ゆうしゃ「まおうじょうに いくよー」(129)

ゆうしゃ「おうさまー」

王様「勇者、よくぞ来た」

ゆうしゃ「おはなしってなに?」

王様「お前に大切な任務を授ける」

ゆうしゃ「にんむ? おしごとだね!」

王様「いかにも!」

王様「勇者よ、魔王を討伐するのだ!」

ゆうしゃ「ま、まおうを!?」

王様「では説明しよう」

王様「先日、あばれ大猿の騒ぎがあったのは知ってるか?」

ゆうしゃ「うん。 おいはらうのたいへんだったよ」

王様「お前も退治に参加していたのか、礼を言うぞ」

ゆうしゃ「えへへ」

王様「そう、最近になって魔物どもの動きが活発化しているのだ」

王様「つまりこれは……魔王がなにかをしている!」

王様「可能性が高い!」

ゆうしゃ「たしかに!」

王様「だから魔王城に行き! 事の真偽を確かめ!」

王様「魔王を討ち倒すのだ!」

ゆうしゃ「わかりました!」

ゆうしゃ「あ……でも」

ゆうしゃ「まおうのせいじゃなかったら どうするの?」

王様「その場合の判断はお前に任せよう!」

ゆうしゃ「まかされました!」

王様「さて、先ほど言ったように今は魔物の動きが活発だ」

王様「城の兵士を派遣するわけにはいかん」

ゆうしゃ「うん。 ひとりでいってくるよ」

王様「そうもいかん。 危険な旅になるだろう」

王様「魔法使いを一人お供につける」

王様「彼女と協力し……我が国に平和をもたらしてくれ!」

ゆうしゃ「はい!」

――

ゆうしゃ「おしろの いちばんたかいところ……」

ゆうしゃ「ここにいるって きいたんだけどなあ……」

魔法使い「あらあら、かわいい勇者様ね」

ゆうしゃ「あ、あなたが」

魔法使い「そう。 私があなたの監視役よ」

魔法使い「よろしくね」

ゆうしゃ「かんし?」

魔法使い「そうよ。 城の兵じゃないあなたを完全に信用してるわけじゃないの」

魔法使い「手柄を横取りされても困るしね」

ゆうしゃ「よくわかんない」

魔法使い「……」

魔法使い「川の向こうに城が見えるかしら?」

ゆうしゃ「うん。 このおしろよりもおおきいね」

魔法使い「あれが魔王城よ」

ゆうしゃ「そうなんだ!」

ゆうしゃ「ちかい!」

魔法使い「あそこによくドラゴンが降りているの」

ゆうしゃ「どらごん……すごくつよいやつだね」

魔法使い「そうよ。 ほかにも大型の魔物が出入りしているのを見たわ」

魔法使い「つまり……」

魔法使い「あれは間違いなく魔王城よ!」

ゆうしゃ「なるほど!」

魔法使い「誰がどう見ても、あからさまに魔王城……つまり」

魔法使い「昔から魔王城として認知されていたの」

魔法使い「この城が建つ前からね」

ゆうしゃ「まおうじょうのほうが ふるいの?」

魔法使い「そういうこと」

魔法使い「恐ろしいであろう魔王城を見張る必要がある」

魔法使い「だから小屋を建てて」

魔法使い「情報を伝えやすくするために道を作って」

魔法使い「すると人がなんとなく集まってきたから……」

魔法使い「なんとなく城が建った」

魔法使い「そうやってできたのがこの国よ」

ゆうしゃ「すごい」

魔法使い「つまり、この国は魔王城を見張るために存在しているの」

魔法使い「だから魔王城へ行くことは、この国にとって歴史的な任務なの」

魔法使い「あなたにもその自覚を持ってほしいってこと」

ゆうしゃ「う、うん。 がんばるよ」

ゆうしゃ「でも……おうさまは そこまでかんがえてるかなあ」

魔法使い「あ、それもそうね」

魔法使い「じゃあ今言ったことは一旦忘れて」

ゆうしゃ「うん!」

――

ズルズル ズルズル

魔法使い「ふぅふぅ……小舟ぐらい川につけておきなさいよ」

ゆうしゃ「うう……重い……」

魔法使い「運ぶだけで一苦労ね」


大猿A「……」ジー


ゆうしゃ「あ、まものがいるよ」

魔法使い「目を合わせちゃダメよ。襲ってくるかもしれないわ」

ゆうしゃ「わかった」

魔法使い「あ、目を離してもダメよ。襲ってくるかもしれないわ」

ゆうしゃ「むずかしいね」

目を合わせずに見張る

ザザーン

ゆうしゃ「かわについたよ」

魔法使い「この地点に来たのも私達が初めてよ」

ゆうしゃ「そうなんだ。さかなをとったりしないの?」

魔法使い「したいけど怖かったからやめといたの」

魔法使い「それがこの国の歴史よ」

ゆうしゃ「なるほど」

ゆうしゃ「よいしょっと」

魔法使い「あら、オール持ってきたの?」

魔法使い「私が風の魔法で船を進めるから必要ないわよ」

ゆうしゃ「えっ? でも……」

ゆうしゃ「かわのうえでおそわれたら ふねがしずんじゃうよ?」

魔法使い「……なるほど」

魔法使い「確かに魔法は護衛に回した方がよさそうね」

魔法使い「じゃあ漕いでもらえるかしら?」

ゆうしゃ「まかせて!」

ギーコ ギーコ

魔法使い「けっこう力あるのねえ」

ゆうしゃ「えへへ」

魔法使い「そういえば、あなたのことを聞いてなかったわね」

ゆうしゃ「うん? ぼくはふつうのにんげんだよ」

ゆうしゃ「ちょっとだけつよいから おうさまのおてつだいをしてるんだ」

魔法使い「……」

魔法使い「あなた、男の子だったのね」

ゆうしゃ「えっ!?」

可愛い

ギーコ ギーコ

ゆうしゃ「なかなかつかないね」

魔法使い「川が狭かったら魔王城が近いでしょ」

魔法使い「だからこれでいいのよ」

ゆうしゃ「そうだね」

ザバァッ!

