男「今日からここが君の家だよ」エルフ「はい!」 (54)

~庭~

エルフ「えーっと、男さん?」

男「ん?なにかな」

エルフ「いや、私を市場で買い取ってくれた事は凄く感謝してます。感謝しきれない位感謝してるんです」

男「それは気にしないでよ、ちょっと高かったけど君を救ってあげる事が出来たんだから」

エルフ「それで……えっと、その」

男「……?」

エルフ「家って、どこにあるんですか?この目の前のが家じゃないんですか?」

男「それは俺の家、君のはこれ」

エルフ「これ、これ……あっ」

犬小屋「おう」

エルフ「……」

男「じゃあ何か有ったら呼び出すから、よろしくね」

エルフ「……はい?」

犬小屋「よろしくな」

エルフ「い、犬小屋…?あ、あははは、またまた冗談が過ぎ……って、もう居ないじゃないですか」

エルフ「……さ、さすがに冗談ですよねぇ~」スタスタ

ピンポーン

男『ん?まだ何も用事は無いんだけど、どうしたんだい』

エルフ「男さーん、犬小屋が私の家なんて冗談はやめて早く中に入れてくださいよー」

男『いやいや、冗談なんかじゃないよ?聞きたい事はそれだけなのかな』

エルフ「もー、私は男さんの奴隷兼メイドとして買われたんですよー。だから早く開けてくださーい」ドンドン

男『じゃあ命令するよ、君はあの犬小屋で生活するんだ。じゃあね』

エルフ「えっ!?いやっ、あの」

エルフ「……(結局しつこく呼び鈴鳴らしてたら思い切り蹴飛ばされちゃいました)」

エルフ「け、けど今までの地獄の様な生活に比べたらこれくらい屁の河童です!」

エルフ「ポジティブになりましょうポジティブに!この犬小屋には屋根があるから雨の心配をしなくて済んじゃいます」

エルフ「スペースは狭いですけど身体を曲げれば全身はいれます!」

エルフ「……?なにこのボタン」

犬小屋「餌ボタンだな、腹が減った時はこのボタンを押せば飯が出てくる。飢えの心配をしなくて済むぞ」

エルフ「毎日ご飯が食べられるなんて夢のようです!早速ボタン押しちゃいます」ポチ

ガタン

エルフ「……」

ドックフード「……」

エルフ「あ、あはは…栄養満点ですね」カリカリ

エルフ「はぁ……なんか、快適なのかどうか分からなくなってしまいました」

犬小屋「大丈夫だ、俺が話し相手になってやるから」

エルフ「……突っ込まなかったんですけど、どうして犬小屋が喋れるんですか?」

犬小屋「ご主人に改造してもらったからな、何か困った時や暇な時は俺に相談するんだぞ」

エルフ「い、犬小屋と会話ですか……私達エルフって変わり物が多いと言われてますがあなたはもっと変わってますよ」

犬小屋「はっはっは……ん?ご主人がお前を呼んでるみたいだぞ、早くいってやれ」

エルフ「は、はい!じゃあいってきますね」タッタッタ

犬小屋「……頑張れよ嬢ちゃん」

男「早速だけど君に命令かな」

エルフ「はい!ストレス解消で私を痛めつけるなり性欲が爆発しそうなので私をめちゃくちゃにしたいなりなんなりと命令してください!」

男「いや、そんなエグい事は命令しないっての…」

エルフ「えっ、そうなんですか?前の主人の家では当たり前だったんですけど」

男「……とりあえず汚いままだと俺も不快になるから風呂に入って来てくれ、浴槽は突き当たりを左に曲がったとこにあるから」

エルフ「えぇ!?」

男「それと、服も出て行く前の妹のが有るから適当に使ってくれ。浴槽に運んどくから」

エルフ「……あ、あの、男さん?」

男「早くしろ、命令は絶対なんだろ」

エルフ「は、はい……じゃあいってきます」

~3時間後~

男「いや、なげーよ」

エルフ「す、すみません!2年ぶりのお風呂だったのでキューティクルの回復や体臭を抑えようと必死になっちゃって」

男「……まぁ、君が満足出来たならそれで良いんだけどさ」

エルフ「あの、それで、命令とはなんなんですか?」

男「料理を作って貰いたくてね、材料はそこに置いてるから適当に作ってくれよ」

エルフ「料理ですか?それなら台所で調理させて頂きますけど…」

男「いや、ここが良いんだ。包丁は用意してるし火なら君が魔法でなんとか出来るだろ?」

エルフ「は、はぁ。分かりました…じゃあ早速調理の方をしていきたいと思います!」パカッ

エルフ「……えっ?」

