紅莉栖「ついに完成したわ! この薬が!」 (124)

紅莉栖「ふふふ、ついに出来た……この若返り薬が!」

紅莉栖「脳科学が専攻だとかそんなチャチなもんじゃあ断じて無い。天啓が降ってきたとはまさにこれよ」

紅莉栖「この薬を飲んだ者はおおよそ10〜15歳若返る。どこかの黒い集団もビックリの性能……」

紅莉栖「電話レンジの開発を放り出して徹夜で作る価値はあった……」

紅莉栖「ふふっ……これを、これを使えば……」

紅莉栖「これを岡部に飲ませ、ショタリンにすれば……カリカリモフモフ、ハスハスして徹底的に可愛がれるっ……」

紅莉栖「い、いや、これは、岡部で人体実験をするだけ……そう、それだけよ……後ろ指を指される事は何もない……」

紅莉栖「でゅふふ……やばい、せいよkじ、実験欲が滾って涎が……」

紅莉栖「まぁ岡部がなんだかんだ言ったら、このしれっと作った老け薬で元に戻せばいいし」

紅莉栖「ふふふ、じゃあこの二つを瓶に詰めて……」

紅莉栖「さて、早く寝て明日に備えましょう……あぁ、笑いが止まらないわ……」

紅莉栖「カメラも用意したし、メモリも1TB分買ってきたし」

紅莉栖「ぬふふ、待ってなさい岡部……むふふふ……」



——

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紅莉栖(寝起きサッパリ紅莉栖ちゃん)

紅莉栖(さて、今日の作戦はこうよ)

紅莉栖(まず、岡部にラーメンを食べるように誘う)

紅莉栖(そしてラーメンばっかりじゃ栄養がどうだーと理由を付け、サプリメントと偽ったこの薬を飲ませる……)

紅莉栖(そうするとあら不思議。ものの数分でショタリンの完成よ!)

紅莉栖(作戦はシンプル、かつ成功率は高く)

紅莉栖(あの岡部の事、私が少し理屈っぽく言えば簡単に流されるはず)

紅莉栖(あぁ、早く昼にならないかしら……)


ガチャッ

まゆり「トゥットゥルー☆ あ、クリスちゃんおはよー」

ダル「牧瀬氏が一番乗りとは珍しいお」

紅莉栖「おはようまゆり、それと橋田」

ダル「僕は付録なんですねわかります」

紅莉栖「あら、岡部は一緒じゃないの?」

まゆり「うん。今日は早く来るーって言ってたからまゆしぃも早く来たんだけど……」

ダル「大方寝坊でもしてるんじゃね?」

紅莉栖「そう……」

ダル「まぁすぐ来るっしょ。それじゃあ僕は早速、昨日仕入れたエロゲの続きを……」

紅莉栖「ハイハイ、HENTAIは隅でエロゲでもやってなさい」

ダル「相変わらず牧瀬氏はツンツンっすなぁ。そろそろ進行時間的にデレても良い頃合いなのだが」

紅莉栖「前頭葉いじくり回して頭も心も真っ白な人間にしてあげましょうか?」

ダル「僕は黙ってゲームするお」

まゆり「じゃあクリスちゃん。オカリンが来る前に一緒にジューシーからあげナンバーワン買いに行こうよー」

紅莉栖「えぇいいわ。あ、ちょっと待ってて(バッグから薬出しときましょ)」

まゆり「わかったー」

紅莉栖(さも私がいつも飲んでいるかのように、ラボの適当な場所に置いた方がそれっぽいかしらね……)コトッ

紅莉栖「ごめんねまゆり。じゃあ行きましょ」

まゆり「うん。バイトのお給料が入ったから沢山買えるんだー」


……

岡部「ぬぅ……」ガチャッ

ダル「あれ、オカリン遅かったじゃん。どしたん?」

岡部「機関の陰謀のせい……いや、ドクペの飲み過ぎか……腹を下してしまってな……」

ダル「あぁー……トイレで格闘してたのか。そいつは御愁傷様」

岡部「家の薬も切れてしまってな……ラボに放置しておいたラッパのマーク薬をあてに来たのだが……」

ダル「あぁー、それならあっちの棚じゃね? あんまりその辺いじった事ないけど」

岡部「そうか、すまんな。まゆりは?」

ダル「牧瀬氏とからあげ買いに行ったお。ちょうど入れ違いになっちゃったパターンだお」

岡部「ほう、助手も来てるのか。こんな早くに珍しいな……えっと、あった。この瓶か……」

ダル「ついでにダイエットコーラも頼めば良かったお」

岡部「女の買いものにそんなどうでもいいついでを依頼するとは、なんとも甲斐性の無い頼み方だ……」ゴクンッ

ダル「まぁでも外熱いからあんまり出たくないですしおすし」

岡部「ここも似たようなもんだがな」

ダル「まぁ僕はルートある程度進めたらメイクイーン行って、フェイリスたんに体を涼しくそして心を熱くしてもらうから平気だお。
   でもまぁ熱いんですけどね」

岡部「本格的に空調設備導入を検討した方がいいかもしれんな……」

ダル「そだねー。人間はある程度我慢できても、機械が熱に耐えられなくなるかもしれんし」

岡部「くっ……不本意だが、この鳳凰院の血と肉を社会の愚民どもに提供するとしよう……」

ダル「オカリンどっかバイトの検討ついてるん?」

岡部「えぇい、翻訳するでない! まぁ、前のバイトのあてがある。そこにまた申し込めb……うっ!」ドクンッ

ダル「邪気眼発動するのは良いけど脈絡なさすぎっしょ……下痢で頭悪くなったん?」

岡部「はっ……くはっ……」ガクッ

ダル「……お、オカリン?」

岡部「っ……」バタッ

ダル「ちょ、オカリン!? わ、悪い冗談はやめろって!」

岡部「ダ……ル……」

ダル「ま、マジかお? ……え、えぇと、救急車は334……じゃない、119……」

紅莉栖「ただいま」

まゆり「ただいまー……オカリンっ!?」

ダル「ま、まゆ氏! 牧瀬氏! お、オカリンが急にっ!」

紅莉栖「ど、どうしたの!?」

ダル「わかんないお! オカリンと普通に話してたら突然……」

まゆり「オカリン! オカリンっ!」

紅莉栖「まゆり、あんまり揺らしちゃダメよ!」

まゆり「で、でも……オカリンが……」

ダル「も、もしかして、さっき飲んだ下痢止めの薬のアレルギーとかじゃないよな……」

紅莉栖「下痢止め?」

ダル「下痢だとか言って、その辺に置いてあったラッパのマーク薬を飲んで、それから急に倒れたから……きっとそうだお!」

紅莉栖「! あ、あそこに置いてあった薬を飲んだの!?」

ダル「そ、そうだお!」

紅莉栖(な、なんという……し、しかしこれは想定の範囲内の症状だし、むしろ都合が良い……)

岡部「ま、まゆ……り……」

まゆり「お、オカリン!」

紅莉栖(安定してきたようね。これから身体の変化が始まる……ざっと15分くらいかしら)

ダル「と、とにかく救急車を呼ぶお!」

紅莉栖「待って」

ダル「え? 待ってって……何言ってるんだお!」

紅莉栖「事情は後で話すわ。それにその薬、下痢止めなんかじゃないわ」

ダル「下痢止めじゃない? どういうことだお?」

紅莉栖「岡部の健康自体に害は無いわ。少し身体の特徴が変わるけど……」

まゆり「……じゃあ、オカリンは大丈夫なの?」

紅莉栖「えぇ、大丈夫よ。ただ、少しビックリするかもしれないけど」

ダル「つまり……どういうことだってばお?」

紅莉栖「ふふふ……それが知りたければ、静かに見てなさい……」

【15分後】




紅莉栖「……」

ダル「……」

まゆり「……」

紅莉栖(おかしい……15分経っているのに身体変化が見られない……)

ダル「オカリン寝ちゃったみたいだお」

まゆり「良かった……良かった、オカリン……」ナデナデ

紅莉栖(まゆり! そこ変わって! 私も膝枕したい! 岡部の硬い髪ナデナデしたい!)

紅莉栖(じゃないわ、牧瀬紅莉栖……そんなことよりも身体に変化が見られない理由を考えなさい……あの薬は確かに完璧に……)

まゆり「……あれ?」

ダル「どうかしたかお?」

まゆり「オカリン……おじさんになってる?」

紅莉栖「!?」

ダル「いやまゆ氏まゆ氏、オカリンは元々老けてるお」

まゆり「そうだけどそうじゃなくって……なんか、シワとかが増えたかなーって……」

紅莉栖「ちょ、ちょっとまゆり! よく見せて!」

まゆり「んー? どうしたの?」

紅莉栖(……! た、確かに……若干シワが見えたり肌のハリが下がっている……)

紅莉栖「まさか……」

ダル「まさか?」

紅莉栖(間違えて老け薬の方置いちゃった!?)