首長竜「……グルルッ!」

ゆうしゃ「あっ」

ゆうしゃ「つよそう」

魔法使い「魔物っ!?」

魔法使い「ふ、伏せてなさい!」

ボウッ

魔法使い「火球魔法!」

首長竜「!」ピクッ

ヒョイッ

魔法使い「えっ」

魔法使い「かわされ――」

首長竜「グルアァッ!!」

魔法使い(そんな!?)

魔法使い(魔物のくせに火も魔法も知っていて)

魔法使い(その上で襲いかかってきてるの!?)

魔法使い(こんなやつがいるなんて……)

魔法使い(やっぱり魔王城に行くなんて無茶だったんだ……)

魔法使い(二人共、殺されちゃうんだ……!)

ゆうしゃ「たぁああっ!!」

バッ

ゆうしゃ「だぁっ!」

ガキッ!

首長竜「ッ!」

ゆうしゃ「かたいっ!?」

魔法使い「剣が弾かれた!? なんて丈夫なお鼻なの!?」

首長竜「グァァアアア!!」

ザパーン

魔法使い「あれ……潜った……?」

魔法使い「……」

魔法使い「来ないわね……」

ゆうしゃ「いたかったのかな」

魔法使い「と、とにかく! 今のうちに船を進めましょう!」

――

ゆうしゃ「はぁ……はぁ……」

魔法使い「な、なんとか向こう岸までついたわね」

ゆうしゃ「うん。 3にんとも ぶじでよかった」

魔法使い「3人?」

ゆうしゃ「だって まおうじょうからも このかわはみえるよね?」

魔法使い「え……」

魔法使い「あっ! そうか!」

魔法使い「あの竜を使役できる相手なら退治なんか無理なんだ!」

魔法使い「話し合いに持ち込むなら道中の殺生は避けるべきね!」

ゆうしゃ「はなしあい できるといいね」

魔法使い「可能性は……あるわ」

魔法使い「長い間、向こうから攻めてくることもなかったんですもの」

ゆうしゃ「まものがあばれるのが まおうのせいだったらどうしよう?」

魔法使い「その場合魔王と敵対することになるわ、この国はおしまいね」

魔法使い「そうなったらあなたは逃げなさい」

ゆうしゃ「魔法使いさんは?」

魔法使い「……」

魔法使い「最初に魔王城を見つけたのはね、私のご先祖様なのよ」

魔法使い「国にはそれなりの愛着があるの。 だから戦うわ」

ゆうしゃ「そうなんだ」

ゆうしゃ「じゃあぼくもたたかうよ。 にげられないかもしれないし」

魔法使い「……まあ、あまり悪い方には考えないようにしましょう」


魔法使い「さて、着いたわ」

魔法使い「魔王城よ」

ゆうしゃ「すごいおおきい……」

ゆうしゃ「いりぐちは はんたいがわかな?」

魔法使い「まずいわね……川の向こう側から見えない位置だわ」

赤鬼「……」

緑鬼「……」


ゆうしゃ「つよそうな みはりがいるね」

魔法使い「そうね、足が震えてきたわ」

魔法使い「でも……行くしかないわよね」

魔法使い「さあ! 任務開始よ!」

ゆうしゃ「うん!」

支援

ゆうしゃ「ご、ごめんくださーい」

赤鬼「あ? なんだお前ら」

魔法使い「川の向こう側から来た人間です」

赤鬼「 ハァッ!? 」
緑鬼「 ナニィ!? 」

ゆうしゃ「うわっ……おっきぃこえ……」

緑鬼「どうすんだよこれやべえやべえやべえよ」

魔法使い「わ、私達は話し合いに……」

赤鬼「ちくしょうなんで俺達が門番の時にこんなこと……」

緑鬼「通せばいいのか!? 潰せばいいのか!?」

赤鬼「こんなことならまじめに話を聞いておくんだった……」

緑鬼「ま、魔王様に判断をあおってくる!」

赤鬼「あ! 逃げるのかてめぇ!」


赤鬼「……」

赤鬼「まあちょっとここで待ってくれや」

ゆうしゃ「う、うん……」

ドワァアアアアア!
ハァ!? ニンゲン!? ヤッチマオウゼ!
  ナンデニンゲン!? ヤベェ!
ウワァアア!! マオウサマー!!

