文月瑠衣「水着かぁー……」【AKIBA'S TRIP】 (164)

瑠衣「一度でいいから……。着てみたいな……」

きっかけは、きっと……。
彼女の、この一言だったに違いない。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1375264681

※『AKIBA'S TRIP』というPSPゲームのSSです。
共存ルートクリア後のとある日常風景※

初見のかたへ

主人公:ナナシ
参考ページ
ttp://akbstrip.jp/character.php?char=7#!stay

文月瑠衣
参考ページ
ttp://akbstrip.jp/character.php?char=6#!stay

カゲヤシ→いわゆる吸血鬼みたいな存在。
日の光にめっぽう弱く 、極度に浴びると
灰になって消えてしまう。

 ――夏。
 いたるところでセミが鳴き始め
これから先、うだるような暑さが続くんだろうな……と
嫌でも感じさせられるようなある日のこと。

ナナシ「おおっ!」

外の、不快にすら感じられる暑さとは違い、
クーラーのきいた秋葉原自警団の新アジトの中で
俺は、一冊の本を見て歓声を上げた。

ノブ「どうだぁ? 中々いいものだろう?」

フフンと鼻息を荒くして腰に手をあて胸を張るノブ君。
この本の持ち主である。

もちろん、本といっても……情報誌や小説といった類の本ではない。
とあるエロゲーの原画家のイラスト集である。
夏らしく、版権物やオリジナルキャラの二次元の美少女の
水着姿のイラストが描かれている。

ノブ「今、いち押しの原画家の新刊だぜ」

ふむ……。確かに可愛いイラストではあるが……、
描かれてる女の子も、着ている水着も、いたって普通のもので
二次元ということを除けば、いたって健全なものだ。
ネームバリュー意外に特出しているものは無いように思えるが……。

ナナシ「……ノブ君にしては、意外に普通のチョイスだな?」

ノブ「いやいや。何をおっしゃいますか」

 ノブ君はニヤリとして、

ノブ「その次のページからが凄いんだよ」

ナナシ「?」

 ……先をうながされページをめくる。

ナナシ「……ほぅ」

 なるほど……、と思わず唸り声を上げる。

 そこには水着を着た二次元の女の子が描かれていた。
 いや……これはもはや水着とはいえない。紐だ、ひも!
大事な所は隠れてはいるが、ほとんど裸に近い。

 だが、まぁ……しかし。
全部見えているよりは微妙に見えないっていう方がそそるのも確かで。

ナナシ「ふむ、素晴らしい」

 と、思わず本音が漏れてしまう。

ノブ「さすが! ナナシならこれの良さ分かってくれると思ってたぜ!」

 俺とノブくんは某野球ゲームの友情が芽生えた時のように、ガシッと固い握手を交わす。

ノブ「ほら、どんどんページ進めようぜ。
黒髪ロング、金髪ツインテ、ショートカット、JK、ロリと見所満載だぜ!」

 なるほど。よりどりみどり、ってわけですな?
ゴクリと生唾を飲み、次のページをめくろうとした。

「ねぇ? なにしてるのー?」

ナナシ「おわっ!?」

 急に後ろから声をかけられ、驚きのあまり
手にしていたイラスト集を床に落としてしまった。

「あっ……。
えっと……、驚かせちゃったかな……? 
ゴメン……」

 声の主は申し訳なさそうにシュンとした。

 気持ち短めのスカートに、
夏であるにも関わらず、長袖のパーカーという装い。
 華奢な体に、見惚れるほどの色白い肌。
 僅かに吹くクーラーの風にすら靡くほどの
サラサラした黒のロングヘアーが印象的な少女。

――文月瑠衣。

 カゲヤシのトップ……現妖主であり、

 俺の……



 彼女である。

ナナシ「るっ……瑠衣!? い、いつの間に?」

瑠衣「えっ? い、今だけど……」

瑠衣「ちゃんと、お邪魔しますって言ったんだけど
二人とも真剣だったから、聞こえなかったかな」

鈴「でも、向こうにいるサラさん達は
作業中なのにちゃんと反応してくれましたよ?」

 そういって横から口をはさんできたのは、
瑠衣と同じくカゲヤシである森泉鈴。
 先ほど、瑠衣と一緒にアジトに入ってきたのだろう。

鈴「全く……! ナナシさんは瑠衣ちゃんの将来のお婿さんなんだから
もっとしっかりしてくださいよ!」

瑠衣「ちょっと、鈴……! やめてよ!
まだ……お婿さん……とか……そんなじゃ……」

 うつむき、モジモジしながら瑠衣は答える。

 ……瑠衣との新婚生活か……。
 …………ムフフ。
想像しただけで口元が緩む。
 ……まぁ、一つだけ彼女には致命的な欠陥があるにはあるが……
そこは目をつぶることにしよう……。

瑠衣「ところでさ、なにしてたのかな?」

ナナシ「……! あ、いや……。たいしたことじゃないよ」

 声をかけられ、先ほど床に落としたイラスト集を慌てて拾おうとする
 …………が、残念なことに……、
それは俺の手に収まるより先に鈴にヒョイっと拾われてしまった。

 ピラッ。

鈴「…………。うわっ」

 ああ……明らかにドン引きされてるな、これ。
そりゃそうだ。
 彼女はその本の……、あろうことか最も過激であろう終盤のページを開いたのだ。
まだ、序盤の普通の水着の絵なら救いようがあったのに……。
 ……いや、どうだろう? それでもアウトのような気がする。

瑠衣「なになに?」

 鈴の反応をみて、瑠衣も本を覗き込む
 ……彼女の色白の顔が見る見るうちに真っ赤に染まっていく。
まぁ、ね。
 ちょっと前まで街で遊ぶということすら知らなかったウブな女の子が
二次元の絵とはいえ、割と過激なものを見てしまったんだ。
 恐らく彼女にとってF○Ⅵまでのドットから
○FⅦのポリゴンに変わったときのような衝撃を受けたことだろう。
 ああ……瑠衣が汚れた世界を知ってしまった。
俺は嘆き悲しみ、なんの味気もないコンクリートでできた天井を仰いだ。

鈴「男の人って、最低です!!」

 鈴は同人誌を床に叩きつけながら吐きすてた。

ノブ「ああ! 俺の至高の一品がー!」

鈴「こっ……こんないかがわしい本、持ってちゃダメです!!」

ノブ「う、うるさい! 三次元の女にこれの良さは分からないさ!」

 鈴とノブ君の二人は、ギャーギャーと言い争いを始めてしまった。

ナナシ「……やれやれ」

 まぁまぁ、と二人をなだめていると
ちょいちょいっと服のすそを引っ張られた。

 振り返ると、未だに顔を真っ赤にしてうつむいてる瑠衣がそこにいた。

瑠衣「ねぇナナシ……。
キミも……やっぱり……ああいうのが好き……なのかな?」

 彼女は自分の胸に手をあて、それを上に持ち上げながら

瑠衣「……おっぱい。おっきかった……」

鈴「!? 瑠衣ちゃんっ! 気にすることはないよ!」

 鈴が言い争いをしている勢いそのままに叫ぶ。

鈴「瑠衣ちゃんはバスト<規制音>センチのCカップ!!
私の調査によると、男性のほとんどはCカップが好みらしいから
瑠衣ちゃんは悲しまなくていい! むしろ誇るべきだよ!」

瑠衣「えっ!? なんで私の胸のサイズを……」

鈴「伊達に瑠衣ちゃんと一緒にランジェリーショップに行ってるわけじゃないからね!」

 いや、そんなこと自信満々に言うのはどうかと思うが。 
 ……それはそれとして。

ナナシ「へぇ。<規制音>センチなのか」

瑠衣「……!! キミは、覚えなくてもいいよ!」

 いやー……、そういわれましても。
残念だけど、この情報は俺の脳内HDDに厳重に保存された。
 ああ、そうだ。念のため外付けHDDにもバックアップを取っておこう。

鈴「ちなみに瑠衣ちゃんのスリーサイズはね!」

瑠衣「…………鈴」

 瞬間……。空間がピシッっと音を立てて割れたたような気がした。
 瑠衣の方を見ると、体からドス黒いオーラが出ている……。

瑠衣「少し……黙ろう?」

鈴「ぁ」

 瑠衣から発せられているオーラに威圧され
金魚のように口をパクパクさせている鈴。
 怖い……怖いよ……、瑠衣さん。
さすがはカゲヤシの現妖主。恐ろしい……。
 俺も彼女を怒らせないようにしないと……。
 そう心の中で誓ったのだった。

瑠衣「……でも」

 フッとオーラが消え、いつもの女の子らしい表情に戻った瑠衣が続ける。

瑠衣「水着かぁー……」

 彼女は、ほんの少しだけ「う~ん」と、唸った後
手を後ろで組んで、肩を左右にゆっくり揺らしながら上目遣いで俺を見た。
 この動作は彼女の癖のようなもので、
恥ずかしいことを尋ねたり、お願いするときは、よくこの仕草をする。
 ……ちなみに死ぬほど可愛い。

瑠衣「……ナナシは、私の水着姿……見たい?」

 もしスポーツ界に、首振り世界選手権というものがあれば
世界記録を樹立しそうな速さで首を縦に振る。

瑠衣「そっか♪」

 満足げにニコッと微笑む。
だけど……その笑顔もすぐに悲しげな表情に変わり、

瑠衣「でも……それは難しいよ」

 ……そりゃ、そうだよな。
彼女はカゲヤシ。日の光を体中に浴びると、灰になって消えてしまう。
 ……現に、真夏である今も長袖のパーカーを着ているほどなのに
肌のほとんどを露出している水着になるなど、
カゲヤシにとっては、自殺行為以外の何者でもない。

瑠衣「一度でいいから……、着てみたいな……。
みんなと一緒に、海で遊んでみたい」

 そこまで言うと
彼女は自傷気味の笑顔を浮かべて

「……えへへ。なんてね♪
わがままだよね。……ごめん。忘れて」

 ……そんな顔をされては黙ってるわけにいかないだろ。
なんとかできないものか。
 ……いや。純粋に、彼女の願いを叶えたいだけだぞ?
決して、瑠衣の水着姿を視姦したいわけじゃないからな!
 などと、脳内で誰に向けられたか分からない言い訳をしていると

鈴「日中はダメだけど、夜の海なら!」

 鈴がそう提案する。

ノブ「夜の海で泳ぐって、なんか危険じゃないか?」

鈴「でもノブさん。泳げなくても……、
若い人たちって、夜に海岸で花火とかするらしいじゃないですか」

ノブ「確かにそうだけど……。それだと水着を着る意味、だよなぁ」

 ノブ君の言うとおり。
 ……しかも、仮に水着になるとしても、だ。
夜だと暗いから……水着の魅力も半減してしまうような気がする。

ナナシ「そうだよな。……どうせなら明るい所で見たい」

 明るい日差しの下、照らされる健康的な艶体こそ至高ではなかろうか。

瑠衣「……あっ。そういえば」

 瑠衣が何かひらめいたようだ。

瑠衣「屋内プールってものがあるらしいね。
そこはダメ、かな? ねぇ、ナナシ。どうだろう?」

ナナシ「……いい案だけど。
そういうところって割と天井とか壁がガラス張りだから……、
もろに日光とか入ってくるんだよな」

瑠衣「そっか……」

はいはいはーい! と手を上げながら今度は鈴が提案する。

鈴「室内で水着を着て普通に遊ぶ!」

鈴よ……。キミはまるで分かってない。

ナナシ「それじゃ萌え要素ねぇよ」
ノブ「それじゃ萌え要素ねぇよ」

俺とノブ君、二人の声が「同調した!?」って
 つっこみが入るかと思うほどにピッタリ重なる。

瑠衣「……えっと。
よく分からないけど……こだわりみたいなものがあるんだね」

 ……瑠衣がちょっとひいているような気がするけど
これは譲れんのだよ。男して。

 四人であーでもないこーでもないと議論していると、

ヤタベ「話は聞かせてもらったよ!」

 人類は滅亡する! と続けてきそうな勢いで
ヤタベさんが会話に入ってくる。

ヤタベ「水着で遊びたいが場所がない。そうだね?」

瑠衣「……はい。
……えっと、ヤタベさん。何かいい考えが?」

 四人がポカーンとしている中
代表して、瑠衣がヤタベさんに尋ねた。

ヤタベ「ああ。
僕が管理している物件にちょうどよい場所があってね。
……そこなら、カゲヤシの二人も安心して遊べるんじゃないかな」



 …………物件?

とりあえず導入編終了です。
続きは、今書いてますので、また後日投稿になるかと思います。

こんな感じで細々と投稿していきたいと思います~。
なにぶん初投稿ですので……
ルール違反等あればご指摘いただければ幸いです(汗

それではまたノ

 ――――「……、…………シ」

 んー……。

 ――「……ナ……シ……」

 ……ここは、夢の中なのか?
それとも現実か?

 曖昧な意識の中で、俺の名前を呼ぶ声だけが聞こえる。

瑠衣「ねぇ! ナナシってば!!」

 ……なんだ、瑠衣か。
すまない……、もう少し寝かせてくれ。

ナナシ「あと……5分……」

瑠衣「…………むぅ」

 ぷく~っと頬を膨らませている音がする。
 その顔、凄く拝見したいが……生憎と物凄く眠いんだ。
 死ぬほど疲れている、というやつである。

瑠衣「…………起きてくれないと……、キス……しちゃうよ?」

ナナシ「!?」

 瑠衣の一言で、電気ショックを受けたように俺の意識ははっきりと覚醒した。
 ……だが、ここは敢えて狸寝入りをする。

 ……瑠衣よ。
そのセリフは、はっきりいって逆効果だぞ?

 可愛い女の子にそんなことを言われて起きる男子がいるものか。
 いるとしたらホモォぐらいだ。
そんなものは薄い本の世界だけで充分だ。

 なので、俺はこのまま狸寝入りを続ける。
 たとえ……映画になると途端に良い奴になるガキ大将が
隣で歌ったとしても寝たふりをやめたりしない覚悟だ。

瑠衣「……全く。しょうがないなぁキミは」

 最初のうちは気付かなかった柑橘系のほのかな香り。
 瑠衣がいつも、心持ちつけている香水の香りが
少しずつはっきりとしてくる。

 ――そうだ、もう少し……。
あと数センチで瑠衣の唇の感触を味わうことが出来る!!

「起きろーーー!! このっバカ兄!!!!」

 バキィッ!!!

