男「ダークエルフが倒れている・・・・・・」 (273)


ある夜、静寂とした森に一人の少女が迷い込みました。

少女は名はダークエルフ。(以下ダークと呼称)

彼女はとても疲弊していました。
呼吸をするのも辛そうにし、足取りも不安定です。

何日も身体を蔑ろにしていたのでしょう。
本来であれば、妖麗と輝いている銀色の髪も

今は見る影もなく、灰色に淀んでいました。

「......はぁ......はぁ......」

ダークは周囲を見渡しました。

「ここは......どこ?」

彼女は疲弊しすぎていました。
自分が今、どこにいるのかが分かりません。

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「い、いかなきゃ......」

しかし、彼女にとって、ここがどこであろうと関係ありません。

「もっと、もっと遠くに......」

彼女は一刻も早く、ある場所から離れたかったのです。

ですが、彼女の気持ちとは裏腹に
身体は遂に限界を迎えてしまいした。

彼女はその場に身を横たえ、意識を手放してしまいました。


彼、男にとって、この森は自身の庭のような土地でした。

そんな彼は、月夜に照らされ妖艶に輝くこの森を散歩
するのがとても大好きな人間でした。

今日も綺麗だなぁ。

視界に映る森の景色に、そんなことを胸中に紡ぎながら、
森の中を歩いていました。

ふと、彼の瞳がある一点に固定されました。
その先には、地に身を横たえる人間らしき輪郭。

「あれは......人?」

彼はゆっくりと近づいていきます。

「!! エルフ!?」

そして驚愕しました。

なんとそれは人間どころかエルフだったのです。

「長い耳......褐色の肌、そして白い髪......間違いない
 だが何でこんなところに......」



彼は困惑していました。

エルフと人間は互いに存在を理解はしていますが
そこまで交流が盛んな間柄ではありません。

だから地理的に人国に近いこの森に
エルフの民がいるのには頭を抱えるものがありました。しかし

「......そんなこと考えている場合じゃないか」

彼は、瞳を閉ざし眠る彼女に近づき

「よい......しょ」

彼女を抱えて家に帰ることにしました。

「身体が少し冷たいな......急ぐか」


今日はこのくらいにします。


ダークが目を覚ました場所は、どこかの家のベッドでした。


ダーク「......ん、私は......」


ダークはベッドから上半身を起こします。
すると、重たい鎧を着たかのような倦怠感がダークを襲いました。


ダーク「う......」


何かがのしかかっているような重みに耐え、ダークは辺りを見渡します。

ダークの右向かいに奥に扉が位置し

中央には背もたれのついた椅子に、丸い少し大きめの机。


中央から左側にはそこそこ大きい暖炉、その向かいの壁には本棚がありました。


そしてダークのすぐ左真横にある窓からは
大きな湖が月夜に照らされながら輝いていました。


ダークは湖を眺めて、ふと自分の今の現状を考えました。


ダーク「(私の住む里では湖の近くに家を建てている奴はいなかった
    ということは......ここは少なくとも里の外。
    そして私をこうして助けたのは......人間......か)」


