幼馴染「いいよ、二万出すなら」(653)

男「……」

男は思った。

今日も昼休みは、音楽を聴きながら寝たふりをして過ごすんだろう。

でもそれは嫌いじゃないし、友達がいないのはもう慣れた。

むしろ、クラスの連中のような奴らと仲良くつるむなんて、こっちから願い下げだ。

だから今日もこの教室にいないかのごとく、顔を伏せて、考えるのをやめた。

いつかこんなつまらない生活から抜け出せる、なんて思っていたこともあったけど、もうどうでもよかった。

何にも考えなきゃいいのだ、バカになってりゃいいのだ。男はそう考えていた。

男「……」

放課後、いつものように机の中に全部の教科書を残したまま、空っぽの鞄を持って男は立ち上がった。

一緒に帰るやつもいない。挨拶するやつもいない。だからってどうってことはない。

女生徒1「でさー、もー最悪で」

女生徒2「あはは」

廊下から頭の悪い声がする。

こいつらはどうせ、揃って全員大学なんか目指さずに、フリーターしてるうちにどうでもいい男に引っかかって妊娠するんだろう。

そんで、実家に居座ってまた次のこいつらみたいな子供を輩出するんだ。

そういうのがわかっているから、少し頭のいい女子は、卒業したら徐々にそういう奴らと距離をとっていく。

くだらねー人生とくだらねー友達づきあい。勝手にやってろ、と思いながら、男は教室の戸を開けて帰ろうとした。

女「!」

男「!」

戸がやけに軽いと思ったら、向こう側からも同時に引いていたようだった。

男は何も言わずに、目線を少しそらして、何事もなかったように教室を出た。

俺がお前らにとってないのと同じなら、こっちだってそうなのだ。男は思った。

女は一瞬困ったような顔をしたが、次の瞬間には男と同じく何事もなかったように振舞った。

女生徒1「女ー、どうかしたー?」

女「んーん、なんでもない」

女生徒2「寒いから早く入ろうよー、もー廊下にも暖房つけろっての」

女生徒1「ほんとそれー」

男は、女が自分とすれ違うときの気まずそうな一瞬の雰囲気が大嫌いだった。

女と男は世間で言う幼馴染で、家も50メートルと離れていない。でも、ただそれだけだった。

小学校の頃までは一緒に学校に通っていた中だったが、中学から話す機会が減り、今ではもう挨拶もしない。

女は昔から頭がよく回るほうだったし、人付き合いが上手かった。

容姿だってそれなりだし、友達も多くて、男とは正反対の生活を送っている。

周りに同調することが変に目立たないためのコツだとわかっている女は、今はもう男の事を無視していた。

男だってそれが当然だと思うし、別にそれ自体はどうってことないと思っていた。

むしろ自分のように半ば死んでいる人間に話しかける奴なんかまともじゃないとさえ考えていた。

男「……」

男は思った。

一番腹が立つのは、あの一瞬に見せる、哀れみだとか、面倒だとか、自責だとかそういうものが入り混じったあの目つきだ。

他の人間にはない、昔付き合いのあった女だけが時折見せるあの表情。それが男は嫌で嫌でたまらなかった。

お前だって他のやつと何も変わらない。自分のために俺の存在を認めていない。それは何も問題はない。

それなのに、仕方なくて、悪いとは思うけど、ごめん、まるでそんな素振りを匂わせるのだ。

てめーらが自分を可愛がるのは勝手だが、その材料に俺を勝手に使っているのが気に食わない。

いつこっちがお前に助けを求めたのか、友達でいて欲しいと頼んだのか、ふざけんじゃねえ。

幼馴染「いいよ、二万出すなら」

中年親父「わかったよぉ……、げへへ」

男「おっ……親父……!?」

ここから>>1が再開↓↓↓

男はいつもの生ゴミのような濁った目で、見慣れた景色を眺めながら家まで歩いた。

男「あーあ」

わかっているのだ。腹が立っている理由は、それだけじゃないということ。

女のあの目つきに、どこかまだ心を揺らされる自分もまたいるというのをどうしても否定できないでいる。

どこか心の奥で、まだこいつには嫌われていないんじゃないか、そんな気にもなったりするのだ。

でも、そんなわけはなくて、それを押し殺すようにこちらも無視を決め込んで、自分は期待していないと思うようにしているのだ。

そんな自分が情けなくて、やっぱりひとりって寂しいのか、なんて思いながら、でも俺はやっていける、そう言い聞かせて生きているのだ。

女とすれ違うたびに、そんな自分の馬鹿らしくて情けない決意が崩されるようで、男はそれが怖かったのだ。

男「つまんねー」

つまんねー人生。

でも、自分よりももっと笑えない生き方をしている人間が世の中にはたくさんいて、そんなやつを笑って踏みにじっていけばまだ生きていけるかな。

男はそう思った。

何も、生きたい、死にたくない、なんて気持ちは毛頭ないのだ。

国道沿いの大きな通りをだらだらと歩きながら、男は思った。

たとえば、今すれ違った幸の薄そうな大学生が、人生に絶望した通り魔でも、急に居眠り運転のトラックが突っ込んできても、

なんならあのビルの屋上から誰かが飛び降りてきて、それに直撃したっていい。

死んだって別にかまわない。何か惜しいものがあるなんてことはない。

ただ、少し欲を言えば、自分の部屋のエロ本とか、パソコンの履歴とか、そういうのが整理されているときならなおよいと思う。

それくらいの心持ちだが、自分から命を絶つっていうのは、なんだか乗り気がしない。

楽しく生きている連中がうらやましかったんです、と泣き言を言っているように思えて仕方ないのだ。

それだって、言ってみれば自分の情けない強がりでしかないし、格好悪いことこの上ないのだけれど。

それに、自分で死ぬのは親に申し訳がない気もする。だから、誰か殺したいなら殺せ、そういうスタンスなのだ。

どうだっていい。ただ、それだけ。

男は空になったペットボトルを、その辺のゴミ箱めがけて投げ込んだ。

きれいに弾かれて道端に転がるペットボトルを横目に、男はさも当然のようにそのまま去っていった。

男「……ただいま」

どうせ誰もいないのに、と男は思った。

両親は共働きだし、兄貴は二年前から一人暮らしを始めている。

でも、だれもいないから「ただいま」が言えたのかもしれない。誰かがいたら、俺はその人に挨拶なんかしない。

そう考えたら、この誰もいない家は自分にとって何より優しい存在なのかもしれない。

あとで帰ってきた親に、また愚痴を言われるのがいやなので、男は丁寧に靴を脱いで二階へ上がった。

鞄や制服をベッドの上に適当に放り投げ、くたくたになった部屋着のTシャツとジャージに着替える。

そして、物が散乱したままのベッドにそのまま倒れこんで、ため息をついて目を閉じた。

男「あー」

みんな死んじまえ。男は考えることがなくなったとき、いつもそう思うことにしている。

特に意味なんかない。でも、何か意味があることなんか、俺の人生に一つもない。

みんな死んじまえ。それはなんとなく心地のいい、そんな呪文だった。

男「……ん」

いつの間にか男は眠っていたようだった。部屋の中は真っ暗になっていた。

男「ああ」

頭を掻き毟りながら、男は時計を探した。でも、暗くて針がよく見えないので、そのままその辺に投げ捨てた。

極端に喉が渇いていて、口の中が気持ち悪い。下から物音がするので、どうやら母親はもう帰ってきている。

手探りでスイッチを探して灯りをつけると、まぶしすぎて目を開けていられなかった。

男はうめきながら目を瞑って、そのまま後ずさりするようにまたベッドに寝転んだ。

今は何時かわからないけれど、もう少し眠っていよう。起きてたってどうせすることなんかない。

なら寝てたほうがいい。死んだように眠る、そんな言葉がまさに当てはまった。

男は思った。寝ている間は死んでられる、いつまでだって、好きなだけ死んでればいい。

なんか引き込まれる文章だな
小説(本)を読みたいと思わせる文章

期待してるぜ>>1
頑張れよ

次に目を覚ましたのは、夜中の3時頃だった。

そのことには特に何の感想も持たずに、男は中途半端な伸びをして、背中の間接を鳴らしてから下に降りていった。

きっと自分の分の夕食がラップでもかけられてテーブルの上においてあるだろう。

いつからだったか、いくら呼びに来ても返事すらしないので、母親は俺を起こしにくることはなくなった。

しかし、別に飯を作ってくれなくなるわけではないし、俺のことを嫌っているわけでもない。

ただ、それがお互いにとって当たり障りがないことに気づいたんだろう。普段は喧嘩ばかりしているが、母親はあれで出来た人だと思う。

麻婆豆腐をレンジに放り込んで、ごく小さな音でテレビをつける。いつものごとくもう通販番組がいくつか繰り返し放送されているだけだ。

でもなんとなくそれを見ることが自分の日課になっているような気がして、男はただ何も考えず画面を眺めていた。

こういった番組はは嘘しか言わない。それでいて、自分たちに誰よりも正直だ。

だから日常感が欠如しているようで、小気味がいいのかもしれない。

男「……あ」

気づいたら、もうレンジの中の麻婆豆腐は冷め切っていた。また温め直さなくてはならない。

でも、こんな夜中に物音を立てるのが申し訳なかったので、少しぬるまった麻婆豆腐を男はもそもそと食べた。

正直携帯小説と変わらないレベルなのにベタぼめしてるやつがいるのに驚き
この程度なら中学生の妄想

>>27
妄想を文章に出来るかどうかの問題だぜ坊主

いいじゃん

嫌いじゃないんだろ?

>>28
文章は所詮文章止まり
読めるのでなく読ませるのが小説
語り口や登場人物「」みたいな話は小説の形態や台本等のですらなくブログの垂れ流しかそれ以下

>>29
だから何?
気に入らないなら消えろよカスが

男生徒1「な、お前あの噂本当だと思う?」

男生徒2「何の噂だよ」

男生徒1「うちのクラスの誰かがエンコーしてるって」

男生徒2「俺らんとこヤリマン多そうだもんな」

男生徒1「あー、走りながら喋ってたら息できねえ!」

男生徒2「ばかじゃねーのお前」

男「……」

今日の体育は持久走に向けてのの練習だそうだ。

普段のサッカーとか野球なら、当然体調が悪いことにするのだが、これなら一人でできるので男は珍しくジャージに着替えた。

どいつもこいつもくだらねー話で盛り上がってるものだ。

ただ、普段あれだけブサイクだヤリマンだと罵っていて、次の日には付き合ってたりするんだからなかなか面白い。

健全な青春、悪くないなと男は思った。ある意味深夜の通販に通ずるところがあるのかもしれない。

いや、そうでもないか。男はそんなことを考えながら、ぐるぐるとトラックを回った。

>>31
一通り書いた人間に「だから何」って物事を考察できないの?
「消えろ」って二回目だけど語彙が少ないの?
いろんなジャンルの本読んだほうがいいよ


あと「おまえがやれよ」的なレスはまさしく小学生の発想
審査員は挑戦者のできることすべてできなければならないならオリンピックは満点の嵐

お前らこんな時間に面白い感じに盛り上がってんじゃねーよwww
誰が小説書くつったんだよwwwwww

身の丈にあったものを読む、褒める
少なくとも俺みたいなお馬鹿が理解できもしないニーチェを読んで悟った気分に浸るよりはよっぽど分相応ですよ

嫌な奴はNGしろNG。

別に批判があってもそれはそいつの考え方だからしゃーないって
>>1の話を自分のベストな環境で読めればそれでいいっしょ。

>>38
どんな理由があっても
少なくとも貴方がこのスレを批判していいという理由にはならないのは
わかってますよね?

