国王「勇者よ、魔王を退治してくれ」勇者(47歳)「はぁ!?」 (397)

騎士長「国王様、お呼びでしょうか?」

国王「うむ…おぬしが魔王を倒し、この国で騎士として勤めるようになって何年が経ったかの?」

騎士長「はて…およそ30年ほど経ちましょうか」

国王「30年か…長いようであっという間であったな…」

騎士長「さようでございますな、元はと言えば商家の小倅であった私は、魔王討伐の功をもって叙勲いただきましたが」

騎士長「騎士としての作法の右も左もわからぬまま、ただ必死で日々を過ごすうちにこのような歳になり申した」

国王「ワシも同じよ、魔王が倒れ平和になったかと思えば隣国との争い、飢饉に干魃、30年などあっという間に過ぎよった」

騎士長「して、本日は一体どのような御用で」

国王「うむ…先程、大神殿より知らせがあってな」

国王「魔王が復活したそうじゃ」



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騎士長「………なんと!?」

国王「お主らが封じた魔王、これほど早く復活するとは……のう…」

騎士長「馬鹿な…女神の力を借りて施した封印は300年は破られる事はないと」

国王「それはワシもそう聞いておった…しかし信じ難いことだが、神託が下った以上魔王の復活は疑いようがない」

国王「されば、騎士長…いや、勇者よ、再び魔王を倒してもらえぬか?」

騎士長「し、しかし…」

国王「分かっておる、そなたもすでに前線から身を引いて久しい」

騎士長「はい、恥ずかしながら、もはや剣の振り方も覚束ぬ有様、私で魔王の相手がつとまるとは…」

国王「ワシとしても我が国の有能な武官でもあるそなたを、このような時期に死地に送り出すような真似はしたくはない」

国王「しかし、そなたの後に勇者の神託を受けた者はおらぬのだ」


国王「勇者は常に一人、そして魔王は勇者にしか倒す事は出来ぬ」

国王「それは有史以来変わらぬ世の理じゃ」

国王「なれば、そなたに立ってもらうより他に無いのじゃ」

騎士長「さようでございますか……」

騎士長「一つお伺いしてよろしいでしょうか」

国王「なんじゃ?」

騎士長「それは、勅命として賜る事になりましょうか?」

国王「…よかろう、我が名において命ずる、騎士長、いや、勇者よ、復活した魔王を討伐せよ!」

勇者「国に仕えし騎士たるわが身、王命とあれば否やはございませぬ、確かに承り申した」

国王「すまぬ…頼んだぞ、勇者よ……」


--- 帰り道 ---

勇者「魔王の討伐か…あれから30年…もはや剣など年に何度も振る機会もないというのに…」

勇者「この弛んだ腹で魔王討伐か…ははは、お笑い種だ」

勇者「剣術…か…」スチャ

勇者「ふん!」ビュンビュン!!

勇者「おととと」フラフラ

勇者「はは…は、こりゃ参ったな」

勇者「………なんだか情けなくて涙が出てきたわ」

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--- 一週間後 ---

勇者「それでは、王よ、これより魔王討伐の任につき、出立致します」

国王「うむ、頼むぞ、勇者よ」

国王「路銀などは支障ないか?」

勇者「はっ、昨日受け取りましてございます」

国王「では酷な任とは思うが、どうかよろしく頼む。武運を祈るぞ」

国王「当然ながら騎士としての俸禄は変わらず支給する。留守中の家族の事も騎士団が面倒を見る。心配するな」

勇者「ははっ、ありがたき幸せ!」

勇者「(もっとも、あの家にはもう誰も居ないんだけどな…)」


--- 一週間前 夜 勇者自宅 ---

勇者「魔王が復活した。俺がその討伐にあたる事になった」

妻「そうですか、では旅に…?」

勇者「そうだ」

妻「分かりました。では帰ってこられるまで私は娘を連れて実家におりましょう」

勇者「……そうか…」

妻「出立はいつごろ?」

勇者「そうだな、準備だなんだで数日はかかるだろう」

妻「では、私はその前に実家の方に参ります」

妻「お見送りはできませんがご武運を」

勇者「ああ………」

妻「あ、そうそう、騎士団の俸禄の方は変わりなく?」

勇者「………当然だ、これも騎士としての勤めの一環だ」

妻「そうでございましたか、安心致しました」

勇者「……………」

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勇者「(妻との関係が冷え切ってしまったのはいつからだろう…)」

勇者「(30年前、魔王を倒して凱旋した俺はすぐに故郷で待っていた幼馴染と結婚した)」

勇者「(最初はもちろんこんなではなかった、むしろ幸せの絶頂にあったと言って良いだろう)」

勇者「(ところが、娘が生まれ、騎士団の仕事が忙しくなってから、いつしか会話が減り…)」

勇者「(そして、気付けば寝室が別になり、家には俺の居場所は無くなって行った)」

勇者「(娘も育つにつれ徐々に父を疎んじるようになり)」

勇者「(家は俺にとってただ寝に帰るための場所になってしまった)」

勇者「(今、家族との関係があんな風になって居なければ)」

勇者「(こうして旅立つ時の気持ちもまた違うのかもしれない…)」

勇者「(……まあ良い、俺が道半ばにして倒れても悲しむ者は少ないとも言える)」

勇者「(考えようによっては気楽に旅立てるというものだ…)」

勇者「(おっと、考え事をしている間にいつもの癖で騎士団の詰所に来てしまった)」

勇者「(ちょうどよい、長年苦楽を共にした同僚たちに一言挨拶して行くとするか)」

勇者「(おっと……何か話してる……俺の話か…?)」


騎士A「なあ、騎士長が居なくなったあと、誰がその座を奪るかな」

騎士B「さあな、順当に行けば騎士長の補佐がそのまま昇進だろうがな」

騎士A「そうかな、俺は他の隊からの抜擢のが濃厚だと思うんだけどなー」

騎士B「かもな、まあ何にしてもさ、一つポストが空くとなれば、俺らにもチャンスが来るかもな」

騎士A「だな、大体あのオッサン、昔魔王を倒したかなんか知らないけど、いつまでもハバきかせ過ぎなんだよな」

騎士B「だよなー、団長になれるほどの器も無いクセにいつまでも中間管理職に居られっと鬱陶しくてかなわねーよ」

騎士A「あーゆーのを老害って言うんだよな」

副団長「そこの、いつまで無駄口叩いておるか!」

騎士A「やべっ!」

騎士B「申し訳ありません!」

副団長「とはいえ、お主らの不満も分からんでもない(ニヤリ)」

副団長「騎士長は元勇者という事で、能力は大した事ないにも関わらず大きな影響力があったでな」

副団長「扱いが難しいところがあった。その分おぬしら若い騎士どもがワリを食っておった側面もあろう」

副団長「私はこれを機に、騎士団の風通しをより良く改革していくつもりだ」

副団長「となれば、おぬしらにももっと重要な役目を担ってもらう事にもなろう」

副団長「その時にはよろしく頼むぞ!」

騎士A.B「はっ!」


勇者「(ははは、こりゃまた………)」

勇者「(昨日まで、アイツらは気のいい同僚だと思っていたが…)」

勇者「(俺はずいぶん甘かったようだな…)」

勇者「(家族との関係を冷え切らせてまで打ち込んだ騎士としての勤め…それがフタを開けてみればこのザマだ…)」

勇者「(一体…俺の30年はなんだったんだろうな…)」

勇者「(まあ良い、いっそ清々しい。これで何の未練も無く旅立つ事ができる)」

勇者「(ふふ、魔王か、いっそ懐かしいな…今更のこのこと何をしに現れたか知らぬが)」

勇者「(過去の亡霊の相手は過去の亡霊が相応しい。俺がもう一度引導を渡してくれよう)」

勇者「(いや…渡されるのは俺の方か……)」


--- 王都 カジノ前 ---

黒服「はいはい帰った帰った、アンタはウチじゃ出入り禁止なんだよ」ドカッ

遊び人「ぐえっ…畜生、俺が何したってんだ……ちょっと小銭を稼がせてもらっただけじゃねーか」

黒服「ちょっとだぁ?ふざけんな、アンタのせいで潰れたカジノが何軒あると思ってんだ」

遊び人「そりゃあそんな弱いディーラーを置いてるカジノが悪いんだろ!」

黒服「とにかく、もうこの街じゃアンタに打たせるような賭場は一軒も無いんだ、さっさと博打から足を洗ったらどうだい?」

遊び人「ちっ、ふざけんな、二度と来ねーよこんなシケたカジノ!」

遊び人「くそっ、胸糞わるい!仕方ねぇ、飲み直す…金もねーか…畜生…」ドン!

遊び人「バカやろ、ドコ見て歩いてやがる!目ん玉ついてんのかこの………お?」

勇者「戦士……」

遊び人「ゆ、勇者じゃねーか!」

勇者「相変わらず口が悪いな、ちっとも変わってない」

遊び人「お前こそちっとも……いや、そーでもないな、随分立派なハラになったじゃねーか」

勇者「まあな、騎士団も役職持ちになるとデスクワークが多くてな、すっかり運動不足だ」

遊び人「その騎士様がこんなシケた裏町に何の用だ?てゆーかお前、なんで旅支度してんだよ?どっか出張か?」

勇者「いやそうじゃない…それより、飲み直すんなら一緒に一杯どうだ?」

遊び人「マジか!いやでも、俺ぁ今酒代もロクに持ってねーぞ?」

勇者「これでも王国騎士だ、そんぐらいの金はある、奢るよ」

遊び人「そいつぁありがたい、そんじゃ、何年ぶりかわかんねーが、久々に乾杯すんべよ!」


--- 王都 某酒場 ---

遊び人「よーし!久々に会った旧友に乾杯!とくらぁ!」

勇者「おう、乾杯!」

遊び人「んで、お前、随分シケた顔してんじゃねーか、何かあったのか?」

勇者「そりゃあまあ…おいおい話す、お前こそどうしてんだ?戦士」

遊び人「なんだか昔の名前で呼ばれると恥ずかしいなw もうすっかり遊び人よ、俺ぁ」

遊び人「こう見えて、王都の風俗街じゃあ結構な有名人なんだぜ?」

勇者「みたいだな、町中のカジノから出禁食らうって、お前どんだけ荒稼ぎしたんだ?」

遊び人「ああん?大したこたねーよ、まあ確かに何軒かカジノ潰して賭博王なんて呼ばれた時期もあったけどよー」

勇者「それを荒稼ぎって言うんだよ、しかし、そんだけ稼いで今無一文ってどんな金の使い方したんだよ」

遊び人「ばーか、遊び人は宵越しの銭は持たねんだよ」

勇者「そういえばお前、戦士の頃から計画性無かったもんなぁ…」

遊び人「まあな、よく僧侶にグダグダ言われたな」


勇者「戦い方も魔神切りばっかで、今思えばあの頃からお前一か八かのバクチ好きだったんだな」

遊び人「元々ギャンブルは好きだったからな。だけど、ここ一番ってトコで魔神切りを外した事はないぜ?」

勇者「そうだったな、おかげで僧侶も強くも言えずによくモヤモヤしてたよ」

遊び人「アイツは堅実だったかんなー、凱旋の後、すぐにその報奨金と教会の人脈を生かして商人になってたしな」

勇者「ああ、今じゃ隣国で指折りの豪商だそうだ」

遊び人「全く、金貯めこんで何が楽しいんだか…ま、普通に見りゃアイツが勝ち組なんだろうがよ」

勇者「まあ……幸せの形ってのは人それぞれだからな」

遊び人「ところで、お前、何があったんだ?こんな時間に王国騎士が旅装束で馬にも乗らず一人歩きなんて、どう見てもおかしいぞ?」

勇者「うん…まあな…………実はな、魔王が復活したらしい…」

遊び人「…………え?」


勇者「魔王が復活したんだ。だから、もう一度俺が討伐に出る」

遊び人「そんなバカな、女神の封印は300年…」

勇者「そう聞いてたんだがな、魔王復活って神託が降りたそうだ。間違いないだろう」

遊び人「マジか…そ、それにしたって今更お前が行かなくても、もっと若いのが居るだろう?」

勇者「ところが、俺の後にまだ勇者の神託がないらしい。だから、未だに俺は勇者ってワケだ」

遊び人「ホントかよ?どこか遠い国に新しい勇者が生まれてたりするんじゃねーのか?」

勇者「俺もそう思ったんだがな、見てくれ、久々に引っ張り出してみた勇者の剣だ」ピカアァァ

遊び人「女神の加護か…」

勇者「そういうことだ」

遊び人「で、お前、本当に行く気か?あの魔王城まで」

勇者「まあな、今の俺じゃ魔王の相手にゃならんだろうが…」


遊び人「お前、バカじゃねーの?」

勇者「どういう意味だ」

遊び人「お前さ、一度は魔王を倒した英雄なんだぞ?それがさ、騎士団就任程度の褒美で誤魔化されてよ」

遊び人「大した権限もないまんま飼い殺されて、しまいにゃもう一度魔王仕留めて来いだ?」

遊び人「そんなバカな話があるかよ?お前なに?国王の奴隷なの?そんなバカな命令なんできいてんの?」

勇者「いや、違うんだ、戦士」

遊び人「その名前で呼ぶんじゃねーよ…」

勇者「俺もさ、最初は理不尽だな、と思ったんだ」

勇者「だけどさ、事態がこうなってみると、実は俺には何もないって事がよく分かったんだよな」

勇者「仕事も、家庭も、そして国も、実は誰も俺の事なんか必要としてなかったんだよ」

遊び人「お前…」


勇者「だからさ、むしろ、今、俺は年甲斐もなく少しワクワクしてるんだ。あの魔王を倒しに旅に出る、って事にさ」

勇者「確かにあの旅は辛かったけどさ、今思えば、あれは俺の人生の中じゃ最高の時間だったよ」

勇者「だから、あの頃のように…は行かないだろうけどさ、この鈍った身体じゃな。でも、なんか楽しいような気がしてるんだ」

遊び人「ふん…ま、ありゃ確かに今思えば楽しかったな…」

遊び人「何もわからねぇガキだったが、勢いでなんでも乗り切れた」

勇者「ああ、死にかけても、回復魔法一発ですぐケロっとしてたな」

遊び人「野宿だって全然苦じゃなかったし、徹夜でカジノで遊んだ足で、寝ないでダンジョン攻略なんて事もあったな」

勇者「僧侶にさんざん文句言われたよな、緊張感が足りないって」

遊び人「『ダンジョン攻略の前の晩にカジノで夜を明かすとは何事ですか!』ってな」

勇者「でも延期にしようって言う僧侶を、魔法使いが押し切ったんだよな」

遊び人「そうそう、お宝が目の前にあるのに、延期して誰かに横取りされたらどうするんだ!ってな」

勇者「アイツ、普段はおとなしい癖にお宝ってなると眼の色変わるんだもんな」

遊び人「だよな、でも手に入れたお宝を売ったら、もうその金には興味ねーってんだから変わったヤツだった」

勇者「今思えば、みんな揃ってなんであんなに元気が溢れてたのかさっぱりわからんな」

遊び人「そうだな…あれが若さってヤツだったんだよな……当時は全く自覚も何も無かったが」

勇者「だな…………」


遊び人「なあ………勇者よ」

勇者「なんだ?」

遊び人「お前さ………行くなら本気で魔王倒せや」

勇者「別に手を抜くつもりはないよ、まあ俺が今から本気を出したところで手に負える相手じゃないだろうが」

遊び人「そうじゃねぇよ!それはお前、正面から行く事考えてんだろ?」

遊び人「鍛え抜いた剣技と魔術で魔王と渡り合う、ってのもいいけどよ、そりゃ若い時のやり方だろ?」

遊び人「俺らはさ、そっから30年の人生経験積んでんだ。だったら、今のお前なりのやり方ってモンがあるんじゃねーのか?」

勇者「だ、だけどよ、魔王相手に一体どんなやり方すりゃいいんだよ」

遊び人「そりゃわかんねー、考えた事も無いからな。だがよ、思い出してみろ、30年前の戦いを」

遊び人「あの時、多分俺らの強さは全盛期だったよな、それでもあれはギリギリの戦いだったんじゃねーのか?」

遊び人「忘れたワケじゃないだろ、はみ出たハラワタ引きずりながら、最後の力を振り絞ってその勇者の剣を振り下ろした事をよ」

勇者「ああ……あの時の事は未だにたまに夢に出てくるくらいだ」

遊び人「全盛期であの始末だ、だったら、今の腹の出たお前がいくら気張って剣を振り回したところで、結果は見えてるだろうが」

遊び人「そんなら別の手を探した方がまだ勝ち目があるんじゃねーのか?」

勇者「……………」


遊び人「お前だって、騎士団に入ってから、ただ名誉がどうこう喚いて剣振り回してただけじゃあるめぇ」

遊び人「隣国に潜入任務に着いたって話も聞いたし、派閥に揉まれて根回しだなんだってやってきたんだろ?」

遊び人「この30年で国、いや、世の中ってモンはキレイゴトじゃ回っていかねぇ、時にはド汚ねぇ手も使わなきゃならねぇ、って事を知ったんだろ?」

勇者「ああ…そうだな、ってお前、なんで極秘の潜入任務の事知ってんだ」

遊び人「ふん、蛇の道は蛇ってな。夜の街にはオモテとは違う情報の経路があんだよ」

遊び人「んな事ぁどーでもいい、いいか、お前はな、もうあん時の真っ白で純真無垢な勇者様じゃねーんだ」

遊び人「とっくに汚れちまった灰色のオッサン勇者なんだよ」

遊び人「だったら、これまでの人生で覚えたキレイなのからド汚ねぇのまで、全部の手を尽くして初めて本気って言えるだろ、違うか?」

勇者「…………そう、かもしれないな」


勇者「俺はな、戦士」

遊び人「んだよ、またその名で呼びやがって」

勇者「諜報だ、謀略だ、根回しだなんだ、って面倒な世界にすっかり疲れちまってた」

勇者「だからな、こうして再び魔王討伐を命じられた時、ふっと心が軽くなった気がしたんだ」

勇者「ああ、これで久しぶりに物事がシンプルになった、正々堂々と魔王に挑める。なんて分かりやすいんだろう」

勇者「道半ばにして倒れる事があったとしても誰に恥じる事もない、俺の人生の幕のおろし方としちゃ上出来だ、ぐらいに思ってたんだ」

勇者「けど………勇者ってのはそれじゃいけないのかも知れないな」

遊び人「あったりめぇだろ!お前な、勇者ってのは人類全ての希望なんだぜ?」

遊び人「その希望がそんなあっさり諦めちまってどうすんだよ」

遊び人「魔王を倒すまでは最期の最期まで足掻いて足掻きつくす、それが勇者の本懐ってモンだろ」

勇者「ああ、そうだな……ありがとう、戦士」

遊び人「だから今の俺は遊び人だっつーの」

勇者「そうだったな、じゃあ、遊び人」

遊び人「なんだよ、改まって」

勇者「お前のお陰で腹がくくれたよ。だからな、礼と言っちゃなんだが」

勇者「お前、俺の魔王討伐に協力しろ」


遊び人「はあああ!?」

遊び人「どうしてそうなるんだよ、意味わかんねーな、お前、こんなカジノにも出入りできない遊び人捕まえてどうする気だよ」

勇者「ふ、お前が言ったんだろ、使える手は全部使え、って」

勇者「まずな、お前は30年前に魔王と戦った貴重な経験者だ」

勇者「しかも、世の中の裏にも通じてるし、何よりその博才は大いに役に立つ」

遊び人「ふざけんなよ、バカ言ってんじゃねえ、俺はそんな事する義理ぁねーんだよ!」

勇者「ほう、だがよ、お前、街中のカジノに出禁食らってこれからどうすんだ?」

遊び人「ふん、そんなのはアレだ、俺ぐらいになりゃどうとでもなんだよ、女にたかるなり何なりな」

勇者「ふーん、だけどさ、どうせならお前は博打で食って行きたいんだろ?」

遊び人「ま、まあよ……そりゃ俺はギャンブルは好きだがよ……」

勇者「お前の出禁は他の街にまで及んでるわけじゃないだろ?どうだ、俺に着いてくれば、関所はフリーパスだぞ?」

遊び人「くっそ、なんだお前、いきなり腹黒くなりやがって」

勇者「そりゃお前、俺に年甲斐もなくアツい説教かましてくれた誰かさんのせいだよ」

遊び人「……しょーがねーな、わぁったよ!知らねえ仲でもねーしな、付き合ってやんよ!」

勇者「おう、よろしくな(ニヤリ)」

遊び人「代わりにおめぇ、魔王倒したら報奨金は山分けだぞ?(ニヤリ)」

・・・・前、VIPに建ってた方じゃ・・・ないのか・・・・

続きまってる


--- 翌日 ---

遊び人「んで、まずはどーすんだ?」

勇者「まあ、色々考えたんだがな、まずは昔の仲間をあたろうと思う」

遊び人「すると…まずは居場所が分かってんのは僧侶か?」

勇者「今は商人だけどな、まあ、アイツの資金力と情報力は是非欲しいな」

遊び人「他のメンツでその後の消息が分かってんのは…確か武闘家はなんか山に篭ったって聞いたな」

勇者「それは俺も聞いたな、北の国の雪山に篭ってその後行方しれずだって話だな」

遊び人「まあアイツは魔王退治も武者修行の一環、みたいな感じだったからな、今でも武闘家やってんだろうな」

勇者「まあ、北の国は遠いからな、頼るにしても大分先の話になるな」

遊び人「魔法使いはそういえば、風の噂じゃ盗賊になったって話だ」

勇者「ああ…わからんでもないな、アイツはエルフの癖にやたらお宝に目がないヤツだったからな」

遊び人「あのアマぁちっとも老けてねーんだろうな、あの頃は気にもしなかったが、こうなってくると羨ましいぜ」

勇者「ま、そりゃ言ってもしょうがない」


遊び人「そんで、昔の仲間をあたって何をしようってんだ?」

勇者「まずは情報集めだな、なんといっても、300年保つハズの魔王がたった30年で復活したんだ」

勇者「普通じゃありえない。何か原因があるハズだからな、それを探る」

遊び人「確かにな、誰かが何かしない限りはそんな事は起きないハズだもんな」

勇者「あとは、30年前とは大きく違うのは魔族どもの状況だ」

勇者「今じゃ魔王城のあたりにも結構人間も住み着いて交易も多いって聞くからな」

勇者「魔王城の状況なんかも少し情報を集めたい」

遊び人「そうだな、あと、もう一つ大事な事があるぜ」

勇者「なんだ?」

遊び人「魔王本人について調べる事だ」

勇者「弱点とかか?」

遊び人「それもそうだが、そもそも俺達は魔王について実はロクに知らねえ」

ほほう

遊び人「命のやりとりまでしておきながら、俺達は魔王がどんなヤツか、ほとんどしらねーんだよ」

遊び人「何が好きで、何が嫌いなのか、せっかちなのかノンビリ屋なのか、そういう事が全然わからねえ」

勇者「それは、つまり魔王の人格についてって事か」

遊び人「ああ。いいか、博打で大一番を打つ時ってのは、何よりもまず相手の事を観察するんだ」

遊び人「熱くなりやすいタイプなのか、小細工を弄するタイプなのか、プライドが高いタイプなのか」

遊び人「そういう細かい事を観察する事で、ソイツの賭け方ってのが見えてくる」

遊び人「それを分かった上で、流れを見極めてここぞ、って所で勝負する、それが博打で勝つ秘訣だ」

勇者「一言に博打って言っても奥が深いな」

遊び人「あたぼうよ、だからな、まずは魔王の人となりってヤツを見極める事が必要だ」

勇者「確かにな……俺達は伝説にある魔王の誇張された悪の顔しか知らないからな」

勇者「魔王が何を考えているのかが見えてくれば、何か突破口が開けるかもしれないな」

遊び人「まあ、魔王の前に、まずは商人の方を攻略しねーとな」

勇者「確かにな、アイツの事だ、正面から魔王退治に行こうぜ、なんつっても……」

遊・勇「「そんな危ない橋は渡れません、もう少し頭を使ってはいかがですか?」」

勇者「………ぷっ」

遊び人「ぶははははは、絶対言うよな!」

勇者「だな、間違いない!!!」

遊び人「よーし、少しは無い頭を使ってやろうじゃねーの」

勇者「………よし、なんとなくだが考えはまとまった、まずはお前、隣国に先に入ってくれ」

勇者「そんで、2~3日夜の街で遊びながら商人の情報を集めてくれ」

遊び人「おうよ、だがその間お前はどーすんだ?」

勇者「俺らが二人連れ立って隣国に入れば絶対商人の耳に入るからな、俺は昔の潜入任務の時と同じ方法で入国するよ」

遊び人「わかった、じゃあ、まあほどほどに遊んでおくよ、軍資金はくれるんだろうな?」

勇者「国王から路銀が出てるからな、ほれ、コイツで適当に遊んでてくれ

勇者「バカ勝ちしすぎて向こうのカジノで噂になったりすんじゃねーぞ?」

遊び人「任せとけって、ほどよく負けたりそこそこに勝ったり、てのもプロにかかりゃ自由自在よ?」

勇者「……それが出来てりゃこの街でも出禁喰らう事もなかったんじゃないのか?」

遊び人「うるせーよ、ありゃあちっと調子に乗り過ぎたんだよ」

--- 数日後 隣国王都 ---

使用人「以上、今年の国内の小麦の出来高はこのような予想になっております」

商人「ふむ、今年は天気も良かったですからね、そうすると相場はかなり下がりますね…」

商人「北の国の羊毛の方はどうですか?」

使用人「ええと、こちらが報告書になります」

商人「ふーむ……内乱に厳冬の見通し…こちらは上がりますね」

商人「わかりました、小麦は今年は売りにしておきましょう、その分の余剰資金は羊毛の買い付けに回しなさい」

商人「今週中に目ぼしい牧場主には渡りをつけておくように」

使用人「わかりました」

商人「さて、今日の仕事はこのぐらいにしますか、ああ、秘書さん、この後は?」

秘書「今夜は財務大臣どのとご会食の予定になっております」

商人「ああ、そうでしたね、それでは大臣の好みの南方の菓子など持って伺いましょう」

秘書「はい、手配してございます」

商人「では、少し早いですが出ましょうか、お偉方は待たせると心象を悪くしますからね」

秘書「馬車をご用意させましょう」


--- 高級料亭 ---

主人「これはこれは、商人どの、いつもご贔屓を」

商人「ええ、いつもお世話になります。奥の部屋を借りますね、後ほど財務大臣どのがいらっしゃいます」

主人「かしこまりました、ではいらっしゃいましたらお通し致します」

商人「さてと、今年の酒税率と、薬草類の価格決定権、あとは隣国からの輸入獣油の専売権について……」

商人「今日の交渉はその辺りですかね……どう話を組み立てたものか……」

給仕「失礼します、財務大臣どのがお見えになられました」

商人「おお、これはこれは、今日はこのような場にお越しいただきまして」

大臣「お、すまんの、商人どの、遅くなった」

商人「いえいえ、国の財政を担う大臣どのとあれば重責比類なき身分、お忙しい中お呼び立ていたしまして申し訳ございません」

大臣「何を言っておる、おぬしの商館など夜中まで灯が消えぬともっぱらの評判ではないか」

商人「いやあ、ただの貧乏性というものでございまして、どうも我々庶民は働いてないと気が落ち着かないのですよ」

大臣「まあ良い、ではさっそくだが話に入ろうか」

商人「そうでございますな、商談は酒が入る前にすませるに限ります」

大臣「まずな、お主が申請しておった専売権の件じゃが、国としても云々かんぬん」

商人「しかし、私どもも商人でございますからな、うんたらかんたらで」

大臣「いや、そこは丁々発止で」

商人「いやいや、ならば喧々囂々」

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大臣「さて、まあ話はざっとこんなところかの」

商人「そうでございますな、この辺りが落とし所でございましょう」

大臣「さてと、では酒の方に、と言いたいところなんじゃが、その前に紹介したい者がおる」

商人「は、どなたでございましょう?(誰だ?専売組合に入ろうとする新興店が泣きついたか・・・?)」

大臣「おぬしら、入って来るが良い」

勇・遊「では、失礼いたしまして」

商人「…………ええええっ?」

勇者「いや、久しいな、僧侶、いや商人どの、何年ぶりであろうか」(ニヤリ)

商人「ゆ、勇者どの?それに戦士どの?これはまた一体どういう風の吹き回しで…」

大臣「いやな、この者らがそなたに話があると、それも火急の用だというのでな」

大臣「それで今日の会食の折に引き合わせる事にしたのじゃ」

商人「さ、さようで………」

大臣「聞けばこの者達、その昔共に魔王を誅した旅仲間と申すではないか」

大臣「商人どのもたまには旧友と親交を深めるのもよかろう」

大臣「大事な話は概ねすんだからの、ワシはこれで失礼する。酒食はおぬしら水入らずで楽しむがよかろう」

勇者「いやいや、大臣どの、誠にお気遣いありがたく存じまする」

遊び人「まこと、人の上に立つお方は下々の心の機微まで分かっておられる。この国も安泰でござろう」

大臣「おぬしらの魔王討伐の折にはわしらも随分と世話になったでな。では存分に楽しんでくれ、勘定は払っておくぞ」スタスタ

商人「え、ちょ、大臣どの?」

遊び人「っとまあ、そんなワケで久しぶりだなあ、僧侶」(ニヤリ)

