櫻子「私の産まれた日」 (18)

十日以上すぎてますが櫻子の誕生日もといひまさくSS

とある同人誌の内容をアレンジしたものです
というかぶっちゃけシチュエーションは丸パクリなんでそういうの許せない方はバックで

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私が産まれたその日は毎年、夕飯を食べ終わったら彼女の家に行って、彼女が作ったケーキを一緒に食べて。

なんとなく照れ臭くてお互い「おめでとう」も「ありがとう」も無く。

日付が変わる頃になって自分の家に戻る。

いつからか始まったそんな誕生日の過ごし方。

でも、今年は少し違っていて……

「うまっ……!」

彼女が出してくれたケーキを一口口にしたら、思わずそんな言葉がもれた。

彼女が作るお菓子はもともと美味しかったが、今回彼女が用意してくれたケーキは格別だった。

自分で言うのもなんだけど、私は彼女を素直に褒めることなんて今までにほとんど無くて。

というか、できなくて……

だから無意識に口をついた先ほどの言葉が少し恥ずかしく、私はお皿で自分の顔を隠すようにしてケーキを頬張った。

一瞬、皿の奥に見えた彼女の表情はどこか物憂げで、うつむき気味に自分の前に置かれたケーキを見つめていた。

その表情が意味することがわからず、なんとなくモヤモヤとした気分で私はケーキを平らげた。

「いやー、今回のケーキはなかなかだったよ!この調子で精進してくれたまえ!」

目の前のお皿を空にした私は、照れ隠しに彼女に言う。

彼女は彼女で自分の前のお皿に乗ったケーキを、ちびりちびりとフォークで口にはこびながら呆れたように微笑み、しかし思いも寄らないことを言った。

「今日のケーキ、私が作ったものではありませんわ」

「へ?」

「このケーキはこの間あなたが食べたいと言ってた店のものですわ」

「え……そうなんだ……」

「おかわりありますわよ、食べる?」

「え?あ、食う!!」

私がそう返事すると、やっぱり彼女は少し寂しそうに微笑んだ。

「ここのケーキは美味しいですものね」

彼女が作ったものだと思ったから褒めた、とか、なんで今年は自分で作ってくれなかったの、とか。

言いたいことはあったけどそんなの彼女の作ったケーキが食べたいと言ってるも同然で、照れ臭くて口にできなかった。

そして何より、彼女の作ったケーキでは無いことに気づけなかったことが無性に悔しくて、おかわりのケーキを一欠片口に運び言いたいことと一緒に飲み込んだ。

彼女がくれた二つ目のケーキは、先ほどと全く同じもののはずなのにどこか味気なく、私は生まれて初めて、彼女が誕生日に用意してくれたケーキを残した。

「じゃあそろそろ帰るね」

例年通り、そろそろ日が変わろうという時間になって私は腰をあげる。

「ええ」

彼女は玄関まで私を見送りに来てくれた。

「じゃあ」

別れの挨拶も簡単に、玄関を開け彼女の家を後にしようとしたところで、彼女は私を呼び止めた。

振り返ると、彼女は玄関においてある時計をチラリと確認し、小さな声で「おめでとう」とつぶやいた。

本来今日という日に相応しいはずのその言葉は、今まで私たちの間には必要の無いもので、だからそんな言葉を彼女に言わせてしまったのがなんだか無性に悔しく、私は首を傾げて聞こえなかった振りをした。

「いえ、なんでも。ケーキ、喜んでもらえて良かったですわ。おやすみなさい」

私は逃げるように彼女の家を後にした。

外に出ると湿った匂いが鼻をつき、見るとサラサラと小雨が降っている。

境界線のぼけたボーダー模様のように、星空と曇が混ざりあった空が今の私にはピッタリのような気がして、私は彼女と自分の家の間に植えられた木の根元に座り込んで空を眺めた。

たまに顔に滴る雨の雫が煩わしかったけど、構わず空を見上げる。

しばらくそうしていると、ふと何かがその景色を遮った。

「アンタ、なにやってんの?」

「……ねーちゃんか」

横を見るとねーちゃんが傘をもって立っていた。

「また喧嘩したの?」

「喧嘩じゃねーし……」

「はぁ、まったくあんたら飽きないね……」

「今回は本当に違うんだって!……ただ、なんていうか……」

そのあとに続ける言葉が見つからなくて黙り込む。

ねーちゃんは呆れたように溜息をつくと、私の隣に座って言った。

「言いたいことがあるなら言えばいいじゃない。あんたたちはそれが出来る仲なんだから」

「絶対無理だし」

「無理って言うから無理なんだよ。あんたがそうやって意地はるから向こうも意地はんの。あんたが本音をぶつければ向こうも本音で返してくれる。あの子はそういう子だと思うよ」

「知ってるし!」

私の方がねーちゃんより彼女のことを良く知ってる。

何倍も、何十倍も。

そんなくだらない嫉妬を見透かしたかのように、ねーちゃんがニヤニヤとこちらを見てくるから、私は恥ずかしくて顔を背けた。

「ねーちゃん、ケータイかして」

「は?なんで?というか自分のは?」

「メールすんの!自分のは多分あいつの家に忘れてきた」

「……しょうがないな」

ねーちゃんからケータイを受け取る。

渡される時、履歴を見たら殺すと言われたので大人しくメール作成画面にうつる。

送る内容は考えずとも浮かんできた。

カチカチと文を打ち込み、宛先を設定して送信ボタンを押す。

「ありがと」

「……あんたコレ、宛先が……」

「それでいいの!」

ねーちゃんは一度怪訝な表情を向けて来たが、宛先が間違いで無いとわかると私の胸中を察したのか、相変わらずだね、とつぶやき、クスリと笑った。

これで、来年はまた今まで通りの誕生日が過ごせるだろう。

夕飯を食べ終わったら彼女の家に行って、彼女が作ったケーキを一緒に食べて。

なんとなく照れ臭くてお互い「おめでとう」も「ありがとう」も無く。

日付が変わる頃になって自分の家に戻る。

そんな心地の良い誕生日を。



櫻子「私の産まれた日」終

向日葵視点が続きます
三日以内に投稿出来るかなという感じ

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