ダークは窓から視線を外し、腕に巻かれている包帯を見つめました。


ダークには夢がありました。その夢を叶えるために
エルフの里を抜け出してきたのです。


しかし、ダークは夢のことを家族には告げていません。
ダークはそのまま家出をしてきたのです。


ダーク「勢いで飛び出してしまったな......」


ダークは自分の身勝手さに大きく溜め息を漏らしました。
しかしながら、表情はちょっぴり晴れやかでした。


奥の扉が開いたのは、それのちょうどすぐでした。


男「お、起きていたか。エルフさん」


ダーク「......私を、助けてくれたのはお前か?」


男「ああ、俺が森を散歩しているときに、倒れているアンタを見つけた」


ダーク「そうか......で、ここはどこなんだ?」


男「ここか? ここは王国より少し離れている、名前もない森だよ」


ダーク「王国......人開が住んでいるところか......」


男「さてエルフさん、俺の名前は男。この森で暮らしている人間だ。
  エルフさんの名前は?」


ダーク「......ダークだ」


男「ダークさんか、よし覚えた」 


ダーク「......あまり、驚かないんだな」


男「え、そんなことないよ。最初にダークさんを見つけ時は驚いたよ
  でも、三日もダークさんを看病してたらね。慣れた」


ダーク「三日間......私は三日も寝ていたのか?」


男「ああ、かなり衰弱してたからね。でも俺はもう数日は寝てると思ってた
  ダークさんは回復力があるね」


ダーク「.......お前は何故私を助けた?」


男「何故? 俺は目の前で倒れているエルフを見捨てるほど
  道徳が無い奴じゃないよ」


ダーク「ふ、私が聞いた人間像とは随分違う人間だなお前は......」


男「? そうか?」


ダーク「少なくとも私の聞いた限りではな、それに人間を見るのも初めてだ」


男「え、全然驚いているように見えない......」


ダーク「ふふ、そうだな、私も驚いている」


男「......ぁ」


ダーク「ん? なんだ私の顔に何かついているか?」


男「いや......笑顔がさ。俺の知り合いにちょっと似てたから」


ダーク「ふむ......ここに住んでいるのはお前だけか?」


男「え、まぁ俺だけだよ」


ダーク「......そうか、ふん」


ダークはベッドから立ち上がる。しかし
三日間も寝ていたからか身体がよろめいた。


体制を崩したダークを、あわてて男は支える。


それからゆっくりとダークの身体は男の胸へと沈み込んだ。

ダークから漂う女性特有の心地よい香りが、男の鼻をくすぐる。


男「いきなり立ち上がるとは思わなかったよ」


ダーク「ふぅ、すっかり身体がなまってしまった......」


男「そりゃ三日間も寝てればね」


ダーク「で、お前はいつまで私を抱いているんだ?」


男「あ!! わ、わるい!!」


男はダークの背中まで回していた両腕をすばやく解いた。


ダーク「別にお前に支えてもらわなくても、私は大丈夫だったぞ?」


男「あー。その、つい手がでてしまいました.....」


ダーク「ふふ、はっはっはっは!! ......はぁ、お前は面白い!!」


男「へ?」


ダーク「やはり外に出て正解だったぞ。男」


男「そ、そうなんだ」


ダーク「男、私もここに住んでいいか? お前に聞きたいことが山ほどある」


男「え」


ダーク「ん? なんだその微妙な顔は、もしかして駄目なのか?
    安心しろ、なるべく迷惑はかけない。食べ物も自分で取る」


男「いや駄目じゃないよ。ただ、この家狭いからさ」


いって男は視線を周りにさまよわせる。


たしかに二人で暮らすのには、すこし狭い。


ダーク「私は別に構わん」


男「......ダークさんがそれなら俺もいいかな」


ダーク「よし、しばらくよろしくな男」


男「ああ、よろしくなダークさん」


男はダークに手を差し出す。


ダーク「なんだこれは?」


男「そっか、エルフは知らないか。これは握手。友好の証みたいなものだよ」


ダーク「ほぅ、知らなかったな。こうか?」


差し出された手にダークは自身の手を重ねる
そして男が握ってきたのでダークも握り返した。

男がダークへ柔らかに微笑みかける。

ダークも微笑み返した。

もしや「何それ怖い」シリーズ?
違う?

速度向上には努力します
>>21普通のssですよ
では投下


きゅるるるる......


ダーク「......むぅ」


男「......」クス

ダーク「............すまん、さっそくお腹が空いた......」


男「うん、そりゃ三日間も寝てればね 
  まってて、今持ってくる」


ダーク「あ、いや待て......それは」


男「ダークさんはまだ病み上がりなんだから、今日くらい俺に任せろ。な?」


ダーク「......ん、それならお言葉に甘えよう」


男「ベッドにでも座っててくれ。そんじゃ」


ガチャ バタン


ダーク「......言ってるそばから世話になってしまった......」




と呟き、嘆息しながらダークはベッドへと腰掛ける。
ふと窓から見える湖に意識を傾ける。


ダーク「(綺麗だな......里にも湖があったが......何か違う気がする
    ......いや、私が自分自身に、そう感じさせようとしているのか)」


硝子越しに広がる青い世界。別段、里の近くにあった湖と変わらない造形。
それでも、今のダークにはまるで、一流の職人が作りあげた工芸品
を見ているかのような面持ちだった。

