ライナー「チラシ・ズシ?」(280)

※進撃の巨人で、ベン・トーのパロディです。
※原作最新話までのネタバレがあるかもしれません。
※ユミル「チキン・ナンバン?」の続きです。

ベルトル「僕等の目的を忘れたわけじゃないよね?」

ライナー「ああ、勿論だ。餓狼として頂点を目指す!」

ベルトル「またブレてる……」

ライナー「なんか言ったか?」

ベルトル「独り言だよ」

ライナー「そうか?」

夜 食堂

サシャ 「一番手、行かせて頂きます」

ジャン 「サシャか。いきなり本命だな」

サシャ 「まず、ご飯をの上にほぐした鶏ササミの燻製を乗せます」

ミーナ 「もう、それだけで美味しそうだよね」ダラァ

アルミン「うん、涎を拭こうね」

サシャ 「鶏ササミの燻製は、お酒を売ってる店なら、おつまみとして大体おいてあります。
     お好みですけど、柚子コショウ味の奴が私は好きです」

クリスタ「そのまま食べたいね」ジュル

ユミル 「今度、買ってやるから、みっともない顔すんな」

サシャ 「そうしたら長ネギを刻んだのと、白ゴマをちょっと入れて、
     その上から熱々の鶏がらスープを注いで」トポポポ

最初から名前が既にベルトルである

サシャ 「出来上がりです。キース教官どうぞ」

キース 「うむ」

サシャ 「私も頂きます」

ズズズ

サシャ 「アツツ……鶏がらスープが良い匂いですね」

モグモグ

サシャ 「スープの脂とササミ肉が合わさって、極上の味ですね!
     燻製になってますから、さっぱりした食感なのに奥深い旨味が口の中で溶け出します!」

コニー 「凄い美味そうだな」ゴクリ

ハフハフ

サシャ 「染み出した柚子胡椒がスープに混ざって、また一段と美味しいですよ」ホクホク

モグモグ

サシャ 「ゴマの香りのアクセントと、長ネギのシャキッとした食感が飽きさせませんね!」

ズズズ……

サシャ 「はふぅ……スルスルと胃の中に滑り込んで行っちゃいますね。
     食べやすくてお夜食にピッタリだと思いますよ」

バタン

ベルトル「……?」

マルコ 「やぁ、ベルトルト。水汲み当番お疲れ様」

ベルトル「皆、何してるの?」

マルコ 「第一回ヨルメシ大会を開催してるんだ」

ベルトル「ヨル……なに?」

ライナー「要は、夜食だ。自分の知ってる夜食を披露しようって催しだ」

ベルトル「何で、そんなことを」

マルコ 「フランツが福引で、ユトピア区の温泉旅行券を当てたんだよ」

ライナー「だが、1名分らしくてな。ハンナと一緒に行けないなら、誰かにやると言い出して」

ベルトル「それを皆で取り合ってるんだね。じゃあ、あそこに座ってるキース教官は?」

マルコ 「面白そうだから、審査員をやるって」

ベルトル(何で、こんなに緊張感が無いんだ……)

ミカサ 「二番手、ミカサ・アッカーマンです」

エレン 「がんばれよー」

ミカサ 「一口サイズのオニギリを作って置きます」

ミーナ 「もう、これだけで美味しそうだよね」ジュル

アルミン「うん、涎をね、拭いてね」

ミカサ 「オニギリに豚バラ肉を巻いて、外からご飯が見えなくなるようにします。
     醤油、みりん、酒、砂糖を混ぜてフライパンに入れます。
     オニギリも入れて、タレが染み込むまで火を通します」

コニー 「すげぇ美味そうな匂いだな」

ミカサ 「そして、出来上がったものがコチラです」

ユミル 「やけに準備がいいな」

ミカサ 「出来立ても美味しいけど、冷めて味が染み込んだものも美味しい」パク

モグモグ

ミカサ 「ほら、こんなに美味しい」

キース 「いや、分からんな」

ミカサ 「教官、どうぞ」

キース 「頂こうか」

モグモグ

キース 「ふむ、確かに、味が良く染み込んでいるな」モグモグ

キース 「濃い目のタレに付けられたバラ肉を食い破ると、中には柔らかな米。
     米の甘みと肉が混ざり合い、旨味が口内に噴出する。
     そして気づいたときには、喉を通っていて、つい次のオニギリに手が伸びる」モグモグ

キース 「ほう! ピリリと来る辛味! これは七味か!」

ミカサ 「はい、予め肉の内側に振っておきました」

キース 「大きさも程良く食べやすい。また次に手が伸びてしまう」モグモグ


キース 「こちらは、中にチーズが入っているな」

ミカサ 「チーズは出来たての時に食べると、トロリと溶け出して……すごいです」

キース 「変化があって面白い」

ミカサ 「ありがとうございます。作り置きが出来るので、夜食に相応しいかと」



ライナー「どうしたんだ、難しい顔をして」

ベルトル「まさか、君も参加しているのか?」

ライナー「おいおい、何を言ってるんだベルトルト」

ベルトル「そうだよね、いくらライナーでも」

ライナー「俺は餓狼だ。欲しいものは自分で掴み取る。当然、参加しているさ」

ベルトル(頭が痛くなってきた……)

ライナー「調子が悪いなら、早めに休んだほうが良いぞ?」

ベルトル「ライナー、ちょっとこっちに来てくれ」

ライナー「何だ? 用件なら早めにしてくれよ、俺の番が来ちまうからな」

ベルトル「いいから!」

ライナー「お、おう」



ベルトル「ライナー、君は何だ?」

ライナー「何だ、もしかして、さっきのを気にしてるのか?」

ベルトル「大事なことなんだ、答えてくれ」

ライナー「餓狼って言うのは確かだが、流石にあそこで言えるわけないだろう。
      俺は、戦士だ。必ず故郷に帰る。お前も、そうだろう?」

ベルトル「ライナー……そうだね。ちょっと疲れててたみたいだ、ありがとう」

ライナー「気にするな」

ベルトル「半額弁当争奪戦もそうだけど、お遊びは程ほどにね?
      息抜きが必要だっていうのは分かるけどさ」

ライナー「何を言ってるんだ? 俺たちは兵士だぞ、仲間との結束を固めるのも必要なことだ」

ベルトル(あぁ……もうダメだ)

エレン 「おーい、ライナー。次はお前の番だぞー」

ライナー「お、出番だな。話の続きは後でもいいか?」

ベルトル「ああ、うん。行っていいよ」

ライナー「至高の夜食を振舞ってやるぜ」

(つづく)

今日はここまで。続きは多分明日。

>>3 
名前の収まりが悪いんで、意図的に削っています。スミマセン。

ライナー「5番手、ライナー・ブラウンだ」

ミーナ 「どんな料理で来るのかな。夜食だし、やっぱりご飯系かな」

ライナー「まずは、もやし、キャベツ、人参、長ネギ、にんにく、豚肉を炒める」

エレン 「肉野菜炒めか? 夜食らしくねえな」

ライナー「そこに鶏がらスープだ!」

ミーナ 「まさか、それは!」

ミカサ 「知っているの、ミーナ?」

ライナー「味噌を溶かし込んで、別に茹でておいた麺をどんぶりに入れる!」

ミーナ 「やっぱり、味噌ラーメンだ!」

ミカサ 「それは、美味しいの?」

ミーナ 「この間、アニと食べたけど、すごかった」

ライナー「さあ、食ってください」

キース 「うむ、しかし夜食にラーメンか」

サシャ 「所詮、男の料理ですね。
      こんな時間にラーメンだなんて、体に良くないですよ」

ライナー「何を言ってるんだ? 体に良くないから、美味いんだろうが」

サシャ 「むぅ、一理あるような気もしますね」

キース 「伸びる前に頂くか。まずはスープから」

ズズズ

キース (ニンニクが効いているな! 鼻っ柱に拳骨を食らった気分だ!
     夜食として、こんなにニンニクの効いた味噌ラーメンとは、なんという暴虐!)

パリパリ

キース (うむ、野菜にシャキっとした食感が残っていて、食べ応えがある。
     もやしのパキパキした瑞々しさ、味噌スープと合わさったキャベツの甘み、
     少し硬さの残る人参、長ネギ、そして脂の溶け出す豚肉!)


モグモグ

キース (そして、主役の出番だ。味噌ラーメン独特の黄色い縮れている
      透明感のある、少し固めの麺だ)

ズルズル

キース (おぉ、スープが絡む! 口の中に飛び込んでくる麺とスープがたまらん!)

ハフハフ

キース (熱いスープで口の中を火傷しそうだが、食べるのを止められない!)

ズルズル

キース (麺のもっちり感を引き立てる野菜の食感と、スープの熱気!
      唐辛子が後から効いて来るな! 暑いぞ!)

ハフハフ

キース (はぁ……暑いが、美味い! こんな時間にニンニクを食べたてしまっては、
      明日、口臭がえらいことになりそうだが、最早知ったことか!)

ズズズ…

キース (ふぅ、擦ったゴマが入っているな、ここにきて香ばしい匂いがする)

モグモグ

キース (野菜から溶け出した旨味が、スープに染み込んでいて、美味い)

ズズズ

キース (奥深い味だ。甘味と辛味が調和している)

ズズズ ズズズズ

キース 「いかん、スープを全部飲んでしまった」

ライナー「人間、食っちゃいけないと思うほど、美味いと感じるもんです」

キース 「いや、しかし、この時間だからこそ味わえる禁忌の味だった」

ライナー「ありがとうございます」

コニー 「何かズルくねえか?」

サシャ 「いえ、夜食というテーマなだけで、そのほかに制限はありませんでした。
     勝手に軽めのメニューを想像した、私たちが安易だったんです」

ミカサ 「教官も男性だからというのも計算されている。
     夜中にラーメンを食べることに、躊躇が少ない」

ライナー「ふふん、これは俺で決まりかな?」

キース 「いや、最後にキルシュタインがいる」

ライナー「おっと、悪かったなジャン。ラーメンなんか作っちまって。
      教官殿は、腹がいっぱいかもしれないぜ」

ジャン 「いいや、構わねえさ」

ミーナ 「ジャンに妙に余裕がある、何か企んでる顔だよ」

ジャン 「何も企んでねえよ、真摯に考えただけだ」

キース 「悪いが、全部食べられないかもしれんぞ」フゥ

ジャン 「そんなに量はありませんよ。これが、オレの夜食です」

キース 「……これは」

ミーナ 「……ミルクかな?」

アルミン「いいや、あれはヨーグルトだ」

ライナー「ヨーグルト? 朝に食うもんだろ」

ジャン 「いいじゃねえか、夜に食べても」

キース (まぁ、ラーメンの後で、そんなに食べらんからな、調度良かった)

パク

キース 「……!」

パクパク

パクパク

ミーナ 「キース教官が、無心で白濁の液体を口に運んでる!」

アルミン「変な表現しないでくれるかな」

クリスタ「おいしそうだね!」

マルコ 「中に何か入れてあるんじゃないかな」

キース 「これは、リンゴだな!」

ミカサ 「リンゴ?」

ジャン 「ええ、摩り下ろしたリンゴを入れてあります」

キース 「ヨーグルトのまろやかさに、リンゴの優しい甘み。
      満腹で重かった胃袋が癒されるようだ」

ジャン 「オレが順番が最後なのは、分かっていたので」

あなたか!久しぶりなのかな?
しかしあなたのssは腹が減る・・・

アルミン「ヨーグルトは胃腸の動きを助けるし、リンゴの匂いには
     安眠効果があると言われているんだ。正しく夜食に相応しいね」

コニー 「すげぇな! そこまで考えてるのか!」

ジャン 「まぁな」
     (そこまでは考えてなかった)

ミーナ (そこまでは考えてなかったって顔だ)

ミカサ 「あふれ出る優しさ、これはきっと優しいジャンのお母さんの味」

ジャン 「ま、まぁな」

ユミル 「何だ、オリジナルじゃねえのかよ」

クリスタ「でも、凄い美味しそうだよ」

ジャン 「ほら、まだあるから食えよ」

クリスタ「わーい」

ユミル 「こら、怪しい人から物を貰うなって言っただろ」

ジャン 「怪しくねえ!」

キース 「全員、終わったな。では、結果を発表する」

コニー 「味噌ラーメン美味そうだったなぁ」

クリスタ「誰になるんだろうね」モグモグ

ユミル (可愛い)

キース 「正直、味は甲乙付けがたい。どれも美味かった」

キース「しかし、夜食ということを鑑みて、
     寝る前の体に優しく、それでいて急に食べたくなっても
     簡単に作ることの出来る一品だった、キルシュタインを推したいと思う」

オオオオ
オオオオオオオ

ジャン 「ヨッシャアアアア!」

ライナー「負けたか。着眼点は悪くないと思ったんだが、引き立て役になっちまったな」

ジャン 「いや、最後までヒヤヒヤしたぜ」

ミカサ 「私も負けるつもりはなかった。
     けれど、あなたの方が一歩先を行っていた」

ジャン 「いいや、ミカサも中々だったぜ」
     (ババア、今だけ感謝するぜ!)

