

木原「あぁ、こりゃ駄目だ。完っ全に壊れてやがる」

 パァン! と乾いた音が響いた。
 天井亜雄の頭が弾け、脳漿が弾け飛ぶ。

天井「が…!」

 どさり、と天井の体が崩れ落ちた。
 銃をしまいつつ、木原はため息をつく。

木原「ったくめんどくせえ。これなんて報告したらいいんだよ。あぁもうやってらんねえ」

 ガタリ、と音がした。
 振り返る。
 一方通行が、入り口に立っていた。

木原「ああ…ったく本当にめんどくせえなおい!!!!」

インペリアルドラモン……

ホーリーエンジェモン!ホーリーエンジェモン!

一方通行「よォ…間に合ったようで何よりだぜ。木原クンどう見ても早漏だからさァ、大分焦っちゃいましたよ僕チャンよォ」

木原「ボロッボロで減らず口利いてんじゃねえよボケ」

一方通行「…ンで、そこで寝転んでるガキはどォいう状況何だよ」

木原「天井ちゃんお手製のウイルスだとよ。あのガキから信号が出てそれを受けた一万人の『妹達』が大暴れって寸法らしいわ」

一方通行「へェ…そりゃァ愉快なカーニバルだなァオイ」

木原「そうなりゃ当然『妹達』は処分決定だ。残念だったな一方通行。どおやらバッドエンドは確定しちまったようだぜ」

一方通行「笑わせンな小悪党。幕引きにゃまだ早ェよ」

木原「おいおい、テレビのヒーローじゃあるまいし、一発逆転の手なんてありゃしねえよ。強いて言えば、ウイルスが発動する前にあのガキ殺せば一万人は救えるかもしんねえが」

木原「誰もが笑って終われる、最高のハッピーエンドってやつはもう終わってんだよ」

一方通行「いやァ…案外そうでもねェさ」

木原「あぁ?」

一方通行「俺が今ここでテメエを瞬殺すりゃ、もうチッと別の未来が見えてくンぜ?」

木原「じゃあやっぱ無理ってことじゃねえかクソボケ」

 木原数多が地を蹴った。
 一瞬で一方通行の懐に入り込む。

木原「どらぁぁあああ!!!!」

 拳を叩き込む。腹に顔に、無様にこちらに伸ばしてきた右手に。
 違和感。
 木原は困惑する。

 倒れない。
 一方通行が倒れない。
 生身の体ではそこらの学生にも劣るはずの一方通行が。
 さっきまでは一撃で無様に転がっていた一方通行が。

 倒れない。
 まるで、その両足から地面に根が生えているように。

木原「てめえ、まさか…!」

 ベクトル操作。
 自分の足を地面に縫い付けて。
 絶対に、倒れないように。

 一方通行がその『左手』を伸ばす。
 木原数多は反射的にその手を迎撃する。
 『反射』の膜に手が触れるその瞬間、手首を引き戻す。

 何も起こらない。
 『左手』は止まらない。

木原「な!?」

一方通行「何してンの? 木原クン」

 一方通行は嘲笑う。
 一方通行の左手が木原数多を捕まえる。

木原「てめえ…この手…義手か!!」

一方通行「オゥイエー正解ィ!! だけどチーッと遅かったなァ木原クンよォ!!!!」

 一方通行の左手は義手だ。
 つまりはただの物体だ。
 常に一方通行の肩に、その皮膚に連結している物体に過ぎない。
 一方通行に義手を与えた医者は笑ってこう言った。

『その義手は日常生活においてまったく支障なく動いてくれると思うけど?』

『まあ、君の能力ならそれこそ『自由自在に』動かせてしまえるんだろうけどね?』


一方通行「おォォォあァァァあああああ!!!!!!!」

 その左手に関節の概念は無く。
 その左手に腕力の縛りは無かった。

 木原数多の体が宙を舞う。
 壁に、床に、その体が勢い良く叩きつけられる。

一方通行「ぎゃっははははははははは!!!!!」

 その様はまるで濡れタオルを振り回して遊ぶ子供のようで。
 木原数多という名のタオルはビシャン、ビシャンと壁に叩きつけられるたびに赤い水音を発した。

一方通行「瞬殺完了だぜ木原くン」

 ぼろぼろの肉の塊と化した木原数多を投げ捨て、一方通行はテーブルの上に眠る打ち止めに歩み寄る。
 顔が赤い。息が荒い。ウイルスの発動までもう間がないのだろう。

一方通行「こういう事かよ。食えねェ女だぜ」

 一方通行がその手に握るは『打ち止め』という少女の人格プログラム。
 つまり、このデータを、ウイルスに犯された少女に上書きすれば。
 少女は、最初の自分を取り戻す。
 きっとカプセルを出てからの出来事は忘れてしまうだろうが、まあほんの30分程の思い出だ。
 そんなに、大した重みなど無い。

 一方通行は手近にあったパソコンの電源をつけた。
 だが、うんともすんともいわない。

一方通行「ヤッベェ。調子ン乗って木原くンぶつけすぎた」

 部屋にあったスパコンは、どれもこれもがひしゃげてしまっていて、生きているものは皆無だった。

一方通行「まァいいさ。何とかなンだろ。…何とかしてみせるさ」

 誤魔化すように一方通行は口にして、少女の額に手を乗せる。
 自分の能力はベクトル操作。あらゆる力の向きを制御するこの能力なら、専用の装置が無くても打ち止めの頭をいじることができるはずだ。
 後はスパコンの代わりを自分の脳みそでやればいい。打ち止めの人格プログラムは既に頭に入っている。