ダーク「(だが、抜け出した以上、後戻りはない。それにする気もない
    しかし、ちょっと無計画だったな......)」


ダークは口から吸った酸素を鼻から外へと逃がす。


ダーク「(しかし......アイツ......名前は男だったか
    まったく、里で聴いたのとは大違いだ......いい意味で)」


ダークの脳裏に浮かぶのは、笑顔で握手を交わした命の恩人。
そして............。


ダーク「(もしかしたら、アイツが......)」


唐突、弱々しい風が窓を叩く、ヒュルリ、ヒュルリ。
同時に、沸き立ってきそうだった感情はたちまちしぼんでいった。


ダーク「(まぁ、それを決定づける要素はアイツにはまだない。
     時間も足りてない......。まずは様子見だな)」


ガチャバタン


男「おまたせ......お、湖見てたの?」


ダーク「ああ、綺麗だな......魚はいるのか?」


男「もちろん、小魚から大物までよりどりみどり!! 
  ダークさんは釣りに興味とかあるの?」


ダーク「まぁ、多少な。釣れたことはないが」


男「そんじゃ明日にでもするかい?」


ダーク「ふふ、面白そうだな。でその両手に抱え込んでるのが今晩の食事か?」


男「ああ、お腹すいてると思って沢山持ってきた。遠慮はいらないよ
  エルフは木の実と果物が好物だって聞いたし」


ダーク「そこまで言うなら、遠慮なくいただくよ」



モグモグ

ダーク「うむ、美味しいな......頬が落ちそうだ」


男「へへ、気に入ってくれて何よりだ」


ダーク「......」


男「ん? どうしたよ?」


ダーク「一つ聞いていいか?」


男「お、質問? 構わないよ」


ダーク「これは全部食べても構わないのか?」


男「ああ、全部あげるよ。そのために取ってきた」


ダーク「そうか......よし、お前も食べろ」


男「俺も?」


ダーク「ああ、一緒に食べよう」


男「うーん、それなら俺はこの果物を......」


ダーク「お、それは私が好きな果物だ。里の近くにも自生していたよ」


兄「そうなの? ならこれはダークさんに」


ダーク「いや、欲しいから言ったわけではない。お前が食べろ」


兄「そう? むぐ......うん、上手いな」


ダーク「............男」


男「ん?」


ダーク「......人間というのは......ふぁ」


男「クス、今日はもう眠りなよダークさん」


ダーク「ぬぁ......病み上がりだったな私は」


男「話は後からゆっくり聞くよ。今は身体を休めよう」


ダーク「うむ分かった......では失礼する」


ダークはベッドに潜る。
するとすぐに寝息を立て始めた。


男「やっぱり疲れてたか......」


男「......ダークさん......か」

事故りました......ごめんなさい。



「!!」

「......男?」

「ダークさんちょっと離れてて」

「え?」

「おしどり夫婦ごっこは終わり」

「ふ、夫婦ごっことはなんだ!! 私は本気......は!!」

「気づいた? 何かいる......大きいな......」

ダークの抱擁を解き、男は立ち上がる。
辺りは静寂としていた。

「男、恐らく......」

隣にいるダークも意識を切りかえていた。
さっきまでのあの甘い表情ではない。

「前から獣達が騒いでいると思ってたら......当たりだよ」

「だが男、どうするんだ?」

「へ、なにが?」

「私達は武器を持っていないぞ?」


「武器?」

「だって丸腰じゃないか......」

「へへ、何言ってんの」

「ぬぁ!?」

だがダークの心配をよそに、いつものように笑う男がいた。
そして安心しろと言いたげな頭への愛撫。

「安心しろ。武器はある」

「ど、どこに?」

「これ」パシン!!