魔法使い「お、大事になってるみたいね……」

赤鬼「向こうってことは川を渡って来たんだよな?」

ゆうしゃ「うん、そうだよ」

赤鬼「じゃあ……」

赤鬼「いや、やっぱりいい」

ゆうしゃ「?」

赤鬼「かってに話したらダメかも知れねえ」

ガチャ

緑鬼「と、通せってよ!」

ゆうしゃ「!!」

赤鬼「マジか! じゃあ通れ!」

魔法使い「これは……うまくいくかもしれないわね」

ゆうしゃ「よし! いこう!」


赤鬼「い、一体どうなるんだ……」

ギィィイイ……

ゆうしゃ「あれっ?」

ゆうしゃ「まっくらだ」

魔法使い「おかしいわね……」

バタンッ

ゆうしゃ「ドアがしまった!」

魔法使い「ま、まさか罠!?」

シュボッ

ゆうしゃ「あかりがついた!」

ゆうしゃ「……あれ? ドアにはりがみが……?」

ゆうしゃ「ちょっとこれみてよ、まほうつかいさん」

魔法使い「あ……あ……」

ゆうしゃ「まほうつかいさん?」


ドラゴン「グォォオオオオン!!!」

魔法使い「ど、ドラゴン……」

ドラゴン「グルル……」

ゆうしゃ「ぼ、ぼくたちは はなしあいに……」

ドラゴン「グォオオオン!!!」

魔法使い「ひぃいいっ!!」

魔法使い「に、にに、にげっ!」

ゆうしゃ「わかった! にげよう!こっちに!」


ドラゴンB「グワァアアアアアア!!!」

ゆうしゃ「!! かこまれた!」

魔法使い「だ……」

魔法使い「ダメだわ……もうおしまいよ……」

ドラゴン「グルル……」

ドラゴンB「ガルル……」

ゆうしゃ「ま、まおうをだしてください!」

魔法使い「もう無理よぉ……話し合いどころじゃないわぁ……」

魔法使い「あぁ……」

魔法使い「死ぬならせめて向こう岸の……故郷で……」


魔王「ワハハハハ!! 滑稽だな人間よ!!」

魔王「500年の沈黙を打ち破り、何をしに来たかと思えば!!」

魔王「話し合いだと? 片腹痛いわ!!」

ゆうしゃ「あのひとが……まおう……」

魔王「ドラゴン2匹に腰を抜かす者に話すことなどない!」

魔王「情けなく逃げ帰り、この魔王の恐ろしさを語り継ぐがよい!!」

魔法使い「え……?」

魔法使い「逃して……くれるの……?」

魔王「どうした? ドラゴンの血肉になりたいのか?」

魔法使い「い、いえ! 帰ります!」

ゆうしゃ「……いっしょだ」

魔法使い「勇者くん何やってるの! 逃げ帰るわよ!肩を貸して!」

ゆうしゃ「まおうのセリフ、いっしょだよ?」

ゆうしゃ「ドアのはりがみに かいてることと」

魔法使い「……え?」


ドラゴン「アッ バレタ」

ドラゴンB「ダカラ アンキシロッテ イッタノニ」

魔王「う、うるさい! しょうがないだろう!」

魔王「500年だぞ!? 緊張するわ!!」

魔法使い「え? え?」

ゆうしゃ「あ! あのまおうよくみると……」

ゆうしゃ「やさしそうなおじさん!!」

魔王「!!」

魔王「そんなこと初めて言われたぞ!!」

ドラゴン「エッ ジジイジャン」

ドラゴンB「オイボレジャン」

魔王「少し黙ってろ!」

魔王「……ゴホン」

魔王「人の子よ、話を聞こう」

ゆうしゃ「やさしい!」

魔法使い「どういうことなの……?」

ゆうしゃ「まほうつかいさん、だいじょうぶ?」

魔法使い「え……?」

ゆうしゃ「ぼくが きいたほうがいい?」

魔法使い「あ……う、ううん。 大丈夫よ」

魔法使い「……こほんっ」

魔法使い「魔王よ、最近我が国の近くでは魔物の動きが活発になっています」

魔法使い「この現象は……あな、あなたが関係しているのですか?」

魔王「魔物? どんなやつだ?」

ゆうしゃ「あばれおおざるです」

魔王「……」

魔王「そんなご当地系のやつの名前を言われても困るな……」

魔王「すこし待っていろ、書庫で調べてくる」

ドラゴン「エッ ワザワザシラベルノカ?」

ドラゴンB「マオウサマ! イゲンヲカンガエヨウ!」

魔王「ではやってくれるのだな?」

ドラゴン「イッテラッシャイマセ!」
ドラゴンB「イッテラッシャイマセ!」


魔法使い「部下とも友好的にやってるのね……」

ドラゴン「マア スワレヤ」

ゆうしゃ「うん。ありがとう」

魔法使い「しゃ……しゃべるドラゴンなんて聞いたことないわ」

ドラゴンB「ソリャアレダ キアイ?」

ドラゴン「オウヨ キアイデ ナントカシタゼ」

ゆうしゃ「すごい」

ゆうしゃ「そういえば、なんでおいかえそうとしたの?」

魔法使い「そ、そうよ。 わざわざ恐怖を煽るようなことして」

ドラゴン「ニンゲント ナカヨクヤルノモ ヘンダロウ」

ドラゴンB「ホカノチイキヘノ シメシッテノガ アルンダヨ」

魔法使い「つまり形式上は敵国として扱ってるの?」

ドラゴンB「マア ソンナヤツダ」

魔法使い「それなら大猿退治も手伝ってはくれないのね」

ドラゴン「サルグライ ナントカナルサ ダイジョウブ」


魔王「……というより、なんとかするしかないのだ」

ゆうしゃ「はやい!」

魔王「待たせたな。 わかったぞ」

ゆうしゃ「すごい!」

魔王「分からないことがわかったぞ!」

ゆうしゃ「そうでもなかった!」

魔王「あばれ大猿。魔獣系の魔物」

魔王「単体で行動し、気性が荒いため同種同士での争いが絶えない」

魔王「以上だ」

魔法使い「私の国にある文献とあまり変わらないわね」

魔王「なぜこの時期になって被害が増えてるのかは分からなかった」

ドラゴン「ツカエネエナ」

ボカッ

ドラゴン「イテェ!」

魔王「が、魔物を黙らせるには拳を振るうのが一番だ」

魔王「猿を素手のみで叩き伏せ」

魔王「それを別の猿たちに見せつければ」

魔王「大人しくなるだろう」

ゆうしゃ「できるかなあ」

魔王「まあ繁殖期かなにかで気が立っているだけかもしれぬぞ」

魔王「放おっておけばそれで解決するかもしれん」

魔法使い「そうだといいんだけど……」

ゆうしゃ「ありがとう、まおうさん」

魔王「解決していないことに礼などいらん」

魔法使い「ここまで優しいと友好条約とか結べそうね」

魔王「さすがにそれはできん。魔王にも立場がある」

魔王「……そうだな。貴様らは魔王と取引をしたのだ」

魔王「その代償をもらうとするか」

ゆうしゃ「えっ?」

魔王「"一本"もらおう」

ゆうしゃ「いっぽん? なにを?」

魔王「……」

魔法使い「自分で考えろってことかしら」

魔王使い(一本?)

魔法使い(剣や杖のことかしら……)

魔法使い(いいえ、これは魔王の問よ)

魔法使い(なにかおどろおどろしい意味があるはず……)

魔法使い(て、手足の事だったらどうしよう……)

魔法使い(……まさか!)

