ことり「実は留学することになったの」真姫「あ、私も」 (172)


ことり「えっ?」

真姫「えっ?」

にこ「ちょ、ちょっと! どういうことよ!」

真姫「どういうって、言葉通りの意味よ」

真姫「パパの知り合いに腕のいいドクターがいるんだけど研究生を欲しがってるんだって」

真姫「まあもともと医者にはなるつもりだったけど、せっかくだからこの機会にって」

真姫「医学の勉強は早いほうがいいっていうし、特に行かない理由もないわね」

にこ「真姫ちゃん、そんな……」



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絵里「それって、しばらく帰ってこないってことよね……」

真姫「そうね。一応将来的には病院は継ぐ気でいるけど……」

真姫「しばらく海外にいたほうが気楽でいいわね。向こうで婿養子も見つけたいし」

にこ「ちょ、ちょっと!」

真姫「……なによ」

にこ「あ、アイドルはどうするのよ! 私たちは九人揃ってμ'sじゃない」

真姫「ああ、それね」

真姫「でもことりも留学するならしょうがないんじゃない?」

真姫「九人でμ'sなら私がいなくても一人欠けるわけだし」

にこ「それ、本気で言ってるの……?」

真姫「本気よ。ちょうどいいからこのタイミングで言ったほうがいいって思ったの」


穂乃果「ことりちゃん……」

ことり「穂乃果ちゃん……」

穂乃果「留学するって、本当なの?」

ことり「うん……有名な海外のデザイナーさんからメールがきてね」

ことり「前から思ってたの、その人に洋裁を教えてもらえたなら凄く嬉しいなって」

穂乃果「そうなんだ……。でも」

ことり「もっ、もちろんμ'sは大好きな場所だよ! 穂乃果ちゃんとアイドルやるのは凄い楽しいよ!」

ことり「でも、お母さんに言われたの。大好きなことだけやってるだけじゃ成長した大人になれないって」

ことり「だからこのチャンスを逃したくないの。一生に一度、あるかないかだと思うから」

穂乃果「でも! そんなの――」

絵里「やめなさい穂乃果。そんなのなんて、ことりは真剣なのよ」

穂乃果「――絵里ちゃんまで……」


にこ「なっ、ななっ……」

花陽「にこ、ちゃん?」

にこ「なんであんたたちはそんなに割り切れるのよ!」

にこ「アイドルが好きなんでしょ! だからμ'sとしてここまでやってきたんでしょ!」

にこ「それなのに……ゆーめーなデザイナーに呼ばれたから? うでのいードクターに呼ばれたから?」

にこ「はッ!? ふざけるんじゃないわよ、ちゃんちゃらおかしいわよ!」

穂乃果「にこちゃん……」

にこ「洋裁の仕事も、医者の修行も、大事だと思う! でも、なんでこんな時に……」

にこ「こんなタイミングで……」フルフル


絵里「あのね、これはもともと今日みんなに伝えるつもりだったんだけど……」

希「……ッ! エリチあかん!」

絵里「駄目よ、希。ちゃんと言わないと」

絵里「……実はさっき理事長から聞いたのだけど、来年度の生徒募集が決定したそうよ」

穂乃果「絵里ちゃん、それって」

絵里「そう、廃校がなくなったの。少なくとも来年度までは、ということだけど」

真姫「……決まりね」

にこ「なにが、決まりなのよ……」

真姫「やっぱりちょうどいい機会だなって思ったの」

にこ「…………」


真姫「なんか場を悪くしちゃったみたいね」

真姫「でも今言ったのは本当のことだから」

真姫「……とりあえず失礼するわ」


 ガラッ ピシャッ


にこ「うっ……うっ……」

穂乃果「にこちゃん……」

海未「私もちょっと失礼します」

穂乃果「えっ、海未ちゃんどこに?」

海未「さあ。野暮用ができましたので」

ことり「……! あのね海未ちゃん」

海未「ことりはなにも言わないで下さい」

ことり「あ……うん。ごめん」



 廊下にて


海未「待ちなさい、真姫」

真姫「あら、どうしたの。まさか追いかけてきたつもり?」

海未「そのまさかです」

真姫「ふうん……そう」

海未「もしかして私じゃなくて別の誰かなら良かったですか?」

真姫「べっ、別にそんなことあるわけないじゃない!」

海未「ふーん。やっぱり」

真姫「……そのなんでも分かってるみたいなのやめてくれない」


海未「どうしてあの子を悲しませるような言い方をするんですか」

真姫「……あの子って誰よ。分かるように言いなさいよ」

海未「本当に分かるように言っていいんですか?」

真姫「イミワカンナイ……」

海未「もう一度言い直しますが、どうしてあんな言い方をしたんですか」

真姫「別に……どう伝えようと私の勝手でしょ」

真姫「もう飛行機のチケットも取れてるし、転入の手続きだって終わってるんだから」

真姫「もともとアイドルだって乗り気じゃなかったんだし。花陽を連れて行った時になあなあで――」


 バシンッ!


