菫「ガンジーも助走をつけてシャープシュート……いまいち」 (30)

菫の家

菫「……」

照「……」ぱら(ページをめくる音)

菫「……」

照「……」ぱら

菫「……」

照「ねえ菫」

菫「ん?」

照「菫は、私と居て楽しいの?」

菫「まあつまらなくはないな」

照「そう」

菫「……」

照「……」ぱら

菫「……」

照「……」ぱら

……

白糸台部室

菫「……」

淡「どうしたんですか菫先輩、そんな難しい顔して」

淡「もしかしてお悩み中?」

菫「いや、別に……」

亦野「私らで、お役に立てることがあれば力になりますよ!」

尭深「うん……」ズズー

淡「そうだよ、なんでも自分一人で背負い込むのは菫先輩の悪い癖ですよ!」

菫(確かに、私一人で解決できないことでも、みんなの力を借りれば……)

菫「うーん、それなら……」

菫「と言っても、別に大したことではないんだが……」

菫「最近、いや、特に最近ってわけでもないが、照のことがわからなくなってきてな」

淡「まあ、テルーってちょっと天然なとこありますからねー」

亦野「お前は人のこと言えないからな……」

淡「それより前から気になってたんですけど、菫先輩とテルーって付き合ってるんですか?」

亦野「っ!」

尭深「っ!」

亦野(やった! さすが大星!私らが気になっていたが聞けなかったことを、簡単に聞いてのける……)

菫「いや、私と照は別にそういう関係ではない」

淡「なーんだ、つまんない」

亦野「……」

尭深「……」

菫「なんで、こっちの二人も露骨にがっかりしてるんだ……」

淡「でもやけに仲良しですよねー」

菫「まあ、お前らよりは長い付き合いだからな……」

菫「というか、話が脱線したな」

淡「えっと、テルーが天然って話でしたっけ?」

菫「微妙に違う……」

尭深「天然というより不思議ちゃん?」

菫「いや、そういうことでもなく……」

亦野「でも宮永先輩が天然ってのはけっこう有名な話ですよね」

尭深「うん」

菫「え、そうなのか?」

淡「私らだけじゃなく、他の部員達の間にもそういう認識が広まってるみたい」

菫「お前が広めたんじゃないよな?」

淡「違いますよ、全部テルーの自業自得ですって」

亦野「けど、『宮永照の天然伝説』を広めたのはお前みたいなとこあるよな」

菫「なんだその非常に頭の悪そうな伝説は?」

亦野「全部菫先輩は知ってる話ですよ」

尭深「確か――」

    宮永照の天然伝説

テレビ『宮永照の、連続和了だああああああ!』

照「ねえ菫」

菫「ん、なんだ」

照「これって生(放送)?」

菫「…………」

……


照「神戸って大阪?」

菫「……」

……

12月29日

照「メリークリスマス、今年もよろしく」

菫「……」

尭深「……」

亦野「……」

菫「ああ……よろしく」

……


テレビ『Wo~ah! Livin' on a praeyer~』

亦野「やっぱり全盛期のボンジョヴィはいいですねー」

照「ねえ、菫」

菫「……なんだ?」

照「どれがボンでどれがジョヴィ?」

菫「……」

……

しゃぶしゃぶ屋看板

照「しゃぶりたい……」

菫「っ!」

尭深「っ!」

亦野「っ!」

淡「っ!」

菫「ああ、なんだ、しゃぶしゃぶが食べたいってことか」

照「うん」

亦野「今ので、よくわかりましたね……」



淡「テルー、タカミーが持って来た新しいお菓子おいしい?」

照「確かに美味しいけど、舌打ちするほどではない」

菫「……」

尭深「……」ズズー

宮永照の天然伝説終

菫「くそ……全部実話じゃないか……」

淡「捏造なんてしないよー」

亦野「改めてふりかえってみると、宮永先輩って…………アレですね」

淡「アレだー」

尭深「アレだね」

菫「あれってなんだよ……」

淡「あれだよあれ、あれあれ」

淡「だから、今すぐあれの口座に100万ほどふりこんでくれね?」

菫「もう意味がわからない……」

尭深「あれあれ詐欺……」

菫「そんなのにひっかかるやつはその……アレすぎるだろ」

亦野「宮永先輩相手ならワンチャン……あるいは……」

淡「そうだわかった!」

菫「なにが?」

淡「菫先輩も天然になればいいんだよ!」

菫「お前はアホなのか?」

淡「菫先輩も天然を演じて、テルーの天然に対抗するの!」

菫「演じるとか言ってる時点でもう天然ではないわけだが……」

淡「天然を演じてるうちに、照の気持ちが理解できるかも」

菫「うん、理解した。お前やっぱりアホなんだろ」

淡「なにそれひっどい」

淡「人が一生懸命考えたのにー」ぶーぶー

がちゃっ

照「みんなおはよう」

菫(噂をすれば、なんとやらだな)