岡部「うっ……」

まゆり「あ、オカリン! 良かったー、気が付いた—」

岡部「まゆり……」

ダル「ふぅ、一時はどうなる事かと思ったお」

紅莉栖「……」

岡部「俺は……一体……」

紅莉栖「……皆に」

ダル「?」

紅莉栖「皆に、話がある」



——

岡部「それで、お前はこんな物騒な物を開発した、と……」

紅莉栖「はい……」

ダル「年齢操れる薬とか、二次元の魔法使える女の子しか持ってないものだと思ってたお……」

まゆり「すごーい。本当にオカリンがおじさんになっちゃったねー」

ダル「普通に考えたらノーベル賞だとかなんだとか全部かっぱらっちゃうレベルの発明だお」

紅莉栖「そ、そうよね」

岡部「……まず、俺に何か言う事は無いのか」

紅莉栖「……ごめんなさい」

岡部「理論は完璧でも、動物での実験も行っていないような薬を俺に服用させ、その後俺を弄ぼうだなどと……普通は考えるものじゃないぞ」

紅莉栖「徹夜で作ってたら、リミッター外れちゃって……」

岡部「ものには限度というものがある。俺が無事だったから良いものの、もしこれで死人が出たらどうしていたのだ」

紅莉栖「はい……すみません」

岡部「はぁ……まぁ良い。結局、俺は無事だったんだし、幸い元に戻る方法もあるから特に問題は無い。
   それよりも、俺はこの発明を凄いと思うぞ、紅莉栖」

紅莉栖「え、今名前で……」

岡部「だがな、解毒剤は検査を行ってからにしてくれ。こんな体に劇的な変化をもたらす薬を、確証無しに飲みたくないからな」

紅莉栖「あ、は、はい……」

ダル「うーん、老け薬に若返り薬かぁ……良い事思いついt 紅莉栖「もしもし警察ですか」 嘘ですすいません」

まゆり「オカリン、顔はあんまり変わらないけど、なんだか渋くなったねー。本当におじさんになっちゃったんだー」

岡部「……オジリンとか言わないでくれよまゆり」

まゆり「あれー? オカリンなんで言おうとしたことわかったの?」

岡部「……なんとなく嫌な予感がしてな」

ダル「そういや厨二病も発動せんね。驚いて思考停止してるん?」

岡部「いや、もうこの体に順応したが……なんだろうな、今はそんな気分じゃないだけだ」

紅莉栖「体の年齢に合わせて、精神も歳をとったみたいね」

岡部「そう、なのかもな……声も、若干だが低くなっている気がする」

紅莉栖(元々渋みが強かった岡部に、更にそこのパラメータ増やすとか……これはこれで、良い!)

まゆり「オカリン、もう体は大丈夫?」

岡部「……どうだろうな。歳をとったのだから、少し体にガタが来ているかもしれんが……あぁ、それとまゆり」

まゆり「? なぁに?」

岡部「さっきはすまんな、俺を気遣ってくれて。重かっただろう?」ナデナデ

まゆり「え、あう……」

紅莉栖「なっ!?」

ダル「さすがオカリン! 俺達DTにできないお礼のナデナデを平気でやってのける!」

岡部「何を騒いでいるのだお前らは……いつもこれくらいしてるぞ」ナデナデ

ダル「おうふ。なんという冷静な反応……これが大人の余裕かお」

紅莉栖(な、なんと慈愛に充ち溢れた表情でまゆりを撫でるのか……いつもの五割増し……三十路を越えてのあの色気! 普通の小娘ならケロリと落とせるだろう!)

まゆり「えっへへー……少し恥ずかしいのです」

紅莉栖(チクショウ! 冷静に変化を観察するんじゃなく、私も心配するフリくらいすれば良かった!)

まゆり「……あ、そうだ! オカリンオカリン♪ ちょっと着てみて欲しい服があるのです」

岡部「なんだ? この歳でコスプレというのは……」

まゆり「良いから良いから〜♪」

ホラ、アンマリヒッパラナクテモチャントソッチニイクカラ
ハヤクハヤクー


ダル「三十路超えてコスプレするおっさん……いや、中身はまだ20前の大学生だが……」

紅莉栖「一応、体も精神も30前半らしいけど……」

ダル「しかし、元々老け顔だったから案外、外出てもばれないかもってのが救いだお」

紅莉栖「そうね。厨二病も治ったみたいだし……(そして何より無駄にカッコよくなって……)」

ダル「厨二病ぬけて社交性高くなったオカリンとか。こうなるとただのイケメンと認めざるを得ないお……いやむしろそのパラメータも歳とって倍増した感じ」

紅莉栖「そうね……」

ダル「……」

紅莉栖「……っ!」

ダル「お前の次のセリフは『べ、別に元々イケメンだとか思った事無いし! ただ雰囲気変わってビックリしただけであって……』だ」

紅莉栖「べ、別に元々イケメンだとか思った事無いし! ただ雰囲気変わってビックリしただけであって……はっ!」

ダル「ツンデレのテンプレ乙」

紅莉栖「だ、誰がツンデレだっ!」

まゆり「みんなーできたよー♪」

紅莉栖「ん? ……おぉーっ!?」

ダル「……ど、どなた?」

まゆり「ちょうどサイズが同じくらいだし、狡噛さんの衣装をせっかくだから着てもらいましたー」

ダル「え、まゆ氏スーツ作ったの?」

まゆり「まゆしぃに作れない服は無いのです」フンスッ

岡部「スーツというのは慣れないが……まぁ、たまにはこういうのも良いのかもな」

ダル(あれ、なんだかあのスーツ僕も着たくなってきたお。なんでだお?)

紅莉栖「……」

岡部「どうだ……違和感は、ないだろうか」

紅莉栖「良い……」

岡部「うん?」

紅莉栖「すっごく良いじゃない! まゆり! あなたは天才よ!」

まゆり「でしょー? クリスちゃんもそう思うよね〜」

紅莉栖「白衣だなんて実験室とか以外じゃ厨二臭い服でしかないんだから、ずっとこのままでいいじゃない。こっちの方が百倍良いわよ」

岡部「そ、そうか……何か俺のアイデンティティの一つが貶された気がするが……似合うか」

ダル「それでカッコよくタバコでも吸ってみたら良いと思うお」

岡部「タバコか、俺は未成年……じゃ、ないのか今は。どうなのだろうかその辺は」

紅莉栖「ねぇねぇまゆり。色付きのYシャツ無い? 灰色とか薄い青とか」

まゆり「あるよー。そっちも試してみる?」

紅莉栖「やるわ!」

岡部「おいおい二人とも……俺は着せ替え人形じゃないぞ……」

ダル「リア充乙……いや、女の子二人に囲まれてキャッキャされても、なんかよくわかんないけど不思議と嫌悪感がないお……歳離れてるから?」

紅莉栖「精神年齢上がって、丸くなったからじゃない? いつもみたく、おのれっ! だとか声上げて反論しないし」

ダル「納得」

岡部「……上着は脱いでも良いか? 熱くてかなわん……」

まゆり「あっ、だめだよー勝手に脱いじゃー」

岡部「Yシャツ変えるのはよくて脱ぐのは駄目なのか、まゆりよ……」


ガチャッ

鈴羽「おっはよーう、朝からなんか騒がしいねー」

まゆり「あー、すずさんトゥットゥルー☆」

鈴羽「トゥットゥルー。あれ、そのスーツ着た人誰?」

ダル「スーツ着ただけで誰かわからなくなるとか、もうオカリンの白衣はオカリン判別用みたいなもんだお」

岡部「好き好んで着ていた服だが……そう言われると何故か悲しいな」

鈴羽「……え?」

岡部「この顔を忘れたのか、鈴羽よ」

鈴羽「……えっ、嘘……オカリンおじさん!?」

岡部「……?」

ダル「オカリンおじさん? 確かにオカリン老けちゃったけど、そのあだ名は結構酷いお」

鈴羽「えっ、だって……この時代の岡部倫太郎にしては老けてるし……でも、あれ?」

紅莉栖「大丈夫? 阿万音さん」

岡部
「そんなに老けてしまっただろうか……」

鈴羽「嘘……だって……」

紅莉栖「あぁー……えっとね阿万音さん……」


……

鈴羽「なぁーんだ。そういう事だったのか」

岡部「今の説明でも普通は事情を呑み込めないと思うがな……あと、オカリンおじさんはやめてくれ。綯にも言っているが」

紅莉栖「でも、岡部を含めて証人がここに四人いるし、これが事実よ」

鈴羽「へー、老け薬かー……成程ねー」マジマジ

岡部「……」

鈴羽「……」ジーッ

岡部「……なんだ」

鈴羽「ほうほうなるほどー……」

岡部「……あんまりそう見るな」

鈴羽「……えへへ」



ギュッ


岡部「!?」

紅莉栖「ファッ!?」

ダル「あぁ!?」

まゆり「わぁー!」

鈴羽「うーん……やっぱり臭いも抱きしめた感触も一緒だー」スリスリ

岡部「お、おい鈴羽……急に抱きつくんじゃない……し、しかも皆がいる前で……」

ダル「あ……ありのまま、今起こった事を話すぜ! 友人が老けたと思ったら急にモテ始めた……な、何を言ってるのかわからねーと思うが、
   俺も何が起こっているのかわからなかった……頭がどうにかなりそうだった……」

紅莉栖「なんぞこれ、なんぞこれ!」

鈴羽「ふぅ……落ち着く……」モフッ

岡部「こら、勝手に落ち着くな。胸に顔をうずめるな」

まゆり「良いなーすずさん。まゆしぃもしてみたいのです……」

岡部「ほら鈴羽……皆も見てるんだ、やめなさい」

鈴羽「うぅー……後五分……ほら、オカリンおじさんも抱きしめてよー」

岡部「わ、わかったわかった……だが、胸が当たっているのはどうにかならんのか」

鈴羽「むふふー当ててるんだよー」

岡部「はぁ……」

ダル「当ててんのよすらヤレヤレで返すとは……オカリンおじさん恐ろしい子……っ!」

まゆり「すずさん、まゆしぃもー」

岡部「まゆりもそんな事言ってないで止めてくれ……」

紅莉栖「わ、私もっ!」

岡部「お前は帰って寝ろ」

紅莉栖「うっ……何という扱いの差……」

ダル「いや……そりゃしょうがないと思うお」

ダル(うーん……なんだろう。あれを見てるとモヤモヤする……やっぱりリア充は敵かお?)

鈴羽「ふぅー……いやー、十分オカリンおじさん分を補充したよー。ありがとね」

岡部「よくわからんが……お役には立てたようだな……」

鈴羽「えっへへ。そりゃあもう」

まゆり「オカリーン。まゆしぃもー」ギュッ

岡部「あぁ、こら。まゆりもじゃれるんじゃない……」

紅莉栖「くっ……まゆりまで……」ギリギリ

ダル「あんまり歯ぎしりすると歯茎から血が出るお」

まゆり「あはは、ホントだ良いにおーい」スリスリ

鈴羽「でしょー。うーん、もっかいあたしもー」ギュムッ

岡部「だぁもう。二人同時はやめんか……こら露骨に臭いを嗅ぐんじゃない……やめなさい」

ダル「両手に華とはまさにこれ……くぅ〜、牧瀬氏! 僕もあの薬が欲しいお!」

紅莉栖「橋田はまず痩せろ」

ダル「ですよねー……」

ダル(しっかし、美少女二人に抱きつかれているのに動じない……薬で歳とった時間の間にDT卒業でもしたのかお?)

