俺「コーヒー」 スタバ店員「え?」 俺「え?」 (9)

脱スタバ? 勃興する“第3のコーヒー”

「マイクロ・ブリュー・コーヒー」という言葉をご存じだろうか。
これは、1カップずつ丁寧に入れられた香り高いコーヒーのこと。「マイクロ・ロースター」や「コーヒーの第3の波」という別の呼び名もある。
そんなコーヒーを出すカフェが今、アメリカで広まっている。

このマイクロ・ブリュー・コーヒーは、サンフランシスコやシアトル、ポートランドといったアメリカの西海岸から始まって、ニューヨークへと広まり、大きな流行となっている。
いや、流行というよりは、もっと精神的な意味も込めてムーブメントになっていると言ってもいいだろう。
そのマイクロ・ブリュー・コーヒーの先駆けとなったのが、ジェームス・フリーマンが設立したブルー・ボトル・コーヒーである。

■お粗末な「アメリカン」、スタバを経て
ブルー・ボトル・コーヒーが生まれたのは2001年のこと。サンフランシスコの対岸の町、オークランドの小屋の中だ。
その小屋の中でコーヒー豆を焙煎し、その豆とドリップコーヒー機器を車に積んで、地元のファーマーズ・マーケットに運び、そこで小さなカートを店に仕立ててコーヒーを出していた。
そのうち、サンフランシスコのフェリープラザという地元のグルメフードが集まるマーケットにキオスク風の小さな店を出すことになり、それが味にうるさいサンフランシスコの地元住民や観光客から注目を集めるようになった。
そして10年たった今、ブルー・ボトル・コーヒーは、サンフランシスコ市内とニューヨークに10以上の店舗を構えるまでに成長したのである。

このマイクロ・ブリュー・コーヒーが第3の波と言われる理由は、アメリカのコーヒー文化がもともとお粗末なものだったからにほかならない。
「アメリカン」と呼ばれるように、アメリカで広く飲まれていたのは、薄くて、今ひとつコクが感じられないコーヒーのこと。
それがここ十数年の間に、スターバックスの影響で大きく変化した。
濃度も風味もしっかりしていて、また豆の産地によって違った風味が味わえるというコーヒーが、スターバックスやそれに類した新しいカフェ・チェーンのおかげで定着したのだ。

だが、その新鮮さも長続きはしなかった。爆発的に広まったスターバックスは、そのうちマニュアル化された店作りや、いつも同じ香りのコーヒーが鼻につくようになった。
それでは、まるであのファストフードチェーンと同じ。
コーヒーを飲むという時間を、もっとスペシャルなものとして感じたい人々は、ちょうどその頃、芽生え始めたマイクロ・ブリュー・コーヒーに強く引き寄せられたのだ。(続)
http://news.nicovideo.jp/watch/nw759526

■まるで、旧きよき時代の日本の喫茶店
マイクロ・ブリュー・コーヒーの特徴はいくつかある。
まず、コーヒー豆を厳選すること。最近では、南米やアジアのコーヒー産地まで足を運び、心を込めてコーヒーを育てているコーヒー農場を探し当て、その人々と協力しながらいい豆を育てる。
焙煎には心を砕き、それぞれの豆に合った焙煎方法を編み出す。
そして、焙煎後、豆を寝かせておいたりはしない。最長でも3日間。したがって、店頭での売れ行きを見ながら、少量ずつ豆を炒るのだ。
また、豆を挽いてからコーヒー粉をそのままにしておいたりもしない。ブルー・ボトル・コーヒーでは45秒以内に、コーヒー粉に熱湯をたらしてコーヒーを入れるのが決まりだ。

そして、ここがブルー・ボトル・コーヒーの最も大きな特徴だが、1カップずつドリップする。
同じマイクロ・ブリュー・コーヒーでもポットに何杯分ものコーヒーを作るところもあるが、ブルー・ボトル・コーヒーのこだわりは1杯ずつ丁寧にドリップすることだ。
なぜならば、コーヒーは入れたとたんに香りが抜け始めてしまうから。
ブルー・ボトル・コーヒーにはいつも行列ができているのだが、それは大量生産的ではない、こんなドリップ方式でコーヒーを入れるのに時間がかかるからである。
それでも、ここのコーヒーを味わうために、長い待ち時間も苦にしない人々がたくさんいるのだ。

「1杯1杯丁寧にドリップ」と聞くと、何か連想するものがないだろうか。そう、かつて日本の喫茶店で入れられているコーヒーがまさにそれだった。
カウンターのマスターが細い口のついたケトルから熱湯を注ぎ、小さいカップに入れてくれるコーヒーだ。
実は、フリーマンは日本の喫茶店のコーヒーから、その味わいの大切さを学んだという。
スターバックス風のチェーン・カフェが主流になった今の日本では、1杯1000円以上もするそうしたコーヒーは下火になっているのだが、
フリーマンは今でも渋谷にはお気に入りの古い喫茶店があって、東京に来るたびに訪ねている。
日本人がアメリカのチェーン・カフェに出入りしている間に、アメリカでは日本が失ってしまったコーヒー文化を、新しい方法でよみがえらせようとしているとは、面白いことである。(続)

■大手チェーンにはない、個人のにおい
フリーマンは、大学卒業後はクラリネット奏者として活動していた。だが、ミュージシャンの生活に疲れ果てて、趣味のコーヒーを本職にしたという経緯がある。
コーヒーへ興味を抱いたのは、小さい頃、コーヒー粉の入った缶を開けたときにかいだ匂いがきっかけだった。
回り道をしたが、コーヒーを職業に見定めてからは、数々の味と香りの実験を繰り返し、店作りやスタッフの訓練に全力を注いでいる。
自分の気の向くままにブルー・ボトル・コーヒーを育ててきたフリーマンは、コーヒーだけでなく、ユニークなモノもカフェで売っている。
たとえば、オランダのモダニズム建築家モンドリアンのデザインを模したケーキや、塗り絵ができる小冊子、高級コットン製のパジャマなど。
どれも完璧主義のフリーマンのこだわりの品だ。大手チェーンには見られない個人の匂いが、ここからする。

ブルー・ボトル・コーヒーは昨年、シリコンバレーの起業家から成る投資ファンドから2000万ドルの増資を受けた。個人の匂いのするコーヒー店を、さらに広く展開する予定だ。
産地、豆、焙煎にこだわり、そして豆を挽いて、おいしい1杯のコーヒーを入れること。
人々がブルー・ボトル・コーヒーに来るのは、ただコーヒーの味のためだけでなく、小さなものでも細心の注意を払って、丁寧に作り上げることの大切さを思い出すためなのである。(了)

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom