麦野「・・・浜面が入院?」(916)


第七学区のとあるファミレスに、四人の少女が入り浸っていた。

平日の午前というだけあって、店内にそれほど客は見当たらず、

年齢がバラバラのその少女たちは、見た目的にもかなり目立つ集団であった。

大方、食事を終えているにも関わらず、彼女たちはダラダラと居座っている。

「・・・浜面が入院?」

明るい茶に染めたロングヘアを持ち、見た目はモデルのような少女、麦野沈利は、飲み物をストローでかき回しながら、

斜め向かいに座っている、同じく茶髪でショートヘアの少女、絹旗最愛に視線を向けた。

外見年齢十二歳程度にしか見えない絹旗は、テーブルに広げた映画のパンフレットと思しき冊子に目を向けたまま、口を開く。

「ええ、昨日の夜、何やら一悶着あったそうですよ。

 詳しくは聞いてないんですけど、スキルアウトの元同僚と喧嘩したらしいです。」


「ふぅーん・・。アイツ、スキルアウト解体前は、一応、リーダー格じゃなかったっけ?」

麦野はグラスからストローを取り出すと、空でクルクルと回しながら、呟いた。

彼女の手元には、デザートとして食べたと思われるパフェ(の容器)と、

自分で持ち込んだであろうコンビニのシャケ弁当が置かれている。

絹旗の手元にも、麦野のものと比べると一回り小さいが、デザートのバニラアイスのカップがあった。

パンフレットに目を留めたまま、手探りでアイスにスプーンを差し込み、口に運ぶ。

「まぁ、浜面は前のリーダーが死んだ煽りを受けての超急造のリーダーでしたし、何とも・・。

 前のリーダーが死ぬ前でさえ、そんなに権力があったかは定かではありませんが。」



「結局さ、絶対的な指導者が居なくなると、脆いものなんだよ、そういう集まりって。」

この金髪碧眼の少女が言うとおり、どんな組織にも、それが集団である以上、優秀な中心人物は不可欠である。

この「アイテム」も、学園都市の暗部組織として暗躍しているのも、リーダーである超能力者(レベル5)、

麦野が君臨しているからこそであり、それでこそ、学園都市の裏に大きな影響力を及ぼすことができている。

ちなみに、口を挟んだのは、麦野の横に座っている、どう見ても日本人には見えない少女、フレンダ。

見た目の年齢は、麦野以下絹旗以上といったところの、華の女子高生。

麦野と絹旗の話を聞いてはいたが、手元のサバ缶にフォークをガシガシと突っ込みながら、興味なさげの様子である。

テーブルの上には空の缶詰がいくつも転がっているが、どう見てもファミレスで注文した物とは思えない。

恐らく、麦野の弁当と同様に、彼女が勝手に持ち込んだものだろう。

カレーだのシチューだの、缶詰には不相応な言葉が表記されている。

「元々、スキルアウト内で浜面のことをよく思ってなかった人たちが居たらしいんですよ。

 その上、浜面がスキルアウトの忌み嫌う超能力者たちの超雑用をやっていることが、

 最近になって、そいつらにバレたらしくて、それで襲われたらしいですね。

 お前にはプライドってモンがねぇのか、みたいに言われたらしいですよ。」

話しながら、がぁぁーッ、と両手を上げて暴漢のような(?)アクションをする絹旗。

何よそれ、ライオン? と麦野は心の中で思ったが、話が進まないので言うのを止めた。



「へぇ・・、それでボコボコにされたわけ?」

「ボコボコというか、逆に返り討ちにしたらしいですよ。ただ、足を痛めて超入院だそうです。」

「ふぅーん。」


ちゅー、とアイスコーヒーを飲み終えた麦野は、小さく溜め息をつくと、フレンダに空になったグラスを向けた。

同じやつ。と目も向けずに麦野が言うと、ハイハイ。とサバ缶との戦闘を一時中断したフレンダは、グラスを受け取り、そそくさと席を立つ。


「まったく、せっかく良いパシリができたと思ったのになー。」


麦野が呆れたような表情で言葉を吐く。

彼女が言うパシリとは、フレンダのことではなく、もちろん、浜面のことである。

一方の絹旗は再びパンフレットに目を落としていた。

目を惹くB級映画があったのか、噛み付くようにパンフレットを見続けながらも、話を続ける。



「とりあえず、入院費用は『上』に超無理言って出してもらいました。

 浜面は、第七学区の一般の病院に入院していますよ。」

「一般の病院? 大丈夫なの、それ? 一応、浜面も“こっち側”の人間なのにさ。」

「まぁ、大丈夫でしょう。ただの喧嘩による負傷なんですから。能力者と戦ったわけじゃありませんし。

 それに、浜面ぐらいのレベルなら、一人で居ても、他の組織に始末されるほどの価値は超ありません。」


それもそうねー。と麦野が視線を宙に移すと、目の前にヒュッと、グラスが差し出された。

フレンダが注いできたアイスコーヒーだ。

パシリに使われたお返しなのか、アイスコーヒーがグラス一杯に満たされており、

今にもこぼれそうな状態にあった。氷も必要以上に入れられているのが分かった。



「んー、ありがと。」

「・・・。」


麦野は、そんなフレンダの小さすぎる反抗を気にも留めず、ずっと手に持っていたストローを突っ込み、吸い付いた。

フレンダの口から、キーッ、と悔しそうな歯軋りが聞こえてきたが、どうでも良いので無視する。

ちなみに、フレンダの抵抗に対して、何とか平静を装おうとしたため、

いつも入れるミルクを入れ忘れて、ちょっぴり苦い思いをしたのは、本人だけの秘密である。

そのとき、今まで一言も喋っていなかった少女が口を開いた。


「・・・お見舞い。」



その少女は肩にかかるくらいの黒髪で、同い年くらいである、可愛らしい制服に身を包んだフレンダとは逆に、

桃色の、部屋着のような、なんともみすぼらしいジャージを着用している。

とても、今時の少女のファッションには見えなかった(色は派手だが)。

彼女の名前は滝壺理后。これでも、能力の重要性から「アイテム」の中核を担っている少女だ。

そんな滝壺が机に身体を突っ伏したまま、横に居る絹旗に顔だけを向ける。


「ねぇ、はまづらのお見舞いに行こう。」

「・・・な、何を言い出すんですか、滝壺さん!」


黙々と映画雑誌に目を通していた絹旗は、思わず、発言者である滝壺に言い放った。

向かいに座る麦野とフレンダも、絹旗と同じように目を丸くしている。



「だって、可哀想だよ、はまづら。」

「いや、あんな超典型的な野生人男のところに、滝壺さんがわざわざ足を運ぶ必要なんてないです!」

「でも、入院生活って退屈だろうし・・、何より一人じゃ寂しいと思う。」


いや、でも、と絹旗は説得するが、それを意に介さず、滝壺は続ける。


「絹旗、はまづらのこと嫌い?」

「あ!? え、いや。別に嫌いではないですけど・・、そういう問題じゃなくってですね?」

「そう、なら良かった。一緒に行こう、絹旗。」

超支援します



絹旗は、無表情にも関わらず、どことなく熱を帯びた視線を向ける滝壺に戸惑いを見せていた。

向かいの麦野は、その手があったか・・。と口元に手を当て、小さく呟き、

フレンダはフレンダで、結局、滝壺さんは優しいよねー。と老婆のように目を細めている。


「お花、買っていこう。何も持っていかないんじゃ、お見舞いって感じじゃないよね。」

「え・・、あの、もうお見舞いに行くのは超確定事項なんですか?」

「・・・麦野とフレンダはどうするの? みんなでお見舞いに行けば、はまづら喜ぶかも。」



あの、聞いてますか? という絹旗の言葉が耳に入っていないのか、それを無視したまま、滝壺は向かいに座る二人に問う。

麦野は、空のシャケ弁当をぼんやり見つめたまま、まだ何やら考え込んでいたが、やがて、口を開いた。


「・・はッ、入院なんてアイツの自業自得でしょ。私は行かないわよ、そんな暇じゃないし。」

「結局、私も麦野と同意見。それに、あんまし大人数で行っても病院に迷惑だろうしね。」


そう、と少し残念そうな表情を浮かべた滝壺は、最後の希望である絹旗に目を向けた。

その視線に気づいた絹旗は、目をパチパチとさせている。



「絹旗・・。」


滝壺は、基本的に無表情なのだが、このときばかりは、絹旗の目には、今にも泣きそうなウサギのように、滝壺が映ってしまった。

うぅッ、と呻いた絹旗は、ギブアップ。という風に両手を小さくあげた。


「・・分かりました、詳しい事情を聞くついでに、私も行きましょう。

 浜面が滝壺さんに変なちょっかいを出さないように見張る超監視役、ということで。」


とうとう折れた絹旗。普段は小生意気な彼女も、超がつくほどの天然な滝壺には敵わなかった。

支援するぜ
>>1頑張れ



滝壺は、よそよそと絹旗に身を寄せると、彼女の左手を両手でそれはもう優しく包んだ。


「ありがとう、絹旗。浜面も喜ぶと思う。」


絹旗は、え、えぇ。と小さく頷くと、滝壺は、春のタンポポのような笑顔を見せる。

こういう超純粋で超天然な女の子に、男は撃墜されるんでしょうね、と絹旗は心の中で呟く。


「・・そうですね、せっかくですから、超工夫したお見舞いを超展開しましょう。」

「工夫?」

「はい。この間、超偶然に知ったことなんですけど・・。」


絹旗は、ちょっと耳を貸してください、と言うと、滝壺の耳もとでゴニョゴニョと囁いた。

絹旗の顔は心なしかニヤニヤしており、滝壺はふむふむ、と何やら興味ありげに聞いている。



「嫌々言ってたわりに、一瞬でノリノリになったわね、絹旗。」

「結局さ、絹旗も浜面のこと嫌いじゃないんだよね。

 浜面のことになると、子供みたいに無条件に反抗してるだけだし。」

「実際、子供だけどねー。」


麦野とフレンダも、向かいの二人に聞こえない程度の声量で話していた。

姉二人が妹二人を見守るような眼差しを向けながら。


「結局、麦野も浜面のこと、嫌いじゃないでしょ?」

「え? ・・うん。まぁ、そうね。好きでも嫌いでもない感じよ、あんな旧石器時代の野蛮人。」


あはは、と笑ったフレンダは、最後のサバ缶に止めを刺すべく、再び戦い始めていた。



話し相手がいなくなったので仕方なく、未だ内緒話をしている絹旗と滝壺を見やるも、

自分が蚊帳の外のように感じられて、麦野は少し複雑な気持ちになっていた。

目のやり場がないせいか、ガラス越しにファミレスの外を見る。

視線の先には、お菓子の専門店のような可愛らしい建物があった。

学園都市の中でも、かなり有名なチェーン店で、都市内にいくつも同じ店があり、

とりわけ、女子中高生の間でめっぽう人気が高く、もちろん麦野もその店を知っていた。

そんな甘菓子店が目に入った麦野は、ピクリ、とそれに反応すると、やがてまた考え込み始める。


「どしたの麦野? 何かさっきから浮かない顔してるけど。」


最後のサバ缶を食べ終わり、満足そうにお腹をさするフレンダが、麦野に声をかける。



「・・・あのさ、フレンダ。この後、用事ある?」

「んー? そうだねー。今日は仕事ないっぽいし、一人で新しい缶詰巡りの買い物にでも出かけようかなー、なんて。」

「じゃぁ、暇ね。ちょっと付き合って。」

「うぇっ!? ・・まぁ、良いけど。ってか珍しいね、麦野がプライベートのお誘いなんて。」


ちょっとねー、と麦野は自分の髪をクルクルと指に巻きつけながら、呟いている。


「(・・こんなアンニュイな顔してる麦野を見るのは初めてだなー。)」


麦野の意図を理解できないでいたフレンダは、フォークを口に入れたまま、両手を組んで、首を傾げていた。

支援



「・・と、いうことです。ブツは、私の知っている店で超調達しますから。」

「わかった。それではまづらが喜ぶなら、一肌脱ぐよ。」

「それならば、善は超急げ、ですね。」


ひそひそ話を終えた二人は、意思を固めたように、ハイタッチする。

絹旗は、小柄な身体をくねらせると、ヒョイとソファから離れ、いち早く立ち上がった。

その表情は、どこか明るく、年相応にウキウキとしていた。

後に続く滝壺も、わずかながら笑みを浮かべている。怪しげな。


「待った。」


浜面を見舞い隊の二人が走り出そうとした瞬間、麦野が制止の声をあげる。

ガクッと出鼻をくじかれた絹旗がぎこちなく振り向くと、座ったままの麦野がヒラヒラと一枚の紙をチラつかせていた。


「お勘定。」


―――――


「・・・暇だ。」


入院患者・浜面仕上は、誰に言うわけでもなく、真っ白な天井を見上げたまま、忌々しげに呟いた。

スキルアウトとして、幾度となく喧嘩だの抗争だのを経験した。

それでも、大した重傷を負わずに切り抜ける、頑丈な身体が彼の取り柄であった。

しかし、今回は違ったらしい。

彼が幹部として所属していたスキルアウトは、絶対的なリーダーだった駒場利徳を失い、実質、半壊。

それでも、何とかリーダーの職を継ぎ、不慣れながら裏の仕事をこなそうとするも、

最初の仕事でいきなり、謎のツンツン髪の高校生に阻止され、任務は失敗、補導。

解放されたと思ったら、超能力者(しかも、4人の女の子)の元で雑用として働くハメになり、挙句の果てに、かつての同僚と喧嘩して負傷、入院。

彼の視線の先には、包帯がきつく巻かれ、固定された、入院の元凶である右足があった。



「情けねぇ・・、ホントに情けねぇ。」


大きくうなだれた浜面は、何気なく辺りを見回した。

どうやら彼は、能力者や学園都市の非公式組織が関係する病院ではなく、一般の病院に入院させられたらしい。

しかし、彼が寝ている部屋は、他の患者との相部屋ではなく、彼一人だけの個室で、

見た目以上に広々とした空間、汚れ一つない清潔感のある真っ白なベッドと布団、シーツ、ついでに枕、

綺麗に拭かれているであろう窓からは、淡いクリーム色のカーテンを通じて、眩しい日が差し込んできている。

学園都市の日陰の中で長く活動していた彼は、少し新鮮で、どことなく懐かしい感覚に捉われていた。



「それにしても、仕事ならともかく、私情で怪我したこんな下っ端に、入院費出してくれるなんてなぁ・・。」


大体の暗部組織では、ヘマをした場合、その者の自己責任であり、他人の助けを借りることはご法度で、

自分の力で何とかすることを信条としている、と聞いたことがあった。

それ故に、たとえ有力な組織の下部組織であるとはいえ、いくらでも代えがきくような雑用に費用を出してくれることが、彼にとって不思議で仕方なかった。

それが、絹旗の努力により、『上』からもぎとられた入院費であることを、彼は知らないが。


真正面の壁にかけられていた時計を見ると、時刻は二時をまわっているのが確認できた。

一眠りするか、と背伸びをし、布団に深く潜ろうとしたとき。

コンコン、ドアをノックする音。



「(誰だ・・?)」


浜面は、不審げに左方のドアを見やる。

昼の食事は二時間近く前にとっており、診察があるとも聞いていない。


「(・・ま、まさか、美人ナースのおねえさんが俺にお近づきになるためにッ・・!?)」


なんとも見当違いな考えが頭をよぎり、思わず鼻の下を伸ばす浜面。

うん、ナースも悪くないよな。と真剣に考えていると、

痺れを切らしたのか、訪問者のノック音は、ドンドンドン!と一層強くなった。



「は、はいはい! どうぞ! 起きてます! 準備はできてますから!」


一回目とはうってかわって、豪快になったノック音に驚いた浜面は、意味不明なことを言いながらも、慌てて入室を促す。

だらしなくニヤけていた表情を、一瞬で自分が今できる限りのベストの整った表情に直した。

背筋もピシッと伸ばし、ゴミだの何だのは周囲に散らかっていない。

待ってましたとばかりに、ガラガラッ、とドアが開く。



「おーす! ボコボコにされて超ダサいことになってる浜面を超美少女二人がお見舞いに来ましたよーッ!」



威風堂々と入ってきたのは、浜面がよく見知っている少女。絹旗最愛。

女の子のお見舞いといえば、男としては心躍らせるイベントではあるが、浜面にとって、この少女の場合は別だった。

盛りの男の良からぬ夢と、大いなる希望と、卑しい期待と、疚しい妄想を、四発同時に撃ち抜かれ、ガクン、と浜面はベッドから転げ落ちそうになる。

それを見た絹旗は、ケラケラと声高々に笑っていた。



「な、なんで!? 絹旗てめぇ、美人ナースさんを何処へやったッ!?」

「は? なに超世迷言をほざいちゃってるんですか? 相変わらず救いようのない超馬鹿ですね。

 入院して頭が少しはマシになったかと思えば、やっぱり浜面は超浜面でしたね。」

「くッそ・・! 怪我した純情な少年を、美人ナースさんが独断で癒しに来てくれたと思っていたのにッ・・!」

「そうだ。良い機会ですし、治療が超必要なその頭の中も検査してもらったらどうですか?

 どうせ超空っぽでしょうから検査するも何もないと思いますけど。」

「てめぇは! それでも!! 俺を“見舞う”気持ちがあんのか!!!

 毎度毎度、口を開けば、俺のことを罵りやがってぇッ!!!!

 生憎、俺は女に罵られて喜ぶような性癖は持ち合わせてねぇんだよぉぉぉッ!!!!!」

「あぁ、それなら浜面のアホづらに、私の『窒素装甲』をいかんなく発揮したこの拳を文字通り“お見舞い”してあげますよ。」

「があああああッ!! ああいえばこう言う、こう言えばああ言いやがってぇッッッ!!!!!!」

「ほらほら、あんまり叫ぶと、傷に響きますよ~?」

支援します



五歳は年下であろう少女に、矢継ぎ早に罵詈雑言を浴びせられ、浜面は一瞬で頭に血がのぼっていた。

一方の絹旗は、舌を出し、小悪魔のような顔を、軽く発狂気味の浜面に向ける。

浜面には、絹旗の背と尻から常に悪魔の羽と尻尾が生えているように思えて仕方なかった。


「・・はまづら、病院じゃ静かにしなきゃだめだよ。」


ボルテージの上がる浜面の耳に届いたのは、空気感の違う、ガラスのような言葉。

いつもと変わらない桃色のジャージを着た滝壺が、ヒョコッと病室の入り口から顔を出していた。

半分閉じられたような目に、色白の肌、垂れ下がった肩、無気力なオーラ。

パッと見た感じでは、彼女の方が病人に見えなくもない。

その手には、花屋で買ってきたであろう明るい黄色の花が数本。

まさに、高嶺の花・薄幸の少女というイメージがピッタリだった。

うおお
落とさないでくれよ



「あ、あぁ・・、美少女二人っていうから、もう一人は誰かと思ったけど、滝壺のことだったのか。

 そんなトコに居ないで入ったらどうだよ。」

「うん。」


滝壺は、ガラガラと静かにドアを閉め、ぽてぽてと歩を進める。

絹旗とは正反対で、マイペースで物静かな少女だ(絹旗もある意味ではマイペースといえるが)。


「(っていうか、ドア開けっ放しだったのか・・、わけのわからない口喧嘩を外の人に聞かれたか・・?)」


美人ナースだの、性癖だの、恥ずかしい言葉を羅列していた(しかも大声で)自分が愚かしい・・、と猛省する浜面。

顔を真っ赤にした浜面を横目でチラリと見た絹旗は、変わらずニヤニヤしている。



「・・はまづら、足怪我したの? だいじょうぶ?」

「あ、ああ。骨が折れたわけじゃないし、少しひびが入っただけだから。」


そう、と呟いた滝壺は、大事そうに持っていた花を、ベッドの横の白い棚の上に置かれていた空の花瓶に挿す。

いまどきの少年である浜面は、花に詳しくないため、それが何の花だかわからなかったが、

その花は、色々な意味で荒んでいる浜面を元気付けてくれるような、明るい黄色の花だった。


「これ、お見舞いの品。花だから、うれしくないかもしれないけど。」

「いや、そんなことねぇよ、・・ありがとな。この部屋何もなくて、殺風景だったから丁度良いや。」


浜面は、なんとなく視線を合わせられないまま、頬を掻きながら滝壺に礼を言った。


「アイテム」は全員が変人ではあるが(失言)、この少女はまた別の意味で変わった子だな、と浜面はつくづく思う。

いつも無口で何を考えているのかわからないし、普段着がジャージって・・、と。



「私は、キクとかシクラメン辺りをオススメしたんですけどねー。」

「・・そういう縁起の悪い花を素で勧めたなら、お前の方こそ、頭の検査が必要だな、絹旗。」

「あぁ、さすがに超常識知らずの浜面でも、最低限の礼儀作法ってものを知ってたんですか、超意外です。」


滝壺と違って、このふんわりセーターみたいな服を着た生意気な少女は、分かりやすい人間であったが。


「(少なくともお前らよりは、一般常識にのっとって生活してるつもりだっつーの・・。)」



スキルアウト時代も、無茶なことを幾度となくやってきたし、社会的に外れた問題も度々起こしてきた。

しかし、能力者と近しくなると、能力者の方が常識外れだ、と薄々感じるようにもなってきた。

能力自体が、常識とは隔絶されたものではあるが。

能力者は、その能力と引き換えに、社会的な何かを失っているんじゃないだろうか、と彼は常日頃思っている。

特に、「アイテム」の四人と行動を共にしていると、それを痛感せざるを得ない。

それは、彼女たちの破天荒な行動の尻拭いをしているのが、他ならぬ彼だからである。

ファミレスに行けば、コンビニ弁当は持ち込むわ、缶詰は撒き散らすわ、何時間も居座るわ、のやりたい放題。

さらには、公共の場で口喧嘩を始めるやいなや、うっかり能力を使用して、店の壁だのベンチだの平然と破壊し、

あわや一般人にも被害を及ぼしそうになったこともある(主に麦野と絹旗)。

そんなに大袈裟な行動をして、暗部組織の自覚はあるのか、しっかりやっていけているんだろうか、とその度に悩んでしまう。

それでいて、彼女たちは自分よりも多く稼いでいるというのだから、世の中不思議な(理不尽な)ものだ。

能力が全てなんですね



「・・何か今、超失礼なことを考えてませんでした?」

「失礼なことを馬鹿正直に口に出すお前に比べたら、まだマシだと思うけどな。」

「その減らず口を直すには、もう少し入院期間を延ばす必要がありそうですね。」

「・・ば、馬鹿! やめろ! 足に触るなッ! 絹旗てめぇ!」


絹旗は、浜面のベッドの右側に回りこむと、痛いのはここですかー、と浜面の右足をグリグリと両拳で挟みこむ。


「うぐがぁぁぁぁぁッ!? お前の怪力は笑えねぇんだよぉぉッ!!」


激痛に身をクネクネとよじらせ、悲痛な叫びをあげる浜面。

大の男が、小学生同然の女の子に言いようにされているのだから、

何も事情を知らない人間が見たら何とも滑稽な光景だろう。

ちなみに滝壺は、はまづら、ムンクみたい。と目を輝かせていた。




数分後、息絶え絶えになった浜面と、満足そうに椅子に腰を下ろす絹旗。

はまづら、すごく面白い動きしてた。と微笑む滝壺。

やがて、その滝壺が口を開いた。


「・・はまづら、前の仲間と喧嘩したの?」

「ん、あぁ。スキルアウト時代の顔馴染みとな。
 俺の求心力のなさが生み出したようなモンだよ、自業自得だ。」


スキルアウト内で浜面のことをよく思っていなかったのは、たった五、六人であった。

スキルアウト全体の人数からすれば、大した派閥ではなかった上、

浜面も幹部という建前、ちょっかいを出されることはなかったし、浜面自身も気に留めることはなかった。

だが、駒場亡き今、統率が取れなくなった、ただのならず者集団と化していたスキルアウト内で、

今まで、集団という中に埋もれていた、個人の考えや思想、反抗心が露になったのだろう。

その結果、浜面のことを気に入らないと考えていた少数派が、ここに来て、刃を向けてきたのである。



「ただ、気になることがあってさ・・・・、昨日の奴らが言ってたんだよ。

 『能力者に媚びへつらって、お前にはプライドってものはないのか。』

 『仮にも俺たちの上に立っていた男は、こんなチキン野郎だったのか。』ってさ。」


ボスン、と枕に頭を沈め、天井を仰ぎ見る。


「そのときの俺は、無我夢中に戦ってただけで、そいつらの話なんて耳に入ってたなかったし、ましてや、言葉の意味なんて考える余裕もなかった。

 でも、今考えてみると、あいつらの言いたいことが何となく分かる気がするんだよ。」


目を閉じると、瞼の裏に、昨日の夜、自分に襲い掛かってきた馴染みの顔が浮かぶ。

全員が、浜面を恨んでいるような、憎んでいるような形相に思えて仕方なかった。



「どんな集団にも、それを纏め上げるリーダーが必要って言うよな。

 その点では、駒場って男には人を惹きつけるカリスマ性があったし、それ相応の実力もあった。

 でも、俺にはそんなものはなかった。

 駒場の威を借りていただけなのか、なんとなく幹部っていう肩書きに溺れていただけなのかはわからねぇけどさ。

 とにかく、あいつらは俺のことを恨んでたんだ、ろくに仕事もこなせなかった俺のことを。」


虚ろな目で、長々と語る。

スキルアウトが自分の居場所だと思っていた。

でも、その場所すらも、自分にはふさわしくない場所だったんだな、と浜面は心の中で呟いた。


「そんなことないと思うよ、私は。」


そのとき、彼の話を真剣な面持ちで聞いていた滝壺が口を挟んだ。



「それでも、はまづらは一生懸命やろうとしてたんでしょ、いい加減にやろうとしてたわけじゃないよね?」


浜面は、滝壺の問いかけに、すぐに頷くことはできなかった。


当時、駒場が死んだ、と聞いたとき、彼はどうすれば良いのかわからなかった。

周りの仲間たちにも、同じように動揺が広がっていたことも、すぐに感じ取ることができた。

だからこそ、後に引くことはできない、そういう焦りもあった。

自分たちスキルアウトには、社会的に、居ていい場所も、帰るべき場所もないのだから。

駒場の側近だった自分が繰り上がりでリーダーにはなったが、

初めの仕事でいきなり失敗すると、坂を転がるように落ちていった。

自分に対する信頼も。

そのうち、最初から自分に対する信頼なんてなかったんだ、と考えるようにもなった。



「必死でやってくれる人に対して、周りの人は悪い印象はもたないはずだよ。」


滝壺は、口を閉ざしたままの浜面に、心に思ったとおりの言葉を投げかけた。

やがて、二人のやり取りを静観していた絹旗も口を開く。


「昨日の夜、浜面を襲った奴らの言葉は、『期待』の裏返しだったのかもしれませんね。

 能力者の下で働いている、かつての同僚を知って、超我慢できなくなったのかもしれません。」

「『期待』? はッ・・無能力者で、人を殴ることしか脳がないこんな俺に『期待』か・・。」

「・・そう。『期待』です。だからこそ、そんな超後ろ向きな考えをしている浜面に、やがて、『失望』の色を隠せなくなったんでしょう。」

「何を勘違いしてんのか知らないけどよ、俺がスキルアウトのリーダーだったのはたった数時間程度のことだぜ。

 そんなリーダーに『期待』も『失望』もないだろうよ。

 ってか、リーダーかどうかも怪しかったしよ・・。」



「浜面も何を超勘違いしているのか分かりませんが、リーダーにだけ信頼が集まるものでもないでしょう。

 リーダーだろうが、下っ端だろうが、やることをやっていれば自然と信頼が芽生えるものなんですよ。

 逆に言えば、必死に仕事をしないリーダーなら、少なくともこの世界では、寝首を掻かれます。」

「私も、はまづらのこと、信頼してるよ。絹旗も。フレンダも。麦野だって、きっと。」


滝壺はそう呟くと、目を細める。他の「アイテム」のメンバーのことでも考えているのだろうか。


「・・暗部組織っていうのは、そういうモンじゃないって聞いてるけどな。」


メンバーが死んだら補充する、そんな機械的な構造。 期待も失望も信頼もへったくれもない、それが学園都市の裏側、暗部組織だ。

少なくとも浜面はそう思っていた。


「まぁ、どう思うかは個人差がありますから。浜面の居た場所にも通じているかどうかは分かりませんけどね。」

「俺の居た場所・・か。」



一言で言えば、スキルアウトをやっていた頃は、楽しかった。

その中に居る限り、能力者からの生ゴミや羽虫でも見るような視線は感じなかったし、

劣等感もそれほど感じはしなかった、思う存分、自分の存在をアピールできた。

スキルアウトは、能力者を見返してやりたい、その一つの思いから一丸となって行動していた。

もちろん、それが社会的に外れたことだとは分かっていた。

しかし、そうでもしなければ、能力優先の学園都市では、自分の存在を再確認することができなかったのだ。

そんな中で、自分と仲間たちとはどうだったのか。


「・・まぁ、どっちにしろ、俺はあの場所には戻れない。

 スキルアウトをダメにしちまったのは俺の責任だ。

 今更になってのこのこ戻ることなんて、できやしねぇよ。」



「当たり前でしょう、今になってスキルアウトに戻ろうなんて、私が超許しませんから。」

「・・お前がかよ。」

「超当然です、丁度良いパシリ(玩具)を見つけたのに、易々と手を離してなるものですか。」


あはは、と滝壺が小さく笑い、浜面はガシガシと頭を掻く。

どうも最近、自分は女の尻に敷かれるタイプになってきている気がする、とゲンナリしていた。


ともかく、あれだけ能力者を嫌っていた自分が、今や、少女であるとはいえ能力者たちと行動している。

そうしているうちに、能力者に対する見方、考えが変容していくのが自分でも分かった。

能力者たち全員が全員、同じように無能力者に対して侮蔑の思いを持っているわけじゃないことも分かった。


「そういうことの答えは簡単に出ませんよ、ま、ない知恵絞って超考えてみると良いんじゃないんですか?」

「そうか。・・何か、ありがとな。

 俺、意味わかんねぇこと言ってたのに、ちゃんと聞いてくれてよ。何か少しすっきりした気がする。」



「まぁ、浜面も超浜面とはいえ、真剣に悩むこともあったんですね。何か超意外でした。」

「・・それ、褒めてんのか?」


ええ、もちろん。と絹旗が言う。

絹旗の目は笑っていた。 これは馬鹿にしてるな。と察する浜面。

すると、隣で同じく笑っていた滝壺がハッとしたように、声をあげた。


「そうだ、お花だけじゃないんだよ、お見舞いの品。」

「ああ、そういえばメインイベントを忘れていましたね。」


絹旗もポン、と手を叩き同調する。

つい数秒前までの真面目な顔はどこへやら、絹旗はまたリトルデビルと化していた。

一方の浜面は、怪訝そうな目で二人を見回す。



「メ、メインイベント?」

「はい、つい先日、浜面の携帯を拝借したときに見つけたんですけど・・。」

「なッ! お前、いつそんなことしやがった! プライバシーの侵害だぞこの野郎!?」


浜面は身を乗り出そうとするが、右足のせいで動けない。

仕方なく我慢して、絹旗を精一杯睨みつけることにする。


「ふふ、怖い顔しちゃ、い・や☆

 ま、そんな顔してられるのも、今のうちですけどねー。」


??? と首を傾げる浜面。

この少女の腹の内が見えない。

見ずとも墨のように真っ黒なのは容易に推測できるが。



「ほいッと♪」


ひょうきんな掛け声と共に、浜面がかけていた布団を勢い良く奪い取り、

カーテンのように、浜面と滝壺の間を遮る絹旗。

浜面からは、滝壺の姿が少しも見えなくなってしまった。


「おいコラ! 何しやがんだよ!」


まぁまぁ、とそれを制する絹旗。

耳をすませると、滝壺が何やら作業をしているのが音でわかる。

ジーッと何やらチャックを下ろす音も。怪しい。


「お、おい。滝壺?」


浜面が声をかけるも、滝壺からは応答がない。



絹旗は滝壺が居るであろう側を覗くと、キャッ☆だの、いやん☆だの、気持ちの悪い声をあげている。

あまり良い感じはしない、むしろ不吉な予感しか。


「・・両の目ン玉を超おッ広げて、しかと見るが良いでしょう! そして、その超空っぽの頭に超焼き付けなさい!!」


何やら準備ができたのか、絹旗が一段と大きな声をあげる。

な、なんだよ、と浜面はよく分からないまま、うろたえる。

その瞬間、絹旗が遮っていた布団をガバッと横へ投げ捨てた。



「これがッ! 滝壺さんの!!! バニーガール姿どぅぁぁぁぁぁッ!!!!!」



「・・・ぉ、おおぉぉぉぉぉぉブぅぅぅぅぅがぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!?????」


そこには、ややサイズの大きい愛らしいウサ耳、普段の彼女にはとても似つかわしくない網タイツ、

そして、露出度の超高いキンキラピンクのレオタードに身を包んだ滝壺が居た。



滝壺の表情は、何処となく火照っており(浜面視点)、

浜面の強靭な(自称)ハートに、ドスゥゥッ、と鈍い音をたてて突き刺さる。

そのときの彼の姿は、先ほどのムンクどころの騒ぎではなく、

右足の痛みなど忘れ、ベッドの上で、カンフーの達人みたいな格好になっている。


「(なッ・・な、なんだ!?これは!? 何が・・何が、起きているッ・・!?)」


毎日、中学校用みたいなジャージしか着ていなかった滝壺が、こんな派手な格好をしているのを見るのは初めてだった。

いや、恐らく彼女自身、こんな格好をすること自体、初めてのはずだ。

男の本能的に、露出された胸やら足やらに、つい目が行ってしまうのが悔しい。

それだけ、彼の目を惹くエロチックな光景だった。



「(が・・ぐ・・、落ち着け、落ち着くんだッ、浜面仕上ッ・・。

 山羊を・・、違う!! 素数を数えるんだ! いや待て、その前に素数って何だッ!?

