御坂「私と2度と会えなくなったら、どうする…?」 上条「え?」(450)

上条当麻は、隣に座る御坂美琴の発した突拍子もない質問に目を丸くする。

上条「どうするって言われても…」

御坂のおごりであるアイス汁粉の缶を、何となく見つめながら考える。

上条「それが仕方のない理由なら、仕方ないんじゃないか?」
御坂「何それ」

予想以上に斜め下な返答に、不機嫌な声で口を尖らせる。
実は先日、コンビニで立ち読みした週間少年漫画の読み切りに
「素直になれない女の子と鈍感男の子が離れ離れになって、大切な気持ちに気付く」
という題材の物があったのだ。本誌を購入してしまうほど、感情移入してしまった。

御坂(やっぱ訊くんじゃなかった…)

自分の軽率な言動を呪いつつ、話題を変えようかと思案し始める。
と、上条が右手を差し出してきた。

上条「じゃあさ、御守り代わりにお前のコイン一枚くれよ」

怪訝に思いながらスカートのポケットを漁り、一枚取り出し「はい」と渡す。
上条はそれを親指と人差し指で挟み、クルクル回しながらにっこり

上条「幸福の1セント硬貨」
御坂「どこが」

ベンチから立ち上がると「帰るわよ」と促した。

他愛のない話をしながら歩く。
御坂はルームメイトの愚痴を零しながら、上条はそれに適当に相槌を打ちながら。

と、何となく違和感を感じる。

上条「何か薄暗くないか?」

言われて御坂も立ち止まる。が、特に気にしない。

御坂「陽が落ちてきたんでしょ」
上条「いや、そうじゃなくってだな。もっとこう、上から布でも掛けられる様な感覚…うっ!?」

足元にぐにゃり、と沈むような感覚を覚え慌てて下を向く。
そこには地面を踏みしめる、自分の両足。

上条(疲れてるのか?)

顔を上げると、そこには呆然としている御坂の顔があった。

自分たちの周りの地面。
その周りをぐるりと闇が囲んでいた。例えるなら奈落。
その遥向こうに、見慣れた街並み、喧騒。

御坂「な、何これっ…」
上条「クソッ!」

駆け出し…片足を踏み外す。必死に地面にしがみ付いて転落を免れた。
御坂に手を借りて這い上がり、気付く。

上条「街が…」
御坂「どんどん離れてる…わよね…」

じきに訪れるのは暗闇、静寂。だが、まるで真上からスポットライトで照らすように
自分たちの足場だけは、ハッキリと闇に浮かび上がっている。
とりあえず、二人は途方に暮れた。だが、その時間もあまり長くは続かなかった。
二人に残された小さな足場も、闇で狭められ始めたのだ。

御坂「う、嘘っ、ちょっと!?」

彼女の悲鳴を最後に――二人の意識は、闇に飲まれた

顔に日差しを感じる。頬をなでる風。
緑の匂いが鼻腔をくすぐる。
正直、心地良かった。

(お姉ちゃん、お姉ちゃん)

御坂(ん…もうちょっと…)

(大丈夫?お姉ちゃん)

御坂「ん…?」

目を覚まし、上半身を起こす。
寝ぼけ眼で周りを見回し…見慣れない風景。
土の地面に、建ち並ぶ木とレンガの家。
煙突からは煙がのぼり、家の横の畑を耕す男性、
籠を頭にのせ歩く女性、そして、
そこら中をニワトリが我が物顔で闊歩していた。

御坂「夢か」

納得する。これは夢だ、夢なんだから、もう一回寝てちゃんと起きよう。
そのまま横になろうとし…

少年「ちょっとお姉ちゃんってば!」

猛烈な勢いで揺さぶられた。

御坂「分かった、分かったから!起きるから!」

今度こそちゃんと起きる。少し頭が痛い。
頭を片手で庇いながら、少年を見てみる。
少し黒が入った茶色い髪、青い目。どう見ても外国人だ。

御坂「ハ、ハロー?」
少年「大丈夫?気絶してたみたいだけど…」

普通に水の入った竹筒を手渡してくる。
赤面しながらそれを受け取り、一気に飲み干してしまう。

御坂「よく憶えてな…」

言いかけて息を呑む。慌てて立ち上がり周りを見回す!探す!見当たらない!
屈みこみ少年の両肩を掴むと、もう1人黒髪ツンツン男がいなかったか尋ねてみた。

少年「お姉ちゃんだけだったよ」

困ったように答える。そんなはずは…と、両膝を落として呆然自失。
彼女はしばらく動く事が出来なかった。

カザーブの村
ロマリア地方とノアニール地方の中間に位置し、
不毛の山岳に囲まれ狩猟も厳しく、本来なら貧しい集落
しかしロマリアとノアニールをつなぐ中継拠点として細々だが生活を送れている

御坂「…へぇ」

少年の説明を半ば放心しながら聞いていた御坂。何とか返事を搾り出す。
説明の中に出てきた地名に何一つとして知っているものが、ない。

少年「お姉ちゃん、その、何ていうか、変わった格好してるよね」

慎重に言葉を選んでいるのが伝わってくる。
彼が身につけているのは麻で作った上着とズボン、そして革の靴だ。
対して自分が身につけているのは学校指定の制服。
明らかに毛色が違いすぎた。
御坂がなんと答えたものかと迷っていると、少年が言葉を続けてくる。

少年「旅の人?友達とはぐれちゃったの?」
御坂「…多分、そんなトコ」

曖昧に答える。自分でも分からない事だらけだが、とりあえずの目的は出来た。

御坂(あのバカを探さなきゃ)

少年に礼を言う。立ち上がって木陰から出ようとした時、それは起きた。

俺は見てるぞ

村人「カンダタだー!カンダタが来たぞー!」

男が転がるように村を走りながら大声を上げる。
その言葉に各々慌てて家に逃げ込んでいく。

少年「お姉ちゃん、僕の家に来て!」

慌てたように手を引っ張る。どうやらただ事ではないらしい。
素直に従おうとした次の瞬間、馬の蹄の音が鳴り響く。

ゆうに2メートルは超えるであろう巨躯、血管が浮き出る筋肉の塊。
半裸の姿に革のベルトを走らせ、頭には角の付いた皮の覆面。
御坂に言わせると「変態」が、村の中央広場に馬を止める。
その少し後ろから、見るからに子悪党といった風貌の3人が必死に走って後を追ってきた。

老人「今月の上納は先日済ませたばかりじゃが…」
カンダタ「勘違いするな」

4人の前に歩み出た老人にカンダタは答える。
―――暴力で。

御坂「なっ!?」
少年「村長!」

蹴り飛ばされ宙に舞う小さな体の老人を目にしながら御坂は混乱する。
まず頭の中に浮かんだ言葉は「世紀末救世主伝説」。

カンダタ「ちょっと事情が変わってな。“あいつら”がロマリア城に行ってる間に、俺たちゃこの地を捨てなきゃならねぇ」

その言葉を聞いた村人の1人が安堵したような表情を見せた。
恐怖支配から解放される、そう思った。

カンダタ「だからもう遠慮は無しだ!てめえら物も女も全部奪え!籾種一粒残すんじゃねぇぞ!」
手下達「へいっ!」

村人「うっ…」

うわあああああああああああっ!

カザーブの村は、修羅場と化した

暴れる4人。逃げ惑う村人。
その様子を現実感を持てない御坂は困惑しながら眺める。

御坂(何これ…何なのこれ…?)
少年「お姉ちゃん!お姉ちゃんはやく!」

少年に腕を引っ張られよろよろ歩く。
しかしその眼前を1人の男に阻まれた。
不衛生な臭い。不衛生な笑顔。
不快なものを撒き散らし、そいつは言ってくる。

手下C「うへへ逃がさないぜえ」

御坂の全身を舐めるように見回す。

手下C「変な格好してやがるが、ツラは中々じゃねぇか。大人しくしてれば痛い目見ないぜ」

その不衛生な手を御坂の肩へと伸ばしてきて

閃光が走った

煙を吐きながら倒れる男を見下ろしながら、御坂は考える。
大人しくしてれば痛い目見ない?
もしかして物も女も全部奪うって言ってた?
籾種一粒残さない?

弾ける

御坂「ふざっけんじゃ!」

吼える

御坂「ないわよ!」

カンダタに電撃を叩きつける!手馴れた攻撃。咄嗟に出る攻撃。
それで十分だった。学園都市内でならば。

カンダタ「ぐおおおっ!?」

馬から転げ落ちながら受身をとり、そのままの勢いで立ち上がる。
悪態をつきながら肩越しに手を回すと、巨大な斧を取り出した。

手下B「親分!?このアマぁ!」
カンダタ「待て、てめぇらじゃ無理だ」

御坂に襲い掛かろうとする手下二人を制止する。

カンダタ「俺が直々に相手してやる」

紫煙

御坂は困惑していた。一撃必倒のつもりだった。
なのに電撃が大して効いた様子がはない。

カンダタ「お前も雷撃呪文の使い手か。胸糞わりぃ」

ブンブンブン!と巨大な戦斧をまるで団扇でも振るように扱う。

カンダタ「だったら楽には殺せねぇな!」
御坂「っ!?」

弾丸のように掛けてくるその肉弾を再び電撃で迎え撃つ。
しかし減速させる程度でその前進を止めることが出来ない。
距離をとりながら何度か電撃を放つがやはり決定打にはならなかった。

カンダタ「面倒臭ぇ!」

言いながら振り下ろす戦斧の風圧に肝を冷やしながら更に距離をとり
その非常識な肉体を視界に捕らえ、スカートのポケットへと手を伸ばす。

御坂(こうなったら…超電磁砲で吹き飛ばす!)

と、そこで気付く。一旦は逃げ出した村人たちがクワや斧を手に戻ってきていた。

村人A「他所者の女の子が戦ってるんだ…!」
村人B「オラたちが逃げるわけには…!」
御坂(…馬鹿!)

慌ててポケットから手を抜く。
彼らは完全に恐怖を克服できていないようで遠巻きにしていたが、
それでも超電磁砲の破壊に巻き込むには十分な位置に固まっていた。

御坂は徐々に追い詰められていた。
こちらがいくら撃っても倒せない。
しかしこちらは一撃でも喰らえばタダでは済まないだろう。

手下A「流石親分だぜ!」
手下B「やっちまってください!」

これまた遠巻きにしている不衛生コンビが無責任な歓喜をあげる。
そんな中、何度目かの交錯、そして遂に捉まってしまう。

カンダタ「オラぁ!」
御坂「うあぁっ!?」

腕の上から腹を前蹴りにされる。
数メートル吹き飛び、転がり、成す術もなくそのまま地に伏した。

御坂「くぅ…う…」

懸命に腕に力を入れ立ち上がろうとする。
だがその意思とは裏腹に激痛だけが暴れまわり体が動かない。

カンダタ「あと数日会うのが早ければ、お前にも勝ちの目があっただろうな」

勝利を確信した声音でカンダタは言う。

カンダタ「俺は“その痛み”を知っている。通用しねぇよ」

言っている意味が分からなかった。
だがそれもどうでも良かった。とにかく今は立ち上がることに集中する。
このまま嬲り殺しにされるわけにはいかない。

カンダタ「まだ心が折れねぇか?大した女だ」

覆面の上からでも分かる。奴が醜悪に顔を歪めているのが。

カンダタ「俺の女になれ。そうすりゃ一生良い目見させてやる」

耳を疑う。呆然とした顔でカンダタを見上げ…

御坂「寝言は…寝てから言いなさい…」

渾身の力で立ち上がる。その姿を見てカンダタは笑い声を上げた。

カンダタ「ぐはははは!本当に大した女だよ!」
カンダタ「だが無駄だ!俺は“その痛み”を既に知っている!」
カンダタ「一流の戦士は一度知った痛みは耐えられるんだよ!」

―――痛みを知っているから耐えられる

その言葉が胸の奥で繰り返される。
他人の痛みを一身に受けて戦う男。
他人の不幸に怒り立ち向かい戦う男。
上条当麻。
あのバカは『見ず知らずの人』のために『最強』に立ち向かった。
彼の顔が御坂の胸中にグルグルと去来する。

カンダタ「最後にもう一度だけチャンスをやる」

御坂「…みんな…ここから…逃げて…」

声を絞り出す。

村人A「そんな!お前さんだけ置いて逃げるわけに…」
御坂「あんた達がいると全力を出せないから逃げてって言ってるのっ!!」

弾かれたように絶叫する。その迫力に圧され、蜘蛛の子を散らすように離れていく村人たち。

カンダタ「がはははは!まだ強がれるか!本当にイイ女だなぁお前!」

膝立ちのまま天を仰ぐ。天を望む。
空に集まりつつある雷雲。それは急速に御坂の頭上へと集結していた。
そして目の前に浮かぶのは上条当麻の顔。
前を向いた瞬間、その顔は醜悪な革の覆面を被った現実に塗りつぶされた。

カンダタ「俺の女になれ!」
御坂「アンタが…」

全身の血が沸騰する。我を忘れるほどの怒り。激昂。

御坂「その言葉を口にするんじゃないわよ!!」

カザーブの村に、大地を揺るがす程の稲妻が落ちた。

あれから数日後、御坂美琴は馬車に揺られていた。
あの後、村長が「デイン系呪文は勇者様の証ですじゃ!」と騒ぎ出し
勇者ミサカ!と村を上げてのお祭り騒ぎ、その後も村にとどまるように懇願された。

御坂「人を探していますから」

事情を説明し、何とか断る。
村長は落胆しながらも色々と手配してくれた。
乗合馬車の代金を立て替え、ダーマ神殿という所に行くことを勧めた。

村長「ダーマ神殿には世界中から人が集まると聞くですじゃ」
村長「何か情報が得られるかも知れんですじゃ」

何の手がかりも持たない御坂にとって、それは有無を言わせない選択肢であった。
かくして他に乗客のいない馬車に揺られながら、御坂は見知らぬ土地を旅していた。

御者「着いたよ」

声を掛けられて幌から顔を出し外を眺める。
そこには街や神殿はなく…洞窟があった。

御坂「あの、ダーマ神殿って所に行きたいんですけど?」

困惑しつつ確認をする。

御者「だから、この洞窟の先だよ」

彼はちょっと曖昧な顔をしながら説明する。

御者「カザーブの村長たっての頼みだったからさ。これでもコース外れて最大限サービスしたんだぜ」
御坂「はぁ…」
御者「こっから先は自分の力で何とかしてくれ」

幸運を祈る、と付け加えた彼が去っていくのを眺めながら、御坂はとにもかくにも洞窟へと足を向けた。

洞窟の中は人の手が加えられているようだった。
光る苔が生えているが、光源のバランスが配慮された配置に生えており
灯りを持たなくとも歩くことが出来る。
しばらく歩くうちに、完全に人工的な場所にたどり着いた。

御坂(扉…?)

