アルミン「僕もだよ、エレン」(34)

土砂降りの雨がおとなしくなって、窓の外にはまばらになった雨粒と一緒に光もふってきた。
時々、パタパタッと駆け足のような音をたてて、屋根から水滴が落ちてくる。

少し肌寒くて、マフラーを口元にあてた。



―――――――――――――


*迷ったのですが、ゆくる書きたいと思ったので、
 ここに投下させて頂く事にしました
*13歳くらいのつもりです

大雨のおかげで、午前中の立体起動の訓練は座学に変更になった。
その座学の授業も、なにかのただならぬ用件で教官たちが収集され、
もうすぐお昼というところで自習になった。
部屋に戻ってディベートする者、図書室で調べものをする者、みんな各々熱心に取り組んでいた。

アルミンは人がいなくなった講義室の一番後ろの窓際の席で、
ひとりで自習に取り組んでいた。



「えーっと…僕の腕力と、巨人の皮膚の平均硬度なら…
 立体起動装置で飛ぶ場合は…」

ぶつぶつとひとりごとを言いながら、熱心に取り組んでいたせいか、
講義室の前のドアが開いたことに気づかなかったらしい。

「アルミン」

もちろんドアから人が入ってきたことにも気づいてはおらず、
思考を遮断されるように自分の名前を呼ばれたアルミンは、
驚きのあまり肩を揺らした。


「なんだ…エレン、どうしたの?」

ふぅっと、肩の力を抜いてアルミンは、不思議そうな顔をしてからにこっと笑った。

「もともとアルミンと一緒に自習しようと思ってたのに、部屋に戻ったらいないからさ」
「僕はずっと講義室にいたよ?」
「いや、座学が途中で終わったことにテンションが上がって、
 講義室をでるときにお前がまだ椅子に座っていることに気がつかなかったらしい」
「なにそれ…そんなことあるの」

アルミンは笑って、長机に散らばる数冊の分厚い参考書を重ねる。


「あ、わざわざ片付けんなよ。オレ、お前の前の席に座るから」
「そう?ごめん」

エレンはアルミンの前の席に腰掛けて、一冊の教科書とノートを無造作に置いた。

「なあ、アルミン」
「ん?」
「なに勉強してたんだ?」
「えー…っと、ひみつ…」
「ひみつ?」
「あー…っと、位置エネルギーかな…」
「そんなん今の範囲にあったっけ?」
「あはは…」


どうでもよさそうに「ふーん」と相槌を打つエレンを見て、
エレンは自習をする気がなさそうだ、とアルミンは“位置エネルギー”の計算をしたページを
音をたてないようにそっとめくった。


エレンはアルミンの前の席に座ったものの、体を後ろにむけてアルミンの机頬杖をつく。

「大雨だからって、立体起動の訓練を中止するっておかしくないか?」

エレンはすねるような口元で、窓の外を眺めていた。


「うーん…僕たちは最近になって、
 立体起動の基礎訓練から実践訓練になったから、
 大雨での中の訓練はまだ危険だと、判断されたんじゃないのかな」

「大雨の日に巨人が襲ってくるってこともあるだろ」

「まあね。でも、その日のために段階的に訓練をしないと…」

エレンの視線は一向に窓の外に向けられている。


アルミンも顔を上げて、窓の外に目を向けた。
薄暗い講義室で、先ほどまでノートの一点を見ていたアルミンには
思ったよりも窓の外は明るくて、アルミンは目を細めた。

灰色の雲の合間から白い光がさしていて、葉や木々に残る水滴が、
キラキラ、キラキラと輝いている。
誰もいない正午の屋外は、とても静かで、人を安心させるおだやかさがあった。




「エレンはさ、立体起動の実践訓練が始まってから、
 前以上に意欲的に訓練に取り組むようになったよね」
「そりゃ、ちんたらやってるよりは楽しいしな」
「楽しいって思えるのがうらやましいよ…」

アルミンは新しいページになったノートに、手持ち無沙汰のようにペンを当てた。

「アルミンだって、がんばってるじゃないか」
「そうかなあ…」
「なんだかんだ言って、脱落せずに今日までここにいるし」
「毎回スレスレのボーダーラインなんだけどね」

はあと大きくため息をついて、アルミンはペンを持つ手を動かした。



「それ、立体起動装置?」

エレンはアルミンのノートを覗き込む。
エレンとの会話でアルミンの自習欲はだいぶ下がってしまったようで、
アルミンはめくったページの先に立体起動装置の図を暇つぶしのように
うっすらとした線で描いている。

「そう、僕のね」

僕のはここにへこみがある、とアルミンはペンでそのへこみを付け加えた。

「そういえばさ、たまにアンカーがうまく刺さらないんだよね」

エレンは、アルミンの描いている立体起動装置を指でなぞりながらつぶやいた。


「エレンはさ、勢いよくトリガーを引きすぎなんだよ。
 実際の巨人はどうかわからないけど、木なんかにアンカーを指す場合は、
 はじいてしまうんじゃないかな」
「…なるほど…」
「アンカーが刺さったとしても、引き抜けなかったら致命的だしね」