それは拳と拳を叩き合わせた音だった。

「す、素手......だと!?」

バキバキバキィィ!!

ダーク「!?」

男「お!! おいでなすった!!」


グラァァァァ!!!

「ワイルドベアか......背丈はざっと5メートルか?......すると大人だな」

「..................でかい!?」

グルルルル......!!

「ほう、威嚇してるな。これは戦うしかないな」

「!? 正気か!?」

「もちろん」

「相手はワイルドベアだぞ!? いくらなんでも無謀だ!! にげーー」

ガァァァァ!!! ドン!!

「!! ダーク!!」ダッ!!

「ひゃあ!!?」


「ふぅ~ダークさん駄目だよ。あいつらだって無視されたらそりゃ怒る」

刹那的時間、ワイルドベアは男とダークへと飛びかかってきた。
男はすぐさまダークを抱え、近くの木に飛んだ。
下では殺意をむき出しにした獣が二人を睨んでいる

「あいつくらいなら、この木もひとたまりないな......
 ダークさんはここにいてね。あいつ片付けるから」

「男!! あいつに素手は駄目だ!! 男のエルフでさえ武器をもち
 五人で挑まねば勝てない!! そんな奴に素手なんて......」

「守る」

「え......」

「ダークを守るよ。だから信じて」

「............し、死んだら許さないからな!!」

「承った!!」タッ!!

グルルルル!!

「さて、俺を見下ろし吠える獣よ」

ガァァァァーー!!

「弱肉強食の摂理を教えてやろう!!」


ワイルドベアが腕を振りかぶると同時に男は突貫、懐へ潜る。

「ふん!!」

右足を強く踏み締める。足が地にめり込む。

「よいしょぉ!!」

だかそんなことは意に介さず、ワイルドベアの腹部へ拳を打ち込み。

ゴァァァ!?

空中へと殴り飛ばした。

「なぁ!? 飛んだ!?」←ダーク

「シッ!!」

男は即、空中へ身を放り出されたワイルドベアへ回転しながら跳躍

「うおりゃぁぁ!!!」

ワイルドベアの頭部を蹴りつけた。

回転の力と男の持つ剛力で、ワイルドベアは五秒もたたず地上へ、

そして地を揺らす轟音が響き渡る。


ガュァァァ!!?

ワイルドベアはその衝撃に悲鳴をあげた。

「さすがだな、今ので生きているのか......まぁ、痛いだろうが」

グルルルル......!! グルルルル......!!

「でも、俺は加減しないぞ......それが自然の掟だからーー」

キュァァァ!!

「!!」

ダーク「男!! 後ろ!!」

「もう一匹いたのか!?」

キュァァァーー!! ドスドスドス!!

「くっ!! あっぶないな......」

「男ー!! 大丈夫か!?」

「ああ、ちょっと引っかかれたー!!......でも......」

グルルルル!! 

キュァァァ!!

「さすがに二匹はキツい......かな?」


「お、男ーー!!」

「ふぅ......これは仕方ないな......」

キュァァァ!!

ガァァァァ!!

「逃げるか......」ボソ タッ

「男!? ち、血が......腕から血が......!!」

「大丈夫、死にゃあしないよ、それよりも......」

「逃げるよ!!」ガシッ!! ダッ!!

「ふえ? ひゃああ!?」

キュァァァ!! ガァァァァ!!

ドスドスドスドス!!


「男!! 腕は大丈夫なのか!?」

「うん、でも二匹相手はさすがに無理」

「に、逃げるってどこに逃げるんだ!?」

「ダークさんと出会った場所」

「そ、そこに何かあるのか!?」チラ

ガァァァァ!! キュァァァ!!

「ヒッ!!」

「あるよ。凄い物がね」

「それは何だ!? 武器か?」

「うーんおしいね。さて何でしょう?」

「何でしょうって......何を呑気な......」チラ

キュァァァ!! ガァァァァ!!