ドアノブを手にとって回してみるが、鍵は掛かっていないようだった。
そのまま警戒しつつ中に入ってみる。

「誰じゃ?」

唐突に声を掛けられ身構える。
声のした方へと視線を向けると小柄な男が椅子に座り本を読んでいた。
ホビット。御坂は一瞬で決め付ける。
以前読んだ漫画に出ていた種族である。

ホビット「何の用じゃ?」
御坂「あの、ダーマ神殿って所に行きたくて」

そう返されたホビットは御坂の姿をジロジロ眺める。

ホビット「お前誰じゃ」
御坂「えっと、御坂美琴っていいます」
ホビット「知らん」

見も蓋もなかった

勇者を村にとどまらせたら駄目じゃね?

>>42
エゴだよ!それは!

ホビット「ここが先に抜ける道じゃ」

言われて見た先には石の壁があった。

ホビット「じゃが知らん人間を通すほど暇じゃない」
御坂(本読んでたくせに…)

石の壁に近づくと叩いてみる。
コンコン、と軽い音。確かに裏側が空洞になっているように思えた。
再び壁から離れるとホビットに確認してみる。

御坂「通してくれないかな?」
ホビット「嫌じゃ」
御坂「あっそ」

半眼で呻くと、スカートのポケットに手を入れる。
コインを取り出すとそのまま右腕を壁に突きつけた。

御坂「私さ、遠回りしてる余裕なんてないんだ」
御坂「だから、ゴメンね」

謝罪の言葉と共に

光と力の奔流が壁に吸い込まれた

ホビット「な、な、な、何じゃあこりゃぁ!?」

轟音を上げながら崩れる壁を前にホビットが絶叫を上げる。

御坂「超電磁砲」
ホビット「レ、レール?なんじゃ?」
御坂「レールガン。まぁ、私の…必殺技?」

質問に疑問系で返す。
そのまま口を開けた壁だった空間へと歩き出す。

ホビット「…お前、一体何者じゃ?」
御坂「んー」

彼女はしばらく考えてから言葉を返す。

御坂「ちょっと前までは超電磁砲って呼ばれてたけど、今じゃ勇者ミサカって呼ばれてるらしいわ」

そう言うと照れ笑いを浮かべながらペコリと会釈をし、そのまま奥へと消えていった。

上条当麻はひたすら歩いていた。
気がつくと草原のど真ん中で寝ていた彼は、目を覚ますととりあえずミサカを探した。
しかしいくら探しても手がかりはなく、そのうちに人工的な道へとたどり着いた。
それは道というにはあまりにも雑な轍道。とりあえずそれに沿って歩いていく。

上条「御坂の奴、大丈夫かな…」

どのくらい歩いただろうか。
遠くに街らしきものが見えてくる。
その灯りを確認すると、彼は我慢できずに駆け出していた。

上条さんキタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!!!

そこは、何ともいえない外観をしていた。
例えるなら古来の日本。神殿を中心とした街並み。

上条「何だこれ…」

考えがまとまらない。
これまた古来日本を思わせる格好をした通行人を捕まえて聞いてみる。

上条「すみません、ここがどこだか知りたいんですが」
男「…よそ者か」

それだけ吐き捨てると、男は無視してどこかへ行ってしまった。

上条「おーい…」

途方に暮れる。
他にやることも見つからない上条は、
仕方なく街を歩いて回る事にしてみた。

好奇の目に晒されながら歩き回ること数時間。
上条はある子供を目にする。
両目を押さえ必死に涙を拭う子供。
必死に嗚咽を堪え、それでも漏れる泣き声。
だが、その少年の周りを通り過ぎる大人たちは気に止める様子もない。
上条はその少年の傍まで駆け寄ると屈みこんで尋ねた。

上条「どうした?何かあったのか?」

優しく尋ねる。その声に顔を上げた少年は上条を見て動きを止める。

少年「…よそ者?」
上条「そんなの関係ねぇよ」
上条「お前を助けるのによそ者とかそんなの関係ない。話してくれ」

その言葉を聞いた少年は、そのまま声を上げて泣き出してしまった。

白羽の矢

その言葉が、その家では実際に行われていた
玄関先に撃ち込まれた一本の矢。
それが意味するところは…

上条「生贄ぇ!?」

上条は声を上げた。目の前で力なくうな垂れる少女。その傍らで泣き続ける少年。
彼女と少年の両親、と言っても、もう老人なのだが、彼らもまた沈痛な面持ちでうつむいていた。

上条「何でそんなもの黙って受け入れようとしてるんだよ!?」
父親「仕方がないのだ…」
上条「仕方ないわけ、あるか!」

床を殴りつける。怒りが収まらない。
不条理に対して。そしてそれを受け入れようとしている両親に対して。

上条「どうして戦わないんだよ!?こんな理不尽、何で簡単に受け入れようとしてるんだよ!?」
男の声「…よそ者が知ったような口をきかないでもらおうか」

背後からの声に振り向く。
入り口に1人の男が立っていた。

少女「スサノオ…」
スサノオ「クシナダ…」

男はスサノオと名乗った。生贄の少女、クシナダの許婚であると。

スサノオ「この贄の儀は永年に渡って行われてきた神聖な儀式だ。我々個人の感情でどうこう出来るものではない」

言葉にならなかった。永年?行われてきた?
体が震え始めるのが分かる。怒りでどうにかなりそうになる。
上条はスサノオの胸倉を掴むと叫んでいた。

上条「何で諦めるんだよ!お前、クシナダさんの事好きじゃねぇのかよ!平気なのかよ!?」
スサノオ「黙れ!」

腕を振り払い叫ぶ。その体は震えていた。

スサノオ「平気なはずが…ないだろう…!」
クシナダ「スサノオ…」
スサノオ「この贄の儀で…どれだけの女性が犠牲になったと思う?」
上条「……」
スサノオ「その犠牲によってもたらされている平和を生きてきた我らが…」
スサノオ「いざわが身に降りかかったと言って!何故我らだけが拒むことが出来る!?」
上条「……」
クシナダ「うぅ…」

薄情なわけではない。無慈悲なわけでもない。
彼らもまた、苦しんでいる。上条は感じる。

上条「その御神託っての…あの神殿のヒミコって人が出したんだよな?」

先ほど、少年から聞いた話を確認してみる。
が、誰も答えない。みんな、顔を伏せ押し黙る。
その反応を確かめた上条は外に飛び出すと、神殿へと向けて駆け出した。

神殿自体はそれほど複雑な造りはしていなかった。
とりあえず入り口から直線的に進む。
何度か咎められたが、無視して強引に進む。
腰に何人かぶら下げながら開けた扉の先に、その女はいた。

上条「あんたが、ヒミコか?」

その場にいた人間が一斉に剣を抜く。一瞬で冷える空気、満ちる殺気。

ヒミコ「よい」

彼女はそう言うと妖艶な視線を投げかけてくる。

ヒミコ「わらわは猛々しい男が好きじゃ」
上条「……」

ヒミコの投げかけてくる誘惑の視線を無視する。

上条「…御神託って何だ?」
ヒミコ「フフ…」

上条の問いにヒミコは熱っぽく唇を押さえると、絡みつくような視線を投げかけてくる。

ヒミコ「ヤマタノオロチの声…」
上条「ヤマタノオロチ?」
ヒミコ「外なる災厄から我が国をお護りして下さっておるり護り神様じゃ」
ヒミコ「わしはその御声を代わりに伝えておるに過ぎぬ」
上条「…それで国民を犠牲にしてれば世話ねぇよな!?」

怒りを抑えるつもりはない。話を聞くつもりもない。
目的はただ1つ。

上条「そのヤマタノオロチってのは、どこにいる?」

その問いに、ヒミコは不敵な笑みを浮かべつつ、隠し立てすることはなかった。

書きながら投下してたストックが切れましたorz
これからは超遅筆モードになりますが、黙々と投下し続けると思うんで
興味を持ってくれた方は気が向いたときにスレを開いてみてください

支援なんだよ

上条はクシナダの家へと戻っていた。
贄の儀まであと数日。

上条「その前に決着をつける」
クシナダ「いけません!」

上条の言葉にクシナダは慌てて抗議の声を上げる。

クシナダ「オロチ様はこのジパングの護り神です!決着をつけるなど…」
上条「お前泣いてるじゃねぇかよ!」

聞く耳など持たない。納得など出来ない。

上条「お前だけじゃない!弟も!両親も!恋人も!どれだけの人間が泣いてると思ってんだっ!?」
クシナダ「……」
スサノオ「……」
上条「護り神って…本当にそんな物なのかよ?」

しばらく訪れる静寂。誰も次の言葉を口に出来ない。

上条「…俺はよそ者だから」
スサノウ「…え?」
上条「ヤマタノオロチがただの怪物にしか見えない。だから…ぶち殺す」
スサノウ「……」

それだけ告げると玄関へと歩き始め、駆け出す前に呟く

上条「馬鹿な異邦人が罰当たりなことをするだけだ」
上条「だからこれは…この国のしきたりとは無関係な、事故だよ」

飛び出した異邦人の姿を見送ったスサノオが無念気に呟く

スサノオ「私は…私はここで…こんなところで何をしているんだ…?」
父親「…彼は風かも知れん」
クシナダ「風、でございますか?」

クシナダが呟く。スサノオも義父の言わんとしている事を理解する。

父親「この国に新しい空気をもたらす、風…」

その言葉を聞きながら、スサノオは両手を強く握り締めていた

上条はヤマタノオロチが祭られている洞窟を歩いていた。
溶岩の池が点在する洞窟。蒸し暑いことこの上ないが、
その溶岩の放つ光で洞窟内の視界は保たれていた。

上条(…何をやってるんだ俺は)

歩きながら考える。自問自答する。

上条(御坂を探すんじゃなかったのか?)

ふと、

「私と2度と会えなくなったら、どうする…?」

あの問いかけが脳裏を掠める。

上条(……)
上条(仕方ない、か…)
上条(ふざけんな!)

自分の頬を殴りつける!

上条(必ず探し出して、また会うに決まってるだろ!)

その強い思い。その気持ちがクシナダの境遇と重なって放っておけなかった。

上条(これは俺の気持ちを試す戦いでもあるんだ…負けない、絶対負けない!)

やがて洞窟の最深部。祭殿のある場所へとたどり着いた。

その場所には無数の屍が転がっていた。
屍と共に剣や槍や盾…一目で分かる。
ヤマタノオロチに挑み、そして散った者達だ。
上条は意を決すると声を上げる。

上条「ヤマタノオロチ!居るんなら出て来い!」

しばらくの静寂。

そして溶岩の池から這い出てくる巨大な怪物。
首は5本しかない。上条が知る「ヤマタノオロチ」とは違う風貌だが、それがそうである事は理解できた。
十の深紅の目を光らせ、その怪物が人語を発してくる。

オロチ「来たか…」
上条「まるで俺が来ることが分かっていたような口ぶりだな」
オロチ「ククク…我は全知全能の神ぞ…」
上条「その神が自分の臣民を喰ってりゃ世話ねぇよなぁ!?」

腰を落として身構える。ちらりと地面に視線を落とし、落ちている鉄剣を確認。

オロチ「ククク…今年は生娘と勇敢な男、二人も喰えるとなぁ…クククク!」

その言葉を皮切りに上条は地面から鉄剣を拾い上げると、突撃した。

         _人人人人人人人人人人人人人人人_
        >   そうなんだ、すごいね!      <
       ´ ̄^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄
            __、、=--、、         __
           /    ・ ゙!       /・   `ヽ

           | ・   __,ノ       (_    ・ |
           ヽ、 (三,、,         _)    /
            /ー-=-i'’       (____,,,.ノ

            |__,,/          |__ゝ
             〉  )          (  )

>>80
誤爆スマン

吊ってくる

鉄剣を左手に握り締め走る。
ヤマタノオロチはゆっくりと首を掲げると

炎を吐いてきた!