ナナシ「ゴフッ!?」

 鈍い打撃音とともに悲痛な叫び声をあげる。

 狸寝入りを続けることで味わえたのは
可憐なお姫様のキスではなく……。

 生意気な少女の……顔面への見事な蹴りだった。

「みんな待ってるんだからね!!
さっさと起きる!!!」

 物凄い剣幕で迫ってくるショートカットの少女。

ナナシ「…………ココハ、ドコ? 
アナタハ、ダレ?」

「……はあ? アンタ、何言ってるの?」

 少女は左手を腰にあて、
右手の人差し指で俺のおでこをグリグリしながら
声を荒げ叫ぶ。

「ここはワゴン車の中!
あたしたち、秋葉原からこれに乗って山を登ってきたんでしょ!
……それで、あたしは」

ナナシ「あぁ、はいはい。
もういいよ、全部思い出したから」

「あっそ。
……まったく。くだらない茶番やめてよね、ウザイから」

 茶番って分かってながら、ノってくるあたり
我ながら、中々に訓練された『妹』である。

瑠衣「あはは。2人とも仲いいんだね」

ナナシ「なぁ、瑠衣。
本当にそう見えるなら眼科に行ったほうがいいぞ?」

 瑠衣は、一瞬きょとんとして、

瑠衣「え? 私、視力は良いほうだよ?」

ナナシ「ん~、そういうことじゃないよ」

瑠衣「?」

 意味が分からないのか、瑠衣は少し首をかしげた。
 彼女は、こういうちょっとした冗談なんかが通じないことがある。
 少しだけ世間とずれているというか……。

妹「ねぇねぇ」

 妹が俺の耳元でささやく

妹「瑠衣さんって、もしかして天然?」

ナナシ「……少しな」

 二人でコショコショと内緒話をする。
 それをみた瑠衣は、少し頬をプクーっと膨らませた。

瑠衣「なんだか、悪口を言われてる気がするよ」

妹「き……気のせいだよ!」

 妹は手をパタパタさせながら慌てて否定する。

妹「ささっ、瑠衣さんもそこのバカも。
みんな待ってるんだから、早く降りた降りた!」

瑠衣「うー。なんか納得いかない」

 瑠衣は、まだ少し不満な顔をしてはいるが
渋々といった感じで車内から外に出た。

ナナシ「俺も行くかな」

 瑠衣の後に続き、俺も車内から外に出る。

 ――バタン。

 車が2台か3台ようやく停めれるほどの、山中の駐車スペースに
スライド式のドアの鈍い音が響く。

 車から降りてまず目に入ったのは
街中ではあり得ないほどに生い茂っている木々。
 その木々たちが、風に揺られざわめく音が
時折聞こえてくる山鳥の鳴き声と混ざり合い
癒しの曲を奏でている。

ナナシ「ん……っ。んーーー!」

 俺は大きく背を伸ばして思いっきり息を吸った。
 都内の濁ったものとは違い
新鮮で澄んだ空気が全身に行きわたる。

「おや? ようやくお目覚めかな?」

ナナシ「あっ。おはようございます、マスター」

 車から降りた俺に声をかけてくれたのは、姉小路 瞬さん。
 秋葉原で喫茶店を経営していて
その関係で、みんなから”マスター”と呼ばれている。

ナナシ「あれ? みんなは?」

 俺はキョロキョロと辺りを見回す。
 マスター、それに瑠衣と妹以外の姿が見当たらない。

マスター「彼らなら、既にロッジに向かったよ」

 マスターは駐車スペースの隣にある、少し短めの階段を指差しながら言った。
 階段の先には、割と新築に見える木造のロッジがある。

 ――2週間ほど前、
 瑠衣の「水着で遊びたい」という話を受けて
ヤタベさんから紹介された物件がこのロッジだ。

 このロッジは、不動産を兼業しているヤタベさんの管理物件で
曰く……ロッジの裏手に
木々に囲まれ、日差しが当たりにくい川原があるらしい。
「そこならカゲヤシも安心して遊べるだろう」とのことだった。

 ロッジと聞いた瑠衣が
「どうせなら・・・みんなで、そこに泊まろうよ!」
 ……と、提案して
今日に至る。

――瑠衣「みんな、もう荷物をロッジに運んで、今は着替えてる所だよ」

 この宿泊の発案者である瑠衣が、先ほどのマスターの話を補足する。

ナナシ「……着替え?」

瑠衣「うん。
日差しが入りにくい川原とは聞いたけど、やっぱり日中は怖いから
午前中のうちに川原で遊ぼうって話になったんだよ」

ナナシ「あー、ね」

妹「アンタがグースカいびきかいてる間
みんなで荷物運んだり、色々準備したりで大変だったんだからね」

ナナシ「……それは面目ない」

 さすがに悪い事をした気がするので、
癪だが素直に頭を下げた。

妹「……全く。
瑠衣さん。こんなアホは放っておいて
アタシたちも早く着替えよう」

 妹は、犯罪者を見るような目でこちらを睨みつけてくる。

妹「それにコイツ、変態だから
早く着替えないと覗かれちゃうよ」

ナナシ「自分の妹の着替えなんて覗かねぇよ」

 溜息混じりに答える
 は今回、妹ルートは選択してないんだよ。

瑠衣「私の方も……覗かないでね?」

 人を小馬鹿にしたような態度をする妹とは対照的に
顔を曇らせ不安な表情を浮かべて俺を見据える瑠衣。

ナナシ「…………善処します」

 瑠衣の着替えか……。
 …………いや。
 おまいらが期待しているところ悪いが、覗かないよ? 
 さすがに本気で殴られそうだ。

>>55 脱字(´・ω・`)

は今回

俺は今回

瑠衣「エヘ♪
それじゃナナシ。またあとでねー」

 瑠衣は笑顔で軽く手を振りながら
妹と一緒に、階段をパタパタと駆け上っていった。

マスター「ナナシ君も、はやく行きたまえ」

 ワゴン車の運転席からマスターに話しかけられる。

ナナシ「あれ? どこかに行くんですか?」

マスター「ああ。
少し買い出しがあるのでね」

 マスターは運転席のドアをバタンっと閉めてエンジンをかける。

マスター「昼ごろには戻ってくるよ」

ナナシ「分かりました。お気をつけて」

「ああ」と返事をすると窓を閉めて車を走らせた。

ナナシ「さて、と……」

 走り去る車を尻目に
少しだけ小高い場所にあるロッジを見上げ

ナナシ「俺も着替えてくるかな」

 そう、独り言を呟く。

 今日これから起きるであろうドラマを想像しながら
心を躍らせてロッジに続く階段を登り始めた。

お待たせしました!(滝汗

先月ぐらいにAKIBA'S TRIPを初プレイして瑠衣ちゃんに一目ぼれ(ぁ

その後SSを検索し、あまりの少なさに不人気なのかと思っていましたが
瑠衣ちゃん需要、意外にあるようで嬉しい限りです(*´ω`*)


……すこし休憩しますので、続きは1時間後ぐらいに(っ´ω`c)