魔法使い(人間を数える単位……?)ゾッ

ゆうしゃ「オールでいい?」

魔王「構わんぞ」

ドラゴン「デハ マタナ!」

ドラゴンB「マタナ!」

魔王「頻繁に来られても困る」

魔王「しかし有事の際はその限りではないぞ」

ゆうしゃ「うん、ありがとう!」

魔法使い「とてもいい体験になったわ」

赤鬼「おう、お帰りかい」

緑鬼「気をつけて帰るんだぞ」

ゆうしゃ「うん」

赤鬼「ああそうだ、これをやろう」

魔法使い「えっ?」

赤鬼「菓子の詰め合わせ、まあ土産物だ」

赤鬼「だいたいの魔物が食うやつだし、人間の口にも合うだろう」

ゆうしゃ「わぁー! ありがとう!」

緑鬼「おいおい、バレたらまた魔王様に投げ飛ばされるぞ」

赤鬼「バレなきゃいいんだよ」

ゆうしゃ「なげられるの?」

赤鬼「俺達は魔王様よりタッパあるからな」

赤鬼「ゲンコツが届かねえのよ」

ゆうしゃ「へぇー……」

魔法使い「また川まで戻ってきたわね」

ゆうしゃ「まほう、まだできる?」

魔法使い「大丈夫よ」

魔法使い「でもまたあの竜が出てきたら……」

ゆうしゃ「だいじょうぶだよ」

魔法使い「本当? 信じるわよ」

魔法使い「はぁっ……!」

ザザーン

ゆうしゃ「わっ、すすんだ」

魔法使い「この魔法使ってる間は他のことができないから」

魔法使い「なにか出たらなんとかしてね」

ゆうしゃ「うん」

魔法使い「本当になんとかできるのね!?」

ゆうしゃ「た、たぶん」

ザザーン

ゆうしゃ「……」

ザバァッ

首長竜「ガァッ!」

ゆうしゃ「あっでた」

魔法使い「えぇ!? た、頼むわよほんとに!!」

ゆうしゃ「はい」

首長竜「ガァッ?」

ゆうしゃ「おにさんがくれた おかしだよ」

ポイッ ガブッ

首長竜「ガァガァ!」

ゆうしゃ「よかった。たべてる」

魔法使い「そ、そういえば赤い方の鬼は川がどうとか言ってたわね」

魔法使い「この竜の対処法のヒントだった……てこと?」

ゆうしゃ「そうみたい」

ゆうしゃ「かわをわたりきったよ」

魔法使い「おとなしくなって助かったわ」


ゆうしゃ「あれ? なんだかおしろのほうが にぎやかだね」

魔法使い「ふふっ。 超重要任務を果たしたんだもの」

魔法使い「私達を出迎える準備をしてるのよきっと」

ゆうしゃ「……」

ゆうしゃ「ちがう」

魔法使い「えっ?」

タッタッタッ……

兵士A「ハァ……ハァ……」

兵士B「も、もう少しで城門だ。そこまで逃げ切れば……」


大猿A「ガァアアアッ!」

兵士A「き、来やがった!」

兵士B「城門閉めろー! 俺達は滑りこむ!」

バターンッ

兵士A「ぜぇ……ぜぇ……」

兵士B「ま、間に合った……」


兵士D「な、なんとか全員無事みたいだな」

兵士C「まさか見回りのルートで待ち伏せしているとは……」

兵士E「おーおー。小窓を覗いてみろよ。うじゃうじゃいやがる」

ズズ……

大猿B「ウホッ……」

大猿C「ウガッ! ウガッ!」

大猿D「……」

ズズ……


兵士A「お、おい……やばくないかあれ」

兵士E「はぁ? 何を言って……」

兵士E「!!」

兵士E「ま、丸太を運んでやがる!!」

ゴ ン ッ !

ゴ ン ッ !

兵士A「す、すごい衝撃だ!」

ゴ ン ッ !

ミシッ

兵士C「やベェッ! 門にヒビが!」

兵士D「このままだと突破されるぞ!」

兵士B「……しかたない。 みんな、武器を構えろ」

兵士A「ち、ちくしょう! 結局やるしかないのか!」

「火球魔法!」

「「グギャーッ!」」

魔法使い「まったく、なにが"単体で行動する"よ」

魔法使い「思いっきり群れてるじゃない。 道具まで使って」

ゆうしゃ「だんだん かわってきてるのかも……」

魔法使い「なるほど。 ありえない話じゃないわね」


兵士B「あ、あれは……」

兵士C「勇者くんが来てくれたぞ!」

兵士D「いつも仕事を手伝ってくれる勇者くんだ!」

兵士E「兵士長と模擬戦して勝っちゃった勇者くんだ!」

兵士A「兵士長の見苦しい言い訳を素直に信じた勇者くんだ!」

ゆうしゃ「みんなだいじょうぶ?」

兵士A「ああ、俺達は大丈夫だが……」

兵士B「兵士長がやられた」

ゆうしゃ「……えっ?」

兵士B「汚名返上だと先陣を切って返り討ちに……」

ゆうしゃ「そんな……」

大猿B「ウ、ウゥ……」

魔法使い「丸太は焼けたけど、倒せてはいないようね」

魔法使い「勇者くん、私達も避難しましょう」

ゆうしゃ「……いや」

ゆうしゃ「たたかうよ。 すでで」

魔法使い「な、何言ってるの! 無理に決まってるでしょう!」

ゆうしゃ「たおせば おとなしくなるんだよね」

魔法使い「そんなの分からないわ!」

魔法使い「あなたの言うとおり……あいつらが進化しているとしたら!」

魔法使い「もう昔とは別の魔物だとしたら!」

魔法使い「魔王の言う対処法なんてあてにならないわ!」

ゆうしゃ「それなら はやめにたおさないと まずいよね」

魔法使い「……それでも一度戻ってから!」

ゆうしゃ「だいじょうぶ」

ゆうしゃ「ぜったいかつから みててね」

※ここから勇者の口調が変わります、あらかじめご了承下さい

ゆうしゃ「さあ! かかってこい!」

大猿E「ウガ……!」

大猿F「ウホ……」

大猿A「……」

ゆうしゃ「!!」

魔法使い「ま、まだいるの!? 囲まれた!!」

ゆうしゃ「まほうつかいさんには てをだすな!」

ゆうしゃ「1たい1で しょうぶだ!」

大猿D「……ッ!」

バッ!

魔法使い「来たっ!」

ブオンッ!

ゆうしゃ「こ、ここだ!」

ガシッ ブワッ

ズズーンッ!

大猿D「ウギャア!!」

魔法使い「す、すごい!」

魔法使い「殴りに来た右腕を両手で絡めとり!」

魔法使い「体をねじりながら相手の懐に入って!!」

魔法使い「その勢いのまま背負うようにして投げた!!!」

大猿C「ガァーッ!」

魔法使い「ま、またきた!!」

パシッ! ヒュルッ

ベシャァッ!