青虫「……」ウジュウジュ

エルフ「いや、男、さ、ん…?」

男「ん?早く調理して欲しいんだけど。いやぁ、君が待たせるからお腹ペコペコなんだよね」

エルフ「これ、虫…」

ムカデ「俺さ、足100本も無いんだよね」

ミミズ「……」ウニュルイニュル

男「あーお腹減ったなぁ、早くご飯食べたいなー」

エルフ「いや、男さん?私、この虫達を調理するんですか?」

男「命令は絶対、だろ?」

エルフ「……(どうしよう、絶対青い血が吹き出る様な虫たちばかりなんですけど)」

男「あー腹減ったわぁ、ペコペコだわぁ」

エルフ「ううぅ……こ、これも命令なら聞かないといけないんですよね…お風呂に入らせて貰って服まで貰ったんですから」

エルフ「………」サクン

青虫「!?!!」ブチュグチュリュ

エルフ「ひっ!!う、ぅ"お"ぇ」

男「あぁ、吐きたかったらゲロ袋が有るからそこに吐いてくれよ」

エルフ「……ぅ"っ、う"ぼぶぇ"えぇ!」ゲバゲバゲバ

エルフ「はぁっはっはっ……うぅ」サクン

青虫「また俺!!??!」ブチュゥウ

エルフ「ひやぁあ!血、血が!服にぃい!」

男「あのさ、四の五の言わずに調理してくれないか?君に待たされたからお腹もそうだけどストレスも溜まってるんだよね」

エルフ「だ、だったら気が済むまで私を殴ってください!その方が

男「御託はイイから早く作ってくれよ」

エルフ「……は、はい」サクン

青虫「だからなんで俺だけ」ブビリャ

エルフ「お"う"ぇ"えぇえ!!」ビチャビチャビチャビチャ

~29分後~

エルフ「で、出来ました…虫たちのサラダです(うぅ、せっかくのお洋服が…それに返り血のせいで臭いが)」

男「あぁ、うん、そこに置いといて」モグモグ

エルフ「……あの、男さん?」

男「ん?どうしたんだい」

エルフ「それ、なんですか?」

男「何って、昨日作り置きしてたカレーだけど?」

エルフ「見たら分かります……カレーが有るのになんで私に料理なんかをさせたんですか…」

男「文句ある?」

エルフ「い、いえ!そうじゃないんです!ちょっと気になっちゃっただけです」

男「そっ、じゃあもう帰っていいよ」

エルフ「……は、はい」

男「ありがとね」

エルフ「!!は、はい!失礼しました」バタン

~犬小屋~

エルフ「……はぁ」

犬小屋「どうだったんだ?はじめての命令ってやつは」

エルフ「どうしたもこうしたも無いですよ!何が悲しくて虫を調理しないといけないんですか!!せっかく綺麗になったと思ったのに散々です!」

エルフ「正直強姦や虐待されるかと思ってたのになんかもう複雑過ぎて意味不明なんです!」

犬小屋「はっはっはっ、主人はちょっと変わってるからな。大丈夫さ、時期に慣れる」

エルフ「慣れるって……まぁ、性的虐待よりかは楽っちゃ楽なんですけど」

エルフ「う"~……とりあえずご飯食べます」ポチ

ガタン

犬小屋「……サラダ、だな」

エルフ「………」

エルフ「ぉ"え"ぇえ"ー!!」ゲボゲボ

犬小屋「嬢ちゃん!ここで吐くんじゃねー!」

エルフ「……はぁ」モグモグ

犬小屋「なんだかんだ言って食べるんだな」

エルフ「だって、お皿の上に残したらまた調理させるって紙に書いてたんです…おえっ」

犬小屋「……なぁ嬢ちゃん」

エルフ「ひゃい?なんでずが…」モグモグ

犬小屋「もしもだぞ?牛や鳥を調理しろと言われたら嬢ちゃんには出来たのか?」

エルフ「な、なに言ってるんですか!こう見えても私、料理には自信があるんです!」

犬小屋「ほう、虫みたいに生きてても嬢ちゃんは調理出来たと」

エルフ「えっ…」

犬小屋「だってそうだろ、虫は生きたまま出てきたんだろ?牛や鳥だって生きたまま出てくるに決まってる」

エルフ「あ……そ、それは」

犬小屋「……まぁそういう事だ。料理だって何も調理された肉が出てくるとは限らないし、1から10まで熟さなきゃいけない時だって有るって事だな」

エルフ「……」パク

エルフ「う"お"えぇええ!!!」ビチャビチャ

犬小屋「だから中で吐くな中で!」

~翌日~

エルフ「おはようございます」

男「うん、おはよう。早速だけど命令だ」

エルフ「朝勃ちを収めるんですか?」

男「いや、だからそんな変な事命令しないっての。もしかして痴女なのか?」