一方通行「とはいえ、大仕事だなこいつァ」

 きっと、『反射』も切って、全ての演算能力を駆使しなければこれは成し得ない。

一方通行「つっても、やるっきゃねェンだがよ」

 目を瞑る。プログラムを脳内でくみ上げる。

一方通行「コマンド実行……削除!!」

 本日最後の大仕事が始まった。
 それは本日最後になるはずだった。

 視界の端でもぞり、と肉の塊が動く。

一方通行「な…ンだ…とォ……?」

 動いている。
 木原数多が、動いている。

木原「だめだめだぜアクセラレータァ…詰めが甘えよ。人殺すときはちゃあんと頭潰さないと安心しちゃ駄目よ」

 生きているのが不思議なほど体はグチャグチャなのに、それでも鉄の意志と漆黒の執念でもって。
 木原数多は拳を握る。

木原「スパコンの代わりやってんの? すごいねえ、見直した。惚れちゃいそうだぜアクセラレータぁ」

一方通行「ヤロォ…!」

木原「でもそれ多分いくらオマエでも全部の演算能力注がねえと無理だろお? ってぇことはだ」

 木原が拳を振り上げる。
 その拳は一方通行の顔面に『直接』叩き込まれた。

一方通行「おグ…!」

木原「ぎゃっは! あったりぃ!! 完全無防備じゃんかよオマエ!!」

 木原は狂ったように笑いながら一方通行の体に拳を打ち込み続ける。
 一方通行の口から零れた血が、打ち止めの頬を濡らした。

木原「やべえ! 気持ちよすぎんぞ!! オマエこんな感触してたんかよ!!」

 木原の拳が一方通行の頬を貫く。

木原「今までは俺からすりゃ実質寸止めで終わらしてたからよぉ、この感触が無かったんだわ!!」

 木原のカカトが一方通行の背中に叩き込まれる。

一方通行「げは…!」

木原「いい! いいよお前!! 最高のサンドバックだ! 頭ワリィなあ学園都市も!! あんな『妹達』なんて作ってる場合じゃねえっての!!」

木原「やっぱ作るならお前だって!! あいつら確か単価18万円だろ!? 買う買う、超お買い得だぜそりゃあ!!」

 笑いながら拳を振るう木原数多に、一方通行はまったく対応できない。
 途中で『上書き』をやめてしまっては、きっと打ち止めの人格は致命的な破綻をきたす。
 のろのろと一方通行の『左手』が木原の拳を止めようと動く。
 だが、能力なき今それは『日常生活に支障が無い』動きしかしてくれず。
 『左手』は木原の拳を追うのを諦め、ただ地面をぐっと握り占めた。


 決して打ち止めの頭から、一方通行の右手が離れてしまわぬように。

木原「ふぅ~…良かったぜ一方通行」

一方通行「……」

 もはや口を動かすのも億劫だ。
 だから精一杯の力を込めて、木原を見下してやる。

木原「まだそんな目が出来るのか? 駄目だぜ一方通行。ここは無様に命乞いをするシーンだ」

 木原が一方通行の右手を掴んだ。
 どんなに殴られようとも決して動かそうとしなかった右手を。

一方通行「バッ…!!」

木原「おぅいえー、いい顔だぜ一方通行。その顔が見たかった」

一方通行「やめろ…!!」

木原「最後は純粋な力比べだ。大事なこの子を男の腕力で守ってみせろ!!」

一方通行「やめろクソッタレがァァァあ!!!!!!」

木原「だぁれがやめるかクソガキがァァァァあ!!!!!!」

 その時。
 白い弾丸が部屋に飛び込んできた。
 真っ白な弾丸は、純白の衣装より真っ白な歯を剥き出しにして。

インデックス「あくせられーたになにしてるの!!!!」

 木原の頭に噛み付いた。

木原「いってえええええええ!!!!!」

インデックス「ふがー!! んぐぐぐぐぐーーー!!!」ギリギリ…!

 その様子を、一方通行はまるで馬鹿げた夢を見ているような目で見つめていた。

 何て出来の悪ィ物語。
 何て無様なヒーロー様だ。

一方通行「真面目にやってンのが馬鹿らしくなるぜ。…ったく」

 呆れたように一方通行は笑った。

木原「こぉのクソガキが! どっから入りやがった!!」

インデックス「普通に正面玄関から入ったもん!!」

木原「んなこたあ聞いてねえ!! 今最高に楽しいトコなんだよ邪魔すんなや!!」

 木原の拳がインデックスの顔に突き刺さる。
 なのに。木原の手には何の手ごたえも無い。
 まるでのれんを殴りつけたようなこの感覚は一体何だ。

インデックス「あぐ」ガブリ

木原「あっがあああ!!!!」

 インデックスに噛まれた右手を慌てて引き戻す。
 何だ。このガキは、何だ!?

インデックス「あくせられーたをいじめたら、この私がゆるさないんだよ!!」

木原「ゆるさねえから、どーだっての?」

インデックス「むぅ~! こうするもん!!」

 インデックスは再び木原に飛び掛る。
 木原はインデックスの突進を受け流すと、そのまま優しくインデックスを抱きかかえて思い切り投げ飛ばした。
 壁沿いに置かれていた金属性のキャビネットにインデックスの体が突っ込む。
 キャビネットに収められていた書類の束が宙を舞った。
 それでも、インデックスの体には傷一つない。
 立ち上がろうとするインデックスの右手を、木原が踏み抜いた。

インデックス「…ふ、ふん! そういうのも全部私にはきかないもん!!」

木原「だろうな。知ってるよ」

インデックス「あ、あれ…?」

 右腕が動かせない。木原の蹴りによって変形したキャビネットが、インデックスの腕をくわえ込んでいる。

インデックス「う~! う~!!」ジタバタ!

