タマシイの欠け離れたタマシイ(14)

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・簡潔に完結を頑張る


偶に私は世界という物は一つでは無いのかも知れないという妄想に憑りつかれる事が有る。

様々な分野の学者や哲学者、宗教団体の抱く妄想に、憑りつかれる事が有るのだ。

夜更かしをして空ろな状態であればあるほどそういう妄想に浸ってしまう事も少なくはない、

世界とは、もっと多くに有ってとてつもなく強大で偉大なものではないのかと。

冴えてもいない頭でそう思うときは、大抵二度と戻ってはこれ無いだろう、

これだけの多くの物が惹きつけられ打ち砕かれていく異世界とは、一体どのような処なのだろうか、

否、そもそもとしてそれはどうなのだろうか。

既に私はその異世界というモノに発って居て、居座って居る事に気が付かないだけなのではないのだろうか。

目覚めた朝が違う世界軸等と、分かる訳も無い。一日一日を異次元で暮らしていないという根拠は何処にだってありはしないのだ。

ならば異次元とは―――異世界とは、一体何なのだろう―――そう思う度に頭に大きな衝突のようなものが起こり、

その意識は深く閉ざされていくのが手に取る様に分かる。

嗚呼、このまま深く閉ざされてしまったら、私が次に起きるときは一体どのような処なのだろう、

その答えに少しばかりの期待を寄せながら――――


私が起きて、十一番目の妹に久しぶりに会ったのは朝の十八時だった。

何時ものような喪失感が私を襲う、又もや、喪失―――している。

今度は何を失ってしまったのだろうか、直ぐに取り戻せるようなモノであれば好いが。

―――しかし、たった一人の姉に教えてもらった通りに考えてみると、実は何も失ってはいないのではないのかと思う。

二十三人の妹と、一人の弟を持つあの姉が言うのだから間違いは無い。

一人、姉が増えた。

これまでたった一人で愛しき妹を守っては来たものの、流石に限界を感じていた所だ。

特に六番目の妹は好奇心旺盛の育ち盛りだから、私の男手ではどうしようにもできないのが現状なので、

ここで姉が迎え入れられたとなると、これ以上に頼もしい事は無いだろう。

私が私の喪失感に満足の笑みを浮かべていると、十一番目の妹が文句をつけてきた。

お兄ちゃん、お早う、ぐっすりと眠れたのね、お布団がこんなに腐敗して。

また火にくべるのかい?と返すと、また、ええ、見限らないでお兄ちゃん。と返された。

ばぎばぎと五年前にも見たような風景を見ていると、ふと私の部屋に違和感を感じる。

何だか分からないような風景を見ているようで気味が悪くなり、私は十一番目の妹に尋ねた、


私が寝てからどの位経ったんだい?

お兄ちゃんが寝てから?

ああ、私が寝てからどれだけ年数は経ったのかな。

お兄ちゃんが寝てから十年が経ったわ、十年よ、お兄ちゃん。

有難う。と返事をすると、良いのよお兄ちゃん。と返って来る、成程十年、それだけの年月が経てば、

十一番目の妹は気立てだけでなく気前も良くなるのか、と感心した所で。

お兄ちゃん、気恥ずかしいからあんまり見ないでね。と十一番目の妹が言ったと思うと、

右のポケットから取り出したマッチを擦って布団を燃やし始めた、

それに身を包み、恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながら、十一番目の妹は窓ガラスを割って庭にある竈に身を放った。

