姉「弟くんが反抗期になっちゃった・・・」(390)

姉「おはようございます。弟くん」

弟「・・・・・・ちっ」

弟は姉を軽く睨んでから目をそらした。

姉「あ、あのね、弟くん。お姉ちゃんプリンも作ってみたんですけど、弟くん好きですよね?」

弟「いらね。それじゃ学校いくから」

姉「もう学校いくんですか?」

弟「・・・・・・」

姉「ちょっと待っててくださいね。わたしも一緒に・・・・・・」



ガチャン。



姉「行っちゃいました・・・・・・。弟くん、どうしたんでしょうか」

リビングに妹が入ってくる。


姉「あ、妹ちゃん。おはようございます」

妹「おねーちゃんおはよー・・・」

姉「もう。女の子なのにぼけーっとしたらダメですよ」

妹「そんなことよりご飯ー。おなかすいたよー」

姉「ダメです。先に顔を洗ってきてください。よだれが跡になってますよ」

妹「食べたら洗うってばー」

姉「ダメです」

妹「ちぇー。洗ってくればいいんでしょ。洗ってくれば」

~~夜~~

弟「ただいまー」

妹「お兄ちゃん!」

弟「おう。ただいま」

妹「彼女ができたって本当なの!? あ、あたしは許しませんよ!?」

弟「はい? 何がどうしてそんな情報が? そんな噂をされるような心当たりは・・・・・・」

妹「確かにお兄ちゃんはモテそうには見えないね」

弟「まぁなぁ」

妹「勉強できないし!」

弟「・・・まぁな」

妹「運動できないし!」

弟「・・・・・・」

妹「髪型ださいし!」

弟「・・・・・・・・・・・・」

妹「でも、あたしはお兄ちゃんが大好きだよ」

弟「おい、恥ずかしいことを言うなよ」

妹「だから彼氏にしたいって人がいても不思議じゃないと思う。優しいもん」

弟「お、おう」

妹「あたしも彼氏にしたいくらい・・・あっ」

弟「い、妹は何言ってんだ。お、オレたちは家族だぞ」

妹「ぷぷ。本気にしてやんの。照れちゃってかわいー。その様子じゃ彼女はいないようね」

弟「て、てめっ。兄をからかうんじゃない!」

妹「ばーかばーか」

弟「まてっ」

妹「部屋に逃げるよーん。まさか乙女の部屋に無断で入らないよね? というわけで、さらばなのだー」



妹「よかった・・・・・・お兄ちゃんに彼女いなそうで。って、あれ? 反抗期なんじゃなかったっけ?」

妹「???」

~~リビング~~
姉「あ、おかえりなさい弟くん。遅かったですね。今日は何かあったんですか?」

弟「・・・別に」

姉「朝から様子が変ですよ。何かあったのなら、お姉ちゃんが相談に乗りますよ」

弟「なんでもねえよ」

姉「任せてください。こう見えてもお姉ちゃん、すごいんですよ? 弟くんがどんな悩んでても一発で解決を・・・」

弟「できんのかよ」

姉「一発は無理かも知れませんけど、でも、絶対本気で考えます。弟くんが迷ってるのと同じくらい本気で、一緒に考えますよ」

弟「・・・そう」


姉「妹ちゃんだって考えてくれますよ。血が繋がった三人の兄妹じゃないですか。誰よりも絆が強いんです」

弟「・・・・・・」

姉「わたしたちなら、絶対無敵です。さ、お姉ちゃんに任せなさい」

弟「・・・悩みなんてねえよ。部屋に戻る」

姉「はい。待ってますからね」

弟「ねえつってるんだろ」



弟「くそ、姉さん・・・・・・。なんであんた、オレの姉さんなんだよ・・・」

妹「あれ、お姉ちゃん一人? お兄ちゃんは?」

姉「部屋に戻りましたよ。もうすぐでご飯できるから待っててくださいね」

妹「そうそう、お兄ちゃんと話したけどさ、別に普通だったよ」

姉「え? あれ? 普通でした?」

妹「うん。いつものお兄ちゃんだった」

姉「え、えー!? どうしましょう。さっき返事がなかったのは、変なこと言い出したわたしに呆れてたから?」

妹「お姉ちゃん……。なにかしちゃったの?」

姉「どうしましょう。どうしましょう。あー。恥ずかしいです」

妹「お姉ちゃん、顔真っ赤だよ」

姉「はうー……」

妹「お、おねえちゃん! お鍋吹き零れてるから!」

姉「はうー……」

妹「ああ、もう! どうしたっていうのよっ! ぎゃー。黒い煙まであがってるぅー!?」

~~弟の自室~~

弟「……なんであんな話聞ちゃったんだろ」

弟「昨日あんな話さえ聞かなかったら、我慢できたのにな」

弟「こんな言い訳いっても始まらないよな」

弟「はは、独り言ばっかりいって、オレ、気持ちわりぃな」

~~弟の回想~~
弟「変な時間に起きちまったなぁ。コーヒー牛乳でも飲んでもっかい寝よっと」

弟「あれ? 父さんと母さん? 明日から出張だっていうのに、なんでまた起きてるんだろ」

 ドアノブに手をかける弟。

父「姉と弟、あいつら仲が良すぎないか?」

弟(オレと姉さんの話か?)

母「あら、家族の仲がいいのはいいことじゃない」

父「でもほら、あいつら男女だし」

母「大丈夫よ。二人ともしっかりしてるから」

父「まあ、そうだが……」

母「お父さんは心配しすぎ」

父「本当の姉弟だったらそうかもしれないが……」

弟(!?)

母「そうねえ。もう姉を引き取ってからずいぶん経つから、本当の姉弟かと思ってたわ」

弟(オレと姉さんが、姉弟じゃない?)

