切歌「調との思い出を作りたいデス……」 (80)

切歌「あたしの中にフィーネが……」

切歌「きっともうあまり時間がないデス」

切歌「調……」

切歌「あたしは調と何も残せてない……きっとあたしの事を忘れてしまうデス」

切歌「そんなの嫌デス!」

切歌「だから、調と……」

切歌「調との思い出を作りたいデス……」

切歌「調……」

調「どうしたの切ちゃん?」

切歌「ちょっと話があるデス!」

調「何? 改まって」

切歌「あたし……調とデートしたいデス!」

調「そんな余裕、あるのかな?」

切歌「無くても作るデス! ドクターの野郎に無理にでも作らせるデス!」

調「でも……」

切歌「ちょうど調整に入ったばかりデス、だから少しくらいなら……」

調「うん……切ちゃんがそこまで言うなら」

切歌「やったデース!」

切歌「あいつの胸ぐらをちょっと掴んだらすぐに首を縦に振ったデース」

調「切ちゃん乱暴」

切歌「いいんデス! アレはあれくらいされても文句言え無いデース」

調「これからどうするの?」

切歌「今日は一日オフデスから、たっぷり遊ぶデース!」

調「何をするかは決めてないんだね」

切歌「調はなにかしたいことあるデスか?」

調「ううん、切ちゃんと一緒だったら何でもいい」

切歌「調……あたしもデース!」

切歌「とりあえずその辺をぶらつくデス」

調「うん」

切歌「人がいる場所でも大丈夫デスか?」

調「いいよ、切ちゃんが行きたいなら」

切歌「特別行きたいってわけじゃないデスけど……」

調「けど?」

切歌「あたしと調のデートを他の人に見せつけたいデス!」

調「変な切ちゃん」

切歌「変でもいいデス……それでもデートのことを誰かに知って欲しいです」

調「よくわからないけど、切ちゃんがそうしたいなら」

切歌「このあたりは結構開けてるデスね」

調「ここは前にノイズが発生したところだから」

切歌「……それって」

調「ううん切ちゃん、私たちがしたのとは別だよ」

切歌「自然発生デスか?」

調「どうだろう? もしかしたらフィーネかもしれないけど」

切歌「フィーネ……」

調「でも、今のマリアはそんなことしない、大丈夫だよ」

切歌「そう……デスね」

調「私たちは争いのない世界のために戦ってるんだから」

切歌「調……」

切歌「建物も人も、湧いてきたデス」

調「結構歩いたね」

切歌「調と一緒なら歩いてるだけでも十分楽しいデス」

調「うん、そうだね」

切歌「ウォーキングデートデス!」

調「……切ちゃん楽しそう」

切歌「もちろん楽しいデス、調だってとっても楽しそうデス!」

調「うん」

切歌「なんだか人だかりが出来てるデスよ、行ってみるデス」

調「待って切ちゃん」

切歌「手を繋いで行くデス!」ギュ

調「……うん」ギュ

切歌「行列みたいデスね」

調「何か配ってるみたい」

切歌「折角だし、貰っていくデスよ」

調「そうだね、切ちゃん」

切歌「列が段々捌けていくデスよ、ものすごい手際デス!」

調「もう私たちの番」

切歌「くださいな」

調「何?」

切歌「何かのチケットみたいデス」

調「遊園地のチケットだって、しかも……半額」

切歌「半額ッ!?」

切歌「す、すごいデース!」

調「いつも話題の遊園地なのに半額、これはすごい」

切歌「もしかしたら話題になってるのは嘘で、結構経営がピンチなのかも知れないデス!」

調「失礼だよ切ちゃん」

切歌「でも半額デスよ!? こんなの賞味期限ギリギリの弁当でしか見たことないデス!」

調「あれはお得」

切歌「ほら、やっぱり客が来なくて困ってるんデスよ」

調「そうかもね」

切歌「遊園地を救うためにもあたしたちで遊びに行くデス!」

調「そうだね、折角一人分の料金で入れるんだし」

切歌「調と遊園地デートデス!」

切歌「嬉しいデース!」

調「楽しそうだね、切ちゃん」

切歌「当たり前デース! 楽しくないデートなんてデートじゃないデス!」

調「それもそうだね、切ちゃん」

切歌「施設に居た時は自由なんてなかったデスから」

調「うん、こうしてデートすることなんて出来なかったもんね」