商人「……まったく、呆れました、一体どうして財務大臣と?」

勇者「まあ、そりゃ後でゆっくり話をしてやるよ、にしても一国の大臣とタイマンで交渉とは出世したもんだな」

商人「心にもないお世辞は結構ですよ、それで、二人はまた何をしに来たんですか?」

商人「昔のよしみで金をたかりに来た、といった風でもありませんが」

遊び人「そうだな、まあまだるっこしいのは抜きにすっか」

勇者「だな。僧侶、魔王が復活した。俺らと一緒に討伐に付き合え」

商人「…………はあぁぁぁぁあ!?」

勇者「かくかくしかじかでな、魔王が復活して、俺がまだ勇者なんだわ」

商人「何をバカな事を言ってるんですか?あなた達いくつです?」

勇者「47だ」

遊び人「俺は48だな」

商人「バカ正直に答えないでよろしい!私だって知ってます、同い年なんだから」

遊び人「なら聞くこたないじゃねーか」

商人「そうじゃなくて、その突き出た腹の勇者様()に、酒とバクチに溺れた遊び人が魔王退治?」

商人「冗談も休み休み言って下さい」


遊び人「ところがどっこい、これが冗談でも何でもなくて本気なんだわ」

勇者「おう、本気も本気、大本気だ」

商人「はぁ……ま、あなた達が道楽に命を散らすというなら止めはしませんがね」

商人「私は今まっとうな商人なんです。巻き込まないでいただきたい」

勇者「へえ、まっとうな商人ねえ」

遊び人「おお、こいつは笑える冗談だな」

商人「何が冗談だと言うのですか……」

遊び人「ふふーん、お前、コレなんだか分かる?」ピラ

商人「なんですその……ちょ、そ、それはウチの二重帳b…いや、あわわわ」

商人「ど、どうしてあなた達がウチの極秘書類を!?」

遊び人「お前んトコの経理いんじゃん?お前知らないみたいだが、アイツ、カジノにどっぷりでよ」

商人「なっ!?」

遊び人「かなり賭場に借金があるんだわ、んでよ、俺がちょっとその借金買い取ってやろうか?って話もちかけたらコロッとな」

商人「な、なんという卑劣な…」

遊び人「おいおい、お前んトコの使用人、もう店の金使い込む寸前まで追い詰められてたんだぜ?」

遊び人「それを防いでやったってのに、卑劣とはご挨拶だなあ」



商人「ふん……善意でそれをしてくれたなら感謝もしますがね、その挙句にウチの帳簿を持ちだされちゃあ」

商人「感謝の言葉も出て来にくいってものでしょうよ、それで、それを財務大臣に見せるおつもりですか?」

勇者「いやな、実はもうとっくに見せてあるんだわ」

商人「そうですか………ってはあぁぁぁ!?勇者さんちょっとアンタ何してくれてんの!?」

勇者「俺は10年ぐらい前にな、ココの国に潜入してた事があってな、財務大臣とは顔見知りなんだよ」

勇者「そんでまあ、今回運良くあんな書類が手に入ったもんでなあ、久しぶりに財務大臣に会いに行くついでに見せてみたんだよ」

商人「はぁ……………からくりが見えてきましたよ、10年前といえば、この国がお家騒動で騒がしかったころ」

商人「その時に勇者さん、あなた財務大臣の弱みでも握ったんじゃないですか?」

勇者「お、さすが商人、頭のキレが違うねぇ(ニヤニヤ)」

勇者「ま、そういうこった、すでにあの二重帳簿を見せた上で、商人の処遇は俺らに一任しろ、って脅しかけてある」

商人「そうですか……つまり、私はもうとっくの昔にまな板の上の鯉だったってワケですね」

遊び人「そういうこった、どうよ、お前の言う"確実な戦略"ってヤツを俺らも見習ってみたんだぜ?(ニヤニヤ)」


商人「はぁあ……仕方ないでしょう、選択の余地は無さそうですね」

商人「わかりました、腐れ縁と思って諦めましょう。それにあの時の魔王がまた出てきたってんじゃ落ち着いて商売も出来ませんからね」

遊び人「お、さすが僧侶、切り替えの速さは変わってねーな」

勇者「まったくだな、魔法使いが腹に剣ささって呻いてるのに」

勇者「『回復は戦闘後しますから貴方たちはさっさと敵を倒して下さい!』って俺らに強化呪文かけてきた時はコイツ鬼かと思ったよ」

商人「ふん…あの時はそれがパーティ全員が生き残る可能性が一番高かったんです、情に流されてては回復役は務まりませんよ」

商人「それから、私はとっくにもう僧籍は抜けてます、商人と呼んでもらいたいですね」

勇者「わかったよ、商人、まあこれからよろしく頼むぜ(ニヤリ)」

商人「ですが、一つだけはっきりさせておきます。やるなら勝ちますよ、私は自殺願望はありませんからね!」

商人「負けると分かっている戦いにはビタ一文出しませんし、私も一歩たりとも動きません」

遊び人「おおー、さすが商人、冷徹だねえ」

商人「当たり前です。石橋を叩いてもまだ危ない、というのが商売の世界です」

商人「勝てる保証も無いのに手を出すのは金をドブに捨てるようなものです」


勇者「ま、実のところさ、俺だって今正面から切り込んで魔王が倒せるとは思っちゃいない」

勇者「だが、魔王だって全知全能の神ってワケじゃないからな、何かしら弱点があるハズなんだよ」

遊び人「そういう事、それをこれから調べあげて、勝ち目を探そう、ってワケだ」

勇者「それには、商人、お前の情報網と資金力がぜひとも必要になるんだ、よろしく頼むぜ」

商人「ふむ、30年前はどうしようもない脳筋だと思ってましたが、ふたりとも少しは大人になったようですね」

遊び人「そりゃそうよ、だからこそ二重帳簿を盗み出すなんて事にも考えが回るってワケよ(ニヤリ)」

商人「まったくもう……まさかあなた達にそんな手でしてやられるとは、一生の不覚です」

商人「それにしても、よく私が脱税してるなんて気付きましたね、今までどんな優秀な税吏でも気付かなかったというのに」

遊び人「ああ?いや、別に知らなかったぜ?」

商人「はあっ!?」

遊び人「ただ、帳簿が手に入れば使い道は色々あるしな。ライバルの商館に売り渡すって手もあるし、最悪脱税をでっち上げるって手もあった」

商人「………あなたはバクチなんか打ってないで商売人になった方が良かったんじゃありませんか?」

遊び人「はぁ?冗談じゃねぇ、金を貯めこんで何が楽しいんだ」

勇者「ぷっ」

商人「はぁ……根本的には何も変わってないんですね(嘆息)」

期待


--- 商人の家 ---

商人「さて、それで情報が欲しいと言いましたが、まず何から調べます?」

勇者「そうだな、まずは何といっても魔王復活の理由だな」

勇者「本来起こるべき事じゃない事が起きた、となれば、何か理由があるハズだ」

勇者「それが人為的な原因なのか、それとも偶発的な原因なのか、それによって今後の対応も変わってくるだろう」

勇者「それから、現在の魔王城周辺の様子だな、30年前の魔王の死以来、人間と魔族の交流も増えてきてたハズだが」

勇者「魔王の復活によってそれがどうなっているのか知りたい。軍備の様子だったり、人間の魔族領域への立ち入りについてだったり」

商人「そうですね、その二つについては、魔王城の城下町に私も支店を出していますからそのうち情報が入ってくるかもしれません」

遊び人「マジかよ、こないだまでの敵地に早速支店を出すとはなあ」

商人「当然でしょう?私は当時、他の商人の誰よりも魔族領の地理風俗に詳しかったんですよ?」

商人「アドバンテージを活かしてシェアを握るのは自明の理ですよ」

遊び人「さすがですわ、アンタ僧侶やめて正解だわ」

商人「ああ、そうそう、僧侶といえば、私の前職のコネを使えば第一の疑問についてはもう少し情報が得られるかもしれませんね」

商人「大神殿には女神の封印に関して記された書物などもあるでしょうから、その辺りから調べてみましょう」


商人「他には?」

勇者「あとは、魔王の復活の報が世間にどの程度行き渡っているのかが知りたいな」

勇者「ウチの国ではその情報は内々に留める方針だったようだ」

勇者「とはいえ事は神託だからな、教会にあまり圧力はかけられないだろうし、緘口令が敷かれるほどじゃなかったが」

勇者「他の国でどういう方針を取っているのかが知りたい、それによって俺達の動きも変わってくる」

商人「それは大いに私個人にとっても必要な情報ですね、噂だけでも魔王復活の報が流れば」

商人「それによってモノの相場は大きく上下するでしょうからね、それは至急調べさせましょう」

勇者「ああ、頼む。そして、これは難しいと思うんだが、魔王本人の事がしりたい」

商人「本人?」

勇者「伝説に記されているような内容とか、俺達が身を持って知った戦闘能力ではなく」

勇者「魔王がどんな事を考えるヤツなのか?という事が知りたいんだ」

勇者「俺達は30年前、魔王と対峙したが、あの時は言ってみれば玄関のノックもせずにドアを開けて殴りかかったようなもんだ」

勇者「強盗や火付けならそれで良いだろうが、詐欺や空き巣をしかけよう、ってんだったら」

勇者「ターゲットの事を調べるのは必須だ。だから、その辺りの事が知りたいんだ」

商人「それは難しそうですね……調べるにしてもどこから手をつけたものか…」

商人「ちょっとそれは保留にしておいてもらいましょう、まずは調べる手立てを調べる、という前段階になりますね」

勇者「わかった」


商人「ところで、勇者さん、貴方は昨日正面から切り込むつもりはない、と言いましたね」

勇者「ああ、まあな、今の俺が正面から行っても一合も保たんだろう」

商人「しかし、魔王は勇者にしか倒す事はできない、つまり、貴方がその手で止めをさす必要があります」

商人「最終的には、どのような方法で魔王を倒すつもりですか?」

勇者「あー、まあそうだな、まず最初に思いつくのは暗殺だ」

勇者「どこかにおびき出すなり何なりして、油断している所を後ろからズバっとな」

遊び人「ま、そう上手く行くかどうかは置いといて、一つの手ではあるよな」

勇者「あとは、止めは俺が刺す必要があるが、30年前、お前らの攻撃が効果が無かったワケじゃない」

勇者「って事は、物量で攻める、って手だったあるよな」

商人「例えば軍を動かすとか?」

勇者「そうだ。例えば、魔王本人と他の魔族を分離させた所で、軍隊の力押しで魔王を弱らせる」

遊び人「そんで、最後の美味しいトコは勇者が持ってく、ってワケか」

勇者「まあ、そういう言い方もできるがな……」

勇者「それから……まあ、他にもいくつか手は考えてる」

商人「わかりました、全く非現実的というワケでも無さそうですね」

商人「まずは現状の分析ですね、あなたの要望の情報は近々ある程度は揃うでしょう」

商人「その上でもう一度作戦会議と行きましょう。」


--- 三日後 ---

商人「先日勇者が欲しいと言っていたいくつかの情報が集まりました」

遊び人「お、はええな」

商人「商人にとって情報は速度が命ですからね」

勇者「それで、どうだった?」

商人「まず、魔王復活の理由についてですが、詳しい事は分かりませんが、おそらく人為的なものと思われます」

商人「これは、私の昔の同僚に調べてもらった事なのですが」

商人「女神の封印というのは、これは私達が一番よく知っていますが、勇者の剣によって力尽きた魔王に」

商人「光の玉をかざす事で、魔王の魂を6つに分けて各地に封印する、というものです」

遊び人「ああ、今でもよく覚えてるよ、6つの光が飛び散ってこの世のモノとは思えねえくらいキレイだった」

商人「そして、この封印ですが、基本的には一つでも解ければ、魔王そのものはこの世に復活するのだそうです」

遊び人「マジか」

商人「ただし、その力は当然ながら万全ではありません、単純計算で1/6しか中身が無いわけですからね」

勇者「ふむ……それは悪くないニュースだな」

商人「ちなみに、その6つが封印された場所とは、北方の孤島、東方の海底神殿、西方の古代遺跡、南方の火山、そして天空神殿と世界樹の根本」

遊び人「懐かしいな、どこもかしこも魔物が強くて苦戦した記憶があるわー」

商人「ええ、我々には懐かしい場所でもありますね。ともあれその6ヶ所だそうです」

商人「なお、教会の見解としては、現在のところ、解けたのは封印のうち一つだけだろう、との事です」

商人「ただし、その6ヶ所のうち、どこの封印が破られたのかはまだ分かっていません」


--- 三日後 ---

商人「先日勇者が欲しいと言っていたいくつかの情報が集まりました」

遊び人「お、はええな」

商人「商人にとって情報は速度が命ですからね」

勇者「それで、どうだった?」

商人「まず、魔王復活の理由についてですが、詳しい事は分かりませんが、おそらく人為的なものと思われます」

商人「これは、私の昔の同僚に調べてもらった事なのですが」

商人「女神の封印というのは、これは私達が一番よく知っていますが、勇者の剣によって力尽きた魔王に」

商人「光の玉をかざす事で、魔王の魂を6つに分けて各地に封印する、というものです」

遊び人「ああ、今でもよく覚えてるよ、6つの光が飛び散ってこの世のモノとは思えねえくらいキレイだった」

商人「そして、この封印ですが、基本的には一つでも解ければ、魔王そのものはこの世に復活するのだそうです」

遊び人「マジか」

商人「ただし、その力は当然ながら万全ではありません、単純計算で1/6しか中身が無いわけですからね」

勇者「ふむ……それは悪くないニュースだな」

商人「ちなみに、その6つが封印された場所とは、北方の孤島、東方の海底神殿、西方の古代遺跡、南方の火山、そして天空神殿と世界樹の根本」

遊び人「懐かしいな、どこもかしこも魔物が強くて苦戦した記憶があるわー」

商人「ええ、我々には懐かしい場所でもありますね。ともあれその6ヶ所だそうです」

商人「なお、教会の見解としては、現在のところ、解けたのは封印のうち一つだけだろう、との事です」

商人「ただし、その6ヶ所のうち、どこの封印が破られたのかはまだ分かっていません」


勇者「その封印、ってのは具体的にはどうすると破られるモノなんだ?」

商人「その6ヶ所のそれぞれ深奥部に聖域があり、そこに魔王の魂を封じた宝玉が安置されているそうです」

商人「ですから、それを破壊さえすれば簡単に封印は解くことが可能だとか」

勇者「ふむ……しかし、聖域という事は当然魔族は入ることは出来無いのだろう?」

商人「ええ、当然ですね。魔族のみならず、悪しき心を持った人間ですら身体に変調を来します」

勇者「となると一体何者が……?」

商人「それはまだ分かりません。というか、見当がつかない、というのが正直なところですね」

勇者「そうか……それはまあ、今のところ探しようもないな、置いておこう、それから?」

商人「それから、魔王城周辺の様子ですが、今朝、魔王城下町の支店から報告が届きました」

商人「まず、城下町の様子は、別段変わった事はないようです」

商人「30年前以来、魔王城は親人間派の魔族評議会が政庁として利用していますが」

商人「特に政府に変わった動きも無いとの事です」

勇者「ふむ、すると、もしかすると魔王は城には居ない可能性もあるな」

面白いの見つけた~

乙です

商人「ただ、少し気になる事があります」

遊び人「なんだ?」

商人「この報告書にある、城下町の物資の価格や流通量から推測すると」

商人「先月にくらべ、鉄鋼と魔石の取引量が倍ぐらいに増えています」

勇者「ほう」

商人「ところが、価格はむしろ上がっている。これは普通では考えられません」

商人「物の価格というのは多ければ下がり、少なければ上がるのが自然です」

遊び人「なのに、鉄と魔石が城下町に溢れてるハズなのに高騰してる、ってワケか」

商人「ええ、これは、誰かが意図的な買い占めを行っている可能性がありますね」

勇者「つまり、それを総括すると、城に今のところ異変は無いが、城下町にキナ臭い匂いは漂ってる、ってトコか」

商人「そうですね。鉄も魔石も、産業の基本ではありますが、そのまま戦争で最も重要な物資でもあります」

邪な人間は負荷がかかるって強引に力技で突破したのか誰か騙していかせたかのどっちだろ。


商人「さて、それから、魔王復活の噂がどの程度巷で知られているのか、という点についてですが」

商人「どうやら噂レベルでは各所で流れているようです」

勇者「ふむ、そうなのか」

商人「ただ、公式に魔王復活を発表している公的機関は、教会、政府ふくめ、どの国にもありません」

商人「あと、これは、感触というか、なんというか、あまりはっきり言える事ではないのですが……」

遊び人「おう、なんだよお前にしちゃ歯切れが悪いな」

商人「完全にカンのレベルの話なんで、上手く説明できないのですが…」

勇者「カンでもいい、思った事を教えてくれ」

商人「そうですね……こういった、戦争などの前触れとして噂が流れる時というのは」

商人「それに煽られるように様々な流言飛語が飛び交うモノなのです」

商人「そういったモノに踊らされずに噂の本質を見極めて、今後の物価の動向を見ぬくのが商人の目利きなのですが………」

遊び人「ですが、なんだよ」

つ④円


商人「今回も、魔王の復活という噂に煽られて、いや、隣国との戦争が起きる、だとか、人間による魔族の大粛清がある、だとか」

商人「話にもならないような噂が多数飛び交っているようなのです」

遊び人「だってお前、そういうモンだってさっき自分で言ったじゃねーか」

商人「ええ、ただ、そのなんというか、それらの流言飛語が故意に流されたものではないか、という気がするのですよ。根拠は無いのですが」

勇者「つまり、何者かが魔王復活の噂に対抗して、それ以外の噂を流している、と?」

商人「ええ、こういった情報戦においては、商人同士でライバルを出し抜くために、わざと誤った噂を仕掛ける場合などもあります」

商人「そういう偽情報で誰かに踊らされそうになっている時の感覚と、今回のこの流言飛語は似ているんですよ」

勇者「ふーむ………お前、どう思う?遊び人」

遊び人「さあな、今商人から聞いた話だけじゃ何とも言えねえ」

遊び人「ただな、大勝負をかけよう、って時には色んな手で目眩ましをかけるのがバクチの常道だ」

遊び人「どんなに良い札を持ってても、こっちの思惑が読まれちまったらおしまいだからな」

遊び人「そう考えるんだったら、魔王だか魔王を復活させたヤツだかしらねーが、ソイツがどんな手を打ってても不思議じゃねぇ」

遊び人「商人のカンもあたってるのかも知れねーぜ、ただ、その噂が何を目的に流されたモノなのかはわかんねーがな」

勇者「そうだな………」

商人「さて、どうします?とりあえず現時点で集めるべき情報は集まった、というか、コレ以上は今のところは難しいでしょう」

勇者「だな、ならばここから先は俺達が動いて情報を手に入れるしか無いな」

遊び人「お、いいね、旅の博徒ってのもオツなモンだ」

勇者「おいおい、カジノめぐりじゃねーんだぞ」

遊び人「別にカジノが目的ってワケじゃねーよ、ただ、立ち寄った先にあったら行きたいなー、ってだけでよ」

商人「全く…大事なお金を博打につぎ込むなんて…ま、貴方のお金ですから好きにすれば良いんですけどね」

遊び人「んだよ、俺はここぞの大一番で負けた事はねーんだよ」

勇者「まあまあ、それで、いつ出発する?」

商人「そうですね、私は業務の引き継ぎや不在時の指示出しで二日ほどいただきたい」

勇者「わかった、じゃあ出発は明後日だな」

商人「ところで、行き先の候補地があるならば、聞いておきたいのですが」

勇者「んーと、とりあえずはエルフの里と、竜の谷と、天空神殿は行っておきたいな」

商人「なるほど…つまり、私の通商路に無い場所を埋めていく、という事ですね」

勇者「そういう事だな、お前のネットワークにある情報は時間はかかってもどこかで自動的に耳に入ってくるだろ?」

商人「当然です、私はココを離れてもこの商館の主ですからね、采配をふるわなければいけません」

遊び人「とはいうけどよ、一体旅先のお前にどうやって情報が入ってくんだ?」

商人「そこは元僧侶の強みですよ、ふふ」

勇者「教会のネットワークを借りるわけか」

商人「ええ、僧籍を離れてからも多額の献金を行ってますからね、何かと便宜をはかってもらえるんです」

遊び人「ふーん、ま、どうでもいいがドコも面白みのねー場所ばっかりだな」

勇者「そりゃ仕方ない、商人の通商路から外れてるって事は貨幣経済とは無縁の場所が多いって事だからな」

遊び人「ちっ、肝心のカネが使えないんじゃカジノもあるわけねーかぁ」

勇者「エルフにせよ竜にせよ、彼らは時間の尺度が人間とは違うからな、我々の経済活動とは馴染まないだろうな」

遊び人「ま、仕方がないな、とりあえずまずはこの街で遊び納めと行くか」

遊び人「今夜、明日あたりは帰って来ないかもしんねーが、気にしないでくれや」

商人「まったく……(嘆息)」

見てる

同じく
すごく期待してます


--- 二日後 ---

遊び人「ふぁ~、やべえな、やっぱこのトシになると朝まで飲むのはキツいわ~」

商人「全く、いつまで若い気分でいるのですか、馬車が酒臭くなるじゃないですか」

遊び人「いやぁ、それにしても、30年前は徒歩で旅したモンだが、馬車ってのはいいねぇ」

勇者「まあ、馬車なんて30年前の俺たちに手が出る値段のモノじゃなかったからな」

商人「暢気な事を言って…この馬車を空けるのにあちこちの輸送路に負担をかけたんですよ」

遊び人「そいつは悪い事をしたなぁ…ふあぁ…ダメだ、俺はちと寝かせてもらうわ」zzzz

商人「人の話を少しは聞きなさい、そういうところは本当に変わってませんね」

勇者「まあまあ、それにこの馬車にだって色々な商品を積んでるじゃないか」

商人「当然です、せっかく私が自ら動くんですから、新たな販路の開拓でもしないとただの無駄になってしまいます」

勇者「お前もホント転んでもタダじゃ起きないヤツだな」

商人「それは商人としては褒め言葉ですね」

面白い


勇者「ところで、お前、魔王城下町に支店出したって言ってたよな」

商人「ええ、商会を作って1年目、あちらの情勢が落ち着くと同時に最初の支店を出しました」

勇者「って事は、何度か行ってるのか?その後も」

商人「当然立ち上げの時は行きましたよ、それに、向こうの魔族の有力者との折衝などもありますので」

商人「地盤が安定するまでの数年は行ったり来たりでしたね」

勇者「どんな様子なんだ?あっちは、俺は実は魔王倒して以来、一度も魔族領には足を踏み入れてないんだ」

商人「そうですね、私も最後に行ってからもう10年近いですが…」

商人「かなり賑わってますよ、評議会制に以降した後、あそこは魔界の政治経済の中心地ですからね」

勇者「そうか…30年前は街中が敵だったのにな」

商人「あの時は魔王軍の酒保みたいなものでしたからね」


勇者「魔王軍…か…」

勇者「なあ、魔王って一体何者なんだろうな?」

商人「さあ…神話を鵜呑みにするならば、女神による創世の時に異界より現れた侵略者、という事になってますが」

勇者「まあな…そんで、神話と歴史を一緒くたにして信じるならば、今まで魔王は7回現れてる」

商人「そうですね、一度目と二度目は完全に神話の領域ですから記録にも何も残ってませんが」

商人「その後は1200年前、800年前、500年前、200年前、そしてこないだの30年前と」

商人「人間の史実にも残ってますし、エルフや龍族の歴史にもあるようですから間違いないでしょう」

勇者「彼らにしてみれば500年前といっても2~3世代前の話だもんな」

勇者「そこで気になるんだが、その魔王って、全部同じ人格なのかな」

商人「さあ…それは我々人間には検証のしようもありませんし…」

商人「エルフや竜などの長命な種族でも、同じ魔王と二度会ったという人物は居ないのでは?」

勇者「だよなぁ…」

勇者「魔王か…一体どんなヤツだったんだろうな、アレ」

商人「"アレ"の人格ですか…」

勇者「正直"アレ"に人格がある、ってのも現実感ないよな」

商人「ええ、強大な魔力と瘴気が魔物の皮をかぶっただけの存在、そんな印象でしたね」

勇者「二言三言しか言葉なんて交わしてないなぁ…」

商人「剣を合わせたと言っても、たった一度ですからね…」

勇者「どれだけの時間戦ってたのか分からないけどな」

商人「あの時は永劫とも思える心持ちでしたけどね」

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--- 30年前 ---

勇者「お前が魔王か!!」

魔王「よくぞ我が下まで辿りついた、その力、その勇気、賞賛に値する」

魔王「なればこそ問おう、勇者よ、我が軍門に下る気は無いか?」

戦士「へっ、誰がてめぇなんぞに、勇者よ、やっちまおうぜ!」

勇者「ああ…」スチャ

魔王「ふっ、それが返事か。ならば無駄話は終わりだ。我が腕の中で息絶えるがよかろう…行くぞ!」ゴオォッ!

魔法使い「くっ、なんて魔力…」

勇者「皆、恐れるな!俺達には女神の加護がある!」

勇者「僧侶、防御呪文を頼む!戦士と武闘家は前へ!狩人と魔法使いは後ろから援護を!」

全員「わかった!」「応!」「任せとけ!」

勇者「行くぞ!!!みんな!!!」

----------
------
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僧侶「もう…魔力が…」

戦士「くそ…両足やられた…動け…ねぇ……」

武闘家「(気絶中)」

魔王「ぐぅぅ…手こずらせて…くれたな…あとは貴様だけだ…勇者!!」

勇者「くっ!負けるか!最大雷光魔法!!」

魔王「ぐぁぁぁ!まだこのような魔力を………くはぁっ!小賢しいわ!!」ザシュッ

勇者「うあああああああ」ドサッ

魔王「ぜぇ…ぜぇ…これで…貴様との永き戦いも終わりよ…」ブスブス…

勇者「うぅ………」

魔王「トドメ……だ……(ドシュッ)ぐあぁぁっ!?」

狩人「魔弾…最後の一本……」ガクッ

魔法使い「勇者!今だよ!呪縛魔法!!」

魔王「ぐっ、貴様ら人間ごときが……」

勇者「魔王……覚悟………」ズルズル……ザシュッ!!

魔王「があああああああああああああああああ!!!!」


僧侶「今です、勇者、光の宝玉を!!」

勇者「ああ……これで終わりだ…魔王よ……」ピカァァァァ

魔王「うぐあぁぁぁぁぁ!!!またしても!またしても邪魔立てをするか、女神よ!!!!」

魔王「しかし……我は滅びぬ……いつか………この世界を………」サラサラサラ

狩人「魔王の体が光の塵になっていく…」

戦士「へっ……二度と出て来るんじゃねぇ……いててて」

勇者「これで…世界に平和が………」バタッ

僧侶「いけない、出血が激しい!急いで手当を!!」

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------
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試演


--- 現在 ---

勇者「…………思い起こしても寒気がするな、あの戦いは」

商人「ええ………よく全員生きていたものです」

勇者「しかし、思い返してみてもちっとも参考にはならんな」

商人「そうですね…最初の邂逅の時のセリフも聖典にある伝説とほとんど変わりありませんし…」

勇者「戦いの中で発した言葉も、ほとんどは"いかにも魔王らしい"発言ばかり」

商人「そうですね、尊大で傲岸ですが堂々としていましたね」

勇者「唯一参考になるのは、最後の言葉ぐらいか…またしても邪魔をするか、という言葉と」

商人「我は滅びぬ、という一言ですね…とはいえ、それも聖典の教えを裏切るモノではありません」

勇者「むしろ伝説を補強する材料でしかない、とも言えるな」

商人「しかし……その侵略の手法は様々でした。一国の大臣を魔物にすり替えてみたり…」

勇者「エルフの村の神木を枯らすために地中に魔物を放ったりもしてたな」

商人「それが魔王の指示によるモノなのか、部下による発案のモノなのか分かりませんが」

勇者「そうだな……しかし、そういえば200年前の侵攻の時も似たような事があったな」

商人「始まりの国の騎士団が、魔族との内通者によって壊滅したという記録がありますね」

勇者「ああ、それ以来、我が国の騎士団では半年に一度、神殿で真実の誓いの儀式が義務付けられている」

商人「聖水を頭からかぶってやるアレですね、ご苦労なことです」

勇者「ま、神の力で嘘が見抜けるのは便利だが、冬にある年始の儀式は寒くてなあ…」



商人「しかし、こうして改めて考えてみると、疑問はつきませんね」

勇者「そうだなあ…女神にせよ、魔王にせよ、謎が多すぎる」

商人「そうですね、勇者と魔王の関係にせよ、女神の伝説にせよ、不自然な点が多々あります」

商人「なぜ魔王を滅ぼせず、毎回封印を施しているのか」

商人「こうして交易まで行うほど友好的に振る舞える魔族が、魔王復活と同時になぜ人間と敵対するのか」

勇者「だな…一般に流布してる魔王や女神、勇者の伝説は確かに嘘ではない」

勇者「俺自身が、勇者の神託を受けて以来、それを証明するような事態を何度も目の当たりにした」

勇者「だけど……」

商人「そこに語られない裏がある、という事でしょうね」

勇者「そういう事だな」


--- 隣国はずれの村 ---

勇者「懐かしいな、ココ」

遊び人「こんなトコ来たっけ?覚えてねーな」

勇者「エルフの森の最寄りの村じゃねーか、ココで魔法使いが"アタシは行かないわよ!"ってゴネてさ」

遊び人「ああ…言われてみればそんな事もあったな」

商人「彼女が居なければエルフの結界は抜けられないから、というので無理やり連れて行きましたね」

勇者「エルフの村に行ってみれば、まあ出てくるわ出てくるわ、アイツの悪ガキ時代の悪行が」

遊び人「あんだけ悪さしてたらそりゃ帰郷も気まずいわな、って全員で納得したっけなwww」

勇者「さてと、ちっと俺は鎧をつける、手伝ってくれないか」

遊び人「はあ?なんで鎧なんぞ?」

勇者「ココには一応勇者として行く事にしようと思うんでな」

商人「はあ…別に鎧なぞつけずとも、勇者の証を額につけていれば良いのでは?」

勇者「バカ言え、こんな弛んだハラした勇者様じゃ信用されないだろ」

商・戦「ああ………」



村長「おお、勇者様!!何年ぶりでございましょう、おかげ様でこの村はすっかり人も増え、平和になりました」

勇者「誰かと思えばあの時の村長の息子どのではないか、久しいな」

村長「覚えていて下さいましたか!あの折には大変な失礼を……」

勇者「なに、若者とは血気盛んなもの、私とてあの頃は考えなしで力押ししか能のない若造であった」

勇者「村外れの洞窟に魔物が居ると聞いて、何も考えずに突っ込んで行っただけよ」

村長「しかし、それで村が救われたのは事実、にも関わらず私はあのような無礼を働き……」

勇者「よせ、過ぎた事よ、それはそうと親父どのは?」

村長「ああ、親父は10年ほど前に亡くなりました、長年患っていた肺の病が悪化しましてな…」

勇者「そうか…親父どのには大変世話になった、後で墓の方に参らせていただこう」

村長「あ、は、はい、そうでございますな、親父もあの世で喜ぶでしょう」

遊び人「(なあ……アイツ、詐欺師の才能あるんじゃねーか?)」ヒソヒソ

商人「(30年も騎士やってるんだから、あのぐらいの貫禄は出せて当たり前でしょうよ)」ヒソヒソ


--- 30年前 ---

勇者「なんだって!?魔物がこの村の村娘を!?」

村長(先代)「はい、どうも村外れの洞窟に住み着いたようでございましてな…」

村長(先代)「薪を拾いに行った折に拐かされた様子、どうかお助けいただけませぬか?」

勇者「それは構わないけど、誰か道案内を頼めないかな、この辺の地理には疎くて…」

村長(先代)「ならば、私の息子を……」

息子「おい親父!バカ言うんじゃねえよ!なんでそんな余所者に頼る?」

息子「勇者だかなんだか知らねーが、こんなヒョロい奴らにまかせておけるかよ!」

村長(先代)「こ、こら!勇者どのになんという失礼を!」

息子「うるせえ!とにかくソイツらはさっさと追い出せよ!村の事は村の人間がどうにかするのが筋だろ!」

息子「そんなヤツらに任せたら助かるモノも助からねえよ!村娘は俺が助け出す!余計な事すんな!」スタタタタ

魔法使い「……何アレ?」

村長(先代)「いや、これは誠に申し訳ない…あやつは…来月村娘との祝言が決まっておりまして…」

僧侶「恋心ゆえに、頭に血が上ってる、というワケですか」

村長(先代)「親としてお恥ずかしい限りでございます……」

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------
---


魔物「ギャアアアアア」

武闘家「ふん、大した敵は居ないようだの」

勇者「だな、だけど普通の村人にとっては大いに脅威だろう」

狩人「む、誰か倒れてるぞ」

勇者「何!?」

息子「くそ………村娘……」ドクドク

魔法使い「あ、さっきのクソガキ!」

息子「て……てめぇら……帰れって言った…だろ……」ガクッ

僧侶「いけない、かなりの重傷です、急いで手当をしなければ!回復魔法!」パァァァ

息子「………」

僧侶「傷はふさがりましたが、意識が戻るには少しかかりそうですね」

勇者「仕方ないな、一旦洞窟の入口まで運んで、僧侶の結界を張っておけば…」

僧侶「そうですね、1~2時間程度は大丈夫でしょう」

狩人「このあたりには危険な肉食獣も居ないようだしな」

戦士「まったく、世話のやけるガキだぜ」

魔法使い「アンタだって大して歳かわんないじゃないの…」

5人パーティか

>>67
勇者、僧侶、魔法使い、戦士、武闘家、狩人の6人ですー




--- 現在 ---

勇者「アレは結局、洞窟に住み着いた吸血鬼のしわざだったんだよな…」

遊び人「だったな、村娘を眷属にしてから村に返して、村人全員を吸血鬼にする計画だったっけ?」

勇者「それにしてもあのガキが今じゃ村長とはねえ…」

商人「30年もあれば人は変わりますよ、あなた達だって鏡を見てごらんなさい」

戦士「だよなぁ~、俺ら魔王倒すまでより、その後の方が生きてきた時間長ぇんだもんな」

コンコン

商人「誰でしょう?開いてますよ」

宿屋「(ガチャ)勇者さん、村長からよろしければ夕食を一緒にどうか?って伝言を預かったんだがね」

勇者「そうか、ではせっかくだから伺おう。村長どのにお返事願えますかな?」

宿屋「わかりました、では夕刻になったらまた呼びに参ります」

勇者「うむ、お手数かけるがよろしく頼む」

商人「………何か用があるようですね」

勇者「ああ……さっき、墓参りの話を出した時に反応が変だった」

遊び人「墓ねえ………何か連想しちまうのは俺だけか?」

勇者「いや………俺も丁度"それ"を考えた」

おかしいな?全キャラ把握してるはずなのに俺も5人PTと思い込んでた……


--- 村長宅 ---

村長「勇者さま、ようこそいらっしゃいました!むさ苦しいところではございますが、どうぞお上がりください」

勇者「わざわざのお招き、痛み入る。せっかくの機会だからの、昔話にでも花を咲かせようではないか」

村長「む、昔話でございますか…し、しかしあの折には私は恥を晒したばかりでございまして…」

夫人「なーに言ってるんですか、あなたいつも酔っ払うとあの時の"武勇伝"を語り始めるじゃないですか」

村長「いやお前、そんなご本人の前でそんな…モゴモゴ」

勇者「奥方でいらっしゃる…?」

夫人「あらあら、私ったらご挨拶もしませんで失礼いたしました、今日はようこそいらっしゃいました」

夫人「拙い手料理ではございますが、今日はどうか沢山めしあがってらして下さいね♪」

勇者「もしや、奥方は……あの時の……?」

夫人「あら、ウチの人ったらまだお伝えしたませんでしたのね、ええ、あの時の村娘でございます」

夫人「本当にあの時はお世話になりまして、主人ともども命の恩人でございます」

勇者「こ…これはこれは、いや、懐かしいの、いや、ごりっぱになられた」

遊び人「(嘘だろ……あの時のあどけない村娘が……)」ヒソヒソ

商人「(時の流れは残酷……という事でしょうかね……)ヒソヒソ

夫人「いやですわ、勇者様ったら、素直に歳をとったとおっしゃって下さいな」

夫人「もうすっかり大年増でございますから……そういう勇者さまも随分ご立派になられて(クスッ)」ジロジロ

勇者「(いかん、鎧を着てないから腹が…)いやいや、その、ははは、お互い歳をとったものよの(アセアセ)」


村長「さて、ともあれまずは中へどうぞ、狭苦しい家ではございますが…」

勇者「いやいや、立派なお宅だの、私の騎士宿舎とは大違いだ」

バタバタバタ!

