【オリジナルSS】イワシ「僕たちの一生に関する考察」 (49)

缶詰食ってて思いつきました。
魚の鰯が主人公のお話です。



イワシの群れの中に暮らす一匹の一人称で語られる物語を考えました。





SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1379020779

期待

あげてきます。
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僕は海の生態系の構成員。



小さくて穏やかな住人のうちの一人。




時には自分より小さな生き物を食
べるし、



自分達を餌にする生き物に仲間が食べられたりする。



群れで生きていると
仲間の誰かがその役目を担う。




それはいつだって僕じゃない。




いつも身近な誰かが死ぬが、
それも僕の日常だ。




こんにちはイワ男、今日もヒレが素敵だね。

さようなら。




イワ美、卵の調子はどう?

さようなら。



やぁイワ彦、はじめまして。



こちらがイワ吉。どうも。




明日にはさよならかも知れないが、ひとまず今日のところは仲良くしよう。



そんな僕達には盟友と呼べる間柄の友人がいる。




アジだ。





彼らも僕らと同じ善良な海の住人。





アジの群れがすれ違い際に言う。




「漁船をみたぜ」



「針を見た!糸を見た!」



「上空で海鳥が旋回中、上空で海鳥が旋回中」




僕たちイワシの間延びした返事。
「用心するよ」




アジが言う。
「そんなんだから千匹単位で獲られちまうんだよ!」




アジ達は賢いしパワフルだ。

アジ達は何でも知っている。



僕たちよりイワシという生き物を深く分析しているかもしれない。




アジは教えてくれた。



「噂によると人間に捕まれば、まず、」



彼らの稚魚達が繰り返す。
「捕まれば、まず、」



「命は無いと思え。」


稚魚達。
「思え。」



アジは言う。



「見るもおぞましい姿に変えられ」



「魚として、生命を宿す者の一人としての尊厳を完全に打ち砕かれ」



「行き着く先は無数の歯が回る銀の冷たい口の中だ。」




「血生臭い木の板の上だ」



「煮えたぎる油の中だ」



「噂によると」



「例外なくみんな死ぬ。」



「噂によると」





イワシ達は言う。
「用心するよ」


僕は言う。


そうかい、
どれも楽しそうじゃないか。



死ぬ事が生きる事より退屈だとは思いたくなかった。


もし、死んだ先に何かがあるとしても華々しく死にたい。




百匹まとめてすり潰されて銀の器に詰められる。素晴らしい。


または
一分毎に僕ら300匹分の頭をはね飛ばす機械に通される。



これもまた一興だ。



アジは教えてくれた。
これを「商品の規格化」という。
そして必ず付け加える。


「俺たちも誰かさんからの受け売りだから鵜呑みにはするな」




僕たちは缶に詰められ、
空気を抜かれながら蓋で覆われる。



エラから漏れ出る程の微かな気泡も人間達は見逃さない。



これを「衛生管理」と言う。
「鮮度の維持」と言う。



アジは言う。「これは生き残ったブリのガキが教えてくれた。確か名前はツバスといった。」



僕は言う。
「いいね」




アジ達は一様にやれやれと頭を振って泳ぎ去って行った。





僕はアジの尻に向かって叫ぶ。




「もう少し南に泳いで行くといい!底の岩陰にプランクトンが溜まった一画がある!」



アジが返す。
「そこならさっき食らい尽くしたところだ」

ーーーーーーーーーーーー。



アジ達と話した次の日だったか、
もっと後だったか。




僕は大変な場面に出くわす事になる。





いつものように群れで泳いでいた。





プランクトンを食べる。遊泳する。




今日の僕たちの予定だ。