切歌「だから、こうやってただ歩いているだけでも楽しいデスのに、その上半額チケットまで」

切歌「嬉しくないはずないデース!」

調「切ちゃんが嬉しそうで私も嬉しいよ」

調「ここが遊園地」

切歌「こんな賑やかなところ初めてデース!」

調「マリアのコンサート会場以来だね」

切歌「そうデスね」

調「マリアにはいつも無理させて……」

切歌「そんなことより早く中に入るデスよ」

調「あ、うん」

切歌「今日はオフなんデスから、あたしたちの事以外考えちゃだめデス、楽しめないデスよ!」

調「……うん、そうだねごめん切ちゃん」

切歌「いいデス! 謝っちゃだめデスよ!」

調「うん、ありがとう切ちゃん」

切歌「ゲートをくぐってしまえばこっちのものデース!」

調「潜入したわけじゃないんだから切ちゃんたら」

切歌「そうだったデス、極めて正当な手段での入場デス」

調「どこから行こうか」

切歌「観覧車が目立ってるデスね」

調「あのおっきな観覧車、行ってみる?」

切歌「折角デスし、楽しみにとっておくデス!」

調「そうだね、沢山並んでるみたいだし、後にしようか」

切歌「あの馬鹿みたいに目立ってる奴がいいデース!」

調「あの船の?」

切歌「そうデス! どえらい勢いでヤジロベーしてる奴デス」

調「あれ、バイキングって言うんだって」

切歌「そうなんデスか?」

調「うん、パンフレットに書いてある」

切歌「いつの間にパンフレットなんか持ってきたデスか!?」

調「入場ゲートで配ってたから」

切歌「そうだったデスか……気付かなかったデス」

調「貰いに行く?」

切歌「いいデス、調のを一緒に見るデスよ」

調「一度にたくさん乗れるから、早いね」

切歌「話をしている暇もなかったデース」

調「パンフレットはこれのあとにね」

切歌「わかってるデスよ、さあ行くデス」

調「身長制限大丈夫だった」

切歌「流石に大丈夫デスよ……」

調「む……私より身長高い切ちゃんにはわからないよ」

切歌「ちょっとしか変わらないじゃないですか」

調「私にとっては死活問題」

切歌「そういうもんデスかね?」

調「そういうもの」

切歌「調はちっちゃい方が可愛いと思うデスけど」

調「……ん」

切歌「うおぇぇぇぇ……」

調「切ちゃん、大丈夫?」

切歌「大丈夫じゃないデス……」

調「背中、さすろうか?」

切歌「だ、大丈夫デス……もどすギリギリで持ちこたえたデス……」

調「ゆらゆら……ダメだった?」

切歌「むしろ調が平気な方がおかしいんデス!」

調「そう言われても……」

切歌「Σ式とかでああいうのに慣れてるからデスかね?」

調「あれはそこまで揺れないというか、中心は殆ど不動」

切歌「実はアトラクションみたいで楽しそうだと思ってたデスよ」

調「切ちゃん不謹慎」

切歌「三半規管をズタズタにされたデス」

調「ちょっと休憩しようか」

切歌「それがいいデース!」

調「小腹も空いてきたし、何か食べよう?」

切歌「いいデスね、遊園地ってどんなもの売ってるデスかね?」

調「屋台みたいなのもあるし、レストランもあるみたい」

切歌「パンフレットにはなんでも書いてあるデスね」

調「パンフレットだからね」

切歌「パンフレットデスものね」

切歌「とはいえまだ昼食には早いデスから、間食にするデスよ」

調「うん……あ、見て切ちゃん」

切歌「どこです?」

調「あっちの屋台みたいなの」

切歌「棒状の物が売ってるみたいデスね」

調「チュロスっていうみたい」

切歌「美味しそうな響きデース!」

調「買ってみようか」

切歌「やったデース」

調「……」

切歌「どうしたデ……うわッ高!」

切歌「ぼったくりデース!」

調「仕方ないよ切ちゃん」

切歌「仕方なくないデス! とんでも価格デスよ!」

調「遊園地みたいな閉鎖空間だと競争相手がいないから自然と高くなっちゃう」

切歌「そんなの弱者を生み出す強者のやり方デス!」

調「うん……そうだね、弱者を支配する強者の支配構造を終わらせればきっと」

切歌「こんな傍若無人な値段設定も変わるはずデス!」

調「そのためにも私たちが頑張らないと」

切歌「そうデスね……でも、今はこれを食べるデース!」

