ノーラ「羊飼いと行商人と、狼」 (15)


*序


ガラガラ……


ロレンス「……いい天気だな」

見渡す限りの草原の中、ぼんやりと馬車の手綱を引く一人の青年。
彼の名はロレンスという。

彼は行商人。そう、時間に追われ埃にまみれる、行商人だ。

ロレンス「……」

とはいえ今の、ごくのんびりとした彼の姿に、行商人らしい様子はない。
それはある取引が思うままに進んだという、実に商人らしい理由ではあったが。

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そんな彼の今回の旅程には、いくつかの転機が待っている。



カラン……

カラン

ロレンス「……この鐘の音は」

ロレンス「羊飼いか。確かにこれだけの草原にあって、羊飼いがいないのは不釣り合いだな」

ロレンス「(……今回の旅はいろいろとついているのかもな)」

退屈で孤独な旅の中で、ちょっとした出会いは買えない価値を持つ。
そんな小さな期待とともに、ロレンスは向かって来る羊飼いに声をかけた。


*1


??「…」

カラン

ロレンス「行商人のロレンスと言います」

??「…」コク

ロレンス「この出会いが、きっと神のお導きであること」

ロレンス「そしてあなたが善き羊飼いであること、それをあなたの正しい振る舞いで示して頂ければ、と思います」

??「…はい」

ロレンス「(…え?)」

??「……」スゥ

??「“天の神の祝福により———”」

ロレンス「(これは…)」

ロレンス「(まだ幼い、少女の声か…!?)」


トン

??「…」

ロレンス「…あ、えっと」

ロレンス「失礼しました。あなたは確かに、善き羊飼いで間違いない」

ロレンス「お名前をうかがっても?」

??「…」コク

??「ノーラ・アレントと言います」ニコ


・ ・ ・ ・ ・


ロレンス「喜んで」

ノーラ「へ?」

ロレンス「リュビンハイゲンまでの狼からの護衛、でしたよね」

ロレンス「ありがたいお話です。正直、多少無理を承知でこの道を選んで来たものですから」

ノーラ「ほ、本当ですか?」

ロレンス「ええ」ニコ


ロレンス「それに何より」

ノーラ「?」

ロレンス「一人旅は退屈ですからね」

ロレンス「行商人の話こそ面白くもないかもしれませんが、付き合っていただけるなら安いものです」

ノーラ「…分かります」

ノーラ「実は私も、半分は、そんなつもりでお願いしたんです」ニコ

ロレンス「そうですか。それはよかった」


ロレンス「では数日の短い間かもしれませんが」

スッ

ロレンス「改めまして。よろしくお願いします」

ノーラ「は、はい」ゴシゴシ

ノーラ「あの、こちらこそ…」

ギュ

ノーラ「よろしく、お願いします」ニコ


*2



カラーン…

ロレンス「しかしこれだけの羊を連れて」

ロレンス「あの森を越えてラムトラまで行けるとなると、ノーラさんの羊飼いとしての腕は確かなようですね」

ノーラ「いえそんな…その、この子のおかげで、なんとか」

エネク「ばうっ」

ノーラ「…」ヨシヨシ

ロレンス「…腕のいい羊飼いは、いい連れを持つと言いますからね」

ノーラ「…」ニコ


ロレンス「小さな努力を積むことはとても大事なことだと思います」

ロレンス「まあ、私からはささやかなお礼しか渡すことはできませんが」

ノーラ「…はい」クス

ロレンス「…」ニコ

ロレンス「いつか自分のお店を、持つことができるといいですね」

ノーラ「ええ」

ノーラ「お互い頑張りましょう」ニコ


*3


ロレンス「では、短い間でしたが」

ノーラ「はい」

ノーラ「あの、とても楽しかったです」

ノーラ「なので、その…」

ロレンス「?」

ノーラ「…」

ノーラ「い、いえ。何でもないです」


ロレンス「…そうですか?」

ロレンス「そうだ。ノーラさんの護衛の仕事ですが」

ノーラ「は、はい」

ロレンス「依頼の有無に限らず、一度は報告に向かわせてもらおうと思っているのですが…」

ノーラ「! はい」

ノーラ「あの…待ってます」

ロレンス「ええ」

ノーラ「…//」ニコ


+ローエン商業組合 商館+


ヤコブ「…むう」

ヤコブ「そいつはよした方がいい」

ロレンス「え…どうしてですか?」

ヤコブ「なぜ彼女が教会に飼われているのかくらいは、お前も分かっているだろう?」

ヤコブ「ここの教会を舐めていると痛い目にあうぞ?」

ロレンス「……。そうですね」


ヤコブ「彼女の仕事を斡旋するようなことは避けるべきだな」

ヤコブ「だが…」

ポタ…
ギュ

ヤコブ「自分が利用するなら構わないだろう。まあ、覚悟を持っているのならばだが…ほれ証書」

ロレンス「どうも。…あの、それはどういう」

ヤコブ「いや。お前に仕事の依頼をしてやろうと思ってな」


・ ・ ・ ・ ・


+教会前+


ロレンス「ノーラさん」

ノーラ「…? あっ」

ロレンス「こんにちは」ニコ

ロレンス「せっかく教会の前ですから———こうしてすぐにでも再会できたことを、神に感謝しましょう」

ノーラ「…はい」クスクス

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