父「だから母さんは残った方が……」

母「そんなことより、私はお父さんの浮気が心配だわ」

父「そんなに信用がないのか、オレは」

母「冗談よ。姉も弟もいい子ですから、たとえ片方が養子だってわかったとしても、絶対に悪いことにはならないわよ」

父「そ、そうだな。そうだよな」

母「それにね。少しは自分たちで生活させた方が、成長するわよ。だから私もお父さんと一緒にいくの」

 ガタン

父「今、何か音がしなかったか?」
~~~~~~~~

弟「義理の姉だなんて、知らなければよかった」

 いつからだろう。オレが姉さんに恋心を持ってしまったのは

 物心ついたころにはもう大好きだった。

弟「姉さんを見ると我慢できなくなっちゃうんだ」

 今でも、「結婚しようね」って約束したことは覚えている。

 でもダメなんだ。だってオレたちは、姉弟だから。

 あれは何も知らない子どもだったからこそできた約束。

 血は繋がってないから大丈夫なのかもしれない。

 けれど、オレは姉さんが何よりも家族を大切にしていることを知っている。

 だから、その家族が偽の家族だなんて、わからせたくないんだ

弟「だから、オレは、姉さんに近づいちゃいけないんだ……」

姉「おはようございます。弟くん」

弟「……おはよ」

姉「昨日作ったプリンがまだあるんですけど……」

弟「……いってくる」

姉「あ、はい。じゃあ冷蔵庫の中に入れておきますので」

弟(プイッ)

姉「あ……」

妹「おっはよーん!」

姉「おはようおざいます。妹ちゃん」

弟「おはよ」

妹「おー。お兄ちゃん今日もはやいねー」

弟「まあな。お前こそ珍しいじゃないか。いつもよだれ跡残ってるのに」

妹「フフフン。昨日はずっとゲームをやってたのだ!」

弟「あれ? それだと逆に、まだ寝てるはずなんじゃあ……はっ、まさか!」

妹「ククク。気付いたようだな。そのとーり! あたしは昨日から寝てないのダッ!」

弟「な、なんだと……」

妹・弟「あはははははは」


姉「…………」


弟「んじゃ妹、いってくるな」

妹「おー。お兄ちゃんいってらっしゃい」


姉「…………」

妹「お姉ちゃん? ダークなオーラが漂ってるけどどうかしたの?」

姉「ううぅっ。妹ちゃーん。お姉ちゃん、弟くんに何かしたでしょうか」

妹「ま、まあまあ。泣かないでよお姉ちゃん。そういうときは……」

姉「そういうときは?」

妹「食べるに限る! ご飯をガツガツかきこむのだ!」

姉「……そうですね。ご飯にしましょうか」

妹「はーい。とりあえず顔あらってきまーす」


姉(……弟くん。お姉ちゃんは寂しいですよ?)

~~教室~~

弟「くそ、はやく来すぎた。あと一時間もあるじゃねーか」

弟「……まあ、姉さんと顔あわせない為だ」

弟「姉さん、いつも一緒に登校しようとするしなあ」

弟「高校生にもなって、姉弟で登校してるやつなんていないっての。……はは」

弟「違う高校にすればよかったかな」

弟「ちょっとだけ寝るか……。Zzz」

女の声「あはははは。うけるしー」

弟(んーっ。よく寝た)

女1「あんたの彼氏かっこいいわー。あたしも彼氏そろそろ作ろうかな」

弟(オレが寝てると思って話してるんだろうか? なんだか起きにくいな)

女2「だべー。そこで寝てる弟とかどう?」

女1「ぎゃはは。ないわー」

弟(くそ、好き勝手言いやがって)

女2「だよねえ。顔も微妙だし。何ができるって訳でもないし」

弟(余計なお世話だよ。ていうか、この声、クラスで可愛いって評判の女1さんじゃないか?)

女1「でしょー? もっといいのいねえかなあ。あたし超尽くすタイプなのに」

女2「なんか弟すごい静かなんだけど、盗み聞きとかしてたりして?」

女1「それ引くわー。超キモいし」

女1・2「あはははっは」

弟(声が下品なんだよ……。それに比べて姉さんは……)

弟「くそ、なんで考えちゃうんだ」

女1「うわ」

女2「マジ起きてたし」

弟「あ、あはは」

女1・2「キモ」

~~昼休み~~
弟「はあ。なんでオレ姉さんのことばかり考えちゃうんだろ」

弟「モテねーからかなぁ」

弟「あ、あれは近所に住んでた男さんじゃないか」



男「はは、弁当とかそんなに貰っても食えねえからさ。また今度作ってきてくんね?」

女A「は、はい! いつがいいですか?」

女B「あ、私も作ってきます!」

女C・D・E「キャーキャー」

弟(男さんは顔かっけーし、モテるのも判るんだよな。オレも男さんみたいだったら……)

女ども「キャーキャー。カッコいひーん」

弟(ああ、あんなに侍らせちゃって……。オレもあんな状況になったら……ってイメージ沸かん。それにむなしいからやめよう)



弟「姉さんも、男さんみたいなのが好きなのかな……」

姉「弟くん!」

弟「うわ!? 姉さん!?」

姉「お弁当忘れてます」

弟「……そう」

姉「お姉ちゃんが何かしたなら謝ります」

弟「そんなっ!」

姉「でもですね、お弁当は食べください。朝も食べてないでしょう?」

弟「……」

姉「ここにお弁当、置いておきますね」

弟「……うん」

姉「家に帰ったら、ちゃんと食べ終わったかチェックしますよー。お姉ちゃんは厳しいのです」

弟「……うん」

姉「お残しは許しまへんでー! なんてアニメが昔ありましたよね」

弟「……うん」

姉「……あはは、はずしちゃいましたね。それじゃ、また夜に」

女ども「キャーキャー」

男「ごめん、ちょっと用事あるからはずしてくれないか? んで、ついてくんな」



弟「あれ、男さんどうしたんだろう。姉さんが行った方に向かってる? 見に行ってみるかな」



男「ちょっとちょっと、姉ちゃん。久しぶりじゃん」

姉「あ、男さん。お久しぶりです。元気そうで何よりです」

男「姉ちゃんこそ。家が近いのに最近会わないね?」

姉「そうですねー。話すのも久しぶりですね」

男「姉ちゃん、昔から可愛かったけど、最近すごく可愛くなったね」

姉「はぁ。ありがとうございます」

男「ねえ、オレと付き合わない?」



弟(!? あいつは、何を言ってるんだ?)

男「大丈夫。楽しいぜ」

姉「こ、困ります。手を放してくれませんか?」

男「ああ、ごめん冗談冗談」

姉「もう。男さんの冗談はびっくりしますよー」



弟(あんなに女の子侍らして、それでオレの姉さんに何してんだよ……!)

男「何か悩みがあるでしょ。違う?」

姉「え。どうして判るんですか?」

男「そんな顔してた。家が近い子がさ、そんな深刻そうな顔で悩んでるのとか、見てらんねーよ」

姉「男さん……。ありがとうございます」

男「話してみ?」

姉「それは……」



弟「姉さん! ちょっといい!? 少しだけ話があるんだけど!」



姉「あ、すみません。行ってきますね。悩みのほうは大丈夫そうです」

男「あ、ああ…………そうだね。ならよかったよ。…………チッ」

弟「ごめん、姉さん。邪魔しちゃったかな?」

姉「そんなんじゃないですよ。弟くん」

弟「……姉さんも男さんみたいな人が好きなの?」

姉「あはは。お姉ちゃんは今そんなこと考えられないですよ。弟くんと妹ちゃんのご飯を作る方が大事です」

弟「そっか」

姉「それにしても、こうやって話すの、久しぶりですね。お姉ちゃん、ちょっとうれしいです」

弟「あ……」

姉「それで、お姉ちゃんに何の用ですか? あ、もしかして、お姉ちゃんが男の人と話してるから妬いて……」

弟「ち、ちげえよ! ちがくて、その……」

姉「はい」

弟「……弁当。ありがと」

姉「気にしないでください」

弟「残さないで食べるから」

姉「え。まだ食べてないんですか? もう授業はじまりますよ?」

弟「授業サボってでも食べる!」

姉「ええ!? それはちょっと……」

 顔を赤くした弟が走り去る。



姉「弟くん。お姉ちゃんは、授業はさぼっちゃいけないと思いますよー」

~~下校途中・校舎裏~~

弟「昼休み、男さんと姉さんの邪魔したの、悪かったかな」

弟「男さんだって、別に好かれたくて好かれてる訳じゃないかもしれないし……」

弟「それに、女の子たちを置いていったし、もしかしたら、本気で姉さんのことを?」

弟「オレが邪魔する権利なんてないんだよな……。姉さんが幸せになってくれるなら、男さんを応援するのもいいかもしれない」


弟「あ、あれは男さん。珍しく女の子が近くにいないな」



男友「ギャハハ」

男「はは」

男友「それにしてもお前、悪いやつだなー。あんな女の子侍らして、まだ増やす気か?」

男「勝手に寄ってくるんだよ。いくらかお前に分けてやろうか?」

男友「マジ!? じゃあオレ女AとBがいい」

男「姉ちゃん落とせたら、そんなにいっぱいいらねーしな。2.3人もってけよ」

男友「ヒョー!」

男「笑い方きめえから」

男友「んにしても、お前が一人の女の子に固執するとか珍しいよな」

男「だってよー。ムカつくじゃん。このオレが声かけて手まで握ったんだよ?」

男友「どれだけ自信あるんだよ」

男「別にオレのこと好きでいなきゃいけないとか思ってないけどさ。顔赤くしたりドキドキするもんだろ」

男友「わかんねえなあ」

男「とりあえず可愛いから落とす。そんだけ」

男友「ヒョー!」



弟「おい……」

男「あ? おお。弟じゃないか。オレさあ、お前の姉ちゃん好きなんだけど、ちょっと協力してくんね?」

弟「……っけんなよ」

男「いや、姉ちゃんがホント好きなんだよ。大事にするしさ」

弟「ふざけんなっつってんだよ! このクソ野郎!」

男「……あ?」

弟「てめーがペラッペラ汚い声で喋ってんの聞いてたんだよ! そんなことさせねーし、許さねえよ!」

男「聞いてたのか。って、おっと、何殴りかかってきてんだよ。ガキ」

弟「いて、いってえ。放せ! 放せよ!」

男「拳握り潰しちゃうよー? 貧弱くん」

男友「ヒョー! 男くんつえー!」

弟「いてえ……っつってんだろうがっ!」

男「おっと。蹴りも鈍いし、あたらねえって。おい、男友、誰が来ないか見張ってて」

男友「おっけー」

弟「姉さんに何かしたら、許さない!」

男「はァ? 許さないのはこっちだっつーの。姉ちゃん口説いてんの邪魔するしよお」

 ドガッ!

弟「かはっ……」

男「腹って殴ってもバレにくいんだよね。お前も男なら、
  お姉ちゃーんとかいって泣きついたりしねーだろうしなあ」

 ボコッ!

弟「うぐ……」

男「オレはさぁ、今五人くらいの女と遊んだりしてっけど、全員幸せにしてやってんよ?
  姉ちゃんのことを思うなら、弟ごときが口だしてんじゃねえよ」

弟「おまえ、最低だよ。オレの姉さんにそんなことさせねえ」

男「すげーシスコンだな。っつーか、お前さ、姉ちゃんのこと好きなんじゃねえの?」

弟「……!」

男「うえ。……マジかよ。気持ちわりい。どっちにしてもさ、お前って、お前の兄妹ん中で一番カスだよな」

弟「うるっせえよ」

男「姉ちゃんと妹ちゃんは、可愛いし、頭もいいし運動神経もいい。でもお前って何も出来ないよな」

弟「うるっせえっつってんだよ!」

男「ああ、そうか。だからか。お前モテなそうだもんな。身近な人間で済まそうとしてんの?」

弟「ちがっ……!」

 ガン!

男「ちがくねーだろ。姉ちゃんが、家族だからって理由だけでお前に優しいからって調子こいてんだろ?」

弟「……ちがう」

男「それって最低だよな。オレのこと最低って言ってたけど、お前の方が最低じゃん。
  姉ちゃんにも妹ちゃんにも関わらないでやれよ」

弟「………………ちがうんだ」

男「あ、そうだ。今度妹ちゃんにも会いにいくから」



男「男友いこうぜ」

男友「男、見張りつかれたからなんか奢れよ」

男「金ねえよ」

男友「マジかー」

男「じゃあさ、女Cもやるわ」

男友「ヒョー!」



弟「……くそ」

弟「ただいま……」

妹「お兄ちゃんおかえりー。あのねー、一緒に買い物に……」

弟「ごめん、また今度な。ちょっと調べ物があるから」

妹「おうおう。宿題かい」

弟「ん……まぁ、そんなとこ」

妹「まじめなこってー。……とかいって、見られたくないこととかしてないよね」

弟「ギク」

妹「エロ本鑑賞タイムかい? いやいや、お兄ちゃんも男の子だねえ」

弟「そ、そうそう。エロ本」

妹「……白状した!? 僕ちゃん純情なんですーみたいな、かわいこぶったお兄ちゃんが!?」

弟「そういう訳で、ちょっと無理なのである」

妹「そうでござったか。そいつはかたじけない」

弟「言葉の使い方違うんじゃね?」

妹「まことにかたじけない」

弟「うん、まぁ、なんでもいいけど」

妹「ま、いってきまーす」

弟「あいよー」

 カタカタカタ。

 キーボードをタイピングする弟。

弟「やっぱり、肉親に興奮するのはおかしいんだろうか……」

 カタカタカタ。

弟「ええと、なになに。遺伝子上、血縁は体臭が似ているのか」

弟「で、その体臭が近いと興奮しにくい、と」