 っていうか滝壺ッ、いつも目立たない服装してるから分からなかったが、

 意外と良いモノをお持ちになっていらっしゃるッ・・!!)」

「いやー、浜面の携帯フォルダのバニーさん含有率が超高かったので、

 こういうのが超ストライクなのかなー、と思ってましたが、超ヒットしたようですねー。」


ウヒャヒャヒャ、と絹旗が視界の端で笑い出していたが、そんなものには反応しなかった。

というか、反応できなかった。

滝壺は一般的にはそれほどスタイルが良い方ではないかもしれない、

それでも、浜面の脳髄から足の先まで、激しい衝撃がほとばしり、浜面に致命傷を与えるには十分であった。

まさに、思考停止である。



「く、くそッ・・な、なんだ! これは!? ドッキリか! ドッキリなんだな!

 おい、出てこい! 麦野! フレンダ! お前らも共犯で、何処かに居るんだろう!!

 いや待て! その前にカメラだ!! ビデオカメラは何処だ! ぶっ潰してやるゥゥッッ!!!」


もはや、支離滅裂なことを言い放ち、身体をぐりんぐりん回す浜面。

これが世に言うトリプルアクセルである。

渦中の滝壺は棒立ちでありながら、依然として彼の情欲をそそる状態を保っていた。


「ああ、カメラ! 携帯のムービーでこの浜面の超壊れっぷりを撮っておきましょう。

 明日辺り、麦野たちに見せてやりますかねー。」

「やめろォォォォッッッ!!!!!」


絹旗を止めようとするも、滝壺の姿がどうしても視野に入ってしまう。

浜面は、理性的判断から両腕で自分の目を隠そうとするが、本能がそれを邪魔するのか、やはりチラチラ見ている。



「うへぇ、さすが浜面。あまりの衝撃にオツムが超機能停止してますねコレ。」

「・・・はまづら、よろこんでくれた?」


ガクンガクン、と赤色の某お土産みたいな首の動きをしている浜面。

足だけではなく、首の骨もイカれてしまう勢いである。


「あ、いや待て! 別に喜んではいな・・、 いや、でも滝壺のことを考えるとッ・・!」

「そっか、それなら・・。」

「・・え! ちょ、滝壺!? ちょちょちょ、ちょっと!?」



滝壺は椅子から立ち上がると、そのままの魅力あふれるバニー姿で、身体を浜面に近づけた。

横で腹を抱えて笑っている絹旗はなぜかそれを止めようとしない。

愛しのバニーガールに寄られた浜面は、理性のアクセルを全力で踏み、ベッドの端まで身を引いた。

しかし、固定された右足のせいで、ベッドの外には逃げ切れない。


近づく。

離れられない。

触れる。

のけぞる。


そして、理性の崩壊が訪れる。


「・・ォォォオアああああああああああァァァァァァァッッッッッッッッ!!!!????」


本能と理性が交差するとき、物語は始まる―――



今日は夜も遅いので、ここまで。ということで勘弁してください。

明日も同じ時間に来れれば良いのですが、スレが生きてるかどうか・・。

次は、スレタイの子を登場させる予定ですので、目を通していただければ幸いです。

では、おやすみなさい。


>>1に聞くけど今日あわせて何日くらいで終わらせるつもり?

保守時間目安表 (休日用)
00:00-02:00 40分以内
02:00-04:00 90分以内
04:00-09:00 180分以内
09:00-16:00 80分以内
16:00-19:00 60分以内
19:00-00:00 30分以内

保守時間の目安 (平日用)
00:00-02:00 60分以内
02:00-04:00 120分以内
04:00-09:00 210分以内
09:00-16:00 120分以内
16:00-19:00 60分以内
19:00-00:00 30分以内