――「絶対スクール水着だって!!!」

 周りを木々に囲まれ、すこしだけ薄暗い小さな川原に
ノブ君の意味不明な叫び声が響く。

「さ……さすがに年齢的に
す、スクール水着はないんじゃない、かな?」

 オドオドと、口下手に喋っているこの太った男性は、ゴンちゃん。
 秋葉原自警団のメンバーでアイドルオタクである。

ナナシ「スクール水着はあり得ないな」

 俺がきっぱり断言する。

ノブ「お前らにはロマンの欠片もないのか!?
妹=スクール水着! これは世界の絶対的な法則だろう!?」

 ――さて。
 俺たちが、今いったいなんの話をしているかというと……。

 女性陣より先に、水着に着替え終わった俺とノブ君とゴンちゃんの3人は
川原で瑠衣たちを待っている間に、ある賭け事をした。

 賭けの対象は、俺の妹。
 お題は……、妹が着てくる水着。
それが『スクール水着』か『否』か。

 俺とゴンちゃんは
妹の年齢を加味し「それは無い」に賭けた。
 一方ノブ君は「妹=スク水」という主張を譲らない。

 ……ちなみに負けた方は
秋葉原で、何か奢るということになっている。

 まぁ、俺の勝ちは揺るがないだろう。
 さぁ……、何を奢ってもらおうか。

妹「ちょっと。なに変なこと考えてんの?」

 妹の、少しドスをきかせた低い声が男性陣3人を貫く。
 振り向いた先には妹と鈴。
2人ともフリルのついた可愛らしい水着を身につけている。

ノブ君「ス……スク水じゃないーー!!!」

 妹を見たノブ君が開口一番に叫ぶ。

妹「うわっ! キモッ!!」

 妹の口からは正直な感想がもれる。
 ……うむ。そこは激しく同意だ。

鈴「女の子の水着を見た反応の第一声がそれって
……どうなんですか?」

 隣にいる鈴は、呆れて溜息混じりに吐露する。

「まぁ、男とはそういう生き物ですから」

 遅れてやってきたのが、カフェ「エディンバラ」のメイド長であるサラさん。
 先の二人とは違い
水着ではなく、いつもメイド服を着ていた。

ナナシ「……なぜにメイド服?」

サラ「メイドが、メイド服以外を着て
どうしてメイドと名乗ることができるのでしょうか?」

 さも当然のように答えられた。

 いや、うん。
分かるけど……。
 サラさんの水着も楽しみにしていただけに
少しだけ残念な気持ちになる。

 ところで……。
 さっきからサラさんの後ろで
子猫みたくコソコソと隠れてる子が一人……。

 どう考えても瑠衣です。本当にありがとうございました。

ナナシ「おーい。なに隠れてんだー?」

瑠衣「ヒャゥッ!?」

 氷を体に当てられたような反応をする瑠衣。

サラ「……ほら、いつまでも隠れてないで。
せっかくの可愛らしい水着が泣いてしまいますよ?」

瑠衣「うぅ……」

 サラさんに促され、恐る恐るその背後から姿を見せた。

ナナシ「……っ!?」

瑠衣「えっと……。
に……似合う、かな?」

 ……まるで金縛りに合ったように声が出なかった。

 上は、まるで雪のように白いビキニ。
 下は、一部にピンクの淡い一輪の花が描かれた
白い水着のスカート。

 清潔・清楚を感じさせる水着に加え
普段は長袖の上着に阻まれていて見ることのできない
彼女の細長い四肢や
モデル顔負けの、整った身体のラインが、
より一層、彼女の魅力を引き立てている。

 そして、なにより……。
 実は……付き合い始めて今日まで
見たことがなかった瑠衣の胸がっ……!
 純白の水着にも負けないほど白く
よくできた風船のように丸みを帯びたおっぱいが目の前に……!

ナナシ「か……」

瑠衣「……か?」

ナナシ「鑑賞モーーーード!!!!」

瑠衣「なっ、なにそれっ!?」

 説明しよう!
 鑑賞モードとは……、
新しい服装にチャレンジした女の子を
目で見て、じっくり観察することができるモードである!

 オプションとして……
カメラの方向や角度を変えたり
女の子にポーズをとってもらうこともできる。

 さて……。選択肢はとりあえず

 1:応援
 2:猫ちゃん
 3:セクシーポーズ

 が、あるわけだが……。

ナナシ「瑠衣!!」

瑠衣「う、うん!?」

ナナシ「3のセクシーポーズだ!」

瑠衣「えぇっ!?」

 2も捨て難かったが……
ここは、やはり3だろう。

瑠衣「え……えっと……」

 瑠衣は顔をリンゴのように真っ赤に染めて
「うぅ~」と、しばらく唸っている。

 ……しばらくして、意を決したのか
右手で、右耳あたりの髪を軽くかきあげ
左手を膝まで伸ばす。
 そのまま左手の手のひらで膝頭を押さえ
水着グラビアでよく見かける前かがみの姿勢になった。

瑠衣「こっ……。こう、かな?」

ナナシ「……ゴフッ!」

 鼻血が吹き出すかと思ったが、気合で耐える。
 

 瑠衣が世間知らずだからなのか……、
はたまた少し天然だからなのか分からないが
肩から腰にかけてのラインと、
地面がほぼ水平になるほど
加減をせずに思いっきり前かがみになったものだから……。

 そのー……。
 
 胸が……。

 屈んだことで、より一層くっきりと浮き出ている色っぽい鎖骨。
 その下にある、先ほどは丸かった2つの白い北半球は
重力にひかれて逆三角形に。
 そして…・・・並んでいる2つの逆三角形の間
いわゆる谷間の部分には
指が1~2本ほど横に入れられそうな隙間ができている。

 瑠衣の胸の形が、はっきりと分かるセクシーポーズに
俺も前かがみにならざるを得ない。

 ……ヤバイ。その谷間に突っ込みたい。
 ……えっ? ナニをって?
 指だよ、言わせんな恥ずかしい。

鈴「こ、こらぁーーー!!!」

 人が気持ちよく視姦しているのを邪魔するように
鈴が怒声をあげながら割って入る。

鈴「瑠衣ちゃんになんて恥ずかしいポーズをさせているんですか!!」

ナナシ「いいじゃないか。別に減るものじゃないし」

鈴「減るものじゃない、って……。ハア……」

 鈴の中で、俺の好感度がギュイーンと下がっている音が聞こえる。
 ……まぁ、パラメーター自体は
とっくの昔にマイナスの域まで達していると思うが……。

鈴「ナナシさんがこんなに変態だと始めから分かっていたら
瑠衣ちゃんと付き合うなんて、絶対認めなかったのに」

ナナシ「うるさい! 男はみんな変態なんだよ!」

 鈴を押しのけて叫ぶ。

ナナシ「さあ瑠衣! 次は猫のポーズだ! 
って……あれ?」

 さっきまで瑠衣がいたはずの場所に
どういうわけか、サラさんが立っていた。

サラ「瑠衣さんなら、あちらに」

 サラさんは、スッと川の水辺を指差す。
 指の先に視線を向けると
妹と瑠衣がパシャパシャと水遊びをしているのが見えた。
 それはもう、思わずキャッキャウフフという効果音が
脳内で再生されるほど仲良さげに……。

ナナシ「あれー?」

鈴「捨てられましたね」

 鈴は、唇に指をあてて
「ざまぁみろ」とでも言うようにクスクスとほくそ笑む。

鈴「変態のナナシさんは、そこでずっとへこたれていればいいんです」

 そう捨て台詞を残して
水辺で遊んでいる二人の下に早足で駈けていった。

ナナシ「…………猫のポーズ」

 ……見たかったな。
 ガックリと肩を落とす。

 おのれ……。
 なんとかしてあの邪魔者を亡き者にできないだろうか。
 ああ、死のノート的なものが欲しい。

ゴンちゃん「ま…、まあ。き、気を落とさないで」

ナナシ「……ゴンちゃん」

ゴンちゃん「ほら、さ……
さっきの……瑠衣、ちゃんのポーズ……
このカメラで撮っておいたから」

ナナシ「……マジでっ!?」

 「ヒャッホーーー!!!」と、両手を天に突き立て
喜びの歓声を上げる。

 ゴンちゃんマジ神様。

 さっきから、隅っこの方で、ずっとうずくまって
「スク水……」などと
ブツブツ独り言をほざいてるもう1人の友とは
比べようがないほど頼りになるぜ!