弟「ってことは、オレが姉さんを好きなのは、おかしくはないのか?
  遺伝子では繋がってないはずだから……。
  姉さんで間に合わせようとしてるんじゃないってことだよな」

弟「よかった……」

 ガチャリ。

弟「お。ドアの開く音だ。妹が帰ってきたのかな」

 ドタドタドタ。

 ガチャ。

妹「お兄ちゃんたっだいまー!」

弟「お、おう。おかえり」

妹「みてみて。この服買っちゃった。かわいい? かわいい?」

弟「……かわいいな。でも夏服だろ、それ」

妹「夏物の売れ残りがねー。ほんっと安かったの! 来年着る!」

弟「っていうかお前、着て帰ってきたの? 寒くないのか?」

妹「さむーい!」

弟「ばかめ」

妹「だからー。……ふふふ。あっためてっ!」

弟「お、おい。くっつくなよ!」

妹「あったかーい」

弟「む、胸が、胸が当ってる」

妹「いーじゃん別にー兄妹じゃーん」

弟「…………」

妹「あ、あれ? お兄ちゃん? どしたの?」

弟「ごめん、妹。出て行ってくれないか。ちょっと調べ物が終わってない」

妹「う、うん。ごめんね。じゃ、でてくね」

弟「なんでだよ……」

弟「何でオレは、妹にまでドキドキしてんだよ……」

弟「アイツは姉さんと違って、血が繋がってるはずだろ?」

弟「オレ、最低だ…………」

弟「身近なもんで、間に合わせようとしただけじゃねえか……」

弟「なあ、姉さん。オレって、最低なのかな……。アイツより、最低なのかな……」

弟「ちくしょう……」

弟「授業めんどくせえ……」

弟友「あれ、お前が真面目にノートとってるとか珍しいじゃん」

弟「おい、授業中話しかけるなよ。当てられるだろ」

弟友「落書きでも書いてるなら後で見せて。ちゃんと書いてるならコピー頼むわ」

弟「黒板写してるだけだっつの」

先生「おい弟。喋ってる余裕があるなら、今先生が言ったことを皆に説明してみろ」

弟「あ、はい。わかりません」

先生「弟友はわかるか?」

弟友「えー。わかんね。どうなってるんです?」

先生「それを今先生が説明してたんだ」

弟友「うっす。気をつけます。すいません」

弟友「ここ最近お前なんかおかしくね?」

弟「そんなことないだろ」

弟友「いや、だってさ、体育とか無駄に頑張ってるし? なんかあったのか?」

弟「や、別に」

弟友「なんかあっただろ」

弟「なんもないって」

弟友「とうとう留年が確定したか? それとも女に振られたか? そうか、振られたのか」

弟「・・・」

弟友「顔色で判るんだって」

弟「別に振られた訳じゃないけど。ショックなことがあってさ、考えないようにしてるだけ」

弟友「そ?」

弟「あ、そうだ。お前どこかいい美容院とか知らない? あと服買う所とか」

弟友「とうとうオシャレに目覚めたのか!? やっぱり女に振られたんだな?」

弟「ちがうって」
 (姉さんのこと、意識しないようにしないとな。
  ……でも、姉さんに何かあったらあの野郎、絶対ぶっ殺してやる)

~~リビング~~
弟「ただいま」

姉「おかえりなさい。弟くん」

弟「……」

姉「うう。弟くんが不良になっちゃいました……ああ、遠い所にいってしまった両親に、
  なんと申し開きすればよいのでしょうか」

弟「別に不良じゃない。……そういえば姉さん、今日とか学校で変なことなかった?」

姉「ありませんけど……。あ、もしかしてお姉ちゃんの心配をしてくれてるんですか?
  お父さん、お母さん。弟くんはやっぱりいい子でしたよー!」

弟「姉さん、うるさいよ」

姉「……はい」

弟「で、姉さん。なんかあったら絶対オレに電話してね。短縮ダイヤルでオレの番号設定しといて」

姉「ああ……! お姉ちゃんは嬉しいです! 今まで冷たくされたからでしょうか!?
  うう。涙がー」

弟「ええい。邪魔だから踊るな。じゃ、オレ部屋に戻るから」

姉「はーい!」

プルル。プルルルル。
姉「あ、もしもし。男さんですか? 聞いてくださいよ。うちの弟がですねー!」

男「おー。良かったじゃん。仲直りできたんだ?」

姉「はい。男さんのアドバイスのオカゲです」

男「まぁ、大抵は時間おいてみてみれば何とかなるもんだよ」

姉「そうなんですかー」

男「で、弟からなんか聞いてない? オレについてなんか言ってなかった?」

姉「いえ……。あ、そういえば男さんに近づくなとは言ってましたね。弟くんはお姉ちゃん子ですね」

男「おっけ」

姉「え? 何か言いました?」

男「別に何も言ってないよ。とにかくさ、その年頃の男は家族との一緒にいるの嫌がったりするからさ、
  なるべくそっとしておいてあげて」

姉「わかりました。そうですよね。そういうのは男の人の方が詳しいですよね。勉強になります」

男「まーでも、オレも弟くんのこと気になるから、何かあったら電話してな」

姉「ええ。わかりました。色々すみません」

男「それでさ、今週の休みなんだけど」

姉「あっ! ごめんなさい! そろそろ弟くんと妹ちゃんにご飯作らないといけない時間です」

男「わかった。とりあえずオレの事は弟くんには内緒でね。
  うん、裏でコソコソ言われてると気分よくないでしょ。
  わかった。じゃあまたね。……チッ」

~~弟の部屋~~
妹「ちょっこあいす~。ちょっこあいす~♪」

弟「オレの部屋で、奇怪な歌を歌わないで貰おうか」

妹「ちょっこあいす~♪」

弟「聞いてる?」

妹「では説明しよう! あたしはあたしの分のアイスを食べてしまいました」

弟「ふむ」

妹「で、ですね。こうなると残り二本のアイスが気になってくる訳です」

弟「それで?」

妹「勝手に食べるのは申し訳ない。だからせめて視覚的に楽しませてあげようかと」

弟「妹が食べても俺の腹は膨れないから却下」

妹「グルメ番組と一緒だって! あたし超解説するし」

弟「聞くより食べる方がいいだろ。ていうか、姉さんに頼んだらくれるんじゃないの」

妹「おねーちゃんのはもう食べた」

弟「太るぞ」

妹「うっ。仕方ないです。じゃあ半分だけあげちゃおう」

弟(……溶けてる)
 ガブ。
弟「ほれ。残り半分だ」

妹「う、うん。お兄ちゃんの食べかけ……!」

弟「嫌なのかよ」

妹「ああ、えっと……」
 ガブリ。

妹「ふはは。このあいふはもうかえはないえ」
 (このアイスはもう返さないぜ!)

妹「ううん。とても香ばしい味ですね。さすが百円の棒アイス。
  真冬の寒い時期に暖房をガンガンにいれて食べるアイスは格別だね!
  でも夏に冷房いれて鍋は食べたくならないよね!
  チョコとおにいちゃんのハーモニーがとてもデリシャル!」

弟「え、おれ?」

 ガラリ

姉「ちょっと妹ちゃん。冷蔵庫の中のハム全部食べませんでした? 今日の夕ご飯の……
  って、二人だけで楽しそうにしちゃって、ずるいです……!」

弟「姉さん落ち着いて。ね? ていうか包丁しまってくれ。怖すぎる」
  (なんだ。普通に喋れるじゃんか……。妹がいるおかげか?)


プルルル。プルルル。
男「あ、姉ちゃん? 今週の休みなんだけど」
姉「う、うわーん。妹ちゃんと弟ちゃんがわたしをハブにしてくるんです!」
男「うん。う、うん。そうなんだ……」

そのまま何事もなく数週間が過ぎた。

弟友「よっしゃー。放課後だ!」

女1「ねえ、前はバカにしたけど、最近の弟かっこよくなってきてない?」

女2「つっても髪切っただけじゃない?」

女1「なんか視線っていうか、目の鋭さとかもすごくなった気がする」

弟友「お。弟最近すごいなあ。報告してやったら喜ぶかな」

弟友「弟ー。なんかクラスの女子がお前のことカッコいいって言ってたんだけど」

弟「まじで」

弟友「前の恋なんか忘れてさ、彼女作ってみたらいいんじゃないの?」

弟「それもいいかもしれないな」

弟友「っつーわけで、一緒に帰る約束してきたぜっ! どう? オレ偉くね? ヤバくね?」

弟「さんきゅ」

弟友「だからさ、さっさと元気出せよ。オレはいつものお前のほうが……」

弟「え。お前まさかそっち系の……」

弟友「ちっげーよ!」

弟「ありがとな」

弟友「お、おう」

妹「あ、お姉ちゃんこっちこっち!」

姉「待ってください。妹ちゃん。お姉ちゃんはもう疲れちゃいました」

妹「軟弱者めー」

~~姉+妹~~
姉「はふー。ちょっと休憩しませんか」

妹「仕方ないなあ。久々に一緒に買い物なんだし、ゆっくり回ってあげようじゃないかー」

姉「助かります」

妹「あ、あれ?」

姉「どうしました?」

妹「あそこにいるのお兄ちゃんじゃない? 女の子と一緒だ!
  最近色気づいてきたと思ったら……! あのエロ兄!」

姉「……弟くんですね」

妹「あー! 手なんか組んじゃってる! あの女めー!
  って、お姉ちゃん。大丈夫? そんなに疲れたの?」

姉「……大丈夫ですよ。オールクリアです」

妹「あ、あの。お姉ちゃん。なんか言葉遣いおかしいんだけど……」

~~弟の部屋~~
妹「お兄ちゃん! 今日は何をしてたの?」

弟「おうあ? 特に何も?」

妹「女の人と帰ってたでしょ! 手なんか組んじゃって!」

弟「見てたのかよ……」

妹「ええ、ええ。見てたともさ。可愛い子でしたね?」

弟「そうだな」

妹「あの人と付き合ってるの?」

弟「付き合ってないよ」

妹「そう……なんだ。あの人が好きなの?」

弟「別に好きじゃないけど」

妹「じゃあ付き合っちゃだめです」

弟「禁止される理由がない」

妹「あるよ!」

弟「ないって」

妹「あるもん!」

弟「だからさぁ」

妹「だって、あたしの方が絶対お兄ちゃんのこと好きだもん!」

弟「ブッブー。僕らは家族ですー。はい、無理」

妹「もうさ、あたしでいいじゃん。あたしにしときなよ……」

弟「冗談言ってないでさっさと……。って妹。泣くなよ」

妹「あたしならさ、ずっと一緒にいられるよ」

弟「……」

妹「お兄ちゃんのこと、誰より愛してる」

弟「……」

妹「わかってる。変だよね。気持ち悪いよね」

弟「気持ち悪いなんてこと、あるもんか」

妹「でも、絶対変だもん」

弟「今までずっと一緒に暮らしてきたんだぞ。そんなことじゃ変わんねえよ……。
  でもそれは、オレにはどうすることも出来ないよ。冷めるのを待つしか、ないだろ」

妹「ありがと……でもね、あたしはお兄ちゃんが大好き。
  だから諦められないよ。なんでダメなの? 血が繋がってるから?」

弟「そうだ」

妹「……お姉ちゃんだって血が繋がってるよ?」

弟「…………!」

妹「やっぱり、お姉ちゃんのこと好きなんだ」

弟「どうして判った」

妹「ずっと見てたから、わかることもあるんだよ
  お姉ちゃんだって、血が繋がってるよ」

弟「だからだよ。だから、ダメなんだ。オレもお前も、さっさと忘れるしかない」
 (ああ、妹は知らないのか)

妹「つらいね」

弟「……うん」

妹「前言撤回する。さっさと彼女つくれ。それであたしに諦めさせて」

弟「……努力する」

妹「んじゃ、ね! 部屋もどるよ!」



弟「これでいいんだよな……俺たちは家族なんだよな……?
  それが一番いいんだよな……」

姉「あれ、妹ちゃん? こんな時間にどうしたんですか?」

妹「ねえ、お姉ちゃん。好きになるって、なんなのかな」

姉「妹ちゃん……。目が真っ赤ですよ。大丈夫ですか?」

妹「なんでこんなに辛いんだろ……」

姉「だめだったんですか?」

妹「……うん」

姉「そうですか……」

妹「……そう」

姉「たぶん、妹ちゃんは今、自分が否定されちゃったような気がしてるんですよね」

妹「……うん」

姉「大丈夫ですよ……」

妹「ねえ……なんでお姉ちゃんなのかな」

姉「え?」

姉「もしかして、弟くんのこと、ですか……?」

妹「……うん
  あのね、あたし、ね。ドコがだめなのかなぁ……。
  胸がちっちゃいから? 口が悪いから? 料理ができないから?
  だったら、ぜんぶ、ぜんぶ治す。
  全部治すのに……」

姉「はい。大丈夫。妹ちゃんは魅力的ですよ?」

妹「お姉ちゃんみたいになりたいよぅ……」

姉「妹ちゃんの方がかわいいですよ」

妹「お兄ちゃん。はやく彼女作らないかな……」

姉「はい……彼女を作ってほしいんですね。」
 (なんでわたしとこんなに比べるんでしょうか……。まさか、弟くんはわたしのことを?
  いや、それはないですよね……)

妹「うん。そのほうが早く、諦められるから……
  おっけ。もう大丈夫! 完全復活!
  あは、お兄ちゃんに嫌われてないといいけど」

 ぎゅ。
姉「お姉ちゃんも、弟くんも、絶対妹ちゃんを嫌うなんてありえないですよ
  わたしたちは大事な家族ですから……。ずっと一緒にいましたから
  信じてください」

妹「うっ……お姉ちゃぁん……」

姉「おはようございます。弟くん」

弟「……はよ。妹は?」

姉「まだ寝てますよ。今日は休みですし、まだ寝かせておいてあげましょう」

弟「……そだな」

姉「では弟くん? 今日はお姉ちゃんに付き合ってくれますね?」