大猿C「ギャァアア!!」

ゆうしゃ「どうだ!」

魔法使い「今度は蹴りで相手の体勢を崩して」

魔法使い「そのまま手繰り寄せるように組み伏せた!!」

大猿B「ウホォ……」

大猿E「ウガッ……」

魔法使い「動揺してる……このまま退散してくれたらいいのだけど……」

ゆうしゃ「はぁ……はぁ……よ、よし!」

ゆうしゃ「おもいしったか!」

ゆうしゃ「これにこりたら もう……」

ズシッ

ゆうしゃ「……?」

ズシッ

ズシッ

白大猿「ウム……」

魔法使い「な、なにあいつ……」

白大猿「ウム……ウムウム……」

大猿B「ウホ、ウホウホ……」

魔法使い「か、会話してる?」

白大猿「フムッ!」

ベシッ

大猿B「ウギャアッ!」

魔法使い「仲間を殴った!?」

ゆうしゃ「あれが あいつらのボス……!」

大猿A「ウ、ウガッ!」

大猿E「ウガッ!」

魔法使い「統率を取り戻した……それに……」

白大猿「ウム」

ゆうしゃ「おおきい……」

魔法使い「2階建ての屋根に手が届きそう……」

ゆうしゃ「でも……」

ゆうしゃ「あれをやっつければ かいけつだ!」

ここから勇者のラッシュがはじまります

白大猿「ウム……ッ!」

ゆうしゃ「こいっ!」

ブオンッ!

ゆうしゃ「!!」

バッ

魔法使い「うまい! かわし……」

ゆうしゃ「うわっ!?」

ブワッ ベシャッ!

ゆうしゃ「あいたた……」

白大猿「ウム……?」

魔法使い「な、なんで!? 勇者くんが吹き飛ばされた!!」

白大猿「ム……ウム」

魔法使い「ま、まさか体格差!?」

魔法使い「拳をかわしてもその風圧で飛ばされてしまうの!?」

ゆうしゃ「ま、まだだ!!」

ヌワッ

白大猿「ムウンム……!!」

魔法使い「掴みかかりに来た!! あぶない!」

ゆうしゃ「それならっ!」

バッ!

魔法使い「突っ込むの!? なんで!?」

ヌッ サッ

白大猿「ウム?」

魔法使い「またかわした!!」

魔法使い「勇者くん本当にすばしっこい!!」

ゆうしゃ「だぁっ!!」

ゴッ

白大猿「ムッ!?」

ヨロッ

魔法使い「左足におもいっきり体当りした!!」

魔法使い「さすがに体勢を崩したようね!」

白大猿「……ウムゥ!」

ブォンッ!

魔法使い「危ない! 体勢が崩れたまま強引に右腕で潰しにきたわ!」

ゆうしゃ「っ!」

スッ

白大猿「ムゥゥ……ッ!」

グルンッ

ズズーンッ

魔法使い「か、かわしたら一回転して仰向けに倒れた!」

魔法使い「チャンスよ!!」

ゆうしゃ「やぁああああああっ!!!」

ギュルッ ガシッ

ギチッ!

白大猿「ムッ! ウムッ!!??」

ジタバタ

魔法使い「こ、これは……!」

魔法使い「無防備になった左腕を両足で挟み込み固定!!」

魔法使い「そのまま手首を掴んで全身を反らせること……どぅぇ……」

魔法使い「ぜぇ……ぜぇ……」

魔法使い「あ、相手を固めて動けなくしたのね!!」

魔法使い「すごいわ勇者くん!」

兵士A「す、すげぇ……」

兵士C「あんなバケモノを抑えこんじまった……」

兵士D「あれが……勇者の力……?」


白大猿「ウム……ウ……!」

ジタバタ

白大猿「ウ……ウ……」

白大猿「ウマ」

大猿A「!!」

大猿A「ウ……ウガ……?」

白大猿「ウマ」

大猿A「ウガ! ウガウガ!」

白大猿「ウマ!」

大猿A「ッ……!」

魔法使い「な、なにを話してるの……?」

大猿A「ウガッ!」

バッ!

魔法使い「えっ」

ガシッ!

魔法使い「きゃぁぁあああ!!!」

白大猿「……ウム」ニヤリ

ゆうしゃ「ま、まほうつかいさん!?」

魔法使い「ちょっと! 離しなさいよ!」

大猿A「……」

ゆうしゃ「ひ、ひきょうだぞ!」

白大猿「ウム……!」

ゆうしゃ「……くそう…………」

魔法使い「勇者くんは離しちゃダメよ!」

魔法使い「どのみち全員殺すつもりなんだから!」

魔法使い「そんな腕、折っちゃいなさい!」

白大猿「ウムッ……」

大猿A「……ウガ」

ギリギリ

魔法使い「ひぎっ! い、痛い痛い痛い!!」

ゆうしゃ「や、やめろぉ!!」

白大猿「ウム」

ゆうしゃ「ぐ……」

ゆうしゃ「わ、わかった」

魔法使い「ゆ、勇者くん! ダメ!!」

パッ

白大猿「……ウム」

ゆうしゃ「は、はなしたぞ! まほうつかいさんを……」

白大猿「ム」

ベシャ

ゆうしゃ「かはっ……!」


兵士A「そ、そんな……勇者くんが……」

兵士C「潰された……」

魔法使い「や、やだ……嘘よこんなの……」

ズシッ

ズシッ

白大猿「……ウム」

魔法使い「ひっ……!」

魔法使い(だ、駄目! やっぱり全員殺す気なんだ……)

魔法使い(私達、みんなこいつに殺されちゃうんだ……)

魔法使い(こんなやつに……!)

兵士B「卑怯者!!」

兵士D「そ、そうだそうだ! 勇者くんは約束を守った!人質を開放しろ!」


魔法使い(そんなこと言っても聞くわけがない……)

魔法使い(こいつらは所詮魔物なのよ……)

魔法使い(……)

魔法使い(ううん、私は魔王城で何を見てきたの?)

