イプシロン「元栓しめたっけ?」(32)

イプシロン「ちょっと見るだけ、見るだけ」

ガチャ……バタン

トテトテトテ

イプシロン「台所ー、だいどころ」

イプシロン「うん、ガスの元栓おっけー。湯沸かし器の電源OFF。水道の蛇口も……」

キュッ

イプシロン「よし、と」

トテトテトテ

イプシロン「靴はいて……いってきまーす」

ガチャ……バタン……

イプシロン「カギしめてっと……よし」

トテトテトテ

トテトテトテ

イプシロン「大丈夫まだ間に合う! わたしの打ち上げデビューだもん、遅刻なんて許されない!」

トテトテ……ピタッ

イプシロン「戸締まり、したっけ?」

イプシロン「……」

イプシロン「大丈夫、大丈夫」

トテ……トテ……

イプシロン「大丈夫。自分を信じろ、イプシロン!」

イプシロン「さっきベランダから洗濯物取り込んで、たたんで、服をしまって……」

イプシロン「窓、閉めた……よね?」

イプシロン「……」

イプシロンの家。

ガチャ……バタン……

トテトテトテ

イプシロン「あああ! やっぱり!」

カララ……ピシャッ

イプシロン「危ない、窓開けっ放しだった」

イプシロン「これでもう、大丈夫だよね?」

イプシロン「エアコンスイッチよし、パソコンOFFよし、部屋の照明よし……ガスの元栓とかはチェック済み、洗濯機の電源水道元栓よし」

イプシロン「ぜーはー……ぜーはー……うん」

イプシロン「こんどこそ! いってきまーす!」

ガチャ……バタン

可愛い 支援

打ち上げ場

イプシロン「おはようございます!」

管制官「遅い! また寝坊か!? 電話連絡は入れろと言ってるだろ!」

イプシロン「あうぅ……ごめんなさい」

管制官「まあ、間に合ったんだからいいさ。すぐに着替えて。あとこれ、台本目を通して」

イプシロン「今日のスポンサー?」

管制官「望遠鏡と腕時計メーカーの宣伝だからな。しっかりやってくれよ!」

イプシロン「はい! わかりました!」

管制官「ロケットはいりまーす」

スタッフ一同「おはようございまーす!」

イプシロン「おはようございます! イプシロンです! よろしくお願いします!」ペコッ

監督「うん、元気なロケットだね。カメラ合わせるから、位置について」

イプシロン「はい! ……こうですか?」

監督「うん、いいねえ。さすが10年に1人の逸材」

イプシロン「そ、そんなあ……」テレテレ

タイムキーパー「打ち上げ30分前でーす」

管制官「それじゃあがんばれよ! 舞台袖で応援してるからな!」

イプシロン「はい!」

舞台袖

報道官「大丈夫なんですか? あの子」

管制官「問題ない。あの子は世界一かしこい自己診断型ロケットだ。台本だって、一度目を通しただけで完璧におぼえてたしな」

報道官「まあ、たしかにカメラ映えする子ですよね……舞台にも物怖じしない」

タイムキーパー「打ち上げ5分前でーす」

管制官「いい子だろ? われらJAXAの総力を結集して作り上げた、ノートパソコンで打ち上げ管制の可能な、未来指向のロケットだ。些細な問題も自己診断できるから、打ち上げ時の手間も、事故の危険も減らせるんだ」

報道官「なるほど……それで最初の仕事が、望遠鏡と腕時計のコマーシャルですか」

管制官「腕時計はめずらしいが、望遠鏡は人工衛星の花形だろう?」

報道官「あれだけの子なら、もっとこうGPSとか、気象観測衛星とか、はやぶさ2とか、ハクのつく仕事でも良かったと思うんですが」

管制官「そりゃあ、この打ち上げが成功すれば、仕事はよりどりみどりさ。なんたって、仕事の成功率の高さではJAXAは世界トップクラスだからな。信頼性は負けないよ」

報道官「そういうもんですかねぇ……」

タイムキーパー「打ち上げ1分前でーす」

管制官「お! いよいよだな」

報道官「はい、打ち上げの瞬間、見逃しませんよ!」

タイムキーパー「30秒前!」

報道官「ん? なんだか、インカムを気にしているような?」

管制官「なんだって? ……おい、マイクを貸せ!」

タイムキーパー「10……9……8……7……」

管制官「どうした、イプシロン!?」

タイムキーパー「5……4……3……2……1……発射」

ざわ……ざわ……

どうしたんだ? 打ち上がらないぞ?

失敗か?

バカ、成功なんだよ、これでも!

