加蓮「ねえ、秒速5センチなんだって」 (25)
モバP「え?なに?」
加蓮「桜の花の落ちるスピード。秒速5センチメートル」
モバP「ふーん、そうなのか。加蓮はそういうことよく知ってるよな」
加蓮「ね、なんだか雪みたいじゃない?」
あとは誰かオナシャス
モバP「加蓮?」
加蓮「ねえPさん……来年も、一緒に桜見れるといいね」
前略、Pさんへ。
お返事ありがとう、うれしかったです。
もうすっかり秋ですね。こちらは紅葉が綺麗です。
今年最初のセーターを、おととい私は出しました。
セーラーの上に着るクリーム色のセーターは可愛くてあたたかいです。
私の大好きなかっこうです。
Pさんのスーツ姿、どんなふうなんだろう。
きっと格好良く見えるんだろうな。
最近は病院に通っていて忙しいから今この手紙は電車で書いています。
この前、髪を切りました。
耳が出るくらい短くしちゃったから、もし会っても私だってわからないかもね?
なーんて、ふふっ
ちひろ『Pさん』
モバP 『ちひろさん』
ちひろ『ラブレターですか?』
モバP 『違いますよ』
ちひろ『ごめんなさい、全部お願いしちゃって』
モバP 『いえ、すぐ終わりましたから』
ちひろ『ありがとうございます……。 あの、引き抜きされちゃうって本当なんですか?』
モバP 『あ、はい。今月一杯です』
ちひろ『どこでしたっけ?』
モバP『××プロです、仕事の都合で』
ちひろ『そう、ですか……さびしくなりますね』
Pさんも、少しづつ変わってしまうのでしょうね
拝啓。
寒い日が続きますが、お元気ですか?
こちらはもう、何度か雪が降りました。
私はそのたびに、ものすごい重装備で学校に通っています。
東京は、雪はまだだよね。
引っ越してきてからもつい癖で、東京の分の天気予報まで見てしまいます。
前略。
Pさんへ。
3月4日の約束、とてもうれしいです。
会うのはもう一年ぶりですね。
なんだか緊張してしまいます。
うちの近くに大きな桜の木があって、春にはそこでも多分、花びらが秒速5センチで地上に降っています。
Pさんと一緒に、春もやって来てくれるといいのにな、なんて思います。
ちひろ『Pさん、今日飲みに行きませんか?』
モバP『えっと……』
モバP『すみません、俺、今日はちょっと……』
ちひろ『引越しの準備とか、引き継ぎの準備ですか?』
貴樹『そんなとこです、すみません』
私の駅まで来てくれるのはとても助かるですけれど、遠いのでどうか気をつけてきて下さい。
加蓮との約束の当日は、昼過ぎから雪になった。
やべ、>>16の最後はモバP『』で変換オナシャス
俺と加蓮は、精神的にどこかよく似ていたと思う。
俺がCGプロに就職して最初に所属したアイドルが加蓮だった。
昔身体が病気がちだった加蓮に、俺は良くいらない世話を焼いていたように思う。
鬱陶しがりながらも、なんだかんだ加蓮は俺に世話を焼かれていた。
そのせいか俺たちは、ごく自然にプライベートの話などもするようになった。
そのせいで、加蓮は他のアイドルからからかわれることもあったけれど、でも、お互いがいれば不思議にそういうことは、あまり怖くはなかったと思う。
加蓮はいずれ同じトップアイドルの座につき、この先もずっと一緒だと、どうしてだろうそう思っていた。
乗り換えのターミナル駅は帰宅を始めた人々で込み合っていて、誰の靴も雪の水を吸ってぐっしょりと濡れていて、空気は雪の日の都市独特の匂いに満ちて冷たかった。
お客様におしらせいたします。
宇都宮線、小山、宇都宮駅方面行き列車はただ今雪の為到着が10分ほど遅れております。
お急ぎのところお客様には大変・・・。
その瞬間まで、俺は電車が遅れるなんていう可能性を考えもしなかった。
不安が急に大きくなった。
ただ今この電車は雪の為10分ほど遅れて運行しております
大宮駅を過ぎてしばらくすると、風景からはあっというまに建物が少なくなった。
次は久喜、久喜……到着が大変遅れましたことを……
駅と駅との間は信じられないくらい離れていて、電車は一駅ごとに信じられないぐらい長い間、停車した。
窓の外の見たこともないような雪の荒野も、じわじわと流れていく時間も痛いような空腹も、俺をますます心細くさせていった。
約束の時間を過ぎて今頃加蓮は、きっと不安になり始めていると思う。
あの日、あの電話の日、俺よりもずっと大きな不安を抱えているはずの加蓮に対して、優しい言葉をかけることの出来なかった自分がひどく恥ずかしかった。
加蓮『ごめんねPさん、私……もう』
加蓮からの最初の手紙が届いたのはそれから半年後の夏だった。
彼女からの文面は全て覚えた。 約束の今日まで2週間かけて、俺は加蓮に渡す為の手紙を書いた。
加蓮に伝えなければいけないこと、聞いて欲しいことが本当に俺には沢山あった。
大変お待たせいたしました、まもなく宇都宮行き
小山、小山、東北
とにかく、加蓮の待つ駅に向かうしかなかった。
モバP『あっ……』
その時、風が吹き、加蓮へ渡す筈だった手紙は無慈悲にも線路の向こうへと消えた。
モバP『あ、ああっ……』
あの時言えなかった言葉を、言いたかった言葉を……俺はまた失った。
Pさんお元気ですか。
病院で朝が早いので、この手紙は電車で書いています。
手紙から想像する加蓮はなぜか、いつもひとりだった。
電車はそれから結局、2時間も何もない荒野に止まり続けた。
たった一分がものすごく長く感じられ、時間ははっきりとした悪意を持って俺の上をゆっくりと流れていった。
俺はきつく歯を食いしばり、ただとにかく泣かないように、耐えているしかなかった。
加蓮……どうか、もう家に……、帰っていてくれればいいのに。
3番線足利前橋方面高崎行き列車到着します。
この電車は雪の為しばらく停車します。
駅に着くなり、俺は直ぐに加蓮の姿を探した。
どうかいないでくれ……こんな気温の中、アイツの身体は……
モバP『加蓮……!?おい!加蓮!』
加蓮『P、さん……? 良かった……来てくれたんだ……』
モバP『すまない、電車が遅れて……いや、そんな場合じゃない!体調は大丈夫か!?』
加蓮『ちょっと……寒い。ね、Pさん、ぎゅーってしてよ。ね』
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