【咲安価】京太郎奇怪綺譚:XXIV巻目【都市伝説】 (1000)

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                          ̄

・咲-saki-の安価スレです
・原作とは違う性格付け・設定付けをされたキャラが登場する可能性があります
・現実に実在する人物、団体とは一切関係がありません。ここ重要
・色んな意味で広い目で見てください
・何かおかしい事があればそれはフリーメイソンってやつの仕業なんだ


前スレ
【咲安価】京太郎奇怪綺譚:XXIII巻目【都市伝説】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1378205285/)

このスレのこれまでがだいたい分かるWIKI
http://www55.atwiki.jp/kikaikitan/

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1379351548


【次回予告】




「俺は、一人じゃない」


「私は、ずっと一人だった」




「だから、俺が勝つ」


「だから、私が勝つ」




「「ここで終わらせよう、全て」」






絆/光が勝つか、独り/闇が勝つか。






第二十五話前編:Yesterday When I Was Young/帰り来ぬ青春

本日の投下はこれにて終了。お疲れ様でしたー

ふへへ、>>1が今日早くないと、いつから錯覚していた・・・?

とりあえず家出るまであと一時間かな


次回、決戦。ネクサス延長はもちろん一日なので持ちますよ


今夜はこれにて。細かい所は帰ってきてからにします


お付き合い感謝感激雨霰。おやすみなさいませー

乙ー
>>1の生活大丈夫なんか

相変わらずの長丁場お疲れ様です
あまりにアレなら>>1の生活、健康資本で進めてね?

腕輪がNext?になってんだよな
>>1はコピペがずっとそのまんまだからたぶんNexus?なんだろうけど

乙っす
後2週間でとか言ってたけど>>1の無理なく進めてください
遅くなったけどフリーメイソンアンサーざまぁぁぁぁ!!

>>24
アンサーが廊下を生きて抜けられたらって言ってるし、罠はあるんじゃない?宥姉が予定だったとか
そういやネクサス1日分のストックまだ余ってるんだよな
もう1日なんかあるフラグ?それとも別のとこで使っても良かったという>>1のサービス?

マハラジャ・ディスコんばんわ


最終決戦前にお気に入りのキャラに持たせた精一杯の贔屓
http://i.imgur.com/70Q4XEA.gif


そういえばウィザード終わりましたねー
ライダー界で相棒死→復活の流れが定番化しかけていた所に苦目のビターエンドでした
Missing Pieceもいつか使っていきたいです



前スレ
>>871
今は何故か石の周りにだけうっすらと残滓が残っていた、程度に考えておいて下さい

>>885
京太郎が居なかった世界=黒太郎も来なかった世界=謎の女さんが来ない世界

>>933
アマートルシフトはホシガミシフト等と同類項ですー
ジュネッスから派生する枝葉の一つになります。基点格納:魔物格納=1:1なので


今スレ
>>10>>14>>20
好きでやってる趣味ですし
ゲームで夜更かしするようなもんですよー

>>15
ほげっ
『腕輪:Nexus?』に脳内修正を・・・

>>25
ふふふ



http://rocketnews24.com/2013/09/14/369183/
カエルだって空を飛ぶこの時代

遂に次が最終決戦なのか

2回のがしたいいですともは今回は参加したい

次回作は>>1の京竜が沢山見れるわけか
今から既に楽しみだ

この世界の京ちゃんの私服が想像できねえ

ここの京ちゃんは常に学ラン着てるイメージ

では今夜21:00から二十五話前編開始しますー
早く始めたくとも時間が(ry
最終決戦前半戦はっじまーるよー


http://i.imgur.com/x6gcmLa.gif
すごく今更ですがこの子活躍させたかったなー



>>66
今回はかなり時間が幅広く取れると思いますので後編で投下さえ追っていれば大丈夫かとー

>>68
あうち、これは痛恨の誤解
次回作はメインに一人据えるんじゃなく、メイン数人のエピソードで回す予定でして・・・
こう、メインで輝く一人的な。中編予定ですし

>>69>>70
http://i.imgur.com/QPcgv3C.jpg
・・・こういう服とか? いや特に考えてないっすけど、憧ちゃんとか服買いに付き合ってくれそうですよね



http://togetter.com/li/555036

やっぱり最後は強さ弱さじゃなくて絆と愛が勝つってはっきり分かんだね

……スマブラ

よく滅ばなかったな、りつべ市

>>89
スマブラ1から始めたいですぅえ

>>90
なんだかんだ大人も子供も有能ですからね



特に意味のない画像
http://i.imgur.com/sCRpVht.jpg



では、最終決戦前編投下はっじめーるよー

正義の味方が悪者にこう言った。

「お前が何かをすると理不尽な事しか起こらない。やめてくれ」


悪者は、笑ってこう言った。

「悪者が悪い事をすれば、理不尽な事になるのは当然だ」



悪者が正義の味方にこう言った。

「お前が何かをすると理不尽な事しか起こらない。やめてくれ」


正義の味方は、笑ってこう言った。

「正義の味方が良い事をすれば、理不尽な事になるのは当然だ」



正義の味方の背中から、襲いかかる理不尽から庇われていた子供が歩み出してきた。

その子供は、こう言った。

「ねえ」

「二人が言ってるその理不尽って、誰にとっての理不尽なの?」

「なんで二人は、それが嫌いなの?」



二人は答えた。



子供は、正義の味方に歩み寄って手を握る。



いつかどこかで誰かが目にした、この世界における正義と悪の変わらぬ構図。

気づけば意識は、光の中にあった。

地面も無く、空も無く、そもそもにおいて距離の概念すら見当たらないのだから、上下左右前後すら無い。

重力の存在すら断言できない光の中で、京太郎は誰かと向き合っていた。



京太郎「……アンタ」

「初めまして、とは言いたくないもんだな。お前の視点からすれば初対面だろうが」

京太郎「……もしかして、俺の父さんだったりする?」

「パパだぞー。ハグしてやろうか?」

京太郎「いらねえよ」



その顔に見覚えはない。そういう全体で見れば、子の面影が見えるかもしれないという程度。

会った事すら無いし、話した事すら無い。父と呼んだ事すら無いのだ。

母親似の京太郎に、その人物を父と思う理屈も根拠もない。

だからこの人物はただ京太郎の願望と理想を反映しただけの幻影で、現実は欠片も関係の無い夢なのだろう。

この現実感の無い光の風景が、その思考を後押ししている。


……それが、当たり前の結論であるはずなのに。


京太郎は、どうしてもその男を「幻覚だ」とは思えなかった。

奇妙なリアリティ。もしもこの光景を「現実だ」と少年に囁く者が居るとするならば。


それは姦姦蛇螺となった母を初めて目にした時と同じく、彼に流れる血の半分と継がれた魂に他ならない。



「希望の事、感謝する」

京太郎「……息子だからな。あんな救いしか、手渡せなかったけど」

「あれでいい。あれで良かったんだよ」

「死に顔を思い出してみろ」



「お前の母は、最後は笑って逝っただろう?」



京太郎「……確かに。あんな目にあって、あんな末路で、死に際に笑えるってすごい人だ」

「俺の嫁だからな」

京太郎「リアルで俺の嫁とか言う奴初めて見た!」

「リアルっつっても『ここ』が現実かどうかってのは判断が分かれるだろうがな」

京太郎「っとと、そうだった」



京太郎「ここ、なんなんだ? 気付けばここに居たんだけどさ」

「『どこなんだ?』じゃなくて『なんなんだ?』と聞くあたり、お前もうっすらと感じてはいるみたいだな」

「見れば分かるが、ここは普通の場所じゃない」

「招かれた者だけが辿り着ける、そんな場所だ」

京太郎「招かれる……? 誰に?」

「さあな、お前もいつか分かるんじゃないか?」

「お前は別に分からなくても、俺に息子と話す時間をくれた親切な誰かが居たんだって、覚えとくだけでもいい」



その『誰か』は別に重要なんじゃないと、父は息子に語る。

その誰かへの恩義を少しほのめかしつつも、父は息子に向けて話す言葉を本題のそれへと向けていく。



「お前のその腕輪は、誰から貰い受けた?」

京太郎「え? えっと、姉さんがずっと前にフリマで買ったって」

京太郎「これだけすげーアイテムがフリマに売ってたって正直眉唾な話だけど」

「その話に嘘はないさ……なら、もう一つ。別の世界からやってきた黒い髪のお前がしていた腕輪の行方は知っているか?」

京太郎「いや、知らない。別の世界に行ったアイツの腕にそのまま……あ」

「気付いたか? 持ち主が不老不死でもない以上、あの腕輪はまた別の人間の手に渡る」

「あの腕輪は持ち主の死後に、黒い彼に憧れた少年の一人に継承された」

「そうやってその腕輪は、人の手を渡り、世界を渡り、誰かの手に受け継がれていく」

「いずれお前もその腕輪が無くとも、その腕輪があってこその力を振るえるようになる日が来るだろう」

「そして、その腕輪を手放す日がやって来る」


京太郎「その日が来たら、この腕輪はこの腕輪を必要とする者へと受け継がれる……?」


「ああ、そうだ」


京太郎「さっき言ってた誰かって、それに関係あったりするのか?」


「知らん」



腕時計の時間を確かめるような仕草で京太郎が視線を向ければ、そこには赤く熱い鼓動を刻む腕輪。

連環の要となる翼の形をした意思が、まるで心臓のように脈動を刻んでいる。

常の戦いの時に放っていた光は弱々しくとも、その赤い輝きだけは命の鼓動を魅せつけるかのように力強い。



京太郎「……俺が一回壊れるまで酷使しちまったせいで、随分弱々しくなっちまったけどな」

京太郎「これまで繋いできてくれた人達に申し訳ねえ」

「それは、弱っているわけじゃない」

京太郎「え?」



「本質を見ろ、京太郎。……なに、『それ』が見えるようになればすぐだ」

「一度腕輪が砕かれ、石が散らばった事も」

「それがお前の絆を結んだ者達の手によって拾われた事も」

「石達が、失われた意思をほんの僅かに、仮初とはいえ蘇らせた事も」

「その意思をお前の相棒がかき集めた事も」

「この世界で、その想いを消されずに跳ね除けた者が居た事も」


「そして何より、お前が最後まで折れず、諦めずにいた事」

「お前が今日まで、全身全霊でこの街に刻んできた過去」



「全て、無駄じゃなかった」



少しだけ乱暴に、父は息子の頭をくしゃくしゃと撫でる。

男親らしく丁寧さもなく、気恥ずかしさを誤魔化すように少し過剰なくらいに乱暴に。


だけど、確かな愛に溢れていて。


それは、ずっとずっと、須賀京太郎という子供が求めていた物だった。



「何故ただの石にそんなことが可能だったのかも、腕輪が今お前へ貸す力を節約してまで何をしているのかも」

「……すぐに分かる。分かれば、それだけでお前は『あの人』にだってきっと勝てる」



「お前は俺の、自慢の息子だからな」



その言葉を皮切りに、少年の頭を撫でる手の感触が消えて行く。

うつむく少年が頭を上げたその時には、既に父の姿は消えていた。

死人は何も語らない。語ってはくれない。生者に語る口がない。

だから、この一時も……きっと、儚い夢の一幕でしか無いのだろう。



京太郎「……ちょろいなあ、俺」

京太郎「こんな短時間で、頭撫でられただけで、今日まで会った事もなかった相手を二人も……好きになれちまうんだもんな」



京太郎「ありがとう。父さん、母さん」



それでも、確かに幸せな一時だった。


振り返る京太郎の目に映る、先程までは視界に存在すらしていなかった無数の人影。

その右手には京太郎が持つそれと同じであろう霊石の連環。



そして、ただの光の一つとしか思っていなかった銀色が―――

怜「――、――!、―う!、相棒!」

京太郎「……ん、なんだ?」

怜『なんだやない! ったく、ぼーっとしててええ場所やないっちゅうに』

京太郎「……確かにそうだ、悪い」

照「大丈夫? やっぱり私のせい?」

京太郎「そういうのじゃないから大丈夫だって。そんなにオロオロしなくていいよ」



少年の意識が、現実で覚醒する。

その身は扉を開いた先にある回廊。

姦姦蛇螺を打倒してから数分と経っていない、三人の姿がそこにはあった。



京太郎「……なあ今、俺どんくらいぼーっとしてた?」

怜『ん? 3、4秒ぐらいかなぁ』

照「私達の声に反応しなくなってから、だけど」

京太郎「数秒か」

京太郎「(……体感だと一時間か二時間ぐらいはあっちに居た気がする)」



戦闘以外での過剰な負荷を抑えるため、ネクサスは維持しつつも既に照の格納は解除している。

照を格納し続ければ、目的地に辿り着く前に京太郎が負荷で死にかねないからだ。

今現在の弱り切った腕輪のネクサスの効能は多人数格納しなければ恩恵がほぼ存在せず、怜のみの格納は非常にもったいないと言える。

だが、それも仕方がない。

今の彼が呼びかけた所で、答える仲間など誰一人として居ないのだから。


しかしそれに寂しさを感じているわけでもなく、今の少年の思考は別の方向に向いていた。



京太郎「(あの人影……あの銀色……まさか)」

京太郎「(この腕輪……いや、だとしたら……)」

怜『しっかし、長い廊下やなー』

照「たぶん、魔法で広げてる。外観から物理的におかしい長さなのにそんなことも推測できないの?」

怜『あ?』

照「何?」

京太郎「喧嘩すんなよお前ら」

【未来余地発動。罠を回避します】



怜『相棒、5m先吊り天井』

京太郎「あいよ」

怜『ちょちょいのちょいやな!』

京太郎「怜の存在が予定外の要素だったんだろうな、完全に無力化できてる」

照「……結果的に、楽にはなった」

京太郎「俺ら二人だけだったら、ここは通るだけで確実に消耗させられてたろうな」

怜『せやでー、うちのおかげやでー』

京太郎「はいはいお前のおかげ」

照「イラッと来た」

怜『もーちょい褒められてもええと思うんやけど』



傍目には二人に見える三人は、既に数kmは進んだであろう廊下を更に進んでいく。

外観からの大雑把な予測では扉から闘技場までは10mもなかったはず。

よってこの数km歩いても先が見えない回廊は明らかに魔法によるもので、先程から彼らを襲う不可思議な罠の数々も魔法に違いない。

何も無い所から天井や雷が落ち、地面から炎や光線、剣が生えてくる回廊などファンタジーの世界にしかありえない。

しかしてここは現実の世界。これが夢でないのなら、こんな廊下を作り上げられるのは一人しか居ないのだ。



京太郎「アンサーの言を信じるのなら、闘技場には四天王残り三人の内二人がいる」

京太郎「怪人アンサーは現実に出て来るための肉体が完成していないからこその怪人アンサーだ」

京太郎「この廊下が罠だけとは考えづらい。だとすれば……」

怜『誰かしら待ち伏せが居てもおかしくないなぁ』

照「ん」

京太郎「あっちの手は読み切れないし、今はこっちにとっての最悪だけ想定して対策取っとくか」

京太郎「数も戦力も足りてない俺達にとっての最悪は、分断――」



その時。

誰かが、パズルを動かした。

「この闘技場に繋がる通路は二本。構造自体はリンフォンからヒントを得た」

「それらは区画に分けられ、区画ごとにルービックキューブのように簡単に組み合わせをズラす事が出来る」

「……こうやって、2mも離れていれば並んで歩く二人を別々の場所に離れ離れにする事すら容易い」


「全盛期のリアルなら、ジュネッスによるブーストがなされていた寺生まれなら」

「あるいは、どうにかできたかもしれんが」


「弱っている今のリアルに空間ごとの対処が有効という事は、既に先日の戦いでアンサーが答えを出している」

「そして、寺生まれは罠をかわせてもそこから誰かを庇えるだけの余裕が無い事は考えるまでもない」



『悪辣だねえ、主様』

『内心は慌てふためいてるあの二人……いや、三人か。三人目は予定外だったがしゃあねえな! ギャハハ!』



「予定外の事は起きたが、概ね予想の範囲内だ」

「寺生まれとリアルをそれぞれ十数kmの廊下の両端に分断した」

「消耗は確実。そして、どうやっても二人同時にこの闘技場に入ってくる事は出来ない」



『 「あっちが先に闘技場についてしまえば囲まれて先に殺されてしまう」という思考が二人の頭に生まれる』

『それは自然と焦りを生み、慎重な一手を遠ざけ、加速度的にあいつらの危険度を増加させる』

『急いだ所で同時に着けるわけもなく、此方からすれば早かろうが遅かろうが関係ない……』

『 「どう転んでも悪くはなっても良くはならない一手」。マスカレイドも好きだったわなー』



「必要なのは『要素』だ」

「正義の味方が『負けても仕方ない』となる流れ。それが無ければ確実には勝てん」

「順調に流れは作られている。奴が私に負ける流れが」



『魔王様は勝つのにも一々条件が複雑で大変ですねぇ……あっちも精神的に縛りプレイしてるもんだがな』

『傷だらけの勇者、魔王と懸命に戦うも力尽きる。うーん、絵になる絵になる』

『押さえつけられて目の前で仲間の解体ショーとかやったら楽しいだろうけどあんま俺様タチ余裕ないんですわ、うけけけ』

『こんだけ仕込んだらまあ勝てんじゃね? あのガキが生まれる前から準備してたんだべ主殿?』



「……」



『主様?』



「アンサー」

「私はなにか……致命的な見落としをしている気がする。どうだろうか?」



『何かってなんだよー』



「だから問うている。答えを出せ!」

怜『っ、なんやなんや、もう……』

京太郎「やっべえぞ怜」

怜『良いニュースから聞きたいなぁ』

京太郎「良いニュースと悪いニュースがあるけどどっちから聞きたい? なんて言ってねえよ!」

京太郎「あるのは悪いニュースだけだ! 一つ目は照ちゃんと分断された!」

怜『……アカン』

怜『アカンやろ! アイツいけ好かんけどめちゃくちゃ頼りになるんやで!』

京太郎「なんでお前ら相手が眼の前に居ない時だけしか相手褒めねえの!?」



パズルを組み替えるように、視界が切り替え……いや、組み替えられた。

真っ先に気づいたのは怜。最後に気付いたのはまだ無敵癖から来る受動姿勢が抜け切らない照。

京太郎が伸ばした手と照が伸ばした手は互いの手を掴む事無く、二人は直線距離にして30km近い距離を離された。



京太郎「で、二つ目だが」

怜『アカン』

怜『ちょっとアレお帰り願えんやろか』

京太郎「まあ、目の前に居るんだから分かるよな」



包帯に包まれた身体。

凍てつく程の冷たさと、射殺す程に鋭利な鋭さを併せ持つ眼光。

銀色の輝きを放つ太刀を八双に構えたその制空圏に踏み込めば、いかな強者とて両断されるだろう。

かつての日々より格段に上の力を付けた京太郎と怜の二人が、相対するだけで死を間近に感じさせられる古強者。


歴戦の雰囲気が、その威圧感と不動の構えのみで生と裏表に在る死を刃と共に突きつける。



怜『ト……』

京太郎「トンカラトン……!」

「……」



相変わらずの無言。

相変わらずの隙という概念が存在しない完成された一つの極み。

美しさすら感じる武芸の極地が、超常の力の差によって圧倒的強者であるはずの二人を震え上がらせる。



京太郎「(再生怪人……いや、量産怪人か? 今更驚かねえが)」

京太郎「(いや、それよりもだ。ステータスと動きが全く読めない)」

京太郎「この廊下の特性か? ……アウェイは辛いな、俺はロッテファンだが」

怜『言うとる場合か? やっこさん、道のど真ん中で立ち往生で通す気全く無さそうやで』

京太郎「押し通るっきゃねえだろ。一度勝った相手だが、油断せず行くぞ」

怜『ちなみにうちは生粋の虎信者や』

京太郎「知ってた」

トンカラトンが334体…

【須賀京太郎】

HP:660

ATK:35
DEF:35

・保有技能

『比翼の鳥』
人一人にして人に非ず。翼片翼にて翼に非ず。
人物を指定し、己の中に格納する能力。
格納した人物に応じた能力と補正を得る。

『TTT(真)』
The Templehero T。今日は使わないので以下略。

〈装備〉
E:『腕輪:Nexus?』【防具】
ATK補正+15
DEF補正+15

E:『真・ルーベライズ』
効果:死亡・ゲームオーバーを無効にし、所有者をHP1で復活させる。

E:『ジャイアントキリング』
効果:巨大な存在に対する戦闘論理。特定の都市伝説との戦闘時に判定値+10。

・『真・オモイヤリ』【聖遺物】
ATK補正+30
DEF補正+30
ヒーローシフト中、行動判定で勝利する事で何かしらの「奇跡」を行使する。

・『フクツ・ゼシキ』【靴】
自身のATK、DEFを+5、判定値を+3する。
【高鴨穏乃】を格納して経過したターン数、この補正は重ねがけされる。

・『シュクジュ・ヘキ』【盾】
ATK補正+5
DEF補正+20
【国広一】を格納中、ターン終了時にそのターンに受けたダメージの1/4を回復する。

・『カタキウチ・ツラヌキ』【遠隔武装】
ATK補正+25
【鶴田姫子】を格納中、判定コンマが75以上の時『リザベーション・バースト』を発動する。

・『ハリコノトラ』【針】
自身のATKを0に減少させ、その減少させた分の数値をDEFに加える。

・『ヒトノワ』【遠隔武装】
効果発動宣言ターン、自身のHPを1まで減少させ減少させた分の数値をATKに加える。



【園城寺怜】

ATK補正+30
DEF補正+30

・保有技能

『未来余地』Ver.2
少し先の未来、時々遠い未来を認識する能力。
どんな未来でも、変えられる。
自身の判定値に+10する。
判定コンマで相手を上回った次のターン、相手の選ぶ選択肢を知る事が出来る。
奇襲・罠・不意打ちに類するものを無効化する。