サシャ 「ライナー、今度私にも味噌ラーメン作ってください!」

コニー 「俺も食べたい!」

クリスタ「私も!」

ライナー「あぁ、みんなに振舞ってやるよ」

ベルトル「ライナー、ちょっと」チョイチョイ

ライナー「どうしたんだ? ベルトルト」

ベルトル「いいから、こっちきて」

ライナー「そんなに心配しなくても、お前の分もラーメン作ってやるから」

ベルトル「そうじゃない!」

ライナー「おかしなやつだな」

ベルトル(君には言われたくないよ)

ライナー「それで、さっきの話の続きか?」

ベルトル「そうだけど……君は、何してるの?」

ライナー「説明しただろ、ヨルメシをだな」

ベルトル「そうじゃないよ! 何で、本気でラーメン作ってるのさ!?
      君は戦士だろ!? どうして無駄に美味そうな料理作ってるんだよ!」

ライナー「おいおい、そんなに褒めるなよ」

ベルトル「褒めてないよ! 怒ってるんだ!」

ライナー「カルシウムが足りてないんじゃないのか。
      牛乳を飲むといいらしいぞ」

ベルトル「~~~~~!!!!!!!!」

ライナー「顔真っ赤だぞ、どこか調子がおかしいんじゃないのか」

ベルトル「おかしいのは君だ! いい加減にしてくれ!」

ライナー「大声出すなよ」

ベルトル「はぁ……もう一度、聞くよ。ライナー」

ライナー「何だ?」

ベルトル「君は、何だ? 戦士か? 兵士か?」

ライナー「今はまだ見習いだ。しかし、いつかは特級厨師に……」

ベルトル「分かった、もういい」

ライナー「ベルトルト、疲れているのか?」

ベルトル「いいや、疲れているのは君だよ。少し、休んだほうがいい」

ライナー「あぁ、そうだな。片付けたら早く寝て」

ベルトル「そうじゃないよ、これを使ってくれ」

ライナー「これは?」

ベルトル「僕も当てたんだ、旅行券」

ライナー「俺がもらうわけにはいかないだろう」

ベルトル「君が使うべきだ。心の歪を矯正してきてくれ。頼む」

ライナー「しかしだな、アニにでもやったほうが」

ベルトル「お願いだよ、ライナー。……頼むから」

ライナー「わかった

訂正

×:ライナー「わかった
○:ライナー「わかった」

ベルトル「多分、ジャンと同じ日程だよ。一緒に行くといい」

ライナー「ああ、土産を期待しててくれ」

ベルトル「そんなこと考えないで、ゆっくり休んでくれよ。本当に」

ライナー「貰いっぱなしも悪いからな、
      何か、オレに出来ることはないのか?」

ベルトル「君が帰ってくるときに、戦士であることを祈るよ」

(つづく)

今日はここまで。続きはそのうち。

>>30
ご無沙汰してます。スミマセン。
なるべく間が開かないようにしたいと思います。



数日後 長距離馬車駅

ジャン 「全員、揃ったようだな」 

ライナー「ジャンは分かるが、何でアルミンもいるんだ?」

アルミン「僕も旅行券を当ててたんだよ」

ライナー「随分と大盤振る舞いの福引だな、そんなにポンポン当たるもんなのか?」

アルミン「実際、沢山当たってたみたいだよ。シーズンオフだし。
     日程は違うだろうけど、現地に着いたら誰か顔見知りがいるかもしれないね」

ジャン 「マジかよ」

ライナー「しかし、アルミンが来るとはな」

ジャン 「ミカサがヨルメシ大会に参加してたのは、そういうことか」

アルミン「うん、エレンを誘いたかったみたい。3人ならエレンも行くだろうし」

ライナー「だが、仮に勝っても一人分は自腹だろう」

アルミン「あー、うん。その場合、ミカサは自力で現地まで移動するようなことを言ってたよ」

ジャン 「自力って、人の足で何日かかんだよ」

アルミン「……まぁ、ミカサなら、ね」

ライナー「あぁ、ミカサならやりかねないな」

アルミン「だから、ジャンが勝ってくれて、ちょっとホッとしたよ。
     幼馴染が馬車と並走して、新しい都市伝説が生まれる瞬間は見たくなかったし」

ジャン 「野郎ばっかになっちまったがな」

ライナー「気楽で良いだろう」

アルミン「そうだね。訓練兵なのに泊まりで温泉旅行に行って。
     一体、規律はどうなっているんだとか、そういう難しいことは考えないで
     気楽に行こうよ。くれぐれも、深く考えてはいけないよ」

ジャン 「ああ、全くだ」

ライナー「ベルトルトにも、しっかり休んで来いって言われたからな。
      馬車の中でも、のんびりと過ごさせて貰うさ」

アルミン「何言ってんのさ、ゆっくりなんか出来ないよ」

ライナー「ん? どういうことだ」

ジャン 「馬車に乗ってるだけじゃねえのか?」

アルミン「途中で乗り継ぐからね、居眠りしてると違うところに連れて行かれるよ」

ジャン 「面倒だな」

アルミン「それに、乗り換えのときにお弁当を買わないと」

ジャン 「おぉ、駅弁か」

ライナー「楽しみが増えるな」

アルミン「そんなに気楽なものじゃないからね。
     限られた時間で、弁当売り場まで駆け抜けて、その場で購入して
     すぐさま馬車に飛び乗るんだ」

ジャン 「本当に、のんびり出来ないな」

アルミン「それが出来なければ、ご飯を食べ損なうか、
      お弁当を持ったまま駅に取り残されるんだ」

ライナー「置いてけぼりは避けたいな」

ジャン 「飯が無いのもゴメンだ」

アルミン「だったら、気を抜かないでそのときに備えるしかないよ」

ジャン 「仕方ねぇ」

ジャン 「随分と調べこんでるな」

アルミン「旅行本は、昔から数が豊富だからね」フフン



乗換駅

アルミン「さぁ、急いで! 僕について来るんだ!」

ライナー「おう!」

ジャン 「道案内は任せたぜ!」

アルミン「距離はそんなに無いから、落ち着いて行けば間に合うよ!」

ジャン 「落ち着いて走るのかよ」

ライナー「難しい注文だな」ハハハ



アルミン「ハァハァ……この道を突き当りまで行って、左に曲がれば正面に見えるから、
     そこの売店で買うんだ……」ゼェゼェ

ジャン 「分かった! 先に行かせて貰うぜ!」ダダダ

ライナー「アルミン、大丈夫か?」

アルミン「僕は大丈夫、時間にもまだ余裕はあるから、ライナーは先に行ってよ」

ライナー「分かった、次の馬車まで走る体力は残して置けよ!」ダダダ

ジャン 「よし、着いた。さっさと買っちまうか」

老婆店員「いらっしゃいませ」

ジャン (いくつか、種類があるな……)

    "鶏釜めし弁当"
    "シウマイ弁当"
    "栗おこわ弁当"

ジャン (どれも美味そうだ。だが、どれかを選ぶなら……)

ジャン 「婆さん、シウマイ弁当をくれ」

老婆店員「はい、ありがとうございます」

ライナー「俺には鶏釜めし弁当を! しまった、小銭が無い!」

老婆店員「はい、ありがとうございます、今お釣りを出しますね」

ジャン 「アルミンはどうした?」

ライナー「直ぐ後ろに来ていたはずだ。 恐らく、もう角を曲がるところだ」

ジャン 「なら問題ねぇな! 先に行くぞ!」ダダダ

アルミン「ハァハァ……もう直ぐだ、お釣りがあるとタイムロスになるから、
     先に財布を出して、用意しておこう」ゼェゼェ

ジャン 「おう、アルミン、ここにいたか」

アルミン「あぁ、ジャン。なんとか、時間には間に合いそ


ジャラララーン


ジャン 「」
アルミン「」

アルミン(小銭を、ぶちまけてしまった……!)

ジャン (……小銭を拾って、馬車に間に合うか?)

アルミン(弁当を買わなくても、間に合わないよ)フルフル

ジャン 「仕方ねえ! 小銭と弁当は諦めろ!」ダダダ

アルミン「ああ! それが今の最良の選択だ!」クッ

ライナー「派手な音がしたが、アルミンが転んだのか?」ダダダ

アルミン「いいや! 例えそうだとしても、お荷物にはならないよ!」

ジャン 「おい、馬車がもう着てるぞ!」

ライナー「あぁ、急ぐぞ!」



ユトピア区行き馬車

ゴトゴト

アルミン「ふぅ、何とか間に合った」ハァハァ

ライナー「一先ず、落ち着けるな」ハァハァ

ジャン 「あぁ、疲れた」ハァハァ

アルミン「僕は、骨折り損のくたびれ儲け、さらに小銭がマイナスだったね」ハハハ

ジャン 「俺とライナーの弁当を分けてやるよ」

ライナー「あー、そのことなんだが、弁当を選びきれなくてな」

アルミン「?」
ジャン 「?」

ライナー「時間も無かったんで、もう一つ弁当を買って来たんだ。
      二つも食えないから、片方貰ってくれないか」

ジャン 「ライナー? お前は鶏釜めし……」

ライナー「……」

ジャン (まさか、小銭をぶちまける音を聞いて……)
ジャン 「いや、そういえば悩んでいたな」

アルミン「悪いよ、せめてお金は出させて」

ジャン 「小銭は廊下に食わせちまっただろ。
     それに、ライナーが食えないと、この弁当は捨てられちまうぞ」

アルミン「ううん……お弁当は貰うけど、必ず後で払うから!」

ライナー「あぁ、今度な」ニコリ

ジャン (頼れる兄貴スマイル!)



ジャン 「あとは、この馬車に乗っていれば着くんだよな?」

アルミン「うん、もうのんびりしても大丈夫」

ライナー「弁当を食べよう、腹が減った」

ジャン 「そうだな、俺も楽しみだ」

パカッ

ジャン (出来立てに密封された香りが、蓋を開けると同時に解き放たれて一気に広がる。
     その中でも一際と自己主張するシウマイの香り)

ジャン (弁当箱は、半分がシウマイと他の惣菜、もう半分がチャーハンだ)

ジャン 「いただきます」

ジャン (まずは、メインのシウマイだ!)

パクッ

ジャン (おおっ、冷めているのに柔らかい! 噛み締めると肉の旨味が口いっぱいに広がる!
     蒸されて中に閉じ込められた脂が流れ出てくるぜ!)

モグモグ

ジャン (肉だけじゃない、椎茸、筍、他にも沢山の具が入っている。
     細かいのは分からないが、魚も入っているのか……?)

フゥ

ジャン (よし、次はチャーハンだ。薄く切った筍が乗せてある)

パクッ モグモグ

ジャン (こっちも冷めているのに、米が固まらないでパラパラしている。
     具は、あんまり入ってないな、炒り卵と上に乗ってる筍くらいか)


コリッ

ジャン (おっ! 筍も蒸してあるのか? 歯ごたえが残るくらいに熱が通ってる。
     筍の爽やかな風味が、脂っぽいチャーハンを相殺してくれるな)

モグモグ

ジャン (あくまでメインはシウマイだ。チャーハンは次のシウマイを
     美味しく口に運べるように、脇役に徹している)

ジャン (あぁ、そのおかげでシウマイを口に入れたときの感動が薄れない!
     コイツは、美味い!)



ライナー「鶏釜めしか……小さいが本当の釜だ」

カパッ

ライナー(釜の中には、ドンと乗った鳥の照り焼き。それを挟むように、左右に肉と卵のそぼろ。
     そして、これは中を見なくても分かるぞ! この匂い、炊き込み飯だ!
     もしかして、この釜で本当に炊き込んでいるのか、とんでもない手間だな)

ライナー(しかし、食べる側としては、その味に期待できる、まずは照り焼きだ)

パクッ モグモグ

ライナー(柔らかい、鳥のモモ肉だな。甘辛い照り焼きのタレが、鶏の味を引き立てる)

モグモグ

ライナー(そして、炊き込み飯。人参やゴボウ、椎茸が小さく混ぜ込んである。
      ちょっと水分が大目で、もっちりしている食感が堪らないな!)