「ヒィ!?」

「よしダークさんには特別だ。ヒントをあげる。お、見えてきた」

「それはウルフルの上巻に書かれている言葉
 我々に神が与えし二つの試練............」

キュァァァ!!!

「お、男!! 来るぞ!?」

「それは......」

バカァ!!

キュァァァ!?

ダーク「お、落とし穴!?」

男「そう、知恵だ!! あと思慕の念だね」


「人が人たらしめる要素と言えば知性だ」

ザシュ!!! キュァ......!

「ッ......!!(お、落とし穴の中に木の槍が......)」

「それは非力な俺たちが、こいつらから絶滅されずに生きていく武器だ」

「ひ、非力だと?」チラ

「まぁ例外もいるけどね」  

ガァァァァァァァ!!?

「おっと、安心するのは早かった」

ダーク「そうか、もう一匹残って......な......!!?」

男「............そうか、お前ら......」

ガァァァァァァァ!!!

ダーク「泣いている......?」

男「途中から気づいてはいたけど......」

ガァァァァ!!! ポタポタ 

男「番[ツガイ]か......」

つづく


「番......夫婦か......」

「うん、多分穴に落ちたのが牝で......」

ガァァァァァァァ!!

「こいつが......雄だな......」

「お、男......?」

ふと、男の顔にいつか見た、寂しさを帯びたものをダークは認める。
しかし、それは瞬く間に消える。

「さて、そんじゃ続きといこうかい。熊さん。ダークさんは後ろにいてね」

「う、うむ。気をつけてな」

「勿論!!」ダッ!!

ガァァァァ!!