>>48
スレはともかく>>1は否定しないし書きたければ書いたらいい
否定したいのは>>25みたいに思ってる人
>>42>>43みたいなのが一番まとも

もうすぐ冬も終わる。グラウンドを走りながら、男は空気が少し暖かくなってきているような気がした。

息を吸っても気管が焼けるような感じはしない。久しぶりに体を動かしたというのもあって、少し気分がよかった。

そろそろ春休みだな、男はそう思った。

休みは何をして過ごそう、そうだ、そろそろ部屋の本を全部読みきってしまおう。

本屋によるたびに、家にまだ読みかけのものがいくらでもあるのに一冊手に取って、帰りの電車の中だけ熱心に読む。

でも暇になるなら、たまには最後まで読んでみるか。

買ったまま放り出して、時折思い出したように適当にかき鳴らすギターの練習をしたっていいかもしれない。

誰かに聞かせる機会は一生ないけれど、暇つぶしくらいにはなるだろう。

そんなことを考えて、結局何もしないまま三年の春を迎えるのだろうけど。

気づいたらチャイムがなっていて、周りの奴はみんな引き上げてしまっていた。

男は立ち止まって、一息ついた。急に止まったものだから、心臓が破裂するくらい鼓動して、汗が急に流れ出した。

こういうときに、生きていることを実感してしまう。

なんだか男は嫌な気分になったので、また走って校舎まで戻ることにした。

何の因果か援交の現場に遭遇してしまった。

男「まさかお前だったのか……」

幼馴染「男君……違うのこれは」

男「何か事情があるんだろ」

幼馴染「そうなの」

男「やっぱり……」

幼馴染「体を売るしかなかったの……除霊にお金が必要で」

男「そんなことだろうとは気づいていたさ」

男が手招きをすると一人の人物が駆け寄ってくる。

Tさん「破ぁーーーーー!!」

するとTさんの両手から青白い光弾が飛びだし、幼馴染に憑いていた霊を吹き飛ばした

Tさん「これで安心だな・・・」

そう呟いて片手でタバコに火をつけるTさん。

寺生まれってスゲェ・・・その時初めてそう思った。

>>59
>>25だけど、俺は一言も「すごい小説だ!」なんて書いてないぞ

>>1の文章を読んで本を読みたいと思っただけ
勝手に深読みして勘ぐってんのはお前だろ

似たような一週間を過ごしながら、男は何事もなく春休みを迎えた。

不登校とまではいかないが、決して楽しい場所ではない学校に行かなくて済むというのはなんとなく心が晴れやかだった。

きっと、これに限っては自分だけじゃないはずだ。今、全国の学生は浮かれきっているのだ。

その調子で学生の交通事故でも増えないかな、と男は思った。みんな死んでしまえ。

しかし、いざ暇になってみると、やはりそれを上手く使うことは出来ないものだ。

そもそも普段からあんな生活をしている人間にとって、暇が増えたからといってなにも変わらないのだ。

男は適当にその辺の本を手に取ってみたものの、登場人物の名前が覚えられないので十分で諦めた。

ロシア人は自分の息子になんてけったいな名前をつけるのだろうか。とんでもない人種だ。

まだ甲子園が始まるには日が早いし、ワイドショーだって大して面白くもない話題ばかりでテレビをつける気にもならない。

男「あー」

とりあえず男は眠ることにした。

春は春でも青春なんだ。男の青春は、まだ訪れていなかった。

男の息子にいたっては、まだ冬篭りをしている。

幼馴染にこの呪縛を解き払ってもらうため、なけなしの金を握って頼み込むことにした。

幼馴染「2万円……?」

男「少ないか……駄目だよな、忘れてくれ」

幼馴染「……いいわよ」

男「えっ!?」

幼馴染「男ならいいわよって言ったのよ」

男「ほ、本当にいいのか」

幼馴染「電気消してもいい……?除霊の支障になると思うから」

電気を消す直前、振り返るとそこには寺生まれで霊感の強いTさんが!