エルフ「ち、痴女じゃないです!前の環境がそうだったのでてっきりそれ系のご命令だと!」

男「……まぁいいや、それで、命令なんだけど」

男「この地図に記された森に行ってきてある物を持ち帰って欲しいんだ」

エルフ「は、はぁ…」

男「もちろん、君が逃げ出さないように護衛もつけてくからよろしく頼むよ」

エルフ「は、はい。分かりました」

エルフ「……」

ゴブリン「よろしくなエルフさんよ」

エルフ「な、なんでゴブリンなんかが男さんの自宅に…」

ゴブリン「ん?俺はあの小僧に依頼をされただけだからな、なぁに、お前を襲ったりはしねーよ」

エルフ「い、いまいち信用できないんですけど…」

ゴブリン「ほら、この首輪、あの小僧に付けられてな。お前を襲ったりしたら中に仕込まれてる毒の針が俺に突き刺さるようになってるからな」

エルフ「そ、そうなんですか……(私の事を心配してるんだったらゴブリン一人に行かせれば良かったとかのツッコミは無しなんですよね)」

ゴブリン「じゃっ、さっさと済ましちまおうぜ。俺もこんなだせぇ首輪なんて何時迄も付けておきたくないからよ」

エルフ「そ、そうですよね。早くこの森に行きましょう!」

ゴブリン「ぐへへへ、そうだな」

エルフ「あのぉ、ゴブリンさん?」

ゴブリン「ん~?どうした」

エルフ「男さんにある物を持って来いと言われたのは良いんですけど私、それがなんなのか分からないんです」

ゴブリン「あ~………」

エルフ「?どうしたんですかゴブリンさん」

ゴブリン「いや、目的地に付くまでお前には言うなって言われてんだよ。だから俺の口からは言えねぇ」

エルフ「言ったら首輪云々なんですか?」

ゴブリン「まっ、そういうとこだ。なぁに、目的地に着きさえすりゃ嫌でもわかる」

エルフ「へぇ~、分かりました。私の護衛、お願いしますね」

ゴブリン「おう、俺に任せときな。こう見えても強いからな」

エルフ「どう見ても強そうなんですけどね」

ゴブリン「……なぁエルフよ」

エルフ「はい?」

ゴブリン「お前、前の主人はどんな奴だったんだ」

エルフ「えーっと……どうしてですか?」

ゴブリン「俺たち人外ってのはたいてい主人がコロコロ変わってるもんだからな。それにお前みたいなエルフってのはそれが激しいと聞く」

エルフ「話さないといけないんですか?」

ゴブリン「いや、話したくないなら良いさ、ただ気になっただけだ」

エルフ「私の前の主人は私をただの道具として扱っていました」

ゴブリン「……(話すのかよ、もしかしてこいつ、そういうタイプなのか)」

エルフ「暇さえあれば私に暴行を加え、暇さえあれば私を棒を咥えさせ、暇さえあれば私を犯し様な人でしたねぇ」

エルフ「酷いときなんかは私を裸にし、首輪を付けて公衆の見せ物にしたりしてました」

ゴブリン「まぁエルフを買い取る奴なんてちょっとおかしな連中ばかりだからな」

エルフ「食事は主人の尿か排出物、それか外に生えてる雑草…もう散々でした」

エルフ「それで私に飽きたのか商人に売り付けてサヨナラ、私は商人の奴隷としていろいろやらされてました」

ゴブリン「それであの小僧に買い取られたと」

エルフ「はい、けど男さんは私に危害を加えたりしないって言ってくれました!お風呂にも入らせて貰いましたしお洋服だって貰ったんです!」

エルフ「ご飯だって何時でも食べて良い、ちょっと私の家が狭いのを加えても快適すぎます!私は男さんに引き取って貰って本当に嬉しいんです!」

ゴブリン「……そうか、なら良かった」

エルフ「はい!私の自慢のご主人様なんです!」

ゴブリン「自慢のご主人様ねぇ…」

~エルフの里~

ゴブリン「ここが目的地だな」

エルフ「うわぁ、エルフ達が沢山居ますね」

ゴブリン「お前はこの里出身じゃないのか?」

エルフ「はい、私の里は西の森に有りますから。それとゴブリンさん?ある物ってなんなんです?」

エルフ「薬草とかですか?エルフの里の薬草って言えば万能薬として有名ですからねぇ」

ゴブリン「アレだよ」

エルフ「?アレって……あそこにはエルフしか居ませんけど」

ゴブリン「だから、今回の目的は里のエルフだよ。一人だけでいいらしい」

エルフ「……えっ?」

ゴブリン「死体で構わないって話だからな、お前はここで見るなり魔法で俺を援護するなりしてくれ」タッタッタ