といっても明日も明後日も代わり映えするような事ではないから、



出会ったその都度僕達がその時
何をして過ごしているのかを尋ねるのはやめて欲しい。




その代わりプランクトンを一度に多く食べる方法なら聞いてくれ。




コツはプランクトンとの距離が尾ひれ一枚分程に近づいたら水流を起こしてプランクトンを押し流さないように歩みを緩める事だ。




この日も遊泳を続けていた。





今日の陽動要員はイワ彦。



外敵の襲来に際して
率先して食べられに行く役だ。

僕の祖父と呼ばれていたイワシも、

父も、そして母も、見事にこの役を全うした。



群れは逃げ切り、
僕は仲間達に鱗に擦り寄せられて
家族の英雄的自殺行為を褒め称えられた。
その他大勢の子孫も同様に。




僕はこの役が回ってくるのを
今か今かと待ち望んでいる。




この歳の割に僕は泳ぎに自信があるほうじゃないし、体も小さい。



僕にこの役が回ってくるとしたら
群れのタフな連中が死に絶えた後になるだろう。



そうなった暁には、


僕は外敵の襲来に際して群れを離れ、逃げ切り、逃げ切るつもりだ。



群れから離れて海を見る。



それが叶わず喰われる事になっても、それもまた一興。






あの日、遊泳の中休みで立ち寄ったプランクトンの繁殖場付近で
一匹のアジを見た。



彼は不自然に輝きながら
ユラユラと揺れる不気味な生き物に目をやっている。





勇猛果敢なアジが言う。




「この種類はまだ見たことねぇな!」




イワシ達は揃って水面に目をやった。



ユラユラの直上に何かがいる。


彼らはそれが何であるか
群れ互いに意見を交わし、
分析を重ねる。



大きな魚だろうか。



そうじゃないデカすぎる。



水面に体をさらけ出している。



黒すぎる。



青すぎる。



茶色すぎる。



本来なら尾ヒレがある位置に
四枚のくすんだ銀色の刃が見えた。




僕にはそれが何であるかすぐに分かった。




僕は叫ぶ。



「それ食べちゃだめだ!!」



そう言い終わる
ほぼ同時ぐらいだった。


アジは何か恐ろしい力でぐいと水面に引き寄せられていた。




「あんあこえ!?あんあ(なんだこれ!なんだ?)!!!」




彼の体を赤の飛沫が包む。




口か喉に何か刺さっているから
彼は母音でしか話すことが出来ない。



僕は言う。



「思い切って引き寄せられている方向に泳ぐんだ!!"ハリ"が抜けるかもしれない!」



生死の分け目に立たされたアジが言う「わあっは(分かった)!」





彼はこの窮地を冷静に切り抜けようと、落ち着きを取り戻した様子だった。






このアジは賢くてタフだ。





アジはいったん、上の黒くてでかい影に近づいていく。




僕は叫ぶ。

「と、言っても!!これはゴツいブリの友達からちらっと聞いただけだから!!!……………」






アジ。
「あっ!!!?」





「参考にならないかもしれない!!!一から十まで何もかもを鵜呑みにするのはやめといた方がいいかもしれない!!!!」





アジの彼。
「わぁああろー(馬鹿野郎!)!!!!!」





ついにアジの喉の針は抜けることなく、彼の体は直上の黒い影まで一直線だった。




彼の体を掴む長くて太い腕が水面にぼやけているのが見えた。




彼の残した血が気怠げに尾を引いて頭上の影まで伸びていた。



以前、アジ達は言っていた。
「俺たちが捕まれば、途端に天ぷらと言う食べ物に加工される。これには想像を絶する苦痛が伴う。」




「しかし、これもイケスから逃げたサバの情報だ。俺達が見たわけではない。」


僕は言う。
「いいね」

僕は思った。



賢くても

多くを知っていても

逆に、無知で愚かでも


何か厄災を予想してそれに備えることが出来ても、
または出来なくても




みんな死ぬ時は等しく死ぬんだ。



あんな具合に。