娘「お父さん!!!!勇者様来たの!?」

村長「これ!はしたない、まったくお前は良いトシだというのに落ち着きの無い……」

娘「うるさいなあ、それより早く紹介してよ!」

勇者「お、娘御がいらっしゃったか?」

村長「はあ(汗)やかましくて全くお恥ずかしい、私の不詳の娘でございます」

娘「勇者様!お父さんとお母さんを助けてくれたっていう勇者様なんでしょう!」

娘「おかげで私が生まれたんだよ、ってずーっと聞かされて育ってきたんですよ、私!」

娘「ですから、ずっとお会いしたかったんです!本当にありがとうございます!」

村長「お前少しは静かにせんか、勇者様は長旅で今日こちらに着かれたばかりで疲れてらっしゃるんだ」

勇者「あ、いやいやお気遣いなく、元気な娘御ですな」

村長「元気以外に取り柄のないお転婆でございますよ、さあ、娘、いいから母さんを手伝って来なさい」

娘「はーい!あ、勇者様、後で魔王退治のお話きかせて下さいねー!!」バタバタバタ


勇者「それにしても……あの時の村娘そっくりに育ったな」

村長「はあ、さようでございますかねえ、しかし、昔の家内とは似ても似つかないお転婆になりまして…」

勇者「ははは、その辺りはお主の若い頃にそっくりなのではないかな?」

村長「あ、いや、これは一本とられましたな…」

夫人「さあさあ、立ち話してないで、まずはお席について下さいな」

勇者「ああ、そうだな、座ろうか」

遊び人「んだな、腹も減ったしな」

村長「では、料理が出てくるまで、まずは一杯飲まれますかな?」

遊び人「お、いいねえ、じゃあ乾杯といきますか!」

勇者「あ、そういえば、墓参りの話だがな、今日はもう遅くなるで、明日にでもしようかと思うがどうかな?」

村長「あ、さ、さようでございますな!それが良いかと存じます!」

村長「明日は昼間少々所用がございますが、夕刻ぐらいであれば私が案内いたしましょう」

勇者「(ふむ……)では、そう致そうか、よろしく頼む」チラッ

商人「(コクン)ところで、そういえば忘れておりましたが、こちらを手土産に、と思いまして」ゴソゴソ

商人「私の商会で扱っている名酒でございます。よろしければお納めくださいませ」

村長「おお、これはこれは、では早速夕食に……」

勇者「あ、いやいや、これは我らから村長どのへの個人的な贈り物だ、後でお一人で楽しまれるがよかろう」

村長「???…さようでございますか、では、有り難く頂戴いたしましょう」

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ワイワイガヤガヤ

勇者「さてさて、楽しい食事であった、夜も更けたしそろそろお暇しようかの」

商人「そうですね、あまり遅くまで居てはご迷惑ですし」

村長「いやいや、ご迷惑だなどと、しかしまあ長旅でお疲れでございましょうし、今日は宿に戻ってゆっくり休んで下され」

遊び人「ま、お疲れってほどでもないしな、馬車の旅は快適だからなー」

商人「それは貴方が馬車でずっと寝てたからです」

遊び人「そうとも言うな、ま、とりあえず宿に戻って飲み直すのもいいかもな」

娘「えー、帰っちゃうんですか?もうちょっとお話聞きたかったなぁ~」

遊び人「ま、続きが聞きたかったらまた明日にでも話してやっからよ」

娘「ホント?じゃあお墓参り終わったら宿屋に遊びに行きますからね!約束ですよ!」

遊び人「んー、まあとりあえずそんな感じにしとくかな」(チラッ)

勇者「ま、そうだの、ともあれ馳走になった。かたじけない」

村長「いえいえ、命の恩人である勇者様にこの程度の事しかできず、誠に心苦しいのですが…」

勇者「古い事を持ち出すでない、ともあれ、楽しゅうござった。また明日、墓参りの折にはよろしく頼む」

村長「あ、そうでございますな、では夕刻にお迎えに上がりますので」

勇者「では、これにて失礼致す」


--- 宿屋 ---

勇者「メシ、美味かったな」

遊び人「そうだな、素材が新鮮だし、あの村娘の料理の腕も大したもんだ」

商人「さて、と、私はちょっと今の内に今日聞いた話を記録をつけてしまいますので」

勇者「ん?何聞いてたんだ?そういえば村長と随分話し込んでたが」

商人「ああ、この辺りの今年の農産物の出来高や、家畜の状態なんかについて詳しく聞きましたので」

商人「やはり生の情報は情報量が多いですね、相場の予想を少し修正した方が良さそうです」

遊び人「お前はホントどこに行ってもそんな事してるんだな」

商人「商人たるもの、常に商機を見出す努力を怠ってはいけませんからね」

遊び人「大したもんだな、素直に感心するわ」

勇者「ところで、どう思う?村長の様子は」

商人「何か隠し事があるのは間違いないようですが、おそらく我々に害意があるわけじゃないようですね」

遊び人「そうだな、アレはむしろ、手札を早く見せたいのに手を開けなくて焦れてるって顔だ」

勇者「そうか…俺もまあ同意見だ」

商人「となると、そろそろですかね?」

勇者「そうだな、ぼちぼち来るだろ」


コンコン

勇者「言ってるそばから来たようだな…どなたかな?」

村長「私でございます」

勇者「お入り下され(ガチャ)」

村長「その……勇者さま、頂いたお酒に…」

勇者「ああ、ちょっと待った、商人、香を炊いてくれ」

商人「わかりました、少々お待ちを」ゴソゴソ

勇者「さて、これで大丈夫だ」

村長「その……いただいたお酒の包み紙に"今夜宿屋まで訪ねて来てくれ"と書いてありましたので……」

勇者「ああ、うん、まあそうだな、村長が何か話をしたそうだったのでな」

村長「わ、私が…ですか…」

勇者「ああ、ちなみに今この部屋は大丈夫だ、たとえ魔王であろうとこの部屋の中は覗き見る事はできん」

村長「な、なんと!?」

商人「商談というものはですね、その話を盗み聞きするだけで価千金となる情報というものもあるのですよ」

商人「ですから、我々はそういった盗み聞きなどを防ぐために、この香を炊くのですよ」

商人「これは南の魔導都市で作られる香で、魔法による透視や盗聴を完全に防ぐ事ができます」

勇者「ま、物理的に周りで盗み聞きされてはどうにもならんがな」

遊び人「それに気付かないほど俺らも鈍っちゃいないさ」

やべ~
これは引き込まれるわ

つ④円

皆様、支援、コメントありがとうございます。
あると励みになりますので、よろしくお願いします♪

ちなみに、ツッコミもお待ちしてます(笑)


勇者「さて、村長どの、改めて話を伺おうか、何があった?」

村長「ええ…………………」

勇者「……………………」

村長「そうですな……あの時と同じく、やはり勇者さまにおすがりするのが正しいのでしょう」

村長「わかりました、覚悟を決めてお話致しましょう」

村長「実は、一週間ほど前に、王の使者を名乗られる方から訪問を受けました」

村長「この村はもちろん王国の版図ではございますが、直接のご支配はこの地方の領主様が行ってらっしゃいます」

商人「まあ、この国は封建制、直轄領以外は各貴族の荘園ですから当然ですね」

村長「ですので、直接王の使者がいらっしゃるなどという事はあまりある事では無かったので少々不審には思ったのですが」

村長「ともあれ、使者の応対は村長の仕事ですからな、私がお相手したわけですが」

村長「その使者のおっしゃる事がまた不可解だったのでございます」

村長「近いうちに、40~50恰好の3人連れの旅人が現れるから、墓地に案内するように、と」

勇者「ふむ、それはつまり我々の事だろうな」

村長「はい、そうではないかと思います。そして、案内はしても私は墓地には立ち寄らぬように、と、こうおっしゃるのです」

村長「最後に、使者の方は『たとえ家族であってもこの事は他言無用、もし漏らせば国家の一大事、ただではおかぬ』と」

村長「そうおっしゃって去っていったのですが…その方の目の光が人とは思えぬ恐ろしさで…」



村長「そのような次第で、私は旅人とやらが現れたらさっさと墓地まで案内して、忘れてしまおうと思っていたのです」

村長「ところが、昨日勇者さま一行がこの村にいらして、お三方があの使者の言った旅人であったのか、と気付き…」

勇者「ふむ、黙っているのも心苦しいが、喋れば何をされるかわからぬ、と」

村長「さようでございます、とはいえ、その旅人にかの使者と名乗る者がどのような用があるにせよ、良い事とは思えませぬ」

村長「元はと言えばこの私の命も、この村も今あるは勇者様のおかげでございます、その恩人に仇なすような真似はするまい」

村長「後々どのような災がふりかかろうと、勇者様にあの者とは関わらせまい、と心に決めましたところ…」

勇者「よりによって私が墓参りに行く、などと言い出したものだから、驚いてどうして良いかわからなくなった、と」

村長「はい…勇者様が墓地に参られるというなら、この事はお伝えせねば、と思いつつも…」

勇者「口止めされた事を言い出すのも恐ろしくて煩悶していた、という事だな」

村長「ええ、それというのも、あの日以来何やら誰かに見られているような視線を感じる事がままありまして」

村長「しかし、こんな田舎で誰が見ているハズも無いのですが…どうにも気になりまして…」

商人「恐らく魔法による監視でしょうね」

勇者「事情はそんなところかの?」

村長「はい、私の見聞きした事はこれで全てでございます。私はどうしたらよろしいでしょう…?」

勇者「商人、遊び人、どう思う?」

商人「そうですね…その使者の服装は?」

村長「はあ、王家の御紋がついた外套に、あとは普通の装いでしたが、良い生地を使っておりました」

商人「訛りなどはありませんでしたか?」

村長「ええ、といっても、私はこの地方の国言葉しか知らないのですが…それとは違いました」

遊び人「他に何か変わった仕草とか、変わった匂いとかそういうのは無いのかよ?」

村長「そうですねぇ……そういえば、花のような良い香りが匂いましたな」

商人「花の香り……?」

村長「ええ……香水でも纏ってらっしゃるのかと思いましたが」

勇者「他にはないか?何か気づいた事というのは」

村長「わかりません……とにかく、あの底冷えする眼光が恐ろしくてそこにばかり気を取られておりまして…」

勇者「そうか、わかった、ともあれ、明日は予定通りに墓参りにまいろう」

勇者「村長どのは、墓地の手前まで案内してくれれば、あとは使者に言われたとおり外で…いや、村で待っておれば良い」

村長「し……しかし……」

勇者「向こうが何のつもりか知らんが、痩せても枯れても勇者の一行だ」

勇者「その程度の事でみすみすやられるほど衰えてはおらんよ」

村長「さようでございますか、分かりました。でも、くれぐれもお気をつけ下さい」

勇者「ああ、村長もあの時のような無茶はするでないぞ」

村長「ええ……もう私もトシでございますからな、大人しく待たせていただきます、では、失礼致します」


勇者「さて………どう思う?」

商人「まず、わかりきった事から言いますが、その使者とやらは偽物ですね」

商人「封建制のこの国で、領主を飛び越して王の使者が領民と接触なぞしたら、自治権の侵害として大騒ぎになります」

勇者「村長を震え上がらせた眼光とやらは、魔物のなせるわざってトコかね」

遊び人「わからんけどな、アレで村長も結構キモは座ってるからな、あの時単身洞窟まで殴りこんだくらいだ」

遊び人「そんじょそこらの使者ごときにあそこまで怯えやしねーんじゃねーか?」

商人「まあ、可能性は高い、としておきましょう」

勇者「あとは気になるのは香水だな」

遊び人「だな、そんなモン、この国じゃ貴族か娼婦ぐらいしか使やしねえよ」

商人「しかし、その使者とやら、貴族や娼婦という事は無いでしょうからね……何でしょうね、その匂い」

勇者「んー…………死臭……かな?」

遊び人「あ?」

勇者「いや、今回の敵…といっていいよな?の指定場所は墓地だ」

勇者「墓地といえば、アンデッドの定番だ。ソイツがもし関係してるなら、死臭が身体に染み付いていてもおかしくないだろ」

商人「なるほど、それを隠すための香水、というわけですか?」

遊び人「無いとは言い切れねーな」

勇者「まあ、確定できる材料は無いが、とりあえずアンデッドが相手である可能性は高いな」



商人「それで、どうします?今後の行動は」

商人「私達の目的から考えれば、この村の事は放置して先に進む、という選択肢も無いわけでは無いですが」

勇者「まあな、ただ、相手が魔族だとするなら、これは情報を得るチャンスだ」

勇者「最悪、一目散に逃げ出すって可能性もあるが、一応様子は見てみようと思う」

商人「そうですね……ただ、純粋な戦闘能力で行くならば我々はかなり衰えてますからね」

商人「護身のためにはある程度対策を立てた方が良いのでは?」

勇者「まあなあ………色々道具はあるが、問題はなあ……俺が剣振っても、って感じだしなあ」

商人「今、この村には戦える人は居ないんでしょうかね」

遊び人「一人は居るが……なあ……」

商人「え?誰か心当たりが?」

遊び人「あー、いや、気にすんな」

勇者「…………」

勇者「まあ、相手がアンデッドだけならばなんとかなるだろう、対策は存分にたてておく」

商人「分かりました、明日の昼間、作戦を聞きましょう」

遊び人「さてと、堅い話は終わりにして飲み直そうぜ」

商人「行くなら勇者と二人でどうぞ、私はまだ店にだす指示をまとめないといけませんので」

遊び人「んだよ、付き合いわりぃな」


--- 翌日 ---

遊び人「ふあぁ~~~、いい天気だな……商人と勇者はどこ行ったんだ?」

宿屋「あ、おはようございます、お二人はさきほど畑の方に出かけて行きましたが…」

遊び人「へえ?畑なんぞ行ってもしょうがねーしなあ…どーすっかな…とりあえず顔でも洗うか」

宿屋「でしたら、井戸がそこの広場にありますから、そちらの方が冷たくて気持ち良いですよ」

遊び人「そうかい、じゃあちっと行ってくっかな」

----------
------
---

遊び人「井戸、井戸っと…アレか」

遊び人「(バシャバシャ)ふいー、目が覚めるぜ」ゴシゴシ

娘「あ、おはようございます!戦士さん!」

遊び人「ああん?おお、嬢ちゃんか、おはようさん、どうしたこんなトコに」

娘「そりゃ井戸には水汲みに来るにきまってるじゃないですか、あはは」

遊び人「ま、そりゃそうだな……それはそうとよ、嬢ちゃん」

娘「はい?なんでしょう」

遊び人「嬢ちゃん、一体剣はドコで習ったんだ?」



遊び人「この辺じゃ剣術道場なんてモノもあるとは思えねーしよ、誰に習ったのかなって」

娘「え、いや、その……」

遊び人「隠さないでもいいじゃねーか、その手のタコといい、身のこなしといい、かなり出来るだろ?」

娘「…………さすがですね、ただの話の面白い酔っ払いじゃなかったんですね」

遊び人「いや、元戦士の、今はただの酔っ払いだぜ?」

娘「あはは、でも村のみんなには言わないで下さいよ?両親しか知らないんですから、アタシが剣を使うって事は」

遊び人「おうよ、ただでさえお転婆なのに嫁の貰い手が無くなっちまうからな」

娘「余計なお世話です!」

遊び人「んで、誰に習ったんだ?剣は」

娘「知りたいですか?」

遊び人「んー、興味はあんなー」

娘「じゃあ、ついてきて下さい」

遊び人「ん?まあいいけどよ」


--- 村外れの農道 ---

娘「はい、これどうぞ」

遊び人「木剣?まさか…」

娘「はい、お手合わせお願いします、アタシに勝ったら戦士さんの聞きたい事は教えてあげますわ♪」

遊び人「おいおい、マジかよ」

娘「アタシの事ならお気遣いなく、戦士さんに挑むからには骨の2~3本は覚悟してますから」

遊び人「いや~、そういう事じゃねぇんだがなぁ~……」ポリポリ

娘「では、いざ、尋常に勝負!」スチャ

遊び人「参ったな~……」スチャ

遊び人「(やっぱ構えからして決まってやがんなー、かなりの腕利きだわこりゃ…どうすっかね……)」

遊び人「(剣なんて握るの何年ぶりだか分かりゃしねぇ…最後に剣を振ったのは賭場で頼み込まれて用心棒やった時だったかなー……)」

遊び人「(あん時ゃまだ若かったから身体が覚えてたが……今はどうやって動いたらいいやらさっぱりだわ……)」

娘「来ないのならこちらから行きますよ、やあっ!!」

遊び人「くっ」ガキン



娘「やあっ、はあっ!とうっ!!」ブン!ビュッ!ブン!

遊び人「くっ、うへっ、やべっ!!」ガキン!カン!ガイン!

遊び人「(勝ちに拘る必要はねーんだが、勝負師として何もしないで負けるってのもなー……)」

娘「ふーん……オジサン、ホントに魔王倒したの?」

遊び人「はあ………はあ……ああ、昔な……」

娘「でも、すっかり鈍っちゃったみたいだねー、それじゃアタシには勝てないよ?」

遊び人「ふう……いやあ、すっかり運動不足でなあ (口調までタメ口に変わってやがる…)」

娘「じゃあ勝負あったって事でいいかなー、コレ以上やったらオジサン可哀想だし」

遊び人「いーやぁ、まだ負けちゃいないぜ?せっかく始めたんだ、もうちょっと付き合えや」

娘「いいけど、その重い足取りじゃアタシは捉えられないよ」スチャッ

遊び人「どうかな?こんなんもあるぜ?(ニヤリ)ほれっ!」ブンッ!フッ

娘「えっ!?(打ち込みに気を取られたスキに消えた!?)」

ザッ

娘「ゾワッ(しまった!後ろ!?いつの間に!?)」

娘「(振り向いて反撃……だめ、剣を振りきったばかり、間に合わない!!)」

ドシャアッ!!


遊び人「とっとっと、あいてててて」

娘「………って、え!?」

遊び人「シリモチついちまった、やっぱ身体がついてかねーな」ポリポリ

娘「い、今のは一体!?目の前から消えて急に背後に……」

遊び人「歩法の一種でな、相手に消えたように思わせて背後に回りこむ技なんだが…」

遊び人「足腰がすっかり衰えてっから躓いちまったよ、ははは」

娘「す……すごいです!やっぱり魔王を倒した戦士様だけの事はあります!!」

遊び人「やめてくれや、俺はすっかり鈍りきったただの遊び人だぜ?」

娘「いえ、純粋な剣術の腕は私が上だとしても、実戦経験では到底およびません」

娘「もし同じ技術を使える現役の戦士と戦ったならば、私は死んでいた、そうではありませんか?」

遊び人「ま、な、だけど実戦経験なんてのは積まないで済むなら、それに越したこたねーんだよ」

遊び人「それに、今のはどのみちタイマンでしか使えない小細工だ、そんなモン覚えたってしょうがないだろ?」

娘「そういう事を言っているのではありません、その場その場に適した技術を即座に選んで使い分けられる」

娘「それが実戦経験というモノでしょう?私には……それが全く足りないのです……」

遊び人「そんな経験積んでどうしようってんだ?戦場にでも行こうってのかよ?」

娘「いいえ……そうではないのですが……両親の話を何度も聞かされているうちに……」

娘「有事の際には村を守れるだけの力を身につけたい、常日頃からそう思っていたのです」

娘「剣を学んだのもそのためです」


遊び人「あー、そういえば忘れてたな、その剣を誰に教わったんだよ?って、俺が勝ったら教えてくれるって話だったっけな」

遊び人「勝ったとは言い難いよなぁ……今のは……」

娘「いいんです、それは単に戦士様と手合わせしてみたい、と思ってこじつけたただの口実ですから」

娘「実は、エルフの森の近くに流離いの剣士様が住み着いておりまして」

娘「その方に食べ物などをお分けする代わりに、この数年こっそりと師事しておりました」

遊び人「へぇ……アンタの太刀筋見るに、かなりの使い手なんだろうな、ソイツはまだそこに居るのかい?」

娘「さあ……昨年両親に私が剣を習っている事を知られ、そこに通う事を禁じられてしまいましたので…」

遊び人「そうか、そいつは残念だな (居るなら今夜の助っ人を頼むには絶好の人材なんだがなぁ~)」

勇者「おい、遊び人よ、何をそんな年寄りの冷や水をしておる」

遊び人「う?なんだよお前見てたのかよ」

勇者「ああ、ちょうど向こうの麦畑に居たもんでな、遠くからだがよく見えたぞ」

商人「そこのお嬢さんに翻弄されて、しまいに尻餅をつくところまでね」

遊び人「ちっ、うるせーよ、ちょっと遊んでただけだ」



--- 少し前 ---

商人「ふむふむ…やはり作付け面積あたりの収穫量が今年は大分高いですね」

勇者「お前商売熱心だなあ……」

商人「こうして弛まぬ努力を積み重ねる事で私は今の商会を築いたんですからね」

勇者「ま、その資金で助けてもらってるんだから文句は言わないが」

勇者「それにしても、結局こっちは収穫なかったな」

商人「ええ、その王の使者を見たという村人は2~3人程度」

商人「他に不審な人物や魔物を見たという者も居ないようですね」

勇者「まったく、このだだっ広い畑に出てる農夫にくまなく聞いて回ったのになあ」

商人「まあ、この後村の女性にもあたってみますが……望み薄でしょうね」

勇者「だろうなー……あれ?あれは遊び人と村長の娘じゃないか?」

商人「おや、そのようですね……あんな所で何を?」

勇者「どうやらチャンバラを始めるみたいだな」

商人「一体なにごとです!?いくら衰えたといえど元戦士がただの村娘相手に!?」


勇者「いや、見てろ、多分ちょっと面白い事になるぞ」

商人「何を呑気な、娘さんが怪我でもしたらどうします!」

勇者「怪我するとしたら、多分遊び人の方だな」

商人「え?あなた何を言って……」

勇者「お、始まったぞ」

商人「え、戦士が押されて……というか、何ですかあの娘の身のこなしは」

勇者「お前は気づいてなかったようだけど、あの娘、かなり使うぞ」

商人「驚きました……勇者さん気づいてたんですか?」

勇者「ああ、昨夜会った時にな、身のこなしが常人のモノじゃなかったし、手には明らかに剣ダコが出来てたからな」

商人「へぇ、さすが元前衛職、腐っても鯛というわけですね」

勇者「それにしても良い動きだ、ありゃウチの騎士団の連中とやってもかなりイイトコまで行くな」

商人「お、決着がつきましたね」

勇者「決着っていうか………遊び人のただの自爆だがな……」

-------------
------
---



勇者「ふーむ、森のはずれの剣士ねえ……」

遊び人「こっから森までまあまあ距離あるからな、無駄足だと準備に支障があるかもしんねー」

商人「しかし、それならこの村の猟師などは知っているかもしれません、聞いてみましょう」

勇者「今日は狩りに出てるんじゃないか?」

商人「だとしても、家族は居るでしょう」

娘「我が師に何か……?それに準備って?」

勇者「(あ、いけね) いや、こちらの話だ、気になされるな」

娘「はあ……あの、ところで、皆様はなぜ旅をしてらっしゃるのですか?」

三人「ギク」

娘「お話を伺うに、三人ともそれぞれ今は違う仕事をなさっているようですが……」

勇者「あー、その……我らも仕事が少し落ち着いたのでな、この商人に付き合って…」チラッ

商人「(私にふらないで下さい!) え、ええ、ちょっと新たな販路の開拓に出る事になりましてね」

商人「そこに丁度昔の仲間であるこの二人が暇だというので付き合ってもらってるのですよ」

娘「そうなんですかー……?」

勇者「(商人ナイス言い訳!) うむ、そのようなわけなのだ」

商人「(ごまかせました……かね?)」

面白い

毎日楽しみにしてるよ

応援ありがとうございます、ちょっとここ数日忙しくなっちゃったので
少しペースが落ちますが、待っててもらえれば嬉しいです

完結さえしてくれりゃ、いくらでも待つよ

ぜひとも完結させてほしい


--- 夕方 ---

村長「では、あの先が墓地でございます。親父の墓は一番奥の上の段にありますのですぐ分かりましょう」

勇者「うむ、ご苦労であった、では、村長どの、あとは打ち合わせ通りに」

村長「わかり申した、これより村の者に話をして万が一の時は避難させましょう」

勇者「まあ、そのような事、せずに済むに越した事は無いが」

村長「はい、私は勇者様のお力を信じておりますゆえ……では、くれぐれもお気をつけて」スタスタ

勇者「さーて、行ってみるかね、墓参りに」

遊び人「鬼と出るか邪と出るか」

商人「どちらも出ないのが一番ですがね」

勇者「いやいや、それじゃ無駄足じゃないか、何か情報がつかめると思うからこんな事してるんだぜ」

商人「それもそうでしたね」

シブいねぇ

おっさんたちだけってのがいいな
アーロンとかの立ち位置もいいけど




--- 夕方 ---

村長「では、あの先が墓地でございます。親父の墓は一番奥の上の段にありますのですぐ分かりましょう」

勇者「うむ、ご苦労であった、では、村長どの、あとは打ち合わせ通りに」

村長「わかり申した、これより村の者に話をして万が一の時は避難させましょう」

勇者「まあ、そのような事、せずに済むに越した事は無いが」

村長「はい、私は勇者様のお力を信じておりますゆえ……では、くれぐれもお気をつけて」スタスタ

勇者「さーて、行ってみるかね、墓参りに」

遊び人「鬼と出るか邪と出るか」

商人「どちらも出ないのが一番ですがね」

勇者「いやいや、それじゃ無駄足じゃないか、何か情報がつかめると思うからこんな事してるんだぜ」

商人「それもそうでしたね」


勇者「さて、これが先代の村長どのの墓か……まずは祈りでも捧げるかね」

商人「そうですね、それじゃ昔とった杵柄で、私が鎮魂の祈りを……女神よ、ここに眠る死者がなんたらかんたら」

商人「~~その魂が安らかならん事を……」

遊び人「(空気が変わったな……)」

勇者「やはり何か居るな」

??「ようこそ勇者さま、お待ちしておりましたよ」

勇者「ほう、何者だ?どこに居る?」

??「おっと、失礼致しました、私は魔王様配下、死霊術師と申します、以後お見知り置きを。」

商人「悪役の決まり文句としちゃ"短い時間ですが"が抜けてますね」

死霊術師「いえいえ、勇者様がたとは長いお付き合いをさせて頂きたいと思っておりますので」

勇者「(黒ローブを頭からすっぽりか…この気配は人間ではないとは思うが…正体が見えんな)」

勇者「ほほう、まあそう言うなら別に俺は付き合いは拒まんが、一つ教えてくれ」

死霊術師「はい、何でございましょう?」

勇者「確か、四天王が一、冥王は30年前に倒したハズだが、おぬしは今誰の配下で動いておる?」


死霊術師「ええ、その通り、冥王は現在おりませぬ、今は私は魔王様の直下で働かせていただいております」

勇者「ほう、魔王直属か、それはやはり大したモノなのか?我ら人間とお主ら魔族の常識は違うでな」

死霊術師「それはもうもちろん、と申し上げたい所ではございますが、まだある意味弱小勢力の一人でしかない、と言えましょう」

勇者「そうなのか?魔王ともあろうものが弱小勢力とは随分へりくだったものだな」

勇者「(しめた、コイツ、だいぶ喋り好きだな)」

死霊術師「いえいえ、何しろ魔王様は復活なさったばかり、それもまだ女神の軛から逃れられておりませぬ」

勇者「女神の軛?それは封印の事かの?解かれたわけではないのか?」

死霊術師「あなた方もご存知でしょう?女神の封印は6つ施されている、と」

勇者「つまり、そのうち一つしかまだ解かれていない、そういう事かの?」

死霊術師「ええ、そのためまだ魔王様はまだ大きな力が使えずに居るのですよ」

勇者「それにしても、弱小勢力と申したが、それでは大きな勢力が別におるのか?」

死霊術師「もちろん、今も変わらず親人間派の魔族評議会どもが魔界を牛耳っておりますからな」

死霊術師「我々はまだ、それに反旗を翻す弱小の抵抗勢力でしかございませんよ」



勇者「つまり、それらを打倒し、魔王による政権の奪取を目論んでおる、そういう事だな?」

死霊術師「ええ、そうでございますな、そのような事は許せぬ、勇者様でしたらそうおっしゃいますかな?」

勇者「いや、まあ30年前の因縁もあるでな、素直に復活を祝ってやるわけにはいかんが」

勇者「そうは言いつつも、我らもあの時命を賭けて戦った相手がどのような男であったのか」

勇者「今は魔王がどうこう、というよりもそこに興味がある、といった所かの」

死霊術師「………面白い方ですな、勇者様は。過去の歴史を紐解いてもそのような事を言った勇者はおりませんでしょう」

勇者「ま、過去の歴史を紐解いても、一生に二度魔王と会う機会があった勇者はおるまいしな」

勇者「そこで問いたいのだが、お主の目から見て、魔王とはどんな男だ?」

死霊術師「そうですね、恐ろしいが、素晴らしいお方、と申し上げておきましょうか」

死霊術師「それ以上は恐れ多くて、私などの口から申し上げるにはまいりませんが」

勇者「素晴らしい……か、おぬしにとってはそうなのかも知れんな」




死霊術師「さて、少々おしゃべりが過ぎてしまいましたな、本題に入らせていただきましょう」

勇者「ふむ、王の使者まで装って我らを呼び出したからには大事な用件があるのだろうな」

死霊術師「ええ、もちろんでございます。それは、こういう事でして」

死霊術師「出よ!!死霊ども!!!!」

ボコボコッ 

ゾンビA「あ~う~」

ゾンビB「うぼあぁ~」

勇者「……たかがゾンビといえど、ここまでの数がおると壮観だの」

勇者「して、この死霊どもの手で我らの命を取りに参ったか?」

死霊術師「いえいえ、そうではございません」

勇者「ほう?」

死霊術師「貴方を殺めてしまえば、どこかでまた新たな若き勇者が生まれるでしょう」

死霊術師「勇者は常に一人、そして魔王復活する時、また勇者の血も輝くと伝承にもございますからな」

勇者「そういう事のようだの」


すごい面白い



死霊術師「ですが、それではまた力をつけた若き勇者に魔王様が討たれてしまう可能性がございます」

死霊術師「ならば、昔日の力を失い、衰えた勇者、つまり貴方を虜囚にしてしまえば良い」

死霊術師「それが、先ほど申し上げた『長いお付き合い』という意味でございます」

勇者「ふむ、この勇者、ずいぶんと舐められたモノだな……」

勇者「と、申したいが、おぬしの言うように私が一騎当千の勇者だったのは昔の事よ」

勇者「今となってはロクに剣も振れぬ。おぬしが私を捕らえると申すならばそれもよかろう」

勇者「この数のゾンビと戦えるだけの力は私には無い、ドコへなりと同行しよう」

死霊術師「ほほう、さすが勇者様、潔い事でございますな、話が早くて助かります」

勇者「ただ、同道するにあたり、たのみがある」

死霊術師「何でございましょう?」

勇者「まず、私以外のこの二人の命を保証してもらいたい」

死霊術師「そうですな、勇者様にご同行願えるならば、それは保証致しましょう」

勇者「それから、この村の者には手を出さないでもらいたい」

死霊術師「ええ、それも良いでしょう、私の使命は貴方を捕らえる事でございますからな、この村に用はありません」

死霊術師「ただ、今後魔王様が侵攻の指示を出された場合にはその限りではございませんがよろしいですかな?」

勇者「………まあ仕方なかろう、万が一おぬしが義理堅く魔王に逆らったところで聞き入れてもらえる話でもあるまい」


死霊術師「では、ご同行いただきましょう、ゾンビどものエスコートで申し訳ありませんが」

勇者「まあ良かろう、では我が剣をそなたに預けようか」チャキ、クルッ

死霊術師「これはこれはご丁寧に…しかし、その勇者の剣は我ら魔族には触れる事は出来ぬハズでは?」

勇者「そんな事は無い、アンデッドに対しては破魔の魔力を持つが、ただの魔族であれば別に害は無い」

死霊術師「では、恐れながら預からせていただきましょう」スタスタ

勇者「うむ」スッ

死霊術師「あ、いや、ここは少し用心させていただきましょう、衰えたといえその剣を持った勇者様は些か危険ですからな」

死霊術師「んー、そこの遊び人どの、勇者様の剣を持ってこちらに来ていただきましょう」

勇者「ふむ?疑りぶかい事だな。ま、よかろう、じゃあ遊び人、頼む」

遊び人「おうよ。ほれ、これでいいだろ、俺が持ってもこの剣はただの棒きれだ」

死霊術師「お手間をかけさせましたな、ありがとうございます」

死霊術師「これが……魔王さまを30年前に封じた勇者の剣……なんと禍々しい…」

死霊術師「しかし、これを持って帰ったとなれば私の地位も安泰……次期四天王すら夢では無い……」ウットリ

遊び人「なあ、ところでよ、死霊術師っつったか?」

死霊術師「何でございましょう?」



遊び人「ドコに連れてくのかしらねーけどよ、行く先に賭場はあるか?」

死霊術師「と、賭場ですと!?」

遊び人「まあ、遊ぶトコも無いと退屈しちまうからよ」

死霊術師「は、はぁ…なんと緊張感の無い……」

死霊術師「ま、まあ魔族にも博打に目がない者はおりますからな…」

死霊術師「賭場、といった場所があるわけではありませんが、そやつらと勝手に博打でも何でもすればよろしいでしょう」

遊び人「なんだそうか、そりゃあ安心だ、悪いなー気を使わせて!」ポンポン

死霊術師「は、はあ………まあ、私は勇者様さえ連れて行ければ良いので、あとはご自由にどうぞ……」

勇者「では参ろうか」コクリ

商人「そうですね、行きますか」コクリ

遊び人「だな」

死霊術師「そんなに気負わずとも気楽になさっt…」

商人『符よ、魔を封じよ』

カッ バリバリバリ

死霊術師「なっ、うぎゃあああああああ!!!!」バチバチバチ


死霊術師「う、動けぬ……これは封魔の呪符……い、いつの間に!?」バチバチ

遊び人「さっきお前の肩を叩いた時にこっそり、な」

死霊術師「く、ぬかったわ!!!しかし我が動けずとも、貴様らごとき……ゾンビどもよ!こやつらを捕らえよ!!」

ゾンビA「あ~う~」ズルッズルッ

ゾンビB「うご~うご~」ヨタヨタ

死霊術師「今の貴様らではこの数のゾンビを相手には出来まい!!」

勇者「破邪魔法!!!!」ピカッ

ゾンビA「う~……」ボロッ

ゾンビB「あぼ~~……」ボロッ

死霊術師「なっ!?」

勇者「ま、何年も使ってなかったが忘れたわけではないからな、昔使えた魔法は今でも使えるんだよ」

勇者「もっとも、この数相手では魔力が保たんが、そこは商人の力があるからな」グビグビ

死霊術師「き、貴様らぁぁあ!!!!」バチバチバチ

商人「はいはい、魔力の薬は高いんですからあまり無駄遣いしないで下さいよ」

勇者「まあそう言うなよ、んじゃ封魔の効果が消える前にさっさと片付けちまおう、破邪魔法!」ピカッ

遊び人「んじゃ俺も、おりゃ!」バシャ!!

