ペトラ「中二病でも恋がしたい」(27)


・会話がない。ほとんど独白。すごく読みづらい。

・すぐ始まってすぐ終わる。

・できれば中二病なペトラの話を誰かに書いてほしい。

私の名前はペトラ・ラル。

華麗に空を舞い、巨人を倒す妄想を脳内で繰り広げるようになってから早数年。

五年前に壁を壊されてから妄想は現実に、なるわけではなかった。

妄想のように光の魔法陣が出現することもなく、
誰の目でも捉えきれない速さで移動することすらできない始末。

格好をつけて決め台詞を言おうものなら殺されそうになるし、
人生最大の失態は初陣でイエローウォーターを盛大にまき散らしたことだろう。

幼き頃から抱いていた、『美人で強い女戦士』の妄想を現実にする為には相当の努力が必要だと分かってしまった。

いや、私の妄想は現実で再現しえないことなのではないのか。

そして人生は悲しいことに、
私の妄想の中で美しい銀髪をはためかせた長身の兵長イメージは実物に木っ端微塵に砕かれた。

目つきが悪いのはこの際まだいいとしても、刈り上げだし、チビだし、無駄に潔癖症だし。
キャラ立て必死だなと笑ってしまったのは秘密である。


そんな風に私は半ば人生に絶望を抱いていたのだ。

それでも寝る前の妄想はもはや生活の一部になっていてやめられない。

今日も私はぬくぬくとたいして柔らかくない毛布にくるまりながら妄想を始める。

妄想はまず森の中で仲間と共に大量の巨人に囲まれているところから始まる。
が、正直恐ろしすぎてやめた。

代わりに何かの書物に載っていた魔女という設定で今度は妄想してみよう。

短めの衣装を身にまとって、少し豪華なアクセサリーをつけて、
立体機動装置もなく、空を飛ぶ私。風に舞う髪。憂いを帯びた横顔。
星が浮かぶ暗い夜空が町の光に照らされて、私は小さくなった町を上から見下ろすの。

どこからともなく流れてきた音楽に合わせるように自由に空を舞い、大きな時計台に身を落とす。

そっと乱れた髪を整えてふと後ろを振り返ると、そこには…。

私は一つ大きなあくびをして、硬いぼそぼそしたパンにかじりつく。

もっしゃもっしゃと咀嚼して、喉元につかえたそれを水で流しこむ。

昨日は妄想の途中で眠ってしまったので正直記憶が途切れている。
そもそも何の妄想をしていたのかも記憶が曖昧だ。何かいい妄想をしていた気がするんだけど。


席を立って、浮き立つ兵士の間をすり抜けた。

今日は壁外調査だ。壁外といってもここもほんの少し前までは壁内だったのだけれど。

馬を引き連れて、班ごとに集合する。

指定された場所に並び、門が開くのを待った。


周りで見守る民衆に美しく微笑みかける妄想をして、実行にうつすのはやめた。

門が開いたのを確認して、馬の腹を蹴る。

今回の調査は主に巨人の駆逐と、数体の生け捕りを目的にしている。

壁の穴を塞ぐ技術は今はまだない。だがこのまま技術の開発を待っている間にも巨人は増え続けている。

巨人が増えれば増えるほど交戦は難しくなるし、壁の穴を塞ぐ技術の開発をするなら、
同時に巨人のことに関しても研究する必要があるとのことだ。

正直私は難しいことなど分からないので、緊張しつつも仲間を守るかっこいい戦士を目指して今日も奮闘する。


危ない!なんて助けた超絶美少年は、実は前世で共に闘った恋人で―!?

