アルミン「ミカサ?」(440)


エレン「そう、ミカサ・アッカーマン」


いつも通りの少し肌寒い昼下がり。

いつも通りの場所でいつも通り二人で話していた時、不意をついたようにエレンは言った。


聞きなれないその名前にもちろん心当たりはなかったが、
僕は1週間ほど前にエレンが話していたことをぼんやりと思い出した。



アルミン「それって、この前言ってた新しくエレンの家族になったって女の子?」

エレン「そうそう、そいつ」


両親が亡くなって、エレンの家に引き取られた僕やエレンと同い年の女の子。

僕はまだ会ったことがないから、見た目や性格はわからない。

だから僕が知ってる『ミカサ』はそれだけだった。


アルミン「それで、その子がどうかしたの?」

エレン「明日、ミカサも一緒に連れてくるから。一応報告しておこうと思ってさ」


そう言いながらエレンは小石を川に投げた。



僕にはエレンしか友達がいないし、女の子と話をする機会もあまりない。

初めて出来るであろう、女の子の友達。

仲良く出来るか正直不安ではあるけど、少しわくわくする。



僕は弾む気持ちを隠せなくて、楽しみだなぁと笑った。


アルミン「そのミカサって言う子は、ど んな子なの?」

エレン「おとなしいのかな、でもまだ来 たばっかだしよくわからん」


「まあ、そりゃそうだよね」なんて僕は適当な返事をした。



両親が死んで、突然知らない人の家で暮らすことになったのだ。

たとえ、どんなに明るい子だっておとな しくなるのも無理はない。


これで明るい子なんて言われたら、僕は 少し驚いていたかもしれない。


エレン「そうだ、アルミン。明日ミカサに外の世界の話をしてやってくれないか?」

エレン「あいつも両親死んで、うちに来たばっかだから寂しいと思うんだ」

エレン「だから、アルミンの話でミカサを楽しませてやりたいんだ」


「もちろんだよ」僕はすぐにそう返した。



外の世界の話は僕とエレンの秘密だったけど、
その子が僕の話で少しでも楽しんでくれる可能性があるなら迷う必要はない。



まるで妹を心配するような口調のエレンは、
いつもの笑顔で僕に「ありがとな」と言った。


エレン「あ、そうだ。そろそろ帰らなきゃ。ミカサと薪拾いに行くんだよ」

アルミン「そうなの?じゃあがんばってね。明日楽しみだよ」

エレン「おう、じゃあなアルミン!」タッ


そう言ってエレンは家の方に走って行った。


なんだか、僕も兄弟が欲しくなったな。
もし出来るなら、弟が欲しい。


下らないことを考えながら僕も家路をたどる。


途中で猫と遊んだりしながら、明日のことを考える。

本は好きかな、外の世界の話気に入ってくれるかな 。
話したいこと、聞きたいことがどんどん出てくる。


仲良くなれるといいなぁ。


その日の夜は、わくわくして眠るのに時間がかかった。



? 翌日 ?



エレン「おーい、アルミン!」フリフリ

少し離れたところで大きく手を振るエレンの後ろに、チラッと女の子の影が見えた。


アルミン(あの子がミカサかな?)



エレン「ほらアルミン、こいつがミカ サ」グイッ

ミカサ「あの、よろしく…」オドオド


エレンの陰に隠れていた少女は、エレンに引っ張られて僕の前に出た。



エレンのによく似た赤いマフラーを付けた、見慣れない顔立ちの少女。



透き通るような白い肌に映える淡いピンクの唇。

凛とした雰囲気の黒い瞳。

そして思わず見とれてしまいそうになるほど美しい、カラスの羽のような髪。



アルミン「あ、えっと、僕はアルミン・ アルレルト。よろしくね、ミカサ」


ハッと我に帰って、僕はあわてて自己紹介をした。



エレンはそんな僕を不思議そうに見つめたけど、
気にするようなことではないと思ったのか、すぐに話題を変えてきた。



エレン「なあ、アルミン。ミカサに外の世界の話してやってくれよ」

ミカサ「外の世界?」

エレン「昨日話しただろ?アルミンの話は面白いんだ」


僕は少し照れくさくなって、「エレンにそう言ってもらえるとうれしいよ」とごまかした。



エレン「あ、そうだ。これは内緒の話だからな。3人だけの秘密だ」

ミカサ「秘密?わかった」

アルミカんクルー?



確か、エレンが一番好きだった話は『海』の話だったかな。

僕も『海』の話が一番好きだし、この話からしてみよう。


本で見たのも、エレンに話したのも一番最初の『海』の話 。

僕とエレンが外の世界に憧れをもつようになったキッカケと言っても過言ではない。



アルミン(『海』の話は特別だから、気に入ってくれるといいな)


アルミン「じゃあ、まず『海』の話からしよう」

ミカサ「うみ?」

アルミン「そう、この本によるとこの世界の大半を『海』っていう塩水が覆っているんだ」

アルミン「その『海』は信じられないくらい広いんだ。こんな壁の中よりもずっと広いんだよ」

アルミン「それだけじゃないんだ、『海』はね、?? 」



僕は本のページをペラペラとめくりながら夢中になって話した。

時々、ふとミカサの顔をのぞいてみると黒い瞳をキラキラと輝かせていた。



楽しんでくれているといいな、 僕は小さく笑って話を進めた。



ミカサ「すごい、本当に壁の外にそんなものがあるの?」



一通り『海』の話をしたところで、ミカサが小さく呟いた。

エレンは僕の隣で絶対にあるって言っているけど、壁の外のことは何も分からない。



アルミン「壁の外の話だし、誰かが見たわけじゃないから本当にあるかは分からないんだけど、僕はあるって信じてるよ」

アルミン「いつか僕らが大きくなったら、一緒に壁の外に『海』を探しに行きたいな」


エレン「ああ、絶対見つけてやる!」

ミカサ「私も連れて行ってくれる?」

エレン「もちろんだ!」

アルミン「そうだよ!3人でいろんなところを探検しよう!」

ミカサ「ありがとう」ニコッ

アルミン「…///」キュン



胸の奥でした何か小さな音を合図にわずかに僕の中の時間が止まった。




僕はハッとして、あわてて話題をそらした。


アルミン「僕、女の子の友達出来るの初めてなんだー」

アルミン「まあ、友達もエレンしかいないけどね」アハハ



なんとも強引な話題の変更だったけど、幸いエレンもミカサも気にしてはいないようだ。


ミカサ「私とアルミンは友達なの?」

アルミン「えぇ、違うの?」


僕はてっきりもうミカサとは友達になったつもりでいたから、
少し驚いて思わず間抜けな声が出た。


エレン「いや、友達だろ」

ミカサ「そうなの?」

エレン「そうだよ」

ミカサ「そう」



納得したのか、ミカサは一瞬固まって、
僕にやわらかく微笑んだ。


ミカサ「嬉しい、友達出来たの初めてだから」フフフ


ミカサ「私、あまり家の周りから離れたことがなくて。家の周りにはあまり人がいなかったの」


ほんの少しだけ寂しそうな顔をしたように見えたけど、
ミカサはすぐに元の表情に戻り、自分の話をしてくれた。


山で野菜を作りながら生活していたこと。

人が少なくて両親以外の人はほとんどみかけなかったこと。

シガンシナは人が多すぎて酔いそうになること。



そうやって話すミカサは笑っていたけど、
やっぱり寂しそうな顔をしていた。



楽しい時間と言うのは過ぎるのが早いもので、
エレン達が来た時には真上にあった太陽が、もうずいぶん傾いてしまった。

辺りが夕陽に染まってきて、ようやくそれに気が付いた。


エレンの瞳によく似た山吹色の太陽が、辺りをオレンジに染めていく。



エレン「もうそろそろ暗くなりそうだから、今日は帰るか」



名残惜しかったけど、明日からも会えることを思い出して僕も賛成した。


エレンはミカサを連れていつものように「また明日な」と僕に手を振り、

ミカサもそれを見てから、少し恥ずかしそうに「また明日ね」と言って笑った。


オレンジに照らされたミカサの顔が、少し大人っぽく見えて
夕陽色の自分の顔が赤くなるのを感じた。


アルミン「また明日ね」




振り返ると手を繋いで歩いていく二人がいた。


ミカサが来てから、まだ一週間しか経ってないのに。

二人の間には、僕なんかじゃ決して入り込めないような、
特別な何かがあったように感じた。


赤みが引いた、黄昏の道を一人で歩く。



昼から夜へかかる橋のようなこの時間帯は、あまり好きではない。


物陰から、魔物か何かが襲ってくるような気がして、少し怖い。

『逢魔が時』とはよく言ったものだ。



実際に壁の外には巨人がうろついているのに、
居もしない物陰の魔物におびえるのは見当違いだ。

灯りの付いた家に帰ってそう思うけど、怖いものは怖い。




でも今日は違った。

ミカサという新しい友達が出来たから、薄暗いこの時間も、いつもより明るく感じる。


仲良くなれてよかった。
心配してたけど、僕もちゃんと話せたし。


ミカサが両親を亡くしてエレンの家に引き取られたミカサ。

きっとものすごく悲しいし寂しいのに、それをあまり顔に出さない。



今日の僕の話で少しでも元気が出たなら、それはすごくうれしい。


エレンはきっと、ミカサを元気づけるためにいろいろやってるだろうし、
僕もミカサを元気づけてあげたい。




そしたら、またあんな笑顔を見せてくれるかもしれない。



夕陽に染まるミカサの笑顔を思いだして、再び頬が紅潮するのを感じた。


なんとも言えない不思議なふわふわとした高揚感が、なんとなく心地よかった。



家につく頃には、その不思議な気持ちが恋であることを理解した。


これが僕の初恋。
相手はミカサ。
黒々とした美しい髪の笑顔が素敵な女の子。


これは、いわゆる一目惚れってやつだろう。



胸のあたりがこそばゆくなって、思わず本の世界に逃げ込んだ。

僕の見える景色が、ほんの少しだけ鮮やかになった気がして、
また少し明日が楽しみになった。

きゃわゆい………

補足の説明です。

このSSの今の時期設定は、844年の1月くらいと思ってください。

ミカサにはイェーガー家で1年以上はのんびり過ごして欲しいので。

アルミン9歳、ミカサとエレン8歳です。
ミカサとエレンは早生まれなので。


ちなみに、漫画設定となりますので、アルミンのパパママは元気だよ。


幼少期の頃は捏造しまくりです。
苦手な方はそっ閉じでお願いします。

>>1に書くべきでしたね。すみません。

アルミンの初恋ってすぐ終わるよな。ミカサはエレンしか興味ないもんな。


とりあえず今日はここまでにします。

見切り発車なので終着点はやんわりとしか決まっていませんが、
必ず完結させますので、よろしければお付き合いください。



>>9 アルミカですよー!

>>22 ありがとう!


それでは、見てくれた方ありがとうございます。

おやすみなさい、よい夢を。

>>24
それもまたアルミカの魅力かな、と思います。


こんにちは
レスくれた方、ありがとうございます


エレンはアルミンもミカサもどっちも同じくらい大切だけど、
ミカサに劣等感を持ってるから、アルミンをひいきしがち
って感じだと思っています。



それでは、ぼちぼち投下していきます
よろしくお願いします


??


………



冬の晴れた日は、太陽のポカポカとした暖かさと、キリッとした寒さが同居している。


僕はそんな空気の中の一番暖かい時間に、日向で本を読むのが好きだ。


太陽に眠気を誘われて、本を開きながらうとうとするのも好きだ。




今日もいい天気だ。

本と少し大きめのブランケットを持って、お気に入りの場所に向かう。



なんだか急に春が待ち遠しくなったから、今日は花の本を読むことにした。



ページをめくりながら、暖かい春を思う。



暖かくなって花が咲いたら、三人で花がたくさん咲いてるあの丘に行こう。

エレンは確か、あそこで昼寝するのが
好きだったはず。



やわらかい冬の日差しと、膝にかけたブランケットの温度が僕の眠気を誘う。



だんだん瞼が重くなって、意識が僕から離れていく。




夢の世界への扉が開かれようとしたその時、
肩をポンと叩かれて、僕は現実世界へと引き戻された。


ミカサ「アルミン」


少しだけ驚いたから、眠気はどこかへ消えていた。


アルミン「ああ、ミカサ。あれ、エレンは?」



ミカサはいつもエレンにべったりだから、
ミカサとエレンが一緒にいないのはなかなか珍しい。

というか、エレンを置いてミカサ1人で僕のところへ来たのはこれが初めてじゃないだろうか。



ミカサ「エレンはふざけて窓を割ったから、今お説教を受けているところ」

ミカサ「罰として、今日は外出禁止になったから、アルミンに謝っておいてくれと頼まれた」

アルミン「またやったんだ、エレンも反省しないね」アハハ



ミカサが来る前から、エレンはたまに窓を割っていた。

エレンは結構やんちゃな方だから、仕方ない。



ミカサは「そうね」と言って僕の右側に座ったから、
少し大きめのブランケットの半分をミカサの膝にかけた。



ミカサ「おばさんは、エレンは男の子だから仕方がないと言っていたけど、アルミンもたまに窓を割るの?」


少しだけ考えてみたけど、僕は窓を割ったことはない。

自分で言うのもあれだけど、僕はあんまりやんちゃではないからな。



ミカサには「僕はないよ」とだけ答えた。


ミカサ「じゃあ、アルミンはやっぱり女の子なのね」


そう言うとなぜかミカサは満足げに微笑んだ。

確かに僕は力もないし、自分でも女の子みたいな顔をしてるとは思う。


でも、それでも「やっぱり」はひどい。
僕だって気にしてるのに。


でもなんとなく怒る気になれず、僕はわざとらしく頬をふくらませて怒った。


アルミン「ひどいよミカサ!僕は正真正銘男の子だよ!」プンスコ


ミカサはクスっと笑って「ごめんなさい、冗談」と言った。


なんとも分かりにくい冗談だ。
少しだけ傷ついた。


ミカサ「でも、アルミンは綺麗。これは本当」


まっすぐ僕の目を見て言うミカサに、なんて返事をすればいいのかわからなかった。


ミカサ「アルミンの髪、太陽に照されてキラキラ光ってる。とても綺麗」

ミカサ「目の色もとても綺麗、空みたい」


そんなこと言われたのは初めてだ。

僕は急に恥ずかしくなって、
ミカサの吸い込まれるような黒い瞳から無理やり目を反らし、ごまかすように笑った。



ミカサ「私は、髪も目も真っ黒だから。あまり綺麗ではない。だから少し、うらやましい」


ミカサが小さく呟いた。



ミカサは髪も目も、こんなに綺麗なのに。
僕なんかよりも、ずっと。


アルミン「…そんなことない。ミカサの黒髪、とっても綺麗だよ」

アルミン「僕、こんなに綺麗な髪の毛の人見たの初めてだよ」

アルミン「髪だけじゃなくて、瞳も。凛としてて、すごく綺麗だ」

思わず口に出してしまった。
後悔はしてないけど、少し恥ずかしい。


ミカサ「ありがとう、アルミンは優しい」

ミカサはそう言って小さく笑った。


アルミン「…慰めなんかじゃないよ、僕は本当にそう思う」



ミカサはもう一度「ありがとう」と言って笑った。


きっと、慰めやお世辞だと思われた。
そんなんじゃないのに。



僕はなぜか悔しくなって、パラパラと本をめくった。


ミカサ「アルミン、それはなんの本?」


僕の目線の先の本を指差しながらミカサは僕を見る。


アルミン「ああ、これ?これは花とか植物の本だよ」

ミカサ「アルミンは、お花が好きなの?」

アルミン「うん、好きだよ。綺麗だしね」

ミカサ「私も、花は好き。春になると、お家の周りにたくさん咲いていたの」


ミカサは嬉しそうに僕に話してくれた。


アルミン「このへんにもね、春になるといっぱい綺麗な花が咲く丘があるんだよ」

アルミン「だから、春になったら三人で行こうね」

ミカサ「本当?楽しみ」


そう言ってミカサはまるで花が咲いたみたいにふわっと笑った。




それから、少しだけ話をしたあとミカサは帰った。




本を開くと、僕の右側とブランケットにわずかに残るミカサの体温を感じて、
よりいっそう春が待ち遠しくなった。


綺麗な花を眺めながら、春みたいに笑うミカサが目に浮かんだ。


ミカサの黒い髪には、白い花がよく似合うだろうな。

シロツメクサの花かんむりなんか、絶対に似合う。


花が咲くあの丘を思いながら、僕は本に目線を落とし、ページをめくる。



>>21>>36の間に、もう1つ話を入れる予定だったんですが、
まるっと全部すっ飛ばしてしまいました。


なので、その間は何日か間が空いて、その間3人で毎日のように遊んでたんだよー
ってことで、脳内補完しておいて下さい。


申し訳ないです。


とりあえず今日はここまでにします

見てくださってる方、ありがとうございました




セリフだけのSSとは違って、
地の文をつけて書くのは難しいですね

自分の言語力と表現力のなさが恨めしいです


小説家ってすごい
(読書しよ)