木原「そこでじっと見てな。愛しの彼がスクラップになるところをよぉ」




一方通行「誰が…誰をスクラップにするってェ?」

 木原は振り向く。一方通行の姿をその目に収める。
 一方通行は立ち上がっていた。
 その足元には、打ち止めが穏やかな表情で眠りについている。
 いつの間に連れてきたのか、廊下にいたはずのミサカも一方通行の足元で眠っていた。
 プログラムインストールは終了した。
 もはや一方通行を縛る鎖は何もない。

 一方通行の顔に、獰猛な笑みが浮かぶ。




一方通行「モチロン、『俺』が『オマエ』をだよなァ!? 木ぃィィィィィィィィィ原くゥゥゥゥゥゥううううううううううううううううぅゥゥンンンンンンン!!!!!」

木原「『俺』が『オマエ』をだよぉ!! アァァァァァクセラレェェェェェェエエエエタァァァァァアアアアアアアア!!!!!!!」





 吼える手負いの獣、二匹。

 決着の時、迫る。

木原「おおおおおおあああああああ!!!!!」

一方通行「らァァァァあああああ!!!!」

 木原の拳が一方通行に刺さる。
 一方通行は倒れない。

一方通行「駄目だ駄目だ!! テメエの拳は軽すぎンぜェ!! それじゃもォ倒れてやれねェよ!!!!」

 一方通行の『左手』が木原の体を吹き飛ばす。

木原「が…は…!」

一方通行「終わりだ、木原」

 一方通行が床を踏みつける。
 走り抜けた衝撃は、この建物にとって致命的な『何か』を決壊させた。

 揺れる。まるでこの建物だけが震度7の地震に巻き込まれているようだ。

木原「てめえ…まさか……」

一方通行「いいコトを教えてやるぜ木原くン。俺の体からほんの30cm、どうやったって体が触れちまうこの空間が瓦礫の落ちてこねェ『愛のエリア』だ」

一方通行「勇気を持って飛び込んでごらン? 精一杯の愛で抱きしめてやるぜ」

木原「ハ」

 木原は笑った。笑って、血だらけのタバコに火をつけた。

木原「やめてくれよおぞましい。てめえに抱かれるくらいならまだコンクリ布団にして寝たほうがあったけえってもんだ」

一方通行「違えねェ」

 天井にひびが入る。重さ二百キロに及ぶコンクリの塊が今か今かと落ちる機会を待っている。

木原「妙な言い回しになっちまうが、もしこの世に地獄ってもんがあんならよぉ」

 木原は煙を吐き出して笑った。

木原「先に行って待ってるぜ。アクセラレータ」

 一方通行も笑う。さすがおンなじ悪党だ。よくわかっていらっしゃるぜ。

一方通行「おォ。近いうちに、またな」

 俺達悪党の行き着く先なんて、結局はそこしかないのだから。

 木原数多は瓦礫の中に消えた。
 研究所は粉々に倒壊し、月が光る空が見えている。
 一方通行と打ち止め、そしてミサカのいたそこだけぽっかりと穴が空いたように瓦礫がない。

ミサカ「う…うん…」

打ち止め「うむぅ~…」

 二人がもぞもぞと目を覚ました。

一方通行「おせェお目覚めだな、お姫様」

ミサカ「これは…」

打ち止め「うわあ~、凄いことになってる。ってミサカはミサカは感嘆の声を上げてみたり」

ミサカ「…終わったのですか? とミサカはぼろぼろのあなたの姿に顔をしかめつつ確認を取ります」

一方通行「あァ、終わった。終わったンだよ、全部」

 疲れを吐き出すように肺の底からため息をつく一方通行。
 月が三人を祝福するように輝いていた。





インデックス「……終わってなんかいないんだよ」

俺も愛のエリアに入りたかった

 ボコーン!!!! と瓦礫の中からインデックスが顔を出した。

インデックス「むっきーーーーーーーーー!!!!」

一方通行「お、おォ?」

インデックス「私がいるのにかまわず建物壊しちゃうなんてどういうことなの!! 何か調節されてるのかと思ったらガンガン瓦礫振ってくるし!!!!」

一方通行「バッカお前、お前ンとこまで瓦礫こねェようにしてたら木原がそっち行っただろ」

インデックス「だからって!! だからって!! ムキーーーーー!!!!」

一方通行「あァもうウザってェな。キャンキャンわめくンじゃねえよ」

 一方通行は笑っていた。
 なんて居心地の悪いハッピーエンド。
 この俺が、こンな優しい月明かりの中に居るなンて、悪い冗談にしか思えねェ。
 こンな幻想、俺には全く持って相応しくねェ。一体何の悪意だこりゃあ。