うん、これはいいかもしれない。

なんて妄想をしてたのが一時間前。不言実行。妄想実行。

超絶美少年ではなかったがまぁそれなりに顔が整っている青年が巨人に掴まれそうになっているところを助けたまではよかった。

青年にかっこよく「逃げて!」なんて言ったら、
彼は僅かに目元を濡らした涙を拭って力強く「俺も戦います!」なんて言うことを期待していたのだけれど、

実際現実というのは儚いもので全身をぶるぶる震わせながら逃げていってしまった。

まぁ逃げてと言ったのは私なのだけど、それは物語的にいただけない。そんなんだからお前はモブ止まりなんだよ。

そして私はというと巨人の次の標的にされてしまい、運悪くガスも尽きるわ足は挫くわで軽く絶望モード。

ここで片方の目の色が変わって覚醒とかすればいんだけど、そんなことは全く起こらず。

巨人の腕が迫って、来世では記憶を引き継いで生まれ変わりたいな、なんて思っていると別な影がさす。


姿を捉えることもできなかった。


髪も瞳もただの黒だったけど、その黒の眼球に宿る恐ろしい光は赤を放っていた。


おい生きているかと横暴に言い放った低身長は手元についた血を見て汚ねぇなと呟いた。


まさしく、私の妄想の世界を駆け巡る超人のようだった。

逆光を背負う様が神々しくて、私は興奮で赤みのさした頬を隠しもせずに大きく返事を返した。

寝心地最悪な布団に潜って今日も私は妄想に浸る。

魔女の装束を纏った私は空を駆け巡り、大きな時計台に降り立った。

そっと時計台から町を見下ろして、ふと気配を感じて後ろを振り返る。

振り返った先に佇んでいたのは何ともギラつく野獣のような瞳をした人間で、

私が柔らかな声で、夜風は気持ちいいものですね、と話しかけると向こうは素っ気なくあぁと返事を…。

余った野菜くずをぶち込んで煮込んだスープをすすった。

昨日も結局途中で寝てしまって妄想が途切れてしまった。


隣で同じくスープを流し込む友人に、お前、まさか封印を解くのか…!と唐突に話を振れば、向こうもノリノリで
そうさ、俺はこの力で世界を滅ぼす―!なんてノッてくれるものだからありがたい。