死は無慈悲だが、
一方で分かりやすいぐらい公平だ。



こんなの別に今に始まった事じゃない。
何も不思議がるような事ではではない。



祖父も父も母も、
賢く、勇敢で、そして速く泳ぐ事が出来た。と、聞いている。

祖父達は死ぬ事にそれなりの意義と理由を見つけたようだが、
それなら何故生まれてきたのだろうか。



結局死ぬことが生きる理由だっただなんて馬鹿げてる。





僕にはそれだけがいつまでも引っかかっていた。

アジの彼が人間に連れ去られた後の事だが、アジの彼が元いた群れと僕たちの群れとがすれ違った。



イワシの仲間が言う。
「また会えるよ」





「そう、また会える」



「きっとまた会える」



イワシの仲間が言う。



「今度の事は残念だったが、
信じて待つんだ!僕らも祈っている」



アジの一匹の返答。



「お前達は馬鹿だから人間に捕まった奴がどうなるか何度言ってもわからねぇんだな!」




彼らは心底お怒りの様子だ。
イワシの僕たちにもそれぐらいわかる。



アジの一匹。
「何も知らねえって幸せでいいよな。」



「こんな思いをするぐらいなら俺もイワシに生まれたかったぜ」




そんな言い草、あんまりすぎるほどあんまりじゃないか。
と、少なくとも僕は思った。



群れのみんなには言わないが、
僕にはアジの言い分が良く分かる。

どうやら巨大なイワシの群れの中で、僕だけはアジと同水準か、
アジには少しばかり劣る程度には利口らしかった。





イワシの僕たちは脳天気に泳ぎ回るばかりで一生を終える。




たらふくプランクトンを食べ、泳ぐ。食べ、泳ぐ。




時には大型の哺乳類なんかに出くわして、




数千分の4匹とか数万分の126匹が犠牲になったりもするが、大した問題ではない。




その脳天気さの根底にはやはり、
僕たちイワシのお粗末な思考機能が関係している。





例えば、
群れの98パーセントが死に絶えても残りの2パーセントはプランクトンを食べて陽動役風心中要因をこさえて幸せに過ごせるだろう。



例え群れが五匹でも、一匹は脇にそれて
敵の気を引く。


おそらく、特に意味はない。


僕が言っているのはそのレベルの問題だ。




僕は自分がイワシである事が嫌いだった。


おそらく、
イワシにも、祖父にも父にも母にも、そして僕自身にもにも、生きるに足るもっともらしい理由や価値を見出す事は不可能だろう。



以前、物腰の柔らかいアジが言っていた。

「イワシの君らが人間に捕まれば、君らは缶詰になる。痛いだろうね」



そうだね。死ぬ時は仲良く千匹単位だ。
心が痛むよ。





今まさに怒り心頭のアジが言う。
「胸糞わりぃ。さっさといっちまおうぜ」



イワシの返答。
「じゃあね。元気でね」



アジは僕らが思っている程には
イワシの事を好きではなかったのかもしれない。



いや、むしろ嫌いだったんだ。



僕にはよくわかる。

時間の都合で少し中断させていただきますorz



クソみたいな題材と内容ですが読んでくれてる方はいらっしゃいますでしょうか?www

面白かった

何と無く哲学とシュールな生命観が良かった

気になる

続きあげてきます

いつものように先祖代々伝わる機知に富まない退屈なルートで回遊を続けていた日だった。




今日は海の様子が明らかに違っていた。






恐慌にきたしたタコが海の底から群れに割って現れて僕らに怒鳴りつける。






「さっさと逃げろよ!」




そう言うとタコは海底の深くまで沈んでいった。



見るからにきな臭い口調だったが僕のイワシの仲間には伝わらなかったようだ。



鯛が叫びながら横切る。
「おめぇら、底まで潜れ!」

普段は無口で穏やかなヒラメまでが取り乱した様子で砂を吐いたり吸い込んだりしていた。


僕は楽しくなった。



群れの仲間は逃げようとする素振りすら見せない。



彼らが生命の危機を感じて逃げ惑うのは、