『D&T』
「未来余地」の派生技巧。
命を削り、未来を識るくだんの本懐。
能力の使用を宣言する事で、それぞれの効果が適用される。
ダブル:MAXHPの1/4を消費して発動。戦闘終了・フォームシフト実行まで、自身の判定値を+10する。
トリプル:MAXHPの1/2を消費して発動。戦闘中、相手の選択した行動が常に表示される。

・適正武器
全て

http://i.imgur.com/Z7YIsqg.jpg

あ、またこれの追加忘れたうっかりうっかり


『死超』
効果:発動ターン、相手攻撃サイド確定時にそのターン受けるはずだったダメージに自身のATKを+し、相手のHPダメージとする。
一戦闘一回

この回廊は、黒い京太郎がかつて大量に消費させた都市伝説の素体を十数体。

そしてそれを基点に大沼が発動した大魔法の内部、『対象の記憶に強く残る敵』が再現される戦場だ。

素体を基点とした魔法陣の中に閉じ込められたと想像すれば分かりやすいかもしれない。


つまり、この回廊を抜ける為には『須賀京太郎の記憶の中の強敵』を全て打ち倒さねばならない。

もはやこの世界の過去には存在しない、そしてかつての世界の現在にも存在しない、彼らの未来を塞ぐ敵。

夢と幻の境界に座す、倒されずとも泡と消え行く虚しき影。


『夢幻泡影』。



「――――」



トンカラトンは、口を開かない。

彼は口で語る言葉を持たない。彼の言葉は、全て刀で語られる。

八双は万能の構えでありながら正眼に派生系の数で劣るため、現代においてこの構えを使う者はほぼ存在しない。

だが、だからこそ……この構えを使いこなせる者は、それだけで至上の使い手である事の証明となる。



京太郎「…… (勝負は、一瞬)」

怜『(下手打ったら、一撃で……)』



彼に残された唯一の仲間、怜。

手には箒。腕には霊石。心には熱。

靄がかかっているかのように照の存在を感じ取れない今、この敵性を打倒する以外に合流の手段はない。

長引けば……不利。



京太郎「(ならば、こちらも一撃に懸けるまで)」



京太郎の選択は、幾多の選択肢を捨てた胴への渾身。

どの道間合いを測る技術で比べれば、トンカラトンは京太郎の遥か高みに存在する。

小細工は無用。初手の駆け引きにて一蹴するのが得策である。

ましてや相手が正眼に比べ一手遅れる八双を選んだのであれば、少年が先の先を取らんとするのは道理だ。



「『「 ――――― 」』」



沈黙、静寂。一瞬の対峙が那由多にも感じられる二人の刹那―――京太郎の頬から、汗がぽたりと落ちた。

瞬間、互いに須臾の間も置かずに踏み込み合う。

次に繋がる一撃か。受け手を捨てた必殺か。あえて先手を譲っての後の先か。



その選択が、生死を分ける。

京太郎の行動を選択して下さい
・攻撃、必殺、防御
・能力使用
・『死超』使用
>>122


トンカラトン判定
>>124

シチョウ発動
防御

ほい

最初に一手を興じたのは、トンカラトン。

しかし、早すぎる。速すぎるのではなく、早すぎるのだ。

このまま初撃を放ったならば空振るだろう。

しかしそんな間抜けな所業は、このトンカラトンには似合わない。



怜『相棒! ちゃう! 攻撃やない!』

京太郎「……!」



それは単なる構えのシフト。

しかし敵が眼前に迫ってからの構えの変更であり、それは絶対的な隙を晒すに等しい選択。

……にも、関わらず。トンカラトンに隙は生じず、その構えの移行は一秒ですらかからない。

余りにも滑らかに行われた構えの移行が、一切の隙を生じさせなかったのだ。


移った構えは、示現流蜻蛉の構えの流れを汲む上段、天の構え。


その一撃に最大の速度と威力を乗せる事が可能である、最大最強の攻撃の構え。

なんと、このトンカラトンは、あろうことかカウンターの為に攻撃の構えへと移行したのだ。


防御を捨てた攻撃の構えによる最大の防御という矛盾。

既に京太郎は踏み出した脚を止められない。

ならば、この一瞬の交錯で決着をつけるのみ。



「――――」

京太郎「――――」



攻撃は……トンカラトンの方が、速い!

間合いの測り方ならばトンカラトンにこそ一日の長があり、このままならば京太郎が先に頭蓋を割られて終わる。

互いにこの一瞬に全てを賭けるなら、先に敵を仕留めた方が勝利するのは当たり前の事だ。


トンカラトンが刀を振り下ろし、京太郎が箒で突き、そして―――








ここで、余談だが。

日本刀……特に日本人が日本刀とイメージするそれそのものの刀は、基本的に一つの鉄の塊を焼いて叩いて伸ばして造る。

刀の長さを整える際に、刀は鍔元をより多く叩く。

刀は基本的に突くものであり、そうでなくても振るい先端を走らせるものだからだ。そこを叩いて脆くしてはならない。

だからこそ、日本刀の根本は金属疲労で脆い。鍔元1cmの部分は特に脆く、ここをぶつければ容易に折れてしまうだろう。

この知識を京太郎が持っていたのは、全くの偶然。

昔々とある友人、傘の少女と一緒に読んだ本の知識。

だからこそ、掴めた勝利であった。



「――――!」



箒の先端の狙いはトンカラトンの急所ではなく……トンカラトンが振るうその刀、その根本。

名刀ではあっても何の処置もされていない刀と、三尋木咏謹製の金属箒にオカルトの力による強度強化。

ましてや構造的弱点を突かれたならば、刀の方が折れるのは必然である。



京太郎「終わりだ」



更に踏み込み一歩。

刀との衝突で殺された威力を補い、更に箒を回転させつつ竜巻のごとく螺旋の突き。

刀を折ったその勢いのまま、全身全霊の一撃を叩き込む。



「……」



今度は、言葉はない。

トンカラトンは胸に空いた穴も気にせぬように、折れた刀先と鍔元を丁寧に鞘に収め、ぱちんと仕舞う。

そして、その場に正座し、刀を脇に置き……陽炎のように、消えて行った。



『せめて終わりは武人として恥じぬ姿で』と、口は開かれずともその姿が語っていた。





【#攻ト撃】



防御VS攻撃


『トン・カラ・トン』発動!


5+1+10=16

0+1=1



京太郎&怜の攻撃サイド確定!



ダメージ発生!『夢幻泡影』発動!



トンカラトン 残りHP:0



【トンカラトンを倒した過去を、取り戻しました!】

【トンカラトン】


HP:150


ATK:55
DEF:50


・保有技能

『トン・カラ・トン』
無限に増殖する切欠、太刀の一閃。
伐って殺し、切って増やし、斬って捨てる。
自身の判定コンマを「01」に固定する。
判定値に関わらず、行動判定で敗北しない限り毎ターン自身の攻撃サイドを確定させる。
判定値によるダメージ計算時のダメージ増減を無効化する。

『夢幻泡影』
過ぎ去りし日々。消えて行った残像。
在りし日の夢、戻らぬ思い出と共に在る悪夢。
一度でもダメージを受けた場合、そのターン終了時に消滅する。

『何度聞いたって同じだっての』


『・須賀京太郎が大沼秋一郎に最終的に勝利する方法は存在しない
 ・無かった事にされた過去を元に戻す手段は存在しない
 ・この戦いの結果として、大沼秋一郎は完全に目的を達成する  』


『これは確定だ。確かな答えだぜ』

『どーうっかりやらかそうがアンタが負ける要素は無いと、答えは出てるんだが』

『この世界に在るありとあらゆる情報、セラエノから引っ張ってこれる俺が断言してるんだぜ?』


「……その能力を、疑っているわけではない」



怪人アンサーは、幾多の種類と能力を持つ。

彼らに共通しているのは限りなく全知に近い知識を持つ事と、問答により身体のパーツを収集しているという事である。

知識の種類は単純に物知りであったり、情報素子を物理的に操作できたり、アカシックレコードに接続できたりと様々である。


有能なアンサーはさっさと身体のパーツを集めてアンサーを卒業する。

底辺のアンサーもバカな人間の低級なパーツで妥協し、卒業する。

つまり新参でも無いのに長い間アンサーとして活動を続けている者は、だいたい異端なのだ。

自分の能力以上のパーツを所望した思い上がり屋。純粋に知識勝負を望む変わり者。悪性に魅入られた異端。


フリーメイソンにつく怪人アンサーは、パーツの収集よりも人の痛苦にこそ愉悦を覚える異端のアンサーだ。

彼の知識の運用方法は、彼が『セラエノ』と呼ぶ情報集積体へのアクセスである。


この世界を情報の海と例えるのなら、海の底にある沈殿した部分を分析するだけで……ありとあらゆる知識を得る事が出来る。

彼はその『この世全ての情報が詰まった塊』に触れる事が出来、それ故にこの世界に存在する全ての知識を得られるのである。


だから、断言できるのだ。


彼が知らない事は、この世に欠片も存在しない。



『何をそんなに不安がってんですかい? 用心深すぎるのは用心しないとの同じでさ』

「……なぞって、いるのだ」

『?』

「次が『てけてけ』であれば……これは、園城寺怜に続き二度目だ」

『ああ、園城寺怜が腕輪の欠片を集める過程で奴らの過去をなぞってるって話か?』

『気にしすぎじゃねーですかね……何度なぞった所で、何か起こるわけでもないやん? きききき』

「かも、な。……だが」



怪人アンサーは、この世界において限りなく全知に近い存在である。

怪人アンサーが立てた計画であるのなら、それはどんな存在であっても覆すどころか抗うことすら不可能だろう。

これってテルーも過去の敵と戦ってる?
だったら凄まじいのがいそうだけど

誰一人として気付かない。

脈動するその腕輪の光に呼応して、世界そのものが脈動している事に気付かない。

一つの連環が、ただの腕輪が、21の軌跡を刻んだ輝石が、世界と対等に在るという奇跡。



怜『懐かしいなぁ、あの上半身だけオバケ』

京太郎「……ちょうど、あれから一年か」

怜『本人?』

京太郎「じゃないな。気配が違う」

怜『なんやその変態感覚』

京太郎「どっちにしろ、この『てけてけ』は仕留めなくちゃな」



  ヴェルトール
『この世全て』。

誰の目にも映らない場所で腕輪は何かに呼びかけ、何かの呼びかけに応えている。

そんな腕輪に目もくれず、少年少女はてけてけとの勝負に挑む。

そんな腕輪に目もくれず、フリーメイソンの幹部達は訝しみながらもこの戦いを楽しんでいる。


既に失われた過去、思い出、仲間の記憶。

失われたものは戻らない。

それを想起させ京太郎達の精神的な余裕を奪うのが、この夢幻泡影の回廊の役割だ。



京太郎「……しっ!」

怜『じゃっくぽっとー、なんてな』



しかし狙っていたその精神的動揺も、予想以上の京太郎の精神的成長によって元の木阿弥となった。

今の彼を精神的動揺のみで追い詰める事は、実質不可能に近い。

知ってか知らずか。善と悪の違いこそあるものの、ここに来て京太郎と大沼の精神の強さは完全に拮抗していた。


それに気づき、モニターの向こう側から大沼秋一郎はほくそ笑む。

ちょうどその時、京太郎の箒による一撃がてけてけの眉間を打ち抜いていた。



京太郎「……ふぅ」

怜『お疲れさん』

京太郎「……やばいかもな」

怜『?』

京太郎「(もしもこの調子で次々と敵が強くなっていけば……いや、複数同時に出てくるだけでも……)」

怪人アンサーは、この世界において限りなく全知に近い存在である。

怪人アンサーが立てた計画であるのなら、それはどんな存在であっても覆すどころか抗うことすら不可能だろう。



だが、それにも例外が在る。



『(人類の悪性部分。つまりそれは全人類の半分ってこった)』

『(それは30億人分の力の量に相当する……そもそも、誰かが主殿に逆らった所で桁が違うだろうに)』

『(この力量差をひっくり返せる答えがあるんなら、俺様が教えて欲しいくらいだがねえ)』



そもそも、全知にして完全無欠の存在であるのなら……アンサーは、誰かに負けるわけがないというのに。



「私は何か、致命的な何かを……何かを……?」

「見落とし……いや、まさか……」

「―― …… ―― ……」





「……『ジグソーパズル』……」





『は?』



フリーメイソンが成立してから600年以上。

その歴史の中で、最も『予想外』であった大事件を一つだけ挙げるのなら――



「アンサー、答えを出せ」

『あいあい、あんだよ』

「あの腕輪はどこから来た? 小鍛治健夜の手に渡る、その前だ」

『あれかい? えーっと、検索けんさ―――あ?』




『別の世界からの、漂流物……?』




この瞬間から始まった大逆転劇をおいて、他にはない。

猿夢。

首無しライダー。

この両者は共に強靭な力を持たない都市伝説ではあるが……しかし、その特性が厄介だ。


猿夢は徐々に相手を弱らせる力を持ち、首無しライダーは速さを極めていなければ追いすがる事すら不可能なのである。

ましてや猿夢は小猿を生成する事が可能であり、一本道の回廊というのもあって非常に小賢しい。

現実にて組んだこの二種がここまで厄介であるなどと、想像すらしていなかった。



無論、怜の能力を命を削り強化すれば勝つのは難しい相手ではない。


しかしその代償として体力は削られ、ダメージは蓄積される。

まして強化した所で序盤に倒せるのは子猿のみ、ステータスも体力も下がっていた所で奇襲などされてはそれこそ敗北しかねない。

ジリ貧、しかし戦闘の潮勢は拮抗したまま動かない。



京太郎「(埒が明かねえな)」



……しかし、状況が彼に慎重な選択を許さない。

フリーメイソンの目論見通り、彼は照を思うあまりうっすらと決着を焦っている。

それは冷静さを失わせるとまでは行かずとも……ギリギリの場所で、生死を分ける。



京太郎「怜!」

怜『うっしゃ、ダブ―――』



怜が、ダブルにより京太郎を大幅に強化しようとした瞬間。

怜の未来余地の加護が切れる、ほんのコンマ数秒の隙。


能力の効果が現れる直前の間隙を、天井から降ってきた子猿が突いた。



京太郎「な……!?」

怜『こんな狭い廊下で、上!?』



子猿と共に猿夢とライダーが地に足をつけて得意の跳躍を混じえず、地を高速で這っていた理由。

それは天井に意識を向けさせず地に意識を縫い付けるため。

本来、能力で体力を消耗した後の京太郎に奇襲を仕掛けるための切り札たる伏兵を、奇襲無効の能力と知りこのタイミングで切った判断。

子猿の手にあるのは防御を無視してダメージを与えるエクスカリバー。

この状況の何もかもが、京太郎にとって不利に働いた。



京太郎「(殺られる―――!?)」



さしもの京太郎も死を覚悟したその瞬間。


その戦場に……『風』が、吹いた。

 




Missing Piece/失われた輝く欠片達の帰還


http://www.youtube.com/watch?v=rEvTbDWsZ7o




 

都市伝説達には、何が起きたかも分かっていなかった。

風が吹いた……そう思った次の瞬間には、獲物は消えていて、子猿達は一匹残らず仕留められている。

獲物の気配は先ほどまでの狩られる者のそれでは無く、狩る者の放つ強さの気配。その力の奔流は、両の脚に。



京太郎「……ははっ、お前本当にカッコいいな」



少女にとっての少年は、いつだって変わる切っ掛けだった。

少年にとっての少女は、前を走って手を引いてくれる人だった。



不撓不屈のその心も、前へと進み続けるその足も、今日までの日々を彼が乗り越えるためには必要不可欠だった。

隣に立つ相棒でもなく、後ろをついていく対等でもなく、前を進む親友として彼女は彼と共にある、友である。



見惚れるような熱、人を惹きつける在り方、ついて行きたくなるような背中。

多くの人の中心に居る者と、多くの人の先頭に在る者。

二人は子供の頃からずっとずっと一緒に居て、これから先もずっとそうなのだろう。



いつだって、彼女はそうである。

少女にとっての少年は「主人公のような少年」。

少年にとっての少女は「主人公のような少女」。

少女は少年にとっての英雄(ヒーロー)ではないが主人公(ヒーロー)であり、少女にとっての少年も然り。

だから、当然だ。



腕輪の加護もなく、無敵の力の効果もなく。


彼女が一番乗りを果たしたのも。

彼女が真っ先に不可能を可能と変えたことも。

彼女が山を踏破するように、そり立つ悪意の壁を乗り越えた事も。



『……なんだか、ずっと纏わり付いてた霧が晴れたみたいな気分』

『大切なものがちゃんと見えてない気持ち悪さが無くなって、だけど今はちゃんと見えてる』

『思い出の中でも、今ここでも、京太郎がちゃんと見えてる』



彼女が颯爽と、彼のピンチにジャストなタイミングで間に合った事も。



穏乃『視界良好!』



高鴨穏乃ならば、それは当然すぎる事だと断言できる。

【高鴨穏乃】

HP補正+200
ATK補正+10
DEF補正+10

・保有技能

『B2A(いともたやすく走り去るえげつないババア)』Spec.2<<高速機動>>
凡百の存在には至れない高速の世界。
何よりも速く、誰よりも疾く。
自身の判定値に+10する。
<<高速機動>>に属する技能を持たない者との戦闘時、自身の判定値に+10する。

『不倒不屈』Spec.2
決して諦めない姿勢が奇跡を起こす、彼女の精神性。
HPが0になった時、HP1で耐える事が出来る。
一戦闘につき二回まで。

・適性武器
【長物】【靴】

当たらない。当たらない。当たらない。

亜音速の疾走。疾走する本能が、目覚めたその魂を加速させる。

猿夢の爪、首無しライダーの突撃、時々混じるエクスカリバーの投擲。


何もかもが、今の京太郎と穏乃には遅すぎる。



京太郎「なあ、穏乃っ!」

穏乃『なぁに、京太郎っ!』

京太郎「なんかやっぱ、気持ちいいよな!」

穏乃『……うんっ!』

京太郎「お前と一緒なら、何やってたって楽しいぜ!」

穏乃『私だって、そうだよ!』



壁や天井ですら地面と同義に走り回る二人の神速移動は、既に人の域に非ず。

走り、走り、走り、そのついでとばかりにエクスカリバーを踏み砕く。

跳び、跳び、跳び、床壁天井を縦横無尽に駆け回る。


まるで草原を駆けまわる子供のように、親友と一緒に居る事がそれだけで嬉しいんだと叫ぶように。



京太郎「俺はお前が転ばないように、ずっと見てる」

穏乃『私は、京太郎のピンチを助けて、京太郎を守る』


『「二人なら、負けない!」』



二人の意思に呼応するように、フクツが強く鳴動した。




京太郎の行動を選択して下さい
・攻撃、必殺、防御
・『死超』使用
>>171


ライダー判定
>>173

猿夢判定
>>174

死超・攻撃

攻撃 シチョウ

埋め

【#猿夢攻撃ライダー必殺】


     必殺
攻撃VS
     攻撃



6+4+10+3=23

7+5+10-6=16

9+7+10=26


猿夢の攻撃サイド確定!



60×2-60+(26-23)=63ダメージ!



京太郎&穏乃 残りHP:597


『悪意の救世軍/Salvation Army』発動!

DEF-5、HP-5

フクツ・ゼシキ発動!

ATK+5、DEF+5、判定値+3!

死超ェ・・・

あ、死超見逃してた てへぺろ


【#猿夢攻撃ライダー必殺】


     必殺
攻撃VS
     攻撃



6+4+10+3=23

7+5+10-6=16

9+7+10=26


猿夢の攻撃サイド確定!



60×2-60+(26-23)=63ダメージ!


死超、発動!


ダメージ発生!『夢幻泡影』発動!