魔法使い「あなたたち!!」

大猿E「!!」

白大猿「ム?」

魔法使い「どうせ言葉は分かるんでしょう!? 知ってるんだから!」

魔法使い「こんなことして恥ずかしいと思わないの!!」

魔法使い「あんなに小さい勇者くん相手に人質使って!」

魔法使い「その上攻撃をやめないだなんて!!」

大猿A「ウ、ウガ……」

白大猿「ウム」

ベシッ

魔法使い「きゃぁっ!!」

魔法使い(ちょ、ちょっとかすっただけなのにすごく痛い……)

魔法使い(勇者くんはこんなのと戦ってたのね……)

魔法使い(わ、私も……まだ諦めない……!)

魔法使い(だれか……誰か一匹でも言葉を聞いてくれたら)

魔法使い(統率は乱れるはず……)

魔法使い「聞きなさい!」

魔法使い「せ……せっかく進化したのに! 賢くなったのに!」

魔法使い「こんなやつの下で満足なの!?」

魔法使い「誇りを持ってない種族なんてただのケダモノ! いやそれ以下よ!」

白大猿「ウム」イラッ

魔法使い(や、やっぱり……ダメだ……)


ボゴォッ!

白大猿「ウブッ!?」

大猿A「……ウガ」

魔法使い「え……?」

魔法使い(あいつが……ボス猿を殴った?)

魔法使い「あ、あなたは……」

ボガッ!

白大猿「ガフッ!? ゲフッ!?」

バシィッ! バシィッ!

バゴォォォオオンッ!

ドシャァァァアアアア!

白大猿「」ピクピク

魔法使い「あなたは……行き掛けに私達を見てた……?」

大猿A「……ウガ」

兵士A「な、なんだ!? どうなった!?」

兵士B「すげぇ……」

兵士B「軽いパンチをあのボス猿に当てたあと」

兵士B「左右交互に顔面を連打」

兵士B「最後は顎を下から思い切り殴り飛ばした……!」

魔法使い「け、けしかけておいてなんだけど……よかったの?」

大猿A「ウガ」

魔法使い「でも……」

大猿E「う、うが……???」

大猿F「……??」ビクビク

魔法使い「他の猿は動揺してるみたいね」

魔法使い「あなたが次のボスで終わり、ってわけにもいかないみたい」

大猿A「……」

ゆうしゃ「そ、それなら……つぎにすることは ひとつだよ」

魔法使い「ゆ、勇者くん!? 無事なの!?」

ゆうしゃ「うん なんとかね」

魔法使い「よかった……!」

大猿A「……」

ゆうしゃ「さあ! さいごのしょうぶだ!」

大猿A「ウガ!」

魔法使い「な、何を言ってるの!? ボロボロじゃない!」

ゆうしゃ「……」

ゆうしゃ「ぼくがまけても あいつはボスになれる」

ゆうしゃ「そうすれば いきなりおそってくることはなくなるよね」

魔法使い「そんな……!?」

ゆうしゃ「もちろん、まけるつもりはないよ!」

ゆうしゃ「おまえをたおすのがいちばん このくにのためになる!」

ゆうしゃ「にんげんのほうがつよいって! おしえてやる!!」

大猿A「……ウガ!」

大猿A「ウガァァアアアア!!!」

魔法使い「は、始まっちゃった……」

ゆうしゃ「いくぞお!!」

大猿A「ウガァアアア!!」

シュッ シュッ

ゆうしゃ「!!」

バッ


兵士D「勇者くんが距離をとった!」

兵士C「な、なんでだ?」

兵士B「おそらく……」

大猿E「ウガ! ウガウガ?」

魔法使い「ひっ!?」

大猿E「ウガウガ?」

魔法使い「え……なに……?」

大猿E「ウガ?」

魔法使い「何が起こってるか知りたいの……?」

大猿E「ウガ!」

大猿A「ウガァアッ!」

シュッ シュバッ

ゆうしゃ「く、くそ……」


魔法使い「勇者くんは返し技中心で戦ってるの」

魔法使い「腕力に差があるからそれを逆手に取ってるわけね」

大猿E「ウガ……」

魔法使い「でも、あいつはそれを見てた」

魔法使い「だから体重の乗ってないパンチを打ってるの」

魔法使い「それなら隙が作らないで攻撃できるからね」

兵士B「そして、勇者くんは一発でもまともに喰らったら負けだ」

兵士C「な、なんだって?」

兵士B「あのボス猿を倒した時の猛ラッシュを見ただろ?」

兵士B「反撃する間もなくボロ雑巾になっちまう」


シュッ シュッ

大猿A「ウガッ! ウガッ!」

パシッ!

ゆうしゃ「ぐぅ……!」


兵士A「お、おい! 喰らっちまったぞ!」

兵士B「だ、大丈夫だ! 腕を上げてガードしてる!」

兵士B「体重が乗ってない分威力は低い!」

兵士B「体勢を保っている限り連打には移行されない!」


バシッ! バシッ!