ムシャムシャ

ライナー(ほう! 釜に触れてるところは、オコゲが出来てるな!
     このパリパリした食感と香ばしいさが、食欲を更に掻き立てる!)

モグモグ

ライナー(照り焼きとの相性も抜群だ! 少し甘めのそぼろも素晴らしい!)

ムシャ

ライナー(あぁ、そして、何だコレは! 隠すようにうずらの卵が入っているじゃないか!
      しかもこの色、煮玉子だっ!)ゴクリ

パクッ

ライナー(おおおおお! しっかりと黄身まで染み込んだ醤油ベースの味!
     シンプルで、それでいて深い味だ! これは、米が欲しくなる!)

ムシャムシャ

ライナー(鳥の照り焼きがメインかと思ったたが、名前に偽り無く釜飯が主体だ。
      全てのオカズが、釜の飯を、より一層と味わうために演出されて、美味い!)


アルミン「栗おこわ弁当……栗ご飯のお弁当かな」

パカッ

フワッ

アルミン(栗の甘い香りが……いいね!
      中身は、栗の乗ったご飯と、煮物、肉団子、玉子焼き。まずは栗かな)

パクッ

アルミン(うん、自然な甘みだ。ほろりと崩れる栗から、甘みがじんわりと広がる)


アルミン(カチカチの栗だと喉に引っかかるけど、この栗は潰したら
     そのままクリームに出来そうなくらい、水分を含んでいて柔らかい)

モグモグ

アルミン(次は、ちょっとしょぱいのが欲しいな。煮物にしよう)

モグモグ

アルミン(濃い目に感じるのは、先に甘い栗を食べたからかな、醤油味の椎茸から
      じわっと煮汁が染み出てくる)

モグモグ

アルミン(ちょっと大きめにカットされた人参だけど、口に入れれば甘みを残して消えてゆくし、
      ゴボウはコリコリとした歯ごたえで楽しませてくれる)

アルミン(そして、鶏肉がひとかけら。
      ほど良く煮込まれて、咀嚼すると鳥の旨味を振りまきながら解けて行く)

モグモグ

アルミン(ご飯も食べてみよう)

パクッ

アルミン(あぁ、栗と一緒に炊き上げてあるんだ。栗の甘みがお米に染み込んでいる。
      それに、これはもち米だね。独特のモチモチ感があるし、普通の米よりずっと甘い)

モグモグ

アルミン(噛むたびに、米の甘みが増してゆく。栗の甘みから始まり、米の甘みで終わる。
      一口で2種類の異なる甘みを与えてくれる……凄いね!)

アルミン(肉団子、甘辛く煮込まれた豚肉だ、ミカサが作ってた肉巻きオニギリに似てるかな。
      ちょっと濃い目だけど、肉の味が負けてないから、不自然じゃない)

モグモグ

アルミン(玉子焼き、甘いのかと思ったら、ダシの効いてる味だ。
      これも、脇役なのにしっかりと地に足の着いた味をしてる)

モグモグ

アルミン(そして、おかずを食べると栗ご飯を食べたくなる)

モグモグ

アルミン(普通は、栗の甘みを消さないように、薄めの味付けのおかずにするのに、
      これはあえて、濃い味付けのおかずで揃えてあるんだね)


アルミン(単品でも勝負できるくらい、自立した味のおかずを食べると、
      やんわりとした甘みの栗ご飯が欲しくなる!)

モグモグ

アルミン(栗ご飯自体の甘みは、とても地味なものなのに、
      他のおかずを強調させることで、逆に目立たせているんだ!)

アルミン(一度、栗ご飯を口にしてしまえば舌が勝手に、このやさしい甘みを求める!
      だから、おいしい!)



ジャン (旨かった……)
ライナー(美味かった……)
アルミン(おいしかった……)

「「「ごちそさまでした」」」


(つづく)

今日はここまで。続きはそのうち。



ユトピア区 温泉街

ジャン 「やっと、到着か」

ライナー「酷い揺れ方だったな、腰が痛くなったぞ。
      ん? 何か、変な臭いがするな」クンクン

アルミン「硫黄の臭いだね、温泉の成分らしいよ」

ジャン 「この臭いはどこから……あれは何だ?」

ライナー「井戸か?」

ジャン 「いや、湯気が出ている」

アルミン「源泉かな。ここから温泉が噴出しているんだ。
      とても人が触れられない温度だよ。
      硫黄の臭いも、ここから出ているみたいだね」クンクン

ライナー「この上から吊るしてあるカゴは何だ?」

アルミン「何だろうね?」

????「ゆで卵じゃよ」

ライナー「!?」

ジャン 「!?」

アルミン「あなたは!?」

????「温泉の熱で、ゆで卵を作っておるんじゃ。
       貴様ら訓練兵じゃろ。どれ1個奢ってやろう」グビグビ

ジャン 「誰だ、この爺さん? 昼間から酒飲みやがって」

アルミン「駐屯兵団のトップ、ドット・ピクシス司令官だよ」ヒソヒソ

ジャン 「げっ」

ピクシス「せっかく温泉に来とるのに、無粋な敬礼なんぞするなよ」ニッ

ジャン 「あの、スミマセンデシタ」

ピクシス「構わん、若いうちは生意気なくらいが良い。
      ほれ、温泉卵じゃ、食え」

ジャン 「ハイ、イタダキマス……」

ピクシス「おぬし等も食わんか?」

アルミン「は、はい」

ライナー「頂きます」

ライナー「これは、凄いな。殻が真っ黒だ」

アルミン「温泉の鉄分に、硫黄が反応しているんだ」

ピクシス「小さいのに、難しいこと知っとるのお」

アルミン(孫あつかいされてる気がする)


コンコン

パキパキ

ライナー「殻が剥きやすいな。黒くなってるからか?」

アルミン「でも、熱いから、結局剥きづらいね」アチチ

ジャン 「中は白いままだな」アチチ

ライナー「美味そうだ」ムシャリ


ホフホフ

ライナー「ほほふ、はふい」(すごく、熱い)

ジャン 「はふふ」(熱い)

アルミン「はふひ」(熱い)


モグモグ

ライナー(プリプリした白身を食い破ると、ホクホクの中身が口いっぱいに広がる。
     濃密な黄身の味と、鼻から吸い込む硫黄の香りで、何倍にも風味が増幅されるな)

モグモグ

ライナー(うおっ!? 黄身が前歯の裏にくっついた! 熱い! しかし、美味い!)

ゴクン

ライナー「……ふぅ、涙が出るほど熱いな!」

ピクシス「若いうちは、何を食っても美味い」グビグビ

アルミン「ご馳走様でした」

ジャン 「美味しかったです」

ピクシス「若者は腹いっぱい食え。それが仕事じゃ。
     しかし、美味そうだのう。酒がすすむわい」グビグビ

アルミン(一口も食べてないのに!?)


旅館

ジャン 「しかし、変な爺さんだったな」

アルミン「駐屯兵団きっての変人らしいからね」

ライナー「温泉卵は美味かったけどな」

ジャン 「まだ時間はあるが、晩飯は何だろうな。美味いもんだと良いけどよ」

アルミン「無いよ?」

ジャン 「は?」

ライナー「俺の空耳か? 今、晩飯が無いと聞こえたんだが」

アルミン「君たち、旅行のガイド読んでないの?」

ジャン 「そんなもん、フランツから受け取ってねえ」

ライナー「俺も、ベルトルトから貰ってない」

アルミン「一泊二日の素泊まりだよ」

ジャン 「マジかよ!?」

アルミン「そもそも、別々に当たったのに相部屋になるあたり、おかしいでしょ」

ジャン 「そう言われれば、そうだな。何で同じ部屋に案内されてんだ?」

アルミン「素泊まり、相部屋の清貧旅行だよ」

ライナー「福引の割に、ポンポンあたりをばら撒くと思ったら、そういうことか!」

ジャン 「わざわざヨルメシ大会に勝ってまで来たのに、そりゃねえぜ」

アルミン「温泉は入り放題だけど、先に晩御飯を確保しに行こう」

ジャン 「そんなもん、後で定食屋にでも行けば良いだろ」

アルミン「無いよ?」

ジャン 「は?」

ライナー「俺の空耳か? 今、定食屋が無いと聞こえたんだが」

アルミン「君たち、"ゆとぴあウォーカー"読んでないの?」

ジャン 「そんなもん、どこで売ってんだよ!」

ライナー「俺は、ベルトルトから貰った」

ジャン 「持ってんなら読めよ!」

ライナー「そうしよう」

アルミン「殆どの人が宿泊先で食べるから、定食屋は無いんだ。
     あるのは、もっと上のランクの高級料亭みたいな店ばかりだよ」

ジャン 「俺たちの手持ちじゃ、入れそうにないな」

ライナー「しかし、そうなるとどうやって晩飯を確保するんだ?」ペラ

アルミン「自腹で旅館のご飯を食べても良いけど、どうせなら美味しいものが良いよね」

ライナー「当然だ」ペラ

アルミン「少し行ったところに、夕市があるんだ」

ライナー「なるほど、そこで弁当争奪戦があるようだな」ペラ

ジャン 「ライナーも知ってるのかよ」

ライナー「"ゆとぴあウォーカー"に書いてあった」

ジャン 「すげぇな、その本」

(つづく)

今日はここまで。続きは近いうちに。



夕市

ライナー「観光地でも、夕市はそう変わらんな」

アルミン「機能性と簡潔さが重要視されるからね」

ジャン 「弁当売ってんのか?」

ライナー「こっちにあるようだな」

アルミン「狙うのはご当地弁当だよ」

ジャン 「ご当地って、どういう意味だ?」

ライナー「名産品を使ってるんだろう」

アルミン「あぁ、山には山の、川なら川の食材が使われているんだ」

ジャン 「ここは、温泉街だから……何だ?」

ライナー「温泉豚だな。温泉に入れて育てた豚で、肉が柔らかいらしい」

ジャン 「豚肉か」

ライナー「あぁ、豚だ」

ジャン 「……ブタか」

ライナー「……ああ」

アルミン「……ブタだね」



ミーナ 「へぷしゅ」

アニ  「風邪ひいたの?」



ライナー「弁当を見に行くぞ」

ライナー(残っているのは……3つ。全部、別々だ)


"半熟卵乗せ、豚しょうが焼き丼"

"温泉卵と温泉豚の角煮弁当"

"リブ・フランクセット"


ライナー(……骨付き肉だ!)ニヤリ

ライナー「俺はリブ・フランクだ」

アルミン「僕はしょうが焼きかな」

ジャン 「オレは角煮だ。
     温泉卵に、味が染み込んでるなんて、考えただけでも涎が出る」

ライナー「……おい、あの人はもしかして」

ピクシス「貴様らも来とったのか」

ジャン 「ピクシス指令!」

アルミン「さっきは、ご馳走様でした」

グスタフ「指令、お知り合いですか?」

アンカ 「こんばんは。あなた達、訓練兵?」

ライナー「ピクシス指令に、先ほど卵をご馳走になりました」

アンカ 「ふらっといなくなったと思ったら、何してるんですか」

グスタフ「女性をナンパしてないだけマシだ」

ピクシス「人を何だとおもっとるんじゃ」グビグビ

グスタフ「飲酒しながら何を言っているんですか」

アンカ 「ご自分の普段の行動を、鑑みてください」

アルミン「お二人は駐屯兵団の方ですか?」

グスタフ「あぁ、駐屯兵団参謀のグスタフだ」

アンカ 「アンカ・ラインベルガーよ」

ピクシス「二人とも、餓狼じゃよ」

ライナー「!」
ジャン 「!」
アルミン「!」

ピクシス「貴様らも、ここにおる以上、餓狼じゃろう?」

アルミン「ええ、しかし」

ピクシス「わしも、一線を引いていたが、今日は久しぶりに参加しようかのう。
      あのリブ・フランクは酒に良く合う」

ライナー「む」

ピクシス「ん? 狙いがかち合ったかの?」

ライナー「ええ、まぁ」

ピクシス「あれは良いぞ。骨付きソーセージみたいなもんじゃ。
      そのまま食っても美味いが、焼くとなお美味い。
      しかし、もっと美味い食い方がある」

ピクシス「温泉卵を作った井戸を覚えておるか?
      袋のまま、あそこに入れるんじゃ」

ライナー「袋のまま?」

ピクシス「臭いが移ってしまうからの」

ピクシス「熱湯で満遍なく熱せられたリブ・フランクは、
     内から溶け出した肉汁でパンパンに身を膨らませる」

     そこへ、思いっきり、かぶりつく!
     比喩でなく、パリンッ! と割れる音がする。

     次の瞬間には、断面から肉汁が飛び出してきた!
     もう、熱くてたまらんが、しかし直ぐに飲み込むことも出来ない。

     はふはふ、と必死になって呼吸をして、なみだ目になりながら
     一生懸命に飲み込むんじゃ。

     そして、よく冷えたビールを一気にあおる!
     火傷寸前の喉に、キンキンの液体が届く。

     くぅっはあああぁぁ~~~!!!