猿夢 残りHP:0



【猿夢を倒した過去を、取り戻しました!】

しかし、この場に雑魚など居ない。

この回廊に現れる存在はことごとく、京太郎達がかつて苦しめられた難敵達だ。

だからこそ、一筋縄には行かない悪夢達であると言える。



京太郎「!?」

穏乃『ツーリング、ノーヘル、人身事故と三倍満行きそうなんだけどアレ!』



速度でかろうじて穏乃に追いすがれる首無しライダーの後ろの荷台に、猿夢が乗っている。

そして戸惑い一瞬の隙を生んでしまった京太郎達の前にて、全力で跳躍する。

上下からの挟み撃ち、跳躍による回避は不可能。左右に避ければすれ違いざまに一撃貰う。


完璧に見えるこの悪夢達の連携は……しかし、所詮猿と単一思考による浅知恵だ。



京太郎は、穏乃と息を合わせて後ろに跳ぶ。

自然、空中で勢いを失っていく猿夢は徐々に後方へと取り残されていく。

よって首無しライダーが先行してしまい、挟み撃ちの構成は消失する。


更に、そこに二人の追撃が唸る。



京太郎「跳ぶぞ穏乃っ!」

穏乃『おうっ!』

京太郎「あん時のお礼参りだ、叩き込んでやれっ!」

穏乃『めちゃくちゃ怖かったんだぞこの猿ーーーっ!!』



首無しライダーへと跳躍、ライダーを踏み台にして二段跳躍。

空中で失速し体勢を崩している哀れな猿の腹に、砲弾のごとく突き刺さる空中キック。

眠れない夜の悪夢に怯えさせられたあの日の怒りをぶつけるかのような、そんな蹴りだった。



京太郎「ラスト!」

穏乃『うん!』



猿夢の後に、首無しライダー。

神の仕業か運命のイタズラか、またしても彼らは過去の足跡をたどる戦いに挑んでいた。




京太郎の行動を選択して下さい
・攻撃、必殺、防御
>>192


ライダー判定
>>194

踏み台

防御

【#ライダー攻撃】



防御VS攻撃



5+1+10+6+6=28

1+4+10=15



京太郎&穏乃の攻撃サイド確定!



ダメージ発生!『夢幻泡影』発動!



首無しライダー 残りHP:0



【首無しライダーを倒した過去を、取り戻しました!】

穏乃の登場を皮切りに、世界がカタチを変えていく。

それはひどく力づくで、条理に沿わぬ力の奔流。

『何か』……いや、『誰か達』がこの世界その物へと馬鹿げた力で干渉を行っている。

その干渉による世界の変容は、まず真っ先に歪められた者達へと現れた。


咆哮するままに廊下を疾走し、突撃してくる大きな鳥のような影。

醜悪な外見と耳障りな奇声で五感を殴りつけ、鋭い嘴で心臓を抉らんとするその悪魔の名は『ジャージー・デビル』。


しかしてその一撃は、開かれた傘に阻まれた。

銃弾すらも通さないその絶対的な守りの壁は、使い手の持つ護りの意思でその強度を増していく。



『一人はさみしいんだ。一人は辛いんだよ』

『だからボクは、ぜめてボクを一人じゃなくしてくれた人達を守りたくて』

『その為に、頑張ろうって思ってたのに……』

『……ごめんね、一人にしちゃって』



彼女は親に捨てられ、全てを失った。

親の愛も、家族の暖かさも、平穏な生活も、自分の居場所も。

だからその大切さも分かっている。

彼女は当たり前のようにそこにある幸せが、命を懸けて守るだけの価値があると知っている。

その心は、誰よりも強い守りの意思だ。



京太郎「こうして来てくれただけで、お礼言いたいくらいですよ。めっちゃ嬉しいです」

一『あははっ……ありがとう。許してくれて』

一『君は素敵な男の子だね。ドキッとしちゃいそうだよ』



国広一は、親に捨てられた日に一度死んだ。

けれども龍門渕にて新たな居場所を手に入れた日に、京太郎と出会い自分に出来る事を見出した日に。

国広一は、新しい自分に生まれ変わったのだ。



国広一はそうやって、誰かを守る新しい自分を『始めた』のだから。



雨を超え、雪を超え、嵐を超えた先にある清々しい青空へ。

その手に握るは碧緑と紅朱の鮮やかな二色、それらを乗せる純白の傘。

【国広一】

ATK補正+40
DEF補正+80

・保有技能

『メスメリック・マジシャン』Act.2
魔法も科学も技術も奇術も奇跡も、全て突き詰めれば同一の物となる。
技術の先の笑顔の魔法。奇術の先に紡ぐ魔法。
戦闘ダメージ以外で自身のステータスが変化した時、それを任意で無効化できる。
50以下のダメージを無効化する。
1000以上のダメージを無効化する。
ダメージ計算時、自身のDEFを二倍にする。


・適正武器
【盾】【針】

降り注ぐ羽の槍のシャワーを、傘を広げて雨のごとく凌ぐ。


ジャージーデビルは多芸だ。しかし、極端な性能を持っていない。

風よりも速くない。鉄よりも硬くない。岩石だって砕けない。

しかし小細工に特化した能力を持ち、故に格上だって打倒し得る可能性を秘めている。



だからこそ、小細工を全て捌き切る国広一が天敵だ。



京太郎「そろそろ、ですかね」

一『ボク達が防御一辺倒で居れば、そろそろ……』



このジャージー・デビルは、鏡の悪魔が元になっているという点までもが再現されている。

それならばこの悪魔にだけ存在する、京太郎と一だけが知る行動の法則が存在する。

それは、二人が取り戻した過去だ。



そして、ジャージーデビルが行動を始める。



京太郎「……今だ!」



京太郎の掛け声に応と答えるがごとく、装甲となっているロロンが吠える。

踏み込む足に、力が乗る。振るう傘に、体重が乗る。


一は、既に京太郎の親に関する顛末を知っている。

だからこそ、普段よりも数段強く力を込める。

京太郎は一の親と、自分の親に関する事を想っている。

その理不尽に対する怒りが、彼に力をくれる。

そんな二人の気持ちを、ロロンが受け止め強靭な鎧と固く丈夫な傘へと注ぐ。



『「八つ当たりだけど死ねぇー!!」』



『親から捨てられた同盟』の、割と理不尽な一撃が振るわれた。




京太郎の行動を選択して下さい
・攻撃、必殺、防御
・『死超』使用
>>211


デビル判定
>>213

必殺
死超

必殺死超

攻撃でもカウンターにはなるけどな

【#防御デビル】



必殺VS防御



8+6+6=20

3+8=11


京太郎&一の攻撃サイド確定!



50×2+(20-11)-50=59ダメージ!



ダメージ発生!『夢幻泡影』発動!



ジャージー・デビル 残りHP:0



【ジャージー・デビル、ムラサキカガミを倒した過去を、取り戻しました!】

デビル防御だったのか

絆は鎖。

とても強固で、ひどく丈夫で、切れる姿なんて想像すらもできやしない。

そう称した、少女が居た。


今は、もう居ない。

……鶴田姫子は、死んだのだ。



京太郎「……」



彼女の事を少年がこんな場所で思い出してしまったのは、この怖気の走る肌寒さに覚えがあるからだ。

見るだけでほぼ即死。星神をはじめとする魔物ですらも、その大半を殺し尽くせる真性の化物。

人の心を壊して殺す、心持つ生き物全ての絶対的な天敵。

『くねくね』が、この廊下の先から向かってきている。



京太郎「……ふぅ」



勝ちの目は非常に薄い。

安定して勝ちたいのならジュネッスは絶対に必須条件だ。

今の彼にはそれすらなく、そして勝率を上げる為に必要な仲間すら居ない。

死人は何も語ってくれやしないのだ。ましてや、死人に助けを求める事は愚者ですらしようとはしない所業である。



京太郎「……」



針の穴ほどの勝機に勝負を賭け、首から下がるかつての名残でしか無い首輪に命を預ける。

いつ消えてもおかしくないような青い宝石がまだこの手の中にある以上、一度だけは彼にもチャンスがあるからだ。

確実に迫る死を目前にして、何故か自然と京太郎の心は落ち着いていた。



京太郎「(……なんでだろうな)」

京太郎「(すぐにでも、死んじまいそうなのに)」

京太郎「自分でびっくりするくらい、落ち着いてやがる」



ただ、安心感があった。不安がる要素なんて無いのだと、魂が囁いていた。

暖かさがあった。気付けば誰かに抱きしめられているかのように、温もりに包まれていた。

銃を握る手の上に、添えられた小さくて綺麗な女の子らしい手の感触を感じていた。

自分の呼吸に、心臓の音に、心の波長に、合わせてくれている誰かの存在を感じた。

幻聴でも幽霊でもなく、確かに実体のあるその口で、少女が優しげに少年の耳の傍に囁いた。



姫子『大丈夫』

姫子『私はずっと傍に居るから』

姫子『たとえ、死が二人を分かつとも』

【鶴田姫子】

ATK補正+60

・保有技能
『発砲美人』Type.2<<遠隔攻撃>>
矢射(やさ)す優しさ、撃つ美しさ。
千発千中、一撃確殺。的確的射的中の業。
自身の判定値を+5する。
<<遠隔攻撃>>を持たない敵の判定値を-15する。
自身の判定値がゾロ目であった場合、自身の攻撃サイドを確定させる。

『リザベーション・バースト』
「発砲美人」の派生技能。
仲間の意思を継ぐ力。先行ダメージの余剰エネルギーを鎖状の拘束具として具現させ、炸裂させる。
能力発動ターン、攻撃サイド確定時のダメージにその戦闘中に与えた全てのダメージを加算する。
一戦闘一回のみ。


・適性武器
【遠隔武装】

京太郎「吸って、吐いて……少しだけ空気を肺に残して、肩を落とす」

姫子『関節は出来る限り緩めず、骨を使って支えるイメージで』

京太郎「歯を噛んで丹田で身体を固め、背筋に一本芯のイメージ」

姫子『昇順は合わせたまま、引き金は「絞る」』



二人で揃えて、狙撃の要を口ずさむ。



姫子『距離、風速、気温、湿度、全部どうでもよか』

京太郎「いいのかよ観測手!」

姫子『「当てる」けん。心配なかよー』

京太郎「……頼りにしてますよ」



何もかもが見えている。何もかもが追えている。

鎖の女神は千里眼。今日この日まで彼を生かして守り続けた、彼の眼だ。


鶴田姫子は痛みを知る少女だ。

痛みを知り、その上で許せる少女だ。

それは誰かの悪意の果てに自分が死んでいたという経験を経ても、変わらない。


それは個人に対する執着の度合いの関係で好きでもない奴がどうでもいいという思考にも起因しているが、それだけではない。

彼女は、ただ優しいのだ。

愛を偏って注ぐ相手を除けば、誰にでも平等に優しく出来る。

甘さも混じるその優しさが、少年は嫌いではない。



そしてその優しさは、ひとたび戦いとなれば敵への苛烈な戦意となる。

彼女の視界と言うべきか迷う『観ている世界』に一歩、白い魔神が踏み込む。




姫子『撃って!』

京太郎「―――っ」



カタキウチより放たれた銀の流星が、一直線に回廊の闇を切り裂いた。




京太郎の行動を選択して下さい
・攻撃、必殺、防御
・能力使用
・『死超』使用
>>233


くねくね判定
>>235

最安価ァ!


京太郎の行動を選択して下さい
・攻撃、必殺、防御
・能力使用
・『死超』使用
>>239


くねくね判定
>>241

ヤツは攻撃しかしない
防御に死超で

防御
死超

低コンマはおまかせあれ!

【#kougekiくねくね】



防御VS攻撃



2+3+6=11

4+9=13


くねくねの攻撃サイド確定!


死超、発動!


ダメージ発生!『夢幻泡影』発動!



くねくね 残りHP:0



【くねくねを倒した過去を、取り戻しました!】

 




555/5人のヒーロー



http://www.youtube.com/watch?v=dgadzswO_ps




 

猿夢と、首無しライダーを打倒した過去を取り戻し。

ジャージー・デビルとくねくねを打倒した過去も取り戻し。

今彼の視界に映るのは、ずっとずっと力を合わせてきた仲間達。



京太郎「穏乃」

穏乃「おう」


京太郎「一さん」

一「なにかな?」


京太郎「姫子さん」

姫子「はいな」



失われたものを、取り戻した。



京太郎「来てくれて、ありがとう」

京太郎「思い出してくれて、ありがとう」

京太郎「ぶっちゃけ泣きそうだ」



怜「……ったく。相棒は泣き虫やなぁ、もう」

穏乃「へへっ、友達だもんね。友達だったら忘れんな! とか言わないでよ?」

一「もう寂しい想いはさせないからさ。皆で、一緒に行こう」

姫子「私達は、一人やなか」



京太郎が差し出した、再び腕輪の巻かれたその右手。

誰からというわけでもなく、怜が、穏乃が、一が、姫子が、その手の甲に右手を重ねる。

それはいつかの日の再現。


掌から伝わる、想いと暖かさ。
繋がる手、繋がる心、繋がる己。
五人合わせて一つの英雄(ヒーロー)。
少年がかつて思い描いた、誰かの涙を拭う者。


それこそが、彼等だけが持つ最強。



「「「「「──絆(ネクサス)ッ!!」」」」」



      絆は、蘇る。




【ネクサスシフト、復活!】

>京太郎「来てくれて、ありがとう」

>京太郎「思い出してくれて、ありがとう」

>京太郎「ぶっちゃけ泣きそうだ」

俺の台詞だばか゛や゛ろ゛ー゛ー゛ー゛!!!

何だっけかな……救世主は何をするんだぁ?

>>257
闇を切り裂き・・・

聞こえねーよ!

闇を切り裂き、光をもたらすのよ!

『―――は?』

『いや』

『ねーよ』



『……ねーよ! なんじゃそりゃあああああああああああああああッ!!!』



首領しか応えないであろうその闘技場で、アンサーは誰にというわけでもなく……強いて言うならこの世界へ、叫んでいた。



『ありえねえだろ! この世界に取り戻す手段なんかねえって、この世界すべての情報を洗った俺様が――』

「この世界ではない」

『あ?』

「ジグソーパズルだ……く、くくっ、それでこそ、私が……俺が数十年待ち続けた宿敵」

『さっきも言ってたな、ジグソーパズル。なんじゃそりゃ』



アンサーは、世界の終わりでも見たような冷静さを欠いた声色で。

大沼は、世界の終わりでも見たような嬉しさを隠しきれない声色で。



「平行世界は、並んでいるからこその並行世界だ」

「それらは複雑に絡み合い、分岐し、隣り合い、常に別の世界と接している。その間に一切隙間は無いようになっている」

「世界の間に隙間があれば、時空のオッサンがその隙間に落ちないのは道理に適わないだろう?」


『それがどうし――……あ?』

『おいちょっと待て。ジグソーパズルって、まさか……!』


「周囲の世界の形が分かれば、それらの世界の元々の形から一つの世界の元の形を推測する事は可能だ」

「ジグソーパズルで一つだけピースが欠けているのなら、その隙間からそのピースの形を予想することは容易だろう?」

「この世界は、寺生まれには幸運な事に改変されてから24時間も経っていない。まだ周囲の世界はこの世界の形に合わせてはいない」

「後は、周囲の世界が粘土を型にはめるように力づくでこの世界を押し合い変形させ、元の形に戻すだけだ」


『……いやいやいや、ねえだろ! 現実を何でもたとえ話にすれば納得するとでも思ってんのか!?』

『世界をいくつも動かすエネルギーは!? 幾つもの世界にアクセスする力は!?』

『そもそも! 百や千程度の平行世界の干渉じゃ修正しきれないだろ! この広い世界一つ修正するなら数が足りてねえ!』

『だから主様、その意味もない考えを――』




「だから、あの腕輪があったのだ」




『……あ』



「全ての世界の、全ての腕輪所有者に、全ての須賀京太郎にアクセスするために」

「あらゆる世界の、あらゆる力を持つ、あらゆる須賀京太郎達の力を借りるために」

「なんということはない。平行世界の自分同士という、助け合いの絆」

 





「奴の絆は―――世界を超えたのだ」





 

その石/光は、幾多の世界、永き時を超えて多くの人間に受け継がれてきた希望。

時には誰かに手渡され、時にはなんでもない場所で拾い、時には宇宙の彼方より飛来したそれを誰かが手にしていた。

それは人と人との目には見えない繋がりの連続であり、受け継がれていく光の絆だ。



「頑張れよー! 力貸してやるぜー!」

「こっちはもう世界救ったぜー! そっちの俺も頑張れー!」

「ほら持ってけ持ってけ! どうせ今日はもう俺仕事ねえからな!」



空に手を掲げる、幾多の世界の京太郎。

いや、違う。彼らは『空に手を差し伸べている』のだ。

世界で一人だけしか手を差し出していないのに、今手を差し出している者は数億人であるという矛盾。

その右腕には一人の例外もなく、霊石の連環が巻かれている。



「こっちはもう結婚してから20年経ったぞー!」

「随分懐かしい顔ぶれだな……こっちじゃ救えなかったのも何人か……くそ、やる気出てくるじゃねえか」

「え、何そいつ黒幕なの!? くっそ俺まだ中学生だぞおい! 照ちゃんヘルプだヘルプ!」



そして、京太郎以外の腕輪所有者も。



「この腕輪、アンタに貰ったから……だからせめて、その世界のアンタは、救われて欲しい」

「……あれ、オヤジの若い頃だ。俺より年下の父親を見る日が来ようとは……」

「師匠だ! なんか頑張ってる! なんか若いけどまあいいか!」

「ん、あれ誰だ? ……まあいっか、困ってるっぽいし助けてやるよ」



見ず知らずであったり、知人であったり、後継者であったり。

それでも、他人である京太郎に手を伸ばす。

諦めるなと手を伸ばし、繋がる絆に力を注ぐ。



昔と今、天と地、人と人、心と心。
ありとあらゆるものは相互に繋がり、互いに干渉し合う。
善し悪し問わずそれらを顕現させる霊石の連環。

時間も距離も空間も、次元や世界すらも飛び越えて所有者の『繋がり』を力に変換する腕輪。


きっと、貴方とも繋がっている。

良かったな京太郎! けっこうな数の平行世界でお前は童貞卒業できてるらしいぞ!
(状況が好転してきたのでふざける余裕が出てきた)

あれだ、牙狼の「英霊」や「レッドレクイエム」みたいな感じ
そんな印象だ

「百や千と言ったな? 須賀京太郎は既に万を超え、億の世界の力を借りていると私は推測している」

『そ、そんな人数が無償で協力するわけ……』

「する。貴様は、そんなバカを超えた無償の善意を見たはずだ」

『あ、ぐ……!』

「あの腕輪は……おそらく、そんな者を好んで使い手に選ぶのだ」

「億の世界の億の腕輪所有者、その仲間も力を貸しているとして数十億」

「今やあの寺生まれは、私を凌駕する力の塊に手助けされているも道理」

「……私の魔法は、力づくで砕かれる……!!」



『……あの腕輪は、別の世界から来た』

「そうだ。だから別の世界へとアクセスでき、別の世界に助けを求められたのだ」

「そして、この世界を中心とした周囲の世界の全ての腕輪所有者達が応えた」

『石の周囲の奴らの記憶も、あのくだんの記憶の復活も、腕輪が今は弱っているように見えたのも、全部……』

「私達は、見事にあの腕輪の現れていない本質を見落としていたというわけだ」



『ありえねえ、ありえねえ、ありえねえ!』

『この世界の事を全て知っているはずの俺が、知らないことなんざ――!!』




「だから奴らは、別の世界から手段を持ってきた。……当然の理屈だろう」




『あ……諦めろよ! 折れろよ! 何考えてやがる!』

『この世界に何も方法が無いってんなら、潔く諦めろってんだよ!』

『あいつらありえねえだろ、主様!』



「私が世界の破滅を諦めないのと同じだ」

「私達は……俺達は、諦める事を知らんのだよ」

「だから道を譲らない。故に衝突する」




「く、く、くくっ……さあ、来い! あらゆる困難を超えて、俺の前に! 正しき者の味方よ!」

ここの京太郎は呼ばれたことがないのか
となるとトゥルーエンドはこの世界かな

>>283
京太郎がここで戦いを終えたとしても腕輪を受け継ぐものがすぐに現れるかどうかは分からないし、
この戦いが終わった大団円だヤッターって叫ぼうとした瞬間に助けを求められる可能性だってあるだろ
可能性は無限大やで

世界だって繋ぐ者。故に繋がり(ネクサス)。

その絆は世界を繋ぎ、世界を束ね、世界を味方につけている。

彼は今、光と共に在る。



そんな彼に襲いかかる、左右の壁の仕掛け扉から飛び出す二体の都市伝説。

片や万物を砕く必殺のカブトムシ、額貫兜虫。

かたや既に統合しステータスを爆発的に上昇させている影、リゾートバイト完全体。


共に高火力かつ、厄介な特性を併せ持つ。

全速力で前に向かって走っていた京太郎は、その攻撃に反応できず――



煌『必要としてくれる誰かがいるのなら』

煌『私はどんな所にだって飛んで行くし、自分のカラだって破ってみせる!』

煌『情けなかった自分が凄く恥ずかしいので、ここで汚名返上です!』

煌『すばらっ!』



右から来たカブトムシが、どこからともなく現れたカブトムシに下から突き上げられ無残に砕け散る光景を目にし。



モモ『別に謝りに来たわけでも、謝って済む事だとも思ってないっす』

モモ『ただ……試合に応援に来て欲しいし、応援に応えて勝つくらいしか報いる方法思いつかないっす!』

モモ『スポドリもおごるんで許して欲しいっす、京太郎君! ご機嫌取り兼ねてここで名誉挽回!』

モモ『っす!』



次に左から来た影が、どこからともなく現れた三つの影に爪で串刺しにされている光景を目にした。



失われたものを、取り戻す。



京太郎「煌さん、モモ!」

煌『大変すばらくない惨状で申し訳ありません! この埋め合わせは必ず!』

モモ『次の試合、見に来る約束っすよ!』

京太郎「二人共……!」

泉『私も居るんやけど! そらできる事無いし喋ってへんけど無視はひどぅないか!?』

京太郎「あ、居たのか」

泉『ひどっ! 泣くで! お前ん中で恥も外聞もなくうるさく泣くで!』

京太郎「うるせーからやめろォ!」

泉『くそっ、原村か! 頭のいい原村なら役に立ったのにとか思ったんやろ! そないにあのおっぱいがええんか!』

京太郎「お前マジで何しに来たの!?」

泉『応援や応援! ほれ頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ!!』

京太郎「うるせえええええええええええええっ!!!」



ぬいぐるみに取り憑いた殺人鬼を踏み潰しながら、彼らは前へと進んでいく。

あーもう(俺の涙腺が)めちゃくちゃだよ

彗星が、廊下の端から少年へと突撃する。

彗星の速度は秒速70km。未来余地があったとしても、本来反応すら許されない速度。

本来の彗星の軌道ではない重力に沿わない横向きの飛行が、彗星の速度を削いでいるのだろう。


だがしかし、圧倒的な速度であることには変わりない。



人間の反射神経では反応すら出来ないほどの速度で、彗星はかつて自分をコケにした少年の身を貫かんとする。

彗星にその時の記憶はない。そもそも固有の意志すら無い。その彗星を突き動かすのは、ただぼんやりとした敵意だけだった。

少年は何か、蛇のような都市伝説と交戦中だ。


かわせない。確実に当たる、殺った――!