それでは、また夜に来ます



こんばんは
レスくれた方、ありがとうございます


それでは、ぼちぼち投下していきます
よろしくお願いします



………


ミカサと友達になってから数週間が経った。


エレンと二人の時ももちろん楽しかったが、
ミカサと友達になってからの毎日はキラキラと輝いているようだった。


外は日を追うごとにどんどん寒くなっているが、
僕の気分は、すっかり春模様だ。



今日も僕は本とブランケットを持って、お気に入りの場所を目指す。



少し裏道に入った所で、僕を呼び止める声が聞こえた。



いじめっこA「ずいぶんご機嫌だな、異端者」

いじめっこB「大好きな壁の外に巨人に食われに行くのか?」

いじめっこC「わざわざ安全な壁の中から飛び出て死にに行くのか?」ケラケラ



広い壁の外には人を食べる巨人がいるのに。

この狭い壁の中に閉じ籠って巨人に壁を破られる日を怯えながら暮らす日々を、
こいつらはどうして安全だと言い切れるのだろうか。


昨日まで安全だったからと言って、今日もまた平和が続くとは限らないのに。



僕はいつものように、あいつらを睨んで言い返すと、いつものように殴られて、
「屁理屈野郎」と大きな罵声を浴びた。



ズキズキと痛む頬を押さえていたら、エレンの声が聞こえた。


いつものように「やめろ!」と叫んで走ってくるエレンの後ろにはミカサがいた。


いじめっこA「エレンだ!やってやれ!!」


いじめっこ達は見慣れないミカサを見付けて、
エレンとミカサをからかい始めた。


いじめっこB「あいつ女連れだぜ!」ギャハハ

エレン「何笑ってんだよ!!」ゲシッ

いじめっ子B「いってえなクソ!!」


すかさずエレンが蹴りを入れると、後ろで見ていたミカサが口を開いた。


ミカサ「あなたたちは、アルミンの友達?」

エレン「は?何言ってんだ、違うにきまってるだろ!こいつらアルミンのこといじめてるんだ!!」


この光景を見て、どうやったら友達同士に見えるのか。と聞いて見たかったけど、
ミカサはつい先日、生まれて初めて友達が出来たから仕方ないと思うことにした。


いじめっ子A「お前誰だよ」

ミカサ「私はミカサ、この間からエレンの家でお世話になっている」


いじめっこ達の視線が、初めて見るであろう少女に集まる。


いじめっ子B「そーかよ、じゃあこいつらみたく殴られたくなかったらどっか行け」ボコッ

エレン「いてっ!何しやがんだ!」



まずい、女の子を男の子のケンカに巻き込ませてしまう。

もし殴られでもしたら、女の子なのに顔に傷ができてしまう。



僕は思わず血の味が広がる口を大きく開いて、叫んだ。


アルミン「ミカサ、逃げ??」


空気ががらりと変わったのを感じて、声が途切れた。


ミカサの周りは、まだ昼過ぎだと言うのに心なしか暗く見えた。


ミカサ「…エレンとアルミンは私の大事な人たち。危害を加えるようなら容赦しない」



ミカサはどす黒いオーラをまとい、真っ黒な瞳から光が消えた。




まさに一瞬だった。


ミカサの細い腕から繰り出される、容赦のない顔面パンチをくらい、
いじめっこBが地面に倒れ込んだ。

続いてA、Cと、ミカサはそれぞれ一撃で気絶させた。



状況が全く飲み込めない。



気づいたら無表情のミカサが僕に手を差しのべていた。


ミカサ「アルミン、大丈夫?」


僕は間抜けな声で「ありがとう」と呟いて、ミカサの手をとった。


エレンが少し不満気な顔をしている。


それもそうだ。
非力であるはずの女の子が年上の男の子を一撃で気絶させてしまったのだ。


エレン「おい、こいつら気絶しちゃったじゃないか」

ミカサ「おじさんを呼んでくる?」

エレン「そうすると怒られるから、今起こせ」



エレンの無茶ぶりをミカサは素直に「わかった」と聞き入れて、
地面に伏せるいじめっこたちを「起きて」と揺らし始めた。



少しして目を覚ましたいじめっこ達は、
「すいませんでした!」と逃げるように走っていった。



動きを止めていた頭がようやく働き始めた。


女の子に助けてもらうなんて、なんて情けないんだ。
しかもよりによって、好きな女の子になんて。


思わず大きくため息をついてしまった。


ミカサはエレンの殴られた所を撫でる手を止めて、僕の方へ来た。


ミカサ「アルミン、どこか痛いの?」


さっきとは比べ物にならないほど優しい瞳で、
ミカサは僕の手をとってまっすぐ目を見つめてきた。


自分のダメさに嫌気がさして、手を振りほどいて、目を背けた。



すぐに罪悪感が襲ってきたけど、「ごめんなさい」は声にならなかった。



ミカサ「アルミンは、いつもああしていじめられているの?」


う、と声が漏れた。
なかなか痛いところを突かれてしまった。


アルミン「…仕方ないよ。壁の外へ行くのなんて、死にに行くようなものだし」


ほんとはこんなこと思ってないのに。



口から飛び出た言葉はもう取り返すことが出来ず、ただ下を向く。



アルミン「確かに壁の中に閉じ籠っていれば、少しは安全なのかも知れないけどね」



ぽつりと、落とすように呟いた。



ミカサ「またいじめられたら、私が助けるから。安心して、アルミン」


やわらかな顔でミカサが言った。
続いてエレンも同じように言った。



僕は二人から助けられる存在なのか。

そう思うと、急に二人が遠ざかった気がした。


いつか、置いて行かれたり、見捨てられる日が来るんじゃないか。



エレンもミカサもそんなことするわけないのに。
そんなバカみたいなことばかりが頭を巡る。


エレン「そうだ、母さんがおやつにホットケーキを作るからアルミン呼んでこいって言ってたんだ」


パッと思い出したようにエレンが僕を見て言った。


ミカサ「私ホットケーキ初めて食べるから、楽しみ」フフフ


はにかんで笑うミカサを見たら、
頭の中をぐるぐる回っていたバカみたいな考えが、すっかりどこかへ行ってしまった。


アルミン「カルラおばさんのホットケーキ、すごくおいしいんだよ!」


僕は今出来る中で最高に明るい声で言った。

「もっと楽しみになった」そう言って笑うミカサは、さっきとは別人のようだった。




誰がどこからどう見ても、
男の子を一撃で気絶させてしまうような子には見えないミカサ。


山で野菜作ってると、そんなに力が強くなるのかな。

やっぱり農作業って大変なんだな。



畑を耕す、たくましいミカサを想像しながらエレンの家へ向かった。




ホットケーキはもちろん美味しかった。



ミカサは初めて食べたホットケーキに感動したらしく、
一口食べるごとに周りに花を散らしていた。


カルラおばさんが、ニコニコしながらそんなミカサを見つめていた。

まるで自分の娘を見つめるように、やわらかい顔だった。



その日食べたホットケーキは、いつもより少しだけ甘い気がして、
ふわふわとした甘みが、僕の口の切れたところから染み込んでいった。



ねむい。

今日はここまでにします。
見てくださってる方、ありがとうございました



ささやかな宣伝

ミカサ「私とエレンの関係?」
というSSが処女作です。

眠れない夜、暇すぎて時間を持て余してるときなど、
気が向いたらぜひご一読ください。

ちなみに、かっこいいミカサはいません。

宣伝失礼しました。


それでは、よい夢を
おやすみなさい


こんばんは
レスくれた方、ありがとうございます

前作読んでくれてた方居たみたいで嬉しいです
あれが自分にとって一番理想のエレミカです。笑


本当は>>21の後に入る予定だったのが、昨日更新した分でした。

まあ、過ぎたことはどうでもいいですね


えっと、ラストはだいたい書けたんですが
そこに至るまでがほとんど書けてません

とりあえず今日の分はあと少しで終わるので、今から書きためてきますね



余談ですが、
関東は今日23話放送でした
ミカサかっこよかったです
アニもなかなか綺麗でしたね


それでは、1時から2時の間に来ます



………


重く空にかかる分厚い灰色の雲が、太陽をすっかりどこかへ隠してしまったから、
まだ昼間だというのにどんよりと暗い。


おまけに、雪でも降りだしてしまいそうなほど寒い。




気持ちまで暗くなりそうな天気の中、
僕はおつかいを頼まれたので、市場に向かう。


買ったものを入れるカゴと、必要なだけのお金を持って曇り空の下を歩く。



途中で見上げた、巨人から僕らを守る柵のような壁の外まで雲は続いてた。


あの雲は、壁の外を見ているんだろうか。



前に、壁の外のことの本で読んだことがある。

雲は海からやってくるということ。
本当か嘘かは定かではないけど、あの暗く重い雲が海で生まれたと思うと、気分が晴れる。



早くおつかいを済ませて、エレンの家に行こう。


雲が海から来るってことを話してあげたい。
この話は多分まだしてなかったはず。



思いの外、買い物が早く終わった。

再び、相変わらずの曇り空の下を歩いて家に帰る。



いつもの曲が角を曲がると、見慣れた後ろ姿が見えた。



アルミン「エレン?」

エレン「ん、おぉ。アルミン」

アルミン「あれ、ミカサは?」


いつもエレンの斜め後ろにいるミカサが見当たらない。


エレン「熱出しちまって、家で寝てるんだ。だからアルミンに今日遊べないって言いに来たんだよ」

アルミン「え、大丈夫なの!?」


僕は少し食い気味になって言った。


エレンはちょっと驚いていたようだが、
そんなことを気にする余裕はなかった。


エレン「ああ。そんなに熱もたかくないし、父さんも付いてるし大丈夫だ」


よかった。
エレンの大丈夫という言葉を聞いて僕はホッと胸を撫で下ろした。


アルミン「ならよかった。でも、心配だね……」

エレン「そんなに心配なら、お見舞いに来るか?」


お見舞い…
思い付かなかった。



見てくれてる方、ごめんなさい
想像以上の眠気に襲われているので、今日は寝ます


今日の分続きは明日の朝に更新します

待っててくれた方、本当に申し訳ない


それでは、おやすみなさい


おはようございます
レスくれた方、ありがとうございます


昨日書いた書きためたやつを書き直してたら
少し遅くなってしまいました
お待たせしてしまってすみません
待っててくれた方、ありがとうございます



愛知県に上陸したみたいですが、大丈夫でしょうか
出掛けないで済むのであれば、
今日はずっと家にいるのがいいですね

私も今日は学校が休校になりましたし、
頑張って書きためしますね

お出かけの予定がある方は、どうか無理をなさらずに



それではぼちぼち投下していきます
よろしくお願いします


行きたいけど、熱が出て辛いときに行ってもいいのだろうか。

心配だけど、僕のせいで余計体調が悪くなるのは嫌だ。



アルミン「行きたいけど、僕が行ったら迷惑かけちゃうよ」

エレン「なんでだよ。アルミンが来たら、ミカサは絶対喜ぶぞ!」

アルミン「……本当?なら、行きたい!」

エレン「じゃあ、アルミンの家行って、荷物置いてから一緒に行こう」



灰色の帰り道をエレンと歩く。

僕が行ったら、少しは元気になってくれるかな。



家に付いて、ミカサのお見舞いに行くことを母さんに話すと
ミカサに、といって真っ赤なリンゴをくれた。



ピリッと寒い、今にも雪がこぼれそうな空の下を
エレンの家に向かって二人で歩く。

リンゴを3つカゴにいれて。



ミカサが早く元気になるように、
エレンと二人でおまじないをかけてみる。

効果はないとわかっていても、やってしまう。




角を曲がると、エレンの家が見えた。



いつものように「おじゃまします」と声をかけて入る。


おばさんにカゴに入ったりんごを渡して、
エレンと一緒にミカサの眠る部屋に入る。



ちょうど起きていたみたいだ。


アルミン「ミカサ、大丈夫?」

ミカサ「アルミン、来てくれたの?私はもう大丈夫。ありがとう」


いつもより弱々しい笑顔だった。

汗ばんだ額と、赤い頬に潤んだ瞳。
僕から見たら、全く大丈夫そうには見えなかった。



アルミン「無理しないでね」

ミカサ「無理はしてない、大丈夫」


気を使っているのかな、それは嫌だ。
ミカサの「大丈夫」はあまり信じられないな。


グリシャ「熱もさっきより下がったし、今日明日大人しくしていればすぐによくなるよ」

グリシャ「明日までにはきっと、だるさも咳も治まるから」


ミカサは「よかった」と小さく呟いて、
ケホケホと、苦しそうに咳をした。




カルラ「ミカサ、起きてる?」


静かに扉を開いて、カルラおばさんが入ってきた。


カルラ「ミカサ、これ食べられそう?リンゴよ」


おばさんはミカサに、すりおろしたリンゴを渡した。


「二人にはこっちよ」と言って、僕たちにもリンゴを渡す。

僕たちの分は普通に切ったリンゴ。
皮がウサギのようにになっていてかわいい。



カルラ「このリンゴはアルミン君が持ってきてくれたやつよ。ミカサ、これ食べて早く治しなさい」


やわらかく、やさしいほほえみを浮かべながら、ミカサの頭をなでた。


ミカサは一口すりおろしたリンゴを口に入れると
「甘くておいしい」と言って、 またもう一口、口へ運んだ。


カルラ「ショウガとハチミツも入ってるから、すぐ元気になるわ」

ミカサ「アルミン、おばさん、ありがとう」


穏やかなその笑顔で、僕も熱を出してしまいそうになった。


頬の赤みをリンゴに溶かすように、
僕はウサギの形をした甘いリンゴをかじった。



とりあえずここまでです


急遽追加したエピソードなので、
内容がうすっぺらくて短くなってしまいました



次のはもう出来ているので、
また少し書きためができたら投下します

なかなか思うように書けず、時間がかかるかもしれませんが
よろしければ、お付き合いください


それでは、またあとで


こんばんは
レスくれた方、ありがとうございます

今夜は涼しくていいですね


それでは、ぼちぼち投下していきます
よろしくお願いします


………

シガンシナ区は、壁に囲まれた人類の活動領域の一番南の街であるが、
それでも冬は寒い。

他の街よりは、ずいぶん暖かいのだろうけど、
最近は冬の寒さもピークを迎えた。


お昼を過ぎた頃の暖かい時間帯だが、
外の空気は肌を刺すように冷たく、吐く息は雲のように白い。


いつもより少し厚着をして、僕はエレンの家に向かう。





昨日、エレンに「明日はとっておきのことがあるからうちに来い」と言われたのだ。


「とっておき」が何のことかはわからないが、少し楽しみだ。




少し歩いたところで、見慣れたエレンの家についた。


2,3回ノックをすると軽い足音と、
エレンの「はいはーい」と言う元気な声が聞こえた。


アルミン「エレン、来たよ」

エレン「いま開けるー!」


扉が開くと、部屋のなかの暖かくふくらんだ空気が
ふわっと外にもれてきた。


エレン「おう、来てくれてありがとな。あがれよ」

アルミン「うん、じゃあお邪魔します」


家の中に入ると、僕は完全に暖かい空気に包まれた。


なにやらおいしそうな匂いがする。


キッチンではカルラおばさんが忙しそうに料理をしてるから、
それのせいだと思う。




おじさんとおばさんに「お邪魔してます」と声をかけて、
少し話をしていると、エレンに引っ張られた。



エレン「アルミン、こっち!」


エレンに連れられてミカサとエレンの部屋に向かう。


そういえば「とっておき」ってなんだろう。



アルミン「ねえ、エレン。とっておきってなに?」

エレン「とっておき…?」



エレンは斜め上に目線を移して、少しだけ眉をしかめた。


エレン「…あれ、言ってなかったか?今日ミカサの誕生日なんだ」

アルミン「初耳だよ!!」


なんで言ってくれなかったんだ!
何も用意してないのに…



僕は少しだけ睨むようにエレンを見つめた。


エレン「そんな怒るなよ。みんなでミカサの誕生日パーティーするんだからいいだろ」

アルミン「言ってくれれば僕も家から何か持ってきたのに…」

アルミン「プレゼントだって何も用意してないよ」

エレン「いいんだよ、そんなの」


エレンはそう言っているけど、やっぱり何かプレゼントしたかった。



第一、家族でもない僕がミカサの誕生日パーティーなんか参加していいのだろうか。

どう考えても、邪魔にしかならないと思うんだけど。


アルミン「僕が来てよかったの?」


エレンが部屋の扉を開くとき、
八つ当たりをするつもりで、小さく呟いた。


ミカサ「アルミンが来ちゃいけない理由が見つからない」



背後からいきなりミカサの声がした。

僕とエレンはほとんど同時に声を上げ、勢いよく振り向いた。



ミカサ「アルミンは私の唯一の友達。私はアルミンにも祝ってほしい」


ミカサは驚く僕らを不思議そうに見ながらそう言った。


ミカサ「…もちろん、アルミンが嫌じゃなければ、だけど」


少し遠慮がちに呟いて、僕を見つめた。


アルミン「ぜ、全然嫌じゃないよ!すごい嬉しいよ!」

ミカサ「そう、よかった」ニコッ


ミカサのやわらかい微笑みが、僕を包む。
僕は君のこの顔が一番好きなのだ。


エレンが得意気な顔で何かを言っていたみたいだが、僕には聞こえなかった。



エレン「おい、アルミン聞いてる?」

アルミン「へ、え、ああ、ごめん聞いてなかった」


エレンの言葉でふっと我に帰り、止まった時間が動き出した。


エレン「アルミンが聞いてなかったせいでなに話すか忘れた!」
アルミン「え、それは僕のせい?」




しばらく下らない話をして、おなかがすいてきた頃、
キッチンの方からカルラおばさんの声が聞こえた。


カルラ「できたわよー」


エレンは待ってました、と言わんばかりに「はーい」と大きな声で返事をした。


エレン「ほら、ミカサ、アルミン。行くぞ!」


僕とミカサはエレンに引っ張られるように部屋を出た。


イスに座ると、おばさんがニコニコしながらホットケーキを運んできた。


バターとシロップがかかったものではなくて、
たっぷりのクリームと、いちごが乗ったものだった。


アルミン「え、これ僕も食べていいんですか?」

カルラ「当たり前でしょ、今日はミカサの誕生日よ。みんなでお祝いしましょう」


そう言っておばさんは、エレンと同じ笑顔で僕に紅茶を淹れてくれた。


おばさんが全員分のホットケーキと紅茶を用意して、席についた。


グリシャ「ミカサ、誕生日おめでとう」


全員でミカサにおめでとうを言うと、
ミカサは恥ずかしそうに、
そして嬉しそうに「ありがとう」と言った。


カルラ「それじゃあ、冷めないうちに食べましょう」



「いただきます」と、いつかミカサに教えてもらった食前のあいさつをしてから、
ホットケーキにナイフを入れる。


いつもより、特別な味のするホットケーキ。


特別な味がするのは、クリームやいちごだけのせいじゃなくて、
今日がミカサの誕生日だからかもしれない。



口の横にちょこんとクリームをつけて、
おいしそうにホットケーキをほおばるミカサに
「生まれてきてくれてありがとう」と、心のなかでそっと呟いて、一人で恥ずかしくなった。



あまりにも美味しくて、あっという間に食べ終わってしまった。



みんなで紅茶を啜りながら、なんでもないような話をした。


アルミン「やっぱり、ミカサにプレゼントあげたかったなぁ」


どういう話の流れでその話になったのかはあまり覚えてないが、
僕は紅茶に口をつけながら小さくぼやいた。


エレン「もー、アルミンはまだそんなこと言ってるのかよー」ムゥ

カルラ「アルミン君は優しいわね、エレンも見習ってほしいわ」


おばさんはエレンの頭を軽く小突いて、僕に優しくそう言った。


ミカサ「アルミン、私はプレゼントなんていらない」

ミカサ「今日、アルミンが来てくれたから、私はそれだけでとても嬉しい」

ミカサ「私は、家族と友達に誕生日を祝ってもらえて本当に幸せ」フフフ


僕は胸の奥がジーンと熱くなるのを感じた。
それと同時に、世界が滲んだ。

それほどに嬉しかった。
まさか、そんなことを言われるとは思わなかったから。


ほんとは涙がこぼれてしまいそうだったけど、
こんなことで泣くのは格好がつかないし、恥ずかしい。

ぐっと涙を引っ込めて、精一杯笑った。


アルミン「僕も、君の誕生日を祝えて本当に嬉しい。お誕生日おめでとう」


その時に見たミカサの顔は、いつまでも見つめていたいと思ってしまうほど
幸せそうな表情だった。


エレンもそれを見たらしく、
満月みたいなエレンの瞳を三日月の形にして笑った。


二人の顔を焼き付けるように目を閉じて、
僕は再び、少し冷めた紅茶に口をつけた。




スーパー眠い……

今日はここまでです
見てくださってる方、ありがとうございます



これから、更新が2日1回ペースかそれよりもっと減るかもしれません

でも、必ず完結させるので、
お待たせしてしまうこともあるかもしれませんが、
どうぞ、気長に待っててください

最後までお付き合いいただけたら嬉しいです


それではおやすみなさい



こんばんは
レスくれた方、ありがとうございます


更新できそうなので更新しますね


次のお話は、少し長めになってしまったので
今日と明日と、2日がかりになります


それではぼちぼち投下していきます
よろしくお願いします


………


絹のような、やわらかくさらさらとした風が、僕の頬を撫でる。

僕を包み込むような青い空には、ほわほわした雲が浮かんでいる。

心地よい日差しが、辺りを色とりどりに染めていく。

深く息を吸い込むと、青々とした草の香りが僕の体に染み込んでくる。


エレンの誕生日も過ぎて、三人とも9歳になった。




そして、ようやくシガンシナに春がきた。



僕は、春が一番好きだ。


やわらかな日差しも、やさしい風も、草の匂いも、全部好きだ。

綺麗な花が咲くのも、僕が春が好きな要因の1つだ。



毎年、春を楽しみに冬を越してきたが、
今年はいつもの10倍くらい春を心待ちにしてきた。

理由はもうわかると思うが、ミカサが来たからだ。



冬のある日、三人で行こうとミカサと約束した。

たくさん花が咲く丘にミカサを連れていくことを。


うららかな春の陽射しに、微かに眠気を誘われながら
僕はまたいつものように、エレンの家を目指す。


見慣れた道も、花壇に植わる花のおかげで新鮮に感じた。


鼻に入ってくる花の匂いを感じて、足取りも軽くなった。


途中の空き地には、黄色い菜の花が咲き乱れていて春のじゅうたんを作っている。




エレンの家に着くと、色とりどりのチューリップが僕を迎えてくれた。


今日は珍しく、ミカサが扉を開けて僕を迎えてくれた。



もう春だというのに、
ミカサはまだエレンのによく似た赤いマフラーをしている。


余程の寒がりなのか、それとも他に何か理由があるのか。



ほとんど毎日会ってるから聞こうと思えばいつだって聞けたのに、
僕は何故かそれをどうしても聞けなかった。


アルミン「ねえ、今日あそこ行こうよ!きっともう大丈夫だよ」

エレン「そうだな、もうそんな時期か!今年からはミカサも一緒だな」

ミカサ「…ねえ、二人とも。何の話をしているの?」キョトン


エレンの家に着いてすぐに僕は話を切り出した。
エレンはわかったみたいだったけど、
ミカサはなんの話か全くわかってない様子だ。


うっかりしてた。

エレンとは毎年これだけで通じていたけど、
ミカサは今年初めてだから分からないに決まってる。


アルミン「ごめんね、ミカサ。でも覚えてない?この前エレンが窓割った時に話したと思うんだけど」

ミカサ「……綺麗な花がたくさん咲いてる丘?」


アルミン「そうそう、それ!」

エレン「今年ももう、花が咲いてきた頃だろうし今日行ってみよう」

ミカサ「本当?なら行きたい、連れて行ってほしい」

エレン「じゃあ、そうと決まればもう行こう!」


エレンは僕とミカサの手を掴んで走り出した。

僕は左手、ミカサは右手。


ミカサ「楽しみね、アルミン」

エレンの左手が握る自分の右手を嬉しそうにじっと見つめた後、
一瞬だけ僕の目を見て言った。


胸の奥がちくりと痛んだ。


僕が「そうだね」と返す頃には、すでにミカサの視線は右手に戻っていた。


僕はなるべく気にしないように、花壇の花に目を移す。


エレン「よし、じゃあミカサはここから目閉じとけ」

ミカサ「?わかった」


もう少し登ったら、花がたくさん咲いているところに着く。



目を開けたとき、ミカサはどんな顔をするだろうか。

今年の楽しみは、花よりもむしろそっちにあった。



ミカサ「エレン、まだ?」


きゅっと目を瞑ったままのミカサが、不安そうにエレンに問いかける。


エレン「あと少しだから、頑張れよ」

ミカサ「わかった」

ミカサは右手を握る力を若干強めて、少しうつむいた。


エレン「ミカサ、もう目開けていいぞ」


エレンがそう言ったのは、一番綺麗に花が見えるところ。

去年、僕たちが二人で決めたとっておきの場所だった。


今年も、綺麗にたくさんの花が咲いている。


ミカサは眩しそうに少しずつ目を開いていった。


瞼をすべて上げたあと、ミカサはさらに目を大きく開いた。


ミカサの黒い瞳に、春の太陽が反射して宝石のように輝いた。



ミカサ「すごい、素敵。こんなに綺麗だなんて。本当に、綺麗」

ミカサ「エレン、アルミン。教えてくれて、連れてきてくれて、ありがとう」ニコッ



春の訪れのように、朗らかな春の太陽のように、ミカサは笑った。




真っ白なシロツメクサ、鮮やかなオレンジのヒナゲシ、小さな青いわすれな草。
?
一面に咲いた色とりどりの花たちが、そよそよと風に揺れている。
?
?
?
ミカサ「二人は毎年、ここへ来てたの?」
?
エレン「ああ、そうだよ。綺麗だろ」
?
ミカサ「ええ、とっても綺麗」
?
?

ミカサはそっと花をなでて、優しく目を閉じた。
?



アルミン「エレンはここで昼寝するのが好きなんだよ」

ミカサ「こんなに綺麗な花が咲いているのに、寝るのはもったいない」

エレン「バカだな、ミカサ。だからいいんじゃねぇか」

ミカサ「そういうもの?」

エレン「ああ、そういうもんだ」


エレンそう言って、いつもの木の下まで走って行った。

確かに、あそこの木陰で眠るのは本当に気持ちがいい。


エレン「ミカサも寝てみろよー」

さっそくエレンは木の下にゴロンと横になった。
?



僕とミカサものんびり歩いて木のそばへ向かう。


ミカサ「私はいい、今日は花を見ていたい。また明日、そこで寝てみる。

アルミン「僕もミカサと花を見てようかな」

エレン「じゃあ、俺寝てるから適当に起こしてくれー」

アルミン「わかった、おやすみ」

ミカサ「エレン、おなかを冷やさないように気をつけて」

エレン「わかってるよ」


エレンはのそのそと寝返りをうった。



ミカサは数歩歩いてしゃがみこみ、小さな黄色い花を見つめた。


ミカサ「アルミン、この花の名前わかる?」


僕が隣に来たのに気づいて、花を見つめながら言った。


アルミン「それは、カタバミっていう花だと思うよ。こんなに可愛い花なのに、こいつは雑草に分類されるんだ」

ミカサ「雑草…可愛そう」

アルミン「でも、雑草っていうことはたくましいってことだからね。弱いよりずっといいよ」


ミカサは「そうね」と言って、優しく花を撫でた。


アルミン「カタバミの花言葉は心の輝きって言うんだって。素敵だよね」

ミカサ「ええ、とても素敵。黄色いからなんだろうか」

アルミン「あはは、僕も由来までは分からないや」



少し強い風が吹いて、ミカサの髪がまるで水みたいにさらさらと風になびいた。

長い黒髪の上をするりと光が駆けていく。

ミカサは、うっとおしそうに流れる髪を耳にかけた。




それは、とても??



ミカサ「アルミン?」

アルミン「ふぇっ!?」



スローモーションのように流れていた景色が、
ミカサの声でぱっと元のスピードに戻った。

風に揺れるミカサの髪、それはとても綺麗だった。

どんな花よりも、ずっと美しかった。


そんな月並みな感想しか思い浮かばないほど、僕はミカサに見とれていた。


ミカサ「アルミン、どうしたの?ボーっとしてた」

アルミン「え、そうかな。なんでもないよ!あ、ほらシロツメクサだ」


上手かったかどうかは別として、どうにか話題をそらした。

四つ葉を見つけると幸せになれるんだって、とか今じゃ誰でも知っているようなことを話す。



ミカサ「アルミン、シロツメクサの花言葉はわかる?」

アルミン「えーっと、確か約束だったかな」

ミカサ「約束?どこにそんな要素があるの?」



ミカサは不思議そうにシロツメクサをつつく。

僕は少し勇気を出して、近くの綺麗に咲いたシロツメクサを1本だけ抜いた。

それでミカサに見られないように、小さな指輪を作った。



アルミン「これは、僕が思ってるだけだから本当かどうかわからないけどさ、きっとこういうことだと思う」


じっと僕を見つめるミカサの手を取って、
ミカサの小さな指にシロツメクサの指輪を付ける。







アルミン「大人になったら、僕と結婚してください」


とりあえず今日はここまでです



どうしても、使い古されたような表現になってしまう。

セリフだけのSSとは違って、地の文をつけると
とたんに指が止まりますね。

うむむ、難しい。


今回の話のお花は、一応全部ググってヨーロッパ原産ということを確認しましたが
(進撃の舞台はヨーロッパあたりだと思ってる)
自分はあまり花に詳しいわけではないので
間違ってる部分も多々あるかとおもいますが
そこはスルーでお願いします

でも、バカでかいミスは指摘していただけるとありがたいです。


それではまた明日
おやすみなさい、よい夢を

前作はやたらと原作に拘ってた気がしたが・・・記憶違いだったらすまん。
しかし今回はやたらとぶっちゃけてるのはやっぱり
報われないアルミンへの信者の願望や妄想が馬脚となり表れた
という事で良いのでしょうか?

まあ、まだ分かりませんが頑張ってくださいね乙


こんばんは
レスくれた方、ありがとうございます


>>136

良いのでしょうかと言われましても…

私はアルミン信者ってわけではないですし、
(むしろ一番好きなのはミカサですし)
SSなんて、作品の良否にかかわらずどんな作品も願望や妄想ですからねー

もちろん自分も「こんな幼馴染だったらかわいい」の気持ちだけで妄想垂れ流してますしね。笑



まあ、こんな話はどうでもいいですね。



それでは、ぼちぼち投下していきます。
よろしくお願いします


アルミン「……っていう感じで、将来を約束しあったりするんじゃないかな」


僕は冗談めかして笑った。

きっと僕は耳まで真っ赤に染まっているんだろう。


あと少し、勇気が足りなかったのか。

震える手を隠すように後ろへやった。


ミカサ「アルミンはロマンチックね」


ミカサは自分の指にはめられた、不格好な指輪を見て微笑んだ。




上手くごまかせているだろうか。

半分以上本気だったとか、気づかれてないだろうか。



アルミン「僕ちょっとあっちの方見てこようかな!」


いてもたってもいられなくなって、僕は小走りで立ち去った。



なるべくなんでもないように装いながら。
?