海未「はぁ……はぁ……」

真姫「――殴ったわね」


海未「あなたは最低です!」

真姫「…………」

海未「本当は引き止めて欲しいんですか? それとも笑って送り出して欲しいんですか?」

海未「あなたの気持ちなんて誰にも分かりません! 分かりたくもありません!」

海未「でも、嘘をついてることくらい誰にでも分かります! バレバレです」

真姫「うるさいわね……」

海未「あの子の涙であなたが傷つくことくらい分かります」

海未「それなのに、どうして……」

真姫「……もう、さっきからあの子あの子ってやかましいのよ。一応先輩でしょ」

海未「ほら、化けの皮が少しつづ剥がれてきましたよ」

真姫「うっ……」カアァ


真姫「……仕方ないじゃない」

海未「え?」

真姫「仕方ないって言ったのよ!」

真姫「不器用なことくらい自分でも分かってる! こんな風に伝えるべきじゃなかったって」

真姫「でも、もうこれしか方法がないの。他に思いつかなかったの」

真姫「だって、だって、私はもうすぐ……」

海未「真姫、もしかして……」

海未「今すぐにでも日本を出るつもりなんですか?」

真姫「……校門に迎えの車がきてるの。すぐに空港に向かって、二時間後にはもう雲の上」

海未「真姫……」

真姫「お願い、みんなには、にこちゃんにはこのこと言わないで」

真姫「西木野真姫は酷い子だってことにして。そうじゃなかったら、私きっと帰りたくなる」

海未「そんな……」


海未「あなたは本当にそれでいいのですか?」

真姫「……うん」

海未「きっと後悔しますよ」

真姫「後悔しないためによ」

海未「……そうですか」

真姫「……そうよ」

真姫「追いかけてきてくれたのが海未でよかったわ」

海未「あの真姫、やっぱり」

真姫「じゃあ……さようなら」ダッ

海未「あっ! 待って! 待っ……」


 そして西木野真姫は日本を発った




 翌日


穂乃果「……ねぇ、ことりちゃん」

ことり「ご、ごめんね! 今日の練習も出れそうにないかも」

穂乃果「う、うん。そっか。そうだよね」

穂乃果「洋裁? のことで色々準備しなくちゃいけないんだよね」

ことり「うん……」

穂乃果「それじゃしょうがないよね……」

穂乃果「あっ! じゃあ私も一緒に帰ろっかな。途中でクレープでも食べて」

ことり「それはダメッ!」

穂乃果「……え?」

ことり「……あっ」

ことり「ご、ごめんね。私がそんなこと言う資格ないよね……」

穂乃果「そんな、資格とか」

ことり「穂乃果ちゃんごめん、私もう帰るね!」ダッ


穂乃果「ことりちゃん……」

海未「…………」


海未「ねぇ、穂乃果」

穂乃果「海未ちゃん……」

海未「ことりは、自分が原因で穂乃果がアイドルをやめてしまうことを恐れているんです」

穂乃果「うん、それくらい分かるよ。だって友だちだもん」

穂乃果「でも、ことりちゃんがいないμ'sなんて、私考えられないよ……」

海未「…………」

海未「穂乃果、辛い話ですが、真姫が離れていった時点で私たちはもう元のμ'sではないんです」

海未「少しつづ気持ちを切り替えていきましょう。ことりだってきっと――」

穂乃果「……ひどいよ」

海未「――えっ?」


穂乃果「海未ちゃん酷いよ。ことりちゃんのこと、そんな簡単に……」

海未「いえ、そうじゃなくて、私はただ……」

穂乃果「ただ……?」

海未「ことりが少しでも迷ってるのなら全力で引き止めます。ただ……」

海未「ことりの目をじっと見てるとわかるんです。あれは本気の目だと。だって」

穂乃果「だって友だちだもんね。穂乃果にも分かるよ……」

穂乃果「でも私は、やっぱりそんな簡単に納得できないよ」

穂乃果「真姫ちゃんに連絡つかないのも、ことりちゃんがいなくなっちゃうのも」

穂乃果「みんなでアイドルやろうって、九人でμ'sをやろうって、あの時みんなで約束したのに……」

海未「穂乃果……」

穂乃果「ねぇ、海未ちゃん」

海未「はい?」

穂乃果「あの時、真姫ちゃんを追いかけていったとき、どんな話をしたの?」

海未「それは……」

海未「すいません。言わないで欲しいってお願いされたんです」


穂乃果「…………」

海未「…………」

穂乃果「もう時間過ぎてるし部室に行くね」

海未「そうですね。そろそろ」

穂乃果「海未ちゃん今日はどっちに行くの?」

海未「今日は……ちょっと弓道部のほうに顔を出してきます。大会も近いので」

穂乃果「うん、分かった」

海未「…………」

海未「あの穂乃果」

穂乃果「ねえ海未ちゃん。こういうのが大人の階段を一段登る時っていうのかな」

海未「……どうでしょう。そうかもしれませんね」

穂乃果「じゃあ、また明日ね」

海未「はい、また明日」


穂乃果「らしくないぞ穂乃果っ。こんなときこそみんなの前では元気出さなきゃ」

穂乃果「よしっ!」


 部室にて


穂乃果「遅れてごめんね~……って、あれ?」

凛「おはよー、ほのかちゃー」

穂乃果「おはよう、凛ちゃん」

穂乃果「……あれ? ねえねえ、今日絵里ちゃんいないけど、生徒会で来れないの?」

凛「うん。さっき顔だけ出して、用事があるからって帰ってったにゃー」

穂乃果「ふうん。そっかあ」

希「うちがいる時点で生徒会があるわけないやん」ヌッ

穂乃果「わっ、びっくりした!」

穂乃果「あー、そういえばそうだった。あははは」

希「穂乃果ちゃん何気にひどいこと言うなあ。これはわしわしが必要やな?」

穂乃果「ややや、しなくてもダイジョブだよ!」


にこ「…………」

穂乃果「で、あの隅っこのほうで体育座りしてるのがにこちゃん?」

花陽「うん。一番に部室には来てたみたいなんだけど、さっきから全然動かなくて」

にこ「……はぁ」

凛「いつものにこちゃんの欠片もないにゃー」

希「ふうん。とくれば、これはうちが元気を注入せなあかん流れやな」ワシワシ

にこ「なっ、なんでそうなるのよ!」

希「あ、やっと反応した」

にこ「なによ、あんたたちさっきから黙って聞いてれば呑気そうに」

にこ「少しは落ち込みなさいよ。今日いったい何人部室に来てると思ってるわけ?」

穂乃果「えっと、私とにこちゃんと凛ちゃん花陽ちゃんに希ちゃん」

穂乃果「五人……だね」

凛「だいたいいつもの半分にゃー」

花陽「なんだかいつもの部室がやたら大きく見えちゃいますね」

希「せやなぁ」


にこ「もうすぐ大会だっていう海未はよしとしても、エリーにことりまで」

にこ「それに……」

穂乃果「あーっと! そうだ! 私いいこと思いついちゃった」

花陽「いいこと?」

穂乃果「うんっ。また例のにこちゃん流アイドル練習やろうよ」

希「なんなんそれ?」

凛「あーっ、分かった! あれだね!」

凛「にっこにっこにー☆」

穂乃果「そう! にっこにっこにー☆」

花陽「に、にっこにっこにぃ~」

希「なんや、楽しそうやん。にこっちも一緒にどや?」

希「にっこにっこにー☆」

にこ「…………」


にこ「……あんたたち」ゴゴゴ

穂乃果「な、ナニカナ」

凛「危険な香りがするにゃぁ」

にこ「ぜんっぜんなってない!」

花陽「……え゛っ?」

にこ「いい? にこにーのにこは世界中をスマイルにするにこなのよ!」

にこ「肘の角度一つで可愛さは倍増もするし半減もするの! 指の伸び筋なんてもっとよ!」

にこ「それになにより、本人が一番楽しんでなきゃ駄目! 分かった?」

穂乃果「はいっ、部長!」

凛「部長~、部長~♪」

にこ「最近はエリーにお株を取られてたけど、今日はそうもいかないわ」

にこ「1セット10にこにーを10セット! 下手くそだったらプラス1セットよ!」

花陽「はっ、はいいぃ」


希「なんや、十分元気やんか」

にこ「そこ! 減らず口叩く前にポージングしなさいっ」



 その日の夕刻 神社にて


希「さて、掃除はこの辺でええかな」

希「う~ん。今日は慣れないことしたせいか疲れたなあ」

希「早めにあがらせてもらおかな。帰り支度、帰り支度と」

希「…………」

希「待ってたんなら今が出てくる時や」

絵里「……まったく、希はどこまでお見通しなのよ」

希「まったくやね。とんだスピリチュアルや」

絵里「ほんとあなたには敵わないわ」

希「おおきに。で、相談事があるんやね」

絵里「……ええ」


希「部室の様子はまあまあやったで」

絵里「まあまあって、それって良い方に? それとも――」

希「あんまり良くはないかな」

絵里「――そう」

希「今日のメニューはにこっち大先生の指導で、にこにこにーや」

希「あっ、でもエリチの提案した基礎練習はかかしてへんよ」

絵里「ふふっ、そうなの?」

希「そうや。久しぶりにキツイの無しの楽しい部活やったで」

希「でも……そういうのはいつまでも続くわけがない」

絵里「そうね」


希「なんかみんな無理してるっていうか」

希「明るくなろうと頑張ってる感じが、逆にね、なんか痛々しいんよ」

絵里「分かるわ。そういうの」

希「……かと思えば一瞬暗い顔したりな。ジェットコースターだってあそこまで急には落ちへんよ」

希「こればっかりはカードに頼ってどうこうできるものじゃない」

希「……で、えりチ」

絵里「うん」

希「うちに相談したいことってなに?」


絵里「……覚えてる? 私たちがμ'sに入ったとき」

希「もちろん。忘れるわけないよ」

絵里「希がつれてきてくれたのよね。あの子たちを」

絵里「今でも穂乃果が差し出してくれた手の暖かさは、忘れてないわ」

希「ふふ、それなら結構」

希「でもどうしたん。急にそんなこと言い出して」

絵里「どうしてかしら。急に懐かしくなっちゃったのかも」

絵里「あの頃の自分からすれば、今の私の状況なんてまったく予想できなかったと思うし」

希「……エリチ?」

絵里「真姫やことりのついでじゃないけど、今じゃないともう一生打ち明けられないと思う」

絵里「だから、言うわ。驚かないで聞いて欲しいんだけど」

絵里「実は――」


絵里「――ということなの」

希「……そう」

絵里「ショックだった?」

希「若干な。でも、ちゃんと言ってくれたことのほうが嬉しいよ」

希「それに、今すぐになんて考えてないんやろ」

絵里「もちろん。今のみんなにこんなこと打ち明けられるほど私は愚かじゃないわ」

絵里「いずれ時を見てね」

絵里「……それにしても皮肉よね。諦めたはずのことが、巡り巡って今度はチャンスになるなんて」

絵里「ここでアイドルやってる動画が遠い国の人の目に留まるなんて」

希「ほんま予想外やな」

希「それは予想外、せやけど……」

絵里「……?」

希「せやけどもしそういう風に言われたとしたら、うちの答えはいつだって決まってるんよ」

絵里「えっ?」

希「エリチ、行かんといて」


絵里「希……」

希「エリチ、うちはまだ満足してない」

希「卒業するまで全力でアイドルやりたいんよ。エリチと一緒に、みんなと一緒に」

希「真姫ちゃんとことりちゃんが居なくなるって知っても、うちの気持ちは変わらへん」

希「だからエリチ、行かんといて。うちと一緒におって」

絵里「……そんな、希、ずるいわ」

希「ふふ。お見通しなのは専売特許」

希「でも結局は自分の人生や。そんなのエリチ以外に誰が決められるん?」

希「エリチが正直に気持ちをみせてくれたから、うちも正直な気持ちをみせられるんよ」

絵里「まったく……希にはほんと敵わないわ」

希「そう? うちはぜんぜん勝負してるつもりなんてないけど」

絵里「ありがとう」

希「どういたしまして」

絵里「どうするか決めたら、一番に希に伝えるわね」

希「うん、そうしてな」



 数日後 空港にて


穂乃果「ことりちゃん……」

ことり「穂乃果ちゃん……」

穂乃果「ほんとに行っちゃうんだね」

ことり「……うん」

ことり「向こうについたらメールするね。写真もいっぱい送るから」

穂乃果「うん。待ってるね」

ことり「…………」

穂乃果「…………」

ことり「それじゃあ」

穂乃果「待って!」

海未「穂乃果……」


穂乃果「ことりちゃん、やっぱり留学なんてやめよう。今からでもまだ間に合うよ」

ことり「なにが……間に合うの?」

穂乃果「μ'sに戻ることだよ。またみんなでアイドルやることだよ」

穂乃果「そのデザイナーの人にごめんなさいして、我がままを通すことだよ」

穂乃果「一緒に帰ろう、ことりちゃん。私、まだことりちゃんと一緒にいたい」

海未「私も同じ気持です」

ことり「海未ちゃんまで……」

穂乃果「ことりちゃん、お願い」

ことり「……ごめん、ごめんね」

穂乃果「そんな……」

ことり「穂乃果ちゃんのことは大好きだよ! 海未ちゃんのことも大好きだよ!」

ことり「でも、やっぱり……もう決めたことだから」

穂乃果「うっ……うぅ……」

海未「泣かないで下さい、穂乃果。ことりの門出ですよ」

穂乃果「うん、ごめん……」


穂乃果「落ち着いたら、日本に遊びにきてね」

ことり「うん、もちろんだよ」

穂乃果「待ちきれなくなったら、こっちから遊びに行っちゃうからね」

ことり「うん、うん」

海未「そろそろ時間ですね。機内に入らないと」

穂乃果「じゃあ……またね! またね、だよことりちゃん」

ことり「うんっ。またねっ!」


 そして南ことりは日本を発った


海未「私も同じ気持ちなんて、どうしてそんな傲慢――」ボソッ

穂乃果「え、海未ちゃん今なんて?」

海未「――いえいえっ! なんでもないですよ」

海未「本当になんでも……」



 帰り際にて


凛「あれっ? そういえばかよちんがいないよ」

穂乃果「あっ、ほんとだ。どこ行ったんだろう」

希「お手洗いにでも行ったんかな」

絵里「でも、なにも言わずにいなくなるのもおかしいわね。探しましょうか」

凛「きっと美味しそうなごはんやさんを見つけて離れられなくなったんだにゃー」

絵里「いくら花陽でもそれはないんじゃないかしら……」

凛「えー、たまにあるよー?」

にこ「どれだけご飯脳なのよ」

穂乃果「じゃあ、とりあえず分かれて探してみよう」

穂乃果「見つかったら携帯に連絡ってことで」

絵里「そうね。空港から出てはいないと思うし、すぐ見つかるはずよ」


海未「私の杞憂でなければ、もしかして――」ボソッ


海未「――ここにいたんですか、花陽」

花陽「あっ、海未ちゃん」

海未「もう、駄目じゃないですか、勝手に離れて。みんな心配してますよ」

花陽「ご、ごめんね。ちょっと足が止まっちゃったっていうか」

海未「まったく。この辺りはただのロビーです。ご飯屋さんはありませんよ」

海未「ここにあるのは……」

花陽「……あのね、実は」

海未「無理して言わなくてもいいですよ」

花陽「え゛!? あ、うん……」

花陽「海未ちゃん……もしかして知ってるの?」

海未「いえ、なにも。でも私の直感って矢を射るように鋭い時があるんですよ」

海未「もしなにかを打ち明ける時がきたら、一番大切な人が相手のほうがいいと思います」

花陽「そう……かな。えへへ、そうだよね」

花陽「ありがとう、海未ちゃん」


凛「あーっ! かよちんこんなところにいたーっ」


花陽「あの、急にいなくなったりしてすいません。心配させちゃって」

絵里「別に謝るほどじゃないわよ。すぐに見つかったんだし」

にこ「でもロビーの真ん中にいて見つけられないなんて、おかしな話ね」

海未「うまく人混みに隠れてしまっていたみたいです」

凛「でもかよちんどーしてあんなとこにいたの? あっちに美味しそうなどんぶりやさんがあったのに」

花陽「それは、えと、その……」

凛「あーっ、その目は隠し事してるときの目にゃー!」

凛「凛はかよちんのそういうとこすぐ分かっちゃうんだからねーっ」

花陽「え゛え゛!? えと、あのね……」

海未「私から説明しましょう」

花陽「う、海未ちゃん!?」

海未「実は花陽は……」

花陽「ゴクリ……」

海未「電光掲示板が米粒の集まりに見えてつい見惚れてたんです」


花陽「え゛え゛え゛ーッ!?」


絵里「いや、いくらなんでも」

穂乃果「それはないんじゃないかな」

にこ「子供騙しじゃないんだから」

希「スピリチュアルやね」


凛「もー、駄目だよかよちん。あれはただのLEDだってば~」


花陽「えっ?」

凛「えっ?」

花陽「あっ、そうそう! もー、花陽ったらついいつもの癖で~。てへぇ」

凛「ほんとかよちんはいつでもかよちんだにゃー」

花陽「ごめんねぇ。あはは~」

絵里「ハラショー……」

希「とんだスピリチュアルや……」

にこ「いや、嘘に決まってるでしょ」



 翌日 小泉宅前


凛「かよちんおはよーっ」

花陽「おはよう。凛ちゃん」

凛「今日も元気に学校にいくにゃー」

花陽「う、うん……」

凛「あれあれ? なんだか今日元気ない感じ」

花陽「うん。ちょっとね」

凛「ふう~ん。あっ、もしかして寝坊して朝ごはん食べそこねちゃったとか?」