予想していた攻撃に身をかわし、体勢を整える。

上条(アレが異能の力かどうか分からないうちは)
上条(交わし続けるしかない…!)

浮き出る脂汗を拭うと意を決して再び駆け出す。

オロチ「愚かな」

再び炎を撒き散らすと愉快そうに話し始める。

オロチ「外なる災厄から国を護る我を討とうとは」
オロチ「貴様が外なる災厄だと言うことが分からんのか!」

上条は止らない。鉄剣を握り締めヤマタノオロチへと肉薄する。
そのまま漫然と留まるヤマタノオロチへと斬りつける。

オロチ「貴様のような脆弱な虫けらに我が身が傷つけられると思うな!」

その言葉の通り、左手に痺れをもたらしながら弾かれた鉄剣は

ヤマタノオロチの鱗一枚を剥がす事も出来なかった。

上条は諦めない。今斬りつけた箇所を確認する。

上条(あそこを10回斬り付ける)
上条(10回で駄目なら100回斬り付ける)
上条(100回で駄目なら1000回斬り付ける!)

駆ける。まともにやり合ったら勝ち目はない。
持久戦に持ち込んでも勝ち目はない。

上条(可及的速やかに10000回斬り付ける!)

上条のプランはシンプルだった。
だが裏を返すと他に手がないことも意味していた。
だからこそ吼える。自分を奮い立たせる。
恐怖に負けないように、自分を鼓舞する。

そしてこの手の戦法をヤマタノオロチは飽いていた。
自分に挑み、根拠のない希望に特攻を繰り返す。

オロチ(この男もまたつまらぬ輩か・・・)

対峙時の高揚は徐々に薄れつつあった
つまらない。その感情で満たされつつあった。

オロチ「もうよい…貴様は、もう死ね」

五つのアギトが一斉に天を仰ぎ、炎の奔流を撒き散らした。

一斉に迫りくる炎。
到底交わせる物ではなかった。

上条(…!?)
上条(幻想殺し…!)

咄嗟に右手で体を庇う。
その右手を避けるように左右に割れる炎。
余熱すら打ち消すその右手は、完全にヤマタノオロチの炎を殺していた。

上条(効く!?いける!)

炎を打ち消せることを確信した上条が、先ほどより大胆に攻める。
逆に混乱したのはヤマタノオロチだった。

オロチ(馬鹿な…我が神炎を打ち消した!?)

驚愕で動きが鈍る。だがそれも、自分の堅牢な鱗があっての油断。
敗北の影を感じたわけではない。

オロチ「たった一芸でいい気になるな虫けらぁ!」

前足を振り上げ踏みつけてくる。
体勢を崩した上条に再び炎を浴びせ、また爪を振るう。

オロチ「我が神炎を防ごうとも鉄を裂き岩を砕く我が爪と牙、貴様ごときに遅れはとらぬ!」

その猛攻に身を晒され徐々に命を削られてながら、逆に上条は勝機を感じていた。

炎を吐き、それを打ち消す。
その隙に爪と牙を叩き込んでくる。それを交わす。
まるでルーチンワークのように繰り返しながら上条は待ち続ける。
怒り狂い猛攻を仕掛けてくるヤマタノオロチにいまだ傷1つ付けられないまま、必死に機会を待った。

上条(目だ…アレだけ怒り狂っていれば、必ず俺を噛み殺しに来る!)
上条(その時に目をとる!)

噛み殺すために頭を下げる、その時こそが上条の狙いだった。
猛攻を凌ぎつつひたすらチャンスを待つ。
時間にして数分だろう。上条にとって永遠に感じられたその攻防で、遂に機会が訪れる。

地面を穿つように飛び込んできた顎。それにすばやく飛び乗る。

オロチ「!?」

流石に上条の狙いに気付いたヤマタノオロチが、彼を振り落とそうと暴れまわる。

オロチ「貴様!?貴様ぁ!」
上条「あんたが人間を喰っても許される神様だって言うんなら…」

両足の力を振り絞り必死にしがみ付き、両手で鉄剣を振り上げ

上条「その幻想をぶち殺す!」

ヤマタノオロチの左目に、深々と着きたてた。

オロチ「オオオオオオオオッ!」

暴れまわるオロチに振りほどかれ、背中から強かに落ちる。

上条「ぐぅっ!?」

視界が暗転しそうになるのを堪えながら、必死に気絶することを拒む。

上条「まだだ・・・まだ!」

指先に当たる硬い感触に反射的に握り締める。
手に取った槍を杖代わりに立ち上がり、ヤマタノオロチを睨みつけた。
5本ある頭のうちの1本を地に臥し、踊るように跳ね回るヤマタノオロチ。
その巨体に駆け寄り、滑り台のように下がる首を駆け上がる。

オロチ「オオオオオオ!」

本能的に振り落とそうとするヤマタノオロチの首にしがみ付き、再び槍を振り下ろした。

上条「うおおおおおおっ!」
オロチ「ギャアアアア!」

もんどりうつ。暴れる、何て生易しいものではなかった。
地面を転げ回り、残った首を何度も地に打ちつけ悶え苦しむ。
上条も先ほどより強く地面に打ち付けられ呼吸が止りそうになる。
途切れつつある意識の中で上条が見たものは、
壁の岩を砕き現れた洞穴に逃げ込んでいくヤマタノオロチの後姿だった。

……

!?

飛び起きた上条は慌てて周りを見回す。
一体どのくらい気を失っていた?
数分?数時間?

上条(クソ…早く追わないと…!)

彼は足元の鉄剣を拾い上げると、定まらない足取りで洞穴の入り口を潜った。

どのくらい歩いただろう。
洞穴の終わりは、人工的な壁であった。
それに手をかけ力を込めてみるとすんなりと回転し、上条の体は地に放り出された。

上条「うぅ…」

兵「誰だ!?」

唐突に声を掛けられ。
そこは広い部屋だった。それも見覚えのある。

ヒミコの間であった。

見るとヒミコが布団に寝かされ治療を受けているようだった。
左目から血を流し、息も絶え絶えに横たわっている。

上条「なるほどね…」

上条は理解した。何が御神託だ。何が女王だ。

ゆっくりと彼女に歩み寄る。

兵「止れ!」

一斉に剣を抜く。部屋の中に、再び殺気が満ちる。

ヒミコ「…誰か…誰か早く…その無礼者を斬り捨てよ…」

呻くヒミコの命に近寄ってくる兵達。上条は鉄剣を捨てた。

上条「抵抗はしない」

両手を挙げながら主張する。

上条「だけどそいつはヤマタノオロチだ」
兵「愚弄するか!?」
ヒミコ「早く…早くそいつを殺せ…!」

場に流れる奇妙な空気。
兵達もこの上条の一言に、不可解なヒミコの怪我に対して不信感を持ったのだろう。

上条「一瞬で済む。俺がそいつに触るだけでいい」
ヒミコ「やめろ…ヤメロ…!」
上条「それで何も起きなかったら…首でも何でも斬り落とせばいい」
ヒミコ「殺せ…コロセ…!」

上条の命を掛けた言葉と…ヒミコの狼狽と同時に受けて。
兵達は、事の成り行きを見守ることしか出来なかった。

兵「う、うわあああああ!?」
兵「ヒミコ様が!ヒミコ様がぁぁぁ!」

神殿に突如現れたヤマタノオロチ。
天井は崩れ落ち壁は崩壊する。
その巨体を白日の下に晒すことになったヤマタノオロチは
恨めしげに咆哮を上げ続ける。
兵士達は逃げ惑い、ある者は放心してその場に座り込む。
混乱を極めた戦場と化した神殿で、上条はそいつを見上げた。

5本のうち2本の首を垂らし苦しげに暴れまわる女王を―――

上条「…さぁ、決着をつけようぜ」
上条「化け物!」

倭の国、ジパングは混乱していた。
情報が倒錯し混乱していた。
ある者はヤマタノオロチが攻めて来たと言い、
ある者は異邦人がヤマタノオロチだったと言い、
そしてあるものは

女王ヒミコがヤマタノオロチだったと言った。

スサノオ「上条…上条ぉ!!」

スサノオは剣を取ると身を躍らせる。

父親「どこへ行くスサノオ!?」

静止する義父へ振り返り、彼は言い放つ。

スサノオ「今ここで剣を取らねば…私に倭の国の勇者を名乗る資格はない!」
クシナダ「スサノオ!」

彼は剣を携えると、混乱極める街中を神殿へと向けて駆け抜けた。

目標も定めずに撒き散らされる炎に、兵達は逃げ惑っていた。
それを幻想殺しで庇いつつ、床に落ちた鉄剣を拾い上げる。

ヤマタノオロチ「オオォォォォオオォォ!」

もう首を下げることはない。ひたすらに炎を撒き散らすだけだった。
上条も垂れた首から駆け上ろうと伺っていたが、
無軌道に暴れまわるその巨躯に近づくことさえ出来ずにいた。
床は揺れ、抜け、破れ、足場さえも心許なくなっていく。

兵「うわああああっ!」
上条「くっ!」

逃げ遅れた兵が炎に焼かれようとするのに割って入る。

上条「逃げろ!」

彼が逃げ出すのを見届け、移動しようとした矢先

床が崩れた

上条「しまっ…!」

そして、その頭上から巨大な足が降ってきた。

っ・・・!

上条当麻は死を覚悟したが、その巨大な足が落ちてくることはなかった。

上条「・・・?」

目を開けると、その巨大な足を剣で受け止めるスサノオの姿が目に飛び込んできた。

上条「スサノオ!?」
スサノオ「うおおおおっ!」

全身の筋肉を一気にバンプアップする。そのまま押し返し弾き飛ばす!

上条「凄っ…!?」
スサノオ「上条…上条…!」

彼は泣いていた。一瞬で命が灰になる戦場で泣いていた。

スサノオ「私は…私は…!」
上条「…話は、あの化け物を倒してからにしようぜ」

視線を投げかけるその先には
ヤマタノオロチが雄たけびを上げながら立ち尽くしていた。

オロチ「わらわらは…神じゃ…!この国を護る神じゃ…!」

うなされるように吼える化け物。
その姿をスサノオは怒りの眼差しで睨みつけていた。

オロチ「わらわらは神なるぞぉぉぉ!」

一気に炎を吐き散らしてくる。

上条「お前は疫病神だよ」

その炎を右手で掻き分けるように打ち消す。
刹那、背後から飛び出したスサノオがヤマタノオロチの体中央に剣を突き立てていた。

スサノオ「滅びろぉ!」

そのまま剣を沈めていく。
暴れまわる巨躯。転げまわり跳ね回るが、剣から手を離さない。
剣が根元まで突き刺さり、固い感触を感じる。
と同時に、化け物の目から赤い光が失われた。
ゆっくりと傾き、轟音をたてながら倒れこむ巨体。

戦いは―――終わったのだ

上条「はぁ…はぁ…」
スサノオ「はぁ…はぁ…」

どぉ、っと二人もその場に倒れこむ。
上条にいたっては、もう自力で立ち上がることも出来なかった。

スサノオ「上条…上条ぉ…」

今度こそ、化け物に引導を渡した勇者が泣き崩れる。

上条「スサノオ…ありがとう」

目を閉じたまま礼を言う上条に、倭の国の勇者は何度も何度も地面に額を擦りつけ礼を返した。

一週間ほど過ぎクシナダの家で療養していた上条は旅立つ決心をした。
歩けるようになったら出て行こう、と前から決めていたのである。

クシナダ「まだ傷も癒えてないのに…」

心配そうに言う彼女に力瘤を作って、「体だけは丈夫なんだ」と笑顔で応える。

上条「…それに、探し出さなきゃならない奴もいるしな」

この一週間で大体の事情は話していた。
おそらく別の世界から来たこと。その時、大切な友人とはぐれた事。
彼女を見つけなければならない事。元の世界に帰る方法を探さなければならない事。

スサノオ「名残惜しいな」

彼女の許婚も残念そうにしていた。

スサノオ「お前はこの国の英雄だ。出来れば復興に協力して欲しいのだが…」
上条「買いかぶりすぎだって!上条さんはきっかけ作っただけで、未来を掴んだのはスサノオ自身だろ」

スサノオとクシナダが見詰め合って赤面しあう。

上条「ところで親御さんとイザヨイ(弟)はどこ行ったんだ?」
クシナダ「炊き出しですって。あの子、自分も頑張るんだって張り切っちゃって」

三人で笑いあう。そして、しばらく続く沈黙。

上条「…俺、もう行くよ」

スサノオ「そうか…」
クシナダ「でしたら、これをお持ち下さい」

クシナダが差し出してきたのは、紫色の光を揺らす宝玉だった。

上条「これは?」
スサノオ「ヤマタノオロチの体内から出てきた宝玉だ」
クシナダ「この玉からは、何か厳かな力を感じます…もしかしたら元の世界へ帰る手助けになるかもしれません」