>>

                       ヘ(^o^)ヘ いいぜ
                         |∧  
                     /  /

                 (^o^)/ てめえが何でも
                /(  )    思い通りに出来るってなら
       (^o^) 三  / / >

 \     (\\ 三
 (/o^)  < \ 三 
 ( /

 / く  まずはそのふざけた
       幻想をぶち殺す


おばんです。

昨日より少し早まりましたが、投下させていただきます。



「いまどき流行ってるっていう肉食系女子っていうのは、滝壺みたいな奴を言うんだろうな・・。」


時刻は午後七時を少し回り、浜面は夕食を食べ終え、一息ついたところであった。

お皿とお盆を取りに来たナースに、にこやかな(気持ち悪い)表情を振りまき、

部屋から出る彼女の美尻を堪能したあとに。

ちなみに、ハリケーンそのものであった絹旗と滝壺は、二時間以上も前に帰宅している。

恐らく、複数ある「アイテム」の隠れ家のいずれかに戻ったのだろう。


窓の外を見ると、日が暮れ、辺りが真っ暗になっていることが、カーテン越しでも確認できた。

面会時間は午後八時までと決められており、病院内もやがて静けさを帯びてくる頃だろう。



「しっかし、病院食ってのは、やっぱりあんまり美味しくないモンだな・・。」


一般の病院とはいえ、なかなかの設備が整っていることから、食事の質にもほのかな期待を持ったが、噂通り、

病院食というものはどこの病院でも同じことで、患者の栄養面を第一に考えられた味だった。

彼は、朝も昼も同じような食事をとったが、やはり味の薄さには慣れておらず、

今になって思わず不満が口に出てしまったらしい。


「何か・・・、たまには身体に悪いものが・・、甘いものが食べたい・・。」


考えてみれば、最近、ろくなものを食べていないことに気がついた。


「アイテム」の四人は、どこから出ているのか分からない、ほくほくの給料を豪快に使っているため、

衣食住には困っていない様子だったが、下部組織、下っ端、パシリ、超雑用、愛玩奴隷という風に、

ロイヤルストレートフラッシュで駄犬属性が揃っている浜面に、金銭的余裕はそれほどなかったし、

無論、「アイテム」の四人が浜面に食を恵んでくれることなど、ほぼ皆無であった。

ときどき、滝壺が気まぐれなのか、食べ物を分けてくれるが、それだけと言えばそれだけである。

育ち盛りは若干過ぎたとはいえ、成人にほど近い健全な男子が、

経済的不安から、思う存分食事を取れないというのは何とも不憫極まりない状況といえる。


「・・滝壺が持ってきてくれたこの花、実は食えたりしねぇかな、はは。」


滝壺自身が買ってきてくれたであろう可愛らしい黄色の花は、今もなお、生気十分、可憐に咲き誇っている。

ボーッとその花を見つめていると、脳裏に滝壺の愛らしい微笑みが浮かぶ。

やがて、それはうっすらと変形し、バニーガールの滝壺の全体像が浮かんできた。



「・・あふッ・・、とりあえず、あの映像は保護アンドロックしておこう・・。

 それにしても良かったな・・滝壺のバニーさん。あ、やべ・・鼻血出た。」


傍らに置いてあったティッシュ箱に手を伸ばし、一、二枚取ると、鼻血の応急処置をし、頭も冷やす。

そんな哀れな状態に陥っているときだった。


コンコン、とドアのノック音。


もちろん、食事はつい先ほど終えたばかりで、診察があるとも聞いていない。


「(え、何コレ、デジャヴ?)」


自分のお見舞いに来てくれる可能性が一番高かったであろう滝壺(と絹旗)は既に来た。

親類は居ないはずだし、スキルアウト時代の馴染みが来るとも思えない。そもそも浜面の入院すら知らないはずだ。



と、なるとやはりナースか・・? と口元に手を当て、考えこむ浜面。

つい数秒前までバニーガールを考えていたにも関わらず、彼の頭の中は、一瞬でナース一色に切り替わっていた。


「(っていうか、中からの返答なんか気にせず、入ってくれば良いのにな、絹旗にしろ、そこの人にしろ。

 とりあえず、訪問者をドアの前に待たせたままだと、紳士(自称)たる浜面仕上の名折れだ。)」


コンコンコン、と再びノック音。


「あ、はい。どうぞ、起きてます。」


結局、凡庸な応答をせざるを得なかったが、念のため、キリッとした表情をする浜面。

血を抑えるためのティッシュが片方の鼻に突っ込まれたまま。




「よーす、浜面クン。 調子はどうだー。」



ガラッとドアを開け、入ってきたのは、完全に彼の予想の遥か外の外。

巷の女性が羨むような綺麗に手入れされた茶のロングヘア、モデルのようなスラリとしたスタイル。

薄いメイクを施すだけで十分な、人の多い街を歩けばすぐにナンパされるであろう、整った顔立ち。

冬でないにも関わらず、どちらかというと地味な灰色の薄いコートのような服に身を包んでいるが、

それでいて、ごく一部の最上級の美人が醸し出すようなオーラは失われていない。

間違いなく、それは浜面がよく知る、麦野沈利その人であった。


「む、麦野ッ・・・!?」


麦野は、ドアを静かに閉めると、ファッションショーのモデルのようにツカツカと歩き、

二つ置いてあった椅子のうちの一つに腰を下ろした。



「・・やっぱり、絹旗と滝壺来てたみたいね。」


椅子の数と飾られている花から判断したのか、麦野が平坦な表情で言う。

その手には何やら可愛らしいピンクの花柄のビニール袋が握られていた。

しかし、最も意外な来訪者に驚く浜面は、そんなところまで目がいかなかったようである。


「あ、あぁ、昼過ぎにな。 でもどうしたんだ、急に・・。」

「んー。アンタがヘマして入院したって絹旗から聞いたからさー。」

「いや、そりゃ見舞いに来てくれたんだから、そうだろうけどよ。

 っていうか滝壺たちの話じゃ、麦野とフレンダは来れない、って言ってたような・・。」

「たまたま用事がなくなったのよ。 用事があるのにアンタなんかのお見舞いに来るわけないでしょ。」

「そ、そうか。そうだよな。あー、びっくりした。」

「・・なに、私がお見舞いに来たらおかしいっての?」



麦野の無機質な表情が、一瞬で強張った。

それを見た浜面は、全身を存分に使い勢いよく否定。

下手に彼女の気分を損ねると、この病室どころか、病院そのものが原子レベルで崩壊する。


「そんなことはどうでも良いとして・・。はい、これ。」


麦野がスッと差し出したのは、先ほどの可愛らしい花柄の袋。

それを見た浜面の顔は、なぜか険しくなった。


「・・あのさ、麦野。 ただの袋なんかもらっても嬉しくないんですけど。」

「何処に目ェつけてんのよ、このバカ面。 中身に決まってんでしょうが。」



麦野がその袋を投げ捨てるように、浜面の膝元に置く。

感触から、何か固いものが袋の中に入っていることが確認できた。

いや、冗談だって。と左手で麦野を制し、右手で中身を漁ると、中から出てきたのは、白い長方形の箱。

重要なのは、袋でも箱でもない、その中身だ。


「箱の中身は、なんじゃろな・・。」


浜面は、その箱を(心中、恐る恐る)開け、箱の中身を確認。

箱の中にあったのは、なんてことのない、丸い形をした茶色っぽい焼き菓子。

いわゆる、マフィンという奴である。それが六個。


「・・・・・、これは?」

「アンタ、まさか食べたことないのそれ?」

「いや、マフィンだろ? それくらい知ってるけどさ・・・・・。」



なぜか言葉に詰まり、俯く浜面。

それを見て、理解に苦しむ麦野。


「・・・ぅ・・ぅぅっ・・。」


浜面は、マフィンの箱を手にしたまま、いきなりポロポロ泣き出した。


「え? ちょ、ちょっと何で泣いてんの!?」

「い、いや・・。日頃、ボロ雑巾みたいな扱い受けてるからさ・・ぇぐ、

 まさか、麦野がこんなもの買ってきてくれるなんて、夢にも思わなかったからよ・・。」

「いや、つーか、買ってきたっていうか・・、作ってきたっていうか。」

「・・え?」

「な、何でもないわよ。 空耳よ、空耳ケーキ。いや、空耳マフィンよ!」


意味不明なことを言って誤魔化す麦野。

浜面には、どうして麦野が焦っているのかは分からなかった。



「でも悪かったわね、もう少し早く来れば、夕食より前にそれをあげられたのに。もう夕ご飯食べちゃったでしょ?」


麦野が仕切りなおすように、自慢の長髪を撫で上げて言う。

それのせいか、香水と思われる麦野の良い匂いが、浜面の鼻腔まで届いた。

そんな何気ない小さなことではあるが、浜面は不覚にも少しドキッとしていた。

ぶんぶん、と首を横に振り、平静を保つ。

ちょっと、聞いてんの? と眉をひそめる麦野。


「いや、病院食っていうのは味気なくってな。あんまり腹の足しにもならなかったから関係ねぇよ。

 それに、ちょうど甘いもの食べてーなって思ってたから、良いタイミングだ。ありがとな、麦野。」



「・・別に良いわよ、たまにはね。」


なぜかそっぽを向く麦野。

そんな彼女を尻目に、浜面は、マフィンの一つを早速取り出すと、麦野に差し出した。


「麦野も食うだろ、ほら。」

「あ・・、うん。ありがと。」


マフィンを受け取るも、彼が口を開けて食べようとするのを見たまま、麦野は静止していた。

彼女の熱視線に気づいた浜面は、瞬きしながら、ぎこちなく目を合わせる。

浜面のことを見てはいるのだが、心ココに在らず、そんな表情だ。

来てたあああああああ
支援



「・・ど、どうした。食べないのか?」

「え・・。いや、なんでもない!」


麦野は下を向き、慌ててマフィンを頬張った。


「!? ・・ケホッ、ケホ! ぅ゛~っ・・。」

「おいおい、そんなにがっついて食うから・・。
ほら、これ飲めよ。あ、ちなみにまだ開けてないから安心しろ?」


置いてあったペットボトル水を持ち、息苦しそうに腰を折る麦野に、キャップを開けてから手渡す。

口をつけると、彼女は水さえも勢い良くガブ飲みし、やがて、落ち着きを取り戻した。

うぁ゛~・・、と嘆息する麦野。

そんな彼女をどこか不思議そうに見つめる浜面。

どうも今日の麦野は様子がおかしい、そう感じていた。



「(まさか、毒とか入ってないだろうな・・これ。)」

「(・・・・まぁ、初めて作った割に、なかなか美味しくできたわねこれ。)」

「(まぁ、麦野も美味しそうに食べてるし、問題ないか。今は腹を満たすのが先だな。)」


麦野の乙女な想いを他所に、浜面は食欲のまま、マフィンにかじりつく。


「(いつ死んでもいいように、よく味わっておこう。

  なんせ珍しく麦野が買ってきてくれたものだしな・・、保存とかきかないのかなコレ。)」


パサパサした食感ではあるが、口内にふわりと広がる甘味。

子供の頃に食べたことはあったものの、しばらくご無沙汰だった甘菓子だ。



「っていうか、アンタさ。そのティッシュは何よ。」


ツッコまれて当然だった。

荒々しく彼の鼻に突っ込まれたそれは、少し血が滲んでいるのが、麦野から見てもよく分かる。


「あ! いや、これはちょっとな・・。」


食べかけのマフィン片手に、必死に弁解する浜面。

とても、滝壺のバニーガール姿を想像して、鼻血を出していたなんて言える状況ではない。


「・・どうせ、またヤラしいことでも考えてたんでしょ。超浜面って感じよねー。」


聞き覚えのある口癖で、浜面をなじる麦野。

こういうときの彼をからかう小悪魔のような顔は、絹旗と共通するものがある。

ただし、麦野の場合は、妙な色っぽさが垣間見えるので、ある意味、絹旗よりも厄介だ。



「いや、でも俺も血気盛んな男子であるからして、仕方ないことなんだって!」

「血気盛んなって何・・。っていうかそこは否定しておきなさいよ。」

「いや、勘違いしないでくれ、これは健全な男子には当然の・・」

「ハイハイ、浜面クンの苦しい弁解は、聞くに堪えないわ。」


くそッ、と悔しがりながらも、はぐはぐ、とマフィンを食べ続ける浜面。

それを見ながら、ふと麦野は思う。


「・・それ、美味しい?」

「あん? いや、お前だって同じもの食べてんじゃん。」

「良いから。アンタ的にはどうなのよ、って話。」

「あ、ああ。 ・・かなり美味いぞ。世辞抜きで。」


今日一日、病院食しか食ってないからかもしれないけどな、と浜面は付け足す。



「・・そ。ありがと。」


一方の麦野は半分スッキリしたような、半分不満を残すような、不完全燃焼の表情。


「(・・何で麦野が礼を言うんだ?)」


マフィンを目一杯口に入れたまま、首を傾げる浜面。

一方の麦野は、浜面らしいやっつけな感想とはいえ、とりあえず、それで納得することにした。

彼にそれ以上の言葉は期待してはいないし、何よりこの朴念仁は、

麦野が自分で作ったマフィンであることを察していない。

自分からそれを言うのも癪だった麦野は、口をつぐんだ。


「あ、そうだ。あとこれ。」

「・・・・、なんだこりゃ。」



見れば分かるでしょ、という彼女が懐から取り出したのは、一つの缶詰だった。

浜面の脳裏には、なぜか無邪気に笑っている金髪の少女が浮かんでいた。


「今日の朝、たまたま食べ忘れた缶詰だってさ。どうせだからあげるって。フレンダが。」

「・・あ、ああ。一応、ありがとよ、って伝えておいてくれ。」


何ともいえない表情をした浜面は、缶詰を受け取ると、枕元に置く。

しかし、夢に缶詰が出てきそうな気がしたため、棚の上の、滝壺が持ってきた花の横に並べて置いた。


そのとき、とある物体が目に入った。



「・・?」


花や缶詰が置かれた棚の、一段下。

引き出しから、何やら光るピンクの布のようなものが少しだけはみ出していることに気づいた浜面。

見覚えのある色合い。

再度、全米が泣いた史上最高の驚異的致命傷を浜面に与えた、あの強烈な光景が脳裏に浮かぶ。

そう、それは数時間前に滝壺が着た、燦然と光り輝いていたピンクの―――。



「(・・・・な、なにィィィィッッッッ!!!???)」


思考停止。


「・・な、なに、アンタ。顔がひきつってるわよ?」


唐突に、顔を真っ赤にした浜面に、若干引き気味の麦野。



「もしかして、やっぱりそれ美味しくなかった?」

「い、いや、違う・・、マフィンは美味しく頂いていますが・・、が・・。」


とりあえず、布団を頭から被り、シンキングタイムに突入する浜面。


「(あンの・・バカ絹旗ッ・・、あの後、どさくさに紛れて放置していきやがったのかッ・・!!)」

「・・・・?」


麦野がお見舞いに来ることを彼女が知っていたのかどうかは定かではない。

しかし、あろうことか、事実として、絹旗はバニーの衣装を病室に放置していっている。

最後の最後で、素晴らしく憎い置き土産である。

これが麦野に見つかれば、右足の怪我どころでは済まない。一瞬で消し炭にされる可能性があった。



冷や汗をダラダラ垂らしながら、布団から顔を半分だけ出し、正面の壁にかかる時計を見る。


「(いや、よく考えろ・・。面会時間は確か八時まで・・、現在七時三十分・・。

  あと三十分しのげれば俺の勝ちッ・・しかし、バレれば、俺の人生はメルトダウンッ・・!!)」


すっかり、キュッと絞まってしまっていた胃袋に、とりあえず何か入れようと、マフィンに手を伸ばす。


しかし。


「・・・・、何コレ。」


「(ぐ・・・、ぐぼぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!???)」


横を見ると、麦野がキラリン☆ピンクのレオタードを手でぶら下げていたのが分かった。

それにつられて、ウサ耳と網タイツも続々と出てきていたようで、床に散らばっている。



「さっきから何をチラチラ見てるかと思えば・・、入ってきたときから気になってたのよねコレ。」


かくいう麦野がどんな表情をしているかは、浜面からはイマイチ彼女の顔が見えないため、分からない。


「(・・・マフィンを食べるより、遺書を書くのが先だったか。)」


麦野の勘の良さと、自分の不幸っぷりと、絹旗の策士っぷりを恨んだ浜面。

ちなみに、彼は滝壺のことは恨まない。バニーガールは彼の中で絶対的正義(justice)だからである。


「・・アンタ、なんでこんなの持ち込んでんの?」


麦野の冷ややかな声に、全身の毛穴が開ききってしまったような感覚に陥る。

未だ麦野はこちらを見ようとはしていない。

っていうか、何で俺が持ち込んだこと確定なんだよ、と心の中で愚痴る浜面。



「(・・・エロ本が母親に見つかったガキの気持ちってこんな感じなんだろうな。)」


とはいえ、ごまかす理由が見当たらない。

新人棋士・浜面仕上は、1手目から王手をかけられていた。


「(どうするッ・・何か、なにかごまかせる良い手はないのかッ!!??)」


なぜか頭の中で、一人で退屈な浜面くんにズリネタを超提供でーす☆ とか笑っている絹旗が浮かんでいた。

あの性悪女狐・・。退院したら、ぜってー泣かすッ・・! と決意するも、

退院する前に、今ここでくたばりそうになっていることが大問題である。

人生の終わり、チェックメイト、カーテンフォール。

様々な終焉の言葉が、巡り巡って、浜面の終了を告げようとしていた。



「・・アンタさぁ。」


浜面は両腕を前に構え、目を閉じ、今か今かとビクビクしている。

やがて、麦野がゆっくりと口を開く。



「アンタ、女装趣味があったのね。」



「・・・・・、えっ?」


麦野が自分をどこか哀れむような表情で、浜面のことを見つめていた。

浜面はどこか拍子抜けしたような顔をしている。



「本当に居たのね、女装を趣味にしちゃう男って・・、それもまさか、こんな近くに居るとは。」


麦野は口元に手を当て、割と本気で深刻な表情をしていた。


「(な、なんだ・・? 麦野も意外とド天然さんだったのか・・?)」


予想外の事態に、半分口が開いたまま、塞がらない浜面。

しかし、一方で、最悪の展開を避けられたようにも思えた。

麦野は別に怒り狂っているわけではなく、これから精肉工場に送られる食用豚でも見るような目で浜面を哀れんでいる。

よく考えてみると、バニーガール滝壺よりも、自分の社会的地位を犠牲にした方が、まだ上手くやっていけそうな気がしないでもない。

元から最底辺のようなものだ、今更どう転ぼうが関係ない。

身体に傷を負うことには慣れている。

ありがとう神様。

ありがとう滝壺。

だが絹旗、てめぇはダメだ。



「・・あ、ああ。そうなんだ、そうなんだよ! 俺、実はそういう趣味があったんだ!」


理性が半分崩落している浜面は、見切り発車で弁解し始める。

正直、女装趣味を使ってフォローしようとするのも、かなり無理があったが。


「いや、だからって普通、病院にまでこんなの持ち込む・・?」

「あ、ああ! 我慢できなくってさ! 3日女装しないだけで、禁断症状が出ちまうんだよッ!」


ジンマシンがでちまうんだよ! と補足する浜面。

勢いづいてしまったとはいえ、我ながら酷いことをツラツラと言い放っている気がする、と痛感する浜面。

しかも、毎日のように顔を合わせている女の子に。

っていうか、自分は心に傷を負うことは慣れていなかった気がする。

しかし、今の彼がこの窮地を切り抜けるには、それしかなかった。

というか、それを選ばざるを得なかった、命に関わる問題だからである。



「頼むから秘密にしておいてくれよ・・、他の奴にバレると面倒だからさッ!」

「へぇ・・。」


麦野が何を思いついたのか、キラッと目を光らせる。

その瞬間、浜面は、漂い始めた危険な空気を本能で察知した。

少し考えた風な素振りを見せた麦野は、やがて顔を上げ、口を開いた。


「じゃあさ、これ。今着てみてよ。」


「What!?」


浜面は驚きのあまり、麦野は二度見する。

その麦野は、悪気のない子供のような笑みを浮かべているが、

彼女の背中からは、ついさっきみた絹旗のような悪魔の羽と尻尾が見えていた。



「え・・ッ? 麦野サン、今何とおっしゃった・・?」

「んー? だから、このバニーさんの衣装を着てって言ったの。」

「・・だ、誰が?」

「アンタが。今。ここで。私の前で。面会時間が終わる前に。」


外堀を埋めていくように次々と条件をつけ、バニー衣装を浜面の前にドンと突き出す麦野。

床に落ちていたはずのウサ耳と網タイツも、いつの間にか麦野の手の上にあった。

どうやら神様は、BAD ENDを2パターン用意していてくれたらしい。

もう二度と、神様なんか信じねぇ。



残念だー、はは。と怪我で固定された右足を指差す浜面。

心なしか声が震えているのが、自分でも分かった。


「何言ってんのよ、それなら最初からそんなの持ち込まないでしょうが。」

「ま、待て、(滝壺のものだから)サイズが合わないかもしれねぇじゃん!?」

「いや、これアンタのでしょうが。」

「あがッ!」

「それに心配はいらないわよ、私が手伝ってあげるし。」

「い゛ッ!?」

「あ。 あと、今着てくれなかったら、滝壺たちにバラすから、アンタの女装趣味。」

「えぐッ!?」


>>189の冒頭、↓を挿入してください。

「いや、今日は無理だって・・、ほら、右足もこんなんなってるしさ・・。」



これ以上、彼女たちに(特に絹旗)いじられるネタを提供するわけにはいかなかった。

それに、自分を喜ばせるために、バニーの衣装まで着てくれた滝壺を裏切るわけにはいかない。

もう後には引けないのか、男なら胸張って自分が正しいと思ったことをやるしかないのか。

微塵も、女装することが正しいこととは思わないが。

しかし、そこで、浜面はさらに恐ろしい事実に気づいてしまった。



「(・・・・そういや、このバニーさん衣装、滝壺が着てた奴じゃねぇかァァッッッッ!!??)」



今更気づくのもどうかと思われるが、それは確かについ数時間前まで滝壺が着ていたバニースーツ。

あのとき、ジャージを脱いだだけで、すぐにバニースーツの姿になっていた彼女は、

恐らく病院に来る前から、あの衣装を着ていたことになる。

それだけ、滝壺のぬくもりが蓄積されているのである。

浜面の「理性」という名のダムは、まさに決壊寸前であった。

滝壺の積極的アタッチメントにより、数時間前に一度決壊しているのだが、ここに来て、再びその危機が訪れるとは。


「(む・・無理だッ・・俺には彼女の信頼を裏切ることは・・、できないッ・・!)」



バニースーツを着ても、滝壺を間接的に汚すことになり、

バニースーツを着なくても、女装趣味がバラされ、滝壺が悲しむことになるだろう。

麦野の性格はよく知っている。 実行しなかったら、本気でチクるつもりだ。

下手をすれば「アイテム」だけでなく、学園都市の暗部中に噂されることになるだろう。

超能力者(レベル5)、『女装趣味(ガールドレスホビー)』。

不幸にも、語呂が良い。

そんなことになったら、スキルアウトの元同僚にまた襲われかねない。


「(す、すまん・・ッ、滝壺、俺は・・俺はッ・・)」



滝壺がその頭につけていたウサ耳カチューシャ。

滝壺がその素肌に直につけていたレオタード。

滝壺のその華奢な足を包んでいた網タイツ。

想像を絶する葛藤の中で、漢・浜面は意を決した。


「(・・、俺は・・ッ、バニースーツを・・・、)」


浜面は身体を震わせ、痙攣同然の手を、差し出されたバニースーツに伸ばした。

ゆっくりと。

越えてはならない一線を越えるとき、浜面はまた一歩大人の螺旋階段を上ったと確信した、

そのときだった。



「あら・・?」


あることに気づいた麦野が声をあげる。

今まさにバニースーツを取ろうとしていた浜面の手をすり抜けて、差し出していたバニースーツを引っ込めた。


「(な、なんだ・・、助かった・・のか?)」

「・・・・。」


麦野の顔が、小悪魔な表情から、何かドス黒い影を帯びた無表情に変わっていた。

浜面は察する。

まずい。

自分はたぶん、底がないはずの奈落の底に、さらに穴を掘っている、そう確信した。


「あのさ、浜面。ちょっと。これ、読んでみなさい。」

「・・はい?」



麦野が掲げたピンクのレオタード。

ちょうどそのレオタードの裏側、ちょうど着用者の胸が当たる部分だった。

そこには、黒い油性マジックのようなもので、



『たきつぼ りこう』



全身から汗が吹き出るのが分かる。

蛇に睨まれた蛙とは、こういうことを言うのか、勉強になる。

アンチスキルや能力者との数々の死闘から生還した浜面ではあるが、

ここまで勝率のない戦いを挑まれるのは初めてだった。

一時のバニースーツにさえ、名前書いちゃうとは、滝壺は律儀だなあ、とか思ってもいた。



麦野は、ただジッと浜面の目を見つめている、不気味なくらい無表情で。

おかしい、目を閉じることができない。


「あ、ああ・・・。えー、素朴ながら、愛着の沸く、・・綺麗な字だと思います。」


精一杯、自分の発声器官を振り絞った末に出した言葉がそれだった。

もう何も耳に入ってこない。

ただ、そんな状態でも、麦野の口の動きから、彼女が何を言っているのかはすぐに分かった。

無表情だった彼女の顔が、狂気に歪む。



「ブ・チ・コ・ロ・シ・か・く・て・い・ね。」




「なーにが、『浜面が滝壺さんに変なちょっかいを出さないように見張る超監視役』、よ。

 アイツが滝壺をけしかけてんじゃないの、何やってんだか。」


麦野が最後のマフィンを口に入れると、椅子でと足で床を蹴り、くるくるー、と回りだす。

一方の浜面は、命カラガラに、ベッドの上で白目を向いていた。


「(滝壺と麦野・・。一日で天国と地獄の両方を味わった奴もそうはいないな・・ごふッ・・。)」


自分が原型を留めていることが奇跡だ、浜面はそう思っていた。

意識を取り戻した浜面に、麦野が声をかける。


「何か私に言うことは?」

「・・命の大切さを教えてくれてアリガトウ。」


麦野は手に持っていたバニースーツを、浜面の顔面にぶつける。



顔面にぶつけられたバニースーツを両手で掴んで、引き離そうとした瞬間、浜面の動きが止まる。


「あ、滝壺の匂・・」

「それ以上、何か言ったら、二度と滝壺に会えなくなるから。」

「す、すんません! 何でもないです、調子のりましたッ!!」


浜面は、すっかり縮こまってしまっていた。

ポトリと浜面の胸元に落ちたバニースーツを麦野が手に取る。


「これは、私が責任を持って滝壺に返しておくわ。」

「あ、はい。お願いします。」


麦野は、自分が持ってきたマフィンの袋にバニースーツを無理やりつめこむ。

浜面が、なんとなく物寂しいような目を向けていたが、麦野の殺気に気づくと、すぐに視線を落とした。



「じゃ、そろそろ八時になるし。帰るわ。」

「ああ。ありがとな。なるべく早く戻れるようにするからよ。」

「当然よ・・、さっさと戻ってきなさい。 ・・・アンタは大事な、」


麦野は、一瞬言葉に詰まる。

大事な? と不思議そうに復唱する浜面。


「・・・・・・大事な、私たちのパシリなんだから。」


「あァ・・、そうですか。」

「ふふっ、いま何か期待した?」


クスクス、微笑む麦野。



「そういう仕草を普段からしてれば、かなり可愛いのにな・・。」

「・・ぇ、今何て言った?」

「な、なんでもねぇよ! 早く帰れ!」


不満の残るような表情をしながらも、麦野はドアの前に立つと、スッと振り向く。


「・・じゃ、また来るから。」

「ああ、空いてるときで良いからな。

 ・・俺なんかのために、仕事に支障が出ちゃまずいからよ。」


うん・・、じゃあね。とだけ言うと、麦野はドアに手をかけ、静かに出て行った。

どことなく、名残惜しいような、そんな雰囲気を残しながら。






―――――



看護士すら見当たらない夜、ひっそりとした病院の廊下を

上品な、それでいて小気味よいハイヒールの音を鳴らして歩き、下へ続く階段に向かう麦野。

窓の外の暗さを見ると、すぐに腕時計に目をやった。


「もう八時過ぎか・・、アイツらに何か夜食でも買っていってやるかな・・。」


ンーッと、両手を突き上げ、背伸びをする麦野。

はぁー、と大きな溜め息をついた後、手に持っていた袋の中のバニースーツに目をやり、怪しげに微笑む。


「ふふっ・・、かなり可愛い、だって・・、後悔させてあげるわよ・・、良い意味で。」


学園都市、第四位の超能力者は、今日も胸を小さく躍らせる。





☆おまけ・その1



「腹、減ったな・・・。」


麦野の攻撃を命がけで回避しまくっていたせいか、急に腹の音が鳴っていた。

夕食とマフィンを食べたばかりだというのに、何とも気の抜けた話である。

何かないか、とキョロキョロ見回す浜面。


「あ、そういや。」


浜面は、先ほど麦野からもらった缶詰に手を伸ばした。

フレンダが浜面のお見舞いに、と麦野に渡した缶詰だ。


「お見舞いなのに、普通缶詰なんか渡すかよ・・しかも、食べ忘れたのとか。」



「カレー(甘口)<子供用>」とか、いかがわしい表記があったが、この際、味は関係ない。

しかし、すぐに、缶詰を開ける道具どころか、スプーンもフォークもないことに気づき、断念する。

仕方ないので、諦めて、元の位置に戻そうとする。

そのとき、何気なく缶の底を見た彼は、絶句した――。




「・・・・し、賞味期限過ぎてるじゃねぇかァァッッッッッッッ!!!!!!!」




今日も学園都市のどこかで、金髪碧眼の少女が高笑いしている――、そんな気がした。



、以上です。

>>88の件ですが、今日の分でようやく半分くらいになります。

よって、あと2,3日はかけたいのですが、保守が大変ですよね・・。


ちなみに、今回の「浜面入院~」の話以外の、これから先の話の題材は、

絹旗やフレンダにもスポットを当てた話などを含め、かなりあるんですが、書き溜めが追いついていない状況なので・・。


明日はできたら朝に投下したいんですが、無理な場合は、今日と同じくらいの時間にまた投下します。

では、おやすみなさい。



保守時間目安表 (休日用)
00:00-02:00 40分以内
02:00-04:00 90分以内
04:00-09:00 180分以内
09:00-16:00 80分以内
16:00-19:00 60分以内
19:00-00:00 30分以内

保守時間の目安 (平日用)
00:00-02:00 60分以内
02:00-04:00 120分以内
04:00-09:00 210分以内
09:00-16:00 120分以内
16:00-19:00 60分以内
19:00-00:00 30分以内

^^

ニュー速VIP避難所(クリエイター)
tp://ex14.vip2ch.com/news4gep/

何日もかかるってえんなら↑でやるのも選択肢だと思うが・・・
パー速鯖の別板だから月1ぐらいで生存報告しとけば落ちないし・・・

しゅ

                       ヘ(^o^)ヘ いいぜ
                         |∧  
                     /  /

                 (^o^)/
                /(  ) 
       (^o^) 三  / / >

 \     (\\ 三
 (/o^)  < \ 三 
 ( /

 / く  

                      ヘ(´◉◞౪◟◉`)ヘ いいぜ
                         |∧  
                     /  /

               (´◉◞౪◟◉`)/ てめえが何でも
               /(  )    思い通りに出来るってなら
      (´◉◞౪◟◉`) 三/ / >

\     (\ \ 三
(/◞౪◟◉`) < \ 三 
( /

/ く  まずはそのふざけた
      ポーズしてる奴をぶち殺す



保守ありがとうございました。

早速、投下させていただきますが、

念のため「百合注意」とだけ記しておきます。


―――――


時間は少し遡り、午後二時過ぎ。


「・・わざわざ私を付き合わせるなんて、何事かと思ったら。こういうわけねー。」


ここは「アイテム」が複数もつ隠れ家の一つである。

彼女たちがよく居座るファミレスと同じ第七学区にあるものの、少し寂れた灰色地区の一角。

階数が少なく、外見的にも目立たないデザインのマンションなので、暗部の隠れ家には持ってこいの場所だった。

そして、ここはそのマンションの五階のとある一室。

ソファやテレビから、簡単な料理道具から粗末なインテリアまで、必要最低限のものが散らばった部屋。

床には空の缶詰や、読み終わった映画のパンフレットなども散乱している。

浜面のお見舞いに直行した絹旗と滝壺と別れた麦野とフレンダは、その部屋に戻ってきていた。

二人は、普段はほぼ全くといっていいほど使わないキッチンを前にして、話し込んでいる。



「で、結局さ、お菓子作りっていっても何を作るわけ?」

「色々考えたんだけどねー、マフィンを作ろうかと思うのよ。」

「おー、なんだか当たり障りのないものを。」


マフィン。普段はあまり見ないかもしれないが、知らない人は居ないであろう甘菓子の代表格だ。

程よく甘く、手軽に食べることができるため、知人のお見舞いなどにも適している。


「何よ、悪い?」

「いや、ぜんぜん。むしろ私も食べたいし。」

「・・アンタにはあげないわよ?」


え? とフレンダの頭に疑問符が浮かんでいる。



「じゃぁなに。結局、麦野が自分で食べるのを一緒に作らせるために、わざわざ私を呼んだわけ?」

「・・いや、私が食べるわけでもないけど。」

「は? じゃぁ結局、誰へのマフィンを作るのさ。」


なぜか口ごもる麦野。


「・・・・浜面。」

「はま・・づら?」

「何よ、悪い!?」


バン! と手近の棚を叩く麦野。

心なしか顔が赤い。



「む、麦野が浜面に贈り物とか・・。」


だいじょうぶ? とフレンダは自分の手を麦野の額に当てる。

何度確認しても熱っぽさはない、顔は赤いままだが。


「どうしちゃったの麦野、中身が滝壺と入れ替わっちゃった?」

「良いじゃないのよ、たまには。 あのボロ犬にも甘い思いさせてあげようかな、って思ったの。」


ただの気まぐれよ、ポツリ呟く麦野。

その表情は、まんざらでもないように見えたのは気のせいだろうか。



「っていうか、ファミレスで『浜面なんかのお見舞いには行かねーよ』みたいなやさぐれたこと言ってなかったっけ?」

「やさぐれたは余計。 まぁ、 すぐに決心つかなかったし、あんなに張り切ってる絹旗と滝壺を前にしたら、

 私も行くー、なんてことすぐには言えなくなっちゃったのよ。」

「ふぅーん、結局、麦野も奥手なんだね。」

「・・こう見えてもね。」

「ま、せっかく麦野が珍しく女の子らしいことするだから、協力するのにやぶさかではないぞよ、ワタクシは。」

「アンタが協力してくれるのはもう確定だから。そのために呼んだんだし。」


そうですかー、とグデるフレンダ。

しかし、ここで一つの問題点。



「そういえば、結局、私、マフィンの作り方知らないんだけど。」

「・・・え?」

「私、そういうの普段、作らないし。」

「・・私も作ったことないんだけど。」

「はひー、このお嬢さんは、作り方も知らないくせに、何も参考にせずに作る気だよ。しかも人の口に入れるものをさー。」


お手上げだ、という風に両手を小さくあげるフレンダ。

むー、と顔をしかめる麦野。



「だって、アンタなら普通に知ってると思ったのよ! アンタそれでも女子高生!?」

「どう見たって麦野の方が経験豊富な年上でしょうが!

 大体、学園都市の女子高生が全員マフィン作れると思うなよ!?」

「だ、だってだって! アンタ、欧米っぽいじゃない! こういう洒落たお菓子の作り方の一つや二つ!」

「だから、結局、それが人を見かけで判断してるっつってんのっ!」


いや、作る前からこんな不毛な争いしててどうすんのよ。、と肩を落とす麦野。

同意見なのか、仕方なく口を閉じるフレンダ。


「じゃぁどうする? 別の作る?」

「しょーがないわねー。」



麦野はおもむろに携帯を取り出すと、何やらピコピコしている。


「なにしてんの?」

「wikiってる。」


麦野は現代的だなあ・・、でも何かそれ結局ちょっと物寂しいわ。と愚痴るフレンダ。


「っていうかさ、結局、材料あるの?」

「んー、見た感じは冷蔵庫にあるものでまかなえそうかなー。」

「そっか、よーし! 一丁やりますかねっ!」


準備完了。 麦野の愉快なクッキングタイムがスタートした。




ピンクのエプロンを着た麦野は、料理に邪魔な長髪を後ろで畳んで、紐で縛り、ポニーテールに、

一方のフレンダは、チャームポイントである制服帽を取ると、同じく空色のエプロンを着用。


「よーし、準備できたー。」

「結局、最低でも5時には終わらせるよ。」

「そんなかかんないでしょ、たかがお菓子作りに。」

「それなら良いけどさ・・。」


麦野と一緒にやったら、なぜか数時間はかかりそうな気がする・・、そんな予感だった。

頭を切り替えたフレンダは、さきほどの麦野の携帯を目の届くところに置くと、液晶を見ながらブツブツと呟き始める。



「えーと、『1,薄力粉とベーキングパウダーをふるう』。」

「薄力粉って何? 小麦粉とどう違うのそれ?」

「結局、薄力粉は小麦粉と変わらないよ。 ・・えーと、ここにあるので大丈夫っぽい。」


屈んだフレンダが、足元の棚から小麦粉の袋を取り出す。

片手で持つには少し重いくらいの袋だ。

棚の中を漁りながらであったため、フレンダは、麦野を見ないまま、袋を差し出した。


「はいこれ。」

「んー・・ぅわぶッッッッッッ!!!???」


ボフンッッッ、と音を立てて袋が落ちると、勢いよく白煙のように中身が舞い上がった。

麦野の足と、座っていたフレンダの全身が真っ白に染まる。



「けっほけほ、うぇっほ・・・! ちょっと麦野!!」

「わ、私のせいじゃないでしょ!!」

「麦野がしっかり受け取らないからでしょうがッ!!」

「いや、っていうか何でちょっと落としたくらいで、中身が飛び出ちゃってんのよこれ!」


二人の足元に落ちた小麦粉は、無残な状態でとっ散らかっていた。


「・・とりあえず、掃除しましょう。」

「うん。」

「アンタはまずその白ヒゲを洗い流しなさい。」

「んぇッ!?」


いまさらだけど
。」
は×
。はいらない



幸いにも、小麦粉はもう一袋あったので、何とか買出しに行かずに済んだ。

麦野が手際よく、薄力粉とベーキングパウダーをふるい終える。


「フレンダー、次はー?」

「『2,オーブンを180度に予熱する』だってさー。」

「オーブン、オーブンっと。」


すぐにオーブンを見つけた麦野は、タイマーを回し、設定を始める。

隠れ家の一つとはいえ、大体の日常生活品は揃っていた。

四人ともほとんど使ったことがないものばかりで、何がどこにあるかさえイマイチ把握できていない状態だが。



「ひゃ、180度って・・。 そんなに熱して爆発しちゃったりしないよね?」

「良いからさっさと言った通りにする。」


なぜか強気な口調。

いつも麦野に虐げられているため、初めての菓子作りに緊張して低姿勢な彼女に、ビシバシ物を言える。

少し快感だなあ、と満足げな表情を浮かべるフレンダ。

この感覚が、後に大惨事を起こすことも知らず。



「やったわよー、次はー?」

「『3,マフィン型に薄紙を敷くか、バターを塗る。』 ちなみにこれは今終わったー。」

「じゃー、次―。」

「『4,マーガリンをクリーム状にし、砂糖を入れて混ぜる。』

 とりあえず、冷蔵庫からマーガリン出してー、あと砂糖もそっちの棚にあるだろうから、お願いー。」

「・・・マーガリン、マーガリンっと、うわっ」


冷蔵庫を開けると様々に大量な食材が、麦野の目に飛び込んできた。

隠れ家というのは、他の暗部に襲撃される可能性もあるため、それほど大掛かりな物は置かれていない。

もし、襲撃されても、すぐにそこを捨て、他の隠れ家に身軽に移動するためだ。

しかし、使用期限が限られている食材や調味料に至っては、多く買わざるを得ない上、

最近は四人ともここの隠れ家に居座っているため、かなりの量の食材が買い溜められていた。



「えーと、これね。」


ポイッとフレンダにパスする。

受け取ったフレンダは、ん? と眉をひそめた。


「麦野ー、これバター。」

「え? バターとマーガリンって同じようなもんなんじゃないの!?」

「結局、冷蔵庫の中にマーガリンあるでしょ、それにしてよ。大体、何で代替する必要があんのさ。」

「え、今の、もしかして欧米風の笑えないギャグ?」

「うっさい、早くこれ戻してマーガリン出せ!」



ハイハイ、と愚痴りながら、再び冷蔵庫を漁り始める麦野。

マーガリンを手に取り、再びフレンダにパスする。

今度こそ、と思ってそれを受け取ったフレンダは、あ゛? とグレたような声をあげる。


「麦野―、これチーズ。」

「え? チーズとマーガリンって同じようなもんなんじゃないの!?」

「チーズとマーガリンをどう間違えるんだよ! このド天然!

 っていうか、この袋に『チーズ』って書いてあるでしょ! しかもよく見たらこれスライスチーズじゃんこれ!!」

「・・ご、ごめん。」

しえんしえんしえん



真面目にやって! という怒鳴り声を聞きつつ、再度冷蔵庫を漁る麦野。

これこそマーガリンだろう、と確信し、フレンダにパスする。

手のかかる箱入り娘だよ、結局・・、と心の中で呟きながら、受け取る。

そして、期待を裏切られるフレンダ。


「これマヨネーズなんだけど・・、遊んでんの麦野!!??」

「え! え!?」


開いた両手を前に突き出し、酷く動揺する麦野。

フレンダは確信した、この女は素でやっている。


「マーガリンはともかく、マヨネーズくらい食べたことあんでしょ! 区別くらいつくでしょうがッ!」

「だ、だって・・、マヨネーズって太るし・・。」

「うるせーばか!! ばか麦のん!!!!!」


罵声と共にマヨネーズを麦野の顔面に投げつける。



痛ぁーッ! と泣き叫ぶ麦野、少し赤くなった額をさすりつつ、マヨネーズを戻す。


「ねぇ、フレンダ・・マーガリンってさ、」

「ああ、もう良い! どいてッ!! 私が探すから砂糖出しといて!!」


耐え切れなくなったフレンダが麦野と強引に入れ替わり、冷蔵庫を漁る。

うー、と小さく唸りながら、調味料棚を漁る麦野。

麦野のヌケサクっぷりを嘆くべきなのか、一番手元に近いところにお探しのマーガリンを発見した。

それを手に取ると、元の調理場所にチャッチャと戻り、麦野が出してくれた砂糖を見やる。

その瞬間、一気にフレンダの血の気がひいた。


「麦野・・、砂糖出して。」

「何言ってんの? 砂糖ならもう出てるわよ、ほら、アンタの目の前。」

「・・これ?」



確かに、フレンダの前には白い粉末の入ったプラスチック製の容器が置いてある。

しかし、これはどう見ても、アレだ。


「麦野、ちょっとこれ、舐めてみて。」

「え?」


胸を張る麦野が砂糖だと言い張る粉末を小スプーンで掬うと、麦野の口元に突き出した。


「え、嫌よ。 砂糖をそのまま食べるなんて、虫歯に、」

「結局、いいから、食ってみろ! この超ド天然!!」


グボッ、と麦野の口にスプーンを勢いよく突っ込むフレンダ。

すると、彼女の表情がどんどん梅干しのように変わっていく。

もうむぎのんが浜面を殺そうとしかwwwww
魔フィンwwwwwwwwwww

またもやしえん



「ッ~~~~~~~~~!!?? 何これしょっぱぁっ!!!」

「これを今まで砂糖だと思っていたなら、少なからず砂糖の恩恵を受けていた麦野の十数年間の人生を私は全否定するッ!!」

「っ~・・・・。いや、きっとこの砂糖腐ってるのよ!」

「何が砂糖が腐るだばか!! 大体、この容器の表面に小さく『塩』って張ってあるでしょ!!

 学園都市第四位の超能力を演算する頭持ってるくせに、小学校で習う漢字が読めないのか麦野はッ!?」

「ぁ・・う・・・、き、気づかなかったのよ・・。」


塩のしょっぱさに舌をやられた上、ボコボコに罵られた麦野は少し小さくなってしまっていた。

普段の麦野であれば、既にフレンダを五回くらい消し炭にするほどの回数の怒声を浴びせられている。

しかし、この目の前の女性に、いつもの女王様のような風格がなぜか少しも見当たらない。

群れからはぐれたウサギのように縮小しているのだ。

何か企んでいるのではないか、と思わず勘ぐってしまうほどの、良い意味での豹変っぷりだった。



「・・ああ、ごめん、言い過ぎたよ麦野。 まだ時間はあるんだし、慎重に作ろっか。」

「・・うん。」


麦野の目にうっすらと涙のような、キラリと光るもの。


「(う゛っ・・、今少し可愛いと思っちゃったよ・・。)」


不可思議な興奮に駆られたフレンダは、心臓を直に掴まれたような感覚に陥っていた。

思わず、麦野から視線を逸らし、手元に置いてある携帯に目を向ける。


「・・・、はい次。私がマーガリンと砂糖を混ぜるから、麦野は卵を1個割って、溶いといて。」

「ぉっけー。」


可愛すぎ
原作の今のむぎのんは駄目だこりゃ




「フンフン~♪ 結局~♪ 混ぜ混ぜ~♪」

鼻歌を歌いながら、クリーム状になったマーガリンと砂糖(本物)をせっせと混ぜていく。


<< ♪~ ♪~ グシャ パリ ♪~ あれ? ♪~ グシャリッ ♪~ え? >>


陽気な鼻歌に、横から雑音が混ざってきていた。

嫌な予感、横で卵を溶いているであろう麦野を見やる。


「ね、ねぇ、フレンダ。卵が・・。」

「あ゛ぁぁッッ!!!???」


麦野が卵を何個も豪快に叩き割っていた。

しかも、割れたら割れたままで中身が派手に飛び出し、それがそのまま広範囲に飛び散っている。

数えてみると、5個は犠牲になっているようで。

>>314 あれもアレでいいじゃないか ていとくんよりはずっとましだろう。



「ちょ、ちょちょ!! 麦野なにやってんの!! 卵は1個で良いんだよ!?」

「だって、上手く割れないのよー。」

「っていうか割ったあとは、ボウルに入れてよっ!! 何でそこに卵を大っぴらに展開しちゃってんの!!」

「だってほら。」


グシャ! と凄い勢いで卵を叩きつけて割る麦野。

かなりの力が込められていたのか、一撃で卵が完全分解した。


「だってほら。じゃねぇぇぇッッッッッッッッッッッ!!!」

「あ、知ってる? フレンダ。

 昔のイタリアの偉い人がねー、どうやって丸い卵を立たせることができるかなー、って悩んだ末に、

 こうやって、卵を、<<グシャッ>>て、少し割って立たせたんだってさ。面白いよねー。」

「もうやめてぇぇぇぇぇぇぇッッッッッッッッ!!!!!!」


あれはたしかゆで卵だよwwwwww



安全かつ慎重に、手取り足取り卵の割り方を教え、溶かせた。

さすがに溶きながら、ボウルをひっくり返すようなことまではしなかったが。


「結局、私がほとんどやってるようなモンじゃないこれ・・。」


ご機嫌に卵を溶く麦野を横に、フレンダはぶつくさ言いながら、マーガリンと砂糖を混ぜ続ける。


「こんなもんで良っか・・、よーし、

 『6,1の粉と牛乳を数回に分けて交互に入れ混ぜる。』か。

麦野―、冷蔵庫から牛乳―――、牛乳はさすがに分かるよね・・?」

「ぎ、牛乳くらい、浜面でも分かるわよ!!」

「(分かってるなら、何でそんなに焦る必要があるんだよ・・。)」



今回は危なげなく牛乳を選んだ麦野にホッとし、受け取るフレンダ。


「あー、麦野―。この牛乳、期限3日過ぎちゃってるけど・・。」

「あら、そう?」

「ま、浜面だから良いか。」

「そうね、あとで自分で食べないようにしなければ良いわ。」


あはは、と笑い合う二人。


この後、病院で、麦野は賞味期限切れの牛乳配合マフィンを美味しくいただきました。




「・・最後に『7,型に入れて180度で25分間焼く。』か、よーし、フレンダ―、オーブンを開けぇっ!」

「あいあいさー(棒」


予熱してあるので、オーブンの中はかなりの高温だった。

これは、麦野を近づけることはできないな、と確信したフレンダ。

火傷どころかマンションが全焼する騒ぎに発展するかもしれないからだ。

ちなみに、型に入れたマフィンは六個。



「入れるよー、麦野。」

「・・・・、180度って、かなり難しい角度でオーブンに入れるのね、逆さってことでしょ?」

「えっ?」

「いや、角度。」

「角度?」

「180度って書いてあるんでしょ?」

「・・・・・。」


何も言わず、そのままオーブンに「平行に」マフィンを入れるフレンダ。


「(麦野、自分でさっき温度を『180度』に設定してたよね・・。)」


その180度を、角度って何言ってるんだろうこの女、と心の中で呟く。



「っていうかフレンダ、これ何分なの?」

「んー、25分かな。」

「・・長ッ。」

「結局、そんなもんだって。」

苦笑するフレンダ。

麦野はなぜか真面目な表情をしている。



「・・・・25分は長い、私の『原子崩し』なら一瞬で焦がせるわ。」



ウィンウィンー、と能力が発動。

ある電子は空中に波紋を描き、ある電子は光のワイヤーのように精製され、やがて、


「やめてっ!!!!!!!!!!!」


と、いうか焦がしてどうする。



―――――


しかし、これほどまでに麦野が不器用で料理音痴だとは思わなかった。

と、いうか不器用とか音痴とか、そういう次元をあっさり飛び越えている。

さすが、学園都市第四位の超能力者。 常識外れにもほどがある。


「(結局、ある意味ギャップだよねー、見た目はしっかりしたお姉さんなのに。)」


オーブンの前で今か今かと待ち続ける麦野の後ろ姿を見つめるフレンダ。

後ろ姿だけでも、麦野の美しさは明白だ。

外面は美しさ、内面は料理下手といった風に可愛らしさも兼ね備えている、ある意味では完璧超人である。


「(・・うーん、こういう麦野を見れるなら、ちょくちょく料理に誘ってみようかなー。)」



麦野は、落ち着かない様子のか、オーブンの前でいったり来たりしている。

その様は、純粋チックな乙女そのもの。

麦野にしては珍しいポニーテールがゆらゆらと右往左往する。



「(・・・な、何か。ムラムラしてきた・・・。)」


両手をワキワキさせるフレンダ。

今の麦野は、料理の緊張感と浜面へのお見舞いのことで頭がいっぱいだ、今こそチャンスか。


「・・、むーぎのんッ!!」


「わきゃッ!?」


背後から物凄い勢いで、麦野に抱きついた。



「いやー、さすが麦のんだ、良いモノをお持ちになっているねー。」

「な、何しやがるッ!! このッ・・ぅおっ!? 」


オーブンがあったため、前に倒れるわけには行かず、なぎ倒されるように横に倒れる両者。

二人が二人、仰向けのまま、重なっている状態になってしまう。

そんな状態で、後ろから全力で麦野の豊満な胸を揉みしだくフレンダ。


「日ごろ、私のことをいじめる報復だー!」

「こ、この・・ふッ! ぐぅっ・・・!」

「さすがは学園都市、第四位の超能力者、何から何まで完璧だねー。」

「・・・・・や、やめろッつーの!」


体格では麦野の方が遥かに有利なはず、しかし、このときばかりは勢いづいたフレンダの方が力は強かった。

フレンダは後ろから抱きついた状態そのままに床に倒れ、仰向けのまま、後ろから麦野を襲い続ける。

さらに、自分の両足を、麦野の両腕を拘束するように後ろから蛙のように絡ませ、身動きを取れなくさせる。



「・・・ぁ、あうっ・・ アンタ、こういう趣味・・ッくぅ!?」

「いやあ、だってさー、お料理苦手だけど、必死に頑張っちゃってる麦のんが可愛くて可愛くてねー。」


必死に抵抗する麦野、しかし、体勢が体勢なだけに逃げることができない。

麦野に押しつぶされたような格好にも関わらず、フレンダは息苦しさすら全く感じていないように見えた。


「・・んぅッ・・、くッ・・・このっ・・・!?」

「ギャップ萌えだよねー、麦のん。 普段からああいう風にしておけばさー、浜面も少しは麦野を見てくれるかもよ?」

「な、なんでッ・・・、ぁふっ・・! なんで、あいつが出てくんの・・!」

「えー、だって、お見舞いに行くっていうんだから、少しは気があるんじゃないの?」

「ぅぅ・・っ、ぁん! だ、誰が・・ッあんな野郎・・っ!」

「ほらほらー、さっさと白状しちゃわないと離さないからねー?」



体勢的に、フレンダからは麦野の表情は見えない。

しかし、麦野の顔は火照ったようになっているはずだ。

耳が真っ赤になっていることが、何よりの証拠である。


「往生際が悪いなー、麦のん。・・・はむっ。」

「・・ぁうっ!?」


その真っ赤な右耳にかじりつくフレンダ。

口に含んだまま、丁寧に舐め転がし、穴にさえ、器用に舌を伸ばす。


「むー・・むい゛のんー?」

「・・や。やめっ・・フレン、ダ・・! もう笑えね・・ぇッ・・!!」

「(やべえ、めっちゃ可愛い・・、浜面なんかに渡すわけにはいかなくなったわ、この子。)」



正直言ってこの作戦は麦野に能力を使われたら、一瞬で終了していたギャンブルだった。

しかし、フレンダの先制攻撃が成功した時点で、作戦はほとんど成功していたようなもので、

麦野の精神を、演算などできないくらいにメチャクチャにかき回してやれば良いのだ。

真っ先に能力を使おうとせず、力づくで抵抗することを優先させた時点で、麦野の敗北は見えていた。

もうダメだ、能力を使おう、と思った頃には、時既に遅し、ということである。


「ああぅッ・・! フ・・、フレンダッ! あとで覚えて・・おきなさい・・よッ・・」

「そうだねぇ・・、忘れられないくらいに麦のんを刻んでくれると嬉しいかなー。」


たまらない。 フレンダは、この瞬間にレズとサドの両方に目覚めていたようで。

学園都市で上から四番目に強力な能力者である女の子を手篭めにできる快感、優越感。

それだけがフレンダの行動の原動力となっていた。



「でさー、浜面には何て言って渡すのー? 麦のんー?」

「な、あう、ふっ・・、アンタにそんな、ことッ・・・!?」

「素直じゃないなー、よーし。」


なぜか、エプロンの下から胸をまさぐっていた両手を離すフレンダ。

一瞬の隙。


「(い、今なら能力でッ・・!)」


両手を離したフレンダに対して、能力を発動させようとする麦野。


「・・・・、わぅッッッ!!??」


その瞬間、フレンダは麦野が着ていたコートの中に手を突っ込んでいた。

光よりも素早く入れられた手は、早速、ブラジャーの上から麦野の胸を堪能している。



「わぅッ!?・・だって犬みたい、もういちいち可愛いなー、麦のんはっ・・。」


息を荒げる麦野、半分出来上がった状態といえる。


「ア、アンタ・・ぜぇ、二度と『感じる』ことができないように、下半身だけぶった切ってやろうかッ・・!?」

「はいはい、で、どんな顔して渡すの? どんな恥ずかしい台詞言って浜面にマフィン渡すの?