ゆうしゃ「く……くそう……」


兵士A「だからってこのままじゃジリ貧だ!」

兵士A「子供ひとりに任せておけるか! 俺は加勢しに行くぜ!」

兵士B「お、おい待て!」

ダッ

兵士A「勇者くん!」

魔法使い「あ、ダメよ!」

兵士A「あんたは国お抱えの……」

魔法使い「これは二人の真剣勝負なの、水を差しちゃダメ」

兵士A「そんなこと言ったって!」

魔法使い「ああもう! あとで説明するから……」

兵士A「今行くぞ!」

ガシッ

兵士A「!?」

大猿E「ウガ」フルフル

兵士A「なんだてめぇ! やろうってのか!」

魔法使い「逆よ。 大事な戦いの邪魔をさせたくないの」

兵士A「そんなわけが……」

大猿E「ウガ」

魔法使い「彼らはあなたが思ってるよりずっと賢いわ」

魔法使い「そして、今が彼らを落ち着かせる一番のチャンスなの」

魔法使い「わかって」

兵士A「……ちっ」


ブンッ


魔法使い「!! 勇者くんも拳を出した!」

兵士A「なにっ!?」

ゆうしゃ「そこだっ!」

バシッ

大猿A「グァッ!」


兵士A「な! 拳同士でぶつかったのにダメージを与えたぞ!」

大猿E「ウガ!?」

魔法使い「あ、相手の親指を狙ったんだわ!」

大猿A「グッ……」

バッ バッ


兵士A「後ろに飛んで距離をとりやがった! 慎重なヤローだ!」

魔法使い「!!」

魔法使い「勇者くんもそれを読んでる!」


ゆうしゃ「はぁあっ!!」

ドゴッ

大猿A「ガッ!?」

ドテーンッ

兵士A「着地点に低姿勢で体当たり! ありゃあ効いたぜ!」

魔法使い「うつ伏せに倒れた! チャンスよ!」


ゆうしゃ「だあっ!」

大猿A「ウガァ!」

ドゴッ! バッ


兵士A「よし! 横っ腹に蹴りが入った!」

魔法使い「でも体勢を立て直された!」

ゆうしゃ「はぁっ……はぁっ……!」

大猿A「ウガッ……ウガッ……!」


兵士A「な、なんか勇者くんかなり消耗してないか?」

魔法使い「馬鹿ね。 あのボス猿の一発を忘れたの?」

魔法使い「それに勇者くんは今日動きっぱなしだったから……」

兵士A「そういえばあんたらは魔王城視察の大任を……」

兵士A「……」

兵士A「頑張れェ!」

魔法使い「えっ?」

兵士A「お、応援ぐらいさせろ!」

兵士A「勇者なんだろ!! そんなやつに負けるなあああ!!」

大猿E「ウ、ウガァアアア!!」

大猿B「……ウガゥ!!」

大猿C「ウ、ウホォ!!」


兵士C「な、何だあいつら! 回復したのか!?」

兵士D「まあ転ばされただけのやつもいるしな」

兵士E「な……なんで戦いに参加しないんだ?」

兵士B「やつらは……応援してるんだ……!」

王様「その通り!」

兵士B「お、王様!?」

王様「彼は力を持っている」

王様「腕力ではなく、人を引き付ける力だ」

王様「誰もが彼から目を離せない!」

王様「全ての者を鼓舞させ! 心に勇気の火をつける!」

王様「だから人は、私は、彼を勇者と呼ぶのだ!」

兵士E「お、王様!」

兵士D「それを言うためにわざわざここに来たのですか!?」

王様「その通り!」

ゆうしゃ「うわぁああああ!!」

大猿A「ウガァアアアアア!!」

シュッ パシッ!

バシッ! ビシッ!

大猿A「ウゥ……」


兵士A「いいぞ! 押してる!」

魔法使い「相手の攻撃はうまくさばいてこっちの攻撃を確実に当ててる!」

魔法使い「このままの攻防が続けば……!」

大猿E「ウガアアア!!」

大猿B「ウガゥウウウ!!」

大猿C「ウホオオオ!!」


兵士B「いけえええええ!!」

兵士C「そこだあああああ!!!」

兵士D「勇者ああああああ!!!」

兵士E「ふんばれえええええ!!!」

王様「やっちまぇえええぇええぇええ!!!!」

大猿A「ウガァアアアアア!!」

ゆうしゃ「だぁああああ!!」

グァッ


兵士A「しめた! あのヤローあんなに振りかぶって!」

兵士A「投技の餌食だぜ!」

魔法使い「!! 勇者くんも振りかぶってる!!」


ドゴォッ!

大猿A「ガ……」

ズズーンッ

ゆうしゃ「……」

ゆうしゃ「かった……!」

頑張ったなゆうしゃくん

――

―――――

ゆうしゃ「う……」

ゆうしゃ「うーん……」

魔法使い「あ、気がついた?」

ゆうしゃ「ここは……」

魔法使い「私の部屋……の隣。 城の空き部屋よ」

ゆうしゃ「そ、そうだ!」

ゆうしゃ「あれからどうなったの?」

魔法使い「あなたのおかげで解決したわ」

魔法使い「勝利の瞬間を全員が見ていたから」

魔法使い「猿達は新旧のボスを引き連れて帰ったし」

魔法使い「その出来事は国中に知れ渡ってお祭り騒ぎ」

魔法使い「今も城の中庭でぎゃーぎゃー騒いでるわ」

魔法使い「主役のあなたを一人でほったらかすわけにはいかないから」

魔法使い「私はここでちびちび飲んでたってわけ」

ゆうしゃ「そっか……」

ゆうしゃ「よかった……」

ゆうしゃ「それじゃあ、まおうのおじさんのことはあとでいいかな」

魔法使い「そうね。王様も飲み過ぎてベロベロになってたわ」

ゆうしゃ「あはは……」

魔法使い「勇者くん、体は大丈夫?」

ゆうしゃ「うん、もうなんともないよ」

魔法使い「それじゃあ私達も参加しましょうか」

ゆうしゃ「そうだね」

ガヤガヤ ドンチャン

王様「そしてぇ! 戦いは勇者のえぐり込むようなパンチで幕を閉じたのだぁ!」

王様「こんな感じだぁ!」

ドゴッ

兵士B「げふぅ!?」

兵士A「あっひゃっひゃっひゃっ!!」


魔法使い「悪酔いしてるわね」

ゆうしゃ「そうだね」

兵士B「王様! そろそろお休みになってください!」

王様「なにおゆ! ワシはまだまだ……」

ゆうしゃ「おうさまー」

王様「お? なんでこんなところに子供がいるんだ」

王様「まあいい! お前も飲め!!」

王様「……うぷっ!」

兵士B「お、王様!」

兵士B「すまない、色々話したいが王様を寝室へ連れて行く」

魔法使い「そうね、お願いするわ」

兵士B「……その前に一言だけ」

兵士B「勇者くん、ありがとう!」

ゆうしゃ「うん!」

兵士A「おお! 勇者くん!目がさめたか!」

ゆうしゃ「うん、もうだいじょうぶだよ」

「わぁー! あれがこの国を救った英雄か!」

「ちっちゃい! 本当に強いのか?」

「大猿を投げたってマジかよ!」

兵士A「全部本当に決まってんだろ! 俺はこの目で見たんだ!」

兵士A「そうだ勇者くん! 俺のことも猿みたいにぶん投げてくれ!」

ゆうしゃ「えぇっ!?」

兵士A「そしたらみんな信じるし! この場も盛り上がるぜ!」

ゆうしゃ「で、できないよそんなこと……」

兵士A「だいじょーぶだって! この際骨ぐらい折れていいから!」

兵士長「いや、勇者の相手をするのは俺だ」

ゆうしゃ「あ、ぶじだったんだね! へいしちょうさん!」

兵士A「真っ先にノビた兵士長!」

魔法使い「勇者くんに負けて言い訳したらしい兵士長!」

兵士長「ええい! あれは本当に腹が痛くて……」

兵士長「そうだ勇者! この場でもう一度模擬戦をしろ!素手で!」

兵士長「それで全てをわからせてやる!」

ゆうしゃ「え、えーい!」

兵士長「ぎゃあああああああ!!!」

ブンッ ボフッ!