「......(男......)」

ーーーーーー
ーーーー
ーー


「............ふぅ」

「(あっけないな......凄まじい強さだ......)」

男の足下には事切れたワイルドベアの雄がいた。
圧倒的な力でワイルドベアをねじ伏せたのだ。この人族の男が。

「さて、ダークさんこいつら埋めるから手伝って」

「え、埋めるのか?」

「うん、最初は食べようかと思ったけど......やめた。二匹とも埋めることにする」

「......分かった」

「よし、じゃあその穴にいれようか。串刺しにならないようにいれないと」

そう言って男は足下のワイルドベアを担ぐ。
ワイルドベアを運ぶのはエルフの男五人がかりで行うほどの作業だ。

「............例外......だな」

「よいしょ......よし後は埋めるだけ。ダークさん」

「お、おう」

「よいしょよいしょ。ん、顔に何かついてる?」

「いや、優しいな......男は......と考えていた」

「......へへ、ありがとう」


「よーし、土葬完了。さ、帰ろうか」

「男」

「ん?」

「腕は大丈夫か?」

「今は何ともないよ。ただ......洗わないとね。俺もダークさんも」

「洗う......とは水浴びか?」

「うん、近くに滝があるからさ。一週間浴びてないからちょうどいい
 あ、服をとりにいかないとね」

「わ、私のはこれしか......」

「大丈夫。俺の服を着なよ」

「お、男の服か......分かった。じ、準備しておこう」

「? なんの?」

「な、なんでもない!! ほら戻るぞ!!」

ダークは男の背を押す。

「おっとと、はいはい分かりましたよ」


一度家に戻り、着替えの服を取る。

二人は滝へと向かった。

「はい到着」

「おお!!」

時刻はまだ太陽が少し傾いたくらいだった。

「どう? 森の民から見たここの感想が欲しいな?」

空は木々が軽く陽光を遮るように存在し、大地に
微かな日の光を落としていた。

「ああ、とても綺麗な場所だ......風も吹いている......心地いいよ」

「へへ、そりゃ嬉しいな。ここはよく使ってるからね。
 手入れしているんだ。風は滝のおかげかな?」

そして一際目立っているのが奥にある滝だ。

勢いも緩やかで、水浴びにはもってこいだ。


「先いいよダークさん」

「ふふ、男。何を言っている。一緒に入るぞ」

「あ、いや、それは......」

「駄目か......?」

「く、その顔は反則だよダークさん......。でも駄目」

「......む、けちだな」

「けちでけっこう、ほら先行ってきなさい」

「お、覚えてろよ!!」

「はいはい」

ーーーーー
ーーー
ーー

「ふぅ......行ったな。はぁ~疲れた......」

「............ぅ、思いのほか深かったか?」ズキ

「......獣でも番が死ねば涙を流す」

「......(大切な者を思い、慕い、愛しむ......その究極系が夫婦......)」

「支え、支えられ、互いを求める......そんな関係を......俺は......」

「(ダークさんとなら......)」

「ダークさん......」

「呼んだか?」

「うぉ!? はや!?」

「まぁな、気持ち良かったぞ。もう一度入りたいくらいだ」

「そ、そっか。いつでも使ってくれていいよ。そんじゃ俺も入ろうかな」スタスタ

「............ふふ」ニヤ




水浴びをしていると滝の音に紛れて声が聞こえた

「男.......」ギュウ

次いでやってきた、背中から伝わる柔らかく温かい感触。

「......やられた......油断してた」

「猛烈に......が私の方針だ」

「猛烈すぎやしないかな?」

「エルフはこんなものだ。一度好きになれば、とことん尽くす
 だから私の行動も当然のこと、意味は分かるだろ?」

「それは知らなかったな......」

「感情を鋭く捉えるぶん、気持ちに正直だからな
 それにただ来たわけではない」

「え?」

「男、こっちを向け」

「そ、それは......」

「いいから。お礼ができんだろ?」グイ

「ぬわ!? お、お礼?」

「そうだ。助けてくれたお礼だ」

「別に気にしなくてもいいよ?」

「まぁ、八割ほどはエゴだ。受け取れ......ん」チュ

「ムッ!?」


「ん......」

ダークからの抱擁、そして優しさを込められた柔らかい接吻を
男は思いのほか、すんなりと受け入れた。

「ぷはぁ.............うむ、美味い」

「こ、これは......(身体が軽い......? 腕の傷が治ってる......!)」

「私の生命力を男に送った。元気になっただろ?
 ああ、心配するな。生命力といっても寿命が減るわけじゃない」

「ダークさん......」

「あと......名前で呼んでくれないと許さんぞ?」

「あ、ごめん......」

「まぁいい。男に助けられた身だ。それに私は、こんなことしかしてやれない」ギュ

「そんなことないよ。ありがとう......テオリア」