上条はその紫色の宝玉を左手で受け取り眺めてみる。
不規則に揺れる紫の光は、確かに何かご利益ありそうだと思った。

スサノオ「…そいつのせいで、あの化け物も神になるなんて思い立ったのかも知れんがな」

神妙な顔で呟くスサノオ。だが、次の瞬間には笑顔で続けてきた。

スサノオ「人を探すならダーマ神殿に行くといい。あそこには世界中の情報が集まる、きっと手掛かりがあるはずだ」
上条「…ありがとう」

礼を言い身支度を整える上条。その横でスサノオも巾着を携えると、「行こう!」と言う顔をしている。

上条「あのー…スサノオさん?」

何やら嫌な予感がして、名前を呼んでみる。
その声にニヤッと笑うスサノオがバンバンと肩を叩いてきた。

スサノオ「ダーマ神殿までどうやって行くつもりだ?船がないと話にならんぞ?」
上条「…クシナダさん、あなたの旦那さんがこんなこと言ってますけど?」

クシナダ「上条さんには本当にお世話になりましたので」

笑顔で応えるクシナダ。

スサノオ「どうせダーマ神殿までの短い仲だ、そう冷たくするな」

はぁ、とため息をつくと笑顔で右手を差し出す。

上条「…よろしく、スサノオ」
スサノオ「よろしく、上条」

そして二人は小さな船を出した。
それはほんの数時間の短い航海・・・


そのはずだった

船乗り「また来たぞー!」
スサノオ「次から次へと…!」

上条たちは海の上でも戦っていた。
相手は冗談みたいな大きさの大王イカ。
その足が船を絡み取り、船体が悲鳴を上げていた。

上条「くそ!くそぉ!邪魔すんじゃねぇよ!そこをどけよ!」
スサノオ「上条っ…!」

みしっ・・・

遂に耐え切れなくなった船は…

上条とスサノオ、そして船乗りを海に放り出して藻屑と消えた…

空腹が限界なんでコンビニ行ってきます
落ちてたら立て直してしつこく続きやります
次は美琴のターン

ただいま、保守どうもです

御坂はホビットの洞窟を抜けると、とりあえず街道沿いに歩いていた。
轍の後が少ないことを見ると、次の街まで歩いていける距離なのだろうと考える。
ただ歩くのも暇なので色々と考えてみる事にした。

御坂(…まず、重要なのはあいつと再会したときの態度よね)
御坂(何ていうか、喜んでるところ見られたら、私がはぐれたみたいじゃない)
御坂(やっぱりここは「どこほっつき歩いてたのよ、このバカ!」がベストかしら?)
御坂(いやいや…これって下手したらツンデレ?って態度に取られるかもしれない)
御坂(「世話やかすんじゃないわよ、このバカ!」…んんー、何か違う…)

悶々としながら歩く。

御坂(ここは変化をつけて「ずっと会いたかったんだから、このバカ!」…)
御坂(…ありえないわね)

あれこれ考えながら歩くうちに、日が暮れ始める。程なくして

道の向こうに街の灯が浮かび上がってきた。

街に入り、宿を探すことにする。
交易が盛んなこのバハラタの街は、宿屋なども分かりやすい場所に点在していた。

御坂「村長さんに貰ったお金もあんまりないみたいだから、出来るだけ安いところ…」

あちこち宿屋の前の立て看板で料金を見比べる。
数字の表記だけはガザーブで習っていたので、何とか理解することが出来た。

御坂(そもそも基準がよく分からないわ…)

高いのか安いのかも分からずにウロウロと行ったりきたり。
もういい加減適当に入ろうかと考え始めた矢先、裏道の方で言い争う声が聞こえてきた。

老人「やめんかグプタ!お前が行って何が出来る!?」
青年「ここで待っていても何も変わりませんよ!」

ちょっとした好奇心で覗いてみることにした。
そこには老人と、お世辞にも健康そうには見えない青年が激しく言い合う姿があった。

グプタ「もう自警団の捜査を待てなんて聞きたくない!もうこれ以上待てませんよ義父さん!」
老人「お前が行っても殺されるだけじゃ!」
グプタ「タニアは死ぬより辛い目にあっているのかもしれないんですよ!?」
老人「…!」

御坂は頭を抱えた。聞いたことを後悔するた。
「お前が行っても殺されるだけ」
「死ぬより辛い目にあっているかもしれない」
あのバカが聞いたら、ニトロ背負って火をつけてぶっ飛んでいきそうな内容だった。

グプタ「どこにいるかはもう分かっているんです!僕は行きます!止めても無駄ですよ!」
老人「待て、グプタ!待たんかこの馬鹿者・・・!」

その青っひょろい青年は駆け出すと御坂の横を通り過ぎていく。
「タニアー今行くぞーっ」とお世辞にも覇気も迫力もない声を上げながら。

老人「あぁ…どうすればいいんじゃ…」

老人はガックリと肩を落とし、頭を抱えた。
御坂もガックリと肩を落とし、頭を抱えた。

とりあえず放って置くわけにも行かずに老人に近づいていく。

御坂「何かわけありみたいだけど…」

その声にパァと表情を輝かせながら顔を上げ、
再びガックリとうなだれた。

老人「子供には関係のない話じゃよ…」

むかっ

御坂は無言で右腕を掲げ、振り下ろす。

ずしゃぁ!と電撃が弾け衝撃波が御坂のスカートと老人の服をはためかせた。

御坂「何かわけありみたいだけど?」

もう一度聞き返す御坂の両手を老人は涙を浮かべながら握り締めてきた。

最近の1は10レスぐらいで寝る奴らばかりだからこの1はカッコイイ

http://sukima.vip2ch.com/up/sukima026710.png

御坂「誘拐…?」

老人が営む商店で出されたお茶を飲みながら聞き返す。

老人「つい最近現れた盗賊が、ずっと打ち捨てられていた東の洞窟要塞に根城を構えよってな」

ずずず、とお茶お飲みながら続ける。

老人「娘の命が惜しければ、定期的に黒胡椒を上納しろ、とな」
御坂「黒胡椒?そんな物を?」

御坂の何気ない一言に老人は驚愕の表情を浮かべる。信じられない、と言った勢いでまくし立てた。

老人「黒胡椒じゃぞ!?あの黒い黄金と名高い黒胡椒なんじゃぞ!」

あまりの勢いに「ごめん」と謝りその場を収める。
おそらく自分の住む世界とは価値観が違うのだろう。
そう思い納得することにした。

御坂「それでその…タニアさんの婚約者の…」
老人「グプタじゃ…あの馬鹿者、どうせ根城に着く前に腹抑えて苦しんどるわ」
御坂「…」

あの青白い顔を思い出して納得する。が、とりあえず流すことにした。

御坂「ようはタニアさんと…あとグプタ君を助け出せばいいのね?」
老人「おお、やってくれるか!?」

今更イヤとは言えずに、御坂は頼もしい苦笑いで首を縦に振った。

御坂は陽が落ちきる前に出発した。
もちろん夜に奇襲するためだ。
老人に描いてもらった地図を頼りに歩を進める。
そもそも行き先の草が踏み倒されており、地図もいらなかったかも知らない。

御坂「これは…グプタ君ね」

踏み倒された草を頼りに足を速める。
その根城の前に着いたのは、日も暮れて周りが闇に包まれた頃であった。

>>135
もろたぁぁぁ!

御坂(さて…問題は相手のフォーメーションなんだけど…)

屋内戦闘のプランを練りながら内部へと侵入する。
根城内は既に火が灯されており、闇に紛れる事は出来そうになかった。

御坂(あいったー…こりゃ本気でノープランの奇襲戦かな)

身を滑り込ませ扉を開く。隙間から手鏡で様子を伺いながら次の部屋へ。
何度も同じ事を繰り返すうちに、開けた部屋、というか、広めの通路に出る。
その奥の扉の隙間から光と、聞き覚えのある声と女性の声が漏れていた。

御坂(なんだか拍子抜けねー、まぁ楽でいいけど)

扉を少し開け、手鏡で確認。そのまま滑り込んでいつでも放電できるように構える。
だが、やはりその部屋にも盗賊は居なかった。
居るのはお互いに慰めあいながら励ましあい、泣きあっている男女二人。

グプタ「タニア…ああタニア…こんなに愛しているのに顔も見れないなんて!」
タニア「グプタ…愛しいグプタ…もう会えないと思っていたのにまた声が聞けるなんて…」

お互い別々の牢屋に入れられた二人の恥ずかしい会話を出来るだけ耳に入れないようにして、
グプタが入れられている方の牢屋の前に立つ。

グプタ「ひっ!?」
御坂「ふぅ…助けに来たわよ」

前髪をかき上げながらため息をついた。

グプタ「ほ、ほんとに・・・?」
御坂「嘘ついてどうするのよ」

少し疲れを感じながら、牢屋の錠を見る。

グプタ「だったらあそこの壁に鍵を開くための仕掛けが…」

ボンッ

有無を言わさず鍵を吹き飛ばす。

グプタ「…」

呆けているグプタを放置して、タニアの牢屋の前へ。
同じように鍵を吹き飛ばし、声を掛ける。

御坂「もう大丈夫よ」

タニア「グプタ!グプタァ!」

御坂の言葉を無視し、一目散にグプタのもとに走るタニア。
泣きながら抱き合う二人を尻目に、所在なさげに立っているしかなかった。

ひとしきり抱き合った二人がこちらを向いて頭を下げてくる。

グプタ「本当にありがとう…!」
タニア「このご恩は忘れません…」

抱き合いながら器用に頭を下げてくる二人。
右手だけひらひらさせながら応える。

御坂「あー、別に大したことしてないから。それよりあいつら帰ってくる前に逃げたら?」
グプタ「そ、そうだね」
タニア「行きましょうグプタ」

二人は手をつないで扉から出て行った。

御坂(…一体なんだったのかしら)

両膝に両手をついて体重を支えながら、ベッドが恋しくなる体に渇を入れる。

御坂(私も帰らなきゃ)

そう思った矢先

先の通路からタニアの悲鳴がこだました。

グプタ「タ、タニア!僕の後ろへ!」
タニア「グプタ…!」

彼女を庇う青ひょうたんを、2メートルは超えるであろう大男が待ち構えていた。
その体は全身にやけどの跡があり、ところどころ焦げていて、包帯を巻いている。
扉の向こうからその姿を確認した御坂は頭を抱える。

カンダタだった。

カンダタ「へへへ、ネズミを見たら仲間がいると思えってなぁ」
手下A「流石親分!わざと誘い込み一網打尽!」
手下B「頭脳もさすがでやすよ親分!」
手下C「そこに痺れる憧れるぅ!」

やいのやいの騒いでいる連中の声を頭を抱えながら聞いていた御坂が通路に入る。

御坂「あんたらも懲りないわねぇ…」

手下A「げぇ!?お前は!」
手下B「何でお前が!?」
手下C「どうしてここに!?」
カンダタ「…また邪魔をしに来たか」

御坂「全部お返しするわよ、その台詞」

本格的に疲れを感じながら、呻くしかなかった。

ちらり、と怯えている二人を見る。
ポケットからコインを取り出すと右手を掲げ、ふぅ、とため息をつくとカンダタ一味に告げる。

御坂「私の直線上に居たら…死ぬわよ?」

手下達が慌てて通路の端に移動する。
だがカンダタだけは動かなかった。

カンダタ「そ、そんな脅しにこの俺が…」

バリバリバリ!っと全身から放電する。
埃が舞い、舞い上がった埃が爆ぜ、御坂の周りに異様な威圧感を生んだ。

カンダタ「クソッ・・・!」

仕方なく通路の端に移動する。
それを確認してから二人に声を掛けた。

御坂「あんたたち、帰っていいわよ」

グプタ「…え?」
カンダタ「ふ、ふざけんじゃねぇ!」

御坂「…あ?」

バチバチバチ、と再び火花が連鎖し、きなくさい臭いが充満する。

結局、カンダタ4人組は恐る恐る帰る二人を止める事が出来なかった。

カンダタ「…これで勝った気になるのは…早いぜ」

苦々しく言い放ったカンダタが天井から降りる鎖を掴む。
そのまま一気に引き下げると、出口の扉の前に石の扉が落ちてくる。

カンダタ「正真正銘、袋のネズミだ」
手下A「お、親分?」

出来るだけ穏便に済ませたかった手下達が怯え始める。

手下B「逃げられないのは、あっしらの方なんじゃ…」
カンダタ「うるせえ!」

カンダタが怒鳴る。熱弁する。

カンダタ「こんな狭いところで派手なことが出来るか!」
カンダタ「この狭い空間で連携を取れば、今度こそ勝てる!」
手下B「そ、そうでやすか・・・?」
手下C「何だかそんな気がしてきましたぁ!」