弟「は?」

姉「お姉ちゃんは買い物に行きたいのです。
  来週の食料をいっぱい買うつもりなんです
  セールなんです。大売出しなんです」

弟「やだよ」

姉「前は喜んでついてきてくれたのに……
  弟くんがグレちゃいました」

弟「はぁ。オレ部屋戻るけど?」

姉「いいんです。いいんです。
  安いときに食料が買えなくて、弟くんのご飯がなくなっちゃうかもしれません」

弟「だったらオレ、モヤシでもいためて勝手に食うよ」

姉「わたしのもなくなって……、ううん。わたしだけならいいんです。
  妹ちゃんまで餓えて……。ああ、それはわたしのお腹です。かじらないでください」

弟「……罪悪感を煽ってくるなよ。っていうか、姉さんには何が見えてるんだ」

姉「やめてください。弟くん、妹ちゃん。お姉ちゃんの脳みそは……あー!」

弟「くわねーから! そんなの絶対くわねーから! わかった、わかったよ。
  いけばいいんだろ? いけば」

姉「はい」

弟「ったく……」

姉「いっぱい買っちゃいました。重くないですか?」

弟「重くないよ」

姉「少し、持ちましょうか?」

弟「……別にいい」

姉「良い天気ですね。青空があんなに高い」

弟「……」

姉「夜はちょっと冷え込みそうです。今も寒いですしね。
  ほら、見てください。息まで白い。
  はー」

弟「わざわざ吐かなくてもいいだろ」

姉「ところで、弟くんに好きな子はいるんですか?」

弟「なっ……。……別に」
 (くそ、そんなこと聞くなよ……)

姉「どこか、痛いんですか?」

弟「……別に」

姉「いま、顔をすごくしかめてましたよ。
  やっぱりビニール袋一個貸してください」

弟「いいって言ってるだろ」

姉「むう……」

弟「…………」

姉「彼女とかは作らないんですか?」

弟(なんでそんなこと、聞くんだよ。姉さんの前で作りたいなんて、言える訳ないだろ)
 「別に」

姉「作った方が絶対楽しいですよ。若いうちは、少しくらい遊んだ方がいいです」

弟「姉さんだって、彼氏いないじゃんか」

姉「ええ。わたしには弟くんと妹ちゃんのほうが大事ですから」

弟「そんなに大事っていうならオレと……いや、なんでもない」

姉「大事です。でも、お姉ちゃんにも告白してくれる男性はいるんですよ?
  弟くんも、特に最近は格好よくなりましたし……」

弟「聞きたくない……」

姉「あ、もしかして、好きな人がいるんですか?
  だったらその人と付き合えるよう、姉さんも協力しちゃいますよ」

弟「……聞きたくないって」

姉「誰が好きなんですか? わたしの知ってる人でしょうか?」

弟「聞きたくないって、言ってるんだよ! オレが好きなのはアンタだよ!
  姉さんが、好きなんだよ! 悪いか!? 忘れようと、してるんだ!
  ……邪魔、しないでくれよ……」

 走り去る弟。弟の持っていたスーパーの袋が地面に落とされる。

姉「あっ、弟くん! 待ってください!
  ……そう、だったんですね。
  わたしのことを……。
  ごめんなさい。妹ちゃん。お姉ちゃんは、余計なことをしてしまったかもしれません……」

姉「はあ……。わたしはダメなお姉ちゃんですね。弟くんも、妹ちゃんも傷つけちゃってます。
  妹ちゃんは、弟くんに彼女ができたら諦められるって言ってました……。
  わたしにも、彼氏ができたら、弟くんは立ち直れるでしょうか?
  好きな人なんて、いないけど、でも、弟くんのためなら……」

男「お。姉ちゃんじゃん。久しぶりー。どうしたの? なんかすげー泣きそうなんだけど?
  オレさあ、ずっと姉ちゃんに会いたくってさ。休みの日に会えるなんて運命だよね」

姉「あ、男さん……」

男「買い物帰り? あーあーあー。こんな落としちゃって。家までもってってやるよ。近所だしな」

姉「ありがとう、ございます……」

支援・保守ありがとうございます。
とても嬉しいです。

申し訳ないですが、少し寝ますね。

おきてもスレが残ってましたら、続きを書きます。

おはようございます!

保守ありがとうございます。感謝です。
早速書いてきます。

~~家~~
弟「ドアが開いた音がした。姉さん帰ってきたのかな。
  ……さっきのこと、謝らないと」

弟(男がいる!? なんでこの家に……)

男「チース。お邪魔しまー」

姉「どうぞ。お茶でも飲んでいってください」

男「ああ、いいよ。オレちょっと用事あるんで」

姉「ああ、それなのにわざわざ荷物を持ってきてもらって、すみません」

男「気にすんなよ。姉ちゃんのためだし」

弟「ねえ、人んちで何やってるの?」

男「おーす。弟くん。元気だったか?」

姉「弟くん! 男さんは荷物を運んでくれたんですよ。そんな言い方はダメです」

弟「でも、姉さん!」

男「いや、いいよ姉ちゃん。男の子はこれくらい元気がないとな」

姉「ほんとすみません」

弟「……」
 (いい人ぶりやがって)

男「じゃ、オレ帰るから。姉ちゃん、またな」

姉「はい。ありがとうございました」

 ガラリ。

弟「姉ちゃん。なんであいつがきてんの?」

姉「年上の方をあいつ呼ばわりはダメですよ。弟くん
  さっき、お姉ちゃんに彼氏はいるのかと聞きましたね?
  男さんが、そうなるかもしれません」

弟「……!?」

姉(ごめんなさい。これが弟くんのためなんです……)

弟「あいつは……! あいつだけはダメだよ姉さん!
  男は最低なやつなんだ……!」

姉「よく知らないのに悪口を言ってはいけませんよ」

弟「だってあいつ、いつも女の子たくさん連れてるし!」

姉「まぁ。男さん、人望があるんですね」

弟「それにあいつ、姉さんのこと狙ってて!
  絶対不幸になるから、やめときなよ……」

姉「いい方ですよ。弟くんがわたしと話レくれなかったときも、、
  たくさん電話で相談に乗ってくれました」

弟(手、出してないと思ったのに。そんなことを……)

姉「だから、こんなところで悪口を言ってはいけません」

弟「姉さん! ほら、これ。オレの腹を見てよ。
  あいつに殴られたんだ。
  だから、考え直して。お願い、姉さん」

姉「お腹、なんともなってないじゃないですか」

弟(殴られた直後は、変な色になってたのに……)
 (なんでもう治っちゃってるんだよ……)

姉「……そういう嘘は、良くないと思いますよ。お姉ちゃんは」

弟「嘘じゃ、嘘なんかじゃない!」

姉「弟くん……」

弟「ごめん。姉さん、変なこと言った。忘れて」
 (オレが、男に直接話をつければいいんだよな)

姉「……」

弟友「やあ、今日も良い朝だね? 小鳥の歌声がとても涼やかだ。
   鼻はツンとするし、耳はとれそうなくらい痛い。
   おそらく赤く染まっていることだろう」

弟「……端的に言え」

弟友「おはよう。今日も寒いね。タイが曲がっているわよ?
   そして通学中の女子たちの膝が白く眩しい。
   よくあれで寒くないよな」

弟「……おはよ」

弟友「今日は冷たいな。気温も弟の態度も」

弟「冬だからな」

弟友「春には暖かく、秋にはやや冷たく、夏には暑苦しくなるのか?
   夏は近づかないでね!」

弟「はいはい。お前こそ元気だな?」

弟友「弟が元気なさそうだったからな。
   ……なんかあったのか?」

弟「そりゃ何かあるさ。
  ご飯食べたし服着たし、風呂も入った」

弟友「オレだってそうさ。何か変わった事はあったか? って意図のつもりだったんだけどね?」

弟「……うん」

弟友「ま、話したくなったらなんでも聞いてやるよ」

弟「偉そうだな。お前。……さんきゅ」

弟友「おう。……お、あれは男さんじゃないか?」

弟「女の子引き連れてないな。珍しい」

弟友「弟は見てないのか? あの人ここ最近、ずっとそうだぜ」

弟「マジで?」

弟友「まじまじ」

弟(あいつ、姉さんのこと本気なのかな……)

弟「なあ、弟友。ちょっといいか?」

弟友「おう。悩み事相談してくれる気になったのか?」

弟「ちがくて。昨日見た映画の話なんだけどさ」

弟友「昨日映画なんてやってたっけ?」

弟「レンタルしたんだよ。いいから黙って聞けって」

弟友「うん。話してみ」

弟「主人公の男にさ、すげー好きな人がいるんだ
  でも、その女の人とは結ばれてはいけない運命なんだ」

弟友「結ばれると世界が破滅するとか? 俗にいうセカイ系」

弟「ちげーよ。
  んでさ、女の人も主人公のことを好きなんだ。
  恋愛感情ではないけど、大事な人間っていう感じ」

弟友「ふむ」

弟「でさ、女の人には幸せになってほしいじゃん?」

弟友「まあ、そうだな。好きな人には幸せになってほしいよなぁ」

弟「んで、女の人のことを好きな男の人が他にもいるんだ」

弟友「三角関係か」

弟「うん。それで姉さ……、女の人は、男の人に好意を持ってる訳だ。
  まだ好きっていうほどじゃないと思うんだけどな」

弟友「なるほど。それは、主人公はつらそうだな」

弟「で、主人公は男の人のことが嫌いなんだ。
  でもさ、女の人のことを思うならさ……。
  主人公は二人を応援してあげるべきなんだろうか?」

弟友「今いった条件だけなら、多分そうだな。
   応援してあげた方がいいと思う。
   主人公と女の人はどうしても結ばれないんだよな?」

弟「多分な」

弟友「多分かよ。んで、話の結末はどうなるんだ?」

弟「いや、それがここまでしか見てないんだ」

弟友「そうか。なんともまた面白くなさそうな話じゃないか」

弟「ああ。クソつまんねー話だよ」

~~授業中~~
弟(うん……。もし男が本気だったら、応援しよう)

先生「今年の授業はこれで終わりです」

弟(オレはあいつ、死ぬほど嫌いだけど、姉さんはいい人だと思ってるみたいだしさ……)

先生「もうすぐ冬休みに突入するわけですが、皆さんは我が校の生徒として、節度のある行動を~~」

弟(本当にいい人だったら、いいなぁ)

先生「寒くなってきてますし~~」

弟(いい人だったら……やだな)

先生「クリスマス付近は雪が降るらしいので、皆さんも風邪に気をつけて~~」

弟(嫌だ? 認めない理由がなくなるから? そうかもしれない
  授業が終わったら男に会いにいこう……)

~~放課後~~
弟(男さんを探しにいくか)

女2「ちょっと弟くん。二年生の人が呼んでるわよ?
   すごく格好いい人ね。今度紹介してくれないかしら」

弟「ありがと。確か女2さんは彼氏いたんじゃ?」

女2「いるけどさぁ。彼氏よりあの人の方が格好いいし。
   それに、もうすぐクリスマスでしょ。そんな日に男の人に奪い合いとかされたくない?
   わたしのために喧嘩しないで! みたいな。
   すっごいいい展開だと思うんだけど」

弟「……そんなことはないんじゃないかな。
  それって多分、全員が辛いと思うから」

女2「何よ。ノリ悪いわね」

弟「ごめんな。っていうか、誰だろう?」

男「よっ。弟くん」

弟「男……さん……」

男「はは。今まで通り呼び捨てでも構わないよ。
  君とは色々あったからね。
  話があってね。今ちょっとだけいいかな。屋上まできてほしい」

弟(すごい真剣な顔だ……)
 「ちょうど良かったです。オレも話があったところです」

男「それはちょうどよかった
  じゃ、いこうか」

弟「はい」

姉「いい!気持ちいいの!らめぇ!」
弟「孕めよおらメス豚あ」

~~屋上~~
男「寒いね。こんな季節だとさすがに人はいないな」

弟「そうですね。春とか秋なら賑わってるんですけど」

男「単刀直入に話そう。
  弟くんが聞きたい事はわかっているつもりだ。
  姉ちゃんのことだろ?」

弟「……はい」

男「オレは本気だ。
  ちょっと自分の事を語ってもいいか?」

弟「どうぞ」

男「確かに今までのオレはひどかったかもしれない。
  君にもひどいことをしたと思う。
  済まなかった。
  この通りだ」

弟「あ、頭をあげてください」

男「オレはずっと昔から、自分でいうのもなんだけど、
  結構もててたんだ。それで、調子に乗っちゃったんだろうな。
  落とそうとして落とせなかったのは姉ちゃんくらいだよ」

弟「はい」

男「それで、姉ちゃんを落とそうとしていて、本気になってしまった。
  こんな気持ちは初めてなんだ。
  弟くんにも、応援してほしいんだ」

弟「そう……、ですか。そのほうがいいんですよね」

男「その方が、っていうと?」

弟「オレも姉さんが好きなんです」

男「プ……、ゴホゴホ。いや、悪い。むせただけだ」

弟「……?」

男「だけど、姉弟でってのはまずいんじゃないのか?」

弟「血は繋がってないんです。
  姉さんはそういうの気にするから、絶対に言わないでくださいね」

男「ああ、男と男の約束だ」

弟「姉さんを、……う、……頼みます。じゃあ、オレはこれで」

男「任せてくれ」

~~クリスマスイブ・リビング~~
姉「弟くん。今日は来客があるんですけど……」