ナナシ「これでしばらくおかずには困らないだろう。
……グフフ」

サラ「……さすがの私でも
今の……ナナシさんの笑った顔には寒気がします」

 サラさんにゴミを見るような感じで
蔑まれているような気がするが……、

 なんとでも言うがいい……。

ナナシ「男は……みんな変態なんだよ」

とりあえず本日はここまでです。
続きは、現在書いてますのでまた後日に(っ´ω`c)

パレオって言うんだぜ
下の水着の上にかぶせるの

名前忘れたけど、ツインテ姉妹は出て来ますか?

>>85
なるほど、ありがとうございます(っ´ω`c)

>>88
このSSでは尺の都ごu……主都合で出ません(´・ω・`)モウシワケナイ

乙です
名前忘れたけど、あの姉妹は出ないかな?
あと警察(?)の女性も

 ――小一時間ほど経っただろうか。
 俺は少し疲れていたので、みんなから少し離れた岩場の上で休憩を取っていた。

 この川で遊び始めてたったの六十分。
 だけど浪人してだらだらと過ごしていたあの日々より
今の――この六十分の方がはるかに充実したものであるような気がする。
 みんなで水の掛け合いをしたり、泳いだり。
 個々に関していえばーー。

 妹とノブ君は、この短い間になぜか仲良くなっていた。
 なんでも……妹曰く「ノブ君の実家がお金持ち」らしい。
 おまえさっきまで、ノブ君に対して「キモッ」って言ってなかったか?

 体系的に運動音痴に見えるゴンちゃんは、意外なことに泳ぐのがとてもうまかった。
 そのレベルたるや……カゲヤシの妖主であるが故、
オリンピック選手をも凌駕するほどの身体能力を持つ瑠衣に
「泳ぎ、教えてほしいな」と、上目遣いでお願いされるほどである。
 ……クソッ! うらやましい!!
 瑠衣の上目遣いの破壊力は、俺が一番よく知っていると自負しているので、
拳がギリギリと握り締めるほどゴンちゃんに嫉妬した。

 ヤタベさんとマスターは、俺たちが川に来てちょうど三十分ほど経ったぐらいに合流した。
 二人は泳ぐわけではなく……
なにやら川原の方でキャンプセットらしきものをセッティングしている。
 サラさんはそんな二人を手伝ったり、合い間にコーヒーを淹れたりしている。

 鈴は……特に特記事項なし。
 まぁ、俺は最近コイツに殴られたり蹴られたりとひどい扱いを受けているからな。
 せめて文面で仕返ししてやる。
 もはやケンカでは勝ち目の無い一般人なった俺のささやかな対抗である。

 ――と、ここまで思い返した所でマイハニーこと瑠衣の姿が見えないことに気付く。
 
 秋葉原を二人で歩いているときは、
瑠衣が店のウィンドウに惹かれフラフラと一人でどこかへ行ったり、
勧誘に引っかかったりしてはぐれたりということはよくあったが……。
 ここは山の中だしなぁ……。
 なんだ? 熊にでも勧誘されたのか? 

などと本人が聞いたらプイッとへそを曲げそうなほど失礼な事を考えていると、
突然目の前が真っ暗になった。
 某ポ○ットモンスターみたく全滅したわけではなく、
すこし水に濡れてヒヤッっとした細長いものが視界をさえぎっている。
 どうやら誰かの指で目を覆られているらしい。

「だぁれだ?」

 耳元に吐息がかかり興奮を覚えるほどの距離から可愛らしい声がする。
 これは、定番シチュレーションキターーーー! ですよ!

ナナシ「……もし正解したらなんかしてくれる?」

「えっ?」

 背後からきょとんとした声がする。

「うーん、そうだね。後ろからギュってしてあげようかな」

ナナシ「マジで!?」

「うん。……あっ。正解したら、だよ?」

ナナシ「ふむ」

 俺は少し考える振りをして、

ナナシ「うまく声色を似せてはいるが。
それでは俺は騙せんぞ! わが妹よ!」

「えっ!?」

ナナシ「いや。妹にしては当たっている指の感触が細長すぎる。
サラさんだな!」

「え、と」

ナナシ「まてよ。サラさんのあの独特の威圧感が感じられないな。
さては鈴だな!」

「……むぅ」

 恐らく口をへの字にしているであろう不満げな声が聞こえる。
 ああ、許してくれ。
今うしろからギュってされると、しばらくの間前かがみで過ごさなきゃならん。
 というか、襲わない自信がない。
 その結果、返り討ちに遭い人生が終了する未来が見える。

ナナシ「わるいわるい。ちゃんと分かってるって、瑠衣。」

 ちゃんと答えると、目を覆っていた指が離れて視界がパッと明るくなった。

瑠衣「……いぢわる」

 …………はい! 死んだよ! 今、俺死んだよー!!
 たったの四文字でしばらく前かがみで過ごすことが確定しました。
 【悲報】俺氏、水着なのに前かがみで過ごすこと確定。というスレを立てる勢い。
 しかも“いじわる”じゃなくて“いぢわる”なあたりコイツ分かってる。

瑠衣「いじわるなナナシにはギュッとしてあげないよ」

ナナシ「それは残念だなー」

 中にあんこが詰まった顔だけの、
なにかと実況動画で引っ張りダコのキャラもびっくりの棒読みで答える。
 まぁ、ぎゅっとされたら困るのは事実だから。……実際無駄だったけど。

瑠衣「……隣、いい?」

ナナシ「ああ」

 わざわざ断りいれなくても俺の隣は瑠衣の指定席だからね?
ナナシ球団初の永久欠番だからね?

 瑠衣は「んしょ」と、可愛らしい声を上げて横にスッと腰掛けた。

 友人程度の関係なら二人の体の距離は半身、もしくは体一つ分ほど離れるものである。
 しかし、俺と彼女の腕と腕は水の表面張力でさえも感じるほどに、
まるで磁石を思わせるぐらいピッタリとくっついている。
 ……フフフ。これが恋人の特権というものである。

 隣に座っている愛しい子のことをチラッと見る。
 身長差の関係でほんの少し斜め上から見下ろす感じになっている。
 ……この角度から見える胸は、俺の下半身にとって非常に優しくない。
 色白い肌の胸の表面は、水を吸わずに弾くことによって水玉ができているほど若々しい。
 そして見下ろしていることによってその谷間からは、
まるで神にでも授けられたかのような美しい造形の正三角の胸がはっきりと見える。

 ――思わず「じゅるり」と、よだれが垂れる。

ナナシ「なぁ、襲っていいか?」

瑠衣「えぇっ!?」

 一瞬、虚を衝かれたように驚く瑠衣だったけど、
やがて顔を伏してモジモジしながら

瑠衣「そういうことは……人のいないところで……が、いいな」

 ……いいのかよ!? 言った本人である俺が一番びっくりだよ!
 思わず心の中で「ヨッシャ!」ってガッツポーズしちゃったよ!!