ゾンビC「うぼぁ」ドロドロ

遊び人「さすが中央神殿謹製の聖水だな、よくきくわ」

商人「まったく……大損害ですよ、ウチの商品をこんな事に……」

良いSS発見。無事に完結まで書ききって下さいな

おっさん臭さに溢れたいい戦い方だな

この死霊術師から中間管理職の哀愁を感じる......


勇者「さて、片付いたかな」

遊び人「だな、さすがに何発か食らったが、銀の鎖帷子のおかげでカスリ傷一つ無いぜ」

勇者「ま、こんなモノ着て動きまわるのは久しぶりだから大分疲れたがなあ」

商人「まったく、あんなトロいゾンビ相手に何発ももらうなんて運動不足にもほどがありますよ」

勇者「お前だって運動不足に変わりは無いだろうが」

商人「いいんです、私は元から後衛職ですから」

死霊術師「くっ、この卑怯者ども!勇者として恥ずかしくは無いのか!!」

商人「卑怯者?何を甘い事を言ってるんですか、我々とあなた方はこれから戦争をしようというのに」

勇者「ま、俺たちもトシとったもんでな、正々堂々ってワケには行かないんだわ、悪く思うなよ」

死霊術師「ぐっ……」

勇者「さてと、改めてお前に聞きたい事がある」

死霊術師「…………」

勇者「何故俺たちがココに来る事を知っている?」

死霊術師「ふん、魔王様は全てをお見通しだ、貴様らの浅知恵など通じると思うな!」

勇者「ほほー、ならば俺らが聖水や封魔の呪符を用意している事も知っていそうなものだがな」

勇者「それに俺が破邪魔法を使える事も知っているハズ、それを教えてくれないとは魔王も不親切だな」

死霊術師「それは……魔王様はご多忙だ、そのように細かい事まで指示を下さるほど暇ではない……」

勇者「すると、それは下調べを怠ったお前の落ち度って事だな」

勇者「それから、もう一つ、魔王はどこにおる?」

死霊術師「ふん……そんな事を我がしゃべると思うか?」

勇者「それもそうだな、じゃあ俺の考えを言おうか」

死霊術師「…………」



勇者「お前はどこかに俺たちを連れて行くと言っていたな」

勇者「しかし、魔王はまだ弱小勢力に過ぎん、とはお前の言だ」

勇者「となれば、俺を囚えておくような拠点がそう多いとも思えんからな、おそらく魔王の下へ連れて行くつもりだったのだろう」

死霊術師「…………」

勇者「ところで、お前は馬車も何も用意して無いようだが、どうやって俺たちを拉致するつもりだったんだ?」

死霊術師「いくら聞いたとて無駄だ、何も喋らん」

勇者「まあ、この近くに拠点があるというなら別だが、こんな人間領域の奥深くに魔族の拠点をすぐ作れるとも思えない」

勇者「かといって、ゾンビ共をわらわら引き連れて歩いていたら、いつ誰に見咎められるとも限らん」

勇者「という事は、だ」ズイッ

死霊術師「ビクッ…………」

勇者「何らかの移動手段がある、という事だよな?」

死霊術師「…………」プイ

勇者「ふふふ、正直だな、いちいち全部顔に書いてある」

勇者「遊び人、コイツの身体検査を頼む」

遊び人「んだよ、魔族のヤローの身体なんてまさぐったって面白くもなんともねーのになあ」

遊び人「魔術書に、触媒に、短剣に魔石に封印された巻物が一つ、目ぼしいモノはねーなあ」

勇者「ふむ、すると、どこか近くに転送用のゲートでもあるか、それとも協力者が居るか、ってトコか」

死霊術師「…………」

勇者「この巻物が怪しいな」チラッ

死霊術師「…………」プイ

勇者「まあ良い、概ね聞きたい事は聞けた。さてと」

死霊術師「………殺せ」

勇者「おいおい、そう死に急ぐモンじゃない、俺達は恨みもないお前を殺すほど残忍じゃない」

死霊術師「どうせ解放されたとて、このような失態を演じた私を魔王様はお許しになるまい」

勇者「ふーん、それじゃ、ここで俺たちがお前を解き放っても、どのみちお前は死ぬ運命って事か?」

死霊術師「当然だ、魔王軍の規律は厳しい。失敗した者を生かしておいては示しがつかん」

勇者「そうかー、そりゃ可哀想な話だな、それじゃ、俺たちにつく、ってのはどうだ?」

死霊術師「はぁっ!?」


勇者「どうせ殺されるならば、わざわざ魔王の下に死にに行く事もあるまいよ」

勇者「俺たちに付けば、生き残る可能性もあるんじゃないか?」

死霊術師「ふ、ふざけるな!!!私は魔王様に命を捧げている!命惜しさに寝返るような軟弱者と侮るでない!!!」

勇者「ま、そうだよなー、そうコロコロ旗の色を変えられても見苦しいもんな」

勇者「とはいえ、今お前を殺す理由も無いしな、とりあえず悪さが出来無いように魔石と触媒は預からせてもらうが」

勇者「あとは、その呪符の効果が切れたらが好きなようにするがよかろう」

死霊術師「くっ、我に生き恥を晒せというか!殺せ!!!!」

遊び人「バカ言うんじゃないぜ、命は一つ、大事にしなよ、ははは」スタスタ

勇者「そういう事だな、では、俺らはこれで退散させてもらう。またどこかで会うことがあったらよろしくな」スタスタ

商人「ああ、そうそう、魔石はありがたく頂きます。これで少しは損害を補填できます。感謝しますよ」ペコリ

死霊術師「くっそぉぉぉぉ!!!!」ギリギリ



勇者「さてと、すっかり暗くなっちまったな」

遊び人「だな、さっさと村に戻って村長を安心させてやるとすっか」

商人「暗くなるとアンデッドの力が増しますからね、まだ夕刻で良かったですね」

勇者「それにしても、読みが当たってよかったな」

遊び人「ま、何が来ても良いように策は巡らせたがな」

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-- 昼間 --

勇者「ま、ともかく敵がアンデッドならば聖水と破邪の魔法でなんとかなる」

遊び人「もし、そうじゃなければ、封魔の符で動きを止める、か」

商人「どちらにせよ、まずは敵を油断させて近づく事を念頭におきましょう」

遊び人「封魔の符で抑えきれない相手だったら逃げる事を考えた方がいいな」

勇者「そうだな、そこは、対峙してみての空気で判断しよう」

勇者「ともあれ、まずは言葉での交渉を試みる。上手く投降の流れに持っていけるならば……」

商人「投降して武器を渡すフリでもして封魔の符を敵に貼り付けましょう」

遊び人「ま、賭場でのイカサマに比べりゃ簡単なこったな」

商人「しかし、問答無用で襲ってくるような相手ならどうします?」

勇者「そりゃあ逃げるにしかず、だ。しかし、それは無いと思う」

遊び人「なんでだ?」


勇者「敵はわざわざ俺たちがココに来る事を知って呼び出しているんだ」

勇者「という事は、何か用があると見た方がよかろう」

勇者「ただ殺すだけならば、俺達の動向が分かってるんだから道端で待ち伏せでもかけた方がいい」

遊び人「そう言われりゃそうかもな」

勇者「墓地という場所から考えるに、アンデッドの線は濃いが」

勇者「それにしたって殺害を第一目的にするならば、村人を全てゾンビにでも吸血鬼にでもして待ちぶせしていれば済むことだ」

商人「確かに、何かこう、人目につきたくない、という意図が感じられますね」

勇者「ま、敵さんにも何か事情があるんだろうな、そもそもその敵ってのが誰なのかわからんが」

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勇者「と、村の入り口が見えてきたな」

遊び人「今日は久々に身体動かしたから疲れちまったよ、さっさと酒飲んで寝た……」

???「勇者様!!!危ない後ろ!!!!!」

死霊術師「ゆ゛う゛し゛ゃあ゛あ゛あああ……」ギラリ

勇者「ぬおっ!!!あぶっ」カキーン……ズデン

遊・商「なっ!?」


続きが気になる…


死霊術師「し゛ね゛え゛え゛ええええ」ブンッ

勇者「(しまった!避けられん!!!)」

???「させるかっ!はあっ!!!」ズバッ

死霊術師「ぐあ゛あ゛あ゛ああ」

遊び人「お、おまえ!」

娘「勇者様!ご無事で!」

勇者「あ、ああ、すまん、助かった……」

商人「まだ終わってません!相手はアンデッド化しています、気をつけて!!!」

死霊術師「ぎがぬ゛わ゛あ……あ…」

勇者「娘!これを使え!!!!」ポイッ

娘「これは……勇者の剣!?」

勇者「女神の加護なくとも、不死者には触れるだけで効果がある!」

娘「わかりました!亡者よ、黄泉の国へ帰れ!!!!」ザシュッ

死霊術師「ぐあ゛あ゛あ……あ……ああ………」ボロボロ


娘「はあっ、はあっ……み、皆様ご無事ですか!?」

勇者「ああ、助かった……、すまぬな」

商人「しかし……ヤツには封魔の効果がまだ残っていたハズ……」

遊び人「ココ見ろ、肩の所、えぐれてる」

商人「皮膚ごと、いや、肉ごと短剣で呪符を剥ぎとって……」

勇者「そして、自らアンデッドと化して捨て身で襲ってきたってワケか」

遊び人「なんつー執念だ………こりゃ、今後も一筋縄じゃいかんぞ」

商人「ですね………」

娘「い、一体何が起きているのですか?こいつ、勇者様を襲うとは……」

勇者「(しまった……)」

勇者「そ、それよりも、娘御、なぜこのような場所に?」

娘「あ、はい、さきほど父が村人を集めて、勇者様が危機に立ち向かっていると言ったんです」

娘「そして、万が一の事を考えて避難の準備をしろ、と」

娘「それを聞いて私は居てもたってもいられず、こうして剣を持って墓地に向かってみれば……」

勇者「私が無様に転んでいるところに出くわした、というわけか、いや、これは助かった」

娘「いえ、この程度、私の両親の受けた恩に比べれば……」



娘「それにしても……この者は一体?魔物……なのですか?」

勇者「ああ、まあそうだな、元から魔族だが、アンデッドに成り果てたようだ」

娘「一体何事なのです?父が村人を避難させ、勇者様がこのような者に襲われる、ただごととは思えませぬ」

遊び人「あー、まあ、気にすんな、大した事じゃねー」

娘「…………」

遊び人「…………」

娘「………そうですか……わかりました、色々事情があるでしょう」

娘「うるさくお尋ねして勇者様がたを困らせるつもりはございません」

勇者「そうか……それは助かる。何にせよ、今はまだ何も語る事ができぬ。すまぬが……」

娘「ええ、分かっております、それも勇者様のお考えあっての事でしょう」

娘「それはお尋ね致しませんが、一つお願いがございます」

勇者「なんだ?そなたは言うなれば私の命の恩人だ、何なりと申すが良い」

勇者「私に出来ることであれば何でも礼をいたそう」

娘「ありがとうございます、とはいえ、勇者様もお疲れでございましょう」

娘「私も避難の必要が無くなった旨、村人たちにお話をしなければなりませんし」

娘「今夜は一晩ゆっくりとお休み頂いて、明日改めてお話させて頂きたいです」

勇者「さようか、分かった、では明日伺おう」

娘「分かりました、では、おやすみなさいませ」

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-- 翌朝 --

村長「本当に、勇者様には30年前に続きまたもやこの村の危機を救って下さいまして…」

勇者「いやいや、昨夜の事は私たちを狙った不届き者のしわざ、言ってみれば自ら呼び込んだ災難じゃ」

勇者「むしろ、おぬしらに迷惑をかけてしまったようなものじゃ、騒がせてすまぬな」

村長「何をおっしゃいますやら……」

商人「いえ、礼を言うのはこちらの方です、娘さんの助けがなければ我々の命は危なかったでしょう」

村長「いやその…アレのお転婆には本当に手を焼いておりましたが…勇者様のお役に立てたならば光栄でございます」

村長「まったく、親の言うことも聞かずに、などと思っておりましたが、何が幸いするか分かりませぬ」

勇者「そうだの、まあ若い者には若い時しか出来ぬ事がある、ある程度は好きにさせてやる事だな」

勇者「そういえば、娘御にもきちんと礼を申しておらなんだな、今はいずこに?」

村長「はて、さきほどまで家におったのですが……」

娘「お呼びでしょうか?勇者様」

村長「お前今までどこに………って、何事だ!?その出で立ちは!!!」

娘「勇者様、昨夜はご無事でなによりでした、私たちの受けたご恩をこれで返せたとは思いませんが」

娘「勇者様の昨夜のお言葉に甘えまして、恥を顧みずにお願いがございます」

勇者「………(いや~~~な予感……)」

娘「私を勇者様のお供にお連れ下さいませ!!!」

全員「なっ!?」



村長「何をバカな事を!少し剣が使えるとは言え、お前ごときが勇者様のお役になど立てるわけが……」

娘「そんな事ありませんわ、お父様、私はこちらの戦士様と昨日引き分けましてよ」

娘「そうですよね?戦士様?」

遊び人「あ、うう、まあな……」

村長「お、お前、なんと失礼な真似を!!!」

娘「それに、昨日勇者様は私の願いを一つ叶えて下さる、と言いました」

勇者「あ、う、そ、そうだなあ……し、しかし…」

娘「もちろん私ごときが勇者様のご一行に加わるなど、身の程知らずである事は分かっております!」

娘「ですから、雑用でも何でも致しますのでどうか従者としてお連れ下さい!」

村長「な、何を言っておる、お前ももうそろそろ身を固めても良いトシで……」

夫人「まあまあ、あなた、そう頭ごなしに言うものじゃありません、いいじゃありませんか」

村長「な、お前まで何を言って……」

夫人「大体あなただって若い時は無茶をしたでしょうに、今さら娘にはダメだなんて言えないのでは?」



村長「そ、そりゃあそうだが……」

勇者「し、しかしだな、我らの旅路は危険が多い、年頃の娘御を同道させるわけには……」

娘「ならばなおさらですわ!私がこの身に替えてでも勇者様のお命は守りぬいて見せます!」

村長「な、何を言っておる、そんな危険な旅に……」

娘「そんな危険な旅に私たちの恩人である勇者様が旅立つというのにお父様は見てみぬふりをするのですか!?」

村長「い、いや、そういう事ではなく……」タジタジ

夫人「勇者様、私からもお願い致します、しつけの行き届かない不出来な娘ではございますが」

夫人「多少なりともお役にたつ事もありましょう、どうぞお連れ下さいませんか?」

勇者「え、いや、その、しかし夫人どの……」

夫人「この娘には、私たちの知らぬ広い世界を見せてやりたいと思っていたのです」

夫人「勇者様ならば信頼のおける事、この上ありませぬ、どうか足手まといではございましょうが、お願い申し上げます」

勇者「そ、そんな……」タジタジ

娘「わあ!お母さん!!!ありがとう!!!!!」

夫人「いいんですよ、若い時というのは色々と経験を積むのも大事な事です」

夫人「でも、一つだけ約束して、必ず帰ってくる事、いいわね?」

娘「わかってる!!!大丈夫だよ!娘を信じて!!」

勇&村「………(唖然)」

乙ー

オッサンパーティーに若いのがきたな
乙!

すみません、日が空いちゃってますが
ちょっと忙しいので続きが投下できません…

忘れてるわけではないので、完結目指して頑張りますんで
しばしお待ち下さいー

待ってるよー

ういさー
気長に待ちまっせー

面白いな
勇者は初老か?たまに口調が老人臭いwwww
ともあれ、気長に待っていますつ④

>>134
中年の管理職クラスの騎士って事で、ちょっと貫禄を出そうと昔の武士風の言葉遣いをさせてたんですが
確かにたまに語尾が「じゃ」とかになって老人くさくなってますねw

というわけで続きを






-- 道中 馬車の中 --

遊び人「なあ………」

勇者「………なんだ?」

遊び人「アレ、ホントに連れて行くのかよ……」

勇者「そう言われてもな………女二人に押し切られちゃあなあ」

商人「正直人手は、特に戦闘力のある人間は必要ですから、困りもしませんがね」

遊び人「そうは言うけどよぉ~、あ~あ、せっかく男三人の気楽な旅路だったのによー」

勇者「まあまあそう言うな、あれで剣も良く使うし見た目も悪く無い、良い娘じゃないか」

遊び人「そりゃそうだがよ、あんな娘みたいな年頃のガキに着いてこられてもなあー」

商人「そういえば貴方は未だに独り身じゃないですか、何なら村長の家に婿入りでも考えては?」

遊び人「バカかお前、俺にそういう趣味はねーっつーの。それにそもそも何が悲しくて結婚なんてせにゃならんのよ」

遊び人「だいたい俺は素人の女には興味ねーの、後腐れない色街の女どもが一番肌にあってんだよ」

勇者「ははは、さすが遊び人」

勇者「あれ、そういえば商人、遊び人の事を言うがお前は結婚してたのか?」

商人「ああ、知りませんでしたか?私は一度結婚しましたが、家内とは離縁してます」

勇者「おっと、そりゃ悪い事を聞いたな」

商人「いえ、別に気にしないで良いですよ、15年以上昔の話ですしね」

遊び人「ま、人間生きてりゃ色んな事があるやね」





勇者「まあ、それはともかくとしてだ、あの娘、事情も分からず我々に着いてきてるけど」

勇者「どうしたもんかね、我々の目的についてどこまで話す?」

商人「そうですね……ま、隠したところで仕方ないでしょう、我々の行く先でいつかは分かることです」

遊び人「大体、目的を隠してたら作戦立てる時にもいちいちコソコソやんなきゃならねーだろ、面倒だ」

勇者「ま、それもそうだな、それに魔王と対峙する覚悟も無しにこの旅に付き合わせるわけにもいかんよな」

商人「もし魔王討伐と聞いて怖気づくようなら、村に引き返せる今の内の方が良いかもしれませんしね」

遊び人「ま、そんなタマとも思えんけどな」

商人「私もそう思いますね。大した度胸ですよ、彼女は」

勇者「なら、善は急げだな、じゃあ俺が話そう。悪いが商人、御者を変わってやってくれ」

商人「わかりました」

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あ、商人男だったんだ

>>137
なんでだろう、俺も女だと思ってた。

女じゃなかったことに驚きを隠せないわ・・・

普通に男だと思ってたけど、僧侶時代からがめつくて商人に転職する女ってのもなかなかおもしろいな

家内で、え?てなったわ

>>137-139
へへへ、元僧侶だからって女とは限らないんだぜ?
っていうか、47歳の銭ゲバBBAとか書いててもつまらんwww



--------------

勇者「そのような次第でな、我らは魔王の討伐のために現在旅をしておる」

勇者「軽々に口にできん話でな、事情を伏せておったが、共に旅に出るからには知っておく必要があろう」

娘「魔……魔王が復活を……」

勇者「このような大事とは知らずにおぬしは着いてきた、もしも村に引き返したいと申すならば送って行くが…」

娘「え?」

勇者「まだ村から離れて半日も経っておらんからな、今から引き返してもさほど無駄足にはならん」

娘「帰るなんて、そんな、勇者様と共に魔王を倒す旅、これほど戦士として光栄な旅路がありましょうか!」

娘「むしろ改めてお願い致します。どうぞ魔王討伐のために私の剣を役立させて下さい!」

勇者「ま……そういうだろうと思ったがな……ま、今回は魔王に正面きって戦いを挑むつもりは無いが」

勇者「とはいえ道中には危険が満ち満ちていよう、注意を怠らんようにな」

娘「はいっ!!!」

勇者「と……あとな、もう一つ」

娘「何でしょうか?」



口調についてだなこれは


勇者「んー、まあ、いきなりキャラ替えるのもアレなんだけどなあ」ポリポリ

娘「!?」

勇者「ま、アレだ、これからお前さんも俺らの旅の仲間だからな、いつまでもかしこまってるのもおかしいだろ?」

勇者「だからまあ、堅苦しいのは人前だけっちゅー事で、身内のお前さんの前じゃ素で行かせてもらうよ」

娘「は、はあ……」

勇者「ま、仕事柄しゃっちょこばるのには慣れてるけど、やっぱり四六時中ってなると肩が凝ってしかたない」

勇者「勇者のイメージを壊して悪いが、まあ、そういう事でひとつよろしく頼む」

娘「は、はい……わかりました……」

遊び人「なーにがよろしく頼むだ、そんな表裏のあるヤツはお前だけだよ」ゴロン

勇者「お前はそりゃいつだって素だからいいだろうけどよw」

遊び人「ま、商人は商人でアレがホントに素なのか、って未だに信じらんないんだけどな」

勇者「全くだな、っていうか前の奥さんってのもあの調子で口説いたのかね」

遊び人「いやー、アイツなら有り得るぜ、意外と強引だしな」

勇者「それにしたってなあ、見てみたいぜ、そん時の様子wwww」

娘「(な……なんかもしかしてアタシ、早まったのかしら……)」


-- 森のはずれ --

勇者「さてと、ここからは馬車は入れんな、どうする?」

商人「私が残って番をするつもりだったのですが、よろしければ娘さんにも付き合っていただけると助かりますね」

娘「あ、私、ですか?」

勇者「まあ、確かに一財産積んであるからな、腕利きの用心棒が居るに越したことはないな」

商人「ええ、この中でまともに戦えるのは娘さんだけですからね」

遊び人「んだな、まあエルフの勢力圏だからな、悪党がうろついてる事もないだろうし気楽に待ってろや」

娘「あ、はい!が、頑張ります!」

勇者「じゃあ決まりだな、商人と娘はココで待っててくれ、俺と遊び人でエルフの里に行ってくる」

商人「分かりました。あ、それで一つお願いがあるのですが」

勇者「なんだ?」

商人「コレを持って行って下さい」

勇者「なんだコレ?」ズッシリ

商人「エルフの入手しにくい生活物資です。主にこの地方には珍しい触媒や、銀の鏃なんかですね」

遊び人「ははあ、それで何かと交換してこい、ってそーゆーワケか?」

商人「ええ、彼らは貨幣は意味を為しませんからね、こういった物資で物々交換するしかありません」

商人「できれば薬品類が望ましいですね、エルフの作る薬品はかなり高値で取引されますから」

勇者「お前はホントにブレないヤツだな」

というわけで、今日はこのへんで。

ちなみに、一応今のパーティはこんな感じ

勇者(47歳)♂
現職業:騎士長(課長ぐらいのイメージ)
既婚、娘アリ、意外と口が立つ

戦士(48歳)♂
現職業:遊び人
未婚、博打好き、イイカゲン

僧侶(47歳)♂
現職業:商人
バツイチ、豪商、几帳面

娘(19歳)♀
現職業:女戦士
未婚、快活、やや単純

これだと、30年前に結婚してから娘が生まれるまで11年も経ってるんで
田舎の農村としちゃ明らかにおかしいんだけど、そこはまあ
最初の子供は流産した、とか、なんかそんな脳内補完でもしておいて下さい(笑)



娘がおっさんパーティーの
加齢臭に耐えきるのが
まず最初の関門やな

女戦士と書かれるとどうしてもビキニアーマーが先に来るDQ3脳

>>148
いやあ、無理もない。
「スライム」といわれて思い浮かぶアレとか「階段登る音」といわれて聞こえてくるザッザッザッザッとか
もはや一種の記号と化してるからね。

恐るべしドラクエ

>>148-149
それは仕方ないですね、そもそも勇者vs魔王って構図自体がドラクエのイメージだし
クレリックやプリーストを「僧侶」って訳したのもドラクエだし
今のまおゆうSSの殆どがドラクエの世界をベースにしてますよね

というわけで続きです




-- 森の中 --

勇者「ここも30年ぶりだな」

遊び人「だな、あん時は6人で魔法使いをなだめながら歩いたよな」

勇者「そうだったな、ま、あんだけ悪ガキだったら帰りたくもあるまいな」

遊び人「あ、でもよ、そういえばエルフの結界抜けるのにアイツが必要だったんだよな」

遊び人「今回はどうすんだ?ここで一晩迷わされて気づいたら森の外でした、なんてのは勘弁だぜ?」

勇者「お前忘れたのか、あん時結界を抜けるための護符をもらっただろ」

遊び人「ああ?えーと、ああ、そういえば……なんか長老ってヤツが再び訪れる時のためにどうとかって言ってたな」

勇者「そそ、ま、結局その再びってのは無かったんだけどな」

遊び人「いや、こうしてあったじゃねーか、まさに今」

勇者「えっ、まあ………そりゃそうだが」

遊び人「案外あの長老とかいうヤツ、この事まで見通してたのかもしんねーぞ?」

勇者「まさか、いくら神秘の種族、エルフって言ったって……」

遊び人「ま、そんな事は無いかもしんないけどよ、どっちみち俺らがもう一度ココに来る可能性がある、って」

遊び人「あの長老はそう判断してたって事だろ?でなきゃそんなモンわざわざくれないだろ」

勇者「かもな……」



勇者「さてと、そろそろエルフの結界に入る頃だが……」

遊び人「そのオマモリ、ホントに効果あんのかね…」

勇者「ま、長寿なエルフの作る護符だ、30年やそこらで賞味期限切れって事もあるまいよ……と」グラリ

遊び人「う、なんだ?」グラッ

勇者「眩暈がしたな、結界に入ったって事かもしれない」

遊び人「つーかこんな森の中、俺らホントに迷わずにこれてんのかね」

遊び人「30年前の記憶っつっても、こう木しかないんじゃ全くアテになんねーよ」

勇者「ま、多分な、今んトコ木の影の向きからすればまっすぐ歩いて来てるハズだ」

遊び人「そう祈りたいねえ……うおっ!?」ヒュン、ズトッ

エルフ「止まれ!何者だ!!!」

勇者「お、どうやらあってたみたいだぜ?」

遊び人「お、おお、そりゃあめでたいが、こういう歓迎はあんまり好みじゃねーなあ、心臓に悪い」

エルフ「人間には立ち入れぬハズのこの森にどうやって入り込んだ!魔の者の化身か!?」

勇者「怪しい者ではない、30年ほど前にもこちらで世話になった勇者だ、覚えておらんか?」

エルフ「勇者……?ああ、あの悪タレが連れてきた人間どもか……?」

勇者「そうだ、思い出してくれたか?」



エルフ「ふむ……しかし、お前があの時の勇者であるという言葉は証明できるか?」

勇者「証明?」

エルフ「私もあの時勇者と呼ばれる人間と会っているが、今の貴様らは姿形が違いすぎる」

勇者「それは仕方あるまい、おぬしらエルフとは歳をとる速度が違う」

エルフ「だからだ。貴様にその面影があるか、などと言われても一度きり会った人間の歳を取った顔など見分けがつかん」

勇者「ならば、これを見てくれ(ガサゴソ)あの時長老どのにいただいた護符だ」

エルフ「ふむ……確かにそれは我が里の流儀で作られた物のようだが……」

遊び人「じゃあ…」

エルフ「しかし、それだけでは証明にならん、もらった、奪ったという可能性もあるしな」

エルフ「ならば聞こう、30年前に貴様らを連れてきたエルフの名は?」

勇者「魔法使いだ」

エルフ「ではその者がこの村で幼少時にしでかした事を覚えているか」

勇者「枚挙にいとまが無いが……夜寝てる家に大量の毛虫を放ったりとか」

遊び人「肥溜めの底に爆発の魔法をかけてそこらじゅう汚物だらけにしたとか……」

勇者「村の鶏をピ------でピ-------なんてのもあったな」

遊び人「ああ、そういえば隣の家の水車を……」

エルフ「もういいもういい、わかった、お前らはどうやらあの時の連中のようだな」



-- エルフの里 --

長老「勇者どの、息災のようじゃな」

勇者「はい、その節は大変お世話になり申した」

長老「なに、あの悪ガキが心を入れ替えて世のために励む、と申すから我らは手を貸しただけの事」

勇者「彼女には魔王を倒すまで、何度も助けられました」

長老「うむ、あの何年か後にこの村に帰ってきて、自慢気に話をしておったわ」

勇者「さようでございますか」

長老「さてと、それもこれもついこないだの事と思っていたが……」

長老「どうやらいつしか随分と時間が経っていたようじゃな」(ジロジロ)

勇者「ええ、恥ずかしながら私も随分と歳をとり申した」

長老「人の子と我らとでは生きる時間が違う故な、色々と物の見え方も異なるという事よの」

勇者「さようでございますな、我らにとってははるか昔の事も、皆様にとってはつい先日の事」

勇者「同様に、はるか先の事も、すぐ明日の事のように見通される、それが神秘の種族エルフであると聞き及んでおります」

長老「ふむ……永き時を生きる我らに比べ、短き時を生き急ぐ人の子とエルフの中には蔑む者も少なくないが」

長老「そなたのような者を見ていると羨ましくも思う。僅か30年の間に随分と成長されたようだ」

勇者「いえ、まだまだ未熟な限りでございます」

長老「謙遜する事はない。そなたには、あの時にはなかった広い物の見方が備わったようじゃ」

勇者「…………」

長老「しかし、その視点で世界を見渡した時に腑に落ちぬ事がある、そうではないか?」

勇者「………はい。つきましては、その答えの片鱗を探すべく長老どのをお訪ね致しました」


KININARU


凄く面白い


-- 馬車の中 --

商人「さて、あの騒がしい連中が帰ってくるまではゆっくりしていて下さい」

娘「え、あ、はい、でも見張りなどは……」

商人「ああ、大丈夫でしょう、ここはエルフの勢力圏ですからね」

商人「野盗も魔物も恐れて近づかないはずです」

娘「そういえば、私達もエルフの森にはなるべく近づいてはいけない、と教えられて育って来ました」

商人「そのわりには貴女はあまり恐れていないようですね?」

娘「あ、はい、もっと手前ではありますが、この近くまで剣術を習いに来ておりましたので」

商人「ああ、そうでしたね、それは良い事です」

娘「良いこと?」

商人「この世界には、人間とは異質な存在がたくさん居ます。エルフ然り、魔族然り、竜族や天空人など」

商人「それらの存在は本当に人間とは異質ですから、お互い恐れ、時には憎みあう事もあります」

商人「しかし、大事なのは異質さを恐れ忌避するのではなく、それを理解する事です」

娘「理解する事……」



商人「例えば、我々商人にとってはお金とは命にも替えがたい大切なものですが」

商人「エルフにとっては、ただの金属の塊にすぎません」

商人「それは我々とは経済活動の、ひいては精神の活動速度の違いから来るものです」

娘「エルフは長寿だからお金を使わない……?」

商人「ええ。物の値段というのは季節や年によって変動します、それは農家である貴女にも分かるでしょう」

娘「はい、同じ量の作物でも、毎年売れる値段は変わって来ますから……」

娘「年によっては、越冬のために家畜の飼料までも売り払わなければならない年もあります」

商人「そうですね、そういった年には冬前に仕方なく家畜を屠殺して肉にしてしまいますから」

商人「そうするとその冬は乳製品などは出まわらず、それらの値が上がります。」

商人「そして、春になれば越冬で余った食料などを売って家畜を再び買い付けますから、今度は家畜の取引が増えて値が上がります」

娘「へえ~……そんな風になっているんですね……」

商人「話を戻しますが、そのように、物の値段というのは目まぐるしく変動するものなのです」

商人「しかし、エルフにとって、1年などというのはあっという間です。人間にとっての一ヶ月程度の感覚でしょう。」

商人「そんな僅かな期間に価値が乱高下する貨幣などという物は、彼らにとっては信用に値しないのです」

商人「貨幣の価値を信用する、という事は経済の根本ですから、それができない彼らにとって我々の経済活動は相容れません」

娘「はあ……」



商人「そうすると、我々商人は、お金が使えない場所では商売が出来ませんから彼らと取引を持つ事はできない」

商人「そう考える人間がほとんどです」

娘「そうですね……あ、でもさっき……」

商人「そうです。そこで、彼らにとって必要な物は何か。私はそれを知っています」

商人「ですから、他の商人には仕入れることの難しいエルフの薬品類を仕入れにこぎつける事が出来る」

商人「これが、異質さを理解する、という事です」

娘「はあ~~……難しいんですね、商売って」

商人「難しいことはありませんよ。ただ、相手の望む物を与え、自分の欲しい物をもらう。それだけです」

商人「そこで相手の異質さを理解せずに、ただ金貨を積み上げて売れと迫っても良い取引は生まれません」

商人「ただ、多くの人々は異質な存在との接し方を知りませんから、人間の流儀を持ち込んで事態を悪化させる事が多いんです」

娘「つまり、相手を知る事が大事だ、という事ですか?」

商人「一言でまとめるならばそういう事でしょうね」

お?リアルタイムに追いついた?