ずいぶんとミカサから離れたところまで走ってきた。

花を見つめるミカサがあんなにも小さく見える。



僕は大きくため息をつきながら座り込んだ。

ミカサは笑っていたけど、本当はどう思ったんだろう。



でも、あんなことを言ったということよりも、
その後に走って逃げていたことを後悔している。


あのままなんとかやり過ごすことだってできただろうに。


もう一度大きなため息をつくために、深く息を吸い込むと、
微かに甘くさわやかな香りが肺を満たした。


立ち上がって辺りを見渡すと、
また少し離れたところに淡い紫色の花を付けた木が揺れていた。



近づくにつれて、香りが強くなっていく。

木の下まで歩き、少し見上げてみる。



アルミン「え、うそ、これって…」



思わず声が漏れた。

足がつりそうになるほど背伸びをして、小さな花の固まりを取った。



ああ、いい香りだ。

目を閉じて、鼻で大きく息をした。


後ろを振り替えると、ミカサの丸まった背中が見えた。



さらさらと吹く風になびく髪の毛のすき間から、赤いマフラーが見え隠れする。


花を持っていない方の手のひらをぎゅっと握った。




僕はさっき出し切れなかった残りの勇気を絞り出して、
今度はミカサの方へ走った。


軽く息を整えてから、ミカサの目線の先に影を落として声をかけた。


アルミン「ミカサ」

ミカサ「あ、おかえりなさい」


ミカサはすっと立ち上がって僕を見た。


ミカサ「何か、綺麗な花は見つかった?」



もう一度手のひらをぎゅっと握った。


ゆっくりと深く息を吸って、同じ速度で吐き出した。

そして、なるべくいつもと同じように薄く笑った。


アルミン「うん、あったよ。少し持ってきちゃった」

アルミン「君にあげる」


一番綺麗に見えるであろう角度で、ミカサに差し出す。


ミカサ「綺麗、それにとてもいい香り」


ミカサは目を閉じて、花を自分の顔に近づけて、
微かに口角を上げた。


ミカサ「アルミン、このお花の名前は何て言うの?」


黒く長い睫毛を伏せたまま、ミカサは僕に聞いた。


アルミン「その花の名前はライラックって言ってね、香りがいいから香水の原料なんかにも使われるんだ」

ミカサ「確かに、とてもいい香り」


そう言って、肺に香りを送り込むように
もう一度深く息を吸い込んだ。


ミカサ「アルミン、この花の花言葉は何?」

アルミン「えっと、なんだったかな。ごめん、忘れた」


ミカサは少し残念そうにもう一度目を閉じた。


アルミン「ライラックの花びらは普通4枚なんだけど、花びらが5枚ある花を見つけると幸せになるんだって」

ミカサ「クローバーみたい、でも素敵ね。これは全部4枚なの?」

アルミン「さあ、探してごらん。でも5枚の花びらは、ほとんど見かけないからね」


僕がそう言うと、ミカサはすぐに花を指差しながら
花びらの数を数え始めた。


ミカサ「アルミン、これ5枚ある」


信じられない、といった表情で花の固まりのなかの1つを指差して僕に見せた。


アルミン「本当だ、これでミカサは幸せになれるね」



ミカサは一瞬固まった。


だけど、またすぐにふわっと笑って「ありがとう」と言った。



本当に偶然だったのだ。

ふと見上げた花の1つが目に入って、
ただなんとなく数えてみら、花びらが5枚あった。



僕も本当に驚いたし、信じられなかった。


だから、どこかの神様がリベンジの機会を僕にくれたんだと思った。



幸せそうに5つの花びらを撫でるミカサから、
春風に乗って甘く優しい、ライラックの香りがした。


アルミン「ミカサ、その花ちょっとだけ貸してくれない?」

ミカサ「ええ、もちろん」


ミカサから、淡い紫色のライラックを受け取った。



ミカサの髪に手を伸ばし、するりと左耳に髪をかけた。

そして、そっとライラックの花を耳に乗せて、
馴染ませるようにさらり髪を撫でた。



僕はいま、初めてミカサの髪に触れた。


絹糸のようにやわらかく指を滑るミカサの髪に、
できることならいつまでも触れていたいと思わずにはいられなかった。


なんとかそれをぐっとこらえるように、最後にもう一度髪に指を通した。


アルミン「うん、とってもよく似合う、綺麗だよ」

ミカサ「本当?嬉しい」


僕のあげた不恰好な指輪を付けた方の手を、
そっと口を押さえてミカサは笑った。



ミカサがこんな笑い方をしたのを見たのは初めてだ。


これはもしかしたら、照れているのではないだろうか。

そんなミカサがたまらなくいとおしく思えた。


ミカサ「アルミン、これエレンにも見せたい。起こしてもいいだろうか」

アルミン「うん、いいと思うよ。一緒に起こしに行こうか」



エレンが眠っている木の下までの短い距離を二人でゆっくりと歩いていく。


エレンは木陰で気持ちよさそうにすやすやと眠っている。


ミカサはエレンの顔の横にしゃがんで、シロツメクサの指輪をした手で頬をすっと撫でた。


その時のミカサの顔は驚くほど穏やかで、慈愛に満ちていた。



あの時のように、また僕は二人の間に特別な何かが見えた。



同時に悟った。

ミカサのあの表情は、決して僕には向けられることはないと。



何故そう思ったのか、自分でもわからない。


でも僕はきっと、未来永劫この二人の間に入ることは出来ない。


それだけは、ハッキリとわかった。


ミカサ「エレン、起きて」


ミカサがエレンの頬をペチペチとたたく。

何十回か叩いて、エレンの頬が少し赤くなってきたころ、エレンは目を覚ました。


エレン「なんだよもー」


眠そうに目をごしごしと擦って背伸びをした。


ミカサ「見て、エレン。これ、アルミンがくれた。花びら5つ」

エレン「おお、いい匂いだな。それに、結構似合うもんだな」


エレンはニカッと笑って、ミカサの髪を撫でた。


そしてまた、ミカサは口元に手をやって、
シロツメクサを咲かせて笑った。



さっき僕がやったより時も、ずっと嬉しそうに。


ミカサ「アルミン、こんな素敵な花を見つけてくれてありがとう」


ミカサは僕の頬に手を伸ばしてスッと触れた。


ミカサ「次にここへ来た時も、お花のこと教えてほしい」


いつもの優しい顔で、ミカサは言った。



エレン「やっぱアルミンは何でも知ってて凄いな」

アルミン「そんなことないよ」



何でもなんか、知ってるはずない。


君たちの間に感じた特別な何かが何なのか
僕には検討もつかないんだから。


エレン「今日はもう帰るか!そんでミカサのそれ母さんに見せよう、絶対喜ぶから」

エレン「アルミンもうち来いよ、うちで遊ぼう」

ミカサ「それはとてもいい案。私もおばさんに見てほしい」

アルミン「それじゃあ、僕もおじゃましようかな」

エレン「よし、そうと決まればもう帰ろう!」



エレンは僕とミカサの手を掴んで走り出した。



僕は右手、ミカサは左手。



肌に感じるやさしい風がライラックの香りを運んできた。



ごめんね、ミカサ。

僕、本当はライラックの花言葉も知っていたんだ。

僕は臆病者だから。
こんなことしかできないんだ。



伝わらなくても、それでいい。

ほんの少しの間だけでもいいんだ。

君が僕のあげたライラックを愛でてくれたなら

君のその綺麗な髪に馴染んで、そこで香っていてくれたなら


僕はそれだけで十分だよ。



偶然見つけた、5つの花びらがきっと君を幸せにしてくれる。



ーーミカサ、僕の『初恋』を君にあげる。


とりあえず今日はここまでです。

日付変わる前に終われて嬉しいです



野生のライラックの花言葉は、厳密に言うと違うらしいんですが、
ライラック全体の花言葉ってことでどうか一つよろしくお願いします。

それと、ヨーロッパのどこかでは
ライラックを人にあげちゃいけないとか
家に持ち帰ったらいけないとかいろいろあるみたいなんですが
その辺もスルーでよろしくお願いします。

あともう一つ
5つの花びらのライラックは、
見つけると幸せになるっていうのの他に、
何も言わずに飲み込むと、好きな人が心変わりしない
とか、そんなのもあるみたいですが、
ここでは四つ葉のクローバーみたいな感じとしてください。



次の更新は少し時間が空いてしまいます。
ごめんなさい。

それでは、また今度
おやすみなさい、よい夢を。

乙です! なんつーロマンチストな9歳児だ・・・さすがアルミンw
ところでその丘って1話冒頭の場所ですかね?


こんばんは、お久しぶりです
1週間も空けてしまってすみません


>>165
そうです、わかっていただけて嬉しいです
原作では色がないせいか、少し寂しい場所でしたが
アニメはとても綺麗な場所になっていたので、使わせていただきました


SSとは全く関係ない話ですが、

先週の木曜日の中秋の名月ご覧になりましたか?