 自嘲じみた彼の予感は、決して外れてはいなかった。
 今ここに、かつて記憶を失う前、彼自身が放った言葉を引用しよう。




 『悪党に、ハッピーエンドはありえねェ』。

     *      *
  *     +  うそです
     n ∧_∧ n
 + (ヨ(* ´∀`)E)
      Y     Y    *

ちょいと用事で席をはずさねばならぬ
すまん ちょいとお待ちあれ

                       ヘ(^o^)ヘ いいぜ
                         |∧  
                     /  /

                 (^o^)/
                /(  ) 
       (^o^) 三  / / >

 \     (\\ 三
 (/o^)  < \ 三 
 ( /

 / く  殺す

 気付けば、彼女はそこに立っていた。
 その姿は、一方通行の傍らに立つ『ミサカ』と瓜二つで。
 だけど、決定的に違うところがひとつある。

 基本的に無表情なミサカ達とは異なり、少女の顔にははっきりとあるひとつの感情が溢れている。

御坂「その子達から離れなさい。一方通行」

 『妹達(シスターズ)』のオリジナル、『御坂美琴』は怒りで震えている。

ミサカ「お姉さま…?」

一方通行「…成程な。そォいうシナリオかよ」

 ミサカの発言から、御坂美琴の正体に当たりをつけた一方通行は不敵に笑う。

一方通行「そォだよなァ。これこそ俺の役割だよ。やっぱ違和感アリアリだもンなァ、陽だまりで笑う俺なンてよォ」

 ボロボロの体を引き摺り、一方通行は歩みだす。
 そして御坂美琴に向けて右手を突き出すと、その人差し指をクイクイと曲げた。

一方通行「さァ来いよ『正義のヒーロー』。倒すべき悪はここにいるぜェ?」

インデックス「あくせられーた!?」

打ち止め「どおしてそんなこと!?」

ミサカ「あなたは…!」

一方通行「いいかテメエラ。絶対に俺の邪魔はすンな。これから俺の視界に入ったらソッコーで捻り潰すぞ」

インデックス「そんな…!」

御坂「ああああ!!!!」

 美琴の指先から電撃が迸る。
 シスターズが放つソレとはレベルの違う、本当の『超能力』が一方通行に牙を剥く。
 だがそんな一撃は、無論、一方通行には届かない。

一方通行「花火出して遊ンでンじゃねェよ!! もっと気ィ入れてこいや!! じゃねェと瞬殺すンぞクソッタレ!!」

御坂「くっそぉぉぉおおお!!!!」

???「待ってください! とミサカはあらん限りの声を振り絞って叫びます!!」

一方通行「あァ?」

御坂「アンタ…あいつんとこにいたんじゃなかったの!?」

御坂妹(ミサカ10032号)「いえ、ミサカは無謀なお姉さまを止めるために、そこの真っ白シスターと一緒にこちらに先回りいたしました。と、ミサカは可及的速やかに現状の説明をします」

御坂「…悪いけど、私はやめる気はないわよ。例え絶対に勝てないんだとしても、絶対に一泡吹かせるくらいはやってみせる!」

御坂妹「いえ、違うのです。お姉さまは勘違いをしています、とミサカは―――!?」

 御坂妹がその言葉を最後まで発することはなかった。
 一瞬で肉薄した一方通行が、彼女の体を吹き飛ばしたからだ。
 大砲のように発射された御坂妹は、そのまま瓦礫の山へと盛大な音を立てて突っ込んでいく。

一方通行「視界に入ったら潰すって言ってなかったか? キチンとリンクしてろよミサカネットワーク」

御坂「アンタはァァァァああああああああ!!!!!!」

一方通行「ダメだ。ここは邪魔が多すぎるわ。場所変えるぜ」

御坂「なに!? くっ!!」

一方通行「飛べオラァ!!!!」

 一方通行のかざした右手から、爆発的な風が生まれる。

御坂「きゃああああ!!!!」

 美琴の体はさっきの御坂妹の様に盛大に吹っ飛んでいき。

一方通行「そらよォ!!」

 一方通行もまた、己の体を弾丸と化してその後を追った。

 飛び去った二人を呆気にとられて見つめるインデックス、打ち止め、ミサカの三人。
 三人が正気に戻ったのはパラパラと崩れる瓦礫の音を聞いてからだった。

御坂妹「…髪の毛がほこりまみれになってしまいました、とミサカは不快感を露わにして呟きます」

 瓦礫の中に突っ込んだ御坂妹がけろりと顔を出した。

打ち止め「あれ? 何だか全然平気そう。ってミサカはミサカはきょとんとしてみる」

御坂妹「派手に音を立てるだけで衝撃は最低限に抑えられるようにベクトル調整してあったようです、とミサカはあの人の行動を予測してみます」

ミサカ「やっぱり、彼にはあなたを、ひいては私達に害を加えるつもりはなかったのですね、とミサカは感想を述べます」

打ち止め「やっぱりそうだったんだわーい! でもどうして? どうしてあの人はこんなに敵を作るようなまねばっかりしちゃうの? ってミサカはミサカは小首を傾げてみる」

インデックス「……きっと、許せないんだよ」

 インデックスは彼の業を知っている。道すがら御坂妹に教えてもらったから。
 インデックスは一方通行を知っている。ほんのわずかな同居生活だったけど、確かに彼の優しさに触れていたから。

インデックス「あの人はきっと誰よりも、あの凄く怒ってた短髪よりも、自分のことが許せないんだと思う」

 でもそれは間違っていると思う。
 誰かを思うことが出来る人間が絶対に救われないなんてことはない。

インデックス「あの人を追いかけよう!」

 インデックスの言葉に、三人は力強く頷いた。

御坂「く…!」

 迫りくる地面。磁力を発生させられる金属製の物も周りには無い。
 衝撃を覚悟して美琴は固く目を瞑る。
 だが、予想に反して美琴の体はまるでなにかの冗談かのようにフワリと地面に降り立った。