……と、彗星が人間であれば思ったであろう状況。

しかし、彗星はあっさりと振り返りもしない少年の片手に受け止められる。

彗星が人間であれば「バカな! 死角からのこの大質量、極超音速だぞ!」と叫んでいただろう。


しかし、世の中にはどうしようもない格上というものが存在するのである。

例えば、神様とか。



京太郎「第七面」

小蒔『唯一神・四文字!』



零落した全ての父、あらゆる生命を愛し見守る神が力を貸している。

エレーニン彗星は、元は海外産の都市伝説だ。

……よって、この神に抗う手段は存在しない。


彗星はまたもあっさりと、かつ呆気無く素手で握り潰される。



それはおまけとして脇に置いておいて、随分と先から待ちきれずに突撃してきたであろう姦姦蛇螺を討つ。



京太郎「第八面」

小蒔『救済神・円還乃理!』

京太郎「よし、回復! 間を開けずに第九面!」

小蒔『鬼械神・無垢成刃!』



数瞬の拮抗。しかし、互角とはならずに決着が付く。

霞ではないからか。この戦い方に慣れたからか。……それとも、贖罪か。

なんにせよ、前回とは比べ物にならないほど圧倒的に、この戦いの勝者は決定した。

失われたものが、また一つ。



小蒔『……京太郎さん』

京太郎「? なんですか、小蒔さん?」

小蒔『京太郎さんが居なくなったら……なんだか、寂しい世界でした』

小蒔『寂しくても、幸せでなくても、辛くても……私、笑ってて』

小蒔『あの世界を見てから、改めて分かりました。私、すごく恵まれてて幸せだったんですね』



京太郎「……幸せって、意外と無くなっちまうまでまで分かりづらいですからね」



小蒔『京太郎さんは、どこにも行きませんよね?』

小蒔『……居なくなってしまう事は、寂しいです』



京太郎「まあ、今回みたいな事がなければ」



小蒔『それなら大丈夫です! またこんな事があったら、今度は私が止めてみせます!』



京太郎「へ?」



小蒔『……だから、いなくならないで下さい』



京太郎「……ははっ、なんですか、それ」

京太郎「ま、次があったらお願いしますよ。次がない事を祈ってますけど」



小蒔『はい、おまかせ下さい!』



京太郎「(いい子だなぁ……年上だけど)」

ジュネッスは、宥が居ないためにいまだ展開不可能だ。

しかしネクサスは、ジュネッスが無くとも魔物を単独で格納可能なのである。

ましてや、かつての日々よりも能力を使いこなせる少年がここに在るのなら。



少年に襲いかかる、フルスペックのホシガミ。

ガイアのエネルギータンクと直結しているこの存在は、あらゆるステータスが無限大。

ステータスの一点で見れば、魔法使いやリアルですら追いすがれない正真正銘の最強の一人。


しかし、既に打倒している。その過去が失われてしまっただけで。

失われたものを、取り戻す。



京太郎「チーム鹿児島総動員!」

『『『『『『 一纏めにされた!? 』』』』』』



複数同時格納の限界値を超えて、神代小蒔を守る六女仙全員の力を発動させる。

技術、才覚、血統、それら全てを組み合わせ噛み合わせ結界展開。

あの日起こした不可能を可能にしたコンビネーションを、今ここでもう一度再現する。



「ギギギギギカカカカッカカギギギッギギギ」

京太郎「淡ッ!」

淡『呼ばれて飛び出るよっ! 土下座したい気分だけど格納されてると無理だから心で土下座!』

京太郎「それに何の意味があんの!?」

淡『少なくとも私の罪悪感がスッキリする!』

京太郎「それは土下座であっても謝罪じゃねえっ!」



迫るホシガミ。

事前の土地の仕込みが無いために、あの日の淡ほどには弱っていない。

しかし十分。この二人にとっては、十分だ。



『「だりゃああああああああああああああああッ!!!」』



敵のホシガミの右拳に、わざわざ右拳を合わせに行く。

天地を砕く威力がぶつかり合った結果として……無機質なマネキンのようなホシガミは、拮抗すら出来ずに吹っ飛んだ。

廊下を一直線に吹っ飛んでいく。50m、100m、200m……と飛んでいった所で、失速の様子すら見れないまま見失ってしまう。


力の格差、歴然。激突した時点でパチモンホシガミは右半身が吹っ飛んでいた時点でお察しである。

所詮オリジナルと弱ったパチモン、決着なんて最初から見えていたのだった。



淡『いやー、仕事した仕事した。ねね、今日これから勝ったら夜空でも一緒に見て散歩しないー?』

京太郎「気がはえーよ! ……じゃあ、終わったら皆で行こう」

淡『皆もかー……ま、いっか。今夜はすがっちの慰労会ってことで!』

月の光は狂気の証。

狂おしき光は人型となり、続々と増殖しながら精神を狂わす波動を放つ。

廊下一杯を照らすように、月の光を凝縮したレーザーが数十本所狭しと放たれる。

回避など到底不可能な、空間を制圧する発狂光線。



透華『気張りなさい!』

京太郎「了解!」



しかし、それら全てが逸らされる。

よく目を凝らせば、大気の中を浮遊する幾多のクリスタル状の氷の結晶。

それらがプリズムの役目を果たし、ありとあらゆる光条を屈折させている。



透華『わたくしの友人を奪うのみならず、その友人を思い返す機会すら奪うとは……!』

透華『いえ、正直に申しましょう。わたくしは失礼極まりない事に、友人の事をなかった事にされたよりも、別の事を』

透華『別件に関して、怒髪天を衝く勢いで怒っておりますわ!』

京太郎「俺に遠慮は要らないです。俺だって、それにはキレそうですし」

透華『……感謝を』



そして、能力を切り替える。

氷の力から、彼女が対人に使うことを自ら禁じた放射能の力へと。

失われたものを、取り戻したが故の怒り。



透華『よくも……私の、妹を!!』



圧縮した放射線。

生物を尽く破壊し尽くす指向性・不可視の破壊光線が、オカルトの概念を内包しつつ人型の月の光を蝕みつくす。

真に恐るべきは、この戦いで放射能・放射線が一切残留しない点だろう。

彼女が放ったそれらは全て残らず透華に呑まれ、彼女の力を更に増大させていく。

自己完結する永久機関。京太郎が未だに対人において最強の一人であると称する少女の本領だった。



衣『……暴れ過ぎではないか、トーカ』

京太郎「そんだけ衣の事が好きなんだよ。家族として大切に思われてるって事だ」

衣『うむむ……あ、愛されているのは嬉しいが……トーカは激情的過ぎる!』

京太郎「いいお姉ちゃんだと思うがな、俺も姉が居るし」

衣「衣の方が生まれは早い! 衣の方がお姉さんだ!」

京太郎「え? 俺より遅いんじゃねえの?」

衣「キョータロー!!」



話す素振りはからかうそれ。肩の力は抜けていて、どこからどう見ても油断しきっている愚か者のそれ。


だと、いうのに。京太郎と衣が築いた屍の山は、透華が築いたそれより短時間かつ多かった。

雑多な都市伝説が、回廊に混じり始めている。

おそらく京太郎の変化に気づいたフリーメイソンが、追加の都市伝説をダメ元で回廊に放り込んでいるのだ。

だが、しかし。

足止めにすらなっていない。



京太郎「らァッ!!」



狭い戦域を、バフデバフを両立する空間へと書き換える。

状況に応じて、速度重視の赤い靴へとクイックシフト。

雑魚の足止めと哨戒は人形兵士達に任せ、ガンガン突き進む。

時々出現する強敵に、斬首の一撃を叩き込みゴロリと首を刎ね飛ばす。



普段頼っている四人の仲間達と比べれば多少不満はあるものの、驚異的なバランスであると言ってもいい。

偶然集った人間関係がここまで美しい戦力バランスを保つなど、それこそ奇跡と断じていい。


……だからこそ、彼女らはめちゃくちゃに怒っていて。

京太郎は彼女らに共感し、そのストレスの原因たる悪の組織との戦いでその鬱憤を晴らさせているのである。



彼女ら四人は、友人である京太郎への非道に、そして豊音への仕打ちに激怒したのである。

メロスは激怒した、というレベルではない。王様が土下座してめでたしめでたしとなりそうなレベルの激怒である。



豊音『み、皆怖いよー……?』

京太郎「まあ、好きにやらせてあげて下さいな」

京太郎「(なまじ豊音さんが居ない世界で笑ってた自分達の記憶があるもんだから……許せないのは、自分自身かな)」

豊音『……来た』

京太郎「こっちも、手早く行きますか」



失われたものを、取り戻す。

姉帯豊音/八尺様が決着を付け、意趣返しをすべき相手など一つしか居ない。

廊下の向こう側から歩み寄る、もう一人の姉帯豊音……アクロバティックサラサラの姿が、そこにはあった。


以前とは違い、豊音とその友人四人による決着。

自身の問題と向き合い、乗り越え、成長した豊音の前では敵ですら無い。


彼女が始めた新しい生活への、スタートダッシュとなる贈り物。

過去との決別の、一つでしかなくなっていた。



豊音『ね、ね、京太郎君』

京太郎「なんですか?」

豊音『んー……やっぱやめとこ。この件が全部片付いたら言うね』

京太郎「気になる寸止めやめて下さいマジで」

豊音『あはは、じゃあ皆で無事に帰らないとね』

……力とは別の部分で、強さを誇る都市伝説がある。

それらは大抵の都市伝説に対して強く、比類なく強力な能力を保つ場合が多い。

都市伝説の中でも有数の知名度と、厄介な能力を併せ持つ。



メリーさんが、彼の眼前に立ち塞がっていた。



京太郎「また、面倒な奴が……」



一定回数は攻撃に対して完全なカウンターをこなしてくる、死超と同格のカウンターを為す都市伝説だ。

苦い思い出と共に在る、失われた過去の一つ。

明確な対策がない。というか存在しない。

良くて穏乃で耐えるしか無く、相手がへばるのを待つしか無いという有り様だ。


だがその手にエクスカリバーが数本ある時点で、かなり対策を練って来ている事が伺える。

………打つ手が、無い。

そうこう思索している内に、こちらに考える時間を与えないためかメリーさんが仕掛ける。

対応策はない。仕掛ければカウンター、仕掛けなければタコ殴り、そして耐えようとすればエクスカリバーだ。



京太郎「(何か……何かないか……?)」

京太郎「(誰かの、今力を借りれる誰かの力を応用して……)」



メリーさんが眼前に迫り、何もしないよりはマシだと、京太郎が一閃を放つ。

そしてメリーさんが、その攻撃に対しカウンターを仕掛け―――



『あら、この状況をどうにか出来る仲間をお探しかしら?』

『なら、まず一人……ここにいる!』



京太郎が格納した誰かの力により、更なるカウンター。背後を取り返す。

更にそれにメリーさんが合わせ、それに更に合わせ、何度も何度もカウンターを合わせ合う。

互いに使っている力は同じ。回数制限も同じ。

……ならば、先に能力を使い始めた方が負ける。

京太郎の攻撃に対し先に使ったのは、都市伝説のメリーさんだった。

故に、今メリーさんは戦いの敗者として泡と消えている。



京太郎「……あ」

『……なによ。悪かったわよ』

『私の方が約束忘れるとか初めてだし、なんか、その……ゴメン』

京太郎「……いいって、気にすんな。それにしても、お前が髪留めてないのって珍しいな」

憧『明日買いに行くわよ? アンタが選んでね』



失われた約束を、取り戻した。

メリーさん同士が戦うと
残像だ!残像だ!残像だ!
ってなるのか…?

そして、扉が見えてきた。

この回廊の終わり。フリーメイソンの幹部と首領が待つ、闘技場へと続く扉。

そして今、彼らの前には赤いマフラーと赤いマントを纏った松実宥の姿。


……その外套は、既に彼女が引きこもるためのものではなくなっていた。



宥「待ってた」

京太郎「お待たせしました」



きっと彼女は、ここでラスボスとして待ち構える役目だったのだろう。

『死んでも須賀京太郎を通すな』とでも言われていたに違いない。

その結末は、どんな形であってもフリーメイソンが楽しめるものであっただろうから。


……これだけの規格外と、予想外と、想定外に見舞われていなければの話だが。

京太郎に話しかけられただけで幸せそうな宥の姿を見れば、それだけでその思惑は失敗であったと伺える。

失われたものが取り戻され、悪意の罠は無為と化したのだ。



京太郎「宥さん」



京太郎が、右手を差し出す。

右手を重ね共に在る、ネクサスへと宥を誘っている。



宥「うん」



が、宥は京太郎の首に両手を回してぎゅっと抱きしめる。

京太郎が驚き動きを止めている内に右手を重ね、格納。

少年が何がなんだか分かっていない内に、ネクサスを構成する五人の内へと加わっていった。



京太郎「……ああ、そっか」

京太郎「こんな暗い場所で待ってて、俺とまた敵対した記憶なんて持っちまって、その上また一人ぼっちだったのか」

京太郎「怖かったんだな」



また誰かを、少年を、友達を、傷付けてしまうかもしれないと恐れたまま、彼女はずっとここで待っていた。

京太郎は必ず来てくれると、それだけを一途に信じて。



京太郎「大丈夫」

京太郎「俺達はもう一人じゃないし、一人になんてしませんよ」



その言葉に応えるように、彼が来ていた学ランの上に赤いマフラーが展開される。

そのマフラーが、扉へと進んでいく勇気を彼に与えてくれていた。

扉の周りは、少し広めの広間となっている。

……そこから、懐かしくもおぞましい気配がする。

ついついそのせいで、京太郎は姉と年下かつ年上の少女の姿を思い出していた。

かくしてそれは、タイムリーであり。



京太郎「ぐえっ」


集中していた彼の頭に素性から落ちてきた何かが激突した事と、無関係ではない。


京太郎「あだだだ……な、なんだ!?」

姉帯「頭が痛いのか? なら荒川病院のお嬢ちゃんに叩いてもらえ、昨日初めてやってもらったがありゃすげえぞ」

京太郎「……ん?」

姉帯「腹に穴あいててもビンタバチンで治っちまうんだからな、外科医としちゃチートってやつだ」

姉帯「ニノマエちゃんだったか? 救急車呼んでくれたあの子にも礼しなくちゃあなぁ……」

京太郎「ストップ! まずストップ!」

姉帯「あん? 今日はやけに騒がしいな、お前」

京太郎「なんでおやっさんここにいるんだよ! 直接戦闘力無いのが自慢じゃなかったのか!」

姉帯「自慢したことはねえよ! 俺は単なる運び屋だ、家族も居るんだ好き好んで荒事はしねえっての……たぶん」

京太郎「たぶんってなんだたぶんって……運び屋?」



姉帯刑事が手渡したのは、二枚のメモ。
片方は、京太郎の姉の筆跡。そして、もう一つは……



『合わせる顔が無いのと、今すこやんと動いてるのでそっちには行けません』

『今各地でフリーメイソンの傘下が動いてます。ぶっちゃけ援軍は無理です』

『速攻で頭を潰す等しなければ、例の儀式魔法とやら抜きでも大惨事の可能性大です』

『頑張ってください。無事で居て下さい。そろそろこのかしこまった書き方飽きたやってらんねー』

『ま、死なんようにね。その袋に色々アイテム詰め込んどきました』



京太郎「……おお、回復アイテムが沢山……」

姉帯「太っ腹だな」

京太郎「良かった、ボス連戦で正直キツそうだったからな」

姉帯「連戦?」

京太郎「扉周り見てみ」



京太郎「広くなってる場所に、ガタノゾーア、クトゥルー、ゴジラ……怪獣クラスのオンパレードだ」

京太郎「アレ片付けた所で中ボスでしかないってんだから、やってらんねよな」



姉帯「若い時は苦労するもんだ、行って来い」

京太郎「はいはい、行ってきますよ」

姉帯「……死ぬんじゃねえぞ」

京太郎「おうよ」

ヤバイ状態なのに負ける気しねぇな

一二三ちゃんはどんだけ川落ちに縁があるんですかねえ

フリーメイソン元アジト兼、闘技場。

フリーメイソンは世界各地にアジトやセーフハウスを保有しており、この闘技場やそれに付随する施設もその一つだ。

この闘技場を決戦の地に選んだのはこの場所が存分に暴れられる場所であり、この街の外れに位置しているという以上の理由はない。


そんな闘技場の扉が破壊され、バラバラになった扉が大沼に向かって飛んで行く。



大沼「……来たか」



大沼はそれを一瞥もせず、マスカレイドに処理させる。

大沼の傍にはマスカレイド。マスカレイドは、この闘技場の観客席に所狭しと数千体が並んでいる。

姿が見えない怪人アンサーも、この闘技場を見張っているに違いない。

そして……扉が吹き飛ばされたと同時に、現れる二つの影。



片や、扉の向こうから。

フリーメイソンを討つがためにあらゆる困難を超えてきた、寺生まれのTさん・須賀京太郎。


片や、次元の向こうから。

フリーメイソンの忠実なるしもべとして降誕した魔神・リョウメンスクナ。



役者は揃った。

後は幕が上がり、開幕の鐘を鳴らすだけ。

……だった、のだが。



『主殿、仕切り直しでいいんじゃね』

大沼「ああ、私もそう思っていた」



京太郎「……は?」



大沼「何。勢いに乗っている君が、少し目障りでな」

大沼「理屈で言えば『正義が勝ちそうな流れ』というのは、私の立場からすれば絶対に避けなければならない状況なのだよ」

大沼「よって、今日は最初に君達を飛ばした転移装置の亜種で逃げようと思う」



京太郎「ふっ――ざけんな! お前らは、今日ここで仕留める! そう決めたんだよ!」



大沼「それに私が付き合う義理はない」

大沼「私は……絶対に君に勝てると確信した状況でだけ、改めて君に挑むとする」



京太郎「とことんクズだな、お前……!」



大沼「クズではなく、悪だ」

大沼「手段を選ぶ気はない」

ソーナンス呼ぶか

『勝てないから逃げる』。

妥当だ。まったくもって妥当と言える。

よくある話や戦略の一つであり、世の中にありふれているものの一つであると言えるだろう。

……それが、主人公達がイベントの数々をこなした上での最終決戦でなければ、の話だが。


主人公は、最後にどんな形であれ決着を付けなければならない。

ならば主人公にとって最悪の敵とは、戦いを選ばないという選択ができる敵なのだ。

主人公が勝ちそうな流れを察知して逃げ、主人公が死にそうな気配を察知して勝負を仕掛ける。



主人公は不死でもなければ不敗でもなく。

世の中にはバッドエンドの物語が溢れていて、そこにはバッドエンドの流れというものがある。

ハッピーエンドの流れを察知し妨害し、望む流れに持っていく……大沼が言っているのは、そういう事だ。

京太郎が絶望し敗北を喫してもおかしくないような舞台と流れを改めて用意すると、そう言っている。



それは、大沼を仕留め悪意の源泉を根絶しなければ、今回のような事が何度でも起きるという事で。



京太郎「待て!」

大沼「待たん」



手元にある中型の機械のスイッチ1つで、大沼は遠い地に飛んでいってしまうのだろう。

そしてそのままドロドロでグダグダな、京太郎が決着を付けられず苦しむだけの日々が始まる。

ここで大沼を逃してしまえば、それは余りにリアリティのある未来予想図だ。


京太郎では、間に合わない。大沼の逃走を止められない。

その闘争はほぼ確実に成功……したかに、見えた。



大沼は、たった一つ。

致命的な失態をしていた。

京太郎が起こした規格外の世界修正に気を取られ過ぎた結果、完全に注意を払っていなかった存在が居たのだ。



本来それは、最低最悪の失敗。それが「仕方ない」と弁護できるほど、京太郎がやらかしたことは凄まじかったのだが。

とはいえ、大沼は外してはならない相手のマークを外してしまっていた。

京太郎がいくら強くなろうと、その少女の脅威には及ばないというのに、その少女の警戒をゆるめてしまっていた。



その少女が実は京太郎よりも速く扉に到着し、扉に耳を当て京太郎の到着を待っていたとも知らずに。

その少女が扉をこっそり開け、京太郎に注目するフリーメイソン達の背後から忍び寄っていたとも気付かずに。



彼らが自身の愚かさにようやく気付いたのは……その少女の右腕が、転移装置を深々と貫いた後だった。


いつだって、宮永照は須賀京太郎のピンチに間に合うヒーローである。

照「油断大敵」


大沼「なっ……!?」


京太郎「照ちゃん!」

ですよねー

怪音と共に、転移装置が悲鳴をあげる。

それは歯車が噛み合っていないのに無理矢理動かしたせいでパーツが次々と折れていくような、異常な音。

元より魔法なんていう意味の分からないシステムを組み込んだ機械である。

作動途中で破壊なんてされてしまえば……それこそ、何が起こるかなんて分からない。



京太郎「うわっ!?」

大沼「……ぬ」

照「やっちゃった」

京太郎「ちくしょうやっちゃったじゃねーよ!」

京太郎「褒めれば良いのか怒ればいいのか判断に困るだろ!?」

『……主殿ー、どうやら皆色んな所に飛ばされるっぽいぜ。この街のどっかにだが』

大沼「……全員、現在位置を確認次第ADE586427セーフハウスに集合だ。逃走せよ」

京太郎「あ、てめえ!」

大沼「残念だったな。結果的に逃走は成功しそうだよ」

京太郎「ふざ、け……!」



京太郎が大沼へと手を伸ばし、その服を掴む。

だが、いとも容易く払われる。



そして世界は割れていく。


鼓膜が破裂しそうな爆音と共に、その闘技場に居た者達はどこへやらと飛ばされていった。

【能力使用可能状況】

【今話中、腕輪:Nextの追加固有能力をもう一度使用出来ます】

【ネクサスシフト、ジュネッスシフトの維持可能時間を一日に延長可能】

【現在スキルストック 1/5 】



【最終決戦】



【使用しますか?】



>>338

やはり使う流れなのか!?