調「一つだけ買って半分こしよ、切ちゃん」

切歌「それがいいデス!」

調「切ちゃんは座って待ってて、私が買ってくるから」

切歌「まさか調と二人で遊園地に来れるとは思っても居なかったデス」

切歌「普通の人からしたらなんてことないただのデート……」

切歌「それでも施設にいたあたしと調にとっては本当に特別な事、特別なデートデス」

切歌「列に並ぶ調と、それを待つあたし……あたしは今、幸せデス」

調「切ちゃん、おまたせ」

切歌「お腹ぺこぺこデース」

調「待ってて、今半分に――」

切歌「待ちきれないデース!」パク

調「……切ちゃん」

切歌「こういうのは長いのを短くしていくから美味しいんデスよ、調も一緒に食べるデス」

調「切ちゃんたら……パクッ……うん、確かに美味しい」

切歌「調といると落ち着くデス」

調「ゆらゆら、もう大丈夫?」

切歌「調を待ってる内にどこか飛んでいっちゃったデス!」

調「そっかよかった」

切歌「次は何にするデス?」

調「待って、パンフレット出すから」

切歌「次は落ち着いたのがいいデスね」

調「うーん、ここからだとメリーゴーランドが一番近いけど」

切歌「あれも結構回るデスね……」

調「ダメだった?」

切歌「どうせ回るならコーヒーカップがいいデス、自分で調節出来るデスし」

調「……回したくなったらごめんね、切ちゃん」

切歌「し、調……?」

切歌「コーヒーカップについたデスけど」

調「カップル客ばっかりだね」

切歌「これは負けてられないデース」

調「ま、待って切ちゃん」

切歌「どうしたデスか?」

調「……ううん、なんでもない私たちも乗ろう」

切歌「向かい合わせと隣、どっちがいいデス?」

調「……隣がいい」

切歌「あたしも隣がいいと思ってたデス! 流石調デース」

調「うん」

ゲ杉田「今のうちに楽しんでおくがいいでゲス…」

調「本当にカップルばかり」

切歌「あたしたちだって負けてないデス」

調「切ちゃん……?」

切歌「あっ、えっと、勢いは負けないデス!」

調「切ちゃん、そんなにスピードだして大丈夫?」

切歌「他のカップルたちに見せつけてやるデス!」

調「切……ちゃ……」

切歌「あれ……調、どうしたデス?」

調「もう止めよう……切ちゃん」

切歌「わかったデ、ス……うっ、速度が落ちてきたら……急に」

調「何があったか知らないけど、無理しちゃダメだよ切ちゃん」

切歌「また酔った……デス……」

調「ベンチに横になって、切ちゃん」

切歌「調はまたも平気そうデスね」

調「吹き飛ばされそうにはなったよ」

切歌「ごめんデス……」

調「ううん、いいよ」

切歌「調……」

調「膝、貸してあげる」

切歌「いいんデスか?」

調「うん……切ちゃんは最近いつにも増して無理してるみたいだから」

切歌「……」

調「なんでも相談してね切ちゃん」ナデナデ

切歌「調、あたし……なんでも、ないデス……大丈夫デス、ちょっと疲れてるだけデスよ」

調「……私は切ちゃんの味方だから、ね」

切歌「調……あったかいデス」

調「切ちゃんは熱いね」

切歌「あっ、熱かったデスか!?」

調「でも、それは私にとって心地いい……」

切歌「調……もうちょっとこうしてていいデスか?」

調「いいよ、切ちゃん」

切歌「あたしのこの熱さを、調が忘れられないくらいに……」

調「……」ナデナデ

切歌「本当に……太陽が眩しいデスよ……」

切歌「何だか休憩してばかりデスね、あたしが言うのもなんデスけど」

調「無理矢理にとったけど休暇は休暇だから、それもいいんじゃない?」

切歌「そうデスけど、あっという間に昼過ぎデス」

調「さっきのチュロスも消化されてきたころ」

切歌「本格的に何か食べるデスか?」

調「うん、レストラン入ろ切ちゃん」

切歌「折角遊園地に来たんデスからカフェにするデス」

調「そうだね、外で食べた方が気持ちいいかも」

切歌「広場の見えるカフェにするデス」

調「ちょうど良さそうのがあったよ切ちゃん」

切歌「何を食べようかワクワクするデース」

切歌「相も変わらず高いデスね」

調「また半分こする?」