そう言うとアルミンは立体起動装置の絵に飛び出すワイヤーを描き足した。


「エレン、実際に飛ぶって思うと、りきみすぎたりしていない?」
「え?あ、そうかも!」
「アンカーは数cm単位での扱いも要求されるみたいだし、
 打つときが勝負なのかもしれないね」
「なるほどね」

納得するエレンに、アルミンは微笑んだ。


エレンがアンカーの扱いについて、うまくいっていないことは、
アルミンにはなんとなくわかっていた。
エレンがトリガーを引く際に、肩があがりすぎていることも、
アルミンはわかっていた。

――他人のを見てわかったって、
  自分でうまく扱えないんじゃ、どうしようもないよね

アルミンは自嘲ぎみに、立体起動装置の絵にペンを入れた。

期待

>>13
ありがとうございます!
よければお付き合いください。


「しっかし、ジャンの野郎はなんであんなに…」

エレンがアルミンの描いた立体起動装置の絵の周りに、
いたずら描きをしながらぶつくさとつぶやいていた。

「……アルミン?」
「………うん……」

訓練生になる前から、アルミンは自分に体力がないことは自覚していた。
それでも、ここにこうしているのは、夢と理想を追ってきたから。

なんとかなる、心の底ではそう思ってきた。
努力してやる、追い抜いてやる、そう思ってきた。
けれど、体力も生まれ持った才能のひとつ。


「ねえ、エレン…」
「ん?」
「…エレンはさ…」

訓練生になって、少し経った。

はじめはわからなかった、同期の面々の特性も目立ち始めていた。

特に“良い才能”を持つ人たちは、輝いていて、
なにもできない人間が、持っている“夢”を語るのは
恥ずかしいことなのではないかと、うすうす考え始めていた。

――僕が追っていた夢。

壁外の世界。
空は壁以上に広くなって、見たこともない鳥が飛んでいて、
大地にはいくつもの動物が群れをなしていて、
海は青くて広い地平線の見え、それを船で渡る――


「……エレンは、巨人を倒すことと、
 外の世界を見ることの、どっちを…」

何年も付き合ってきた親友と肩を並べることで、
かえって自分の情けなさを痛感してしまう。


ペン先から視線をエレンへと移すと、その後ろの窓の外がまた眩しく思えて、
揺れる景色を誤魔化すように、アルミンは瞳を伏せた。

「…アルミン?」

顔をあげられない。


「…どうした、アルミン」
「……うーん…」
「ホームシック?」

“ホームシック”とは、最近訓練生の間で流行りだした言葉だった。

訓練生たちは切なそうにその言葉を言い合い、慰めあうけれど、
エレンにもアルミンにも、その“家”はほど遠く、
むしろ家を壊したものへの憎悪や、孤独感を募らせるだけだった。


「…僕たちにホームシックなんて…
 そんなの、…いまさらだよ…」


エレンは「うーん」と唸って、下を向いているアルミンの頭を、片手で押さえた。

「っい!」

ゴンッと鈍い音がして、アルミンの額は机とくっついた。

「あ、悪い。勢いがよすぎたか」
「エ、エレン、なに?」

顔を上げようとするアルミンの頭を、エレンは離さない。

「エレン、エレ」
「アルミン!…いいから」
「…なに…?」
「いいから、少し下向いてろよ」

窓の外は、もう小雨さえもやんだようで、
さわやかな風を待っていた小鳥たちが、
かわいらしく鳴いていた。

それが、余計にあたりの穏やかさを強調させる。


壁外では、巨人と死闘を繰り広げている人たちがいるなんて
感じられなくらいの、雨上がりの澄んだ空気だ。

時々、アルミンは考える。

巨人と人間の関係性を見れば、人類の形勢逆転は難しく、
むしろ淘汰されていくほうが自然だ。
歴史的に見て、人類は滅亡へと向っている。

それなのに、なぜ人間の感情は進化の中で消えていかないんだろう。
巨人と対峙したときの、あの、死の迫る恐怖。
あんなに怖い思い、何度も繰り返していたら、人格を保っていられない。
恐怖を忘れるために、滅亡種だということを受け入れ、
進化の過程で感情を抹消したっていいのに。

そうしてくれれば、いくばくか楽に世界が終わるのに――


「なあ、アルミン」
「……………」
「そんなにあせるなよ」

エレンの少しぶっきらぼうな声が、アルミンの頭の上からふってくる。
アルミンはふと、幼少のころを思い出す。
このぶっきらぼうな調子は、いじけて泣く僕を慰める時の、
やさしい親友の声だ。

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