使う

Next…(小声)

大沼「ぐっ……ここは……」

大沼「港か。随分と遠くまで飛ばされたようだな」



大沼秋一郎が身体を起こせば、そこはこの街唯一の港であった。

海に面したこの場所は、何度か大規模戦闘の舞台が主に海であるために戦場にされている。



大沼「……ふむ、悪くない」

大沼「さて、どう行ったものか」

「お前が、どこかに行けるものか」

大沼「……何者だ」



逃走ルートを頭の中で組み立てる大沼の思考を遮るように、差し込まられた声。

その声は聞き覚えがあるようで、無いようで……少し懐かしい、そんな声。



黒「もう俺を忘れたのか? ボケ始まってんじゃねえかジジイ」

大沼「……黒、フード……? 何故貴様が、ここに」

大沼「残滓であれば肉体は持たない。本物であっても、この世界に戻ってきているはずが……」



それはかつて大沼が人生を狂わせた、寺生まれの試金石。

黒い髪の京太郎が、確かな肉体を持ってそこに居た。



黒「あの腕輪は、引き金に過ぎない」

黒「一度起動すればその後の維持に腕輪は必要無いし……アイツのような延長能力であれば、一日限定で自分の分体だって作れるのさ」

黒「もっとも、その体を動かす奴が居なければ問題外だがな」

黒「例えば、俺とか」


大沼「何を言っている」


黒「咄嗟に俺とアイツが意見すり合わせてお前を逃さないためにズボンの裾に腕輪くっつけてたんだよ。気付かなかったろマヌケ」


大沼「っ」


黒「そして今アイツの貴重なストックを借りて顕現……ってわけだ。ここで、お前をどうこうするためにな」

大沼「どうにか出来ると思うのか?」

大沼「私はお前の事をよく知っている、アンサーを従えるという事は、そういう事だ」

大沼「各種能力のストックが切れている貴様では私には勝てん。どう足掻いてもだ」

黒「……かもな」

黒「照ちゃんのストックまで使い切って、前回はギリギリだったし」

黒「が、引く気もない。良ければここで死んでくれや」

大沼「……解せんな」



大沼「お前は、絶望していたはずだ」

黒「ああ。だが、それがどうした」

大沼「抜けられない絶望の中にいたはずだ」

黒「ああ。だが、それがどうした」

大沼「お前の中には、絶望しかなかったはずだ」

黒「ああ。だが、それがどうした」


大沼「残滓とはいえ、その心境の変化が解せん。昔の自分はそんなに刺激的だったか?」

大沼「それとも、何か昔の懐かしい記憶でも思い出しでもしたか?」

黒「……まあ、そうだな」



黒「笑ってたんだよ」



大沼「何?」

黒「思い出の中の女の子達さ……皆、死ぬ前に笑ってたんだよ」

黒「死ぬ前なのに、死の恐怖とか色々あったはずなのに、それでも笑ってたんだ」

黒「俺の、ためにさ」



黒「俺を不安がらせないために。俺に負担をかけないようにってさ」

黒「死の絶望にすら負けなかったあの子達の笑顔を見て、絶望してた俺が恥ずかしくなっちまったんだ」



大沼「……よくある話だ」



黒「よくあるかどうかは関係ねえ」

黒「大切なのは、あの子達が絶望や恐怖に屈しなかったってのに俺は屈指ちまったってことだ」

黒「……俺はずっと、仕事の過程で絶望から這い上がる人達を見つめてきたってのにな」



黒「だから俺は、今日ここで死ぬかもしれんがてめえに一矢報いるために挑む」

黒「所詮残滓の一夜の夢だ。生者のためにこの生命を使いきれるなら本望」

黒「てめえに挑む事は……あの子達が挑んで乗り越えた死の恐怖よりかは、怖くねえはずだ」



大沼「吠えるか、出来損ないの寺生まれ」

マスカレイドは、街を彷徨っていた。

彼にはもはや理性はない。あるのは本能と、理性の残滓と、一つだけ残った妄執だけ。



―――殺す。



それは憎しみだった。

かつて彼の策謀をことごとく打ち砕き、最後に彼自身の命すら奪った少年への憎しみだった。

悪性と敵対する善性の象徴であるその存在に、マスカレイドは殺意を抱いていた。


それだけが、彼を突き動かす。

それだけが、彼を飢えさせる。


殺意の飢えは空腹のように身を焦がし、定期的に誰かを殺すことで発散しなければならない。

その度にマスカレイドは仲間であるフリーメイソンの構成員を殺し、その飢えを和らげていた。

それももう限界だ。

殺したい。殺したい。殺したい。

何故殺したいかという理由すら記憶の中から消え去ってしまったまま、マスカレイドは少年を探し徘徊する。


そして、街の大通りを見つける。

ここなら飢えを和らげられる獲物がいくらでも見つかる……と、嬉々としてマスカレイドは飛び出していく。


飛び出してから人っ子一人居ないという異常自体に気づくという、獣じみた頭で。

この時間帯に大通りに誰も居ないということの意味に気付けない、壊れてしまった頭で。



彼の真正面から歩み寄る少女の名を呼べたのは、まさしく奇跡という他ないだろう。



「ア……ア……ア゛……!」

「……ユメノ! マホ!」



マホ「名前呼べるだけの頭は残ってるんですね。マスカレイド」

マホ「ここは既に警察の方々がいくつか用意した住民避難済みの、都市伝説を追い込むための場所です」

マホ「あの人達が先輩のために用意した、『自分達に出来る事』ですよ」

マホ「流石にこの使い方は予想外だったと思いますけど」



「グギッガガガッガギゲゲガガガガギ」



マスカレイドは知っている。覚えている。知らない。覚えていない。

記憶もない。思い出もない。ただ……憎しみだけが残っている。

あの少年と同じ、この少女はマスカレイドにとって殺したいほど憎い相手の一人。



……ならば殺して、この殺意の飢えを満たしてやろう。



マホ「世の中、悪い事をせず良い事だけをしていると神様がご褒美をくれるって友達に聞きました」

マホ「良い事、するものですね。それとも……士栗ちゃんからの贈り物だったりして」

マホ「あの日、復讐心はこの決着で最後にしてって、士栗ちゃんに言われて」

マホ「……だけどマスカレイドは、曖昧に決着の付かない終わりを選んだ」

マホ「私の心のわだかまりは、あの時からずっと燻ったまま、どこにも行けてない」



今のマスカレイドは、以前の悪辣さが全くと言っていいほど存在しない。

だから今彼を倒したならば、悪が討たれたという何よりも王道な決着が付けられるだろう。

マスカレイドが心底望んでいなかった、そんな結末が。


だと、すれば。

血生臭くとも……これは、確かにマホにとっては幸運の贈り物と言って間違いはないだろう。



マホ「貴方が主犯じゃないでしょうけど、士栗ちゃんの命だけじゃなく、私達の思い出まで奪おうとして」

マホ「一体それだけ奪っていけば満足するのかって、呆れて」

マホ「……許せないって、そう思いました」



二人で一人。

今ここに、因縁の対決がまた一つ幕を上げる。



マホ「『私達』が」

マホ「あの日つけられなかった決着を、今日ここでつけます!」

怪人アンサーの本体は、亜空間に存在する。

それは漫画でよくあるような、うねうねとした絵の具をぶちまけたような空間を想像してみればいいだろう。

そこから電話を通じ人と触れ合い、人体のパーツを収集するのが怪人アンサーの日常だ。

故に、物理的にアンサーを害する事は出来ない。

彼らの大半は常に安全な高みから、人を見下ろすように勝負を挑むのだ。



『くそっ、今日まで立ててきた計画がパーじゃねえか……!』

『あの寺生まれ、今日から安眠できると思うなよ!』

『俺達の総力を上げて、もう二度と幸せなんて感じられないように……ん?』



その時、フリーメイソンの怪人アンサーの携帯電話が鳴る。



『この番号は主殿にしか教えてねえはずだが……はい、もしもし。主様か?』



『その主様が誰かは知らないけど、僕は誰かを従僕にした記憶は無いかな』



『……誰だ、お前』



『おや、誰かと聞かれては答えずにはいられないね。だって僕も、怪人アンサーなのだから』

『君のご同類さ。外道と名高い君のことは、僕もよく耳にしているよ』



『あ? アンサーが俺に何の用だってんだ?』

『俺達アンサーは互いに鑑賞しても良い事ねえんだから基本不干渉が鉄則だろう』



『そうだね。しかし契約の手前、そうも行かないんだよ』



『あ? 契約だ』



『そう、僕は何度か一人の少女に完膚なきまでに負けていてね』

『それはそれで悪い事じゃないんだけど……その少女の体のパーツも、その少女がなまじ優れているからこそ欲しいんだ』

『そうしたら、今日彼女から提案を受けてね』

『「私の願いを聞いてくれたなら、私こと原村和は貴方の望む身体のパーツを差し上げます」……ってね』



『……!?』



『僕はその願いと彼女の体の一部に、僕の命を賭けるだけの価値があると考えた』

『賭けをしよう。僕と君で』

『賭ける物は互いの所持するパーツ全てと、互いの命』

『百問百等戦だ。不正をすれば、僕達は相手にすぐバレてしまうから言うまでもないね』



『俺様が応じる理由がねえぞ』



『良いのかな? 僕は契約違反をすれば、永久に彼ら彼女らの隷奴としてこき使われるという契約を交わしている』

『契約内容は無期限で「フリーメイソン所属のアンサーの再起不能」。細かい所は省いてるけども』

『君が応じなければ、寺生まれ所属の怪人アンサーが生まれるというだけの話だよ』

『けれど、それは君の企み的には不味いんじゃないかな?』

『怪人アンサーが知っている事は、同じく怪人アンサーが知っているという事なんだから』



『……クソがッ』



『では、勝負を受けてくれるということでいいのかな』



『せめてルールを追加させろ。お前の土俵に乗るのも癪だ』



『どうぞ。あんまりなのは却下するけどね』



『助っ人の参戦許可』

『無回答は不正解扱い』

『不正は問いに対する答えの能力による調査を基本とする』

『後は好きにしろ』



『……ふむ。成る程』

『では細かいルールを煮詰めたものを、今からメールで送るよ』



『身ぐるみはいでぶち殺してやるよ』



『おお、こわいこわい』




怪人アンサーVS怪人アンサー。

京太郎「照ちゃん、庇ってくれてサンキュー」

照「どういたしまして」

京太郎「なら次は、アレどうにかしねえとな」



転移装置と言えど、くくりが甘ければ無敵のリアルに干渉なんて出来るはずがない。

そしてリアルに咄嗟に庇われた、寺生まれも同様である。

そして、転移装置の暴走によって飛ばされなかったものがもう一人。

というより、あまりにもデカすぎて飛んでいけなかった魔神が一人。



「――――――――――!!!!」



リョウメンスクナ。

国殺しの魔神が、今京太郎達の眼の前に立っている。

その力が国という概念に向けられれば、首都東京も近いこの街だと首都直下型地震ですら起きかねない。

国を洒落にならない破壊力で滅ぼさんとするこの魔神は、少なくとも今この場所で歯止めが利くようにしておかなければならないのだ。



京太郎「行けるか、照ちゃん」

照「貴方となら、どこまでも」

京太郎「怜!」

怜『はいさー』

京太郎「穏乃、一さん、姫子さん、宥さん!」

穏乃『よっしゃ出番?』

一『正攻法で潰せるの? これ』

姫子『わ、おっきぃ……』

宥『……考え、あるの?』



京太郎「まずはジュネッス」

京太郎「咏ちゃん来れないから、照ちゃん入れてバランス取るぜ! 絶対取れないけど!」

怜『まーた無茶か。ま、いつもの事やしなぁ』



そして、この場所で最後。

彼らが守るこの街で、開かれた四カ所の命を懸けた戦端。

それぞれの戦場で、戦う者達は命を削る。



戦いが、始まった。

END.
第二十五話前編:Yesterday When I Was Young/帰り来ぬ青春

START.
第二十五話後編:You Are My Destiny/あなたは私の運命の人

では、今夜はこれにて

太陽が登ってるぅー
のぼっ照とか言うギャグじゃないですよこれは


とりあえずお疲れ様でしたー。お付き合いいただき感謝

次回いいですとも。アンド正真正銘最後の戦い



では、おやすみなさいませー

乙です
今度こそだ。今度こそ「いいですとも」に参加する

乙!
各所で因縁の対決…燃えますな

そういえば差し入れのアイテム詰め合わせの中身はどんな感じなんだろうか?

くそっ、今回は眠気に負けちまったが次回はこうはいかないぞ!
それこそ12時間連続投下でもなんでもこいや!

榊ガンパレ善行んばんわ

Aマホを元にした安価スレシステムとか色々組んでみたりしてるんですがこれまた難しい


http://i.imgur.com/o56RnCh.gif
このスレの『悪い事をしたら天罰が下るんだよ!』という因果律の現実における典型



>>112>>114
なんでや!

>>145
戦ってますねー
かつて京太郎に任せた難敵も倒してます。彼女も成長したようです

>>257>>260>>261>>262
きっついなぁ、読者の期待に応えんのは

>>314
そして後ろを取れる回数に制限がある以上、先に後ろを取った方が負けます

>>352
ここ「百問百答戦」でした

>>360
京太郎「中ボス戦でほとんど使い切っちまったメンゴ」

>>376
じ、次回は早めに始めるようにしますので・・・!



http://www.youtube.com/watch?v=u9Nw_TbASgg
ジブリの例のアレを形にした謎技術


25話後編はちゃんと京太郎の最初の能力が『格納』だった意味も言わずとも分かるような決戦にしたいですねー

できるよ>>1なら!…だって…>>1は、>>1だから!

冗談抜きでこのスレの半分以上は埋まるだろうしね
明日は一体何時間ものになるんだ……もつかな

すいません、消し忘れました

いいですともの時間は予め教えて貰えると有り難いっす

追いついたらまさかの誕生日に最終戦だった
これは全力でいいですとも!

今夜20:00最終決戦後編投下開始

戦闘は実質一回のみ。この戦いで>>1がやりたかったことは全部終わる気がします


http://www.youtube.com/watch?v=NGXr77VsOYU
ボツBGMその2
どんな場面がボツになったかはご想像にお任せします



>>389>>390
気にするな!

>>394
ちょっとまだ見当付かないですね
スレを常に追うか、後は急激にレスが増えたタイミングを見極めるか・・・

>>396
ハッピッバースディ! 新たな読者の誕生だよっ!



http://www.afpbb.com/article/economy/2958580/11097966

これで何人の命が救われたのだろうか

ネクサス分身とか没ルートのレアボスとかかな
やっぱり他のルート、たかみーや透華格納も見てみたくなるな
終了後に没ネタ、没設定公開とかないですか?割りと本気で見たい