岡部「そこの二人も見てないで止めてくれないか……か、体の自由が……」

まゆり「えっへへー……」スリスリ

鈴羽「むっふふー……」スリスリ



——

鈴羽「いやー良いねーこれ。牧瀬紅莉栖は天才だよ」ツヤツヤ

まゆり「そうだねー」ツヤツヤ

岡部「なんだろうなこの疲労感は……これが歳というヤツなのか……」クシャッ

ダル「歳は取るもんじゃないお」

紅莉栖(ぐっ……私も岡部をカリカリモフモフしたい……芳醇な岡部の男性スメルを嗅ぎたい……)ハァハァ

岡部「……な、なんか妙な悪寒が……」

鈴羽「ん……あちゃーもうバイトの時間か。もう一回したかったんだけどなー……」

岡部「も、もう勘弁してくれ……」

まゆり「まゆしぃももう一回して良い?」

岡部「駄目だぞ」

まゆり「……残念なのです」

岡部「……せめて皆がいる前ではやめてくれ」

鈴羽「ふーん……じゃあ、二人きりとかの時は良い訳だ」

岡部「いや……はぁ……まぁ、それなら良いだろう」

鈴羽「本当に!?」

岡部「あぁ……お前も、慣れない土地で誰かに甘えたかったのだろう。こんな歳をとった状態の俺で良いなら、いくらでも甘えると良い。時と場所をわきまえて、だがな」

鈴羽「お、オカリンおじさん……」

岡部「その呼び方も、まぁ許してやる。お前が落ちつける呼び方で呼ぶといい」

鈴羽「……うぅ」

岡部「どうした」

鈴羽「最後に、もっかいだけ、いい?」

岡部「……まぁいいだろう」

鈴羽「……ありがと」ギュウ

紅莉栖「ぐんぬぬ……」

ダル「牧瀬氏、今はさすがに空気読むべき」

鈴羽「はぁ……やっぱりいいなぁ、この臭い……落ち着く」

岡部「そういうものか……か、加齢臭って事か?」

鈴羽「はは、違うよ……とってもあったかくて、優しい臭い……」

岡部「そ、そうか……」

鈴羽「ねぇオカリンおじさん、頭撫でて……」

岡部「わかった……」ナデナデ

鈴羽「ん……」

岡部「ふっ……結構髪質は硬いが、艶もあって良い感触だな」

鈴羽「そ、そうかな……」

岡部「あぁ……撫でていると、俺も落ちつくよ鈴羽……」

ダル(オカリンあんな顔すんのか、なんだか男の僕でも引きこまれそうだお……)

紅莉栖(くぅー! あの顔が、あの表情が何故私に向いていない! まゆりに対してしかしなかったような表情なのに!)

まゆり(良いなー……)

鈴羽「ねぇ、オカリンおじさん……」

岡部「なんだ?」ナデナデ

鈴羽「……歳の差なんて、関係ないよね……」ボソッ

岡部「どうした? まだ何かリクエストがあるのか」

鈴羽「ううん、何でもない……ふぅ、ありがとうねオカリンおじさん」

岡部「気は済んだか?」

鈴羽「うん。これでしばらく頑張れるよ、ホントにありがとう」

岡部「よし、ならバイトに行って来い。あそこの店長は時間にうるさいからな」

鈴羽「えへへ、そうだね。じゃあいってきまーす! またね皆!」

まゆり「いってらっしゃーい」

ダル「いってらっしゃいだお」

紅莉栖「……」

岡部「あぁ、頑張って来い」

鈴羽「うーん!」


ガチャッ バタンッ

ダル「何と言うか、嵐のようだったお」

紅莉栖「そうね……全く、公然とイチャつきおって……」

岡部「お前は何を言っているんだ」

まゆり「……ねぇねぇオカリン、まゆしぃは?」

岡部「何がだ?」

まゆり「まゆしぃもオカリンをギューってしたいのです」


岡部「まゆりは……基本いつも一緒にいるから良いではないか」

まゆり「えぇ〜、でも……まゆしぃもすずさんみたいにオカリンおじさんーみたいにしてみたいのです」

岡部「はぁ……わかったわかった。まゆりも時と場所をわきまえるなら、な?」

まゆり「はーい♪」

紅莉栖「私、も……」

岡部「ダル、塩を持ってこい」

ダル「わかったお」

紅莉栖「冗談ですごめんなさい」

岡部「はぁ……しかし、オカリンおじさんか……なんともこう、複雑な気分だ」

ダル「そういや阿万音氏のバイトで思い出したけど、店長も今のオカリンと同じくらいの歳だっけ」

岡部「あぁー……確かそのはずだ。詳しい年齢は知らんが」

ダル「うへー、オカリンも子持ちになってもおかしくない歳かお……あ、あと、もし店長来たらどうするん?
   オカリンであってオカリンじゃない見た目の人間いたらビックリすると思うお」

