男「幼馴染が記憶障害に…!?」 (19)

 幼馴染が事故に遭った。深夜前、そう聞き、急いで親と共に病院に
駆けつけたのが昨日になる。幸い、幼馴染は生きていた。
だが、彼女の両親から聞いたのは衝撃的な事実だった。
彼女は記憶を失ったという。それも彼女の親も含め全員の。
唯一覚えているのは基本的な生活に必要な知識だけらしい。
さらには、彼女の脳は強い衝撃を受け、破損しているらしく
彼女の記憶は、1日ぽっかり経つとリセットされるらしい。つまりこれ以上は維持できても蓄えられないらしい。
もちろん、リハビリ等で回復することも可能らしいが、見込みはあまりないらしい。

最初は深く悲しんでいた俺だったが、それを乗り越えると次に俺の脳裏をうめつくしたのは
たった一つのどうしようもない、子供の様な考えだった。

「あのね、男」
あの時の悔しさを、俺はまだ忘れられない。

「男の気持ちは嬉しいの。男が私のことをそう思ってくれたのはすごく嬉しいの…。」
すぐにでも忘れたい。そして乗り越えたい。
だが、不思議なことに、傷口は触れれば触れるほど痛んでいった。

「私、もう…居るんだ。好きな人……。野球部の先輩でね……。」

その後は、あまり覚えていない。あの時の心境は、今でも鮮明に思い出せる。

だからこそ、変えたいと思ったのだろう。信じたくなかったのだろう。

だから……俺は……。

「俺は君の…彼氏。名前は、男…。思い出せなくても、俺の事は信じてくれ。」

取り返しの付かないことをしているのだろう……。

幼馴染「男…くん?」

男「…いや、くんはいらない。男、君はそう呼んでた。」

幼馴染「男……なんだか、懐かしい様な……」

男「…そ、そう…?」

幼馴染「はい……。」

男「できれば、敬語もやめてくれないかな…?」

男「あ…あぁ、君が…タメ口で喋ってくれたら俺も、敬語をやめるよ……。」

幼馴染「…わ、分かった。」

男「そう…そんな感じ、そんな感じ…!」

幼馴染「…男って不思議な人だね。」

男「え……?」

幼馴染「なんだか、こんなに懐かしい感じがしたのは、男が初めて……かな。」

一瞬、只の幼馴染としての自分が見透かされている気がした。
恐らく、顔にでているだろう。
でも、俺は……ここで終わる訳にはいかない……。

これでエルフの女騎士だったらお前らキレる?

あげ!

そう、念願の夢が俺にはある。それは……とても小さくて、小さな少年でも
抱いているような、本当にちっぽけな願いだ。
そして俺は、その願いを叶える為に最愛の人を騙しているのだ……。
もう引き返す事はできない、それを無駄にしない為に。

男「…キス、しないか?」

幼馴染「え……?」

どうせ、この夢も、明日には消えてしまう物だ。今を精一杯噛みしめなければならない。
悔いは絶対に残したくはない、この一秒、一分。ボロをださすに確実に演じきる。

男「俺、お前が事故に遭ったって聞いた時、心配でさ…」

男「今、お前が生きてるってのを何かの形で噛みしめたいんだ……。」

幼馴染「男……。」

引き返すなら今だ……。彼女の未来を考えるなら、本来の愛人の為に
彼女の純潔は守るべきだろう。……それが本当にコイツを愛する者為の定めじゃ……。

幼馴染「分かった……。男がそう言うなら、しよっか……キス」

やはり俺は自分の事しか考えられないクズだ……。

あげ!

念願の夢。少年の頃、夢に見た。
初恋の人とのキス、自分が思い描いた物とは少し違うが……。
これも一つの夢のカタチだ。


それは、あまりにも簡単な物だった。小学生がする様な唇と唇を重ねた簡単な物。
だけど、この唇の温もりは、一生忘れる事ができないだろう。
例え、彼女が忘れても……俺は、絶対に……。



不意に目が覚めた。長い夢を見ていた気分だ。目の前には、幼馴染が居た。
彼女は学校の制服を着ていて、どこか俺の知っている彼女より大人びている気がする。

幼馴染「男、セックス…しよっか」

あぁ……そうか、彼女は、幼馴染は、俺の彼女になったのか。

何時も俺を支えてくれていた彼女が、ついには俺の……これほど幸せな事はない……。

なのに、何故だろう。彼女は泣いている。笑顔なのに、目には涙が溜まっている。

彼女の涙を拭き取ろうと、俺は自分の腕を動かした。病衣が、優しく揺れた。

はい、終わり

解説、本当に事故に遭ったのは幼馴染じゃなく自分。つまり主人公だった訳です
男の記憶と思われた物は実は逆で、本当は男には片思いしていた女性が別に居た。

そして今までの話は男の、微かな夢のお話だった訳です。

まぁ結局この先また男の記憶はリセットされるけど、それはそれで幸せなんじゃないかなー、と


ここまでよんでくれてサンクス!おやすみ!

乙の一言もないなんておっちゃん寂しい(・ω・`)

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