弟「わかってる。男さんだろ。オレは今日用事あるからさ、楽しんでてよ」

姉「雪降りそうですし、ちゃんと暖かくしていくんですよ?」

弟「わかってるって」

姉「誰と遊びに行くんです? ちゃんと遅くならずに帰ってくること。
  それと、ケーキは残しておきますから……」

弟「デートだよ、デート。遅くなるかも」

妹「え!? お兄ちゃんデートすんの!? いつの間に彼女なんて……!」

弟「うわぁ!? お前いつの間に!?」

妹「デートなんて許さな……! くないよ! ぜんぜん!
  お兄ちゃんも楽しんできてね!」

弟「あ、そうだ。妹。今日男さんって人がくるんだけどさ……」

妹「なによ。小声で。耳に息あたってるってば……」

弟「……姉さんの彼氏になるかもしれないから、よくしてやってくれよ」

妹「……お兄ちゃんは、それでいいの? 本当は彼女なんていないんでしょ?」

弟「いい。そう決めた」

妹「うん……。わかったよ。お兄ちゃんは、強いね。」

弟「ただの強がりだよ」

妹「強がりでもさ、ずっと強がっていられたら、それは本当に強いってことだと思うよ」

弟「ありがと
  じゃ、いってきまーす!」

妹「お土産アンド彼女の写真アンド体験談よろしく!」

姉「いってらっしゃい。弟くん」

弟「うん」

~~繁華街~~
弟「くっそ、みんな幸せそうな顔しやがって」

弟「っとと、遅れちゃったかな?」

弟「あれ。いないぞ」

弟「待ち合わせ場所はここだよな?」

弟「電話してみるか……」

?「弟くん、おそぉーい! 何してたのよぉー!」

弟「カマ喋りはきもいんですけど?」

弟友「タイが曲がってるわよ」

弟「お前、見た目はいいのにそんなことばっかり言ってるから、彼女ができないんだ」

弟友「いいんだよ。そのオカゲで今日、
   おそらく落ち込んでいるであろうお前と一緒にいてやれるわけだからな」

弟「弟友……」

弟友「弟……オレたちこのまま、付き合っちゃおうか」

弟「うん……そうだな。それもいいかもしれない」

弟友「弟……」

弟「弟友……」

二人「ぶは、ぶははは。ありえねー」

弟友「お前何乗ってきてんだよ。突っ込めよ。困っちゃっただろうが」

弟「オレもお前がドコまで本気かちょっと怖かったわ」

弟友「まあ、そういう訳で、男二人ぶらりクリスマスデートな訳だけど」

弟「どうすっか」

弟友「ゲーセンでもいこうぜ。プリクラとかとっちゃう?」

弟「ブッブー。男同士は立ち入り禁止だしー」

弟友「去年も俺ら、イブに一緒に遊んでたよな。明日の本番も一緒に遊んじゃう?」

弟「おっけー。それでいこう」

弟友「とりあえずゲーセン! UFOキャッチャーでさ、とりまくっちゃおうぜ」

弟「UFOキャッチャーかよ」

弟友「女の子にさ、イイトコ見せようとしてる男がいるじゃん? UFOキャッチャーって」

弟「いるな」

弟友「それを尻目に、景品とりまくっちゃおうぜ!」

弟「ばかじゃねーのお前。だが……」

二人「それがいい!」

~~ゲームセンター~~
カップル女「ねー。あーくん、あれかわいー。とってー」

カップル男「任せて。みっちゃん。みっちゃんのためなら、なんでもしてみせるさ」

カップル女「あーくん……!」

カップル男「みっちゃん!」

カップル女「でも、でもね。UFOキャッチャーにかまけて、あたしを捨てないでね……!」

カップル男「そんなことする訳がないだろ……?」

カップル女「あーくん……」

弟「あれは……なんなんだ?」

弟友「カップルでしょ?」

弟「いや、それは判るんだけど、カップルってみんなああいうことしてるの?」

弟友「さぁ……。してるんじゃ、ないかな? たぶんしてる」

弟「まじかよ……」

弟友「よし。標的はあれだ。ぬいぐるみとりまくるぜ!」

弟「ところでお前プライズできんの? オレは2,3回しかやったことないけど」

弟友「プライズ?」

弟「UFOキャッチャーことだよ」

弟友「ああ、わかった。それなら得意だよ! オレに任せて!」

弟「やたら元気いいな……。ていうか。なんでそんなに自信満々なの」

弟友「いつ彼女が出来て、あそこのカップルみたいになってもいいように、
   常日頃から鍛えていたのさ」

弟「……そうか」

~~リビング~~
男「この紅茶おいしいね。何かいいの使ってるの?」

姉「……え、ええ」

妹「お姉ちゃん、それコンビニで買ったティーパ……」

姉「しっ。……気を使って褒めてくださったんだから、そういうこと言っちゃダメ」

妹「う、うん……」

男「高い紅茶なんだろうね。オレも家だといい紅茶飲んでるから判るんだよ。
  このクセのなさはファーストフラッシュだね」

姉「男さんはお詳しいんですね。わたしはそういうのに疎くて……」

男「だったらオレになんでも聞いてくれよ。姉ちゃんや妹ちゃんにだったら、なんだって教えるよ」

妹「お姉ちゃんの方が絶対くわし……」

姉「い、妹ちゃん?」

妹「はぁい……」

姉「あ。そうでした。ちょっとお姉ちゃんケーキとりにいってきますね。
  近くのケーキ屋さんに注文したんですよー。
  一緒にいきます?」

妹「じゃあ、男さんと一緒にきたらどう?」

男「いや、オレもここで待ってるよ」

妹「え」

姉「そうですか。じゃあお姉ちゃんは行ってきます。
  お留守番、お願いしますね」

 ガチャン。

男「ところで、妹ちゃんは彼氏とかいるの?」

妹「……別にいないけど」

男「ふうん。そうなんだ」

妹(この人、ジロジロ見てきて気持ち悪い……
  でも、お兄ちゃんが応援してる人、なんだよね?)

男「だったらさ、オレとかどう?」

妹「……!」

男「いやいや。冗談だよ。そんな怖い顔しないで」

妹(お兄ちゃん。はやく帰ってきて……)

~~ゲームセンター~~
弟友「うおー! とったよ! どうだい。弟がほしいものをこんなにとってきたよ?」

弟「あら嬉しい。って別にほしくねえよ。自分でもって返れ」

弟友「ところであのカップルは……と。ふふん。こっちを見てるぞ」

弟「なんか人のデート邪魔するの申し訳なくなってきたよ。オレは……」

カップル女「見て、あの人たち」

カップル男「うん。すごい腕前だね」

弟友「フフン……」

カップル女「男同士なのに、あんなにいちゃいちゃして……」

カップル男「愛の形は人それぞれだよ。みっちゃん」

弟・弟友「!?」

カップル女「あーくん……」

カップル男「僕は、たとえみっちゃんが男になっても、絶対愛してるよ……」

カップル女「そうね。それは、すごい覚悟が必要なことよね。あの二人を祝福してあげましょう……」

カップル男「そうだね……」

弟友「や、やめろ! 俺たちをそんな目で見るなぁああああ!」

弟「お、おい。弟友! どこへいくんだ!」


弟「弟友と連絡がとれねえ……オレも帰るか」

男友「ヒョー!」

弟「この声は……! 男の友達じゃないか。このゲーセンによくいるのかな
  まあ、いいや。帰ろう」

男友「ヒョー!」

~~自宅~~
弟「ただいまー」
 (随分はやくついちゃったな)

妹「おにいちゃーん!」

弟「どうした。走ってきたりして」

妹「どうもしてないけど、けどね……」

弟「男さんはまだいるのか?」

妹「うん。いるけど……」

弟「あ、どうも。男さん。こんにちは」

男「お、おう。弟くんおかえり。……デートは楽しかったかい」

弟「ええ。それなりに」

男「じゃあオレはもう帰るよ」

弟「え? もうですか?」

男「ああ。弟くんが帰ってきたからね」

弟「いえ、別にオレが男さんを嫌ってるとか、そういうことはないですから
  ゆっくりしていってくれても」

男「いや。いいよ。姉ちゃんとは明日デートするからね」

弟「は、はい……。そうですか……」
 (姉さん……)

男「じゃ、失礼するよ」

 ガチャン

妹「お兄ちゃん、本当にあの人を応援してるんだ……」

弟「うん? どうかした?」

妹「ううん、なんでもないよ」

弟「そうか。姉さんは?」

妹「今台所で料理作ってるよ」

弟「そっか」

姉「あ、弟くん。おかえりなさい」

弟「ただいま。明日デートなんだって?」

姉「はい。そうですよー。どうしたんですか? 弟くん。
  顔怖いですよ?」

弟「なんでもない。メシある?」

姉「えっと、遅くなるかと思って……。あ、そういえば男さんは?」

妹「もう帰ったよー」

姉「あらあら。そうなんですか。あ、でしたら弟くん。ご飯大丈夫ですよ」

弟「そっか」

~~食事中~~
妹「やっぱ姉ごはんは最高だね!」

姉「そういってもらえると嬉しいです」

妹「あ、でも、これ焦げてる。何か考え事でもしてたの?
  お姉ちゃん、こういうのたまにやるよね」

姉「う……焦げてるところはわたしが食べますから……」

妹「ぱく。うん、大丈夫。おいしいよん」

姉「弟くんは、大丈夫ですか? 箸が進んでないですけど……」

弟「ああ、うん。すごくおいしいよ」
 (おいしいはずなのに、味がわからない……)

弟「……あの男のために作ったやつだからだろうか」

姉「何か言いましたか?」

弟「いいや。別になんにも」

~~翌日・クリスマス~~
姉「この格好、変じゃないでしょうか?」

弟「すごく似合ってるよ」

姉「そうですか。嬉しいです」

弟(そんな顔で笑うなよ)

姉「じゃあお姉ちゃん行ってきますね」

弟「待っ……! ……いってらっしゃい。雪、すごいから、気をつけて」

姉「すごく寒そうですね。弟くんも出かけるなら、気をつけてくださいね」

~~弟の部屋~~
妹「お兄ちゃん。ちょっといい?」

弟「どうした?」

妹「あの男って人、応援してるんだよね?」

弟「……」

妹「お姉ちゃんのこと、任せられるって思えるんだよね?」

弟「それは……」
 (任せられるわけがない。
  いや、ちがう。これはオレが姉さんのことを好きだからだ)

妹「どうなの?」

弟「…………」
 (だからオレは、男さんを信じたい……)

弟(それが、オレが姉さんのことを諦めたって証明になるからか?)

妹「信じてるの?」

弟「はっ……」

妹「お兄ちゃん。それでいいの? 本当に任せられるの?」

弟「……任せられない」

妹「……だよね。あたしもそう思った」

弟「男さんを信じてるんじゃなくて、信じたかっただけなんだ……」

妹「ばか。お兄ちゃんホントばか。ばーか。バーカ! このバカにい!」

弟「悪い」

妹「お兄ちゃんのこと強いって言ったけど、前言撤回。お兄ちゃんはバカだ。
  一人じゃ間違った道しか進めないバカだ」

弟「うん……」

妹「だからさ、……あたしとお姉ちゃんがいるんだよ。
  お姉ちゃんが言ってたでしょ。あたしたち兄妹がそろえば……」

弟「絶対無敵。なんだよな」

妹「うん」

弟「おし。じゃあさっさと姉さん探しにいくぞ」

妹「おー!」

弟「弟友にも、手伝ってもらう」

妹「あたしも友達に見かけたら連絡くれるよう、お願いしてみる」

~~某所~~
姉「わたし、こういうところってあまり来たことがないんですよ」

男「そうなんだ。若い子はみんなきてるよ」

姉「へえ……そうなんですか」

男「これおいしいから飲んでみ?」

姉「それ、お酒ですよね。未成年はお酒はダメですよ?」

男「大丈夫大丈夫。ここのバイトオレの知り合いだからさ」

姉「でも、わたしは遠慮しておきます」

男「……そ」

~~街中~~
弟「くっそ、見つからねえ。電話で状況を聞いてみるか」

弟「もしもし」

弟友『雪がつめてえ弟友くんです。どーぞ』

弟「すまん。姉さんは見つかったか?」

弟友『わり、まだ見つかってない。そっちはどうだ?』

弟「こっちもまだだ。……クリスマスだってのに悪いな」

弟友『気にすんなよ。ま、上手くいったらお前の姉ちゃんの友達でも紹介してもらうよ』

弟「おう……」

弟友『それにしても、お前もさ、俺にくらい相談してくれてよかったんじゃね?
   何年一緒にいると思ってんだよ』

弟「すまん」

弟友『その感謝の意を現実に存在する物体にして、オレに渡すといいと思うよ。
   ま、なにか進展あったらまた電話くれ』

弟「もしもし」

妹『もしもし、お兄ちゃん? あのさ、今電話しようと思ってたんだけどね!
  友達が繁華街のほうでお姉ちゃんらしい人を見たって!』

弟「おし。さすがだ妹。そっちの方を探してみる!」

妹『あたしもすぐ向かうから!』

弟「おう。現地でな」

弟「あ、弟友? あのさ、繁華街のほうを調べてほしいんだけど……」

弟友『おう。でも、繁華街は広いぞ? 遊ぶところなんていくらでもある。
   他に心当たりはないのか?』

弟「心当り……。あ、そういえば……」

弟友『なにかあるんだな?』

弟「おう」

弟友『じゃあオレは繁華街いってるから、心当たりを当ってこい』

弟「すまん」

弟友『すまんじゃなくて?』

弟「そのうち物体化するさ」

弟友『りょーかい』

弟「オレは、あそこへ向かうか……!」

 ズルッ。

弟「いってえ……こけた……」