岡部「ふむ……」

紅莉栖「一応、ラボメンとか岡部の親御さん以外の人には、岡部のお兄さんって事で通せば良いんじゃない?」

岡部「まぁ、それが一番妥当か」

まゆり「オカリンお兄ちゃんかー、それもいいねー」

ダル「あぁー、まゆ氏。お兄ちゃんのとこだけリピートお願いできます? もっと甘える感じで」

岡部「綯も同じ扱いで良いのだろうか」

紅莉栖「うーんどうだろ。子供は案外鋭いから……」

ダル「……ツッコミが無いのはさびしいお」

まゆり「綯ちゃんにはいつも通りで良いと思うなー。綯ちゃんも仲良しなのです」

岡部「むぅ……これは適宜対応するとしよう」

紅莉栖「そうね」

まゆり「じゃあオカリンオカリン、このグレーのYシャツ着てみてー」

岡部「まだやる気だったのか……」

紅莉栖「Yシャツだけにするなら腕捲りするがベストよ」グッ

岡部「はぁ……」



——

岡部「結局グレーで落ちついたのか……まぁ、上を着るくらいならこれで良いが……」

紅莉栖「うん、良いわこれ。写真撮ろ」カシャッ

岡部「人には肖像権というものがだな……はぁ、まぁいい。暖簾に腕押し、HENTAIに説教だ」

まゆり「オカリーン、こっち向いてー」パシャッ

ダル「牧瀬氏牧瀬氏、さすがにローアングラーは引くお」

紅莉栖「いや、これは、膝が疲れただけよ。だからこの姿勢なのよ」ハァハァ

ダル「そんな正座スライディングみたいなポーズじゃ説得力ないお……」

岡部「ね、ネクタイくらいは取っても良いのだろう?」


紅莉栖「ダメよ」

岡部「HENTAIに即否定されるとは……」

ダル「牧瀬氏の目が研ぎ澄まされた野獣のようだお……」


紅莉栖「何とでも呼びなさい」

ダル「ついに牧瀬氏が人をやめてHENTAIになったお。むしろ人の身にして痴女、現人痴女にエクステンドしたお……」

紅莉栖「岡部の為なら人でも何でもやめてやりますとも……」ハァハァ

岡部「……俺はお前がよくわからなくなったよ」

まゆり「オカリーン、新世界の神様みたいなポーズとってー」パシャッ

岡部「はぁ……いつまでこうしていれば良いのだ。俺は下痢止めの薬を買いに行きたいのだが……」

ダル「そういや事態の混乱さで忘れてたけど、オカリン下痢だったお。むしろそれがこの事態のトリガーの一つな訳だが」

岡部「今は一応治まってはいるが……買いに行くついでに、他のラボメンの所に行って、直接事の次第を話しに行きたいしな」

ダル「なるほど」

紅莉栖「岡部さん目線くださーい」ハァハァ

岡部「なぁダル。もうコイツは保健所に連れていこう? な?」

ダル「もうスルーした方が良いと思われ」

岡部「はぁ……まぁ良い。まゆり、この服のまま外に行くが構わんか?」

まゆり「うん、全然大丈夫だよー。オカリンもしかしたら道で逆ナンされちゃうかもねー」

岡部「……まゆり、どこでそんな言葉を覚えたのだ?」

紅莉栖「逆ナンなんて私がさせないわ」

岡部「お前ついてくる来る気か」

紅莉栖「当たり前じゃない。一応あの薬の副作用は把握してるつもりだけど、何が起こるかわからない訳だし。
    何かあったら怖いから、私もついていくわ」

ダル「でも本当は?」

紅莉栖「岡部おじ様の隣を独占したいだけですしおすし」

岡部「……」

ダル「……」

まゆり「……」

紅莉栖「ま、まゆりまで黙らないで!」

岡部「まぁ……紅莉栖の言い分にも一理ある。不審がられるような節度の無い行動を慎むならついてきても良いが」

紅莉栖「了解よ」


岡部「あとおじ様はやめろよ」

紅莉栖「却下よ」

岡部「お前……」

ダル「オカリンが外出るなら、僕もメイクイーンに行くけど。フェイリスたんには僕から言っとく?」

岡部「いやいい。だが、俺が行くまで店に居てくれると助かる。
   今の体力と精神でフェイリスのテンションについていけるとは思えんからな……」

ダル「オーキードーキー」

岡部「まゆりはどうするのだ」

まゆり「まゆしぃはねー、オカリンおじさんの衣装を色々見て来ようと思うのです」

岡部「そ、そうか……車に注意して、熱中症に気をつけろよ」

まゆり「はーい」

ダル「オカリンお父さんみたいなんだお」

岡部「……親、か。まぁそれも良いのかもな」

紅莉栖「子供は何人が良い? 私は女と男それぞれ一人づつが良いと思うわ」

岡部「お前は精神科と脳外科のお世話になると良いと思うぞ」

ダル「そして最終的に産婦人科のお世話になるんですねわかります」

紅莉栖「ちょ、ちょっと橋田! やめてよ、もう……恥ずかしいじゃない」

ダル「おかしいな。乙女な顔されても僕の紳士センサーがピクリとも動かないのはなんでだお?」

岡部「はぁ……ほら、ついてくるなら出る準備をしろ。行くぞ」

紅莉栖「あ、ちょっと待って!」



——

岡部「ふむ……」

紅莉栖「萌郁さんから返事来た?」

岡部「いや……バイト中か何かなのだろう。暇ならすぐにでも返事が来る」

紅莉栖「そうね」

岡部「さて、とりあえずルカ子の神社に来たわけだが……いるかどうか」

紅莉栖「まだお昼前だし、神社のお手伝いしてるんじゃない?」

岡部「そうかもな」

紅莉栖「あ、ほら。あそこで掃除してる」

岡部「……すまんが、お前から話しかけてくれ。一応、な」

紅莉栖「はいはい。ハロー漆原さん」

ぬるぽ

>>46
ガッ

るか「あ、牧瀬さん、と……えっと、岡部さん? いえ、岡部さんのお兄さんですか? は、初めましてっ!」

岡部「……初めまして、か」

るか「えっと、いつも岡部さん……えっと倫太郎、さんにはお世話になってて、その……」

紅莉栖「ふふっ……」

るか「えーと……」

岡部「……何をそんなに慌てているのだ、ルカ子よ」

るか「……へ?」

紅莉栖「ふふっ、さすがに最初から老けてたとはいえ、すぐに本人じゃないと思われるのは結構来るみたいね」


岡部「……全く、誰のせいだと思っているのだ」

るか「え、えっと、どういう事ですか? 岡部さんのお兄さんじゃないんですか?」

岡部「……紅莉栖、説明を」

紅莉栖「漆原さん、実はね——」



……

るか「ほ、本当、なんですか?」

岡部「あぁ……岡部倫太郎、推定年齢33歳。いて座のA型だ」

紅莉栖「美、美形だ!!」

岡部「……少なくとも美形ではないだろうな。そしてそのネタはねらーでもわかるやつは少ないと思うぞ紅莉栖よ」

紅莉栖「せっかく乗ってあげたのに」

るか「えっと……つまり、薬のせいで岡部さんが歳をとられて、こうなられたって事ですか?」

紅莉栖「信じがたい事だと思うけど、実際に岡部が老化したの。まゆりも橋田も証人」

るか「はぁ……す、凄いですね……」

紅莉栖「牧瀬紅莉栖の科学力は世界一ィイイイッ!! よ」

岡部「否定できんのがなんとも……」

るか「ですけど……」ジーッ

岡部「……? どうしたのだ、顔ばかり見て。俺のシワがまた増えたとかじゃないよな」

るか「いえ、ち、違いますけど……はぅ……///」

岡部「?」

紅莉栖(あぁ……歳食ってもこういうのは相変わらず鈍いのね……いや、むしろこの歳だと興味無いのかしら)

岡部「あぁー……それともこの服が似合わないのか……」

るか「い、いえ! 凄く似合ってます! 色っぽくて、カッコよくて、それで……」

岡部「そ、そうか……」

るか「……あっ、ごめんなさい! い、今言った事はその……っ!」

紅莉栖「ふふふっ、どうやら漆原さんも岡部おじ様の毒気にやられたようね」

岡部「それはやめろと言ったはずだぞ……」

るか「岡部……おじ様……///」

紅莉栖「そう、そうよ! 漆原さんその調子! もっとトルクあげて!」

岡部「こら煽るな……はぁ、フェイリスよりもコイツの方が疲れる……」

紅莉栖「さぁ漆原さん、岡部おじ様! さぁセイッ!」

るか「え、えっと、岡部おじ様……」

岡部「こら言わせるなHENTAI」

るか「で、でも……本当に、岡部さんはお歳をとられても素敵だと思います」

岡部「……そうか、ありがとうな」

るか「い、いえ……/// ぼ、僕も……歳をとったら、それくらいの素敵な大人になってみたいです……」

紅莉栖「ホント、あの脳筋間近の学生がよくもここまで壮年な雰囲気出せるようになったわよね」

岡部「お前さっきからなんなんだ」

るか「……僕は、こんな風にどっちつかずな見た目で……岡部さんみたいな歳のとり方も出来ないでしょうし……。
   それに、ちゃんとした女性にもなれないですし……そこまで自分の性別を魅力に出来る岡部さんが、羨ましいです……」

岡部「……るか……」

紅莉栖(素で名前呼びか)

るか「岡部さんが言ったように素振りでそんな考えを心頭滅却しよう、だなんて考えてました……。
   いつも自信に満ち溢れた岡部さんみたいになりたくて……。

岡部「……」

るか「でも、その素振りすらも中途半端で……あんまり回数がこなせていないですし……。
   ははっ、ダメダメですね、僕」

岡部「……なぁ、るか」

るか「……はい?」

岡部「お前は、どうなりたいのだ?」

るか「え?」

岡部「俺の言った通り、素振りを続けていると言ったな。自信に溢れた自分になりたいと」

るか「それは……えっと……はい」

岡部「そうか。人として強くなりたい、と言う訳か」

るか「は、はい」

岡部「……そういう明確な目標を持って、お前は素振りをしているのだろう? ちゃんと継続して」

るか「え、えっと……はい、そう、です」

岡部「そうか……」

るか「……」

岡部「……」

るか「え、えっと……」

岡部「俺は、その方が凄いと思うぞ」

るか「え?」

岡部「誰かに追いつきたい、そういう理由でも別に良い。目標に向け努力を継続する、それは純粋に心が強くなくてはできない芸当だ」

るか「そ、そんな! 心が強いだなんて……岡部さんに比べたら全然……」

岡部「……こう言っては、お前の希望を壊すのかも知れんが……俺のあれは虚勢に過ぎん」

るか「そ、そんな事……」

岡部「……むしろ、お前と同じなのだと思う」

るか「僕と、同じ?」

岡部「あぁ、お前が鳳凰院凶魔に憧れたように、俺もあの姿に憧れていた。世界を震撼させる狂気のマッドサイエンティスト、独善的なあの姿にな」

るか「岡部、さんも……」

岡部「俺のあれは付け焼刃のようなものだ。弱く、脆い、その場限りのテクスチャのような。
   実際、本物のフェイリスには太刀打ちできん。あっさりと呑み込まれてしまう」

るか「……」

岡部「だが、お前は継続によって自信をつけようとしている。継続によって培われた自信と、虚勢とでは雲泥の差なのだ。
   そういう自分を変えたいという思いが積み重なり、自信というものを育むのだと、俺は思う」

るか「積み重ね……」

岡部「あぁ。お前は今、昔とは比べ物にならないくらい強いはずだ。それにほら、俺に自分の意見をキチンと具体的に言えてるではないか。
   それが前よりも強くなっている証拠だ」

るか「あ……」

岡部「気弱で純粋なお前も好きだが、今のように着実に自信をつけているるかも、とても魅力的だと思うぞ、俺は」

るか「み、みりょく、てきっ……」

岡部「あぁ。漆原るかその人が、俺はとても素敵に思う。性別、骨格、頭脳、そんなのは関係無くな」

るみぽっ

>>55
ニャッ

るか「う、うぅ……」ジワッ

岡部「? ど、どうしたのだ」

るか「うぅ……うわぁあああっ……」ポロポロ

岡部「な、何故泣いているのだっ? 」

るか「だっ、だって……おかべざんが……ぼ、ぼくを、す、すてきだっていってくれて……」

岡部「あ、あぁそうだ……だぁほら泣くな」ヨシヨシ

紅莉栖(ナチュラルに男の娘抱きしめおったこのおっさん……)

るか「ぼ、ぼく……うれしくて……うれしくてぇっ……」

紅莉栖「なーかしたなーかしたー。まーゆりーにいってやろー」

岡部「網をやるからお前はその辺の生き物でも捕まえてろよ頼むから」

るか「ごめん、なさい……でも、ぼく……」

岡部「はぁ……わかった、好きなだけ泣くと良い」

るか「はい……おかべさんっ……」グスッ



……

岡部「落ちついたか?」

るか「ぐすっ……はい……」

岡部「もう、離しても大丈夫か?」

るか「……あっ/// す、すみませんっ! 僕!」バッ

岡部「おっと……」

るか「あの、すみませんでした……お見苦しいところをお見せして……」

岡部「いや、大丈夫だ」

紅莉栖「はい、ティッシュ」

るか「あ、ありがとうございます……」

岡部「どうだ、落ちついたか?」

るか「はい……でも……」

岡部「泣きたい時に泣ける。それも才能の一つだ、気にするな」

るか「は、はいっ」

岡部「うむ、いい返事だ」

るか「……」

岡部「……」

るか「……あの」

岡部「なんだ?」

るか「ぼ、ぼくは、岡部さんの自信は虚勢なんかじゃないと思います……」

岡部「……ほう?」

るか「僕がこういう風になれたのも、岡部さんがいたからで……つ、強い岡部さんに影響されて、こうなれたんです。
   だから……その……」

岡部「だから?」

紅莉栖(こ、この流れは……)

るか「だから……ぼ、ぼくの……」

岡部「……」

るか「ずっと、僕の、僕の師匠で居て下さいっ!」

紅莉栖(こ、告白キターーッ! わ、私が空気になっているのを良い事にかましやがったこの男の娘!)

岡部「るか……」

るか「お、岡部さん……」

紅莉栖(くっ……不安げに震えて、あの紅潮した表情……あの破壊力はヤバイ!)

るか「ぼ、僕……」

紅莉栖(お、岡部! 絶対にノゥ! 絶対に、ノゥ!)