Tさん「破ぁ!!!」

男の息子の呪いも一瞬で解かれた。寺生まれってすごい、改めてそう思った。

結局その日一日、男は寝て過ごした。

男は思った。

何もすることがないのだから、当然だ。なんなら明日も一日中寝ていてやろう。

そして、甲子園が始まったら、夕方までは起きていよう。

時々コンビニに行って、立ち読みをして、帰りにプリンを買って帰るのもいいかもしれない。

そんな自分が生きていくことに、どんな意味もあるはずがない。それぐらいがいい。

誰の目にも留まらない、あるのかどうかもわからないような人生。

あまりにも人に迷惑をかけるようなら、貯金を全部下ろしてどこかへブラブラと出かけて帰ってこなけりゃ済む話だ。

本当はそんなに上手くはいかないし、迷惑だってかけっぱなしで、人としては最低だけど、だからなんだよ。

馬鹿になればいい。何も知らないフリをして、誰からも期待されなくて、それなら最低だっていい。

さあ、今日も目を瞑れば勝手に終わる。みんな死ね。

流石にTさん二連は厳しいと思ったまる

>>1は古谷実好きそう。俺好き

ところで俺は続き書いていいの?
Tさんはお腹一杯?
この速さなら普通に追いつける

いつも一人で自分のことを考えていると、どこかで歯車が狂ってガキみたいなことで頭がいっぱいになる。

男はその度に、何をまたしょうもないことを、と思うのだが、それもバカっぽくて自分にあっているような気もした。

人生の意味は?だれだって一度は考える疑問である。

男は中学二年生の道徳の時間に班で人生について話し合わされたときのことを思い出した。

自分が十何年間生きてきて、あんなにアホらしかった事もなかなかない。

みんながみんな生きる意味について前向きに、積極的に、さも全てを悟って人としての方向性が定まったかのようなことを言うのだ。

向かいに座っていたやつは言った。

「生きる意味は、自分が生きていく中で探していくものだと思うんだよね。だから、毎日一生懸命生きるべきだと思います」

その時のやつの生き生きとした顔を思い出して、男は思わず吹き出してしまった。一生探してろマヌケめ。

自分も未だに人生について思慮をめぐらしているくらいだから、あまり笑える立場ではないのかもしれない。

でも、笑うのだ。腹を抱えて、指をさして笑ってやる。自分も同じだって、自分の方が劣っていたって、それでも嘲ってやる。

それのどこが悪いんだ。俺の勝手にさせてくれ、どうせ死んでるみたいなもんなんだから。

男「ああ」

またどうでもいいことばっかり考えてしまっているな、と男は思った。電気を消すことにしよう。

>>101
稲中とヒミズは昔読んだ。好き。

電気を消すと色々なことが思い浮かんできた。

男はこれまで一体何をしたかったのか、どうしたかったのかを考えた。

そして、このまま周りに取り残されて童貞のままでいいのかと疑問を感じた。

童貞という不治の病を取り除くのに一番手っ取り早いのは金で解決することだ。

男は決心を固め夜の繁華街へと向かった。

男が繁華街へと向かう道中、何か嫌な気配を感じた。

辺りを見回すと首の無い地蔵が転がっていた。

地蔵「首を首を寄越せ」

地蔵の気迫に押され男は身動き一つできない。

地蔵の傍に落ちていた錆びた鉈が宙に浮かぶ。

男「や、やめろ」

男の声は誰にも届くことも無く、鉈の餌食になった。

地蔵「この首も違う」

男は何の気なしに窓の外を眺めた。予報では昼から降ると言っていたが、その気配はない。

洗濯物は取り込まなくてもいいだろう。男はさっき買ってきたジュースを飲み干した。

しかし、いつ見ても甲子園というのはさわやかで清清しい。

この高校球児たちも実際に人として付き合ってみればクズばっかりなんだろうけれど、テレビの画面を通して見える彼らは聖人のようだ。

彼らは普段は煙草吸ったり、酒飲んだりし、女回したりしながら、暴力と日光と汗と砂にまみれているから、こんなにさわやかなのだ。

攻守交替の時に映し出されるチアリーダーたちだって、普段は彼氏の息子をエロイ顔で咥えているから今こうやってこんなに清楚に写る。

うん、なかなかおもしろい。男は思った。

お前は何様だよ、というのは置いといて、こういうことを考えながらテレビを眺めるのは根暗ながら楽しいものだ。

ただ、目の前で輝いているのがもう同い年の人間だと思うとなんとなく辛い。きっと追い越したらもっと辛くなるんだろう。

男「……あれ」

どうやら第四試合は雨天中止のようだ。

こっちもそろそろ降るのかもしれない。男は仕方がないのでテレビを消した。

男が目を覚ますと、もう深夜だった。特に珍しいことでもない。

日付が変わっているなら、またコンビニに立ち読みでもしに行こうと思い、男は上着を羽織った。

いくら春といってもまだ夜はもう一枚着込まないと寒い。

男は自転車の鍵を部屋に忘れたことに外に出てから気が付いたが、面倒なので歩いていくことにした。

結局雨は降らなかったが、月は雲に隠れてしまって薄ぼんやりとしている。ざまあみろ、と何故か男は思った。

一番近くのコンビニは、この時間しょうもない連中がたむろしているので、もうひとつ遠くのコンビニまで足を延ばす。

こういう時ほど田舎に住んでいるのが嫌になることはない。

店員「いらっしゃいませー」

雑誌コーナーに向かうと、今日発売の雑誌がまだビニール紐で縛られたまま、床に平積みされていた。

しまった、と男は思った。少し来るのが早すぎたようだ。店内を少しぶらついて、時間をつぶしてみるのも悪くないが、意味はないだろう。

床の雑誌の束と店員の顔をチラチラと交互に見てみたが、店員も立ち読みのために陳列してくれるほど優しくはなかった。

結局男は飲み物と菓子を買って帰ることにした。なんだか少し損をした気分だった。

店員「ありがとうございましたー」

男はどういたしまして、と心の中でつぶやいて、店を出た。

雨の日は憂鬱だ。どうしてだかは知らない。

目先を不快にしている雨を隠すためカーテンを降ろすことにした。

男がカーテンに手をかけると、向かいに住む幼馴染と目が合った。

幼馴染「久しぶりだね」

男「高校に入ってからは余り話してなかったな」

幼馴染「最近、どう?」