自分たちでさえ特段関心を寄せる事のない仲間の、命を奪った
外敵の襲来の時だけである。




なぜそれを外敵と考えるかは、
それに命を脅かされた経験があるからだ。


逃げ切った過去があるからだ。




つまり何が言いたいかと言うと、
それは想像力の著しい欠如。


つまり何が言いたいかと言うと、それは、未知への無関心。



未知への突発性難視症候群。


自発的内在的健忘症候群。



イワシ達は考える。


敵はマグロか、それともイルカか。

イワシ達は考える。



自分達のいる深度は申し分ない深さだ。海鳥は脅威ではない。


自分達はなんて利口なんだ。
世界はとても美しくて、
私たちの物です。




まだまだ姿を表す様子のないそれらに、イワシの仲間たちはいよいよ高を括っている。


僕は分かっていた。


イルカやマグロはこない。



海の隣人たちがこんな具合に取り乱すのはあの事態に直面した時だけだ。


人間という脅威。
逃げた方が賢明な海の宿敵。

僕たちを「食材」や「素材」と呼ぶ生き物なんて彼ら以外に存在しない。



マグロに言わせれば僕らは「餌」か「カモ」だ。


この方がまだいくらか有機的な温もりを感じるじゃないか。






もっとも、
これらのすべてはアジの受け売りだが。






僕はいよいよ楽しくなった。



さぁ、好きにしろよ。


「死にてぇのか!!」
と、サバ。


「勘弁してくれよ」
と、スズキ。




僕は言う。


さっさと捕まえちまえよ。
僕を。



ここだ、ここだ。




遥か遠方より迫るのは
記憶に新しい黒い巨大な影。


海のみなさま、
ご覧いただけますでしょうか。




ぶぅんと音を立てて水面を切り裂く刃の歩み。





釣り上げられたアジの彼の敵だ。




あの生き物は「漁船」と呼ばれており、



泳ぎの苦手な人間を背に乗せて海を渡り歩くために利用されているんだという。

僕らで言うところのヒレの役割を果たすのは「モーター」や「スクリュー」と呼ばれている器官だそうだ。





もっとも、
これもアジの受け売りだが。



どうやって人間が漁船という怪物を手懐けたのかは、
ここに暮らす全海産資源一同の関心の的だ。





黒や緑の、
一見すると海藻にしか見えないものが海に放たれるのを見たら、



何も考えず逃げた方がいい、とアジは言っていた。


「それに囲い込まれたら、」


「込まれたら」


「十中八九逃げられない」


「逃げられない」



今投げ込まれたところだよ。
囲まれたところだよ。




これの名前は「投網」だそうだ。と、アジは教えてくれた。



投網なる新鮮な死が
僕たちを心ゆくまでたっぷりと飲み込んでいく。

イワシのみんなは
思い出したように慌て始めている。





やぁイワ彦。



こちらがイワ美。



こんにちはイワ吉。



今日は最高の日だと思わないかい。





僕らを覆う網は引き絞られ、
その圧力でイワ彦の体が二つになる。



その断面は思ったより白いが、
彼は生前何を食べていたのだろうか。


もしくはイワシという物の
だいたいがこうなのかもしれない。

イワ美は産卵までもうじきだったがその腹は無惨に裂け、
無数の有精卵が海に向けて放たれた。


思ったより数が多いから
全部孵れば群れの再建を果たしてくれるかもしれない。




それを見たイワ吉のはなむけの言葉。
「わぁー!元気な子に育つといいねー!!」




ところで、人間は僕にどんな加工を施すのだろうか。




それより急激な気圧の変化に小柄で弱々しい僕が耐えられるのだろうか。






僕が今考えるのは
概ねそんなところだ。

書き溜めが尽きたので
今日中に書き上げて残りもあげます。



多分もうすぐ終わります。






これはなかなかの名作。
第二の椋鳩十を目指せ。

またシブいのをご存知ですねwww


ありがとう!頑張ります

できあがったんで残りもあげちゃいますね!