別段恥ずかしい事でもないのだが、十年前とは打って変わってさらに激しさを増している―――

だが、取り敢えず十一番目の妹が小走りで竈に身を放るまで見届けて、先程の違和感について考えた。


―――フム、十年経ったのか。

十年、十年と念仏のように唱えていると、ある一点の燃え滓とも言える紙が眼に這入った、

もう一度辺りを見回すとある事に気が付く。

カレンダーが無い、嗚呼成程、こういう事だったのか、考えてみればそれはとても普通の事で、

突き詰めてみれば大した変化ではない。数少ない私の部屋の唯一ともいえる日常器具が無くなったのだ、

もしかしたら、朝の喪失感とはこれだったのかもしれない。今日の私は喪失感を取り戻せたのだろうか。

取り戻せたのだとしたら、幸先も良い、今日は空から毒蜘蛛が振り落ちるほどいい日になるに違いが無い。

と確認した所で、一階へとの階段を下る。


途中のダイニングで十四番目の妹が逆さになって天井に皿を並べ始めたのを見て。

お早う。と十四番目の妹に声を掛けると、

あらあらあらあら、兄さん、兄さんじゃないですか、お早う御座います。

久方ぶりに起きたので、小腹が空きましたね、何か抓めるモノは無いですかね。

リビングに十年前に作った朝食が有ります。お召し上がって下さい。

ええ、頂きましょう。

十年では十四番目の妹は余り変える事が出来なかったのか、変えれたと言えば髪の長さ位のものだ。

仕方なく私の八番目の妹の根城とも言えるリビングに足を向けて歩いた所で、

バスルームに辿り着いた。


首を傾げながらも取り敢えず中に居る二十三人の内―――

十四番目の妹と十一番目の妹と、八番目の妹、は抜かさなくても良いだろう―――

その二人を除いた二十一人の妹と姉の誰かにリビングの場所を尋ねた。

バスルームの中に居たのは、十六番目の妹であった。

十六番目の妹は良くも悪くも普通ではない、普通ではない事に良い事が有るとは到底思えないが、

それでも十六番目の妹は良くも普通ではないのだ。

十五年前に死んだ十七番目の妹の、真逆。


そう、十六番目の妹は、今までで一度だって死んだ事が無いのである。


何時も死ぬのは十七番目の妹だったけれど、深く浅く考えてみれば、

逆に全くと言って好い程に、死なないのが十六番目の妹だった。

私はそれに頭を抱えているのだ、長時間頭を抱え過ぎると左腕が崩れ去ってしまうのが難点だったが。

それでも私は頭を抱えずには居られない。一度死んでやっと子供から大人にもなると言うのに、

その気配すら感じられないのだ、それはまるで何十年も土の中に居るのに孵化をしようとしない蝉の如くにも思える。

死なない事が悪い事という訳では無い、もちろん今のまま死ななくとも人生は歩めるし、

家族の誰も悲しませないことは良い事だという事も良い事だと思う、

だが、十六番目の妹が私の妹となってから―――否、それ以前から一度だって死んだ事がないとなると、話は別なのだ。

私の二十二人の妹―――一番目の妹は最早次元が違うので、死というモノの体験をしているかどうか不明だ、

あの人は生き続けているのか死に続けているのか分からないので省かせて貰う―――

二十二人の妹の中で一度だって死んだ事が無いのは、生き永らえているのは何時だって十六番目の妹なのである。

―――このまま生き続けてしまったら、一体十六番目の妹はどうなってしまうのだろう。

悲しませない事は良い事だが、不安にさせる事は良いとは言い難い。

だから普通ではない、良くも悪くも。


バスルームに居た十六番目の妹は私が来たことを察すると、

に、兄様、起きていらっしゃったんですね、御気分は、如何ですか?

ああ、大分良くなったよ。と、挨拶をして、リビングの場所を聞くと。

ええ、ここから引き返して真っすぐの突き当りを右に、です。

突き当りを右、それにしても、随分と大きくなったね。

十年経ちましたから。

……十年、成程、十六番目の妹を、十年の歳月はこうも変えてしまうのか。

―――しかし、それでも十年経っても、相も変わらず十六番目の妹は死ななかったらしい、

ここまで来ると喜んでいいのかどうかが不安になる。

シャワーの音が響き渡ったので、耳に異常が起きる前にそっとバスルームを後にした。


リビングには当然、八番目の妹が砂のテレビを見て逆立ちしていた。

おや?おやややや、兄君ではないですか。十年振り振りですな。

お早う、あんまり逆立ちはしないでおくれよ。

その光景は、十五年前の映画館で見た光景と瓜二つとも言える、さらに今砂のテレビに映っているのは、

八番目の妹の大好きなアクションのある類のモノだった。

八番目の妹とは言え、あのような死に方を、私の妹にはさせたくはあるまい、私だけでなく、

妹を持つ物としては当然の考え方であろう。

いやいやいやややや、すれ違うとは正にこの事です。

すれ違う?私が来る前、誰か居たのかい?

ええ、えええええ、私の他に、お姉さまが―――熊の、お姉さまが。

熊のお姉さま。


間違いなく熊の少女の事だろう、十年経って、漸く私の二十三人の妹は彼女と打ち解ける事が出来たのか。

―――もしかしたら、私が眠りについたその時には既に、仲は良かったのかもしれないが。

フム、十年、十年経って、熊の少女は、どれだけ変わっているのか、気にならないという訳が無い、

しかし今は朝食が先である、もう既に時間が朝の二十六時に達そうとしている所だ。

竈の燃える音を聞きながら、テーブルに置いてある朝食を口に運ぶ。

十年前の物とはいえ、流石は二十番目の妹が作った料理だ、十年経っても全く色褪せず、味も深く、香ばしい、

此れならあと百余年程はこのままの状態でも大丈夫だろう。

食べ続けていると、隣のダイニングからかちゃかちゃと皿の並ぶ音が聞こえたので、

もう一時間もすればリビングまで皿で埋め尽くされること請負だ、取り敢えずは食べ切った皿を見分けの付くように割り、

座っていた椅子の足を一本折っておいた。


私が気分転換にと庭でバーベキューをしていると、熊の少女が文字通り嗅ぎつけたのか、私の近くに寄ってきた。

美味しそうに焼けていますね。と熊の少女が言う。

眼の前には確かに肉が積み上げられてはいるが、どれも未だ焼いてはいない。

食べるかい?

いえいえ、未だ食べ時ではありません。

しかし六本の爪で丁寧に一つの肉を裏返した直後にこれまた丁寧に掬って食べる。

どうやら熊の少女の肉の焼け時とは片方が焼けている状態のようだ。

片方だけ、と言うのがミソなのです。

うん、ミソかい?

はい、とても大事な事です。

大事な事か。

ええ、とても。

野生としての本能と、人間としての機能、その鬩ぎ相だと熊の少女は歌い上げるように言った。

取り敢えず今日の所は之まで、
また来週とか。

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