男「最近どうって……とりあえず今降ってる雨は最悪だよ」

幼馴染「雨……?それは霊が関係してるんだよ」

男「なんで、そういう話になるんだよ」

幼馴染「男くん覚えてないの?小さい頃、雨の日に近くの池で溺れた時に悪い霊が一緒に……」

男「道理で……雨が嫌いなわけだよ」

「悪霊め、そこまでだ」聞いたことのある声、寺生まれで霊感の強い通りすがりのTさんだ。

Tさん「破っ」

男に取り付いていた悪霊は粉微塵に弾け飛ぶ。男には雨の日はもう嫌いな日ではなくなった。

悪霊に打ち勝ち、幼馴染と恋人になれた日なのだから。寺生まれはスゴイ、男は感動を覚えずにはいられなかった。

やべー更新負けた
これは失態、寝るしかない

その時だった。

店の前の道で、男は聞き覚えのある声を聞いた。

「もう、この辺でいいです」

街灯も碌にないので、コンビニの灯りだけを頼りに目を細めると、どうもそこにいたのは女のようだった。

「ほんとにー?家の近くまで送るよ?」

「いえ、結構です……じゃあ」

今思えば、そんなことしなければよかったのに、と男は思う。

しかし、それがあまりにも予想外の出来事だったもので、男は恐る恐る近寄って、それが本当に女なのかを確かめようとした。

男「……?」

さして車を見送る気もなかったその人影は、ふとこちらに振り向いた。

女「!」

男は半分驚きながら、半分やっぱりかと思った。そして、それと同時にあまりよくない状況なのではないか、とも思った。

男「……」

男は思った。人というのは変わるものだ。

女はどちらかというと、陽気な頭の持ち主ではないと思っていた。でもどうやらそうでもなかったらしい。

いくら自分が見た場面が断片的で、情報量が少なかろうが、これは普通じゃあない。

大体、今のは誰の車だ?少なくとも自分の親じゃないさ。

女「あ……」

男はふと自分が呆然と突っ立ったまま相手を眺めていることに気が付いた。あまりよくない状況だ。

男「……」

いい方法が思い浮かばなかったので、男はいつものように黙って目をそらし、家路に着いた。

まるで自分など居なかったように、何事もなかったように。

女「あ、あのさ……!」

背後から、同じくどうしていいかわからなくなったのであろう女の声が聞こえたが、男はそのまま気にせず家に帰った。

心配なんかしなくたって俺は誰にもバラしたりしない、というか喋る相手なんかいない。というかそもそも俺はここにいないし、何も見ていない。

だから、自分には振り返る必要も、声をかける必要もないのだ。

男は思った。

やっぱり自転車の鍵を取りに戻ればよかったのかもしれない。なんだか帰り道が長いように感じるのだ。

思ってた通り、春休みはそれ以上ショッキングなことは起きなかった。

毎日が何事もなく過ぎ去っていって、なんだかあの深夜の出来事が夢だったのではないかと思うほどだった。

そして新学期、男は久しぶりに制服に袖を通した。

そろそろこの生活にも飽きてきた頃だったので、そんなに未練はなかった。

学校に来てみると、前と同じ顔ぶれが教室に集まっていた。

今日学校に来るまで知らなかったのだが、三年はクラス替えがないらしい。

まあ、あったところで特に変わりはないんだけど、と男は思い、いつものように机に突っ伏した。

また一年どうでもいい生活が始まる。去年と同じで、代わり映えがなくて、くだらねー一年が始まる。

男はそう思っていた。

昼食に何のパンを食うかくらいしか有意義な考えごとはない、と。

ひとつ変わったことがあったといえば、女が時々学校を休むようになったことだろう。

別にまったく来ないでもなく、週に一回くらいのものだったのだが、今まで皆勤賞だったことを考えればちょっとしたニュースなのかもしれない。

こうして女は春休みデビューを果たして、だんだんケバくなっていき、いつか風俗嬢に志願して、性病にまみれた英雄として語り継がれるのであった。

そんな妄想をしていると、時間は早く過ぎ去っていくもので、もう初夏の兆しが見えはじめていた。

自分の妄想とは勝手が違ったのか、ライアン二等兵もとい女は、特にケバくなることもなく時折休みながら学校に来ていた。

でももしかしたら性病のほうは蓄えているのかもしれない。そう思うとなんだか何ともいえない気分だった。

ただ、自分の妄想ともう一つ違った点は、女の立ち場が以前とは違うものになっていったということだろうか。

以前クラスの男子が話していたような噂があって、学校も休みがちともなれば、そういった暗黙の了解ができあがってても確かにおかしくはない。

女はあからさまに、というほどではないが、学校でも一人で居る時間が増え、居ないところではひそひそと噂をされるようにもなった。

そこまで女についてまとめた時点で、男は新学期が始まってから女の動向にばかり目を配っていることに気が付いた。

まあ、仕方ないか、と男は思った。

曲がりなりにも高校までずっと同じだった、自分に近い位置にいた人間がこうも変わっていくのだ。

気にしない、という方がおかしいだろう。男はため息をついてまた机に突っ伏した。

どうでもいい話だが、うちの学校の体育祭は6月の初めにある。

そして、その体育祭では、綱引きの綱やら日よけのテントやら、普段は使わずに倉庫の奥底にしまってあるものがたくさん要る。

本当にどうでもいいことなのだが、それらの道具を体育祭の前後に整理しておく倉庫係というのが一人クラスから選ばれる。

砂とほこりにまみれた体育倉庫の片づけを、誰が楽しく引き受ける人間はいない。

そして、どうでもよくないのは、男が珍しく風邪を引いた日に、その係り決めが行われていたということだ。

こうして男はめでたく倉庫係に就任した。

その言葉の正しい使い方は知らなかったが、「死人に口なし」とはこういうことなのだろう、と男は思った。

ただ、それ以上に驚いたのが、自分の名誉ある役職への就任を伝えてきたのがほかならぬ女だったということだ。

彼女は電話で淡々と集まる日にち、時刻や仕事内容を我が家に電話してきた。

母親が出たからよかったようなものの、自分が出たら即座に受話器を置いていたかもしれない。

だいたい女だって俺が出たら気まずいだろうに。

男はそう考えたが、すぐにまたひとつ疑問が生まれた。

……なんで?