お、続き来てた乙
異種族の経済論とは面白い

魔法使いは鶏で何やったんだよ…ww

おt

また間が空いてしまいました
続き投下しまーす






-----------------


娘「すると、やはり勇者様も相手の事を知ろうとして、魔王の事をお調べに?」

商人「ええ、商いでも戦いでも、相手のことを知るのは大切です」

娘「そうですよね……私は戦士さまとの立合いで、危うく敗れるところでした」

商人「そうですね、私も見てましたよ」

娘「戦士様は……こう言っては失礼ですが、その、腕の方も昔ほどでは…」

商人「言葉を濁すことはありませんよ、あんなのはただの酒浸りの運動不足です」

娘「ええ、まあ、その、ですから、私はそのまま難なく勝てると思ったのですが……」

商人「戦士の小手先の小細工に翻弄されて、背後を取られた、というわけですね」

娘「はい。あの時の私は戦士様の腕を見切ったつもりになり、結果あの歩法に惑わされました」

娘「こう言っては憚りますが、あの技を知っていれば、私にも何らかの対処の仕方があったでしょう」

商人「仕方ないとは言えますけどね。私も驚きですよ、あの遊び人が形だけでもあんな動きが出来た事に」

娘「もちろん、戦いの場において、知らぬ技にも対処できるのが戦士たる者のあるべき姿ですが……」

商人「ま、それはもちろんですが、でも知っておいて損はない、そういう事です」


-- エルフの里 長老の家 --

長老「さてと、客を迎えるようには出来ておらぬが、ゆっくりしてくれ」

勇者「では、お邪魔致します」

遊び人「へぇ~、そういえば前に来た時はロクにゆっくりもしないで出て行っちまったからな」

遊び人「エルフの家の中なんてちゃんと見てなかったけど、こんなだったんだなあ」

長老「ふふ、それはおぬしにあの時には無かった余裕が生まれたという事であろう」

遊び人「ま、そうかもしんねーな、あの時は人間の家と大差ねーな、ぐらいにしか思ってなかったからな」

長老「家としての機能は変わらぬからな。ただ、人間と建て方が違うというだけの事よ」

遊び人「いやすげーわ、よく見るとドコにも板の継ぎ目がないし、コレどうやって建てんだ?」

長老「我らは植物を飼い慣らす事が出来るでな、このような形になるように木々を操作するのじゃ」

遊び人「へぇ~、自然と共に生きてる、ってのも伊達じゃないってワケか」

長老「まあ人には人の、エルフにはエルフの生活の仕方があるという事じゃな」

長老「さてと、勇者どの、おぬしの話をまずは聞こうか」



勇者「長老どのは、魔王の復活はご存知か?」

長老「………いや、知らなんだが、やはりそうか……」

勇者「やはり、と仰るのは何か予兆でも?」

長老「うむ……そうじゃな……おぬし、魔族とは何か、という事を知っておるかの?」

勇者「魔王の眷属、と我々の聖典には記載されておりますが」

長老「そうじゃな、始まりの女神がこの世を作った折に、異界より侵入してきたとされておる」

勇者「それは、正しくはないと?」

長老「そのような事はわからぬ。いくら長寿のエルフといえど、神話の時代からの悠久の時の流れに比べれば塵芥のごとしじゃ」

長老「ただの、我らも魔族との接触を持った事が無いわけではない」

長老「平和な時代には風変わりな隣人として、戦いがあれば敵として、これまでの何千年か付き合いはあったわけじゃ」

勇者「それは人間もまた同じでございますな」

長老「そうして、触れ合ってみるとわかるのじゃが、我らとはあまりに違っておる」

勇者「違っている、と申しますと…?」


長老「そうじゃな……上手く言葉には出来んが、この世界にあるべくしてある存在ではない、そう感じるのじゃ」

勇者「あるべくしてある……」

長老「おぬしら人間は、体の作りも心のありようも、平地に集まって住むように出来ておる」

長老「我らエルフであれば、森で少数の集落を作り住むのが自然じゃ」

長老「天界の天空人、山岳のドワーフ、彼らにしても、収まるべき場所に収まっておる」

長老「竜族については特殊じゃが、しかしそれにしてもこの世の理の中にある」

勇者「しかし、魔族はそうではない、と」

長老「うむ。そもそも魔族と呼び習わしてはおるが、奴らは多種多様な種族に別れておる」

勇者「さようでございますな、獣族から巨人族、不死族に鬼人族、数え上げればキリがございません」

長老「そうじゃ。たとえば鬼人族じゃ、彼らはスライム族や不死族などに比べてよほど我らの方が体の作りは似ておる」

長老「にも関わらず、彼らは魔族としてその多種多様な種族を一つにくくり、我らとの間に線を引く」

長老「その事一つをとっても、どうも我らとはなにか成り立ちが違うのではないか、と思う」

勇者「そう言われれば、確かにそうかもしれませぬな」

ふむふむ乙

すみません、また間空いちゃってます。
水曜ぐらいに次の上げられると思います

あいさー
気長に待ってます

待ってるよー

面白い
待ってる

ご無沙汰です、やっと時間がとれたので、久々に続き投下します







--------------------

長老「となれば、どこか異なる世界からやってきた可能性も否定は出来ないのではないかと思うのじゃ」

勇者「なるほど……」

遊び人「それで、その話が魔王の復活とどうつながるんだい?」

長老「まあ待て、人間はどうもせっかちでいかんの」

遊び人「おお、わりーな爺さん、こう見えて気だけは若いもんでよ」

勇者「まあ黙って聞こう、関係の無い話じゃなさそうだ」

長老「すまんな、儂らエルフは結論を先に言う、というのは好まぬのでな」

遊び人「ま、別に急いでるワケじゃないからな。腰折って悪かったな」

長老「さて、その魔族どもだが、魔王が倒れて以来、人間とどのような関わり方をしているかは知っておるかな?」

勇者「ええ、仲間の商人は魔王城下町にも支店を出しておりますので話は色々と」

勇者「親人間派の魔族が評議会を持って統治しており、人間との交流も盛んだとか」

長老「そうじゃ。彼らはこの200年でかなり変わった」

勇者「変わった?」

長老「いや、この200年だけではあるまいが、彼らはかなり変わりつつある」

長老「その昔、我らの記憶に残る最も古い魔王が斃された後、魔族は彼らの領土奥深くに篭り、人間との交渉を断った」

勇者「確かに我々の歴史書にもそのような記録がありますな」


長老「それをもって、我々の世界は平和を取り戻した、となっておる」

長老「このように魔王不在の期間に人間との交渉を持つようになったのは最近の事じゃ」

長老「儂の記憶にもあるが、先代…いや、先々代か。200年前の魔王が斃れた後、魔族はその地に残り人間との対話を試みた」

勇者「500年前の魔王が斃された後は、魔族の残党狩りがありその後もしばらく揉め事が起きた、と歴史書にかかれていましたな」

長老「そうじゃ、そこから300年間は魔族どもは我らの前にはほとんど姿を現さなんだ」

長老「つまり、魔族と我ら"女神の民"が関わりを持ったのはこの200年の事なのじゃ」

長老「そして、初めて人間と魔族の協定が結ばれたのが180年前」

長老「それから少しずつ人間と魔族は様々な悲しい衝突を乗り越えながらも新しい関係を築いてきた」

長老「しかし、30年前に魔王が現れる事で、その関係は一旦完全に断ち切られたかに見えた」

勇者「ええ、全ての魔物が人間の敵となったあの時代…当然ですがよく覚えております」

長老「そう、それは正に全面戦争と呼ぶに相応しい戦いであった」

長老「ところが、それが終わり、魔王が斃されてみると、人間も魔族も何事も無かったかのように再び関係を取り戻した」

勇者「しかし、最初はやはり共に仲間を失った怨恨により、様々な衝突があったと聞いております」

長老「もちろん、そのような事はあったであろう。今でも人魔双方に互いを忌み嫌う者が多数おる事も分かっておる」

長老「だが、その一方で、僅か30年で魔族の中心地である魔王城に人間が店を出せるほど交流が深まったとも言える」

勇者「そのような事は過去には無かった話である、と?」

長老「そうじゃ」



長老「つまり、魔族どもは変わりつつある。そして、それはまた人間も同じじゃ」

長老「そもそも人間というのは我らエルフや竜族、天空人などに比べて移ろいやすい生き物じゃ」

長老「それこそが人間の特徴であり、我らから見ればその急激な変化は危なっかしくも映るが、その進歩の速さは羨ましくもある」

長老「そのうつろいやすさ故におぬしら人間、そして彼ら魔族は、お互いの存在に適応し始めておるのじゃ」

勇者「それは、人魔共存の道も有り得る、と?」

長老「………それも無い話ではなかろう。しかし、そのような良い可能性だけではない」

勇者「と申しますと?」

長老「人間と魔族がお互いの存在に適応したとしても、決して相容れぬ者が存在する」

長老「魔王と勇者、という神の定めた因縁だけは、世界の黎明から変わっておらん」

長老「なれば、その仕組みと、現実の乖離、それは様々な歪みを生み出してもいよう」

勇者「歪み……でございますか」

長老「儂の見るところ、その歪みは30年前にも存在した」

長老「しかし、それは30年経った今、さらに大きくなっていると言えよう」

長老「今回の魔王復活は、それが表に現れたという事ではないかな」


勇者「人魔双方の意識の変遷が、今回の復活をもたらした……?」

長老「………」

遊び人「なあ、どういう事だ?どうも話の要点が見えねーんだけどよ」

長老「これはお主ら人の問題。お主ら自身が気づくべき事じゃ、儂が答えを言うべき事ではない」

勇者「人の問題……」

長老「30年前はお主らも若かった、何も見えずに必死に戦った事じゃろう」

長老「当然我らも女神の民じゃからの、お主らが魔王を倒してくれた事には感謝しておる」

長老「しかし、世の中というのはそれだけではない、もう少し複雑にできておる」

長老「それが見抜けぬならば、今世界を覆おうとしている暗雲を晴らすには至らぬじゃろうな」

勇者「…………」

勇者「分かりました、貴重なお話ありがとうございます」

勇者「未熟な身ではありますが、おかげで少し見えた事もございます」

勇者「長老のお話を元に、少し考えてみたいと思います」

長老「それがよかろう。さて、他に儂に聞きたい事はあるかの?」

勇者「そうでございますな、長老は過去の魔王についてご存知でしょうか?」


長老「はて、儂が直接覚えているのは200年前の魔王と、先年の魔王についてだけじゃが」

勇者「魔王とは、人に仇なす魔族の首魁であり、女神に楯突く魔の意志」

勇者「聖典などにある記述には概ねそのように記されております」

勇者「しかし、それは言ってみれば"勇者とは女神の祝福を受け、魔王を倒す者"と言っているのと同じ」

勇者「私自身の事、つまり私がどのような人間か、という事については全く何も説明しておりませぬ」

長老「つまり、魔王の人となりが知りたい、と?」

勇者「はい。そもそも、聖典を信じるならば200年前の魔王も、30年前の魔王も、そして今復活したと言われる魔王も」

勇者「全て同じ魂の持ち主であるという事になっております」

勇者「それを信じて良いものなのか、それを信じるならば、何十年、何百年かぶりに蘇った魔王が一体何を考えるのか」

勇者「そういった事が全く見当がつかぬため、敵を知るべく私どもは今旅をしております」

長老「ふむ………そうは言っても、私も、また私の知己も誰も魔王と直接対峙した者はおらぬ。あの跳ねっ返りの魔法使い以外はな」

長老「故に、それについては分からぬとしか言えん」

長老「しかし、200年前の魔王と30年前の魔王、その二人は、少なくとも世界を侵攻する手口は違ったように思うな」

勇者「なるほど」

長老「どう違った、と言われると難しいが、実際に暮らしていたその時の世相というか、空気というか…」

長老「そういった物は異なっておったように思う」

勇者「さようでございますか」

長老「まあ、儂が言えるのはその程度じゃ」

勇者「分かりました、ありがとうございます」

今日はこの辺で!

また会う日までー

おおきたか

終わってなかった!おつ!

ふむふむ面白い
乙ー

-- 馬車の中 --

娘「それで、魔王の事は何か分かっているのですか?」

商人「正直言って、まだほとんど分かっていない、というのが実情ですね」

商人「ちなみに、貴女は魔王について知っている事はどのくらいありますか?」

娘「え、私がですか?ええと……教会で教わった事ぐらいしか……」

商人「それで結構です、話してみて下さい」

娘「ええと、太古の昔、女神様がこの大地を作り、草木や動物を作り、そしてエルフや竜を作り、最後に人間を作りました」

娘「ところがその時、邪悪なる異世界よりこの世界を我が物にするべく、魔王とその眷属たる魔族が攻め込んできました」

娘「女神はその力の殆どを世界を作るのに使い果たしており、魔王に抗うだけの力はありませんでした」

娘「そこで、女神は人間の中から最も勇気溢れる若者"初代勇者"に自らの加護を与え、魔王に立ち向かわせました」

娘「初代勇者は、その友であった七英雄と共に苦しい戦いを闘いぬき、魔王を倒しました」

娘「しかし、魔王はその生命を異世界にまだ置いているため、倒す事はできませんでした」

娘「そこで初代勇者は女神の力を借り、魔王を地の底深く封印する事にしました」

娘「そして、初代勇者たちは、その後も魔族たちをこの地の辺境へと追いやり、人間の住む世界の礎を守りました」

娘「これが、初代勇者に関して教会で教わった英雄譚です」

商人「私が僧侶だった時代に教典に書かれていた内容とほぼおなじですね」


商人「まあ、この伝説については、どこまでが本当かはもはや知るすべもありません」

商人「人間の歴史にも、エルフや竜族の記憶にも残っていない太古の昔の話ですからね」

商人「ただ、勇者と呼ばれる人間に女神の加護がある事、それに敵対する魔王という存在が居る事」

商人「これは、私達が30年前に身を持って経験した事ですので、間違いないでしょう」

娘「本当に……魔王を倒された方々なのですね……」

商人「おや、信じてませんでしたか?」

娘「い、いえ、そのような事は、ただ、その伝説のような方々がこうして目の前に居るというのが実感が…」

商人「ま、今ではただの中年オヤジの集団ですからね、無理もありませんが」

娘「そ、そういう意味では!」

商人「いやすみません、ちょっとからかっただけですよ。まあ、ともあれ我々は魔王と顔を合わせた事があるわけです」

娘「はい」

商人「しかし、魔王の事で我々が知っている事と言えば、ほとんどありません」

商人「一度刃を交えていますから、どんな攻撃をしてくるのか、どのくらいの防御力があるのか、などは分かっています」

商人「ですが、魔王が我々人間に侵攻を仕掛けてくる理由や、魔族を統率している理由など、そういった事は何ひとつ分かっていません」

娘「それは…でも、教典によれば……」

商人「ええ、それを鵜呑みにするならば、魔王はこの世界を手に入れるためにやってきた侵略者となっています」

商人「しかし、そうだと仮定しても、何故この世界を手に入れたがっているのかは分かりません」



商人「まあ、そもそも女神相手にケンカを売るような存在ですから、我々人間の尺度で測ろうというのは間違いなのかもしれません」

商人「しかし、そうであったとしても、肉体と意識を持つ存在なのですから、何らかの行動原理という物はあるハズです」

商人「それを知らないのでは、戦うにせよ、友誼を結ぶにせよ、徒手空拳で立ち向かうも同然です」

娘「しかし、30年前は……」

商人「そうですね、30年前は我々は若く力がありましたから、徒手空拳でも力づくで殴り倒す事が出来ました」

商人「それに、あの時はお互いに手の内も知らぬまま刃を交えたわけで、ある意味条件は平等でした」

商人「ですが、もし今回復活した魔王があの時と同じ魔王だったとするならば」

商人「手の内はすっかり知られているわけです。もちろんこちらも魔王の戦い方は分かっていますから、その面で条件は一緒ですが」

商人「我々の力はあの時に比べ、すっかり衰えています」

娘「………」

商人「ですから、情報を集め、我々が魔王に優る点を探りだす必要があるのです」

娘「そのためにエルフの里に?」

商人「ええ、それだけではありませんが、長寿のエルフが持つ知識は膨大ですからね、まずは話を聞きに来たのです」

娘「では、次は?」

商人「それは、勇者次第ですね、エルフの里に来た目的のもうひとつがソレなんですが……」

娘「……?」



-- エルフの里 長老の家 --

長老「さて、勇者どの、この後はどうされる?滞在されるならば歓迎するが」

勇者「いえ、森の外に仲間を待たせております、お心遣いはありがたいですが…」

長老「さようか。エルフにとっても時間は有限じゃが、人間にとっては一層じゃ。有効に使われるが良い」

勇者「ええ、それにあたって、もう一つお願いがあるのですが、あの時と同じく……」

長老「聖域かの?」

勇者「はい、使わせていただければ助かります」

長老「お安いご用じゃ、お主らはあの場所に行く資格は持っておる。気兼ねなく使われるがよかろう」

勇者「ありがとうございます」

長老「案内はいるかの?」

勇者「できれば」

長老「わかった、では一人案内につけよう」

勇者「ありがとうございます」

長老「では、お主らの新たな使命、果たせる事を祈っておる」

勇者「全力を尽くします」

遊び人「ところでさ、長老さんよ」



長老「何じゃ?」

遊び人「魔法使いのヤツの行方は知らねーか?」

長老「我らも彼女と会ったのはあの魔王討伐が終わって数年後に帰ってきたっきりじゃからな…」

遊び人「噂じゃ盗賊になったって話なんだけどよ」

長老「うむ……あの跳ねっ返りのやる事じゃ、有り得る話じゃの」

遊び人「ま、ココに帰ってるとは思ってなかったけどな、もし見かけたら俺らが会いたがってるって伝えてくれねーか?」

長老「よかろう、彼女の力もお主らの助けになるじゃろうからな」

長老「もし会えば伝えておこう」

勇者「ありがとうございます、では、お世話になりました」

長老「うむ、無事を祈っておる。では、聖域まではこの者に案内させよう」

エルフ「お前らか、聖域に立ち入ろうってのは」

遊び人「なんだ、さっきは世話になったな、よろしく頼むぜ」

エルフ「まあ長老の許可があるなら仕方ない、案内しよう」

勇者「よろしく頼む」

エルフ「直行で良いか?」

勇者「いや、森の外に仲間を待たせているのでな、一度迎えに行きたい」

エルフ「良かろう、ならば少し急いだ方が良いな、もうすぐ雨が降り出す」

遊び人「さすが神秘の種族だな、天気予報までできるのか」

エルフ「自然と共に生きる我らにとっては自明の事だ。さあ、行くぞ」

勇者「うむ、急ごう」


以上、今日はこんなトコで。

次は週明けぐらいになるかもです。
皆様良い週末をー

気象予報士エルフの顔ビジュアルが
脳内で石原良純に固定されてしまった

>>186ちくしょうwww

>>186
やめろwwww

乙ー

>>186
もしエルフの性別が女だったら損害賠償も辞さない

なぁ、話的に天気予報出来るのエルフ全員だよな…つまり

>>190
エルフは石原良純の集団か。



死ね。氏ねじゃなくて死ね

不毛な妄想は十分だ!
俺は天気予報の女子アナで妄想する!

こんな強気口調で天気予報なんてされたら誰だって……クソッ!
許さんぞタウンページ!!!

旅するのに天気予報士連れてると色々捗りそうだよな

NHKの半井小絵ちゃんで再生するのは俺だけでいい

エルフが天気予報出来るって書いただけでどうしてこうなったwww

盛り上がってる所申し訳ないけど、このエルフただのチョイ役だかんね?

やっとおいついた

マジ良純やめろwwww

たとえチョイ役でも絵のないSSだからこそビジュアルって重要やん…?
続きが来る前に脳内に広がった石原軍団を払拭せんとな…

むさいおっさんと旅をする良純顏のエルフ(♀)か

元魔法使い・現盗賊エルフ(♀)が心配だ
良純度が低ければ良いのだが……

勇者はシュワルツェネッガーで、遊び人はジョニーデップのイメージ

※ただし腹が出ている

おいwwwwwwムダな話で盛り上がんなよwwwwww

おいやめろwwwwwwww


やめろ…………

うーん、時間が無くて放置続いてゴメンなさい
頑張って完結させますので気長にお待ち下さい

あいさー気長に待っとります

時間を置くことによって
調度いい感じに良純毒が抜けて、助かる

>>207
お前のせいでまた良純になっちまったじゃねーか

ってことはだよ
長老は前都知事似なわけかよ

なんだよ、東京じゃねーか

ドキドキ!石原軍団だらけのエルフの里~舘ひろしもいるよ~

裕次郎も慎太郎も舘ひろしも渡哲也もいねーよ!!!!
いつまで良純ネタで盛り上がってるんだwwwwww
というわけで、久々に続きです。










-- エルフの聖域 --

エルフ「着いたぞ、ココだ」

娘「ココが………って、何も無いみたいだけど……」

エルフ「エルフの結界に護られているからな。勇者の護符をかざせ」

勇者「ふむ、どれどれ」シュアアアアア

娘「景色が!!」

商人「何度見ても鮮やかですね」

遊び人「知らなきゃこの森のはずれにこんな物があるなんて想像もつかねーな」

エルフ「祠の扉もその護符で開く」

勇者「案内お手数かけたな、ありがとう」

エルフ「長老の命だ、別にお前たちが礼を言う必要は無い」

遊び人「ま、そういうなよ、好意は素直に受け取るモンだぜ?」

エルフ「……別に好意を受け取っていないわけではない。お前たちはあの跳ねっ返りの仲間だと聞いているからな」

エルフ「親しき者の仲間に手を差し伸べるのは当然の事、礼を言われるような事ではない」

勇者「親しき者、というと魔法使いと何か縁が?」

エルフ「あやつは私の異母兄弟だ」

遊び人「なっ!?」


エルフ「私の母は200年前の戦乱で亡くなってな、父が後妻に娶ったエルフから生まれたのが、魔法使いだ」

遊び人「マジかよ、30年越しの大ニュースだな」

エルフ「実はな、その魔法使いの母にあたるエルフというのが、人間とのハーフだったのだ」

エルフ「我が里では人間の血が入ったエルフというのは蔑まれる。故にあやつも幼少期は荒れたのだろうな……」

商人「そうでしたか……道理でエルフの割に好奇心が旺盛だとは思いましたが」

遊び人「でも……もう和解したんだろ?」

エルフ「まあ、過去は消えぬが許す事はできる、といった所だな」

勇者「そうだったか……」

エルフ「もう一つ、お前らに伝えておく事がある」

商人「?」

エルフ「魔法使いを探すならば港の街に行くと良いだろう」

遊び人「そこにヤツが居るって情報でも?」

エルフ「いや、魔法使いの消息は杳として知れないが、あやつの母の父……つまり、人間の祖父がそこの出身だったと聞く」

エルフ「魔王を倒し、あの里にあやつが一度だけ戻って来た時に、自らの宿業の地へ赴く、と言っていた」

勇者「宿業……か」

エルフ「今もそこに居るかは分からぬが、何か手がかりがあるやもしれん」

遊び人「わかった、探してみるわ、ありがとよ」



エルフ「では、私はそろそろ戻る、お主らとまた会う事があるかは分からぬが、達者でな」

勇者「ああ、魔法使いと会えたら何か伝える事は?」

エルフ「そうだな………たまには顔を出せ、と」

勇者「わかった、必ず伝えよう」

エルフ「では、さらばだ」スタスタ

勇者「ああ」

遊び人「………」

商人「………」

勇者「びっくりだな、アイツに兄弟が居たとはな」

遊び人「だな、自分の事は何も喋らないヤツだったからな」

商人「で、どうします?ココからなら港の街も遠くはありませんが……」

勇者「いや、ここは予定通りの順番で行こう、港の街はどのみち後で通る事になる」

遊び人「だな、じゃあさっさと行くか、高原の国から竜の谷のルートでいいんだな?」

勇者「ああ、そのルートで行こう」

娘「あ、あの……その、ここには何故…?」

商人「ああ、そういえば説明していませんでしたね」

商人「ココはエルフ達が護っている神話時代の聖域、通称"旅の扉"です」


遊び人「そういう事、ほれ、この泉を覗いてみ?」

娘「こ、これが………旅の……すごい、色々な景色が……あれ、頭がグルグルします…」

遊び人「空間がぐにゃぐにゃしてるからな、そりゃじっと覗きこんだらそうなるわ」

娘「うう……そうなるわ、って、遊び人さんが覗いてみろって言ったんじゃないですか」

遊び人「へへへ、俺も初めて来た時そうなったからな、お前だけ平気だったら不公平じゃねーか」

商人「何言ってるんですか、そんな何も考えずに向こう側を見つづけて酔ったのは貴方だけでしょう」

勇者「全くだ、お前だけあっちこっち覗いてはしゃぎまわったあげく、そこにひっくり返って唸ってたんだよ」

遊び人「そうだっけか?まあいいや」

商人「よくありませんよ、危うくエルフの聖域を汚物で汚す所でしたよ」

遊び人「そういえば魔法使いに"ココで吐いたら即座に殺す"って座った目で言われたな」

勇者「さてと、じゃあさっさと飛ぶか、高原の国はこっちの泉だったな」

商人「ええ、その右から二番目です」

遊び人「あそこも30年ぶりか、んじゃ行ってみるべえ」ドボン

商人「ああ、この泉は別に溺れないし濡れもしませんから、安心して飛び込んで下さい」

娘「え、えええ、わ、わかりました……ドキドキ」チャポン

勇者「別に一人ずつ飛び込まんでも馬車に乗って行けば良いものを……」

商人「それもそうでしたね(笑)

勇者「じゃあ我々も行こう」



というわけで、短いですが今日はこのへんで……
これにてエルフの里とも良純ともおさらばです♪


凄く言いたい事あるけど
俺は我慢できる子なんで、耐える



>>217
すげぇわかるわ



>>217
誘い受けレスしておいて我慢できる子とか。ヘソで茶が沸く

乙。
やっぱりiタウンページのルート案内を使ったのかな。

エルフ娘の天気予報能力がいつか発揮されることを期待してる

乙です
魔法使いはクウォーターってことになるのか

え?娘は人間だろ?