花陽「もうっ、2時間以上前から起きてたよ」

花陽「それに私がいつでも食いしん坊みたいに言わないで~」

凛「違うの?」

花陽「……もお~。むうううぅ」

凛「ごっ、ごめんにゃ。ちょっとからかってみただけだってば」

花陽「凛ちゃんのいじわる……」


花陽「……それにしても、なんか不思議な感じがするね」

凛「うん?」

花陽「つい数日前まで、毎朝神社に行って汗だくになるまで練習してたのに、今じゃめっきり行かなくなって」

花陽「なんだか不思議と体がうずうずするの。今日だって早起きしちゃったし」

凛「凛もそれ分かるよ。なんか動き足りないなーって感じがする」

凛「だから今朝も町内一周してきちゃった。あっ、もしかしてかよちんも一緒に走りたかった?」

花陽「いや、それはちょっと遠慮しとこうかな……」

凛「そお? 体がスッキリするよ」

花陽「私だと逆にバッタリするかも」

凛「ふうん」

花陽「…………」

花陽「……ねぇ、凛ちゃん」

凛「なーに?」

花陽「私たち、いつまでこうしていられるのかな」


凛「いつまで? こうして?」

花陽「うん。最近急に不安になるの。私はいつまでここにいられるのかなって」

凛「それはー……たぶん高校を卒業するまでじゃない?」

凛「っていっても、私たちまだ1年生だから余裕あるけどね」

花陽「うん。学校はね、普通に考えればそうなんだけど……後はμ'sとか」

凛「みゅーず、う~ん……」

花陽「凛ちゃんはどうなると思う? これからのμ's」

凛「しょーじき凛に難しいことは分からないけど、やっぱり前みたいにはいかないよね」

凛「真姫ちゃんもことりちゃんもいなくなっちゃったし」

花陽「真姫ちゃん……ことりちゃん……」

花陽「まだ信じられないかも。今日も、もしかしたら教室に真姫ちゃんがいるんじゃないかって探しちゃいそう」

凛「凛も探してるよ」

凛「それでね、見つけたら真姫ちゃんを怒ってやるんだ」

花陽「り、凛ちゃん!?」


凛「だってそーでしょ。勝手にいなくなっちゃうんだもん」

凛「もし見つけたら、みんな心配にかけた罰として凛がニャーンと一喝してやるんだから」

花陽「凛ちゃんが、ニャーンって?」

凛「そう、凛がニャーン! って」

花陽「あはっ、あはは」

凛「にっししー」

凛「……かーよちんっ」

花陽「なーあにっ」

凛「やっと笑った」

花陽「うん……ありがと。えへへ」

凛「かよちんは先のことまで色々考えすぎだよ、もっと気楽にいこっ」

凛「まー、もしこのままなにも変わらないで3年生になったら凛とかよちんだけのμ'sになっちゃうかもしれないけど」

凛「それはそれで面白そうだから凛は全然おっけい!」

花陽「凛ちゃん……」


花陽「凛ちゃん。ほんと、ありがとね」

凛「なーにー。今日のかよちんはありがとが多すぎだよ」

凛「凛そんなにお礼言われるようなことしたかな?」

花陽「うん、したよ。っていうより、いつも凛ちゃんには感謝してるし」

花陽「今日のありがと1回目は、花陽を励ましてくれたこと。2回目は……空港で誤魔化してくれたこと」

凛「な、なんのことかにゃ~」

花陽「もう、いくら凛ちゃんでもあんなおかしな言い訳信じるわけないよ」

凛「むむっ! いくら凛ちゃんでも、っていうのはちょっと酷いよー」

花陽「あはは」

凛「むう~」


凛「……ねね、かよちん」

花陽「うん?」

凛「凛たちいつまでもこうしていられるよね」

凛「一緒にアイドルやって、一緒に高校卒業できるよね?」

花陽「…………」

花陽「ごめんね、凛ちゃん」

凛「……え」

花陽「あのね、実は――」



 同日 アイドル研究部


絵里「みんな揃ったところで、報告することがあります」

絵里「まずは真姫のことだけど、もう日本を発ってるそうよ」

穂乃果「……! それ、ほんとなの?」

絵里「本当のことよ。理事長から聞いたのだけど、真姫のお母さんと旧友らしくって」

絵里「向こうの高校に通いながら、元気に研究生としてもやってるみたい」

花陽「それ、本当に本当ですか?」

絵里「ええ。残念だけど、間違いないわ」

凛「そんにゃ……真姫ちゃん……」

花陽「凛ちゃん、大丈夫? しっかりして」

にこ「…………」

にこ「……っそ」

絵里「え? にこ、なにか言った?」


にこ「あっそ、って言ったのよ」

花陽「に、にこちゃん!?」

絵里「にこ、そんな風に言わないであげて」

にこ「別に、にこがマッキーのことどう言おうとにこの勝手でしょ」

にこ「にこはあの日からずっと怒ってるんだから」

絵里「確かににこが怒る気持ちもわかるけど、真姫の気持ちも」

にこ「わけるけど? なによそれ。テキトーな励ましなんかいらないわよ」

絵里「だからね……」

希「やめとき、エリチ。にこっちも。今の二人やとなに言い合ってもすれ違うばっかりや」

穂乃果「そうだよ。ちょっと落ち着いて? ね?」

にこ「穂乃果も穂乃果よ。なにエリーの言うこと真に受けてるの」

にこ「理事長が確認したとかなにかって、出鱈目かもしれないじゃない。じゃなきゃエリー自身が」

絵里「私はみんなを誤魔化したりなんかしないわ」

にこ「……うるさいのよ」

海未「にこ……混乱しているのですね」


絵里「……私はただ現実を受け止めているだけ」

にこ「ふん。現実しか見れないような人がアイドルなんかやれるもんですか」

絵里「ちょっとそれ、聞き捨てならないわ。どういう意味よ」

にこ「言葉通りの意味よ」

希「だからもーやめって! 絵里もにこっちも落ちつき、みんな見てるんやで」

穂乃果「そうだよ。希ちゃんの言う通りだよ!」

絵里「……分かったわ」

絵里「とりあえず今回の件は鞘に納めておきましょう」

にこ「……ふんだ」


にこ「でも、ねえ、絵里」

絵里「……なにかしら」

にこ「1つだけ、1つだけ真剣に聞いてもいい?」

絵里「どうぞ」


にこ「さっきから、エリーはマッキーの気持ちも分かるみたいな風に聞こえるんだけど」

にこ「それってどうして?」

絵里「え……と、それは……それは」

にこ「なにか隠してる理由があるってこと?」

希「エリチ」

にこ「他言無用よ。私はエリーに聞いてるの」

にこ「答えて、絵里」

絵里「えと……その……」

絵里「実は、私……」

穂乃果「絵里ちゃん……? まさか」


海未「はいはいはい! いい加減にして下さい。その辺でストップです」パンパン

絵里「……え?」

にこ「……海未?」

海未「さっきから黙って話を聞いていればなんなんですか。みんなして絵里をいじめるみたいな空気にして」

にこ「別に、にこは特別虐めてるつもりなんかじゃ……」

海未「いいですか。現実を受け止めるならこれからのことについて話し合うべきです」

海未「真姫がいなくなりました、ことりがいなくなりました」

海未「それは凄く悲しいことです。でも起こってしまったことです」

海未「私のことを冷たい人だとやじりたいならやじって下さい」

海未「誰かいますか? いませんか?」

にこ「…………」

絵里「…………」

海未「いないようですね」

海未「私たちにはやるべきことがあります。……そうですね? 穂乃果」

穂乃果「う、うん……」


穂乃果「そ、そうだね。今考えるべきことは……」

穂乃果「やっぱり曲かな」

穂乃果「今までは全部真姫ちゃんにお願いしてたけど、これからはそうもいかないだろうし」

穂乃果「……誰か曲とか作れる人っているかな?」

 シーン

穂乃果「だ、だよねー……」

穂乃果「じゃあ次は衣装だけど、今まではことりちゃんにほとんどお願いしてきたけど」

穂乃果「誰か洋裁得意な人って……」

 シーン

穂乃果「いたら既にやってくれてるよねー」

穂乃果「あははは……」


穂乃果「……みんなで分担してやっていくしかないのかな」

海未「そうなりますね」

希「仕方ないやん。そうするしか」

穂乃果「じゃあ、とりあえず曲はみんなでアイデアを持ち寄って作っていくみたいな感じで」

穂乃果「……それでいいかな?」

凛「りょーかいにゃ」

にこ「それでいいわ」

穂乃果「そしたら衣装だけど、みんな裁縫は授業でやってるし、パーツごとに担当を決めてちょっとずつやっていこう」

穂乃果「はじめは練習の時間削ってもいいかもね。慣れてきたら持ち帰って宿題みたいな感じで」

花陽「…………」

花陽「……あのぉ」

穂乃果「花陽ちゃん? なにか質問?」

花陽「いえ、えと、質問ではないんだけど……」


花陽「ただ、そういうことなら知っておいてもらったほうがいいことがあって」

凛「か、かよちん……?」

凛「もしかして、今朝の」

花陽「うん、凛ちゃん。やっぱり言おうと思う」

凛「えっ!? でも今朝は、時を見てなんとかって言ってたじゃん! タイミングを見てって」

凛「今すぐみんなに話すつもりはないって」

花陽「それは……今までだったらそれで良かったのかもしれないけど」

花陽「分担してっていうことになったら、やっぱりそうもいかないよ」

花陽「人数だって欠けちゃうわけだし……」

凛「そんにゃ……」

穂乃果「……人数が欠ける? 花陽ちゃん、なにをいってるの?」

花陽「あの、あのね穂乃果ちゃん! みんな!」

花陽「花陽は、実は――」


花陽「――お父さんが脱サラしたんです」

穂乃果「……脱サラ!?」

穂乃果「……って脱サラってなに?」

海未「知らなかったんですか、穂乃果……」

海未「脱サラというのは、脱サラリーマン。要するに会社勤めをやめて他に転職するということです」

希「それは大変やな。もう辞めちゃってるってことやろ?」

花陽「はい。もう退職金ももらってるみたいです。それで、そのお金を使って色々やることがあるみたいで」

希「金銭面の問題? せやとアイドル以前に学校に通うのにも支障が出そうなん?」

花陽「いえ、それは大丈夫というか」

花陽「いや、大丈夫でもないのかな? あの、私も詳しいことはあんまり分からなくて……」

花陽「ただ、1つ言えるのは……」

凛「かよちん……」

花陽「日本を離れなきゃいけないっていうことなんです」


絵里「花陽も!?」

花陽「え゛!?」

絵里「あっ、いや……なんでもないわ、続けて」

花陽「は、はあ……」

花陽「お父さんの友だちに外国の人がいて、その人に誘われたみたいなんです」

花陽「サラリーマンなんてやめて俺の国で二人ででかいことしようぜ、って」

花陽「それで、はじめは断ってたんですけど、だんだん本気にしていったみたいで……」

凛「かよちんも、ついて行っちゃうんだよね」

花陽「……うん。お父さんはもう家族みんなで移住する気でいるの」

花陽「花陽に難しいことはよくわからないけど、手続きみたいなものも進めてる感じで」

希「ちなみに……ちなみに花陽ちゃんの気持ちはどうなん?」

希「いくらお父さんが連れていく気でいても、花陽ちゃんが反対したら無理やりなんてできんはずやけど」

花陽「花陽の気持ちは……」

花陽「お父さんに傾いてたりします」

凛「…………」


花陽「実はその、お父さんのやりたいでかいことっていうのは、農業の話で」

花陽「その外人のお友だちさんが凄い広い土地を持ってるので、そこを全部田んぼにしようって」

凛「かよちんおこめ好きすぎだよ」

花陽「うん、そうなんだよね」

花陽「私、夢があって、幼稚園のとき農家さんになりたいって日記に書いてたんです」

花陽「だからその、夢が前倒しになったっていうか、お父さんの提案は素直に嬉しくって……」

花陽「でも……」

穂乃果「アイドルはどうしたいの? 花陽ちゃんは、ずっとアイドルに憧れてたんだよね」

花陽「そこなんだよね……」

海未「詳しくは知りませんが、農家の仕事は大変だと聞きます。とてもアイドルと片手間にできるようなものではないかと」

凛「でもかよちんはずっとアイドルになりたかったって」

花陽「うん、そうだよ凛ちゃん。今もその気持ちは変わってない」

凛「……だったら!」

花陽「でも。今朝も言ったと思うけど……」

花陽「農家の夢はアイドルになりたいって思うより前から私の夢だったし」


凛「凛はぜったい反対だからね!」

花陽「…………」

凛「凛知ってるもん。小学校の頃から、中学校の頃からかよちんはずーっとずっと」

凛「アイドルになりたかったんだもん! かよちんのそういうところにはじめて気づいたのは、凛が最初だもん!」

花陽「凛ちゃん……」

花陽「ごめんね。でもこれが私の素直な気持ちなの」

凛「かよちん……」ウルウル

希「ほら、凛ちゃん。涙隠し、うちが胸貸してあげよか」

凛「うん……ありがと、希ちゃん」

絵里「…………」

絵里「……そういうものよね」

穂乃果「絵里ちゃん?」


絵里「本来の高校生ってそういうものよねって思ったの」

穂乃果「絵里ちゃんまでなにを言い出すの……」

絵里「ほら私って、3年生だし生徒会長だし理事長ともよく話をするし、自分が大人の仲間なんだって錯覚してたのよ」

絵里「でも本当はただの小さな高校生。大人にちょっと近いだけで、本当は程遠い」

絵里「本来子どもって我がままなのよね。それで、友だち同士、仲のいい同士、遠慮なくお互いの本心をぶつけ合える」

絵里「背伸びしたつもりになって、足元を見てこなかった。そこに転がってる本当の気持ちを」

穂乃果「……絵里ちゃん?」

穂乃果「つまり絵里ちゃんはなにが言いたいの」

絵里「私は、私の本当の気持ちは……」

絵里「すでにここにはないの。花陽と同じように、遠く離れたところに向いてるの」

穂乃果「……え」

希「…………」


花陽「絵里ちゃんも……?」

絵里「ええ。そうよ」

絵里「実は、昔バレエを習っていた先生から便りが届いたの」

絵里「μ'sとして活動してる動画をたまたまネット上で見てね、それで連絡してくれたの」

穂乃果「えっ、それじゃあ……」

穂乃果「絵里ちゃんバレエの世界に戻っちゃうってことなの」

絵里「そうじゃないの。そもそもバレエは厳しい世界よ。それ相応の練習を少しでも怠ればもう舞台になんてあがれない」

絵里「私はもうバレエの世界には戻れないの」

海未「では、どういうことなのですか」

絵里「そうねえ。分かりやすい言い方をすれば、新規の劇団を作るってとこかしら」

絵里「バレエの世界から一線を引いた人たちを集めてね、新しいステージを作るの」

穂乃果「つまり、その新しい劇団っていうのが……」

絵里「そう、日本ではないの。遠い国。海の向こうよ」


絵里「……あぁ、ついに言っちゃった」

絵里「なんだか花陽につられたみたいになっちゃって情けないけど」

穂乃果「そんな、わたし……」

絵里「穂乃果?」

穂乃果「私、全然知らなかった。花陽ちゃんの気持ちも、絵里ちゃんの決意も」

海未「それはそうですよ。初めて聞いたんですから」

海未「……穂乃果? 大丈夫ですか、顔色が優れませんよ」

穂乃果「うん、ありがとう海未ちゃん。だいじょぶだから」

海未「……ならいいのですが」

絵里「…………」

にこ「ねぇ、絵里」

絵里「うん?」


にこ「にこ思うんだけど、新しいステージに立って自分を表現したいのなら、μ'sでもできるはずよ」

にこ「新しい曲で、新しいダンスで、新しい衣装で。新しいμ'sでやるの」

にこ「にこが言ってること、違ってると思う?」

絵里「本質的なところをつけば、間違ってはいないと思うわ」

にこ「そう。だったらもっと突っ込んだところを聞くけど」

にこ「それってμ'sよりその劇団のほうが自分を魅せられると思ったってことよね」

にこ「これも違う?」

絵里「…………」

絵里「ええ、それで合ってるわ」

にこ「ってことは、つまり」

絵里「ええ。私はμ'sより、まだほとんどなにも知らないその劇団のほうに魅力を感じるの」

絵里「みんな、ごめんなさい。でも、これが私の本当の気持ち……」

希「はいはい、よくできました。といったところやな」

絵里「希……」


穂乃果「…………」フルフル

海未「ええと、あの……」

海未「提案なのですが、二人の気持ちがちゃんと聞けたところで、今日のところは解散にしませんか」

海未「曲や衣装の分担も大事ですけど……今すぐその話題に入っても集中できなさそうですので」

絵里「そうね……空気を変えてしまってごめんなさい」

希「海未ちゃんに賛成。まあ今日は特別やいうことで」

花陽「あの、私からも、すいませんでした」

凛「かよちぃん……」

にこ「確かに真面目な話はできなそうね。にこもパスでいいわ」

穂乃果「…………」

海未「では、みなさんお疲れ様した」



 数分後 帰宅路にて


絵里「ねぇ、希」

希「うん?」

絵里「本当にあれでよかったのかしら」

希「さあ。どうしてそんなこと聞くん?」

絵里「どうしてかしら、不安になっちゃって」

絵里「私自身、スッキリしたといえばスッキリしたけど、穂乃果なんか明らかに動揺してたし」

絵里「もっと他に伝えようがあったんじゃないかって、さっきからずっとそればっかり考えてるの」