~~~~~

?「ヒョー!」

~~ゲームセンター~~
男友「ヒョー!」

男友2「お前、男さんに女の子いっぱい紹介してもらったんだろ?
    なんでクリスマスにオレなんかとゲーセンいるんだよ」

男友「全部振られた!」

男友2「そうか……。何も言うな」

男友「ヒョー!」

弟「はぁ、はぁ……」

男友2「うわ、雪まみれでゲーセン入ってくんなよな……
    鼻血まで出てるし。雪に赤って、イチゴシロップですかァ?」

男友「カキ氷食べたい」

弟「すみません。男さんの友人の方ですよね?」

男友2「あ? 男さん? そうだけど、だったらなんだっつーんだよ」

~~繁華街~~
弟友「あ、妹ちゃん!?」

妹「確かあなたは、兄さんの友達の……」

弟友「弟の姉さんを繁華街で見たって聞いて」

妹「あたしもそう聞いたよ。他はなにか情報ありますですか?」

弟友「こっちはそれだけ。
   あと、無理に敬語使う必要ないって。タメ口でいい」

妹「そうなの? そう言ってもらえると助かるよ。
  えっとね、ここから、あっちのファミレスの間までは調べたよ。
  学生が入っても大丈夫そうなところは大体」

弟友「りょうかい。残りを探せばいいわけね? カラオケとかも調べた?」

妹「うん。男さんの苗字かあたしの苗字を受付で聞いてる。待ち合わせしてたっぽくね」

弟友「頭いいな。それなら随分時間が短縮できるよ」

妹「でも、まだ少しだけしか調べられてないけど……」

弟友「うん……広いからね」

妹「ま、さがそ? あたしはあっち側探してくるから」

弟友「了解」

~~カレー屋~~
男友「ヒョー! カレえ!」

男友2「……ああ。いや、そうじゃなくて、どうしてこんなことに」

男友「飯をおごってくれるヤツに悪いやつはいない!
   弟 イイヤツ ヒョー!」

弟「それで、男さんは今ドコにいるか判りますか」

男友「電話かけてみる。……食べ終わってからでいい?」

弟「すみません、すぐ知りたいんです」

男友2「おい、男友。やめとけよ。あとで男さんに怒られるぞ」

男友「ヒョー!」

男友2「オレは知らないからな」

男友「だめだ。男さんでない」

弟「心当たりとかはないんですか」

男友「確か、カラオケ屋だ。どこだっけ」

弟「どこですか。教えてください」

男友「どこだっけ……」

弟「お願いします……!」

男友「忘れたかも」

男友2「ああもう! いいか? おい。弟っつったか?」

弟「はい」

男友2「いいか? オレとお前はここで会話していない。もちろん男友とも会話していない。
    ただカレー屋で隣の席に座っただけだ。
    言ってる意味わかるか?」

弟「はい。オレはカレー屋に入って、水を飲んだだけです」

男友2「男はすぐに女を襲う習性がある」

弟「……!」
 (姉さん……!!)

男友2「お前も好きな女とられかけたりしてんだろ? ……わかるよ。俺も、そういうことあったから」

弟「男はドコにいるんですか!!」

男友2「で、これは男友に話しかけている訳だが。
    おい、男友。確か男がよく使うカラオケって、繁華街の、裏路地の通りじゃなかったか。
    人通りが少ないところだ」

弟「はい! ありがとうございます!」

男友2「待て」

弟「……?」

男友2「人通りが少ないから客も少ない。っつーことは店員も少ない。
    男の友達ばかりだ。気をつけろよ。使いやすい部屋は、トイレの近くの隅っこの部屋だ。
    あそこなら外からは死角になってる」

弟「はいっ! 失礼します!」



男友2「いったか」

男友「ヒョー! かれえ!」

男友2「いいか? 男友。お前も絶対言うなよ」

男友「別に隠す必要ないんじゃね?」

男友2「ああもう、カレーもう一杯おごってやるから……。
    ちくしょう。オレ損してるだけじゃねえか」

男友「ヒョー!」

弟「弟友と妹に連絡しないと……!
  !?
  携帯がない!?」

弟「ちくしょう……。こけたときに落としたのか……」

弟「姉さん! 今行くから! 無事でいてくれよ……!」

弟「くそ、運良く妹と会えたりは、さすがにしないよな……」

おばさん「あらやだ。弟ちゃんじゃない。そんなに急いでどうしたの?
     今日は一人なのね?
     うちの息子も一人寂しいクリスマスなのよぉ」

弟「すみません、おばさん。今急いでるんです!
  あとでいくらでも話なら聞きますから!」

おばさん「あらそうなの。待ち合わせ? 遅刻はいけないわよー」

弟「姉さん、今行くから……!」

おばさん「そう。お姉さんとなの。うちの息子と一緒だわ。がはは」

~~街中~~
弟友「妹ちゃん! こっちは調べたよ! いない!」

妹「こっちもいなかった! ったく……お兄ちゃんは何処にいったのよ」

弟友「弟? 弟なら心当たりを当ってみるって……」

妹「心当たり!? ちょっと、お兄ちゃんに電話してみる!」

弟友「どう?」

妹「……繋がらない」

弟友「変なことになってなきゃいいけど……」

妹「お兄ちゃん……」

~~カラオケ屋の一室~~
男「ねえ、姉ちゃん。そろそろいいよね?」

姉「え。えっと、あの、困ります……」

男「ハァ? どんだけ待たせんだよ。オイ」

姉「そういうことはですね、お付き合いして時間がたってからするべきで……」

男「時間なら経ってんじゃん。俺ら子供の頃から知り合いだしさ」

姉「うう。そんな意味じゃないですよ。……弟くん……」

男「あんまうるさいと、ここでバイトしてる仲間呼んじゃうよ?」

~~裏路地のカラオケ屋~~
弟「はぁ、はぁ……ここか? 本当にカラオケ屋なのかよ……。うすぎたないな」

弟「店員もいないな……店員を呼ぶのにはベルを使うのか」

弟「……金なら後で払うってことで!」

弟「確か……トイレの近くの部屋だったな……!」

弟「ここか……」

女の声「あ、あん。だめ。だめだってば。乱暴にしちゃだめえ」

男の声「大丈夫だって。この位置だと外から見えないからさ」

弟「やめろーーー!!」

チャラ男に好きな幼なじみをやり捨てされた経験を持つ俺からしたら
こんな男には惨たらしい死に方してもらわないと気がおさまらないぜ

>>209
お前もか、奇遇だな
お前とは良い酒が飲めそうだ

00分でリセットなのか。知らなかった。さんくす。
---------------------------------------------
客女「え、ええ!? ばれないんじゃなかったの!?」

客男「いや、入ってくるとか思わないし!」

弟「……違う部屋か!」

~~カラオケ屋の一室~~
男「なあ、いいじゃん? 別に好きな男いないんでしょ?」

姉「……弟くん。……信じて上げられなくて、ごめんね」

男「何一人で呟いちゃってんの? あいつはこねーよ。
  オレと姉ちゃんの仲を応援してくれてるってよ
  本当、騙されやすいやつだよなぁ」

姉「弟くんの悪口を言わないでください!」

男「にらんできてんじゃねえよ!」

姉「ビクッ!」

男「オレのこと嫌い? 嫌いじゃないなら……」

姉「嫌いです! あなたは、最低です!」

男「そこは嫌いじゃないですって言うところだろ。オイ」

姉「痛い! 髪を引っ張らないで……」

 ガチャン!