>>401
全部終わった後になら何でもかんでもお答えしますよー



青い果実/始まり

http://www.youtube.com/watch?v=yIfIzRkVnDc



では、投下はっじめーるよー

昔々、まだ彼と彼女が幼い頃の話。



「咲ー」

「なに、京ちゃんー?」

「この本なんだー? 見た事ない絵本だけど」

「これ? お父さんが古本屋で気まぐれに買ってきたんだよ」



宮永の家で少女と少年二人は並んで、本を読んでいた。

それを部屋の外からこっそりと覗いている少女も居たのだが、それはまた別の話。

二人が今読もうと広げている絵本は、童謡や神話を元にした絵本でなく、聖書を元にした絵本のようだ。

その表紙には大きな船が描かれており、それに乗り込む人々や動物の姿が描かれている。



「えーと……いのちをもとめよ、いのちをすくえ、いのちをはこびこめ? 難しい言い回しだな」

「よきいのち? うーん……京ちゃん分かる?」

「わっかんねー、まったく分からん。いやはやさっぱり」

「別の本にしよっか」

「そろそろ飽きたしゲームしようぜー」

「もー!」



二人は本をダンボールの中に押し込んで、別の箱からゲームの機器を取り出していく。

この本は終始二人に読まれる事はなく、いつしか捨てられてしまう。

しかしその物語は余りに有名であったが故に、二人は知らず知らずの内にその物語の内容を知る事となる。



その絵本の物語が、少年と少女達の物語の終幕を飾る最後の舞台装置であるとも知らずに。

数千の仮面のバケモノが殺到する。

それら全ての手には刃、しかし手にした文明の利器に反してその動きは獣じみている。

地に手をつき四ツ足で這い、歩くでも走るでもなく跳び、喋るでも叫ぶでもなく唸る。

それはケダモノの行進だった。この世界に古くより存在する、獣達の狩りだった。


か弱い一人の少女に群がり貪り尽くさんとする、外道の果てにある人外達の姿だった。

百人に見せれば百人が『少女が蹂躙されるだけの悪趣味かつ一方的な殺害』と評するだろう……この時点であれば。



マホ「士栗ちゃんが私にくれた力は、二つ」



しかし、この場における本当の一方的な実力差は、外見などでは到底計れない。



マホ「一つは……何があっても私が死んでしまわないように」

マホ「一つは……先輩の為に、私の為に、マスカレイドを倒すために」

マホ「最後まであの子は、私達の為に何かを残す事を考えてくれてたんだ」



夢乃マホがその場でスカートをひるがえし、一回転。

それは舞のように美しく、華麗でありながらもただ苛烈。

近寄る敵を吹き飛ばし、吹き飛ばした敵が多くの敵を巻き込み、その敵が吹き飛んでいる間にも更に近寄る敵を吹き飛ばすその過程。

マスカレイドが視界に映らなければただの舞踊にしか見えないそれは、敵対者の存在によりこの場の血生臭さを加速させている。



マホ「そんな娘を、貴方は殺した」

マホ「その命も、思い出までも、私達から奪おうとした」

マホ「……許せる、わけがないっ!!」



戦闘が成り立っていない。

数千の仮面が一方的に何も出来ずに吹き飛ばされているだけの光景しか存在しない以上、これはゴミ掃除と何が違うというのか。

青山士栗が「優しい」と称した少女は、不自然な怒りの表情にその顔を歪めている。

何故不自然なのかは、見れば一目で分かるだろう。


その表情は涙が流れて初めて完成される憤怒の表情であるのに、涙が枯れたように流れていないからだ。

その空白が、虚無が、喪失感が、余りにもその怒りとミスマッチである。

心優しく穏やかで、本来喧嘩すらも厭うはずの少女。



青山士栗の託した力が、残した思い出が、優しき復讐鬼を戦いの場へと駆り立てていた。

ビルを蹴り、道路を駆け、空を舞う。

ほんの一呼吸の内に数百体のマスカレイドが散っていく。


無力であれば、彼女は戦おうとはせず託そうとしただろう。

無関係であれば、彼女は何も知らずに京太郎の無事を祈るだけだっただろう。

だが、彼女は力を手にしてしまった。目の前で友達を殺されてしまった。


だから、止まらない。



マホ「……っ!」



雨のように降り注ぐエクスカリバーの雨の合間を縫い、視界に映る陸地の七割を覆うマスカレイドの群れを見据える。

既に砕いた刃は数万、打ち倒した仮面の数は数千を超える。

弱くとも、数が多かった。心が折られる数だった。


そして、そんななんでもない『数』に折られそうになるほどに……マホの戦意は、脆かった。

本来戦いを望まなどしない心優しい性情が、復讐心と士栗との約束によって無理矢理奮い立たされている戦意の足を引っ張っている。

戦いなんてしないに越したことはない。誰かを傷つけるのは悪い事だ。殺すなんてもっての外だ。

理由があってそれが許されるとしても、それは逆に言ってしまえば理由がなければ許されない、その行為自体が悪という証明だ。

夢乃マホは、そう思っている。



マホ「それでもっ!」



それでも。

死んでしまった友達を思い出す度に、そのせいで死ぬよりも辛そうなくらい苦しんでいた先輩を思い出す度に。

二人と一緒に三人で笑った、平和な時間を思い出す度に。

優しいからこそ……その理不尽に、怒りを覚える。

許せない。許してはならないと、当たり前の想いを抱く。

彼女はそうやって、ブレる己の芯を補強する。

ましてや彼女の中で、諸悪の根源と目されているマスカレイドが目の前に居るのなら尚更だ。



マホ「悪い事をした人が、それ相応の罰を受けないのなら!」

マホ「……良い事をして、人を笑顔して、それなのに泣いてるあの二人が!」

マホ「バカみたいじゃ、ないですか……!!」

マホ「(それにしても……)」

マホ「減らない……!」



戦闘になっていない。その上、マホの一撃が放たれる度に数百数千というペースでマスカレイドが減っていっているのだ。

夢乃マホの勝利は揺るがず、マスカレイドは時間経過で敗北に進んでいく以外にない。

実際マホも適度に数を減らした後、照魔鏡にて本体の場所を探し出すつもりであった。

……が、しかし。

数が減らない。マホは既に二万はマスカレイドを屠っているのだろうが、その上で視界に映るマスカレイドの数は減っていないのだ。

住民の居なくなった街を見渡せば、マホの目に映るのは視界を埋め尽くすマスカレイドの群れ。

大通りを埋め尽くし、電柱や信号機に登り、ビルの窓全てを埋め尽くし、下水から這い出で、前後左右上下ありとあらゆる場所にいる。



マホ「……まさか」

マホ「本体を持ち歩いて、ここに……!?」



慎重なマスカレイドの性格から考えにくいと考えていた彼女だが、ここまでくればその可能性の高さに気付く。

生産元と供給者が近くにいればその再生産速度にも納得だ。むしろそれ以外には考えにくい。

……だが、だとするのなら。

このマスカレイドは、知性も悪辣さも自身の利点も己の安全も何もかもを投げ打って、捨て身でこの場所に居るという事になる。

それはかつてのマスカレイドには無かった必死の捨て身な在り方。だからこそ恐ろしい。


かつてのマスカレイドにあった最も恐ろしい部分である『悪意』は失われた。

だが失ったそれ相応の恐ろしさが、逆にその仮面には備わっている。

……そして、世界は真摯である者、目的に対して一途な者を差別しない。



マホ「……まずは照魔鏡。次に本体探して一撃かな」

マホ「警察の人が頑張って人払いしてくれてたおかげで、助か――」





「お母さん、お母さーん……どこ……?」





マホ「――ああ、もう、運命の女神とやらは乱視なんですか!?」

想定した所でどうにもならない。

だが、夢乃マホは想定しておくべきだったのだ。

想定しておけば、どんな形であれ心構えは出来ていただろうから。


この数時間の無人の街という状況を作るために、どれだけの時間と労力と住民の理解が必要だったかは、想像もしたくない。

だからこそ、こんなアクシデントも起こりうる。

何度も何度も訓練を重ねる避難訓練とは違う。

常にぶっつけ本番な現実の避難であるからこそ――女の子が一人、はぐれて取り残されるなんて事態が発生し得る。


そしてマスカレイドの中にほんの少しだけ残っていた悪意の残滓が、この場で最善かつ最悪の選択肢を選ばせる。



マホ「――――」



迷うも一瞬。決断も一瞬。彼女は、心優しいが故に。



マホ「(間に合って……!!)」



マホが道を塞ぐマスカレイド達を吹き飛ばしながら突き進み、100mは離れていた少女の元へと一瞬で辿り着くまでのタイミング。

数万のマスカレイドが一斉にその少女の位置へとエクスカリバーを投擲したタイミング。

その二つは、完全に同時であった。



マホ「(……ああ、何やってんだろ、私)」

「あ、う、あ、お姉さん?」

マホ「大丈夫」



夢乃マホは圧倒的だ。彼女とマスカレイドでは戦闘にすらならない。

……だが、それは『戦闘になったとしても夢乃マホが勝つ』という事を意味しない。

だからマホは受けには絶対に回らなかった。戦闘を成り立たせる状況を徹底して回避しようとしていた。

だが。

少女を抱きしめるように庇っている今の状況で、マホに出来る事は何も無い。



マホ「私が守るから」



捌ききれる許容量を超えた刃の壁。

迫り来る死。どこかで聞いたような言葉。

奇しくも、夢乃マホが眼を閉じたその状況は、青山士栗に致命の一撃が加えられたあの瞬間のようで――

中央高校生徒会室。

今や誰も生徒の居ない学校の一室を借り受けて、この世界の命運を賭けた戦いが始まろうとしていた。

大きな会議用の机の端に、向かい合うように置かれた携帯電話とそれを見つめる一人の少女。

携帯電話は少し離れて置かれつつもさして問題が無いように、電話の向こう側同士による会話が行われている。



『準備はいいかい? 僕はいいけど』

『俺様に対しちゃ愚問だわな』

和「では、公平な勝負を」



『勝負は始まった時には既に終わっている』、という格言がある。

勝負事態の駆け引きよりも勝負に対してどれだけ準備してきたのかという事の方が、数倍重要であるという事である。

部活における練習、戦争における仕込み、頭脳戦における事前の研究と対策。

極端に言えば勝負が始まる前に相手の王将以外の駒を取り上げて将棋を始めるということですら、闘争においては許されるのだ。


二人の怪人アンサーで言えば、それは事前のルール設定に集約される。

ルールの提案、修正、すり合わせ。とはいっても互いにここに時間をかける気はない為に、時間はそうかからない。

ルール設定で複雑な罠を仕掛けることもできるが、そうはせずに素朴に互いに枷のないルールを練り上げる。


事前にフリーメイソン側が提示したルールに加え、追加されたルールは


『審判を一人用意する。その審判が用意した側に加担する行動を取った場合、この勝負はその側の敗北となる』

『互いに携帯電話を介しての形式』

『問いが出されてから回答を出すまでの制限時間は一分』

『不正は発覚時点でその側の敗北。ただし最低でも能力による不正の証明を必要とする』

『相手の出した百問中正答が多かった方の勝ち。同数は互いに追加百問とする』


の五つ。細かいルールもあるが、それは割愛しよう。



『……油断はしねえ。俺様は自分の強さも知ってるが、俺様より強い奴が居るのも知ってるからな』

『だが例えお前が俺様より格上の最上位のアンサーだとしても、その首主様への土産にしてやらあ』


『安心するといい。僕はアンサーの中でも能力で言えば下の下といった所だよ』


『あ?』


『僕は純知識型。君のような情報集積型とは格が違う』

『あくまで人間の延長さ。本を沢山読んでいる人間とそう変わりはしない』

『見た事、聞いた事、知っている事しか知らないんだ』


『……くっ、キカカカカカ! なんじゃそりゃ! まるっきり無能じゃねえか!』

『それでよくこの勝負に挑んだもんだ。自殺志願者かぁ?』


和「……」



『僕の言葉はいつだって、自分の為か未来の為にしかないさ。他人の事しか語れないんだけどね』

その戦いは、この街で行われている四つの戦いの中で最も静かであった。

片方が次々と問いを紡ぎ、もう片方が黙々と答えていく。

百の問いを片方が終えてからようやくもう片方へと問いの権限が与えられる、そんな戦い。

……しかし。



『100問中、てめえの正答が68』

『そして今、俺がお前の問いに対して出してる正答は100問中67!』

『クヒャハハハ! あと二問正解で俺様の勝ち確とか楽勝すぎんぞ!』


『……』



如何ともし難い、能力差がある。

両者の間には存在としての圧倒的格差があり、能力によって蓄積された本体の情報量が余りに段違い過ぎるのだ。

当然フリーメイソン側があと二問正答すれば、その時点でこの勝負は終了である。

フリーメイソン側が常に主導権を握る事を約束するアンサーが生き残り、京太郎達は根本的な対抗手段を失ってしまうだろう。

絶体絶命のピンチであり、それを今分かっているのは京太郎とその仲間達の中では原村和ただ一人だけだった。



『おい、原村の嬢ちゃん』

和「……なんでしょうか」

『いや、後悔してるんじゃないかと思ってよ。ぶひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!』

『こーんな無能のアンサー頼っちまってよー、しかもどっちが勝ってもアンタに得はないと来た!』

『どう転んでもアンタにいい終わりは来ねえっての。他力本願じゃあなぁ!』

『この勝負終わったらこの先の人生で苦しまないように介錯してやろうかー? ぎゃはは』

和「……」



和とて分かっている。

両者の実力差は歴然だ。綱渡りのような現状に、か細い勝機は既に消えかけている。

ましてや怪人アンサーは、二度戦った事があるだけで原村和にとっては仲間なんて親しい関係ではないのだ。

……だが、それでも。

「あの人ならこんな時どうするだろう」と、大切な友人の一人である少年の顔を思い浮かべて。



和「(……考えるまでも、ないですよね)」


和「なにを言ってるんですか? 勝ってもいないうちから随分と有頂天ですね」

和「ここから大逆転です。まだ勝負は終わってませんよ」

和「私は、信じています」



こう言うんだろうな、と。微笑んで胸を張る少女が居た。

―――君の覚悟に敬意を。その覚悟は、アンサーたる僕を動かした

―――その意志に敬意を評して、僕の名前でも教えようかな。それで僕達は対等だ

―――僕の名はミシェル。声とかが日本人? そこは気にしないでくれるかな

―――そもそも、この名前自体誰かに名乗る事はもうないだろうと僕は思っていたんだから




脳裏に蘇る、味方ではなくとも対等に力を合わせることが出来た瞬間の記憶。

自分ではない誰かを信じ、そこに命を賭ける事が出来る。

その契約の時の原村和は、いつだって合理的な彼女の行動とは途方もなくかけ離れていた。



和「勝利を信じます。私達には何の力もないけれど、それだけは出来る」



だというのに、常の彼女よりもずっと誇らしそうだった。



『……ききき、類は友を呼ぶってか』

『成程、あの男の友人だ。だが主様だったらこう言うだろうさぁ!』

『 「勝ち目のない勝負で勝利を信じさせるのは、ただの罪悪だ」ってなっ!』

『あと二問で、お前らのその甘ったるい希望を断ってやんぜ』



『そう上手くは行くかな?』



『……やっと動くか。俺様を待たせんじゃねーよ、下等なアンサー』


『待っていてくれたのかい? てっきり気づいていないだけだと思っていたよ、下衆なアンサー』


『言うじゃねえか。が、お前の勝ちの目は既に俺様が全て塞いでんぜ』


『塞がれていないさ。ここまで期待されたんだ、勝たなければ恥というものだよ』




『証明しよう、未来は塞がらない。僕はそれをよく知っているからね』

アンサーさんイケメン過ぎて濡れる

魔神・リョウメンスクナは強敵だ。

かつて人類という括りで頂点に立っていた小鍛治健夜を圧倒し殺害した強さは伊達ではなく、そのステータスは凄まじい。

おそらくジュネッスですら傷を付けられるかどうか、というレベルだろう。

その大きすぎる図体が邪魔してか、それともまだ全力でないのかは分からないが判定値に影響する素早さなどは低めだ。

が。



京太郎「う、おおおおおおっ!?」

怜『かー、あの剣厄介過ぎるわ!』



その弱点を、巨体に生える四つの手が軽やかに振り回す大剣が補っている。

かつて京太郎が邪神を討つ為に作り上げた剣は今や真っ黒に染まり、魔法による改造を受けている事が伺える。

リョウメンスクナの弱点を補い、ステータスを上昇させ、隙の無い強さを構成しているのだ。



穏乃『走って! 跳んで!』

一『受けて! 流して!』

姫子『撃って! 逸らして!』

宥『と、飛んで!』

京太郎「くそっ、反撃する余裕がねえ!」



それぞれが別の属性を持つ四本の内三本の腕が炎、氷、雷を発し、残りの一本が大剣を振るう。

機械的に開かれた口から放たれた極太の光線は、空中で枝分かれして数十本の光線となり降り注ぐ。

魔法によって付加されたであろう技能の数々。

それら全てをありとあらゆる手段をもってかわし切り、しかし少年達に反撃の余裕はない。



京太郎「はぁ……はぁ……、っ、あと攻撃当ててないの誰だ」

衣『衣だけだ』

豊音『能力なら私が防げるけど、もうあんまり撃ってこないね』

小蒔『今は、削れるだけ削るしかありません』

淡『衣出すとステータス不安じゃない?』

照『私で補える』

京太郎「四人分当てても、オーラス一撃はどうしたもんかな……」



オモイヤリは、もう彼の手元にはない。

大人達が最後の希望として残した黒壇の槍は、もう灰になってしまっているのだ。

だから彼らには、リョウメンスクナはどう足掻いても倒せない。



怜『うだうだ言っとる時間があったら、今出来る事をやり』

怜『なにもせーへんで悩んどるよりか、百倍生産的や』

京太郎「……だな。うっしゃ、皆もう一頑張り頼む!」

魔法使いの手の上には、モニターのように映る三つの戦場。

鏡の少女と仮面、答えを出す者と答えを出す者、寺生まれと両面宿儺。

この街と世界の行く末を賭けた敗北の許されない戦いだ。


だが、それら全てにおいてフリーメイソン側が有利であるように見える。

這いつくばったまま、命を燃やし尽くしてまで立ち上がろうとする黒い男の視界にも、それは見える。



大沼「見えるか?」

黒「ぐっ、ぎっ……!」

大沼「お前が勝とうが、他の三ヶ所で俺の部下が勝てばそれは無駄な努力だ」

大沼「そして今のお前が俺に勝つ可能性も、万に一つもない」



この二人には、隔絶した実力差が存在する。

黒い京太郎にかつての日に持っていたストックが残っていれば、かつての日に持っていた非常さがあれば。

手段を選ばず殺すことにのみ特化した黒い須賀京太郎は、大沼秋一郎と今の立場が逆になっていたはずだ。

だが、そんなもしもはない。

かつて仲間達から受け取った力のいくつかは、かつての世界を救うために使い切ってしまったのだから。

今の彼には、大沼の一人称や二人称が変化している事に気づく余裕もない。



大沼「……貴様が、せめて手段を選ばない在り方を維持できていればな」

大沼「こうまで一方的にはならなかっただろうに。お前は、弱くなった」

大沼「かつての自分を真似しても、過去に戻る事など不可能だというのに」

黒「……はっ」



絶体絶命の危機。

多くの仲間達から受け継いだ多様なスキルが、桁違いの多様さを誇る魔法に蹂躙されているという不条理。

そんな理不尽を、不条理を、黒く染まった彼は鼻で笑う。



黒「過去に戻ろうなんて、今更思わねえよ」

黒「弱くなったとも思わねえ。これが本当の俺だ」

黒「一人ぼっちじゃ何にもできない、弱い俺だ」



そして、立ち上がる。



黒「けどな……お前よりは、『強い』と思うぜ?」

黒太郎頑張ってくれ…(´;ω;`)

大沼「その復讐心が薄らいでいなければなあ!」

大沼「復讐鬼が復讐心を捨てて、後に何が残るというのだ!」



幾千の魔法。幾千の弾幕。

歯を食いしばって乗り越える黒と、いとも容易く致命の攻勢を組み立てる悪。

そんな悪の挑発に、黒は本心からの言葉で答える。



黒「前の世界では、復讐の為にお前と戦った」

黒「だけどあの人達は、俺に復讐の為に戦うことなんて望んでなかっただろう」

黒「だから今一度のこの戦いは……今度はちゃんと、この街を守る為に」

黒「残るものはあったんだよ! この胸の中に、最後に残ってくれたんだ!」



戦いは遥か上空へ。

様々な色が混じりすぎてしまったが故に、黒でしか無くなってしまった二つの色が衝突する。


黒い光と、黒い闇。

闇夜の空の漆黒に溶け、両者は融和するように反発し、殺し合う。



大沼「粘るな」

黒「ぐ、あっ……ハァッ……ハァッ」

大沼「安心しろ。貴様が一番最初に死ぬだけだ」

大沼「じきに皆後を追う。俺の部下が追わせるだろう」

黒「……はぁっ、はぁっ……く、くく、ははっ!」

大沼「……何がおかしい?」

黒「そうやって見下してるから、甘く見てるから、アンタは何度も『俺』に負けるんだよ」



満身創痍。つついただけで死にそうで、今にもその命は尽きそうだ。

けれどその眼光は刃よりも鋭く強く、眼前の悪を刺し貫く。

その右手には霊石の連環。



黒「あいつらは、今はまだ未熟な青い果実でも」

黒「困難を乗り越えて成長し、いつかは誰かに敬われる英雄になる」

黒「だから変わる事を肯定し、取り返しのつかない終わりを否定し続けるんだ。俺達は」



掲げられる腕輪。

正真正銘、黒い彼の最後の切り札。

腕輪から二色の光が放たれ、彼自身の黒色の光と混じり合う。



黒「言ったはずだ。アイツもアイツの仲間にも、お前より弱い奴なんて一人だって居ねえ!」



絆を紡ぐNexusと似て非なる、彼の本質は受け継ぐNodus。

 




Revolution/革新


http://www.youtube.com/watch?v=sdxYEaCl_NY




 

