ことり「実は留学することになったの」真姫「あ、私も」 (23)

絵里「……あぁ、ついに言っちゃった」

絵里「なんだか花陽につられたみたいになっちゃって情けないけど」

穂乃果「そんな、わたし……」

絵里「穂乃果?」

穂乃果「私、全然知らなかった。花陽ちゃんの気持ちも、絵里ちゃんの決意も」

海未「それはそうですよ。初めて聞いたんですから」

海未「……穂乃果? 大丈夫ですか、顔色が優れませんよ」

穂乃果「うん、ありがとう海未ちゃん。だいじょぶだから」

海未「……ならいいのですが」

絵里「…………」

にこ「ねぇ、絵里」

絵里「うん?」

にこ「にこ思うんだけど、新しいステージに立って自分を表現したいのなら、μ'sでもできるはずよ」

にこ「新しい曲で、新しいダンスで、新しい衣装で。新しいμ'sでやるの」

にこ「にこが言ってること、違ってると思う?」

絵里「本質的なところをつけば、間違ってはいないと思うわ」

にこ「そう。だったらもっと突っ込んだところを聞くけど」

にこ「それってμ'sよりその劇団のほうが自分を魅せられると思ったってことよね」

にこ「これも違う?」

絵里「…………」

絵里「ええ、それで合ってるわ」

にこ「ってことは、つまり」

絵里「ええ。私はμ'sより、まだほとんどなにも知らないその劇団のほうに魅力を感じるの」

絵里「みんな、ごめんなさい。でも、これが私の本当の気持ち……」

希「はいはい、よくできました。といったところやな」

絵里「希……」

穂乃果「…………」フルフル

海未「ええと、あの……」

海未「提案なのですが、二人の気持ちがちゃんと聞けたところで、今日のところは解散にしませんか」

海未「曲や衣装の分担も大事ですけど……今すぐその話題に入っても集中できなさそうですので」

絵里「そうね……空気を変えてしまってごめんなさい」

希「海未ちゃんに賛成。まあ今日は特別やいうことで」

花陽「あの、私からも、すいませんでした」

凛「かよちぃん……」

にこ「確かに真面目な話はできなそうね。にこもパスでいいわ」

穂乃果「…………」

海未「では、みなさんお疲れ様した」

 数分後 帰宅路にて


絵里「ねぇ、希」

希「うん?」

絵里「本当にあれでよかったのかしら」

希「さあ。どうしてそんなこと聞くん?」

絵里「どうしてかしら、不安になっちゃって」

絵里「私自身、スッキリしたといえばスッキリしたけど、穂乃果なんか明らかに動揺してたし」

絵里「もっと他に伝えようがあったんじゃないかって、さっきからずっとそればっかり考えてるの」

希「せやなあ」

希「まっ、エリチは今も昔も不器用やから、あれでも十分頑張った方とちがう?」

絵里「はぁ。そう言ってもらえると気が楽になるわ」

希「どういたしまして」

希「……なあ、エリチ」

絵里「うん?」

希「ちょっとハグしようや」

絵里「ハ、ハグ!?」

希「そうや。ハグ」

絵里「な、なんでいきなりハグ?」

希「だってもう別れ道やし。それにロシアのほうでは挨拶代わりにハグとかキッスとかするんやろ?」

絵里「まあ、日本よりはそういうところフランクではあるけれど」

希「なら決まりや」

希「そーれっ!」ハグッ

絵里「わっ! もう、いきなりなんだから……」

希「別にいいやん。迷惑やったらやめるけど?」

絵里「迷惑だなんて、とんでもないわ」

希「おおきに。しばらくこうしてよか」

絵里「うん……」

希「はいっ、しゅーりょー」バッ

絵里「ほわぁ……」

絵里「希って以外と体温高いのね」

希「そう? 自分では普通やと思ってるけど、今が特別だったんかな」

絵里「……もうっ」

絵里「ありがとう、希。今日は救われてばっかり」

希「いーんや。エリチは勘違いしてるで」

絵里「え?」

希「今のはうちのためのハグや。エリチのためやない、うちがしたいからハグしただけや」

希「ふふ。まったく今日のエリチはおごりが過ぎるでー」

絵里「それってどういう意味……」

希「はい、お口チャック。それ以上は家に帰ってから悶々と悩みーな」

希「今日はおつかれさん、エリチ。また明日」

絵里「うん……また明日ね」

絵里「ほんと、敵わないなぁ……」

 一方その頃

花陽「凛ちゃーん」

凛「むー……」

花陽「凛ちゃあああん」

凛「にゅー……」

花陽「もー、凛ちゃん! 呼んだら返事してよっ」

凛「凛ちゃんはただいま不機嫌なので返事したくないにゃ」

花陽「もお~。……はぁ」

花陽「だって、仕方ないよ。ずっと隠したままだったら、いつかみんなに迷惑かけるし」