弟「てめえええェェェ! オレの、姉さんに、何をやってんだよおおォォォ!」

 ガツ!

男「ぐぅっ……。い……ってえ」

姉「弟くん!?」

男「いってえじゃねえか! オラァ!」

 ガス。

弟「げふ……!」

男「前殴られてわかんなかったのかよ!? お前みたいな貧弱くんじゃオレには勝てねえんだよ!」
 
 ガッ。

弟「うぐ……」

男「その辺わかってんのかよォ!?」

姉「や、やめてください! 弟くんにひどいことしないでください!」

男「だったら姉ちゃんがされる? ひどいこと。なぁにしようかなぁ~」

弟「勝手に話進めてんじゃねーよ!」

 ガッ!

男「いってえ……。……止められなかった?」

弟「身体の動かし方とかさ、ちょっと判ってきたんだよ……。
  アンタには絶対負けない……!」

男「ちょっと当るようになったからなんだってんだよ。オイ!」

 ゴッ!

弟「ぐ……」

男「まあでも、面倒だしな」

 ビーーーー!

弟「……インターフォンを押した? まさか……
  姉さん、逃げて……!」

姉「で、でも、弟くんを置いていく訳には……!」

弟「いいから! 姉さんがいると邪魔なんだよ……!」

姉「弟くん……! 誰か呼んで来るから!」

男「ああん? 何余計なことしてんだよ? このカスが」

姉「きゃあ!? なんですか、貴方たちは……! 離してください!」

店員1「チース。男さん。なんか面白い展開じゃないスか?」

店員2「俺ら混ざっていいんスか?」

男「おう。最初は混ぜるつもりなかったんだけどさぁ、弟くんが変に入ってくるからね」

弟「男ォォォ!」

男「ってことで、恨むなら弟くんを恨んでね。姉ちゃん。
  オレは最初はフツーに付き合って、優しくしてあげるつもりだったんだよ?」

姉「キッ……!」

弟「てめえら! 姉さんに何かしやがったら、絶対許さない!
  三人全員ボコってやんよ……!」

店員1「なんスかこのシチュエーション。弟の前でとか、超燃えるんスけど」

男「言っとくけど、こいつら喧嘩すげえ強いからさ。一人ずつでもどうにもならないよ?」

~~街中~~
妹「お兄ちゃん。どこいったのよ……」

弟友「もう諦めて他探したほうがいいんじゃないかなぁ?
   弟は弟でちゃんとやってるだろうし……」

おばさん「あらやだ。妹ちゃんじゃない。クリスマスにデート?
     いいわねえ。うちの息子なんか~~」

弟友「誰この人」

妹「えっと、近所のおばさん……」

おばさん「彼氏? ……軽そうねえ。妹ちゃん。どう?
     別れたらうちの息子と~~~」

弟友「なんてこというんだ。このおばさんは……」

妹「それよりおばさん。お兄ちゃん見ませんでした?」

おばさん「弟くん? 弟くんなら、血相かえて路地裏のほうに飛んでいったけど……」

弟友「! 妹ちゃん!」

妹「いくよ!」

弟友「あっちのほうだと、怪しいカラオケ屋がある!」

~~~~~~
妹「店員さん、いないね……」

弟友「そうだね。どうしよっか? 待つ?」

妹「その間に何かあったらどうするのよ」

弟友「デスヨネー」

妹「なにそれ。あたしをバカにしてるの」

弟友「イイエー。ベツニー。で、どうやって探すつもりなの?」

妹「全部の部屋を見ればいいのよ!」

弟友「This is 非効率的」

妹「……弟友さん、ふざけてないで……」

弟友「ふざけてなんかないさ。こういうカラオケ屋だとさ、
   そういうことするには何処がいい? 考えてみて?」

妹「……相手は見つかりたくないよね」

弟友「そう。そこがポイント。っつーことは?
   見えにくい位置にある部屋だよ。あのトイレの近くとかね」

妹「なるほど! 行くわよ!」

女の声「あん! あんあん!」

妹「!!!! 女性の声が!」

男の声「さっきは邪魔が入っちゃったけど、もう邪魔なんか入らないさ。
    あんなこと、そうそうあるもんじゃないし」

 ガチャリ。

弟友「おっとォ! 不埒な悪行三昧、そこまでだ! それ以上の醜行はこの弟友様が許さないぜ!」

客女「きゃあああああ。どうなってるのよおお!」

客男「またかああああ!」

弟友「……こんなクリスマスの賑やかな夜じゃねえか。彼女さんを、ホテルぐらいにはつれてってやりな
   …………っていうか、すまん」

 ぱおーん

妹「あわわ。なんか、ついてる……」

客男「もう、もう許さないぞー!! 動くなー!」

妹「きゃああああああ! 迫ってくる! 弟友さん、止めて!」

弟友「オレだっていやだああああああああ」

客男「うおおおおおおおおお!」

~~~~~~
男「はは。弟。余計なことしなきゃよかったな?
  お前の大好きな姉ちゃんが、お前のせいで余計苦しむんだよ」

弟「……!」

姉「お姉ちゃんは、大丈夫です。弟くんは悪くありません」

弟「ごめん、姉さん……」

姉「お姉ちゃんのためを思ってしたことが、たとえ悪い結果を招いたとしても
  それでも! それが相手のことを思っていたなら、それが悪い行いの訳がないんですよ」

弟「姉さん……」

男「そんな甘いこと言ってられるのも今のうちだけだろ。おい」

店員1「ウス」

店員2「うぃッス」

 ガチャリ。

弟友「おっとォ! 不埒な悪行三昧、そこまでだ! それ以上の醜行はこの弟友様が許さないぜ!」

客女「きゃあああああ。どうなってるのよおお!」

客男「またかああああ!」

弟友「……こんなクリスマスの賑やかな夜じゃねえか。彼女さんを、ホテルぐらいにはつれてってやりな
   …………っていうか、すまん」

 ぱおーん

妹「あわわ。なんか、ついてる……」

客男「もう、もう許さないぞー!! 動くなー!」

妹「きゃああああああ! 迫ってくる! 弟友さん、止めて!」

弟友「オレだっていやだああああああああ」

客男「うおおおおおおおおお!」
ガチャリ…はああああぁぁぁあぁぁ!!!!!!
客男「ぅわああああぁ!!!」その瞬間客男はまばゆい光に包まれて消えていった…
T「危なかったな、お前もヤツの食い物にされるところだったぞ」
男友「あ…ありがとう」妹「…ございます」
T「まあ楽しく過ごせや。せっかくのクリスマスなんだしよ…」
そういってTさんは客女を連れてドコかへ去っていった。寺生まれって凄い、改めてそう思った。

よく知っている男の声「あああああああああああああ!」

よく知っている女の声「ああああああああああああああああ!」

どこかで聞いた覚えのある声「うおおおおおおおおおおおお!!!!!」

姉「この声は……」

弟「あいつら……」

男「な、なんだ? 何の声だ?」

店員1「どこかで騒いでるやつがいるんじゃないスか?」

店員2「オレ見てきましょうか」

弟「……フン」

男「生意気な態度とってんじゃねえよコラ」

弟「わからないのか。……きてくれたんだよ」

男「意味わかんねえこといってんじゃねえよ」

弟「助けにきてくれたんだよ。オレの頼りになる友達と、家族がさ!」

妹「お兄ちゃん! お姉ちゃん! 大丈夫なの!?」

弟「妹……!」

姉「妹ちゃん……!」

弟友「とうっ! 輝ける銀の流星・弟友! 今! ここに! 推参!」

弟「……弟友」

姉「戦隊物を思い出しますね」

男「ふざっけやがって……。このオレをバカにして……!」

ぱおーん!

フルチンの客男「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

弟「え”……」

姉「あらあら……」

男「いい加減にしろ!! バカにしやがってええ!!
  お前の頼りになる仲間か! これがか!
  まぁ、いい。おい、さっさと片付けちまえ」

店員1「うス」
店員2「うぃッス」

ゴツッ!!!

店員1「うっ……」

ぐらり。

男「お、おい。店員1!?」

姉「あらあら、大丈夫でしょうか……」

弟「姉さん……。それはマイクで殴っていう台詞じゃないと思う」

店員1「よくもやってくれたッスね。不意をつかれなきゃお前らなんてこうッス」

 ドゴン!

弟「……テーブルにヒビが……!」

弟友「おいおい。あんなの無理だろ……」

弟「姉さん、妹、今のうちに逃げてくれないか」

妹「あたしだって!」

弟「妹! 女の子がいると、余計心配になるんだよ。だから、頼むよ……」

妹「お兄ちゃん……」

姉「妹ちゃん。いきましょう」

 ダッ。

男「そうはさせるか! オレは女どもを追う! 店員1! ここは任せたぞ!」

店員1「うス」

 ぱおーん!

客男「おまえら! おまえらあああ! 僕になんの恨みがあるっていうんだ!
   ホテルは何処も予約でいっぱい!
   クリスマスはホテルも足元みてきやがるし割高だ!
   財布にも金がねえ!
   クリスマス難民の僕に、何の……!!!」

店員1「うス!」

 ドゴン。

客男「ぐ、ぐえええええ」

弟友「ぱ、ぱおーんが一撃で……」

弟「なんて、強さだ……」

弟友「でもさ、ここはオレに任せとけ。
   さっさと妹ちゃんと姉ちゃん助けてこい」

弟「すまん……!」

弟友「すまんは言わないお約束」

弟「あとで物質化する!」

弟友「オッケー。よっしゃ、こいよ。ウスしか喋れないのかよこのヤロー」

店員1「うううッス!!!」

~~人気のない裏通り~~

弟「妹!? どうしたんだ! そんなとこに倒れて……」

妹「う……。大丈夫。足をくじいただけ……。それよりお姉ちゃんが!」

弟「どっちだ!」

妹「男がお姉ちゃんを追っていったの! あっちのほう!」

弟「くそ……余計人が少ない場所じゃないか……! 姉さんはこんなところ、こないからな」

妹「はやくいって! お兄ちゃん!」

弟「おう!」


妹「……あはは、冷たいな。雪まみれだ。
  お姉ちゃんは、大丈夫なのかな……」

姉「はぁ……はぁ……」

男「何処まで逃げるのかなー? っていうか、人気のないほうきちゃってさ
  もしかして誘ってる?
  オーケーオーケー。それじゃご期待にこたえまして……」

姉「ばっかじゃないんですか!?
  そんなことして、何が楽しいですか!
  本当にかわいそうな人」

男「可哀想でケッコーだよ。オレは今のままで十分満足してるからさ
  先に言っとくわ。ごちそーさん」

姉「弟くんなら、きっと、きてくれます……!」

男「ああ、あのキモイ弟ね。ハハ。今頃店員1にやられてんじゃねーのか。
  アイツ、男でも女でもどっちでもイケるからよ」

姉「……!!!」

~~~~~~
弟友「くそ、てめえ! やめろ! 気持ちわりぃんだよ!」

店員1「グフゥススス」

弟友「そんな目で見るな!」

店員1「さっさとオレにつかまるといいッス」

弟友「嫌な予感がするから、ぜってー嫌だ!」

店員1「すばしっこいヤツッスね」

弟友「このままテーブルの周りを回り続けて、逃げ続けてやる……!」

店員1「そうは問屋が卸さないっす」

弟友「テーブルの上に…………乗りやがった…………!?」

弟友「だが、甘い。甘い! 甘すぎる!」

店員1「うス?」

弟友「墓穴を掘ったな。そのテーブルはお前が殴ってヒビが入っているんだよ……」

店員1「……!!」

弟友「そうだな。北斗風にいうならば……

   テーブルはすでに、折れている!」

  バキン!!

店員1「うううスぅぅ?! 折れたテーブルにはまって、動けない!」

弟友「フッ。クリスマスの夜はテーブルと一緒に熱く激しく過ごすといいさ。
   アディオス……!」

   ダッ!


店員1「アディオスは、スペイン語でまた会おうって意味スけど……もしかして、オレのこと……」

弟友「妹ちゃん! 大丈夫か!?」

妹「寒い……寒いよ……」

弟友「妹ちゃん! しっかり! はやく、どこか暖かいところに連れて行かないと……!」

妹「……お兄ちゃん……」

弟友「近くのファミレスにでも連れて行くか……」

弟友「おい、弟……大丈夫なのかよ……どこにいるんだよ」

~~~~~~
男「フン。あんなやつらが店員1に勝てる訳ないだろう
  弟がくるわけがない……忘れられないクリスマスにしてやるよ」

弟「男は知らないのかよ。そういうの、フラグ、っていうんだぜ?」

男「弟…………!!」

姉「弟くん!!」

弟「ハッ。別の意味で忘れられないクリスマスになりそうだよ
  雪まみれで男と殴り合いなんてなァ……!」

  ドガ!