乙っした
>>219
我慢は体に毒だから無理するなって事だね!優しい

>>223
ん?
若かりし勇者のかつての仲間のエルフ=魔法使い
村から着いてきた娘とはノットイコールよ

言いたい事は素直に言っちゃった方が健康に良いと思うの。
というわけで、珍しく2日続けて投下です







--高原の国 湖畔の聖域--

遊び人「うひー、こっちは寒いなー、まだ秋口だってのに」

勇者「ま、標高が高いからなあ」

娘「ここが……高原の国?」

商人「ええ、我々の住んでいた国から西にかなり行った所ですね」

娘「どんな国なんですか?高原の国というのは」

商人「人界で唯一竜族と交渉のある国家ですね」

商人「基本的に尚武の気風が強く、国の運営に携わるほとんどが戦士階級です」

商人「その戦士の中でも、特に優れた一握りの戦士たちはハイランダーと呼ばれ、国民の尊敬を集めています」

商人「基本的には直接王政ですが、ここの王位は世襲ではなく、ハイランダー達の総当り戦の試合で決められます」

遊び人「そうそう、ちなみによ、そのハイランダーの資格ってのがまたとんでもねー条件でよ」

娘「どんな条件なんですか?」

遊び人「竜と戦って生きて帰ってくる事だよ」

娘「りゅ、竜と!?」


遊び人「ま、この国の連中はちょっと頭おかしいんだよ」

勇者「そういうコイツも実はハイランダーの資格は持ってるんだけどな(笑)」

娘「!?」

商人「30年前の旅路で、我々は竜族の助力を乞うためにどうしても竜の谷に行く必要があったのですが」

商人「この国の法で、竜の谷に足を踏み入れられるのはハイランダーか、その資格への挑戦者だけなのですよ」

商人「なので、当時の戦士を挑戦者として登録して、我々が協力者として竜の谷へ行ったんです」

娘「協力者?」

商人「ああ、竜と戦うのは別に一人ではなくても良いのです」

商人「一人で竜と渡り合える実力が無くても、命を賭けて協力する人間を集めるだけの人望があれば」

商人「それはハイランダーとしての資格アリと見なされます」

遊び人「逆に言えば、全く人望の無いキラワレモノでも、一人で竜と戦えるほど強ければ」

遊び人「それはそれで敬意を払われるには充分、って事よ」


娘「では、実際には竜とは……?」

遊び人「戦う理由もねーしよ、話だけって思うだろ?そしたらこれが大間違いでよ」

遊び人「竜族ってのは自分とケンカも出来ねーようなヤツとは口もきかねえ、って石頭ばっかりなんだよ」

勇者「ひどかったな、俺が口を開いた瞬間"言葉の前にまずは刃を交わせ"だったもんな」

商人「後から思い起こせば、魔王ほどではありませんでしたが、それでもあの旅で一、二を争う強敵でしたね」

遊び人「んで、結局大激戦の末、ようやく竜に話を聞いてもらえる段階にこぎつけたってワケよ」

娘「はあああああ、なんだか雲の上みたいな話ですね……」

遊び人「ま、昔の話だよ」

娘「いえ、でも、ホントに昔はすごかったんですねえ、こうして一緒に旅してると……」

遊び人「ただのオッサンなのに、ってか?wwwwwwww」

娘「あ、いえ、べ、別にそういうワケでは……」

勇者「ま、今はどこからどう見ても不摂生の中年親父だからな、俺ら」

商人「どうせならせっかくですからこの国で一度あなた方も鍛え直したらいかがです?」

遊び人「バカ言え、年寄りのなんとやらだ、この国の連中の稽古の激しさはマトモじゃねーぞ」

遊び人「このトシでそんなモンに付き合ってたら鍛え直す前に体がイカレちまうわ」


商人「さて、とりあえず目指すは竜の谷です。まずは王都に行って通行許可をもらいましょう」

遊び人「んだな」

商人「ところで勇者、そういえば頼んだモノは貰って来てくれましたか?」

勇者「ああ、長老が快く薬類と交換してくれたよ、ほれ」

商人「なるほど、おお、これは貴重な薬品類が色々ありますね」

商人「ところで、まだ話を聞いてませんでしたが、長老どのからは何か聞けましたか?」

勇者「ああ……それか、まあ、聞けたといえば聞けたな」

遊び人「どうもあの爺さんは話が回りくどくてよくわかんねーんだよな」

勇者「まあ、エルフってのはそういう種族だからってのもあるが……」

遊び人「なんだよ、お前まで歯切れ悪いな」

勇者「長老から聞いたのはこんな話だ、カクカクシカジカ」

商人「ふむ……確かに要領をえませんね……」


商人「しかし、その口ぶりだと、勇者はそこから何かを読み取った、という事ですね?」

勇者「ああ、これはまあ、俺の推測でしかないんだが……」

遊び人「推測でいいからお前の読みを聞かせろよ」

勇者「うむ、まあ、結論から言えば、今回の魔王復活には、人間が関係しているんだと思う」

遊び人「なっ!?」

商人「………」

勇者「魔族の変化について長老は語っていたが、それは、裏を返せば人間も変わった、という事だ」

勇者「つまり、元々は神話にあるように、我々人間を含む女神の民と、魔族の戦いの象徴だった魔王と勇者の因縁」

勇者「それが、時代の変化にともなって、そういう単純な話ではなくなってきた、という事なんじゃないかな」

勇者「おそらく、人間の中に魔王に着くヤツが現れている」

勇者「それが、長老が言った"お主ら人の問題。お主ら自身が気づくべき事"なんじゃないかと思う」

商人「………信じがたい事ではありますが……」

商人「無いとも言い切れないかもしれませんね」


勇者「そして、その徴候はおそらく30年前にもすでにあった、いや、それどころか」

勇者「既にあの時に今回の魔王復活の種は蒔かれていた、そういう可能性もあると思う」

商人「確かに、この短期間で魔王が復活する、というのは、昨日今日の思いつきで為された計画ではないかもしれませんね」

勇者「もちろん、これは俺が長老の話を元に建てたただの推測だ」

勇者「俺としても間違っていてくれる事を願いたい………が……」

商人「いえ、多分その推測は間違っていないでしょう」

商人「これは、私が旧職の知り合いから聞いた話ですが」

商人「最近、あちこちの国で教会権力に対する王権の反発が強いそうです」

商人「また、教会に依存しない経済基盤の発達により、教会の影響力が衰えているとも聞きます」

商人「まあ、教会そのものも真っ白では無い、というか、そもそも俗世も真っ青の生臭い世界ですから」

商人「教会権力の減少そのものは悪い事ばかりではありませんが」

商人「それによって、人心が変化し、場合によっては魔王に着くのも厭わず」

商人「そういった人間が現れる可能性は大いにあると言えるでしょう」


遊び人「しかし、そいつは厄介だなあ……誰が裏切りモンなのか探る事からしなきゃならんだろ」

勇者「まあ、そもそもそれが本当なのかを確かめる所から、だな」

商人「確かに大変ですが、ただ、人を相手に騙し合いをするのならば我々は充分慣れている、そうではありませんか?」

遊び人「んー、ま、それもそうか、賭場ではそれが日常だったもんな(ニヤリ)」

勇者「ま、あとは悪い事だけじゃない、もしかしたら魔王と対立して我々に味方をしてくれる魔族が現れる可能性もある」

遊び人「ふん、昨日の敵は今日の友ってワケか?」

勇者「友と言えるかどうかはわからんが、まあ敵の敵は味方、って程度の可能性はあるだろう」

遊び人「ま、何にしても、相変わらずわかんねー事が多すぎんな」

商人「そうですね、竜の谷でもう少し何か情報が手に入れば良いのですが……」

勇者「もしかしたら、竜の谷の次は魔王城にさっさと行くってのも手かもしれんな」

勇者「魔王が復活したならば、何だかんだ言って、そう遠くない内に魔族の大半はやはり敵に回るだろう」

勇者「その前に引き出せるだけの情報は引き出しておいた方が良い」

商人「……確かに、情勢によっては私も商館を一時閉鎖する必要もありますからね」

遊び人「ま、何はともあれそんじゃさっさと竜の谷に行くべよ、その先の事はそれからだ」

勇者「だな」

というわけで、今日はここまでー。
途中、酉つけ忘れてました、失礼(汗

乙です

乙ですー
面白い情勢になってきた!
しかし娘さんが置いてけぼりにww

乙っしたー

追い付いた。乙

スーツ着たエルフのお天気お姉さん脳内保管できる俺に隙はない。
・・・・あ、でも横に耳の長い森田さんが

はいどうも、夜中に失礼しますよ
娘さんはこれから活躍しますので乞うご期待ですw








-- 高原の国 王都 --

商人「さて、早速ですが遊び人は役所で竜の谷訪問の許可をもらってきて下さい」

遊び人「ああ……しかし、なんか街の様子が変だな」

勇者「……確かに、言われてみればおかしいな」

娘「……?ごく普通の街に見えますが………」

遊び人「バカ言え、ココは高原の王都だぞ?普通ならその辺で野試合のひとつやふたつやってないとおかしいんだ」

娘「え……」

商人「確かに、決闘どころか、喧嘩すらしてませんね、何かあったんでしょうか」

勇者「お前の情報網にもこの国の事はひっかかって来ないのか?」

商人「ええ、事実上この国は鎖国しているようなものですからね」

商人「元々周囲を峻厳な崖に囲まれた土地で、唯一外部との接点は隣の河の国との交流のみです」

勇者「まあ、とりあえず俺らは宿をとりつつ、街の人間に話を聞いてみるか」

商人「ですね、では遊び人はとりあえず役所まで行ってきて下さい」

遊び人「へいへい」


-- 高原の国 宿屋 --

主人「いらっしゃい、何人かね?」

勇者「4人だ、あと馬車を留めてほしい」

主人「4人部屋なら最後の一部屋だな、アンタがた運がいい」

勇者「ほう、あまりこの国は外の国から人が来ないと聞いているが、満室とは何かあったのか?」

主人「なんだ、アンタ方は知らんで来たのか、てっきり忽鄰塔の見物に来たのかと思ったが」

勇者「クリルタイ?」

商人「王の後継者を決める試合ですね」

主人「ああ、そうだ、ついこないだ現王が病に倒れらてな、急遽クリルタイが開かれる事になった」

商人「王の病状はお悪いのですか?」

主人「発表によれば回復は見込めないって話だったなー」

勇者「そうか……ちなみに、クリルタイはいつ?」

主人「10日後だな、せっかくだから見ていくといいよ、世界で最高の戦士たちの戦いが見られるんだ、めったにある事じゃない」

勇者「そうだな、一応それじゃそれまで部屋をとってくれ」


主人「あいよ、ただ悪いがウチは前払いでね、大丈夫かい?」

商人「ええ、では10日分の宿代と、馬車の管理費をお支払いしておきます」チャリンチャリン

主人「お、おいおい、こんなに要らないよ」

商人「取っておいて下さい、ただ、代わりに少しお願いする事があるかもしれませんが、その時はよろしく頼みます」

主人「何をさせようってんだ?あんまり変な騒ぎを起こさないでくれよ?」

商人「いえいえ、ただ、我々は旅の行商人でしてね、色々この街の事を教えてほしいのですよ」

主人「そうかい?その程度の事ならお安い御用だけどな」

勇者「とりあえず、まずはゆっくりしたい、部屋は上かな?」

主人「ああ、曲がって一番奥の右側の部屋が空いてる。メシは好きな時に降りてきて食ってくれ」

勇者「わかった、あ、それと後から一人連れが合流するんでな、外にこの旗を下げておいてくれ」

主人「あいよ、それじゃごゆっくり」


-- 勇者たちの部屋 --

勇者「王が病臥か……」

商人「まあ、あの時すでに壮年でしたからね、今はかなりの高齢でしょうから病気になっても不思議はありませんが」

娘「この国の王様に会ったことがあるんですか?」

勇者「ああ、まあ戦士がハイランダーの資格を取った時に、授与の式典で会っただけだがな」

商人「我々の目的は竜と会う事だけでしたからね、この国とはあまり関わりを持たないまま後にしてしまいましたが」

勇者「それにしても……どうなんだろうな、その王の病気ってのは」

商人「分かりません。タイミングがタイミングですから……」

勇者「キナ臭い、と言えばキナ臭いが……」

商人「遊び人が戻ってきたら一度ちょっと情報収集に出てみましょうか」

勇者「そうだな、ただのお家騒動なら別に関わる必要は無いが、もし魔王復活と何か関係があるならば……」

商人「場合によっては干渉する必要があるかもしれないですね」

ガチャ

遊び人「おう、ただいま」

商人「早かったですね、通行証はもらえました?」

遊び人「それなんだがよ、困った事になったわ」


勇者「何があった?」

遊び人「役所に行ったらよ、今はクリルタイの準備期間だから誰も通せねえって言われたんだよ」

勇者「なんだそれ、そんな規則があったのか?」

遊び人「ああ、クリルタイの開催が決まってから、王位狙いの駆け込みでハイランダーになろうとするのを防ぐための規則らしいんだがな」

娘「でも、遊び人様はもうハイランダー位を持ってるんだから通してくれても良さそうなのに……」

商人「まあ、法というのは往々にして不合理に出来ている側面がありますからね」

勇者「じゃあ、10日後まではどう頑張っても竜の谷は通れないって事か?」

遊び人「まあ、そうなんじゃねーか?細かい規則とか詳しく聞いたワケじゃないけどよ」

商人「仕方ないですね、まずはとりあえず法律に関しては少し調べてみましょう」

勇者「だな、場合によっては例外があったり、もしくは裏口のルートを使える可能性もある」

商人「同時に、今回の王の病気やクリルタイの裏側についても少し調べてみる必要がありますしね」

勇者「まずはしばらく各自情報収集に回ろうか」

遊び人「ああ、それでよ、どのみちココにはしばらく滞在するんだよな?」

勇者「ま、そうせざるを得ないだろうな」

遊び人「だったらよ、その間コイツをココの道場に通わせるってのはどうだ?」

娘「……………え、あ、アタシですか!?」


遊び人「娘は今ウチらの中で貴重な実戦力だろ?だったら、この機会にレベルを上げておくのもアリなんじゃねーかと思うんだ」

娘「え、で、でも、ココの稽古ってものすごく厳しいって先ほど……」

遊び人「ま、大丈夫だよ、おめーさんなら。若いしな」

娘「そんな無責任な……」

勇者「確かに一理あるな。それにどのみち魔王相手にケンカしようってんだ、それに比べれば」

遊び人「そうそう、稽古で死ぬワケじゃねーさ、まあ気楽に行ってきなよ」

娘「他人事だと思って……」

商人「でも、それは良い事じゃないでしょうか?貴女も一流の戦士を目指すならば腕を上げる機会は逃すべきではありませんよ」

娘「それは……そうですけど……」

遊び人「どの道、俺らが情報収集に出かけてる間、ヒマこいてるよりは有効な時間なんじゃねーか?」

勇者「そうだな、ちなみに、どこか心当たりはあるのか?」

遊び人「おうよ、帰り道に通りすがったんだけどよ、30年前に隣の国で一緒に魔王軍の撃退で世話になった剣士居ただろ?」

遊び人「アイツが今、城下で結構大きな道場を開いてるみたいなんだわ」

遊び人「ま、覚えててくれるかわかんねーが、一応明日アイサツに行ってみようかと思ってな」

勇者「ああ、居たな、故郷でハイランダーになるために武者修行に出てたって剣士が」

商人「いいんじゃないですか?少なくとも全く顔も知らない人間の所に行くよりは話がしやすいでしょう」

勇者「ま、最終的には娘次第だが、どうだ?行ってみるか?」

娘「……わかりました、剣を志す者として、せっかくの機会ですから行ってみます」


遊び人「じゃ、決まりだな、明日一緒に道場まで行ってみるべよ」

娘「は、はい」

商人「それはそれとして、情報収集の方はどうします?」

勇者「そうだな……まず、遊び人は折角だからそのハイランダー位を活かして、夜の街で少し国内の情勢をさぐってみてくれ」

遊び人「おうよ、任せとけ」

勇者「商人は、教会と商工会あたりかな、この国の経済状況と、有力者の力関係なんかについてざっと探ってみてくれ」

商人「わかりました」

勇者「俺は、役所とか騎士団とかその辺かな、ちとこの国の法について詳しく調べてみる」

勇者「ちなみに商人、今現金はどの程度持ってきてる?」

商人「銀貨で2万枚程度、砂金で同じぐらいですかね、あとは教会の証券でならばかなり持って来ていますが」

勇者「ならば充分かな、場合によっては有力者相手に金を使う事になるかもしれん、一応頭に入れておいてくれ」

商人「分かりました」

勇者「じゃあ、遊び人と商人は早速動いてくれ、俺はちょっと下でメシ食いながら宿の主人からもう少し話を聞いてみる」

娘「あ、あたしは…」

勇者「折角だから一緒に行こうか、あのオッサンも可愛い娘が居た方が口が軽くなるかもしれんしな」

はーい、今日はここまでー
オッサン達にいいように使われる娘の運命やいかにw

乙です
娘ちゃんのレベルアップイベント来た! これで勝つる!…か?
オッサンらが物慣れてて大変よろしいですww

これはいい感じに続きが気になる

オッサン達は体力的なパラメーターはガクンと落ちてるけど世渡りパラメーターと対人スキルは却って高まってる感じか
小娘では太刀打ち出来ないほどにw



ついでに道場で
オッサンどもの
ダイエットもな

はいどうも、今日はなんだかもう仕事が終わっちゃったので
早速続きを投下していきますよー





-- 高原の国 宿屋一階 --

勇者「ご主人、適当に晩飯を頼む、二人前だ」

主人「かしこまりやした、おーい、メシ二人分だ」

厨房「ぁぃょー」

主人「連れのお二人は?」

勇者「ああ、売れ筋の商品を調べに街に出てるよ」

主人「そうかい、アンタらは何売ってるんだい?」

勇者「んー、まあ何でもだな、食料から武器防具、薬や魔法道具に日用品まで、持ち運べるモノならひと通りって感じかな」

主人「デッカい馬車だもんな、ま、安心しなよ、この国はなんつっても戦士の国だからな、治安だけはいいよ」

勇者「そいつはありがたいね、行商やってると一番怖いのは野盗だからな」

主人「見たところ、そっちの娘さんは野盗防ぎの用心棒ってトコかい?」

娘「え、あ、その……」

勇者「お、よくわかったな、知り合いの娘なんだがな、腕が立つんで今回の行商につきあってもらってるんだ」

主人「身のこなしからタダモンじゃないと思ったよ。こんな時期じゃなきゃ、アンタみたいなきれいな娘が野試合やったら盛り上がるんだがな」

娘「野試合で盛り上がるって……」

勇者「さすがハイランダーの国だなあ、宿屋の主人が見ただけで戦士の実力がわかるってんだから」

主人「俺も若い頃には剣の道を志した事もあってな。ま、才能無いってんでさっさと諦めちまったが、ははは」




勇者「ところで、この国は最近はどんな様子なんだい?実は高原の国に来るのは30年ぶりでな」

主人「そうだなあ、まあ概ね平和なんじゃないかな、今の王様は若い頃は相当強かったらしいが」

主人「強いだけじゃなくて、政治の方もやり手でね、河の国との貿易を強化したり、牧畜を発展させたりで民衆の生活は安定してるよ」

勇者「そうか、そいつはいいね、生活が安定してる街はモノもよく売れるからね」

主人「ただ、さすがに老齢になってきてるから、最近は大公様と宰相様の権力争いが起きてるなんて話も聞くがね」

勇者「睨み効かせてた王様がトシ取ってきたから、下の連中が騒ぎ出したって感じか」

主人「そういうこったね、ま、ふたりとも悪い人らじゃ無いんだろうけど、出身が違うもんでね」

勇者「出身?」

主人「大公様は北にあるデッカい遊牧部族の出身で、宰相様はこの王都で育った方なんだよ」

主人「元々この国じゃ街育ちと田舎育ちじゃあんまり折り合いが良くないトコがあるんでね」

主人「遊牧で暮らしてる田舎の連中は、今の生活に満足だからこれ以上国に余所者は入って欲しくないんだが」

主人「俺らみたいな都育ちは、もっと他の国から客が来てくれた方が嬉しいんでね」

主人「その辺の意見の違いが、偉くなっても諍いの元なんだよな」

勇者「全く、世に争いの種はつきまじ、って事か」

主人「そういう事だな、今の王様はどっちの意見にもほどよく耳を傾けて上手い事バランスを取ってたんだが」

主人「それほど上手く国を采配出来るだけの人ってのはまあ、そうそう居ないからね」


勇者「すると、今回のクリルタイは大公派と宰相派の戦いって感じになるのか?」

主人「ああ、今二人とも有力なハイランダーを自陣に引きこもうとして色々やってるって話だ」

勇者「ちなみに、有力なハイランダーってのはどんな人が居るんだい?」

主人「そうだな、まずは大公様だな、この方はそろそろ50を超えるお歳だが、遊牧で鍛えた体は未だ衰えを見せないって話だ」

勇者「そいつはすげえな、その歳で現役ってのは並大抵の事じゃない。俺なんかすっかり鈍っちまったってのに」

娘「………」

主人「ま、あの方はこの国でも特別だね、若い頃には部族同士の争いで一人で100人相手に戦ったなんて伝説まであるくらいだ」

主人「一方の宰相様は、強さはさほどでもないんだけど、最近ハイランダーの位を息子さんに継がせてね」

主人「その息子ってのが相当な強者だって話だ。まあ最近武者修行から帰ったばかりであまり知らないんだけどね」

勇者「すると、クリルタイはその二人の戦いが目玉って事になるかい?」

主人「ところがさにあらず、だ(ニヤリ)在野にも人は居てね、どっちの派閥でも無い達人が何人か居るんだよ」

勇者「ほうほう、さすが高原の国だな、戦士には事かかない」

主人「おうよ、まずはすぐそこで道場を開いている風の剣士様。この方は風の太刀っていう自分の流派を立ち上げた名人でね」

主人「武者修行に出てた若い頃、丁度魔王が攻めてきたって時代だったモンで、襲い来る魔物をバッタバッタと切り伏せてたって話だ」

勇者「ほう……」

娘「(勇者様……その方がもしかして……?)」

勇者「(ああ、多分お前さんが通う道場の主だな)」


勇者「他には?」

主人「あとは、今竜の谷の守り人を勤めてる黒の戦士って人がまた強い」

主人「この人は剛力無双でね、身の丈ほどある大剣を軽々と振り回す豪の者で、竜の尾の一撃を素手で受け止めたなんて噂もあるくらいさ」

主人「それから、騎士隊長を務める鷹の魔剣士と呼ばれる方もかなりの腕だって話だ」

主人「この国には珍しい魔法剣士でね、技の冴えと相まって、玄人好みの技巧派な戦い方をするそうだよ」

勇者「確かにこの国じゃ魔法を使う人は少ないから珍しいね」

主人「あ、それからアレを忘れちゃいけない、双刀の狂戦士だ。この人はハイランダーになる時に」

主人「鎧も盾も無しに両手の二刀のみで竜に挑み、傷ひとつ負わずに鱗を剥いで帰ってきたっていう達人だ」

主人「まあ、粗暴であまり人望は無かったんだが、王にだけは忠実でね、王の命には絶対逆らわなかったね」

主人「しばらく諸国を漫遊してたらしいんだが、今回の王の病を聞きつけて、最近国に帰ってきたって話だ」

勇者「すごい顔ぶれだな、するとクリルタイはかなりの見応えになりそうだ、今から楽しみになってきた」

主人「ああ、国中の連中が集まるからな、人出もすごい事になる、あんたらも稼ぎ時だぜ?」

勇者「そうだな、ちょっと本腰入れて商売に精を出す事にするよ、ありがとよ」

主人「ま、何しろ随分な宿代を頂いちゃったからな、また何かあったら言ってくれ、俺に出来る事なら何でもするぜ」

勇者「ああ、また何か聞くかもしれんから、そん時はよろしく頼むわ」

主人「あいよ、おっと、お客さんだ、じゃあまたな、ゆっくりメシを食ってくれ」


娘「なんだか物凄い人たちの戦いみたいですね…」

勇者「ま、噂には尾ひれがツキモンだからな、実際に見てみないとわからんが」

娘「勇者様はその風の剣士さまとは昔お会いになっているのでしょう?」

勇者「ああ、アイツは強かったな、魔王軍の魔物どもをものともしなかった」

勇者「とはいっても、当時は戦士の方が強かったけどな、しかしあれから30年、剣に精進したとしたら相当な達人になっていてもおかしくない」

娘「うう……そんな方の所に……ちょっと怖いです」

勇者「ま、別に乱暴な人柄じゃなかったからな、むしろウチの戦士の方がよっぽど粗暴だったよ(笑)」

勇者「彼はどちらかというと理論派で、話も上手だった、今は良い師匠になってるんじゃないかな」

娘「だといいんですけど……」

勇者「そう怖がる事はない、大体お前さんだってかなりの腕だぞ、俺は腕は鈍っても目の方まで曇っちゃ居ない」

勇者「お前さんの剣力は、魔王を倒した二人のお墨付きなんだ、もっと自信を持ったらいいさ」

娘「そうは言っても、私実戦の経験がほとんどありませんので……」

勇者「まあ、それはこれから先積んでいけば良い事だよ」

娘「…………」

勇者「不安か?あ、そうだ、それじゃいい考えがある、ちょっと待っててくれ」ガタ

勇者「おーい、ご主人」スタスタ

娘「(何をしに行ったんだろ?)」


勇者「ただいま、やっぱ主人コレ持ってたわ。ほれ、身につけとけ」

娘「布を巻いた木剣……?」

勇者「明日から、外に出る時はコレを持って行くといい」

娘「これは一体?」

勇者「ま、それはお楽しみだな(ニヤリ)ともかく、強くなりたいならソイツを持ってると良い」

娘「うう……なんだか死ぬほど不安なんですけど…」

勇者「そうだな、一つアドバイスするなら、日々これ全て実戦と肝に命じておく事だ」

娘「日々全て実戦…?」

勇者「ま、いついかなる時でも油断すんな、って事だよ」

娘「…………底知れないほど怪しいけど、解りました……」

勇者「さてと、メシも食ったし、そろそろ上に戻るかい?」

娘「いえ……なんか落ち着かないので裏で少し素振りでもしてから眠ります」

勇者「そうかい、ま、明日から大変だからな、あまり疲れすぎないように気をつけてな」

娘「はい、あ、勇者様は?」

勇者「呑みに来た客がちらほら増え始めたからな、少し話を聞いてみる」

娘「そうですか、あ、そういえばさっきの宿のご主人から聞いた話では何か分かりましたか?」

勇者「うーん、それはちょっと後で部屋で話した方がいいな」

娘「わかりました、では、私はこれで」


-- 宿の裏手 --

娘「やっ!はあっ!!」ブンブン

娘「えいっ!(まったく、勇者様といい、他の二人といい…)」ブン!

娘「ふぅぅ…(何考えてるのか全然解りゃしない)」スチャ

娘「(急に道場通えなんて言い出すし……)」

娘「(どうせ10日経てば竜の谷には入れるんだから大人しくしてればいいのに…)」

娘「(一体この国で何をするつもりなんだろ?)」

娘「(まあいいや、難しい事はどうせアタシには分からないし)」

娘「(せっかく道場に通わせてくれるって言うんだから、アタシは剣の事だけ考えてればいいか)」

娘「(夜は冷えるなあ、そろそろ宿に戻って寝ようかな…)」ブルブル

???「そこな娘」

娘「ひゃっ!?」

???「おっと失礼した、驚かせてしまったか」

娘「え、ど、どなたですか?」

???「ワシは旅の剣士、おぬしも戦士と見受けたが?」ユラリ

娘「え、は、はい、そうですが」

旅の剣士「おお、その木刀、やはりそうであったか、暗くてよく見えぬ故声をかけさせてもらったが」

旅の剣士「うむ、若いのに大した腕だ。では早速お手合わせ願おうか」

娘「ええええええ!?」

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-- 高原の国 宿屋一階 --

勇者「そうかい、じゃあアンタもクリルタイの見物に?」

旅人「ああ、この国の男としてコイツを見逃すわけにはいかねーからな」

勇者「だよな、一生に何度もある事じゃないからな」

旅人「おうともよ、ちなみにアンタは誰に賭けるんだい?」

勇者「賭け…?ああ、まだ俺はこの国についたばかりでな、誰が強いのか分かってねーんだ」

旅人「なら、悪い事は言わねぇ、全財産大公様に突っ込むといいぜ、あの人の強さは群を抜いてる!」

旅人「それに、俺達遊牧の民の事もよく分かってらっしゃる、あの方以外のこの国を背負える人は居ないぜ」

勇者「そうなのか、ちなみに宰相の息子もなかなかだって聞くけど…」

旅人「へっ、あんな都育ちのボンボン、大公様の敵じゃないね、ちょっと腕が立つか何か知らねぇが……」

娘「勇者様ッッッッッッッ!!!!!」

勇者「おっと、どうした?」

娘「どうしたじゃありませんよ!何なんですかこの木剣は!!!!」

勇者「お、早いな、さっそく試合を挑まれたか、勝ったか?」

娘「ええ、まあ大した相手じゃありませんでした……じゃなくて!!!」

旅人「お、アンタの連れかい?かなり腕には自信があるみたいだな、白巻の木剣を持ち歩くたぁいい度胸だ!」

娘「どういう事なんですか!この木剣持ってたらいきなり試合申し込まれましたよ!!!」

勇者「ああ、この国の風習でな、その白い布を巻いた木剣は修行中の証なんだよ」

勇者「だから、ソイツを持ってる戦士にはいついかなる時でも試合を挑んで良いって事になってんだ」

娘「」


娘「だ、だったら最初にそう言って下さいよ!!!死ぬほどびっくりしたじゃないですか!!!」

勇者「だから、いついかなる時でも油断するなって言ったろ?」

娘「それだけで分かるワケないでしょ!!ちゃんと説明してくれればアタシだって覚悟しましたよ!!!」

勇者「ははは、悪い悪い、まあどうせならいきなり襲われる方が緊張感があるかと思ってな」

娘「そういう事は先に言って下さい!!怪我でもしたらどうするんですか!!」

勇者「別に怪我も無さそうだし、勝ったんだから問題ないだろ?」

娘「そ、そういう問題じゃ……」

勇者「どうせ明日からは剣術漬けの毎日になるんだ、その前に一つ実戦ができてよかったじゃないか」

勇者「ああ、そうそう道場行き帰りもそれ着けてる間は油断するなよ」

娘「…………」

旅人「道場ってーと、娘さんどこか通うのかい?」

勇者「ああ、滞在中、そこの大通りの風の剣士の道場で教えを乞う事になってな」

旅人「風の剣士か……まあ、アイツもそこそこやるみてぇだが…だが大公様には敵わないぜ?」

勇者「そうかい?そんなに強いのか、大公は」

旅人「そりゃそうよ、いいか?まず若い時に大公様はな?うんやらかんやらで……」

娘「はあ………なんか明日からが不安で仕方ないわ……」

はい、今日は勇者の性格の悪さがかいま見えたこの辺で終了です。
ちなみに、自分でも適当に書いたのでクリルタイ優勝候補のまとめを書いておきます。



大公     遊牧民出身、保守派。50過ぎだが実力は衰えず
宰相息子   都出身、大公の対抗馬(駄洒落じゃないお)最近武者修行から帰ってきた
風の剣士   勇者若かりし時代に共闘した事がある。"風の太刀"宗家。明日から娘の師匠?
黒の戦士   剛力のパワータイプ。身の丈ほどの大剣を軽々振り回す。
鷹の魔剣士  テクニシャンタイプの魔法剣士。高原の国騎士隊長。
双刀の狂戦士 スピードと攻撃力極振りの双剣士。最近帰国。王には忠実だが粗暴な性格らしい。