     最高の喉越しじゃ、思わず声が漏れてしまう。

ピクシス「食いたくなったか?」

ライナー「それは、もう」ジュルル

ピクシス「簡単に取らせはせんぞ」ニッ

ライナー「望むところです」ニッ

アンカ 「怪我でもしたらどうするつもりなのかしら」

グスタフ「そうさせない為の俺たちだ」

ジャン 「結構な年齢なんだから、無理させないほうがいいんじゃないですか?」

アンカ 「どういう意味?」

アルミン「え?」

グスタフ「あぁ、違う。指令が怪我することは考えてないよ。
     怪我をするのは、君たちだ」

ジャン 「……そういうことですか」フンッ

アルミン「お二人は、二つ名持ちですか?」

アンカ 「アンカよ」

グスタフ「グスタフだ」

アルミン「いえ、そうではなくて」

ピクシス「合っとるよ、二人は名前がそのまま二つ名になっとる」

ライナー「そんなことが?」

グスタフ「名乗って不利になるわけでもないから、教えてやるさ。
      グスタフ
     "神の恩恵"だ」

アンカ 「名乗ったからって、通じるとも思えないけどね。
      アンカ
     "安価"よ」

ジャン 「もしかして、ピクシス指令にも二つ名が?」

ピクシス「まぁの。じゃが、教えてやらん」

ライナー「何故ですか?」

ピクシス「そのほうが、面白いじゃろ」

(つづく)

今日はここまで。続きはそのうち。

バタン

ピクシス「半額神が来たな。二人とも、手を出すでないぞ」

グスタフ「えっ」

アンカ 「二つ名まで名乗らせておいて、手を出すなって」

ジャン 「無茶苦茶な人だな」

アンカ 「はぁ、もう仕方ないですね。やりすぎないでくださいよ」


グスタフ「訓練兵のお前等も、"やられ"過ぎるなよ」

ライナー「随分と、軽く見られたもんだ」

ジャン 「ピクシス指令が一人で相手にするってのか」

アルミン「二人とも、気をつけて。駐屯兵団のトップが、只者であるはずが無い」



バタン

ジャン 「年寄りだからって、手加減は無しだ!」ダダダ

ピクシス「うん? 呼んだか?」フラッ

ジャン 「チッ、酔っ払いが。真っ直ぐ立ってられねえのかよ」

ピクシス「元気があって良い」フラフラ

ジャン 「な!? また避けられた!?」

ピクシス「いっちょ揉んでやるわ。かかってこい」フラフラ

ジャン 「クソッ」ブン

ピクシス「おっとっと」ゲシッ

ジャン 「ぐっ……足癖が悪い爺さんだ」

ピクシス「いや、年寄りは足から弱っていかんの」

ジャン (ただ、酔っ払ってふらついてる訳じゃねぇな)

アルミン「ジャン! ピクシス指令は、一線を引いてはいるけど、老獪な古狼だ!
      気を抜いたら、やられる!」

ライナー「二人掛りでいくぞ! 俺に合わせろ!」

ジャン 「おう!」

ピクシス「そうそう、それでいい」

ライナー「うおおおおおおお」

ピクシス「そうやって、動きが鈍くなる」ガスッ

ライナー「げほっ」

ライナー「二人掛りでいくぞ! 俺に合わせろ!」

ジャン 「チッ、爺さん一人に情けねえ!」

ピクシス「そうそう、それでいい」

ライナー「うおおおおおおお」

ピクシス「そうやって、動きが鈍くなる」ガスッ

ライナー「げほっ」

ジャン 「ライナー!」

ライナー「いや、平気だ。まだ行ける!」

ピクシス「ほれ、掛かって来い。一撃入れたら二つ名を教えてやっても良いぞ」

ジャン 「クッソ!」ダッ

ピクシス「ほれ、考えていることが、すぐ動きに出る」ガツン

ジャン 「がはっ」

ライナー「足止めには成功しているんですよ!」ブォン

ピクシス「!」

ライナー(……回避は間に合わないはずだ!)

ピクシス「……」フラァ

ライナー(何だ……? 体ごと倒れて……?)

ピクシス「貴様は、二つのことを同時にやるのは苦手じゃろ」ボソッ

ライナー「な……っ」

ピクシス「吹っ飛べ」ドンッ

ライナー「……!?」ゲボォ

ライナー「」

ジャン 「」

アルミン「あ……ああ……」

ピクシス「貴様は、来んのか?」

アルミン「……僕では……貴方に勝てません」

ピクシス「賢い選択じゃが、何かを失う覚悟が無ければ、何も得らんぞ」

アルミン「……覚えておきます」




ライナー「……う、う……ん」

ジャン 「よう、やっと起きたか」

ライナー「ここは……?」

アルミン「旅館だよ、ジャンと二人で担いで帰ってきたんだ」

ジャン 「ピクシス指令にブン殴られたの忘れたのか?」

ライナー「ピクシス……?」

ジャン 「おいおい、本当に大丈夫かよ。いいの貰いすぎて、記憶が飛んだのか?」

アルミン「ライナー、どこまでなら覚えてる?」

ライナー「ライナー……それは、俺の名前なのか?」

ジャン 「……面白い冗談だな」

アルミン「……ちっとも笑えないよ」

ライナー「お前達は、誰だ」

ジャン 「おい、もし冗談なら、いい加減にしておけよ」

アルミン「僕達のこと、本当に分からないの?」

ライナー「あぁ、いや、見覚えはある。気がする。
      確か、そう。仲間だ」

ジャン 「何も覚えてないってわけじゃねえな、流石に」

アルミン「もしかしたら、頭を強く打ったのかもしれない。
     念の為に、医者に見てもらったほうがいい」

ジャン 「そうだな、直ぐに呼んで来る」

アルミン「代金は、ピクシス指令につけておいてね」

ジャン 「……狡辛いな」



アルミン「医者の診断では、一時的な健忘症で後遺症もないだろう。
      ということだったけど、まだ何も思い出せない?」

ライナー「あぁ、集団で生活しながら、何か特訓していたことは覚えている。
      ただ、人間関係のことだけが、霞みがかっているように思い出せない」

ジャン 「随分、器用な忘れ方をするもんだな」

ライナー「仲間が、沢山いた気がする」

ジャン 「あぁ、そうだな」

ライナー「俺は……誰なんだ」

アルミン「ライナー・ブラウンだよ」

ジャン 「104期訓練兵で、成績優秀で、頼れる皆の兄貴分だ」

ライナー「俺は……俺は……わからん……」

アルミン「少し、休みなよ。考えすぎても、きっと良くないから」

ライナー「……ああ。そうさせて貰おう」

ジャン 「どちらにしろ、明日には戻るからな」



ジャン 「腹が減って眠れねぇ」グゥ

アルミン「僕も」グゥ

ライナー「何も思い出せなくても、腹は減るんだな」グゥ

アルミン「温泉に行こうか、少しは眠りやすくなるかも」

ジャン 「そうだな」

途中でスミマセン。今日はここまで。

アルミン「そもそも、まだ眠るような時間じゃないんだよね」

ジャン 「とは言っても、飯も無いからな」

ライナー「すまんな、俺のせいで。気楽な旅行だったろうに」

ジャン 「……」ジー

アルミン「……」ジー

ライナー「どうした?」

ジャン 「いや、やっぱりライナーはライナーだと思っただけだ」

アルミン「うん、ちょっと忘れてるだけで、根本的な所は変わってないね」

ライナー「そうか?」

ジャン 「そのうち思い出すだろ、気にすんな」

アルミン「そうそう、旅行の間は、細かいことを気にしないって決めてるんだから」

ライナー「……ありがとうな」

ジャン 「やめろよ、くすぐったい」

アルミン「ほら、着いたよ」


露天風呂

カポーン

アルミン「謎の効果音だよね」

ライナー「何の話だ?」

アルミン「独り言だよ」

ライナー「?」

ゴシゴシ

ザバー

ライナー「何故か、お湯が体に沁みるな」

ジャン 「ピクシス司令にぶん殴られて、壁際までぶっ飛んでたからな。
     そこら中、傷だらけになってんだろ。
     あの爺さん、腹の虫の加護があるにしても、すげえ力だったな」

アルミン「あれは、カウンターだよ。酔っ払ったような動きで、ライナーの攻撃に合わせてる。
     ギリギリでかわして、渾身の一撃を叩き込んでいるから、巨大な拳で殴られたようなもんだよ」

ジャン 「良く見てるな」

アルミン「違うよ。僕は二人みたいに、戦えなかった。見ていることしか出来なかったんだ」

ライナー「ただ見ていた訳じゃないだろ、ちゃんと分析している」

ジャン 「あぁ、大した奴だ」

ライナー「今の俺は、お前達のことをちゃんと覚えていないが、
     ただ見ていただけだったら、そんな分析は出来ないだろう。
     きっと、お前だけにしか出来ない、秀でた才能だ」

アルミン「やめてよ、そんな。褒めたって……もう……背中流そうか?」



ザブーン

ジャン 「あ”ー」

アルミン「あ”-」

ライナー「ふー、効くなー」

リヴァイ「何だ、随分うるせぇのが来たと思ったら、手前らか」

ジャン 「え。あ、え!?」

アルミン「り、リヴァイ兵長!?」

ライナー「どうも?」

ジャン 「どうして、ここに……?」

リヴァイ「手前らがいるほうが不自然だがな、俺は内地の帰りだ」

ジャン 「俺たちは、福引で当たって、たまたま」

アルミン「内地ということは、エルヴィン団長も?」

リヴァイ「よっぽど叩かれたみたいだな。部屋で飲み潰れてる」

アルミン「兵団のトップともなると、大変ですね……」

ジャン 「済みません、騒がしくして」

リヴァイ「気にするな。いま、ピクシス司令の話をしていたな、会ったのか?」

ジャン 「ええ、ここの夕市で。ボコボコにされましたけど」

リヴァイ「"赤頭"相手に、ボコボコで済んだなら、運が良い」

アルミン「もしかして、それが二つ名ですか?」

    レッドキャップ
ライナー「"赤頭"とは、随分不吉な名前だな」

アルミン「返り血で自分の帽子を赤く染める、残忍な妖精だね」

リヴァイ「それじゃねえ」

アルミン「え?」

リヴァイ「そう思っている奴もいただろうが、妖精なんて可愛げのあるもんじゃねえ」

ジャン 「それなら何故、"赤頭"なんて……」

リヴァイ「酔っ払って、酒が頭まで回ってくると、獰猛な獣になる。
                     アカカブト
     その攻撃力、巨大な熊を思わせる、"赤頭"だ」

アルミン「それは、もしかして」

ライナー「俺がやられたっていう攻撃のことか」

リヴァイ「お前は、"仮面"の訓練兵か」

ライナー「仮面?」

ジャン 「そういう二つ名が付いてたんだよ」

ライナー「仮面、か」

リヴァイ「やられたってことは、飯は食ってねえのか」

ジャン 「はい」グゥ

アルミン「仕方ないです」グゥ

リヴァイ「早く上がれ、店が閉まるぞ」ザバッ

ライナー「……?」

リヴァイ「今、部屋に戻ると、目を覚ましたエルヴィンの酒の相手をさせられる」

ジャン 「それは、つまり」

アルミン「晩御飯を、ご馳走して頂けるということですか?」

リヴァイ「早くしろ」

ジャン 「はい!」

今日はここまで。続きは多分明日。


鉄板焼

アルミン「あれ、このお店って……」

ライナー「有名なのか?」

アルミン「うん、グルメ本にも載ってる有名店だよ。
     前に調べたことがあるんだ」

ジャン 「おぉ、店内が既に肉の香りに包まれてる」

ライナー「嗅ぐだけで分かるな、旨い肉の匂いだ」

アルミン「こんなに高級な店に、いいんだろうか……」

ライナー「ここに座っていいのか?」

ジャン 「立派な椅子だな」

アルミン「6人がけのテーブルの真ん中に、大きい鉄板がはめ込まれているね。
     テーブル毎に、肉をその場で焼いてくれるんだ」

ジャン 「おい、鉄板の上に乗ってる皿のが、もしかして」

店員  「はい、こちら本日のお肉とお野菜です」

ジャン 「こんなに分厚い肉を食えるのか。
      しかし、目の前に妙に見覚えのある食材があるな」

アルミン「これは……食パンだね」

ジャン 「は……食パンって、まさか!?」

リヴァイ「ようやく気づいたか。
     超大型巨人弁当を食った後で、ハンジが見つけてきた店だ」

店員  「では、焼かせていただきます」

アルミン(肉を二等分して、まずは半分をバターを溶かした鉄板に乗せる)

ジュゥウウウウウウウ

アルミン(湯気と共に肉の焼ける音が立ち上る。焼き目がついたら、すぐに裏返してる)

ライナー「あぁ、良い匂いだ」

アルミン(両面に焼き目をつけて、いったん皿の上に。まだ中が赤いままだけど、これからもう一回焼くのかな。
     油かな? 何か液体を鉄板に垂らして、肉を乗せる)

店員  「火が出ます」

アルミン「え?」

ボゥッ!!