希「せやなあ」

希「まっ、エリチは今も昔も不器用やから、あれでも十分頑張った方とちがう?」

絵里「はぁ。そう言ってもらえると気が楽になるわ」

希「どういたしまして」

希「……なあ、エリチ」

絵里「うん?」

希「ちょっとハグしようや」


絵里「ハ、ハグ!?」

希「そうや。ハグ」

絵里「な、なんでいきなりハグ?」

希「だってもう別れ道やし。それにロシアのほうでは挨拶代わりにハグとかキッスとかするんやろ?」

絵里「まあ、日本よりはそういうところフランクではあるけれど」

希「なら決まりや」

希「そーれっ!」ハグッ

絵里「わっ! もう、いきなりなんだから……」

希「別にいいやん。迷惑やったらやめるけど?」

絵里「迷惑だなんて、とんでもないわ」

希「おおきに。しばらくこうしてよか」

絵里「うん……」


希「はいっ、しゅーりょー」バッ

絵里「ほわぁ……」

絵里「希って以外と体温高いのね」

希「そう? 自分では普通やと思ってるけど、今が特別だったんかな」

絵里「……もうっ」

絵里「ありがとう、希。今日は救われてばっかり」

希「いーんや。エリチは勘違いしてるで」

絵里「え?」

希「今のはうちのためのハグや。エリチのためやない、うちがしたいからハグしただけや」

希「ふふ。まったく今日のエリチはおごりが過ぎるでー」

絵里「それってどういう意味……」

希「はい、お口チャック。それ以上は家に帰ってから悶々と悩みーな」

希「今日はおつかれさん、エリチ。また明日」

絵里「うん……また明日ね」

絵里「ほんと、敵わないなぁ……」



 一方その頃


花陽「凛ちゃーん」

凛「むー……」

花陽「凛ちゃあああん」

凛「にゅー……」

花陽「もー、凛ちゃん! 呼んだら返事してよっ」

凛「凛ちゃんはただいま不機嫌なので返事したくないにゃ」

花陽「もお~。……はぁ」

花陽「だって、仕方ないよ。ずっと隠したままだったら、いつかみんなに迷惑かけるし」

花陽「……真姫ちゃんみたいに」

凛「!? うにゃあああああああああああああ!!」

花陽「ヴェエエェ!? いきなりなにっ!?」

凛「凛は難しいこととかわかんないし考えるのも苦手なのっ!」

凛「だから凛は自分のしたいことするししたくないことはしたくないの!」

花陽「えと……つまりどういうこと?」


凛「凛はかよちんと離れたくない」

花陽「うん……」

凛「かよちんがアイドルやらなかったら、凛だってアイドルやることはなかったよ」

花陽「そんな感じだったね」

凛「小学校も、中学校も、今も、一番かよちんの近くにいるのは凛だもん」

凛「これからもそうだよ。凛はかよちんのいない生活なんて少しも想像できない」

花陽「凛ちゃん……」

凛「だから凛決めた。まだまだかよちんの側にいる」

花陽「……無理だよ。私、遠い国に行っちゃうんだよ。飛行機で何時間もかかるところにいっちゃうんだよ」

凛「だー!」

凛「かー!」

凛「らー!」

花陽「……?」

凛「凛もかよちんについてって一緒におこめ農家やるって言ってるの!」

花陽「……えええええぇぇ!?」



 一方その頃 部室にて


海未「あの、穂乃果」

穂乃果「…………」

海未「もうみんな帰って大分経ちますよ」

海未「そろそろ顔を上げてください。でなければ引きずってでも保健室に連れていきますよ」

穂乃果「……うん?」

穂乃果「あぁ、ごめんね。ちょっと考えごとしてて」

海未「ちょっと考えごとって、いったい何分経ったと思ってるんですか」

穂乃果「だって、色んな疑問とか想像とかぶわーって一気に頭の中になだれ込んできて」

穂乃果「自分でも整理するのにちょっと時間かかっちゃっただけだもん」

海未「……そうですか」

海未「ねえ、穂乃果」

穂乃果「なに?」

海未「私からいくつか言いたいこと、言えることはあると思いますが……、今は1つだけ、確かに伝えたいことがあります」

海未「私はどこにもいきません。いつだって穂乃果の側にいて、穂乃果の味方です」


海未「例えμ'sがバラバラになっても、私は穂乃果とアイドルを続けるつもりですよ」

穂乃果「海未ちゃん……」ウルッ

穂乃果「海未ちゃん海未ちゃん海未ちゃんっ!」ダキッ

海未「ふぁっ!?」

海未「もう……穂乃果ったら」

穂乃果「穂乃果やだよ。真姫ちゃんとことりちゃんに続いて、絵里ちゃんや花陽ちゃんまで……」

穂乃果「もっと一緒にいたかったよ。まだまだみんなでアイドルやりたかったよ」

穂乃果「だけど、みんな本気だから。本気で自分の新しい夢を追いかけてるって分かっちゃったから」

穂乃果「ほんとは我がまま言って、なにがなんでも引き止めたかった」

穂乃果「でも、できなかった……」

海未「……穂乃果、自分を責めないで下さい」


海未「そうやって1人で抱え込むのが、昔からの穂乃果の悪い癖です」

海未「もし悪者がいるとしたら、それは誰でもなくて、誰だってそうなんです」

海未「そういう風に思えれば、少しは気が楽になりますよ」

穂乃果「うっ、うう……」

海未「よしよし。まったく穂乃果は手がかかりますね」

穂乃果「……だよ」

海未「はい?」

穂乃果「ずっと、ずっと一緒だよ!」

穂乃果「例えμ'sがバラバラになっても、穂乃果と海未ちゃんは一緒だからね!」

海未「はいはい。分かってますよ」

穂乃果「海未ちゃあああん」ギュッ


海未「分かってますよ……」

海未「分かって……」



 一方その頃


にこ「ああああああああああああああああ! イライラする! にこイライラする!」

にこ「なにが本当のことよ! なにが劇団よ! なにが農家よ!」

にこ「アイドルはどうしたのよ! 次の夢が近づいたら、もうアイドルなんてどうてもいいっての!?」

にこ「ああああああああっ! イライラするイライラする!」

にこ「……って、ダメにこっ。こんな公衆の面前で、にこったらはしたない」

にこ「キャラチェンキャラチェン……」

にこ「にっこにっこにぃ~♡ あなたのハートにらぶにこっ♡」

にこ「にこにーこと矢澤にこで~っす♡ よぉーし、今日も元気ににこにこしちゃうぞぉ~」

 ――ヒソヒソ ――クスクス

にこ「……なっ、なに笑ってるのよ! 大道芸じゃないのよっ」

にこ「はぁ、なんか虚しい……。無理にテンション上げると、後から急激に虚しくなるのよね」

にこ「マッキー……エリー……花陽……。みんな、みんな離れてっちゃうんだ、2年前とおんなじ……」

にこ「にこにこにいぃ」トボトボ

??「あのー」


??「あのー!」

にこ「……はい?」

にこ「ああ、すいません今プライベートなんで」

??「はは。さっきから見てたけど、君やっぱり面白いね」

にこ「さ、さっきから見てた!? つつ、ついににこにもストーカーがっ」

にこ「……これは喜ぶべきことかしら? いや、悲しむべき? う~ん、う~ん」

??「君、スクールアイドルやってる矢澤にこさんでしょう」

にこ「こ、個人情報まで!?」

??「まあ、ちょっと調べさせてもらいました」

にこ「防犯ブザーってどこにあったかしら……」

??「怪しい者じゃないですよ。ちなみに私、こういう者です」

にこ「……って、名刺?」

にこ「こ、これって! あ、あんたもしかして……」

??「信用してもらえましたか? つまり、そういうことです」



 数日後 空港にて


絵里「さて、そろそろ飛行機が出る時間ね」

花陽「うん。そうだね」

花陽「じゃ……私たち、行ってきます」

穂乃果「行ってらっしゃい。気をつけてね」

希「無事に向こうについたら、ちゃんと連絡入れてな」

海未「ふふ。希はお母さんみたいですね」

希「どうもおおきに」

花陽「凛ちゃん、行ってくるね」

凛「うん……」

にこ「……ねえ、エリー」

絵里「うん?」

にこ「ちょっと握手しましょう」


絵里「……握手?」

にこ「そう。まさか嫌だなんて言わないでしょうね」

絵里「まさか。むしろ嬉しいわ」スッ

にこ「どうもありがとう」ギュッ

にこ「にこ、なんだかんだ言ったけどエリーのこと応援してるから」

絵里「……あら、別れ際ににこにそんなこと言ってもらえるなんて驚きね」

にこ「いい意味で?」

絵里「もちろんいい意味よ」

希「なんや話が回りくどいなあ」

穂乃果「あれ、絵里ちゃんとにこちゃんっていつの間にか仲直りしてたんだ」

穂乃果「良かったあ。喧嘩したままさよならっていうのは、やっぱり悲しいもんね」

にこ「仲直り? っていうのとはちょっと違うかな~。ライバルを送り出すって感覚に近いのよね」

穂乃果「ライバル? なんでライバルなの?」

にこ「まー、言葉の綾みたいなものよ。せいぜい向こうでビッグスターになりなさいよね」

にこ「それに、さよならじゃなくてまたねだから」


絵里「ありがとう、にこ。ありがとう、みんな」

絵里「って、本当に時間だわ。飛行機に乗り遅れちゃう。行きましょう、花陽」

花陽「はい」

穂乃果「またね!」

にこ「さよならじゃなくて、またねよ!」

絵里「またねっ」

凛「またねかよちーん!」

凛「今すぐは無理だけど、凛もすぐそっちに行くからね!」

花陽「うん。待ってるからね~!」

凛「それまで寂しくても絶対に泣いちゃだめなんだにゃー!」

花陽「うんっ。せめてご飯粒だけつけとくね~!」

にこ「……今のは突っ込むべきかしら」

海未「2人だけに通じるなにかがあるんですよ、きっと」



 機内にて


 ポーン

絵里「ランプが消えたわ。もうベルト外してもいいみたいよ」

花陽「……ふあ~。緊張したあ」

花陽「そんなはずないと思うけど、もしかしたら落っこちちゃうんじゃないかって、ドキドキした……」

絵里「まさか。飛行機の事故より自動車の事故のほうが圧倒的に多いのよ」

絵里「私は何度か経験あるけど、花陽は飛行機のるのってはじめて?」

花陽「うん。絵里ちゃんもはじめてのときは同じこと思わなかった? 落ちちゃうんじゃないかって」

絵里「もちろん、ビクビクしたわよ。小さかったしね」

花陽「そっかぁ。は~あ」

花陽「でも、まさか初めての飛行機が最後の飛行機になるかもしれないなんて、今までの私だったら考えられなかったなあ」

絵里「……ねえ、その言い方こそ墜落するフラグみたいじゃない?」

花陽「あ、ああっ! 違くて、もう日本に帰ることはないのかもなあって、そういう意味で」

絵里「分かってる。……本気にしちゃった?」

花陽「もぉ、絵里ちゃんが真剣な顔で言うからだよ~」

絵里「ふふ。花陽のそういうところって可愛いのよね」


絵里「……それにしても凄い偶然よね」

花陽「そうだよね。まさか乗る路線が絵里ちゃんと一緒だったなんて」

花陽「お父さんからは、とにかく水平線まで自然が広がってるひろーい農園って聞いてたから」

花陽「劇団に入る絵里ちゃんが行くような都会とは全然別のところなんだろうなって思ってたし」

絵里「そうねえ。でも、別にそんなに都会っていうわけでもないのよ。ビル街をちょっと過ぎたら畑しかないようなところみたいだし」

絵里「外国って広いのね。日本の常識が通用しないっていうか」

花陽「そうだねえ……」


花陽「あっ、気がついたらもう海の上だ。陸地がぜんぜん見えない」

絵里「いよいよ日本脱出ね」

絵里「どう? 話してて、飛行機怖いのは少しくらい和らいだかしら」

花陽「うん。ありがとう、絵里ちゃん」

絵里「いいえ、どういたしまして」

花陽「……ねえ、絵里ちゃん」

絵里「なに?」

花陽「頑張ってね。私、心の中でにこちゃんと一緒になって応援してるから」

絵里「ふふ、ありがとう。花陽も農家頑張ってね」


 そして絢瀬絵里と小泉花陽は日本を発った



ここまでVIPに投下できた全体の半分弱。残りは明日一気に投下する予定です


にこと海未にまで離脱フラグが立っているのか……

期待
てかいまのところ日本に残りそうなのは穂乃果とのんたんだけなんじゃ

全滅ワロタ

ほのか壊れそうだな

明日楽しみだ

>>42
×他言無用
○口出し無用



 数日後 部室にて


海未「すいません遅れて……って」

穂乃果「やっほー、海未ちゃん」

海未「今日も穂乃果だけですか」

穂乃果「あはは、またみたい」

海未「まったく。確かに衣装作りの宿題は出しましたが、ダンスの練習をやめるとは一言も」

穂乃果「まあまあ海未ちゃん。とりあえず座ろう? お菓子もあるよ」

海未「お菓子じゃなくてお饅頭ですけどね」

穂乃果「おっきな括りで見れば同じようなものだよ。ぶーぶー」

海未「……まあ、穂むらのお饅頭は美味しいし好きですけど」

穂乃果「そうだよ。じゃんじゃん食べよう。賞味期限も近いし」

海未「はぁ……」

穂乃果「あ、あれ? 海未ちゃん賞味期限とか気にするタイプだったっけ?」

海未「いいえ、美味しく食べられるならそれでじゅうぶんです」

海未「ただ……今のμ'sの状況的に、自然とため息が出てしまったんです」

穂乃果「あー、そっかあ……」


穂乃果「なんか絵里ちゃんがいなくなってから、ダンスの練習も天井が見えてきてるような気がするなあ」

穂乃果「なんていうか、自分たちが成長したっていうより、天井が下がってきたみたい」

海未「それは私も同感です。やはり、あれだけの経験者を失ったのは大きな穴ですね」

海未「よそのスクールアイドルの動画だけでなく、ダンスのプロの動画を参考にしてみたりしましたが」

穂乃果「……なんていうか、イメージ沸かないんだよねえ」

海未「はぁ……。おまけに毎日全員集まってた部活も、今はほとんど2人きり」

海未「まぁ、私は別にそれでも」ボソッ

穂乃果「え? 海未ちゃんなにか」

海未「いえいえ! なんでもないです」

海未「……それより、やはり凛は本当に花陽の後を追う気でしょうか」

穂乃果「どうかなあ。凛はいくー凛はいくー、ってずうっと言い続けてるけど」

海未「衣装分担のノルマはちゃんとこなすと言ってましたし、凛にしては珍しく真面目にやっているみたいです」

海未「ですが……だからこそ花陽の後を追うということが現実味を帯びている気がします」

海未「花陽はみんなに迷惑ないようにって、気を遣ってましたから」

穂乃果「そっかぁ」

穂乃果「5人だけのμ'sには魅力がないってことなのかなあ……」


穂乃果「一応、さっき希ちゃんが顔だけ出しにきたんだけどね」

海未「はい。それで、なにか言ってましたか?」

穂乃果「今日もオカルト同好会に行くって。また、ふぃーるどわーく? っていうのをするみたい」

海未「フィールドワークですか。学校の外でやるでしょうし、今日はもう戻りませんね」

穂乃果「……ねえ、海未ちゃん。ちなみにオカルト同好会ってどういう活動やるのかな?」

穂乃果「前に1度だけ希ちゃんに聞いてみたんだけど、境界線を探すとかなんとか、意味がよく分からなくて」

海未「……私にもよく分かりませんが、一般人が気軽に首を突っ込まないほうがよさそうです……」

穂乃果「ふうん。やっぱりオカルトだから危ないこととかするのかな」

海未「いえ、その……まあそういうことだと思います」


海未「ちなみににこは顔を出しましたか?」

穂乃果「ううん。来てないよ」

穂乃果「っていうかにこちゃん、最近ほんっとこないよね。学年違うせいもあるけど、全然見かけないよ」

穂乃果「本物のアイドルの卵って、やっぱり忙しいんだね」

海未「そうですね。スクールアイドルとアイドルは、やはり別物なのでしょう」

海未「スクールアイドルは、言ってしまえば安全な柵の中でやれることですが、本物のアイドルはそんなに甘くありません」

穂乃果「だよねえ。今頃、プロの振付師の人とかミュージシャンにレッスンしてもらってるのかなあ」

海未「その辺は今度会えた時に聞いてみるしかないですね」

海未「……もしくは自分もスカウトされて確かめてみるとか?」

穂乃果「ええっ!? 穂乃果が?」

海未「そうですよ。秋葉原も近いですし、それなりの格好で街を歩けば、穂乃果ならきっと」

穂乃果「むりむりむり! 絶対無理だよ~」

穂乃果「……って、それなりの格好ってどういう意味~?」

海未「ふふ。冗談です、冗談」

穂乃果「もおーっ!」


海未「あ、そういえば、試しに曲を作ってみたんです。パソコンにMIDIのフリーソフトを入れてみたのですが……」

穂乃果「えっ!? すごーい! 海未ちゃんも作曲できたの!?」

海未「い、いえっ、真姫がやるような作曲とは全然レベルが違います」

海未「ただ譜面にポチポチ音符を置いてく感じなので、まだ作曲なんていうレベルじゃ……」

穂乃果「それでも十分凄いよ! 頭で考えた音を流せるってことなんでしょ? 海未ちゃん天才っ」

海未「そ、そんなに褒められると逆に恥ずかしいです……」

海未「って、穂乃果もパソコン持ってるんですから、同じようにやればできるんですからね」

穂乃果「えっ、そうなの?」

海未「そうですよ。後でやり方を教えてあげます」

穂乃果「はーい」