御坂「トコトン人のこと舐めくさってくれるじゃないアンタ」

一方通行「あんなに颯爽と登場しといてさっきので終わってちゃ興ざめも甚だしいンでなァ。ま、ちょっとした演出ってヤツだ」

御坂「ねえ、ひとつだけ聞かせなさいよ」

一方通行「あン?」

御坂「アンタ、どうして研究所を破壊したの? どうして今さら『実験』をやめようなんて思ったのよ」

一方通行「なァンだ、そんなことか。簡単だぜ? 理由は至ってシンプルなモンだ」

 一方通行はその顔にこれ以上はないという程醜悪な笑みを浮かべた。

一方通行「飽きたから」

御坂「…そう」

御坂「ざっけんなぁぁぁああああ!!!!」

 美琴の体から彼女の生み出せる最大限の電気が迸る。
 インデックス達が居たことで戦いにくかったのは何も一方通行だけではない。

御坂「ちょっとは命の重みってやつを知りなさい!!!!」

一方通行「いいねェ!! 派手に決めてくれンじゃねェの!? ほンじゃあ一気にエンディングに流れ込むとしよォかァ!!」

御坂(どういうわけか知らないけど、何があったのか知らないけど、一方通行はひどく傷ついてる。動きもにぶい)

 美琴は唇を引き結ぶ。覚悟を決める。

御坂(今このときを逃したらもう勝機なんて二度と無い。たとえ命に代えても…髪の毛の一本くらいは焦げ付かせてやるんだから!!!!)

 美琴の電撃を反射し、受け流し、一方通行は考える。
 きっとこの女はかつて自分と戦闘したことがあるのだろう。
 『一方通行』の力を知る者特有の力の流れ――『怯え』が彼女の電撃から伝わってくる。

 それでも、御坂美琴は逃げ出さない。
 恐怖を怒りで塗りつぶし、学園都市最強の第一位に戦いを挑む。

一方通行(蛮行の源を怒り。ならその怒りを生成してンのはなんだ?)

 己に問うまでもない。
 その怒りの源は誰かを思う『優しさ』に相違ない。
 少女はただ、死んでいった一万人の『妹達』のために力を振るう。

一方通行(いいねェ。まさしくヒーローの器ってやつだ)

御坂「く!!」

一方通行(けどよォ…)

御坂「くそ…ちょっとくらい当たりなさいよぉぉぉぉおお!!」

一方通行「その程度じゃ、倒されてやれねェなァ!!!!」

 御坂美琴の全力の一撃は、一方通行の右手に触れただけであっさりと四方八方に撒き散らされ、消滅した。

御坂「く…!」

一方通行「ダメだダメだ。その程度じゃこの俺を引き摺り下ろすことは出来ねェよ」

一方通行「これから先も、テメエら弱者を踏み潰して君臨させてもらうぜェ?」

御坂「う…うぅ…!」

 美琴の目からぽろぽろと涙が零れ落ちる。
 悔しい。何も出来なかった。
 あの子達の痛みの、一万分の一も与えてやれなかった。

一方通行「あらあら、こりゃ本格的にダメだな。窮地に泣いちゃうオンナノコの分際で俺の首を取ろうとしてたってのか? 笑わすなよなァオイ」

御坂「ぐ…う…うぇ…」

 小さな電撃がパチリと走る。
 一方通行は肩を竦めた。

一方通行「だァめだ。もう寝てろよオマエ」

 一方通行はその右手を泣きじゃくる美琴に向かって伸ばした。

 キュウン―――と甲高い音が響いた。

一方通行「あァ?」

 一方通行のベクトル操作によって10mは吹き飛ばされ、死なない程度に傷を負うはずだった美琴はほんの1m後ろに尻餅をついているだけで。
 本当にテレビに出てくるスーパーマンのようなタイミングで、その少年はそこにいた。

???「いいぜ、『最強』」

 黒髪の少年が口を開く。
 一方通行は困惑に喘いでいた。
 黒髪の少年の『右手』に掴まれた一方通行の右手。
 何だ? この感覚は?
 のれんに腕を押し付けたようなインデックスの『歩く教会』とは違うこの感覚。
 まるでのれんを押す腕そのものをもぎ取られたようなこの感覚は―――!?

???「てめえが何でも自分の思い通りに出来ると思っているのなら―――」

 少年の右手が一方通行の腕を離す。
 代わりに、少年の右手は固く握りこまれた拳を作る。


上条当麻「まずは――その幻想をぶっ殺す!!!!」


 黒髪の少年の拳が一方通行の顔面に叩き込まれた。

一方通行「が…ふ…!!」

 余りにも予想外の衝撃に、一方通行はもんどりうって倒れる。
 木原数多の『反射』対策とは違う。
 この少年の拳は一方通行の『反射』などまったくお構い無しに突っ切ってきた。

一方通行「ハ…オイオイ、一体何なンだその右手はァ」

 何だか面白くなって、一方通行は笑う。
 まったく摩訶不思議な少年の力も面白かったし、今日何度目になるか分からない己の無様が可笑しかった。

一方通行(よくまァ地べたに這い蹲る『最強』さンだぜ)

 にやりと笑った口の端からツゥ、と血が流れ落ちる。
 乱暴に親指でそれを拭うと、一方通行は笑みを浮かべたまま立ち上がった。

上条「…ビリビリ」

御坂「…ビリビリって言うな……」

上条「まったく、お前は無茶しやがって。どうしてそうやって一人で突っ走っちまうんだよ」

御坂「うるさい…ぐす…アンタ…誰に向かって説教してんのよ」

上条「決まってんだろ。無鉄砲で、向こう見ずで、フリフリの水着が大好きな常盤台のお嬢様にだよ」

御坂「あ、あの時のことは言うなぁ!!!!」

上条「いいか御坂。アイツに腹が立ってるのはお前だけじゃねえ。俺だってこいつのしてきた『実験』にはむかついてんだ」

上条「だから一人で背負うことなんて全然ねえ! 俺も背負う! 俺がお前に見せてやる!! お前の周りの世界には、まだまだ救いがあるってことを!!」

御坂「アンタ…!」

上条「さあ、始めようぜ『最強』! 御坂が受けてきた痛み、御坂妹達が受けてきた痛み……!!」

上条「俺が、お前に教えてやる!!」

一方通行「寒気がするようなご高説どうもォ。ンじゃ、精々よろしく頼むわセンセイ」

一方通行(もう実験はやめたんだけどな…)