はああぁぁぁ、と長く深いため息をついたのは御坂。
片目をつぶり呆れたように言い放つ。

御坂「私だって本気で撃つつもりなんてなかったのに…そんな事されたらホントに撃つしかないじゃない」
4人組「え?」

その日、カンダタ盗賊団は―――地上から消滅した

しえん

                                                                  /  ..-‐
                                                                /{ ∠ -‐≦-―…¬ヤ
                                                                _〈::レ:´:::::::::::::::::::::::::::::::<
                                                           ,. ::´:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::≧._
                                                             ∠. -ァ::::::,イ:!:::lヽ::::::::::::::::::::::::<.  ̄
                         , - 、                ,.ヘ、                       /イ :::ハ|ヽ! !ヽ::::!:::::::::::::::\ `
                         r´ 「三三三l           !  ト、                     / l::,イ    !7::ヽ!::::::::::: '. ̄
                     (( .l.三三三l . ノ!            / \                        |/ ヽ - ィ\!::::::::.ト、::::!
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                                  {   \ Y . : :´ }、          ',.  h_, .<  〈  /.l ./ D  !  ハ
 、    、 ’、  ′     ’      ;    ∧   | . : :´    1            ;r‐'   _, -‐ `ヽ.' l/     l   ハ,
  .. ’        ’、   ′ ’   .        { \. : :´  \  ,ノ           } ~廴ぅ'´       i      l.-‐Tフ
     、′・  ’、.・”;  ”  ’、             . : :´      ヘ√.            ;.            '        7.l  l
 ,;′   ’、   (;;ノ;; (′‘ ・. ’、′”;       . : :´                     ,’           .'         ,' !  l
’、  ・ .(; (´;^`⌒)∴⌒`.・ ”   ;     . : :´                     厶イ             /        ム !  l
 .、  ’・ 、´⌒,;y'⌒((´;;;;;;ノ、"'人   ,.r: ´   ___弖丕二ニ=/1-- ‐ \¨  ̄             〈        ハ,_!  l__
    、(⌒ ;;;:;´'从 ;'   ;:;;) ;⌒ ;; :) )、 ̄ ̄ ̄         ヘ  / 〉    |    √              }ー-.. __,.∠.イ !  l_,∠
     ( ´;`ヾ,;⌒)´  从⌒ ;) `⌒ )⌒:`.・            Y  く_,ノ   ∨⌒′            /  !  l   ! ヘ  !  l,.イ
‘:;゜+° ′、:::::. ::: ´⌒(,ゞ、⌒) ;;:::)::ノ                                        /.   l  l  ', ∨l   !
    `:::、 ノ  ...;:;_)  ...::ノ ソ ...::ノ                                        廴_!__!__,..-ィ!  ヘ
                                                                 l    ! ヘ    マ-‐'′
                                                                 l    !   ヽ   丶
                                                                 l    l    ヽ   ’.

御坂「うわぁぁぁ、気持ちよかったぁ」

体を洗った御坂はベッドの上に倒れこんだ。
広い部屋、バス付きトイレ付きキッチン付き、
ベッドはキングサイズでふかふかの超スィートルームだ。
グプタの父親から報酬として大量の黒胡椒を渡されそうになり、
慌てて今夜の宿でいい、と申し出て用意してもらったのだ。

老人「好きなだけ泊ってかまわんよ」

その申し出はありがたかったが、もう日が明けたら出発しなければならない。
このバハラタからダーマ神殿は乗合馬車で半日ほどの距離らしかった。

老人「せめて馬車の代金だけでも受けてっとくれ」

そう言われて受け取ったダーマ神殿行きの切符を握り締めたまま、
彼女は静かな寝息を立てて眠りに落ちた。

>>156
もろたぁぁぁ

我が部屋に家族の襲来orz
更にペース落ちるかもしれないゴメン

>>166
がんばれ

ダーマ神殿についた御坂は、手当たり次第に黒髪ツンツンで
「ぶち殺す」が口癖の男を知らないか尋ねて回った。
何日も何日も尋ねて回り、何日も何日も待ち続けた。
そして1週間ほど待ち続けたある日、ある知らせが飛び込んでくる

「御坂美琴って女の子を捜している男が診療室に運び込まれた」

御坂は走った。
階段を全飛ばししながら駆け下りる。
頭の中で色々なことが溢れては弾ける感覚。

はじめに何て言ってやろう。

叱ってやるか、それともここに辿りついた事を誉めてやるか

色々な考えがまとまらない内に診療室に辿りついた彼女は
勢いよく扉を開けると叫んでいた。

御坂「心配かけんじゃないわよ、このバカ!」

御坂「…だ、誰?」

ポツリと呟きを漏らす。

その男は全身を包帯で巻かれていたが、明らかに上条当麻ではなかった。
おそらく髪を束ねていたであろうその長髪は乱れ、意識も朦朧としているようだ。

その男にフラフラと歩み寄ると、もう一度呟いた。

御坂「…誰?」

男「私は…ジパングで漁師をやっているものです…」

ジパング?この神殿に来た人の中には、まだその国の人は居なかった。

男「上条様は…」

上条様?何?アイツまたヒーローにでもなったの?全くアイツはいっつも

男「船上でモンスターに襲われ…海に投げ出され…」

…は?

男「せめてこの事だけでも伝えねばと思い・・・」

ちょっと…待って…

御坂「…何それ?」

力が入らない。何故か、何故か力の入らない笑顔になった。

|∧∧
|・ω・`) そ~~・・・
|o④o
|―u'


| ∧∧
|(´・ω・`)
|o   ヾ
|―u' ④ <コトッ




| ミ  ピャッ!
|    ④

その日、御坂は眠れなかった。
ずっと膝を抱えていた。
涙は出ない。出さない…必死に堪えていた

(あのバカは殺したって死なないんだから…)


次の日、彼女は質問の内容を変えていた。

「異世界へ行く方法を知らないか?」

商人、魔法使いを中心に尋ねて回る。

そんなアイテムがないか、そんな魔法がないか。


あのバカはきっと生きてる。

だから私は…アイツと再会した時に言ってやるんだ。

―――もう帰る方法見つけちゃったわよ、バカ

上条「んぐんうっぶあ!み、水!ンググググ…ぷはぁ!」
スサノオ「…もう少し落ち着いて食ったらどうだ?」

スサノオが呆れた顔で言ってくる。

上条「怪我には肉食うのが一番なんだよ!」
スサノオ「…」

レーベの村の食堂。

そこで二人は食事を取っていた。
あの後、運良く流木に掴まれたスサノオが、ずっと上条を離さなかったのだ。

上条「それにしてもお前ホント凄いな」

肉を中心に頬張りながら言ってくる。

上条「あの後、一睡もせずに岸に着くまで俺を抱えてたんだろ?ホント助かったよ」
スサノオ「お前に受けた恩に比べれば微々たるものだ」
上条「それにしてもここってどこだ?」
スサノオ「アリアハンのレーベの村だな」

一呼吸着いてから後を紡ぐ

スサノオ「勇者オルテガの、そして勇者アレスの故郷、その隣村だ」

二人はそのままアリアハンの城下町へ立ち寄ることにした。
漂流したことで色々な装備を失ったこと、何より、2大勇者の実家に興味があった。
道行く人に尋ねてみる。
「勇者の実家はどこですか?」「あれですよ」
…手馴れた感じだった。

上条「…もしかして観光名所化してるのか?」

言われた2階建ての家を目指す。
その庭にはシーツが干してあり、一見普通の家庭に見えた。

玄関先にゴツイ甲冑を着込んだ大男が直立不動で立っていることを除いて。

上条「…あの、すいません」
大男「……」
上条「ここって勇者さんの実家ですよね?」
大男「……」

最小限の動きで縦に一度だけ頷く。

上条「お邪魔してもよろしいですか?」
大男「……」

今度は微動だにしない。

上条「駄目ですか?」
大男「……」

やはり凍りついたように動かない。

スサノオ「なるほど、自分にその決定権はないと…」
上条(何で分かるんだよ…)

意思の疎通が成立しそうな二人に冷や汗をかいていると、奥から中年の女性が顔を覗かせる。

女性「あらこんにちわ、アレスのお友達かしら」
上条「え、いや、その」
女性「ほらほら遠慮しないで上がって頂戴。アレスー、お友達よー」

女性に背を押され2階まで連れて行かれる。
そのまま一室のドアを開き、中に連れ込まれ

女性「ゆっくりして言ってね」

バタン

上条「…こんにちわ」
スサノオ「お邪魔する」
勇者「…こんにちわ」

……

勇者「えっと、誰?」

その部屋には3人が居た。
それぞれが自己紹介を済ませる。
勇者アレス、魔法使いドロシー、僧侶レナス

アレス「んで下に居るのが戦士のゴンザレス」

ふと疑問に思い尋ねてみる

上条「何故あの人はあんなところにいるんでしょうか…」

アレス「だってここのドア潜れねぇんだもん」
ドロシー「それ以前に階段の幅、足りないしね」

上条「あー…」

納得する。

アレス「で、何の用?作戦会議中だから、冷やかしなら勘弁して欲しいんだけど?」

視線を落とすとテーブルの上に何だか見たことがある宝玉がいくつか置いてあった。

上条「あれ、これって…」

あの紫の宝玉を左ポケットから取り出してみる。

上条「何だかこれとそっくりなような…」

……

3人「ああぁぁあ~っ!!!??」

ドロシー「あんたかぁ!」

彼女はガタッと立ち上がると顔を肉薄させてきた。

ドロシー「返せ!今すぐ返せ!さっさと返せ!」
上条「え?え?え?」

その間にスサノオが割って入る。

スサノオ「この宝玉は上条が命を賭けて手に入れたものだ。返せといわれる筋合いはない」
ドロシー「ぐっ…!」

その言葉に一瞬は引き下がる。だが再び顔を近づけてきた。

ドロシー「で、でも有効利用度的に言ったらアタシたちの方が断然上って言うか!」
レナス「お、落ち着いてドロシー!」

大人しそうなレナスが必死に止めに入る。

上条「そ、そんなこと言われても、これ俺にも重要な鍵かもしれないし…」

と、突然、ごん!と物音がする。

音がした床に目を向けると…


勇者アレスが土下座していた。

再び家族突入中・・・しばらくお待ちくだしあ

アレス「頼む!世界を救うのにそれがどうしても必要なんだ!」
上条「せ、世界!?」

スケールの大きさに慄く。
自分は、自分が元の世界に帰るのに使おうとしていた。
それなのにこの男は世界のために使おうとしている。

歯を食いしばり上を向く。ブルブルと震える手で紫色の宝玉を机に置くと、力なく応えた。

上条「使ってくれ」
アレス「ほ、本当か!?」

四つん這いのまま顔だけ上げて聞いてくる。

スサノオ「上条…」
上条「いい、何も言わないでくれ…」

肩を震わせながら、うつむく上条。

ドロシー「……」
アレス「あ、ありがとう!じゃあ遠慮なく!」

立ち上がり宝玉を握り締めようとするアレスの頭をドロシーが叩く。

ドロシー「あんたってホント誠実なくせに鈍いわね。ある意味タチ悪いわよ」
アレス「え?」

ドロシーが上条の目を覗き込みながら聞いてくる。

ドロシー「事情を話して御覧なさい。何とかして上げられるかもしれないわ」

上条は話す。
自分が違う世界の事を。
仲間とはぐれてしまった事を。
元の世界へ帰る手段を探している事を。

目を閉じて話を聞いていたドロシーが、「大体わかったわ」と返す。
そして自分の荷物をあさり始めた。

レナス「ドロシー?」

仲間が尋ねるが、ああでもない、これでもない、とかき回しつづける。
やがて1つの小さな朱色のルビーを取り出すと、それをテーブルの上に置いた。

ドロシー「パープルオーブとこれ、フェアに交換しましょう」

その言葉にアレスとレナスが驚愕の声を上げた。

レナス「それって、精霊ルビスの涙じゃないですか!?」
アレス「それこそ俺達の切り札かもしれない宝珠…ブっ!」

ドロシーに顔面を叩かれるオーブ。

ドロシー「かもしれない、よ。それに『彼の切り札かもしれない宝珠』を土下座してまで奪ったのは誰かしら?」
アレス「…俺です」

上条「よく話が見えないんですけど…」

困惑しつつ尋ねる上条にレナスが応える。

レナス「精霊ルビスの涙は、小さな奇跡を起こすと言われています」
ドロシー「伝承では、死んだ直後の人間なら蘇生してるし、天空の国へ行ったってのもあるわ」
上条「天空の国!?」

やはり「異世界」関連の話題には食いついてくる上条。

スサノオ「つまり今ここで二人が元の世界に帰るように願えばいいという事か」
ドロシー「そんなに甘くないわよ、小さな、って言ってるでしょ」

人差し指を振りながら片目を閉じ説明する。

ドロシー「対象がその場に居ることは、まず絶対条件でしょうね」

だんだん誤字が増えてきたorz
もうちょいで完走できると思うから大らかな目で脳内補完して下さい

御坂はまたもや馬車に揺られていた。
ダーマ神殿で知り合った商人に、真実の姿を写す「ラーの鏡」の話を聞いて
その伝説が眠るサマンオサまで同乗を願い出たのだ。

御坂(私達にとって、この世界が偽りなのなら…)
御坂(その鏡で何とかなるかもしれない…)

僅かな希望を胸に、要塞都市サマンオサを目指した。

上条たちはダーマ神殿にいた。
ドロシーの瞬間移動呪文で送ってもらったのだ…しかし。

上条「サマンオサって国に行ったぁ!?」
スサノオ「入れ違いか」

落胆する上条。

ドロシー「サマンオサには行った事ないなぁ」

悔しそうに呟くドロシー。

上条「って、サマンオサってどこ?」
ドロシー「別の大陸」

今度こそ両手を地に付き落胆する上条。

スサノオ「我々も後を追うしかないか」
ドロシー「そうね、今から定期便で追いかければ一週間程度の誤差で現地に着くかもね」

上条「一週間か…」

呻く。

その上条にドロシーがニヤリと意味ありげな表情を浮かべる。

ドロシー「定期便、ならね」

上条「うおおおお!速ええええええ!」

思わず声を上げる。
勇者アレス愛船の甲板の上で身を乗り出して先を眺める。
各所に鉄の補強がしてあり大王イカ程度ではビクともしない。

航路も商業的事情を無視して最速のコースを選ぶことが出来ると
正に上条にとって渡りに船だった。

アレス「本当は手伝ってやりたいんだけど、俺達も急ぎの用があってさ」
上条「送ってもらえるだけ、ありがたいって」

その水平線の向こう側に御坂の顔を見ながら、上条を乗せた船は邁進した。

上条さんルーラで運べるん?