そのまま周りに引かれない程度に会話を続けていると、ふと声がかかった。刈り上げ。

あぁ。尊敬する兵長に今の会話を聞かれてしまったのだろうか。それは何たる一大事。


何でしょうか兵長、となるべく完璧な美女の微笑みを作って対応すると、
不機嫌という感情しか読み取れない表情のまま兵長は足は大丈夫なのかとお尋ねになった。

なぜ私ごとき一般兵の軽い怪我の心配をするのかと湧いた疑問は次に湧いた喜びに蹴飛ばされた。

問題ありませんと答えて、ちらりと兵長の様子を伺うとそうかと頷くだけで後は去っていってしまった。

それでも私は兵長とお話できたことが嬉しくてもう友人の肩を何回も叩いてしまった。

友人はというと、これ以上はやめろ…あいつが暴れだす…なんて会話を再開させたので、
私もそれにノる。その時は、私がこの手で終わらせる…。

兵長に会ってそれから一日はかなりのハイテンションで過ごしたのだが、なんと夕食後に再び兵長と会うことができたのだ。

私は夕食をとってから外に出て風に当たっていた。

風にあおられる髪をおさえて、意味ありげに目を伏せてため息をつく。

「今度こそ…私は…」

決まった。ばっちり決まった。決意を滲ませた声色は誰が聞いても何か重大なことを秘めているように聞こえる。

「姉様…」

空に浮かんだ小さな星屑を見上げながら言う。ちなみに私に姉はいない。

そこで、私はようやく後ろに立つ兵長の気配に気づいたのだった。

何ともいえない表情で見つめてくる兵長の視線に耐えられなくなって、
恥ずかしいという気持ちすらも捨てて私はついに開き直った。

「風が、泣いています」

あぁやってしまった。


「迫る逢魔が刻が、魂を連れ去っていく。私はこの世界で慟哭することすら許されず、
ただただ茜色の空を見送るのです」

混乱してあまりかっこいいことが言えなかった。ちょっとキチガイな詩人みたいなことを言ってしまった。

もはや賢者タイムに近いものを感じていると、兵長がこちらへ近づいてきた。

兵長はその骨ばった力強い手で拳をつくり、私の心臓に押し当てた。セクハラです。


「死んだ奴はいくら泣いたって帰ってこねぇ。だがお前は生きてる。お前のおかげで救われた命がある。それを忘れるな」


これはすごい。兵長はこれを、本気でおっしゃっている。さすがです。そこに痺れます憧れます。

私ははっとしたような表情を作って、それから泣くように笑ってみせる。
何回も練習しただけあっていい表情ができたのではないだろうか。

ごそりごそりと冷たい布団に横たわって、今日もまた妄想を始める。

魔女の妄想は飽きてしまったので別なものにしよう。

私は内地で暮らすお姫様。でも家族とは血が繋がっていなくて、私は城の者から疎まれていた。

私は結婚の道具にされ、見たこともない豚との結婚を約束された。

人生に絶望した私は夜中にそっと城を抜け出すの。
木々の隙間を抜けて、ようやくたどりついた泉の側に、その人を立っていた。

あなたは…。

やはり硬いパンを齧りながら、直らない寝癖をひょこひょこと触ってみる。

すると突然、辺りが少し緊張したように静かになった。
なんだなんだ、もしや私の背中に翼でも生えたのかと思っていると、向かいに兵長にお座りになった。

驚いて思わず見つめてしまうと、兵長はやはり不機嫌そうに、なんだと尋ねた。

何でもありませんと返して、独特の持ち方でコーヒーを飲む兵長を盗み見る。

潤う兵長の薄い唇に思わず喉を鳴らしつつも、なぜわざわざ私の目の前にお座りになったのだろうと頭を悩ませる。


「二ヶ月後にはまた壁外調査がある。その時にペトラ、お前には俺の特別班に入ってもらいたい」


なるほど、これを私に言うために向かいに…。…なんと。

思わず固まってしまったが、すぐに了承の返事を返す。


まずいパンの最後の一欠片を押し込んだ。しばらくは二ヶ月先の壁外調査妄想にしよう。

『兵長危ない…!』

兵長をかばって致命傷を負った私はその場に倒れ伏す。

兵長はその間に体勢を立て直し、周りの巨人を一気に殲滅すると、
すぐに私の元に駆け寄ってくださる。

『おいペトラ!目を開けろ!』

珍しく焦った兵長の声が響いて、落としていた瞼を無理矢理引き上げる。
そうすれば少しほっとしたように兵長が肩の力を抜いた。

けれどすぐに私の大きくえぐられた腹部の傷を見て、顔を歪める。

兵長は私の血にまみれた手を握ってくださった。
潔癖症だなんて言われてはいるけど、部下の血を嫌がったことなんて一度もない、少し不器用な人。

私はそっと兵長の手を握り返して、ずっと言えなかったことを言うのだ。

『兵長、私…兵長のことが…』

と、ここまで妄想したのはいいが、このご時世死にネタは洒落にもならないのでやめた。

だが、どうせ死ぬなら多少痛くて苦しくてもいい、兵長に看取られて死にたい。

そう思いながら今度は、二人で全体からはぐれてしまって洞窟で一晩を過ごす妄想を始めた。

私が謎の力に目覚めて兵長を影ながらお守りする妄想も同時進行で始めた。


そんな風に毎晩妄想爆発の日々を送っているうちについに壁外調査だ。

私は気持ちを落ち着かせようと早朝、外に出た。
冷たい風が吹き込んできて、すぐさま建物内に戻りたくなるが、ここで戻っては脇役止まりだ。

「たとえこの身が朽ち果てようとも、私は…」

太陽に溶ける星屑を見送って、髪を鬱陶しげに払った。

「姉様は、今も私の心に…」

決まった。完璧だ。

「ペトラ」

またここにいたのか、そう兵長に突然声をかけられる。

内心は心臓を吐きそうなぐらい緊張していたが、儚げな笑みを保ったまま振り返る。


「兵長…どうなされたんですか?」

「……今まで俺は、何百人と死に逝く部下を見てきた」

「兵長…?」

「俺が死ぬなと言っても死んだし、生きて帰ってくると言った奴も死んだ」

「……」

「俺がお前に、死ぬなと言っても死ぬ時は死ぬだろうし、

俺がお前に、生きて帰ってくるとい言っても、死ぬ時は死ぬだろう」

「……」

「それでもあがけ。精々姉の仇をとるまでは死に物狂いで生きろ」


ちなみに、私に姉はいません。



おしまい

空気を読まない自己満足な書き方ですまん。

台詞をどれだけ少なくできるかと思って挑戦してみた。
ヤマも落ちも意味もないとはまさにこのことだけど、とりあえずアニメでペトラがあれだったから書きにきた。

ペトラ幸せになれ

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