切歌「そうするデース!」

調「何がいい、切ちゃん?」

切歌「このパンケーキ、遊園地のマスコットの形してるデス」

調「じゃあこれにしようか?」

切歌「調は他に興味のあるものあるデスか?」

調「ううん、これでいい」

切歌「ならこれにするデース」

調「店員さん……」

切歌「注文デース!」

切歌「美味しそうデス」

調「じゃあ、切ろうか」

切歌「いますぐにジャストソーなう痛む間もなく」

調「切り刻んであーげましょー」

切歌「調、あーんデス」

調「自分で食べれるよ」

切歌「そういう気分なんデス、雰囲気なんデス!」

調「あーん」

切歌「あーん……美味しいデス?」

調「うん、美味しい……切ちゃんも」

切歌「あーん……美味しいデース!」

調「この値段なだけはある」

切歌「デスね!」

ウェル「ロリ二人の使用済みお皿美味しいデース!」ペロリンチョ

切歌「あーん……どうしたデスか?」

調「見て切ちゃん、何かイベントしてるみたい」

切歌「広場でイベントデスか」

調「人が沢山」

切歌「でも、よく見ると年寄りばかりデスよ?」

調「なんのイベントなんだろ?」

切歌「ちょっと行ってみるデスか?」

調「その前にこれ、片付けないと」

切歌「あーん」

調「はい、あーん」

切歌「一口でぺろりデース!」

切歌「行くデスよ、調」

調「うん」

切歌「なんだか薄茶色のオーラが出てるデスね」

調「お孫さん連れもチラホラ」

切歌「マイク持った人がステージに立ってるデス」

調「カラオケ大会?」

切歌「みたいデスね」

司会「ドーモわたくしこんなに集まっていただいて嬉しく思いマース」

調「片言……」

切歌「国外の人が司会みたいデスね」

調「……」

切歌「歌う人を募集してるデスね」

調「……」ウズウズ

切歌「歌いたいデスか、調?」

調「ッ!」ビクッ

調「だめ?」

切歌「もちろんいいデスよ!」

調「ありがとう」

切歌「この次にエントリーするデス」

切歌「デェエエエエエエエッス!」

調「またORBITAL BEATをみんなの前で歌いたい」

切歌「曲はこれで決まりデスね」

調「うん」

切歌「っと、もうそろそろあたしたちの番デスよ!」

司会「うぇ、ウェール……次の、挑戦者はこの方たちでありマース」

調「なんだかざわついてる」

切歌「老人ばっかりのところにこんな可愛い調が出てきたらこうもなるデスよ」

調「切ちゃんだって可愛いよ」

切歌「そ、そんなの反則デース!」

調「?」

切歌「♪」

調「♪」

切歌「……ふぅ」

調「気持よかった」

切歌「みんな、拍手してくれてるデス」

調「嬉しいね」

切歌「とっても嬉しいデス!」

調「私たちの歌は、届けたい人に届いてくれる、だから」

切歌「あたしたちならきっとやれるデスよ」

調「うん……世界を救うために私たちは歌い続けなきゃ」

切歌「でも、あたしの一番届けたい人には、まだ……」

調「切ちゃん? 何か言った?」

切歌「なんでもないデス、楽しかったデース!」

切歌「腹ごなしも済んだことデスし、アトラクションに繰り出すデス!」

調「万能パンフレット」

切歌「なにがいいデスかね?」

調「切ちゃん三半規管は落ち着いた?」

切歌「歌ってたらだいぶ安定してきたデス!」

調「歌の力は偉大」

切歌「デェエエスッ!」

調「折角の遊園地なんだからジェットコースターくらい乗るべきだと思う」

切歌「ジェットコースターデスか! いいデスね!」

調「行こっか、切ちゃん」

切歌「行くデス!」

切歌「流石ジェットコースターと言ったところデス」

調「すごい行列」

切歌「それでも乗るデスよね?」

調「私はどっちでもいいよ?」

切歌「遊園地にまで来て乗ってかないなんておかしいデスよ」

調「なら並んででも乗ろうか」

切歌「話してたらあっという間デス!」

調「それもそうだね」

切歌「並んでる間に何か飲むもの買ってくるデスよ」

調「お願い、切ちゃん」

・・
・・・

切歌「あったかいもの、どうぞ」

調「あったかいもの、どうも」

切歌「それで何度言ってもご飯にザバーっとかけちゃうデスよ!」

調「それは酷いね……」