岡部「……」

るか「……」

紅莉栖「……」

岡部「ふふっ……」

るか「……?」

岡部「弟子というのは、師匠に似るのかもな……いや逆か。どっちも自分に自信を持てない同士だったと言う訳だ」

るか「え……えっと……」

岡部「……お前がそう言うのなら、俺はお前の師匠……鳳凰院凶真であり続けよう」

紅莉栖「なっ!?」

るか「ほっ、本当ですか!?」


岡部「あぁ。お前が望むのなら、な。お前と共に、俺もなりたい自分を追い求めよう」

るか「ゆ、夢じゃ……ないですよね……」

岡部「いや、夢ではないと思うが……」

るか「げ、現実ですよね!」

岡部「あ、あぁそうだが……」

るか「ほ、本当に……本当に、良いんですよね……」グスッ

岡部「お、おい……」

紅莉栖「あ、あぁーっ! そういえば他のラボメンのとこいかないと時間無くなっちゃうわよー!
    ほらーっ! 早く行かないと日が暮れちゃうわよー!」ズリズリ

岡部「なっ!? こらっ引っ張るな……す、すまん! 修行やらはまた今度付き合ってやるからなーっ!」

るか「あっ、岡部さーん! ……行っちゃった……」

るか「……えへへ」



——

岡部「はぁ……これが若さの力か……。紅莉栖ごときにここまで引っ張られるとは……」ゼェゼェ

紅莉栖「岡部っ! さっきの言葉どういう意味かわかっててあんなセリフ言ったの!?」

岡部「はぁ? なんの事だ」

紅莉栖「ずっと師匠で居て下さいってヤツよ!」

岡部「ずっと鳳凰院凶真を捨てるなという意味だろう? この歳でやれとは中々酷な事を言うが……」

紅莉栖「……本当にそれだけだと思ってんの?」

岡部「それ以外に何があるのだ。あいつの為になるなら、辛くとも俺はやるぞ……今までも、そうしてきた」

紅莉栖「……はぁ〜……」

岡部「……何を呆れたように溜息をついているのだ」

紅莉栖「いや、歳とっても岡部は岡部なんだなって実感しただけよ」

岡部「……そう、か。何か心なしか小馬鹿にされてる感がぬぐえないが」

紅莉栖「……これから漆原さんには注意した方がいいわよ」

岡部「何故だ、いつも通りで良いだろう」

紅莉栖「痔になりたいんだったら別に良いけど」

岡部「痔だぁ?」

紅莉栖「何でもない。それで、次は誰のとこに行くのよ」

岡部「あ、あぁ……萌郁にメールをしたが返事が無くてな。とりあえずフェイリスの所へ行く」

紅莉栖「そっ(あの薬はなんかニューロン壊死させるような効果あったかしら? 鈍すぎじゃない?)」

岡部「なんか不届きな事考えてなかったか今」

紅莉栖「んあー」

岡部「コイツ……」

紅莉栖「まぁいいわ。ご飯食べたり涼みに行くにもちょうど良いし、メイクイーン行きましょう」

岡部「あぁ。ダルが先に行ってるはずだ。俺達の分の席を確保してくれているかわからんが……」

紅莉栖「……鬼が出るか蛇が出るか」



——

岡部「はぁ……なんだか気が重いな……」

紅莉栖「ほら、何今更怖気づいてるのよ。早く行くわよ」

岡部「あ、あぁ……わかったからあまり引っ張るな……」

紅莉栖(さっさと済ませて岡部を一人占めする時間を作らねば……)


カランカランッ


フェイリス「おかえりニャさいませ御主人様!」

紅莉栖「ハロー」

岡部「……」

フェイリス「ニャニャ? 紅莉栖にゃんと……凶、真? 今日は白衣じゃないのかニャ?」

岡部「あぁ、まぁ……な」

岡部「フェイリス、まずは席に案内してくれ。ダルがいるはずだが」

フェイリス「え、あっ、かしこまりましたニャン(変だニャ……凶真の考えてる事が読めないだニャんて)」

紅莉栖「ふふっ、やっぱり一言目には白衣ね」

岡部「まぁ、だろうな」

ダル「おう、オカリンと牧瀬氏。報告の方はどう?」

紅莉栖「とりあえず漆原さんの所に行ってきたわ」

岡部「あぁ、ここの次は……萌郁の所か」

ダル「ほーん。そんで、ルカ氏はどうだったん?」

紅莉栖「……岡部が一発かましてきたわ」

ダル「お弟子さんと真昼間から夜向けの修行をしてきたんですねわかります」

岡部「お前ら……」

フェイリス「ニャフフー、凶真ー。面白そうなお話してるのニャー」

岡部「ん……あぁフェイリス、実はお前に話があってだな。割と大事な話なんだが」

フェイリス「……きょ、凶真……み、皆のいる前でそんな事……恥ずかしいニャ」

ダル「オカリン! セクハラはやめるんだお!」

岡部「……お前に同席を頼んだのは間違いだったかもしれん」

紅莉栖「私にはセクハラしないの?」

岡部「……」

フェイリス「ニャフフ、どうしてもフェイリスとお話したいならこっちについてくるのニャ」ガシッ

岡部「な、お、おい……何処へ連れていく気だ」

紅莉栖「あっ」

ダル「フェ、フェイリスたん?」

岡部「おっ、あ、あまり引っ張るな……」

フェイリス「ご主人様一名裏へご案内ニャー」

紅莉栖「お、おじ様ーっ!」

ダル「オカリーン!」



……

岡部「……って、なんだただの従業員用裏口ではないか」

フェイリス「今の時間なら誰も来ないニャ。大事なお話をするなら、ここが一番良いんだニャ」

岡部「そうか……どこに連れていかれるのかと……」

フェイリス「……」ジーッ

岡部「あぁ、なんだその……あんまり見つめられると話しにくいのだが」


フェイリス「……今日の凶真は、なんだか雰囲気が違うニャ」


岡部「あ、あぁ……まぁ、だろうな」

フェイリス「おめかしもして、いつもならフェイリスにノッてくれるのに、今日はノるどころか諌めてくるニャ」

岡部「まぁ……な……」

フェイリス「それに……」

岡部「それに?」

フェイリス「今日の凶真は、なんだか少し遠くにいるような気がするニャ」

岡部「……遠く、か」

フェイリス「そう。凶真じゃなく、岡部さんって感じだニャ……」

岡部「……そうか」

フェイリス「……」

岡部「……」

フェイリス「……凶真にだけ、教えてあげるにゃ。フェイリスの秘密を……」

岡部「……秘密? いきなりどうした」

フェイリス「まぁ聞くニャ。フェイリスはね、相手の目を見るだけで何を考えてるか大体わかるチェシャ猫の微笑って能力を持ってるのニャ」

岡部「チェシャー、ブレイク?」

フェイリス「そうだニャ。だからいつも凶真があたふたしながらフェイリスに合わせてくれてるのもわかってたニャ」

岡部「……なんとも、お恥ずかしい限りだ」

フェイリス「一生懸命ついてきてくれる凶真も、おもしろくて好きだったニャ」

岡部「そうか……それは、嬉しいが」

フェイリス「……けど、今日の凶真からは感情をハッキリと読めないんだニャ……不快感、とかは無いけど、不思議で……」

岡部「……」

フェイリス「だから、ちょっと二人きりで話せる所で聞きたかったんだニャ……さっき言ったみたいに、ちょっと不思議に思ったから」

岡部「……そうか」

フェイリス「……何か、理由があるのかニャ?」

岡部「……歳を、とったからな」

フェイリス「歳?」

岡部「あぁ。これは紅莉栖に説明を頼もうと思ったんだが……まぁしょうがない、自分で説明しよう」

フェイリス「?」



……

フェイリス「そ、そんな事があったんだニャ……」

岡部「あぁ。信じがたいだろうが、それが事実だ」

フェイリス「うーん、凶真は元々老けてるからわかりにくいのニャ」

岡部「まぁ、自覚はしている……綯にもおじさんと言われていたし」

フェイリス「……」ジーッ

岡部「どうだ? 読めるか?」

フェイリス「うーん、微妙ニャ。普通に喜怒哀楽の表情がわかるって感じだニャ。これじゃ普通だニャ」

岡部「じゃあ、今の俺の機嫌は?」

フェイリス「フェイリスといるからウキウキだニャ」

岡部「ふっ、そうか……そうかもな」

フェイリス「……にゃう〜、フェイリスをいなすとは……やっぱりいつもの凶真じゃないニャー」

岡部「いや実際、お前といると楽しいぞ? なんだかんだで、俺の鳳凰院を理解してくれる同士なのだから」

フェイリス「おじさんの今はやらないのかニャ?」

岡部「あの高笑いが出なくてな……声が張れないのだ。あの元気が無い」

フェイリス「……なんだか切実なのニャ」

岡部「そうだな……まぁ、なんだかんだでこの体にも慣れてはきたが。紅莉栖が薬を作り次第戻るつもりだ」

フェイリス「ふ〜ん……」

岡部「それと、いきなり人の腕を掴んで引きずるものじゃないぞ。足がもつれて危ないからな」

フェイリス「ニャハハ、それはゴメンニャ。凄い違和感感じちゃって、居ても立ってもいられなくなったのニャ」

岡部「そう、か……まぁ、それならしょうがないか」

フェイリス「それにしても……」

岡部「……なんだ」

フェイリス「凶真は歳をとったらこんな風に、物静かな大人の男性になるんだニャ〜……なんだか感慨深いニャ」

岡部「物静かと言うか……お前らが元気なのだと思うぞ」

フェイリス「そういう風に冷静に返すところを言ってるのニャ」


岡部「……そういうものか」

フェイリス「そうだニャ」

岡部「……そうか」

フェイリス「でも、フェイリスは今の凶真も好きだニャ。なんだかパパみたいで、良いと思う」

岡部「そう、か。本当に歳を重ねた人と比べるのはどうかと思うが……まぁ、嬉しい評価ではある、かな」

フェイリス「オカリンパパだニャ」

岡部「……もうおじさんでもお父さんでもパパでも何でも来い」

フェイリス「ニャフフ、凶真は良いお父さんになりそうだニャ」

岡部「しかし、何度も言われてる気がするが、お父さんかぁ……まぁミスターブラウンもこれくらいの歳だし、いても不思議では無いのか……。
   そういえば、お前のお父さんはどんな人なのだ? あまりお前のプライベートを聞いた事が無いからな」