おう!
待ってるよ

ーーーーーーーーーー


と、言うわけで、




僕たちは投網ごと漁船と呼ばれる生き物の上に投げ出された。





やはり気圧の変化が及ぼす影響は顕著で、





僕は、両目を内側から押し出そうとする見えない力に
ほとんどの色彩と多少の視力を奪われた。







アジの話と僕の記憶が正しければここは漁船君の「甲板」と呼ばれる部位だろう。





死を間際にして気付いたが、
やはり自分は少なからず恐怖を感じているらしかった。




色を失った世界で
群れの仲間の死を克明に見せつけられているとそんな気になってくる。

ぐったり血を吐いた事切れたイワ吉を見ていると彼が最期に味わった苦痛が並一通りではなかった事は想像に難く無い。




これは死を漠然と恐れてではなく、

死をもたらす決定打に伴う痛みを恐れての感情だ。

そのプロセスに伴う痛みを恐れての感情だ。




僕はイワシながらに自身の内面心理に洞察を凝らした。



の前に、差し迫った問題だが、
呼吸が苦しい。


これは僕の憶測だが、
僕の動脈流は今現在酸欠でドス黒くなっていると思う。




この漁船には「いけす」と呼ばれる部位が備わっていなかった。



これは生まれつき
オスかメスか、
背ビレに青みがあるかないかといった類の差異なのか。


それともこれは漁船という生き物の世界に存在する、特有の疾患なのか。





まぁともかくとして、
漁船は何処かに向かっているらしく、

僕は本日晴れて虫の息です。




陸を満喫したいのは山々だが、
如何せん、水が恋しい。



こうして甲板で突っ伏していると思うのだが、



もしかすると、
ごくごく退屈な理由で僕はこの世を去る事になるのではないのだろうか。

そんなの嫌だ。




それだけはなんとしても避けたいから、今僕は懸命に生きている。



とは言ったが、
死を望んでも言って自分の意思で心臓は止められない。



逆もまた然りだと言って間違いないだろう。



そうなると僕にできる事と言えば、
甲板の上で仲間の死骸の間をピチピチと駆け回る事ぐらいのもんだ。




僕の現状は芳しくない。



ご存知の通り、
僕たち魚の体はシンプルな二面構造だ。



裏か表、上か下、または左右。



片方は甲板に、
正に、肉迫せんとする気迫をもってに凝視を続け、



もうまた片方は照りつける日光で乾燥してきている。



空を一望。

どこまでも退屈な青。
僕の色彩がまともならばそう見えただろう。



片面だけでいい。
太陽を睨み付けている側にまぶたが欲しい。



それだけで快適だ。



僕は考える。
アジの友達が言っていた人間の「フィッシュグリル」がどんな代物かを。


その前に友人達に別れを告げなくては。



やぁイワ美、大胆な出産だったけど僕は悪くないと思うよ。

会いたかったよイワ吉。
胴はどこに忘れてきたんだい?

イワ彦!
冴えない顔してどうしたんだよ!

そうこうしていると、
漁船君の先が鈍くボンと音を立てて何かにぶつかった。






日照りが僕の鱗を焦がし、その一枚一枚を丁寧に切り隔てていく。





(今朝も大漁だよー!!!ほら見ろよー!!)



人間の声。



(パパすごい!!みぃにも見せて!)

もう一人の人間の声。



どうやら僕らの群れを壊滅させた元凶はこうして朗らかに会話を楽しんでいるようだ。



だからと言って
特に恨めしいとも思わないが。




(あ、この子ちっちゃいよパパ!!"ちぎょ"かもしれないよ)




(そうだな‥‥‥見てみるか)



何か岩肌を削り出したような無骨なものが瀕死の僕を持ち上げる。




僕を覗き込んでいる。



僕は人間と対面を果たした。




天国での共通の話題が出来たし、
ハクがつくってもんだ。




とにかく、
終わりが近づいている。



僕は嬉しい。



頭をはねろ。



身を擦り潰せ。



退屈な人生から逃げ出す方法なら知っている。




コツは出来るだけ派手な死に様を思い浮かべる事だ。





(どうやらみぃの言うようにこの子は小さいみたいだね)





(だよねパパ!海に帰そうよ!)