穂乃果「っと、話がそれちゃったけど早速その海未ちゃんが作った曲聞かせてよ」

海未「えっ……聞きたいんですか?」

穂乃果「……聞かれたくないの?」

海未「いえ、どちらかといえば聞いてもらいらいのですけど」

穂乃果「けど……?」

海未「まだ初心者ですし、真姫と比べて笑ったりしないで欲しいです」

穂乃果「なあんだ、そんなこと。大丈夫だって、穂乃果は真剣に聞くよ」

穂乃果「はいっ。前置きはいいからとにかくミュージックスタート!」

海未「……分かりました。ええと、再生ボタンは」

海未「これです」カチッ

 ~ ♪ ~ ☆ ~ ♪ ~ ♡ ~ ♪ ~

穂乃果「あっ……なんだろう、どこかで聞いたことあるような、ないような」

穂乃果「なんだか優しい曲。海未ちゃんらしい曲」

穂乃果「……いいんじゃないかなっ?」

海未「ありがとうございます。でも……」

海未「穂乃果は本当に心からそう思ってくれてますか?」


穂乃果「えっ? 穂乃果は笑ってないし、別に嘘ついてるわけじゃないし……」

海未「そうですね。穂乃果はいつだって優しいし、ちゃんと本音を隠さずに出してくれます」

穂乃果「だったら」

海未「だったらこういう風に訊いてみるとどうですか」

海未「穂乃果は、この曲がスクールアイドルユニットμ'sの曲に相応しいと思えますか?」

穂乃果「それは……ええと」

海未「いいんです穂乃果。その先は言わなくても」

海未「見劣りするのは確かです。ほとんどメロディーラインしかないので、当たり前といえば当たり前ですけど」

海未「これを今まで続いてきたμ'sの新曲として出すには、あまりにもレベルが」

穂乃果「……しょうがないよ」

海未「えっ?」

穂乃果「しょうがないよ、海未ちゃん。こればっかりは仕方ないよ」

穂乃果「……ねえ海未ちゃん。私と海未ちゃんとことりちゃんではじめてスクールアイドルの練習したときのこと覚えてる?」

海未「それは……そんなの、忘れるわけないじゃないですか」

穂乃果「だよね。はじめは、アライズの真似をするところからはじめたんだよね」


穂乃果「はじめは、3人しかいなかったし、ほんとゼロからのスタートだった」

穂乃果「でも凛ちゃん真姫ちゃん花陽ちゃんが入ってくれて、6人になって」

穂乃果「それから色々あったけど、にこちゃんが入って、絵里ちゃんに希ちゃんまで……」

穂乃果「人数が増えるにつれて、私たちμ'sはどんどんキラキラ輝いていった」

海未「穂乃果……」

穂乃果「……でも、やっぱり希ちゃんの言う通りだよ。私たちは9人いてこそμ's」

穂乃果「9人が集まったとき、未来が開けるんだって」

穂乃果「でも人数が減っちゃった今だと……」

海未「…………」

海未「でも、でも私はまだ諦めてません。まだ穂乃果と一緒に輝きたいんです」

海未「5人のキラキラが足りなければ、そのキラキラを今までの2倍にするというのはどうです」

海未「そうすれば10人力です。どうです、凄いでしょう」

穂乃果「海未ちゃん……」

穂乃果「でも、実際限界があるよ。他の3人ともアイドル活動どころじゃないって感じだし」

海未「だったら……」

海未「だったらせめて作詞作曲だけは完璧にこなしてみせます」


穂乃果「海未ちゃん凄いね。剣道に弓道に作詞に作曲に、衣装作りまで」

穂乃果「でも無理しちゃ駄目だよ。私、海未ちゃんのそういう頑張り屋さんなところも好きだけど」

穂乃果「それで海未ちゃんが辛い思いをするのは、私だって辛いから……」

海未「ありがとうございます、穂乃果」

海未「私はその言葉があるから頑張れるんですよ」

穂乃果「もうっ。大袈裟だって」

海未「さあ、どうでしょうね」



 翌日 放課後にて


穂乃果「にーこーちゃーん!」

にこ「あっ、穂乃果」

穂乃果「はー、はー、はー……」

穂乃果「はあ。やっと見つけた。帰りのチャイム鳴ってすぐダッシュしたんだからね」

にこ「あ、そうなの……」

穂乃果「これからレッスン? それとも営業とかそういうのがあったり?」

にこ「まあ、一応そういう予定もあるけど」

にこ「でも、まだ時間あるし……ちょうどいいわね」

穂乃果「ちょうどいい?」

にこ「ねぇ、ちょっとこっち来て。2人きりで話したいことがあるの」


穂乃果「ここ、屋上……」

にこ「懐かしいわね。最近は練習っていっても、ほとんど部室でだったから」

にこ「……って、にこ自身あんまり練習に参加できてなかったんだけどね」

穂乃果「……だね。ねえ、にこちゃんに聞きたいことがあるんだけど」

にこ「なに?」

穂乃果「本物のアイドル活動ってどんな感じ? やっぱりスクールアイドルとは違うのかな」

にこ「……そうねえ。でもまあ、つまりところやることは同じよね」

にこ「歌って踊って、笑顔で、そんな楽しい気持ちが見てる人にも伝わって……」

にこ「っていっても、レッスンはスクールアイドルとは比べ物にならないくらい厳しいのよ」

穂乃果「あー、やっぱりそうなんだ」


にこ「当たり前じゃない。そもそもスタートが違うのよ」

にこ「スクールアイドルなら誰だってなりたければなれる。でもプロは違うの。選ばれた人しかなれない」

にこ「成功すればそれなりのお金だってもらえるし……なによりにこたちはいわば商品なわけ」

にこ「芯の出ないシャーペンがあっても捨てられるだけ。厳しい世界よ」

にこ「穂乃果みたいないい加減な気持ちとは違うの」

穂乃果「あはは……。なんかその言葉前にも聞いたような」

にこ「……まあ、最後のは冗談だけど」

穂乃果「あれ? 冗談だったの?」

にこ「なんか話してたら流れでつい言いたくなっちゃったのよ!」

にこ「なんか、あの頃を思い出しちゃったからかしら……」

穂乃果「あの頃かあ……。なんか今思い返すと恥ずかしいな」

にこ「ほんと、あの時はにこにー久々の激おこぷんぷん丸だったわ」

にこ「……でもね、色々あったけど、本当は結構感謝してるの」

にこ「穂乃果にも、それからμ'sにも」

穂乃果「にこちゃん……」


にこ「多分、いやきっとね、あの時穂乃果がにこをμ'sに引き入れてくれなかったら」

にこ「きっと今もあの部室で1人で腐ってたと思う」

にこ「ひたすらアイドルの動画見ながら、ただ頭の中で、ふふんこんなのにこにだってできるわよって」

にこ「ただアイドルに憧れる気持ちだけ引きずって、そんな機会がどこかから降ってくるのを待って……」

穂乃果「にこちゃん……」

にこ「まあ、でも、実際降ってきたんだけどね」

にこ「穂乃果がμ'sに誘ってくれたときも、今回のスカウトのときも……」

にこ「でも、だからこそにこは絶対に退かないって誓える」

にこ「きっとこれは神様がくれた気まぐれなチャンス。絶対に逃せないし、逃したくない」

にこ「ぐうたらな過去の自分には絶対に戻れない……」

穂乃果「にこちゃんならきっとなれるよ。きっと、誰もが羨むようなトップアイドルに」

にこ「穂乃果……」

にこ「ねえ穂乃果、あんたはそれでいいの?」

穂乃果「……え?」


穂乃果「穂乃果はにこちゃんがアイドルとして成功すること応援してるよ」

にこ「そう言ってもらえるのは、素直に嬉しいんだけど」

にこ「……でも、あんたはμ'sのリーダーでしょ」

にこ「にこが本物のアイドルを頑張るってことは、μ'sの活動を疎かにするってことなのよ」

穂乃果「まあ、そういうことになるよねぇ」

にこ「なに呑気に構えてるの。今だってμ'sは5人……いや、もっと減るかもしれないのよ」

にこ「穂乃果はそれを黙って見てるだけなの?」

穂乃果「うんとね……確かにみんな離れていっちゃうのは辛いよ」

穂乃果「でも、真姫ちゃんがことりちゃんが花陽ちゃんが絵里ちゃんが、それぞれの夢に向かっていって」

穂乃果「私の夢は、もう叶っちゃったから。廃校にしたくないって夢は、みんなが叶えてくれたから」

穂乃果「だから……1人1人が本気になれる新しい夢が見つかったのなら、今度は穂乃果が応援してあげる番なのかなって」

穂乃果「最近そう思えるようになったんだ」

にこ「穂乃果……」

にこ「あんたは、あんたはほんと甘々よ! 変に気を遣って嘘ばっかりついて」

にこ「ほんとはまだまだみんなでアイドルやりたいくせに。また9人で歌って踊りたいって思ってるくせに」

にこ「ほんと、あまあま」ウルウル

穂乃果「なんでにこちゃんが泣きそうになってるのかな……」


にこ「と、とにかくよ!」ゴシゴシ

にこ「にこが伝えたかったのはそういうことじゃないの」

にこ「穂乃果には言っておかなきゃいけないことがあるの」

穂乃果「私に、言わなきゃいけないこと……?」

にこ「そう。前にエリーに似たようなこと言わせたと思うけど、にこ、やっぱりμ'sより本物のアイドルに魅力を感じるの」

穂乃果「うん……」

にこ「それでね、ちょっと事務所のほうで新しい企画があがってるらしいの」

にこ「今事務所で一番の売れっ子アイドルがね、アイドルの卵を何人か引き連れて劇場を立ち上げるみたいなの」

穂乃果「劇場。それって……!?」

にこ「そう。絵里と似たようなものよね、ジャンルは違えど」

にこ「……まあ、そもそもスカウトっていうのも、その売れっ子のお眼鏡に叶った子に声をかけたみたいなんだけど」

にこ「ともかく、にこはそれに全力で臨みたいの。多分はじめは雑用とか、もしかしたら舞台にすら立てないかもしれないけど……」

にこ「でも卵なんてそういうものよね。暖められずに還る卵って、なんか貧弱そうじゃない?」

穂乃果「にこちゃんが……あんなに目立ちたがりだったにこちゃんがそんな風に……」

穂乃果「本気なんだね」

にこ「もちろんよ」


にこ「今度のオープンスクールのライブ、それでにこはμ'sを辞める」

にこ「本気のアイドルに、本気で打ち込むの。いつかトップアイドルになるために……」

穂乃果「分かったよ、にこちゃん」

穂乃果「にこちゃんの想いは伝わった。穂乃果は止めない」

にこ「ありがとう、穂乃果」

にこ「……でも、これは我がままだって自覚してるけど、μ's自体がなくなっては欲しくないの」

にこ「なんていうか、母校を廃校にしたくない卒業生みたいな気持ち? そんな感じなのよね」

にこ「……どう? 人数が減っても、穂乃果はμ'sを続けられる? 極端に言えば、例え1人になっても」

穂乃果「私1人になっても、μ'sを……」

穂乃果「いや、ううん。その心配はないよ」

にこ「それじゃあ……!」

穂乃果「私1人にはならないよ」

穂乃果「今、凛ちゃんは心ここにあらずだし、希ちゃんはオカルト同好会によく通ってるみたい」

穂乃果「でも海未ちゃんは約束してくれたから。ずっと一緒だって、ずっとμ'sでいてくれるって」

にこ「……そう」


にこ「でも、余計なお世話かもしれないけど、一言言わせてもらうと――」

穂乃果「うん?」

にこ「――そういう固い約束って、強すぎる故に弱いところもあるのよね」

にこ「そうね、例えば……」

にこ「いや、やめておくわ。そんなことになるわけないわよね」

穂乃果「変なにこちゃん……」

穂乃果「まっ、穂乃果たちのことは心配しないで。にこちゃんはにこちゃんがしたいことを全力でやって」

穂乃果「それがきっとみんなを引っ張っていくチカラになると思うから」

にこ「はいはい。わかってますよーだ」


にこ「……っと、そろそろレッスンに遅れるわね。急いで向かわないと」

穂乃果「あっ、そうだ! 最後に1つだけ聞いてもいい?」

にこ「ん、なに?」


穂乃果「希ちゃんって最近どんなことしてるのかな?」

穂乃果「私、オカルト同好会ってなにをやるところなのか全然分からなくって」

穂乃果「にこちゃんなら同じ学年だしなにか知ってるかもって思ったんだけど……」

にこ「そうねえ……。でも残念ながら、にこもオカ会云々についてはよく知らないの」

にこ「ただ、あれは……」

穂乃果「あれは? なにか知ってるの?」

にこ「うちのクラスに1人、オカ会の子がいるんだけど、最近その子と希が一緒にいるところをよく見るのよね」

にこ「前は話してる姿すら見なかったのに、ここ数日で何度も」

穂乃果「それは……ただ希ちゃんが同好会に入ったから話すようになっただけじゃないの?」

にこ「まあ、そりゃそうよね。でも……」

穂乃果「でも……?」

にこ「あんまりこういう言い方よくないけど、その子の親が結構ヤバめでね」

にこ「なんでも自称本物の霊能力者らしいの。スピリチュアルマスターを名乗ってるとかなんとか」

にこ「それでうちの親が言うには、あれは新興宗教の類なんだって」

にこ「まあ希は根っから占いとかタロットとかスピリチュアルとか好きだから、その子と話が合うっていうのは分かるんだけど」

にこ「……あんたも十分気をつけなさいよ」

穂乃果「うん、分かった……」



 翌日 登校中にて


希「おーい、穂乃果ちゃーん」

穂乃果「あっ、希ちゃん?」

希「ふうーっ、追いついた。久しぶりに走ると結構疲れるんやな」

穂乃果「あ、うん……」

穂乃果「今日はひっそり近づいて背後からわしわしとかやらないんだね」

希「うん? わしわしして欲しかったん? ならもっかいやり直そか」

穂乃果「いやいや別にそういうつもりじゃないよ!」

穂乃果「……でも、なんだか珍しいね、穂乃果と希ちゃんだけで肩を並べて学校に行くって」

希「そうやなあ。いつぶり? ってそんな機会すらなかったかも」

希「まぁ、一緒にあるこか?」

穂乃果「うん……」


穂乃果「希ちゃんは……」

希「うん?」

穂乃果「最近どうかなっ? えーと、絵里ちゃんとは電話とかメールとかしてる?」

希「ああ、時々しとるよ」

希「向こうについて早速稽古とかはじまったみたいやけど……思いの外厳しくて、早くも日本のおうちに帰りたいって愚痴りよるんよ」

穂乃果「ええっ!? あの絵里ちゃんが?」

希「そうや。エリチが日本におったらこんなこと簡単にバラさへんけどね」

希「見た目強がってるように見えて、あれで結構内側は脆いんよ」

希「まあでも、どこかで弱みを見せられているうちはあの子は大丈夫。きっとどんな大きな舞台でもやっていける」

穂乃果「そっか……。やっぱり強いんだね、絵里ちゃんは」

穂乃果「でも……だったら希ちゃんはどうなの?」

希「え? うち?」


穂乃果「うん。希ちゃんの気持ちはどうなの?」

穂乃果「だってずっと生徒会として一緒にいたんでしょ。この音ノ木坂で、3年間もずっと一緒……」

穂乃果「希ちゃんは寂しくないの? ふと絵里ちゃんに会いたくなったりしない?」

希「そりゃあもちろん……。うちかて普通の女の子やからね」

希「できることなら今すぐ、もう一度抱きしめてやりたくもなるんよ」

穂乃果「やっぱり、そうなんだ……」

希「でも、うちにはうちで他にやるべきことができた」

希「カードがうちにそう告げたんよ」

穂乃果「やるべきこと?」

希「そうや。うちのカードは絶対やで。この音ノ木坂に入る入試だって、事前にカードに解答を聞いといたくらいや」

穂乃果「まっさかーそんなことー」

希「……ふふふ」

穂乃果「えっ、冗談だよね?」

希「さあ、どーだか?」


希「……なあ、そういえばやけど、穂乃果ちゃんて占いとかスピリチュアルパワーとか信じる方?」

穂乃果「わたし? う~ん、どうだろう……」

穂乃果「朝の占いとか、ラッキーポイントを実践してみてイイコトがあったら、信じちゃうけど」

穂乃果「ほら、穂乃果って単純だから」

希「ふうん。そうなん……」

希「ならちょっとは向いてるかもしれんね」

穂乃果「……??」

希「なあ、穂乃果ちゃん。もし今日時間空いてたら、うちの行ってる集会に参加せえへん?」

穂乃果「しゅ、集会!? ……って、なにの?」

希「そうやなあ、詳しく説明しても万人に理解できるものでもないし……」

希「まあ簡単に言うと、スピリチュアルパワーを貰って元気になれる集会や。もちろんお金なんか取らへんよ」

穂乃果「スピリチュアル……元気……お金……」

穂乃果「もしかしてにこちゃんが言ってたこと……」ボソッ

希「うん? 今にこっちて聞こえたような気がしたけど」

穂乃果「いっ、いやいやいや! なんでもないよなんでも!」


希「うちの見立てによれば、穂乃果ちゃんなら素質がありそうや」

希「どう? 割りと女の人も多いし、強制されることもない、軽い気持ちで見学すればいいんや」

希「たまにフィールドワークっていって、外に出て体を動かしたりもするんよ」

穂乃果「えっと、あの、その……」

穂乃果「練習! 今日は海未ちゃんとダンスの練習するつもりだったから、ごめんね!」

穂乃果「……っていうか、希ちゃんはたまには練習に参加しようよ。最近いつも2人だけなんだよ」

希「ああ、そうやな。ごめんごめん。その集会とかの時間がよく被るんや」

希「でもライブ前の全体合わせにはちゃんと行けるから。それまでに歌も振りも完璧にしとくし、もちろん衣装も」

穂乃果「……そう。ならいいんだけど」

希「…………」

希「……なあ穂乃果ちゃん」

穂乃果「うん?」