管制官「……」

報道官「……どうしたんですか? インカムで話してるんでしょ?」

管制官「……が、気になって……」

報道官「はい?」

管制官「玄関のカギかけたか気になって! 点火プラグが動かせないんだとよ!」

報道官「な、なんだってえええ!?」

イプシロン「ご、ごめんなさいぃぃ!!」

管制官「ああもう! お前は細かいことまで気にしすぎなんだ!」

イプシロン「あうぅ……でも、それがわたしの良いところだって……」

管制官「限度があるだろう! 限度が! その頭は飾り物か!? こいつめ!」コンコン

イプシロン「いたっ……あいたたっ!?」

報道官「でも、どうするんですか? 打ち上げしないワケにも……」

管制官「決まってるだろう。14日に再チャレンジ……それまで特訓だ! こいっ!」

イプシロン「ふぇ……ふえええぇぇっ!?」

報道官「14日に打ち上げね……記者会見する俺の身にもなってくれよ」

報道官「ええと、打ち上げ見合わせの理由は……細かいことまで気にしすぎたから……これでいいか」

………………

イプシロンロケット、9月14日打ち上げ予定!

細かいことまで気がつくけど、どこかドジなイプシロンたんは、果たして宇宙へ行けるのか!?

乞うご期待。

ロケットの擬人化、誰得? 俺得。

イプシロンは頭が良いけどどこか抜けてるハイスペックロリだと思うのです。

縁起の悪い・・・・・・笑えたけど

ボトムズスレだと思ったら違った

実際何が原因だったん?