 早くしないと、・・そろそろ25分経っちゃうよねー?」


ジーッと音を立てて、マフィンを加熱しているオーブンが、二人の痴態を見下ろしていた。

うひひっ、とほくそ笑みながら、自分の腰を麦野の背中に、グリグリと押し付けるフレンダ。

つまり、麦野の背中を使い、自らの秘部を押し付けている、ということ。

麦野自身の体重も手伝ってか、その擦り付けはかなり強くなる。


「ぁぅ・・ぐッ!・・・・・、こ、このッ・・ド変態っ!!」

「・・褒めないでよ、麦のんー。照れるなー。」



フレンダの眼前で、麦野のポニーテールが激しく揺れている。

その度に、麦野の髪の匂い、香水の匂い、そして、麦野の汗の匂いが、フレンダの鼻腔に広がっていく。


「ハァハァ、・・麦のん、やばい、まじ可愛い。」

「・・か、かわいッ・・?、こ、この・・・あぅんッ!」


思わず思ったことが口に出てしまったフレンダ。

そこで、麦野の反応に気づき、とある作戦を決行することに決めた。

名づけて、『麦のんの奥手のタガ』を外してあげよう作戦。

状況が状況だ、押せるところまで押し続ける。


「麦のんさー、さっきも言ったけど、もう少し乙女になりなよー、生まれ持った美貌を無駄にする気―?」

「わけの・・わかんないこと言って・・ッ、ふっ、くっっあっ・・!」


麦野が口を開くたびに、手に力を入れる。

そうすれば、彼女の喘ぎ声をより効果的に聞くことができるのだ。



「・・同じ女の私でさえこんなことしちゃう可愛さだよ? 世の男が放っておくわけないじゃん?」

「あうッ・・は、はァ・・は・・うぐっ・・・!」

「浜面に『これ、手作りなの・・』って頬を赤らめて言ってみなよ、絶対アイツ堕ちるから。」

「・・んぅっ・・ん、・・はぁ、・・そ、そうなの・・・?」

「上手くいけば、病室プレイできちゃうかもねー、ふふ。」

「・・あ、あぇ・・、プ、プレイ・・!?」

「これ以上のことができちゃう、ってことッ・・!」

「・・ん、んぁッ!!!」


まさぐっていた指を、より敏感である突起部と思われる場所へ持っていく。

麦野の漏らした声から、プラジャーの上からといっても、少しは効果があるらしいことが分かった。


「(すげー・・まじ、ブラの上からでも普通こんなんなっちゃうかよ、麦のん。やっぱ完璧だわ。)



息を荒げるフレンダ。 とはいえ、自分が女であることを今日ほど恨んだ日もなかった。

常日頃、凛とした雰囲気も醸し出す彼女を、こんな風に乱れさせることができたとはいえ、

これ以上のことはできないのである、物理的に不可能だ。


「滝壺さんのことだけどさー、あれは絶対浜面に気があるよねー。」

「・・っ!?」

「だって今日、浜面にお見舞いに行くって言ってたとき、活き活きしてたじゃん、珍しく。」

「・・そ、それは・・ッ」

「つーか、いつも滝壺さんって、浜面と話してるときは目が輝いてる気がするんだよー・・。」

「・・ぇ、えぅッ・・・!」

「ああいうタイプって意外と浜面みたいなヤンキータイプに惹かれちゃうんだよねー、そんで、逆もまた然りっていうの?」

「な、なにが・・っ言いたいのよ、・・ぅっん!」

「浜面も滝壺のこと好きなんじゃないのー? ってことだよ、む・ぎ・の・ん♪」

「・・・ぅぁッ!!!?」



最初から醜くも続けられていた麦野の抵抗が明らかに弱まった。

明白な動揺。


「フ、フレンダ・・、超・・殺すからッ・・!」

「おー、怖いなー、麦のん。 まずはそのお口を塞いじゃうかー?」


名残惜しくも、左手を離すと、麦野の開きっぱなしの口に持っていき、二、三本の指を突っ込む。


「・・ぁぐ!! ・・あ、あ゛うむッ・・!?」


フレンダの指は一瞬で唾液まみれになってしまったが、それでも口責めを止めることはない。

しかし、一方で、手薄になった胸責めをどうするか。


「(・・イチかバチかッ・・・。)」

「・・あ゛うっ・・・、ぐむぅっ!!??」



ブラジャーの中に無理やり手を突っ込もうとする。

かなり豊満な胸なので、固いブラジャーの内側に回るのは不可能と思っていた。

しかし、弾力のある麦野の胸が、それをあっさりと受け入れてしまう。

ブラジャーではなく、麦野の胸に沈み込むように、フレンダの手が侵入した。


「ごめんねー、麦のん、弁償するからさー。」

「・・ぁ、う゛?」

「うりぃゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「・・・い、いひゃああッ!!!??」


叫び声と共に、ブラジャーを全力で右手で押し出す。

ホックがブチンッと切れた音がしたかと思えば、勢いよくブラジャーが外れた。



「ぅ、もがッ・・!?」


すぐさま、外れたブラジャーを、だらしなく開かれた麦野の口に突っ込む。

口に入れていた左手は、すぐさま元の場所、露になった胸元へまさぐり入れた。

その間、わずか二秒。


「・・ごめん、麦のん。ブラ外すとき痛かったと思うけど、我慢してくれてありがとね。」

「ぁ・・ぅ、・・うぐっっっ・・・。」


そのとき、麦野の頬に、光るもの、後ろからもそれを確認できた。

一筋の涙。


「(む、麦野がっ・・、泣いてるッ・・・?)」


ブラジャーを強引に外されたときの痛みか、それとも、同じ女の子にここまで酷く弄ばれ、生まれた羞恥心と傷つけられたプライド、自分の愚かさから流した涙か。

いずれにせよ、あの麦野沈利が、涙を流すなど、尋常ではないことが分かる。



「・・・・・、麦野、分かった・・、もう分かったよ。」


フレンダは、胸をまさぐっていた両手を外し、麦野の身体を拘束していた両足、押し付けていた腰、全身から力を抜いた。


「・・ん、ぅ??」


フレンダからの攻撃が止み、戸惑うとともに、安堵する麦野。

やがて、フレンダが俯いた表情のまま、口を開いた。



「・・・・涙流すほど、喜んでくれたんでしょ、麦野♪」



「ぅ、んぐぅぅッッッッッ!!!!!????」


再び、両手を麦のんの胸元へ。

準備完了、フレンダの悦楽のクッキングタイムがスタートした。




―――――


「・・・、もう六時か・・。 さってと、急いで行くとするか。」


焼きあがったマフィンをそこらにあった適当な箱と袋に入れたあと、服装を正す。

ちなみに、最初に作ったマフィンは真っ黒焦げになってしまっていた。

オーブンが熱で爆発しなかっただけ良かったと思える、それだけ大幅なタイムオーバー。

仕方なく、もう一度、携帯を見ながら、自力で何とかマフィンを作り上げることができた。

一人で作ったので、もちろん、悪戦苦闘した末に、こんな時間になってしまったが、

一回目より上手くできた気がする。 いや、改心の出来だろう。


「(たぶん、病院の面会って、八時くらいまでおっけーなはずだから、今から行けば、一時間くらいは居られるわよね。)」



「(たぶん、病院の面会って、八時くらいまでおっけーなはずだから、今から行けば一時間くらいは居られるわよね。)」


乱れた髪の毛は、櫛で最低限に直し、泣き塗らした顔も薄く化粧し直した。

ただ、そこの隠れ家にはたまたま代えのブラジャーがなかったため、

ノーブラで彼のところに行くことが唯一の不安要素だったが。

入り口に向かう前に、部屋の隅にある大きな鏡の前に立つ麦野。


「・・んっ」


鏡に向かって、ニッコリ笑ってみる、笑みの練習。

自分が今できる最高の笑顔。



「・・・きわどい。」


どう頑張ってもぎこちない笑顔になってしまい肩を落とすも、こうしている時間が勿体無いと、顔を上げる。

玄関に早足で向かい、履きなれた黄色のハイヒールに足を入れる。


「よしッ・・・、行ってきます。」


誰に言うわけでもなく、小さく呟き、自分を励ますように、胸元で小さくガッツポーズ。

意を決したように、思い切りドアを開けた。


まだ薄暗い空と、ほんのり明るい月が、麦野の出発を微笑ましく見下ろしていた。




―――――


「・・・ん、んぐっ・・・。んぐ・・・。」

誰も居なくなった「アイテム」の隠れ家の一室。

その端、トイレの部屋から、不気味な声が漏れる。

くぐもった、低い、動物の唸りのような声。


「ん・・んぅぅッッッッッッ!!!」


黒焦げのマフィンを口に突っ込まれ、ボロボロになった麦野のブラジャーで目隠しされた挙句、

両手両足を縛られ、尻から便器に突っ込まれたフレンダがそこに居た。

この数十分後、二人の友人によって、この無残な姿のまま、発見されることになる。


                                   おわれ

ノノノノノーブラ・・・・・・・だと・・・・・・・


☆おまけ・その2


『7,型に入れて180度で25分間焼く。』

  ◎   ∧_∧
     (*゚ω゚*) 25分は長い、私が一瞬で(ry
 ウィンウィンC  l丶l丶 ◎

 ◎   /  (    ) やめて!!!
     (ノ ̄と、   i
            しーJ

※恐らく、「原子崩し」で緻密な加熱とかできません。

乙ー

さあ明日のために続きを書くんだ!!



とりあえず、今日の分で「前編」は終了です。

ただ、今回で書き溜めがゼロになってしまったので、「後編」投下までは少し時間がかかるかもしれません。

よって、このスレはそのまま落としてもらっても構いませんし、

>>1000まで「アイテム」への愛を語り続けても結構です。むしろ、参加したいわ。


それと、>>238の件ですが、正直、考え中です。

個人的には、VIPでやっていた方が目を通していただきやすいかな、と思っています。

VIPのままでやり、話の大まかな舞台、内容が変わるたびに、随時、新しくスレ立てしていこうかな、と。

パートスレのように固定化、定期化してしまうのもアレなので。


あと、>>289のご指摘、ありがとうございます。

ですが、書き溜めてあったので、修正するのも面倒でしたし、そのままにしました。

ちなみに、これからも変えるつもりはありません、調子狂っちゃうので。

かなりいいSSだったよ
立てるときは同じスレタイでね

>>376-377
ガッテン承知しました。


麦野中心に書いてはいるけど、実は俺、絹旗派なんだ・・・

目を通していただき、ありがとうございました。

では、おやすみなさい。

↑ アイテム全員は浜面仕上くんの嫁でFAだろ

麦野「・・・浜面が入飲?」



おばんです。

四の五の言わず、投下させていただきます。


―――――


ここは御馴染み、第七学区にある「アイテム」御用達のファミレスだ。

もはや「アイテム」の特等席となっている、窓側、一番奥の四人掛けテーブルに、いつものカルテットが居た。

時刻は、ちょうど正午。

四人は、ファミレスの開店と同時に入ったため、3時間ほどが経っていた。


「・・退院祝い?」


口を開いたのはご存知、茶髪ロングヘアの麦野沈利。

学園都市第四位の超能力者(レベル5)で、非公式組織「アイテム」のリーダー。

街中ですれ違ったなら、老若男女問わずが二度見してしまうような美貌の持ち主で、

スタイルから自然に醸し出される雰囲気、感度まで(フレンダ談)何から何までほぼ完璧な女性である。

それ故に、色恋沙汰とは無縁な学園都市の裏で活動している、ということが惜しまれることではあるが。

きたあああああああああああああああああ

しええええええええええええええええん



「うん。明日、はまづらが退院するって聞いたから。」

「結局、滝壺さんって律儀な良い子だよねー。」


スキルアウトの元同僚に襲撃された浜面は、その際に足を痛めて入院していたが、無事退院することが決まったらしい。

ソファの背もたれに全身を預けながら、無気力さを含ませて、浜面の退院祝いを提案した少女が滝壺理后。

その滝壺を見ながらも、サバの缶詰と格闘している金髪碧眼の女子高生がフレンダだ。


「浜面なんかにそこまでしてやる必要なんてないと思いますけど、入院費だって『上』から出してもらったものですし。」


滝壺の提案に口を挟んだのが、右に流れる前髪が可愛らしい、茶髪ショートヘアの絹旗最愛。

恐らく、この四人の中では最年少で、小学校高学年か、多めに見ても中学生というところ。

この少女も滝壺の方を見ないまま、映画のパンフレットに目を通している。



「まぁ、良いんじゃない。 どうせ明日は仕事ないと思うし。」

「あれ、珍しいねー、麦野があっさり賛成するなんてさ。」

「いつもは、浜面のことになると無条件で超反抗してたような気がしましたけど、丸くなりましたね、麦野サン。」

「それをアンタに言われたくないんだけどねー、絹旗サン。」


つい先日、「アイテム」は一仕事終えたばかりだったので、少しゆとりができていた。

それに、ここ最近の学園都市は不気味なくらいに平静を保っている。

能力者のクーデターや外部からのテロリストの侵入などがない限り、大きな混乱が起こることもないだろう。

最も注意すべき統括理事会の連中や他の暗部組織の動きも沈静化していたための、麦野の判断だった。


「まぁ、たまにはガス抜きしないとアンタたちも疲れちゃうでしょ?」

「そうだねー、私も特に反対する理由はないかなー。」

「麦野や滝壺さんがそこまで言うなら、私も賛成ですかね。」

「・・じゃぁ、早速準備しなきゃだね。」



全員の賛成を得られたためか、滝壺がほんの少し顔をほころばせた。

元々、無表情の彼女が笑顔を作ることは、割と珍しいことである。


「準備って言っても、退院祝いは何するんです? 場所はいつもの隠れ家で良いとして。」

「そうだねー、パーッと宴会で良いんじゃない? 私お酒飲みたいなー。」

「どこで誰がお酒買うのよ、そこらのコンビニじゃ売ってくれないと思うんだけど。」

「結局、麦野なら大丈夫なんじゃない?」

「・・・それ、私が老けてるって意味として捉えて良いのかしら、フレンダ。」


ガン、とアイスコーヒーのグラスを机に叩き置く麦野。

彼女は視線を向けてはいなかったが、それでも寒気がしたフレンダ。



「や、やだなあ麦野。大人びて見えるってことに決まってるじゃん・・。」

「そうですよ、男性店員なら麦野の色仕掛けで堕とせるかもしれませんし。」

「そうそう、バニーガールの衣装で頼めば、少なくとも浜面は堕ちるね。」

「・・・うーん、面倒だけど仕方ないか。」


褒めているのか貶しているのか分からないフレンダと絹旗だったが、麦野の機嫌が上向いたので、良しとする。


「ま、何か言われたときは、前に浜面に作ってもらった免許証見せれば良いか、確かあれ20歳になってた気がするし。」


財布の中を漁ると、偽造の運転免許証がチラリと見えたが、写真写りが悪いので、極力見ないようにしている。

ちなみに、浜面に作ってもらった(プレゼントしてもらった)ものなので、密かに宝物にしていたりする。



「まぁ、今日の夜辺りに買い込んでくるわ。」

「五人分買ってくるとなると、レジ通すとき、店員に、すごい酒豪に見られるかもねー、麦野。」

「・・・・良いわよどうせ。そんなにコンビニ行くわけじゃないし。」


そのくらいなら、特に恥ずかしいことではなかった、同姓の慰み物にされるよりかは。


「やっぱりお菓子とか沢山買い込んじゃうー?」

「それは超必須でしょう。夜通しお菓子パーティーですね。」

「そんなにお菓子食べると太っちゃうかもよ・・、絹旗。」

「私は超大丈夫ですよ、太らない体質ですから。それにまだ私は超成長期なんです、それよりも・・。」


「「「・・・・。」」」


「・・・・な、何でみんなして私のことを見るのよ。」

でも学園都市の八割が学生ってことは酒とかはどうやって売ってるんだような。
規制厳しいだろうなぁ
小萌先生みたいに酒豪でヘビースモーカーなひとはどうしてんだろ



絹旗は、物理攻撃の他に、重いものを投げ飛ばすなどの戦闘手段から、頻繁にカロリー消費をしている。

フレンダも小回りが利く上、任務中の「アイテム」の中では雑用ポジションであるため、よく動く。

滝壺はそれほど動くタイプではないが、少食だ。

しかし、麦野はあまり動かずとも、能力で周囲を一掃することができる、いわば『大砲型』。

一番激しく黄信号が灯っていたのは麦野だった。


「体重とかさ、最近気にしてんのー? 麦野。」

「・・わ、私は、背が高いから、この中だと必然的に体重は一番重くなるものなのよ!」

「落ち目のモデルとか女優が同じこと言ってるの、超よく耳にしますよねー。」

「だ、だって、最近仕事多くて忙しかったし・・、そういうこと気にする余裕がなかったって言うか・・。」

「結局、女の子はいかなる状況でも、自分の体調管理はきちんとするべきなんだよー。」

「・・・、ストレスの良い発散方法を知らないのよ、私は。」

「言い訳しちゃダメだよ、麦野。」


た、滝壺まで・・、と操縦桿の引っこ抜けたヘリコプターのようにフラフラと墜落していった麦野のテンション。



「私たちは麦野のことを考えているからこそ、あえて超厳しいことを言っているんです。」

「結局さー、女の子の体格っていうのは油断してると、いつの間にか取り返しのつかないことになってるんだって。」

「・・、体重計に乗るだけでも、効果あるって聞くよ。」


恐らく、すっかり麦野に対してサド属性がついたフレンダだけは、好き好んで罵っていると思われるが。


「・・・いくら食べても太らない身体が欲しい。」


そんな麦野の切実な呟きが聞こえたのか、聞こえなかったのか、

学園都市のどこかで、銀髪に白装束のシスターが豪快なくしゃみをしていたのは、また別の話である。


「・・・麦野さー、最近太ったんじゃない?」

「は!?」


図星だったのか、思わずのけぞる麦野を見て、ニヤニヤしているフレンダ。

最近になって、麦野の喜怒哀楽が豊かになってきている、そんな気がしたからでもある。

とうまーとうまーごはんだよーしえんなんだよー



「何か・・こう、少しプックリしたって言うかさ・・。」

「そういえば最近、任務が上手くいかないっていっては、ピザポ○トを超馬鹿食いしてたの見ましたよ、私。」

「昨日は夜の二時くらいに、一人でチョ○ボールを三箱食べてたよ。」

「・・ちょ、ちょっと滝壺! アンタ、そのとき起きてたの!?」


あ、自白した。と三人が口を揃えて言う。

次々に出てくる証言は、麦野の核心をピンポイントに突いたものだったらしい。

被告人の罪状は明らかであり、弁護のしようがない裁判は、犯人の自白という結末で、小槌が叩かれた。

ちなみに、チョコ○ールのカロリーはマジで高い。


「分かったわよ! 白状してやるわよ! 最近2キロ太ったわよ! で? それが何か悪い!?」

「・・逆ギレしてますよ、この人。」

「だから、私はこのアイスコーヒーにだって、砂糖やミルクすら入れずに、苦いまま頑張って飲んでるのよ!?」

「麦茶とか飲めば良いと思うよ、麦野。」



「分かったわよ! 白状してやるわよ! 最近2キロ太ったわよ! で? それが何か悪い!?」

「・・逆ギレしてますよ、この人。」

「だから、私はこのアイスコーヒーにだって、砂糖やミルクすら入れずに、苦いまま頑張って飲んでるのよ!?」

「麦茶とか飲めば良いと思うよ、麦野。」


そんな血の滲む努力も知らずに、アンタたちは私のことをデブデブ言いやがってぇ・・、と奥歯を噛み締める麦野。

別にそこまで言ってねぇ・・、と心の中で呟く三人。

そこで絹旗がカッと目を開け、言い放つ。


「そうですね、では麦野の超ダイエット作戦を決行しましょうか!」



「・・ダイエット作戦?」

「『超』ダイエット作戦です!」

「あー、はいはい。で、何する気よ?」

「そうですねー、丸一日使って、麦野の体重を超減らそう、という作戦です。」

「・・、内容は結構、凡庸な作戦ねそれ。」

「しかし、一日だけでも効果はあるはずです! さぁ麦野、超手遅れになる前に!!」

「超手遅れとか言うなッ!」


目を輝かせている絹旗。

普段は大人ぶっている割に、楽しそうなこととなると、格段にキラピカオーラを放つ。

面白そうー、と身を乗り出すフレンダ。

・・・・浜面の退院祝いは? と嘆く滝壺の言葉は、無情にもノリノリの絹旗たちの耳には届いていなかった。



―――――


「で、ここはどこなのかしら。」

「どこ、って超テニスコートですけど、見て分かりませんか?」


「アイテム」が居たのは、第七学区でもかなり有名なテニスコート。

普段は常盤台中学のお嬢様や、近辺の比較的裕福な学生たちがよく利用しているもので、かなりのコート数がある。

1コート2時間でなんと5000円かかるといい、一般のテニスコートと比べると、ぼったくりにも程があるものの、

その分、設備はしっかりしており、コートはセメント、コンクリート製のハードコート。

ボールは常に新しいものが支給され、素材が良く、薄暗くても見やすい蛍光色。

テニスラケットも無償でレンタル可能、さらには雨避けの大きな開閉式屋根もついており、風の影響も受けない。

それでいて、夜11時まで営業しているという完璧な営業体制だった。



「いや、だから何でテニスなのよ。」

「んー、運動に適していて、かつ、女の子の愛らしい仕草が見られるといったら、やっぱりこれかな、と。」

「・・私、テニスやったことないんだけど、こう見えても。」

「はい、超知ってます。」

「・・・・。」

「目指せ、ウィンブルドン。」


ポツリと呟く滝壺。果たしてウィンブルドンの意味を彼女は知っているのだろうか。



絹旗に強引に着せられたテニスウェアは、麦野が普段着ないような純白の袖なし。

そのため、日焼け止めはバッチリ塗られている。

また、ウェアの胸元には「muginon」と筆記体で、赤い刺繍が縫い付けられていた。

おまけに、靴下やテニスシューズまで用意されており、事前に計画を練っていたかのような磐石っぷりだった。

ちなみに、マフィン作りのときと同様、運動の邪魔になるので、またも麦野はポニーテールになっている。



「その点は心配いりませんよ、私が超指導しますし、百戦錬磨のフレンダが相手してくれますから。」

「・・それが不安なのよ。」

「大丈夫ですよ、フレンダは見た目通りにテニス超上手いですし、さすが欧米人ですよね。」

「いや、だからそういう問題じゃないんだって・・。」


テニスコートの反対側に居るフレンダは、入念に準備体操をしている。

空色のテニスウェア、白いスカートを履いており、サンバイザーまでしている気合の入りっぷり。

指導役の絹旗は、テニスをするつもりはないのか、いつものピンクのふわふわセーターを着ている。


「・・1、2、3。」


役割のない滝壺は審判台に腰を下ろし、ここのテニスコートは全部で何コートあるのか数えていた。

―――つまり、暇なのである。





「っていうか、アンタはやんないの?」

「はい、こんな格好でテニスなんかしたらパンツ丸見せになっちゃいますからね。」

「・・・私のこれは?」


自分の履いているスカートを指差す麦野。

ウェアと同色の真っ白なスカート、しかし、異常に丈が短いのが気になる。


「見えてナンボでしょう。」

「・・・・。」

「とりあえず、2時間取りましたから、思う存分やりましょう。

 ラケットの振り方はさっき教えた通りです。 大丈夫、麦野ならできます!」

「え、ちょっと待って絹旗!」


コート外、後方のベンチにそそくさと戻る絹旗。


「よーし、いっくぞー! 麦野―!」



「え!?」


麦野が気づいたときには、フレンダはボールを真上に高く上げていた。

スパン! とけたたましい音を立てたフレンダのサーブ、凄まじい勢いでボールが打ち下ろされる。

そのボールは一瞬でラインギリギリにズバァァン! と落ち、そのままの勢いで跳ねる。

そしてそれは一直線に、ある部分へ向かっていった。

麦野のスカートの中へ。


「・・ぅ、わきゃぁッッッッッ!!!???」


思わず尻もちをつく麦野。

ボールはスカートの中を貫通し、麦野の真後ろのベンチに座っていた絹旗の真上のフェンスにガシャン!と当たった。

ポテンとボールが絹旗の頭の上に落ちるも、彼女は驚くこともなく、ある一点を集中して凝視している。

転ぶ際にスカートが翻り、麦野のそれが絹旗には丸見えだったのである。


「・・麦野、今日は白ですか。 偶然なのか、テニスウェアの色と超マッチしていますね、ご馳走様でした。」



「ちょ、ちょっと! フレンダ! アンタ、馬鹿じゃないの!?」

「えー、だって麦野、準備できたと思ったからさー。」

「ちっげーよ! そんなスピードのボール取れるわけねーだろってつってんの!」


麦野、超怖いです、と呟く絹旗。


「っていうかアンタ、私のスカートの中狙ったでしょ!?」

「結局、麦野がそんな前の方で待ってるのがいけないんだよー。」

「だって、もっと優しくボール出してくれるのかと思ったの!」

「とにかく、もっと下がってー、一番後ろのラインを踏むくらいが丁度良いからー。」


仕方なく言われたとおりにすごすごと下がり、ラケットを身体の前に構え、姿勢を少し低くする。

いっくよー、とフレンダ。


「(・・・、いつでも来るが良いわっ)」

      .:i.:.:.:.:.:i:.:.:ィ1-ヽ:l|:.l|:.:.:厶L:_`ト、:.:.:いハヘ :′ }!
     i .:.l:.:l:.:.::|:.'´j |_;.:.:」 ∟」L:_⊥!j__`ト、:.:.:i:.:Y  心 くー-、
      |:.i:|:.:!i:.:::レ'__二_ヽ     '´_,二._ヽ、:!!:.|ヽ:ァ‘ー':::::ヽ:::.ヽ
      |:.|!|:.:〉'´/´_二`ヽ     ″二_`\ ヽl:.:.{.  ハ._,イー┘
     レ !Y:l '〃 /´2cヘ       /´2cヽ ぃ |:.:.:`ァ1:ヽ:.|
     _.ノ:!:|::い{.└{{jjリ i}      └{{jjリ i} ,リ|:.:.;':.リ:.:.:.:\_
     `フヘぃi   くご.ノ        くこ.ノ '  l:.:./::/:::.:{、__:.ヽ._
    ´ ̄{ヘY´ ̄`ヽ        ,.-―- 、 ノ;イレ^卜、:\  ̄