男は思った。最近ちょっと申そうと現実の区別が付かなくなっている。

訂正

誰が楽しく引き受ける→楽しく引き受ける

さらに訂正

うちの学校の→男の通う学校の

申そう→妄想

今日ほど学校に来るのが嫌だった日もない。なんで俺がそんな重労働に従事せねばならんのだ。

男は苛々する気持ちを特に抑えるでもなく、体育倉庫までの道のりの石を蹴飛ばして歩いた。

大体欠席している人間を係りに任命するなんてまともな人間のすることじゃあない。

いくら俺がクズだろうと、それを止める義務は少なくとも担任にはあったはずだ。まったくけしからん。

まあしかし今までだって理不尽なことがなかったわけではないので、今更ごねたところでダメなのもわかってるんだが。

そんなことをグズグズと考えながら、体育倉庫の前までたどり着き、男はあることに気が付いた。

男「俺、鍵なんか持ってねえぞ」

またわざわざ職員室まで鍵を取りに戻るのか。

いや、他のクラスからも選ばれてるはずだし、そいつらが持ってくるだろう。ああ、どちらにせよめんどくさい限りだ。

男は深くため息をついて、舌打ちをした。なんだか眩暈がする。

男「……あれ」

目の前にある大きな引き戸に、少しの隙間があることに男は気が付いた。扉は、開いていたのだ。

展開候補は三つくらいあるんだけどどれにしようかちょっと迷ってる

お前らどういうのがいい?

>>223
寺生まれのTさんで

女「入んなよ」

中に居たのは女だと、男は確信した。

扉の前でその声を聞いて、一目散に逃げ出せばよかったのだ。

しかし、男は突然のことで上手く頭が働かず、言われたとおりに扉を開けてしまった。

男「……」

女「なんか喋ったら?」

男「……」

男は思った。やっぱり今日はろくな日じゃない。

俺はいつもの死んでるみたいな生活で充分なんだよ。そんなゴミみたいな希望も踏みにじるのかお前らは。

女「ねえってば」

男「……うるせえよ」

男は不思議に思った。本来は開いているはずは無い部屋が開いている。

誰かがいるのか?いかがわしいことを学校で行うにしても場所を考えてほしい。

男「開いてる……開かずの間が」

男の高校に伝わる七不思議の一つ『開かずの間』が解き放たれていた。

陰陽師の家系に生まれた男はいち早くこの異変を察知していた。

男「この邪念……ッ手遅れか……ッ」

部屋の中で誰かが戦っている!

Tさん「破ぁぁぁぁ!!!!!」

Tさんの咆哮で禍々しい邪念が打ち払われた。

男「Tさんも悪霊退治ですか?」

そう尋ねるとTさんは開かずの間だった部屋を指差し

Tさん「まあな、随分と小物を釣り上げちまったがな……」

Tさん「すっかり日も上がっちまったな、どれ、残りの七不思議も潰しに行くか」

そう言って廊下に飛び出し爽やかに笑ってみせるTさんを見て

寺生まれはスゴイ、男はいろんな意味で思った。

女「何怒ってんの?話があるんだけど」

男「俺はねえよ」

女「ちょっと待ちなよ」

わかるでしょ、と女はつぶやいて、俺を中へ突き飛ばしてドアの前に立った。

女「一応はっきりさせとかないとね」

男「何をだよ」

女「……困るのよね、今あることないこと言いふらされるとさ」

男はここで初めて全部目の前の女に仕組まれていたことに気が付いた。

きっと倉庫の掃除だって今日じゃないし、もしかしたら俺は当番ですらないのかもしれない。

男「別にお前の金儲けをどうこう言う気はねえよ」

女「やっぱりバレてるか……あー、もうめんどくさい」

女は少し大げさに頭を抱えて言った。

女「あたしさ、最近ちょっと評判よくないの、あんたもわかるでしょ」

男「……ああ」

女「だからさあ、まあ、あんたは誰とも喋らないから大丈夫だと思うんだけど、口止めしとかなきゃってね」

男「ふん」

男は普通に女と会話していることがとても不思議に感じた。

無理はない。ここ三年近く、まともに挨拶すら交わしていないのだ。

そんな相手と、まるで何事もないかのように喋っている。とても奇妙な感覚だ。

というかそもそも、人間とちゃんとした会話をしたのがとても久しぶりなのだ。

それで少し高揚していたせいもあったのか、男はこの際だと思って自分からいくつか気になることを質問した。

男「お前なんで援助交際始めたんだ?」

女「うちお小遣い少ないでしょ、昔から。みんなと一緒に服買いに行ったりするのにお金なくて」

開いた口がふさがらないというのはこういうことを言うのだろう。今までやはり勘違いしていた。こいつはバカだ。おとこはそう思った。

そのあまりにも単純な答えに思わず笑ってしまい、女にキツイ目でにらまれてしまった。

男「で、金と引き換えにオッサンと寝てるんだ」

女「別にオッサンじゃなくたっていいわよ、お金もらえるなら」

ここまで金というものは大事なのか。男はもう何も言えなかった。

女「で、これ以上あたしの変な噂流されると、あたし学校に居づらいからさ、これで手を打ちなよ」

そう言うと女は手元の財布から一万円札を二枚取り出して、男に突き出した。

男「……なんだこれ」

女「口止め料よ、そんだけあれば足りるでしょ」

男があっけに取られている内に、女はそそくさと倉庫から出ようとしていた。

男「おい、待てよ。受け取るってまだ言ってねえだろ」

女「……いらないの?」

男「そんなことも言ってねえけど」

女「じゃあいいじゃないの、じゃあね」

男は薄暗く、かび臭い部屋の中で、少し立ち尽くしてしまった。

男「なんで金が必要なんだ」

女「いっぱい必要なの」

男「金なら俺がバイトして稼いでやるよ、お前のために」

女「男……ありがとう。実は霊障に困っているの」

男「このパターンは……」

「 そこまでだ! 」そこには寺生まれで霊感の強いTさんの姿が!
 