花陽「……真姫ちゃんみたいに」

凛「!? うにゃあああああああああああああ!!」

花陽「ヴェエエェ!? いきなりなにっ!?」

凛「凛は難しいこととかわかんないし考えるのも苦手なのっ!」

凛「だから凛は自分のしたいことするししたくないことはしたくないの!」

花陽「えと……つまりどういうこと?」

凛「凛はかよちんと離れたくない」

花陽「うん……」

凛「かよちんがアイドルやらなかったら、凛だってアイドルやることはなかったよ」

花陽「そんな感じだったね」

凛「小学校も、中学校も、今も、一番かよちんの近くにいるのは凛だもん」

凛「これからもそうだよ。凛はかよちんのいない生活なんて少しも想像できない」

花陽「凛ちゃん……」

凛「だから凛決めた。まだまだかよちんの側にいる」

花陽「……無理だよ。私、遠い国に行っちゃうんだよ。飛行機で何時間もかかるところにいっちゃうんだよ」

凛「だー!」

凛「かー!」

凛「らー!」

花陽「……?」

凛「凛もかよちんについてって一緒におこめ農家やるって言ってるの!」

花陽「……えええええぇぇ!?」

 一方その頃 部室にて

海未「あの、穂乃果」

穂乃果「…………」

海未「もうみんな帰って大分経ちますよ」

海未「そろそろ顔を上げてください。でなければ引きずってでも保健室に連れていきますよ」

穂乃果「……うん?」

穂乃果「あぁ、ごめんね。ちょっと考えごとしてて」

海未「ちょっと考えごとって、いったい何分経ったと思ってるんですか」

穂乃果「だって、色んな疑問とか想像とかぶわーって一気に頭の中になだれ込んできて」

穂乃果「自分でも整理するのにちょっと時間かかっちゃっただけだもん」

海未「……そうですか」

海未「ねえ、穂乃果」

穂乃果「なに?」

海未「私からいくつか言いたいこと、言えることはあると思いますが……、今は1つだけ、確かに伝えたいことがあります」

海未「私はどこにもいきません。いつだって穂乃果の側にいて、穂乃果の味方です」

海未「例えμ'sがバラバラになっても、私は穂乃果とアイドルを続けるつもりですよ」

穂乃果「海未ちゃん……」ウルッ

穂乃果「海未ちゃん海未ちゃん海未ちゃんっ!」ダキッ

海未「ふぁっ!?」

海未「もう……穂乃果ったら」

穂乃果「穂乃果やだよ。真姫ちゃんとことりちゃんに続いて、絵里ちゃんや花陽ちゃんまで……」

穂乃果「もっと一緒にいたかったよ。まだまだみんなでアイドルやりたかったよ」

穂乃果「だけど、みんな本気だから。本気で自分の新しい夢を追いかけてるって分かっちゃったから」

穂乃果「ほんとは我がまま言って、なにがなんでも引き止めたかった」

穂乃果「でも、できなかった……」

海未「……穂乃果、自分を責めないで下さい」

海未「そうやって1人で抱え込むのが、昔からの穂乃果の悪い癖です」

海未「もし悪者がいるとしたら、それは誰でもなくて、誰だってそうなんです」

海未「そういう風に思えれば、少しは気が楽になりますよ」

穂乃果「うっ、うう……」

海未「よしよし。まったく穂乃果は手がかかりますね」

穂乃果「……だよ」

海未「はい?」

穂乃果「ずっと、ずっと一緒だよ!」

穂乃果「例えμ'sがバラバラになっても、穂乃果と海未ちゃんは一緒だからね!」

海未「はいはい。分かってますよ」

穂乃果「海未ちゃあああん」ギュッ


海未「分かってますよ……」

海未「分かって……」

 一方その頃

にこ「ああああああああああああああああ! イライラする! にこイライラする!」

にこ「なにが本当のことよ! なにが劇団よ! なにが農家よ!」

にこ「アイドルはどうしたのよ! 次の夢が近づいたら、もうアイドルなんてどうてもいいっての!?」

にこ「ああああああああっ! イライラするイライラする!」

にこ「……って、ダメにこっ。こんな公衆の面前で、にこったらはしたない」

にこ「キャラチェンキャラチェン……」

にこ「にっこにっこにぃ~♡ あなたのハートにらぶにこっ♡」

にこ「にこにーこと矢澤にこで~っす♡ よぉーし、今日も元気ににこにこしちゃうぞぉ~」

 ――ヒソヒソ ――クスクス

にこ「……なっ、なに笑ってるのよ! 大道芸じゃないのよっ」

にこ「はぁ、なんか虚しい……。無理にテンション上げると、後から急激に虚しくなるのよね」

にこ「マッキー……エリー……花陽……。みんな、みんな離れてっちゃうんだ、2年前とおんなじ……」

にこ「にこにこにいぃ」トボトボ

??「あのー」

??「あのー!」

にこ「……はい?」

にこ「ああ、すいません今プライベートなんで」