一方通行(記憶もないのにひでぇな…)

自分の思想を人に押しつける屑野郎に
アバズレ自己中我が儘女か

やっちまえ一方さん

 戦いは一方的だった。

 一方的に―――一方通行が、上条当麻を圧倒していた。

一方通行「オイオイマジか? ちょっとしょっぱすぎンぞテメエ」

 一方通行は呆れたように言う。
 あの黒髪の少年の『右手』が何か得体の知れない力を持っていて、あっさりと『反射』を貫通するのなら。
 少年の右手が絶対に届かない距離から一方的に嬲ればいい。
 一方通行の『ベクトルコントロール』を持ってすれば、その攻撃方法など100を越えて余りある。

上条「が…ふ…!」

 芋虫のように転がっていた少年が立ち上がる。
 すかさず一方通行の周囲から爆発的な風が生じた。
 明らかな指向性を持ったその風は、上条当麻が突き出した右手を器用に避けてその体を吹き飛ばす。

御坂「……!!」

 美琴の顔が絶望に歪む。声も出ない。
 死んでもおかしくない勢いで、上条の体は地面に叩きつけられた。

一方通行「…シラケさせてくれんなァ」

 一方通行は、既に上条当麻への興味を無くしていた。
 立ち上がる上条に力を叩きつける。
 のろのろと上条が起き上がる。
 チッ、と一方通行は吐き捨てる。
 フラフラと立ち上がる上条の下へ自ら歩み寄る。

一方通行「もォいいンだよ。寝とけ。『その役割はテメエじゃ無ェみてえだからよ』」

 一方通行の『左手』が上条の顔面を殴りつけた。
 ベクトルコントロールによって生み出された腕力を超える破壊力。
 上条当麻の体がずるりと崩れ落ちた。

御坂「や…だ…」

 少女のかすれた声が響く。一方通行は舌を鳴らす。
 その場を立ち去ろうと地面を蹴りつけようとして――上条当麻にその左手を掴まれていた。

一方通行「あァ?」

上条「俺を…殴れたってことは……」

 既に一方通行と変わらぬほどボロボロになった体で、上条当麻はにやりと笑う。

上条「コッチの手に『反射』はねえ…へへ、思ったとおりだ」

一方通行「て…めえ…不死身かコラァ!!」

 上条当麻は一方通行の『左手』を掴んでいる。
 ならばあの時のように。あの時木原を振り回したように。

一方通行(てめえも濡れタオル決定だコラ!!)

 一方通行が『左手』を操作しようとした刹那――上条当麻はその左手をあっさりと離していた。

上条「悪いな。これでも上条さん、ちょっとはケンカ慣れしてるんですよ」

 一方通行に生まれた思考の空白。
 その一瞬の隙に。

上条「らぁぁぁぁぁあああああ!!!!」

 上条当麻はその必殺の右手を一方通行の顎に叩き込んだ。

一方通行「…今、何かしたか?」

上条「ぱしろへんだすwwwwwwwwwwwwwwww」

 ブツン、とどこかで嫌な音がなった。
 元々打たれ弱い一方通行を支えていた何かが切れた。

一方通行「お…ァ…」

 ガクガクと膝が揺れる。視線が定まらない。
 ベクトルコントロールのための演算式を弾きだせない。

上条「あああああああああ!!!!!」

 上条当麻は畳み掛ける。
 ここだ。勝機はここしかない。
 何度も何度も上条はその拳を一方通行に叩き込む。

上条「終わりだ」

 上条当麻は拳を握る。
 これまでよりも固く固く。全ての思いをその右手に乗せて。

上条「歯ぁ食いしばれよ最強……」

 振りかぶる。
 それを見て、一方通行は嗤っている。

一方通行(そォかい…やっぱりテメエで合ってたのかい)