原作エレンの瞳の色はあんな色なのでしょうか

なんにせよ、とても綺麗でしたね



今日の更新分は、
前回の話とはずいぶん毛色の違う話になります


それでは、ぼちぼち投下します
よろしくお願いします


………



気持ちよく晴れた空のてっぺんから、太陽が僕をやさしく照らす。

午前中は雨が降っていて寒かったのだが、もうすっかり晴れて暖かい。


強く爽やかな風が、ふっと目を閉じたくなるような花の香りを運んできた。

小さな白い蝶が、ひらひらと近くの花に止まる。



ぐんと濃くなった春の色を目に映しつつ、
僕はいつものようにエレンの家のドアを叩く。



アルミン「エレーン、ミカサー」

エレン「おう、アルミン。じゃあ行くか」


ミカサもかなり気に入ってくれたみたいだし、
春になってからは、毎日のようにあの丘に行っている。


僕も、花を見つめるミカサがたくさん見られるからうれしい。




僕の家から行くと、ちょうどエレンの家のすぐそばを通るから
僕が毎日二人を迎えに行っているのだ。


これは、僕とエレンがあそこを見つけたときからずっと変わらない。



いつもの道を三人で歩く。


今日は心なしか二人の様子がいつもと違う。


ぎこちないエレンの笑顔が胸に引っかかる。

ミカサも少しうつむいて、エレンの服の裾をつかんでいる。



いつもと同じ三人と、いつもの道を歩いているはずなのに、
何故か見える風景は全く違った。



花の色も、目に入らない。

目に入ってくるのは、いつもと違う二人の背中だけだった。




こんな日に限って、あの丘までの道のりがいつもより何倍も長く感じる。


いつもはむしろ心地いいくらいの沈黙が、重くずっしりとのしかかってくる。



あれこれ考えているうちに、ようやく着いた。


この場所はいつ来ても、美しいと感動するのだが、
今日はいつものような感動がほとんどない。

花の色も香りも、感じることができない。


ミカサの髪の毛が風になびいても、今日はそれを気にすることは出来なかった。




エレンは真っ直ぐ木の下を目指して歩く。

ミカサも一緒に、エレンの裾をつかんだままで。



僕は2歩ほど遅れて、二人の背中を見つめながら歩く。


エレンは木の下でドサッと座り、ミカサもその横に座った。


エレン「アルミンはここに座ってくれ」


エレンはポンポンと、自分の斜め前の地面を叩いた。

エレンとミカサの前。



僕は少し強く短く息を吐いて、二人と向き合う形で座った。


エレンの目が、いつになく真剣だった。


エレンはその太陽のような目を閉じて、すぅっと息を吸った。

目を開けて、キッと僕を見つめて少し低い声で言った。


エレン「アルミン、今日はお前に大事な話がある」




ああ、そういうことか。


僕もエレンと同じようにして、覚悟を決めた。


アルミン「うん、わかった」



僕がそう言うと、エレンはまた少し目を閉じて下唇をキュッと噛んだ。

ミカサは赤いマフラーを鼻のところまでぐいっと上げた。



僕もつられて、両手をぎゅっと握りしめた。


エレンは言葉を発しようとして、口を開けて息を吸ったけど、
そのまま唇を噛んで目線を下げた。


ミカサ「エレン、私が言う?」


何度かそれをやった後、ミカサがそっとエレンの太ももに手を乗せて
いつもよりも小さな声でエレンに言った。


エレン「いや、いい。俺が言う」


エレンは自分の太ももに乗せられたミカサの手をキュッと握って僕を見た。

ミカサはいつものように「そう」と言って反対の手でマフラーをつかんだ。



エレンは胸で大きく息をして、ミカサの手を握る強さを少し強くした。




エレン「アルミン、俺たちは人を殺した」


エレン「俺が2人、ミカサが1人」


エレンの言っていることが理解できなかった。


金色のエレンの目が僕を真っ直ぐ見つめている。

ミカサは相変わらずマフラーで顔を隠していた。



沈黙をさらって行くように強い風が吹いて、エレンが再び口を開く。


エレン「ミカサの両親は、俺たちが殺したやつに殺されて、ミカサはそいつらに連れていかれた」

エレン「憲兵団が来るまで待ってたらミカサがどうなるかわからなかったから、俺が助けるしかないと思ったんだ」


エレンは僕から目をそらさずに吐き出すように
震える声で、ぽつぽつと言葉を落としていった。


エレン「それで、山小屋に行って俺が2人殺して、ミカサの手枷を解いた後に3人目が来た」

エレン「俺はそいつに首を絞められて、殺されそうになったけど、ミカサがそいつを殺してくれたから俺は助かった」


エレン「それで、ミカサが俺の家族になったんだ」


エレンは全てを話し終わったのか、
僕から目をそらして、ミカサの手から自分の離した。



ミカサは首のところまでマフラーを下げて小さく口を開いた。

ミカサ「このマフラーは、その時にエレンから貰ったもの。私にとって、このマフラーは宝物」


そう言うとミカサはまた赤いマフラーを鼻まで上げた。



僕は何を言えばいいのかわからずに、かける言葉を必死に探しが、
そう簡単には見つかるはずもなく、黙りこんでしまった。



こんな日に限って、空は雲1つなく晴れ渡っている。


また強い風が吹いて、木がざあざあと音を立てて揺れた。



エレンは少しうつむきながら口を開いた。


エレン「本当は、言わないつもりだったんだ。でもアルミンは俺たちの親友だから。親友に隠し事はしたくなかった」

エレン「これで、アルミンが俺たちともう話したくないって言うならそれは仕方ない。覚悟はしてる」


エレン「俺たちはアルミンとずっと友達でいたいけど、アルミンが嫌ならもう友達はやめる」



エレンのこんなに小さくて弱々しい声は聞いたことがなかった。


でも、そのエレンの声を聞いて僕は全てを理解した。


アルミン「君たちのしたことは、間違ってないと思うよ。正しかったとは言えないけど」

アルミン「でもエレンが命をかけてくれたから、ミカサは元気でここにいる」

アルミン「ミカサがエレンを助けてくれたから、エレンも元気でここにいる」


アルミン「たとえ人を殺したとしても、君たちは悪くない。罪のない人を2人も殺して、ミカサを拐った奴らなんだから」


アルミン「とにかく、君たちが無事でいてくれて、本当によかった」

アルミン「友達やめたいだなんて、思うわけないじゃないか。二人とも僕の大事な友達だよ」


アルミン「エレン、ミカサを助けてくれてありがとう。ミカサも、エレンを助けてくれてありがとね」

アルミン「それと、話してくれてありがとう。勇気が要っただろうに、僕は話してもらえてうれしいよ」


言い切って、最後に少し微笑んだ。



エレンは大きな金色の目からポロポロと涙をこぼしていた。

ミカサの顔は、マフラーと髪の毛であまり見えなかったけど、
髪の隙間から見えた黒い瞳が潤んでいた。



僕は膝立ちでエレンのミカサの前まで歩いて行って、
左腕でエレン、右腕でミカサをぎゅっと抱き締めた。


アルミン「僕はどんなことがあっても二人の味方だし、ずっと友達だよ」


僕がそう言うとエレンは声を上げて泣き始めた。

ミカサは小さく肩を震わせながら、嗚咽を漏らして泣き出した。


僕もつられて、少し泣いた。




少し経つと、泣き疲れたのかエレンとミカサは眠ってしまった。




空が赤くなってきた。

夕陽に照らされて、赤く染まる二人の頬をそっと撫でた。


そろそろ起こさなくちゃ。


何度か感じていた二人の間の特別な何かが、ようやくわかった。

ミカサがいつもマフラーをつけていた理由もわかった。


そういうことだったんだね。


僕がどんなに望んでも君たちの間には入れない。


そんなことはもうわかってる。

だけど、それでもいいと思えた。


僕は一番近くで、大好きな二人の笑顔が見られればそれでいい。

たとえ、二人の間に僕が居なくても。



初めて会った日に見た、夕陽に照されたミカサはずいぶん大人びて見えたのに、
顔を向け合って眠る二人の横顔がなぜかとても幼く見えた。


ああ、もういい加減に起こしてあげないと。


アルミン「エレン、ミカサ、起きて。もう帰ろう」


二人の肩を優しく揺らすと、ミカサはすぐに起き上がった。


ミカサ「……アルミン、私寝てた?」

少し赤く腫れぼったい目を擦りながら僕に聞いた。


アルミン「うん、ずっと寝てたよ。ああ、赤くなっちゃうから擦っちゃダメだよ」

ミカサ「…ありがとう、アルミン」

ミカサ「私、あなたと友達になれて本当によかった。ありがとう」

アルミン「僕もだよ。さっきも言ったけど君が無事で本当によかった。話してくれてありがとう」


ミカサは少し瞳を潤ませて、真っ赤な太陽が沈む方を見た。


ミカサ「綺麗ね、夕陽」


赤く染まったミカサの顔は、さっきとは違ってまた大人びて見えた。


ひたすら全てが赤に染まっていく世界でも、ミカサのマフラーはひときわ赤く見えた。

決して景色に溶け込もうとしないマフラーの中に、
僕は確かにミカサの命を感じた。


アルミン「うん、綺麗だ」


夕陽を見つめるミカサをチラリと見てから言った。


ミカサ「こんなに綺麗な夕陽なのに、壁が邪魔。夕陽が沈む、その瞬間が見てみたいのに」

アルミン「…そうだね」



東の空が群青に染まって来た頃、エレンが目を覚ました。


エレン「……暗いな」

エレンのいつもの大きな目もやっぱり腫れていた。


アルミン「エレン、ほら空がこんなに綺麗だよ」

エレン「ああ、本当だ。綺麗だな」

エレンを金色の目が赤に染めて笑った。


エレン「俺、やっぱりアルミンに話してよかった」

エレン「俺は悪いことをしたとは思ってなかったけど、 アルミンにもそう言ってもらえて安心した」

エレン「唯一の友達がお前でよかった。ありがとな」


壁の向こうへ太陽が隠れるその瞬間に、少しだけかすれた声でエレンが言った。


アルミン「僕もエレンと友達でよかった。話してくれたこと、本当に嬉しかったんだ」

アルミン「ありがとうね」


僕はもう何度目かわからない言葉を言った。

エレンは安心したように、少し笑った。

エレンの目尻にうっすらと浮かんだ涙が、
壁の向こうに消えた太陽の光でキラキラと輝いた。



アルミン「さあ、もうこんなに暗くなっちゃったから今日は帰ろう。明日また来よう!」


精一杯の明るい声を出して、二人の手を掴んだ。

エレンは左手、ミカサは右手。



今だけは、僕が二人の間にいてもいいよね。



アルミン「ほら、急げー!!」


まだ座ったままの二人をぐいぐい引っ張って立たせ、そのまま走った。


足は遅いし、体力もまるでないから、
走るのはあまり好きじゃないけど、今はとても気持ちいい。


肌に感じる冷えた少し風と、両手に感じる二人の温もりが心地いい。



風に乗って、花の香りがした。


さっきまで全く感じなかったのがなんだか面白くなって、僕は走りながら大声で笑った。

エレンもミカサも、僕につられて笑いだした。


何故か全く疲れを感じないまま、エレンの家まで走り抜いた。

僕はいつものように「また明日ね」と言って二人に手を降って、そのまま歩き出した。



一人になった帰り道は、急に寂しくなったように感じた。




ミカサは、エレンのことが好きなのだろうか。


そりゃそうか、なんて思って一人でクスッと笑う。


命をかけて自分のことを助けてくれた人だもんね。

まるで、いつか読んだ物語のヒーローみたいだ。



僕じゃだめなんだ、きっと。


ミカサを心から幸せに出来るのは、エレンしかいない。



この前のミカサの表情から、そんなことすぐわかる。

エレンに握られた手を嬉しそうに見つめる顔とか、
エレンに褒められて照れるあの表情とか、
眠るエレンを見つめる瞳は、僕には決して向くことはない。



ヒロインを幸せにするのは、いつだってヒーローだったじゃないか。



そんなの当たり前のことなのに、わかっているはずなのに、
胸の奥がぎゅっと苦しくなった。



そういえば、あの時ミカサにあげたライラックの花はもう枯れてしまっただろうか。


あの花と一緒に、僕の初恋も枯れてしまえばよかったのに。


毎日毎日、僕の『好き』の気持ちは溢れるほどに増えていく。

こんな様子じゃ、ちっとも枯れてくれそうにない。


なんだか少しおかしくなって、僕はクスッと笑った。

溢れてくるなら、もうそれは仕方ない。

いつか僕の初恋が萎むまで、この胸の苦しさと一緒に暮らそう。



モヤモヤした気持ちが吹っ切れて、ただの暗いだけの帰り道が、群青に輝き出した。


明日も三人であの丘に行って、飽きるまでいろんな話をしよう。

飽きたらみんなで昼寝をして、目が覚めたらまた話をして。


ねえ、エレン、ミカサ。
何があっても僕は二人の友達で、
世界が二人を敵に回したって、僕は最期まで二人の味方だからね。


そうして僕は家について、
明るい光が漏れる家の扉を開けた。


すみません、遅くなりました。

私事ですが、

日曜日に生後1、2週間ほどの弱った子猫を拾いまして。
なかなか目が離せませんでした、すみません。

待ってくれてた方、ありがとうございました。



今さらですが、あまりにもひどいので訂正

>>189
× エレンを金色の目が赤に染めて笑った。
○エレンは金色の目を赤に染めて笑った。

他にも誤字多いかと思いますが、脳内修正お願いします。

あまりにも酷くて、意味がわからないときはレスください。

自分も確認してから書いてはいますが、
眠いときはどうも見落としてしまう。


それではぼちぼち投下していきます。
よろしくお願いします。


………


ジリジリと照りつける夏の太陽が、肌を焦がす。


このまま日向を歩いていたら、エレンの家につく頃には
僕は真っ黒こげになってしまいそうだ。


幸い、頭だけは帽子で守られてはいるが、
真上にいる太陽のお陰で日陰がほとんどない。



爽やかな風が吹いて、青さを増した木をさらさらと揺らす。


僕はわずかばかりの日陰を見つけて、そこを歩く。

太陽の照りつけがなければ、こんなにも涼しい。



僕はそのまま日向と日陰を交互に歩く。


エレン「アルミン、釣りに行こうぜ!!」


僕がいつものように、エレンの家の扉を叩くと、
エレンは扉を勢いよく開いて、いきなり言った。


アルミン「ビックリした…ずいぶん急だね」

エレン「嫌か?」

アルミン「嫌じゃないよ、ただびっくりしただけ」

エレン「じゃあ早速行こう!」


エレンは大きな目を輝かせながら準備をしに行った。

奥の方で、エレンがミカサを呼ぶ声が聞こえる。


少したってから、バタバタという足音をが聞こえた。

エレンが三人分の釣りの道具と一緒に、
赤いマフラーを着けていないミカサの手を引っ張って来た。


エレン「アルミン、お待たせ!行こう!」

ミカサ「エレン、痛い」

エレン「あ、悪い」


エレンはパッとミカサの手を離した。
ミカサは「大丈夫」と言って白く細い首に手を当てた。


アルミン「二人とも、今日は暑いから帽子被った方がいいと思うよ」

ミカサ「そうね、持ってくる」

ミカサはそう言って小走りで自分の帽子と、エレンの帽子を持ってきた。

はしゃぐエレンに帽子を被せた後に、ミカサもつばの広い帽子を被った。

エレン「もういいよな、よし行こう!」

エレンは待ちきれない様子で、
ミカサに帽子を被せてもらったあと、すぐに歩きだしてしまった


アルミン「ミカサ、僕たちも行こうか」

ミカサはいつものように「そうね」と言って歩き出した。


白いワンピースの裾をひるがえしながら歩くミカサの首を僕は初めて見る。

風に揺れる黒い髪と細く白い首のコントラストが、とても涼しげだった。


アルミン「今日は暑いね」

ミカサ「そうね、帽子をしていなかったら焦げてしまいそう」

アルミン「あはは、本当にそうだよね」

ミカサは帽子を軽くつまみ、少し楽しそうに笑った。


アルミン「今日はマフラー着けてないの?」

ミカサ「ええ、暑いから。汗をかいて汚してしまうのは嫌」

アルミン「そうだね、宝物だって言ってたもんね」

ミカサ「ええ、これはとても大事」

ミカサはスッと目を閉じて、
いとおしそうに何もない首もとに手を当てた。


ゆっくり歩いていたから、
エレンはもうずいぶんと先に行ってしまった。


エレン「おーい、早くしろー!もう着いちゃうぞ」


エレンが前の方から、大きな声で僕らを急かす。

そんなに釣りがしたいのか、と少し笑って
「はいはい」と適当に返事をした。


アルミン「さ、ミカサ急ごう。エレンが待ちくたびれちゃうよ」

僕はなるべく自然にミカサの手を取った。

ミカサ「そうね、じゃあ少し走ろう」

ミカサは帽子を押さえながら、
白いワンピースと黒い髪を風になびかせて僕の手を引っ張って走った。


エレン「おせーよー、そんなにゆっくり歩いてると日が暮れちまうよ」

小走りでエレンのところまで行くと、
エレンは三人分の釣竿をいじりながらむすっと頬を膨らませていた。

アルミン「まだおひさま真上にいるから安心して」

アルミン「それより、僕も道具持とうか?」

エレン「いや、俺が誘ったから俺が持つ!」

アルミン「わかった、じゃあよろしくね」

エレン「もうすぐ着くからな!」

そう言ってエレンは歩みを早めた。

置いて行かれないように、僕もいつもより早めのスピードで後ろについていく。

そのままのスピードで、額から汗が垂れてくるくらいまで歩くと
涼しげな川のせせらぎが微かに耳に入ってきた。


ジリジリと焼けるような道なのに
小さな水の音1つで、ここまで涼しくなるものなのか。

水がこぼれたように潤った道を一歩、また一歩と歩くたびに
どんどん川の音が大きくなっていく。


エレン「ついた!ほら、釣竿」

僕とミカサはそれぞれ「ありがとう」と言ってエレンから釣竿と道具を受け取った。


暑苦しい靴を脱いで、川に足をつけると、
予想以上に冷たい水が僕の足を冷やす。


アルミン「ひゃあ、水が冷たくて気持ちいいよ」

エレン「俺もやる!」

ミカサ「じゃあ私も」

ミカサはワンピースの裾を軽く結んでから、川に入った。


エレン「気持ちいいなー、このまま釣りするか」

アルミン「お魚逃げちゃわないの?」

エレン「わかんねぇけど、別に釣れなくてもいいよ」


別に釣れなくてもいい、って言うならなんのために釣りをするのか。

よくわからないエレンの考えに、僕とミカサは少し笑ってしまった。


でもまあ、確かに魚が釣れなくても、
三人でこうしているのは楽しいから別にいいのかもしれない。


エレンと一緒に針の先にエサをつけて、適当なところに投げ込んだ。


ミカサはエサの付け方がわからないらしく、エレンに教えてもらっている。



エレン「なあ、アルミン!今日うちに泊まりに来ないか?」


ミカサの竿のエサをつけ終わったエレンが、
川に糸を垂らしながら嬉しそうに聞いてきた。


アルミン「行きたい!でも父さんと母さんに聞かなくちゃ」

エレン「じゃあ、早めに切り上げて三人でアルミンの家行くか!」

エレンは楽しそうに川の水面を蹴って、キラキラとした水しぶきを飛ばした。


アルミン「結局、一匹も釣れなかったね」


足が冷えてきた頃、太陽もだんだん西へと傾いてきたので僕たちは釣りをやめた。


正直のところ釣りよりも、
水を蹴って水しぶきを一番遠くまで飛ばせるのは誰かというゲームに熱中していた。

そんなことをしていれば、魚が逃げるのも当たり前だ。

ちなみにゲームは何回やってもミカサの圧勝だった。


空のバケツに釣りの道具を入れて、今度はみんなで分担して持つことにした。


エレン「おし、じゃあアルミンの家行こうぜ」


日が傾いたこともあって、日差しも少し和らいだように感じる。

さっきまで冷たい水に浸かっていてふやけたのおかげもあってか、
ずいぶん涼しく感じる帰り道だ。


あっという間に家について、僕は玄関のドアを開いた。


アルミン「ただいま」

ママミン「おかえりなさい。あら、エレン君にミカサちゃん、いらっしゃい」

エレンはいつも通り元気に、ミカサは少し小さな声で「こんちには」と言った。


アルミン「母さん、今日エレンの家に泊まりに行ってもいい?」

エレン「アルミン借りてもいいですか?」

母さんは「いいわよ」と言うと、
クスッと笑って、何かを準備し始めた。

パタパタと、キッチンやリビングを行ったり来たりしている。


ママミン「アルミン、これを持って行きなさい。迷惑かけちゃだめよ」

アルミン「うん、わかった!ありがとう」

僕は果物やお酒らしきものが入ったかごを受け取った。

ママミン「エレン君とミカサちゃん、よろしくね」

エレン「はーい!」


その後、少しだけ話をしてから家を出た。



ミカサ「何回見ても思うけど、アルミンはお母さんによく似ている」

エレン「ああ、だよな」

アルミン「そうかな、でもおばさんとエレンほどじゃないよ」

エレン「そんなに似てるか?」

ミカサ「ええ、よく似ている」

エレンとおばさんが似ていなかったら、
僕と母さんなんて、全く似ていないじゃないか。

ミカサ「私も、お母さんによく似ていると言われていた。主にお父さんから」

アルミン「そうなんだー。じゃあみんな母親似だね」

ミカサはいつものように「そうね」と言って、嬉しそうに笑った。


だんだん赤くなって傾く太陽が眩しくて、思わず目を細めた。


アルミン「おじゃまします」

完全に暗くなる前に、僕たちはエレンの家についた。

僕はおばさんとおじさんに挨拶をして、持ってきたかごを渡した。

?
?
そのままエレンとミカサの部屋に行き、三人で話をした。
?
?
三人で話しているときも、ミカサはあまりしゃべらないが
ときどき楽しそうに笑ったり、興味をそそられたような顔をする。
?
ミカサは結構表情が豊かなのだ。
?
?
エレンみたいに目に見えて豊かなわけではないが、
僕は微妙な変化であっても、コロコロと変わるミカサの表情が好きなんだ。
?
?
?
ほら、また笑った。


エレン「あー、腹減ったー」

エレンがベッドの上にゴロンと寝転がった。

アルミン「おいしそうな匂いもしてきたし、きっともうすぐだよ」


カルラ「ごはんできたわよー」


エレン「メシだ!!」

エレンは一瞬でガバッと起き上がって
目を輝かせながら、一目散にリビングへ向かった。

アルミン「ミカサ、行こうか。おなかすいたね」

ミカサ「うん、おなかすいた」

ミカサはうっすらと笑みを浮かべて、おなかに手を当てた。


アルミン「もう、ぺっこぺこだよ」

僕もミカサの真似をしておなかに手を当ててみると、
ミカサは少し目を細めて笑った。


なんだか、それだけで僕はおなかいっぱいになってしまいそうだ。


エレン「なあ、今日の夜にいつもの丘に行って星見ないか?」


具がたっぷり入ったシチューと
魚のムニエル、ふかふかのパン。

おいしい料理をほおばりながら、
エレンはまた唐突に話しだした。


エレン「昨日の夜さ、外見てたら流れ星見つけちゃってさ!今日も見れるかもしれないし三人で見たいんだ」

アルミン「へぇー、いいなぁ、僕もみたい」


さりげなく僕のお皿にシチューのにんじんを入れてこようとするエレンの手を軽くはたいてから、
僕はパンを口に運びつつ、星の降る丘を想像してみた。


グリシャ「夜は危ないから三人だけで行くのはダメだが、父さんと一緒でいいなら行こう」

エレン「本当?やったー!」

アルミン「おじさん、ありがとうございます!」


今日はよく晴れていたし、きっとよく星が見えるだろう。

流れ星も、きっと見られるはず。
?


エレン「ミカサも行くだろ?」

ミカサ「うん 、行きたい」


ミカサの目が満天の星空のように輝いた。


食事を終えて、しばらくしてからエレンと二人でお風呂に入った。


アルミン「流れ星見えたら、何をお願いしようかなー」

エレン「俺はやっぱり外の世界が見たいってお願いする」


エレンはお湯から右腕を出して、
顔より少し上の辺りでぎゅっと手を握った。


アルミン「僕もそれかなー、外の世界を探検したい」

エレン「見えるといいな、流れ星」


エレンは握っていた手をパッともとに戻し、
パチャン、と音を立ててお湯の中に腕を戻した。


お風呂から上がり部屋に戻ると、
僕たちの前にお風呂に入ったミカサが、後ろを向いて何かをしていた。


ミカサ「あ、おかえりなさい」


ミカサは僕たちが入ってきたことに気づくと、くるりと振り返った。


アルミン「なにしてたの?」

ミカサ「何って、髪の毛をふいていた。ほら」


そう言ってミカサは白いタオルで、
水に濡れて黒さを増した髪の毛を挟んでポンポンと叩いて見せた。


アルミン「え、髪の毛ってこうやって拭くんじゃないの?」


僕はいつもやっているように、
肩にかけていたタオルを頭にのせてわしゃわしゃとふいてみせた。


ミカサ「私、一番お母さんに似ているところが髪の毛なの」

ミカサ「だから、大事にしたい」

ミカサ「アルミンみたいな、綺麗な金髪も憧れるけど、私には似合わない」

ミカサ「だから少しでも、お母さんのような綺麗な黒髪に近づけばいい」


ミカサは髪をポンポンと叩きながら、
少し寂しそうに言葉をこぼした。


アルミン「ミカサの髪も、十分綺麗だよ」


僕はミカサの濡れた髪にそっと触れた。


アルミン「ねぇ、エレンもそう思うよね」


ミカサは僕よりエレンに言われた方が喜ぶだろう、
そう思ってエレンにふった。

わかってはいるけど、自分でやると本当に惨めに感じた。


エレン「ああ、ミカサの髪は綺麗だよな。サラサラだし、まっすぐだし」


エレンはいつもの調子でミカサの髪を撫でた。

ミカサはタオルを持ったままの左手を口の前へ持ってきて、
「嬉しい」と言って、本当に嬉しそうに笑った。


タオルに隠れた頬が、ほんのり赤く見えたのは
きっと僕の気のせいじゃないだろう。




ああ、ほらね。
僕はエレンが羨ましいと、心のそこからそう思う。


だって、ミカサのその表情を向ける先に、
僕が来ることはないんだから。


カルラ「果物剥けたわよー」


暗い気分を払うような、絶好のタイミングでおばさんの声が聞こえた。

僕は後に引きずってしまわないよう、軽く首を振ってから
エレンたちの後ろに、少し遅れてついて行った。


エレン「梨だー、うまそう」

カルラ「アルミン君が持ってきてくれたのよ」

ミカサ「アルミン、ありがとう」


僕は綺麗に剥かれた梨を持って、「どういたしまして」と言った。


カルラ「いちじくももらったけど、それは明日の朝にジャムにして食べましょう」


エレンは「うまそう!」と言いながら梨を半分かじった。


カルラ「それ食べて少ししたら寝なさいね」

エレン「え、星は?」

カルラ「真っ暗な方が見易いでしょ、夜中起こしてあげるわ」

エレン「じゃあそうする!」


そう言ってエレンは残りの半分の梨を口に放り込んだ。


アルミン「夜中に起きて星を見に行くなんて、楽しそうだね!」

エレン「だよな!わくわくしてきた!」


カルラ「はい、ホットミルクよ。早く眠れるようにね」


少しはしゃいでいると、おばさんがホットミルクを作ってくれた。


カルラ「それ飲んだら寝なさいね」


肌寒い夜に染みるホットミルクは、とても優しい味がした。


おばさんは、ホットミルクを飲むミカサの髪を
優しくブラシでとかし始めた。


カルラ「ミカサの髪の毛は、本当に綺麗ね」

ミカサ「ありがとう」


ミカサは嬉しそうに目を閉じて、そっとホットミルクに口をつけた。


ホットミルクを飲み終えて、僕たちは部屋に戻った。

今日は、エレンとミカサのベッドをくっつけて、真ん中に僕が寝る。

なんだか不思議な感じだが、とても楽しい。


アルミン「ふふ、なんか変な感じ」


三人が、並んでベッドに寝そべったところで呟いてみた。


エレン「いいじゃん、夜中に起きるの楽しみだな」

ミカサ「エレン、起きなさそう」

エレン「絶対ミカサより早く起きてやるからな!」

カルラ「はいはい、もう明かり消すから寝なさい」


ふっと辺りが暗くなった。

「おやすみなさい」と言ってみんなで布団に潜ると、
ふわふわとした眠気が僕を襲った。


流れ星、見られますように…


グリシャ「起きなさい、星を見に行くよ」


遠くの方から、おじさんの声が聞こえた気がして
肩を揺すられる感覚で、僕は夢から覚めた。


ぼんやりと明かりがついたその部屋で、僕の両隣から寝息が聞こえた。

寝ぼけ眼で起き上がり、おじさんに「おはようございます」と言った。


グリシャ「アルミンは偉いね、二人を起こすのを手伝ってくれないか?」

アルミン「わかりました」



アルミン「ミカサ、起きて」


何回か体を揺すると、ミカサがのそのそと起き上がった。


ミカサ「アルミン、おじさん、おはよう」

アルミン「おはよう」


ミカサ「エレンは?」

グリシャ「まだ寝てるよ、エレンが言い出したのに」


ミカサはベッドから降りて、
近くの棚に置いてあったマフラーを慣れた手つきで巻いた。

そのまま、眠るエレンの元に行って、肩を叩き始めた。


ミカサ「エレン、私より早く起きるんじゃなかったの?私もう起きた」


しばらく、おじさんとミカサでエレンの体を揺すったり
軽く叩いたりしていると、エレンはようやく目を覚ました。


エレン「……おはよう」

いつもより低く、眠たそうな声だった。


グリシャ「さあ、肌寒いから上着を着るんだよ」


眠たい目をこすりながら、おぼつかない足取りでエレンは棚の方へ向かった。

僕とミカサはすっかり目が覚めていて、すぐに準備ができた。


グリシャ「じゃあ、行こうか」


玄関のドアを開けると、
虫の声しか聞こえないような静かな空間がそこにあった。

明るい月と、ほんの少しの街灯の灯りだけが僕らを照らす。


グリシャ「みんな眠っている時間だから、静かにね」


みんなで手をつないで、丘までの道を歩く。

猫が僕らの前を横切って歩いていった。


深夜の街は、とても静かで美しい。


虫の声が大きくなってきて、丘が近くなったことがわかった。

僕の大好きな丘で満天の星空を眺めたくて、上を見ないようにしていた。


まるで夜空に迷いこんでしまったみたいに、道がキラキラと輝いて見えた。

ただ、暗いだけではない何か。

言葉で言い表せないようなドキドキで、
僕の足が自然と速く動いてしまう。


エレン「あー、目覚めてきた」


ようやく目が覚めた様子のエレンは、ふっと空を見上げた。



エレン「…綺麗だ」


ようやく丘について、いつもの木のそばまで走って行った。

月明かりが思いの外明るくて、丘を照らしてくれた。


僕とエレンは木のそばでゴロンと転がって、空を見た。


月に負けないくらい、星は明るく輝いて、
壁の外まで照らしているように思えた。

壁に切り取られた夜空でも、こんなにも美しい。

小さな光が集まって出来た、
まるで川の流れのような天の川を跨いでひときわ明るい星が二つ。

僕はその二つの星の恋の話も知っている。


ミカサ「綺麗ね」

僕の隣から声が聞こえた。

ミカサも横になりながら、夜空を見ていた。


アルミン「あの星たちはさ、壁の外も見てるんだよね」

アルミン「海とか、見てるのかなー」

エレン「そうかもな、うらやましい」

アルミン「僕、死んだら星になりたいなぁ。小さくていいから」

エレンは「なんだそれ」と呟いて、クスッと笑った。

アルミン「人は死ぬと星になれるんだってさ、なれない人もいるのかは知らないけど」

エレン「あー、そうなんだ。それいいな」

エレン「星になれば外の世界見放題じゃん」

アルミン「触ったり感じたりは出来ないと思うけどね」

エレン「じゃあやめよ」


ミカサ「私のお父さんとお母さんも、星になっているだろうか」

アルミン「きっと星になってミカサのこと見守ってるよ」

ミカサ「そう、それは嬉しい」


ミカサはうっすらと目に涙をためて、マフラーをきゅっと握りしめた。



まっすぐに夜空を見つめるミカサの黒い瞳に、
まばゆいほどの星が映りこんでいる。



それはまるで本物の夜空のようだった。


アルミン「ミカサの瞳は、夜空みたいだね」

ミカサ「どういうこと?」

アルミン「黒くて星を映すから、今日みたく綺麗な夜空だ」

ミカサ「アルミンはロマンチスト」


ミカサは目をパチパチさせてから、やわらかく笑うように言った。


アルミン「エレンの瞳は月と星かな、色的にも」

それと、月は暗い夜の空をやさしく照らすらから。

エレン「月かー、かっこいいな!」

エレン「じゃあ、アルミンは?」

アルミン「僕は、昼の空かな。前にミカサが言ってくれたし」


決して夜の空とまみえることのない昼の空は僕にピッタリだと思った。

せいぜい夕方と朝方にすれ違う程度。


ただ、それだけ。


一瞬流れ星が見えた気がした。

目を凝らすと、もうひとつ流れてきた。


「三人で、外の世界を探検できますように」


流れ落ちる星に願ってはみたが、叶うかどうかは自分次第。



夜空のようなミカサの目と、月のようなエレンの目は
依然として真上の空を見つめていた。


だんだんと増えてきた流れ星が丘に降っているように見えた。


来年もまた、美しいこの景色を大好きな二人と一緒に見たい。


ふと横を向いて、目に入ったミカサのマフラーは
月明かりの下でも、ただひたすらに赤かった。

星を見ながら、やわらかく笑うミカサの瞳は
やっぱり夜空よりも、ずっと綺麗に見えた。


とりあえず、今日はここまでにします。

ラストかなり微妙ですが許してください、眠気がヤバい。


最後グリシャさん空気ですね
木の下でランプつけて本読んでるとでも思っておいてください


アルミンのお母さん完全に捏造です
すみません



今回中身ないのにやたら長い


次はいつになるでしょうか、
1週間以内には来れるようにがんばります。


それでは、おやすみなさい
よい夢を、風邪に気を付けて


こんばんは


子猫の件ですが、
ミルクもたくさん飲みますし、お陰さまで元気になりました

心配してくださった方、ありがとうございました


また、SSとは関係ない話ですが、
一昨年にも生まれたての子猫を4匹拾っていまして。笑

そのうちの3匹は体が弱く、1週間ほどで亡くなってしまったんですが
1匹は今も元気なので、新入りの子もその子のようになってくれるといいですね。

実は7月の始めにも瀕死の子猫を拾ったので、
これからは3匹で仲良くやってくれると嬉しいです


関係ない話を長々と、失礼しました。


それでは、ぼちぼち投下していきます
よろしくお願いします


………


それから一年と少し経った。


僕の誕生日も少し過ぎて、秋と冬が混ざりあう。

乾いた風が僕の頬をかすめて、枯れ葉を連れてどこかへ行った。


門の方から調査兵団の帰還を告げる鐘が聞こえる。

エレンは一目散に門へと走ることだろう。


僕はあまり見に行く気がしなかったから、
そのまま、限りなく冬に近い肌寒い道を散歩することにした。


少し前までは、いつものあの丘もコスモスでいっぱいになっていたけど
今は青いリンドウの花が綺麗に咲いている。


目を閉じるとリンドウと一緒に髪の毛をさらさらと揺らし、
優しい瞳でエレンの眠る姿を見つめるミカサが浮かんできた。


少し上機嫌で角を曲がると、いつものいじめっ子三人組にぶつかった。


いじめっ子A「悔しかったら殴り返してみろよ!」
?
アルミン「そ…そんなことするもんか!それじゃお前らと同レベルだ!!」

殴られた左の頬がズキズキと痛む。

痛みのせいで、自然と目に涙が溜まっていってしまう。
?