Tさん「 破ァ----!! 」

Tさんの呪文は衝撃波となり女へと向かった。

霊障となっていた悪鬼を見事破砕したのはいいが、女の衣服もついでに破砕してしまった。

女「強すぎる力は災いを呼ぶのよ」

最終的には何故か男もTさんと一緒に床に正座させられた。男は女を落ち着かせると、女と共にTさんにお詫びとお礼を言った。
 
去り際にTさんは苦笑しながら男にだけ言った。

Tさん「 一番怖いのは生きてる人間かもな…… 」
 
寺生まれってスゴイ!……俺もそう思った。

男は自分の部屋のベッドに寝転びながら、意味もなく天井を見つめた。

昔から知っていたあの子はもう中年親父の肉便器になっているらしい。

男は思った。

これが大人になっていくということなのだろうか。なかなか感慨深いものである。

そしてなんとなく二枚の諭吉を光に透かして、この金を女に払ったおっさんのことを考えた。

あの春休みのコンビニのやつだろうか。いや、あんな前の金はもう全部使っちまってるだろう。

きっと女が学校を休むのは、前日の夜におっさんと寝てるからで、ということは、毎週ウン万のかせぎがあるんだからな。

そして、おっさんと女のセックスを想像した。そこらへんのAVなんかじゃお目にかかれない、醜いセックス。

どこまでも汚らしくて、もはや女のプライドなんかそこにはない。気持ち悪くて、臭いジジイにマンコを突かれて喘ぎ声を上げる。

ああ、気持ち悪い。

男は勃起した。

寺で挙式してハッピーエンドにしたかったけど本編の女がビッチすぎて駄目だ

男「しっかし、何に使おうかな、この金」

別に欲しいものなんかないし、かといって貯金する気にもならない。

どうせなら意味のあることに使いたいもんだ。男はそう思った。

男「……そうだ」

昔からの馴染みが肉便器に成り下がったのは少し残念なことであるが、それならば協力してやろうじゃないか。

自分も童貞が卒業できて、彼女にもお金が入る。なんて素晴らしいシステムだろうか。

せっかくの泡銭だ、泡事に使ったって文句はないだろう。

淫乱肉便器におしおきしてやるぜ、なんてバカな事を考えながら、男は声を出して笑った。

女「もしもし、○○ですけど」

男「ああ、女か」

女「……何」

男「お前今日言ってたよな、金もらえれば誰でもいいって」

女「……」

男「あれ、違うのか」

女「……あんたゴミだね」

男「お前が言えた口かよ」

女「……好きにすれば?」

男「おー……」

女「……いいよ、二万出すなら」

女「抱かせてあげる」

まだつづくよ

男「100万用意した」

女「こんな大金どうしたのよ」

男「貯金を下ろしただけだ」

女「貯金って……大学行くためのお金でしょ」

男「これで50日分お前を買う。50日経ったら50日の間に稼げた分の金で……」

女「どうしてこんなこと……だって私もう穢れちゃって」

男「いいだろ俺の勝手だ。初恋の相手にそんな惨めな真似させられるかよ」

女「男……」

そんなこんなで男は女を立ち直らせ、めでたく二人が20歳を迎える年に挙式することになった。

結婚は教会でやるものだが残念ながらキリスト教ではない、仏教だ。

Tさん「破ぁぁぁぁぁ!」

牧師さんならぬ寺生まれの坊主のTさんに祝福され二人は幸せな結婚生活を送った。

男はついこの前に訪れたばかりの、かび臭い部屋にやってきた。

今日は女を淫買と罵ってストレスの発散でもしよう。そんなやつに金を払う自分のことを棚に上げて。

どうだっていいくだらねー世の中なのだ。これぐらいやったって構わないはずだ。

このあいだと同じように鍵が開いている。先に女が来ているのだろう。

男「……よう」

女「……ね」

男「?」

女「先に出して、お金」

男「お仕事ご苦労様だな」

女「何とでも言いなさいよ、あんたも同レベルでしょ」

男「ほれ」

女は俺の手から毟り取るように金を受け取って、無言で倉庫の扉を閉めた。

元々建物が古いから、いろんな隙間があって光が漏れているので、辛うじて視界は確保されている。

女「一回だけ。あとキスもなし」

男は思った。

考えてみれば、俺は女の子に触れたのなんかこれが初めてかもしれない。いや、初めてだ。

それがしかもこいつで、そして今はクソビッチで、俺は金を払っていて、ああ、もうよくわからん。

彼女の胸に手を伸ばす。なんか思っていたのと少し違う感触で、ちょっとがっかりした。

女「ひっ……」

男「……よくわからんから、とりあえず服脱がすぞ」

女「……」

女は下を向いたまま、全然動かなかった。自分なんかと寝るのがよっぽど屈辱的なんだろうか。

結局男は服を上手く脱がせられなかったので、裾を捲り上げて下着を無理やりずらす形で胸を露にしようとした。しかしそれも上手くいかなかった。

女「……っ」

思わずゴクリ、と喉を鳴らしてしまう。これまでに自分がこんなに興奮したことはなかっただろう。

手どころの騒ぎではない。男は頭からつま先まで全身が震えてしまっていた。

訳がわからなくなって、男はそのまま女を抱きしめて、スカートの中に手を伸ばした。太もものやわらかくて温かい感触が指に残る。

女「い……ひ……いやっ……いやあああああ!!」

男「!?」

あまりの大声に男は驚き、後ろに倒れてしまった。

女「こわい……こわいよ……」

男「は……はあ?」

女「はーっ……はーっ……」

男は思った。

これは異常だ。普通じゃあない。俺は金を払ってるわけだが、それ以前になにか大きな問題がある気がしてならない。

男「お、おい……な、泣いてんのか」

女「ふーっ……ふーっ……」

男「おい、大丈夫か!?」

女「こわい……いや、こないで……」

明らかに女の表情には恐怖が読み取れた。俺が何したって言うんだ。いや、何かしようとはしていたのだが。

女「あたし……あたし……っ!」

とりあえず女を落ち着かせなければならない、男にはそれくらいしか頭に思い浮かばなかった。

男は女の両手を握った。彼女は先程の男とは比べ物にならないほどにガタガタと震えていた。

男「お、おい……何もしねえからとりあえず落ち着け、な!」

女「……ふぅ……ふぅ……ふぅ」

倉庫の中に少しの間沈黙が訪れた。二人の吐息以外の音は何も聞こえなかった。

女「……」

男「……だ、大丈夫か」

女「……ごめん」

男「お、俺なんかまずいことしたか」

女「……ごめん」

随分落ち着きを取り戻したようだったが、女はまだ涙を流していた。

女「お金……返す」

男は思った。とりあえず訳を言ってくれたっていいだろう。