フェイリス「フェイリスのパパは……フェイリスの事が大好きで、大事にしてくれて、仕事もできて……とってもカッコイイパパだったニャ」

岡部「……だった、か」

フェイリス「うん……事故でね。死んじゃった……」

岡部「……すまない」

フェイリス「謝らなくて良いニャ。もう何年も経ってるし、今は凶真やマユシィ、ダルニャン、ラボメンの皆がいて楽しいから幸せだニャ」

岡部「……そうか。ありがとうフェイリス」

フェイリス「ニャニャ? あの独善的な凶真からなんだか知らないけどお礼を言われちゃったニャ」

岡部「狂気のマッドサイエンティストは、形に縛られるものではない、さ。悪人だって礼くらいは言う」

フェイリス「ふふっ、そうかもニャ」

岡部「……まぁ本当に、お前には感謝しているよ。まゆりの面倒も見てくれるし、ダルがラボに加入したのも言ってみればお前のおかげだからな。
   これからも、まゆりやダルなんかと仲良くしてやってくれ」

フェイリス「ニャ……な、なんだか本当にお父さんみたいなんだニャ」

岡部「……なんだろうな。こうなってから説教臭くていかん」

フェイリス「ニャフフ。でも、今の凶真もやっぱり素敵だニャ。物腰も柔らかくなって、包容力も器も大きそうで。
      まぁ、フェイリスのパパ程では無いけれどカッコいいと思うニャ」

岡部「……ふっ、たかが猫ミミメイドの分際で、俺を褒めるとは良い度胸だ」ポンポン

フェイリス「ニャ……あ、頭をポンポンしちゃダメニャ……」

岡部「はははっ、良いだろうこのくらい。お前は、猫なのだろう?」ワシャワシャ

フェイリス「そ、そんな優しい声を出してもダメニャ……ワシャワシャしたらダメだニャ……」

岡部「すまんすまん。まぁ、いつものお返しだ。これに懲りたら鳳凰院弄りもやめるのだな」


フェイリス「……凶真に良いようにされるとは、フェイリスも焼きが回ったニャ……」



岡部「ふふっ、案外、この歳のままでいるのも悪くないかもな」

フェイリス「完全にフェイリスが年下の小娘として扱われてるニャ……それに、フェイリスの頭をポンポンなんてしたら、化学反応でラグナロクを起こしてしまうのニャ」

岡部「冗談だ。ちゃんと元には戻るから許してくれ」

フェイリス「それくらいじゃこの屈辱は許してあげないニャ」

岡部「では、どうすれば許してくれるのだ?」

フェイリス「お詫びとして、フェイリスをディナーに誘うニャ。そしたらラグナロクは勘弁してあげるのニャ」

岡部「ディ、ディナーか……そんな洒落た店、俺は知らないぞ」

フェイリス「大丈夫ニャ。お店とお金はフェイリスが提供するニャ」

岡部「……それではあまり示しがつかない気がするが」

フェイリス「凶真にはちゃんとエスコートをしてもらうニャ。猫は機嫌がすぐ変わるから、ちゃんとエスコートしないとすねちゃうニャ」

岡部「成程、それは難しいご要望だ」

フェイリス「パパくらいの人なら、それくらいの要望は当然こなしてくれたニャ」

岡部「わかったわかった……では、若輩者ですが、この岡部倫太郎と御一緒に、ディナーに行ってくださいませんか?」

フェイリス「ニャフフ、執事さんみたいにお辞儀して、全然キャラが違うニャ……でも、まぁ一緒に行ってあげるニャ」

岡部「ははっ、手厳しいな」

フェイリス「まだまだフェイリスが凶真をパパみたいな大人の男性にする為に、これから薬ができるまで特訓してあげるから覚悟するニャ」

岡部「お手柔らかにな……さてと、腹が減ったな。何か注文していいか?」

フェイリス「うーん、じゃあ今回だけは特別に、フェイリスが心を込めて手作りしてあげるニャ。なんでも言うと良いニャ

岡部「……なら、オムライスを頼む」

フェイリス「ニャニャ? それで良いのかニャ? いつもダルニャンと食べてるのに?」

岡部「メイクイーンで食べるオムライスが好きでな。お前と食べると、世界がヤバイくらいに旨く感じる。だから、オムライスが良いな」

フェイリス「……ニャフフ、かしこまりニャンニャン♪」

フェイリス(やっぱり、岡部さんは優しいな……)

フェイリス(ふふっ、岡部さんとディナーかぁ……)



——

寝る
また明日

ダル「ふぅ〜、やっぱりメイクイーンで食べるオムライスは最高だお! しかもオカリンの奢りだし!」

岡部「席取りを頼んだからな、礼ついでだ」

ダル「器の広くなったオカリンはサイコーだお! もうサンボで食い逃げ同然に僕を置いてかれるあの忌々しい過去からはおさらばだお!」

岡部「あぁ、なんだ、その……今まですまんなダル」

紅莉栖「私だけ別席に移動させられた訳だが」

岡部「あぁ、フェイリスに頼んで動かして貰った。うるさくて敵わんからな」

紅莉栖「い、良いじゃないちょっと写真撮っても!」

岡部「だったら声のトーンを下げてくれ。他の客の迷惑にもなるだろうが」

ダル「公共の福祉に反するHENTAIはHENTAI紳士及び淑女にあらずだお。つまり人に非ずだお」

紅莉栖「くっ」

岡部「さて、と……結局薬局によれていないではないか」

紅莉栖「そう言えばそうね」

岡部「ぬぅ……まぁ、今からでも行っておくか。もう腹の調子は良くなったが、ちゃんとラボに常備薬箱を置く事にしよう。物騒なのを間違えて飲まないようにな」

紅莉栖「サーセン」

岡部「こんの……」

ダル「じゃあ僕はエロゲやりにラボに戻るから、二人は楽しく外をほっつき歩いてると良いお」

紅莉栖「えぇ。邪魔者はさっさと帰んなさい」

ダル「先輩、こいつセメントにしていいっスカ?」

岡部「どこぞの不良みたく言うなダルよ……」

ダル「まぁ今は気分が良いからこれくらいは寛大な気持ちで許すお。そんじゃ、またね御両人」

岡部「あぁ、またな」

紅莉栖「じゃあね橋田」

岡部「ふぅ……さて、と。薬局に行くか」

紅莉栖「そうね。それで色々な物買っていきましょう。石油で出来たよく伸びるものとか」

岡部「……ん、あれは」

紅莉栖「スルーですねわかります」

岡部「……あそこでしゃがみ込んでいるのは、綯ではないか?」

紅莉栖「え? ……あら、本当ね。どうしたのかしら」

岡部「……行くぞ紅莉栖」タタッ

紅莉栖「わかった」



……

綯「いたた……」

紅莉栖「どうしたの、綯ちゃん」

綯「あ……紅莉栖お姉ちゃん……と、オカリン、おじさん?」

岡部「……あぁ、そうだ。こんなところでしゃがみ込んで、何かあったのか」

綯「え、えっと……お父さんが腰が痛いって言うから、お薬買いに来て……そしたら転んじゃって……」

岡部「ん……膝を擦りむいたか」

綯「は、はい……」

岡部「近くに公園があったろう。そこに行って傷口を水で流そう」

紅莉栖「そうね」

岡部「さて……綯、立てるか?」

綯「え、えっと……いちおう……」

岡部「そうか。じゃあ俺の背中にしがみつけ。おぶって公園まで行くぞ」スッ

綯「い、いいんですか?」

岡部「あぁ、ケガ人は遠慮するな」

綯「あ、はい……よいしょ……」

岡部「首にちゃんと手をまわしておけよ……よっと」スクッ

紅莉栖「綯ちゃん大丈夫?」

綯「うん……」

岡部「よし、じゃあ行くぞ。まぁ、少しの間我慢してくれ」

綯「は、はい」

紅莉栖「綯ちゃん、一人で薬を買いに来たの?」

綯「はい……お父さんがテレビを運んでたら、いきなりたおれこんじゃって……それで動けないからって……」

岡部「はぁ……あの歳でギクッとやってしまったか……」

紅莉栖「うーん、阿万音さんはその時いなかったの? バイトのお姉さん」

綯「昼きゅうけいだから、自転車乗ってどこかに行っちゃいました……」

岡部「なんとも間の悪い……」

紅莉栖「携帯電話は? 繋がらなかったの?」

綯「つくえに置いて行っちゃったみたいです」

岡部「それで仕方なく、お前が一人で買いに行こうとした訳か……お父さん、止めようとしてなかったか?」

綯「はい……でも、しんぱいで……飛び出して来ちゃったんです」

岡部「それで、走ってたら転んだ訳か……」

綯「は、はい……」

岡部「気をつけないと危ないぞ? いくらこの辺は車の行き来が少ないと言っても、人は多いし、ぶつかって大怪我でもしたらどうするのだ」

綯「はい……ごめんなさい」

岡部「俺達が通りかかったから良かったものの……これからは、ちゃんと周りを見て、無駄に走ったりしないようにするのだぞ」

綯「はい……」

岡部「よし、それが分かれば良い。ほら、着いたぞ」

紅莉栖「傷口をちゃんと水で流してね。じゃないと、悪いバイキンが入っちゃうから」

綯「はい」

岡部「よし、じゃあ足を出して……」キュッ


ジャー


綯「ん……」

岡部「しみるかも知れんが、少しだけ我慢してくれ」

綯「はい……」

紅莉栖「もうそれくらいで良いと思うわ」

岡部「よし……紅莉栖、ハンカチか何か持ってないか?」

紅莉栖「はい、これ。一応綺麗なはずだから」

岡部「すまん……傷口の周りだけ拭いておくぞ」

綯「はい」

岡部「傷口はあまり乾かさない方が良いらしい。これから薬局に行って、すぐ絆創膏を買っておこう」

綯「あ、ありがとうございます」

紅莉栖「じゃあ私が行ってくる。岡部はここで綯ちゃんとじっとしてて」

岡部「そうか。すまない」

紅莉栖「急いで行ってくるから、待っててね綯ちゃん」

綯「あ、はい」


タタタッ

岡部「……アイツも転ばなければ良いのだが」

綯「あ、あの……」

岡部「ん、どうした。他にまだ痛い所があるのか?(子供とは目線を合わせた方が良いらしいな……しゃがむか)」

綯「い、いえ……そうじゃなくて……」

岡部「ん?」

綯「きょ、今日は、オカリンおじさんって言っても、怒らないから……」

岡部「あぁー……それか」

綯「それに、いつもの白い服じゃないし……あの、変な喋り方でもないし……」

岡部「む……まぁ、今日はそういう気分じゃなくてな……」

綯「そ、そう、ですか……」

岡部「……」

綯「……」

岡部「あぁ……綯?」

綯「な、なんですか?」

岡部「……あの喋り方、怖いか?」

綯「え、えっと……その……」

岡部「正直に言って欲しい。怒ったりはしないから」

綯「……少し、こわいです」

岡部「はぁ……そうか」

綯「……」

岡部「これからは、なんだ……お前の目の前では、極力控えるようにしよう。怖がらせてすまなかった」

綯「あ、えと……ありがとうございます」

岡部(子供との接し方……やはりあまりわからんな……)