>>219
そのへんの矛盾は見えない振りしていただくとありがたいお願いします

サマンオサに入った上条たちはまず宿屋を目指した。
予定より早く着いてしまったが、もしかして御坂の方が早く着いている可能性があったからだ。
情報を収集するがそれらしい物はなし、初日は空振りだった。

上条「やっぱ俺達のほうが早かったかな」
スサノオ「時期的には微妙だが、その可能性が高いな」

言いながら宿屋へと向かう。そこへ兵士が駆け寄ってきた。

兵士「オイ、お前ら!」
上条「ん?」

立ち止まり、振り返る。
まさか自分達がどうこうされる理由もないため、別に気にもしてなかった。

兵士「お前未成年だろう!何故酒場に居た!」
上条「あー」

言われて考える。

上条「すいません。でも俺、一滴も飲んでないですよ」
兵士「そんな言い訳が通るか!」

ドゥ!っと腹部に激烈な痛みを感じる。剣の柄で殴られたのだ。

スサノオ「おい、いくらなんでも…!」
兵士「ほう…お前は公務執行妨害か。二人まとめて捕縛する必要があるようだな」
上条「…な、何だ…と…」

駆け寄ってくる多数の足音を聞きながら、上条の意識はそこで途切れた。

まーた誤字
一行目、宿屋→酒場

もう寝た方がいいんだろうか

目を覚ますと牢獄だった。すえた臭い、淀んだ空気で地下であることが伺える。

スサノオ「目が覚めたか?」
同じ牢屋に入れられたスサノオの言葉に答えながら体を起こす。
周りを見回して呻く。

上条「こりゃ未成年の飲酒で放り込まれるレベルじゃないでしょ、飲んでないけど」
スサノオ「まぁ、な」
上条「どのくらい寝てた?」
スサノオ「一日は経っていないはずだ」

「そうか」と頭を擦りながら、扉の場所まで歩いていく。

スサノオ「無駄だよ」

意図を察して声を掛けてくる。

スサノオ「やたら頑丈なんだ、力じゃ壊せない」
上条「ふーん」

と、錠に触れる。

 ガッチョン

……

二人の間に流れる微妙な空気

上条「え、えーと、開いたみたいなんですけど…?」

兵士の気配がないか気を配り、慎重に歩を進める二人。

上条「あれって魔法の錠前って事だよな」

先ほどの疑問を口にする。

上条「未成年の飲酒で使うレベルじゃないよな、飲んでないけど」
スサノオ「そうだな…しっ」

スサノオが静かにするように指を立てる。

ひゅ~・・・ひゅ~・・・

かすかに聞こえる空気が漏れるような音。

音のする牢を覗くと、やせ細った老人が横たわっていた。

試しにその牢の錠前も右手で触れてみる…案の定開いた。

上条「この国じゃこれがスタンダードなのか?」

そっと近寄り、声を掛けてみる。

上条「じいさん、大丈夫か?」
スサノウ「これは…」

老人の顔色を見たスサノオが呟く

スサノオ「毒だな」

上条「毒って…」

慌てて老人に呼びかける。

上条「もしもし、大丈夫ですか?もしもし?」
老人「ゥ…」

反応が返ってくる。上条は更に呼びかけ続けた。

老人「わしは…わしは…死ぬのか…?」

虚ろな目で問いかける。

スサノオ「適切な処理をすれば、大丈夫です」

ハッキリと応える。

老人「情けないことに…国を乗っ取られて…ごほっ」
スサノオ「…無理はしない方がいい」
老人「今の王は…魔物じゃ…」
上条「なッ!?」
老人「頼む…この国を…」

そこまで話すと、老人は気を失った。

上条「なんか色々とやばいみたいだな」
スサノウ「…急ごう」

老人の事は気になったが、一先ず外に出るために先を急ぐ事にした。

サマンオサに入った御坂はまず酒場を目指した。
「ラーの鏡」について情報を集めるためだ。
情報を収集するがそれらしい物はなし、初日は空振りだった。

御坂「やっぱそう簡単にはいかないか」

言いながら宿屋へと向かう。そこへ兵士が駆け寄ってきた。

兵士「もし!お待ち下さい!」
御坂「ん?」

立ち止まり、振り返る。
まさか自分達がどうこうされる理由もないため、別に気にもしてなかった。

兵士「もしや勇者ミサカ様ではありませんか?」
御坂「あー」

言われて照れる。

御坂「すいません。私、全然そういうのじゃなくって」
兵士「ご高名は聞き及んでおります」

ビシッと敬礼をされる。

御坂「ちょっと!?見られてますから…!」
兵士「定期便にあなたの名前がありましたのでお待ちしておりました。王様がお待ちです」
御坂「…え、えぇ…?」

断りたかったが、王直々の要請では無下には出来なかった。

御坂が通された部屋はやたら豪華だった。
無駄に大きいソファーにちょこんと腰掛けて、待たされる。
どのくらい待っただろう、小太りの男がやってきて大臣だと名乗る。

大臣「王は天空テラスでお会いになるそうです」
御坂「天空テラス?」

階段を上りながら説明を受ける。

大臣「ええ、とても広いので気持ちもいいですよ。星空も綺麗でしょうな」
御坂「はぁ…」
御坂「普通こういう時は謁見の間って所じゃないんですか?」

普通に疑問に思った事を口にしてみる。
これではデートの誘いではないか。

大臣「王も気まぐれの多い方ですから…着きましたよ」

鉄の扉を開けると、今まで閉鎖的な階段室だったのが嘘のようにひらける。

御坂「うわ…嘘みたい…」

その展望は城下の灯りを眺め、天の星々を望む。

幻想的であった。

大臣「それでは、王のご到着までお待ち下さい…」

そういって彼はもと来た階段を下りていった。

すいません、コンビニ行ってきます…ハラ減った

帰りました

どっ

出口を見張る戦士を昏倒させ、外を伺う。
スサノオは倒れる兵士から剣を奪うと、それを携えた。

上条「ゴメンな…って!?」

何気なく兵士を触った上条は息を飲んだ。
それまで人だったそれが猪人間のような姿に変わったのだ。

スサノオ「これはいよいよもってのんびり出来ないな」
上条「…ああ」

夜の帳の中、外に躍り出る。そこは城下町にある墓地だった。

上条「こりゃまた縁起のいい事で…」

悪態をつくと身を隠しながら移動する。
この国がどこまで危険なことになっているのか、想像の域でしかないが
それでもジッとしていられるほど落ち着いても居られなかった。

上条「どうする…?」
スサノオ「出来れば有志を募りたいが、信じてもらえるかどうか」

あまり期待はしてない声音。
とにかく、二人はその場を後にする事にした。

階段を下りてくる大臣。
その元へ1人の兵士が血相を変えて転がり込んできた。

……

大臣「…頃合かも知れんな」
兵士「では?」
大臣「全軍に通達しろ。今夜、この国を落とす」

御坂はその絶景に見とれていた。
最近の辛いことが洗い流されるような、そんな美しさだった。

「気に入ってもらえたかな?」

がちゃん、と扉の閉まる音。そこには1人の老人がいた。
誰か知らなくとも身なりを見れば理解できる。

御坂「サマンオサ王」

その名を呼ぶと会釈をする。

御坂「こんな素晴らしい景色を、ありがとうございます」
王様「よい」

彼はしっかりした足取りで御坂の横まで来ると、話し始める。

王様「この国は山岳や沼地によって作られた自然の要塞に護られておってな」
御坂「要塞都市…」
王様「左様、如何に魔王軍とてこの城を落とすことは容易くない」
王様「だが、鉄壁であっても絶対ではないのだ。そこで御主を呼んだ」

嫌な予感がして、口を挟む

御坂「申し訳ありません、私は…」
王様「今すぐにとは言わん、ただ考慮だけはして欲しいのだ」

そう言って城下を眺めるサマンオサ王。御坂もそれを習う。
彼女は気付いていなかった…
サマンオサ王が扉の閉まる音に紛れて閂を掛けていた事を。

御坂は得たいの知れない恐怖に弾け飛ぶ。
刹那、今まで居た場所に轟音と共に巨大な棍棒が突き刺さっていた。

王様「やはりこの程度の不意打ちでは殺れんか」

呟く王の右腕が変色しあり得ないほど膨張していた。

御坂「サマンオサ…王…?」

そのままこちらを向き直す王の体は、不気味なほど蠢いていた。
膨れ上がり変形し、巨大化していく。

御坂「うっ…ああああああっ!!」

正気を取り戻し、即座に電撃を叩きつける。
しかしその一撃はまるで滑るように相手の体をなで抜けた。

御坂「なっ!?」
王様「無駄だ…この体には耐魔力の刻印を刻んでいる」

言い終わった頃には、変化は収まっていた。
ゆうに5メートルはあるだろうか。カンダタなど子供のような巨躯だった。
その体には奇妙な刻印が随処に施されており、更に不気味さを増す。

王様「この刻印は使用者の魔力も奪っちまう諸刃の剣なんだがぁー」

再び棍棒を振り上げる。
王様「俺には関係ねぇなぁ!!」

力の限り叩きつけた。

必殺の一撃を交わすと必死に距離をとる
テラスの縁へ足をかけて下を眺めた。

王様「逃げるかぁ?」

こちらの心を読んだかのように問いかけてくる。

王様「だったら別に別の奴らと『遊んで』やるだけだがなぁ」
御坂「…あんた何者よ」

ジリジリと場所を変えながら問いかける。
怪物は含み笑いをすると、愉快そうに話し始めた。

王様「俺はサマンオサ方面攻略司令官、ボストロールよぉ」
御坂「…本物の王様はどこ?」
ボスト「俺が知るかぁ」

ふざけたように笑うとイヤらしい目で眺めてくる。

ボスト「この国の骨抜きも終わったしな。そろそろ頃合かと思ってたんだぁ」
ボスト「そこにお前が来たってワケさぁ!」
ボスト「要塞都市攻略とデイン系を扱う真の勇者の首を持って!」
ボスト「俺はぁもっと上の地位へ上り詰めるんだぁ!」
御坂「意味わかんないわよ!」

再び電撃を浴びせる。が、滑るように流れ、効いた様子がない。

そのまま駆け抜ける形で距離をとり、ポケットに手を伸ばした。

瞬間、ぎくりっと全身に悪寒が走る。

御坂(ラス1ッ!?)

胸中で悲鳴を上げる。ポケットにはもう一枚のコインしか残っていなかった。
ボストロールはその巨躯からは想像出来ない速度で襲い掛かってくる。

それを何度も電撃で押しもどそうとするが

ボスト「ムダだムダァ!」

やはり止まらない。
御坂にできることは必死に逃げ回ることだけであった。

何かID変わってもうた

上条「あの光…?」

上条は足を止めると高台にある城を見上げた。
また閃光。

上条「あの光…御坂か!」

声を張り上げる。

スサノオ「分かるのか?」
上条「上条さんが何千回あの電撃に晒されたと思ってるんですか!」

腑に落ちない説明だったが、これだけ断言すると言うことはそうなのだろう。
二人とも無言で城へと足を向ける。
が、その足はすぐに止まる事となった。

怪物の大群が街に雪崩れ込んできたのだ。

耳を劈く轟音。遠く城門で、あるものが暴れまわっていた。
大仏。どう見ても大仏だった。

上条「何の冗談だよ…?」

城門は完全に破壊され、残っている正規の兵士たちは紙くずのようにやられていた。
その非常識な光景に我を忘れそうになる。

スサノオ「…先に行け」

その言葉で正気に返る。
周りにはどう見ても百を超える化け物たち。
…ここに一人で残るということは
死を意味していた

上条「置いていけるわけ無いだろ!」

とっさに怒鳴る。
しかしスサノオは聞かなかった。

スサノオ「今が恩を返す時だ、行け」
上条「…嫌だ」

上条もまた、頑固だった。

御坂は機会を伺っていた。
超電磁砲を叩き込む機会を。

御坂(おそらくこれが効くとしたら…)
御坂(口の中しかない…!)

しかしそれがどれだけ非現実的なものかも承知していた。
おそらく、この賭けにしくじった時が自分の死ぬ時。

御坂(せめて、せめて雷雲が呼べるだけの隙があれば…!)