希「うちな、今明るい未来が見えとるんよ」

穂乃果「??」


希「こういうこと言っても、あんまり信用されへんのはよく分かってる。根拠もないしね」

希「でも見えるんや。最近その集会に行くようになってから、前よりずっとカードの声がよく聞こえるようになってる」

希「近い未来ならぼんやり見えるくらいのパワーを感じるんよ」

穂乃果「それってどういう……?」

希「うちのこと信用しきれない気持ちも分かってる。でも、せめてこの言葉だけでも覚えとって」

希「『辛いことが続いても、最後には必ず救いはある』」

希「カードを信じられないなら、うちの、μ'sとして一緒にやってきた東條希の言葉として覚えとって」

穂乃果「うん、分かった」

穂乃果「希ちゃんなりに、穂乃果を励まそうとしてくれたんだよね。ありがとう」

希「どういたしまして」

希「……まあ、それでもええか」ボソッ

穂乃果「??」

希「でな! 早速、みたいな言い方もアレやけど、一応伝えなあかんことがあるんや」

穂乃果「伝えなきゃいけないこと?」

希「うん、あのな……。うち、今度のライブでμ'sをやめようと思う」


穂乃果「希ちゃんも辞めちゃうんだ……」

希「うん。よく考えたら未来が見えるとか凄いチカラやん?」

希「うちはこのチカラで、このチカラを必要としてる人を助けたい」

希「その為に、ある人のところに弟子入りしようと思うんや。そしたらμ'sの活動はほとんどできなくなる」

希「だから、μ'sを辞めたい」

穂乃果「……そっか。希ちゃんも、自分の夢を見つけたんだね」

穂乃果「分かった! 希ちゃんならきっと色んな人を助けられると思うよ」

希「ありがと、穂乃果ちゃん」

希「穂乃果ちゃんにそう言ってもらえることが、お告げなんかよりよっぽど救われるんよ」

穂乃果「えと、それはどういう……」

希「ほら、もう校門やで。あそこで海未ちゃんが待ってる」

希「行かなくていいの?」

穂乃果「……うん。行ってくる」

穂乃果「希ちゃん! 最後のライブ、絶対に成功させようね!」

希「当たり前や。ライブは大成功。そんなんカードに聞かなくてもはじめから分かってることや」



 ライブ当日


穂乃果「みなさんこんにちは! 私たちは音ノ木坂学院アイドルユニット――μ'sです!」

穂乃果「私たちμ'sはこの音ノ木坂を廃校の危機から救うために活動してきました」

穂乃果「そして、とうとうその夢が叶ったんです!」

穂乃果「とりあえず来年までということですが、私たちはまだまだ突っ走ります!」

穂乃果「来年もその次の年も、絶対に廃校なんかにはさせません!」

穂乃果「今は……残念だけど、メンバーの都合で5人体制になってしまいました」

穂乃果「そして、今回のステージを機に、また3人のメンバーがμ'sを卒業します……」

穂乃果「……でも! でもでもでも!」

穂乃果「μ'sは絶対になくなりません!」

穂乃果「それに、来年この音ノ木坂に入るっていう生徒のみなさん! μ'sはあなたを必要としています!」

穂乃果「一緒にこの音ノ木坂を盛り上げてみませんか。一緒にアイドル活動やってみませんか?」

穂乃果「ちょっとでも興味があるなら、最後までこのステージを見ていって下さい」

穂乃果「それでは……歌います! 聞いて下さい!」



 そしてライブ後


穂乃果「やった! やったね! 大成功だよ!」

海未「はいっ、大成功です」

にこ「まっ、このマジモンアイドルにこにーがいるんだもの、とーぜんよねっ」

希「あれあれー? その割にはうちとハイタッチするの1回忘れてたやん?」

にこ「うっ……。その後の振りでなんとか誤魔化せたんだからいいの!」

凛「終わった……これでほんとに終わっちゃったんだにゃあ……」

穂乃果「凛ちゃん……」

穂乃果「凛ちゃんも凄いキマってたよ! あのくるって回るところとか」

凛「えへへ~……そう言われるとなんか照れるにゃあ」

海未「凛……」

海未「あの、いきなりこういう話をするのもなんですが、本当に行ってしまうのですか?」

凛「……うん」

凛「凛は本気だよ。かよちんに会いに行く。向こうで、かよちんと一緒におこめ農家やる」

凛「だから今日は最後のμ'sのライブ……思いっきり弾けられたにゃ」


凛「お父さんもお母さんもやっといいよって言ってくれたし」

凛「明日の飛行機で、凛は日本を発ちます」

穂乃果「そっか……。やっぱり決意は揺るがないんだね」

凛「うん……ごめんね、穂乃果ちゃん。みんな」

凛「μ'sのことが好きな気持ちは、ちゃんとあるんだけど……」

凛「…………」

にこ「ふんっ!」

にこ「なーに今になってウジウジしてるのよ。もう行くって決めたんでしょ。だったらもう迷うことなんてないじゃない」

にこ「ねぇ、穂乃果。海未。私から、もう一つ言わなきゃいけないことができたの。聞いてくれる?」

穂乃果「……もう一つ?」

海未「はい、なんでしょう」

にこ「例の劇場立ち上げの件だけど、海外でやることになったの」

凛「に、にこちゃんも海外!?」


にこ「そう、急な変更でね。もちろん一緒に行ける子も限られちゃうってことになるんだけど」

にこ「でも、これは逆にチャンスになる。表舞台に出れる確立があがるっていうこと」

にこ「にこはこれに全力をかけたいの。だから行く。行ってトップアイドルになるための下積みをする」

希「……せやか」

希「なんや最近うちら疎遠やったけど、不思議なところで繋がりっていうのは残るんやな」

にこ「……希?」

海未「あの、どういうことですか?」

希「前に穂乃果ちゃんには言った件やけど、ああ、まあ海未ちゃんにも伝わってるはずやな」

希「例のスピリチュアルマスターに弟子入りした件やけど、海外展開しよう言い出してな」

希「うちもついていくことに決めたんや。カードもそう言うてるしな」

穂乃果「希ちゃんも……」

希「ごめんな、急で。別にμ's卒業するからちょうどいいって考えではないんよ、ほんとに」

希「どっちにしてもうちの答えは決まってた」

海未「そうなんですか……」


海未「これでいよいよ、私と穂乃果2人だけになっちゃいますね……」

穂乃果「そうだね……」

にこ「……って、あーもー! しょぼくれてんじゃないわよー!」

にこ「穂乃果! 海未! 確かににこたちは遠いところに行くけど、どこに行っても2人を応援し続けてやるんだから」

にこ「いい? 新しい動画を1つでも投稿してごらんなさい。このにこにーがIP変えまくってコメント1000件もつけてやるんだから」

穂乃果「それは……やっていいことなのかな?」

凛「あっ、それなら凛もいい方法知ってるよ」

凛「あのね、F5っていうボタンをずーっと押し続けるの。そしたら凄い人気者になれるって聞いた!」

海未「凛……応援してくれる気持ちはありがたいのですが、それはだけはやめて下さい」

凛「えー、なんで?」

希「あのな、それやると確かに一瞬人気者になれるかもしれんけど」

希「その後凛ちゃんはラブライブのページが見れないようになのかもしれないんよ」

凛「そっ、それは困るにゃ!」


海未「まあ、大丈夫です。私と穂乃果なら、2人でμ'sを続けられます」

海未「そうですね? 穂乃果」

穂乃果「うん……うんっ!」

穂乃果「みんな行っちゃっても、μ'sは絶対になくならないよ」

穂乃果「みんなが、音ノ木坂が育ててくれたμ'sは、絶対になくなりなんてしないから……」

穂乃果「だから安心していいよ。安心して、3人は自分の夢を掴んできて」

にこ「ありがとう、穂乃果」

凛「ありがとうにゃ」

希「よろしく頼むで」

海未「ふふ。私はこう見えてしんがりも得意なんですよ」

海未「……3人とも、お元気で」

穂乃果「元気でね!」

穂乃果「今日はほんっと、最高のライブだったよ!」



 翌日 穂乃果の部屋にて


穂乃果「見て見て海未ちゃん! ことりちゃんからエアメールが届いてたんだよ」

海未「はいはい、そんなに大声出さないで下さい。私にも届いていましたよ」

穂乃果「写真もたくさん……わあ、お洒落な街並み……本当に海外にいるんだなぁ」

海未「そうですね。ことりが思わず飛びつきそうなお店ばかりです」

海未「向こうの友だちもできたみたいで、順風満帆ですね」

穂乃果「ことりちゃん、凄いなあ……」

穂乃果「穂乃果じゃ絶対に追いつけないところに、ことりちゃんは行っちゃうのかな……」

海未「おっほん!」

海未「どこに行ってもことりはことりです」

海未「それに、穂乃果だって成長してるじゃないですか」

穂乃果「私が?」

海未「そうです。曲作りだってちょっとはできるようになったでしょう」

穂乃果「でもほんとにちょっとだけだよー。海未ちゃんには全然敵わないし」


海未「それは、穂乃果に教えるためにまず私から上手くならないといけませんから」

海未「……さて。それでは、宿題にしてた曲をみせて下さい」

穂乃果「もー、海未ちゃん本題に入るの早いよお。もっとお団子食べてればいいのに」

海未「駄目です。早くパソコンを開いて下さい」

穂乃果「はーい」スッ

海未「いいですか、こういうのは日々の積み重ねが……あれ?」

穂乃果「あっ! アイドルランクが更新されてる!」

穂乃果「ひっさびっさだー。いっくつっかなー。あがったっかなー」ポチッ

穂乃果「あ……」

海未「…………」

海未「103位、ですか」


穂乃果「……あはは、とうとう100位切っちゃったね」

海未「……ですね」

穂乃果「まあ、しょうがないよね。どんどん新曲出さなきゃ、下がるのは当然なわけなんだし」

穂乃果「凛ちゃんにこちゃん希ちゃんが抜けるって発表したときのライブの後だって……」

海未「穂乃果……」

海未「すいません。私の曲作りが不得手なせいで」

穂乃果「えっ? そんなそんな、海未ちゃんのせいにしてるんじゃないよ!」

穂乃果「それに……私たちの一番の目標は廃校を阻止することでしょ」

穂乃果「ライブのときにも言ったけど、来年、新しい1年生を交えて新生μ'sとして復活するの」

穂乃果「それまでは辛い時期かもしれないけど……2人で頑張って乗り切ろう!」

海未「穂乃果……」

海未「すいません、励ましてもらって」

穂乃果「私と海未ちゃんの仲だよ。そんな気遣いとか今更って感じだよ」

海未「そう、ですよね……」


海未「そういえば、3人の見送りにはいかないつもりなんですか?」

穂乃果「うん……。そうしようと思う」

穂乃果「凛ちゃん、あの時――ライブの時、ちょっと迷ってたもんね。私たちが行ったらまた気後れしちゃうかも」

穂乃果「それに、私たちがμ'sの活動を頑張ることが、3人の夢を後押しすることに繋がると思うし」

穂乃果「でも……海未ちゃんは、見送りに行きたかった?」

海未「……いいえ。私も穂乃果と同じ気持です」

穂乃果「そっか。えへへ、以心伝心だ」

海未「はい」


穂乃果「夢――おっきな夢、今はやるべきことだらけだけど、その先におっきな夢があるなら」

穂乃果「いつか穂乃果も見てみたいな」

海未「見れますよ。穂乃果ならきっと」

海未「そしてその時、先に夢を見たみんなが穂乃果の背中を押してくれるはずです」

穂乃果「えへへ、そうだと嬉しいなあ」

穂乃果「凛ちゃん。にこちゃん。希ちゃん」

穂乃果「それに、真姫ちゃん。ことりちゃん。花陽ちゃん。絵里ちゃん――」

穂乃果「――みんな、みんな遠いところで頑張ってるんだよね」

穂乃果「穂乃果も頑張るよ! だからみんなも!」


 そして星空凛と矢澤にこと東條希は日本を発った




 それから数カ月後 穂むらにて


雪穂「お姉ちゃん。お風呂空いたよ」

穂乃果「はーい」

穂乃果「ううん……ここをこうして、こう……ふむふむ」ポチポチ

雪穂「……お姉ちゃん、まだお風呂に入らないの?」

穂乃果「うん、ちょっとねえ」

雪穂「さっさと入らないと、またお母さんに怒られるよ」

穂乃果「だいじょーぶだって。お母さんまだ作業場にいるんでしょ」

穂乃果「もうちょっとだけ……」

雪穂「頑張るのもいいけど、ちゃんと息抜きできるときにしないとまたあの時みたいに」

穂乃果「あーもー! 雪穂はそういう喧しいところお母さんにそっくり。しっしー」

雪穂「…………」

雪穂「ねー、おかーさーん! お姉ちゃんがまたー」

高坂母「はーいー?」

穂乃果「あああっ! もう、すぐ入ってくるってば!」


穂乃果「って、着替え忘れたし! とりに戻らないと」




雪穂「ねえ、お母さん。お姉ちゃんがお風呂入ったから聞くけど……」

雪穂「園田さんところの海未さん、最近大丈夫なの?」

高坂母「さあ、どうだろうねえ。他所様のことだからあんまり詳しくないけど」

雪穂「でも奥様ネットワークっていうのがあるんでしょ。どうなの?」

高坂母「そうねえ。海外展開? だったっけ。ご主人が、日本の伝統を世界に広めたいっていうのは前からしいけど」

高坂母「でも海未ちゃんは、それに参加するのもうずっと拒否してるっていうし、そろそろ諦めても……」

高坂母「まあ、本格的なことは卒業してから決めるんじゃないかしら」




穂乃果「勢いで隠れちゃったけど……海外展開? 海未ちゃんが拒否? どういうことだろう」


雪穂「でも海未さん倒れたって聞いたよ」

高坂母「それ本当!?」

雪穂「本当。確かな筋があるの」

高坂母「そうなの……。で、もう穂乃果には言ったの?」

雪穂「いや、まだだけど。なんとなく言いづらかったし」

雪穂「ねぇ、やっぱりお姉ちゃんが無理させてるんじゃないかな?」

高坂母「さあ、穂乃果も最近は特に頑張ってるみたいだけど……」

雪穂「絶対無理させてるって! 海未さん優しいから、お姉ちゃんが困ってるとつい親身になっちゃうんだよ」

雪穂「高校に入るときだってそんな感じだったし……」

高坂母「まあねえ。芸能の家元っていうのは大変よね。家を守るってことは、芸の道を進むってことだから」

高坂母「確かに海未ちゃんから音ノ木に入りたいって聞いた時も、ご両親は相当反対してたみたいだけど」

雪穂「…………」

雪穂「……μ'sも2人になっちゃったし、ランクももう二桁いかないし、活動だってどう贔屓目に見ても地味だもん」

雪穂「これじゃ新入生がきても、μ'sに入りたい子なんてきっと集まらないよ」

高坂母「はいはい。仮にそう思ってたとしても穂乃果には言っちゃ駄目よ」

雪穂「……分かってるし」

高坂母「それじゃお母さん作業場に戻るからね」

雪穂「はーい」


穂乃果「……雪穂?」

雪穂「あれ、お姉ちゃんもうお風呂入ったの? 随分早かったね」

穂乃果「ううん。入ってない。着替え忘れたから……」

雪穂「あ……。って、ことは……?」

穂乃果「ごめん。聞いちゃった」

雪穂「あ、そうなんだ……」

穂乃果「…………」

穂乃果「……ねえ、雪穂」

雪穂「なに、かな」

穂乃果「今言ってたことって、本当?」

雪穂「……そうだけど」


穂乃果「なんで教えてくれなかったの」

雪穂「それは、お姉ちゃんには言わなくていいと思ったし、まわりのみんなだって……」

雪穂「っていうかそういう暗黙の了解だったの! きっとお姉ちゃんが聞いたら傷つくから、あえて耳に入れないように」

穂乃果「海未ちゃんが音ノ木に入るのに反対されたっていうのはどういうこと?」

雪穂「それは……」

穂乃果「雪穂、答えて。私もう知っちゃったよ。こんなモヤモヤした気持ちのままでいろっていうの? そんなのやだよ」

穂乃果「お願い。ユッキー」ガシッ

雪穂「うっ、ううぅ……」

雪穂「……分かったってば」

穂乃果「うん。ありがと」

雪穂「……まあ、手っ取り早くいうとね、海未さんは中学を卒業したらそのまま海外のハイスクールに通うつもりだったってこと」

穂乃果「それって、つまり……」

雪穂「そう。留学」


雪穂「結局海未さんは音ノ木に入ったでしょ」

雪穂「その時、両親と喧嘩したんだって。海未さんは海外に行きたくないって、お父さん――家元は行かせたいって」

雪穂「それでも一度は海未さんも納得したみたいなの。日舞の家元の娘なんだし、家のことなんだから仕方がないって」

雪穂「でもお姉ちゃんが、海未さんと一緒に音ノ木に入るんだって……」

穂乃果「ちょ、ちょっと待って!」

穂乃果「じゃあ、もしかして、海未ちゃんが音ノ木に入ったのって……」

雪穂「そう。お姉ちゃんが理由。自分の役割より友だちを優先したってことでしょ」

穂乃果「そうだったんだ……」

穂乃果「私、そんなの全然知らなかった……」

穂乃果「でもなんで雪穂がそんなこと知ってるの……?」

雪穂「仲のいい友だちに園田道場に通ってる子がいるの」

雪穂「まあ、園田道場に通ってる人たちなら、だいたいそれくらいは耳に挟んでると思うけど」


雪穂「それが1回目」

穂乃果「……1回目?」

雪穂「それで2回目が、お姉ちゃんがアイドル活動をやるって言い出したとき」

雪穂「ちょうどその頃、園田さんのおじいさんが亡くなったんだって」