ジャン 「うおっ!!」

アルミン「びっくりしたー!」

ライナー「何の意味があるのかわからないが、すごいな」

ジャン 「でかいヘラで肉を切ってるぞ」

アルミン「ヘラがすごいのかもしれないけど、肉が抵抗なくスッと切れてるよ」

ジャン 「すげぇ柔らかそうだ」グゥゥ

アルミン(そして、一口大に切られた肉が、僕らの目の前に……)

ライナー「パンの上に乗せるんだな。皿だったのか、これは」

アルミン「これ、もう食べてもいいんだよね」

ライナー「大丈夫だろう、こんなにも旨そうなんだ」

ジャン 「タレが2種類と塩か」

アルミン「最初は塩かな、何となく通っぽい感じがするし」

ジャン 「じゃあ、俺も」

ライナー「どんくらいつければいいんだ?」

ジャン 「好きなだけ付けろよ、肉の味が強そうだから、大目につけてもいいだろう」

ライナー「そうだな、じゃあたっぷり」

ビリッ

ライナー(うぉおおっ。電気が走ったのかと思った。舌に乗せた瞬間、塩の辛みが!
      これは調味料用の塩じゃない、そのまま食べるための荒塩だ。
      塩だけでも食べられるくらい旨いぞ。
      口の中がびっくりして唾液が飛び出てきたところに、肉汁が襲いかかる!)

ライナー(気がつけば無我夢中で肉をかみしめている。
      表面だけは極薄くカリっと焼きあげて、中は生みたいに柔らかいのに、しっかりと噛みきれる)

ムシャリ ムシャリ

ライナー(はぁああ、これは何味だ。肉の味で、塩味なんだが、そんなんじゃない。
      舌の上で蕩ける……! もう、味覚が感情を凌駕した領域に突っ込んでる。
      味覚が、舌が、口の中が喜んで仕方ない)

ライナー(しっかり噛み続けていたのに、いつの間にか口の中から無くなってしまった。
      恐ろしいほど旨かった。こんなに旨いものが存在していたのか)

ライナー(次は、にんにくタレにつけてみよう。フライドガーリックを入れるんだっけな。
      肉の上に、ガーリックを乗せて、一緒に口の中へ)

カリッ じゅわぁ

ライナー(うほほほほ。これは! すごい! カリッとしたフライドガーリックの食感と
      にんにくタレの甘みが、肉に絡みつく!)

ライナー(鼻腔から抜ける肉の匂いに、にんにくが合わさって、強烈な自己主張をし始める!
      肉とニンニクは、こんなにも相性がいいのか。お互いを高めあってるみたいだ。
      強烈な味と香りなのに、全然飽きない。むしろもっと食べたくなる!)

ライナー(よし、次はポン酢で食べよう)

モグモグ

ライナー(おおぅ。これは、また方向性が違うな。
      てっきり、強烈な酸味が来ると思っていたのに、やさしい酸味だ。
      肉の脂と溶け合うような酸味に、柑橘系の爽やかな香りが包み込む。
      それでいてしっかりと酸っぱいから、唾液が止まらん。
      肉の旨みを味わう為に、涎が次から湧いて出る)

ライナー(これは、今までのガツンとくるような肉じゃなく、癒し系の肉だ。
      同じ肉なのに、こんなにも印象が変わるのか)

ライナー「次は野菜か」

ジャン 「げっ、オクラが入ってる」

アルミン「オクラ苦手なんだ」

ジャン 「生臭いし、ネバネバしてるだろ」

ライナー「御馳走になってるんだ、残さずに食っておけ」

ジャン 「あぁ、そうだな。肉が旨いんだから、贅沢は言えん」


ポリッ

ジャン 「うおおおお、何だこれ!? オクラなのか!? 本当に!?」

アルミン「オクラの産毛を丁寧に取ってあるね」

ライナー「あぁ、カリっと焼きあげたオクラを噛みちぎると、中から粒粒の種が飛び出してくる」

ジャン 「これが気持ち悪くて苦手だったんだが、全然気持ち悪くねぇ」

ライナー「オクラだとわかっていても、まったく別の食べ物のようだな」

アルミン「全く生臭くない、オクラの甘みさえ感じるようだよ」

ライナー「あぁ、このキノコもシャキシャキしてて旨いな」

ジャン 「すげぇな、野菜はここまで旨くなるのか」

アルミン「これを最初に食べさせたら、野菜嫌いな子供なんていなくなるんじゃないかな」

ライナー「まったくだ。美味い」

ジャン 「お、肉の後半が焼きあがったみたいだ」

リヴァイ「もう十分だ。俺の分はやる。お前らで食え」

アルミン「頂きます!」

ジャン 「どれだけ腹が一杯でも、食べられる気がする!」

ライナー「あああ! 美味い!」



ライナー「ふぅ、食ったな」

ジャン 「暫く、安い肉は食えないな」

アルミン「そろそろ、来るんじゃないかな」

店員  「このパンを焼きますが、砂糖はつけますか?」

ライナー「なん……だと……?」

ジャン 「やっぱり、焼くのか」

アルミン「是非、お願いします」

ジャン 「俺も同じで」

ライナー「俺も」


じゅわぁ

ライナー(鉄板で溶かしたバターを、パンに塗るってレベルじゃない。パンが浸るくらいつけてる)

パサパサ

ライナー(おぉ、そんなに砂糖をかけるのか。
     シュガートーストというよりも、砂糖がメインのパンだ)

ザクッザクッ

ライナー(これを4等分して、各々の皿の上に。
      肉汁がこれでもか、と染み込んだ、シュガートーストだ)


シャリ


アルミン「おおおおおおおお」
ジャン 「おおおおおおおおお」
ライナー「おおおおおおおおおお」

ライナー(肉汁が!砂糖で!おおおおおおお!
      ここまで肉汁がしみこむと、この食パンが肉の旨みを凝縮した肉みたいだ。
      それだけ強烈な旨みを閉じ込めているのに、そこにバターを加えて、
      脂を注いでやってさらに旨みを高めている。

      とどめに、砂糖だ。ザラメみたいに目の荒い砂糖。
      舌に触れた甘みが溶けた瞬間、怒涛の肉味が襲いかかってくる)

ジャン (あくまでシュガートーストだから、食感は軽いのに、その中身は濃密だ。
      ベーコンなんかの成型肉とは比べ物にならない、生の牛肉から染みでた肉汁だから、
      自己主張が半端じゃない。汁だけがパンにしみ込んでるくせに、こんなにも旨い。
      前にハンジさんが言ってたな、このシュガートーストが、この鉄板焼の最終系だ)

ライナー「ふぅ、満腹だ。しかし、全然、腹にもたれない。
      もう1人前くらいなら、食えそうなくらいだな」


リヴァイ「今の肉が入ったチャーハンが締めにあるが、食うか?」

ジャン  「くっ……食べたい……です!」

ライナー「何たる拷問……!」

アルミン「胃がはちきれてでも食べます!」

(つづく)

今日はここまで。続きはそのうち。


翌日

アルミン「1日経っても治らなかったね」

ライナー「まあ仕方ないさ。なるようになる」

ジャン 「随分、慣れるのが早いな」

アルミン「順応性の高さは、元々なのかもね」

ライナー「そうかもしれんな」

ジャン 「帰りの乗り換え駅で、弁当買って行こうぜ」

アルミン「そうだね。行きは僕も買い損ねちゃったし、ライナーに貰っちゃたから
     今度は僕がご馳走するよ」

ライナー「気にしなくて良いぞ、こっちは覚えてないからな」

ジャン 「そういう、本気かどうか分からない冗談が好きなのも変わらないな」

アルミン「本当に」


乗り換え駅

アルミン「帰りは時間の余裕があるから、ゆっくりでいいよ」

ジャン 「助かったぜ。帰りも全力疾走は勘弁だ」

ライナー「お前らと、この駅を走ったことは覚えてないが、
      ここの弁当の味は覚えてるな。損した気分だ」

アルミン 「あはは、覚えてるのもいいことばかりじゃないね」

老婆店員「お客さん。昨日、お金を落とされたでしょう?」

アルミン 「え、僕ですか?」

老婆店員「ええ、間違いないです」

アルミン 「でも、僕はお店で買い物してませんし、そこの角を曲がったところですぐに引き返したから」

老婆店員「お客さん、お金を落とされたんで、拾っておいたんですよ。
       きっと帰りに取りに来ると思って」

アルミン「本当だ、僕の落とした小銭とピッタリあってる」

ジャン  「よくチラっと見えただけの顔なんて覚えてるな」

老婆店員「私は足も腰も弱いですから、せめてお客さんの顔を見るくらいは、頑張ってるんですよ。
      幸い、まだ頭のほうはシャンとしてますからね」

ライナー「その調子なら、あと50年は店員を続けられそうです

老婆店員「いやですよ。さっさとお迎えに着て欲しいのに」

アルミン 「……ははは」

ジャン (反応し辛い、老人ジョークだ)


トロスト区

ジャン 「ふぅ、やっと着いたな」

アルミン「温泉に着いたときも同じこと言ってたね」

ジャン 「そうだったか?」

ライナー「あぁ、間違いないな」

ジャン 「お前は覚えて無いだろ」

ライナー「ははは」

ジャン 「あぁ、そうだ悪い。ちょっと実家に寄るから、先に行っててくれ」

アルミン「別に構わないけど、お土産?」

ジャン 「あぁ、夜飯大会で勝ったメニューの一応……礼にな」

ライナー「よし、じゃあ一緒に行こうか」

ジャン 「待てよ、先に行ってろって言ったろ」

ライナー「お前の親に会うことで、何か思い出すかも知れないだろ」

ジャン 「ねえよ! 初対面だよ!」

ライナー「どうかな?」

ジャン 「……怖い冗談言うな、頼むから」


訓練所

アルミン「と、いうわけでライナーは、ちょっと記憶が無くなっちゃったんだ」

ベルトル「ちょ、ちょっとって、どのくらいなんだい?」

アルミン「人間関係に付随することと、あと自分のこと」

ベルトル「最悪、料理人になるって言い出しても受け入れる覚悟はしていたのに、
      ライナー、君はいつも僕の想像の斜め上を行くよ」

ライナー「何だかスマンな」

エレン 「でも、そのうち戻るんだろ?」

コニー 「なら、いいじゃねえか」

クリスタ「ライナー、可哀想」

ライナー「君と恋人だった気がするんだけど、そのことについt」ゲボォ

ユミル 「いっそ、全部忘れて赤ん坊からやり直せよ、ホモゴリラ」

クリスタ「ライナー、可哀想」

ベルトル「ライナー、ちょっといいかな」

ライナー「うん? 俺はホモじゃないぞ」

ベルトル「その話じゃないから」

ライナー「あの話か?」ヒソヒソ

ベルトル「……! その話だ」ヒソヒソ


宿舎裏

ライナー「ここなら誰もいないぞ」

ベルトル「記憶が無いって聞いて、少し不安だったけど、ちゃんと目的は覚えていたんだね」

ライナー「ああ、だがスマン。俺が記憶をなくしたばっかりに、目的は失敗だ」

ベルトル「ええ!? それは、どういう……?」

ライナー「俺たち、同郷だったんだろ? お前に土産を買ってくるのを忘れたんだ」

ベルトル「……え?」

ライナー「……ん?」

ベルトル「あの話って、その話?」

ライナー「その話は、この話だが?」

ベルトル「……ねえ、ライナー。君は、自分のことも忘れているんだっけ?」

ライナー「ああ、そうだな。靄がかかった様な感じだ」

ベルトル「パッっと、思いついた印象で構わないから、自分が何者かを一言で言って貰えないかな」

ライナー「変なことをいう奴だな。心理テストか?」

ベルトル「そんなような、というか。まさしくそのものだよ」

ライナー「そうだな、俺は……」

ベルトル「……」ゴクリ

ライナー「俺は……………………」

ベルトル「…………?」

ライナー「………………わからん」

ベルトル「ライナー?」

ライナー「兵士だった気もするし、他の目的を持った何かだった気もするし、
      誇りを持った餓狼だったような記憶もあるし、料理人を目指していたような、
      温泉ガイドをやっていたような、ハーレムを築いていたような……」