僕は血がにじむ口を必死に動かした。

?
いじめっ子A「う……うるせぇぞ屁理屈野郎!!」


Aは僕の身体を胸ぐらを掴んだままグイッと持ち上げて、僕を殴る体勢をとった。


また殴られる、今度はさっきよりもっと痛い。
?
そう思うと怖くなって目をギュッとつぶってしまった。


エレン「やめろ!!何やってんだお前ら!!」

エレンの声が聞こえて、Aは手を離した。


いじめっ子A「エレンだ!!あの野郎今日こそぶちのめすぞ!!」


いじめっ子たちはそう息巻いていたけど、
眉間にしわを寄せながら全力疾走してくるエレンの後ろに、
こちらをにらみながら走ってくるミカサを見つけて、
うっすらと目に涙を浮かべて逃げ出した。


エレン「おぉ…あいつら……俺を見て逃げやがった!」

エレンはハァハァと息を切らしながら、
嬉しそうに逃げるいじめっ子たちを見た。


アルミン「イ…イヤ、ミカサを見て逃げたんだろ…」


痛む左頬を押さえながら僕はそのまま座り込んでしまった。


エレン「オイ!大丈夫かアルミン?」


僕を心配するような表情がちらりと目に入った。

差し伸べられたのは、いつも僕を助けてくれる優しいエレンの手。


僕は二人から、守られる存在なんだ。

無力な僕はいつも二人に守られるだけで、
僕は二人になにもしてあげられない。


その手をとってしまったら僕はずっとこのまま、
臆病者でしか居られないような気がした。


その時だけは、エレンの優しい手に触れたくなかった。


アルミン「ひ…一人で立てるよ」

エレン「ん?そうか…?」


本当は、そんなことを考えてしまった時点で
僕はもうずっと臆病者のままでしか居られないのに。

でも、今気づいたところでもう遅い。


僕は壁に手をついて、よろよろと立ちあがった。


アルミン「それで、人類はいずれ外の世界に行くべきだって言ったら、殴られた」

アルミン「異端だって」


川のほとりで、いつものように三人で話す。

?
弱くて情けない自分を思い出すと、ほんのり視界がぼやけた。

殴られた頬はまだ少しだけ痛い。


エレン「くっそー、外に出たいってだけで何で白い目で見られるんだ」

エレンは近くに落ちていた小石を拾い、そのまま川に投げた。


川に広がる波紋を見つめながら、言葉をこぼす。


巨人を壁内に招くことがないよう、政府は外の世界に興味を持つことを禁じた。

でも、本当にそれだけの理由なのか。


他の理由を考えても、僕のちっぽけな頭ではなにもわからなかった。


エレン「そーいや お前よくも親にバラしたな!!」

ミカサ「協力した覚えはない」

調査兵団に入りたいと言ったことを、
ミカサがおじさんとおばさんに言ったらしい。


ミカサは、エレンと一緒に調査兵団が外から帰ってくるところを見に行ってる。

というか、ミカサはエレンにつれていかれているだけだけど。


だから、調査兵団が行きと帰りでどれほど数が減っているか知っている。

壁の外へ行った人間は、そう簡単には生きて戻ってくることはできない。

壁の中に居れば、いつも通りの平和な日常が僕らを包んでくれる。


巨人から僕たちを守るのが、この壁なんだから。



でも、だからこそ。



アルミン「100年壁が壊されなかったと言って、今日壊されない保証なんかどこにもないのに…」


次の瞬間、ズドンと下から突き上げられるような衝撃が僕らを襲った。

空気がビリビリと僕らを刺激する。


エレン「な…何だ!?地震ってやつか!?」


得体のしれない恐怖が僕らを包む。

?
少し遠くに見える、広い通りに居る人たちが指差しながら壁を見つめている。

?
アルミン「…え?」


もしかして、

いや、まさか……



自然と体が通りの方へと向かっていく。


不自然な風が僕のかすめていった。





目にしたのは、壁の外から空へと上がる煙

壁にかかる大きな手




アルミン「あ…あの壁は……ご…50m…だぞ……」


震える声が漏れた。


あぁ、巨人だ。


50mの壁に手をかけた奴は、
ゆっくりと顔を上げ、僕らを見下ろした。


身体から出る大量の煙と、壁の上の手と顔から目が離せなかった。


アルミン「あ……ありえない」

アルミン「巨人は最大でも15mのはず…!」

アルミン「50mの壁から頭を出すなんて…」


そうだ、ありえない。
どうしてなんだ。


僕の小さな頭はまだ、目の前の出来事を理解できずにいた。


僕は今日壁が壊されてもおかしくない、そう思ってきたはずだった。

でも、本当は僕も心のどこかで15mの巨人に
この壁を破壊できるはずがないと思っていたんだ。


どうか、これが悪い夢であってほしい。


エレン「動くぞ!!」


15mには程遠いその巨人は、ゆっくりと体のどこかを動かした。


まさか、やめてくれ


耳をつんざくような轟音がして、 大きな岩が飛び散った。


あの大きな岩たちは、壁の破片。


街を目掛けて降ってくる壁の破片は、絶望を意味していた。


壁に穴を空けたそいつは、いつの間にか煙の中に溶けて消えた。


アルミン「か…壁に……穴を空けられた!?」


周囲からは叫び声があがり、人々はマリアへと走り出した。

このままここにいれば、巨人に食われてしまう 。


アルミン「逃げるぞ二人とも!早くしないと次々と巨人が入ってくる!!」


僕がマリアの方に走り出そうとしたその時、エレンが逆方向へ走り出した。


アルミン「エレン!?」

エレン「壁の破片が飛んでった先に家が!!」

エレン「母さんが!!」

ミカサ「!!」

エレンの言葉を聞くと、ミカサも穴の空いた壁の方に走り出した。

アルミン「ミカサ!!」


伸ばした僕の小さな手は、 ミカサの手には届かずに
冷たく乾いた空気だけを掴んだ。




行かないで
エレン、ミカサ

走って二人を連れ戻すことだって出来ただろうに。

臆病者の僕はそこから一歩も動けずに、
勇敢な二人の背中をただ見つめることしか出来なかった。


自分の右手が震えているのに気がついて、
胸の前に持ってきて左手で包んでみても、
ちっとも震えが治まらない。

震えも、恐怖も、途切れることなく僕を襲う。


アルミン「もう…駄目なんだ…この街は…もう…」

アルミン「無数の巨人に占拠される!!」


二人の背中は、どんどんと小さくなっていく。

僕は二人に助けてもらってばかりで、
二人を助けたことなんか一度だってなかった。


このままだと、二人とも……


震える足に活を入れ、僕はよたよたと走り出した。


涙で視界がぼやけても、構うことなくそのまま走った。


アルミン「ハンネスさん!!ハンネスさん!!!」


息を切らしながら、僕はハンネスさんにすがり付いた。


ハンネス「何やってんだ、アルミン!早く逃げろ!!」

アルミン「お願い、二人を助けて!おばさんを助けに、家に行っちゃったんだ!!」

アルミン「お願いハンネスさん、エレンとミカサを助けて!!!」


涙が次々と僕の頬を伝って下に落ちる。


ハンネスさんのジャケットを掴む手はまだ震えていた。


ハンネス「わかった!必ず助けるから、お前は先に行って二人を待ってろ!!」

ハンネス「おい、お前はこの子を船まで連れて行ってやれ!」

そう言ってハンネスさんは走っていった。


支えをなくした僕の体は膝から崩れ落ちてしまった。


部下「さぁ、立って。急ごう、きっと二人は大丈夫だからな」


その人は小さく震える僕の小さな手をつかんで立たせ、
泣き止まない僕を励ましながら走った。


きっと父さんと母さんも先に行ってる。



僕も先に行ってるね

エレン、ミカサ、僕は君たちを待ってるから


今日はここまでにします


ほぼ原作のままなのでさっくりとやらせていただきました。
自分がこういう描写を書くのが苦手なのもありますが。

やっぱり四季と風景の描写を書く方が楽しいです。


今回アルミカ要素ほぼないですね、すみません

でも、マリア崩落は削ったら不味いと思ったので


文才がなさすぎて、恐怖感とか全くでない!!!


明日もたぶん来ます。
今日のよりはアルミカ要素増やすつもりです

それでは、おやすみなさい
寒くなってきたので、風邪に気を付けてください


こんばんは
レスありがとうございます


日付は変わってしまったけど、来られてよかった


それでは、ぼちぼち投下していきます
本日もよろしくお願いします


………

シガンシナ区が突破され、続いてウォール・マリアも鎧の巨人によって突破された。

僕ら避難民は、トロスト区の食糧庫へと集められた。


僕の父さんと母さん、エレンとミカサにもそこで会うことが出来た。

そしてそこで、おばさんが巨人に食われたということをミカサから聞いた。

エレンとミカサの目の前で、おばさんは巨人に食われて死んだのだ。

ミカサはそれをいつもの顔で淡々と語った。


怒り、悲しみ、憎悪、すべてが折り混ざったようなエレンの表情を、
僕は少し怖いと思ってしまった。


アルミン「エレンは?」

ミカサ「うなされてる」


なにもない食糧庫の中で、僕らは翌日の朝を迎えた。


目が覚めたときに見た、見慣れない景色。
もう一度目をつぶって、そしてまた開ける。

夢じゃなかった。
これがただの悪夢であったら、何度そう思っただろうか。


ミカサは僕の隣でうなされるエレンの頬をするりと撫でて、
前髪を分け、エレンのおでこに手を当てた。


ミカサ「熱はない。悪い夢を見ているのかもしれない。アルミン、エレンを起こした方がいい?」

アルミン「どうなんだろうね。でも眠ってるから、起こすのはよくないのかも」

ミカサ「そう、ならそうする」


ミカサはもう一度エレンの頬を撫でた。


外から鐘の音が聞こえてきた。

アルミン「あ、食料の配給の鐘かもしれない。僕、二人の分も取ってくるね。間に合うといいんだけど」

ミカサ「ありがとう、お願い」


早く行かないと、無くなってしまう。
そう思い、少し小走りで外に向かった。

「私が付いてるから、私があなたを守るから」
後ろから、小さな声が聞こえた。

眠るエレンに向けたであろうその声は、凛々しくも儚げであった。


僕はどうしても振り向くことが出来ずに、
さっきよりも少しだけ早く走った。


ミカサは強いのか、強がっているのか、
それとももっと違う何かか、僕にはさっぱり分からなかった。


列に並び、三人分のパンを貰ってさっきの食糧庫へ戻る。

知らない大人たちが怒鳴り合っている。


食糧庫の入り口の近くに、エレンとミカサが並んで立っているのが見えた。

アルミン「エレン!ミカサ!」

エレン「アルミン!」

僕はパンを落とさないように二人のもとに駆け寄ると、
ミカサがうっすらと微笑みを浮かべながら僕を迎えてくれた。


アルミン「ほら、間に合ったよ。父さんが子供の分だからって貰っといてくれたんだ」

二人にパンを手渡すと、ミカサは「ありがとう」と言ったけど、
エレンは少し微妙な表情でパンを見つめた後、僕の頭の上に視線を移した。

それに気づいて僕も振り返ってみると、駐屯兵団の兵士が僕らのことをにらんでいた。


舌打ちをしながらどこかへ行くそいつを見ながら、エレンは「何だあいつ」とつぶやいた。

アルミン「仕方ないよ。この配給、たぶん人数分ないんだ。それが一日分だって」

僕がそう言うと、エレンは手元のパンに目線を移した。


アルミン「避難民が多すぎるんだ。もともと食糧不足だし、外側に住んでる人ほど大事にされないのは知ってるでしょ?」


あちこちから怒号が聞こえて、そこかしこで大人たちが取っ組みあっている。


駐屯兵「なんでよそもんのために俺たちの食糧を」

駐屯兵「どうせ巨人が壁を越えたんなら、もっと食って減らしてくれりゃよかったんだ」

さっきの兵士がそう言ったのを、僕たちは聞き漏らさなかった。


こちらに聞こえるように言ったのか、つぶやきにしては大きな声で口を出たその言葉は、
たとえ冗談であっても言ってはいけないことだと、子供でも分かるようなことだった。


エレン「…っ!!」

グッと手のひらを握りしめ、
エレンはそいつに向かってずんずんと歩いて行った。

アルミン「エレン!」

僕の呼びかけを無視して、エレンはそのまま歩いて行く。


駐屯兵「これじゃ、食料不足がひどくなる一方だぜ」

そいつの言葉が途切れるのとほとんど同時に、エレンは脛をおもいっきり蹴った。

駐屯兵「なにすんだ、このガキ!!」

そいつは容赦なくエレンを殴り、
隣に居たもう一人の駐屯兵もエレンを蹴って、エレンを地面に倒した。


エレン「知らないくせに…!お前なんか、見たこともないくせに!!」

エレン「巨人が、どうやって人を…!!」


目に涙をためるエレンを見て、
その駐屯兵は一瞬ハッとしたような表情をした。

しかし、またすぐにエレンをにらみつけた。

駐屯兵「う、うるせぇ!!」

きっと子供に謝るとかそういうことをするのが、恥ずかしいと思ったのだろう。


アルミン「ご、ごめんなさい!おなかがすいて、イライラしてたから…」

アルミン「だから、おとなの人にこんな失礼なことを…」

一度目線を外して、周りに居る人たちをチラッと見てから
僕はその駐屯兵の目を見て、深く頭を下げた。

アルミン「ほんと、ごめんなさい!!」

もう一度、エレンが殴られてしまいそうだったから、僕は止めに入った。

周りの人たちが僕らを見ている。
きっと周りの人たちは僕らの味方だと思う、
みんな巨人の恐怖を知っているから。


駐屯兵はちらりと周りを見て、ひそひそと何かを言われているのに気がついた。

駐屯兵「ったく、お前たちが飢え死にしないで済むのは、俺たちのおかげなんだぞ!」

駐屯兵「子供だって、それくらいの感謝の気持ちは持つもんだ!!」

アルミン「はいっ!」


分が悪いと思ったのか、そいつはそう言い捨てて、逃げるようにどこかへ歩いて行った。


上手くいってよかった。

確かにそいつの言うとおり、僕たちが飢え死にしないで済むのはあの人たちのおかげだ。

言うまでもなく、感謝している。
僕らは食べさせてもらっているんだから。


でも、あんなことを言うのは、人としてどうなんだろう。

さっきの言葉を聞いた人はきっとみんな怒っただろう、もちろん僕も。
エレンが怒ったのも無理はない。


エレン「くっそ…誰があんな奴らの世話になるか!」


エレン「戻ってやる、ウォール・マリアに!」

エレン「巨人なんか、全部ぶっ潰して!!」


大きな目をつり上げて、エレンは小さなその手に力を込めた。


アルミン「エレン、本気で言ってるんじゃないよね」

きっと本気なんだろう、そう分かっていたけど聞いてしまった。

エレン「本気だ!」

エレンはそう言って勢いよく立ち上がった。


エレン「俺は壁の中で強がってるだけのあいつらとは違う!」

エレン「こんなもん、いらない!!」

手に持っていた硬いパンを、エレンは力の限り僕に投げつけた。


僕はエレンの大事な食糧を落とすわけには行かなくて、
僕の体にあたって跳ねるパンをあわてて捕まえた。


アルミン「エレン!飢え死にしちゃうよ!?」

エレン「お前悔しくないのかよ!そんなもん恵んでもらってるから巨人に勝てないんだ!!」

アルミン「無理だよ!勝てるわけない!!」

アルミン「僕たちは壁の中で生きるしかないんだ!無茶をすれば死ぬ!!」

エレン「だからあいつらにペコペコするのか!?恥ずかしくないのかよ!!」

アルミン「今は…今はしょうがないよ!!」

そうだ、僕だって悔しい。
悔しいに決まってる。

でも、仕方ないじゃないか。


エレン「しょうがないなんていいわけだ!だったらそうやって、いつまでも家畜みたいに生きろ!!」

エレン「弱虫!!!」


エレンもやっぱり、僕のことを弱虫だと思っていたんだ。


そうだよ、僕は弱虫だ。

君たちみたいに強くない。


ぐさりと僕の心に突き刺さったエレンの言葉に、
僕は何も反論出来なかった。


母親を目の前で巨人に食われても、強くあろうとするエレンに
弱虫の僕が返せる言葉なんて、世界中どこを探してもあるわけがない。


黙っていたミカサが急に動いて、エレンを思いっきり殴り飛ばした。

アルミン「…ミカサ?」

あまりのことに驚いて、それしか声が出なかった。
僕は、殴られて地面に伏せるエレンに恐る恐る目を向けた。


ミカサ「アルミンが弱虫なら、エレンと私も同じ」

ミカサ「私たちは巨人から逃げるのも、街から逃げるのも、何一つ自分でやっていない」

ミカサ「今日食べるものさえ、助けてもらった」

ミカサ「そんな力のない人間が、あの巨人を一匹だって倒せるわけない」


起き上がったエレンは、悔しそうにミカサから視線を外した。


ミカサ「大切なのは生き延びること。おばさんが言ってた通り」


ミカサは静かに歩きだし、僕が持っていたエレンのパンを取って、
それをそのままエレンの口に突っ込んだ。

アルミン「ミカサ…!」


ミカサ「食べて、ちゃんと生き残るの!」

ミカサ「エレンを飢え死になんかさせない!」


いつになく力強いミカサの声は、少し泣きそうな声のようにも聞こえた。


エレンは、パンを口に押し込まれながら大きな目に涙をためて、泣きだした。


そのときエレンがどんな気持ちだったか、僕には分らなかった。



少しして、泣きやんだエレンと僕は仲直りをして、僕も少し泣いた。


数日後、僕たち避難民は食糧確保のために荒地の開拓に回された。


寒さの厳しいウォール・ローゼの開拓地で、
僕の両親とエレンとミカサは肩を寄せ合って荒れ果てた大地の開拓を続けた。


木を切って、根っこを抜いて、大きな岩があればそれをどかし、
耕地に変えるために凍える手を動かした。



シガンシナとは比べものにならないほどの寒さに耐えながら、
わずかばかりの食糧を食いつなぎ、僕たちはなんとか生きていた。


開拓地に移って少しした日の夜、僕は夜中に目を覚ました。


寝たままでじっとしているのが嫌で、こっそりと毛布を抜け出した。

近くにおいてあった自分の上着を取って、何の気なしに外へ向かった。



外は、雪は降っていないが、凍えるような寒さだ。

月が煌々と光り輝いている。


毛布を持ってくればよかったな。

食糧は少ないが、ありがたいことに毛布は一人に一つ配給されたのだ。
少し頼りない毛布だけど、それでも暖かい。


肌に突き刺さる冷たい空気が、星と月の輝きを際立たせる。


「お父さん、お母さん、おばさん…」


誰かのすすり泣く声が聞こえた。

きょろきょろとあたりを見渡すと、小さな黒い影が一つ丸まっているのが見えた。


月の光とわずかな灯りが、
見慣れた黒い髪と涙に濡れた黒い瞳を照らし出した。


あれは、ミカサ?

僕は急いで中に戻り、自分の毛布を持って来た。


アルミン「ミカサ?」

ミカサ「アルミン?」

僕が声をかけると、ミカサはハッとしてマフラーをグイッと上げて、目をごしごしこすった。


アルミン「そんなところに居ると風邪引いちゃうよ。ほら、毛布」

僕はミカサにそっと毛布をかけた。


アルミン「じゃあ、僕は行くね。早く戻ってくるんだよ」


ちょっと冷たい言い方だっただろうか。
でも、ミカサは一人で泣きたいのかもと思ったから。


僕が戻ろうとした時、ミカサは僕の服の裾をきゅっと掴んだ。


ミカサ「アルミン、行かないでほしい」


弱々しいそのミカサの声は、少し震えていた。


アルミン「……分かった、僕も一緒にここに居るよ」

ミカサ「…ありがとう」


ミカサは自分に掛けられた毛布の中に僕を入れた。


二人でくっついて毛布にくるまっていると、結構暖かいものだ。


ミカサ「ここで私が泣いていたこと、エレンには言わないでほしい。

蚊の鳴くような声でミカサは言った。

アルミン「どうして?」

ミカサ「私がこんな調子じゃ、エレンを守れない」

ミカサ「私はエレンの前では、強くありたい」


赤いマフラーに顔をうずめて、再び泣きだしそうな声でミカサは言った。


アルミン「…別に、ミカサが強くある必要はないと思うよ」

ミカサ「私がエレンを守らないと…」


ミカサはもう、家族を失いたくはないのだろう。

実の両親を目の前で殺され、
引き取られた先のもう一人の母親まで目の前で巨人に食われたのだ。

エレンを死なせたくないと思うのも、当たり前のことだ。


アルミン「じゃあ、ミカサの弱いところは僕にだけ見せて」

アルミン「一人で居たくない時とか、今みたいなときは僕のところに来て」

アルミン「僕の前でだけは、ミカサは強くある必要ない」


ミカサは少し力が強いだけの、ただの女の子なんだ。


それでもミカサはただひたすらに、強くあろうとしている。


アルミン「僕じゃ頼りないかもしれないけど、こうやってそばに居ることくらい出来る」

アルミン「僕はずっと、君のそばに居るから」


ミカサの冷たい手をとって、僕の暖かい手で包んだ。


アルミン「もちろん、エレンもずっと君のそばに居てくれるはずだよ」

月明かりに照らされたミカサは、闇にまぎれてしまいそうな黒い瞳から、
ポロポロと光の粒のような涙をこぼし始めた。


ミカサ「アルミン、ありがとう。ごめんなさい、そばにいて」

ミカサは声を殺して、嗚咽を漏らしながら
目からこぼれてくる涙を、手のひらで必死に抑えつけて泣いた。


僕のこの小さな手で、どれくらいミカサの弱さを包んであげられるだろう。

僕はこの弱いミカサの心を、どこまで守ってあげられるだろう。


僕だけが知っている弱いミカサは、
あふれ出る涙を必死に止めようとしている。

どれだけ目をこすっても涙はとめどなく流れ続けて、ミカサの頬と手を濡らしていく。


僕はミカサの頭を優しく撫でて、ミカサをギュッと抱きしめた。


やわらかくあたたかいミカサの体は、やっぱりただの女の子のものだった。


翌年、中央政府は食いぶちを減らすため、
ウォール・マリア奪還を名目に大量の避難民を壁の外へと追いやった。

人口の2割に相当する25万人の中には、僕の父さんと母さんも含まれていた。

なんの訓練も受けていない、まともな武器もないような人たちが、
無事に壁の外から帰ってこられるわけもなく、
わずか百数十人ほどしか、生き残ることはできなかった。


もちろん、父さんと母さんも帰ってこなかった。



その後、食糧不足はわずかだが改善された。


どこへ向ければいいのか分からない悔しさと、
両親を失った悲しみが、涙となって溢れてくる。

頭では、仕方のないことなんだ、父さんと母さんの死は無駄じゃない。
そう思ってはいたけど、やっぱり内地でのうのうと食料不足とは縁遠い生活をしている人たちが許せなかった。


エレン「全部、巨人のせいだ…」

エレン「あいつらさえ叩き潰せれば、俺たちの居場所だって取り戻せる」


エレン「アルミン、俺は来年訓練兵に志願する」


エレンの目は、まっすぐ前だけを見ていた。
ミカサの小さなため息が聞こえた。

エレン「巨人と戦う力を付ける!」


アルミン「…僕も」

震える小さな声を口から漏らすと、エレンがハッとしたように僕の名を呼んだ。


アルミン「僕も!!」


涙を散らすような決意をして、エレンと同じように前だけを見て言った。
エレンは僕の気持ちを分かってくれたのか、なにも言わなかった。


ミカサ「…私も行こう」

エレン「ミカサ!お前はいいんだぞ!」

エレン「生き延びることが大事って言ってたろ!?」

ミカサ「…そう。だから、あなたを死なせないために行く」


エレンは一瞬下に目線を移した。

すぐに何かを決心したように立ち上がって、もう一度キッと前を見た。


エレン「分かった、三人で」


三人で、訓練兵に志願する。

いつまでも、二人に頼り続けるわけにはいかない。
僕もエレンとミカサのように強くなる。

そう決心して、僕も前を見た。


エレンを守ろうとして、強くあろうとするミカサは
少し不安そうな表情で、しっかりとエレンを見つめていた。


僕は二人についていけるだろうか。
少し不安だけど、もう決めた。


来年から、僕らは兵士になる。


今日はここまでにします

初めは、この場面使う予定じゃなかったから
原作の、アルミンのパパママ元気設定にしたんですけど
アニメの場面使っちゃったから、
アルミンのセリフとかちょこちょこ変えました。

うーん、最初からアニメ設定にすればよかった。

一時停止と巻き戻しを駆使してこの話を書いたので、
ナレーションのところとかほとんどそのまんまですね、すみません。


次回から訓練兵編に突入します。
ようやく終わりが見えてきた気がする。

次は、また少し時間が空いてしまうと思います
気長に待っていてください

それでは、おやすみなさい
よい夢を

乙です マテと言われればいつまでも待ちまさー

アルミンパパとママ 
原作だと奪還作戦で死んだのに、アニメだと飛行機実験で亡くなってるんだよね
冒頭の『いってらっしゃい』が無かったり、この微改変は後々意味持ってくるのかな


こんばんは、お久しぶりです
レスくれた方、保守してくれた方、ありがとうございます

こんなに開けてしまって、本当にすみません
待っててくれた方、ありがとうございます


すっかり秋も深まって、寒くなってきましたね。
道を歩けば金木犀に癒されて、
道端に落ちてるドングリを見てはジャンを思い出します。

先日の台風もすごかったですね
みなさんのところは、台風大丈夫でしたか?