「うぉー!」「すげー!」

魔法使い「干し草を重ねてるところに投げたけど、すっごい痛そう!」


こうして祭りは夜遅くまで続けられた

人々は脅威に驚きつつも、それを未然に防いだ勇者を褒め称え

勝利に喜び、歌い、踊り、祭りに酔いしれた

そして夜が明けた!

――

王様「あいたたた……」

ゆうしゃ「おうさま、ふつかよい?」

王様「うむ、勇者よ。 昨日の活躍は素晴らしかったぞ」

ゆうしゃ「えへへ」

王様「このまま褒美を出して開放してやりたいところだが」

王様「まだ聞かねばならないことがある」

ゆうしゃ「うん、まおうじょうのことだね」

ゆうしゃ「……えと」

魔法使い「そうね。任せて」

魔法使い「王様、それは私から説明します」

魔法使い「――というわけで今回の異変と魔王に関係はなく」

魔法使い「魔王はこの国に対して敵対感情を持っていません」

王様「信じられるのか?」

ゆうしゃ「ぼくは しんじるよ」

魔法使い「私も信じます」

王様「じゃあワシも」

ゆうしゃ「やったあ」

ゆうしゃ「おしごと だいせいこうだね」

魔法使い「そうね」

ゆうしゃ「ごほうびは はんぶんこでいい?」

魔法使い「え? 何言ってるのよ」

魔法使い「ほとんどあなたの活躍じゃない」

ゆうしゃ「てがらは ひとりじめしないって……」

魔法使い「それは最初の最初の話でしょ!」

魔法使い「もう勇者くんを信じきってるから! 褒美は相応の分貰いなさい!」

魔法使い「それに私はあなたを……」

王様「話を続けたいのだが」

魔法使い「あ、はい! すみません!」

王様「二人の働きにより魔王城の実態がある程度判明した」

王様「これは我が国にとって……」

王様「我が国にとって……あー……」

魔法使い「はい。 我が国創設時以前からこの場所に伝わる任務の成功を意味します」

魔法使い「あとはこの情報を各国に伝えれば完遂です。 私にお任せください」

王様「うむ、それだ。 任せたぞ」

ゆうしゃ「あ、じゃあぼくもてつだうよ」

魔法使い「えっ?」

魔法使い「大丈夫よ勇者くん、そんなに危ない旅路じゃないわ」

ゆうしゃ「あのさるみたいなやつが ほかにもいるかもしれないよ」

魔法使い「あんなのそうそういないわよ」

王様「よし、では勇者も行くが良い!」

ゆうしゃ「はい!」

魔法使い「えぇっ?」

王様「勇者がついていくのが一番安全だろう」

王様「それに大猿のような進化した魔物の危険性を説明するのにも」

王様「当事者がいたほうが早い」

王様「あとはこの場の流れだ!」

ゆうしゃ「なるほど!」

王様「では行くが良い! ……あいたたた」

ゆうしゃ「ふつかよい?」

王様「うむ」

――

魔法使い「結局最後まで付き合ってもらうことになったわね」

ゆうしゃ「うん、よろしくね」

魔法使い「言っとくけど世界中の国を全部周るのよ。長い旅になるわ」

魔法使い「今ならまだ引き返せるわよ」

ゆうしゃ「せかいぜんぶ? たのしみだね!」

魔法使い「……」

魔法使い「ふふ、じゃあ出発しましょうか」

魔法使い「ああそうそう、城で言いそびれたことがあったわね」

ゆうしゃ「なんだっけ?」

魔法使い「勇者くん」

魔法使い「私はあなたのことを……」

魔法使い「人外の者じゃないかって疑ってたの」

ゆうしゃ「……」

ゆうしゃ「えっ?」

魔法使い「もちろん今は違うわよ」

魔法使い「川や魔王城であなたはやけに落ち着いてたし」

魔法使い「なにより子供なのにあんなに強いんですもの」

魔法使い「魔王城から流れこんできたんじゃないかって、ちょっとだけね」

ゆうしゃ「いまは どうおもってるの?」

魔法使い「……」

魔法使い「大猿の中に一匹だけ白い奴がいたでしょ?」

魔法使い「あんな特異体が生まれることで進化していったんだと思うわ」

魔法使い「勇者くんもそんな感じのあれなのかも」

魔法使い「まあ、あの白い猿はボスの座を追われたでしょうし」

魔法使い「特異だからって偉いわけじゃないし」

魔法使い「えーと……だから」

魔法使い「今は、あなたが何者でも構わないって思ってるわ」

ゆうしゃ「……そっかぁ」


魔法使い「あら?」

魔法使い「あれは何かしら」

ドドドドドド

大猿A「ウガー!」キラキラ

大猿C「ウホゥ!」キラキラ

白大猿「ウムッ!」ギラギラ

大猿E「ウキーッ!」キラキラ


魔法使い「さ、猿達が全貌の眼差しで追いかけてくるわ!」

ゆうしゃ「あはは、にげよう!」

こうして勇者と魔法使いの旅は始まった

世界が平和であると確信した二人の足は軽やかにすすむ

 ゆうしゃ「うわっ! おもったよりほんきでおいかけてくる!」

 魔法使い「歩幅が違う! めっちゃ速いわあいつら!」

もしこの先に困難が待ち受けていたとしても

二人が越えられぬ障害とはなりえないだろう

 ゆうしゃ「うわー!」

 魔法使い「いやー!」

 大猿A「ウガーッ!」キラキラ

おわり

乙!面白かった

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