上条「俺の最弱は、ちっとばっか響くぞお!!!!」

 上条当麻の全身全霊が一方通行に叩き込まれ。
 一方通行は派手に転がって地面に突っ伏した。

上条「はぁ…はぁ…」

御坂「まさか…勝ったの?」

 上条はほっと息を吐くとその場に尻餅をついた。
 実は結構、というかかなり彼も限界だったのだ。

御坂「ちょ、ちょっと大丈夫?」

上条「ああ…何とか…って言いたいけど実はもう結構足腰がガタガタだったりするのですよ」

御坂「無茶しすぎよ…馬鹿」

上条「泣くなよ」

御坂「泣いてないわよ!」

上条「…!!」

 その時、上条が何かに気付いた。

上条「下がってろ、御坂」

御坂「え…? …!!」

 一方通行が、立ち上がっている。
 ニタニタと嗤って、こちらを見下している。

一方通行「オイオイオイオイ、終いかよ? 俺に一万人分の痛みを教えてくれるンじゃなかったのかァ?」

上条「てめえ…!」

一方通行「足りねェ足りねェ、ゼェンゼン足りねェよ。やる気あンのか? ねェならやる気の出る話をしてやろうか?」

一方通行「テメエラが何やらご執心のモルモット連中の死に様を語ってやろォか? ありゃあ5463番目の時だったなァ。首を刎ね飛ばしてやったンだよ」

上条「……黙れ」

一方通行「10000番目の時は13の肉片に解体した。やっぱ10000の記念にチッとテンション上がってたンだろォなァ?」

上条「黙れよ……」

一方通行「この程度でもう満足ですかァ? とンだ自己満野郎だなテメエ」

上条「喋んなっつってんだろこのクソ野郎!!!!」

 怒りに任せて拳を振るう。
 一方通行が地面を転がる。
 だが――一方通行はのそりと立ち上がる。

上条「う…うあぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!!」

 上条当麻は何かにかられるように拳を振り続けた。

風呂入ってくる
ってか上条さん嫌われすぎワロタ
まあ語ってない部分だから仕方ないけど、上条さん的には原作三巻と状況変わってないんだから許してあげてほしいな

打ち止め「どうして…? どうしてあの人はあんなにボロボロにならなきゃならないの? ってミサカはミサカは零れる涙を拭いつつ…う…うえぇ…!」

 インデックスや打ち止め達の目の前で一方通行は立ち上がり、また殴り飛ばされる。
 インデックス、打ち止め、ミサカ、御坂妹の4人は既に彼らに追いついていた。
 追いついていながら、ただ遠巻きに見つめるだけで、誰も何も出来なかった。

『邪魔をするな』

 彼が冷たく言い放ったあの言葉。
 彼が一体何を邪魔して欲しくなかったのか。
 それを理解してしまったから。

打ち止め「許してあげたい…」

 ぽろぽろと零れる涙を拭いながら、打ち止めは震えた声を出す。

打ち止め「死んでしまった10000人のミサカ達がどう思っているかは分からない。でも、このミサカはあの人を許してあげたいよ…!」

ミサカ「他の9980人のミサカも同じ気持ちです、ラストオーダー。ですが……」

インデックス「きっと、彼自身が彼を許さない」

 ミサカの言葉をインデックスが引き取った。

インデックス「きっと神様さえあくせられーたを許しても」

 それは、涙を必死で堪えている声だった。

インデックス「世界の全てがあくせられーたを許しても、あくせられーただけがあくせられーたを許さないんだよ」

打ち止め「そんな…いいの!? それでいいの!? ミサカは全然納得できない!!」

インデックス「納得なんて、出来るはず無いんだよ!!」

打ち止め「だったら!!!!」

 インデックスは打ち止めの言葉に返事を返さなかった。
 何故なら、既に駆け出していたから。
 今もなお立ち上がろうとしている彼の元へ。

打ち止め「ぬ、抜け駆けずるい!! ってミサカはミサカは―――!!!!」

上条「ぜぇ…ぜぇ…」

一方通行「どォした…もォ…終わりかよ……」

上条「く…そ…何なんだよお前。そんなに『最強』の座が惜しいのかよ!!」

 そう口にしながら、上条当麻は迷っていた。
 本当に…本当にそうなのか?
 たったそれだけの下らない理由のためにこの学園都市第一位は何度も立ち上がっているのか?
 上条当麻の顔が歪む。

 本当に俺は、正しいことをしてるのか?

 だって――違う。余りにも違う。
 彼が思い描いていた学園都市第一位という男の『幻想』と、目の前でボロボロになっている男の『現実』が。
 どうやっても重ならない。

上条「くっそぉぉぉぉおおおおおお!!!!」

 迷いを振り切るように上条は駆け出し――

インデックス「待って!!!!」

 突然に一方通行の前に立ち塞がった少女の姿に、慌てて拳を止めた。

上条「な…!?」

インデックス「もう…もうこの人を許してあげて!!」

打ち止め「ミサカからもお願いします! ってミサカはミサカは頭を下げてみる!!」

ミサカ「ミサカも同じ気持ちです、とミサカは上位個体に追従します」

御坂「アンタ達…!」

御坂妹「お姉さま。ミサカ達のために立ち上がってくれたお姉さまの気持ちは大変嬉しく思います。ですが……」

御坂「許すっていうの…? あんた達を笑って殺し続けてきたコイツを!!」

御坂妹「はい、とミサカは迷い無く頷きます」

御坂「わかんない…そんなの全然わかんないわよ……!!」

御坂妹「今ここで全てを語るには長くなります。いつかきちんと話しましょう。また、二人でアイスでも食べながら」

一方通行「テメエラ…邪魔すンじゃ…ね……」

 インデックスを押しのけようと腕を伸ばした一方通行だったが、彼はそのまま意識を手放し、インデックスの方に倒れこんだ。

インデックス「わ…!」

 インデックスは慌てて一方通行の体を支える。
 ボロボロの少年は、インデックスでも支えきれる程軽かった。
 学園都市最強のLEVEL5は、今はその面影をまったく見せずインデックスの胸に顔を寄せている。

上条「……」

 その姿を、じっと見ていた上条当麻は。

上条「……!!」

 ゴガン!!といい音が鳴る。
 ふらつく上条を全員がポカンとして見上げていた。
 上条当麻は自分の頭を思いっきり殴りつけたのだ。


 あらゆる幻想を破壊する、その右手で。

 上条当麻はちょっとした事件に巻き込まれていた。
 なんの気なしに寄ったハンバーガーショップで、彼は奇妙な巫女少女と出会い、そのまま彼はあれよあれよと魔術の戦いに巻き込まれていった。
 そこで彼は赤髪の魔術師、ステイル=マグヌスと出会った。
 赤髪の魔術師と共に、とある錬金術師と戦った。