ナナシ「いや、冗談だからね?」

瑠衣「……キミが言うと冗談に聞こえない」

ナナシ「デスヨネー」

 ちょっとだけ「怒ってるよ?」オーラが瑠衣から出ている。
 あれ? このオーラはどこに係ってるんだろう?

 「襲っていいか」に対して怒ってるんだろうか。
それとも「冗談だよ」に対して怒っているのだろうか。
 ……後者だと凄く嬉しいんだが。多分前者だろうなー。

 ――変態トークのせいでプツンと会話が途切れる。すこし気まずい。
 これはやっちゃったな。

 ……なにか話さなきゃって焦っていると、

瑠衣「ねぇ」

 ――先に沈黙をやぶったのは瑠衣だった。

瑠衣「どうしてキミは、私のこと……好きになってくれたの?」

ナナシ「へ?」

 予想してなかった質問に思わず間抜けな声が出る。

ナナシ「怜さんと対決する前に言わなかったっけ? 一目惚れだって」

瑠衣「うん」

 瑠衣は力なくうなずく。

瑠衣「確かに聞いた、一目惚れだって。
母さんの言った『それはカゲヤシの習性だ』ってことを否定してくれた。
……涙が出るくらいすごく、すごく嬉しかったよ……。だけど……」

 彼女は少しだけ寂しそうな表情を浮かべ、雲ひとつない澄んだ青い空を見上げた。

瑠衣「よく考えると、それっておかしいんだよ」

ナナシ「なにがおかしいだ?」

瑠衣「だって……あの路地裏で初めて会ったあの日――」

 彼女は、見上げていた空から視線を外して俺のほうを向いた。
 そして――俺の目を見据えてはっきりとこう続けた。

瑠衣「あの時キミは――意識がなかったんだよ?」

 
 
 
 
 
 
 
 

演出の為のスペースを入れ忘れるという致命ミス(´・ω・`)ヤッチマッタ


今日はここまでです(っ´ω`c)
さすがに夏季は忙しい、だれか時間をください(切実

>>90
NIROのメガネの女性かな~?

このSSに出てくる人物は自警団の人とカゲヤシの3人です(っ´ω`c)
出てるといっても、瑠衣とナナシがメインなので
それ以外の人はほぼ背景ですが(ぁ



ナナシ「……そうだっけ?」

瑠衣「うん。私が駆けつけたとき、もう死んでるかと思った」

あの日、あの路地裏の事を思い出す。
俺はあの時、瑠衣の兄である優の蹴撃を食らって気を失いかけていた。
カゲヤシの一蹴りの破壊力は岩をも砕く可能性がある。それは、俺自身がカゲヤシになることで身をもって体感している。
そんな一撃を食らったのだ。むしろ生きていた方が不思議だ。

瑠衣「あんな状態だったのに……よく私の顔を覚えてたな、って

瑠衣「もしかしたらそれは……。
ナナシの体が回復した後に、キミに混じった私の血が本能で思い出させたのかな……。
もしその血がなかったら、キミは私の事、覚えてなかったかもしれないって」



瑠衣「そう考えると、不安で……。
キミの隣にいるのが、私で……本当にいいのかな、って」



 ――やれやれ。そう嘆声を漏らす。
 本当に……困ったお姫様だな。

ナナシ「瑠衣」

 「えっ?」と、瑠衣が返事をすると同時に軽く握った拳をお姫様の頭に振り下ろした。

 ゴツンッ! と、鈍い音が響く。 

瑠衣「痛いっ!?」

ナナシ「そんな変なことを言うお姫様にはゲンコツだ」

瑠衣「へ……変なことって」

 少し涙目になりながら、両手でゲンコツをされた場所を押さえている瑠衣を見据える。

ナナシ「確かにあの時、俺の意識はほとんど無かった。
というか多分、目を閉じたらもう目覚めることは出来なかったと思う」


 ――だけど。


ナナシ「目を閉じる瞬間――瑠衣、お前が現れたんだ」

 ――朦朧としていたにもかかわらずその瞬間のことは今でもはっきり覚えている。




 だって――。




ナナシ「信じられるか?
リアルはもちろん……ゲームやアニメ、
漫画の世界でも見たこともない程の美少女が目の前に立ってたんだぜ?」

瑠衣「あぅ……」

 瑠衣の頬がゆっくりと、少しずつ紅色に染まっていく。
 だが俺はそんなことお構い無しに続ける。

ナナシ「そんな子の前で無様な姿は見せられない。
だから、もう一回抵抗しようと立ち上がったんだ」

 結果は、追撃を食らって死に掛けたけどな。

ナナシ「それにーー。
今は、瑠衣の血も混じってない。完全にただの人間だ。
妖主の血とかカゲヤシの本能とか関係ないーー」


ナナシ「――俺は瑠衣を、世界一愛しているよ」

 ――――くさい。
 世界一臭いとされるドリアンもびっくりのくさいセリフだ。
 ……だけど、これでいい。
 瑠衣には変化球は効果が無い。
 変に勘違いして、また凹んだりするのが落ちだ。
 だから全力の直球をド真ん中にぶち込んでやった。

瑠衣「キッ……キミはっ」

 プイッとそっぽを向かれる。
 ……それで隠しているつもりだろうか? こちらから見える耳元は夕日のように真っ赤である。
 ついでに、瑠衣の体に付着している川の水が蒸発して湯気が出ている。
 ……ような気がする。

瑠衣「キミはどうしてーー。
そんなセリフを恥ずかしげもなく言えるかな?」

 いや、俺だって恥ずかしいですよ。
 けど目の前に、もっと照れてる生き物がいるから逆に冷静なんですよ。
 ほら、あれだ。テンパってる人を見るとなぜか自分は冷静になれるだろ? 
 あんな感じ。

ナナシ「俺は自分の欲望に正直だからな。
今だって、瑠衣のこと抱きたいし」

瑠衣「…………。
――はぁ」

 あれ? 溜息?

瑠衣「正直なことはいいことだけど、少しは自重したほうがいいと思う」

 ……おー、凄い凄い。
 さっきまで真っ赤だった瑠衣の顔が見る見るうちに元の色白の肌にもどっていく。
 どうやら投じた2球目は大暴投したようだ。これは危険球退場もありえるな。

瑠衣「でも、キミのそういう所も……好き、かな」

 …………。

 ――カキーン!!!!