ベルトル「記憶が混乱しているにしても、ちゃっかりし過ぎだろ」

ライナー「そんな感じで、良く分からん」

ベルトル「餓狼のことを覚えてるなら、変身のことは覚えてる?」

ライナー「変身?」

ベルトル「ほら、空腹が極限までに達すると、胃がキリキリと痛むだろう?
      それをさらに我慢したとき、微かに胃袋に潰瘍のような傷が出来る。
      その自傷行為にも似た感覚が、夕市でのみ僕等の体を変質させる。どう、思い出せない?」


ライナー「……いや、分からんな」

ベルトル「そうか……」

ライナー「まぁ、そのうち思い出すらしいから、気長にまとうぜ」

ベルトル「そのうちじゃ困るんだよ」

ライナー「ん? 何か言ったか?」

ベルトル「……それを口癖にしてもモテ無いからね」


翌日 食堂

アルミン「あ、ジャンとライナー。良かった」

ジャン 「どうした?」

ライナー「それは、俺が良い人なんじゃなくて、お前にとって都合が良いと言う意味か?」

アルミン「いきなり、意味もなく重そうな話にしないでよ。
      僕等が、ピクシス司令に呼び出されてるらしいんだ」

ジャン 「げっ、もしかして治療費をツケたのがまずかったのか」

アルミン「それ以外に思い当たるところは無いよね」

ライナー「よし、じゃあ行こうぜ。多分、怒られるだろうが、全部俺のせいにしろ。
      お前等は、俺の後ろに立ってれば良い」

ジャン 「覚えて無いくせに、格好いいな。おい」

アルミン「ツケるように言い出したのは僕だから、そんなこと出来ないよ」

ライナー「とにかく行こう。遅れて更に怒らせるのも不味いだろう」

ジャン 「そうだな」


駐屯兵団 本部

アルミン「すいません、ピクシス司令に……」

リコ  「あん?」

ジャン 「げっ」

リコ  「うわ……お前、こんなところまで何しに来たんだ」

ライナー「知り合いか?」

ジャン 「前に、夕市でちょっとな」

アルミン「済みません、ピクシス司令にお取次ぎ頂けますか。アポイントはあります」

リコ  「チッ、待ってろ」

ライナー「何をしたら、あんなに嫌われるんだ?」

ジャン 「前に、夕市でちょっとな」

アルミン「リコ・プレツェンスカ班長……か」

リコ  「お前等、こっちに来い。ピクシス司令がお待ちだ」


司令室

ピクシス「治療費なんぞの請求が来るから、ヒヤっとしたわい」

アルミン「体は至って問題ありません」

ピクシス「そういうことなら、良いんじゃ」

アルミン「あの、治療費の件でお咎めは?」

ピクシス「欲しいのか?」

アルミン「とんでもない」

ピクシス「なら良い。若者に怪我をさせると、参謀に怒られるからの」

アルミン「そういうことでしたか」

ピクシス「まぁ、訓練兵とは言え、もうちょっと体を鍛えんとな」

アルミン「耳が痛いです」

ピクシス「次は、わしをもっと楽しませんかい」

アルミン「次があれば、善処します」

ピクシス「あるぞ」

アルミン「え?」

ピクシス「3日後、夕市でユトピア区の物産展をやるそうじゃ。
     そして、そこに弁当も出ると聞いておる」

ジャン 「逃した弁当を賭けて、リベンジできるってわけだ」

ライナー「なるほど、面白そうだな」


廊下

アルミン「失礼しました」ガチャ

ジャン 「結局、アルミンの後ろに立ってるだけだったな」

アルミン「僕ちょっと会いたい人がいるから、二人は先に戻ってて」

ジャン 「知り合いでもいるのか?」

アルミン「うん、まぁね」

ジャン 「オレも、このあとリヴァイ兵長のところに呼ばれているから、ここで解散だな」

ライナー「なら、オレは戻るか」


休憩室

イアン 「おい、リコ。お前の弟が来てるぞ」

リコ   「あん? 私に弟なんて」

アルミン「……どうも」

リコ   「イアン、どうして弟だと思ったのか、簡潔に説明してくれないか」

イアン 「そんなの、その太い眉毛みたら、誰だってすぐに」

リコ   「そうか、良く分かった。あとで話がある」

アルミン「えーと、いいですか」

リコ   「食事休憩中だから、食べながらになるが」

アルミン「それでも構いません」

リコ   「手短に頼む。後の予定が詰まってるんでな」モグモグ

アルミン「リコ班長に武術を教えて欲しいんです」

リコ   「ダメだ」ズズズ

アルミン「何故ですか」

リコ  「1つ、私は人に教えられる腕前じゃない。
     2つ、私は見ず知らずの他人の面倒を見るほどお人良しじゃない。
     3つ、私は今、酷く機嫌が悪い」モグモグ

アルミン「交換条件ではいかがですか」

リコ  「訓練兵風情が、私と何を交換すると言うんだ」モグモグ

アルミン「僕の幼馴染の話ですが、この1年間でバストサイズが3つも上がったと言ってました」

リコ  「……それが、どうした」モグモグ

アルミン「1年前に、相談されたんです。グラマラスになる方法について」

リコ  「くだらん、そんなもの女性雑誌にも書いてある」モグモグ

アルミン「もしかして、今食べてるとろろご飯のことですか?」

リコ  「麦とろ飯だ」ズズズ

アルミン「美味しそうですけど、あんまり意味無いですよ」

リコ  「はんっ、何を根拠に」

アルミン「バストアップ効果があるのは、とろろじゃなくて、とろろ昆布です」

リコ  「とろろ……コンブ?」

アルミン「壁の外にある、海と言う水域に自生する水草です」

リコ  「何を……」

アルミン「5年前の食料革命により壁内の食糧事情は一気に緩和されました。
     ご禁制の書物も一部解禁され、過去の料理、調理方法が爆発的に広がりましたが、
     未だに壁の外の食材は手に入りません」

リコ  「しかし、雑誌に」

アルミン「情報というのは、正しく扱える者の元でなければ、何の意味も成さないんです。
      恐らく、とろろという言葉から、似たようなものだと思って編集者が載せたんでしょう」

リコ  「チッ……いや、私は麦とろ飯の味が好きだから食べているだけだ」モグモグ

アルミン「美味しいですよね」

リコ   「あぁ、固めに炊いた麦飯にとろろをかけて、醤油とワサビをちょっとかけて食べるのが好きなんだ」ズズズ

アルミン「それもいいですけど、同じ粘り気のある納豆もいいですよ」

リコ   「あの保存食のか?」

アルミン「ええ、"効果"があります」

リコ   「……ほう」

アルミン「キャベツもいいですね。とろろ昆布と同じ成分が入ってます」

リコ   「……それで?」

アルミン「それから、程よい運動が大事みたいです。例えば、武術のような」

リコ   「ふん、それが目的か」

アルミン「ダメですか?」

リコ   「まぁ、いい。腹ごなし程度には付き合ってやるよ」

(つづく)

今日はここまで。続きはそのうち。


2日後 駐屯兵団本部

リコ  「お前には才能が無い。やるだけ無駄だ」

アルミン「才能が無くても努力で埋められるのが武術ではないんですか!?」

リコ  「それはお前、十年単位での話だ。2,3日で身につくなら金でも取ってる」

アルミン「そんな……」

リコ  「頭は悪くないようだから、技巧にでも行くんだな」

アルミン「僕は、いつか壁の外を友達と一緒に冒険したいんです。
     だから、どれだけ才能が無くても、自分の足で歩かなきゃ」

リコ  「才能が無いって言うのは、足が遅いって意味じゃない。足が無いという意味だ」

アルミン「それなら、腕で這ってでも行くまでです」

リコ  「諦めの悪い奴め」

アルミン「例え、指をくわえて見ていることしか出来なくても、配られたカードで勝負するしか無いんです」

リコ  「見るだけで勝負にはならないぞ」

アルミン「してみせますよ、どんな手を使っても」


帰り道

ライナー「よう、帰りか?」

アルミン「あ、ライナー。どうしたの」

ライナー「ここ2日間、何か思い出すかと思って、この辺りを歩き回っていたが、さっぱりだった」

アルミン「そうかぁ。てっきり、全部受け入れているのかと思ってたけど、
     記憶を戻すつもりはあったんだね」

ライナー「あぁ、俺と同郷のベルトルトが、悲壮な顔してるからな」

アルミン「自分のことを忘れられたら、そうなるだろうね。
     僕もエレンやミカサに忘れられたら、なんて考えたくも無いよ」

ライナー「お、ここまで離れてても店先で蒸してる匂いが漂ってくるな」クンクン

アルミン「美味しそうでしょう」

ライナー「あぁ、肉まんしかないのか?」

アルミン「ううん、あんまんもあるよ」

ライナー「甘いのもいいな」

アルミン「一つが大きいから、僕は一個しか食べられないんだけどね。
     サシャは凄かったよ、一人でライナーの拳くらいある肉まんを3つも4つも食べてたから」

ライナー「それだけ美味いってことだろう、着いたぞ」

アルミン「えーと、じゃあ僕は肉まん一つください」

ライナー「俺はあんまんだ。そこのベンチで食うか」

アルミン「うん、このもっちりした皮が美味しいんだ」ハフハフ

ライナー「蒸したてでふかふかだな」モグモグ

アルミン「具がぎっしりだよ」モグモグ

ライナー「あんまんは、中のあんにゴマが入ってるな。ゴマの香りがたまらん」ハフハフ

ライナー「……」

アルミン「?」

ライナー「……ちょっと待ってろ」

アルミン「どうしたの?」

ライナー「スープを買ってきた、1個取ってくれ」

アルミン「え、悪いよ。自分の分はお金出すよ」

ライナー「良い店を教えてもらったからな、受け取ってくれ」

アルミン「全く、ライナーはいつもそうなんだから、断れないじゃないか」

ライナー「そんなことを言われてもな」

アルミン「じゃあ貰うね。コーンスープだ、あちち」フーフー

ライナー「最近、冷えてきたからな。熱いスープも美味い」ズズズ

アルミン「はぁ、コーンの甘さが胃に染みるね」

ライナー「コーンの粒のプチっとした歯ごたえも良いな」

アルミン「ふぅふぅ、舌をやけどしちゃう」

ライナー「落ち着いて飲めよ」ハハハ

アルミン「肉まんにコーンスープっていうのも、案外合うね」フーフー

ライナー「そうだな」ズズズ

アルミン「あんまんも美味しいや」ハフハフ

ライナー「肉まんも美味い」ハフハフ

ジャン 「随分、仲が良いな」

アルミン「あれ、ジャンだ」

ライナー「よう」

ジャン 「美味そうだな、俺も買ってくる」

アルミン「そこのお店だよ」

ジャン 「わかった」

ライナー「妙にボロボロだったな」

アルミン「ここのところ、リヴァイ兵長に呼び出されてたけど、そのせいかな」モグモグ

ライナー「秘密の特訓でもやってるんじゃないか」モグモグ

アルミン「みんな考えることは一緒なのかなぁ」

ジャン 「結構でかいな、この饅頭」

アルミン「肉まんにしたの? それともあんまん?」

ジャン 「いや、何か新商品らしい。ピザまんだ」

ライナー「ピザ……まん?」

アルミン「いつの間にか新商品が出てたんだ。どんなのだろうね」

ジャン 「外れじゃないといいがな」


パクッ

ジャン 「んー、うまい! これはすげえ!」ハフハフ

ライアー「そんなに美味いのか」

ジャン 「噛み付いたところから、とろーっとチーズが伸びてきやがる!
     しかも、何種類かのチーズを混ぜてあるな!
     ミルクっぽい風味を残したチーズが、トマトソースと絡み合って、もう最高だ!」モグモグ