勝敗は変わらない。

この場で死する者の運命は変わらない。

だから、黒い彼が敗北する運命も変わらない。



大沼「ぐっ、あっ……!?」

黒「くっ、ははっ……してやったぜ」

黒「堕ち果てた男の残滓の消えかけの残り粕がやったんだとすればよ」



黒「アンタの右腕一本ってのは、最高に上出来な戦果じゃねえか……!!」



黒い光を放つ男の胸には穴、黒い闇を放つ男の右腕は既にない。

相打ちというにはあまりにも一方的過ぎて、しかし実力差を考えれば信じられないような奇跡であった。



大沼「貴様、なんだ、その力は……!」

黒「アンタは軽く見過ぎなんだよ、自分が踏みにじった人間も、殺してきた人間も……」

黒「だからこうやって、足元をすくわれる」

黒「だからこうやって、俺は救われた」



腕輪の中から彼の中へと戻った光。紫色と桜色の二色の光。

激突の直前その二つの光が黒い彼の光と混じりあった結果、三色の光は爆発的な力をもたらした。

その一瞬の驚愕、一瞬の隙、一瞬の読み違いが、大沼にこれほどのダメージを与えたのである。

そして、その光の正体とは。



黒「なんのバグだろうな。俺の時は……発動しなかったってのにな」

黒「話しかけなかったからか、その最後を看取ろうとしなかったからか、愛をもってトドメを刺さなかったからか」

黒「それは分からん。だけどこの世界の須賀希望は、須賀京太郎を大切に思っていた」

黒「息子として愛してくれた。そこでどんなバグが発生したのやら、あの人の姦姦蛇螺の力は俺に流れ込んだのさ」


黒「俺の中には仲間が残してくれた力も、お前が知らない士栗が残してくれた力もある」

黒「力の光の色はもうなにもかも全部混ざっちまって、ぐちゃぐちゃで真っ黒になっちまってる」

黒「それでも色はある。全部飲み込んで、何もかも自分の黒で塗りつぶしちまうお前とは違う!」



黒「誰かの死を、無価値だったと貶めるお前とはっ!!」



母、娘、孫娘。

それは大沼秋一郎に掴むはずだった幸せを奪われた、三世代三人の執念の一撃だった。

黒「人を信じられず、人をそばに置けず、傍には都市伝説だけ置いて……」

黒「しまいにゃ人類皆居なくなれと来たもんだ。そんなお前の孤独は、絶対に埋まらない」

黒「ブラックホールみたいにその胸の虚で全部飲み込もうとしてるお前が、誰よりも寂しさを感じてるだなんて笑える話だ」

黒「埋まるわけがねーのにな。疎外感を感じるからって、他人を排斥してりゃあそうなる」

黒「ましてや、望まれたその行動の定義が悪なら尚更だ」

黒「そんなお前より……弱い奴なんて、居るもんかよ」



命をほぼ使い果たした黒い光に、大沼は無言で闇の魔法を撃ち込む。

その眉は顰められているものの、右腕を失ってなおその悪意は健在だ。

闇に飲み込まれるようにアネルギーで編まれた身体がほどけていき、消えていく。



黒「……絶対勝てよ、須賀京太郎……!!」



やがて肉体は消え去り、残った腕輪は街の何処かへと落ちていく。

大沼は後々の懸念事項を消し去るためその腕輪を追い再度砕いてしまおうと画策する、が。



大沼「……ぐっ、うっ……!? なんだ、これは……!?」

大沼「まさか……毒か! おのれ、死してなおどこまでも邪魔な……!!」



黒い京太郎が右腕を切断した際に体内に送った物。

それは放射能であったり、狂いの月光であり、わずかに残っていた退魔の光であり、その他諸々だ。

ありったけの『害あるもの』を傷口から大沼の体内に注ぎ込み、内部からぐちゃぐちゃにしてやろうという画策。

言ってしまえば、これだけが黒い彼が見い出した己の命の最後の使い方だった。



大沼「解毒、できん……!」

大沼「このままでは、一時間と経たずに……私は、死ぬ」



ごちゃまぜの能力による概念の毒は、魂すらも問答無用で蝕んでいく。

更に腕を一本失ったことによる大量出血、70間近という老齢。

根本的に対抗神話の力であるがため、都市伝説の力である大沼の回復魔法が効きづらい。


ありとあらゆる事象が、大沼に悪く作用していた。



大沼「こんな……こんな所で、こんな形で……死んでたまるか……!」

大沼「人を滅ぼすまでは、泥を啜っても、屍肉を喰らっても、どんな屈辱を受けようとも」

大沼「何があっても、諦めるものか!」



それでも、巨悪の心は折れず。

大沼は詠唱一瞬、魔法を発動してどこかへと飛んでいった。

そして、黒の頑張りによって腕輪は無事に街の一角へと落ちる。

腕輪自体に傷はない。ただ、輝きを失った黒い部分を慈しむように輝きを増す、桜色の部分が印象的な石が何故か目についた。

そんな腕輪を拾い上げ、胸の前で握りしめる金の髪の謎の少女。



「満足ですか」

「でも、あの男と戦って、悔いのない決着を付けられたんですよね」

「貴方があの人でないとしても、貴方が笑って終われたのなら私は嬉しいです」



「……お父さん」



傘に隠れた表情からは、その少女の感情は読み取れない。

ただ、悲しげではあった。そこに当てはめるんのなら、泣き顔以外には相応しくないと思える。

背中で語る悲しみと、過去と決着を付けた少女の姿がそこにはあった。



咲「――ちゃん!」

「……咲ちゃんですか。バスの中で待っていて下さいと言ったはずですけど」

咲「あの、その、なんだか悲しそうだったから」

咲「悲しい時は喋ったりしなくても、誰かがそばに居てくれるだけで違うから、その……」

「……ふふっ、大丈夫ですよ。貴女は優しいですね」

咲「ううん、京……京ちゃんとかなら格好つけた叱咤とかしたかもしれないけど、私には出来ないし」

咲「優しくなんかないよ。誰だってすることだもん」

「……そんな貴女だからこそ、最後に果たすべき役目、貴方にふさわしい『出来る事』があります」

咲「?」

「名前を口に出すだけで口ごもるくらい罪悪感があるのなら、直接会って謝りましょう」



本来の乗り手と一人の乗客を乗せて、バスは走りだす。

向かう先は、おそらくこの夜最後の決着が付くであろう場所。



「この腕輪を、貴女があの人に渡すんです」

黒太郎二度目の死。

俺は彼の覚悟に敬意を表する(`;ω;´)

マスカレイドの群れ。いや、もはや群れというレベルではない。

群れとは狩りをする獣達の集まりにこそ相応しい物であり、それはこれほどの数の悪魔達には似つかわしくない。

郡なる者(レギオン)とでも称すべき悪魔達が、勝利の雄叫びを上げている。



「ガァーーーーーーーーーーッ!!!!!」



……その勝利が、仮初の物とも知らないで。



マホ「大丈夫?」

「お、お姉さんの方がー! ナイフとかが、あわわ、一杯刺さってー!」

マホ「大丈夫……一回だけなら、友達が守ってくれたから」

「え?」



【『永久の友情』発動!】
【夢乃マホの死亡を無効化し、HPを全回復します!】



マホ「……あはは、あなたとおんなじ事してたよ、士栗ちゃん」

マホ「でも、気付いたら体が動いてたんだ。……あなたも、そうだったのかな」

マホ「気付いたら、こうやって庇ってたのかな……私達を」

「……あの、お姉さんー?」

マホ「貴女、名前は?」

ひな「え? あ、山谷ひなと申しますー」

マホ「ひなちゃん、ね。少しだけ、ここで待っててくれる?」



その声色に、もう怒りはなかった。

その眼に、マスカレイドに対する憎しみは残っていなかった。

あの日、最後の最後まで誰も憎まず怒らずを貫いた青山士栗のように、夢乃マホの瞳は澄んでいた。



マホ「私が守るから」



憎しみでも、復讐心でもなく。

ただ『守りたい』という気持ちだけで拳を握る、そんな風に変われた少女。

過去と決別し、親友から受け継いだ力を正しく振るう者となった少女。



ひな「……はい!」



士栗と同じ立場で誰かを庇ったという事実。

そしてその事から連鎖する様に想起された、思い出そうとすらしていなかった士栗の死に際の顔。

……最後に、何故か浮かんだ士栗の笑顔。



夢乃マホもようやくこの時、青山士栗の死と決別を終えていた。

う゛あ゛あ゛あ゛あ゛士゛栗゛ち゛ゃ゛あ゛あ゛あ゛ん゛

もう先週あたりから涙腺ズタボロだよ

マホ「あと女の子が夜道を一人で歩いてちゃいけません。私の知り合いのお兄さんなら怒りますよ」

ひな「……京兄?」

マホ「……その件に関しての話は遺憾ながら後にしましょう。今は!」



コンクリートが削られ巻き上げられて舞い上がった土煙が晴れない内に、マホは照魔鏡を発動する。

覗き、覗き、覗き、その存在を除くために。

時間にして一秒足らず。一瞬と言って差し支えない刹那の内に、マスカレイドの本体を突き止める



マホ「(本体は……!)」



そしてその場で、土煙ごと切り裂く手刀一閃。

口裂け女の遠隔攻撃とは、つまるところ『これ』である。

手刀による空気はおろか、空間すらも両断する一閃。

車の陰に隠れていたマスカレイドの本体が、切断面から『ズレ』ていく。

切断面から斜めにスライドするように、車が、街路樹が、車線上に居たマスカレイド達が、両断から数秒経つ後真っ二つになっていく。


そしてその一撃を皮切りに、霧のように消えていく数万のマスカレイド軍団。



マホ「……哀れですね」

マスカレイド「こんな、こんな事が……!」



残ったのは、消えかけの身体を執念で保っている上半身だけのマスカレイド本体。

その腹の中に何やら機械類が見えているあたり、よっぽど無茶な改造をされていたようだ。

正気も取り戻している様子。だが、長くは保たないだろう。



マスカレイド「私の最後が、誰かの人生を幸せにする後押しをしてしまうとは……それだけは、嫌だったというのに」

マスカレイド「ふふっ……吹っ切れた顔ですね」

マスカレイド「もうお友達の事は忘れてしまったんですか? ひどいひどい」

マスカレイド「貴女が悲しみなんてなかったかのように笑う姿を見て、あの少女はどう思いますかね」



最後の最後に、心に傷を残そうとする。

散る間際まで誰への悪意と共に在る、それがナイトメア・マスカレイドの矜持だ。



マホ「大丈夫。士栗ちゃんはそれを望んでくれる、優しい子だったから」

マホ「それに、今は一緒に居る。貴方のそんな言葉で、私の士栗ちゃんへの信頼は揺らがない」



だが……その言葉/刃はもう、夢乃マホの心には刺さらない。

マホ「私も先輩も、もう貴方の言葉に惑わされはしません」

マホ「もう貴方が刻んでいった傷を引きずって行ったりもしません」

マホ「士栗ちゃんの思い出だけを大切に仕舞いこんで、貴方の記憶なんてどうでもいいものと扱います」

マホ「貴方のことなんて綺麗サッパリ忘れて、私達は幸せになる」



それは、マホがたどり着いた結論。幸せになる方程式。

……そして、悪にとっては。



マスカレイド「私が一番出して欲しくなかった結論を、こんなに簡単に……」

マスカレイド「仕返しも復讐も加害の連鎖もせずに、全て忘れて幸せになど……」

マスカレイド「だから、貴様達はおぞましいのだ……!」


マホ「なんとでも言えばいいです」

マホ「私達は幸せになるのに一杯一杯で、本来悪(あなたたち)なんかに構ってる暇ないんですよ」



悪にとっては、最大限の侮辱であると言ってもいい。


そして、彼女は風を切って人差し指をマスカレイドへと向ける。

その指先に続くように、宣誓……いや、己へと向けた宣言を言葉に組み立てる。



マホ「ここは誰かの幸せを願う者だけが在る事を許される街」

マホ「その『想い』だけが人を許し、人に愛され幸せになる権利をくれる」

マホ「貴方のような醜悪は、絶対に私(わたしたち)が許さない」



それは、これからもずっと一人じゃないと紡いだ言葉だった。

それは、これからもずっと人を守っていくという誓いだった。

それは、これからもずっとこの街の守護者で在る約束だった。



マスカレイド「……」

マスカレイド「……もはや言葉は、蛇足か」

マスカレイド「首領閣下……ご武運を」



そして、今度は何も言葉を残さず、吹き去る風のように消えていった。



マホ「……ああ、終わった。今、やっと本当の意味で倒せた気がします」

マホ「急がないと……先輩」



そしてマホもその最後を看取った後、風のように走り去っていった。

ファッキューマッス
グッバイマッス
フォーエバーマッス

正答数67対68。

絶望的な状況……で、あるかに見えた。

ここから大逆転をかますのなら、実力差から考えればそれこそ奇跡に近い出来事が必要となるだろう。



『僕に対して、君は警戒し過ぎたよね』

『僕が自分より上位のアンサーなんじゃないか……そう想定した君は、正しい』

『その後の一手も、極めて正しいと思うよ』


『なんだ? 勝てないと判断して命乞いか』


『何故、君は「助っ人あり」のルールにしたんだい?』


『……これは主殿と寺生まれのそれぞれの部下も巻き込んだ集団戦だ。何も変じゃないだろ?』

『様式美みてーなもんだ。アンサーと言えば仲間と相談して答えを出すのも王道だからな』


『嘘だね。ならば何故回答制限時間一分ルールに同意したんだい?』

『一分じゃ相談はできない。君は僕が提案したこれを却下しなければならなかったはずだ』

『君がこのルールを受け入れたのは、自分にとって得があったから……違うかい?』


『てんで見当はずれだな。出直して来い』


『京太郎くんは今戦っているんだろう? つまり、戦える人物はほぼ京太郎くんの元に集まり此方は手薄』

『そこで君達フリーメイソンの唯一優っている数と層の厚さが生きてくる』

『今、この学校を君の部下が攻めてきたらそれだけでこの学校は制圧されてしまうだろうね』


『……ほう、何が言いたい?』



『君が調整したこのルール、君の部下が物理的に君の敵の携帯を壊すことにより君の敵に無回答を強制させる』

『無回答は不正解扱い』

『その結果、どんな相手にも絶対に勝つという策略なんだろう?』



『……くひゃっ、よーくわかったな』


『能力も使って回答においても不正していると見た。僕が分からないのは、やはり魔法の加護かな』


『不正なーんてしてませーん。証拠はどこですかー?』

『「不正なんてしたとしてそれは地球が何回回った時?」とか聞いてやろうか? ギャハハっ!』


『いや、構わないよ。僕ははなからその不正を暴けるとは思ってないからね』


『ん?』



『チェックメイト。僕の勝ちだ』

魔法による不正。
圧倒的な戦力差。

正攻法でも勝てず、正攻法以外に相手が必勝の策を用意しているという絶望。

しかし……その絶望も、今この時打ち砕かれる。



『何……?』


『君の部下を突入させて僕の携帯を壊すんだろう? さあ、やってみるがいい』


『……自殺志願者か。まあいい、突入!』



……30秒経過。何も起こらない。

……1分、2分、3分経過。何も起こらない。

迅速が命であるはずの要所突入が、5分経っても始まる気配すらない。



『……何ッ!? バカなっ! おい、応答しろ!』

『貴様……俺様の使い捨てとはいえそこそこ気に入ってた部下に何しやがった!』


『何、君と同じさ』

『君はこの場に携帯が二台用意される事から、原村和ともう一人、ここにいるんじゃないかって恐れていただろう?』

『その一人を始末するために君が戦力を用意したように、僕もその一人に君の部下を始末してもらったのさ』


『ありえない! この街に今存在する残り全ての人間が、倒せない都市伝説を用意したんだぞ!?』

『誰を呼ぼうが、勝てるはずがない!』


『その一人が、今君の携帯電話を持っているよ。ごめんね、弁償するからへし折っといてくれるかな』

「はいはい」


『待て、こんな結末、納得が……!』



『君の敗因は、僕を最初に警戒し過ぎたこと』

『そして僕の能力カミングアウトに釣られて、油断したこと』

『その結果僕を見下し、僕に手の内を完全に読まれている事に気づかなかったこと』

『ヒトの力と覚悟を舐めすぎたこと』

『アンサーとして、知識の勝負にこだわるという最低限の誇りすら忘れたこと』

『君が真っ当に勝負を挑んできたら、僕はそれを正々堂々受けて……正々堂々君が勝利していただろうにね』



『待――――』



ベキリ、という音に続いて、携帯がへし折られる。

最終正答数、67対68。

不正を働き、卑怯に挑み、悪辣に貶めようとした者の、哀れな敗北の形であった。

だが、悪はしぶといのだ。

あっさりと終わってはくれない。

マスカレイド然り、悪は粘液のようにしぶとく粘りつく。



『終わって、たまるか……!』

和「学校の、スピーカーに……?」

『君もしつこいね。僕はもううんざりだよ』

『俺様はまだ、死なねえ……!』



学校のスピーカーを媒介に、フリーメイソンのアンサーはしぶとくしがみつく。



『契約が履行される前に、お前を殺しちまえば契約は反故だ、へへっ……』

和「恥ずかしくないんですか、この期に及んで、更に無様を重ねるなどと……」

『俺は勝負が好きなんじゃねえ! 勝負に負けた奴が苦しんで死んでいくから好きなんだよ!』

和「っ」

『だが、その前にだ……テメエ、なんだ? ただのアンサーじゃねえだろ』

『僕かい?』

『俺様も長い事アンサーやってるが、テメエみたいなのは見たことねえ。能力の弱さも含めてな』



『正体明かせよ。てめえ何者だ』



『……ふむ、まあ大した者ではないよ。アンサーの例に漏れず、僕も畸形で生まれた人間が都市伝説になったものだ』

『普通と違うとすれば、僕は畸形嚢腫として数年兄の身体の中に居た事と……前世の記憶があったってことかな』


和「前世の、記憶……?」


『前世で僕は不思議な力を持っていてね。まあその未来を変える力もセットであったんだけど、基本小遣い稼ぎに予言してたんだ』

『僕の予言は当たるもんだから色々と後世に残っちゃってね……しかも僕が見た未来は、僕にしか変えられないと来た』

『生前にやった予言の中で、気がかりなのが一つあってさ。案の定世界的に有名な都市伝説になっちゃってて』


『……まさか』


『ま、だから人間として不揃いな身体で残った力を使ってテレパシーとか駆使して、その予言を回避させたわけなんだよ』

『そのせいで1999年に不思議な力は使い切っちゃったんだけどね』

『そして数年経って、手術で取り出されてお陀仏かーと思っていたらアンサーになっていた、というわけさ』



『てめえ、ノストラダム―――』



『ま、つまんなくてどうでもいい話さ。君への冥土の土産だよ』



『は?』

ファッ!?


ファッ!?

>>531
なんという詐欺

『君が部下を使ったのは、携帯を介した間接的な勝負を望んだのは』

『自分自身が前に出たら、自分が直接仕留められてしまう危険性があると危ぶんだからじゃないのかい?』

『まあ、君が出てくるだろうって根拠もなく彼女らに予言したのは僕なんだけどね』



『……ぎぅっ!?』



スピーカーから聞こえる、圧搾され潰されるような音。

フリーメイソンの怪人アンサーの見落としは、たった一つだ。

和が携帯電話に残していた一つの番号、普段はこの街に居ないくせに今日だけ帰って来ていた少女。

この町の住民でなくなったくせに、卒業して今なおこの学校を『自分の学校』と思っている唯我独尊少女。

もう一つの携帯の持ち主、部下を纏めて仕留めた本人、理不尽な道理で取り戻した力を振るう少女の都市伝説。

彼女の存在を、見落としていた。


この学校内においてはあらゆる都市伝説の頂点に立つ、至高の女王の存在を。



久「卒業しちゃったけど、私の学校の中を這い回らないでくれる? 不快よ」

久「そのままそこで潰れちゃいなさい」

久「私のテリトリーで好き勝手やらかしたのが、貴方の運のつきよ」



メキリメキリという音が、外道に相応しい終末の音を奏でている。



『し……死にたくない! 俺様はまだ死にたくない!』

『俺は殺すのが好きなだけだ! 殺されるなんてまっぴらだ!』

『主様、助け――』



プツン、と。

途切れたスピーカーの音が、決着がついたという事を示していた。



『終わったようだね』

和「……終わった、んですか」

『安心するのはまだ早いよ。忘れたわけじゃないよね?』

和「……はい。覚悟はできています」



『君のパーツを貰い受ける。僕が望むものを、なんでも』

>>532
能力で言えば下の下(怪人アンサー以外に能力を持ってないとは言ってない)

和「……なんでも、どうぞ」



原村和は、覚悟をした上で契約を交わした。

四肢が欠ける覚悟。内蔵が欠ける覚悟。重要な部分を持っていかれれば、その場で死ぬだろうとも覚悟してきた。

怪人アンサーの実力はよく知っている。その力を借りなければ、どうにもならないと分かっていたから。

目を瞑り、その瞬間の痛みに対する覚悟を決める。



『そうだね……では、まず』

和「……」

『君の子どもとの再戦の予約を取り付けようかな』

和「え?」



『君の子はさぞ聡明だろう……その勝負は楽しいだろうし、そのパーツはさぞ価値が有るはずだ』

『勿論、君にも君の孫にも勝負を受けてもらう。何度もね。君達が負ければ当然、パーツは貰う』

『今までの形式と同じく、パーツが取られるのが嫌なら子や孫と協力するといい。夫が理解ある人であるならその人もだ』

『君と君の子孫は、ずっと僕と勝負を続けてもらう。期限は僕が死ぬか完成するか、君の血脈が途絶えるまでだ』


『当然、その為には君には家庭を築く義務がある。違反すれば、その時点で君の首を取りに来るよ』

『愛する人を見付けて、その人と結ばれ、沢山子を作るんだ。僕の対戦相手として』

『子供達とも孫達ともずっと仲良くするといい。でないと、僕と戦う時チームワークがばらばらになってしまうだろうしね』

『そして出来れば、幸せになるといい。それは君が僕と戦う時のモチベーションになる』



『僕が望む君のパーツは、君の未来だ。そのパーツの価値をこれから高めていって欲しい』



それは、無茶苦茶な理屈であった。

契約の内容を逆手に取った、アンサーにとって何の得も無い要求だった。

なんじゃそりゃと、久が部屋の隅で大爆笑を始めるトンデモだった。

理屈っぽい和に合わせた、アンサーらしい洒落た彼女へ贈るプレゼントだった。



和「……はいっ! ありがとうございます!」



少しだけ潤んだ目を伏せるように、原村和は頭を下げた。



ここにまた一つ決着がつき、残る戦場はあと一つ。

ノストラダムスさんは近頃流行りの京→牌ならぬアンサー→クイズ対戦と言ってもいいくらいにクイズが好きなんやな
クイズキチなんやな

ええ人や…

闘技場に向かう影が、二つ。

一つはバス、一つは瀕死の大沼秋一郎だ。

目的地が同じ二つに違いがあるとすれば、それは片方が先行し片方がそれを攻撃している形であるという事。

謎の少女が疾走らせるバスは、大沼秋一郎の手によって破壊されようとしていた。



咲「あわわわわ!?」

「しっかりシートベルト付けてくださいねー。あ、このバスシートベルト無いんでした」

咲「死んじゃううううううううう!?」

「死にませんよ、たぶん」

咲「多分って何いいいいいいいっ!?」


大沼「腕輪を回収し、その上で俺を追い越すとは……!」

大沼「その腕輪を奴に与えるわけにはいかん! この場で破壊する!」



互いに闘技場に向かいながらも、大沼が腕輪を脅威と認識しているが故にこの惨状だ。

腕輪を持つ限り逃げ切れず、腕輪を捨てる訳にはいかないという二律背反。

映画のワンシーンのような、爆発する路上をややジグザグに機動し駆け抜けるバス。



咲「このままじゃ死んじゃうよ!? どうしよう!」

「仕方がありませんね。奥の手を使いましょう」

咲「奥の手!? そんな『こんな事もあろうかと』みたいな都合のいい物が!?」

「そこの赤黒いスイッチを押して下さい、咲ちゃん。私運転してますので」

咲「こ、これ!? ポチッとな!」



一つ、京太郎がアイテムと一緒に受け取っていた健夜からの手紙について話そう。

その中には一度使った照の発信機頼りの砲撃作戦に関する概要の手紙と、一つの発信機。

その役割は京太郎が大沼にこっそりと取り付け、黒が腕輪の話をわざわざする事で『腕輪だけ』という意識を植え付ける事で完成した。

今もその発信機は、大沼秋一郎に取り付けられている。

さて、ここで問題だ。


今咲が押したボタンは、一体何だったでしょうか?