この時彼女は、絶望という敵とも同時に戦わなければならなかった。

スサノオ「……」
上条「……」

二人は無言で戦っていた。
飛んでくる魔法を幻想殺しで叩き落し、
迫り来る魔物をスサノオが斬り捨てる。
理想的なコンビネーションで少し、また少しと城の方へと近づいていく。

スサノオ「やはり限が無かろう。私が道を拓く」
上条「嫌です」

何度目かの、同じ会話。

スサノオ「彼女も戦っているのだろう、早く駆けつけてやれ」
上条「……」

葛藤で気が狂いそうになる。
御坂のもとに一秒でも早く駆けつけたい。
だが、それをすると目の前の男が死ぬ。

そして迷いが隙を生んだ。
背後から斬りかかられる上条。

交わせるタイミングではなかった。

スサノオ「上条!?」
上条「しまっ…」

飛来する火球。それは上条の命を救うものだった。
襲い掛かっていた魔物を弾き飛ばし、事なきを得る。

上条「っ…!?」

ドロシー「戦場で迷ってると死ぬよ」
アレス「よう、来てやったぜ」

そこには、不敵な笑みを浮かべた「お友達」がいた。

上条「何でお前らが居るんだよ…」

アレス「まぁ俺らレベルになるとあのくらいのクエストはパパッとな」
ドロシー「こいつがどうしてもあんたらが気になるって、聞かなくってさ」

アレス「甘やかすのもどうかと思ったんだけど、ほら寝覚め悪いじゃん」
ドロシー「今やってるクエスト放り出してでも行くってわめき出しちゃって」

アレス・ドロシー「仕方なく、ね」


……

アレス「余計なこと言うなよ!」
ドロシー「本当のことでしょ」


上条は涙を流して笑った。

ドロシー「レナスは市民の誘導と護衛、治療をお願い」
レナス「はい」
ドロシー「ゴンちゃんは…」

ちらりと城門の方を見る。
彼は無言で頷くと、のっしのっしと走っていった。

上条「おいおい!あんな化け物一人じゃ無理だろ!?」
ドロシー「ご心配なく」

特に気にしてる風もなく言ってのける。

アレス「ああいった大物とタイマン張らせたらゴンザレスに並ぶ奴は居ないよ」

アレスも信頼感の篭った声で続ける。
そして魔物たちがあふれかえる街を眺め

アレス「んじゃ、ここの雑魚は俺ら二人に任せてお前らは先行きな」


この人はまた信じられないことを言い出したと、上条は頭を抱えた。


                           _,====ミミミヽ、
                         ,,==≡ミヽミヾミミミ、ヾ、
                       _=≡≡三ミミミ ミミヾ、ソ)),,》  .
                     彡彡二二三≡ミ-_ ミミ|ノノj )||ヽ, )、
                 __,,,,,,,,,/彡二二二    ,- __ミ|/ノ ノノノノ) ||
                -=二ミミミミ----==--'彡 ∠ミミ_ソノノノノ ノ

                  //>=''"二二=-'"_/   ノ''''')λ彡/
        ,,/ ̄''l       彡/-'''"" ̄-=彡彡/ ,,-''",,,,,,,ノ .彡''"
       (,  ,--(      彡 ,,-- ===彡彡彡"_,-_   ヽ Υ
       ヾ-( r'''''\    //=二二''''''彡ソ ̄ ∠__\ .\ソ  .|
         \;;;;  \   Ζ彡≡彡-'''',r-、>   l_"t。ミ\ノ,,r-v   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
           \;;;;  \  彡""彡彡-//ヽ" ''''''"" ̄'''""(エア/  /
            \;;  \'''''')彡ヽ// | (tv   /|  , r_>'|  <一体みんな誰と戦っているんだ
             \;;;  \'"  \ ,,"''-,,ノ,r-", /  r'''-, .j   \

               \;;;  \ /,,>--'''二"''' r-|   二'" /  __  \______
                \;;r'""彡_l:::::::::::::::::::::: /./_   " / ̄ ̄"===-,
                  )''//rl_--::::::::::::::::/:/ヽ"'=--":

上条「いくらなんでもお前たち二人でこの数を…」

と、ドロシーとアレスがそれぞれ印を組み始める。
ドロシーは胸の前に眩い光球を携え、
アレスは天に右手を抱え雷雲を呼ぶ!

アレン「ギガデイン!」
ドロシー「イオナズン!」

光が収束し…信じられない大爆発が巻き起こる
百を超える魔物は、一瞬にして消し炭になった

上条「す、すげ・・・」

爆風に煽られながら腰を抜かしそうになる。

アレス「誰かさんたちがさー」

愚痴を語るような口調で話し出すアレス。

アレス「いろんな所のフラグをバッキバキにへし折ってくれたもんだからさー」
アレス「色々苦労して無駄にレベル上がっちゃってさー」

愚痴だった。

ドロシー「ま、これで分かったでしょ。また魔物であふれない内にさっさと行きなさい」

上条「…ありがとう!」

上条とスサノオは一気に駆け出す。サマンオサ城へと目掛けて。

城門は完全に破壊されていた。
そしてそこで戦いを繰り広げるのはゴンザレスと大仏。
信じられないことに大仏の両腕は、すでになかった。

上条「うっひゃぁ…」

驚嘆しながら駆け抜ける。

スサノオ「上条!裏口から回るぞ!」

上条「わかった!」

そのまま城壁沿いに回りこむ。
時々、思い出したように襲い掛かってくる魔物を切り伏せながら
一心に階段を駆け上がる。

しばらく駆け上がるとだだっ広い踊り場に飛び出して

そこには人が居た

大臣「ハー…脱獄したと報告は受けていましたが…ここまで来るとはね」

小太りの男は呆れたような口調で語った。

大臣「勇者ミサカの事を嗅ぎ回ってるって言うから、念のため投獄したんですが…裏目でしたか」

上条「ありゃ、あんたの差し金か」

忌々しげに吐き捨てる。

大臣「まぁ良いでしょう」

大臣の服が膨らみ始める。

大臣「どうせあなた達はここで死ぬんです」

腕が6本に増え、体中の肉が腐り落ちていく。

大臣「この地獄の騎士が、直々に地獄へご案内して差し上げますよ」

そこには、6本の腕と剣を持つ骸骨の剣士がいた。

上条「悪いがお前の相手をしている暇はないんだ!」

一気に横を駆け抜けようとする
と、髑髏のその顔が確かに笑った

スサノオ「上条!」

上条の体をスサノオが突き飛ばす
その左腕に纏わりつくのは紫の霧

スサノオ「ぐぅぅっ」
上条「ス、スサノオ!?」

スサノオの左腕は土気色になり、だらんと垂れ下がっていた

騎士「これはこれは、厄介そうな方から飛び込んできてくれるとは」

上条「…毒か?」
スサノオ「…心配ない、代謝で治癒する神経毒だ」
上条「この状況でそんな悠長なこと言ってられるのかよ!?」

上条は地獄の騎士に向き直る。

上条「俺の幻想殺しで…」

スサノオ「無駄だ」

あっさりと否定する。

スサノオ「地獄の騎士の麻痺毒は、骨に住み着いた毒虫が作り出しているもの…自然毒だ」

上条「どうすりゃいいんだよ…」

その言葉に呼応するように

飛び出したスサノオは数度の交錯の後、地獄の騎士を階段の下へと投げ飛ばした。

スサノオ「…さあ、今度こそ行ってもらうぞ」

下段から背を向けたまま語りかけるスサノオに上条は叫びかけた

上条「お前いい加減に…!」

スサノオ「いい加減にするのはお前だ!」

あまりの迫力に息が止まりそうになる。
目を丸くしてその背中を見つめた。

上条「スサノオ…?」
スサノオ「大切な人なんだろう?」
上条「なっ」
スサノオ「言わなくても見ていれば分かる」
地獄の騎士が膝をつき、立ち上がろうとしていた。
スサノオ「お前があの時、私に言った言葉は嘘なのか?」
上条「……」
スサノオ「それとも心にもない綺麗事なのか?」

歯を食いしばる。

スサノオ「今こそお前が、戦う時だ」
スサノオ「心配するな、私にも待っている人がいる」

痛いほど良く分かった。

スサノオ「こんなところで死ぬつもりはない」

この男は―――ここで死ぬ気だ

涙が溢れた。
その涙が零れないように仰け反るように天を仰いだ。
それでも止まらない大粒の涙。
その涙を打ち消すように吼える!

上条「うああああああああ!」
上条「スサノオ!」
スサノオ「応」
上条「死んだらぶち殺すぞ!」

その言葉とともに一気に駆け出す。
転びそうになるのを堪えて、全力で駆け上がる。

スサノオはその姿を、背を向けたまま無言で見送った。

騎士「まったく、三文芝居もいいところですね」

起き上がり構え言い放つその相手に、スサノオは無言で距離を詰める。

騎士「腕一本と六本、どちらが有利か分からないほど狂ったのですか!」

死霊の騎士の右側に流れるように回り込む。

それを追随するように迫る3本の剣。

それを…動かない左腕で受ける。

騎士「なんっ・・!?」
スサノオ「覇ぁぁぁっ!」

すくい上がるように。
右手に握り締めた剣を振り上げる。

騎士「おおぉ!」

死霊の騎士の『左腕』をまとめてきり飛ばし、間髪入れずに蹴りを放つ!

もんどりうって距離をおく両者。
スサノオはそのまま地に臥し、死霊の騎士は踏みとどまる。

そして死霊の騎士の口からは紫色の霧が漏れ…

スサノオの右腕は土気色に染まり力なく弛緩していた。

騎士「…やってくれましたね」
スサノオ「……」
騎士「まさかここまでの余力があるとは…しかし」

残った3本の腕をわざとらしく鳴らし問いかける。

騎士「0と3。簡単な算数です」

スサノオは地を這いながら落ちた剣へと向かう。

騎士「あなたがいくら狂っていても、このくらいの計算は出来るはずです」

剣の柄を、咥え、渾身の力で立ち上がる。

騎士「さあ、答え合わせの時間ですよ!」

一気に距離を詰めてくる死霊の騎士

スサノオ(クシナダ…願わくば)
スサノオ(私が帰らぬ時は…)
スサノオ(新しい幸せを…!)

両者は


最後の交錯をした

必死に駆け上がった。

みんなが来てくれた。
スサノオが命を賭けてくれた。

これで美琴を救えなかったら…俺は最低の糞野郎だ!

登る!登る!!登る!!!

全力で駆け抜けて遂に鉄の扉にたどり着く。

上条(美琴!)

その扉を全力で押し開けようとして

上条「あ、開かない!?」


最後の最後で、絶望が待っていた。

不意に起きた地上での大爆発に御坂とボストロール、両者とも動きを止める。

ボスト「な、なんだぁ!?」
御坂(…今の、落雷!?)

慌てて天を仰ぐ。そこには信じられない量の雷雲が渦巻いていた。

御坂(これで…)

御坂「これで決める!」

最後のコインを握り締めてボストロールを狙いに定める!

御坂「うわあああああああああっ!」

全力で吼える!
そのまま音速の弾丸はボストロールに命中し、
光弾で押しつぶすように弾き飛ばし続ける!

それを追うように前傾姿勢で駆け出す!全力全霊の力を持って雷雲を支配する!
落とす!
一発二発三発四発五発六発!

ボストロールの巨体がピンポン球のように跳ね回り、その口から悲鳴を上げ始める!

ボストロール「うおっいでえ!?いでえええええええええええ!?」
御坂「あああああああああああっ!!」

全ての力を搾り出すように!一滴も残さぬように!決死の覚悟で落とし続ける!

御坂は…力尽きていた。

両膝を突いて両手を前に垂らし、肩を落とし頭をうな垂れていた。

最後の落雷の中、ボストロールの肉体が砕け散るのを視認した彼女は勝利を確信していた。

御坂(…勝った)

御坂(……勝った!)

そのまま前のめりに倒れこむ。
もう静電気すら起こせない。

彼女はそのまま気絶しそうになり…



瓦礫の中から立ち上がるボストロールの姿を見て



死を覚悟した

しえん

上条は目の前の絶望を殴り続けた。

皮が切れ肉が裂け血が飛び散るのもかまわず殴り続けた。

上条「ふざけんなふざけんなふざけんなふざけんな!」

殴り続ける

上条「こんな板切れ一枚破れねえで何が幻想殺しだ!」

殴り続ける

上条「最強だって神様だってぶっ飛ばしてきただろ!こんな扉ぐらい何とかしろよぉ!」

殴り続け…止まる

崩れ落ちるように両膝をつくと、床に額を打ち付ける。何度も何度も何度も何度も。

上条「頼む…誰だっていい…神様だって悪魔だって…何だって…っ!?」


(精霊ルビスの涙は、小さな奇跡を起こすと言われています)


慌てて左のポケットから宝玉を取り出す。

それを扉の前におくと数歩離れて右手を背中に回し、
額を床に打ち付ける。そして祈る、念じる、懇願する。

上条(俺を…俺を美琴の所に行かせてくれ…美琴に会わせてくれ…!)

その巨体は、半分が消し飛んでいた。

右胸から右腕にかけて崩壊し、右目も沸騰して蒸発していた。

それでもなお、立ってきた。

正気を失いながら、狂気をもって敵を探す。

周りを見回し、倒れこむ御坂を見つけ

ゆっくりと歩み寄る

御坂(…最後に、会いたかったな…)

目を閉じる

まぶたの裏にその顔が浮かんで…

涙が溢れた

上条さん早く来てくれー!!