??「はは。さっきから見てたけど、君やっぱり面白いね」

にこ「さ、さっきから見てた!? つつ、ついににこにもストーカーがっ」

にこ「……これは喜ぶべきことかしら? いや、悲しむべき? う~ん、う~ん」

??「君、スクールアイドルやってる矢澤にこさんでしょう」

にこ「こ、個人情報まで!?」

??「まあ、ちょっと調べさせてもらいました」

にこ「防犯ブザーってどこにあったかしら……」

??「怪しい者じゃないですよ。ちなみに私、こういう者です」

にこ「……って、名刺?」

にこ「こ、これって! あ、あんたもしかして……」

??「信用してもらえましたか? つまり、そういうことです」

 数日後 空港にて

絵里「さて、そろそろ飛行機が出る時間ね」

花陽「うん。そうだね」

花陽「じゃ……私たち、行ってきます」

穂乃果「行ってらっしゃい。気をつけてね」

希「無事に向こうについたら、ちゃんと連絡入れてな」

海未「ふふ。希はお母さんみたいですね」

希「どうもおおきに」

花陽「凛ちゃん、行ってくるね」

凛「うん……」

にこ「……ねえ、エリー」

絵里「うん?」

にこ「ちょっと握手しましょう」

絵里「……握手?」

にこ「そう。まさか嫌だなんて言わないでしょうね」

絵里「まさか。むしろ嬉しいわ」スッ

にこ「どうもありがとう」ギュッ

にこ「にこ、なんだかんだ言ったけどエリーのこと応援してるから」

絵里「……あら、別れ際ににこにそんなこと言ってもらえるなんて驚きね」

にこ「いい意味で?」

絵里「もちろんいい意味よ」

希「なんや話が回りくどいなあ」

穂乃果「あれ、絵里ちゃんとにこちゃんっていつの間にか仲直りしてたんだ」

穂乃果「良かったあ。喧嘩したままさよならっていうのは、やっぱり悲しいもんね」

にこ「仲直り? っていうのとはちょっと違うかな~。ライバルを送り出すって感覚に近いのよね」

穂乃果「ライバル? なんでライバルなの?」

にこ「まー、言葉の綾みたいなものよ。せいぜい向こうでビッグスターになりなさいよね」

にこ「それに、さよならじゃなくてまたねだから」

絵里「ありがとう、にこ。ありがとう、みんな」

絵里「って、本当に時間だわ。飛行機に乗り遅れちゃう。行きましょう、花陽」

花陽「はい」

穂乃果「またね!」

にこ「さよならじゃなくて、またねよ!」

絵里「またねっ」

凛「またねかよちーん!」

凛「今すぐは無理だけど、凛もすぐそっちに行くからね!」

花陽「うん。待ってるからね~!」

凛「それまで寂しくても絶対に泣いちゃだめなんだにゃー!」

花陽「うんっ。せめてご飯粒だけつけとくね~!」

にこ「……今のは突っ込むべきかしら」

海未「2人だけに通じるなにかがあるんですよ、きっと」

絵里「ランプが消えたわ。もうベルト外してもいいみたいよ」

花陽「……ふあ~。緊張したあ」

花陽「そんなはずないと思うけど、もしかしたら落っこちちゃうんじゃないかって、ドキドキした……」

絵里「まさか。飛行機の事故より自動車の事故のほうが圧倒的に多いのよ」

絵里「私は何度か経験あるけど、花陽は飛行機のるのってはじめて?」

花陽「うん。絵里ちゃんもはじめてのときは同じこと思わなかった? 落ちちゃうんじゃないかって」

絵里「もちろん、ビクビクしたわよ。小さかったしね」

花陽「そっかぁ。は~あ」

花陽「でも、まさか初めての飛行機が最後の飛行機になるかもしれないなんて、今までの私だったら考えられなかったなあ」

絵里「……ねえ、その言い方こそ墜落するフラグみたいじゃない?」

花陽「あ、ああっ! 違くて、もう日本に帰ることはないのかもなあって、そういう意味で」

絵里「分かってる。……本気にしちゃった?」

花陽「もぉ、絵里ちゃんが真剣な顔で言うからだよ~」

絵里「ふふ。花陽のそういうところって可愛いのよね」

絵里「……それにしても凄い偶然よね」

花陽「そうだよね。まさか乗る路線が絵里ちゃんと一緒だったなんて」

花陽「お父さんからは、とにかく水平線まで自然が広がってるひろーい農園って聞いてたから」

花陽「劇団に入る絵里ちゃんが行くような都会とは全然別のところなんだろうなって思ってたし」

絵里「そうねえ。でも、別にそんなに都会っていうわけでもないのよ。ビル街をちょっと過ぎたら畑しかないようなところみたいだし」

絵里「外国って広いのね。日本の常識が通用しないっていうか」

花陽「そうだねえ……」

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