答えは空の上で、県外から放たれたであろう極太ビームに呑まれた大沼がその身で証明している。



咲「   」

「あれでもせいぜい時間稼ぎにしかならないでしょうし、急いで今の内に進んじゃいましょう」

咲「え、今の、あれ、健夜さんの」

「スイッチ押した主犯は貴女ですよ」

咲「違うよ! 百人いたら百人が違うって言うよ!?」

闘技場。

京太郎は上半身裸でありながら、その体には擦り傷しか見られない。

……いやむしろ、異常は擦り傷すら無いリョウメンスクナと言うべきか。

両者の姿は、とても互角とは言いがたい。



京太郎「……やべえな、アイテム使い切っちまった」

怜『かといって逃げたりしとったら、こいつ野放しやで?』

京太郎「分かってる。止められるのは、今は俺達しか居ないんだ」



ジュネッスを再稼働。ホシガミ&リアルという身体への反動をとても考えていない無茶な格納。

しかし、彼は自然と負担を感じていなかった。

むしろもっと先へ、もっと上へと進んでいけそうな感覚。

腕輪があれば、もっと格納する相手が増えれば、もっと――



そんな彼の思考を、『空から聞こえたエンジン音』が遮る。



「……は?」



その声は、おそらくジュネッス10人と京太郎の声が重なったもの。

その瞬間、これまでになく11人の心はシンクロしていた。


バスが空を飛んでいたら、そうもなる。



「バスが空を飛ぶ文句はジブリにお願いしまーす!」

咲「京ちゃーん! 聞こえてるー!?」

京太郎「さ、咲!?」



ましてやそのバスから知った声が聞こえた上、その窓から身を乗り出すように幼馴染が姿を表したのだから倍率ドンだ。

京太郎の混乱は計り知れないが、咲が投げてきたものを見て冷静さを取り戻す。

霊石の、連環。



咲「京ちゃーん! 色々言いたいことも、言わなくちゃいけないことも沢山あるけど!」

咲「ごめんなさーい! 受け取ってー!」



幼馴染の気安さ。そうだ、この二人に限ってはこれでいい。

咲が最後の最後に、彼に必要だった最後のパーツを持ってきた。そうだ、この二人に限ってはこれでいい。

咲が投げた腕輪は受け止めるまでもなく、空につきだした彼の手首にパチリとはまる。



京太郎「気にすんな!」

咲「……ありがとー!」

バスは闘技場の上を飛び越えていき、そのまま反対側へと抜けていった。

本当に一瞬の邂逅。だが必要な物は揃っていた。



京太郎「(……行ける)」

京太郎「(なんか知らんが、行ける気がする)」



しかし、少年にとってのチャンスであるということは。

大沼にとってもチャンスである、と言う事である。

ピンチはチャンスというように、チャンスは両者に等しく訪れる。


それに京太郎が気付いたのは、何かが飲まれるような音がした瞬間だった。



京太郎「……なっ!?」

大沼「ふぅ……あと十分遅ければ、ギリギリだったかもしれんな」



大沼が、リョウメンスクナを食っている。

口で食っているわけではない。両手に作った巨大な口にしか見えない魔法の穴で、貪るようにリョウメンスクナを食んでいるのだ。

バクリバクリと、ゴリゴリと、バキバキと、抗うも体が動かないリョウメンスクナを生きたまま容赦なく喰らっている。

その生命力の全てを、力の全てを、存在の全てを喰らっている。


余りに凄惨過ぎるその場面に、京太郎は思考が凍り付いていた。



大沼「――――」



一分もしない内に、その『食事』は終了した。

食事を終えた大沼を老人と呼んで、誰が納得するのだろうか?

黒い髪を頭部全体に逆立てて、筋肉の鎧に包まれたその姿は20代のそれと言って差し支えない。

全身から立ち上るオーラは大沼とリョウメンスクナのそれを足したものよりなお多く、乗算計算を思わせる。

そして何より、その肌だ。


灰色の肌。柔らかい金属のような質感のそれは、ヒトを捨てた悪性である彼に相応しい。



京太郎「なん、だ……そりゃ」

大沼「元より、俺の為に用意した餌に過ぎんのだよ、姦姦蛇螺はな」

大沼「私が国殺しの力と、不老不死の肉体を手に入れるためのな」

京太郎「不老不死……!?」

大沼「都市伝説の大半は歳を取らん。そして、純正の都市伝説は人の噂の特性により不滅に近い」

大沼「もはや俺を殺せる生物はこの地上のどこにも居ない!」



大沼「俺は究極生物の位階へと至ったのだ! ハハハハハッ!」

【大沼秋一郎/ザ・ワン】


HP:測定不能

ATK:測定不能
DEF:測定不能


・保有技能
『ザ・ワン』
悪。闇。一つであるが故の最強。
判定値+補正測定不能。
同格の能力以外の、あらゆる概念を無視する事が出来る。

既に『この次元の数字では表せない』レベルの強さ。

ホシガミですら自然数が限界だ。ホシガミは無限に近寄ることは出来ても、無限に至ることは出来ない。

それなのに、この人の姿をした魔神は無限の向こう側に居る。



京太郎「バカなッ……!」

大沼「貴様との戦いには、どの道この姿で挑むつもりであった」

大沼「だが、もういい。魔法陣の展開も終わった」

京太郎「!? いつの間に!?」



闘技場に展開された魔法陣。それが例の人類の意識へと干渉する魔法陣なのは間違いない。

……いや、それよりも問題なのは。

大沼が京太郎に向けた右手の、その射線である。



大沼「まずは貴様の力の源であるこの街を消し飛ばしてやろう。ちょうどこの闘技場はこの街の端にあることだしな」

大沼「都合よく、一撃で済む……避けてもいいぞ? どの道、俺は撃つ方向を変える気はない」

京太郎「クソッタレッ!」



避けねば死ぬ。しかし避ければ、街が消える。

大沼の右手に凝縮されている圧縮された闇は、おそらく挨拶代わり程度の威力しか込めていないのだろう。

その程度の攻撃が、既に大陸の形を変えるだけのエネルギーを込められている。

桁が違うどころではない。文字通り、次元の違う一撃。



京太郎「皆……ここが踏ん張りどころだ!」



応と、応える少女達。

その能力をフルに展開し、壁を成す。

寺生まれの力をその外側に展開し、障壁とする。

本来絶対的であると言える防御手段を、何重にも重ねた今の彼らの最大最強の守り。



大沼「さらばだ。貴様は、俺の踏み台としては上々だった」



どぷんと、粘性のある液体が割れた風船の中から飛び出してきたような音。

大沼の手元から放たれた闇の奔流に、彼らの最高の守りはいとも容易く飲み込まれる。

……そして。



大沼「ふむ、また綺麗さっぱり消えたものだな」



闇が消え去った頃、大沼の視線の先には跡形もなく吹き飛んだ街の跡。

放射状に消え去った地盤の欠けた部分に、流れこみ海と化していく海水と、広がる海が印象的だった。

そして、当然……そこには誰一人として人影は見当たらなかった。

この世界の警察は有能だから(震え声)

須賀京太郎が最初に手にした力は何か?

それは、格納だ。人を己の中に収める力だ。

誰かを己の中へと収め、災厄より守り、未来へと連れて行く力だ。





友情(フレンドシップ)という言葉がある。須賀京太郎が好きな言葉の一つだ。





かつてこの世界にて、悪が一掃された出来事があったという。

その時、神様はノアという人間に、生命を格納する方舟を作らせたという。

生命を求めよ、生命を救え、生命を運び込めと。

その方舟はよき生命を格納したままあらゆる災厄よりその生命を守り、新天地へと連れて行ったという。




生命を格納するもの。

悪よりよき命を守るもの。

光の方舟。




その名を、ノアの方舟という。

334万人くらいかな?(適当)

大沼「バカ、な……」



その驚愕は当然だ。

だが、少年が『そうなった』のも当然なのだ。

それが当然であると言えるだけの積み重ねが、少年にはあった。



京太郎「……あの銀色、こういうことか」



その理屈は到底常人には理解出来やしないだろう。

消し飛ばされたはずの京太郎が、今大沼と同格のオーラを纏って大沼の眼の前に立っているなどと。



京太郎「格納解除」



落ち着いた、出来て当然という気持ちのこもった発声。

そして、彼に格納されていたものが外部へと飛び出てくる。

彼に格納されていた、『街丸ごと一つ』がだ。



大沼「な、ん……だと……!?」

京太郎「悪いな」

京太郎「アンタが吹き飛ばして高笑いしてたのは、海だけだ。陸地には触れてすらいない」



街はなんでもないように元の位置へと当てはまり、ガッチリと元の姿を取り戻す。

街に住まう人々は『なんとなくの暖かさ』を感じつつも、格納された事にすら気づいていないだろう。

それほどまでに、一瞬の早業だった。



京太郎「へへっ、格納上限なくなっちまったぜ……負ける気がしねえなぁ」

大沼「私と同じステージに立ったぐらいで、いい気になるな!」

大沼「一人では何も出来ない弱者が!」

京太郎「一人でしか何も出来ないテメエが言うな!」



雲の上。

地球と宇宙の境界線へと、二人は一瞬で辿り着く。



光と闇、相容れぬ両者は、この瞬間に決着をつけんと生命をBETする。

【須賀京太郎】


HP:測定不能

ATK:測定不能
DEF:測定不能


・保有技能
『友誼の方舟/フレンドシップ』
善。光。一人でないが故の最強。
判定値+補正測定不能。
同格の能力以外の、あらゆる概念を無視する事が出来る。

地球×京太郎……

【最終決戦】



最終決戦は、あらゆる小細工の存在しないただ単純な殴り合いです。


技もありません。能力もありません。武器もありません。


HP:■■■


の数値を行動判定で削り合うだけの、ただ純粋な殴り合いです。


純粋に次元の違う二人に、もはやこれまでの戦いで通用していた能力は通用しません。


ただ、全身全霊で殴って下さい。


全身全霊で殴る京太郎を、勝利へと導いてあげて下さい。

「右ストレートでぶっとばす」 「まっすぐ行ってぶっとばす」
「右ストレートでぶっとばす」 「まっすぐ行ってぶっとばす」
「右ストレートでぶっとばす」 「まっすぐ行ってぶっとばす」

あ、HP:■■■■■だった。しゅうせいですー

京太郎「俺は、一人じゃない」

大沼「俺は、ずっと一人だった」



京太郎「だから、俺が勝つ」

大沼「だから、俺が勝つ」



「「ここで終わらせよう、全て」」



絆/光が勝つか、独り/闇が勝つか。



大沼「ここでなら……この星の命を無闇に奪うこともあるまい」


それは、いつか自分でその生命を奪うために。


京太郎「ああ。それは望むところじゃない」


それは、いつか自分でその生命を守るために。



どこまで行っても対照的。
どこまで行っても分かり合えない。
どこまで行っても天敵でしかない。


そんな二人は、示し合わせたように同時に飛び出し。



互いの顔面に、全身全霊の拳を叩き込んでいた。




京太郎の行動を選択して下さい
・攻撃、必殺、防御
>>670


>>670のレスから五分以内に非同一IDのいいですとも10個で次の大沼の行動開示!

防御かな

いいですとも!

勝ったな(確信)

【#攻撃悪】



防御VS攻撃


須賀京太郎の攻撃サイド確定!



須賀京太郎 残りHP:■■■■■

大沼秋一郎 残りHP:■■■■



多すぎぃ!次回大沼の行動は必殺!

顔面を殴られ、両者は共に後方へと吹き飛ばされる。

吹き飛ばされた距離数千キロ。しかしこの二人にとっては、一呼吸で詰められる至近の距離でしか無い。



格納解除の際に町の人々の多くは街へと戻った。

……だが、例外もある。

彼に格納された時に、己の意思で彼の中に残った者達がいる。



ばちんと、京太郎が殴られた鼻を自ら叩く。

折れた鼻は戻ったが、流れる鼻血は止まっていない。



憩『む、効きが悪い』

京太郎「……十分ですよ、憩さん」



今やこの次元の戦いに、あらゆる技能は意味を成さない。

彼女の気遣いは嬉しいだけで、それだけだ。

……だけど、それだけの気遣いが、彼の背中を押す力となる。



京太郎「(戦えない人達まで、残ってくれてる)」

京太郎「(俺のために)」



いつかの不良。いつかのOL。いつかのサラリーマン。

後輩。先輩。近所のお婆さん。道で会う度に挨拶をする程度の名も知らない気のいいおじいさん。

方言が何言ってるのかさっぱりな先輩。綺麗だと掛け値なしに思った先輩。

頼りになる人、信頼出来る人、友情を感じてる人、助けに来てくれたのが意外だった人。

戦えない人達だけで、こんなにもいっぱい居る。



和『行きましょう』

咲『皆で、一緒に』


そして、戦える人達も。


怜『さて、クライマックスや!』

照『気を抜かないで』



負ける気がしない。




京太郎の行動を選択して下さい
・攻撃、必殺、防御
>>766


>>766のレスから五分以内に非同一IDのいいですとも10個で次の大沼の行動開示!

攻撃でいいですとも!

【#hissatu悪】



攻撃VS必殺


須賀京太郎の攻撃サイド確定!



須賀京太郎 残りHP:■■■■■

大沼秋一郎 残りHP:■■■



次回大沼の行動は必殺!

大沼「何故だ、全能の力を持つ俺がっ!」

大沼「不老不死の力も手に入れ、究極の存在となった俺がっ!」

大沼「何故貴様らのような塵芥共に、押されている……!?」



二人の力は完全に拮抗している。

闇と光に、本来優劣はないのだ。

ならばこの場において発生している優劣の原因は、力の大小ではなく。



京太郎「お前は数えきれないほど魔法を使えるのかもしれない」

京太郎「お前は数えきれないほどの人を傷つけてきたのかもしれない」

京太郎「お前は数えきれないほどの勝利を重ねてきたのかもしれない」

京太郎「俺がお前に勝てない理由なんて、それこそ数えきれないんだろうさ」


京太郎「だが、それでも」


京太郎「数えきれないほどの人達が、俺を支えてくれている!」



心のあり方の強弱でしか、あり得ない。



大沼「凡俗共がいくら集まった所で、0は0しか生み出せんのだ!」

大沼「何も成せず私の罪を数える程度しか出来ん能無し共が、今度は傷を舐め合う同類を数え始めるか?」

大沼「つくづく救えん蒙昧共めがッ!!」



京太郎「……お前がそうやって、自分の罪を数えようとしなかったから!」

京太郎「誰もお前を裁けなかったし、誰もお前を許せなかったんだろうがッ!!」




変化を迎えていたのは、大沼だけではない。

少年の変化は劇的に……しかし、この場においては何よりも妥当であるように。




京太郎の行動を選択して下さい
・攻撃、必殺、防御
>>836


>>836のレスから五分以内に非同一IDのいいですとも10個で次の大沼の行動開示!

攻撃
いいですとも!

攻撃
いいですとも!

いいですとも!

【#必悪殺】



攻撃VS必殺


須賀京太郎の攻撃サイド確定!



須賀京太郎 残りHP:■■■■■

大沼秋一郎 残りHP:■■



次回大沼の行動は防御!




【戦いの過程で、多くの人々から京太郎への認識が変化しつつあります】


【青い果実】カチチチッ


【Revolution/革新】カチチチッ


【英雄】カチッ




英雄/青い果実から英雄へ


http://www.youtube.com/watch?v=WxYgQYk3L0Y

いいですとも!

速攻で次スレ! これで落ちる心配なし!


【咲安価】京太郎奇怪綺譚:XXV巻目【都市伝説】
【咲安価】京太郎奇怪綺譚:XXV巻目【都市伝説】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1379953204/)

英雄が強いから英雄なのではない。

魔物や魔王を倒すから英雄なのではない。

多くの人にそう認められてこそ、英雄なのだ。


だから現代において英雄はめったに生まれない。

英雄が必要とされる時代ではないからだ。だが、今新たに英雄が一人この世界に生まれようとしている。


多くの人に望まれ、認められ、希望を託されるが故の英雄が。

青い果実から成熟し、成長し、歯を食いしばって人々を守り抜いてきた英雄。



大沼「はああああああッ!」

大沼「美しい物は一瞬だ!」

大沼「あの逢魔が時の夕焼けのように、滅びるからこそ、価値があるのだ!」


京太郎「うらああああッ!」

京太郎「美しい物は連続だ!」

京太郎「始まりを告げる朝焼けのように、始まり続き繋がれていくからこそ、価値がある!」



大沼「戯言を! その先にあるのはただの腐敗だ!」

大沼「誰かの為に強くなるなどと……貴様は、その腐敗を加速させている!」

大沼「私は、故に人が憎い!」



京太郎「腐敗するかもしれねえ。だけど、それはそいつらの自身の問題だ!」

京太郎「そいつらを歯ぁ食いしばって守るかどうかは、俺の自由だろうが!」

京太郎「好きになっちまったんだ、守ったって良いだろうがよ!」



「「わからず屋の、馬鹿野郎が……!!」」



京太郎の右手には、幾多の光が混ざることなく圧縮された光。

大沼の右手には、幾多の色を飲み込み塗り潰す圧縮された闇。



光と闇が、天と地の狭間で三度激突した。




京太郎の行動を選択して下さい
・攻撃、必殺、防御
>>902


>>902のレスから三分以内に非同一IDのいいですとも10個で次の大沼の行動開示!

必殺 いいですとも!

いいですとも!

【#悪防御】



VS防御


須賀京太郎の攻撃サイド確定!



須賀京太郎 残りHP:■■■■■

大沼秋一郎 残りHP:■



次回大沼の行動は防御!

徐々に、徐々に差が開いていく。

全身全霊の一撃を叩き込み合う度に、少しづつ、少しづつ大沼は追い詰められていく。

光が希望を巻き込んで、闇の絶望を押しこんでいく。



大沼「何故、貴様らは分かろうとせんのだ!」

大沼「皆が自分の選択で未来を選んでいけると貴様らは言う。自分の意志で進んで行けるのだと貴様らは言う」

大沼「自分の意思で選んだ道、選んだ選択。綺麗な言葉だ……だが!」

大沼「自分で選んだ選択肢の果ての結末すら受け入れられない者が増えたから、世界はこうなってしまったのだぞ!」

大沼「だから、私のようなものが生み出されるのだ!」


大沼「人は、自分より優れた者の存在は認めながらも、世界の過半数は自分より下だと思っている」

大沼「誰かを憎み怒りそいつのせいにして、何かと理由を付けて人を見下しにかかるのだ」

大沼「私は、その思考の果てにあるものだ!」

大沼「誰にだって見下せる悪として、自分よりも最低だと思える者として、そう望まれたのだ!」

大沼「貴様に、そんな汚らしいヒトを守っていく覚悟があるのか!」



悪が問う、少年の正義。

人が汚くとも、醜くとも、目を背けたくなる部分があるとしても、守っていけるのかという問い。

その問いに、少年は。



京太郎「……さあな」

京太郎「でもこれからずっと、俺は救えなかった人を忘れない」

京太郎「そして救えた人達に胸を張りながら、生きていく」

京太郎「その生き方が辛く思える日が来たとしても……貫くって、決めたんだ」



一つの答えを、差し出した。



大沼「よかろう」

大沼「その覚悟、俺が見定めてやる」

大沼「俺を越えられないようなら、どの道そんな柔い覚悟は貫けん!」




京太郎の行動を選択して下さい
・攻撃、必殺、防御
>>910


>>910のレスから一分以内に非同一IDのいいですとも10個で超必殺発動!

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