切歌「ありえないデス!」

調「緑茶に砂糖入れるくらいありえない」

切歌「ありえないデース!」

調「はちみつなんてもっての外」

切歌「デェエエエスッ!」

調「あっ、もう順番来たみたい」

切歌「やったデース……なに俯いてるデスか?」

調「身長制限……」

切歌「大丈夫デスよ! 調はそこまで小さくないデース!」

調「……うん」

切歌「ふう……ジェットコースターは動き出す時と登り切った時が一番緊張するらしいデス」

調「そうみたいだね」

切歌「もしかして緊張してるデスか?」

調「大丈夫」

切歌「心配デスよ」

調「そんなこと言って本当は切ちゃんの方が緊張してるでしょ?」

切歌「そそ、そんなことないデース! ほんとデース!」

調「嘘……さっきから私の方に手を出そうか迷ってる」

切歌「それは……」

調「手、繋ぐ?」

切歌「そうして貰えると……嬉しいデス」

調「切ちゃんたら」

調「もうすぐ一番上」

切歌「ここから一気に落ちるデスか」

調「うん、すごそう」

切歌「私は……落ちたくなんかない……デス」

調「切ちゃん?」

切歌「……」

調「……落ちる」

客「きゃあああああああああああああああああ!!!」

切歌「あたしは! いつまでも調と一緒にいたいです!」

切歌「離れたくなんかないデス! 失いたくないデス!」

切歌「ずっとずっと調と同じ場所に立っていたいデス!」

調「切ちゃん……何? 聞こえない!」

切歌「忘れられたくないデス! フィーネになんてなりたくないデス!」

調「切ちゃん! 切ちゃん!」

切歌「いやあ、すごかったデスね、調」

調「うん」

切歌「話題なだけあるデスよ、経営不振なんてへのカッパデス!」

調「ねえ、切ちゃん……なにか言ってなかった?」

切歌「……あたしは、ただ絶叫してただけデスよ……」

調「……そう?」

切歌「そうデス! ジェットコースターは叫ぶところデスからね!」

調「そっか……」

切歌「順番待ちしてる間に結構時間経ってしまったデスね」

調「もういい時間」

切歌「そうデス! 観覧車に乗るんだったデス!」

調「うん、また並ぶかもしれないけど」

切歌「慣れっこデス!」

調「行こっか、切ちゃん」

切歌「調、今日はあたしに付き合ってくれてありがとデス」

調「ううん、私も楽しかったよ」

切歌「いい思い出になってたら……いいデス」

調「思い出?」

切歌「そうデス、今日は調との思い出を作りたくて、デートに誘ったデスよ」

調「そうなんだ」

切歌「調は、今日のこと、ずっと覚えててくれるデスか?」

調「うん、もちろん」

切歌「それはよかったデス」

調「切ちゃん?」

切歌「調、あたしたちの番が来たみたいデスよ」

調「あ……うん」

切歌「ゆっくり登っていくデス」

調「上まで行ったら遊園地を一望できそう」

切歌「今日は色々あったデスね」

調「切ちゃん最初は船に乗ってふらふらだった」

切歌「チュロスを一緒に食べたデス」

調「美味しかったね」

切歌「その後はコーヒーカップでまた酔ったデスよ……」

調「切ちゃんふらふらしてばっかり」

切歌「う……その後の調の膝枕、嬉しかったデスよ」

調「……」ナデナデ

切歌「調……?」

調「再現してみた」

切歌「えへへ」

調「それからランチタイム」

切歌「あれも美味しかったデス、あーんし合ったデス」

調「うん、切ちゃんいっぱい食べた」

切歌「歌も歌ったデス」

調「素のままの歌を聞いてもらった、二回目だね」

切歌「学校で歌ったこと、思い出したデスね」

調「あの時もすごく気持ちよかったね」

切歌「みんなが聞いてくれて、それに応えてくれる……とっても嬉しかったデス」

調「うん……」

切歌「思い出してるデスか?」

調「……辛い時も、嬉しい時も、いつも切ちゃんと一緒だって思って」

切歌「調……」

調「これからも、ずっと一緒だよね切ちゃん?」

切歌「……も、もちろんデースッ!」

切歌「上まで回ったデスね」

調「見て切ちゃん」

切歌「どうしたデス?」

調「夕日……綺麗」

切歌「本当デス……どうにかなってしまいそうなくらい、デス」

調「切ちゃん?」