こちとらこんなわけのわからない展開で、二、三年は確実に寿命が縮んでいる。

まあ、別に寿命が短くなったからなんだという話なのだが。

男「なに、俺生理的に無理とか、そういうこと?」

女「……」

いや、そこで黙るなよ。さすがに傷つくぞ。

女「そういうことじゃなくて……」

男「じゃ、なんだよ」

女「……」

男「なぜ黙る……」

女「……ぐす……ひっく……うぇぇ」

ああ、と男は思った。

どうしろっていうんだよ。

女「いるの……」

男「何が?」

女「後ろに上半身だけの軍服を着た男が」

男「え……」

男が振り返ると、確かに血まみれの軍人が上半身だけで宙に浮かんでいた。

これはトリックだ。幽霊なんているはずが無いと決め付け男は行為を続行した。

Tさん「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?」

余りにもDQNな展開で寺生まれのTさんも困惑して去っていった。

ゴムもつけずに生でやったので弩ストライクで孕ませたのは言うまでも無い。

出来ちゃった婚でも挙式は勿論寺だ。Tさんが断ったのは言うまでも無い。

男は頭が痛くなった。一体今自分の身には何が起こってるのだろう。

わからないことばかりで一秒先の未来が見えない。不安と恐ろしさしか感じなかった。

女「あ、あたしぃ……あたし……」

男「と、とにかく…・・・その、なんだ……あー俺もよくわからん」

女「………うう」

男「よし、こうしよう……いったん泣き止め、それから何かしらの話をしよう、な」

女「うん……ひっく……はー……」

女「……ごめん」

いくら謝ったってこの状況は改善されないわけで、男はため息をつきながら女が喋ってくれるのを待った。

女「その……お金貰ったら誰でも寝るって言ったけど」

男「ああ」

女「実は、その……今日がそういうことするの……二回目で」

男「……なんだって?」

男「すると、一回目ってのは」

女「あの……春休みの」

男「あー」

至極当たり前のように、落ち着き払っているように、男は平常心で振舞った。

実際のところはそうしようとしているだけで、全然そんなことはないのだが。

女「あの時、すごく気持ち悪かった……」

女「最初は我慢すればお金もらえるって、それだけ考えてたんだけど」

女「すごい力で、腕とか握られて、無理やり脱がされて、いろんなとこ触られて……」

女「あたし何にも抵抗できなくて、ただ怖くて……ひぐ」

男「お、おお落ち着けって」

女「それでもあたしが自分でしたことだし、と思って、でも……」

女「それからそのこと思い出すと震えが止まらなくて……ひっ……」

確かに震えは一向に止まる気配を見せない。これはよほどのことなんじゃないだろうか。

女「今も、それでだめだった……あの時のこと、思い出しちゃって」

男「はー」

男はもう一度大きく深呼吸をした。なんだかとんでもないことになってしまった。

ただ、そんなのこいつが悪いとわかっているのだが、なんとなく彼女のことを少し可哀そうな人間のような気がしてきた。

女「それでね……帰りに、あんたに会って」

男「ああ、あったなそんなことも」

女「あの時のこと……あたし絶対忘れられないと思う」

男「ま、びっくりしただろうな。俺もだけど」

女「あの時のあんたの目。……汚いものでも目の当たりにしたみたいに、まるで存在を否定されたような……あの目」

男「はあ」

女「あたし、あの時に初めて理解した……あたしが何てことしちゃったのかって」

男「……」

女「それから……なんだかあんたに、周りのみんなにそんな目で見られてるかもしれないって思うと……時々学校行くのも怖くて」

男「なるほどな、じゃあ口止め料って何のためだったんだ」

女「え…?」

男「俺が誰かに喋るわけないだろ、喋る相手もいないのに」

女「それは……その」

男「?」

女「あんたに今までいっぱいひどいことしてきたから、仕返しされても文句言えないし……」

男「なら次の日にでも来ればよかったのに」

女「でもまたあんな目で見られるかと思うと……その、怖くて」

男「はー、そういうことか」

女「ああ……あたしなんてことしちゃったんだろ……ああ、もういやだよ……」

男「……」

男「あのさ」

女「……?」

男「ひとついいか」

女「な、何……?」

色々と思うところはある。が、言いたいのは一言だ。

男「いいか?」

女「……」

男「お前バカだろ」

女「え……」

男「友達と買い物行きたいからって援交?」

男「元からそういう約束で金貰ってんのにオヤジが怖い?」

男「人からさげすまれるのが嫌だ?」

男「お前筋金入りのバカだな」

女「……」

女が処女であります様に(-人-)

男「一生うだうだ悩んでるといいぞ、そのまま堕ちるとこまで堕ちちまえ」

女「……うう」

男「そんな様を見て、俺は指差して腹抱えて笑ってやるからな」

女「……」

男「お前も周りのことゴミみたいに貶せばいいんだよ、自分のことなんか棚に上げて」

女「……え?」

男「こんなザマでまだいい子のフリすんのとかキモイから」

女「……」

男「処女とかな、援助交際とかな、どーだっていんだよ!」

男「結局はお前が自分かわいさで、自分で許せなくなってるだけだろうが」

男「お前は所詮援交メス豚女なんだよ!だからなんだ、いいだろ別に、死なねえぞ」

初めてはお尻だったのだよ

とりあえず>>464>>1の文章を見直した方がいいよ。

>>470
挿れたという描写はなかったはずだ

トモダチ。
その四文字に価値を見出だせなくなってからどれだけの時間が流れたんだろう。
薄っぺらな言葉、希薄な繋がり、楽しくもない癖に馬鹿みたいに大きな声で笑っている自分。
全てを投げ出して「もういいからアンタ達で楽しくオトモダチでもやってて」なんて言えたらどれだけ楽だろう。
周りの人間が笑い声を上げたから自分も笑う。会話の流れは解らなくても、ついていくだけなら簡単だ。元々、何を話しているかなんて誰も解ってないんだから。
視界の端で男子生徒が机に突っ伏して寝ている。休憩時間にトモダチと喋る意思すらない奴、人間関係からドロップアウトした奴。
彼をよく言う人はいない(むしろ悪く言われる事が多い)けれど、個人的には羨ましいと思う。私には選べなかった生き方だ。
人は一人で生きていけるように作られていないと気付いてしまったから。
まぁ、ついでに多少の好意も無くもない。確かにそれは認める。
鞄からちらりと見えているCDのジャケットは、私が好きなバンドのそれに違いなかった。