綯「……」

岡部「あぁ、その……そうだ、うちのラボメンとは、仲良くやっているか?」

綯「ラボ、メン……えっと、まゆりお姉ちゃんとるかお姉ちゃんと、紅莉栖お姉ちゃんとバイトのお姉ちゃんと、萌郁お姉ちゃんは、いつも遊んでくれます……」

岡部「ん、萌郁が……以外だな(るかお姉ちゃんか……まぁ、良いか)」

綯「あの帽子をかぶったおじさんは怖いけど……」

岡部「あぁ、ダルか……アイツは……本当は良い奴なんだがな……」

綯「そ、そうなんですか?」

岡部「あぁ、俺みたいな変人と二年もつるんでくれている、良い奴さ。それに、仕事もできるしな」

綯「へぇー……」

岡部「……まぁ、今度お前への接し方を変えるように注意しておくよ」

綯「あ、はい……ありがとうございます」

岡部「……後、だな」

綯「? なんですか?」

岡部「無理して敬語を使わなくても良いぞ? まゆり相手みたいに……とまでは言わんが、あまり無理のない喋り方で良い」

綯「あ、はい……」

岡部「もうオカリンおじさんと呼んでも怒らないから、気兼ねなく接してほしい……すぐにとは言わんが、ダメか?」

綯「い、いえ……が、頑張ってみます」

岡部「そうか。ありがとう」ナデナデ

綯「あ……」

岡部「あっ、すまんつい癖で……い、いやだったか?」

綯「い、いえ……あたたかくて、気持ちいいと、思います……」

岡部「そ、そうか……ありがとうな」ナデナデ

綯「……えへへ」

紅莉栖「岡部ー、買ってきたわよー」

岡部「お、来たか。早かったな」

紅莉栖「えぇ。絆創膏と、店長の腰の貼り薬。それと、岡部の下痢止め薬」

岡部「……何から何までスマンな」

紅莉栖「これくらい気が利いて当然よ。じゃあ、綯ちゃん。先に絆創膏はろっか」

綯「はーい」

紅莉栖「あら、元気になったわね。何かあったの?」

綯「えへへ……うん」

紅莉栖「そっか。じゃあ絆創膏貼ったら、お父さんも元気にしないとね」

綯「うん!」

岡部「……」

紅莉栖「岡部、何にやけてんのよ。もしかしてロリコンだったの?」

岡部「今の俺からしたらお前ですらその範疇に入るぞ小娘」

紅莉栖「あら、ピーピーお腹下してる癖に強がっちゃって……はい、できた。一日経てば大体治るらしいけど、あんまり動いちゃダメよ?」

綯「ありがとう紅莉栖お姉ちゃん」

紅莉栖「これからはちゃんと前見ないとダメよ?」

綯「はーい」

岡部「さて、じゃあ一度ラボの前まで戻るか。ほら、綯。もう一回掴まってくれ」スッ

綯「あ……はい」

岡部「よっと……ふぅ、中々足腰に来るな」スクッ

紅莉栖「岡部までギックリやらないでよ?」

岡部「その時はその湿布を貼ってくれ……」

紅莉栖「はーいはい。じゃ、行きましょうか」

岡部「よし、ちゃんと掴まってるんだぞ?」

綯「はい……」

紅莉栖「まさか、店長のあのガタイでギックリいっちゃうなんてねぇ……いつも重いブラウン管運んでたから、蓄積しちゃったのかしら?」

岡部「それはないだろ……まぁ、誰でも歳は取るということだ」

紅莉栖「それもそうね」

綯「……お、オカリン、おじさん」

岡部「ん、どうしたのだ綯」

綯「え、えっと……その……」

岡部「?」

綯「あ、ありがとう……」

岡部「……ど、どういたしまして……って、お、おい綯、あんまり腕をキツくするな。く、首が……」

紅莉栖「あら、綯ちゃんったら。顔赤くなってるわよ?」

綯「……///」

岡部「どうしたのだ急に……ちょ、ちょっとだけ緩めてくれ、綯。綯?」

紅莉栖「ふふっ、少しくらい許してあげなさいよ。勇気を出して言ったんだから。ねぇ綯ちゃん?」

綯「……///」プイッ

紅莉栖「あらら、背中に顔埋めちゃって……」

岡部「ぐ……ちょ、チョーク……紅莉栖、タッチタッチ……」

紅莉栖「頑張ってねーオカリンおじさん」

岡部「くっ……この……」



——

岡部「ふぅ……なんとか終わったか……」

紅莉栖「ふふっ、店長面白かったわね」

岡部「あぁ。俺であって俺じゃない人間に遭遇した時のあの反応はな」

紅莉栖「『お、おい岡部! お前まさか綯になんか……あぁ?』って最初は凄んでたのに、違和感覚えた後に岡部の兄ですなんて言われてから平謝りだものね」

岡部「『あ、あぁ! す、すいません、てっきり上の階を貸してる弟さんだと……』なんて、あんな言葉使いのミスターブラウン初めて見たぞ」

紅莉栖「『そ、そうですか……うちの綯が迷惑かけたみたいで……それに何から何まで……』って言って、腰痛めてなかったら凄いペコペコしてたんでしょうね」

岡部「……なんだか悪い事をしてしまったような」

紅莉栖「まぁ、嘘も方便よ。綯ちゃんはずっと岡部本人だって認識してたみたいだけど」

岡部「まぁ……綯は良いだろ。それにしても、綯が帰り際に俺と目を合わせてくれなかったんだが……やっぱりまだ俺が怖いのだろうか?
   さっきはなるべく怖がらせないようにしていたのだが……」