 そこで上条当麻は知る。
 その錬金術師はある女の子を救うために生きてきて、だけどその女の子はとっくに他の誰かに救われていたというお話を。

 上条当麻は一度その女の子を見ている。
 白い修道服を着た、ちょっと忘れようも無い女の子。

 そして今はその女の子の膝の上に頭を乗せ、安らかに眠るLEVEL5。
 いくら上条当麻が鈍感でもわかる。
 余りにも簡単な答えだった。

 今、上条当麻の中で、極悪非道のLEVEL5という幻想は粉々に砕け散っていた。

上条「戻ろう、御坂」

御坂「ちょっと、何一人でスッキリした顔してんのよ!! 私はまだ全然納得なんか…!」

上条「そりゃあ、すぐには無理かもしんねえけど」

 上条は右手で美琴の頭をくしゃくしゃと撫でる。
 それは、ちょっとしたおまじないのつもりだった。

御坂「な…ちょ…! ちょっと…!!」

上条「それでも、せめて『幻想』のままアイツを見るのはやめようぜ」

御坂「わかった…わかったからまず撫でるのをやめなさいよ!!!!」

 「悪かった」。最後にそういい残して上条当麻、御坂美琴、御坂妹(ミサカ10032号)は去っていった。

 あとにはインデックスと、打ち止めと、ミサカと、未だ目を覚まさぬ一方通行が残される。

打ち止め「ねえどうするの? この人、目を覚ましてもきっとうじうじうじうじ引っ張るよ? ってミサカはミサカは懸念事項を述べてみる」

ミサカ「出会って二時間ほどの幼女にこんな風に言われるこの人をミサカはとても哀れに感じます」

打ち止め「でも、事実そうでしょ? きっと」

ミサカ「上位個体の慧眼にまったく言葉を差し挟む余地はありません、とミサカはあっさり追従します」

インデックス「いいんだよ」

 インデックスは、迷い無くそう言い切った。

インデックス「決めたんだ。もしあくせられーたがあくせられーたをずっと許すことが出来ないなら」

 インデックスの顔に、悪戯っぽい笑みが浮かぶ。

インデックス「私だって、許してあげないんだ」

 きっとこの男は自分を許さない。

 報われないのが当然、いや、むしろ報われてはならないのだと自分に言い聞かせ続けるだろう。

 そして、近い将来インデックス達の前から姿を消して、一人孤独に生きていこうとすることは想像に難くない。


 ・・・ ・・・・・・・・・・・・・
 だから、そんなことは絶対に許さない。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・
 そんな勝手は絶対に許してあげない。

>>491 うげ!! ずれまくってる!! 何だよもぉ台無しじゃんよぉぉぉおおおおおお!!!!!




 だったら、彼がいつか自分を許したら、あなたも『許してあげる』の?


 打ち止めが悪戯っぽく問いかける。
 インデックスは、自分の膝の上で安らかに寝息を立てる一方通行をチラリと見て。


 まあ、それはまたその時考えるよ。



 そう言って、笑った。



    ―終―

いやー、何とか無事終わった
途中色々おや?って部分あったと思うけどまあぬるい目で見逃してくれ

しかし上条さん書きづらかった
木原くンはすげえ書きやすかった

なんだろう 俺って本質的に外道なのかしら

○蛇足という名のエピローグ 「どこまでも一方通行な僕ら」

インデックス「お風呂わいたよー」

打ち止め「ねえねえ一緒にお風呂に入ろうよ! ってミサカはミサカは甘えてみたり!!」

一方通行「あァ?」

インデックス「み、認められないんだよ!!」

打ち止め「何で? ってミサカはミサカはきょとんとしてみる。ミサカは背中でも流してこの人をねぎらいたいだけで他意はないんだよー」

インデックス「う、嘘ついてるでしょ! 他意が無いって言うのは他意の存在を自ら認めているようなものなんだよ!!」

打ち止め「どおしてそんなこと言うかなーってミサカはミサカはぶーたれてみたり。インデックスにはあの人に対する感謝の気持ちが無いんじゃないかなあ」

インデックス「な、なら私が一緒に入る! 背中流すことくらい簡単だもん!!」

打ち止め「ふ、あの時あの人の『愛のエリア』に入れてもらえなかった人が何言ってるんだか、ってミサカはミサカは片腹押さえて嘲笑ってみたり!!」

インデックス「ムッキーーーー!!!! ずっと眠ってただけの足手まといには言われたくないんだよ!!!!」

打ち止め「ムッカチーーン!! ってミサカはミサカは今のセリフに大噴火!!」

インデックス「ふっふーん、色々とトラブルが尽きないあくせられーたの隣にいるには守られるだけのお子ちゃまじゃ役不足なんだよ!!」

打ち止め「ミサカは弱くないもん!! ってミサカはマサカのグーパンチ!!!!」

インデックス「そんなもの私の『歩く教会』の前には無駄無駄ウリィなんだよ!!」

打ち止め「きいーーーー!!!!」

打ち止め「こうなったらあの人自身に選んでもらおうよ!! ってミサカはミサカは核心に迫った発言をしてみたり!!」

インデックス「う…! いいよ!! ほえ面かいても知らないから!!」


打ち止め「ねえ、あなた!!」
インデックス「ねえ、あくせられーた!!」


打ち止め・インデックス「「どっちとお風呂入るの!?」」ッテミサカハミサカハー!




一方通行「あン?」ホカホカ~




打ち止め・インデックス「「ホカホカしてるーーーー!!!!!」」ガビーン!

ミサカ「お邪魔します、とミサカは定番の挨拶をかましつつ部屋に上がりこみます」

一方通行「何だァ? 何しにきやがった?」

ミサカ「いわゆるひとつの通い妻です、とミサカは頬を赤らめつつ答えます」

ミサカ「炊事、選択、夜の世話まで何でもござれとミサカは腕をまくります。ご希望ならスカートも捲り上げますが」

一方通行「帰れ!!!!」




 こんな感じで、意外とうまくいくんじゃないかしら。

 蛇足という名のエピローグ   おしまい

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