「おいお前聞いてんの?」
彼氏の前ではぶりっ子なこの子も、気の置けない仲間達との会話だとこんな感じになってしまうのは不思議だな、と思いながら私は遥か彼方乙女の道から帰還した。
意見を求められていたようだけど、しかしそんな事はどうでもよかった。
「え? あー、や、ごめ、さっぱり聞いてなかった。今日の放課後は何クレープ食べるかで頭いっぱいいっぱいでさー」
「んだよお前、だから頭にクレープ詰まってるとか言われんだよ。ばーか」
笑い声。
漫画的表現だと『ドッ』という声がグループ内で起こる。
休み時間の教室には他の生徒もいるんだから遠慮すればいいのに、と思わなくもないんだけど、女の子のグループはこんなものらしいので何も言わない。
笑い声に、仕方ないなー、とか可愛いー、とかいう声が混じる。
私のオトモダチは何故か、頭の足りない子とかちょいボケてる子に優しい。
何にでも順位とかその類のものをつけたがる子達だから、グループの中にそういう子がいるのが嬉しいんだろう。断っておくが、私は勉強は出来る人だ。

女「違うわよ……あたしそんなんじゃ……」

男「そうか、じゃあ違うな」

女「え」

男「だって自分で違うって言うんなら違うんだろ」

女「いや、でも……あんたさっきから言ってることむちゃくちゃで」

男「おれもよくわからなくなってきた」

女「……あの」

男「ただな、お前がもうやっちゃったことについて泣こうがトラウマ抱えようが勝手だけど」

男「それって意味ねえだろってことだよ」

女「それは……」

男「だからバカだって言ってんだよ。まあ、俺の知ったことではないけどな」

男「そして最後に存在を否定され続けた男からの追撃だ」

女「え?」

男「みんな別に、そんなにお前のこと興味ねえから。自意識過剰も大概にしろ」

女「……男」

「で、なん、なん? クレープよりおもんなかったら酷いよー」
オトモダチの笑い声が収まるのを待って、私は明るい声で話す。
一発でチャンネルが合うか心配だったけど、杞憂だった。少しだけほっとする。
「ん? あんさ、女いんじゃん、女」
「あー、今日休んでる?」
「そ、そ。お前、あいつがなんで休んでっか知ってる?」
オトモダチが異口同音に答えてくれる。一人が言ったことを繰り返すこの現象って何ていうんだろう。
私は聖徳太子的聞き分けで必要な情報を抽出し、一番話を知ってそうな一人に向かった。
「や、知んないかなー。なんで?」
化粧はナチュラルで髪色が明るいかな、や、ギリギリ自毛? な見た目のその子は思わせぶりにニヤリと笑った。
家の鏡で練習したのか、妙に決まっているその顔はちょいカッコ良かったけど、練習風景を想像するとむしろマイナスポイントな笑顔だった。
「あん子ウリやっててさ、お持ち帰りされてんだってさ」
「えー、まじー? それホントならクレープ食ってる場合じゃないじゃん」
「マジだしー。D組のタカコが見たって」
また周りのオトモダチが笑いながら話し始める。
いわく、
「ちょ、お前タカコかよー。アイツ自体超ヤリマンじゃねーかよ」
「つかアイツがウリやってんじゃねーのかよ」
「ありえるー、アイツ誰でもいんじゃね?」
「教頭と寝たってマジなん?」
など。
どうもさっきの話は流れたみたいだ。
みんな、割とどうでもいいのかも知れない。結局、暇潰しになればなんだっていいんだろう。
でもそれから、みんな何となく女とは距離を置くようになった。
可哀相に、と私は思った。彼女からは私と同じ臭いがしてたから。

オ「ぐぇへへへ…そろそろ挿れるぞ…!」

女「ひっ…うぅ…」

「おぉっと、そこまでだ!」
突然の声に驚く女。
「悪霊退散!破(ズブ)アッー!」
さすがは寺生まれのTさん。
女の処女は守られたのである。

女「はーあ」

男「ん?」

女「あんたがよくわからないことまくし立てるから、よくわかんなくなってきた」

男「……あ、そう」

女「今でも辛いし、思い出したくないけど、でも、あたしのせいだもんね」

男「まったくもってな、世間知らずめ」

女「少しだけ、楽になったのかもしれない」

女「こんなの、今まで人に相談できなかったし」

男「男に抱かれるのが怖いなら、女同士でやればいいんじゃないか」

女「馬鹿なこと言わないでよ、変態」

男「うっせーよメス豚買女」

女「……ぐす」

男「あ……いや、ちょっと言いすぎたか、すまん」

女「わかればいいのよ」

男「なんだよ全然堪えてねえじゃねえか」

女「ほんとは優しいくせに毒吐いてばっかりなんだから」

男「……」

女「なんか、その……ありがとね」

男「はーあ、こっちはせっかく童貞捨てるつもりで来たのによ」

女「あはは、ごめんって……じゃあ、その代わりっていうか、なんていうか」

ちゅ

男「!?」

女「えへへ」

キスで2万…

男「もういい、俺帰る」

女「ごめん……いやだった?」

男「なんつーか、どうせ明日からまたお互い口利かなくなるんだから馴れ合ってても仕方ねえだろ」

女「……ねえ」

男「なんだよ」

女「学校、一人じゃなきゃ嫌?」

男「はあ?」

女「あたしも一緒に居ちゃ、だめかな」

男「なんで」

女「あたし、なんかもういろんな噂気にしながら友達のやりくりするの疲れた」

女「あんただったら、今もう全部本当のこと話したし」

男「じゃあ好きにしたらいいんじゃねえの」

女「うん、そーする。あたし、馬鹿だから」

ちゅ

男「!?!?!?」

結局あの二万円は帰りにコンビニの募金箱に突っ込むことにした。

なかなかない経験が出来たので、よかったと思っている。自分の金ではやろうと思わないが。

その後、女は自分で秘密をカミングアウトし、結局俺ほどではないがクラスからハブられるようになった。まったくもって意味がわからん。

俺は俺で相変わらずつまらない死人のような生活を送っている。どうでもいい毎日を、くだらなく過ごしている。

今日も今日とて、自分より不幸な人間を笑って生きていこうと思う。きっとその先には何もないが、そんなことはどうだっていい。

俺はそう思うのだった。

おしまい

途中からしんどくなってかなり適当になってしまった。

本当は最初に倉庫に行ったときに女が誰か他の奴とヤッてて、

それを見た男が帰って思い出してオナニーして、倉庫でしてたのをネタに女ゆすって童貞卒業しようとして

女が男としてる最中に昔から好きだったのにって泣き出して、「最初はこんなつもりじゃなかった……取り返しつかない、お願い助けて」ってなって

でも男はうるせーメス豚って言ってキスされたのに唾吐き返して、男がうわーってなってみんな死ね、っていって自殺する話を考えてたんだけど

スタミナ的に無理だった…もう半端な気持ちでスレ立てるのやめようと思う。

>>303
http://www3.uploda.org/uporg2021761.jpg
Side:she
>>1乙。面白かったです

>>616
ちょwwwwwww
すげえうれしいんだがwwwwww
乙wwwww

軽く仮眠するつもりで寝たら結果がこれだよ

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