雪穂「だから家元さんは焦って、まだ2年生になったばかりの海未さんを急いで海外に送り出そうとしたの」

雪穂「でも、今度は……」

穂乃果「私がアイドルをやるって言い出したからだ……」

穂乃果「私がことりちゃんと一緒になって、海未ちゃんに無理にお願いしたから」

穂乃果「そういえば海未ちゃん前に言ってたよ。本当は嫌だったって、何度も恨んだりもしたって……」

雪穂「……まあ、そういうこと」

穂乃果「じゃあ、海未ちゃんが倒れたっていうのは!?」

雪穂「剣道の稽古中、面打ちされてそのまま意識を失ったって」

雪穂「しかも今回だけじゃなくて、そういうの最近何回かあったって……」

雪穂「お姉ちゃん聞こえてる? ねぇお姉ちゃん!?」

穂乃果「あ、う、うん。聞こえてる……」

穂乃果「聞こえてる……」



 翌日 教室にて


海未「おはようございます」

海未「穂乃果? おはようございます」

穂乃果「……おっ、おふぁっ!?」

穂乃果「おはよ、海未ちゃん」

海未「……どうしたのですか? そんなに驚いて、私の顔に何かついてます?」

穂乃果「いや、そういうわけじゃないんだけど――」

海未「はあ。今日はおかしな穂乃果ですね」

海未「ああ、そう。それよりですね、昨日かなりいい歌詞を思いついたんです」

海未「これなんですけど、ちょっと見て」

穂乃果「――あのね海未ちゃん!」

海未「……はい?」

穂乃果「最近、ちょっと思うところがあって、提案なんだけど……」

海未「はあ」

穂乃果「アイドル活動、しばらく休止しない?」


海未「……休止ってどういうことですか?」

穂乃果「そのままの意味だよ。しばらくお休みするってこと」

穂乃果「ほら、今の私たちにとっての本番は新入生が入ってきてからだって話したでしょ」

穂乃果「だから、それまでずーっと走り続けてたら、さすがに後からバテてくるんじゃないかなって」

海未「別に……私は大丈夫ですけど」

海未「あ、もしかして穂乃果の疲れが溜まっているということですか?」

穂乃果「いや、私は全然平気! 私は平気なんだけど……」

海未「やっぱり変な穂乃果ですね……」

穂乃果「それにほら、海未ちゃんまた大会が近づいてきたでしょ」

穂乃果「そっちのほう疎かにして、優勝できないと穂乃果が嫌だもん」

海未「……そうですか」

海未「分かりました。穂乃果なりに気遣ってくれてるのですね」

海未「そういうことなら休止しましょうか。異論はありません」

穂乃果「……うん。そうしよう。それがいいよ」



穂乃果「でも、こんな中途半端な決断でいいのかな……」

穂乃果「穂乃果が海未ちゃんにできる、一番いいことって……」



 さらに数日後 アイドル研究部


穂乃果「海未ちゃん8位入賞おめでとー!」

海未「ありがとうございます、穂乃果」

穂乃果「いやー、私、弓道の試合なんてはじめてみたんだけど、凄い迫力だねっ」

海未「ええ、まあ。今回は特に大事な大会でしたし、選手たちの気合の入れようも……」

海未「……凄かったですし」

穂乃果「う、海未ちゃん!? ゲンキダシテ!」

穂乃果「私、大会の違いとかよく分からないけど、海未ちゃん凄い格好良かったし、入賞も十分凄い成績だと思うよ」

穂乃果「私なんて運動会のかけっこくらいしか賞もらったことないし」

海未「……ふふ。すいません。まだちょっと試合の疲れが残ってるだけですので」

海未「まあ大事な大会といっても次がありますし、それまでに腕をあげればいいだけのことです」

穂乃果「海未ちゃん……」

海未「さあ、そんなことより今日は久々に踊りますよ」

海未「あんまり休むと体が振りを忘れてしまいます」

穂乃果「あっ、あのさ! その前に1つ」



 さらに数日後 アイドル研究部


穂乃果「海未ちゃん8位入賞おめでとー!」

海未「ありがとうございます、穂乃果」

穂乃果「いやー、私、弓道の試合なんてはじめてみたんだけど、凄い迫力だねっ」

海未「ええ、まあ。今回は特に大事な大会でしたし、選手たちの気合の入れようも……」

海未「……凄かったですし」

穂乃果「う、海未ちゃん!? ゲンキダシテ!」

穂乃果「私、大会の違いとかよく分からないけど、海未ちゃん凄い格好良かったし、入賞も十分凄い成績だと思うよ」

穂乃果「私なんて運動会のかけっこくらいしか賞もらったことないし」

海未「……ふふ。すいません。まだちょっと試合の疲れが残ってるだけですので」

海未「まあ大事な大会といっても次がありますし、それまでに腕をあげればいいだけのことです」

穂乃果「海未ちゃん……」

海未「さあ、そんなことより今日は久々に踊りますよ」

海未「あんまり休むと体が振りを忘れてしまいます」

穂乃果「あっ、あのさ! その前に1つ」


海未「はぁ、なんでしょう」

穂乃果「海未ちゃん……新しい歌詞とかかけたかな?」

海未「ああ、そのことですか。期間がありましたからね、たくさんかけましたよ」

穂乃果「そ、そっかあ……」

穂乃果「じゃあ、曲のほうはどう?」

海未「そうですね、やはり曲は詞より作るのに時間がかかってしまうので、2曲ほど」

海未「あ、でも完成度は前より上がっているはずですよ。聞いてみます?」

穂乃果「えと、じゃあ衣装は?」

海未「もちろんできてますよ。手袋にラメを貼ってみたんです。どうです、可愛いでしょう」

穂乃果「海未ちゃん……」

穂乃果「あのさ海未ちゃん。アイドル活動を休止した理由って、覚えてるかな?」

海未「それは、穂乃果の疲れが溜まっていたから」

穂乃果「私は海未ちゃんの大会のためにとも言ったはずだよ」

海未「あっ……」

海未「そういえば……」


穂乃果「海未ちゃん……弓道の練習を疎かにして、詞や曲に衣装作りも頑張ってくれてたんだ」

海未「それは、その……」

海未「でも無理がない程度にです。一つのことに集中するより、こういうのはところどころ息抜きを入れたほうがいいんです」

穂乃果「でも、前の海未ちゃんだったらきっと今回の大会だって優勝できてたよ!」

穂乃果「あ、ごめん……きつい言い方になっちゃった……」

海未「それは、その……」

穂乃果「それに海未ちゃん、最近なんか変だよ」

穂乃果「前からそういう気はあったけど、なんか妙に物分かりがよくなったっていうか」

穂乃果「私は、海未ちゃんのことずっと大好きな友だちだって思ってきたし、これからもその気持ちは変わらないよ」

穂乃果「でも……今の海未ちゃんはおかしいよ」

海未「そんな、穂乃果……」

穂乃果「ごめん。言いたいことたくさんあったはずなのに、こんな風にしか言えなくて」

海未「…………」


穂乃果「とりあえず、お菓子食べよっか」

海未「……はい」


穂乃果「…………」モソモソ

海未「…………」モソモソ


穂乃果「……今日は、練習やめよっか」

海未「……そうですね」

穂乃果「海未ちゃん、しばらくは、ゆっくり休んでね」

海未「はい、そうします……」



 更に数日後 屋上にて


穂乃果「ユッキーに聞いたら昨日も倒れたって言ってた」

穂乃果「きっとまだ私のためにまだ詞とか曲とか衣装とか頑張ってくれてるんだ」

穂乃果「ここままじゃ海未ちゃんがボロボロになっちゃう……」

穂乃果「それに、海未ちゃんには由緒正しい家を継ぐっていう立派な役目があるんだし」

穂乃果「私なんかが、ただ友だちってだけで、海未ちゃんを引きずり回すのは絶対よくないよ」

穂乃果「アイドル活動だって、もう……」

穂乃果「変えなきゃ……例え海未ちゃんに嫌われても、今のままなんて絶対よくないよ」

穂乃果「よし、言おう。海未ちゃんに伝えよう」


 ガチャッ


海未「穂乃果? いますか、穂乃果」

海未「もう、呼び出した本人がいないなんてどういうことですか」


穂乃果「海未ちゃん。ここだよ、ここ」

海未「なんだ、そっちでしたか」

海未「穂乃果が呼び出しなんて珍しいですね」

海未「それで、用ってなんですか?」

穂乃果「うん、あのね……落ち着いて聞いて? 私、色々考えたんだけど」

穂乃果「μ'sを解散しようと思うんだ」

海未「……はい?」

海未「あの、今のは私の聞き違いですよね。解散とかそういう」

穂乃果「ううん。聞き違いでも、冗談でもないよ」

穂乃果「海未ちゃん。μ'sのリーダーとしてもう一度言うよ」

穂乃果「解散しよう」

海未「…………」


海未「どうして――」

穂乃果「それはね」

海未「――どうしてそんなこと言い出すんですか? 穂乃果らしくありませんよ」

海未「だって穂乃果が言い出したことじゃないですか。やるったらやるって。アイドルをやりたいって」

穂乃果「確かに言ったよ。でもそれは、大切なものを犠牲にしてまでやることじゃない」

穂乃果「私、知ってるよ、海未ちゃんが倒れたってこと。しかも何回も。救急車で運ばれたことも1回あるって」

海未「どうして、それを……」

穂乃果「大会の成績が悪かったのもそう。期末テストだって順位が下がってたのも……」

穂乃果「私、海未ちゃんのこと大切な友だちだと思ってる。なによりも、誰よりも」

穂乃果「アイドル活動が海未ちゃんの重圧になってるなら、そんなの今すぐやめるべきだよ」

海未「そんなのって」

穂乃果「そんなのだよ! 私は海未ちゃんがなによりも大事! 大好き! だからお願い……」

穂乃果「μ'sは解散する。私も海未ちゃんも、普通の女の子に戻る。それが一番いいんだよ」

海未「……です」

穂乃果「え? いまなんて」

海未「いやです!」


海未「いやですいやですいやです!」

穂乃果「う、海未ちゃん!?」

海未「そんなの絶対に嫌です! 死んでも嫌です! 穂乃果の役に立てないなんて、わたし……」

海未「わたし……」

穂乃果「…………」

海未「前に言いましたけど、穂乃果にはずっと引っ張りまわされて、迷惑かけられっぱなしだったって、恨んだりもしたって……」

海未「でも、本当は違うんです。楽しかったんです」

海未「心の内では楽しみにしていたんです。次は穂乃果がどんな景色を見せてくれるのか、どんなトキメキをくれるのか、心待ちにして……」

海未「あまのじゃくなんです、私。顔ではつい嫌がってしまうのを、いつも直したいと思ってました」

穂乃果「そうだったんだ……」

穂乃果「だったらさ、次のステージに行くっていうのはどうかな? 2人で一緒に新しい景色を見つけるために」

穂乃果「それぞれ夢に向かっていったみんなと同じだよ。花陽ちゃんと凛ちゃんみたいに、穂乃果と海未ちゃんで新しい夢に」

海未「いやですっ!」

穂乃果「えっ……」


海未「私自身、アイドルをやるのが好きなんです」

海未「穂乃果が見せてくれる景色たちは、どれも素晴らしいものばかりでした」

海未「その中でも今回は、アイドルは、私自身一番好きになれたことなんです」

海未「道場の鏡で柄にもなくポーズを決めたりして……穂乃果が教えてくれたこと以上に、のめり込んでしまいました」

海未「こういう風に言うと怒られるかもしれませんが、アイドルへの気持ちは穂乃果になんか負けないつもりなんです」

穂乃果「海未ちゃん……」

海未「そして穂乃果も、今まで私が見てきたどの穂乃果よりも輝いてみえました」

海未「このためにあったんだなって。今まで穂乃果としてきた色んな経験は、ここに集約されるためにあったんだなって」

海未「そんな馬鹿みたいなこと、本気で考えているんです」

海未「だから……いやです。アイドルをやめるなんて」

海未「倒れたり、救急車で運ばれたことについては認めます。体力的にも限界がきているのも事実です」

海未「でも、いやなんです。ほんとやだ。アイドルを辞めるんて、そんなのやだ……」

穂乃果「それが、海未ちゃんの本当の気持ちなんだ……」

穂乃果「だったら、私たちはどうしたらいいの……?」


海未「それに、詰まるところ家のことなんてどうでもいいんです」

穂乃果「えっ?」

海未「今まで穂乃果にはあまり家のことを知られないように伏せてきました」

海未「それは、両親とうまくいっていないからなんです。世間的には普通の親子、時には師弟として振る舞っていますけれど……」

海未「家族だけになると喧嘩も多くて。最近は稽古中にもギスギスした空気を作ってしまって」

海未「ずっと悩んでいました。でも、もういいんです……」

穂乃果「もういいって、なにが?」

海未「日舞も、弓道も、剣道も、他の武道もなにもかも……」

海未「やめます。家とは縁を切ります」

穂乃果「海未ちゃん、なに言ってるの? 自分がなにを言ってるのか」

海未「分かってます。常識的に考えて、許されることではありません」

海未「でも今のこの気持ちを引きずったままでは、どちらも共倒れになってしまいます」

海未「まあ、言ってしまえばうちには弟が――長男がいますから。私が頑張らなくても別に……」

穂乃果「頑張るとか、頑張らないとか。許すとか、許されないとか。そういうことじゃないよ」

穂乃果「海未ちゃんよく考えて? 家族と縁を切るってことは、他人になるってことなんだよ」

穂乃果「こつこつ築き上げてきた、たった1つしかない大事なものを、蹴り壊すことなんだよ。それがどういうことか」


海未「覚悟はできています」

穂乃果「そんな、嘘だよ……」

海未「いいえ。私は本気です」

穂乃果「駄目だよ」

海未「今の私には家より穂乃果とアイドル活動のほうが大事です」

海未「例え穂乃果が駄目だといっても無駄です。前から絶縁状は自室に閉まってあるんです。あとは判子さえもらえれば」


穂乃果「海未ちゃんのばかあ!!」

海未「穂乃果……?」

穂乃果「海未ちゃん、なんにも分かってない。前が見えてない」

穂乃果「そんなのいつもの海未ちゃんじゃない! 絶対おかしい」

穂乃果「海未ちゃんは誰より優しくて、頭が良くて、キリっとした格好いいところがあって、穂乃果なんかよりずっとずっと……」

穂乃果「そうだよ。家の責任だって、将来のことだって、穂乃果なんかより、海未ちゃんのほうがずっと……」

穂乃果「私なんかが海未ちゃんを束縛するのは、絶対に間違ってる。犠牲になるのは私のほうだよ」

穂乃果「そう。だったら、とるべき選択肢は……」

穂乃果「そうだよ。それが正しい、私なんか……」

海未「あの、穂乃果、後半なにを言ってるのかよく聞こえなかったのですが」


穂乃果「海未ちゃんは……ホントは馬鹿なんじゃないかって言ったんだよ」

海未「……え?」

穂乃果「あのさ、私って目移り激しいし飽き症でしょ。進研ゼミとか習い事とか、はじめはやる気なのにすぐ投げ出すしさ」

穂乃果「今回のアイドルも、ぶっちゃけるとそういうところもあって」

海未「……なにを言っているのですか?」

穂乃果「μ'sを解散したいっていうのも、正直、そろそろ私自身飽きてきたっていうのもあるんだよね」

穂乃果「海未ちゃんが云々っていうのは、単なる口実。だってそのほうが海未ちゃんを気遣ってる感じがして印象いいでしょ?」

海未「そんな嘘」

穂乃果「嘘じゃないよ。だって考えてもみてよ、アイドルランクだってもう150位だよ? 一体誰が注目してるっていうの」

海未「それは……確かにランクは下がりましたが、音ノ木の生徒や、やめていった7人は今でも」

穂乃果「あー、あれね。なんか最後に投稿した動画だけ妙に再生回数伸びてるよね、コメントも」

穂乃果「でもカラクリ知ってるほうからすれば、なんか寒いっていうか痛々しいっていうか。所詮、いわゆる身内票なんだよね」

海未「あなたは……みんなの応援が無駄だっていいたいのですか」

穂乃果「実際そうでしょ? 曲も振りも衣装も素人レベルに逆戻り。これで人気あるほうが逆におかしいんだよ」

穂乃果「来年新入生が入ってくれたらっていうけど、実際望みなんてゼロ。無理に気合い入れるほうが疲れるって」

穂乃果「あーあ。人気があった頃のμ'sは楽しかったなぁ」


穂乃果「それにさ……所詮来年からも廃校の危機っていっても、私たちが卒業するまでは生徒はいるってことじゃん」

穂乃果「なら別にいいよ。私たちが寂しい思いをするってことにはならないいんだし」

穂乃果「よかったー! 穂乃果寂しがり屋さんだから、下級生が入ってこないってのだけは嫌だったんだ~」

穂乃果「……それに、海未ちゃんてなんかウザい」

海未「……ッ!」

穂乃果「友だちのためとかいって、縁を切るなんてどんなジョークなのかと思ったよ」

穂乃果「ほんとほんと、笑い堪えるのに必死だったんだってば」

海未「あなたは……」

穂乃果「ねぇ、いつも堅物のふりして、勝手に上から目線でお節介焼いてきて。何様なのーって感じ」

穂乃果「海外に行っちゃったのも、ことりちゃんじゃなくて海未ちゃんだったら良かったのになあ」

穂乃果「しょーじき言っちゃうけど、私、海未ちゃんなんて大嫌いだったんだよ?」

穂乃果「でもまあ友だちがいないよりいいかなーってしょうがないから付き合ってたんだけどー」

海未「あっ……あっ……」

穂乃果「あ? なになに、声が小さくて聞こえな」

海未「あなたは最低です!」


 バシンッ!