>>285
飛行機実験だったんですか、知らなかった!
いってらっしゃいのシーンは気になりますよね
ほんの一言だけのセリフですけど、重要な一言ですからねー
その辺、非常に気になるところです。


長々と前置きすみません

それではぼちぼち投下していきます
今日もよろしくお願いします



………




今年もまた、春が来た。
僕の一番好きな季節。


春になると、毎日のように思い出してしまう。

シガンシナ区のあの丘は、今年も花を咲かせているんだろうか。


常識的に考えれば、とっくに巨人たちが踏み荒らした後だろう。

でも、大好きなあの場所のそんな姿を想像したくなかった。
もう、なにもかも変わってしまったのに。



あそこで香っていたあのライラックの花も、もうそこにはないのかもしれない。



2度目となる開拓地の春だが、今年は去年とは違う。

今年、僕たち三人は訓練兵に志願する。


今日がここで過ごす最後の夜。
明日の朝にはトロスト区の訓練所へ行く。

訓練所ではきっと男女で寮が別れるから、
三人で肩を寄せあって眠るのも今日で最後。



僕はちゃんとやれるだろうか。
二人の足手まといになってしまわないだろうか。


2年間ここで開拓作業をして、改めて痛感させられた自分の非力さ。

このままだと、またすぐに開拓地へ戻されてしまう。
最悪、訓練中の事故で命を落とすかもしれない。



そんな弱気な僕を嘲笑うかのように、
まだ肌寒い夜の風が、僕の横を過ぎていった。

ミカサ「アルミン」


春の風にまぎれてミカサの声がした。

振り返ると、いつものようにマフラーをしたミカサが立っていた。


ミカサ「アルミン、眠れないの?」

アルミン「うん、まあそんなところかな」


ミカサは「私も」と言って、僕の横に静かに座ると、
トロンとした春の夜空を見上げた。
夜の空のようなミカサの目が半分に欠けた月を映す。


ミカサ「私ね、怖いの」

ミカサ「エレンと離れてしまうのが怖い」

ミカサ「訓練所でエレンに新しい友達が出来たら、私と一緒に居てくれなくなるかもしれない」

ミカサ「私は、エレンに助けられてから、エレンと離れたことなんてなかったから」

ミカサ「エレンともアルミンとも離れてしまったら、私はどうすればいいのかわからない」


珍しくよく喋るミカサは、依然として真上で光る半分の月を見つめていた。


アルミン「ミカサ、そんな心配はしなくても大丈夫だよ」

アルミン「エレンはミカサが思ってるよりずっと、ミカサのことを大事にしてるよ」


僕は少し微笑んで、ポンポンと優しくミカサの頭をたたいた。

ミカサはきゅっとマフラーを掴んで、その中に顔を半分うずめた。
暗くて表情は分からなかったけど、たぶん悲しんではいないと思う。


アルミン「僕も、エレンに新しい友達が出来たら、置いていかれないか心配だけど」

アルミン「それよりもまず、エレンに友達が出来るのかが心配かな」


僕が少しいたずらっぽく、笑いながらそんなことを言ってみると、
ミカサはクスっと小さく笑って「そうね」と言った。


アルミン「エレンは初日から誰かとケンカしそうだね」

ミカサ「そうならないよう、私が全力で見張っていよう」


ミカサの肩が少しだけ揺れて、もう一度ミカサは小さく笑った。



アルミン「僕もね、不安なんだ」

ミカサ「何が?」

アルミン「……訓練についていけるか、とか」


臆病な僕は、一番不安に思っている事を口にするのを怖がった。

「二人に置いていかれないか不安なんだ」
こんなこと、言えるはずがない。



アルミン「僕は、力も体力もないからさ」


情けないへらへらとした笑顔が僕の顔に貼り付いた。



ミカサ「アルミンなら、大丈夫」


いつもの優しい声だった。

ミカサは僕の情けない笑顔を溶かすように、優しく僕の頬に手を当てた。


ミカサ「アルミンは強いから、そんな心配はいらない」

ミカサ「大丈夫」


春の夜風に当てられて、すっかり冷えた僕の頬から、ミカサの体温が流れ込む。

やわらかいけど、真剣なミカサの表情が
淡く光る月のお陰でうっすらと見えた。


アルミン「……ありがとう、ミカサ」


なんでもないように目をそらして、いつものような声を出した。


ミカサに大丈夫と言われても目を背けてしまうのは、きっと僕が弱い証。

せっかくミカサが励ましてくれたのに、僕の不安は何一つ晴れない。


ミカサ「……アルミンは、自分のことをもっとよく知った方がいい」

アルミン「え?」


何故かとても悲しそうな声だった。

ミカサはすっかり僕の頬に馴染んでいた手を離すと、スッと立ち上がった。


ミカサ「アルミン、もう寝よう。明日も早い」

アルミン「うん、そうだね」


僕も立ち上がって、暗い道をミカサと手を繋いで歩いた。

半分の月と、青白く輝く大きな星が照らす春の道は、やっぱり少し肌寒かった。


あの後、思いの外すんなりと眠りにつくことができた。


そして翌朝、僕らはトロスト区の訓練所へ向かった。


エレン「おお、これが団服か……」

アルミン「……すごいね」


渡されたのは、真新しい団服。
背中には大きな訓練兵団の団章がついているジャケット、
白いズボン、膝が隠れてしまうほど長いブーツ



これから男女別に別れて教官の指導の下、着替えをする。
それから、 色々な注意や説明を受けた後、入団式が始まる。


真新しい団服に着替えると、
すぐに他の教官が入ってきて、色々な説明を受けた。


この後の入団式のこと、ここでの生活のこと、そして訓練のこと。


毎年、何人も訓練中の事故で命を落としているらしい。
危険な訓練もやるし、もちろん命の保証はできないと言われた。

成績が芳しくなかったり、規則違反があればすぐに開拓地へ送られるとも言われた。



それだけの覚悟がある者のみ、この後の入団式に参加しろ。


教官のその言葉で何人かは、そのまま席をたった。



僕は弱いけど、血を吐いてでも食らいついてやる、と思うくらいの覚悟はある。

ずっと、二人の隣にいられるように。
弱い僕を変えるために。



エレン「いよいよだな」

アルミン「うん、やっぱり緊張するね」

エレン「ああ、でもようやく訓練が出来るようになる」

アルミン「そうだね」


あの日以来、エレンは少し変わった。

巨人を憎む気持ちが、前とは比べ物にならないほど膨れ上がった。
前みたいに太陽のような目を輝かせて笑う事が少し減った気がする。

時間は戻らないということくらい、わかってはいるけど
それでもまた、あの偽物の平和の中で三人で笑いたかった。



どんなに願っても、叶うことはないけれど。


すみません、眠気がすごいので今日はここまでにさせてください
少ししか投下できず、申し訳ない


どうでもいい説明

296の青白く輝く大きな星はスピカのつもり
たしか乙女座の星です

ついでに夏の話の流れ星はペルセウス座流星群ってことで


すみません
明日の朝から昼にもう一度来ます

見てくれた方ありがとうございました
中途半端なところで切ってしまい、すみません


それではおやすみなさい
寒くなってきたので、風邪には気をつけてください
よい夢を

乙です 保守して待ってた甲斐あったー

>道端に落ちてるドングリを見てはジャンを思い出します。

リスなどのげっ歯類に、越冬のため備蓄されるジャン・・・
ころころ転がって お池にはまって さあ大変なジャン・・・


こんばんは
レスありがとうございます

お昼に来れなくてすみませんでした
朝から急用が入ってしまいまして。


更新遅くてごめんなさい
時間がないのもそうなんですけど、
なんだか全く次の展開とか浮かばなくて。

息抜きで書いてるのと、いつか書きたいと思ってるやつのは
どんどん浮かんでくるんですけどね
すみません。


>>302
保守ありがとうございます

「ドングリとジャンってなんか似てないか?」とか一瞬そんなこと思ったら
もうドングリがジャンにしか見えなくなりました。
顔が長い感じとか。髪の毛とか。
いや、ジャンは大好きですけどね。笑


それではぼちぼち投下していきます
今日もよろしくお願いします



キース「貴様は何者だ!?」

アルミン「シガンシナ区出身!アルミン・アルレルトです!!」

キース「そうか!バカみてぇな名前だな!!」

キース「親がつけたのか!?」

アルミン「祖父がつけてくれました!!」

キース「アルレルト!貴様は何しにここに来た!?」

アルミン「人類の勝利の役に立つためです!!」

キース「それは素晴らしいな!!」

キース「貴様は巨人の餌にでもなってもらおう!」


キース「3列目、後ろを向け!!」


グイッと頭を捕まれながら後ろをむいた。


キース教官の嵐のような恫喝が終わって、ほんの少し息をついた。

いや、だめだ。集中しないと。


そういえば、エレンとミカサもだけど、何も言われてない人がちらほらいる。

共通点はわからないけど、何も言われてない人の顔つきは、
周りの人たちのそれとは全然違うものだった。


恫喝なんかしなくても覚悟ができてる人はいる、ということなんだろうか。

やっぱり僕はまだまだ、全然ダメなんだな。


アルミン「教官、ちょっと怖かったね」


入団式は無事かどうかはわからないけど、とにかく終わった。
寮に荷物を運んで、それを整理したら次は夕食だ。

初日だからだろうけど、思いの外のんびりできる時間がある。


エレン「俺は何も言われてねぇからわかんねぇけど、芋食ってた奴には驚いた」

アルミン「あぁ、そうだね。僕もびっくりしたよ。ミカサは?」

ミカサ「……うとうとしてた」

エレン「は?なにやってんだよお前」

ミカサ「ごめんなさい、昨日は眠れなくて」


エレンはため息をつきながら「次からはちゃんとしろよ」とミカサの頭を小突いた。

ミカサは昨日の夜、あの後なかなか眠ることが出来なかったらしい。

僕は自分だけすやすや眠ってしまって、少し申し訳なく感じた。


アルミン「それじゃあミカサ、夕食の時にね」

エレン「友達作れよ、あとでな」

ミカサ「……うん」


ミカサは寂しそうにうつむいて小さくうなずいた。


去り際にエレンがミカサの頭をポンポンと叩くと、一瞬でミカサの表情が晴れた。


ミカサ「また後で。エレン、ケンカしないでね」


いつもの調子に戻ったミカサを見て安心したのか、
エレンは少し笑いながら「しねぇよ!」と言った。



ゆっくりできると思っていた夕食までの時間は、
結構やることがあったから、あまりゆっくりはできなかった。


アルミン「エレン、ミカサが待ってるから食堂行こうか」

エレン「ああ、そうだな」


アルミン「ミカサは友達出来たかな?」

エレン「いや、さすがにまだできないだろ。あいつ人見知りなとこあるし」


僕は一人だったら、もう心が折れてるかもしれない。

そんな下らないことを考えながら、さっき見た地図を思い出しながら食堂へ向かった。


ミカサ「アルミン、おまたせ」

アルミン「そんなに待ってないよ」

ミカサ「エレンは?」

アルミン「巨人の話を聞きたいらしくて、連れていかれちゃった」


「ごめんね」と言ってわざとらしく笑顔を作ると、
ミカサはうっすらと眉間にシワを寄せ、目線を下に落としてから
いつもよりも小さな声で「そう」と言った。


アルミン「とりあえず、僕らも夕食貰いに行こう」


僕は少し冷えたミカサの手をとって、にぎやかな食堂の中に入った。


アルミン「エレンの近くには、行けそうにないね」


エレンの周りは、やたらと人が多くて近づけそうになかった。

エレンは思いの外普通の顔で、周りからの質問に答えているように見えた。

そういえば、きっと周りの人たちはみんな、あの日の絶望を知らないんだ。


ミカサ「アルミン、この席に座ろう。ここならエレンが見える」


ミカサは昨日の夜言っていたように、全力でエレンを見張るつもりらしい。


アルミン「そんなに一生懸命見張らなくても、きっと大丈夫だよ」


僕が笑いながらミカサを諭すと、ミカサは少しシュンとしながらパンをちぎった。


突然、スプーンの落ちる小さな音が食堂に響いた。
エレンの手から滑り落ちたスプーンは、テーブルの上で小さく揺れる。


隣に座ったミカサが、蚊の鳴くような声でエレンの名を呼んだ。


青ざめて口を押さえるエレンを見れば、どんな質問をされたのか容易に想像できる。


エレンの隣にいた男の子が、一瞬で変わってしまった食堂の空気をごまかすかのように口を開いた。


そして、エレンはハッと我に帰ったようで、陰っていたその大きな瞳が再び鈍く光った。

エレンは金色の目をギラギラさせながら、
恐れを散らすようにパンを噛みちぎった。

それでもエレンの瞳は、半分陰っているように見えた。


ミカサ「アルミン、エレンは大丈夫だろうか……」


僕はミカサのその小さな弱々しい声に、返事をすることができなかった。


アルミン「あれ、もしかしてもめてるかな」

ミカサ「エレンの隣のテーブルに座った男の子と?」

アルミン「そうその子」


なんだか不穏な空気だったけど、エレンたちなんとかケンカには至らなかったようだ。

たしかあの子は入団式の時に、内地に暮らすためと言っていた子ではないだろうか。
エレンとは、正反対。

いや、ここにいる人のほとんどがエレンと正反対の考えを持っているだろう。


カンカンと夕食終了を告げる鐘が鳴った。

『時間厳守』
さっき説明されたここでの規則のうちの1つであるから、
鐘が鳴るとすぐに、周りは片付けを始めた。


ミカサ「アルミン…」

ミカサも急いで片付けをして、僕に声をかけた。

アルミン「うん、わかってるよ。行っておいで」

ミカサ「ありがとう」


ほんの少し口角を上げてから、ミカサはスカートを揺らしながら
さっさと食堂を出ようとしているエレンを追いかけた。


ミカサがなにを言おうとしたかなんて、一瞬でわかった。

それが嬉しくもあったけど、またほんの少しぎゅっと胸を締めた。


ミカサの頭の中の大半を占めているのはきっとエレンのこと。

ただひたすらエレンを守ろうとしている。


エレンに言わせれば、それは全てお節介に過ぎないんだろうけど、
僕からすれば本当にうらやましい。


もう少しミカサの頭の中に僕を置いてくれないだろうか。

本当にもう少しでいい。
君の頭の中にできたわずかな隙間でいい、僕にちょうだい。


そんなことを思いながら、寮にもどる道をたどる

昨日の夜とは全く違って見えた。
道を照らす青白い大きな星も、昨日とは全く違っていた。


すみません、まだ続きますが今日はここまでで

うとうとしてたら、この先の書きためを半分ほど消してしまいました。

少しきりがいいので、ここで切らせてください


明日の夜には、消した文書き直します。
ので、そのあとに来ます。


見てくれた方、ありがとうございました
それでは寝ます
おやすみなさい、いい夢を。


こんばんは、遅くなってすみません

レスありがとうございます。
確かに、アニメは唇つやつやでしたね
どうみても12歳には見えませんでした、笑


さて、21日はオリオン座流星群の極大でしたね
東京はくもりで全く見えませんでした
ペルセウス座流星群の時もでしたが、タイミングの悪いことこの上ない。

見えたって方いますかね、うらやましいです


それではぼちぼち投下していきます
今日もよろしくお願いします



エレンが部屋に戻ってきたのは、点呼の時間の少し前だった。



アルミン「ずいぶんゆっくりだったね」


エレンが僕の隣のベッドに座り込んできたから、
読んでいた本をパタンと閉じていたずらっぽく笑ってみた。


エレンは「ミカサがなかなか離してくれなかったんだ」と小さなため息をついてそのままベッドに転がった。


アルミン「それで、なんて言われたの?」


一度閉じた本を、またパラパラとめくった。
つらつらと並ぶ文字の列をぼんやりと目に入れながらエレンに聞いた。


エレン「いつも通りだよ、腹出して寝るなとか、寝る前には歯を磨けとか」


僕が「ミカサらしいや」と笑うと、エレンは不満気に足をバタつかせた。


エレン「あと、ケンカすんなってさ。さっきのは全然違うのにな」

アルミン「あはは、でもケンカになりそうだったから、見てるこっちはハラハラしてたんだよ」

エレン「お前ら心配しすぎだよ」

アルミン「初日からケンカなんかしてたら、友達できないしね」

エレン「だからしてないって……」


今度は大きなため息をついて、エレンは仰向けの体をひねらせて僕の方にゴロンと流れてきた。

舞って待ってた


エレン「俺はミカサの方が心配だよ。俺はアルミンがいるからいいけどさ」

アルミン「そうだね、ミカサはこんな大勢の中でひとりぼっちだもんね」

エレン「そういえば、さっき『私も寂しいのを我慢するから、エレンもケンカをするのを我慢して』って言われた」

アルミン「じゃあ、我慢しないとね」


ミカサがそれをエレンに言っている時の光景が浮かんで、口元が緩む。

するとエレンは「笑うなよ」と言って、もう一度小さなため息をついた。


アルミン「ミカサも心配だけどさ、僕たちも友達つくらないとね」

エレン「ああ、でも今はいいや。また明日、今日はもう眠い」


「そうだね」と返す前に、エレンは大きなあくびをして
そのまますやすやと、気持ち良さそうに眠ってしまった。


ミカサはもう眠っただろうか。



エレンが眠ってから程なくして、消灯の時間になった。

一足先に眠ってしまったエレンの隣で、布団にくるまり考えるのはミカサのこと。


ミカサはもう、友達ができただろうか。

ミカサと同じ部屋の女の子のことはなんにも知らないけど、
ミカサのこと誤解しないでほしいと思う。

少し言語力は残念だけど、とても優しい子だし、
いつも無表情のようだけど、ミカサは結構色んな顔をする。

怒ったミカサはものすごく怖いけど、笑ったミカサは本当にかわいい。



ミカサはきっと大丈夫、きっといい友達が出来る。


そういえば、ミカサはここ最近とても綺麗になった。

今日、真新しい兵団のジャケットに身を包んだミカサを見て、改めてそう思った。


このままミカサは、もっともっと綺麗になっていくのだろうか。

それは喜ばしいことだけど、何故か胸の奥がぎゅっと締まる。


なんだか落ち着かなくて、寝返りをうった。

見慣れた寝顔が目に入ると、そわそわしていた気持ちもすっと消えていくような気がした。


あったかい。


開拓地のものより暖かく、柔らかい布団を肩までかけると
じんわりとした暖かさが僕を包む。

懐かしい暖かさに重いまぶたを閉じると、僕はそのまま眠りについた。




あたたかくて、優しい夢を見た。

春のあの丘で、ただ三人で話しているだけの夢。


ミカサの耳の上では、5枚の花びらがついたあの小さなライラックの花のかたまりが咲いていた。

穏やかに笑うエレンとミカサを見て、僕も笑う。

生えている花や草が風に揺れると、ミカサも髪の毛をさらさらと揺らした。

風になびく黒い髪をそっと押さえて、ミカサはゆっくり口を開く。



ミカサ『アルミン……』



.



そこで目が覚めた。


明るくなった部屋では、いろんな人の寝息が聞こえる。

僕の横で眠るエレンもまだ、小さな寝息をたてていた。


部屋にある時計に目を向けると、起床時間の20分ほど前だった。



あたたかい夢の余韻に浸りたくて、柔らかい布団をぎゅっと抱き締めた。

やさしくて穏やかな夢に、涙が出そうになる。


目を覚ましたくなかった、一瞬そんなことを思ってしまった。


夢の中のたおやかなミカサの声音が、頭の中にじんわりと残っている。


夢から覚める直前のミカサは、僕に何を言おうとしたんだろう。


その言葉の先を知りたくて、もう一度眠りにつこうとしたけど、
生憎すっきりと目が覚めてしまっていた。

それに、もう5分もすれば起床時間になってしまう。



僕は諦めて、一足先に着替えてしまうことにした。



今日の夜、あの夢の続きが見られたらいいのに。


僕が着替えを終える頃に、起床時間を告げる鐘が鳴った。

僕はとりあえず「あと5分」と言って、もう一度眠ろうとしているエレンを叩き起こした。



アルミン「よく眠れた?」

エレン「ああ、まだ眠いくらいだ」


食堂に向かう途中、エレンはそう言って大きなあくびをした。
春の朝日によく似た金色の目を潤ませて、エレンはもう一度「眠い」と呟いた。


エレン「今日から始まるな、頑張らねぇと」

アルミン「そうだね、僕も頑張らないとな」


今日はたしか姿勢制御の訓練だ。
これが出来なかったら、開拓地へ移されてしまう。

なんとしても、ちゃんとやらなくては。


ミカサ「エレン、アルミン」


アルミン「ああ、ミカサおはよ……って、どうしたの、その髪!?」


後ろから聞きなれた声が聞こえて振り向くと、目に入ったのはミカサ。
ミカサには変わりないのだが、髪が短くなっていた。


ミカサ「エレンに切れと言われたので、切った」


ミカサはすっかり短くなった髪の毛を触りながら、いつものようにそれだけ言った。

ミカサは、その髪の毛を大事にしていたのに。
エレンに切れと言われただけで、たったそれだけで
大事にしていたお母さんゆずりのその髪を切ってしまったのだろうか。

いや、僕にとっては『たったそれだけ』だとしても、ミカサにとってはそうじゃないんだ。

それでも、本当によかったのだろうか。


一瞬頭に浮かんだのは今朝の夢、
長い黒髪を風に揺らすミカサの姿。

もう見ることはないのかと思うと、少し寂しい気もしたが、
短い髪もよく似合っている。

短くなった黒髪に朝日があたって、きらきらと輝いていた。


何も言わない僕たちに、ミカサは少し不安げな顔をしながら「変?」と聞いてきた。


エレン「いや、いいんじゃね?似合ってる」

アルミン「うん、よく似合ってるよ。綺麗だ」


僕たち二人がそう言うと、ミカサはいつかやったみたいに
そっと口に手を当てて、嬉しそうに笑って「よかった」と言った。


その笑顔の先には、エレンしかいないような気がして、また胸の奥がぎゅっと痛んだ。



朝食の後、エレンがトイレに行っている時にコッソリ聞いてみた。


アルミン「髪の毛、大事にしていたのに、切ってよかったの?」

ミカサ「ええ、全部むしりとったわけじゃないから」

ミカサ「長くても短くても関係ない、これからも大事にしていく」

アルミン「そっか、そうだよね」


穏やかな顔で髪の毛を撫でるミカサは、やっぱりとても綺麗だった。


今日はここまでにします
見てくれた方、ありがとうございました

>>321
ありがとう!


進撃の世界って時計くらいあるよね、
絶対あるよね、立体機動装置作れるくらいだし
ないと思う方は、適当に脳内補完しておいて下さい。


書きため消えたショックで内容ふっとんじゃったから、
書くの遅くなってしまった、ごめんなさい


書いてる自分がこんなこと言うのもどうかと思うけど
読み返してみるとアルミンが結構かわいそうなことになってる、笑
救いをあげたい……


それではもう寝ます
もうずいぶん寒いので、暖かくしておやすみください
台風に気をつけて、おやすみなさい


こんばんは
レスくれた方、ありがとうございます

本当は昨日の夜に来ようと思っていたんですが、
いつのまにか寝てました。悔しい。



先日の台風は大丈夫でしたか?
このSSを書き初めてから3回目の大きな台風でしたね。
今年は少し多い気がします。



それではぼちぼち投下していきます
本日もよろしくお願いします。


朝食の時間の終わりと移動開始を告げる鐘が鳴ると、ちょうどエレンが戻ってきた。



アルミン「じゃあミカサ、また後でね」

エレン「友達作れよ」

ミカサ「心配ない、エレンもケンカしないで。それじゃ」



次の時間は男女別になって、あのややこしそうなベルトを着ける。

たかがベルトなのかもしれないが、あれのお陰で立体機動が可能になるのだ。


付け方はしっかり覚えて、ちゃんと1人でつけられるようにならないと。


男子の教室に入って、適当な席に座って待っていると、
教官が2人入ってきて、ベルトを配られた。


ベルトの付け方の説明をされる前に、ベルトそのものの説明をされた。


このベルトを使って、立体機動中の体重移動や、重心の調整をするらしい。

そんなことが、僕に出来るんだろうか。

始まる前から不安になってしまう。



ベルトの説明が終わり、次に付け方の説明を受けた。

付けるのは見た目よりずっと簡単そうだったが、
実際に自分でやってみるとなかなか難しかった。

2、3回付けたり外したりをしたら、なんとなく出来るようになった。


しかし慣れない。
全身に張り巡らされたベルトの感触で、自然と背筋が伸びる。


隣に居たエレンの目は、真夏の太陽みたいにギラギラとしていた。



キース「まずは貴様らの適性を見る!」


そのまま外の訓練場へ移動して整列をした後に、今日の訓練の説明を受けた。


姿勢制御の訓練だが、実際これはテストだ。
これが出来なければそれで終了、開拓地行きだ。
なんとしても合格しなくてはいけない。


そうだ、ぶら下がるだけ。
きっと出来る、大丈夫。


そう思い込んで、なんとか不安を押し込めようとした。


グループに別れて、教官達がそれぞれ適性を見るらしい。
嬉しいことに、エレンもミカサも同じグループだった。

これで少しは緊張しないで済むかもしれない。


僕ら三人の中で一番最初に名前を呼ばれたのはミカサだった。



ミカサは空中にぶら下がってるというのに、何故かピタリと静止していたのだ。

涼しい顔をして浮いているミカサに、周りから感嘆の声が漏れた。




ミカサ「エレン、アルミン、大丈夫。二人なら出来る」


教官から文句なしの合格をもらい、ミカサは僕たちのところへ戻ってきた。


アルミン「うん、不安だけど頑張るね」

エレン「俺も、こんなところでつまずいてられないしな」


大丈夫、大丈夫、とひたすら自分に言い聞かせて、名前を呼ばれるのを待った。

教官「次、アルミン・アルレルト」


来た。
名前を呼ばれた瞬間に、心臓がドキリと跳び跳ねて、さっき押し込めた不安が漏れてきた。

返事をして、前に出て、教官の前で敬礼をする。
ベルトに付ける金具を持つ手が情けなく震える。

しっかりしなきゃ、
これが出来なかったら、僕は本当に二人に置いていかれてしまう。

深く息を吸って、準備が出来たことを知らせた。


出来た。
震えるし、時々ぐらつくけど、出来た!