         ヽト‐--‐ ′       ヽ __,ノ′ノ  ノ   ̄`
         .       _______     ,ー‐ァ'´
   ヽ、,jトttツf( ノ   ‘ー―- 一u     /:イ:./
  \、,,)r゙''"''ー弋辷_,,..ィ..__     _,, <{::::/ V
、..,,,ニ;ヲ_     ヾ彡r''"^ r‐   ⌒ヽ

``ミミ,  ,.へ    ミミ=- :ミ_       l
= -三t  {三ヽ  ,三` `  i  ,_, 彡i   |
   ,シ彡 V三ト、ミ'' ト  ノミ;,"    }、 ,イ
  / ^''' V三三ト、√       / ヾ  i
/      V三三三\   ミ /  ', ミ;
    〃  ミV三三三三\  /    }  l
   /      V三三三三三トY    l  l
   /      |;V三三三三三l    |  ,'
  /       l三V三三三三}    l ,'

         |三 }三三三三’   ,.ノ .,'
         |三/三三三ノ    〈y .〉
         ||レ三三三'´     '~'
         レ三三三'

         /三三ニ/
         V三三/



鋭い目つきでフレンダが手に持つボールを睨む。

先ほどとは違って、半分くらいの力で放たれるサーブ。

ネットのギリギリ上を越え、ラインを走り、ポーンと跳ね、麦野のジャストポイントの位置に。

ここだ。


「・・はぁッ!!!」


掛け声と共に、勢いよく、横薙ぎに振られる麦野のラケット。

ヒュン、という風を割るような音と共に、一直線にボールへと向かう。


スカッ


「あれ?」


ラケットにボールが当たった感触がなく、それは無情にも後方へポテンッと落ちていた。

絹旗の足元にコロコロと転がる。



「もういっちょー!」 スパンッ

「えうッ!」 スカッ

「まだまだー!」 スパンッ

「たぁッ!」 スカッ


「・・・ストライク、スリー。バッターアウト。」


フレンダが発音の良いコールする。空振り三振。

麦野の後方に、次々と打たれることのなかったボールが悲しげに転がっていく。

その醜態を後ろから見ていた絹旗も、呆れるように額に手を当てていた。


「ちょ、ちょっと! 全然ボールに当たらないっ、かすりもしないんだけどっ!?」

「(結局、麦野って料理下手だけじゃなく、運動音痴でもあるんじゃね・・。)」

「・・・、麦野はもっと基本的なことからやるべきみたいですね。」


深い溜め息をつき、コーチ・絹旗最愛が重い腰を上げた。



「いいですか、麦野。すぐ横から私が手出しでボールを、ちょうど麦野が打てるようなところに上げるので、」

「それをジャストミートすれば良いわけね。」

「その通りです。あのフレンダが立っている辺りに、バウンドさせるほどの距離が出れば超完璧ですね。」


フレンダが立っているのは、コートの反対側の、一番後ろのラインより少し手前の空間。

その辺りに自在に打つことができれば、まともなラリーもできるようになるだろう、という絹旗の見解だ。


「私の力で、あんなところまでボール飛ぶとは思えないんだけど。」

「硬式のボールですから、少し力入れるだけで、意外に飛びますよ。

 それに麦野は、フォーム自体は綺麗ですから、当たれば良いところに行くでしょう。」


当たればですけどね、とほくそ笑む絹旗。

いいよー、いつでも来―い、とフレンダ。


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「じゃぁ、出しますよ、構えてください。」


それっぽく構える麦野。

ポン、と軽く上げられたボールは、麦野のヒットポイントに。


「・・・っはぁッ!!!」


スパコーン、と小気味良い音を立て、ボールがかなりの勢いで打ちあがる。

それは、美しい放物線を描くと、滝壺の視線の遥か上を通り、フレンダの頭上をも越えると、

―――やがて、フェンスの後ろの林の中へ消えていった。


「あれ・・?」

「力入れすぎです・・、っていうか気合入れる余り、フォームが超乱れてましたよ、

 明らかに真上にラケットを振っていました。上に振れば、上に飛ぶのは当たり前でしょう。」


口ごもる麦野に、ばーか・むぎのーん!と叫ぶフレンダ。

人間慣れない物には難しいもんだよ。

おれなんて昔学校で格闘技(柔道)クラスでうまい方だったけど
バスケとかになるとフリーシュートなんて10本中0だったもん

そんなもんだよ>>476



「うっさいわね! 次はその顔面に当ててやるから覚悟しなさいよッ・・!」

「あ、ちなみに、飛んでいったボールは、後で飛ばした本人が取りに行ってくださいね。」

「そ、そんなの滝壺にやらせれば良いじゃない、暇そうにしてるんだからっ!」

「スポーツマンシップに則ってテニスをしましょう、麦野。ボール回収は、超最低限のルールです。」

「・・・わかったわよ、忘れなければね。」

「あ、あと、もう少し力を抜いた方が良いかもしれません。」

「わかったー。」

「では、もう一度。」


ポン、と投げられるボール。

適度に力を抜いて、上へではなく、前へ振る。



「たぁッ!!!」


ところが、スポーン、と麦野のラケットが手から抜け、あろうことか絹旗の顔面にぶち当たった。

跳ね返ったラケットは真上に舞い上がり、ゴトンッ、と絹旗の後ろへ落ちる。


「い、痛ぁーッッッッッッッッッッッ!!!???」


「ご、ごめんッ!! 絹旗、大丈夫!!??」


グワン、グワンと頭を揺らす絹旗。


「大丈夫じゃないですよ! 『窒素装甲』の自動防御機能がなかったら、おデコが超パックリ割れてたところですよ!!」



「わ、わざとじゃないから・・!」

「・・まさか本当に顔面に当ててくるとは思いませんでした・・フレンダじゃなく、私に。

 しかも、ボールではなくラケットをぶつけてくるとは、この絹旗最愛、一杯食わされましたね。」

「ご、ごめん・・、根に持たないでくれる?」

「まぁ、良いでしょう、麦野は初めてのテニスですし。

あと、力を抜けとは言いましたが、ラケットから手を離すほどとは言ってませんからね。」

「次はしっかり打つわ・・。」


「(結局、さっきからあの二人は何をやってるんだよ・・。)」


自分のところにボールが来る気配がなく、フレンダは訝しげに麦旗コンビを見つめていた。



「良いですか、両膝を少し沈ませて、腰を上手く使い、ボールを超しっかり見て、

 左手は来るボールを捕まえるように構えながら、ラケットを前に押し出す感じです、こんな風に。」


麦野から借りたラケットを使って、フォームの説明をし直す絹旗。

小柄な身体でありながら、力強さの見えるスイングをする。

ふんふん、と腕を組み、真面目に聞く麦野。

体格や容貌的に、逆の立場の方が、事情を知らない人間からは自然に見えるだろう。


「力の入れ具合は、何回かやったのでもう分かると思います。

 あとは、綺麗に狙ったところに打てるかどうかですね。」

「・・わかったわ、やってみる。」

「本当ですか?」

「三度目の正直よ・・!」

「もう何度やったと思ってるんですか・・。」



また顔面にラケットをお見舞いされるのは嫌だったので、絹旗は少し離れた位置からボール出しをする。


「じゃ、投げますね。」

「ぉっけー。」


ポン、と投げられるボール。

これで何度目だろうか、同じ過ちを繰り返すことは麦野の信条に反する。

絹旗の言っていたことを思い出し、頭の中で繰り返す。

元々、演算能力に長けている超能力者だ、情報を頭の中で整理するのは得意である。

しかし、それを実行するのが難しく、身体がついていけていなかっただけだ。


「(膝、腰、左手、そして、ボールをよく見て・・・ッ)」



ラケットは綺麗な曲線を描き、ボールへ向かう。

すぐに、ボールがガットに当たった感触が手に伝わる。

少しの痺れを感じるが、それでも、手は絶対に離さない。

腰の捻りから生み出された遠心力を利用し、ラケットを一心に振り抜く。


「(前に、強く押し出すッ・・!!)」


パコーン、とテニスらしい音が響くと、ボールは適度な勢いでネットを越え、フレンダの足元へ。

来ると思っていなかったのか、フレンダは慌てて横へ走り逃げていた。


「・・・、やった。ちゃんと打てたわよ、絹旗!」

「今のは見事でしたねー、超理想の球筋でした。」



嬉しさを隠し切れず、大はしゃぎする麦野が、絹旗と手を取り合う。。

子供じゃないんですから、と絹旗、嬉しそうではあるが。

今の見てたー、滝壺ー?と問いかける麦野。

滝壺はゆっくりと、麦野と絹旗に顔を向け、ニコリ、と笑顔。



「・・・全部で30コートもある、すごい。」



「まだテニスコート数えてたんですか、滝壺さん。」





―――――


「んー、良い運動したわー。」

「ゆっくりなボールだったけど、たった2時間やっただけでラリーできるようになったしねー。」

「・・すごい上達した、麦野。」

「今度は、四人でダブルスとか組んでみましょうか。」


使用自由の共用シャワーで汗を流し、いつもの服装に戻った四人は、

テニスコートをあとにして、第七学区の大通りを並んで歩いていた。

ちなみに、昼食は、絹旗の絶賛する超ヘルシーなレストランにおいて、軽く済ませている。


「で、絹旗。次はどこに向かってるわけ?」

「・・・これを出すのはまだ早いと思っていたんですが、まぁ、止むを得ません。」

「だから、何よ。」

「最終基地、『健康ランド』にでも行こうかと。」

「け、健康ランド?」



「まぁ、行けば分かりますよ。」


聞いたこともない単語に戸惑う麦野。

歩いていくうちに、大きなドームのような建物が視界に入ってきた。

のらりくらりと歩いているうちに、健康ランドとやらに着いたらしい。


「麦のんダイエット推進委員会委員長として、ここは超抑えておかないと、と思いましてね。」


それは遠くから見ても視認できた、野球ドームのように大きな屋根がついており、見上げるほど大きな建物だった。

大きな入り口には、「健康ランド」と馬鹿正直に大きな看板が設置してあった。

横には、「学園都市唯一の健康ランド、学生さん平日20%割引!」などと大きな垂れ幕が下がっている。

まだ昼の二時過ぎだというのに、ピカピカとイルミネーションが点灯している欲張りっぷりだ。

初めて健康ランドなるものを目の前にし、圧倒され、思わず麦野は後ずさりする。



「学園都市にこんなものがあったなんて知らなかったわ・・。

 っていうかアンタ、こんな所にちょくちょく通ってたわけ?」

「いえ、私がココを知ったのはつい最近です、っていうか2ヶ月前にできたばかりですよ。」

「結局、何かここオバサンが行くような場所じゃない?」

「学園都市はほとんど学生しか居ないんですから、気にしませんよ、そんなの。」


ま、受付とか案内は全て私に超任せてください! と言い放ち、意気揚々と入り口へ向かう。

気が引けるため、彼女の一歩後ろを歩いていく三人。


「あ、ちなみに、靴は脱いでくださいね?」


絹旗は後ろ歩きをしながら、説明し、やがて、ピカピカに拭かれたであろうガラス製の自動ドアの前に立った。

>>480

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「・・・あ、あれ?」


しかし、そのドアが開くことはなかった。

上に設置されているドアのセンサーに、バンザーイ、と両手をあげたり、振り回したりするも、全く反応がない。


「ちょ、ちょっと! 常連のこの私を拒むつもりですかっ、健康ランドの分際でッ!?」


ポイントも10個、貯まってるんですよ! と、ポイントカードと思しき小さく折りたたまれた紙を掲げる絹旗。


「それは監視カメラじゃないよ・・、絹旗。」

「結局、絹旗が小さすぎて自動ドアが反応してくれないみたいだねー。」

「堂々と歩いて行った手前、とんだ恥かいてるわね。」


麦野たちが目の前に来ると、自動ドアは待ち望んでいたかのように、その懐を開いた。

絹旗以外の三人は、鼻高々に入店。

一人残された絹旗は、腑に落ちないような表情をしていた。



「そんなところで何してんのよ、アンタが来てくれないと、私たちどうすれば良いのか分かんないだけどー。」

「分かりましたよ・・・・、ってわぷッ!?」


しかし、自動ドアが急に閉まり、鼻先をガチンッ、とぶつけてしまう絹旗。

やがて、赤くなった鼻を摩りながら、肩をプルプルと震わせ始めた。


「・・・な゛ぁぁぁぁッ!!!! 超キレましたーッ!!!!」


右拳を思いっ切り握りしめ、振りかぶる涙目・絹旗。


「自動ドアの分際で、この絹旗様に楯突くとは良い度胸ですッ!!

この私の『窒素装甲』の威力を思い知るが良いでしょうッッッッ!!!!!」


あ、まずいなコレ、と麦野が思った瞬間、フレンダが慌てて飛び出していた。


「ば、ばかばか! 絹旗!! やめてぇッッッッッ!!!」


「いやー、さっきは面白いもの見たわあ。ね、滝壺。」

「・・フレンダ、大丈夫?」


あっはは、と乾いた笑いを漏らす麦野。

心配そうに滝壺が見つめるフレンダの顔面には、赤い大きな殴られた跡ができていた。

閉められた自動ドアのド真ん中を叩き割ろうとした絹旗の右ストレートが、

慌てて反対側から、自動ドアを開けようとしたフレンダの顔面に、ドアが開いた直後、クリティカルヒットしたらしい。

何で私が・・・、まだ成長期で・・・、これから超伸びるのに…、とボソボソ呟きながら、受付を済ませる絹旗。

知り合いの女の子の顔を入店早々殴り飛ばすという乱暴な客を目の前に、受付の女性は若干ビクついていた。


「心の清らかな人にしか反応してくれないように出来てるのよ、自動ドアっていうのはねー。」

「あはは、それを麦野が言うー?」

「はーい、ブチコロー。」



ポイントカードに11個目のスタンプを押してもらい、コロッと機嫌を直した絹旗が振り向くと、

全盛期のアントニオ猪木のような顔をした麦野が、フレンダにヘッドロックをかけていた。


「ほーら、どんどん締まっていくけど、謝罪の言葉が聞こえないわー。」

「む、むぎ・・ッぎぎぎぎ・・っぎぶ・・!ぎぶぎぶ!」


謝ろうとしても言葉が出ないですよ、それ。と突っ込む絹旗。

口から泡を吹きかけているフレンダ、顔の骨格がイカれてしまうほどの締め技である。

なんて乱暴なお客なのだろう、と受付の女性は、名簿に書かれた四人の名前をブラックリストに記入しておいた。




―――――

「あ゛ぅ~・・私の美しいご尊顔がぁ・・。」

「自業自得よ。」


サラリ、と言い流す、プロレスラー・麦野。

一方で、わずかな間に、怪力で顔面を殴られるわ、猪木に骨格を締め上げられるわ、散々なフレンダ。

対照的に、一抹の汚れなく、美しく光り輝いている金髪ロングヘアがなぜか哀愁を誘う。


「まぁ、顔もマッサージしてもらえば良いんじゃないですか?」


そう言いながら、三人に健康ランドのパンフレットを配る絹旗。

フレンダには、平日の学生割引確認のための学生証も共に返す。

配られた細長いパンフレットの表紙には、ピンク色の文字で「健康ランドの極意」と書かれていた。

中を開くと、健康ランドの全体図が目に飛び込んでくる。

やはり、外からもザッと見た通り、建物内もかなり広いようだ。

二階建てではあるが、特に横の大きさが半端ではない。



「えーと、さらっと説明しますから、よく聞いてくださいね。

 1階には、温泉にサウナ、温水プール、垢すり、マッサージコーナーなどがあります。

 2階は、さらにバラエティに富んでいまして、ミニテニス、卓球などのスポーツ場から、

 ダイエットメニューも多くあるお食事処、さらにはトレーニングジムまであります。

 まぁ、運動はさっきやってきたので、今日はもう運動系をしなくても大丈夫でしょうし、

 着替えるのが面倒なので、2階は後回しにしましょうか。

 ちなみに時間も決められていますから。 今回は4時間、超楽しめる量です。

 あ、それと、利用料金は各自2000円ですから、忘れないうちに、今徴収しますね。」



「・・・、ごめん、絹旗、最後の行だけ聞こえなかったー。」

「私もー。結局、最初からもう一回お願いできるー、絹旗ー?」

「・・滝壺さんはちゃんと聞いていたようなので、先に進みますね。」


ちっ、と舌打ちする麦野とフレンダ。

かくいう滝壺も興味津々にパンフレットにのめり込んでいたので、一番聞いていなかった可能性が高かったが。

ちなみに、フレンダが学生割引のことを忘れていたため、絹旗は、ちゃっかり割引無視で2000円を徴収した。

それにしても、「アイテム」は性悪の比率が非常に高い。




―――――


受付の広間から、少し離れた通路を歩く四人。

通路の左右の壁には、「美味い!バナナダイエット!」や「顎に効く! スルメダイエット!」など、

何ともいかがわしいポスターや新聞記事が張られていた。

未だに、滝壺は興味深そうにパンフレットをガン見している。

先頭を切って歩くチビっ子・絹旗に、麦野がふと疑問を投げかけた。


「そういえば、服はどこで脱げば良いの?」

「ああ、更衣室がそこにありますから、ついてきてください。 ・・っと、その前にッ。」


更衣室入り口のすぐ横に何やら大きな自動販売機のようなものが見えた。

絹旗は足早にその前に向かうと、財布を取り出し、1000円札を入れる。

ピッ、ピッと慣れた手つきで、何やらボタンを押す。



物品が出てくるのを、両手を後ろに回して組みながら待っている絹旗を見たフレンダは、

なにかのお使いを頼まれた小学生みたいで可愛いなー、と心の中で呟いた。

口に出すと、また子ども扱いですか! とまた彼女が機嫌を損ないそうだったため。


「絹旗ー、それ何? 健康青汁でも出てくるのー?」

「これは飲み物の自動販売機じゃないですよ、麦野。

 はいこれ、どうぞ。これは私の超おごりですから、嫌な顔しないで受け取ってくださいね。」


???、と3つのクエスチョン・マーク。

渡されたのは、ポケットティッシュのような袋、しかし、それに比べるとやけに大きいのが気になる。

パリッと破り開け、すぐさま中身を確認する。

!!!、と3つのエクスクラメーション・マーク。

途端に、麦野とフレンダがぴったり同じタイミングで心底不愉快そうな顔をしていた。



「・・・だから嫌な顔しないで受け取ってくださいね。って言ったじゃないですか・・・。」


「いや・・・、女なら誰だって、『紙オムツ』なんか渡されたら、嫌な顔するわよ。」


中に入っていたのは、二着の紙オムツ、豆粒みたいな小さな愛らしいピンクリボンもついている。

高校生以上の年齢に達している三人にとって、紙オムツを手に取るのは何年ぶりだろうか。

結局、男でも嫌な思いすると思うけどねー、とフレンダ。

一方で、滝壺だけはスゴイ可愛い・・、と呟いている。

やはり、この少女だけは感覚が脱線事故を起こしているようだ。



「絹旗・・、もしかしてこれ履くの?」

「当たり前でしょう、この健康ランドは温泉だけじゃないんです。

 色々な場所を歩き回るのに、秘部をスースーさせておくわけにはいきませんから。」

「秘部とか言わないでよ・・。」

「まぁ、たまには童心に返るつもりで履いてみたらどうでしょう。」

「童心ってレベルじゃないと思うんだけど、これ。」


改めて、両手で件の紙オムツを摘み上げる麦野。

紙製なので、サイズの問題はないだろうが、正直、気が引けてしまう。

こんなものを今から履こうとしているの、私。と若干心が萎えた。



「結局、絹旗にはお似合いだよね、紙オムツ。」

「・・、また子ども扱いですか。」

「よしなさいよ、フレンダ。絹旗は普段パンツ見せてるようなもんなんだから、紙オムツに対して何の抵抗もないのよ。」


お子様だからね、と付け加える麦野、その悪意ある一言に、プチンと切れる絹旗。


「がぁぁーッ!! そんな目で私を見るんじゃありませんッ!

 私はこの年齢で健康ランドに通い続け、健康のことには人一倍気を遣っているんです!

 褒められるは当たり前で貶される言われなど、超ありませんからッ!

 滝壺さんッ! 滝壺さんも何か言ってやってくださいよ!」


「・・・、二着もオムツを入れてくれるなんて、ここの健康ランドは良心的だね。」


「・・・、誰かこの超天然のアルプス少女をつまみ出してください。」


うなだれるロリババァ・絹旗。

ロリババァかわいいよ絹旗


―――――


ひとまず、醜い紙オムツ談義に幕を下ろし、更衣室において着替えに励む「アイテム」一行。

更衣室には、既に数人の女子学生が着替えている最中だった。

学生だらけの学園都市とは言え、良い年した女の子が健康ランドを訪ねるなど、かなり意外なこと。

同じく成人すらしていない若者である彼女たちが言えたことでもなかったが。


「はーい、全員のサイズのガウンを持ってきたので、ランド内ではこれを着てくださいね。」


ポンポン、と手際よく、薄い水色のガウンが配られる。

ワンピースのようにも見えるそれを、何なく着こなす四人。


「着せてあげようかー、最愛ちゃん。」

「・・まだ殴られ足りないんですか、フレンダ。」



「っていうかこのムームー、ちょっと透けてない?」

「気のせいですよ、それに麦野の裸なんか見ても、誰も興奮しませんから超心配ありません。」

「・・あとで覚えてろよ、ムーニーマン。」

「ガウンのことをムームーとか言っちゃう年増は超黙っていてくださいね。」

「ムームーって別に年齢的なアレはないと思うんだけど、子供は何でもかんでも団塊のせいにするわね。」


バチバチィッと火花を散らす。

似たような性格をしているため、衝突することも多い両者。

その一方で。


「ハァハァ・・、麦のんの裸ッ・・。やばい、・・マジやべぇ。」

「・・フ、フレンダ?」


涎をダラダラ垂らすフレンダ、滝壺が初めて彼女にドン引きした瞬間だった。


―――――


健康ランド内はかなりの広さで、平日にも関わらず、予想以上に多くの学生が来ていた。

敷地の端の人間は、目を細めないとよく見えないほどに小さい。

ちなみに、ほとんどが女子学生のようで、さすがにこの花園に入る勇気ある男子学生はいないようだ。

あちらこちらにヤシの木や南国に咲いているような花が生えており、癒しを与えるような心地よい匂いも漂っている。

そこら中で、女学生がふしだらに仮眠を取っていたり、物を食べながらゲラゲラと下品な声をあげて笑っていたり。

ここは健康ランドであると同時に、女性が素の自分を開放するような場所なんだな、と麦野はゲンナリしていた。

口を半開きにしている三人を横目に、絹旗が口を開いた。


「私も初めて来たときは、超圧倒されちゃいましたよー、無理もないですよねー。」

「まぁ、ね。慣れでしょうね、こういうのって。」

「夜はアロマキャンドルとか灯っていたりするんですよー、一度見てみると良いかもしれません。」



「じゃ、私と滝壺さんは先に温泉行ってるので、そこそこ温まったら来て下さいね。」

「え、ちょっと待って。二人はサウナに入らないの?」

「どうやら、滝壺さんはサウナダメらしいです。すぐフラフラになっちゃうそうで。」

「アンタは?」

「えーっと、私は、ほら、窒素の関係で。」

「何わけわかんないこと言ってるのよ、アンタだって油断してると、すぐに太るわよー?」

「そうだッ! えーと、温泉に滝壺さん一人だとのぼせてしまう可能性がありますからッ!」

「そうだッ!って何よ・・、まぁ、滝壺一人だと暇になっちゃうしね、それなりに楽しんでくるわ。」

「はい、超頑張ってくださいねー。」


何を頑張るのだろう、ダイエット? と麦野は疑問に思ったが、

時間が勿体無いので、フレンダを連れて、足早にサウナ室へ向かった。


「(作戦通りッ・・!)」


フレンダは心の中で妖艶な笑みを浮かべた。

サウナという熱々の密室空間、そんな中で愛しの女性と二人きり。

ガウンを着ているとはいえ、ほぼ全裸(しかも紙オムツ着用)の麦野に肌と肌で触れ合えるチャンス。

そのためにも、邪魔者は排除しなければならなかった。

そこで、フレンダは前もって絹旗に、滝壺を連れて先に温泉へ行っておくように頼み込んだのだ。

麦野が痩せることを中心とした今日のダイエット計画だったため、絹旗は何の疑いもなく了承していた。

もしも、他に誰かがサウナに居たとしても、どうせ同姓だろう。

その程度の障害など、簡単に乗り越えてみせる、それがレズビアン魂に火がついたフレンダの底力である。


「健康ランド名物『超健康サウナ』・・、ここね。何か胡散臭い名前・・、ねぇ、フレンダ。」

「・・・・。」

「・・フレンダ?」

「(まずは、麦野のガウンを剥ぎ取り、押し倒す。 結局、このホットなサウナで能力を使おうとも、頭が沸騰して、不可能だね。)」


既にフレンダの頭は浴場ならぬ、欲情モードに入っていた。


「(さぁ、二人だけの秘密の密室へ、マミィ、パピィ、絹旗、滝壺さん・・、今日、私は『女』になるッ!)」


麦野の着替えを見てからというものの、彼女に内なるものを悟られないよう、表情は冷静さを保ち、

かつ変態的思考が行動に表面化しないよう、制御していたが、もう限界が来ていた。

荒ぶる想い、高鳴る鼓動、充血する目、熱を帯びていく頭。

フレンダは率先してドアノブに手をかけ、グルリと回す。

誰も居ないはずの、二人だけの熱々の密室、そこには-―――



「やたーーッ!! 貴方のオムツを強奪成功―っ! ってミサカはミサカは逃げ回ってみたりーッ!!」


「てめェッ、このクソガキィィィィッッッッ!! さっさと返しやがれェェッ!! さもなくばブチ殺すッ!!!!!」



アホ毛茶髪の幼女と、白髪のガリガリ男が走り回っていた。



「へッ?」

「あッ」

「ァ?」

「えっ?」


走り回っていた格好のまま、時が止まっている白髪少年とアホ毛幼女。

ドアを開けてサウナに入ろうと足を踏み入れたまま、静止する麦野とフレンダ。

尋常ではない光景、ある意味。

何だろう、この組み合わせは、と麦野は目をピクつかせて、必死に状況を把握しようとしていた。

しかし、頭の中での情報整理がまったく追いつかない。


沈黙に耐え切れなくなったのか、目の前にへたり込んだ幼女が、口を開いた。



「あ、あの・・、これはオムツじゃなくて、実はトイレットペーパーだったんだよ・・、

 ってミサカはミサカはフォローしてみたり・・。」

「おィ・・、それは誰に対する弁解だよ。」


麦野を見上げ、汗をダラダラ垂らしている幼女、恐らくその汗はサウナの熱気によるものできないだろう。

麦野は視線を合わせるものの、どんな言葉をかけたら良いか分からず、思わず睨むように見てしまった。

ビクついている幼女は、麦野の視線を感じ、余計に泣きそうな表情になってしまう。


「おい、まずはそれを返せ、クソガキ。お説教はその後入念にしてやンよ。」


後ろから、ガシッと紙オムツらしきものを幼女から奪い取る名も知らない白髪少年。

素早くサウナの隅に移動すると、ゴソゴソと紙オムツを履き直していた。



女性3人(幼女を含む)を目の前にして、男が着替え始めるというのは恥知らずにも程がある行動だが、

フル○ンのまま、サウナに居座るよりは、遥かにマシだったかもしれない。

着用しているガウンは、半透明な素材なので、うっすら身体が見えてしまっては大事だ。

猥褻物陳列罪でアンチスキルに捕まる。

すぐに釈放されるだろうが、『学園都市第一位の超能力者、健康ランドサウナ内にて、全裸に。』


「(ハハッ・・・愉快な記事になりそうだなァ・・。)」


最悪の事態は何とか免れたものの、思わず笑みを浮かべてしまう一方通行。

変質者の鑑である。



「(何で、あの人は壁に向かって笑ってんの・・?)」


今すぐこのサウナから出た方が良いんじゃないだろうか、と危惧する麦野。

しかし、足元で麦野のことを見つめていた幼女の熱い視線に競り負け、決意する。


「・・フレンダ、とりあえずドア閉めて。鍵も。」

「う、うん。」


バタン、と力強くドアを閉める。ついでに鍵も閉めた。

他の誰かが入ってくる可能性もあったが、心の鍵を閉めるように、ジャストロックした。

見当違いかもしれなかったが、この変質者をサウナ外に出すわけには行かない、そんな義務感もほんの少しあった。

気まずい雰囲気の中、麦ンダコンビは、先客の二人と向かい合うような位置に腰を下ろす。

このままだとおちおち汗も流せない、そう判断した麦野は、とりあえず慣れない敬語を使って話しかけてみることにした。



「な、仲がよろしいんですね・・、兄妹でここにいらっしゃったんですか?」

「ァ・・? あァ、そうだな・・、こいつがあんまりしつこく来たいッて言うもンでよ・・。」

「この健康ランドが出来た2ヶ月前から言ってたのに、ずっと無視してたんだよねー、

 ってミサカはミサカは初めて会ったお姉ちゃんに、この人に対する反抗心を軽く見せてみたりー。」


両手両足をフルパワーでバタつかせ、キャッキャとはしゃぐ幼女。

サウナの熱気を全く感じていないようだった。

これくらいの年相応の無邪気っぷりがウチの絹旗にも欲しいわね、と思う麦野。

うるせー、黙れ。と幼女の脳天目がけてチョップする白髪少年、意外と容赦がない。

そんなコントを見ながら、フレンダはなぜか眉をひそめていた。

意外と、そんなに悪い人たちじゃないんじゃないだろうか、と感じ始める麦野。

白髪に白肌の少年は、超が付くほど怪しいが、幼女の愛らしさが良い感じにそれを打ち消していた。



「(それにしても、この男、どこかで見たような・・。)」


何せこの少年は、学園都市第一位の超能力者『一方通行』であるため、麦野がそう思うのも、当然といえば当然だった。

学園都市の裏に巣食う暗部組織所属、しかも、7人しか居ない、同じ超能力者(レベル5)、なおさらである。

よく見ると、少年の髪は完璧に脱色したように真っ白で、

熱気でよく見えないが、見間違いがなければ、赤い目をしていた。

身体つきは、あまりガタイが良いようには見えず、かなりの痩せ型で、麦野や滝壺よりも遥かに色白だった。

まるで雪のように純白、内面は純粋そうには見えないが。



「・・あの、何処かでお会いしませんでした?」

「ン・・、俺とか? ・・・・いや、悪ィが、覚えがねェなァ・・。」

「いや、白い髪してますし・・、どこかで見たような気がして。」

「あー、この人、こんなところまで来てナンパされてるー、ってミサカはミサカは、ちょっと嫉妬してみるー。」

「こンの、クソガキがァッ・・・。」


ビシッ! と再び鋭いチョップをお見舞いする白髪。

あひゃー、と頭を押さえる幼女。

小動物のようで、なんだか少し可愛らしく思えてくる。

ぜひ、一家に一台欲しい、「アイテム」の隠れ家一つにつき、一人欲しい。

ちなみに、幼女に紙オムツを取られるような腑抜けっぷりからして、この少年が一方通行だと、二人は勘付くことはなかったようである。



「そ、そういうのじゃないんですっ、ただ特徴的な格好してるから、気になっただけで・・。」


病気のせいで白髪になってしまう、とよく聞いたことがある。

失礼なことを言ったかな、と麦野は即座に頭を下げた。


「あァ・・、まァ、そういうのはよくあることだからよ、慣れッ子だ。 気にしなくて良いからよ。」

「ええ、ありがとう。あぁ、私は麦野、こっちはフレンダ。 貴方たちは?」

「あァ・・・、えーッとだな、」

「ミサカはねー、ラストオーダーって名前なのー! ってミサカはミサカは初めましてのお辞儀をしてみるーっ!」

「人が喋ろうとしてるときに、口を挟ンでくるンじゃねェよ、クソガキィッ!」


再度、高速で放たれた急角度の右チョップを、ガシッと両手で白刃どる打ち止め。



「ッ!?」

「・・ふっふっふ、そう何度も同じ手は食うわけにはいかないんだよ、ってミサカはミサカはほくそ笑みながら、」

「あァ。じゃァ、左だ。」


ビシィッ!!と左チョップが打ち止めの脳天に炸裂した。

本日、四回目のチョップ(有効チョップ:3)。

うひゃー、と頭を押さえる幼女。

それにしても、この一方通行、ノリノリである。


「暴力反対ーッ!! ってミサカはミサカは、不暴力非服従を唱えてみる!」

「逆だ馬鹿。 あと、言葉の暴力ッて知ってるかクソガキ、お前もちょくちょく言ッてるンだぜ?」


何かこの二人のやり取り見てるだけで、すごい癒されるわ、と呟く麦野。

ある意味、これを見ることが出来ただけでも、健康ランドに来たかいがあったかもしれない。

              __j、               ___
   _人_ _   __く>ー} i⌒'⌒jム、        ´      `丶
 ̄ `Y´   ≦(⌒o くcぅ ~  r'r‐(_,.ィ   ./::/::.::.::.::.::.::.::.\::.::.\  ういはるー ういはるー
    |    >ィ(.人ノ7:.:.:.}个ー'r ゚ 、)ム  /::/::.::.:/:|::.::.::.::.::.::ヽ::.::.:ヽ
    十 工ア(ノ)′/....../...|.. ヽ`弋人く  '::.:|i::.i::.j| |::.ヽ :|i:.::.::|::(V゙ハ

