アルミン「君と僕との」アニ「境界線」(36)


※超短文
※ベルトルト「僕は本当に君が嫌いだ」のアルアニ
※別に↑読んでなくても多分大丈夫
※会話ほぼなし、全体的に暗い




この想いが罪だというのならば。

僕は罪人のままでいい。

君を憎むこの世界を憎み切れない僕は―――きっと、異端者。




最初は、僕の行動の視界に君が入るだけだった。

エレンとよく対人訓練を組み、ミカサとやりあう。

僕はこの三人のやりとりを、時には慌て、時には笑いながら見ているしか出来なかった。




アニ「アルミン」

アルミン「どうしたの、アニ」

アニ「…恋ってなんだと思う?」


胸が、何故かツキリと痛む。

君のその表情は、誰かに恋をしているの?

その灰青の瞳は一体誰を映しているの?

僕は、この日、恋を知った。



アルミン「うーん…難しいね」

アニ「頭がいいアンタでも分からないの?」

アルミン「うん。だって感情は本に書いてないから」


僕の感情が一冊の本だったら。

きっと今、項目に君の名前が増えたと思う。

厳しいことを言っても、優しい君の姿。

実は友達思いな所。

俯きがちな瞳が時たま宿す、決意。



(それが何なのかは、この時の僕はまだ知らなかった)



(あぁ、僕はこんなにも、君を追っていた)


知らない間に落ちているのが恋だと、誰かが言ったらしい。

ならば僕のこの未知なる感情は―――恋、なのだろう。


アルミン「気になる人でもいるの?」

アニ「…別に」

アルミン「そっか。僕に出来ることがあったら言ってね。協力するから」


嘘つき。

自覚してしまった感情を抑え込めるほど、大人じゃないくせに。




知らない間に彼女の姿を目で追っていた。

だから僕は気付いてしまった。

僕と同じ感情で、君を見ている男の存在に。

僕よりもはるかに背が高く、僕よりも強く、僕よりも男らしい。

まるっきり正反対な、僕と、彼。

そして僕の本の項目に、“嫉妬”が追加された。



(協力するなんて言って、本当は彼女が好きなくせに)


アニは訓練が休みの日に図書館にいることが多い。

エレンやミカサと座学の復習をしに行くと、高確率で本を読んでいる。

何を読んでいるのかなと、考えたこともあった。

今日は、僕だけで図書館にいる。2人が街へ出かけてしまったから。


アルミン(…あ)

アニ「」ペラッ

アルミン(どうしよう、声、かけようかな……あ)

アニ「」ピクッ



アニ「…アルミン。珍しいね、今日は1人なんだ」

アルミン「あ、うん。エレンとミカサは買い物に行ったから…」

アニ「…2人で?」

アルミン「うん」

アニ「そう」


“珍しいね”確かに彼女はそう言った。

それはつまり、普段は僕たち3人で図書館にいると知っているということ。

極力静かにしていたし、見られているとは思っていなかった。



アルミン(やっぱり、アニはエレンのことが好きなのかな)


アルミン「…ねぇアニ。そっちに行ってもいいかな?」

アニ「いいけど」

アルミン「ありがとう」


彼女の前に、席を移す。読んでいた本に目を落としたが、内容が入ってこない。

ちらりと、アニを見て。

透き通るような白い肌に触れてみたいと、胸が高鳴った。

もっと彼女を見ていたい。でも、気付かれたらどうしよう。あぁ、でも。



アニ「アルミン?」

アルミン「え!?あ、ご、ごめん」

アニ「…別に、いいけど」


まつ毛が長いな、とか、今ちょっと笑った、とか。

彼女の一つ一つが、僕の中の本に刻まれていく。

だから僕が呟いてしまった言葉は、本当に無意識。


アルミン「好きだよ」



アニが顔を挙げる。僕は慌てる。

言うつもりなんて、なかったのに。

ぐらぐらと目の前が揺れる。どんな訓練の時よりも心臓がどくどく言って、苦しい。

僕たちしかいない図書館。向かい合う、君と僕。

お願いアニ。何か言って。でないと僕、恥ずかしくて死んでしまうよ。

白い肌が、薄紅に染まって。

そこには今まで見たことがないアニが、いた。


アニ「アル、ミン」

アルミン「アニ…?」



普段の表情からは想像もできない姿に、どきりとする。

こんなアニに想ってもらえる幸運な人は誰なのだろう。

さようなら、僕の初恋。


アルミン「ご、ごめんねアニ。言うつもりは」

アニ「私、」

アルミン「え?」

アニ「私も、アンタが、好き、だよ」



おかえり、僕の初恋。

震える手をアニに伸ばして、想像通りの柔らかい髪に触れる。

そのまま頬に触れ、もう一度、好きと呟いた。

太陽の逆光の中、彼女は見たことのないような微笑みを僕にくれた。

僕はこの日、愛を知った。


******


アルミン「ねぇアニ。ベルトルトのことどう思う?」


そんな質問をしたのは、出来心。

ベルトルトがアニに気があることに気付いているのは、多分僕だけ。

本人は気付かれていないつもりなのが余計に気になる。

時々彼女と過ごすようになった消灯後に、アニを抱きしめて問いかけた。



アニ「…ベルトルトは、強い、よ」


彼女はそれしか言わなかった。

(彼女は嘘や冗談を言える人ではないから)