淡「あ、テルー」

……

菫(はあ……)

菫(正直、淡には少し期待していたんだが)

菫(私の偏見かもしれないが、照は淡と同じタイプのように感じる)

菫(性格も打ち筋も全然違うし、相違点を上げればキリがない……)

菫(しかし、どちらも、生まれながらにして圧倒的な才を持つ、天才だ)

菫(少なくとも私よりは、似通った存在だろう……)

菫(淡なら、もしかすると、天才特有の悩みや孤独、考え方を理解できるかもしれない、と思ってたのだが……)

菫(……アレだったな)

菫(照……)

菫(私のような凡人が、天才の考えなど理解できるはずもない)

菫(そもそも他人を理解するなんて、不可能だし傲慢だ……)

菫(たとえそうだとしても、それでも私は……)

菫(お前のことを理解したいし、そして出来るなら、支えになりたいと、そう思っているよ……)

……

菫の家

菫(とかそんなことを考えていたんだが、こいつの顔を見てるとなんかどうでもよくなってきたな)

照「……」ぺらっ

菫(困ってるところとか全然想像できない……)

照「……」ぺらっ

菫(いつだってマイペースだし)

菫(ああ、そういえば淡がアホなことを言っていたな……)

菫(…………)

菫(いやいや、そんなこと、私ができるわけがない……)

菫(しかし、行動を起こさねば、何も変わらないのも事実……)

菫(やるだけやってみるか? いやしかし……)

菫(そもそも私は、天然というものがよくわからない)

菫(世間一般では、照や淡のような性格を天然と呼ぶらしいが……)

菫「なあ照」

照「うん?」

菫「君の心臓(はぁと)にシャープシュート☆」キラッ

照「…………」

菫「…………」

照「…………」

菫「…………」

照「…………」

菫「…………」

照「ごめん、今何て言ったの?」

菫「だから君の……いやなんでもない!」

菫(ああ、死にたい……)

照「……菫、頭でも打った?」

菫「うってない……」

照「じゃあ、そこらへんに生えてる草でも食べた?」

菫「食べるかっ! 私はヤギじゃないんだぞ」

照「うーん」ぺたっ

照「熱はないみたい」

菫「至って健康だ!」

菫(クソっ、私は何をやっているんだ!)

菫(『君の瞳に物理ロン!』と『君の心臓(はぁと)にシャープシュート☆』の二択で迷ったんだが、前者のほうが良かったか……?)

菫(それとも君の子きゅ……いやさすがにそれは、あまりにも品がない……)

照「でも菫……」

菫「冗談だ! なんか知らんが、冗談が言いたい気分だったんだよ!」

照「なんだ、冗談か」

照「うん、よかった」

菫「……」

照「……」ぺらっ

菫(ふう……なんとか納得してくれたか)

菫「……」

照「……」ぺらっ

照「…………ぷっ」

菫「おいっ……今お前笑ったろ?」

照「わ、笑ってない(震え声)」

菫「笑ってるだろ!」

照「違う、これは……読んでる本が面白くて……」

菫「じゃあなんでさっき否定した?! 最初からそう言えばいいだろ」

照「それは……その……ぷっ」

菫「よしっ、お前は明日の部活、お菓子抜きだ」

照「え、普通にひどい……」

照「自分で冗談を言っておいて、それを笑ったらおやつ抜きとか理不尽……」

菫「うるさい」

菫(淡の言うことを信じた私がバカだった……)

菫(よしっ、明日は淡もお菓子抜きだ)

……

淡「」ゾゾゾ

淡(何か理不尽なことが行われてる気配……)

一年後

菫「……」

照「……」ぱら(ページをめくる音)

菫「……」

照「……」ぱら

菫「……」

菫(結局、私はコイツのことを、あまり理解してやることができなかったな……)

菫(そりゃあ、出会った頃よりは色々知っているつもりだが……それでも知らないことが多過ぎる)

菫(……)

菫(今だって何を考えているのやら……)

菫(…………)

菫(……)

菫「なあ、照」

照「うん?」

菫「どうして、プロにならなかったんだ?」

照「プロならいつでもなれるから」

菫「もの凄い傲岸な発言だが、お前の場合それが事実なのが腹立たしいな」

照「大学卒業した後でもプロにはなれる」

菫「まあ、確かに……」

照「それに」

照「菫と一緒に大学生活をおくりたかったから」

菫「っ!」

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