アルミン「ねえジャン、肉まんとあんまんにも興味ない?」

ジャン 「わかったよ、三等分だからな」

ライナー「トマトの酸味が、肉まんとも全く違う香りだな」

アルミン「でも、ものすごい食欲を掻き立てるよ」グゥゥ

パクッ

ライナー「おお、これは美味い! チーズが凄い伸びるな!」ハフハフ

アルミン「ふかふかの皮に齧り付くと、中からアツアツのソース、そして濃厚なチーズが飛び出してくる」ハフハフ

ジャン 「トマトベースのソースに、バジルの香りが混ざりこんで、そこにチーズだ」

ライナー「口の中で、チーズとソースが絡み合って、更に美味い」

アルミン「チーズがもちゅっとして美味しいね。チーズだけでも食べたいくらいだよ。
     でも、トマトのソースと一緒にたべると、相乗効果でもっと美味しい!」

ジャン 「肉まんも美味いな」モグモグ

アルミン「はぁ……しあわせ」ホッコリ

ライナー「うむ、満足だ」ズズズ

ジャン 「何飲んでるんだ?」

ライナー「そこで買ってきたスープだ」

ジャン 「それも美味そうじゃねえか、買ってくる!」

ライナー「忙しい奴だな」

今日はここまで。続きはそのうち。

あれ、見返したらところどころ抜けてる。
スミマセン、以下補足です。

>>198の次

ライナー「流石に気の毒だと思って、こうして歩いているわけだ」

アルミン「ライナー、肉まん食べない? 僕、お腹空いちゃった」

ライナー「そうだな、買い食いしていくか」

アルミン「この間、サシャが美味しい店を教えてくれたんだよ」

ライナー「ほう、楽しみだな」

アルミン「すぐそこなんだ」

>>200の次
アルミン「肉まんは、野菜もたっぷりだよ。もちもちの皮とジューシーな肉に
     タケノコのコリコリした食感が、いいアクセントになってるね」モグモグ

ライナー「そっちのも美味そうだな、半分交換しないか」

アルミン「うん、いいよ。いま、半分にするから」アチチ

ライナー「ほら、あんまんの半分だ」

アルミン「へへへ」

ライナー「どうした?」

アルミン「いつも1個でお腹一杯だから、2種類食べられるのが嬉しくて」

以上でした。
今更ですが、適当に脳内補完してください。


夜 食堂

ライナー「どうしたんだ、こんなところに呼び出して」

ベルトル「ライナー、あれから記憶は戻ったかい?」

ライナー「いいや、さっぱりだ」

ベルトル「そうか……」

ライナー「すまんな、心配して貰っているのに」

ベルトル「いや、いいんだ」

ライナー「それを聞くために呼び出したのか?」

ベルトル「いいや、その答えを想定していたから、呼び出したんだ」

ライナー「どういうことだ」

ベルトル「今から夜食を作るから、食べてくれないかな」

ライナー「そりゃあ、別に構わないが」

ベルトル「ねえライナー。君は、人間関係と自分のことを忘れているんだよね」

ライナー「そうだな。相変わらず記憶が麻痺しているようだ」

ベルトル「それなら、僕らの郷土の名物、"マシマシ"のことは覚えているかい?」

ライナー「マシマシ? いや、覚えが無いな」

ベルトル「そうか、やっぱりね」

ライナー「大体、そのマシマシっていうのは、何なんだ?」

ベルトル「僕らの故郷の味だよ」



ベルトル「さあ、出来たよ」

ライナー「出来たよって、何だこれは」

ベルトル「これが、マシマシだよ」

ライナー「これが……?」

ベルトル「君は、これが大好物だったじゃないか」

ライナー「いや、これはどんぶり一杯のモヤシの山だろう。家畜の餌か?」

ベルトル「ちゃんと中に麺とか、他の具が入っているよ」

ライナー「まぁ、騙されたと思って食ってみるか」

ムシャムシャ

ライナー「これは……?」

ベルトル(さあ、ライナー。君はどうする)

ライナー「ただの……もやしだな」モシャモシャ

ベルトル(ライナー、きっと君は人間関係を忘れたわけじゃないんだよ)

ライナー「ただのもやしと、千切った少量のキャベツだ」ムシャムシャ

ベルトル(兵士とか戦士とか特級厨師とか)

ライナー「どれだけ食べても、もやしだな」ムシャムシャ

ベルトル(なるべきもの、ならなきゃいけないもの、なりたいものがごっちゃになって、
      わけが分からなくなったんだ)

ライナー「ただのもやしなのに……止まらん……何だこれは!?」ムシャムシャ

ベルトル(全部になろうとして、なれなくて、それで全てから逃げたんだ)

ライナー「箸が止まらんぞ!」ガツガツ

ベルトル(人間関係を忘れているんじゃない。思い出したくないことから目をそらしているんだ。
      そうやって心の距離を置いて、自分に都合の良い幻想にしがみついているだけなんだ)

ライナー「もやしを切り崩して、ようやく中の麺が見えたぞ」

ベルトル(だから)

ライナー「やっと麺が食えるな」

ベルトル(その幻想をぶち壊す!)クワッ

ズズズ

ライナー「うおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」

ベルトル「大盛り、野菜、ニンニク、マシマシだ!!」

ライナー「これだ! この味! ラーメンじゃない! マシマシの味だ!」ズズズ

ベルトル「君もマシマシ愛好家なら、忘れるわけが無いと信じていたよ」

ライナー「ガツンとぶん殴られるようなニンニクのパンチ!
      嘘臭い濃厚な脂! 極太のちぢれ麺! 体に悪そうなスープ!!」ムシャムシャ

ベルトル「だが、やめられない」

ライナー「そうだ! 絶対に後で胃にもたれる! しかし、食べずにはいられない!」ガツガツ

ベルトル「当然だ。これはラーメンじゃない、マシマシという食べ物なのだから」

ライナー「アニが未練がましくラーメン屋巡りをしていたが、ラーメンとは似て非なるものだ!
      何かが代わりになるはずが無い! これは別次元の領域にある味だ!」

ベルトル「君も味噌ラーメンを作っていたじゃないか」ハハハ

ライナー「俺のも手慰みだ。この味はお前にしか出せないよ、ベルトルト」

ベルトル「思い出した。いや、記憶から逃げるのをやめたんだね、ライナー」

ライナー「ああ、いらない苦労をかけたな。全部、思い出せる」フゥ

ベルトル「いいんだ、それで聞きたいんだけど」

ライナー「今の俺は何者か、だろ?」

ベルトル「ああ、教えてくれないか」

ライナー「俺は、戦士」

ベルトル「ライナー!」パァァ

ライナー「……で、あり兵士だ」

ベルトル「ライナー……」

ライナー「あと料理人見習いで、温泉ガイドに憧れを持ってて、故郷でロットマスターだった」

ベルトル「欲張りすぎだよ」

ライナー「すまんな、だがこれが今の俺だ」

ベルトル「どれか一つは選べないんだね」

ライナー「ああ。しかし、今の俺は間違いなくライナーだ。揺るぎ無く、決してブレない。
     ただ一直線のライナー・ブラウンだ。今はそれで勘弁してもらえないか」

ベルトル「仕方ないなぁ」フフッ


ガチャ

ライナー「!!」

ベルトル「!?」

アニ  「あんたら、何を夜中に騒いでるんだい」

ライナー「何だ、アニか」

ベルトル「アニ! 聞いてよ、ライナーの記憶が戻ったんだ」

アニ  「ふーん……それで?」

ライナー「それでって……冷たいな」

アニ  「そんなことより、私の分のマシマシはあるんだろうね」クンクン

ベルトル「……勿論だよ!」

今日はここまで。続きはそのうち。


翌日 トロスト・キッチン

ベルトル「ライナー、どうしても行くのかい?」

ライナー「ああ、けじめだからな。結果はどうなろうと、行かなきゃならん」

ベルトル「でも、また記憶が無くなったりしたら……」

ライナー「そのときは、またマシマシ作ってくれよ」

ベルトル「僕は医者でも料理人でもないんだよ」ハァ

ジャン 「よう、思い出したんだってな」

アルミン「やあ、ベルトルトも一緒なんだ」

ライナー「あぁ、世話かけたな。俺の記憶が戻ったからな、コンビ復活だ」

アルミン「うん、良かったね」

アルミン「今日は、ピクシス司令が来るはずだ」

ジャン 「リベンジマッチだな」

ライナー「今回は負けないぜ」

ベルトル「無茶はしないでくれよ、ライナー」

ピクシス「意気込んどるのぉ、訓練兵」

ライナー「来たな」

ジャン 「……どうも」

アルミン「今日は、お一人ですか?」

ピクシス「二人とも来とるよ、ワシが無茶せんようにな」

アンカ 「司令! また一人でいなくなって……あら」

グスタフ「君達は、ユトピア区で会った」

ライナー「その節は、お世話になりまして」

アルミン「今日は、お二人も参加されるんですか?」

アンカ 「司令がダメって言わなければね」

ピクシス「弁当の残り具合じゃの。見に行くか」

アルミン「僕達も行こう」

ジャン 「そうだな」

ライナー(ユトピア区の物産展だから、ユトピア区ゆかりの弁当があるはずだ。
     残りは5つ。2種類……いや全部同じ名前の弁当だな)

               ハービバノンノ
"温泉豚の肉そぼろ ちらし寿司"

ライナー(肉そぼろの……チラシ・ズシ? しかし、それよりもフリガナの意味が分からん)

ジャン 「なあ、チラシズシって何だ?」

アルミン「スシは、ご飯にお酢を混ぜたものらしいけど、食べたことは無いね」

ライナー「チラシは何だ?」

アルミン「”散らし”じゃないかな、肉そぼろが散らしてあるんだよ」

ジャン 「微かに漂う甘酸っぱいような香り……」

ライナー「ああ、美味そうだ」グゥ

ピクシス「数は十分じゃな、二人ともワシの邪魔をせんなら参加せい」

アンカ 「向こうで食べたのとは違うお弁当だけど、美味しそうね」

グスタフ「良い機会だ、お前らに俺が"グスタフ"と呼ばれる所以を教えてやる」

アルミン「確か、意味は”神の恩恵”ですよね?」

イクシス「夕市で神とは、半額神に他ならん」

グスタフ「俺の参加する半額弁当争奪戦は、月桂冠が出やすい」

アルミン「そんな、まさか」

ライナー「何か、コネでもあるんですか?」

グスタフ「いいや、俺は普段は特別美味そうな弁当でないと参加しないからな。
     そういうときは、必然的に月桂冠になりやすいだけだ」

アルミン「つまり、それだけの審美眼を持つだけの経験があるわけですね」

グスタフ「まあ、そういうことだ」

ジャン 「おい、半額神が来たぞ」

ライナー(全部、半額になっているな……いや! ひとつ、月桂冠があるぞ!?)

ライナー「どういうことだ」

ジャン 「何か違うのか?」

アルミン「一つだけ、見た目が少し違う弁当があったのに気づいたかい」

ライナー「ああ、そういえば、あったな」

ジャン 「どこが違うんだ?」

ライナー「見た目がちょっと違う弁当があったが、具体的にどこが違うのかは……」

アルミン「卵だよ。他のは炒り卵だけど、月桂冠には煮卵を半分に切った物が入ってた」

ジャン 「相変わらず、よく見てんな」

バタン

ドドドドドドド
ドドドドドドドドドドド

アルミン「この半額弁当争奪戦で、僕は自分の歩む道を示す!」

ジャン 「リヴァイ兵長の特訓を無駄にはしねえ!」

ライナー「ベルトルト、行くぞ!」

グスタフ「訓練兵に負けるわけにはいかないな」

アンカ 「負けてたまるもんですか!」

ピクシス「男子三日会わざれば活目せよと言うからのう、せいぜい楽しませろ」

アルミン VS グスタフ

アルミン「やってやる!」

グスタフ「やってみせろ」

アルミン(僕は、見ていることしか出来ないけれど、”見る”ことなら誰にも負けない!)

グスタフ「訓練兵だろうと手加減はしない、悪く思うな!」ブンッ

アルミン「……ッ」スッ

ドン

グスタフ「げふっ!?」グラッ

アルミン「ふぅ」

グスタフ「避けた……いやカウンターを狙ったのか?
     どういうことだ。とてもそんな身体能力は持っていないと思ったが」

アルミン「まぐれだと思うなら、何度でもどうぞ」

グスタフ「そうさせて貰おうかッ!」タタタッ

アルミン(集中!!!!)

アルミン(距離確認!)

アルミン(稼動範囲確認!)

アルミン(予測結果、右フック!)

アルミン(体の移動位置に、蹴りを放つ!)


ズンッ

グスタフ「ぐほっ!」

アルミン「……っ、はぁはぁ」

グスタフ「まただ。俺の動く前に避けて、移動する前に攻撃を放っているな!」

アルミン「それが分かったからって、避けられるわけではないですよ」タラー

グスタフ「何をやってるか分からないが、かなり消耗するみたいだな、鼻血が出ているぞ」

アルミン「!?」グイッ

グスタフ「俺より早く動くなら、それが出来ないほどスピードをあげるまでだ!」ダッ

アルミン(相手距離確認!稼動範囲確認!呼吸律動確認!右脳回転!想像力発射!)