(誤魔化せないことは、最初から言わない)

(この時も彼女はきっとそうだった)

僕の背中に回っていた腕の力が、ほんの少し強くなったくらいだ。

アニがベルトルトのことを本当はどう思っているのか。

言葉以上の感情を持っているのは明らかだった。

それはきっと恋愛感情ではないだろうけど、それでも僕は怖かった。



アニが誰かに連れ去られてしまう。


エレンやミカサに思う感情と、似て非なるもの。

失ったら僕はきっと立ち上がれない。


だから僕は、賭けに出た。



やや蒸し暑く、人によっては寝苦しさを覚える夜。

僕は空き教室でアニを抱いた。

―――ベルトルトがそこを通り過ぎると信じて。

極端に寝相の悪い彼のことだ。動き回れば余計に暑くなって目が覚めやすくなるはず。

きっと彼は、誰も起こさないよう慎重に部屋を出て、水を飲みにくるはずだ。

彼にしっかり教えてあげなきゃ。

(アニは僕が好きなんだから)

僕の初恋は、歪んでいるのだろうか?



やぁ、ベルトルト。

良かった、僕の思った通りになったよ。

君…そんな顔出来たんだね。初めて知ったよ。

今どんな気分?僕を憎んでいる?殺したい?

ごめんねベルトルト。でも僕、アニが好きなんだ。


アルミン(…もう一人、いる?)

アルミン(誰かがベルトルトを連れて行った…誰だろう)



アニ「ァ、ルミン…?」

アルミン「ごめんね、アニ。…続き、しよっか?」


安心したように微笑むアニは本当に綺麗で。

彼女を独り占め出来る僕は、とても幸せなのだろう。

…だから、罰が当たったのかな。





信じられなかった。信じたくなかった。

(違う、君だから僕を殺せなかった)

僕は考えた。君を助ける方法を。

君と幸せになれる未来を。何日も何日も何日も何日も何日も。

(そんな答えが見つからないことくらい、分かっていたのに)

君に好きと言った僕の口が、君を疑う理由を告げる。

マルコの立体機動、エレンのあだ名。

推測だと言っても、口にすればするほど疑いは強まる。

きっと僕は確信していた。僕の好きな人は、人類の敵だったと。




アルミン「僕は罰が当たったんだ」

アルミン「僕が無力で、エレンもミカサも、…君も助ける方法を思い付けなかったから」

アルミン「僕の作戦は皆を傷つけた」




君を信じるための地下通路。

僕のいる暗いこの場所と、君がいる明るいその場所。

光と影が、僕たちを徹底的に別った。

越えることが出来なかった、僕たちの境界線。

この境界線を踏み越えて、君を助けることが僕に出来たならば。

僕に勇気がなかったから。




アニ「一体…いつから、アルミン」

アニ「アンタは私をそんな目で見るようになったの?」


君の灰青の瞳に、一体僕はどう映っていたのだろう?

その答えは怖くて聞けない。

聞くことも、出来ない。

僕は君にとっての“いい人”でいたかった。

(君の正義は、一体なんだったの?)




******


アルミン「僕が人類の味方でいる限り、この中には入れないんだろうね」


触れた水晶は、相変わらず冷たい。

重たく巻かれた鎖の隙間から、変わらない君の姿が見える。




アルミン「ライナーもベルトルトも、いってしまったよ」


反応しないアニに、僕は何度でも声をかける。

目覚めてほしくて。目覚めてほしくなくて。

僕を好きだと言ったその唇は、僕にどんな言葉をかけるのだろう。

それが、堪らなく恐ろしい。



アルミン「アニは嘘が吐けない人だから、黙っているの?」


それとも、この世界に絶望したから、出てこないの?

君が“いない”世界に取り残された僕は、どうしたらいいのだろう。

(彼女を裏切ったのはお前のくせに)

(なんて身勝手)




アルミン「あの日の話の続きをしよう」

アルミン「恋っていうのはきっと、その人の幸せを願うことだ」

アルミン「その人を想うと胸が痛くて、切なくて、苦しい」

アルミン「でもその人が笑ってくれれば、それだけで幸せになれる」

アルミン「僕はそういうことだと思う」

アルミン「だから僕は、今でも君に恋をしている」

アルミン「君のことを想うと、胸が痛くて、切なくて、苦しい」

アルミン「でも君が笑っていないから、辛いんだ」


(君を裏切ったのは僕のくせに)



君が眠り続ける水晶は、美しく透明だ。

混じり気がなく純度の高いそれは―――他の物質の存在を許さないのだろう。

僕の存在を、許してくれない。


手を伸ばせば届く距離に、君がいるのに。

あぁ、なんて、遠いのだろう。


この水晶はきっと、君と僕との境界線。




以上です
書き殴り失礼しました

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