        V:/:.:./:斗{=ミ/}i_ハ__ハ小:.i:ムr‐f’. i::.::|i::.ト八|\j斗\::|::(ノ{):|   ういはるー ういはるー
      //{:.:.:|!/、__ミ′  厂`ト}.:i|:.:.},、》. |::.::|iY-=o=-    .|:.::j|::.::|
   i     }小 :::}7 (゚) .. (゚) T:.:..ハ:{.  |:.:リハ    -=o=- .|/)::│
 _ 人 _ ノ/:.∧{^         リ:./:. :.′. ∨|::.::   __   .,_ イ::.::.|
  `Y´ |フ´ヘ.__i  'ー=三=-'  '^}:/{:.ト{    | i人  | .::::/.| /::.::|::.::.:|
   l  l     八          '_人{.    |::∨ :.:.しw/ノイ::/::.i|::.::.:|
  ―― ――'フ.:\      .イ´         /⌒ ∪  | ⌒\:.:|
.     |    ⌒/{ノ> --、<:从_      / 人  }  | ノ゙\ \ ズチュ
            `ーァ      . ̄ニ────ー-v′ ノ/ / /   
             / 、 '''  .  ;;   :::  . ;;;   く   ⊆/
              {   |              ;;;       \  ) ) )
             |   {    r、 ;;; ::: . ;; .  .        | ノ   
            ,ノ   〉   { `ー────ァ―‐r‐   ,ヽ )   ズチュ
            (    (   ノ        {   {   r′l /     
             `ー= `ー='        (⌒ (⌒  )ノ   )

このAAに興奮する俺は末期



「・・えーっと、ミサカ・ラストオーダーちゃん?」

「ううん、違うよー! ミサカの名前はねーッ、」

「もう、ややこしいからやめろ、クソガキが。」


自分の名前くらい、ちゃんと覚えて欲しいのー、とダダをこねる打ち止め。

一方通行がシュッと手をチョップのように構えると、瞬時に打ち止めは黙りこくってしまった。


「(どこからどう見ても日本人なんだけど、この子・・。

 これが最近話題の『増えるヘンテコな子供の名前』ってノリなのかしら。」

>>578

      .:i.:.:.:.:.:i:.:.:ィ1-ヽ:l|:.l|:.:.:厶L:_`ト、:.:.:いハヘ :′ }!
     i .:.l:.:l:.:.::|:.'´j |_;.:.:」 ∟」L:_⊥!j__`ト、:.:.:i:.:Y  心 くー-、
      |:.i:|:.:!i:.:::レ'__二_ヽ     '´_,二._ヽ、:!!:.|ヽ:ァ‘ー':::::ヽ:::.ヽ
      |:.|!|:.:〉'´/´_二`ヽ     ″二_`\ ヽl:.:.{.  ハ._,イー┘
     レ !Y:l '〃 /´2cヘ       /´2cヽ ぃ |:.:.:`ァ1:ヽ:.|
     _.ノ:!:|::い{.└{{jjリ i}      └{{jjリ i} ,リ|:.:.;':.リ:.:.:.:\_
     `フヘぃi   くご.ノ        くこ.ノ '  l:.:./::/:::.:{、__:.ヽ._
    ´ ̄{ヘY´ ̄`ヽ        ,.-―- 、 ノ;イレ^卜、:\  ̄

         ヽト‐--‐ ′       ヽ __,ノ′ノ  ノ   ̄`
         .       _______     ,ー‐ァ'´
   ヽ、,jトttツf( ノ   ‘ー―- 一u     /:イ:./
  \、,,)r゙''"''ー弋辷_,,..ィ..__     _,, <{::::/ V
、..,,,ニ;ヲ_     ヾ彡r''"^ r‐   ⌒ヽ

``ミミ,  ,.へ    ミミ=- :ミ_       l
= -三t  {三ヽ  ,三` `  i  ,_, 彡i   |
   ,シ彡 V三ト、ミ'' ト  ノミ;,"    }、 ,イ
  / ^''' V三三ト、√       / ヾ  i
/      V三三三\   ミ /  ', ミ;
    〃  ミV三三三三\  /    }  l
   /      V三三三三三トY    l  l
   /      |;V三三三三三l    |  ,'
  /       l三V三三三三}    l ,'

         |三 }三三三三’   ,.ノ .,'
         |三/三三三ノ    〈y .〉
         ||レ三三三'´     '~'
         レ三三三'

         /三三ニ/
         V三三/



なんだかんだで和気あいあいとしていたサウナ内に、ドス黒いオーラに包まれた人物が居た。

麦野の隣に座っていたフレンダである。

数秒おきに舌打ちをし続け、その両足は貧乏ゆすりを起こしていた。

視線は、向かい側に居る一方通行と打ち止めに注がれている。


「(・・あんのクソガリ男とやかましいアホ毛幼女は何なの・・私と麦野だけの時間をかっさらって・・、

  大体、初対面の麦野に対して、失礼極まりないタメ語使ってるし。

  結局、麦野が本気出したら、アンタみたいなヒョロ男、一瞬で塵だからね、塵。)」


ズゴゴゴゴッ、と唸るフレンダ。

それが嫌でも視界に入る一方通行も、ようやくフレンダについて考え始めた。


「(つーか、何でさっきから全然喋らねェンだ、あの金髪は・・。

  気のせいかもしれねェけど、すげェ殺気放ってやがる、何なンだあの外国人。

  ・・、もう2時間も入ってるし、居心地悪ィから、さっさと出るとするかねェ・・。)」



「ねーねー、そろそろミサカは温水プールに行きたいー、ってミサカはミサカは強く希望してみるー!」


丁度良いな、と一方通行は腰を上げ、入り口へ向かう。

打ち止めも楽しそうに、後を追った。

なんだかんだで、仲の良さが垣間見える兄妹だなぁ・・、とほのぼのする麦野。


「悪ィな、邪魔した。」

「ええ、また会ったらよろしく。」


チラリと麦野たちを見やると、鍵を開け、サウナから早々と出て行く通行止めコンビ。

じゃあねー♪ とハイテンションのまま、大手を振って出ていく打ち止め。

ばいばい、と柔和なお姉さんの顔をした麦野は手を振ってあげる。



「そういえば、結局名前を聞きはぐっちゃったわねぇ。」


まぁ、同じ学園都市に住んでいるのだろう、そのうちまた会うこともある。

一方、邪魔者が居なくなったため、フレンダのテンションは上り調子になっていた。


「・・さってと、むっぎのーん! 私と麦野の悦楽の~、」

「あ、何かいっぱい来ちゃったわね。」


麦野に抱きつこうと横に覆いかぶさろうとするが、彼女が立ち上がってしまったため、木製の長椅子に顔面から飛び込むフレンダ。

一方通行と打ち止めが出て行くと同時に、女子学生軍団がゾロゾロと入ってきてしまったらしく、ザッと数えて10人は居た。

大声で喋りながら入ってきていたため、かなり居心地が悪くなってしまった。

フレンダは、麦野の美尻のぬくもりを・・、となにやらブツブツ独り言を言いながら、椅子に頬を擦り付けている。



「何やってんのよ、アンタ。・・・・まぁ、名残惜しいけど、そろそろ温泉に行こっか、フレンダ。」

「ぁ・・っ、あ゛・・。」


人前にも関わらず、崩れ落ち、泣きそうな表情でズリズリッと床を這うフレンダ。

ガウンが床の間で擦れて、真っ白な太ももが露になり、乱れた金髪から虚ろな青い眼がのぞく。

それを見た麦野は、エロさではなく、某ホラー映画を思い出して寒気を感じ、少しブルっていた。


「・・・っていうか恥ずかしいから、さっさと出るわよ!!」

「あ゛ぁぁぁぅぅぅッ・・・・。」


嗚咽を漏らすフレンダを無理やり踏んづけて、サウナから引きずり出した。

何故かフレンダの顔はだらしなくニヤけていたが。





もちろんまたロリコンビはででてくるんだよな


今日はこれで終わりにします、というか書き溜めが切れました。

午前中に勢いで書き溜めたので、荒削りな箇所もありますが、暖かい目で見守ってくだされば幸いです。

序盤は、今日明日で終わらせるつもりだったのですが、

ネタが膨らむにつれて、どんどん話が長くなるばかりで申し訳ありません。

もう少しだけ、お付き合いください。

録画したレールガンを横目に、では、おやすみなさい。


>>589
正直、あの二人って動かしやすいですよね。


遅くなりました、毎度毎度、保守ありがとうございます。

五度目の投下となりますが、今回も最後まで遅くまでお付き合いください。


―――――


「何か、今サウナの方で超面白いことが起きている気がするんですが・・・気のせいですかね。」

「たった今、私も変な電波を受信した・・。」


一方、こちらのマイペース・絹壺コンビは、

1階の左端にあるサウナに行った麦ンダコンビとは逆方向、1階の右端にある「健康温泉」に浸かっていた。

かなり大きな温泉で、学校用プールほどの面積がある。

ところどころに設置されたマーライオン像の口から勢いよくお湯が流れて、その膨大な量のお湯には、

リンゴやミカン、パイナップルといった果物類が浮かんでおり、フルーツ風呂という感じだ。

周囲にはジャングルにあるような木々が生えており、雰囲気は、自然の中の大浴場である。

ちなみに、混浴であるらしいが、周囲に男性は見かけなかった。

そんな浴場で、二人はその風呂の中心に置いてある大きな岩に背中を預けていた。



「いやー、しっかし、超癒されますねー。 日頃の身体の疲れが溶けてなくなっていくようです。」

「・・このリンゴ、食べられる?」

「温泉タマゴとは違うので、やめた方が良いんじゃないですか・・、衛生的にも、常識的にも。」


手に取ったリンゴをまじまじと観察するも、諦めたのか手放してしまう滝壺。

滝壺の手を離れた、真っ赤で形の良いリンゴは、ぷかぷかー、と流れていってしまった。


「まぁ、お腹が減ったなら、あとで2階の軽食コーナーに行きましょうか、デザート類も超売ってると思いますし。」

「うん、楽しみ。」

「まだそれほど時間も経っていませんから、焦ることもありません。」



お湯の流れる音だけが心地よく響く、癒しのスペース。

学園都市の裏で泥臭く活動する彼女たちにとっては、この静寂が何よりも気持ちの良いものなのかもしれない。

周囲の喧騒や雑音も、この空間で聞こえることはない、と思っていた――――


「とうまー! このお風呂、美味しそうなリンゴが浮かんでるんだよー!?」

「だぁーッッ!! そんな水しぶきあげて飛び込むんじゃねぇよ!! 周りの人たちに迷惑だろうがーッ!!」


雄たけびのような声が、絹旗たちの後ろ側、風呂の真ん中に設置された岩の裏側から、すごい水音と共に聞こえてきた。

騒がしい少女の声がこだまする、止めようとする少年の声もやたらボリュームが大きい。

姿は見えないが、彼らがかなり大袈裟に暴れているのが分かった。


「やかましい人たちが居ますねぇ、こういう場所でのマナーと言うものを超叩き込んでやるべきでしょうか。」

「・・楽しそうだから、そっとしておいてあげようよ。」

「ま、きっと健康ランド超初心者なんでしょうね、まぁ、最初ははしゃぎたくなる気持ちも分かりますが。」


自分は健康ランド上級者、という風格を漂わせる絹旗は、悟りを開いたような表情をしている。



自分は健康ランド上級者、という風格を漂わせる絹旗は、悟りを開いたような表情をしている。


「わぁー!? リンゴだけじゃないよ!! ミカンもパイナップルも・・、メロンさえもあるんだよー!?」

「ば、ばか! 食べるんじゃありません、みっともない!!」

「すごいんだよ、ここは果物の海鮮宝箱や~!、なんだよ!!」

「料理レポーターみたいなこと言いやがって・・、ってだから、食べるんじゃねぇぇッッ!!」


「絹旗、やっぱりこの浮かんでる果物、食べれるんじゃない・・?」

「後ろの人たちは悪い例ですから、参考にしないようにしてください、滝つ・・んがッ!?」


言いかけた絹旗の脳天に、どこから飛んできたのか、大きめのパイナップルが直撃した。

入浴中だったため、『窒素装甲』の自動防御機能は働かなかったのか、少し痛い。

飛んできたのは、恐らく岩の後ろ側、先ほどから何やら騒がしくしている方からだった。



「い、痛たた・・、ちょっと!!

 さっきから何をはしゃいでるのか分かりませんが、もう少し静かにしたらどうですか!!」


即座に岩の反対側に回り込み、暴れていたであろう二人組を、ビシィッと指差す絹旗。

右手は、身体に巻いたバスタオルがずり落ちないように支え、左手は、凶器となったパイナップルを持っている。


「このパイナップルを飛ばしたのは貴方ですねッ? 私の頭に降ってきましたよ!!」

「あ、そのパイナップルも私にくれるの? わざわざありがとうなんだよ!」


襲い掛かるように絹旗の手からパイナップルを受け取り、あろうことかそのままかぶりつく少女。

パイナップルは、わずか数秒で少女の腹の中に消えてしまった。

少女の、その行動の早さと、食欲へ忠実な姿勢から、思わず言葉を失う絹旗。



「・・・・・って人の話を聞きなさいッ!! この・・ッ!?」


と、言いかけたが、よく見ると、いや、よく見なくとも、目の前の少女はどうやら日本人ではない。

銀髪にエメラルドの瞳、肌の色もかなり白かった。

年は絹旗と同じくらいか、ほんの少し上。

スタイルがあまり自身と変わらないことからの判断である。

その外国人少女の横から、黒髪ツンツン頭の少年があたふたしながら、二人の間に割り込んできた。


「ああ!? すみませんすみません!! うちのバカシスターがとんだご迷惑をッ!!」

「・・ぇ? あぁ、いえいえ。

 っていうか、貴方は食べるのを止めたらどうなんですか!!」

「・・ゴクンッ・・・、えー、だって、とうまが好きなだけ食べて良い、っていうから・・。」

「言ってねぇぇッッッッ!! お行儀が悪いから、今すぐ止めなさいッ!!」



とうま、と呼ばれた少年は強引に連れの暴食を止めようとするが、食事を止める気配を見せない。

こちらの保護者のような少年はどこからどう見ても生粋の日本人のようだった。

兄妹・・じゃないんでしょうか? と絹旗は疑問に思う。


「ぅ゛~・・・、じゃぁ、あと1個だけでも・・・。」

「それをやめろって言ってるのがお分かりにならないッ!?

っていうかもう1個しか残ってねぇッッッッ!!??」


周囲を見渡した少年が、仰天の絶叫。

広い風呂に大量にあったはずの果物は、ぷかぷかと浮かんでいるリンゴ一個だけになってしまっていた。

パイナっプルの葉や、メロンの皮さえも食べてしまったのか、この銀髪は。

やがて、最後のリンゴに、その暴食少女が手を伸ばす。

しかし、いきなり逆方向から手が伸びてきたかと思うと、そのリンゴを奪ってしまった。



「・・・このリンゴは、私のものだよ。」


その手の主は、滝壺だった。

先ほど彼女が手放したリンゴだったらしい、両手で包み込むようにそれを持っていた。


「それは私のものなんだよ!! 素直に譲って欲しいかも!!」

「これは私が最初に手をつけたリンゴだよ、貴方には渡せない。」


我が子を抱くように、強くリンゴを握り締める滝壺から、静かなる闘志が満ち溢れていた。

相対する銀髪少女は、目の前の獲物を睨みつける肉食動物のような眼光を向けている。

バチバチィッと飛び散る火花。


「いや、それは誰のものではないと思いますよ、滝壺さん。」

「頼むから、止めてくれ・・フルーツ代弁償とかになったら、どうすれば良いんだ俺は・・。」

「恐らく、もう超手遅れだと思いますけどね・・。」



ザッと30個のフルーツを食べつくした銀髪少女、財布管理をしていると思われる少年が力なくうなだれた。

ちなみに、先ほどから周囲のお客たちが、少女たちの一進一退の攻防に、目を向けている。

当事者たちは、そんな視線に気づいていないのか、取っ組み合いの喧嘩を始めてしまっていた。


「あぁぁっ、もう!!! インデックス、出るぞ!!」

「えぇ!? あのリンゴ・・!」

「うるさい!! 上の軽食コーナーでいくらでも食べさせてやるから、ここは大人しく従ってくれッ!!」

「えッ! 本当!? 男に二言はないんだよ、とーま!!」


周りの視線に耐え切れなくなった少年は、銀髪少女の手を取ると、

お湯の上を走る忍者のように、すごい勢いで風呂から飛び出していった。


「ぁぁ!! とうま! 私が巻いてたタオルが取れちゃったんだよ!!!」

「不幸だぁぁぁぁぁぁッッッッッッッッッッッ!!!!!」


やまびこのような、ビブラートの効いた少年の声は、どんどん遠ざかり、やがて、聞こえなくなった。


―――――


嵐のような二人組がいなくなった大浴場。

銀髪少女が食べつくしたせいで、果物はすべてなくなっていた。

滝壺が命懸けで死守したリンゴを除いて。

満面の笑みを浮かべながら、リンゴにキスする滝壺。

彼女にそこまでさせた原因は何だったのだろうか。


「・・滝壺さん、超満足そうですね。」

「うん、このリンゴ、持ち帰って良いかな?」

「・・まぁ、この際、それでも良いんじゃないですか。

 ここにあった果物がすべてなくなったのは、さっきの二人のせいですし、

 今更リンゴの1個や2個、罪を被せても変わりはないでしょう。」


「・・あれー、ここのお風呂、フルーツがいっぱい浮かんでる変わったお風呂だって聞いたんだけど。」


聞き覚えのある声がしたため、振り向くと、サウナから戻ってきたらしい麦野が居た。


「そうですね・・、さっきまではフルーツ風呂でした。」

「もしかして、さっきここから勢いよく飛び出していった男の子と全裸の女の子が関係してたりする?」

「・・ご名答ですが、説明するのが超面倒なので、我慢してください。」

「・・・?」


首を傾げる麦野。

サウナから出たばかりだったからか、良い感じに身体が火照っていた。


「・・・っていうか、そっちも何かあったんですか?」

「ああ、これ?」



麦野が先ほどから掴んでいたのは、フレンダの右足だった。

どうやら、サウナからそのままの体勢で引きずってきたらしい。

フレンダの顔は、悲しみの涙と床の汚れでぐちゃぐちゃになっていた。

豪快に引きずられてきたからか、紙オムツが丸見せになっている。


「まぁ、こっちも色々あったんけど、説明するのが面倒だから、我慢して。」


ポイッ、とフレンダを風呂にゴミのように投げ捨てる麦野。

美しい放物線を描き、頭から飛び込んだフレンダは、水深の浅い風呂の底に顔面をぶつけていた。

水の中だったが、ゴィィィン! と鈍い音が響き渡った。


「ぃったぁぁッッッッ!!??」

「あ、やっと気が付いたわ。」

「・・・あれ、ここどこ? お風呂?」

「恥ずかしいから、まずは座ってください。 っていうかその前にガウンを脱いでください。」



ガウンをポイッと脱ぎ捨て、バスタオルを巻き、お湯に沈むフレンダ。

絹旗と麦野もそれに続き、湯船につかる。


「・・・・・。」

「どうしたの、絹旗。私の身体に何かついてる?」

「いえ・・、何でもないです。」


絹旗が凝視していたのは、麦野の豊満な胸だった。

さすがは「アイテム」最年長、文句なく、一番の大きさ。

絹旗が麦野を観察している最中に、フレンダも絹旗のことをじーっと見つめ、


「(絹旗・・いくらアンタでも、麦野にちょっかい出そうもんなら・・・。)」


などと、見当違いなことを考えていた。

そのフレンダにも、絹旗がちらりと視線を向ける。

思わず、ビクッとするフレンダ。



「(・・・フレンダも・・、私よりも胸はあるようですね。)」

「(き、絹旗ッ・・、何で私の方を見てるの・・?

 結局、ダメなんだからね・・、私には麦野っていう心に決めたフィアンセが・・。)」


勝手に顔を赤くするフレンダ、もうのぼせたの?と心配する麦野。


「うーん、どうものぼせたみたいー、麦野ぉ、肩貸してぇ・・、いや、むしろその溢れんばかりの、お胸をー、」

「ッ・・!!」


ゴチン! と何かが殴られるような音がしたが、気にせず、次は滝壺に目を向ける絹旗。

滝壺は、相変わらず、一心不乱にリンゴを抱きしめて、身体をやんやん揺らしていた。


「(滝壺さん・・、滝壺さんは実は、隠れ巨乳って奴なんですよね・・。)」



先日、浜面へのお見舞いの際のバニーガール衣装への着替えのときも含め、

滝壺のスタイルの良さは、幾度となく、嫌というほど味わわされていた。

麦野には敵わないものの、天然な性格も手伝って、総合力では良い勝負をしているだろう。

年齢的な差はあれども、やはり、「アイテム」の他の三人と比べて、自分のものが著しく小さいことを痛感する。


「(なんだか、ちゃんと成長するかどうか超不安になってきました・・・。)」


自分の将来を不安視する絹旗。

何だかんだ言っても、彼女も自分の成長具合というのは気になってしまうものである。

日頃、子供扱いされるのを嫌うのは、そういった思いかららしい。



「(・・・どうしたら胸が大きくなるんでしょうか、牛乳を飲む、というのが超知られている方法、

 と聞いたことがありますが、効果的であるとも、あまり聞いたことがありません。

 と、なるとやはり、誰かに揉んでもらう・・、とか・・。

 い、いえ! そんなふしだらなこと同姓でも超頼めるはずがありませんッ、異性など、もっての他です・・。

 しかし、それを実行しなければ、永遠にこのサイズのままかもしれません。

 それだけは何としても避けたい・・ですが、・・・あぁっ!! 私はどうすれば・・!!」


頭を両手で抱え、グリングリン左右に振り、苦悩する絹旗を、三人が凝視していた。


「(私のこんな貧相で未成熟な身体を見て興奮する男性がどこに居るでしょうか・・、

 ・・ここはやはり経験豊富そうな麦野に聞くべきでしょうか、

 やはりそれなりのものを持っている女性として、何かしら、術を知っているはずでしょうから・・。

 ・・いや、待て、超待つんです、絹旗最愛。

 そういえば、自分で揉むという手段もありましたね、それが一番確実で安全な方法かもしれません。

 しかし、それでも、より、さらに確実な方法を選択すべき・・・、つまり。)」



ハッ、と顔を上げる絹旗。

絹旗の様子が明らかにいつもと違うため、心配そうな表情で見つめていた麦野。


「ど、どうしたの、絹旗?」

「麦野、どうして貴方はそんなに胸が大きいんです?」

「え゛!?」

「何か秘密があるはずなんです、そうでなければ合理的でない!

 ただ、何もせずにその大きさになるとは超考えにくいんですよ!!」

「き、絹旗まで、何言い始めてるのよ!?

フレンダ! アンタ、絹旗に何か言ったわね!?」

「結局、私もつくづく気になっていたことを言ってくれたよ、代弁者だね、さすがだよ絹旗。」

「こ、こンの・・馬鹿パツキン野郎ッ・・。」


振り上げた拳をフレンダに向けるも、絹旗がそれを止めた。

なぜか目を輝かせながら。



「教えてください! 麦野! 恥ずかしながら、私が超子供であると自覚した上で聞いているんです!