切歌「調、あたし……調のことが好きデス」

調「私も切ちゃんのこと好きだよ」

切歌「そうじゃ、ないデス」

切歌「あたしの好きは、マリアやマムに対しての好きじゃなくて……恋してる、そういう好きなんデス」

調「切ちゃん……」

調「うん……私も切ちゃんのこと好きだよ」

切歌「調……」

調「大好きだよ、切ちゃん」

切歌「夕焼けが、眩しいデス」

調「うん、そうだね」

切歌「ほんと……嬉しくて、涙が出ちゃうデスよ……」

調「うん……」

切歌「この夕焼けが私たちのことを覚えててくれるデス」

切歌「この夕焼けの事を調が覚えててくれるデス」

調「忘れない、忘れられないよ」

切歌「調……観覧車が下に回り切る前に、口づけを交わしてもいいデスか?」

調「うん、いいよ……切ちゃん」

切歌「大好きデス……調、ん……」チュ

調「ん……切ちゃん」チュ

切歌「きっとザババも祝福してくれるデス」

調「戦女神だけどね」

切歌「いいんデス! 私と調は二人で一つ、それはザババのお墨が付いてるデス!」

切歌「それだけで……それだけでいいんデス……」

調「切ちゃん……」ギュ

切歌「調は温かいです」ギュ

調「切ちゃんも……」

切歌「あたしの全部、調に置いて行きたいデス」

調「ダメだよ、切ちゃんはここに居てくれないと」

切歌「調……」

調「……泣かないで、切ちゃん」

切歌「大好きデス……大好きデス調」

おしまい

半額チケット
F.I.S.の離反により日本政府に対する聖遺物の優位性を失った米国政府は
手をこまねいていたが、まず初めに着手したのは適合者の確保である
世界各地に点在する政府の手が回った遊園地に人を集め適合者選抜を行っている
切歌と調の登場に焦った工作員だったが巨大テーマパークを戦場にすれば
莫大な損失を被ると判断し熱唱を聞くこともなく撤退した
世界中から百余命が拉致されてきたが成果は芳しくなく未だ米国政府の納得する適合系数は望めていない

司会者
エディ・エドワード(芸名)は軍人であった
上官の命令に機械のように従い戦果を上げてきた特記兵力の一人であり
その日もミッションとしてゲリラ狩りの任に就いていた
彼はゲリラ兵を的確に鎮圧していったが十を数えたころ誤って民間人を殺めてしまう
彼は動じなかったがその少女が忍ばせていたラジオが懐から零れた、流れてくる音楽、それが出会い
「恋の桶狭間」
自身には覚えのない魂の籠もった歌声に心が洗われる
落涙
言葉の意味は通じなくともそこに込められた想いが彼を生まれ変わらせた
半年も経たず彼は退役した、退役の条件として過去の一切を捨てる事を突きつけられる
彼は迷うこと無く過去を捨て、NO NAMEとして生きることを選んだ
その後日本語を猛勉強し習得したのちに来日、芸能プロダクションの門を叩き
「演歌大好きエディ・エドワード」をキャッチフレーズに売りだされる
戦場の惨状を歌に乗せて唄うが、鳴かず飛ばずの結果しか残せなかった
戦争世代である老人たちの一部に熱狂的なファンが居たものの最後の楽曲が
日本チャート自身最高の101位でトップ100にも満たなかったことを理由に解雇、帰国することに
それからも米国の都市近郊で演歌を歌い続けていた彼だったがある日政府から声がかかった
それは日本の遊園地でカラオケ大会の司会をして欲しいというもの
もう一度日本へ行きたいと常々思っていた彼には願ってもいないチャンスだった

元軍人で日本にも詳しいというだけで彼を使ったのは政府の失態である
なぜなら彼目当てで集められるのは老人だけだからだ、ちなみに風鳴翼も彼のファンの一人

観覧車
五年前、男女三名が重傷を負う事故が発生した
このことは県議会の懸案にかけられ満場一致で撤去されることになったが
市長が猛反発し撤去を撤回させる
この観覧車は市長が婦人と初めてのデートで初めてキスをした場所であった
愛のなせるディベートである
切歌と調が想いを伝え合えたのは市長夫妻の愛のおかげとも言える

これで切ちゃんがフィーネじゃなかったら色んな意味で俺が死ねる
手紙を聞いて泣いたのは秘密だ

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