娘がオッサンの手のひらの上で転がされまくっておるなwwwwww
いいぞ勇者もっとやれ
乙です

乙ー

面白い



ちゃんと鍛えてれば
還暦近くまでは
肉体はおちんしねぇ
問題は反射神経やで

結局おっさんの腹は引っ込まないのか

頑張って戦って欲しいが

>>262
ところが
「雌火竜の逆鱗手に入らないんでてつだっとくれ」とか言うばあちゃんや
FPSばりばりなドラテクじいちゃんが居る世の中な訳で。

>>263
気づけば遊び人と勇者も鍛えられてたりして(ww
遊び人「話が違うじゃねーか!ww」
勇者「何となく、こうなる気がしてたんだ」

なにいってんだこいつ

>>264
臭い

はいどうも、皆さん週末楽しんでますか?俺は今日も仕事でした。
というわけで、続きを投下していきまーす






-- 宿屋一階 深夜 --

遊び人「おう、なんだ二人してこんなトコで」

商人「遅かったですね、おかえりなさい」

勇者「おう、部屋は娘が寝てるんでな、起こしたら可哀想だしな」

遊び人「ま、明日からアイツは大変だかんな」

勇者「で、どうだったよ?」

遊び人「いやー、いいね、この国は、ハイランダーだっつーだけでもう大モテよ」

勇者「聞いてんのはソコじゃねーよ(笑)」

遊び人「まあまて、ちっと飲み過ぎて喉が乾いたわ、おやっさん、水くれー」

主人「あいよー」

遊び人「ゴッゴッゴッゴ……ぷはぁ~、うめぇ」

勇者「ご主人、もう他の客は寝たのか?」

主人「ああ、もう他の部屋はみんな上あがったみたいだな」

勇者「それでは、済まないが店の方も閉めてもらえないかな」

主人「おう、どうせもうカンバンにしようと思ってたトコだ」

主人「何か内緒話かい?(ニヤリ)」

勇者「ま、内緒話ってほどでもないが、商売の話なんでな、人にあまり聞かれたくない」

主人「ああ、いいよ、俺はもう奥で片付けしちまうから気にしないで話しててくてや」

主人「ただ、料理や酒は出せねーがな」

勇者「大丈夫だ、気遣いありがとう」


遊び人「さて、そんじゃ報告会と行きますかね」

勇者「そうだな、じゃあまず商人から頼む」

商人「わかりました。まず前提として、今回のクリルタイが都市派の宰相と地方派の大公の争いである事は二人ともご存知ですね?」

勇者「ああ、聞いた」

遊び人「俺もだ」

商人「では、まずはこの国の経済状況から行きましょうか」

商人「この国の経済は非常に歪ですが、ただ、それで成立しているため人々の暮らしには問題がありません」

遊び人「歪ってのはどういう事だ?」

商人「この国は、国内でほとんどの需要と供給が循環している閉鎖経済なんです」

商人「各地に点在する農地と都市、そしてその間を結ぶ遊牧民が、生産、加工、消費、流通を担当する事で」

商人「国内で必要とする資源のほぼ全てが賄えます。その中で不足する資源は隣の河の国から輸入している状況ですね」

商人「通常ではこういう一国での閉鎖経済というのはリスクに対する柔軟性が低く、例えば凶作などに対応できないのですが」

商人「聞いた話によれば、ここ数十年、農産物の生産にはほとんど変動が無いようです」

商人「つまり、この高原の気候はかなり安定している、という事ですね」

勇者「ふむふむ」


商人「また、生活スタイルが自給自足を前提としているので、外から輸入しなければいけない資源もほとんどありません」

勇者「ほとんど無い、という事は、少しはあるって事だな」

商人「ええ、金属製品、魔法関係の諸品、薬品類などは技術が無いため輸入に頼っているようです」

商人「さて、そこで宰相派ですが、彼らの主張は、それらの技術を外部から導入する事で国を富ませよう、というモノです」

商人「この国の農工業の技術レベルは我々の国などと比べると確かにかなり遅れています」

商人「ですから、このまま半鎖国をしていては国際社会から取り残される、というのが彼らの主張です」

勇者「ふむ」

商人「それに対して、大公の主張は、今上手く回っている物を下手にいじって変えるべきではない、と言っています」

商人「外部から人間が流入して来る事で、この国の文化や伝統が破壊される事を憂慮していますね」

商人「さて、両者の主張に対して、まず都市部の商工関係者は当然ながら、宰相を支持しています」

商人「対して、農産、畜産関係者は大公を支持しているようですね」

商人「経済活動の拡大は都市部にのみ利益があり、彼らにとっては不利益が多い、と考えているようです」


商人「しかし、実のところ両者の主張にはそれぞれ陥穽があります」

遊び人「ほう?」

商人「まず、大公派の主張ですが、彼らの主張は現状維持です。今とりたてて問題が起きていない以上内政を重視するべき、と。」

商人「それはそのとおりなのですが、長期的に見た時には、破綻の可能性が2つあります」

商人「一つは人口の増大を支えられない事」

商人「この国は戦乱も無く、気候も安定していますので当然人口は増大します」

商人「しかし、農業レベルはかなり原始的です。未だ三圃式農業すら浸透していません」

商人「おそらく近い将来、国内の生産力では国民を食わせて行く事が出来なくなります」

商人「そうなった時に取るべき手段は、国外から買うか、奪うかの二択ですが」

商人「そもそもこの国の産業の大半が農畜産である事を考えれば、買う事は難しいでしょう」

商人「しかし、外征を行って領土を拡大するといっても、この高原は河の国に通じる道以外は全て険しい山か崖に囲まれています」

商人「その状況で外に領土を持ち、この高原と共に維持するというのは不可能でしょう」

勇者「ふむ、それで、もうひとつは?」


商人「外の国々の変化に対応出来ない事です」

商人「河の国は水産物と鉱物資源には恵まれていますが、国土の大半が沼沢地で農業や酪農には向きません」

商人「ですから、今のところはそれらを生産出来る高原の国との需給関係はバランスが取れていますが」

商人「河の国は水運が盛んで、他の諸国とも交流の盛んな国です」

商人「彼らの水運技術や灌漑技術が進歩して、より安価に農畜産物を入手出来るようになった時に、その二国の関係は崩れます」

商人「そうなった時、この国は立ち行かなくなり、おそらく崩壊への道をたどるでしょう」

遊び人「ふーん、難しいトコだなー」

商人「さて、では次に宰相派です。彼らの主張は経済と外交を重視した一種の拡大政策です」

商人「これは生産力の増強や、技術の進歩を主眼においた政策ですから、鎖国政策の欠点はカバーしています」

商人「技術の移入や貿易の拡大によって国内の経済は活性化され、国内の景気は上向きになるでしょう」

商人「国の生産力が上昇しますから、外国に対する購買力も増え、更に様々な文物を輸入し、大いに発展する可能性があります」

勇者「そう聞くと良い事ずくめに聞こえるがな」

商人「はい、実際、都市部の人間にとっては良い事の方が多いでしょう、都市の構成員は商工関係がほとんどですから」

商人「しかし、ここで問題になるのは、この国の根幹を担う戦士階級はほとんどが遊牧民である、という事です」

さてと、経済談義に花が咲いたところで、中途半端ですが一旦メシ食ってきます。
続きはまたあとで~



なかなか難しい問題ですなぁ

ファンタジーで触れられていない真面目な流通・経済について考え出すと楽しいよね

はいはい、今日の晩飯は二郎でした。自分がニンニク臭くて死にそうですwww
というわけで続きをば




商人「現在、この国の価値観においては"金を持っている事"よりもはるかに"戦士として強い事"が上位におかれています」

商人「この国の歴史には詳しくありませんが、この国がひとつに纏まる前の戦乱の時代から引き継がれた価値観なのでしょう」

商人「しかし、そこに外部の経済が入って来て発展する事で、その価値観が逆転する日が来ます」

商人「"強さ"より"豊かさ"が上位におかれるようになった時に、戦士階級の凋落が始まります」

商人「遊牧民というのは、定住せず、財産を私有せず、移動を旨とする生活スタイルですから」

商人「農工商などの産業とくらべて、はるかに経済の発展から得られる恩恵は少ない。おそらく発展から取り残されることになるでしょう。」

商人「ですが、誇り高き戦士である彼らが、大人しく戦士階級の没落を認め、遊牧生活を捨てるでしょうか?」

商人「おそらくそれは無いでしょう。となれば、起きる事はただひとつ」

勇者「……内乱か……」

商人「はい。しかも、彼らの強さは半端ではありません。特に、野戦における騎馬の戦闘力は圧倒的です」

商人「国土の大半が平原であるこの国ですから、おそらく遊牧民勢力があっけなく都市部を蹂躙し、内乱は終わるでしょう」

遊び人「でも、まあ内乱はあんま良いことでも無いけどよ、結局戦士階級が支配者になって元に戻るって事だろ?」

商人「いいえ、そうではないのです、その前にあった戦士階級の没落を経験した事で、彼らは国内に"敵"が居る事を知ってしまいます」

商人「さて、国内には敵がいる。自分たちにあるのは力だけ。その状況でどう国を治めますか?」

勇者「力で締め付ける、というわけか?」

商人「はい。つまり軍政、ひいては恐怖政治の始まりです」


商人「今までは、支配階級も、被支配階級も"強さ"という同じ価値観を共有していました」

商人「ところが、階級間で一度価値観が食い違ってしまい、それが利害を異にするとなれば……」

勇者「どちらかを排斥するしかない、というわけか」

商人「そういう事です」

商人「こういった事は他の国でも起きてはいますが、しかしその変化はもっと緩やかに行われていました」

商人「また、教会の影響が強く、宗教という同じ価値観を共有する事が出来たため、国が割れるまでには至りませんでした」

遊び人「ふーん、八方塞がりに聞こえるけどよ、そんじゃ何かいい解決策はあるのかい?」

商人「さあ?」

遊び人「さあ、ってお前随分無責任だな」

商人「だって私は政治家じゃありませんし。それはこの国の指導者が考えていく事ですよ」

商人「まあ、個人的には結局バランスの問題じゃないかと思いますけどね」

勇者「俺もそう思う。経験則だが、世の中の問題のほとんどは、加減の問題だ」

勇者「0と100の間で、51とか49とか、神経すり減らしながら微妙な所でバランスを変えながらコントロールするしかない」

勇者「だけど、考えるのが面倒になったバカが大体100か0に振れて大惨事を引き起こすんだよな」

商人「極端な考えというのはインパクトも大きいですから、民衆の支持も得られやすいですしね」


遊び人「ま、ご高説は分かったけどよ、別に俺らはこの国を救いに来たワケじゃねぇよな」

遊び人「このお家騒動が、別に魔王と関係無いならそれはココの国の連中の問題だ、うちらが関わるべき話じゃない」

勇者「その通りだな、話が脱線した。それで、その辺のトコはどうだ?」

商人「残念…というのも変ですが、私が今日聞いて回った話には、まだ特に魔王の影は見えて来ません」

商人「ただ、全く関係ないと証明できたワケでもありませんから、今の所灰色としか言えませんね」

勇者「そうか……」

遊び人「そこなんだがよ、俺はちっと臭い話を耳にした」

勇者「どんな話だ」

遊び人「まずな、大公と宰相のいがみ合いってのは、ここ2~3年で始まった事らしいんだわ」

遊び人「今の王ってのは、それこそさっきの話じゃねえが、バランスよく国を統治してきた名君でな」

遊び人「大公も宰相もその王には心服していて、二人で協力して王の補佐に全力を尽くしていたらしい」

遊び人「武の大公、知の宰相、この二人が居れば王亡き後もこの国は安泰だ、なんて人々の間でも語られていたんだそうだ」

遊び人「ところがだ、この2~3年でどういうワケか、二人がいがみ合い始めた」

遊び人「最初は放っておいた王も、その対立がこうも長く続くと頭を痛め始めてな」

遊び人「いよいよこれは放置しておけん、ってんで仲裁に乗り出してたらしいんだな」

遊び人「ところが、その矢先に今回の病だ。元々仲がこじれてた所に、クリルタイの開催」

遊び人「こうなっちまったら、もう二人の道は二度と交わる事は無い」

遊び人「奇跡的に王が蘇って二人の仲裁でもしない限りな」


遊び人「ま、ご高説は分かったけどよ、別に俺らはこの国を救いに来たワケじゃねぇよな」

遊び人「このお家騒動が、別に魔王と関係無いならそれはココの国の連中の問題だ、うちらが関わるべき話じゃない」

勇者「その通りだな、話が脱線した。それで、その辺のトコはどうだ?」

商人「残念…というのも変ですが、私が今日聞いて回った話には、まだ特に魔王の影は見えて来ません」

商人「ただ、全く関係ないと証明できたワケでもありませんから、今の所灰色としか言えませんね」

勇者「そうか……」

遊び人「そこなんだがよ、俺はちっと臭い話を耳にした」

勇者「どんな話だ」

遊び人「まずな、大公と宰相のいがみ合いってのは、ここ2~3年で始まった事らしいんだわ」

遊び人「今の王ってのは、それこそさっきの話じゃねえが、バランスよく国を統治してきた名君でな」

遊び人「大公も宰相もその王には心服していて、二人で協力して王の補佐に全力を尽くしていたらしい」

遊び人「武の大公、知の宰相、この二人が居れば王亡き後もこの国は安泰だ、なんて人々の間でも語られていたんだそうだ」

遊び人「ところがだ、この2~3年でどういうワケか、二人がいがみ合い始めた」

遊び人「最初は放っておいた王も、その対立がこうも長く続くと頭を痛め始めてな」

遊び人「いよいよこれは放置しておけん、ってんで仲裁に乗り出してたらしいんだな」

遊び人「ところが、その矢先に今回の病だ。元々仲がこじれてた所に、クリルタイの開催」

遊び人「こうなっちまったら、もう二人の道は二度と交わる事は無い」

遊び人「奇跡的に王が蘇って二人の仲裁でもしない限りな」

二重投稿になってもた、ごめん orz





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遊び人「なあ、何か臭わねぇか?」

商人「そうですね……確かにタイミングが良すぎる、という気はします」

商人「国の未来を担う二人を仲違いさせ、その対立が深刻になった所で、後には引けない状況を作り出す」

商人「この国を崩壊させるなら、非常に効果的な方法です」

勇者「確かに。お家騒動に便乗して分裂工作をするのは、離間の策としちゃ常道だ」

勇者「だが、これが魔王によって仕掛けられた何かの罠の可能性はもちろんあるが」

勇者「しかし、単に周辺国が何やら野心を持ってこの国にちょっかいを出してる、という可能性もある」

遊び人「ああ、そのとおりだ、お前の言いたい事はよく分かる」

遊び人「ま、元々俺は商人みたいに口も頭も回らないからな、上手くは説明できないんだが」

遊び人「ただ、俺のカンはこの勝負、一口乗るべきだと言ってる」

遊び人「つっても、所詮はカンの話だ。リーダーは勇者、お前だからな、決めるのは任せる」

勇者「ふむ……まあ、お前のカンはバカに出来ないからな、そういうならそうなのかも知れない」

勇者「だが、一口乗るとしてだ、どこに何を張ればいい?それが分からないと賭けにはならんぞ」

遊び人「残念ながらまだそりゃ分からねえ、このゲームのルールも、プレイヤーが誰なのかも分からないからな」

遊び人「言ってみればまずはテーブルを探すトコからはじめなきゃならねえ」


勇者「…………分かった、いいだろう、まずはテーブルを探そう」

勇者「まずはクリルタイの参加者だな、彼らの動向や姿勢について探ろう」

勇者「それから、あとはやはり王の病状だな、そこんとこ、なんとか探る方法は無いか?」

商人「それなんですが、この国の医療はほぼ教会の魔法と薬品に頼っているようです」

商人「ですから、ちょっとこれから教会関係者をつついてもう少し情報を集めてみようと思います」

商人「この国は土着の竜信仰と、教会の女神信仰が混ざって独自の宗教が生まれています」

商人「故に、中央から派遣された教会はなかなか苦労しているようです」

商人「そこをつけば、案外すんなり教会の協力は取り付けられるかもしれません」

勇者「よし、じゃあそっちは任せた。俺は明日から役所周りにつなぎをつけて、政府の方をあたる」

勇者「遊び人は、ハイランダー達の情報をあたってくれ、丁度明日は風の剣士とも会うしな」

遊び人「わかった、やっこさんが俺の顔覚えててくれたらいいんだが」

勇者「ま、忘れてたら忘れてたで、同じハイランダー同士だ、話ぐらい聞いてくれるだろ」

遊び人「そうだな、ま、娘のお守りがてら行ってくらぁ」


遊び人「どうせ帰る頃にゃ足腰立たなくなってるだろうからな、少し休ませてる間に話ぐらい聞けんべ」

勇者「それにしてもお前、意外と娘の事気にかけてんな、弟子でもとった気分か?」

遊び人「別にそういうワケじゃねえが………俺は子供もいねぇからな、その代わりっていうとまた違うんだが」

遊び人「何か若いヤツのために、俺に出来る事をやってやりたくなるんだよな」

勇者「………ま、わからんでもないな」

商人「わからんでもないどころじゃないでしょうね、勇者こそ随分面倒見が良いじゃないですか」

遊び人「あん?どうかしたのか?」

商人「娘に白布を巻いた木剣を渡したんだそうですよ」

勇者「まあ実戦経験を積みたいっていうから、そんだったら、と思ってな」

遊び人「マジか、そいつは面白いな」

勇者「ま、何も説明しないで渡したらさっそく宿の裏手で挑まれたらしくて散々文句を言われたがな」

遊び人「全くお前はそういうヤツだよ、いつだってロクな説明も無しに勝手に決めておっぱじめるんだ」

商人「そういう所は30年前から変わってませんね」

遊び人「ま………何にしても、あの娘はいい子だ。素質もあるし、何より素直だ。死なせたくねぇ」

勇者「………だな、今の俺らじゃあの娘を守ってやる事はできないからな」

商人「本人に強くなってもらうしかない、という事ですね」

勇者「さて、そろそろ夜も更けた、さっさと寝よう、明日から忙しいぞ」

遊び人「んだな、飲み過ぎて眠いわ」

---------------------
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というわけで、今日はこの辺で。
しかし今更ですが、商人の視点がどう考えても現代人だな…
産業革命も起きてない世界でこんな事考えついたら天才政治家になれるwwww

おつ


オッサンどもが会話しているだけなのに面白いね

>>282
頭が良くて先進性がある奴はまず最初に商売人になるんだよ。
その商売の都合上政治に首突っ込むの。
政治家を家系に持たない場合大抵そんなもん。

乙です
一国の統治に首を突っ込む勇者一行ww
徐々に裏が見えてきて面白いねえ

とはいえ
元はみんな最強クラスの戦闘要員だったわけだし、同年代の現役もいるんだし、
少しは鍛えなおせよと思う

持続はそこに楽しみがなければ辛いが、一度衰えたものを最高水準まで引き戻すのはかなりつらいよ
ハードウェアが劣化していたら尚更

はいどうも、こんな時間ですが続きを投下していきますよー







-- 翌朝 風の剣士の道場 --

遊び人「おーい、たのもーう」ドンドンドン

娘「ちょ、それじゃ道場破りですよ!!!」

遊び人「あ、それもそうだな、おーい、誰か居るかい?」ドンドン

ガチャ

内弟子「どちら様でしょう?この時間は師自らの鍛錬の時間、未だ稽古は始まっておりませぬが」

遊び人「そうか、そいつは取り込み中すまんが、できたら師匠に取り次いでもらえんかな」

遊び人「その昔、獣王の2つ首を分け合った男と言ってもらえれば分かる」

内弟子「はあ、解りました、ではしばしお待ちを」バタン

娘「獣王の……?」

遊び人「ああ、30年前に獣王が配下を率いて攻め込んで来た事があってな」

遊び人「その時に敵陣深く切り込んで大将首を取ったのが俺と風の剣士だ」

娘「そ、そんな事が……」

遊び人「懐かしいな……ありゃ激戦だった……」

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-- 30年前 隣の国 --

将軍「物見の報告によれば、敵軍は我が方をはるかに上回る大軍だ」

将軍「しかし、逃げるわけには行かぬ。この砦を抜かれれば、王都はもはや丸裸も同然」

将軍「兵力で勝てぬとなれば、残る手は敵将の首を獲るほかにはない」

将軍「そこで、勇者どのに頼みがある」

勇者「はっ!何なりと!」

将軍「城下で、我が軍の者ではないが腕の立つ者達を集めた」

将軍「彼らを率いて遊撃隊として敵陣奥まで切り込み、獣王を討ち取ってはもらえぬだろうか」

勇者「しかし、それでは獣王軍をあなた方だけで迎え撃つと?」

将軍「確かに我が軍の兵力では勝利は覚束ぬが、一刻二刻ならば戦線を支える事ぐらいはできよう」

将軍「その間に勇者どのの隊には左の森より回り込み、奇襲をかけていただきたい」

勇者「………わかりました、必ずや獣王の首、挙げてみせましょうぞ」

将軍「このような重責を負わせ、すまぬがよろしく頼む」

将軍「できれば……早めに頼むぞ、あまり長くは保たん」

勇者「承知致しました!!」

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-- 30年前 獣王軍後方 --

勇者「大雷撃魔法!!」ビッシャアアアン

武闘家「真空回転脚!!」ズバアッt

戦士「マズいな、数が多い、結構手こずるぜ」ザンッ

僧侶「思ったより本陣の守りが厚いですね」

魔王使い「このままグズグズしてると囲まれて潰されるわよ!!」

勇者「分かった、数に対抗するには範囲攻撃が必要だ」

勇者「戦士、ここは俺たちが道を開く、お前は魔法を使えない連中を連れて獣王を倒しに行ってくれ!」

戦士「だ、だけどよ、お前抜きじゃ……」

勇者「グズグズ言ってるヒマは無い!頼んだ!!」

戦士「分かったよ!よし、魔法を使えないヤツぁ俺と来い!獣王の首にゃ大金がかかってる、お前ら気合入れろよ!!」

斧使い「承知!!」

風の剣士「応!!」

勇者「今から俺と魔法使いがありったけの力で魔法をぶっ放す!本陣まで穴が空いたら全力で突っ走れ!!」

僧侶「頼みましたよ。防御魔法!神速魔法!剛力魔法!」シュアァァァ

勇者「行くぞ、魔法使い!」

魔法使い「しょうがないわね、アンタに賭けるわ、戦士」

戦士「ふん、俺が賭けられる方に回るとはな、任せとけ」

勇者「いくぞ!極大雷撃魔法!!!」バッシャァァァァン

魔法使い「極大爆発魔法!!!!!」ドゴォォォン

戦士「行くぞ!野郎ども!!!」ズダダダダダ

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-- 30年前 獣王軍本陣 --

戦士「はぁはぁ…つえぇ、残ってるのは俺たちだけか」

風の剣士「しかし手傷はかなり負わせた、ヤツだって効いてるハズだ」

戦士「そうだな、あとひと押し、行けるか?」

風の剣士「ああ、まだまだこれからだ!!」

戦士「おし、いくぞ!!!」ダッ

獣王「コザカシイ!サッサトシネ!」ブン!!

戦士「へっ、喰らうか!」ヒョイ

獣王「カカッタナ、グオオオオオオオ」ボウッ

戦士「(やべ、もうひとつの首からブレスが……)」

風の剣士「浮舟の太刀!!!」ザシュッ

獣王「ギャアアアアアアア」ボトッ

風の剣士「大丈夫か!!!」

戦士「おお!助かったぜ!!!」

獣王「ヨクモワガクビヲ……」

戦士「うるせえ!もう一個の首は俺が頂いてやっからさっさと冥王んトコに行きやがれ!!」

戦士「行くぞ!魔神の太刀!!!!」ズバァッッッッッ

獣王「マオウサマ………オユルシヲ………」バタッ


戦士「はぁっはあっ……やったぜ……」

風の剣士「ぜぇ……ぜぇ……なんとか勝てたな…」

戦士「そうだ、さっさと勝ち名乗りしてアイツら安心させてやんねーとな」

風の剣士「そうだな、ほれ、アンタの獲った首だ」

戦士「ふっ、じゃあココは二人で名乗りを上げるとすっか」

風の剣士「そうだな(ニヤリ)」

風・戦『魔王軍が大将、獣王の首、この戦士と風の剣士が討ち取ったり!!!!!』

ザワザワ 「バカな……」 「まさか……獣王様が……」 ドヨドヨ

戦士「残党共、さっさとケツまくって逃げ帰りやがれ!でないと皆殺しにすんぞ!!!」

魔族C「やべえ、逃げろ!獣王様を倒すようなバケモノなんぞ相手にできねぇ!!」

魔族D「逃げろーーー」

魔族隊長「バ、馬鹿者、残って戦わんか!」

魔族「バカ言ってんじゃねぇ、そんならアンタだけ残って戦いな!あ、待ってくれ、俺も連れてってくれー!!」

ワーワーニゲローワーワー

戦士「ふう……なんとか守り切れたか……な」

風の剣士「そのようだな……」

戦士「疲れた……もう動きたくねぇ」バタッ

風の剣士「俺もだ…」ヘタッ

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風の剣士「そういえばまだ挨拶もしておらなんだな、これは失礼、ええと…こちらは、戦士、お前の娘か?」

遊び人「違う違う、俺の知り合いの娘なんだがな、腕も筋も良いんだが、まあまだまだ経験が足りないんでな」

風の剣士「そうだったか、いや、申し遅れた、改めて私は風の剣士、戦士とは30年前に戦場を駆け巡った旧友だ」

娘「ご高名は伺っております、よろしくお願い致します、娘と申します」

風の剣士「ああ、こちらこそよろしく頼む。それはそうと、ちといいか、戦士よ」グイグイ

遊び人「なんだなんだ」ズリズリ

風の剣士「お前、知らないかもしらんが、俺の教える剣術は、何が何でも生き残る戦場剣術だ(ヒソヒソ)」

風の剣士「何のタメだか知らんが、年頃の娘に教えるような剣じゃないぞ(ヒソヒソ)」

遊び人「俺だってハイランダーだ。分かってるよ、この国の気風のこたぁな(ヒソヒソ)」

遊び人「だけどな、これからのアイツにはまさにそういう戦い方が必要になってくるんだ(ヒソヒソ)」

風の剣士「そうは言うが、下手すれば骨の一本や二本は覚悟してもらう事になるぞ、ウチの道場はそれほど荒っぽい(ヒソヒソ)」

遊び人「ま、俺だって本当は年頃の娘にそんな事ぁさせたくねぇがよ、でも死ぬよりゃマシだろ?(ヒソヒソ)」

風の剣士「………お前がそこまで言うなら仕方ない、だが、まずは腕を見せてもらってからだ(ヒソヒソ)」

遊び人「ああ、構わねぇ、腕前に関しては俺の太鼓判付きだ(ヒソヒソ)」


風の剣士「娘よ、事情は分かった、ではまず早速だがお主の剣を見せてもらおう」

娘「は、はい」

風の剣士「内弟子!」

内弟子「はっ!」

風の剣士「この娘と立ち会え」

内弟子「え!?し、しかし……」

風の剣士「良いからさっさと木剣を取ってこぬか」

内弟子「は、はい!!」

遊び人「娘よ、見たトコあの弟子はまあまあの腕だが、お前のが上だ、気楽にやってきな」

娘「えー、ホントですか……?」

遊び人「こう見えても俺ぁ目は曇ってないぜ?いいからさっさとぶちのめして来い」

娘「わかりました……」

風の剣士「では、両者構え……はじめ!!!」

娘「やあっ!」ブンッ!!

内弟子「なんのっ!」カキン!!

カン!カン!「ハアッ」カンッ!「キエエエエ!!」

遊び人「な、結構やるだろ」

風の剣士「……あの内弟子はウチでも結構上の序列なんだが……こりゃ驚いたな」

娘「はっ」ビュン…ピタッ

内弟子「うっ、ま、参りました!!!」


風の剣士「内弟子2!おるか!!」

内弟子2「は、ただいま!!」

風の剣士「せっかくだからもう一人立ち会っていただこう」

娘「はぁ、はぁ……え!?」

風の剣士「もう少し見れば大体お主の剣は見える。では、はじめ!!!」

内弟子2「はあっ」ビュン!!

娘「えいっ!」カンッ!

「ヤアッ」ヒュン!「トウッ」カン!カン!

風の剣士「ふむ、変なクセも無く、素早さを活かした綺麗な剣術だ」

遊び人「ああ、どうやら師が良かったらしい。どこの誰なのかは知らないがな」

風の剣士「うむ、基本はしっかり出来ているようだな」

遊び人「だけど、それだけで生き残れるほど戦場は甘いトコじゃない、だろ?」

風の剣士「ふむ……つまり、技よりも身体と心だな?」

遊び人「そういうこったな」

娘「やあっはあっとうっ!!!」ブン!ブン!バキーン……カラカラ

内弟子2「くっ、参りました!」

風の剣士「そこまで!」


風の剣士「娘よ、良い腕だ、女で、しかもその若さでそれだけの剣を使えるとは……少々驚かされた」

娘「は、あ、ありがとうございます」

風の剣士「しかし、その上を目指すとなると、これは並大抵の事ではないぞ」

風の剣士「修行はかなり荒っぽい事になる、覚悟は出来ておるか?」

娘「………はい」

風の剣士「そういえば、戦士よ、お主らこの街にはいつまで居るんだ?」

遊び人「ああ、とりあえずクリルタイまでは、と思ってるがな」

風の剣士「10日か……するとあまり多くの事は教えられぬな」

遊び人「まあ、この娘は飲み込みは悪くない、入り口だけでも見せてやれば、その先は自分で行けるさ」

風の剣士「分かった、では娘よ、今日よりお主をこの道場で教えよう」

娘「は、はい!ありがとうございます、よろしくお願いします!」

風の剣士「お主の腕は悪くはない、というか、かなりの水準にあると言えよう」

風の剣士「しかし、私の見るところ、足りない所があるのもまた事実」

風の剣士「ついては、この10日そこを埋める稽古を中心とする」

娘「はい」

風の剣士「もうすぐ門人たちもぼちぼちやってくるだろう、それまでしばし休んでいるが良い」

娘「解りました」

はい、というわけで今日はここまでー
にしても、セリフのみの描写で地の文が無いと戦闘シーンとか
何やってるのか全然わからんな……


更新されたとこだけど、続きが待ち遠しい

しまった、今見返したら、コピペひとつ抜けてました


>>293の前に、この文を挟んで脳内補完して下さい(汗







-- 現在 風の剣士の道場 --

バタバタバタバタ…バタン!!

風の剣士「戦士!戦士か!おぬし達者でおったか!!!」

遊び人「ああ、久しぶりだな、元気そうで何よりだ」

風の剣士「この30年、あの戦いを忘れた事は無かったぞ!いやあ久しい、ささ、入ってくれ!」

遊び人「おう、そんじゃ邪魔するぜ」

娘「お邪魔致します」

風の剣士「それにしてもどうした?こんな辺境の地まで、見たところ修行の旅というワケでもなさそうだが…」

遊び人「ああ、まあちょっとな。実は俺は大分前に戦士は廃業しちまってよ、今はしがない遊び人よ」

風の剣士「なんだと!魔王を倒すほどの技を持っていたお主が何故……」

遊び人「ま、30年もありゃ人生色々あるってこった」

風の剣士「まあ、それはそうだろうが……それにしてもあれほどの腕と才を持っていたお主がなあ……」

遊び人「お前こそ随分鍛え上げたみたいじゃねえか、今じゃ押しも押されもせぬ都下随一の剣術道場の主だろ?」

風の剣士「ああ、あの戦いのお陰で俺は向かうべき剣の道というモノが見えた気がしてな」

風の剣士「あれから何年か諸国を放浪した後、この国に帰ってきた」

風の剣士「そうだ、今日も昼から門人たちの稽古があるのであまり相手はできんが、よかったら見ていくか?」

遊び人「よしてくれ、戦士を廃業した俺がそんなモン見たってしょうがねぇ」

遊び人「それよりもな、実は今日ココに来たのは、コイツをちっとお前さんに鍛えてやってもらいたくてな」

風の剣士「ほう!?」




あ、やっぱり抜けてたんだww
乙です

遊び人、昔は強かったんだなぁ…

そりゃあ、曲がりなりにも魔王倒した勇者一行の戦士だしなぁww

はいどうもこんばんは
今日も元気に投下していきますよー




-- 風の剣士の道場 居室 --

遊び人「すまねえな、お前もクリルタイ前で忙しい時期だってのに」

風の剣士「そんな事は構わぬ、もちろん武芸者としてクリルタイの出場は名誉だが」

風の剣士「俺は政に興味は無い、あくまで一武芸者よ。全力は尽くすが別に勝ち残りを目論んでいるわけではない」

遊び人「そうか。そうそう、それでクリルタイの事で少し聞きたい事があるんだがな」

風の剣士「その前に俺から一つ聞いていいか?」

遊び人「なんだ?」

風の剣士「お主は一体何をしようとしている?あのような娘に戦場作法を叩きこまなければならん理由は何だ?」

遊び人「………それを聞いてどうしようってんだ?」

風の剣士「どうしよう、というわけではない。だが、力を求める者には聞いておきたい」

風の剣士「それが力を与える者の責務だと思っている。それに………」

遊び人「?」

風の剣士「俺の稽古は、一歩間違えれば大怪我をする、下手すれば不具になる可能性だってあるだろう」

風の剣士「俺は俺で、それだけの事をさせる覚悟を決めておきたい」

遊び人「………」


遊び人「俺の口からは詳しい事は言えねぇ。だが、今俺たちは大きな敵と戦おうとしている」

遊び人「俺は俺のやり方で戦うし、仲間たちもそれぞれ自分の戦い方を知っている」

遊び人「だが、あの娘はまだ戦い方を知らねぇ。だから、剣を持つ事を選んだ者の戦い方を教えてやってほしい」

遊び人「今、俺が言える答えはこれだけだ」

風の剣士「…………そうか、良いだろう、これ以上は聞くまい」

風の剣士「共に死線をくぐった仲だ、お主の人柄は分かっているつもりだ」

風の剣士「少なくとも、あの娘を誑かして悪の道に引きずり込むような男ではないだろうからな」

遊び人「ぶっ、そんな事考えてたのかよお前」

風の剣士「ま、まあな/// 俺は自分が教えた剣を悪用されるような事だけは避けたい」

遊び人「安心しろや、アイツはあれで、俺ごときに誑かされて道を踏み外すほど可愛げのある娘じゃない」

風の剣士「ふむ、なら良い、これでこの話は終わりだ」

風の剣士「それで、お主が聞きたい事とは何だ?」

遊び人「ああ、それなんだがな、この国のハイランダー達の事を色々教えてくれねぇか?」

風の剣士「ハイランダーについて?」

遊び人「実力のほどとか、人柄だったりとか、そういった事についてだ」


風の剣士「ほう…………」ギラッ

遊び人「(なんだ、急に殺気立ちやがって…)」

風の剣士「………………………………」

遊び人「別に言いたくなきゃ……」

風の剣士「戦士よ………」

遊び人「なんだ」

風の剣士「俺はお主の事は信じている。が、お主の口から聞いておきたい」

風の剣士「お主はこの国に関係して何かしようとしているのか?この国に来た本当の目的は何だ?」

遊び人「…………何かあんのか?今回のクリルタイ」

風の剣士「質問に答えろ」

遊び人「…………………ふぅ、まあいいだろ。この国に来た本来の目的は竜の谷へ行く事だ」

風の剣士「竜の谷へ?」

遊び人「ああ、俺達の戦いのために、竜族に話を聞く必要があってな」

風の剣士「なるほど、しかし今はクリルタイ準備のために誰も竜の谷へは行くことができん」

遊び人「だからクリルタイまではこの国に居るってワケよ」


風の剣士「ならば大人しくクリルタイが終わるまで待っていればよかろう」

風の剣士「なぜハイランダーの事など嗅ぎまわる?まさか剣の道を捨てたお前がクリルタイに出ようなどと言わんだろう」

遊び人「そんな大それた事ぁ考えちゃいねぇよ。ただな……この国のお家騒動について少し知りてぇんだよ」

遊び人「もしかしたら、俺達の戦いと何か関係がある可能性がある。しかし、関係ないのかもしれない」

風の剣士「ふむ………」

遊び人「それを確かめるためには、この国で今何が起きてるのか詳しく知らなきゃ判断できねぇ」

遊び人「だから、クリルタイの優勝候補の一角に挙げられているお前に話を聞きに来た」

風の剣士「…………分かった。俺からもお主に話しておきたい事がある」

風の剣士「しかし、少々込み入った話でな、今はもうすぐ門人たちがやってくるから俺は稽古に出なければならん」

風の剣士「夜にもう一度ここに来てくれんか」

遊び人「ああ、いいよ。じゃあ夜に娘っ子を迎えに来るついでに話を聞かせてもらおう」

風の剣士「承知した、稽古は日没で大体終わりになる。そのぐらいに来てくれ」

遊び人「分かった、じゃあ夜に会おう」

風の剣士「ああ」


-- 風の剣士 道場 --

ヤアッ!ガキン!トウッ!ハアッ!

風の剣士「皆の者、揃っておるか」

ザワザワ……シーン

師範代「は、病欠の者、仕事で来られぬ者を除いて揃っております」

風の剣士「では、今日の稽古を始める。その前に紹介しておこう」

風の剣士「今日よりしばらくこちらの娘どのを預かる事になった。貴様らと共に稽古に励む。見知りおけ」

娘「よろしくお願い致します」

弟子A「おお、美人だな(ヒソヒソ)」

弟子B「だけど腕はかなり立つって話だ(ヒソヒソ)」

弟子C「ああ、聞いたぜ、内弟子さんが苦もなく一本取られたって話だ(ヒソヒソ)」

弟子A「マジか?あの内弟子さんが、そりゃ凄腕だな(ヒソヒソ)」

師範代「こら!そこの!何を喋っておるか!」

ビクッ……シーン

風の剣士「今日の稽古だが、いつものとおりまずは打ち込み稽古だ。師範代、見てやってくれ」

師範代「はっ」

風の剣士「それから……ええと、お前とお前とお前……あと、そっちのお前ら、そして娘、私と来い」

弟子達「「「はっ」」」

娘「は、はい!」


風の剣士「娘はこっちの裏庭で稽古をしてもらう」

風の剣士「少々荒っぽく鍛える必要があるのでな、お前らは付き合ってやってくれ」

弟子達「「「はあ……」」」

風の剣士「荒打ち稽古をする。二人出ろ」

ザワッ「なんだって?」「アレをやるのか?」「師匠は本気か?あんな娘に…」

風の剣士「うるさいぞ、さっさと出ろ」

弟子1,2「「は、はいっ!」」

風の剣士「娘よ、この二人と打ち合え」

娘「え、ふ、二人同時ですか?」

風の剣士「そうだ。一本取るか取られるかしたら、その者は次の者と代わる」

風の剣士「そうしたら、また誰かが打ち込まれるまで打ち合え」

娘「は、はい……」

風の剣士「以上だ」

娘「で、では、その後は?」

風の剣士「私が良いと言うまでそれを続けよ」

娘「え、ちょ、そんな、待っ……」

風の剣士「では構え……はじめ!!!!」

弟子1,2「いやぁーっ!!」「とうっ!!!」

娘「な、ちょ、え」カキン!ガイン!

娘「(なんなの!一体!このオッサンもやっぱり何も説明してくれないし、もーやだ!!)」カン!キン!