 ですから、ぜひその肥大化の術をご教授ください!」


ランドに入る前まで、散々子ども扱いするな、とガミガミ言っていたはずの絹旗の変貌っぷりに驚きを隠せない麦野。

とにもかくにも、年下の質問には、先輩としてきちんと答えてあげるべきだろうか。


「私もそうやって悩んだ時期があったわねぇ・・・、とりあえず自分で揉んでみたら?」

「・・やはり、そうなるんですか。」

「・・・恥ずかしいけど、私も少しは自分でやったことあるし・・・。」



「「な、なんだ(です)って!?」」



絹旗とフレンダが口を揃えて言い放つ、両者とも鼻息荒く、どうも頭のネジが緩んでいるらしい。


「す、少し!? 少し揉んだだけでそんなに超大きくなってしまったんですか!?」

「麦のんかわいいよ麦のんっ!!」

「フレンダさんは超黙っててください! これは超重要な問題なんです! 死活問題なんですよ!」

「な、絹旗、バカ! 結局、これは私にとっても生きるか死ぬかのラブゲームなのよ!」

「貴方はもう成長期過ぎたんですから、超大人しく諦めてください!!」

「私自身の問題じゃないんだよ、絹旗! 私は自分の身体じゃなくて、麦野の身体に興味があるの!!」


これほど意味のない言い争いというのも、なかなかお目にかかれるものではないだろう。

ガチンコ勝負の二人は、周囲に大勢のお客が居るにもかかわらず、大声で罵り合っていた。



「とにかく麦野! お願いします! その黄金の両手で、私の胸のお世話をしてください! 効果があった場合は、お金も払いますから!」

「お世話・・だと?」

「ちょ、ちょっと待って絹旗! 落ち着きなさいって、アンタらしくない!」


思い切った提案をする絹旗に対して、困惑する麦野、そして、それ以上に驚愕しているフレンダ。

やがて、フレンダのホットな頭の中で、超能力演算にも匹敵する光速スピードで、状況整理が行われ始めた。


「(ここまで障害は浜面だけだと思ってたけど・・、まさか絹旗までもが恋の好敵手になるなんてッ・・!)」

「周りの女子学生たちを見ても、それほど胸の大きな方は見当たりませんッ! 麦野ッ、貴方がナンバーワンなんです!、だから、だからこそ!」

「さッせねーよ!絹旗!! 麦野にペッティングされたいなら、このフレンダを倒していけぇッ!!」


麦野にじりじり近づく絹旗に対し、ゴールを死守するように立ちはだかるフレンダ。

絹旗vsフレンダのゴングが高々と、大浴場に鳴り響いた。


―――――


「なーにが健康ランドの熟練者よ・・、そんな奴はのぼせないわよ、少なくとも。」

「・・・、二人とも、大丈夫?」

「あ゛―・・・。」

「ぶぇー・・・。」


麦野が売店で購入した扇子でフレンダを、滝壺も同じく団扇で絹旗を扇いであげていた。

扇がれながら、柔らかいマットに寝かされている絹旗とフレンダ。

今「アイテム」が居るのは、1階の「仮眠コーナー」。

浴場でヒートアップした絹旗とフレンダの両者は、掴みあった瞬間にオーバーヒートして、

お湯の中に沈んでいってしまった、つまり、のぼせてしまったのである。

麦野と滝壺は、周囲の客にペコペコ頭を下げながら、倒れた二人を抱えて、この仮眠コーナーまで運んできたのだ。



「む・・麦野、む、胸を・・。」

「分かった分かった、あとでそれなりに指導してあげるから、今はその口閉じてなさい。」

「超・・、分かりました・・・。」


グデッ、と意識を失うように脱力する絹旗。

普段、あれだけ大人のように振舞っている彼女が、乱心したように胸のアドバイスを求めるようになるとは。

女性にとって、胸というものはそれほどまでに他の女性に対する有効なアドバンテージになるのだろうか、と麦野は考えていた。

今となっては、麦野は同じ年代の並の女性よりは豊満な胸を持っており、特に気にすることもなくなっていた。

誰に言われるわけでもないし、暗部組織である以上、胸の大きさに関してはメリットもデメリットもないのである。

やはり、自分の気の持ちよう、ある意味では自意識過剰なのだ、胸の大きさを気にするということは。

ちなみに、フレンダに関しては何も言及することはない、ただの同性愛者である。



「滝壺さーん、結局、もっと強くお願いしますー・・。」

「・・・。」


何も言わずに、より強く団扇を扇ぐ滝壺。

この子こそ、自分の身体のプロポーションに対して執着しないな、とつくづく感じる。

と、いうか日頃ピンクのジャージなど着ている時点で、彼女はスタイルどころかファッションにも全く興味がないのだ。

それでも、そんな少女に惹かれる男性も居る。

麦野の頭には、明日退院すると聞いた、ある茶髪の少年が浮かんでいた。

滝壺と自分を、客観的に見比べる。

自分の容姿にもそれなりの自負があるが、滝壺もタイプは違うとは言え、かなり可愛らしいタイプだ。

もし彼が、美人タイプより、可愛いタイプが好みだった場合、それは致命的な差となるだろう。

性格の良さは、恐らく滝壺の方が若干、有利か。



「(でも・・それは日頃の行いで十分カバーできる・・はずよね。)」


しかし、自分が素直になれないせいで、彼に対してきつく当たったり、能力を使って殺しかけたこともあった。

滝壺の天然な性格も、ある意味では難アリといえるが、少なくとも自分よりは優しい、

やはり、百歩譲っても、性格は滝壺の方が良い。

そう考えただけで、かなり気持ちが萎えてしまうのである。

よく大人びていると言われるものの、自分自身はそんな像は求めていない。

彼に最も似合う女性、彼が最も気に入ってくれる、好んで傍に居てくれるような女性でありたい。

何が言いたいかというと、学園都市第四位の超能力者である麦野沈利も、恋多き、お年頃の少女なのである。


「どうしたの、麦野・・? 麦野も少しのぼせた?」

「・・・え? ああ、大丈夫よ。 私はこいつらみたいにマヌケな人間じゃないから。」



麦野を心配して、彼女の顔を覗き込むように、近づいてきた滝壺。

この少女さえ居なければ、浜面は私のものなのになぁ・・、と一瞬思ってしまうものの、

今みたいに、小さなことでも本気で心配してくれる滝壺に対して何てことを、と頭から悪意を打ち消す麦野。

首をぶんぶん横に回したとき、見覚えのある人物が目に入った。



「・・・ッたくよォ、だからあンまり、はしゃぐンじゃねェッて言ったんだよ、俺は。」

「・・だ、だって・・・ぇー・・。」

「手のかかるクソガキだ・・、全くよォ。」


仮眠コーナーの入り口にチラリと見えたのは、つい3,40分前に麦野がサウナで話した白髪男と茶髪幼女だった。

気分の優れない幼女を少年が抱えた状態で、ズカズカと入り込んでくる。



少年は愚痴を吐きつつも、キョロキョロと辺りを見回し、空いているスペースを発見すると、足早にそこに向かう。

「アイテム」がダベっている、ちょうど後ろ、座っている麦野に背を向けるように、少年は腰を下ろした。

麦野が振り向くと、悪態をつきながらも、そっと幼女をマットに寝かせ、一息ついていた少年が見えた。

さっきは名前すら聞けなかったが、今度こそ交流を深めようと麦野は決意した。

なぜ仲良くなろう、と思ったのかは、麦野自身にも分からない。

ただ、この少年は周囲から隔絶されたような雰囲気を持ちながらも、

人を惹きつけるような、不思議な魅力が備わっているのである。


「あ、またお会いしましたね。」

「あン? ・・あァ、さっきの女か。」


ほぼ初対面にも関わらず、人を「女」呼ばわり、ぶっきらぼうな態度、人を見下すような視線、機嫌の悪そうな表情。

いつもの麦野なら、既に能力をフル発動して、相手を瞬殺していたところだったが、

すぐに、そういう危険な行動に出てしまうところが、浜面と距離ができてしまう原因なのだ、とグッと堪える。

自分のぎこちないスマイルを、依然として怒ったような顔をしている少年に向ける。



「そちらも妹さんがのぼせてしまったんですか?」

「のぼせたっつーか、目を回しただけだ・・、つーかこのガキは妹なんかじゃねェよ。」

「え、じゃぁどういうご関係なんです?」

「・・ァー・・運命共同体みたいなもンかねェ・・。」


素直に「妹」と言っておいた方が、事が丸く済んだな、と少し後悔する一方通行。

よく分からないが、年齢差はあれど大事な人なんだろうな、と麦野は思う。


「大切な子なんですか、その子。」

「大切・・ねェ、まァ、少なくとも、俺が日常生活を人並に続けるためって見方じゃァ・・大切だな。」


この少女が居なければ、一方通行は、超能力を使うどころか、言葉を話すことも、歩行することも不可能になる。

そういう打算的な考えをすれば、確かに打ち止めは、一方通行にとって大切な存在だった。

ただ、それ以外の考え方、例えば、自分の本心、感情的な面から見たとして、彼女はどういう存在か。

いずれ、それは彼の想いとなって導き出されることになるが、その答えは、今の彼にはまだ分からなかった。



「そっちで倒れてる奴らは、お前のお友達か何かかァ?」

「そんなところです。 長湯のせいか、倒れちゃったみたいで。」

「そっちも苦労するなァ・・、お気の毒ッて奴だ。」

「お互いに、ですけどね。」


クスクス、と笑う麦野。

その様を見て、理解できない、という風な表情の一方通行。


「・・その人、麦野のお友達?」


楽しそうに話す二人をすぐ横で眺めていた滝壺が、口を挟んできた。


「ああ、さっきサウナで知り合ったのよ、・・えーと、お名前何て言いましたっけ?」

「・・・何とでも呼びゃぁ良い、俺に名前なんてねェからな。」

「は、はぁ・・・、えーと、それなら。」

「スノープリンス。」



え? と滝壺の顔を見る麦野と一方通行、スノープリンス、と再び口にする滝壺。


「だって、髪の毛が真っ白だし、肌も白くて綺麗だし、何か雪の国に居そうだな、って思って。」

「・・・・・・。」

「ス、スノープリンス・・、ぷっ・・。」


斜め上のネーミングセンスを発揮する滝壺に、目尻をピクピクさせている一方通行。

そして、思わず、ププっと笑いを漏らしてしまった麦野。

恐らく、滝壺は彼を馬鹿にしたつもりなどないだろう、思ったとおりの感想を彼の名前としてはめこんだだけなのだ。


「・・・おィ。」

「ダメですよー、自分で何とでも呼べば良いって言ったんですからねー。」

「・・くッ・・くそッ、性格の悪ィ女どもだ・・。」


また厄介な知り合いを作ってしまった、とばかりに舌打ちする雪の国の皇子。

麦野は麦野で、思わず浜面に対しているときのような小悪魔モードのスイッチが入ってしまうところだった。



「・・ぷ、ぷぷッ・・、スノープリンスだって・・、とミサカはミサカは笑いを堪えきれないで居るぅ、ぷぷっ」

「て、てめェ、聞いてやがッたのかァッ!?」

「だってこんなに近くで話してたら、嫌でも耳に入っちゃう、ってミサカはミサカは自分の過失を否定してみるっ。」


むくり、と何事もなかったかのように起き上がった打ち止め。

先ほどまで真っ青な顔をしていたにもかかわらず、今はケロッとしている。

おはよー、と微笑みかける天使モードの麦野。


「あー、よく見てみれば、さっきのサウナのお姉ちゃん! ってミサカはミサカは瞬く間の再会に感動してみるっ!」

「目を回したって聞いたけど、どうしたのー? のぼせたわけじゃないらしいけど。」

「それがねー、ちよっと聞いて欲しいの、ミサカが倒れちゃったのは、この人のせいなのー、

 ってミサカはミサカはビシッと貴方に指を突きつけてみるっ!」


と、一方通行を指差す打ち止め。



「お、俺のせいじゃねェだろうがァッ! クソガキの自業自得だッつーの!」

「まぁまぁ、子供の言う事なんですし、スノープリンス。」

「だァから、それを止めろッつッてんだろォがよォッ!!!」

「・・・お姉ちゃん、ミサカの話聞いてくれるー?」

「うん、話してごらん、このロリコンプリンスがどうしたの?」

「変なレッテルつけてんじゃねェェェェッッッ!!」








―――――


それは一方通行と打ち止めが仮眠コーナーを訪れる、つい三十分前のこと。

麦野とフレンダと別れ、サウナを離れた二人は、同じく1階にある温水プールに向かおうとしていた。

かなりの面積を陣取っていた温水プールは、サウナや温泉と同じフロアではなく、

健康ランドの1階と通路でつないだ、別館のような建物の中にあった。

サウナから5分ほど歩いた場所に、お目当ての温水プールがある。


「わーい、プールだブール! とミサカはミサカは年甲斐もなくはしゃいでみるー!」

「年甲斐もなくッて・・、てめェはまだガキだろォがよ・・・。」


タターッと先走る打ち止めを後ろからマイペースに追う一方通行。


「あ、そういやァ・・。」


あることに気が付いた一方通行、そのことを打ち止めに話しておこうと思ったが、既に彼女の姿はなかった。

いつものことながら、頭を抱える一方通行。


仕方ねェなァ・・、と呟き、温水プールのある別館のドアを開けようとすると、

なぜか建物の中側から、打ち止めが引き返してきていた。

何故か今にも泣きそうな表情をしている。


「み、水着がないと、温水プール入れないみたい・・、とミサカはミサカは・・、ぇぐっ・・。」

「みっともねェから、泣くンじゃねェッつーの。水着はレンタルできるから、受付行くぞ。」

「本当!? とミサカはミサカは太陽のような笑顔で貴方のことを見上げてみるっ!」

「・・・・、太陽が見上げる。とはクソガキにしちゃァ、なかなか面白ェことを言いやがる。」


ほら、行くぞ、と催促する一方通行。

催促するまでもなく、ドアを開け、中に入るとタターッと受付に猛ダッシュする打ち止め。

彼女が受付に行っても、水着のレンタルどころか、相手にもされないだろうが。


「(単純な奴だな・・・。)」


単純だからこそ、子供は可愛らしいもンだ、by 一方通行


―――――


「わはーい!! 流れる温水プールだーっとミサカはミサカは天真爛漫にはしゃぎまくってみるーッ!」

「こンの、クソガキが・・ッ。」


ここは温水プールの中でも、特に子供に人気のある流れるプール。

学園都市外の市民プールでもよく見かけるような、楕円を描くような形のプールであり、水の流れもある。

水着だけでなく、浮き輪も借りた打ち止めは、バシャバシャーっとバタ足をしながら、流れに乗って泳いでいた。

その水しぶきは全て一方通行に降りかかっていたが。


「おい、あンまりはしゃいで面倒起こすンじゃねェぞ?」

「はーい! ってミサカはミサカは貴方の忠告を、左の耳から右の耳に流してみるっー!」

「聞いてねェじゃねェかァッ!!」



もう一度、教え込もうと打ち止めを捕まえようとする一方通行。

しかし、勢いに乗った打ち止めは、かなりのスピードで前に進んでいくため、

一方通行のヒョロい身体能力ではとても追いつけなかった。

数秒で息切れした一方通行を見て、5メートルほど離れた場所で悠々自適に浮かんでいる打ち止めが叫んだ。


「へへーん! 悔しかったら、追いついてくるんだねッ! ってミサカはミサカは勝利を確信してみるーっ!」

「ンの野郎ッ・・・・。」


再び、背を向け、前進していく打ち止め。

そのとき、ピカーン、と一方通行の頭の豆電球が光った。


「(あンの、クソガキ・・、この俺様をなめるのも大概にしやがれよォ・・。)」


思い切り息を吸うと、ザブンッと潜った一方通行。



一方、作戦を開始した一方通行に気づかず、そのまま何の障害もなく泳いでいく打ち止め。


「およ・・?」


気づけば、後ろから猛然と追いかけてきていた一方通行の姿が見えなくなっていた。

人の群れに紛れ込んでいるのか、目を凝らして探してみたが、あの特徴的な白髪は見当たらない。

自分を置いて、上がってしまったのだろうか、と不安になる打ち止め。


「ねー、どこー? どこに行ったのー? 一方通行ー!とミサカはミサカはちょっぴり寂しく、」

「ぐッひゃァァァァッッッッッ!!! 呼ンだかなァァァッッッ!!?? クソガキィィィッ!!!」

「わひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!???」


打ち止めの真下から、方向感覚を失った魚雷のようなスピードで一方通行が浮上していた。

どうやら、一方通行は、打ち止めとの真っ向勝負を諦め、彼女が流れに身を任せ、

彼が居る位置に、一周して戻ってくるのを、水底で息を潜めて待っていたらしい。

驚いてひっくり返った打ち止めは、浮き輪から身体が抜けてしまい、プールに背中から沈んでいく。



「わ・・わぷッ!! た、たすけ、たすけてぇッ!! ってミサカはミサカは・・ぶくぶくぶく」

「あァ、そういやあのクソガキ、泳げないンだったな・・。」


仕方なく右手を差し出して、水中でもがき苦しんでいた打ち止めの手を取り、引き上げる。

もう一方の手には、打ち止めが離してしまった浮き輪があった。


「なかなか・・。考えたね・・って。・・はぁ・・、はぁ、ミサカは・・、ミサカは・・。」

「てめェが俺を撒こうなンて、100年早ェッてンだよ。」

「てぃッ!!」

「あでェッ!!?」


釣り上げられた深海魚みたいになっていたはずの打ち止めは、一方通行のお家芸である、空中ミサカチョップを彼の額に食らわせると、浮き輪を奪って、再び逃走をはかった。

初めて打ち止めの反抗をまともに受けた一方通行は、額をさすりながら、逃亡者を睨みつける。


「へへーん! 次は水の中にも注意しながら、泳ぐから、もうさっきの手は通じないからねーっ

 ってミサカはミサカは、胸を張って貴方に勝利宣言してみるーっ!」



「ンの・・クソガキィ・・・・・、がァァァァァァァッッッッッッッッッッッッ!!!!!」


カチッ


一方通行が絶叫した瞬間、それは起こった。


「お、およ、およよよよよよよよ!!!!!????」


グォォォォォッという轟音と共に流れるプールが流れている。

流れることは至極当然のことだが、そのスピードが半端ではない速度になっていた。

一方通行のベクトル操作によって激流と化したプールは、大勢のお客を巻き込んで、それはもう大災害。

阿鼻叫喚、地獄絵図、はじき出されたお客たちは死屍累々。

プールの監視員が慌てて走ってくるが、それすらも弾き飛ばす。


「ちょ、ちょっと、能力を使うのは、反則かもぉぉぉぉっ!!!ってミサカはミサカはぁぁぁぁぁぁぁ・・・・」


「ヒャッハァァァァァァァァァァァッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!」


―――――


「そういうわけで、ミサカは目をぐるぐる回しちゃったんだよ・・ってミサカはミサカは自分の無実を証明してみる。」


エヘン、と鼻高々に、ない胸を張る打ち止め。

麦野は耳を傾けていたが、あまりにも、打ち止めが身振り手振りを交え、キャッキャと嬉しそうに話すため、あまり内容が頭に入らなかった。


「ご、ごめん、最後の方よく聞いてなかったんだけど、何でプールがすごいことになっちゃったの?」

「いや、聞かなくていい、とりあえず、このクソガキには後で俺がお灸を吸えておくからよ・・。」

「・・・ほどほどにしてあげてね、かわいそうだから。」


なんでミサカが悪いことになってるのー! と麦野をひっかくようなアクションをする打ち止め。

ああ、ごめんごめん、と軽く謝る麦野。



「おい、目が覚めたンなら、そろそろ帰ンぞ。」

「えー、もっとお姉ちゃんたちと話してたいー、ってミサカはミサカは、」

「ばーか、もう4時間になンだよ。これ以上は無理だ、タイムオーバーなンだよ。」


ううー、とうなだれる打ち止め、やはり、子供は子供なのか、涙ぐむ。


「泣くんじゃないの、この扇子あげるからさ。」

「え、ほんと!? ってミサカはミサカは女神のようなお姉ちゃんを見つめてみる!」


フレンダを扇ぐのに使っていた、和風花柄の扇子。

大したものではないし、麦野にとっては吐いて捨てるような額のものだ。

とりあえず、この少女が後味良く帰れるように、という麦野の気遣いである。


「ありがとうー、ぇーと・・。」

「麦野よ、麦野沈利。」

「ありがとう、沈利お姉ちゃん!、とミサカはミサカは家法のように扇子を天に掲げてみるっ!」



えへへー、と愛らしい笑みを浮かべる打ち止め。

それにつられるように、麦野も思わず笑顔になってしまう。


「近くで見ると、本当に貴方可愛いわねー。」

「笑ってるお姉ちゃんもすっごく可愛いよ! ってミサカはミサカはそのまま言葉をお返ししてみるっ!」

「・・・そ、そう?」


幼女に、可愛いと言われたとはいえ、思わず顔を赤くする麦野。

そんな麦野の背中にもたれかかり、ばいばいー、と手を振る滝壺。


「おィ、さっさと行くぞ。」

「ばいばーい! また会おうねー! ってミサカはミサカは沈利お姉ちゃんたちに別れのご挨拶―っ!」


麦野から譲ってもらった扇子を、ぶんぶんと振り回しながら、120%の笑顔も振りまく幼女。

甲高い幼女の声は、その姿が見えなくなるまで麦野たちの耳に届いていた。



なんだかんだで微笑ましい二人組だったなー、と目を細める麦野。


「あの白い髪の人・・、なんだか不思議な人だった・・。」

「まぁ、変人の部類だとは思うけどねー。」

「ううん、違う、そういうのじゃないの。 楽しそうにはしてたけど、なにか後ろめたいものを持っているように感じたな、私は。」

「・・私にはよく分からないわ、そういう第六感みたいなのは。」


外見も内面もおかしな少年だった。

口を開いては文句を言ってばかりだが、そのくせ、世話のかかる幼女の面倒をみている。

しかし、それは義務的なものからではなく、好きで一緒に居てあげているような、そんな不思議な感覚。

いつか、自分の想い人と彼らのように自然な関係になりたい、そう心の中で麦野は呟いた。


「たぶん、あの人たちには、また何処かで会う気がするな・・。」

「私もそう思うわ、・・・・何でかはわかんないけどね。」




今回の分は、これにて終了です。

さすがに月曜日前の深夜だけあって、盛り上がりに欠けてしまったでしょうか?

ちなみに、健康ランド編は次で完結ですが、このシリーズはもう少し続く予定です。


夜遅くまでお付き合いいただき、ありがとうございました。

では、おやすみなさい。


おばんです。

昨日今日は色々と大変でしたが、そんな中、保守ありがとうございました。

韓国には、学園都市から、麦のんが送られる予定です。

では、今回で健康ランド編は完結となります。


―――――


何とか絹旗とフレンダが現場復帰(?)し、「アイテム」がやってきたのは、健康ランドの2階にある「軽食コーナー」。

数多くのテーブル、端から端までズラリと並ぶ軽食売店、さらに後方には、何のためなのか、洒落たステージがあった。

体調管理のために来ているはずのお客が多いにも関わらず、溢れんばかりの数の人がごった返している。

見渡すと、ほとんどのテーブルが六人掛けだったが、、部活帰りの学生など団体で来ている客も多いため、

遠くから見ても、まるまる空いているテーブルは残っているようには見えなかった。

夕食前の午後5時過ぎだからなのか、いずれにせよ想像を超える状況である。

知っての通り「アイテム」は四人というそこそこの人数で来ているため、四席、空いているテーブルは見当たらない。


「参りましたねー、いつもはこんなに混んでいないんですが・・。」

「困ったね・・、もう食べるもの買っちゃったのに・・。」

「結局、私は軽食コーナーにサバ缶がなかったことが苦痛だわ・・。」

「アンタ、バカじゃない?」

「ば、バカって言ったほうがバカなんだからねーッ! バーカ麦のーん!!」



ギャーギャー騒ぐ麦野とフレンダを尻目に、何とか空いている席を探そうとする絹旗と滝壺。

すると、滝壺が、後方ステージのすぐ前、一番後ろの窓際に、ちょうど四席だけ空いているテーブルを見つけ、指差した。


「絹旗、あそこ。 四つだけ空いてるよ、相席になっちゃうみたいだけど。」

「お、さすが滝壺さん、ナイスサーチです!」


かなりの人混みの中だが、よく見ると、奇跡的に四席空いている。

滝壺の言う通り、どうやら相席のようだが、同じダイエット仲間(予想)として、

何かしらを語り合うのも良いだろうと思い、絹旗は歩を進めた。


「ちょっと。そこで超醜い争いしてる二人も、早くついて来て下さい、空いてる席が見つかりましたから。」

「あら、本当?」

「・・ぎ、ぎぶぎぶ・・麦の・・。」


本日、二度目のヘッドロックを解除すると、王者・麦野は足早に二人の跡を追う。

敗北した挑戦者・フレンダもぜぇぜぇ息を切らしつつ、首を労わりながら、仕方なく歩き始めた。


-----


「がぶがぶ、ごくごく、がじがじ、んくんく・・ぶはーッッッッ! とうまー!! おかわりなんだよ!!!」

「お、おい、インデックス・・、そろそろ良いんじゃないか・・?

 そろそろ周りの視線が、飛んできた千本ナイフのように上条さんの心に突き刺さって行くのが分かるんですが・・。」

「「・・・・・・・・・・。」」


目的のテーブルに着いた途端、絹旗と滝壺は言葉を失っていた。

そのテーブルには、山のように積み上げられたお皿やグラスと、海のように底の深い胃袋を持った、

先ほどの温泉で、因縁のあった銀髪少女(+黒髪ツンツン頭の少年)が、それはもう豪快に料理を食べ漁っていた。


「(なるほど・・ここだけ相席がなく、椅子が空いている理由が超分かりました・・。)」


とりあえず、座りたいものの、この二人組に関わるとどうも不幸なことが起きそうな予感がひしひしとしていたため、

なかなか腰を下ろすことができない絹旗と滝壺。

そんな立ち尽くす二人の後ろから、救援部隊が近づいてきた。



「ちょっとー、何で座らないの二人とも・・・、って何よこのお皿の山・・。」

「どしたのー、みんな・・、うげっ!?」


追いついた麦野とフレンダも、そのテーブルの戦場っぷりに愕然とした。

銀髪少女との戦いに敗れた敗残兵たち(皿)が、バベルの塔のように不安定ながら次々と積み上げられていく。

しかし、依然、留まることを知らない彼女の勢いは、全速力のリニアモーターカーのようである。


「何か物凄い女の子ね・・、まぁ、他に座る席もないんだし、ここで我慢しましょっか。」

「では、麦野。この超山積みのお皿をどけてください、食べ物が置けません。」

「・・・・・。」


「あ、あの、すんません、もしかしなくても、そこ座りますよね? 今すぐこのお皿どけますんで・・。」

「あ、ぁぁ、ありがとうございます、手伝いましょうか・・?」

「いえ、こっちの落ち度なんで・・。」



先ほどもこの銀髪少女に振り回されていた少年が、彼女たちに助け舟を出してくれた。

どういう経緯でこんな目に遭っているのかは分からなかったが、涙を誘うほどの貧乏くじの引きっぷりである。

その少年は、すぐ横に座る暴飲暴食動物を横目で見ながら、大量のお皿を何回かに分けて足元の床に置く。

止むを得ないので、『窒素装甲』の能力を使い、絹旗も手伝った。

そんな中でも食事を続ける少女は、獅子奮迅、孤軍奮闘(?)の有様である。

とりあえず、スペースのできたテーブルに、少し早い夕食を置き、腰を下ろす四人。


「だいたい、貴方、さっきも温泉でフルーツを超バカ食いしてませんでしたっけ?」

「がぶがぶがぶがぶがぶがぶがぶがぶがぶがぶがぶーッッッッッ!!!!!!!」

「・・・・・・・、この人は口を使っている間は耳が使えないんですか?」

「いや、ホントすんません。こいつ、食べるためだけに生きてるサイボーグなんです。」

「・・もがっ! 失礼なことを言うんじゃないよ、とうま! これでも私はシスターなんだよ!」


「シ、シスターさんなんですか!?」

「・・結局、こんな子がシスターなんて、世も末よねー。」

「シスターっていうのは、神様から与えられた食べ物に感謝しつつも、節食を心がけたりしないのかしら。」

「・・神はおっしゃっているんだよ。いつ死んでもいいように、食べれるときは、いつでも全力投球で食べるべきだと。」

「そんな神は食べ過ぎで死んじまえ。」


ペッと唾を吐くように、悪態をつく麦野。

神への冒涜なんだよ!と忠告するシスターに対して、アンタの存在自体が神を冒涜してるわ、と反論する麦野。

恐らく、この二人を絡ませるのは、最も厄介な組み合わせだろう。

変ちくりんなものを見るような目で見られていたシスターは、なぜか既に「アイテム」に溶け込んでいた。

麦野は、見るに耐えないシスターから視線を逸らし、すぐ横に座っていた絹旗に目を向ける。

どうやら彼女は、カレーライスを食べているらしい。

んー、超美味しいです。と独り言を呟きながら、空腹を満たしていた。



「あんたそれ、甘口? やっぱり子供ね、絹旗。」

「んぐッ・・、カレーの好みでそういう判断をされるのは超心外ですね。

 確かに、私は中辛以上のカレーライスを食べることはできません。

 しかし、貴方だって超辛いバニラアイスよりも超甘いバニラアイスの方が食べたいでしょう、そういうことです。」

「それとこれとは話が別問題すぎると思うんだけど。」

「結局、麦野が作ってくれるアイスなら、どんな味だったとしても私は喜んで食べるけどね!」

「あとで青酸カリ入れたアイスをアンタに作ってあげるから、遠慮なく食べなさい。」

「麦野が作ったものなら何でも・・、と言いたいところだけど、

 舐めた瞬間に青酸カリだって分かるから、結局、麦野には私を殺せないよー。」

「舐めた瞬間に死んでると思うんだけど、それ。」


「・・・人が食事しているときに、死ぬだの青酸カリだの、物騒な話をしないでもらえますか、超不快です。」

「はいはい、お子様ランチの旗がカレーに刺さってなかったからって、腹立てないのー、チビ旗ちゃん。」

「がぁぁぁーッ!!! いい加減に人を子供扱いするのはやめてくださいッ!! 超不愉快です!」

「自覚しないと、胸が大きくならないわよ。」

「・・ぐッ!?」

「絹旗だけに、旗・・、ふふッ。」

「結局、滝壺さんの観点って面白いよねー。」


いつもの調子を取り戻したのか、やんややんやと騒ぎ始めた「アイテム」。

それを見て、何かこの人たちのやかましさもインデックスとあんまり変わんねぇなぁ、と一人呟くツンツン少年だった。

その横では、我、関セズ、という風に、黙々とフライドポテトを食べ始める滝壺。

もきゅもきゅ、と食べるその姿は、愛らしいハムスターのようである。



「そういえば、滝壺さん。さっき温泉で拝借したリンゴは食べないんですか?」

「うん、あれはとっておくの。」

「早く食べないと腐っちゃいますよ、もう超ふやけてると思いますけど・・。」


どこに隠しているのかは分からなかったが、彼女はもらった(盗んだ)リンゴをまだ食べずに持っているようだった。

まぁ、滝壺さんの頭の中はブラックボックスですからね、と思う絹旗は、甘口カレーライスにスプーンを差し入れた。

それまでの会話を聞きつけ、口を開いたのは、暴走特急貨物列車(食材運搬限定)の銀髪シスター。


「ああーッッッッッ!! っていうか貴方たちはさっきの温泉に居た二人組なんだよー!!」

「今更気づいたんですか、超トロくさいですね。」

「・・・もきゅもきゅ。」

「頼むから大声出さないでくれ、インデックス、周りの皆様の視線が痛い・・。」

「あと、物を食べながら喋らないでくれるかしら、ミニトマトが丸ごと飛んできたんだけど。」



縮こまりながらうなだれる少年と、自分のバニラアイスの中に飛び込んできたミニトマトをシスターに投げ返す麦野。

っていうかミニトマトくらい、ちゃんと噛んで食べるべきではないのだろうか。

あれだけ言われても食べることを止めなかった銀髪シスターが食べるのを止め、滝壺をキッと睨む。


「さっきのリンゴ、まだ持ってるようなら返してほしいんだよ!」

「(このシスター、超しつけぇ・・。)」

「・・・もきゅもきゅ。」


聞いてるの!? と大声をあげたシスターを意に介さず、だんまりを決め込んでポテトを食べ続ける滝壺。

一方の絹旗はゲンナリしたまま、食が止まってしまっていた。

いくら女の子とはいえ、目の前でバクバク飲み食いを続けるわ、物を口に含みながら大声あげて喋るわの、

お下品なシスターを視界に入れながら食事をとるのは到底無理な話である。

何が言いたいかというと、全くそれを鼻にかけず、ポテト食べてる滝壺すげぇ。



そのとき、キィーン、という耳をつんざくスピーカー音が響き渡った。

軽食コーナーに居た沢山の客が、その音のした方向、後方のステージに一斉に目を向ける。



『本日も健康ランドをご利用いただき、誠にありがとうございますッ!