海未「最低ッ! ほんッと、最低」

穂乃果「……最低だよ」

海未「じゃあ、私の頑張りっていったいなんだったんですか……」

海未「穂乃果に私の心は届いていなかったのですか。あんなに一緒にいたのに……」

海未「あんなに笑いあったのに。辛いことや苦しいことも一緒に乗り越えてきたのに……」

穂乃果「……そういうのがウザいんだってば」

海未「…………」

海未「分かりました。ええ、もう分かりました。穂乃果なんてもう知りません」

海未「二度と見たくありません。二度と話したくありません。二度と一緒にアイドルなんてやりたくありません!」

穂乃果「…………」

海未「親友はこれっきりです。穂乃果みたいな底の浅い人とのお付き合いなんて、こっちからお断りです」

海未「絶交です!」

穂乃果「別に。好きにすれば?」

海未「言われなくても!」


海未「それに、穂乃果みたいな唐変木はぜんっぜん気づいていなかったでしょうけど」

海未「本当は私、中学を卒業したら音ノ木に入るつもりなんてなかったんです。海外に行くつもりだったんです」

海未「なのにあなたは自分勝手に私まで引き込んで……アイドルをやりたいなんて言い出したときもそうです」

海未「本来なら今頃、向こうの高校に通いながら、兄弟子の人たちと一緒に日本の伝統芸能を広める活動をしていたはずです」

海未「穂乃果みたいな、ただお饅頭屋を継ぐだけの将来とは違うんです」

穂乃果「……それ、馬鹿にしてるの?」

海未「ふん。実際そうじゃないですか。勉強も運動も大してできない。男の人にはモテないし、特別ななにかがあるわけでもない」

海未「でも私はあなたとは違いますから。脈々と続く名家を守る義務がありますし、そのための教養だって備えているつもりです」

海未「そもそも私とあなたみたいな人がお付き合いすること自体おかしかったんです」

海未「その本性が割れた以上、二度と関わらないことにさせていただきます」

穂乃果「ああそう! 勝手にしなよ」


穂乃果「μ'sは解散だよ」

海未「もちろんです」

穂乃果「アイドル登録も削除するよ」

海未「どうぞご自由に」

穂乃果「今までの動画だって全部消しちゃうよ」

海未「そのほうが好都合です」

穂乃果「アイドル研究会は廃部だよ」

海未「はいはい。今はあなたが部長なんですから、責任とって早めにお願いします」

穂乃果「じゃあ……」

海未「はい」

穂乃果「さよなら」

海未「さようなら。じゃあね、なんて言葉はありません」

穂乃果「そうだね。さよなら」

海未「……さようなら。早いうちに海外にいこうと思いますが、あなたにはもうなんの関係もないことですね」

穂乃果「そうだね」

穂乃果「さよなら。海未ちゃん」



穂乃果「ごめんね。さよなら……」



 その日の夜 穂むら


穂乃果「ただいま」

雪穂「お姉ちゃん!? もうっ、連絡もよこさずこんな時間までどこにいってたの?」

雪穂「お父さんもお母さんも心配してたんだからね。早く入って」

穂乃果「うん、ごめんね。ちょっと散歩してただけだから」

雪穂「散歩って……なんで?」

穂乃果「ちょっと、家に帰りたくなくなっちゃって」

穂乃果「ここは私のうちだけど、海未ちゃんの匂いや思い出もある場所だからかな。あはは」

雪穂「海未さん……思い出……」

雪穂「お、お姉ちゃんまさか!?」

穂乃果「うん。海未ちゃんとお別れしてきた」

雪穂「お別れって……なんで」

穂乃果「海未ちゃんて凄いよね。綺麗だし、格好いいし、頭もいいし、責任感あるし。穂乃果なんかとは大違い」

穂乃果「私、海未ちゃんのこと大好きだから。結果的に海未ちゃんが幸せになるなら、私が不幸になったっていいから」

雪穂「そんな……」


雪穂「でも、だって前に言ってたじゃん」

雪穂「海未ちゃんの幸せが穂乃果の幸せなんだって。海未ちゃんが辛いなら、穂乃果も辛いって」

雪穂「今のお姉ちゃんはまったくのあべこべだよ……」

穂乃果「状況が変わったの。仕方ないよ。こうするしかなかったんだもん」

穂乃果「私だって……私だって本当は海未ちゃんと一緒に幸せになりたかった」

穂乃果「でも、駄目だった。私不器用だから、海未ちゃんを守るために、海未ちゃんを傷つけて……」

穂乃果「あんな風に言うべきじゃなかったのに、嘘ついて、自分自身を傷つけて……」

穂乃果「私、馬鹿、ほんと馬鹿。なんであんなこと……」

雪穂「お姉ちゃん……」

雪穂「私こそごめん」ギュッ

穂乃果「わっ!? ……ゆきほ?」


雪穂「私が秘密を漏らしちゃったから、お姉ちゃんはそこまで思いつめちゃったんだよね」

雪穂「あの時私が口を滑らせてなかったら、。なに言われても知らん顔通してたら、こんな結果にはならなかったんだよね」

雪穂「本当にごめんなさい……」

穂乃果「雪穂のせいじゃないよ」

穂乃果「雪穂からじゃなくても、いつかどこかから耳に入ってたと思うし」

穂乃果「そしたら私は今日とまったく同じことをしてた。きっとそうだよ」

雪穂「うぐっ……、ごめんなさい。本当に、ごめんなさい……」

穂乃果「泣かないで雪穂。海未ちゃんだけじゃなくて、雪穂にまで泣かれたらお姉ちゃんも泣いちゃうよ?」

雪穂「……泣いたほうがいいよ」

穂乃果「え?」

雪穂「こういう時は思いっきり泣いたほうがいいんだよ」

雪穂「お姉ちゃん、もともと泣き虫のくせに、凄い辛い思いをしたときだけは絶対に泣かないんだ」

雪穂「だから泣いたほうがいいんだよ?」


穂乃果「ありがと、ゆきほ……」ギュッ

穂乃果「あのね、私海未ちゃんと離れたくなんかなかった」

雪穂「うん」

穂乃果「ずっと一緒にいたかった。卒業しても、大人になっても……おばあちゃんになっても。ずっと一緒」

雪穂「うん、うん」

穂乃果「しょうがないですねって、困った顔しながら、でもどこか嬉しそうな海未ちゃんのはにかみ……今だって鮮明に目に浮かぶよ」

穂乃果「でも、いつか忘れちゃう日がくるのかな。ボロボロなモノクロ写真みたいに、大好きだった海未ちゃんの笑顔が」

雪穂「しょうがないよ。きっと、それが大人になるってことなんだよ」

穂乃果「そうなのかな」

雪穂「そうだよ。私たちまだ子どもだけど。きっとそういうものなんだよ」

穂乃果「そうなのかな……」

穂乃果「海未ちゃん……」

穂乃果「本当に、こんな結末でよかったのかな?」


 そして園田海未は日本を発った。




 それから数カ月後


穂乃果「もう終業式かあ」

穂乃果「季節が経つのは早いなあ。まあ、部活とかなにもやってないから早く感じるのかな」

ヒデコ「やっほー、穂乃果。最近しけたツラ多いよー」

穂乃果「あ、ヒデコちゃん。……私、そんなに暗い顔してたかな?」

フミコ「まあ最近ちょっとね。それより、来年μ'sで新入生募集しないって本当?」

穂乃果「うん。っていうか、海未ちゃんがいなくなった時点でμ'sは解散しちゃってるし」

ミカ「そっかあ。まあ穂乃果のことだし、また気が変わったらいつでも声かけてよね。手伝えることはするから」

穂乃果「3人とも……ありがとう。そう言ってくれるだけでも元気がでるよ」

穂乃果「じゃあまた後で、体育館でね」

ヒ・フ・ミ「じゃあねー」



穂乃果「でも、頼むことなんて、もうないと思うけど……」


穂乃果「1人ぼっちの数ヶ月、ほんとうにつまらなかった」

穂乃果「毎日教室で顔を合わせてた海未ちゃんが、ことりちゃんがいない」

穂乃果「1年生の教室に行っても、真姫ちゃんも凛ちゃんも花陽ちゃんもいない」

穂乃果「生徒会室にも、アイドル研究部にも、絵里ちゃん希ちゃんにこちゃんの姿がない」

穂乃果「私の大好きな人たちは、どうやっても手の届かない遠いところに行っちゃった」

穂乃果「高校生活も残りあと1年……こんな状態でまた1年間過ごさなきゃならないなんて、辛すぎるよ」

穂乃果「私、音ノ木大好きだったのになあ。どうしてだろう。今は胸を張って大好きなんて言えないよ……」

穂乃果「穂乃果の居場所はここにはないのかな」

穂乃果「もういっそ、私もどこか遠いところに」

穂乃果「穂むらだって、しっかり者の雪穂がいるんだし。別に、私なんかがいなくても」

穂乃果「私なんか、いなくても……」

穂乃果「…………」



 その日の夜 穂むら


雪穂「おねーちゃーん!」

雪穂「お姉ちゃんにエアメール届いてるよー。いないのー?」

高坂母「雪穂? そんなに大声出してどうしたの」

雪穂「なんかね、さっきから呼んでるんだけど、お姉ちゃんが返事してくれないの」

雪穂「もう家には帰ってきてるはずでしょ?」

高坂母「そうねえ。終業式が終わって、午前中には帰ってきてたはずだけど」

高坂母「こっそり抜けだしたんじゃなければ、自分の部屋にいるんじゃない?」

雪穂「まったく……ふて寝してるのかな。今日は珍しい人からメールが届いたっていうのに」

高坂母「珍しい人?」

雪穂「うん、西木野真姫さん。ほら、あの大病院のお嬢様で、前に一緒にμ'sやってた」

高坂母「あら、珍しいこともあるものね。どんなメールかしら?」

雪穂「さあ? 勝手に見る気はないけど。でも、お姉ちゃんがいつまでも降りてこないんだったら」


 チリチリチリーン


高坂母「あら電話。お母さんちょっと忙しいから雪穂が出て」

雪穂「はあい」


雪穂「毎度ありがとうございます、お饅頭の穂むらですけれども」

雪穂「はい……はい……えっ! あっ、あの、お久しぶりです!」

雪穂「はぁ……いえいえっ! そんな滅相もないです」

雪穂「えっ、お姉ちゃん……ですか? たぶん部屋いると思いますけど……」

雪穂「ちょっと待っててください。今代わりますから」

雪穂「ふぅ……」

雪穂「お姉ちゃんでんわー! うっ……海未さんからあ!」ドタドタ

雪穂「もー、返事くらいしてよ。部屋空けちゃうからね」キイィ

雪穂「…………」

雪穂「お姉ちゃん……いない? なんで窓があいてるの……」

雪穂「なんだろうこれ、封筒? 手紙?」

雪穂「……『探さないで下さい』」

雪穂「……え!?」


『 探さないで下さい

  穂乃果は旅に出ることにしました

  目的地はありませんが ぶらぶら巡ろうと思います

  色々なこと 中途半端で投げ出してしまって 本当にごめんなさい

  お父さん お母さん 今まで育ててくれて ありがとうございました

  穂乃果は親不孝者です

  でも私がいなくても 雪穂がいれば 穂むらはきっと大丈夫です

  穂乃果のことは いっそ死んじゃったんだと思って下さい

  お父さん お母さん おばあちゃん 雪穂

  ごめんなさい いつまでもお元気で

                                    高坂穂乃果 』



 それから時が過ぎ


穂乃果「ハロー! プリーズ、エクスキューズミー」

外人「Hi! What's wrong?」

穂乃果「ワッツネイム、イズディスプレイス?」

外人「Name place...? Um...this is america! USA!」

穂乃果「オー、アイスィー」

外人「HAHAHA! ...Bye!」

穂乃果「オーノー! ストッププリーズ!」


穂乃果「……う~ん。最近いい人に当たる確立下がってないかなあ」

穂乃果「まあいっか。こんなのいつものことなんだし」

穂乃果「でも、この辺の景色ってどこかで見たことあるような気がするんだよねえ」

穂乃果「まっ、とりあえずは寝れるところだけでも確保しなくっちゃね」

穂乃果「お金はお金はと……うぇ、ほとんどない。またホテルは無理そうかなあ」


「――ちゃん?」


穂乃果「……あれ? 今すごく懐かしい声がしたような」


ことり「穂乃果ちゃんっ!?」

穂乃果「……えっ? ことりちゃん!?」

穂乃果「私、夢でも見てるのかな……」

ことり「ホノカチャンホノカチャンホノカチャンッ!」ダキッ

穂乃果「わわわ! 本物のことりちゃんだ」

ことり「穂乃果ちゃんのばかっ! ばかばかばか! みんな心配してたんだからね」

穂乃果「ことりちゃん……」

穂乃果「どうしてこんなところに?」

ことり「こんなところって? だって、ここは私の留学先なんだよ」

穂乃果「ええええええーッ!?」


ことり「私だけじゃないよ。みんないるもの」

穂乃果「……みんな?」

絵里「ちょっとことり、いきなり駈け出してどうしたの?」

真姫「そうよ。ことりは一番にきたくせに未だに迷子になりやすいんだから」

穂乃果「絵里ちゃんに、真姫ちゃんまで」

絵里「穂乃果っ!?」

真姫「ヴェエエェ!! 本物なの!?」

花陽「えっ、穂乃果ちゃん!?」

凛「かよちんどうしたにゃー?」

にこ「なっ、なんで穂乃果がこんなところにいるのよ!?」

希「ようやくのご対面やな」

穂乃果「花陽ちゃん、凛ちゃん。それににこちゃん、希ちゃんまで」

海未「…………」

海未「穂乃果」

穂乃果「海未ちゃん……」


海未「穂乃果、お久しぶりです」

穂乃果「海未ちゃん、久し振りだね」

海未「まずは……元気そうでなによりです。怪我や病気などしてませんか?」

穂乃果「うん、私って元気なだけが取り柄だしね。なんとかやってたよ」

海未「そんなリュック1つで、なんとかですか……」

穂乃果「うん……。できるだけ身軽な方が、なんか落ち着くから」

海未「そうですか……」

海未「そんなリュック1つで、世界中を放浪していたんですね」

穂乃果「うん。色んな国に行ったよ。生きるだけで精一杯なときもあったけどね」

海未「まったく……。どこまでもあなたは最低ですよ」

穂乃果「あはは。これで最低って言われたの、3回目だね」


海未「当たり前じゃないですか。遺書みたいな書き置きだけ残して、家出なんて」

穂乃果「うん……。あれ? 海未ちゃんそのこと知ってたんだ」

海未「当然です。雪穂ちゃんがそれを見つけたとき、ちょうど私と国際電話していたんですから」

穂乃果「そうだったんだ。全然知らなかった」

海未「それなら、真姫からのエアメールも見ていないということですね」

穂乃果「真姫ちゃんから? エアメール?」

真姫「そうよ。せっかく出してあげたのに、ニアミスで読まれないなんて」

穂乃果「ごめんね。タイミングが悪かったみたい」

穂乃果「……で、そのエアメールって大事な要件だったの?」

真姫「大事に決まってるじゃない!」

真姫「迷ってないでもう少し早く送ってたらって、何度も自分を責めたくらいよ」

真姫「ふんっ」

穂乃果「あー……なんかごめんね」

穂乃果「で、どんなことが書いてあったの?」


希「端的に言えば、今の8人の状況やな」

穂乃果「今の8人……? そうだよ、なんでみんなここにいるの?」

絵里「奇跡みたいな偶然、っていえばいいのかしら。たまたまね、みんなの留学先が同じ国の同じ街だったのよ」

穂乃果「ええええええっ!?」

絵里「花陽と同じ飛行機に乗った時点で、なんとなく予感はしてたんだけどね」

花陽「うん。後で凛ちゃんから聞いたんだけど、凛ちゃんとにこちゃんと希ちゃんも同じ飛行機だったって」

凛「まったく驚きだにゃー」

にこ「むしろここまでくると運命の糸を疑うくらいね」

希「うちはなんとなく分かってたけどな~」

にこ「前にも言ったけど、分かってたならはじめから教えときなさいよ!」

希「仕方ないやん。その時はまだ曖昧な未来しか見えなかったんやし」

穂乃果「じゃあ、ことりちゃんも真姫ちゃんも海未ちゃんも」

ことり「そうだよ。この街並み、前に送った写真とそっくりでしょ?」

穂乃果「ああ! そういえば!」


穂乃果「でも、この中で真姫ちゃんが代表してメールくれたなんて、ちょっと意外かも」

真姫「意外ってどういうことよ!」

にこ「ふふーん。真姫ちゃんは罪悪感感じちゃってたんだよねー?」

真姫「ちょっ、にこちゃん!?」

にこ「再会したときの真姫ちゃんったら、そりゃあもう酷いものでねー」

にこ「抱きついて離れないし、人目も憚らずにわんわん泣いてたし」

真姫「うぅ……ちょっとおおぉ////」カアァ

ことり「真希ちゃんは、自分からあんな風に別れちゃったから、その後みんなの関係が悪くなったんじゃないかって、ずっと自分を責めてたの」

ことり「だから私を見つけたときも、絵里ちゃん花陽ちゃんがここにきたときも、率先してみんなを探してくれたの」

凛「ねー。罪滅ぼしのつもりだったのかにゃー?」

真姫「もうみんなうるさいっ! 好き放題言わないでッ」

絵里「でも真姫のおかげで、離れ離れになったみんながまた集まることができたのよ」

穂乃果「そうだったんだ」


穂乃果「ねぇ、海未ちゃん」

海未「はい」

穂乃果「私も、1人で旅をしながらずっと自分を責め続けてたんだ」

穂乃果「海未ちゃんを屋上に呼び出したとき、つい酷いこと言って海未ちゃんを突き放しちゃったこと……」

穂乃果「あのときは、それが海未ちゃんのためになるんだって自分に聞かせて、あんな心にもないこと言って……」

穂乃果「でも、後から思ったの。他にやり方はいくらでもあったんだって。あんな方法とるべきじゃなかったんだって」

穂乃果「だから、今言いたい……」

穂乃果「海未ちゃん、ごめんなさい! 許してとか仲直りしようとか、そんなの都合がいいって分かってるけど」

穂乃果「でも、できたら、また友だちに戻りたい……」

海未「……穂乃果」

海未「まったくもう、あなたは本当に世話の焼ける人ですね」

海未「あんなの口からでまかせだって、とっくに気づいてましたよ」

穂乃果「……えっ?」


海未「まあ、あの日は本気で穂乃果のこと大嫌いでしたけどね」

海未「でも穂乃果と過ごした日々を振り返っていたら、あなたがそんなこと言う人じゃないって気づきましたから」

海未「それに、電話で雪穂ちゃんから色々聞けましたからね。穂乃果があれほど追い詰められたのも無理はありません」

穂乃果「じゃあ……許してくれるの?」

海未「許す? まさか」

海未「私は、そんなところも含めて、今でも穂乃果のこと大好きな友だちだと思っていますよ」

穂乃果「海未ちゃん……」

穂乃果「海未ちゃあああああああん!」ダキッ

海未「もう。人前ではしたないですよ」

穂乃果「ごめんね海未ちゃん! もう、もう絶対に離さないから!」

海未「はいはい」

希「まるで真姫ちゃんとにこっちの再現やな」

真姫「いちいち横槍入れて茶化さないでっ!」


海未「ねぇ、穂乃果」

穂乃果「うん?」

海未「今私たちはこの場所で、新しい夢に向かって頑張っています」

海未「穂乃果はどうですか? 世界中を旅してきて、新しい夢は見つかりましたか?」

穂乃果「私の、新しい夢……」

ことり「ホノカチャン」

絵里「穂乃果」

希「穂乃果ちゃん」

にこ「ほーのかっ」

花陽「穂乃果ちゃん」

凛「穂乃果ちゃー」

真姫「穂乃果っ」

海未「……どうですか?」

穂乃果「私の新しい夢、あるよ。見つけてきたんだ」


穂乃果「あのね、世界中にはすっごい可愛い子がたーくさんいるんだよ」

穂乃果「みんなに負けないくらいのっ」

にこ「ふーん。言ってくれるじゃない」

穂乃果「それでいて、みんな輝きたいって思ってる。キラキラとトキメキの原石なんだよ」

絵里「まるで穂乃果みたいな子ね」

穂乃果「私、そういう子たちを応援したい。輝くお手伝いがしたい!」

真姫「で、具体的にはどうするの?」

穂乃果「う~ん……その辺は今考えてるんだけど」

凛「穂乃果ちゃんはいつまでも変わらないにゃ~」

花陽「凛ちゃんあんまりそういうこと言っちゃだめだよ~」

穂乃果「えっと……アレだよ! アレ! ほら、なんていうんだって」

穂乃果「アイドルを育てる人! なんか喉元まで出かかってるんだけど、思い出せなくて」

海未「……もしかして、プロデューサー、ですか?」

穂乃果「そう、それ!」


海未「さて、穂乃果がノープランなら仕方ありませんね」

穂乃果「うん?」

海未「穂乃果も新しい夢を見つけたんです。そうなれば、全力でサポートさせてもらわないと」

絵里「そうね。私もはじめは1人でなにも知らない劇団に入って、凄い寂しい思いもしたけれど」

絵里「だけど真姫に見つけてもらって、みんなと再会して、それぞれの夢を語り合って」

絵里「みんなで協力しあって、別々だけど、今も1つの夢に向かっていくの。まるでμ'sだった時みたいに」

穂乃果「絵里ちゃん……」

にこ「とくればこのにこにーは、その穂乃果がいうときびり可愛い子っていうのを見定めさせてもらわないとね」

ことり「あっ、私はもちろん衣装作るよ~」

花陽「きっと下積み時代は苦労が絶えないと思います。でもせめて食事だけはたくさん提供できると思います!」

凛「っていってもおこめだけだけどね~」

海未「私と絵里はもちろんダンスの指導をさせていただきます」

真姫「もしその激しい指導で疲れたら私のところにこさせなさい。速攻で治してあげるわ」

希「うちはどうしようかな~。スピリチュアルパワーで、あんまり手助けしすぎるのもよくないしなぁ」

にこ「なによケチ臭いわね。こういう時こそ一番希の出番でしょう」

穂乃果「みんな……」

>>159>>160の間に


真姫「プロデューサーとは、また大きく出たわね」

ことり「でも穂乃果ちゃん。アイドルのプロデューサーってどんなことするか知ってるの?」

穂乃果「う~ん……例えば曲を作ってあげたり、衣装を作ってあげたり。あっ、ライブではお客さんに混じって大歓声あげたり?」

海未「それじゃ日本にいるときにしていたこととあまり変わりませんね」

穂乃果「そうかな? でもそれが一番いいと思うな」

穂乃果「曲作りのノウハウは海未ちゃんに教わったし。ノートパソコンだって世界中持ち歩いてたし。ふんす」サッ

絵里「って穂乃果!? そのパソコン基板が見えてるじゃない!」

穂乃果「そうだね。でも何回か叩けば使えるようになるよ」

希「……穂乃果ちゃん、強くなったんやなあ」

穂乃果「服もすぐぼろぼろになっちゃうから、お裁縫だって上手くなったんだよ?」

穂乃果「あ、あと英語もかなり喋れるようになった!」

ことり「さっき穂乃果ちゃんの英語聞いてたんだけど……かなりではないかも……」

穂乃果「えっ!? もー、ことりちゃんひどいよー」

穂乃果「ん~、他にプロデューサーがすることってなにがあるかなぁ」


穂乃果「みんなありがとう。旅をしてるときは、ぼんやり考えてきたことだったんだけど」

穂乃果「みんなのおかげで絶対にできることなんだって思えてきたよ」

海未「その意気です、穂乃果」

ことり「そうだよ。穂乃果ちゃんならきっとうまくできるよ」

穂乃果「うんっ!」


穂乃果「昔の私……μ'sとしてアイドルやってた頃の私……きっと、こんな風になるなんて思ってなかっただろうけど」

穂乃果「けど、今の穂乃果は前にも増してやる気に満ち溢れてるよ。キラキラだってぜんぜん負けてないと思う」


穂乃果「待っててね、新しいアイドルたち……。私たちがきっと、君たちを新しい舞台に連れていけるはずだから」

穂乃果「辛いこと、苦しいことがあっても、一緒に乗り越えていこう」

穂乃果「私がこれから掴もうとしている、新しい夢に……君も一緒に行こう!」

穂乃果「待っててね!!!」




おしまい


Goodendでよかった
でも心の何処かでBadendを期待してる俺が居る

うーん、敢えて穂乃果は他の8人とは会わせない方が良かったような気がする。

穂乃果「私もみんなの夢、全力で応援するね!」っていう台詞が抜けた

最後ミス多いですが、ここまで見てもらえたなら幸いです。ありがとうございました

名残惜しいのでHTML化は明日依頼しようと思います。ではでは

途中どうなることやらと思ったが落ち着いてで良かった

1乙
面白かったよー

すっきりしないお話でしたね。
ところでほのかちゃんがどこ処女を売ったかは話さないんですか?

おつ
すげー良かった

読んでてリトバスを初プレイした時みたいな切ないような救われたような感覚になったわ
集めたメンバーがどんどん消えて、最後は一番の理解者だけが残って、その人もついに消える
でも、色んな経験を経て誰1人として欠かさず再開


楽しいとはまた別の心に残るSSだったわ
ありがとう&おつ

よかったんだけど一つだけ釈然としないのは真姫ちゃんたちは8人の近況を穂乃果に報告してどうしたかったんだろう
まさかみんないるから穂乃果もおいでなんて言わないだろうし穂乃果以外のみんなは相変わらず仲がいいって嫌みもないだろうし
仲間が1人もいない状態じゃ追い討ちかけるだけな気がする

いや、まさにほのかもおいでよってあれだったんじゃねーの

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年09月09日 (火) 01:48:56   ID: ze1JCzEm

ゴミss

2 :  SS好きの774さん   2014年09月11日 (木) 18:34:37   ID: hHv1R9tU

僕は嫌いじゃない

3 :  SS好きの774さん   2014年10月14日 (火) 00:35:04   ID: i2GmEYfk

少し読みにくかったけど、感動しました
気に入ったから、頑張ってほしい

4 :  SS好きの774さん   2014年11月03日 (月) 03:04:12   ID: AEbyEco3

うーん…

5 :  SS好きの774さん   2014年12月05日 (金) 21:17:29   ID: s4LM5sBl

ゴミとか言うならコメントすんな。

6 :  SS好きの774さん   2014年12月18日 (木) 01:17:00   ID: QaeUB7wS

出た〜〜〜wwwwwww書けもしないくせにゴミとかいってdisる奴〜〜〜wwwwwwww

7 :  SS好きの774さん   2015年01月06日 (火) 08:10:26   ID: h0dKgMxr

1番さーん
ゴミとか言う前にあなたが書いた「神」ssのタイトルを貼ってくださーいw

8 :  SS好きの774さん   2015年12月23日 (水) 17:11:17   ID: t1n3q1fh

どうも、一番のものです

9 :  SS好きの774さん   2016年08月04日 (木) 17:26:01   ID: zspkXOwM

みんな留学するっていったときあれこれ行き先おんなじパターンかなっておもったらやっぱりそうだったから最後まで分からないようにしてほしい

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