「ふふ、じゃあ......もう一回......いいか?」

「いいよ。おいでテオリア」

「ふふ、男ぉ......ん」


「ん、はぁ......男......聞いていいか?」

「いいよ。なに?」

「たまに.......男の顔が凄く寂しく見えるんだ......
 男は今までどんな人生を歩いていたんだ?」

「人生......そうだね......大変だったよ......死ぬと思った時もあったし
 命を狙われた時もある」

「どうして?」

「まぁ、生まれてきたのが間違いだったらしいし......
 それでも認めてほしくて努力したよ。こんなになるまでさ」

「そ、それだけ努力したなら......」

「でも駄目だった。信じてた人まで.......結局俺を裏切った」

「あそこは嘘ばっかりだったんだ.......」

「!!.............ハァ!!」

刹那、男の心に潜んでいた陰をダークは鮮烈に認識した。

「テオリア?」

「こ、こん......なに......そんなに......」

「テオリア......泣いてる?」

「グス......すまん......ちょっと感傷的に......」

「構わないよ。俺の心の中を見たのかな?」

「.............」コク

「そっか.......」

涙に頬濡らす彼女を男はそっと胸へ引き寄せる。
頭を撫でると、彼女の髪は滝から落ちる滴でいつもより艶やかだった。

「嫌なもの見せちゃったな.......ごめんね」

男はテオリアに謝罪する。テオリアは首を横に振りそれに答えた。


「私は嘘はつかない」

「テオリア......」

「私が男を支えたい。まだ幼いし.......男より弱い私だが.......
 懸命に生きているお前と、私は共にありたい。今も、これからも」

「...................」

「おとこ......」

「まいったな.............」ギュウ

「!! はぅ.......」

「俺には勿体無いくらいのお嫁さんだ.......」

「!! じ、じゃあ!!」

「ヴァン・ガロッゼ」

「ヴァン.......ガロッゼ......?」

「俺の本当の名前だよテオリア」

「!! ヴァン.......ヴァン!! よし覚えた!!」

「これからそう呼んでくれ。テオリア」

「ふふ、ヴァンか.......カッコいい名前だ.......ヴァン.......」

「これからよろしくな? 奥さん」

「お、奥さん!!///」

「へへ、顔赤いな」

「うるさい!! う、うむ.......よろしく頼む」









つづく


ダークを抱きしめた男はエル男の方へと視線を向ける。

男の瞳には、いや、男を取り巻いている雰囲気にすら殺意が滲み出ていた。

「へぇ、変わった腕だぁ」

「よくもそんな軽口が叩けるなぁ、エル男」

「そんなことはない。内心とても驚いているよ。君が十頭もの熊を
 倒すとは......その腕と何か関係があるのかな?」

「そんなことはいい。お前は今ここで、倒す!!」

男は戦闘体勢をとる。男の眼孔がエル男を見据える。

獣が己の獲物を狙うような鋭い眼で。

「あらら、随分と必死だ......でもなぁ」

だがエル男は至って普通に、変化のない日常を送っているような面持ちを呈する。

そしておもむろに立ち上がった。

「ああ、鼻が折れてるな......服も土まみれだよ」

「......お前......!!」

さすがに、エル男の態度が気に入らなくなる男。

「どうしたこないのか? ヴァン・ガロッゼ」

「く.......」


「どうやらあの熊達は案外無駄ではなかったようだ」

「くっ......うぅ......!!」

「ヴァン!? 大丈夫か!?」

男は右腕に激痛が走り、それを押さえつけるように押さえてうずくまる。

「テオ......リア......ウグッ......アア!!」

「どうやらやせ我慢しているのは君のようだ」

「エル男!! お前、ヴァンに何をした!?」

「心外だなぁ? 私はただワイルドベアを仕向けただけだよ」

「気になるならその隠し事をしている旦那さんにでも聞けばいい」

「なに? ヴァン......」

「はぁ......う!! エル男ぉ!!」

「さて私はここで引き上げるよ。とても面白い物も見れたしね?」

「まて!! エル男!! お前逃げられると思っているのか? 俺からぁ......!!」

「............ああ、もちろんさ!!」ニヤ


「たしかに私は君に強烈な拳をもらってかなり重傷
 君の攻撃をあと一発でももらえば、アウトだ。だがここで問題
 私は本物でしょうか?」

「!!」

「想像してごらん。もし君が私を追いかけて倒し、それが偽物だったら
 本物が君の大切なお嫁さんの側にいたら?」

「このやろ......!!」

「それ以外にも不確定要素が多々ある。少なくとも私なら
 行かずに嫁を守るが?」

テオリア「チッ......どの口が言うか.......だが、その通りだ.......」

「.......」

「ここは互いに退くのが良いと思うよ。でも.......」