 では、皆さん、お待ちかねッ!! 今から、月一恒例ッ! 健康ランド・食べ放題選手権を開始しまーす!』



会場内に響き渡った司会女性の声。


「た、食べ放題!!??」


期待通りの分かりやすい反応をしてくれた銀髪シスター。

保護者的立場の黒髪少年の頬に、冷や汗のようなものが垂れる。

今すぐにでもステージの前に駆け上がり食べ物をねだろうか、という勢いの銀髪シスターを止める少年。

これは止めなければ大惨事になる気がする、そんな本能的行動だった。



「おい、まだ食べる気なのか・・?

 お腹いっぱいでもう動けないー、ってなっても上条さんは置いていくからな?」

「えー、とうまも参加すれば問題ないと思うよ?」

「解答になってねぇ・・・、まぁ、確かに俺だって思う存分、腹を膨らませたいとは思ってるけどさ、

 参加費とか、負けたときの食べた分の支払いとかもあるだろうし、無理だって。」


『ちなみに、この食べ放題選手権は、参加費、食事代ともども完全無料となっております!

 皆さんに遠慮なく参加してもらおう、という健康ランド側の配慮となっておりまーす!!』


二人の会話を聞いていたかのように、司会者と思われる女性は付け足して言った。

「おぉ!」だの「俺も行く!」だの、周りの客たちが腰を上げたのが分かる。


「ほらほらッ!! これは、とうまも参加するべきだって言う神のお導きなんだよッ!!」

「勘弁してくれよ・・大体、お前と争ったところで、上条さんが勝てるわけないじゃないですか・・。」



『参加をご希望される方は、ステージ前の受付へお願いします。

 ちなみに、今回は二人組での参加となりますので、仲の良い方を連れ、奮ってご参加ください!』


「よォォォォしッ!! 今すぐ参加の申し込みに行くぞ!!! インデックス!!」

「やったぁぁぁぁっ!! さすが、とうま!! そんなすぐに掌を返すとうまが大好きなんだよー!!」


俺たちが受付一番乗りだァァァァァッ!!!!!、大量の皿を放置したまま、少年は走り去っていった。

これでもっといっぱい食べられるんだよー! と嬉しい悲鳴をあげる銀髪シスターを連れて。


「やっぱりあの男の子も、超変人の部類かもしれませんね。」

「許してあげなさいよ・・、あのシスターといつも居るんだったら、感覚がおかしくなっちゃうのも仕方ないわ。」


主に味覚辺りがね、と呟く麦野。

だいたい、健康ランドなのに、何で食べ放題なんかするんでしょうね、と理解に苦しんでいる絹旗。

そこで、今まで一心不乱にサバの味噌煮に手をつけていたフレンダが口を挟んだ。


「結局、何か楽しそうだから、私たちも参加しない?」

「ば、馬鹿なこと言わないでくださいよッ! さっきのシスターの超暴食っぷりを見たでしょう?」

「大丈夫だって! あれだけ食べてたんだから、もう胃袋に入るわけないってー!」

「っていうか、二人組での参加でしょ? アンタは行くとして、あと一人は誰が行くのよ。」

「んー、そうだねぇ。」

「私は嫌だからね、そもそもダイエットのためにここに来た、っていう名目なんだから。」


他の三人の顔を見渡すフレンダ。

麦野。

確かに、彼女のダイエットのために、健康ランドに来たので、そんな食べ放題などに彼女を誘うのは酷だろう。

無理やり誘おうとすると、三度目のヘッドロックが待っている可能性がある。

滝壺。

滝壺はここに来てからフライドポテトしか食べていないため、この中では最も胃袋に余裕があるかもしれない。

しかし、彼女は元々少食の部類に含まれるので、さっきまで目の前に居た優勝候補を相手取るには、少々力不足か。

と、なると。



「ど、どうして私の顔を超ガン見するんです・・?」


絹旗。

小柄な身体をしているため、それ相応の胃袋かもしれないが、このメンバーの中では最有力候補と判断できる。


「結局、消去法で行くと絹旗しかいないんだもん。」

「無理ですよ! 私みたいな身体の超小さい人が、食べ放題選手権なんか超無理ですって!」

「頼むよー、絹旗ー。」

「良いじゃないのよ。確かアンタ、昼間、ファミレスに居たとき、

『私は超大丈夫ですよ、太らない体質ですから。それにまだ私は超成長期なんです、』

 とか言ってじゃない、成長期なんだからたくさん食べないとダメよー。」

「ぐ・・ッ、いえ、それとこれとは話が別で・・。」

「・・・私も子供の頃、たくさん食べたから、胸が大きくなったのよね~。」

「ぁぐぅっ!?」



麦野は散々自分の体型のことを言われた仕返しに、絹旗を意地でも食べ放題に参加させようという魂胆らしい。

自ら墓穴を掘り、痛いところを突かれまくって、身悶える絹旗。

滝壺は滝壺で、ガンパ、絹旗。と完全に他人事の様子。


「ちょ、ちょっと待ってください!!

大体、こんな超大勢の人が見ている前で、そんな超下品に食べまくるなんてこと、私にはできませんよッ!」


絹旗が必死の抵抗として、真っ当な反論をした、その直後。

再び、キィーン、というスピーカー音。



『たくさん食べられるけど、こんな人前でなんか食べれな~い♪ なんて女性の方も心配いりません!

 今回のこの食べ放題は完全匿名制となっております。

 しかも、この健康ランド内でも販売されている、この口だけを覆わないタイプのお面をつけての参加になりますので、

 偶然、会場内にお知り合いがいらしたとしても、ノープロブレム!

 ちなみに、この愛らしい緑色のカエルのお面は、

 健康ランドのスポンサーである玩具店の提供で、参加賞として参加者全員にプレゼントしております。

 ・・おっと、受付時間はあと5分を切りました、お急ぎください!』


「・・・・・・・・。」


ダラダラ、と汗だくの絹旗。

髪の毛先から、2階に来るために着替えたはずのピンクセーターまで汗でぐっしょりだった。



「で、絹旗。まだ言いたいことはある?」

「大丈夫だよ、絹旗。そんな窮地に追い詰められた絹旗を、私は応援してる。」

「結局、さっさと受付済ませないと、時間になっちゃうよー。」

「・・・・・もう、超どうにでもなれば良い、です。」


ルンルン気分のフレンダは、目に光のなくなった絹旗を連れ、受付を済ませに走った。

楽しいことになりそうだ。







―――――


『さて、今回の参加者は、全部で10組となりました。

 子供の方から大人の方まで積極的にご参加くださり、ありがとうございます!

 では、簡単な参加者の紹介から始めさせていただきます・・・、』


ステージの上には、司会者が言ったとおり、十組二十人の参加者が長テーブルを前にして、座っていた。

大柄な筋肉質の男から、少食そうなお嬢様風の女性、若い男女のカップルまで、色とりどりである。

もちろん、優勝の大本命である、黒髪ツンツン頭の少年・銀髪大喰らいシスターコンビに、

「アイテム」が満を持して送り込んだ精鋭、絹旗・フレンダコンビもステージ上に居る。



『さて、お次はエントリーナンバー8番、中学生の女の子二人組ですねー。

 おっと、この制服は、第七学区でも有名なお嬢様学校、常盤台中学の生徒さんでしょうかー!?』


「・・・、何でわたくしが、こんな不躾極まりない大会に参加することになってるんですの、お姉様?」

「し、仕方ないじゃない! このゲコ太のお面欲しかったけど、二人組じゃないと参加できないんだから!!」


そう言うと、自分の顔に付けられている、正直、お世辞にも可愛いかどうか微妙であるお面に触れる少女。

ご存知、常盤台中学のエース、学園都市第三位の超能力者であり、『超電磁砲』の異名を持つ少女、御坂美琴。

そして、彼女の親友であり、レベル4の『瞬間移動』の能力を持つ、同じく常盤台中学のツインテール少女、白井黒子。

見た目的には、絹旗・フレンダと良い勝負である二人組が、場違いながら、そこに居た。


「だったら、わたくしじゃなくとも、初春か佐天さんを誘えばよろしかったんじゃなくて? お姉様。」


白井がお面を通して見つめる先には、がんばってくださーい、お二人ともー!と手を振る初春飾利。

その横には、同じく楽しそうにニコニコしながら二人を見ている佐天涙子も座っていた。

どうやら、この四人も、学校帰りに一緒になって健康ランドに来ていたらしい。



「いや・・だって、私の願望そのままにあの二人を巻き込むわけにはいかなかったのよ・・。」

「まぁ、お姉様と一緒にこのステージに上がれた喜びもありますし、今回は貸し1、ということで協力してさしあげますわ。」

ありがとね、あとで何か奢るから、と両手を合わせる美琴。

しかし、司会者の参加者説明が、佳境に入ったときだった。


『さて、エントリーナンバー9番、高校生くらいの男の子、と・・これはシスターさんでしょうか?

 外国の方も参加してくれるとは、なんとグローバルな食べ放題選手権でしょう!』


「(・・・、な、な、なんで、アイツがこんなところにッッッッッッッッ!!!???)」


美琴が見つめる先、というか、たった2メートルほど横に、上条当麻とたまに彼の周りで見かけるシスター。

上条はともかく、インデックスの方は特徴的な風貌をしているので、お面をしていてもそれが彼らだとすぐに分かった。



「・・くッ、またアイツは女の子と一緒に居て・・。」

「どうしましたの、お姉様・・、ってあれはいつぞやの類人猿ッ・・!?」


美琴の目を奪っていたのが、いつもの少年であることを知り、歯軋りする黒子。

とりあえず、今、彼に自分たちの存在が気づかれると色々と厄介なので、美琴は平静を保とうとする。

それに、こんな大食い大会に参加しているなんてことがバレると、彼の自分に対する評価が下がってしまうかもしれない。


「・・お姉さま、今思いついたのですが、そのお面が欲しいだけなら、

 少し食べたくらいでギブアップすればよろしいんじゃないですの?」

「あ、そういえば・・、そうね。」


ポン、と手を叩く美琴。

しかし、その逃げ道さえも、塞がれてしまうのだが。



『さて、最終組・エントリーナンバー10番!

おっと、こちらも外国の方でしょうか、綺麗な金髪の女の子に、

この中では最年少に見えますねー、茶髪ショートの似合う可愛らしい女の子のお二人ですー!』


簡潔な参加者紹介が終わり、ワーッ! と盛り上がる場内。

いつの間にか、そこに居た客全員が食べ放題選手権に釘付けとなっていたらしい。


「がんばれ、絹旗、フレンダ。」

「そういえば、これって優勝したら何もらえるのかしらね?」

「さぁ・・?」


これから死闘を繰り広げてくれるであろう仲間を見つめる麦野と滝壺。

食べ放題に参加しなくて済んだため、ここぞとばかりに、麦野は身体に悪そうなものを大量に食べていた。



『では、始める前に、皆さん気になるでしょう! 優勝商品のご案内です!!』


ウォーッ!と一層盛り上がる場内。

大歓声を耳にし、タイミングを見計らう司会者。

やがて、再びスピーカーを口元に当て、口を開いた。



『なんと、優勝賞金<100万円>となっております!!!』



ウガアアアァァァッ!!!!ボルテージが最高潮になる場内。


麦野は、別に自分たちがもらえるわけでもないのに、なぜ盛り上がっているのだろう、と気になって仕方なかった。

一方で、滝壺は、もはやデフォルト化しているように、フライドポテトをもきゅもきゅ食べている。



「すごい! もし優勝しちゃったら100万円ですって! 佐天さん!!」

「・・常盤台中学のお嬢様的には、大した金額じゃないんじゃない?」

「どちらにしても、私たち、何か奢ってもらえそうですねー!」

「100万円って・・、どのくらい税金引かれるんだろうなぁ・・・。」


参加者でもないのに、心を躍らせる初春。

文字通り、頭にお花が咲いてしまっている彼女。

一方で、現実感のあることばかり呟いている佐天。

いずれにせよ、大切な友人が頑張ろうとしているのだ、応援するのはやぶさかでないだろう。



『さらに、健康ランドを、3ヶ月間、無料で毎日4時間満喫できるフリーパス二名様分を贈呈します!!』


ウワァァァァッ!!!!と 四度目の大歓声。

司会者のコメントを聞いて、ピクッと反応する麦野。



「・・・・、私も参加すれば良かったかしらね。ね、滝壺。」

「もきゅもきゅ。」

「・・滝壺?」

「もきゅもきゅ。」


依然、盛り上がり続ける場内、司会者が再び、スピーカーを手に取る。


『あと、これはオマケなのですが、参加者がしているカエルのお面を提供してくださった玩具店から、

 同じカエルくんのデザインのスプーンとフォークセットです!』


オォォォッと若干、盛り上がりが縮小してしまう場内。

そんなカエルの柄が取り繕われたものなど、使うのは小さな子供くらいだろう。

場合によっては、そんな子たちでさえ、見向きもしないかもしれない。

しかし、そんな中でただ一人、目を輝かせる少女が居た。



「(ゲ・・、ゲコ太のスプーンとフォークセット・・!?

 食事のたびに、愛しのゲコ太と会えるッ・・!!)」

「・・・・・・お、お姉さま?」

「(ゲコ太を、スプーンとフォークにする・・、この発想はなかったわ・・。)」


手をワナワナさせている美琴を見て、嫌な表情を浮かべる黒子。


「あ、あの・・、さっき言ったとおり、何杯か食べたら、ここを・・。」

「な、何を言ってるの、黒子。これは勝負の世界よ・・ッ! 敵に背を向けるわけにはいかないわッ!」

「・・そ、そうですわ! 食べるふりをして、食べ物を私の『瞬間移動』で場内のゴミ箱にでも・・」

「黒子、真面目にやって。 ・・これは真剣勝負なの、それにアイツらに負けても良いの!?」


と、上条とシスターを指差し、メラメラと闘争心を燃やす美琴。

依然、彼らは美琴たちに気づいていないのか、キャッキャと談笑している。



「これは絶対に負けられない戦いなのよ・・、正々堂々、勝ち抜くのッ! 良いわね、黒子!」

「いえ・・、別にわたくしは負けても構いませんの・・。」


恐らく、この少女は、優勝賞金の100万円も健康ランドの3ヶ月フリーパスさえも頭の中に入っていない。

何よりも、あのオマケ程度でぞんざいな扱いをされている、カエルのスプーンフォークセットが欲しいだけなのだろう。


『では、ルールを説明します。

 今回、皆さんに食べていただくのは、この健康ランド、軽食コーナーの人気トップ10のメニューで、

 10位から1位まで、順番に一品ずつ出てきますが、何が出てくるかは、そのときのお楽しみということで!

 ちなみに、二人組とはいえ、二人で一つの食品を食べていただくことになりますが、

 一人が一気に食べ始め、選手交代しながら食べるも良し、二人で協力して、えげつなく一品を食い散らかすも良し!

 戦闘方法を各自が話し合ってから食べると、大変効率良く進めるかもしれません!』


「二人で一つの食品を・・ですの・・?」

「・・どうしたの? 黒子。」



「(・・お姉さまと二人で一つの食べ物を食べる、それすなわち、ほぼ間接キスを続けながら食べるということッ!」


ローテンションだったツインテール少女のモチベーションも上がったところで、

ステージの横から、店員らしき女性たちが、最初の料理を持って、それぞれの10組の前にたっていた。

その料理は、中華料理屋などでよく見るドーム状の銀の蓋がしてあって、中身が何だか分からなくなっている。


『ちなみに、制限時間は1時間となっていますが、早く食べたコンビが優勝、というわけではありません。

 とにかく、多く食べたコンビの勝ちとなっております。

 つまり、最後まで食べ続けることのできた二人が優勝の栄冠に輝くのです!!』


グオオオオオッ!!!!、と爆発寸前になっている会場のテンション。

ついに、地獄のサバイバル・チャンピオンシップが幕を開けようとしていた。


『準備はよろしいですね!? ・・・では、健康ランド・食べ放題選手権、開始です!!』


カァーン!! と何処からかゴングが鳴り響き、後世に語り継がれる伝説の幕が、今開けた。



開始から30分程度が経過、食べるのが早いチームだと、残り2品、すなわち、軽食コーナー人気メニュートップ2が残った状態になっていた。

既に半分の5組が脱落しており、残りは、絹旗・フレンダ、上条・インデックス、美琴・黒子たちを含んだ、5組だけとなっている。

会場中の視線が彼らに注がれ、いつの間にか蒸し暑く、熱気がこもり始めていた。


『おーッと、銀髪の外国人女の子チーム、ラスト2品に突入しました!

ここで登場するのは、健康ランド・人気メニューナンバー2、

 学園都市一と名高い麺職人が作っている、健康ランド名物、「ダイナミック健康トンコツラーメン」です!』


一般人では、とても食べ切ることのできないような大皿のラーメンがインデックスの前に置かれた。

しかし、彼女は箸を持つやいなや、間髪入れず、お皿に顔を浸すように口を近づけ、麺にすすりつく。

知っている人は真っ先に彼女たちを優勝候補にあげるであろう、上条・インデックスチームは、

エース・インデックスに一人で先陣を切らせ、未だ彼女一人が食べ続けている状態であった。

これまで八品のメニューを平らげているにも関わらず、彼女は依然、満腹そうな素振りを全く見せていない。

上条は、そんなブラックホールのような胃袋を持つ彼女の背を見つめながら、笑いを堪えられずに居た。



「まだだ・・まだ、笑うな・・・、いける、いけるぞッ、インデックス。

 お前の大食っぷりには、この上条さん、幾度となく泣かされてきた・・、

 だが! その無念が今ここでようやく報われようとしているッ!!

 インデックスの大喰らいっぷりが、今初めて、俺の役に立とうとしているんだッ・・。」

「がぶがぶがぶがぶがむしゃむしゃむしゃむしゃー!!!!!」


インデックスの勢いは止まることはない、何者も止めることはできない。

彼女の胃袋の中は、何らかの空腹の術式が施されているのではないだろうか、と魔術師は疑ってしまうだろう。

それくらいの暴食っぷりであり、会場の大半がインデックスの食べっぷりに魅了されていた。


一方で、こちらも健闘を続けている、御坂・白井チーム。

この二人は、協力しながら(黒子の思惑通り)、食べ続ける姿勢を取っていた。

しかし、そろそろ限界寸前となっている二人、箸を動かすスピードも序盤に比べ、

明らかに落ちていた上、彼女たちは、未だ6品目で止まっている。

上条・インデックスチームに比べると、明らかに見劣りしていると言いざるを得ない状況だった。



「(く・・うぷっ・・、ゲコ太・・、待ってなさい・・貴方は・・、私が必ずッ・・。)」

「(あはぁん・・、苦しそうにしているお姉さまも・・ス・テ・キ・ですわ♪)」

「(制限時間はあれども・・、とにかく食べ終えることが、最終目的なのよ・・っ、うっ・・。)」

「(とりあえず、滅多に見られない、食べすぎて今にも吐きそうにしているお姉さまを、テイク・ア・ピクチャーですのッ!」


必死に、目の前にある、6番目に出されたビッグな焼きそばと戦っている美琴を、携帯でパシャパシャ撮る黒子。

回り込んで真正面から、ガッと近づいて口元ギリギリを、そして、関係ないはずのスカートの中までも撮影。

食べることを忘れ、幾度となくフラッシュを焚き、美琴の周囲をウロチョロする黒子。


ステージ上で、悪戦苦闘している美琴と黒子を見て、何か思い当たることがあるのか、考え事を始める少女。

美琴と同じ、学園都市の超能力者(レベル5)の7人の1人、麦野沈利である。


「ねぇ、滝壺。どうもさっきから気になるんだけど、8番の、あの常盤台中学の二人、どっかで見たことない?」

「もきゅもきゅ。」


・・気づかれることはなかったようだ。



そして、そのとき。


・・プチンッ


協力もせずに、自分を携帯のカメラで撮影し続ける黒子。

ただでさえ、苛々していた美琴の堪忍袋の尾が切れた瞬間だった。


「ぬああぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッ!! うざッたいわァァァァァァッッッッッッッッッ!!!!!!!!」


ガッシャァァン!というすさまじい音と共に、食べていた焼きそばと長テーブルをひっくり返す美琴。

ポーン、と放られた焼きそばが、放物線を描き、着地する。

ステージのすぐ前に座っていた、麦野の頭の上に。


「・・・な、何よこれェェェェッッッッッッッッ!!!???」



「む、麦野?」


空から降ってきた焼きそばを浴び、悲鳴をあげる麦野。

麦野の美しい茶髪ロングに焼きそばが加わり、ギリシア神話の魔女・ゴルゴンみたいなことになっていた。

一方、その原因である美琴は、公共の場でもあるため、能力は使わないまでも、

ステージ上で黒子を相手どり、全力で暴れまわっており、てんやわんやの大騒ぎである。



『あーッと、常盤台中学の女の子コンビ、食品を投げ出してしまいました!!

 これはいけません、即座に失格となります!!』



「・・はぁはぁ、はぁ、・・はぁ・・・・、え、あれ?」

「お、お姉さま・・く、苦しいですの・・、その手をお離しになってください・・ですの。」


ガックリ、黒子の首がうなだれ落ちたとともに、彼女達の短い戦いが幕を閉じた。



美琴・黒子コンビ脱落してから15分、つまり、食べ放題選手権開始から、約45分が経過。

こちらもまた、小柄な身体ながら健闘を続ける、絹旗・フレンダチーム。

ちなみに、上条・インデックスチームと同様に、交代しながらの戦いを繰り広げていた。

しかし、この二人はインデックスのような反則的胃袋の持ち主ではないので、

1時間の制限時間をフルに使い、ゆっくり食べつつ、交代しては、片方はゆっくり小休止する、という戦法を取っていた。

フレンダが、特大のトンコツラーメンを汁まで、吸い尽くし、バチンッ!と箸をテーブルに叩きつけた。


「・・うぷっ・・、結局、今これ・・・、何皿目、だっけ?」

「恐らく、これで9皿目でしょうか。 あと10分でラスト1品、順調すぎて怖いくらいですね。」

「あの・・、次、絹旗。お願い、結局、私・・、もう、この、トンコツラーメンが効きすぎて・・・。」

「ええ、任せてください。私も超辛いですが、ここまで来ましたし、超ラストスパートをかけましょう。」



『おーッと、ここでエントリーナンバー10、最年少の女の子二人組、最後の10皿目に入りました!

 見た目に反して、かなり強靭な胃袋を持っていたようですね。

 既に完食して、残りのチームが脱落するのを待つばかりの、少年と銀髪少女のコンビに次ぐ形となります!

 最後の一品は、本場・インドからやってきた料理長が秘伝のスパイスをふんだんに使った、

 健康ランドで最も人気のある、最強の「超激辛カレーライス」です!

 死ぬほど辛いこのカレーを食べて、汗をたっぷりかいていただきましょうッ!』


そのコメントを聞いた絹旗が、口を半開きにさせたまま、唖然としていた。

やがて、彼女の目の前に「超激辛健康カレーライス」がその姿を見せる。

カレーというのは、本来、茶色・こげ茶色をしているのが一般的だが、

これは一味も二味も違うようで、カレーとしては有り得ない、血のような赤い色をしていた。

お皿の隅に添えられていた福神漬けよりも真っ赤である。

それを目に入れながら、手を膝に置いたまま、微動だにしない絹旗、どうも様子がおかしい。



一方、二人がそんな苦境に立たされているとは知らず、ここぞとはがりに頼んだ軽食の山を堪能しながら、見守る麦野と滝壺。

先ほど、麦野の頭にかかった焼きそばは、『原子崩し』により、消し炭になっていた。

制限することが難しかったので、少し周囲にご迷惑をおかけしてしまったが。

未だに彼女の頭からは微妙に焼きそばの匂いがしていたが、止むを得ない。

あの二人の攻防から目を離すわけにはいかなかったのだ。


「・・絹旗、確か『確かに、私は中辛以上のカレーライスを食べることはできません。』とか言ってたなかったっけ。」

「大丈夫かな・・絹旗とフレンダ。」

「っていうか、もう『軽食』っていう枠に捉われてないものばかり出てきてるわね・・。」


果たして、あの二人は、「超激辛健康カレーライス」を食べ切り、

王者・インデックスチームへの挑戦権をもぎり取ることができるのか。



「じ、冗談、勘弁してほしいよ・・絹旗。 結局・・、もう、私・・無理・・うぇげッ。」

「で、でも超無理ですよ・・、こんな・・、っていうか、この色見てくださいよ、この色。」

「・・す、すごい真っ赤っかだね。」

「普通の中辛カレーでも超涙目になってしまうこの私がこんなの食べたら・・、舌が取れちゃいますよ。」

「で、でも、結局、私の胃袋の入り口をトンコツラーメンが塞いじゃってる状態なんだけど・・。」

「・・・、私が行くしか・・ない、ということですかッ・・・。」


フレンダは、両手で妊婦のように膨れたお腹を擦っている。

スプーンを震える手で握る絹旗、それは敵を切り下ろすための剣のようだった。

今日一日、彼女は何度も汗を流してきたが、これほどまでの量の冷や汗をかいたこともない。

無論、場内の熱気によるものではない。

ちなみに、緊張で沸騰した彼女の頭の中に、ギブアップという単語はなかったらしい。



「・・・・・私は、私はっ・・。」


ブラックコーヒーが飲めるようになれば、大人の証だとよく聞く。

それは辛口のカレーライスにも置き換えられるのではないだろうか。

今日だけでも、何回、麦野やフレンダに子供扱いされて憤慨したことか。

そう、これは子供の殻を破ることのできないでいた自分に対し、神が与えた試練、大人になるための宿題だ。

お尻に卵の殻を付けたままの子供であれば、誰でも通らなければならない道、課題。

それがたまたま、自分に対して、「超激辛カレー」という姿になって、立ちはだかっただけ。

荒ぶる心臓の鼓動が、命の危険を知らせていた。

しかし、この壁を乗り越えなければ、自分は大人になることはできない。

恐らく、子供のままの自分を、きっと、彼は一人の女性としては見てくれないだろう。


「(・・・・・私は、大人の階段を、超特急で上ってみせますッ!!!!!)」


その日、絹旗は、大人の階段を三段飛ばしで上ることに成功したのだった。



カーンカーンカーンカァァァァーン


『ここで、タイムアップ! これは面白いことになってきましたッ!

 残ったチームは二組! エントリーナンバー9番!!

 私たちとは同じ人間とは思えない銀髪の少女と、平凡な高校生の少年のコンビ!!

 なんと、恐ろしいことに10品すべてをこの少女一人で食べ切ってしまうという暴挙! いえ、快挙!!

 次は優勝決定戦のタイブレークに突入となりますが、100万円をゲットしたも同然か!!』


スポットライトが当たったところには、口元を食べかすだらけにしながらも、ドンと胸を張るシスター・インデックス。

どう見ても、10品すべてを食べきったような姿には見えなかった、しかし、彼女は不可能を可能にした。

その横に、一口も食べず、未だ箸すらも持っていない上条当麻。

その顔には、勝利を確信したのだろうか、うっすらと笑みが浮かび始めていた。

そして、司会者の女性が、場内の歓声を気持ちよく浴びているインデックスに、マイクを向けた。


「まだッ!  私はッ!!  食べ足りないんだよぉぉぉぉぉッッッッッッッッ!!!!!」


ウオオオオオオオオオオオオッ!!!と唸り声をあげる会場の男共。


『さて、この絶対的王者に挑戦状を叩き付けたのは、エントリーナンバー10番!!

 最もオッズが低かったのではないでしょうか、可愛らしい少女二人のチームです!!』


スポットライトが当たったところには、食べ物を消化し終わったのか、右拳を高々と挙げるフレンダ。

と、長テーブルに上半身を突っ伏したまま、全く動く気配のない絹旗。

ちなみに、観客側から見ると、ステージ上の絹旗のアレが丸見えになっているのは、ちょっとした秘密である。

鼻息を荒くするフレンダに、インデックスのときと同様に、司会者の女性がマイクを向けた。


「結局、偉い人は言った・・、勝ち目のない戦いだからこそ、祝勝の酒は何よりも美味いものだとッッッッッッ!!!!!」


ウガアアアアアアアアアアアアアアッ!!!と再び唸り声をあげる会場の野郎共。

彼女たちの闘志溢れる言葉と姿勢が、彼らの心の琴線に触れたのだろうか。

その盛り上がりっぷりに呼応するように、未だ天に向かって、拳を突き上げたままのフレンダ。



フレンダは、司会者のマイクを、強引に奪い取ると、場内のある箇所に目を向け、口を開く。


「麦のぉッッッッッん!! 惚れたぁッッッッ!!??」


それを見た麦野と滝壺。


「もきゅもきゅ(あいつ、1週間飯抜き。)」

「もきゅもきゅ(フレンダ、かっこいい。)」



やはり、10品程度では、決着がつくことがなかった食べ放題選手権。

決着をつけるため、彼らの死闘は、次なるステージへ向かう。




流れを切ってしまって申し訳ないんですが、

今日は外せない用事があるので、ここまでとさせてください。

今回で健康ランド編を終わらせるつもりだったのですが、さすがに無理がありました。

このまま行くと、次回投下する頃には1000近くになっていると思うので、

明日は、スレタイは同じまま、新スレを立てたいと思います。

また、このスレを始めから読む方がまだいらっしゃるようでしたら、

恐縮ながら、他の方に保守をお願いできれば幸いです。

「アイテム」について、愛を語らってもらっても構いません。

では、おやすみなさい。

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