教官に合格をもらい、下ろしてもらうと、
ほっとしすぎて力が抜けた。


ミカサ「アルミン、おめでとう」

アルミン「ありがとう、なんとかなった」

エレン「じゃあ、次は俺の番だな!」


エレンの金の目が鋭くギラリと光った。



しかし、エレンは逆さまの状態で宙吊りになっていた。

訳がわからない、そんな表情だった。
僕もミカサも、訳がわからなかった。



キース「何をやっている、エレン・イェーガー!!」

キース「上体を起こせ!!」


キース教官の怒鳴り声が耳に響く。
上体を起こせと言われても、起こせないからこうなっているんじゃないか。



エレン「……ミカサ、アルミン………」


震える声で僕とミカサの名前を呼びながら、エレンは戻ってきた。

さっきまでのギラギラとした金色は、
すっかり力をなくして濁ってしまっている。


エレン「どうしよう、俺……」

アルミン「だ、大丈夫だよ。今日出来なかった人は、明日リベンジ出来るって……」

ミカサ「アルミンの言う通り。この後も練習させてもらえばいい」

エレン「……そ、そうだよな。明日……」


ミカサは落ち着いているように見えたけど、きっと動揺している。
僕は全く動揺を隠せなかった。


今日の訓練はこれだけだったので、
この訓練の後は、自由時間となっていた。

教官に頼まれ事をされている人や、水汲みの当番の人もいたが、
幸い三人とも何もなかったので、終わった後に居残り訓練をした。


ミカサ「基本通りにやれば出来るはず、上手くやろうとか考えなくていい」

アルミン「落ち着いてやれば出来るよ、運動苦手な僕だって出来たんだから」

エレン「…今度こそ出来る気がする、上げてくれアルミン!」


ミカサのアドバイスを受けて、エレンは出来る気がすると言ったが
やっぱりまだ不安そうな顔をしていた。

僕が出来たのに、エレンに出来ないはずがない。
きっと出来る、大丈夫だ。

僕はそう思いながらワイヤーを上げた。


つま先が地面から離れる直前、エレンは勢いよくぐるりと逆さまになり、
そのままの勢いで固い地面に頭をぶつけた。

あまりのことに、僕もミカサも声を出してしまった。
ミカサが声を出して驚いているのを見たのは初めてかもしれない。



頭から血を流して気絶しているエレンを二人で医務室まで運んだ。


アルミン「エエエレン、大丈夫!?」

ミカサ「アルミン、落ち着いて。揺らさないで」


ミカサは慌てる僕をなだめながら、うろ覚えの地図をなんとか思い出しながら医務室を探していた。


医務官「はい、これで大丈夫だけど絶対安静ね」

アルミン「ありがとうございます」


医務室は思いの外わかりやすいところにあって、早く見つかった。



医務官「この子の目が覚めるまでここにいてもいいけど、どうする?」

ミカサ「ここにいます」

医務官「そう、じゃあ目覚めたら呼んで」


ベッドの上では頭に包帯を巻いたエレンが眠っている。



ミカサ「なんだか、少し懐かしい匂いがする」

アルミン「そうか、グリシャさんはお医者さんだったもんね」


ミカサは少し悲しそうにうなずいて、そのまま下を向いてしまった。



ミカサ「アルミン、もし明日もエレンが出来なかったら、私はエレンと一緒に開拓地に行こうと思う」


ほんの少しの沈黙の後、ミカサは下を向いたままポツリとこぼした。


ミカサ「アルミンは、どうする?」

アルミン「僕は……わからないよ」

アルミン「明日にならないと、結果はわからないよ。明日は出来るかもしれない」

アルミン「今は、エレンを信じよう」


ミカサは何も言わないまま、エレンの髪をさらりと撫でた。



もしかしたら、ミカサはエレンを連れて開拓地に行きたいのかもしれない。


これから兵士になれば、常に最前線で戦う事になる。

調査兵団なんて、とらえようによれば自ら進んで死地に飛び込んで行くようなものだ。

訓練兵になれなければ、調査兵団に入ることもない。


ミカサはエレンを死なせないと言っているから、そっちの方が都合がいいのかもしれない。


開拓地に行っても、量は少ないがごはんもあるし、寝る場所だってある。

ここで訓練をしているより、遥かに安全だ。



でも、これをミカサに聞く勇気が出なかった。
また置いていかれてしまうような気がして。


エレンの目が覚めたのは夕食の少し前だった。

医務官に許可をもらい、三人で食堂で夕食を食べる。

エレンは目覚めてからずっと心ここにあらずという感じだった。
周りの人たちがひそひそと話しているのも耳に入っているのだろうか。


ミカサ「エレン」

エレン「いでッ」


何回呼んでも、揺すっても全く反応しないエレンにしびれを切らしたのか、
ミカサは「ミシッ」と音がしそうなほど強くエレンの肩を掴んだ。


エレンはそれで我に返ったのか、小さなため息をついて下を向いた。


アルミン「気にしても仕方ないよ、明日出来るようになればいいんだから」

アルミン「それより、ちゃんと食べて今日失った血を取り戻そう」


エレンはうつむいて何も言わないまま、スープを口に運んだ。


エレン「…明日…」

エレン「明日出来なかったら…」


そこまで言うと、エレンはまたため息をついて顔の半分を左手で隠した。

エレン「俺……どうすりゃいいんだ…」


そう呟いて、エレンはさっきよりも大きなため息をついた。


アルミン「だから、今は悩んでも仕方ないって」

エレン「情けねぇ…こんなんじゃ奴らを…根絶やしにすることなんか……」


ミカサ「もうそんなこと目指すべきじゃない」


ミカサはいつもと同じような声の調子でそう言った。
僕もエレンも少し驚いて、声を出した。


ミカサ「向いていないのなら仕方がない、ようやく出来る程度では無駄に死ぬだけ」

ミカサ「きっと夢も努力も徒労に終わる」


冷静に淡々と話すミカサに、エレンは苛立ちを噛み締めるように「何だって?」と聞き返した。


それでもミカサはいつもの調子で話し続けた。


やっぱりミカサは、エレンを兵士にはさせたくないのかもしれない。


エレンは正論を言っているミカサに何も反論できず、
イライラしているような、悔しそうな表情で、パンとスープを口に運ぶスピードを早めた。


ミカサは何も言い返してこないエレンを少し見つめたあと、うつむいて何かを考え始めた。
その時、心なしかほんのり顔を赤らめたように見えたけど
それはきっと光の加減だと思う。


食事終了の鐘が鳴るとすぐにエレンは立ち上がって、僕に声をかけた。

ミカサが何かを言っていたようだったけど、鐘の音と周りの音にかき消されてしまって何も聞こえなかった。


アルミン「エレン、よかったの?ミカサ何か言ってたよ?」

エレン「いいんだよ。くそっ、なんも言い返せなかった」

エレン「あいつはなんだって簡単にこなしちまうから、何をバカなことを言ってんだとか思ってんだろな」


エレンがスタスタと早歩きをするから、僕も一緒になって一生懸命歩いた。

ついていくだけで精一杯だったけど、エレンが吐き捨てるように言ったその言葉は、はっきりと聞き取る事が出来た。

歩みを止めて、数歩先を行ったエレンを呼び止めた。


アルミン「エレン、それ本気で言ってるの?」


エレンも歩くのをやめて、数歩後ろの僕を振り返った。
なにも言わなかったのは僕の言ったことの意味がわからなかったからなのか。


アルミン「ミカサがそんなこと思うって本気で言ってるの?」


エレンはばつが悪そうに下を向くと、ぼそりと「思ってねぇよ」と呟いた。


エレン「イライラしてたんだ、さっきは。なんにも出来ねぇ俺に対して」

エレン「ミカサがあんなこと思ってるわけないってことくらいわかってる、家族だし」

エレン「あいつばっかりなんでも出来て、悔しいんだよ」


エレンは相変わらず下を向いたまま、そうこぼした。

本気じゃないことくらい、僕にもわかっていたけど
なぜかエレンに本気だったのかと聞かなきゃいけないような気がした。


アルミン「そっか、ならいいんだ」


僕はにこりと笑って、小走りで数歩先のエレンのもとへ行った。
そして今度はゆっくりと二人で並んで歩いた。


『家族』その言葉がいつもより重く染み込んできた。
僕がどんなに望んでも決してなれないもの。

思わずきゅっと下唇を噛んだ。


アルミン「お風呂に入ったら、一緒に同室の上手かった人たちにコツを聞きに行こう」

エレン「ああ、そうする。ありがとな、アルミン」



正直なところ、期待するような答えは聞けなかった。

だけどエレンは吹っ切れたようで、「気合いでなんとかする」と言って眠りについた。


大事な試験を明日に控えているのに、すぐに眠りにつけてしまうという、
エレンの図太い神経に感服しながら僕もまぶたを閉じた。


明日、エレンが成功しますように。


何度も頭の中で唱えているうちに、いつのまにか僕も眠ってしまった。


キース「エレン・イェーガー、覚悟はいいか?」


翌日、まず昨日出来なかった人たちの再試験が行われる。


キース「立体機動装置を操ることは兵士の最低条件だ。出来なければ開拓地へ戻ってもらう…いいな?」


昨日の昼間のようなギラギラした目だった。

不安もあるだろうけど、それを感じさせないほどの決意に満ちたエレンの目が眩しかった。


大丈夫、エレンは出来る。



キリキリと巻かれるワイヤーにつられて、エレンはどんどん浮いていく。

つま先が地面から離れても大丈夫だった。


そして、震えながらもそのまま静止できた。


「おお!」出来た、そう声が出た次の瞬間、エレンは再びくるりと逆さまになってしまった。


そんな、嘘だ。


「下ろせ」という教官の声が虚しく響いて、絶望の表情でエレンはその場に座り込んでしまった。


キース「ワグナー、イェーガーとベルトの装備を交換しろ」


装備の交換?
周囲が少しざわめいた。


もしかしたら、エレンの装備が故障していたのかもしれない。

なんとなくそう思った。
それならエレンはきっと出来る、大丈夫だ。


また頭の中で、大丈夫と唱えながらエレンの準備が終わるのを待った。



キース「では、上げろ」


準備の終わったエレンはさっきのように、キリキリと少しずつ地面を離れて行く。


震えてはいるが、おそらく自分よりずっと綺麗にエレンは宙に浮いていた。


よかった、大丈夫だ。


ホッと一息ついてからもう一度エレンを見ると、
なにがなんだかわからない、そんな顔をしていた。


エレン「これは…一体…」

キース「装備の欠陥だ。貴様が使用していたベルトの金具が破損していた」


エレンはぶら下がったまま教官の話を聞いていた。
どうやら装備の欠陥だったらしい。


エレン「で、では…適性判断は…」

キース「問題ない…修練に励め」


教官のその言葉を聞くと同時に、エレンは両腕を掲げた。
そしてあのぎらりと光る金色の目でこっちを見つめた。


アルミン「あぁ、よかった。本当によかった!」

ライナー「なんとかなったようだな」


僕は「おつかれ、おめでとう」意味でエレンに手を振った。


アルミン「ほらミカサ、目で『どうだ!』って言ってるよ」

ミカサ「いや違う、これで私と離れずにすんだと思って安心してる」


一瞬、空気が凍りついた。

ミカサのわかりにくい冗談かと思ったが、これは違う。
目が本気だ。

僕は聞かなかったふりをして、「エレン帰ってきた」と呑気な声を出した。


アルミン「エレン、お疲れ様」

エレン「ああ、ありがとな。ホッとしたよ」


ライナーとベルトルトも、エレンに「よかったな」と声をかけた。
いい友達が出来たと思う。


ミカサ「エレン、心配しなくても私はあなたを一人にしない」

エレン「なに言ってんだ?」

ミカサ「とりあえず、お疲れ様」

エレン「おう、ありがとな」


さっきまでギラギラと鋭く光っていたエレンの目は
安心したからなのか、すっかりやわらかくなっていた。


壊れた装備で一時的にでも姿勢を保てた理由を、エレンは「気合いと根性」と言い切った。

やっぱりエレンはすごい、そう改めて思った。


これでようやく、僕らは兵士としての一歩を踏み出した。


少し聞くだけの勇気がでたから、
昼食の時間のエレンがいない隙を見て、僕は気になっていたことをミカサに聞いた。


アルミン「ミカサはさ、エレンと一緒に開拓地に行きたかったの?」

ミカサ「……どうだろう、わからない」

アルミン「エレンを死なせたくないって言ってたからさ、そうなのかと思って」


ミカサは少しうつむいて、短い黒髪に指を通した。
するりと指の間を滑り落ちる様に、一瞬目を奪われた。


ミカサ「確かに、エレンを死なせたくはない。でも、エレンは開拓地にいても笑ってはくれない」

ミカサ「私はエレンに笑っていてほしい」

ミカサ「だけど私は、心のどこかでエレンと開拓地に行くことを望んでいたのかもしれない」

ミカサ「自分のことは、難しい」


そう言ってミカサは困ったように笑った。

僕はまた胸の奥がきゅうっと締まるのを感じながら「そっか、ごめんね」と言った。


今日はここまでにします

ほぼ原作通りだからと思って、15レスくらいであっさり終わらせようと思ってたのに
こんなにだらだらとのびてしまった。

アルミカほとんどないのにごめんなさい。



明日もたぶん来ます。
構想は出来てるから、あとは文字書くだけなので。

最近は書きたいこととか話の続きがポンポン浮かんで嬉しいです。

星と星座をテーマにして、複数カプの短編とかね、
いろいろ書いてみたい。楽しそう。


それでは、おやすみなさい
風邪に気をつけて
よい夢を


こんばんは
レスありがとうございます

さっきまで書いてたから遅くなってしまった、すみません。


自分は最初進撃に全く興味がなくて、
兄が買ってきた漫画を適当にパラ読みしてしまったんですよ。

ミカサのそのシーンを読んで、笑うところだと気づいたのは3周目です。笑
初見は全く覚えてない。

記憶消して最初からじっくり読み直したい、こんなに思ったのは初めてです。



それではぼちぼち投下していきます
本日もよろしくお願いします


………


ぴりりと冷えた冬の空気を吸い込むと、肺の底まで冷たくなった気がする。

鋭く尖った冷たい風が僕の真っ赤な頬を切るように過ぎ去って行く。



ミカサの誕生日も少し過ぎて、そろそろ3回目の成績開示がある頃だ。

1年に3回、訓練兵たちのモチベーションを上げるため成績開示が行われる。


ミカサは1回目から毎回1位で、エレンが悔しがっていた。

僕はやっぱりミカサはすごい、心からそう思った。


エレンは10位以内には入ってないものの、毎回着々と成績を伸ばしてきている。

エレン曰く、努力の成果が出たらしい。
ちなみにエレンは、格闘術はトップクラスだ。


僕はというと、総合順位は下から数えた方が断然早い。

座学のお陰で、なんとか開拓地送りにはならないでいるが
立体機動や対人格闘術なんかはボロボロだ。


ミカサには「一番になれる科目があるのはいいこと、普通はない」と言われたが、
君はほとんど一番で、総合成績も一番じゃないか。


もちろん、僕なりに努力はしている。
訓練の他にも、翌日に影響がない程度に筋トレや走り込みをしている。

それなのに、一向に体力と筋力が増えないのは、
もうなにかの呪いなのかもしれない、と思ってしまう。


二人は僕の自主トレに付き合ってくれて、いろんなアドバイスをくれる。

それなのに、僕が二人にしてあげられることと言えば、
テスト前に勉強を少し教えることしかない。

しかもミカサは元々頭がいいから僕はほとんど必要ない。
エレンに教えるのも、物理学の計算だけだ。

僕もいい加減に、二人に寄りかかって生きるのをやめないと。



昨日の夜はひどく寒くて、雪が降った。

今日の朝は晴れていたが、訓練場は雪まみれになってしまっていた。


これではもちろん訓練は中止。
訓練兵は次の日の訓練のために雪かきを行った。



雪かきは思いの外早く終わった。
外が使えないので今日の訓練はこれで終わりらしい。

いつもなら、座学や技巧に変わるのだが、今日はそれもなく
冷えた体をお風呂で暖めて、部屋で待機となった。


とりあえず、身体の芯から冷えていたので、エレンと一緒にお風呂に行った。

雪かきで凍りついた手足を、温かいお湯がじんわりと溶かす。


まだ湿っている髪の毛をごしごしと拭きながら、エレンは部屋の扉を開けた。

部屋では暖炉の暖かい火がゆらゆらと揺れている。


僕とエレンはずいぶんと長風呂だったから、
僕たちが戻ってきた頃にはみんなそれぞれ部屋で談笑していた。


ライナー「エレン、アルミン、ずいぶんゆっくりだったな!」


たくさん並んでいるベッドの一番奥の壁際のベッドの上で、
輪になって話しているライナーに「二人ともこっちに来い」と呼ばれた。


そこはライナーとベルトルトのベッドの上で、
話していたのは、ジャン、コニー、マルコ、ライナーだった。

ベルトルトは半分輪に入りながら壁に寄りかかって、本を読んでいた。


エレン「おう、何の話してるんだ?」


エレンの後ろについて、ベッドのはしごを登る。
「おじゃまします」と声をかけて僕とエレンはマルコとコニーの間に座った。


ジャン「げ、死に急ぎ野郎も来たのかよ」

エレン「なんだよ悪いかよ、俺は呼ばれたんだ」


ケンカを始めようとするジャンとエレンをライナーが適当になだめる。


ここへ来たばかりの時は、ミカサもしつこいくらいに
「ケンカをしないように」と言っていたが、最近はあまり言わなくなってきた。

さすがに殴り合いになるとエレンを担いで止めるけど。


エレンとジャンは、仲が悪いようで結構いいと思う。

でも本人たちに言ったら怒られるから絶対に言わない。


もしかしたらミカサもそう思っているのかもしれない。


アルミン「で、何の話してたの?」

ライナー「男がこうして集まってすることと言えば1つだろ、恋ばなだ」


予想外の答えに少し呆けていると、エレンが
「何バカなこと言ってんだ」と言いたげな顔をした。


それに気づいたのか、ライナーがまた口を開いた。


ライナー「エレン、恋ってのも強くなるためには必要だぞ。あの子のために頑張ろう、とか思える」


腕を組んで、やたらうなずきながらライナーは語る。

エレンが少し困ったように「そんなもんか?」と言うと、
ライナーは「そうだ」と言うように大きく頷いた。


マルコ「僕にはネタがないけど、聞いてるのも楽しいよ。息抜きにもなるしね」

エレン「マルコが言うならそうなのかもな」

エレン「まあ、今日は時間もあるし、筋トレは後でやればいいか。俺も参加する」

アルミン「じゃあ僕も」

ライナーはどっしりと座り直して「さて」と手を叩いた。


ライナー「お前らは好きな人とかいるのか?」


心臓がぴくんと跳ねた。

まるで女の子の会話のようなその問いかけに、
エレンは呆れたような顔をして「いねぇよ」と答えた。


アルミン「僕も。それどころじゃないしね」


あはは、と笑ってみた。
今度は心臓がちくりと傷んだ。


本当はずっとずっと、初めてあった日からミカサが好きだ。

でもこれは誰にも言うつもりはない。
この想いが枯れても、一生。


僕は臆病だから、この関係が壊れるのが怖いんだ。
言ったところで報われないし、ミカサの困った顔は見たくない。

君の弱い部分を見ることが出来るのは僕だけ。
まさに負け犬のようだったけど、この立ち位置は結構気に入っていた。


ライナーとマルコは「やっぱり」と言うように笑った。


ライナー「じゃあ104期の中で一番かわいいのは誰だと思う?」

ライナー「俺はクリスタだと思う」


ライナーが何故か誇らしげにそう言うと、
すっかり輪から外れていたベルトルトが小さなため息をついた。

そんなにおもしろくない本なのだろうか。


ジャン「そりゃクリスタもかわいいけど、ミカサだろ」


ミカサの名前が出て、少し顔がひきつったような気がした。
誰にも気付かれてないといいけど。


エレン「ミカサ?お前ミカサのこと好きなのか?」


エレンが怪訝な顔をしてジャンを見つめた。
ジャンはわかりやすく動揺している。


アルミン「でも、実際ミカサは綺麗だよね」


僕がそう言うと、周りから賛同の声が上がった。
嬉しかったけど、やっぱりどこかで面白くないと感じた。


エレンも、お気に入りのおもちゃを奪われた子供のような顔をしている。


ジャン「いつものミカサも綺麗だけど、笑った顔も見てみたい」


ジャンがぼそりと呟いた。
しかしその呟きは思いの外大きな声で、全員に聞こえていたようだ。


ライナー「確かにもうすぐ1年になるが、笑った顔は見たことないな」


ライナーが腕を組み直して、眉間にシワを寄せた。
どうやらみんな見たことがないようだ。


エレン「は?あいつ結構笑うぞ?」

アルミン「うん、普通に笑うよ?」


胸の底の方から、薄暗い優越感がふつふつと沸き上がってきた。


あの春のようなミカサの笑顔を、
花がほころぶようなあの照れた顔を、
知っているのは僕とエレンだけ。

他の誰にも見せたくない、独り占めにしてしまいたい。



一瞬で我に返ったけど、そんなことを思ってしまった自分が嫌になった。

僕がそんなことを思う資格なんてないのに。
僕はミカサにとってただの幼馴染、ただの親友。


それに、ミカサが笑顔を向けていたのはいつもエレンじゃないか。

女子と話していても、ミカサだって笑うことくらいあるだろう。

それなのに、僕は何を思い上がっていたんだ。


それから夕食まで、訓練のことや面白い本のこととか、
話題をどんどん変えながら話していた。

僕は話半分にしか聞いてなくて、話を降られるたびに変わっている話題に困惑した。



夕食のときにミカサの顔を見た途端、溜め込んでいた罪悪感が一気に溢れ出た。

思わずなにも知らないミカサに「ごめん」と謝ってしまった。


ミカサ「なんのことかわからないけど、私は怒ってない。顔をあげて、アルミン」


おろおろと狼狽える優しい声に、視界がぼやけた。
僕は「ありがとう」とだけ言って顔を上げた。

僕の隣にいたエレンも、ミカサと一緒に困ったような顔をしてた。

ミカサの困った顔は見たくなかったのに、僕がその顔をさせてしまった。


夕食後はエレンと消灯まで筋トレをしていた。

体を動かしているうちは、なにも考えなくても済んだから
明日のことなど考えないで、つい多めにやってしまった。


途中、エレンに「なにかあったのか」と聞かれたが
それとなくうまく誤魔化した。


消灯後、僕はちっとも眠くならなかった。


目を閉じると浮かんできてしまうミカサの笑顔を、
今は思い出したくなくて、目を閉じられない。


アルミン「なんて嫌なやつなんだ、僕は」


たくさんの寝息しか聞こえない部屋で、僕は1人でポツリと呟いた。


ずっと、ミカサが幸せになれるなら、笑顔でいられるのなら、
僕はどんなことだって受け入れて、僕も笑顔でいてやろうと思っていた。


だけど、本当は僕はそんなこと思ってなかったんだね。


いつの日からか、ミカサの笑顔を僕だけのものにしたいと思っていたのかもしれない。

あの照れた顔を、僕だけに向けてほしいと思っていたんだ。




僕に相談をしてくるときのあの弱々しい顔を、

エレンには見せたくないと言っていた涙を、

あの日僕はどこかで独り占めにしてしまおうと思っていたのかもしれない。


僕がこの手でミカサを幸せにしてあげたい。

ミカサのことを幸せにしてあげられるのはエレンだけだって、
そんなことずっと前からわかっているのに。


ミカサを好きになったその日に、報われないと悟っていたのに。

この不毛な片思いが萎むまで、あの胸の苦しさと一緒に暮らすと決めたのに。


優しく響く声と、甘くてやわらかい笑顔のせいで、
僕のなかには生まれてはいけない欲が生まれてしまった。


これは罰だ、望んでしまったことへの。

そう思って目を閉じた。
案の定ミカサの笑顔がまぶたの裏に見えた。


ごめんね、ミカサ。
僕は上手く君の親友を演じられない。

明日の朝には君の親友に戻るから、せめて今だけは、
今だけは君のその笑顔を僕だけに向けて欲しい。

夢の中だけで構わないから。
もうこれ以上望まないから。

ごめんねミカサ。


まぶたの裏のミカサに何度も謝りながら、
僕は夢の世界へと意識を飛ばした。

涙が出そうなくらい、幸せな夢を望んで。


今日はここまでにします
見てくださった方、ありがとうございました


途中、コニーのことすっかり忘れてた。
そんなことよりもずいぶん重暗くなっちゃった。
もっとライトな話のつもりだったのに。



最後まで話の流れと構想が決まりました。
完結にはまだかかりそうですが、よろしければそれまでお付き合いください。


それではそろそろ寝ます。
寒いので、暖かくして寝てくださいね。

おやすみなさい、よい夢を。


こんばんは
レスくれた方、励みになります。
いつもありがとう!