 ……やられた。
 まさか暴投した球を打ち返した挙句スタンドまでもっていくとは。

瑠衣「ナナシ……」

瑠衣「――ありがとう」

 ――純真無垢。その言葉以外思い浮かばないほどの笑顔で感謝の言葉を言われる。

「……別に」

 逆に今度はこちらの方が恥ずかしくなり思わず顔をそらす。

 ……少しの間、二人の間に沈黙が続く。
 先ほどの様な失言による気まずい沈黙ではなく、お互い気恥ずかしくて何も言えない。
 そんな感覚。


 ――チラッと、瑠衣の様子を横目に伺う。
 彼女は僅かに笑みを浮かべて川を見つめていた。
 その横顔が可愛くて思わず、キスをしたい! そう思った。

 うん。頭の中の天使と悪魔もGOサインを出しているしこの雰囲気ならいけるよね!
 『男は度胸。なんでも試してみるもんさ』という伝説の名言もあるし……。
 俺は意を決して瑠衣の唇に少しずつ自分の唇を近づける。






瑠衣「……あっ! そうだ!」

ナナシ「うおあ!?」

 ……危うく心臓が止まるところだった。
 頼むから急に叫ばないでくれ。

瑠衣「あれ? どうかした?」

ナナシ「いっ、いや……。なんでもないよ」

 キスしようとしてました~。なんて言えるわけないだろう。

ナナシ「それより、どうした? 急に」

瑠衣「そうそう! 今日の為に準備してたものがあったんだ」

 すっと立ち上がり「ちょっと待っててね」と言った後、少し離れたヤタベさんとマスターの下へ小走りで向かっていった。

 どうやら三人で話をしているようだが、距離があるため何を話しているのか分からない。
 「今日の為に? いったいなんだ?」など考えていたら、

瑠衣「ナナシーー!」

 と、瑠衣の呼ぶ声が聞こえたので俺も3人の下に向かう。








――瑠衣「じゃーん!」

どう? という感じで彼女が俺に見せつけてきたのは、
キャリーバッグほどの小さめのクーラーボックス。
それから……。






ナナシ「――木刀?」





 水着姿の少女が持つには不釣合いなものである。
 なに? その木刀で何するの?
 ……もしかして「これがいいんでしょ!?」なんて罵りながら殴ってくれるのか?
 うむ。望むところだ。

 ――まぁそんなことはないだろう。
 だけど、こんな山の中で木刀を使うことといったら……。

ナナシ「クマ退治にでも行くのか?」

瑠衣「え? ち、違うよ!」

 クーラーボックスの蓋を開けて中身を取り出す。
 緑色と黒色でしま模様が形成されたサッカーボール大の丸い球体。





 ……スイカだ。







瑠衣「スイカ割りしようよ!」

……あっけに取られたと同時に「なぜに?」という疑問が浮かぶ。

瑠衣「ほら、私って海にいけないから」

 俺の疑問を察したのか、瑠衣が答える。

瑠衣「だから海で出来ることしたいな、って」

ナナシ「あー。なるほど」

 確かに、ビーチボールとかは岩場が多くて出来そうにないな。
 砂遊びも出来ないし、海の家や屋台なんてものもないし。
 川で出来る海っぽいことといえばスイカ割りぐらいかな。

ナナシ「それじゃ、みんなを集めてこないとな」

瑠衣「うん! 私、みんなを呼んでくるよ!」

 川で遊んでいるみんなの方に向かって、子供のようにはしゃぎながらパタパタと駆けていく。
 そんな瑠衣のうしろ姿を見て、俺もつられて嬉しくなり思わず口元が緩んだ――。

 ――――「右だよ! 右!」「もっと前だってバカ兄!」
 周りから目標物までの距離や方向を指示する声がギャーギャーと聞こえる。 
 ……くそ、好き勝手言いやがって。

 スイカ割りのトップバッターは、不本意ながらジャンケンで負けた俺が務めることになった。
 タオルで目隠しされ何も見えないうえに、開始前に木刀を中心に十回転ほどしたため、現在絶賛クラクラ中だ。
 だから周りからの声を頼りに目標物であるスイカまで辿り着かなければならないんだが……。

「ひ……左に行き過ぎたよ。も、もう少し右に」
「右じゃねぇ! もっと左だ、左!」
「そこです。思いっきり振り下ろしてください」
「真っ直ぐ! そしてそのまま川に落ちて溺れてください!」

 ……こいつら、言っていることがバラバラなんだが。
 というか本当のことを言ってる奴がいるのかさえ疑わしくなってくる。

瑠衣「んー、ちょっと行き過ぎたよ。もうちょっと右!」

 どうやら頼りになるのはマイハニーこと瑠衣だけのようだ。
 俺は彼女の声だけを頼りにゆっくりと足を進める。

瑠衣「もうちょっと右、そのまま真っ直ぐ!」

 OK、わかった。真っ直ぐだな。

瑠衣「もうちょっと、もうちょっと……。着いた! そこだよ!」

 よし! 見てろよ、瑠衣!
 カッコよくスイカを真っ二つにしてやる!

 俺は木刀を空に対して真っ直ぐ振り上げ「オラーーッ!」と、気合を入れた掛け声と共に手加減抜きで振り下ろした。









ガキィーーーーーーン!!





……腕が痺れる。
まるで雷の直撃を食らったかのような電流が腕を走る。
やがてその電流は二の腕を伝って全身へと行きわたった。
遅れて、俺の脳が痛みを認識する。

ナナシ「いっ……! 痛ってーーーーーーー!!!!」

 バサッと目を覆っていたタオルを取って投げ捨てる。
 なんだ!? 何が起きた!?
 混乱している俺の視界に写ったのは、スイカとは似ても似つかない……、直径が一メートル強はあろうかという、見るからに硬そうな岩だった。

ナナシ「い……岩?」

 どういうこと?
 わけが分からないまま瑠衣の方に顔を向けると、

瑠衣「エヘヘ♪ だまされてんのー」

 …………ああ。そうか。その天使のような悪魔の笑顔で全てを理解した。
 そういえばコイツ、たまにこういう子供っぽいイタズラをするんだったな。
 そう思い出し後悔するも、とき既に遅し。俺の神経は、岩を思いっきり殴ったことによる痛覚に支配されていた。

 くそっ。覚えてろよ。




 ――ちなみにスイカは、俺の後に挑戦したサラさんにあっけなく割られた。
 たった一振りで、なぜか参加者の人数どおりの九等分にパカッと。
 しかもその切り口はまるで鋭利な包丁を使ったかのように美しかった。

 え? なにそれ、手品?
 それともメイドたるものこれ程度出来ないと務まらないということなのだろうか。
 うーむ。メイド恐るべし。





ナナシ「……ところで瑠衣。そのスイカどうすんの?」

瑠衣「えっと」

 瑠衣はヤタベさんとマスターのほうを伺って、

瑠衣「もうすぐお昼ご飯だから、その後に食べようかな、って」

ナナシ「まぁ、食前に食べるよりは食後だよな」

瑠衣「だよね。
……でも、もう少し準備が終わるまで時間かかりそうだね」

 「それまで何をしようか?」と瑠衣は目で問いかける。

ナナシ「そうだな~」

 「う~ん」二人と唸っているとノブ君が俺の肩をポンポンと叩いてきた。

ノブ「そういえば、さっき遊んでるときに小さな滝を見つけたんだ」

ナナシ「滝? それがどうかしたのか?」

ノブ「ああ」

 ノブ君は瑠衣のほうを向いてニヤっとした。

ノブ君「瑠衣ちゃん知ってる?
海には小さな崖から飛び込むっていう遊びがあるんだぜ?」






 ――――「ヒョッホーー!!」
 威勢のよい掛け声の後、ドボーーーン! と、大きく水のはねる音が響く。

 言いだしっぺのノブ君がまず先に滝から飛び込んだのだ。

ナナシ「なるほどねー」

 俺は滝の周りをキョロキョロと見回して頷いた。
 この滝は、先ほどスイカ割りをした場所からさほど離れてなく、高さは四メートルとさほど高くない。
 くわえて、滝つぼは程よい深さで、水の流れもそこまで速くない。

 遊ぶにはちょうどいい場所だな。

 ノブ君の後に続いて妹が。さらにその後、鈴とゴンちゃんが先の二人に煽られ飛び込んでいく。
 上に残ったのは俺と瑠衣の二人だけ。

瑠衣「う~ん」

 瑠衣は滝口から一メートルほど離れて滝つぼを恐る恐る見下ろしている。

ナナシ「なんだ? 瑠衣。高い所怖いのか?」

瑠衣「そっ、そんなんじゃないよ!
飛び降りるのが、怖いだけで……」

 強がりながら滝口に向かって一歩踏み出すがすぐもとの位置に戻ってしまった。

 なるほどね、高い所が苦手なわけね。

 ――これは、さっきの仕返しをするチャンスだ。
 俺の脳内に悪魔がささやく。
 そうだ。後ろから、落ちない程度に肩をトンって押してやろう。

 気付かれないように背後からそ~っと瑠衣に近づく。

 ――ズルッ!