男「げふぁ……」

  ガッ!

男「いてえ……。いってえよぉ……。なんでこんなことするんだよ。
  もう嫌だよ。
  やめてくれよ……!」

弟「ふざけんなよ。姉さんの心は、もっと痛かったに決まってるんだよ!

  ガッ

弟「変な男に連れて行かれて、閉じ込められるんだぜ……!」

  ガッ

弟「何されるかわかんねえ……。それで、怖くない訳がねえだろうが!!」

男「や、やめてくれよ……」

姉「弟くん。もういいんです。わたしは、大丈夫です……。
  弟くんまで傷つくこと、ないんです……」

弟「姉さん……」

男「くそ……」

姉「男さんも、よろよろじゃないですか……。
  もう、わたしたちのことは忘れて、そっとしておいてください……」

弟「……ごめん。姉さん。ちょっとおかしくなってたかも」

 ドガ!!

弟「ぐあっ……」

男「何後ろ見せてるんだよ! 転がっちまってだっせえええ!
  もういい!
  こんな痛いのはゴメンだ!
  お前らなんてもうしらねえ! オレに関わるなよ!
  そうだ、姉ちゃん。最後に一ついいことを教えてやるよ」

姉「弟くんに、なんてことを……」

男「弟くんは、姉に思いを寄せるゴミッカスなんだぜ!
  いくら義理の姉弟だからってよォ!?
  そりゃねえよな!?」

弟「ね、姉さん、違う。それは、違うんだ……」

男「何が違うんだよ。絶対言わないでくださいとか言ってたじゃねーか」

姉「弟くんが……弟くんじゃない?」

男「じゃ、そゆことで。二度とオレに近づくんじゃねえぞ!」


姉「弟くん……」

弟「姉さん。あれはあいつが言った嘘だよ。気にしちゃだめだ」

姉「弟くん!」

弟「…………」

姉「お姉ちゃんに、本当のことを教えてください……」

~~~~~~
男「くそ、ひどい目にあった……。
  次はもっと上手くやってやる……!
  女Eの所でもいくか……」

弟友「おうおう。男さん。あんた色男だったけど、
   さらに男前になっちまったようだね」

男「…………!?
  店員1は一体なにを……!!
  そうか! お前身体でたらしこんだな!
  なんて汚いやつだ……!」

弟友「たらしこむ? こええ。あいつそういう趣味なのかよ。
   通りで変な目つきしてたはずだな」

男「違うのか!? じゃあ、どうして……」

弟友「あいつなら今頃机とメイクラブさ」

男「くそ……!」

弟友「それにな。妹ちゃん。お前のせいで救急車で運ばれたよ。
   ……命に別状はないらしいけどな。
   でもよ、親友の家族がひどい目にあったんだぜ。許せるか?
   許せねえよな」

男「しゃらくせえ! お前くらいオレ一人でも……!」

弟友「そんなにボロボロなのに、なんとか出来ると思ってるのかよ!」

  ドカ

男「うぐ……」

弟友「お前にはまだ来てもらうところがある……」

男「は、離せ! やめろぉっ!」

~~~~~~
姉「もう一度言います。お姉ちゃんに本当のことを教えてください」

姉「そんなにお姉ちゃんは信用できませんか?
  お姉ちゃんは最近、弟くんのことが、ずっと心配でした」

弟「ごめん」

姉「ずっと口聞いてくれませんし、今だって危ないことをしてました」

弟「……ごめん」

姉「どうしたら、弟くんの悩みは消えてなくなりますか?
  ぜんぶぜんぶ、お姉ちゃんに聞かせてください」

弟「姉さんはっ……」

姉「……はい」

弟「姉さんは、何があってもオレの姉さんだから。
  絶対絶対、オレの姉さんだから。
  だから、オレの話を聞いてくれる?」

姉「はい。どんな話でも」

弟は義理の姉弟だということを一通り話した。

姉「そうでしたか……」

弟「隠しててごめん……。姉さんがショックを受けると思ってさ……」

姉「本当にショックです」

弟「……」

姉「そんなにお姉ちゃんは信用できませんか?
  たったそれだけのことで、関係が変わってしまうような絆だと思ってるんですか?」

弟「おも……わない」

姉「だったら!」

弟「びく!」

姉「だったら、話してください。なんでも話してください。
  弟くんと妹ちゃんの話なら、何でも聞きたいです
  お姉ちゃんは、お姉ちゃんはぁ……」

弟「姉さん。泣かないでくれよ……」

姉「だって、だってえ! 弟くんがぁ……!」

弟「姉さん……。とにかく、泣き止んでくれ。このままじゃ帰れない。
  ……クリスマスに泣いてる女の人なんか、連れて歩けないだろ」

姉「は、……はい……ずびばぜん……」

弟「よしよし」

姉「……お、お姉ちゃんにとって、一番気になる男性は弟くんだと、思うんです」

弟「何か言った?」

姉「いえ。何もいっでないでず……」

~~~~~~
弟友「ヒャッハー」

男「はは……。俺の仲間のとこに連れてくるなんて、お前は阿呆なのか?」

弟友「そこのテーブルにはまった男と、
   未だに気絶したままの男が頼りになるというのなら、その通りだ
   ……裸の客男はもうどこかへ行ったみたいだな」

店員1「出れないッスー!」

弟友「おい、そこのいどまじん。お前、男のこと好きか?」

店員1「好きッス!」

男「おまえ、まさか……」

弟友「……むさぼり食え。そこで寝ているやつにも起きたらおすそ分けしてやりな?」

男「や、やめろ! 投げるんじゃない!」

店員1「ううッス! 男さんが飛んできたッス!」

店員2「う、う~ん」

弟「メシのにおいにつられてもう一人もおきたようだな」

店員1「ごちそうッス! ごちそうッス!」

男「ああ、ああああん!」

店員2「う、うーん。ッスぅ」

弟友「じゃあな。 メリー・クリスマス
   良い、性夜を……」

~~病院の一室~~
妹「つまり、お姉ちゃんとお兄ちゃんは血が繋がってなかったわけ?」

姉「そうみたいです」

弟「んで、それで……だな」

姉「弟くんと妹ちゃんも、血は繋がってないらしいですよ?」

妹「な! え、どういうことなの! お兄ちゃん橋の下!?」

姉「それで、妹ちゃんとわたしが姉妹だったみたいです。
  あと、橋の下というのは正しくないのですけれど、
  わたしと妹ちゃんが養女らしいです」

妹「……そうなんだ」

弟「……オレも、そこまでは知らなかったんだ。でも隠しててごめん……」

妹「ホントだよ。この、バカ兄……」

姉「妹ちゃん……」

妹「……そうなんだ」

弟「……オレも、そこまでは知らなかったんだ。でも隠しててごめん……」

妹「ホントだよ。この、バカ兄……」

姉「妹ちゃん……」

妹「なぁんで、そんなこと隠してるかな
  バカじゃないの」

弟「な……! バカってお前……!」

妹「え? だって、関係ないでしょ。たとえ血は繋がってなくてもさ、
  今まで過ごした時間は、嘘じゃないよ?」

弟「……そうか」

妹「むしろ、本当の兄じゃなかっただけ良かったよ。
  絶対落とすから覚悟しててね?」

弟「え”……。でもオレは姉さんが……」

姉「あらあら。どうしましょう。とりあえず半分コしちゃいます?」

妹「あ、じゃああたし上半身がいい!」

姉「じゃあお姉ちゃんは頭だけでいいですよ」

妹「えー。そしたらあたし会話できないじゃん!」

弟「おまえらさ、そんなくだらないことで騒ぐなよ……。
  こんなので喧嘩とか馬鹿馬鹿しすぎる」

妹「でもさぁ。喧嘩したって、大丈夫だよね?」

姉「ええ。何故か喧嘩してもう会わないとか、そんなことになる気がしませんね」

弟「ま、そうだよな」

妹「だってさぁー」

姉「わたしたち姉弟が集まったら……」

弟「絶対無敵。だろ?」

姉「あー!! 弟くん! お姉ちゃんの台詞とらないでくださいー!」

妹「っていうか、あたしも言いたかったし」

弟「今日も空がきれいだな……」


姉「ご、ごまかさないでくださーい! また反抗期ですか! 弟くーん!!!」




--------------END---------------

皆様の暖かい支援のおかげで最後まで書ききることができました。
長い間お付き合いありがとうございました。

最後にいくつか訂正です。

マイクで殴られて気絶したのは、店員1ではなく、2のほうでした。
消失したみたいになってますねw

あとは>>2>>3の間に以下の文章が入ります。
手落ちおおすぐるw


---------------------------------------------
姉「ちゃんと洗ってきましたね。えらいですよ。じゃあ、いただきますしましょうか」

妹「あれ、そういえばお兄ちゃんは? まだ寝てるの?」

姉「弟くんはもう行っちゃいました」

妹「えー!? あのお兄ちゃんが!? こんなに早く!? ……信じられない」

姉「あと、なんか元気ないというか、拗ねてるというか、様子がおかしかったんですけど、妹ちゃんは心当たりはないですか?」

妹「そういえば昨日テレビでやってたね。いつまでも家族とベタベタしてる男はダサいみたいな特集」

姉「そんなことはありません!」

妹「お、お姉ちゃん落ち着いて。お姉ちゃんが家族を大事にしてるのは知ってるけど、そういう見方も世の中にはあるってだけだからさ」

姉「……すみません。少し取り乱しました」

妹「まあいいけどね」

姉「確かに彼女さんとかできると、そういう考えになってしまうのかも」

 ガコン!

姉「い、妹ちゃん? テーブル叩いたらダメですよ?」

妹「お兄ちゃんに彼女だなんて! 許さないんだから!」

姉「と、とりあえず、学校いく準備をしましょうか。途中まで一緒に行ってもいいですか?」

妹「……はあはあ。うん、一緒にいこー。お姉ちゃん」

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