(みぃは優しい子だね。パパ嬉しいよ。ほら、持ってきな)

僕の腹の感覚は一転。
今度は細く、か弱い方の人間の方に引き渡されたようだ。




二人目とのご対面。
僕は天国で持て囃されるだろう。




こいつが僕を死に追いやるんだな。



なら、出来るだけ早くだ。
僕の先は長くない。



早く。僕が息絶える前に。




頭をはねろ。




それもまた、一興だ。





(この辺りでいいかなパパ?)




早く。


僕に自分の死を。

人間さん、思いっきり派手に殺してくれ。






しかし、出来るだけ早くだ。



(それ!おさかなさん、元気に暮らしなよ!)



ふっと僕は宙を舞う。





海鳥が上空を旋回中。海鳥が上空を旋回中。



行き先は油か。
煮えたぎる油。




それもまた、一興だ。







ぽちゃん!


(なんだかぐったりして動かないねパパ?)



(そうだね。もともと弱ってたからかな)




どうやら僕は再び海に戻されたようだ。





もし僕を助けたつもりであれば、
何千匹という仲間を殺した手前彼らの行いは白々しい限りだ。



もう泳ぐ元気はない。



残された頼みの綱である海鳥達も、


漁船に転がる僕の仲間の新鮮な「つみれ」や「すり身」に腹を満たした様子で僕には見向きもしない。




間近で見てみると彼らはたいそう美しかった。

もう最後になるが、
イワシとして幸せに人生を全うする方法なら教えよう。



【早く‥‥‥‥】




そのコツは、
僕たちイワシがたいして生きる価値のない存在である事を

【助けてくれ】

自ら悟る事がないよう、さっと一生を終える事だ。



【早く‥‥‥‥‥】



エラの中に相当血が溜まってきている。



【僕が事切れる前に水から引き揚げろ】

僕のこれまでの人生の事なら聞いてくれ。



【頼むよ】


教えるさ。
他のイワシと同じだった。



【僕をこんなところで死なせないでくれ】




だから最後は。

【ワクワクしてるんだ】




僕は他のボンクラと違う。

死を明確に理解し、
今まさに、それを味わわんと躍起になっている。





この点で僕はイワシでありながら奇特な存在だ。




死はイワシという不運からの脱出、
イワシという業苦からの解放だ。



腑抜けながら水の中で最期を迎えるなんていかにもイワシといった風情じゃないか。


【そんなのごめんだよ。】




アジは言っていた。
「人間に捕まれば、」


【助けて】



「生きては帰れない。」



【嘘つき。】





「そして人間は残虐で、」




「慈悲の心など持ち合わせていない」




【嘘つき】



決まって最後に付け加える。



「俺も聞いただけだから全てを鵜呑みにするな」


僕がこの後どうなるかを知りたいのなら
聞いてくれ。




【こんな冴えない最期はあんまりじゃないか。】




答えは聞くまでもないだろう。



【さっさと水から救いあげて仲間の所へ連れていけ】



どう転んでも
野垂れ死と揶揄される類の死に方を避けられそうもない。



そしてこれは僕の夢の話だが、
来世はイルカ。



これだけは今も変わらないない。






だから




【早く、はやく】



来世と呼べるものが存在するのなら、





【はやく】




次は鳥でも悪くないな。



【はや‥‥‥‥】




僕は本日晴れて、



イワシとしての生涯を終えようとしています。



ーおしまいー


すごく良かった。
ほかの作品も読んでみたい。

くぅ疲これ完w


ありがとう!
他は進撃SSばっかり書いてますwww



感想とかあれば是非願いします。


読んでくれてどうもありがとう


なんだ、この哲学的なssは。
こんな雰囲気のssは初めて読んだが悪くなかった。むしろ新鮮で面白かったわ
乙ですた

僕もイワシを主人公に書くのは始めてだったのでとても新鮮でした。

もし次回があれば是非読んでやってください。

本当にありがとう!

この間釣ったイワ太郎もこんなん考えてたらなんかね。あぁ塩焼きうめぇ

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