さて、先日はハロウィンでしたね。
流れに乗って、ハロウィンネタでもやろうと思ったけど浮かばず断念。

いま思えば幼少期でやればよかったのかもしれませんね。

まあなにもできず、いつも通りの1日を過ごしました。
念のために、と買っておいたパイの実も日の目を見ることなく、私の胃袋へ。

寂しいですね。


それではぼちぼち投下していきます
今日もよろしくお願いします。



………


厳しい冬も過ぎて、ようやく暖かくなりはじめた3月の中頃。


今年の冬は雪が多く、外でやる訓練が中止になることも多かった。

そのときの訓練は、座学や技巧に変わることも多かったが、 休日に変わることもあった。
もちろん、休日に変わった日は外出の許可はされなかったが。


そうして潰れていった立体機動や格闘術、馬術なんかは、
元々休日だった日に振り替えられてきた。

そのため、最近は外出ができる普通の休日が全くなかったのだ。


しかし明日は休日、ようやく訓練が休みの日が来るのだ。


僕には、絶対に明日外出しなければならない理由がある。

それは、ミカサへの誕生日プレゼントを買いに行かなければならないからだ。


もう3月も真ん中まで来ているのに、まだプレゼントを買ってすらいない。

そして、目前に迫ったエレンの誕生日もある。



ちなみに、二人より少し早い僕の誕生日には、本と綺麗な栞を貰った。


だからって訳じゃないけど、僕も二人にプレゼントをしたい。


今日も辛い訓練が終わった。

明日が休日ということもあってなのかは知らないが、
いつもよりも教官達が厳しくて、内容もキツかった。

正直、倒れるかと思った。



訓練の後は、お風呂の時間だ。

1日の疲れを温かいお湯に溶かして、さっぱりしてから夕食の時間になる。


僕とエレンが食堂に行くと、いつものところにミカサが座っていた。


アルミン「ミカサ、お待たせ」

ミカサ「そんなに待ってない」

エレン「腹へった、早く飯貰いに行こうぜ」



今日の夕食も、いつもとだいたい同じようなものだ。
ほんの申し訳程度に野菜が入った味の薄いスープを口に運ぶ。


ミカサ「明日、三人で街に行きたい」


ミカサが固くて少しパサついたパンを千切りながら言った。


アルミン「ミカサが街に行きたいって言うのは珍しいね。僕もちょうど行きたかったんだ」

エレン「俺は自主トレするから二人で行ってこいよ」


エレンはさっさと食事を済ませてしまおうとしているのか、
口の中の水分が全て奪われてしまいそうなパンを口に詰め込んでいる。


ミカサ「エレン、パンは逃げない。ゆっくり食べて」


ミカサが少し呆れた顔でエレンを諭すと、エレンはモゴモゴしながら「うるせぇ」とスープを流し込んだ。


アルミン「なんでそんなに急いでるのさ、お行儀悪いよ」

エレン「ライナーたちと腕相撲大会やるんだよ」


僕がパンを一口かじっている間に、エレンは全部食べ終わって、
「じゃあな!」と言って、走ってライナー達の所へ行ってしまった。


ミカサ「エレン、明日一緒に行ってくれないのだろうか」


ミカサが明らかにしょんぼりとした顔をするから、
僕は勢いで「なんとか説得してみせるよ!」と宣言してしまった。


果たして、頑固なエレンを説得できるものか。

少し後悔もしたが「ありがとう」と言って、ふわっと笑うミカサを見たら
なんとしてでもエレンを説得してやろうと思った。


アルミン「エレン」


夕食と腕相撲大会が終わり、部屋に戻るとすぐに僕はエレンを呼んだ。

「何だよ」とエレンは僕の前まで歩いてきた。


アルミン「明日、ミカサと三人で街に行こう」

エレン「またそれかよ、俺はいいって。二人で行ってこいよ」

アルミン「ミカサのプレゼント買ったの?」

エレン「まだだけど、明日は自主トレしたいんだよ」


エレンが折れないので、僕は「適度な息抜きをすると、何をするにも効率が良くなる」
と言うことを小一時間話していたらエレンが渋々了承してくれた。


よかった、これでミカサの寂しそうな顔を見ないで済む。

久しぶりの休日に、大好きな二人と街に行くということで、
小さい子供のようだが、わくわくしてなかなか寝付けなかった。

朝、僕は驚くほどスッキリと目が覚めた。


ミカサ「おはよう、二人とも。アルミン、今日のこと……」

アルミン「大丈夫だよ、ミカサ。エレンも行くって」

エレン「おう」


ミカサは朝食のスープをかき回していた手を止めて、
少し口角を上げて「よかった」と言った。

最初は渋々了承したエレンも、なんだかんだ楽しみにしているようで、
「昼飯は外で食おう」と提案してきた。


エレン「じゃ、1時間後に門のとこなー」

外出届を出したり、準備をしたりして、
待ち合わせの少し前には門について、エレンと二人でミカサを待った。


ミカサ「ごめんなさい、遅くなった」


ミカサはスカートで走り辛いのか、パタパタと足を鳴らしながら走ってきた。


エレン「よし、行くか!」


この辺にはたくさんのお店がある。
屋台に始まり、本屋や女の子が好きそうな雑貨屋まである。

プレゼントをあげる二人と一緒に、そのプレゼントを選びに来るのはどうなんだろう。
そう思ったけど、それはお互い様なので気にしないことする。


人の多さに少々圧倒されながら、僕たちは街をぶらつく。


屋台の前を通るたびに、エレンがぼそりと「うまそう」と呟くのを
ミカサが聞き逃すはずもなく「サシャじゃないんだから」と注意をしていた。

でも、屋台の前を通ると美味しそうな匂いがしてくるし、
これはサシャじゃなくても食い意地を張りたくなる。


可愛らしい雑貨屋の店頭に飾られた小さなリースを見て、
ミカサはその長いまつげをぱちぱちと揺らした。


アルミン「ミカサ、入る?」

ミカサ「……うん。でも、二人は楽しくないと思う、から、他のところにいていい」

アルミン「そんなこと言わずに、三人で行こう」


パッと明るくなるミカサを見て少し微笑んでから、
すたすたと先を歩くエレンを呼び止めた。


雑貨屋のドアを開けると、チリンと鈴が鳴った。

雑貨屋の中はほのかに花の香りが漂っていて、いかにも女の子が好きそうな感じだ。


エレン「すげぇ、なんかキラキラしてるな」

ミカサ「私も女の子だから、こんなお店にも興味はある」


何故か自慢気に話すミカサは、主席らしからぬ、ただの可愛い女の子だった。


ここでミカサにプレゼントを買えば、喜んでもらえるだろうか。


ミカサが飽きるまで、花の香りがする店内を散策することにした。


いいもの、ありますように。



店の一角に、小瓶に入れられた鮮やかな色の花を見つけた。

手にとってみると、花は乾燥していたがとてもいい香りがする。


前に母さんが持っていた、ポプリって名前だったかな。


赤、青、黄、緑、ピンク。
色とりどりの瓶が棚を飾っていた。

また瓶には香りの名前が書いてあり、それは色ごとに違うらしい。

赤は薔薇、青はラベンダー、黄色は柑橘類とスパイス、緑はリンゴ、ピンクは桃らしい。


これをあげたら、ミカサは喜んでくれるかな。

ミカサは花が好きだから、そう思って僕はこれをプレゼントすることに決めた。


ミカサの好きな香りはわからないから、似合う香りを買おう。

甘くて優しい、そんな香り。


1つずつ手にとって、じっくり匂いを嗅いでみた。



決めた、これにしよう。

可愛らしいピンク色の瓶の、桃の香りのポプリを手に持ってきゅっと握った。

ミカサのよく着ているカーディガンの色。

女の子らしいピンク色は、実はミカサによく似合う。


会計の時に「友人へのプレゼントだ」と言うと、店員が瓶に綺麗なリボンを巻いてくれた。

赤いリボンが、ミカサのマフラーのようだった。


きっと、喜んでくれる。


それを買って少しすると、ミカサが「もう満足した」と声をかけてきた。


雑貨屋を出ると、もうお昼頃になっていてずいぶんとおなかが減っていた。


エレン「腹減った、なんか食おう」


近くの屋台に行って、三人でサンドイッチを買った。
ハムとたっぷりの野菜が入ったもの。

それなりの値段はしたけど、訓練所で出る食事よりも何倍もおいしかった。

「おいしい」としか口に出せなくなるくらいだった。


エレンはそれはもう大変な笑顔で、ミカサも目を細めて笑いながら食べていた。

きっとおいしいのは、二人の笑顔が見れたからというのも大きいと思う。


幸せな食事の時間を終えて、少し休憩した後、また街をぶらぶらと散策し始めた。


エレンはあまり物欲がないから、何をあげればいいか本当に分からなかった。

ミカサも、歩いている途中に「エレンになにをあげればいいかわからない」と言ってきた。


エレンが欲しがるものと言えば、きっと強さとかだと思う。
でもそんなものをあげられる訳がない。


だから僕は、エレンが食べたそうに見ていた金平糖を買った。

黄色の金平糖は、エレンの瞳。
水色の金平糖は、見たことないけど海の色。


エレンは訓練兵になってから、外の世界のことを忘れてしまったかもしれないけど、
僕は今でも、三人で外の世界を探検したいと思ってるんだ。本当に。

もし、エレンが本当に忘れてしまったなら、少し寂しい。


ミカサはダンベルを買ったようだ。
いつの間に、どこで買っていたのかは全く分からなかった。


エレンの誕生日に二人で渡そう、とコソコソ話しながら決めた。

なんだか悪だくみをしているようで楽しいらしく、ミカサはわくわくしていた。
僕はそれがたまらく可愛くて、つい笑ってしまった。


楽しい時間はあっという間に過ぎて、そろそろ日が暮れてきた。

今日は一日天気が良かったから、夕陽も特別綺麗だ。


いつか見た夕陽を思い出す。
あのときのは、もっと赤かった気がしたけど。


僕たちには門限があるから、それまでに帰らなきゃいけない。


「楽しかったね」と話していたら、気が付いたら門がすぐそばにあった。


ミカサもエレンも、いつもよりもたくさん笑ってくれていた。

まるであの時に戻ったようで、僕は心底嬉しかった。


こうして三人で笑っている間だけは、僕も二人に肩を並べていられる気がした。


アルミン「ミカサ、これ。遅くなっちゃったけどプレゼント」

アルミン「お誕生日おめでとう」

エレン「これ、俺からも。おめでとう」


エレンもさっきの雑貨屋で買ったようで、同じ紙袋をミカサに差し出すと、
ミカサは黒い瞳を潤ませて「うれしい」と言った。


ミカサ「見てもいい?」


僕とエレンが声を合わせて「もちろん」と言うと、ミカサはクスリと笑って紙袋を開けた。


ミカサ「……素敵」


右手に持つのはエレンが買ったもの、たぶんドライフラワーのちいさなリース。
左手には、僕のあげた桃のポプリ。


かぶらなくてよかった、と心の中で小さく息をついた。


ミカサ「どっちもずっと大事にする、本当にありがとう」


ミカサはうっすら涙を浮かべていた。
喜んでもらえて、本当によかった。


ミカサは僕のあげたポプリを顔に近づけて「いい香り」と笑った。
それはまるで、春先に花が綻ぶような、僕の大好きなミカサの笑顔だった。


やっぱり、僕はミカサが好きだなぁ。


ずっとこの顔を見ていたい。
そう思う気持ちはいつかの暗いものではなく、至極綺麗なものだった。


ミカサのうれし涙は、きっと僕にも向いているでしょう?


この笑顔を見られるなら、僕はずっと君の親友のままでいい。
今は清々しいくらい、そう思えた。


今日はここまでにします
見てくれた方、ありがとうございました


アルミン救済回のつもり。
短めのはずが、うっかりこんなに長くなった。

急遽考えた話なので、中身もないしぐだくだですみません。
次のはもっと練りますね。


ポプリのこと書きましたが、自分はポプリも詳しくありません。
致命的におかしい点がありましたら、教えてくださると助かります。


それでは、もうこんなに遅くなってしまいましたので寝ます。

おやすみなさい、風邪に気を付けてください。


そう言えば、今日はアルミンの誕生日だ。
お祝いしないといけませんね。

アルミンおめでとう、不憫な目に合わせてほんとごめん


それでは、今度こそおやすみなさい


こんばんは、お久しぶりです
大変遅くなりまして、ほんとに申し訳ない

保守してくれた人、待っててくれた人ありがとうございます



それでは、ぼちぼち投下していきます

………

ミカサ「三人で立体機動の練習をしよう」


もうすっかり暖かくなった2年目の春の今日、座学の教官が寝込んでしまったらしい。
そのため、今日の兵法講義は自主練習となった。

ミカサからこうして何かを提案するのは珍しく、エレンも僕も少し驚いた。


エレン「珍しいな。まぁいいか、やるか!」

アルミン「僕は下手くそだから、二人の練習の邪魔になると思うけど…」

エレン「そんなこと言うな、俺が教える」

ミカサ「私も教える。こうして協力し合うのも大事」


?
エレンはまだまだだと言っているが、ミカサもエレンも僕より遥かに立体機動が上手い。
いつか教えてもらいたいとは思っていたが、なかなか機会がなかった。

これはいいチャンスかもしれない。

二人の自主練習の時間を僕の指導で潰してしまうことに若干の申し訳なささを感じながら、
三人で立体機動の練習をすることに決めた。

ミカサ「そう、そこで重心を移動させて」

エレン「アルミン、腰が引けてるぞ!」


いつも立体機動の訓練をする森で、僕はミカサとエレンから指導を受けている。

重心の移動も、タイミング良くガスを噴出させることも、慣性を利用することも、
全部頭の中では分かっていることなんだけど、どうも身体が動かない。

僕に運動神経というものがまるっきり存在せいなのか、こんなことが起こってしまう。

立体機動は苦手だ。
初めてやった時は背骨が折れるかと思ったし、木と衝突事故を起こしたことも何回もある。
こうして2年目の春を迎えられたのは奇跡だと思う。


僕がこんなに苦手な立体機動も、ミカサは簡単にこなしてしまう。

たとえば今も、まるで羽根でも生えてるみたいに、
木々の隙間を縫いながらヒラヒラと飛んでいく。


エレン「おい!アルミン!!」

アルミン「いだい!!」


ゴツンと鈍い音を立てて、僕は木にぶつかった。
しまった、見惚れていた。


エレン「大丈夫か?」

ミカサ「赤くなってる…」

アルミン「これくらい平気だよ、ありがとう」


音の割には大事には至ってないようで、赤くなってしまったおでこを前髪で隠して、
思いのほか頑丈だった自分の頭蓋骨を心の中でそっと褒めた。


アルミン「じゃあ、僕は大丈夫だから、そろそろ再開しようか」

ミカサ「アルミンが大丈夫なら。でももう少しやったら休憩しよう」

エレン「おう、じゃあ行くか。無理するなよ、アルミン」


二人のようにとはいかないまでも、僕の中では今日一日でかなり上達したと思う。
ミカサの分かりやすい指導のおかげだと思う。

エレンもミカサに教わっているみたいだ。
「あいつに教わるのは悔しいけど、強くなるためだから」ってこの間エレンが言っていたと思う。

エレンはミカサの教え方が上手いのもまた悔しいらしい。

ミカサ「アルミン、ここまで来たら休憩にしよう」


そう言われて、へろへろになった身体を飛ばしてミカサのそばの木にしがみつく。
息が上がってるわけではないが、まだ慣れない重心移動を心がけたせいか、体の疲れがすごい。


ミカサ「アルミン、見て」


ふぇ?なんて情けない声を上げながらミカサの指差す先をみると、白と緑がたくさん広がっていた。

かすむ目をこすってもう一度見ると、それはほんの少しの既視感を覚えるシロツメクサだった。


エレン「懐かしいな、なんか似てないか?あそこに」

ミカサ「私もそう思ったから、三人で来たかった」


少し開けたそこは、太陽の光がたくさん入ってきていて、黄色の光がキラキラして見えた。


アルミン「これは、ほんとに懐かしいね。綺麗だ」


体の疲れもすぐに忘れて、僕らは地面に足を付けた。

あの丘よりもずいぶん狭いし、シロツメクサしか咲いてないけど、
本当に懐かしくて、自然と笑顔がこぼれてくる。


エレンはそれらしい木の下まで歩き、あの頃のように座って、ミカサもその隣に座った。
足が重くてだるかったはずなのに、僕も小走りでエレンの隣まで行って座った。


ミカサ「この間、訓練中にここを見つけた。綺麗だったから三人で来たいと思ったの」

ミカサ「歩いてくるには遠いから、立体機動を使って」


懐かしい、そう口に出してミカサはやさしく笑った。
本当にあの頃に戻ったみたいで、嬉しい。

それから少し話をした。
話をしている間に、エレンは眠くなったみたいで転がって眠ってしまった。


アルミン「前にもこんなことあったよね」

ミカサ「ええ、よくあった」


優しい目で、眠るエレンを見つめるミカサにこうしてよくドキッとさせられたな。
少しエレンをうらやましいとおもったりもしたな。

もちろん今もだけど。


ミカサ「一緒に花冠を作ろう」

?
ミカサの提案により、花冠を作ることにした。
昔ミカサに教えてもらった花冠の作り方を思い出して、ぎこちなく手を動かす。

ミカサは手が器用で、さくさくと花をつないでいく。
僕も一応器用な方だけど、ミカサには全く及ばない。


ミカサ「あ、四つ葉……」

アルミン「本当だ、よく見つけたね」


ミカサは四つ葉のクローバーを顔の前でくるくる回しながら、
また懐かしいね、と笑った。


ミカサ「四つ葉と言えば。前にアルミンがくれたライラックの花、おばさんが花瓶に飾ってくれた。」

ミカサ「結構よくもってくれて、おばさんもおじさんもいい香りだね、って言ってた」



覚えててくれたんだ。

四つ葉のクローバーを見つめたまま楽しそうに話すミカサから、目が離せなかった。
それほどに嬉しかった、とっくに忘れていると思っていたから。


ミカサ「ライラックの花言葉、やっぱり思い出せない?」

アルミン「……うん。ごめんね、忘れちゃった」


ミカサは少し寂しそうに眉を下げてから、
「なら、仕方ない」とつぶやいて、また花冠を作る手を動かし始めた。


本当は覚えている。
ライラックの花言葉だって、シロツメクサの花言葉だって。

それでもやっぱり言えなくて、僕も止まっていた手を動かし始めた。


満足げな表情を浮かべたミカサが「出来た」と言った頃、
僕はまだ半分くらいしか出来ていなかった。


アルミン「早いね、僕まだ半分だよ」

ミカサ「これはエレンの、次はアルミンの分を作る」


そうして、ミカサはまた張り切って花をつなげ始めた。

エレンがこれをかぶるのか。
少し面白そうだけど、結構似合うかもしれない。

花冠をかぶるエレンを想像してしまい、声を上げて笑ってしまった。


ミカサ「アルミン、笑わないで。あなたもこれをかぶるの」


やっぱり。
でも、三人でおそろい、とあんな笑顔で言われてしまえば僕に断れるはずがない。


アルミン「じゃあ、僕の作ってるのはミカサのだね」


精一杯綺麗に作ろう。
僕は、また止まっていた手を動かし始めた。



花冠が3つ完成する頃には、陽が傾き始めていた。


ミカサ「大変、エレンを起こしてもう帰らないと」

アルミン「そうだね、じゃあ起こそうか」


エレンは木の下で気持ちよさそうに眠っていて、これもまた懐かしく感じた。

ミカサが「エレンに見せよう」と言って、
僕の頭に花冠を乗せたから、僕もミカサに花冠を乗せる。

ミカサの真黒な髪に、白いシロツメクサの花冠がよく映えて、本当に綺麗だ。


アルミン「ミカサ、よく似合う。綺麗だよ」

ミカサ「アルミンも、よく似合う」


僕は男なんだけど、と思って喜べばいいのか分からなかったけど、
ミカサが手を口に当てて笑っていたから、そんなことはどうでもよくなった。


本当に綺麗だ。


ミカサ「エレン、起きて。帰らなくちゃ」


ミカサが数回エレンの体を揺すると、エレンは小さく唸って目を覚まし、
目をこすりながら体を起こすと、ミカサは花冠をエレンの頭に乗せた。


エレン「なんだよ。え?なにそれ」

起きぬけに見たものが、頭に花冠を乗せた幼馴染二人だったから驚いたのだろう。
自分の頭にも同じものが乗せられていることに気づいていないようだ。


アルミン「三人でおそろい」


僕がにっこり笑いながらヒントを出してみると、
エレンはすぐに気付いたようで、また驚いていた。


エレン「びっくりしたけど、こういうのもいいな。それにしてもミカサ似合うな」


ミカサは、やっぱりさっきよりも嬉しそうにして、口に手を当てて笑った。

エレンはにやにやしながら僕に「お前も似合ってる」なんて言うから、
僕は少しむっとして、同じ言葉を返してやった。

実際エレンは結構似合っていた。


ミカサ「これをつけたまま帰ろう」


またもミカサの提案により、これを付けたまま帰ることになった。
もちろん僕とエレンは反対したが、ミカサがどうしてもと言ったので、渋々了承した。

帰り道も立体機動の指導を受けながらで、何回か花冠が飛んでいきそうになったけど、
なんとかこらえて、その都度より深くかぶることで無事に訓練所に到着出来た。

体中がったがたになってしまったけど、今日は本当に楽しかった。
立体機動も教えてもらえたし、なによりあんないいところを教えてもらえた。


三人ともすっかり花冠をかぶっていることを忘れて、
体中が悲鳴を上げる僕の歩行スピードに合わせてのんびり歩いていると、
サシャやクリスタに囲まれて、ジャンがエレンに突っかかってきた。

恥ずかしかったけど取るのが惜しくて、
結局夕食まで三人で花冠を頭に乗せたまま話をした。

また行こうね、なんて話をして楽しかった今日が終わる。

疲労もそうだが、まるで夢の中のように幸せな時間のおかげで、今日はよく眠れそうだ。

さっきまで花冠が乗っていたところが、
なんだかあたたかい気がして、顔がゆるむ。

三人でおそろい、幸せだったなぁ。


今日はここまでで
最後の切り方微妙すぎるけどそこは大目に見てください


早いもので、もう12月ですね。
これからもっと忙しくなる予定なので、
またか1ヶ月ほどあけてしまうかもしれません。ごめんなさい。

何回も同じことを言ってますが、
放置したままにはしませんので、待ってていただけると嬉しいです

なるべく早めに来れるよう頑張ります


それでは、もう寝ます
胃腸炎が流行ってるそうですので、気をつけて

おやすみなさい、よい夢を

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2013年11月03日 (日) 01:11:15   ID: ROb1Qmbb

エレミカにしてー

2 :  SS好きの774さん   2013年12月01日 (日) 20:47:42   ID: 24JSxOlo

なにいってんだ
それもいいけど別の方に頼め

3 :  SS好きの774さん   2014年05月10日 (土) 23:21:19   ID: yRPhU5tP

続きはよ

4 :  SS好きの774さん   2014年08月03日 (日) 21:56:32   ID: h5ykCaKs

アルミカ気持ち悪い。
絶対にあり得ないcpは見てて吐き気する

5 :  SS好きの774さん   2015年01月17日 (土) 16:25:44   ID: BUamoPFV

続きこないかなあ

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