ヂヂリウム不足

>>13
同意

>>13
俺も

9月14日

内之浦打ち上げ場

管制官「ロケット入ります!」

スタッフ「おはようございます!」

イプシロン「おはようございまーす! よろしくお願いします!」フンスフンス

監督「うん、いい気合いだ。カメラ位置についてくれるかな?」

イプシロン「はい! 今日は管制官さんにおうちまで迎えに来ていただいたので、何も心配ありません!」

管制官「まあ、イプシロンが迷い無く飛べるようにするのが俺の仕事だからな……よし、行ってこい!」

イプシロン「はい!」

タイムキーパー「打ち上げ30秒前……」

報道官「いよいよだな」

管制官「ああ、今日こそは……」

タイムキーパー「10……9……8……7……6……」

イプシロン「今日こそは……」

タイムキーパー「5……4……3……2……1……イグニッション」

イプシロン「E-Xイプシロン……行きますッ!」

管制官「いっけええええ!」

イプシロン「うおぉぉぉ!」

ごおおおおお……

管制官「点火良し。姿勢制御よし……打ち上げは成功だ!」

報道官「よし、原稿書くか……」

ザザー……ピー……

報道官「なんだ?」

管制官「イプシロンから通信だ……モニターに映すぞ」

報道官「まじかよ。生放送にまわすぞ!」

ザザー……

イプシロン『ん……あれ? うつってるの?』

管制官「うつってる! もうオンエアしてる!」

イプシロン『えっ!? ふぇ!? に、日本のみなさん! イプシロンです! もうすぐ赤道付近に達します』

報道官「おー、初めての生中継なのに、しっかりしてやがるな」

管制官「そうだな……おい、イプシロン」

イプシロン『当機は順調に飛行中です……はい、なんでしょう?』

管制官「そろそろ一段目の切り離しだぞ」

イプシロン『あ、そうですね……えっと、つまり……』

管制官「ああ、スカートを脱げ」

報道官「え……」

イプシロン『え……えええええ!?』

管制官「何をためらっている。燃焼を終えた一段目のスカートを脱がなければ、ただのデッドウェイトだぞ?」

イプシロン『え、でも……生中継で……』

管制官「何のためにスカートの下をレオタードにしてると思ってるんだ?」

イプシロン『でも……でもぉ……』モジモジ

管制官「しかたない。遠隔操作だ」

イプシロン『あれ? スカートのベルトが切れて……ッ!?』

報道官「おい、これはどういうプレイだ」

イプシロン『いやっ! いやあああ! ぬげちゃううう!』

管制官「1段目切り離し成功……2段目に移行する」

イプシロン『ぐすん……足がスースーします』

報道官「てめえ、日本中のよい子がおかしな性癖に目覚めたらどーすんだ!?」

管制官「大丈夫だ。発表用の映像は差し替えてある」

報道官「なに!? あ……本当だ」

管制官「よし、そろそろ衛星の切り離しだな」

イプシロン『あしが……すーすー……ぐっすし』

管制官「イプシロン! 聞こえたのか!?」

イプシロン『は、はいっ!』

管制官「帽子の中に入れてある望遠鏡を宇宙空間に投げ上げろ」

イプシロン『了解です! ……えいっ!』

SPRINT-A『イッテキマース』

イプシロン『いってらっしゃーい!』

管制官「衛星放出完了。打ち上げは成功だ」

報道官「いよっしゃあああ!」

ザザッ……ザー……

報道官「ん? 通信の様子がおかしいな」

管制官「当然だろう……」

イプシロン『管制官さん』

管制官「なんだ?」

イプシロン『こないだは、本番で迷惑かけて、ごめんなさい……』

管制官「気にするな。新人なんてそんなもんだ」

イプシロン『でも……でも……』

管制官「お前はよくやった。俺たちの自慢のロケットだ」

イプシロン『管制官さん……ありがとうございます。これでわたし、安心して燃え尽きることができます』

報道官「……」グスッ

管制官「燃え尽きる? 何の事を言ってるんだ?」

イプシロン『だって、ロケットは打ち上げが終わったら、大気圏に突入して燃え尽きるんですよね?』

ザザッ……

報道官「通信にノイズが……ううぅ……ぐすっ」

管制官「まあ、そうだが……」

イプシロン『いままでありがとうございました……わたし、管制官さんのことが好きでした』

管制官「お、おう……」

報道官「ううぅ……おれ、こういうのよわい……メソメソ」

イプシロン『……さようなら、管制官さん』

管制官「……」

管制官「だから、何を言ってるんだ?」

イプシロン『ふぇっ!?』

管制官「たしかに燃え尽きるが、それはお前の服だけで、お前自身はココに戻ってくるだろうが!」

イプシロン『え……ええええっ!? だって、大気圏再突入って……あれ?』

管制官「イプシロン……おまえ……自分が死ぬと思って、台本最後まで読んでなかっただろ!?」

イプシロン『えーと……えーーーっと……』

管制官「……報道官!」

報道官「はっ!? なんでありますか!?」

管制官「報道規制解除。こいつの姿を着地まで、生中継で全世界に配信してやれ」

報道官「え、でも、そんなことしたら……」

管制官「いいからやれ! イプシロンロケット! 再突入フェーズ!」

イプシロン『か、管制官さん!? 再突入したら、わたしはどうなるんですか!?』

管制官「おまえはキズひとつつかねえよ……服はレオタード含めて、一糸残さず燃えるけどな!」

ボオォォ……

イプシロン『え……いやああああ! 本当に燃えてるうう!?』

報道官「すっげえ! 視聴率がうなぎ登りだ! ……やっぱりヌードは数字取れるなあ」

管制官「ふん。詰めの甘い新人には、ちょうどいい薬だろ」

イプシロン『あちあちあち! ぬげるぬげるぬげる! もういやああああ!』

監督「……うん、いい画が撮れた」

かくして、イプシロンロケットは打ち上げに成功した。

日本の技術を結集したイプシロンロケット。
放出した惑星分光観測衛星SPRINT-Aは、数々の発見をしてくれるだろう。

数日後……

イプシロン「あああーん! もうお嫁にいけません!」

報道官「まあまあ、結局生中継で流れたのは、ロケット部分、つまりイプシロンちゃんの服だけだったんだし」

イプシロン「でも、わたしの身体も映ってたんですよね?」

報道官「そこはCGで消せたからさ、大丈夫」

イプシロン「ううぅ……むうう……」

管制官「そもそも、機密技術の塊であるお前を、そうそう生放送で見せるわけが無いだろ」

イプシロン「でも……ううぅぅ……」

管制官「さあ、ぼさっとしてないで、もう行くぞ。次の仕事の衣装合わせだ」

イプシロン「ええっ!? もう次のお仕事ですか!?」

管制官「当然だ。あれだけしっかりと任務をこなしたんだからな。仕事の依頼が殺到してるんだよ」

イプシロン「本当ですか!? わたし、がんばります!」

管制官「その意気だ。さあ、今日からばんばん特訓だ!」

イプシロン「はいっ!」

報道官「……」

報道官「告白の件は、無かったことにされてるようだな」

報道官「ま、いいか。ええと……つぎの打ち上げ予定は……」

2015年 地球磁気圏探査衛星ERG

報道官「ちょい先だな……うん」

イプシロンたんは打ち上げるたびに服は燃え尽きるけど、帰ってきます。
心のきれいな人には、打ち上げ生中継で宇宙空間に投げ出されたイプシロンたんの白いおみ足が見えたかもしれません。

この項おわる。

それまではH2AロケットとH2Bロケットの姉妹が頑張るもんな

よし、修業して心を磨こう!

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