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今日はここまでー
娘はこれからもきっと振り回されっぱなしですw

おつ



年頃の娘を振り回す
遊び人(47)

遊び人(24)とかだったら娘逃げて!なんだろうけど…ww
てか(47)とかだと、どう考えても振り回すほうが逆だよなぁ

年頃の娘を振り回す
元・戦士(47)

とか書くと、バイオレンスな画面しか想像できない

47とか完全にげぜんだろ

乙です

娘…強く生きろww
風の剣士の反応からするとビンゴっぽいんかなぁ

はいどうも、最近すっかり夜型になってしまいました。
でも、出勤時間は変わらないんだぜ?
というわけで続きです





-- 高原の国 宿屋 --

勇者「さーて、商人は教会、遊び人は道場だが、俺はどこから回るかな……」

勇者「とりあえずこの国の役人の顔でも拝んでおくかな」

勇者「身分は今は明かさない方が良いだろうし……昔習った潜入手法で行くか…」

勇者「商人の荷物と服をちと借りるかな」

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-- 高原の国 広場 --

行商人「へい、らっしゃいらっしゃい、河の国の干し魚だ、美味いよ~!!」

勇者(変装中)「よう、どうだい景気は」

行商人「ぼちぼちだね、クリルタイの人出があるからもっと売れるかと思ったんだけどね」

勇者「本番はまだ先だからな、これから増えてくるんじゃないかい」

行商人「だといいんだけどね、アンタはどうだい?美味いぜ、川魚の干物」

勇者「うまそうだがな、朝っぱらから買うモンでも無いだろ」

行商人「まあそう言うなよ、別に夜になったって味が落ちるモンでも無し」

勇者「ま、人助けと思って一つ買うかな」


行商人「お、まいどありぃ~!さすがだね!よく見たらアンタ男前だね、女の子が放っておかないよ!」

勇者「おいおい、褒めたって何もでやしないぜ?」

勇者「ところでな、実は俺もココらに出店出したいと思ってるんだけどな」

行商人「あん?なんだよ、オメェ同業かよ、けっ愛想振りまいて損したわ」

勇者「同業っつっても俺が売ってるのは布だ、アンタとはぶつからんよ」

行商人「ふん、まあそんならいいけどよ」

勇者「ココは店出すのに役所の許可とか要るのか?」

行商人「ああ、この国は余所者には厳しいからな、勝手にやってると大目玉だ」

勇者「そいつはまじぃな、ドコに行けばいい?」

行商人「城に行きゃ分かるよ、今はなにせクリルタイ前でかきいれどきだからな」

行商人「そこら中から集まった物売りがみんな役所に許可取りに並んでるハズだ」

勇者「そうか、わかった、ありがとよ」スタスタ

勇者「(ふむ……まずは城だな)」


-- 高原の国 王城 --

勇者「(うわ、朝からすごい列だな、こいつら全部出店許可取りに来てる商人か)」

勇者「(しかし、行商人がこれだけ並ぶって事は、王都の取り締まりは結構厳しいな)」

勇者「(普通なら行商人なんてルール無用で勝手に店を出すモンだ)」

勇者「(そういえば宿屋の親父も治安は良いって言ってたからな……)」

役人「よし、次の者」

勇者「(俺の番か。前の商人は項垂れて帰って行く…許可が降りなかったと見えるな)」

勇者「ああ、どうもどうも私めははるばる始まりの国から来た行商人でございましてな」

役人「ふむ、何を売っておる?」

勇者「はい、布や糸を商っております。木綿、麻などでございますな」

役人「品は今持っているか?」

勇者「もちろんでございます(ゴソゴソ)こちらでございます、手前味噌ながら、品質は一級と自負しておりまする」

役人「ふむ……確かに悪くないな。身元を証明するものはあるか?」

勇者「はい、教会にいただいた書付がこちらでございます」

役人「教会の保証ならばまあ問題あるまい、よし、しばしまて、書類を用意させる」

勇者「(さすがに教会の信用はこんな辺境でも効果絶大だ。商人のコネには感謝だな)」


勇者「ありがとうございます、ところでお役人様、聞く所によれば、こちらの国には竜の谷と呼ばれる場所があるとか…」

役人「あん?そりゃあ我が国は人界で唯一竜に認められた国だからな(ドヤァ)」

役人「しかし、お主のような者が興味を持っても詮無き事だぞ、あそこは限られた者しか入る事ができん」

勇者「なんと、さようでございましたか……出来ることならば一度話の種に竜というものを拝んでみたかったのですが…」

役人「ならんならん、あそこは我が国でも選びぬかれた強者がハイランダーとなるために行く場所だ」

役人「それも、今はクリルタイの準備中だからな、何人たりとも通る事は許されておらん」

勇者「ははあ、さようでございますか……それは残念でございますな」

勇者「もう少し早く来れば、せめてどなたかが竜に挑んだお話を伺えたかもしれませんのに…」

役人「もう少しって、竜の門が閉ざされたのは一月も前の話だぞ。行商人はそんなに一処に留まらんだろう」

勇者「ああ、一月も前でございましたか、宿屋の主人がついこないだと言っていたものでもっと最近の話かと」

役人「ま、この国の連中はのんびりしておるからな、ひと月前ぐらいなら、充分ついこないだの範疇だ」

役人「さて、書類が揃った。出店は日の出から日の入りまで、都内の三カ所の広場以外では出すんじゃないぞ」

勇者「解りましてございます、誠にありがとうございます」


勇者「(ふむ……あの感じだと、少なくとも官僚組織は腐敗していないようだな)」

勇者「(普通なら、何かしら賄賂の要求を匂わせるものだが、むしろこちらから話を持ちかけるスキすら無い)」

勇者「(しかし、良くも悪くもかなり硬いな……あの調子で国を運営したら恨みを持つ者も出てくるだろう)」

勇者「(まあ、彼も含め、この国の支配層はみな秀でた戦士だからな…恨まれても怖くもない、という事なのかもしれん)」

勇者「(さて……どうしたものか……もう少し城の中の様子を見ておきたいが……)」

衛兵「(ジロッ)」カッカッカッカッカ……

勇者「(どうも気軽にうろつける雰囲気じゃないな……となれば……)」ススス…

勇者「(誰も居ないな……?)」キョロキョロ

勇者「よし………透明魔法(ボソッ)」スゥッ

勇者「(せっかくだからもうちょっと城の奥の様子でも伺ってから帰ろう)」

勇者「(しかし、この魔法も久々だからな……あまり過信せんように気をつけんと、効果時間がどれだけ保つか…)」

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-- 高原の国 神殿 --

司祭「……といった具合でござってな」

商人「すると、なかなか土着の信仰が強く布教がままならない、という事ですか」

司祭「というよりな、彼らの信仰は部分的には我らの教えと一緒なのですじゃ」

司祭「それだけに、自分が女神の教えから外れている、という自覚が無いのでござるよ」

商人「なるほど……全くの異教よりかえって難しい、と」

司祭「そうなんじゃよ、しかも、その土着信仰の核心である所の竜がすぐ側に実在するものでな」

司祭「やはり目に見えるモノというのは信じやすいものです。その上、竜というのは神秘性も文句無しですからな」

商人「そうですね、その信仰を崩すのは難しいでしょうね」

司祭「ま、儂らとてこの辺境であまり頭の硬い事を言うつもりはござらん」

司祭「多少の教義の違いならば、上手く取り入れて長い時間をかけて信仰を根付かせるんじゃが…」

司祭「洗礼と喜捨、この2つがままならぬと、神殿の運営がどうにもならんのでござるよ」

商人「そこは信徒の獲得と財源の確保、教会が拠って立つ二本柱ですからね」

司祭「ところが、連中の信仰では、それらを行う聖地は竜の門であって」

司祭「神殿は、竜の門に行けぬ時にかわりに祈りを捧げるだけの場所、という解釈なのじゃ」

商人「つまり……俗な言い方をするならば、その財源は国の管理下にあるという事ですね」

司祭「ま、まあそうとも言えますのう…」


商人「実は、私は中央神殿の大司教どのには常日頃、大変お世話になっておりまして」

司祭「なんと!大司教どのに!」

商人「その昔、僧籍にあった時から何かとお世話になったご縁で、今も援助などをしていただいております」

商人「その大司教どのが、こちらの国の布教が不調である旨を憂いていらっしゃいまして」

司祭「むう……最大限努力はしているのですが……」

商人「いやいや、大司教どのも事情は分かっておられますので、責めるおつもりは無いでしょう」

商人「むしろ、私がこちらの方に旅立つと申し上げた所、少し司祭様の手助けをしてやってくれ、と」

商人「そのようにおっしゃっておりましたので、それ故早速この神殿に足を運ばせていただいた次第で」

司祭「さようでござったか!それはありがたい、とはいえ……この国の連中は一筋縄ではいかんものでしてな」

司祭「お気持ちは嬉しいが、何か妙案でもございますかな?」

商人「そうですね……これは一案ですが、この国は王に対する尊敬が非常に高い国ですから」

商人「王への影響力を増やしていくのが一つの道ではないでしょうか?」

司祭「王か……しかし、現王は我らの布教に関しては自由にさせて下さったが」

司祭「しかし、政に関しては、頑として我らを近づけさせなかったお方……」

商人「なかなかの人物とは聞き及んでおります」


商人「となると、次代の王に目をつける頃合いでしょうかね……」

商人「そういえば、王の治療もこちらの神殿で請け負っていると小耳に挟みましたが」

司祭「そうじゃ、この国の医療はあまり進んでおらんので、貴人の治療などはまあ大体儂らが行っておる」

商人「それは大きな力になりますね、医を握っているというのは、人の根を握っているも同然」

商人「使い方次第ではいくらでもやりようはあると思いますよ」

司祭「うーむ………」

商人「(ダメだこりゃ、この司祭は政治的感覚が全く無い……僧侶としては善人なんでしょうが……)」

商人「ところで、その肝心の王ですが、容態はいかがなのです?」

司祭「それが……何の病なのか皆目わからんのじゃ」

司祭「そもそも、それまでまだまだ矍鑠としていた王が、突如倒れてそれ以来意識が戻らぬ」

司祭「治療魔法をかければ症状は一時的には収まるんじゃが……」

商人「症状とは?」

司祭「それも、高熱が続いて良くない汗が出る、それだけなんじゃが…」

司祭「何しろ日に日に痩せていかれてな、このまま行けば遠からず王の命は尽きる事になるじゃろう」


商人「ふむ……司祭どのはご病気には詳しいので?」

司祭「ああ、儂は元々火の国の神殿診療所から司祭に上がった医僧なんじゃ」

商人「火の国といえば、魔族領も近く、何かと診療所はお忙しい場所ですね」

司祭「そうじゃ、だから儂もずいぶん多くの病や怪我を診てきたんじゃが……」

商人「その司祭どのでも知らない病となれば、この国の風土病か……」

司祭「儂も最初はそれを疑ったのだが、周囲の者は誰ひとりとしてこんな病は見た事がないと言うんじゃ」

商人「すると…………ただの病気では無いのかもしれませんね……」

商人「ちなみに、毒や呪いの可能性というのは?」

司祭「それも当然調べた。仮にも一国の王じゃから、誰に狙われてもおかしくないでのう」

司祭「しかし、解毒魔法も解呪魔法も、全く何の反応も無かったのじゃ」

司祭「儂の魔法は大したレベルでは無いが、それでも毒や呪いが相手なら何かしらの反応はあるはず」

商人「となると……何か特殊な病……しかし風土病ではない……」

商人「司祭どの、一つ手があります」


司祭「手、とは?」

商人「まず、王の病気ですが、正体は分かりませんが、我らの知らない奇病という事でしょう」

商人「司祭どのの治療魔法も効かないとあれば、人界に王を救う手段はおそらく無いと思います」

司祭「やはり無理か……」

商人「しかし、我らの力では無理でも、まだ王を治せるかもしれない手段があります」

司祭「一体どのような……?」

商人「エルフの魔法薬」

司祭「な、なんと!?」

商人「彼らは出生率が低い分、医療や薬学、そして魔法の技術は人間をはるかに凌ぎます」

商人「この世でもおそらく最も強力な魔法薬ですから、これならば王の奇病にも効果があるかもしれません」

司祭「し、しかし、エルフの薬など滅多に出回るものではない……ましてやこんな辺境の地では……」

商人「それがですね、これも巡りあわせなのでしょう、私はちょうど先日その魔法薬を入手したばかりなのです」

司祭「なっ!?」

商人「まさにこれは女神の導きです。その薬を司祭どのに進呈いたしましょう」


司祭「し、しかし……良いのか?そのような貴重な品を……」

商人「もちろん、私も商人ですからタダで、というわけにはいきません」

司祭「じゃろうな……しかし、さっきも言ったようにこの神殿には大した金はござらん……」

商人「代金は金銭でいただかなくても結構です」

司祭「では、どうしたら良い?」

商人「次の王の治療に私を同道していただきたい」

司祭「し……しかし、王の側には教会の者以外は近づけぬよう固く言われておる……」

商人「ならば、私が司祭どのの侍僧に扮しましょう」

商人「私も元僧侶ですから、僧侶としての振る舞いについてはご心配要りません」

司祭「だ……だが……女神は神職ならぬ者が僧の格好をするのは固く戒める所………」

商人「よくお考え下さい、これで王の病を治せれば、教会のこの国に対する影響力はうなぎのぼり」

商人「この難しい国での布教に成功した暁には、司祭どのに対する中央の評価も大きく変わるでしょう」

商人「もちろん、私からも大司教どのには大いに口添えさせていただきます」

司祭「……………わかった………これも人の命のためじゃ……女神も許したもう」

商人「立派な決断です」

商人「(呆れましたね、欲に押されて決断したクセにまだ大義名分を口にするとは……小物の相手はこれだから疲れます)」

はいはーい、今日は商人の腹黒がかいま見えたところで終了です。
あ、あと>>313はげぜん じゃなくて ぜげん(女衒)だと思うの。
ではでは、おやすみなさいー

おつ



 司祭のほうがよっぽど
腹黒ですな


断れないだろこれwwwwww

乙おやすみですー
しかし本当に油断のならない真っ黒勇者一行だなwwwwww

これがよに言うちょい悪というやつか!

はーいどうもこんばんは、いつの間にかもう日曜日ですが皆さん週末いかがお過ごしですか?
俺はずっと寝てましたよ。
というわけで続きです








-- 高原の国 王城内部 --

勇者「(戦士団の詰め所に、役人の執務室……結構ウチの城とは構造が違うな。ところ変われば城も変わるってわけか)」

勇者「(それにしても二階から上は警戒が厳重だな……特に外敵も無い国としちゃ異常な警備だ)」

勇者「(ダメだな……透明になってても忍び込める状態じゃないわ)」

勇者「(とりあえず今日のところはこの辺にしておくか……お、こっちは厨房か)」

勇者「(厨房ってのはうわさ話の宝庫だからな、ちと行ってみるかな)」

勇者「(どれどれ……ん?)」

メイド「あ、あの、お部屋にいらっしゃると思いまして……」

執事「馬鹿者!渡す時に客人は書物室にいらっしゃると申し付けたであろう!!」

メイド「すみませんでした!ボーっとして聞き逃してしまいました……」

執事「これだから粗忽者は困る!全く、大事な客だから粗相の無いようにと言われておるだろう!!」

メイド「は、はい……(シュン)」

執事「まあ今日は昼食をお出しするのが少し遅れただけだから許してやるが」

執事「次に何かやったらクビだからな!!!」

メイド「はい……」

勇者「(ふむ……書物室か……)」


執事「ではさっさと客人の部屋を掃除して来い!それが終わったら書物室に行って食器を下げてこい!」

メイド「は、はいっ!」

勇者「(客人……ねぇ?こんな時期に一体誰が?)」

メイド「(トボトボ)」

勇者「(ついて行ってみるか)」

メイド「あーあ、もうなんでアタシってこうそそっかしいのかな……」

メイドB「あ、アンタ、また怒られてたみたいじゃない」

メイド「そーなのよ、今朝も執事のオッサンの指示聞き逃しちゃって」

メイドB「まったくアンタはホントに何やっててもそそっかしいんだから」

メイドB「料理運ばせればひっくり返す、掃除をすればモノを割る」

メイド「だって……」

メイドB「ま、ワザとやってるワケじゃないのは分かるけどね」


メイドB「そんで、アンタドコ行くの?」

メイド「お客様の部屋の掃除に……」

メイドB「あら、でもさっきお客さん部屋に戻ってたわよ」

メイド「え?」

メイドB「大事な話があるからって大臣と部屋に入って、誰も入れるなって言ってたわよ」

メイド「ええー、ホントに?またアタシ行ったら大目玉食らうトコだったじゃない」

メイドB「まだ執事のトコまで話が行ってないのかもね」

メイドB「こうしてみると、アンタはそそっかしいだけじゃなくて運も悪いのかもね」

メイド「は~あ、もう勘弁してほしいわ……」

メイド「あ、じゃあもうお食事は終わったのかしらね」

メイドB「さあ?そうなんじゃない?あの偉そうな人が自分で皿持って部屋まで持ってくとは思えないからね」

メイド「そっか、そんじゃ書物室行ってお皿下げてきちゃうわ」

メイドB「落っことして割るんじゃないよー」

メイド「わ、わかってるわよ!」


-- 王城 書物室 --

メイド「さっき出したばっかりなのにもう平らげてる……ずいぶん早食いなお客様ね……」

勇者「(ほう……なかなかの蔵書数だな……)」

メイド「(カチャカチャ)」

勇者「(魔法はこの国にはあまり普及していないと聞くが、意外と魔法関連の本も多いな……)」

メイド「あっ…(ガシャーン)」

勇者「…………」

メイド「また……やっちゃったぁ………」

勇者「(この娘はさっさとクビになった方がお互いの幸せのためなんじゃ……)」

メイド「(トボトボ)」

勇者「(む……国法関連の棚はこちらか……)」

メイド「あ、明かり消さなきゃ……フッ」

勇者「(ちっ、折角の機会だが真っ暗にされちゃどうにもならん、一緒に出るか)」

メイド「あ~あ……また怒られるんだろうな……」バタン

勇者「(まあ良い、場所は分かった、またの機会にでも来てみるか)」

勇者「(さて、魔力もそろそろ底を尽きそうだ、あとは他の役所の窓口の様子でも見て一旦戻るかな)」

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一旦ココで切りまーす
続きはまた夜にでもー



さあドジっ娘メイドの
大活躍が…
ないだと…

ドジっ娘メイドが勇者PTに入ると予想。
無いか^q^

ドジっこメイドをPTに入れてどんな役にたつと言うのだwww
はいはい、では続きでござんすよ








-- 風の剣士 道場裏庭 --

風の剣士「一本、それまで!!!」

娘「はぁっ……はぁっ……ぜぇ……」バタン…カラカラ

弟子達「「ありがとうございました!!!」」

風の剣士「では、お前たちは先に道場に戻っておれ」

弟子達「「はっ!!」」

娘「ぜぇぜぇ……」

風の剣士「さてと……ずいぶん打ち込まれたな、動けるか?」

娘「ぜぇ……ぜぇ……は……はい……ぜぇぜぇ……」

風の剣士「では、立って剣を構えよ」

娘「はい……」ヨロヨロ…スチャ

風の剣士「よし。では私に打ち込んで来い」

娘「は、はい……えいっ」ヘロヘロ

風の剣士「はあっ!(ガキン!)もっと速く!」

娘「やあっ!」ヒュン

風の剣士「(バキッ!)もっとだ!」

娘「はぁはぁ……はぁぁぁっ!!」ビュッ……ガキッ

風の剣士「ふむ……よし、今日はここまで!呼吸を整え、道場まで戻って来い」

娘「はい………」ヘロヘロ


-- 風の剣士 道場 --

風の剣士「では今日の稽古はこれまで!怪我をした者は居るか?」

師範代「今日は特にけが人は出ておりませぬ」

風の剣士「うむ、では解散!」

弟子達「「「ありがとうございました!!」」」

風の剣士「娘は残って休んで行け」

娘「は、はい、解りました」

風の剣士「娘よ、今日の稽古の意味が分かるか?」

娘「ええと……体力をつけるため、でしょうか?」

風の剣士「違う。良いか、剣の道というのは奥が深い。その道の奥には、人智にして計り知れぬ世界が広がっておる」

風の剣士「お主の剣の腕は悪くない。基本はしっかり出来ておる。しかし、今はまだ頭で考えて剣を振っている」

風の剣士「それでは、その先へ進む事はできん。だから私はお前には何も教えぬ」

風の剣士「この10日、ただひたすら身体に叩きこむ事のみをする」

風の剣士「もしこの10日の間に、お主が"身体で考える"事ができるようになれば、その先への扉が開ける」

風の剣士「そうすれば、この稽古の意味も自ずと解ろう」

娘「身体で考える……?」



風の剣士「この稽古は、男でも音を上げるほどの荒行だ」

風の剣士「本来ならばお主のような娘御にさせる修行ではないが、この短い間に何かを得ようとするなら他に道は無い」

風の剣士「辛いだろうが、耐えるが良い」

娘「………はい、解りました」

風の剣士「さて、そろそろ戦士のヤツがやってくる時間だな」

風の剣士「お主は少し母屋で休んでいるが良い。内弟子!!」

内弟子「はっ、何でございましょう?」

風の剣士「この娘を母屋で休ませてやれ」

内弟子「はい!」

風の剣士「あと、体中打ち身だらけだ、薬を渡してやれ」

内弟子「はっ、では、こちらへ」

娘「はい」ヨロヨロ

風の剣士「ふむ………しかし、思いの外筋が良いな…あの娘」

遊び人「だろ?俺の目に狂いはなかったってこったな」

風の剣士「遅かったな」クルッ

遊び人「わりぃわりぃ、ちっと忙しくてな」



遊び人「どうだったよ?初日の様子は」

風の剣士「一日で何が分かるというわけではないが、荒行に耐えられるだけの体力と気力は持ち合わせているようだな」

遊び人「ま、農家の出だからな、元から体力はあるみたいだな」

風の剣士「あとは、彼女がいつ開眼するかだ。そればかりはある日突然気付く事だからな……」

遊び人「そうだな……こればっかりは、気付くまでは扉の向こうの事は全く見当もつかないからな」

遊び人「そのくせ、扉を開けてみると、昨日までの自分がいかに未熟だったかが良く分かる」

風の剣士「そのためには、とにかくその瞬間までの間身体を使い続けるしかない」

遊び人「ま、頭で考えて答えが出る事じゃねーからな」

風の剣士「さてと、娘は今休ませている。その間にお主の話を聞こうか」

遊び人「ああ、つってもまあ、朝も言ったように俺が知りたいのはハイランダーについてだ」

遊び人「クリルタイについてと、そこに出るハイランダーで目ぼしいヤツについて教えてもらえるといいな」

風の剣士「ふむ……なんとも漠然とした質問だが……まあいい、では最初から行こう」

風の剣士「クリルタイとはこの国の後継者を決める行事でな、普通ならば王が自ら開催する」

風の剣士「どういうわけか、現王は高齢にも関わらず後継者を決めなかったため、王が倒れられて急遽開催と相成った」

遊び人「そのクリルタイっつーのは、どういうルールなんだ」

風の剣士「王城のそばの大闘技場で、参加するハイランダー全員での乱戦だ」

風の剣士「木剣を持って打ち合い、武器を飛ばされるか、戦闘不能になるか、場外に出されればその場で失格」

風の剣士「最後まで立っていた者が勝利者となり、王の後継者となる」

遊び人「ふむ……そりゃなかなか見ものだな、人々が押しかけてくるのも分かるぜ」




遊び人「しかし、乱戦となると反則なんかを見つけるのも難しいんじゃないか?」

風の剣士「基本的にクリルタイに反則は無い。攻撃魔法と木剣以外の武器の使用ぐらいだ」

風の剣士「攻撃魔法は、使えばいくら乱戦でもひと目でわかるし、隠し武器は入念な身体検査があるから持ち込みは無理だろう」

風の剣士「これは実戦を模した試合だからな、周囲全て敵、という状態でいかに生き残れるかが試される」

風の剣士「また、徒党を組む事も自由だ。大きな派閥を作れる者はそれだけ人望があると見なされる」

風の剣士「これもまたハイランダー試験と同じ理屈だな」

遊び人「ふむ、そうすると、今回はやはり大公と宰相の派閥が大きい勢力になるのか?」

風の剣士「そうだな、両派とも今、自陣営への勧誘にやっきになっている所だな」

風の剣士「とはいえ、そもそも現在この国のハイランダーは大体100人前後」

風の剣士「そのウチ、お前のように国外の者も結構居るからな、彼らはそもそもクリルタイの開催も知らんだろう」

遊び人「ああ、俺もココに来て初めて王が倒れた事を知ったからな」

風の剣士「また、これまたお前のように、昔は鳴らした者でも現在は衰えて出場しない者も多い」

遊び人「ふむ」

風の剣士「噂などから判断するに、おそらくクリルタイに出場するのは40名前後だろう」

風の剣士「そのうち、現時点で両派閥への旗色が鮮明なのはそれぞれ12~3名前後」

風の剣士「大公派は、大公本人と、その下に着く近衛隊の三鬼衆と呼ばれる三人、それに大公の従弟である北の部族長」

風の剣士「他に、遊牧民から各部族の豪の者が数人大公の支持を表明している」

風の剣士「対する宰相派は、宰相は既にハイランダー位を継承させたので出ない。その息子が派閥の長という事になるな」

風の剣士「この息子の腕のほどは私は詳しくは知らぬが、大公派に抗しようというのだからそれなりの腕だろう」

風の剣士「それから常駐の王国騎士団は基本的に宰相派なので、鷹の魔剣士はじめ、騎士団に数人居るハイランダー」

風の剣士「あとは、目ぼしいところでは炎の傭兵団と呼ばれる者達が居るが、彼らも宰相派だ」

遊び人「傭兵って事は、この国の連中じゃないのか?」

風の剣士「逆だ、この国から他所の国へ傭兵として出稼ぎに出ている」




遊び人「そーすっと、あとはお前含めどっちにも着かない連中か」

風の剣士「そうだな。俺が見るに強敵と思われるのは、竜の谷の守り人である黒の戦士と、最近帰国したと聞く双刀の狂戦士」

風の剣士「それに、この国伝統の流派である竜人剣の師範代と、よそ者だが赤鬼と呼ばれる武芸者が強者だと聞くな」

風の剣士「独立陣営で主だった顔ぶれはそのぐらいであろうか……とはいえ、他の者達もそれに大きく劣るというわけではない」

風の剣士「乱戦のクリルタイで徒党を組まずに勝ち抜こうという猛者共だからな、ハイランダーの中でも屈指の実力者揃いだ」

遊び人「ほう、よそ者も居るんだな、参加者に」

風の剣士「ああ、元々この国は遊牧民の集合体みたいなものだからな、強さと人望を示せば王たりえる」

風の剣士「それに、国王は即位後に竜と契約を交わし、この地の守り人である事を誓わねばならん」

風の剣士「出身がどこであれ、王になればこの地のために尽力せざるを得ない」

遊び人「へぇ、強けりゃいいってのはずいぶん偏った制度だと思ったが、案外よくできてんだな」

風の剣士「当然だ、でなければ武王による建国から500年の歴史を紡ぐ事はできん」

遊び人「そんでよ、話は戻るが、その独立派の連中ってのは、大公と宰相どっちかに着く可能性もあるのか?」

風の剣士「うーむ、まず黒の戦士どのは竜の谷の守り人だからな、真面目なお人柄でもあり、どちらかに着くという事はあるまい」

風の剣士「竜人剣の師範代も、門下に両派の者を多数抱えておる、立場的にどちらにも肩入れできまい」

風の剣士「他の者達は、俺もあまりよく知らぬ者が多い事もあるが、あまり見当がつかんな」



遊び人「ところでよ、お前が名前を挙げた目ぼしいハイランダーの連中だが、お前から見て実力の方はどうなんだ?」

風の剣士「実力と言われてもな……さっき口にした名は全てどれも折り紙つきの強者だ、勝敗はやってみねばわかるまい」

遊び人「ンな事ぁ分かってんだよ、それもタイマンじゃなくて乱戦だからな、ただ、お前なりの読みってのがあるだろ」

風の剣士「そうだな………あくまでこれは私の知る限りのところで想像しただけの答えにすぎんが……」

風の剣士「やはり、大公どのの実力は頭ひとつ抜けていると思われる」

風の剣士「俺が一対一で相対したとして、勝てないとは言わぬが…ま、分が良いとは言えんな」

風の剣士「他の者について言うならば、まあやってみねばわからんが、実力は拮抗していると言っていいだろう」

風の剣士「宰相どののご子息と、双刀の狂戦士、赤鬼については、俺は会った事がないのでわからん」

風の剣士「あと、竜人剣の師範代とは何度か立ち会っているが、今のところ勝敗は五分だ」

遊び人「ふうん……しかし、お前ほどの強者はなかなか居るまいと思ったがさすが戦士の国だな、世界は広い」

遊び人「それはそうと、大公と宰相ってのは、街で聞く噂じゃ、神みたいに崇めるか、ボロクソに言うかどっちかだ」

遊び人「もうちょっとちゃんとした立場からの冷静な話が聞きたい」

風の剣士「そうだな……大公どのは、基本的には武人だ。元々北の部族を率いていたところを、王の命で執政入りした」

風の剣士「とはいえ、政に携わって20年、もちろんただの猪武者ではないが、ただ、少し街の民を軽んじる所があるな」

風の剣士「元々遊牧民が集まって出来たこの国のこと、彼らは定住を選んだ人間を軟弱と謗る傾向がある」

風の剣士「大公どのはもちろんそのような偏見とは無縁だが、やはり根底のところに街の事は二の次、という意識があるのかもしれん」


風の剣士「逆に、宰相どのは知の人でな、先を見通して国を采配できる貴重な人物だ」

風の剣士「数字や書面について非常に几帳面に仕事をなさると聞くが、必要とあらば大ナタを振るう事もためらわぬ」

遊び人「細大もらさずってワケか」

風の剣士「ああ、ただ、少し理に走るきらいがあってな、人心について少々無頓着なところがある」

風の剣士「故に、元々大雑把な性格の者が多い遊牧民たちの間では疎んじられているようだ」

遊び人「ふん、するとやっぱりどちらかが悪いって事じゃなさそうだな、今回の騒ぎは」

風の剣士「うむ、どちらかと言えば、この二人がいがみ合っている事こそが一番良くないのだ」

風の剣士「このお二人のはこの国にとってどちらも欠くことの出来ぬ者。それがいがみ合っては右手と左手が争うがごとしだ」

遊び人「すると……誰が得するかって事かね……あ、ところでよ、大公と宰相は分かったが、宰相の息子ってのはどんなヤツだ?」

風の剣士「先ほども言ったように、俺は知らんのだ。ここ数年武者修行に行っていてな、帰ったのは二週間ほど前だ」

遊び人「お国の大事に慌てて戻ってきたって事かね」

風の剣士「そういう事だろうな。修行の旅に出る前は、あまり人の口に上るような方でもなかったしな」

遊び人「あんまり目立つタイプじゃなかったってワケだ」

風の剣士「うむ、まあ、当時は10代の少年だからな。何か目覚ましい事でもなければ、いくら宰相殿の子息と云えど噂には上らんだろう」

遊び人「お前は会った事は無いのか?」

風の剣士「あるはずが無かろう。いくらハイランダーだ何だと言っても、一介の道場主が執政のご家族とお会いする事など…」

遊び人「それもそうか」



遊び人「大体まあ俺の聞きたい事は聞けた。ありがとよ。ところでお前も何だか話があるって言ってたな」

風の剣士「うむ………そうなんだが………」

遊び人「どうした、歯切れ悪いな」

風の剣士「いや、実はな、一月ほど前にも、やはりお主と同じような事を聞いてきた者がおる」

遊び人「ひと月前というと、王が倒れたぐらいか」

風の剣士「ああ、それがな、商人風の男なのだが、何とも嫌な気をまとっておってな」

風の剣士「どうも怪しいもので、睨みつけてやると『いえ、何でもございません』などと言って去って行ったのだが」

風の剣士「その後、俺は二度ほど夜道で襲われた」

遊び人「襲われただぁ?」

風の剣士「ああ、まあ大した使い手では無かったのだが、問題は、そやつが魔法を使った事だ」

遊び人「この国じゃあまり魔法を使うヤツは居ない、と聞いてるな…」

風の剣士「そうだ。皆無とは言わんが、珍しいと言えよう」

風の剣士「暗闇から突然炎を放たれてな、剣風でその炎を弾き飛ばすと同時に切りかかってきた」

風の剣士「太刀筋は甘かったが、何しろ突然の事でな、相手の剣を弾くのが精一杯だった」

遊び人「そんで、どうした?」

風の剣士「敵は一太刀浴びせるとそのまま駈け出して夜闇に消えてしまった」

風の剣士「自分で言うのも何だが、俺は風の剣士などと呼ばれるだけあって、足には自信があるのだが」

風の剣士「刺客は、旋風のように街を駆け抜けるとあっという間に居なくなってしまった」

遊び人「それは只者じゃねーな」



風の剣士「二度目は、遠間から弓を射掛けられた。これまた矢を叩き落として周囲の気配を探ったのだが……」

遊び人「見つからずじまい、ってトコか」

風の剣士「ああ。まあ俺も諸国放浪中に恨みを買った事が無いわけでもないからな、身から出た錆か、とその時は思っていたんだが」

風の剣士「その後分かった事だが、国内の目ぼしいハイランダー達の多くがやはり同じような目にあっておった」

遊び人「ほう……穏やかじゃねーな」

風の剣士「もちろん一騎当千の強者たちの事、何ほどの事でもないが、しかし少々気味が悪い」

遊び人「しかし、襲われたのは、つまり国の重要人物ばかりだ、それが襲われたとなれば役所の方でも何か動きはあるんじゃねーのか?」

風の剣士「もちろん司法が動いて犯人を探したが、しかし全く見当もつかない、というのが実情のようだ」

風の剣士「大公どのと宰相どのの派閥では、お互いに相手の仕業に違いない、などと言って非難しあっているが」

風の剣士「どちらの派閥の人間も…いや、派閥に関係ない俺のような者まで襲われているというのは少々解せぬ」

遊び人「たしかにな、そもそも剣を誇りとするこの国の戦士達のやり方にしちゃあちっと陰湿すぎるな」

風の剣士「そうなのだ。もちろんそういう卑怯者がこの国に一人も居ないとは言い切れぬが……」

風の剣士「魔法を使った事といい、その前の怪しい商人風の男といい、どうも俺は国内の者のしわざとは思えん」

遊び人「なるほどな、それで俺が今朝ハイランダーについて聞いた時に、あんなに身構えたってワケだ」

風の剣士「ああ、このクリルタイに絡んで暗躍している何者かとお主が関係あるかと思ってな」

遊び人「ふん………正直、それが俺の戦いに関係あるのかどうかはまだ分からん」

遊び人「ただ、その話を聞いてますますその匂いが強くなった事は確かだ」

風の剣士「……………」

遊び人「ま、俺の仲間が他でも情報を集めてる。何か分かったら知らせるよ」

風の剣士「ああ……頼む」

遊び人「ともあれ、有益な情報をありがとよ。そんじゃそろそろ俺は娘っこ連れて帰るぜ」


さて、今日はここまでー
明日から月曜日。死にたいお\(^o^)/

おつかれー
明日は月曜か
やだねー



最大の敵…
月曜日か

乙。
平日はストレスとの戦いだな……

乙乙
なかなかに不穏な雲行きだなぁ

もう金曜日か

最大の敵がくる前に…

すみません、またちょっと間あいちゃってます。
仕事が落ち着くまでしばしお待ちください……

年末だしねぇ

大変そうだな

まぁ気長に待たせてもらうよ

師走つうくらいだからなぁ
気長に待っとります

まだ忙しいかな?

気長に待ちましょう――

年末進行で日々午前様です……リア充の祭典ぐらいにお目にかかりたいと思います

生存報告乙

あら、お疲れ様
待ってまーす

きたいしてる

リア充の祭典?

……節分か把握

またモミの木で首を吊るシーズンがやってくるのか
寒いんだよなアレ

>>366
成人式だろ

年末いっぱい多忙でそこから書き溜めるとすると
ちょうどそのくらい

バレンタインデーだろ!

お前らどんだけ現実から目ぇ逸らしてんだよ!

正月だろJKはあく

リア充の祭典前夜...
はたして○○○は間に合うか...?

結局今の今まで仕事でした……

正月休みに続きを投下したいと思います。
皆様良いお年を



乙です

おつです

あけおめー

乙です

まだかなー

正月休み長くていいな

作者さん、そしてその読者さんたちこんにちは!
本日はDMMの期間限定特別キャンペーンについてのご案内に伺いました。

なんでも、今下記のURLにアクセスしてDMMの登録をすると、
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※期間限定ですのでお早めにっ!

さすがにこれに引っかかるアホはもういないだろw

待ってます

( ・∀・)

続きが遅いのは魔王の影響かもしれんな......

飽きたか思い付かないかだろ
所詮素人なんだか、

あれ?今って一月ルールじゃなかった?

一切の書き込みなくて一月、>>1の書き込みなくなって二月じゃなかったかな

オッサンになると何事にも粘りが効かなくなるからなあ。
瞬発力は諦められるけど持久力がなくなっていくのは辛いよなあ

待ちがてら支援しとく

このまま終えるには勿体無いなぁ

エタかよw面白れーSSは大概書きかけで放置されてんな残念

結構好きだったんだがなこのSS

まだ待つよ

待つ

待つよー

待ってる

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