 ナナシ「うわっ!」

 瑠衣「えっ!?」





――――バシャーン!!









ナナシ「……いてて」

 バシャっと体を起こし、その場に座り込む。
 ……どうやら水底の石に足を滑らせ瑠衣を巻き込み倒れてしまったらしい。
 滝口から離れてたから滝つぼに落ちなかったのが幸いだな。

 ……やれやれ。


ナナシ「瑠衣、大丈……」

 倒れてる瑠衣を起こそうと右手をさし伸ばしたとき、俺の右手が白い布を握っていることに気付いた。

 その白い布に俺は覚えがある。
 それは、たったの今まで瑠衣が胸元に身につけていた白い水着だ

 なんで!? まさか、さっき倒れこむ時にとっさに掴んでしまったのか!?

瑠衣「う、う~ん」

 瑠衣がゆっくりと体を起こす。

瑠衣「……あー、びっくりした。キミは大丈夫? 怪我はない?」

 心配そうにこちらを向く瑠衣。

ナナシ「……あっ」

瑠衣「?」

 状況を飲み込んでない瑠衣は、胸を隠すことなく俺の眼前に晒している。
 例えるならイチゴのショートケーキ。生クリームのように白い乳房。
 そしてその先には、ケーキの上にあるイチゴのように鮮やかな色をした、確かな存在感を示す小さな突起物が――。




 ――ほんの数秒だった。
 出来ればこのまま時間が止まればいいと願ったが、そうもいかず……。

 違和感に気付いた瑠衣は、ボンッ! と、一瞬で顔を真っ赤にし、片腕で胸を覆い隠した。

瑠衣「きゃあぁぁあああ!!!」

 叫び声にも聞こえる悲鳴を上げると同時に、残ったもう片方の腕を思いっきり振り上げた。

ナナシ「ち……ちが、これは事故」








 バシーーーーン!!!!!





 ――いいわけの甲斐なく、俺は頬に強力なビンタを食らった。

 ……カゲヤシの蹴りは岩をも砕く。
 それは足だけでなく、素手での攻撃も例外じゃない……
 瑠衣の本気の一撃を、避けることなくもろに受けた俺の体は、
綺麗なスクリュー回転を描きながら吹き飛ばされ、水辺に叩きつけられた――。







――――。

――

ナナシ「……ん」

 ゆっくりとまぶたを開ける。
 視界が次第にクリアになってゆく。

 ……まず目に入ったのは瞳に涙をたくさん浮かべた瑠衣だった。


瑠衣「ナナシ!!」

 俺の名前を叫ぶと同時にガバっと瑠衣が俺の体に抱きついてくる。
 思いっきりギュッってされたから、瑠衣の胸が俺の体に押し付けられる。
 ……やばい。死ぬほど柔らかい。……じゃなくて!!

ナナシ「おいおい、どうしたんだよ」

瑠衣「だって……だって……!!」

 瑠衣はグスッグスッと嗚咽しながら

瑠衣「ずっと起きなかったんだよ!!」

ナナシ「ずっと……って?」

 そこまで言って思い出す。
 ああ、そうだ。俺は確か瑠衣にビンタされてそのまま気を失ったんだったな。

ナナシ「俺は、どのぐらい気絶してたんだ?」

瑠衣「五分ぐらい……」

ナナシ「なんだ、五分か……」

 てっきり半日は寝てたよって言われるのかと思った。
 

瑠衣「ゴメンなさい! ゴメンなさい!」

 俺の体を抱き泣きながら謝る彼女の頭を優しく撫でた。

ナナシ「気にするな。あれは俺が百パーセント悪かったし」

瑠衣「……でも!」

ナナシ「代わりに素晴らしいものを見せてもらったんだ。
当然の対価だよ」

 あのシーンを思い出しておもわず「グヘヘー」と、時代劇に出てくる悪大官のようないやらしい笑い声を上げてしまう。

瑠衣「……!!」

瑠衣は、ハッとして両腕を胸の前でクロスさせて「うぅ」と唸りながら縮こまった。

ノブ「まぁ秋葉原の救世主がこんな山の中で死ぬわけないよな」

 瑠衣の背後からノブ君の声がした。

 ふと、瑠衣の後ろを見ると自警団のみんな、妹、鈴とマスターの姿が見える。
 全員とも俺の意識がもどったことでホッとしているようだ。

ナナシ「すいません、心配をかけてしまって」

 俺は、もう大丈夫と言わんばかりに立ち上がって
肩を回したり、ぴょんぴょん跳ねたりして無事をアピールする。

ヤタベ「よかった。本当に心配したんだよ」

ヤタベさんが俺のほうを向いてにっこりと微笑む。

ヤタベ「さぁ、気を取り直して。
――昼ごはんにしようじゃないか」

 








――――ジュー。ジュー。

静かな川原に、肉の焼ける音と、食欲を掻き立てる匂いが充満する。
マスターが曰く「近くにある牧場直送の極上の肉」らしい。
さっき買い出しに行く、といってたのはコレのことか。

しかも炭を使った本格的な焼肉。
じゅるりと口元からよだれがこぼれたのは俺だけじゃないはず。

 チョンチョン、と肩をつつかれる。
 「ん?」と隣を向くと瑠衣が箸をこちらに向けて

瑠衣「はい、あ~ん♪」

 ――健全な男子なら一撃で落とせそうな笑顔で、あ~んをしてくる。
 まさに夢の様なシチュレーションだが……一つ問題がある。





 それは瑠衣の箸の先にあるのが肉でも野菜でもないことだ。

 正確に言えば……。

 肉“だった”物体。
 その肉の焼き具合はウェルダンを遥かに超えている。
 下にある肉を焼いている炭と大差ない。というか炭である。
 これは瑠衣がわざとやっているわけではなく……。
 本気だ。大マジだ。

 彼女は、下手をすれば卵かけご飯が作れないほどの料理オンチなのだ。

 瑠衣の顔を伺う。
 相変わらず天使の様な笑顔である。
 くそ……。そんな顔されると拒めるわけないだろうが!

 俺は覚悟を決めて、その炭をパクッと口に運ぶ

ナナシ「……うっ!!」

 バタッ――。

瑠衣「えっ!? 嘘っ!? ナナシ!?」

 瑠衣の叫び声を耳に、俺は再び気を失った。

 ――さっきは見えなかった三途の川が見えた。
 そんな気がした。







                   ~Fin~

とりあえず以上です。
ここまでお付き合い頂きありがとうございました(っ´ω`c)

なぜか書きはじめと同時に多忙になり、投稿が隔週になってしまって本当に申し訳ないです(´;ω;`)

もし今後時間が取れたら、続きのお泊り編や
話題に上がった双子も交えた日常もかければいいな、と。

※ただし確率は3%以下(ぁ

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