アルミン(集中力 限界突破!!!)

アルミン(結果、左方からローキック!)タラ-

アルミン(全力でダッシュ! 胃袋を、全体重で、蹴飛ばす!!!!)

バキィ!

グスタフ「ゲボッ!」

アルミン「あぁ……!」
    (体重差が有り過ぎた……僕も吹っ飛ばされる……)

ガッ……ズザ……

アルミン「げほ……」
    (思ってたよりも消耗が酷い。目が霞む。体に力が入らない)

アルミン(グスタフさんは、起き上がれないみたいだ…………。
     まだ、立ち上がらなくちゃ。自分で歩いて、ピクシス司令を倒さなきゃ……)

リコ  「あれだけの大口を叩いて、無様にやられる姿を見に来たんだがな」スッ

アルミン「うう……僕は……」

リコ  「見ていたぞ。何だアレは、もしかして『見』のつもりか」

アルミン「力がなくても、才能がなくても……」

リコ  「無茶苦茶だ。経験を全く無視している。
     お前のは、情報と計算で割り出した機械的な予測だ」

アルミン「……歩くんだ、自分の足で」

リコ  「ただまぁ、誰もやらないことに挑戦した意地と根性は、認めるよ」

アルミン「壁の外を冒険する為に……!」

リコ  「今から、あのハゲ頭ひっぱたいてくるから、少し寝てろ。
     うまくいったら、晩飯奢ってやるよ」ワシャワシャ

アルミン「……あれ、リコ班長……何でここに……?」ボー

                              スペランカー
リコ  「鼻血出した甲斐があったな。お前は今、最弱の冒険家だ」

アルミン(ダメだ……目が霞む、まぶたが重い、リコ班長のあんな幻覚まで見えるなんて……)カクン

今日はここまで。おやすみなさい。



ライナー「俺も行くぞ!」

ベルトル「"仮面"ライナーの復活だね」

ライナー「いいや、仮面はやめた。前に言ったろ、今は」

ベルトル「今は?」

           ライナー
ライナー「今は、"一直線"だ」

カッ!!

ライナー「うおおおおおおおおおお!!!!」

アンカ 「真っ直ぐ突っ込んでくるだけなんて、芸の無い!」

ピクシス「手を出すでない、弾き飛ばされるぞ」

アンカ 「しかしピクシス司令!」

ジャン 「よそ見してる場合ですかね!」ガッ

ライナー、ジャン VS ピクシス、アンカ

アンカ 「くっ」

ピクシス「ワシが迎え撃つ!」

ライナー「うおおおおお!!!!」

ピクシス「撃ってくれと言わんばかりじゃな」フラー


ガッ

ライナー「ぐっ」

ピクシス「くッ」

ベルトル「……どうなったんだ!?」

アンカ 「……え?」

ベルトル「ピクシス司令に………止められてる?」

ピクシス(……カウンターで殴り飛ばすつもりだったんじゃがのう。
      勢いを殺しただけで、相殺に留まったか)

ライナー「うおおおおおおおお!!!」

ピクシス「ぐっ、押し通るつもりか!?」ジリジリ

ジャン 「そのままだライナー! 動かすなよ!」タッ

アンカ 「何をするつもりか知らないけど、させないわよ!」タッ

ジャン 「また肩借りるぜ!」タタッ

ベルトル「え、あ!?」

アンカ 「ノッポを踏み台に!?」



数日前 山中

リヴァイ「俺は昔、ここで巨大な熊と野生の狼が戦っているのを見た」

ジャン 「は……?」

リヴァイ「熊は一頭、狼は多数いたが、熊のほうが優勢だった」

ハンジ 「地元じゃ有名な熊だったらしいよ」

リヴァイ「だが、狼の中でも一際小さな固体が、飛び上がったかと思うと、
     信じられんような動きをして、熊の首をはね飛ばした」

ジャン 「え、はね飛ばしたんですか!?」

ハンジ 「信じられないよねぇ、私も話を何度か聞いたけど未だに眉唾だし」

リヴァイ「信じるかどうかは手前次第だ。だが、俺はその時見た光景から、
     立体機動装置と組み合わせ、巨人をブチ殺す技を思いついた」

ハンジ 「あ、アレがそうなんだ。よくやってるもんね」

リヴァイ「生身でも熊程度なら倒せるはずだ。一度だけ見本を見せてやる」

ジャン 「は、はい! ありがとうございます!」


ベルトル(ジャンが僕を踏み台に飛び上がった! 駐屯兵団の女の人も追いかけてる!
     また天井を蹴って急降下するつもりだ!)

ジャン 「ぜぇええええええっ!!!」

ベルトル(違う!? 蹴った反動で、全身を高速で縦回転させた!?)

アンカ 「……あ、安価! >>253 コンマ1桁が偶数なr」

ジャン 「てぇえええええええ!」ガガッ

アンカ 「キャアア!」

ピクシス「な、何じゃ!?」

ライナー「うおおおおおおおお!!!」ググッ

ピクシス「し、しもうた!」

ジャン 「とおおおおおおおお!!!!!」ドシュッ

ライナー「うおおおおおおおお!!!」ダダダッ

ズバンッ

アンカ 「へふっ」ドンッ

ピクシス「がはっ」ズザッ

ベルトル(ジャンを追いかけてた女の人と、ピクシス司令が折り重なって倒れている。二人が、勝ったんだ!)

ピクシス「ぐっ……」

ジャン 「げっ、まだ起きるのかよ」


ライナー「うおおおおおお!!」ダダダッ

ベルトル(……え?)

ピクシス「……あやつ、弁当しか見ておらんわい」

ベルトル(確かに一直線だね。ライナー……)フフッ

リコ  「そして貴方は、楽しむことしか見ていなかった」

ジャン 「え!?」

ピクシス「な、ん!?」

バチンッ!!!

ベルトル(いきなり現れた駐屯兵団の人が、ピクシス司令の頭を思い切り叩いた……)

ピクシス「……がっ!」ガツン

アンカ 「キャッ!」ガツン

ベルトル(叩かれた頭が、玉突きみたいにぶつかり合ってまた倒れる)

ピクシス「」

アンカ 「」

ベルトル(今度はもう、起き上がれないみたいだ)



ジャン 「ピクシス司令が立ち上がった時は、もうダメかと思ったぜ」

リコ  「お前が未熟だからだ。大技なら一度で決めろ」チッ

ベルトル「それよりも、僕が半額弁当とっちゃって良かったのかな。見てただけなのに」

ライナー「構わないだろう、他に生き残っていた餓狼もいなかったしな。それも戦略だ」

リコ  「私は戻るぞ。コイツは、私が連れて行くからな」

アルミン「いえ、僕はもう、大丈夫なので」

ジャン 「どうぞ」ビシッ

ライナー「よろしくお願いします」ビシッ

ベルトル「ええっ、いいの!?」

アルミン「その、あの……」ズルズル

ジャン 「まぁ、悪いようにはされないだろ」

ライナー「前から交流があったようだしな。ジャンも一緒に弁当食わないか?」

ジャン 「悪い、弁当取れたらリヴァイ兵長達に分けるって約束してるんだ」

ライナー「そうか、それならまた今度だ」

ベルトル「僕達も行こうか」

ライナー「ああ、そうだな」


訓練兵団 食堂

ライナー「これが、温泉豚の肉そぼろ ちらし寿司か」

ベルトル「甘い香りだね」

ライナー「では、頂きます」

ベルトル「いただきます」

パクッ

ライナー(優しい甘みだ。酢が入っているが、全然キツくないな)モグモグ

ライナー(米も普通のより少し固い。時間が経っているからというより、元々固く炊いてあるんだろう)

ベルトル「美味しいね、お米に玄米を使っている」モグモグ

ライナー「そうか、これは玄米か」

ライナー(パラパラとした米の一粒一粒に、酢がしっかりと絡んでいる)モグモグ

ライナー(口の中に酸味が広がる。唾液が、止まらん)

ライナー(さやインゲンに、肉そぼろ、卵と紅生姜。見た目も鮮やかで楽しませてくれる)

ライナー(さやインゲンは軽く塩茹でしてあるな。青臭くないし、歯ごたえも残ってる)ポリポリ

ライナー(固めの米に合わせたのか、甘く濃い味の豚肉そぼろも美味い。
      噛み締める度に肉汁が染み出すようだ)モグモグ

ライナー(紅生姜の強めの酸味が、口の中をサッパリとさせてくれる)

ライナー(そして、煮卵だ)パクッ

ライナー(ふぉおおおおおう!)

ライナー(すごいな! タレが黄身まで十分に染みこんでいる!)

ライナー(豚肉そぼろの濃い味にも負けないくらいだ!)モグモグ

ライナー(黄身だけが半熟になっていて、トロリとした食感が舌を包み込む)

ライナー(このチラシズシというのは、恐らく出来立てよりも
      少し時間が経ってからのほうが味がしみこんで美味いな)

ライナー(彩りも鮮やかだ。肉そぼろにさやインゲン、ニンジン、しいたけ、タケノコ、そのほか色々)

ライナー(ん? これは何だ。黄色いが、卵ではなさそうだな)パクッ

カリッ

ライナー「ふぉっ!?」

ベルトル「どうしたの?」

ライナー「これは、揚げ玉か!」

ライナー(やられたぜ! 柔らかく煮込まれた具の中で、さやインゲンとは違う歯ごたえだ!
      油の強い風味だが、不思議と酢飯に良く合う!)カリカリ

ベルトル(どうしよう、またライナーがわけの分からないことを言い出した……)

ライナー「そんな顔するなよ、お前のにも入ってるはずだ。食ってみろ」

ベルトル「何だ、お弁当の話か。驚いたよ……ふぁ!?」

ライナー「また驚いたな」フフフ

ベルトル「これは、びっくりするね」カリカリ

ライナー「ただの揚げ玉じゃないな」

ベルトル「うん、ピリっとくる辛味と、強い香りがする」

ライナー「七味のようだが、独特の香りだな。鮮烈なのにどこか華やかだ」

ベルトル「山椒かな? 突き抜けてふわっ広がる辛味だね」

ライナー(バランスをとるようにふんわりと甘めの酢飯)モグモグ

ライナー(ぎゅっと噛み締める歯ごたえ、酢の酸味が広がる)

ライナー(煮込んであるニンジン、椎茸の風味、タケノコの食感)

ライナー(これだけの具が入っているのに、全ての具がお互いを高めあっている)

ライナー(決してバラバラにならない、一つになってもいない、それぞれが個でありながら調和を実現している!)

ライナー「ふぅ、ごちそうさま」

ベルトル「ごちそうさまでした」

ライナー「美味かった」

ベルトル「そうだね」

ライナー「なあ、ベルトルト。俺はチラシズシになりたい」

ベルトル(どうしよう、ライナーがおかしくなった……)

ライナー「いや、だからそんな顔をするな。将来の夢の話じゃない。
      これだけの具を内包しながら、崩れることの無い味を適えているだろう」

ベルトル「ああ、そういう比喩の話か。
      ライナーの話は、たまに言うことが冗談とも本気ともつかないからね」

ライナー「全てを、叶えたい。戦士も兵士も餓狼も」

ベルトル「君なら出来るさ。
      故郷に帰るのが第一だけれど、そのくらいなら欲張ってもいいよ」

ライナー「あと、クリスタと結婚したい」

ベルトル「それは欲張りすぎだね」

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ジャン・キルシュタイン

調査兵団詰め所に行くが、3人に弁当を8割方食べられて涙目になる。

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アルミン・アルレルト

駐屯兵団まで引きずられて行く。
お酢にもバストアップ効果がある話をしたところ、リコ班長の目の色が変わる。

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ドット・ピクシス

酒を買って帰り、駐屯兵団本部でアルミンとリコの間に割り込んで酒盛りを始める。
ちらし寿司を横から摘んだら、リコに凄い嫌そうな顔で見られたが、男らしく無視。
これにはグスタフとアンカも苦笑い。

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ベルトルト・フーバー

これからも暫くは同郷の友人に振り回されそうである。

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ライナー・ブラウン

自分の中に息づく多数の虫がいる。
ひとつの餌に向かっている時は良いが、コイツらはバラバラに動き回る。
そうすると、もう支離滅裂としか言い様の無い状態になる。
全てを受け入れて自分のものにすることは、とても難しい。
中途半端な糞野郎には、なりたくないと思う。

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(おわり)

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