「<印>があるなら話は別だけどね?」

テオリア「ッ.......!!」

ヴァン「印?」

「<印>も出現しないのに夫婦? ダークそんな冗談よしてくれよ
 そんな関係は......ごっこだよ?」

「......テオリア」

「............」

「まぁ私にとっては嬉しいことさ。ではまた縁の重なる時にでも......」

そうしてエル男は姿をくらました。

そこには頭を垂れたダークと、男だけがいた。

滝が音を轟かせ流れていた。様々な事柄を掻き消したいと言わんばかりに。


~王国~

女騎士「国王様、失礼します」

王「何用だ女騎士」

女騎士「はい、金狼からです。封印が外れかけていると」

王「......よりによってこんな時に。ヴァンは?」

女騎士「戻ってくると、それと......」

王「なんだ?」

女騎士「エルフも一緒だそうです」

王「な、なんだと!?」

女騎士「如何いたしますか?」

王「......城下で騒ぎが起こる前に、連れてこい」

女騎士「承知致しました」


~ 一方 ~

「なぁヴァン」

「ん? どうかした?」

「何か向こうの方に気配を感じる」

「敵?」

「多分......魔物だと思う」

「うーん。戦うのも面倒だここは迂回して......」

「いや、ここは戦おう。私もウズウズしていたんだ」

「え、やるの? 大丈夫?」

「問題ない。ヴァンは見てろ。私が片付ける!!」

ダークは一気に走りだした。

「あ、ちょっとテオリア!!」


「!! なに!?」

ダークの視線の先には数体の魔物が一匹の、鳥型の魔物を襲っている光景があった

「......弱いものイジメか。魔物にもあるんだな」

ダークの拳が強く握られる。そしてダークの脳裏を
里にいたころに体験した嫌な思い出が駆け巡った

そんなダークに魔物は気づき、その内の一匹が牙をむく

「シッ!!」

だがダークの振るった拳が魔物を打ち砕いた。

「弱いものイジメは......許さん!!」

ダークの殺気を込めた眼光に残りの魔物達は怯んだ。
しかし、それも一瞬。魔物達がダークへと襲いかかる。

「望むところだ!!」

ダークの拳に力が入る。魔物を打ち倒さんと。






「......ふぅ、楽勝だ」

深呼吸をするダークの周りには事切れた魔物達

「おぉ、テオリア強くなったね」

「少しはましになっただろ?」

ダークは視線を鳥型の魔物へと移す

「見たことのない形だな」

「それはカラスと言う動物だよ」

「え、魔物じゃないのか?」

「そ、でも凄いなコイツ。魔物複数に教われたってのに......」

「そうか、お前は強いね。魔物相手に戦うなんて」

「(カラスは調教次第で中型の魔物と渡りあえるほど強くなると聞いたことがある
  見たところ相当な訓練を積んでいるな)」

「なぁヴァン、コイツ連れて行っていいか?」

「え、まぁいいけど......どうして?」

「いやな......ちょっとした同情心からかな......」

「私達エルフは魔法を使える種族なのは知っているだろ?」

「まぁ、知っているよ」

「私はな魔法が使えない」

「え......」


「正確に言うと、魔力が全て身体能力の方へ傾いているんだ」

「なるほど、どうりで回復力が......力が強いのか」

「いや力はヴァンのおかげだ。私はエルフの中では
 落ちこぼれだった。そのせいか周りからも苛められてな......」

「こんな里はもう嫌だといつも思っていたんだ。だから、外の世界に
 行きたかった。私のことを受け入れてくれる人を、世界を探すために」

「テオリア......」

「でももう見つかった。ヴァンのおかげでな
 ありがとう。私がこうして胸をはって歩けるのもヴァンのおかげだ」

「......そっか、良かったよ」

男はおもむろにダークの頭を撫でた
ダークが笑みを浮かべる。こんな表情が出来るのも男のおかげだった

「テオリアそいつも連れていこう」

「!! 良かったなお前!!」

「カァーカァー!!」

「さて、仲間も増えたし王国まで一気にいこうか!!」

「ああ!!」

「カァー!!」






「ほら美味しい木の実だぞ~東(あずま)」

「カァー!!」

「すっかり懐いたね。名前までつけちゃってさ」

「ふふ、なんだかな~コイツには私と似たような雰囲気がする」

「カァーカァー!!」

「それにしても、初日で半分も進むとは......」

「これなら明日にはつくな」

「そうだね。ということでテオリアには正体を明かさないように
 フード付きのコートを持ってきた」

「やっぱりばれるとマズいか?」

「ごめんね。でも王様に会えば大丈夫だよ。何とかしてくれる」

「なんとヴァンは王と知り合いか!?」

「まぁ、そんなとこ。さ、明日も早いから寝ような」

「そうだな、では失礼」

ダークは男の方へ身を寄せる
男はそれをしっかりと抱き寄せた。

二人の視界には幾千もの星が舞い散っていた。

「綺麗だな。ヴァン」

「そうだね......」

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