その目に飛び込んできたものは、倒れ臥す御坂美琴

彼女に歩み寄る化け物

駆ける
全力で
駆け抜ける

心臓があり得ないほど鳴り響く

目の前が真っ白になる

喜びと、怒りで

様々な感情が入り乱れ、ぶつかり、混ざり、言葉が弾けた


上条「お前が美琴を傷つけるって言うんなら―――」


上条「その幻想をぶち殺す!」

幻聴だと思った
幻聴でもいいと思った
それでも見ずにはいられなかった

その目に飛び込んできたのはいつもの背中

巨大な化け物にその身一つで立ち向かう、いつもの馬鹿さ加減

そいつが、何だか小恥ずかしいことを叫びながら戦っている


とっくに絞りきって、逆さに振っても一滴もでない

枯れたはずの、力が、何故だか湧いてきた

クライマックスktkr

奴の体にもうあの刻印はなかった

あいつが絶望的な相手に命を駆けて真正面から挑み、削り取った

今なら負ける気がしなかった

御坂「当麻ぁー!」

名前を叫ぶ

御坂「…幸福の…1セント硬貨!」

あいつはすぐにポケットに手を突っ込んで、こちらに投げてくれた


本当に持っててくれた



そのコインを受け取ると、私は最後の一撃を放って…

気を失った

上条当麻はベッドの上で悶々としていた
あの戦いの後、錯乱状態の中で色々と口走ったような記憶がある

上条(…駄目だぁ!半分以上憶えてねぇよ!)

何度も寝返りを繰り返し、悶える。

スサノオ「怪我人のする事とは思えんな」

戦友が奇行を咎めてくる。

両腕に包帯を巻いてはいるが、もう箸を持つくらいには支障はないようだった。

上条「…お前に俺の気持ちがわかるもんか」

スサノオ「私はいつも素直に気持ちを伝えている。後で思い返して後悔するような事は言っていない」

その言葉を聞いて

上条「うわああああああああああん」

枕を抱きかかえて再び悶えだした。

ドロシー「うーん、魔力の流れも感じないのに…ねぇ、もう一回見せて?」

御坂「イヤだから、私のは科学的なアレで、決してオカルト的なものでは…」

それでも断りきれずに、バチリ、と放電する。

ドロシー「うーん…やっぱりわからないわ…ねぇ、あなた。私達のパーティーに入らない?」

御坂「えぇ!?いや、その、私は…!」

レナス「無理言っちゃ駄目ですよ、ドロシー」

アレス「お前の魔法オタクっぷりにも困ったもんだな」

ドロシー「探究心が強い、って言ってくれない?」

ゴンザレス「……」(最小限の動きで縦に頷く)


彼らは魔王を討伐したのち、新たなる世界の冒険へと旅立って行ったと聞いた。
まぁ、あいつらならどこででも上手くやっていけるんだろうな、と上条当麻は語った。


あれから数ヶ月が経ち、(主に美琴がやって)大破した城の復旧も進んでいた。

毒盛られて地下に幽閉されていた王様も、スサノオの調合した薬草で徐々に回復してきている。

もう椅子に座って話するくらいは出来るようだ。

俺達の傷も大体癒え、何か王様から誉めてもらえるらしい。

美琴はその話を聞いてから何だかそわそわしている。

一体何をするつもりなんだ。

俺達はサマンオサの南の洞窟の中にある祭殿にいる。

そこには一枚の鏡が掛かっていた。

褒章授与式の時に、美琴が地位も土地も金も全て突っぱねて要求した物。

真実を映すラーの鏡。

本来、こいつは魔力祭具で国宝扱いなんだが、美琴が何度も何度も懇願して使用が許可された。

ちなみに俺は美琴と一緒にワケも分からずラーの鏡の使用を頼み込み、

スサノオは帰国用の馬を一頭、貰っていた。

何はともあれ、鏡の前に立つ。

御坂「あっ…」

俺達は慌てて振り返る。

そこには祭壇の風景。

もう一度、鏡を覗き込むと…鏡の中の俺達の背後に、懐かしい学園都市の風景が映りこんでいる。

何となくだけど、確信が持てた。

やっと、元の世界に帰れる。

左手で美琴の肩を抱き寄せる。

美琴はちょっと照れた様子だったが、俺に体重を預けてきた。

ラーの鏡に右手をかざし、ゆっくりと近づける。


上条「幻想殺し、もしお前が全ての幻想をぶち殺せるって言うんなら…」



上条「俺達の幻想をぶち殺せ」


そのまま押し当てる。





そして、俺達は闇に飲まれた。

しえん

感覚としては立ちくらみ、軽い眩暈。

完全に視界を取り戻した時に俺は、

いつものアイス汁粉販売機に右手を押し当てていた。

御坂「……」

上条「……」

帰ってきた…

上条・御坂「帰ってきたあああああ!」

お互いに抱き合って喜ぶ。

びっくりして離れようとして…美琴が追いかけてきた!?

御坂「…逃げるなバカ!」

そのまま体を預けてくる

ううう…ど、どうする。どうするよ俺!?

と、美琴は不意に俺の耳元に口を近づけると…とんでもない事を囁きやがった!

上条「い、言えるわけないだろそんなの!?」

必死に講義する

御坂「しょうがないじゃない!トラウマなのよ!ちゃんと上書きしてよ!」

美琴も真っ赤な顔をしながら、一歩も引かない。

うううう…この状況で…乗り切れるわけは…

御坂「…言ってくれないと、その変態がずっと私の中にいるわよ?」

っ!?

俺は、意を決して、咽がカラカラになるのを感じながら、目を逸らし

御坂「…ちゃんと目を見て言う」

…目を見ながら、必死に言葉を搾り出した

上条「…俺の女になれ」

御坂「んっ…」

言葉を言い終わった瞬間に、美琴はすばやく背伸びして、俺に―――


                              おしまい

やっとおわったああああああっ
長々とお付き合いしていただいた皆様、本当にありがとうございました!m(_ _)m

        。 ◇◎。o.:O☆οo.
       。:゜ ◎::O☆λλ☆。∂:o゜
       /。○。 ∂(σ.σ)O◇。☆
     /  ◎| ̄ ̄ ̄ ̄ ゚̄ ̄ ̄ ̄|:◎:  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

    /    ☆。|感動をありがとう!! |☆  |ID:/GxZpvWT0さん
  ▼      。○..io.(,,゚Д゚)| :☆___| 。.: <お疲れさまでした。
∠▲―――――☆ :(ノ∂io⊃☆ ゜◎∂:   |
            ~|  |               \________
             し`J

それにしてもこの>>1は最後まで休むことなく完走したな

すごいわ

  _,ヘ:::::ヽノ//,.イ ト、ヽ_::::// ト'¨/       _   _           ハ:::l:::::l::、:::_j:ト、_::l:::::l:::::::/⌒Y::ヽ
. / j`ヽ<//,.イ::::::i ヽハ i  l / ./  ┌lニ「└冂 7^>┐        i:::::}:ト、;ハ::`¨:_`二ト-:ト-1:::::/_:;ノ
└l‐-、リ//i::/、`、'  ソ⌒マ / /    ,rくV冂ー厂Y^ト/´/7       ヽヲ:::>'"´ ̄三二ニ=ヽ::`¨:::::i
 └─ヽi . ,';'tア  ヽ {  ノ /     )‐二ニ=-=二三ニ二(_       }¨´ / ,. <::丶、 ヽ¨\ミ¨{
     ヽシ^'ー、ヘィiヘf⌒ヽi      YこjW{;二=-‐<二〈        /¨ヽ,.イ  〈 rッ ‐、ト、 i_ヽソ
      `',     ', i  ノj       ヒp}  トニpブ ̄`!ニヽ      ハir`l;;:/     `. ̄,ハ itラ
.        ヒフ_ ,ォ   >'⌒ヽ.     |フ|  | ド、~  } 'Fリ      ノ::ヽ_、 l    r‐' i l l i 
         ヽ-'"  i    }     |゙=_'_'゙  ヽ / rく     _/ノ/´ ヽハ ヽ /´  .kトァV
           `ー‐'/ヽ、__ノ       |〈.-―ヽ  V /´交ヽ  /ノ,ハヽ- ',リ X   ー..___-z_ /               _ ,.、
           // /  `}      |`⌒`  ,//ヽ立ソ^ヽ:フ./ ,.>-< \ ',  `ー`二ノ/            _.  / /_/、
          / └、ゝ.._ノ\     /'ァ---‐''" /.交ヽ/  ,ハー´.i    ',  > _    /--、         / l  /_/ / /
         i   -=i  `i__l ヽ  r「//__ /'交ヾ立ソ  /  /  \ ..___ノ \    ¨ ー'ヽ  \         / i/ / ./_/_7
        / ̄  _..人._ノ    \.イ//4O) ヾ立ゾ/ / ノ     ̄`ー、ヽ\    /\!    ',     / /`ヽ' ノ,ノ /
      /                            ,.ヘ'´:l:::::l::::::i::/¨>、

                                   入:::V:l-:ト-:K:::/:::/   ::::ll:::::::::::!l:::::l:::::::::::l、_:l:::::::::/:::::7
                                   >''ニ=‐,、ニ`ーム/_7  __,.!l::::::::::l l:::::l::::::::::lーl:::::::/:::::/
   : 終    ア ア. ア                   }彡イ''"i^`>ミ、\ ) ト、_ヽ--クハ ハ、__lY L__ハ、 _ヘ
   : わ    ヴ ヴ ヴ                   フ/ =ミ.! f´,z=、ヽミ{  に._¨ニ - ..,,_ト---イ _ =-‐'イ、)
     っ.     ド. ド  ド                   コ.i ノ └-'´ヽ  ilノ  ,. -─--==-->、<´ィニ二ヽワ
   .  た      ゥ ゥ ゥ                    ハl lノ /ニニこ! フ .!l'ハ ム-‐..ニ --─‐==、_丶、`¨ニ)
   .  よ.     ル ル ル                   Vl l l:;.-r‐ 、:l レ ハ i _,.ィ¨ニー-...,,__     `>.、ヽ!
          ! ! !                  /⌒l/i ト!_  ,リ イ lイ、 ファrェ、---、--¨コ〕jノ,ィk--、/   
                                  i  lヽi.ヽ、二フ//,レi  i  _ヽ_ヒzク_,.ィ/  !  ド'-‐リ
        Fネ!     /ス!                ,. ー-',l. ハ `ー-.' /イ >-<     rr‐'.l.   i  lヽ i
       _上コ..__ /¨´ニ{,...、         .      i  ハ ト、 ヽ ..._// /  .ハ   fr¨   ヽ、,.-='7ァ'((. l
      f´ヽ   i l }i:::::l::::f:::::l             ,. ィ´ヽ.__ノヽ、.\   _,.ィ.l   人__      `'<レ' ヽソ
      Kヽ、i__.⊥ィ'^i:::::ト:::〉::ク、           ̄--─、 i  `ヽ‐-、`¨´  ノ>'⌒ヽi/ ̄/   ,.. 、__,. 、. V
     ,人テ -i‐.i^l゙i }::::::::::ヽ:::::',         ¨゙ヽ \  人.__ソ‐-、  イ __i   ノ  / _,.ィ_ ,. --zェ_ノ /
    ./ ノ l`¨ニi_,ィ ヒヒ!:::::::::::`ト、入        .ハ ',    i   l-─f´ `ヽ‐'  /lj   i'´  `  ̄  _)i¨゙ヽ
   └'/  // /:゙┘::::::// ヽ'                            ¨ヽ    `フ''¨´ ゙̄ヽ !   ハ

禁書現行スレ
佐天「御坂さんって学校じゃどんな感じなんだろ?」
佐天「御坂さんって学校じゃどんな感じなんだろ?」 - SSまとめ速報
(http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1267016975/l50)
一方通行「おい……おい!!」打ち止め「………」
海原「闇なべ…ですって…?」
一方通行「……三下、よろこぶかな……」
御坂「私と2度と会えなくなったら、どうする…?」 上条「え?」
御坂「私と2度と会えなくなったら、どうする…?」 上条「え?」 - SSまとめ速報
(http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1267289394/l50)
一方通行「いっぱいご飯くれると嬉しいなア」
上条「寮監……ですか」
上条「寮監……ですか」 - SSまとめ速報
(http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1267119197/l50)
上条「ん…? サイレンの音?」
上条「ん…? サイレンの音?」 - SSまとめ速報
(http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1267067859/l50)
一方「ババァ、俺と付き合え!」御坂「は?」
一方「ババァ、俺と付き合え!」御坂「は?」 - SSまとめ速報
(http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1267190316/l50)

禁書現行スレ
御坂「トウマ・・・君?」
インデックス「ご飯くれるとうれしいな」一方通行「あァ?」
インデックス「ご飯くれるとうれしいな」一方通行「あァ?」 - SSまとめ速報
(http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1267285123/l50)
黒子「ジャッジメントですの」
佐天「ジャッジメントです」
一方通行「はァァァあまづらァァああ!」
上条「いくら風紀委員だからって・・・」
上条「いくら風紀委員だからって・・・」 - SSまとめ速報
(http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1267004056/l50)
佐天「独裁スイッチ?」
上条「いつもお前と一緒にいる白井って子可愛いよな」
上条「いつもお前と一緒にいる白井って子可愛いよな」 - SSまとめ速報
(http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1267350198/l50)

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