紅莉栖「さぁーてね。自分で考えなさい」

岡部「……そうか」

紅莉栖「さてと、もうそろそろ夕方だけど、どうするの?」

岡部「どうしたものか……ん」ボクハマター カオスニーナルー

紅莉栖「萌郁さん?」

岡部「……あぁ、今はまだバイトらしい。一応、大事な話があるから夜暇なら会ってくれるか……とだけ送っておくか」ポチポチ

紅莉栖「何そのメール怖い」

岡部「何がだ」

紅莉栖「……まぁ、もう今日で慣れましたしおすし」

岡部「だから何がだ」

紅莉栖「たまには自分で考えなさいよ……で、どうするの? ちょうどラボの前だし、戻る?」

岡部「……それもそうだな。萌郁からはまだ返事が来ないし、そうしよう」


紅莉栖「橋田はまだいるかしら」カンッカンッ

岡部「さぁな。基本自由だし、もう帰ってるかもしれん」カンッカンッ

紅莉栖「それもそうね……あれ、鍵がかかってる」ガチャガチャ

岡部「やはり帰ったか。鍵はっと……よしあった」カチャンッ

紅莉栖「ふぅ……ただいま」

岡部「はぁ……ラボ内も結局暑いのか……」

紅莉栖「エアコン導入したいけど、本体と電気代が馬鹿になんないものね」

岡部「あぁ……結局宝くじの計画は失敗終わったし、どうしたものか」

紅莉栖「はい岡部、ドクペよ」ポイッ

岡部「すまんな」パシッ

紅莉栖「ん……ん……ぷはーっ! 冷たい炭酸はやっぱりキクわねー」

岡部「ぷはぁっ……あぁ、同感だ」

紅莉栖「アイスも買ってくれば良かったわね……ま、いっか」

岡部「あぁ、アイスなら……そこの上段にあったはずだぞ」

紅莉栖「ホント? どれどれ……ん、これ?」

岡部「あぁ、たまごアイスだ。見たことないか?」

紅莉栖「なにこれ……丸くて変なの」

岡部「あぁ、そこの先端を切って、中から出てくるアイスを吸うんだ。小さい頃はおっぱいアイスだなんて言ってたが」

紅莉栖「ふん、その頃から岡部はHENTAIだったわけか」

岡部「お前には負けるさ……俺にも一個くれ」

紅莉栖「はいはい。よっと」ポイッ

岡部「あぁ……またこんなに冷たいのを食べてたらまた下すような……」

紅莉栖「何無粋な事言ってるのよ。暑い時に目の前にアイスがあるんだったら、迷わず食べなさい?」

岡部「ふっ、それもそうだな。ハサミはどこにやったか……あぁあったあった」

紅莉栖「これおいしいの?」

岡部「あぁ、50円内と安く、それでいて中々味も濃くてな。小学生の味方だ」チョキッ

紅莉栖「ふーん……」

岡部「おっとと、暑いからもう溶けてきたか……」チューチュー

紅莉栖「ふふっ、おっさんの癖に子供みたい」

岡部「うるはい。ほら、ほまえもほれできってはべろ」

紅莉栖「はいはい。えっと、こっちの輪ゴムがついてない方よね……」チョキッ

岡部「そうだ。中のを押しだして吸うんだ」

紅莉栖「うわ、押してないのに出てきた」

岡部「は、早く吸わんか」

紅莉栖「……」チューチュー

岡部「……」チューチュー

紅莉栖「おいしいわね」チューチュー

岡部「だろ?」チューチュー

紅莉栖「……いたた、頭にきちゃった……」

岡部「いっぺんにに飲むからだ。噛むなりして、調節しろ」チューチュー

紅莉栖「うぅ……」チューチュー

岡部「……」チューチュー

紅莉栖「む、難しいわね……」チューチュー

岡部「ふぅ、ごちそうさま」

紅莉栖「は、はやい……」

岡部「帰国子女のお嬢さんとは、鍛え方が違うからな」

紅莉栖「何をどう鍛えるのよ……ふぅ、おいしかった」

岡部「ふむ……これからは駄菓子アイスを少々多く買いだめしておこうか……」

紅莉栖「良いわね。私も興味あるし」

岡部「お前、小学生の頃はこっちにいたのだろう?」

紅莉栖「小5まではね。それ以降はずっとあっちだから、もう忘れちゃったわよ、駄菓子なんて」

岡部「そう、か……両親が離婚して、そうなったんだったか?」

紅莉栖「そう、ね……パパとママが離婚してから、ママとあっちに行って……アメリカは実力主義の場所だったから、ずっと隙を作らないようにムスっとして……」

岡部「……」

紅莉栖「そしたら、友達もできなくなっちゃって……ふふっ、ずっと殺伐としてたなぁ……」

岡部「……今は、どうなのだ?」

紅莉栖「今は、まゆりも、橋田も、漆原さんに阿万音さん、フェイリスさんに萌郁さん……それに、岡部もいるから、楽しい……」

岡部「……そうか」

紅莉栖「こっちに来て、あんたと妙な出会い方して……最初は変な男に捕まったなぁなんて思ってたけど、こうも充実するなんてね」

岡部「それで、俺はこれまた変な助手が作った妙な薬のせいで、今こうして歳をとってる訳だ」

紅莉栖「最初はショタッ子にしようと思ってたんだけどねぇ……あんたが下痢なんかにならなければ」

岡部「ふん、このHENTAIセレブセブンティーンめ。欲望の為に科学を使うとは、とんだマッドサイエンティストだ」

紅莉栖「うるさい。最初のセクハラのお返しよ」

岡部「あれは不問にするはずだったろ?」

紅莉栖「さぁ、どうだったかしら?」

岡部「まったく……」

紅莉栖「ふふっ……」

岡部「……」

紅莉栖「……」

岡部「……」ゴクゴク

紅莉栖「……ごめんね、岡部」

岡部「ん、どうしたのだ」

紅莉栖「その、こんな事になっちゃって……」

岡部「最初にもうお前は謝っただろ? 別に気にしていないさ、ちゃんと戻れるんだからな」

紅莉栖「……そう」

岡部「ただまぁ、今度からはこういうの作るのであれば、事前に言って欲しくはあるな」

紅莉栖「そ、そうね」

岡部「それがわかっているなら、俺はいいさ」

紅莉栖「……そう」

岡部「……」ゴクゴク

紅莉栖「……岡部は」

岡部「うん?」

紅莉栖「岡部は、そんなに元に戻りたい?」

岡部「……どういう意味だ?」

紅莉栖「……その姿になってから、まゆりと阿万音さんには抱きつかれて、漆原さんには疑似プロポーズされて、
    フェイリスさんとは何だか二人だけで秘密の話したり、綯ちゃんとは仲良くなったり……。
    なんだか、妙に女の子にモテるようになったから……」

岡部「モテるというか……じゃれてるだけだろう? 歳の離れた兄か、または父親感覚で」

紅莉栖「そうかしら。私にはそう思えないのよ」

岡部「……そ、そうか」

紅莉栖「だから……どうなのかな、って……」

岡部「……」

紅莉栖「……」

岡部「はぁ……」

紅莉栖「な、なに?」

岡部「俺は、絶対に元に戻りたい。何があろうとな」

紅莉栖「……なんで?」

岡部「なんでって……そりゃ、いきなり歳を取るなんて、普通に考えたら嫌だろ」

紅莉栖「それだけ?」

岡部「それだけって……」

紅莉栖「良いじゃない別に。元々老けてるんだし、今の方がモテてるんだし、このままでも」

岡部「……何を拗ねているんだ」

紅莉栖「別に、拗ねてなんかないわよ……いつもは私がなんか言うと目くじら立ててすぐ反論する癖に、今はそれがなくて貼りあいが無くなっただけ……」

岡部「……」

紅莉栖「……」

岡部「……俺は、どうしても元に戻りたい」

紅莉栖「それはもう聞いた」

岡部「……一人だけこんな風に歳をとっているのは、嫌だ。お前達と、一緒にいたい」

紅莉栖「……一緒になら、いるじゃない」

岡部「ではこの先どうなる。俺だけお前達よりも歳を多く食い、お前達とは精神のズレが生じて、疎外感をそのうち感じるだろう。
   否定はするな。恐らく、俺が感じずにはいられなくなる。そして……」

紅莉栖「……そして?」

岡部「……お前達よりも、早く死ぬ。当然な」

紅莉栖「っ……」

岡部「俺は、お前達と一緒にいたい。共に笑い、共に泣き、共に、歳をとっていきたい……。
   勿論、お前ともだ。俺はお前の事をもっと知りたいし、もっと、仲良くなりたい。それくらいの事を、望んではいけないか?」

紅莉栖「……ごめん」

岡部「……いや、いい」

紅莉栖「……」

岡部「……あぁと、なんだ……日が沈んで来たな」

紅莉栖「うん……ちょっと、このソファからだと、眩しいかな」

岡部「カーテン、閉めるか?」

紅莉栖「……ううん、いい。今は、閉めないで」グスッ

岡部「……泣いてるのか?」

紅莉栖「……き、気のせいよ」

岡部「……日の光のせいか。眩しくて、目を開けられないものな」

紅莉栖「そ、そうよ」グスッ

岡部「……」

紅莉栖「……」

岡部「!?」ボクハマター カオスニーナルー

紅莉栖「っ……萌郁さん、からじゃない?」

岡部「あ、あぁ……」ピッ

紅莉栖「なんだって?」

岡部「……もう岡部君ったら、大事な話ってなにー? もしかしてお姉さんに告白かしら? だと」

紅莉栖「ほら見ろ。やっぱりそういう風に返されてるじゃない」

岡部「何がどうしたらこうなる……違うがとりあえず深刻な話だ、っと……」ボクハマター

紅莉栖「……相変わらずの返信速度ね」

岡部「あぁ、この才能を何か活かせないものか……なになに……とりあえずこれから駅に来てくれないか? だと」

紅莉栖「ふーん……」

岡部「今からって……もうそろそろ夜じゃないか」

紅莉栖「良いじゃない、行ってあげなさいよ」

岡部「む……そうか」

紅莉栖「さて、私も帰るか。帰ってさっさと薬について調べないとね」

岡部「……頼む」

紅莉栖「そもそも私のせいでしょ、別に頼むって言われなくてもやるわよ」

岡部「そういえばそうだったな。だったらさっさと完成させろ、この天才HENTAI少女」

紅莉栖「……甘んじてその名を受けるわ」

岡部「全く……午前のお前のテンションについていくのは大変だったんだぞ……」

紅莉栖「よくわかんないけどハイになってたからね。でも適当にいなしてたじゃない」

岡部「それでも疲れるものは疲れるのだ。ほら、帰り支度をしろ。途中まで送る」

紅莉栖「……サンクス」

岡部「まぁ、あまり根を詰めてやれとは言わん。お前の休みも、今月までなのだ。それまでに、なんとか終わらせてくれれば、それでいい」

紅莉栖「わかった……でもなるべく、早くするから」

岡部「……アメリカに帰っても、連絡くらいはしてくれよ」

紅莉栖「それ、言うにはまだ早すぎるわよ」

岡部「良いだろう別に。まゆり達も、お前の声が聞きたいだろうしな」

紅莉栖「わかってる。私もきっとそうだから」

岡部「……俺も……お前と話したいから、なるべく暇がある時は、頼む」

紅莉栖「……岡部」

岡部「さぁ行くぞ。これからまた萌郁と会わねばならんからな」

紅莉栖「……はーいはい。また女の所に行くんですかっと……リア充乙」

岡部「やっぱり保健所に行くか?」

紅莉栖「おじ様の家になら行ってあげても良いわよ?」

岡部「全く、こいつは……」

紅莉栖「ふふっ、いっつもそういう優しい表情してれば良いのに……普段はまゆりにしか見せてくれないんだから」

岡部「……どういう表情だ」

紅莉栖「教えないわよ。さっ、行きましょ、岡部」

岡部「……あぁ」




——

岡部(さて、紅莉栖も送ったし……電気街口で良いはずだが……)ココロヲフルワーセルー イタズラナーモウソー

岡部「ん……何々……今昭和食堂の前にいるの?」ココロヲフルワーセルー

岡部「またか……今度は……今ゴーゴーカレーの前にいるの? なんだ、腹でも減ってるのか?」ココロヲ

岡部「えぇい何度も何度も……今ラジ館の前にいるの……あぁ、このパターンか」ココ

岡部「またメール……それで、この携帯のメールを確認すると——」

岡部・萌郁「「今貴方の後ろにいるの」」

岡部「……」

萌郁「……」

岡部「もうその手は食わんぞ萌郁よ」

萌郁「……」ピピピピッ ココロヲフルワーセルー

岡部「……ノリ悪いよ岡部君、そんなんじゃ女の子にモテないぞ、では無いぞ萌郁」

萌郁「……」ピピピピッ

岡部「……何? 今日は名前で呼んでくれるんだね。やっぱりお姉さんに——、いやだから違う」

萌郁「……」

岡部「何をそんな驚いた顔をしているのだ」

萌郁「……」ピピピピッ

岡部「えっと、岡部君老けた? おぉ、良くわかったな。ラボメンで個別に気付いてくれたのはお前と鈴羽だけだぞ」

萌郁「……」

岡部「……まぁ、そんな風に目を点にしたくなる気持ちもわかる。実はだな——」



……

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