エルフ「!ま、待ってくださいゴブリンさん!」

エルフA「!?」

ゴブリン「おうらっ!」ザクッ

エルフA「うぐっ"、あ"ぁああ!!」プシュー

ゴブリン「ちっ、上手く避けやがったが左腕はもらったぜ」

エルフB「て、敵襲ー!直ちにあのゴブリンを止めなさい!」

ゴブリン「えっと、お前、女だよな」

エルフA「あっ、あぁっ…」

ゴブリン「まぁ容姿的に女で間違いないな。おら、抵抗しないなら生かしといてやるぞ」

エルフ「ま、待ってくださいゴブリンさん!おかしいですよこんなの!」

ゴブリン「あぁ?何がおかしいんだよ」

エルフ「男さんがそんな事言う筈ありません!何かの間違いです!」

ゴブリン「間違いもなにも、俺は小僧からそう命令されてるがな。首輪だって反応しないんだ、間違いないさ」

エルフ「絶対違います!絶対絶対違うんです!」

ゴブリン「認めたく無いのか?けどな、ここで逃げたら小僧に殺されちまう。俺はここで死にたくねーんだよ」

エルフ「嘘です!きっとゴブリンさんが聞き間違えてるだけです!だからこの子から離れてください!」

ゴブリン「……離れなかったら、どうするつもりなんだ?」

エルフ「私の魔法でゴブリンさんを傷つけます!だから早く離れてください!」

エルフA「ひっ…」

ゴブリン「そいつは聞けねぇなぁ」

エルフ「!!本気ですよ!嘘なんかじゃ無いんですよ!?」

ゴブリン「だったら俺を魔法で傷つければ良いじゃねーか」

エルフ「………燃やしますよ」

ゴブリン「だから早くやれば良いだろ?ほら、早くしねーとこのエルフの四肢を切り落とすぞ?」

エルフ「め、メラゾーマ!」

ゴブリン「……(これで良いんだろ?こいつを煽らせて俺に危害を加えようとした時に)」グッ

エルフA「えっ」

ゴブリン「こうやってエルフを盾にして」

ボボワァ

エルフA「があ"ぁあぁぁあ!あ"ぁ"ぁあぁあ!!」

エルフ「!!?」

ゴブリン「ほら、さっさとズラかるぞ」グイッ

エルフ「あっ、あぁ…ち、違うんです、私、私は…ゴブリンさんを止めようと」

エルフA「……」ピクピク

エルフC「止まれ、止まらんかー!」

エルフD「この二匹を殺せ!我が同胞を殺めたからには生きて帰れると思うなよ!」

エルフ「違う……私は…私はぁ」

ゴブリン「流石にエルフ二人を抱えるのはキツイな、けど、戦い慣れしてないお前達から逃げるのなんて朝飯前だっと」タッタッタ

~森の中~

ゴブリン「ふぅ、あいつ等しつこかったな」

エルフ「ぁっ。あぁ……」

エルフA「……」

ゴブリン「それにしても、中々の威力じゃねーか。左腕を落とされてたとはいえ一撃で殺すなんてな」

ゴブリン「そんな強くてよく前の主人に手を出さなかったなぁ。前の主人はお前より強かったのか?」

エルフ「………」

ゴブリン「無視、か…まぁ良い、これで後は小僧に届けるだけなんだからな」

エルフ「男さんは……」

エルフ「男さんは貴方になんて言ってたんですか…」

ゴブリン「ん?エルフの里に行きエルフを一人捕まえて来い。最悪死体でも構わない。俺はそう命令されたんだぞ(まぁ、あわよくばこいつにトドメを刺させろとも言われてたんだがな)」

エルフ「……そう、ですか…」

ゴブリン「ちょっと休憩したら行こうぜ?もしかしたら追手がくるかもしれないからな」

~男の部屋~

ゴブリン「よぉ、依頼はこなしたぜ?早くこの首輪を外してくれ」

男「うん、ありがとう……?これ、まるこげだね」

エルフA「……」

ゴブリン「あぁ、このエルフが魔法でな」

男「ははは、そうか、君が殺ったのか」

エルフ「……」

ゴブリン「こいつ強いんだぜ?良かったら俺に売ってくれねーか、俺の部隊に入れたいんだが」

男「あははは、冗談はその醜い顔だけにしてくれないかな?報酬は君がここにきた時に既に振り込んであるからね」

ゴブリン「ははは、じゃあ依頼を熟さずにトンズラも出来たわけだ」

男「笑えない冗談はやめてくれないか?」

ゴブリン「……じゃあ俺はいくぜ、じゃあな」バタン

エルフ「……ぅっ…」

男「ん?どうして泣いてるのかな、それは嬉し涙?それとも

エルフ「なんでですか…」

エルフ「なんで私を行かせたんですか?なんで私にあんな事させたんですか…」

男「あんな事?あぁ、同胞を殺めた事か」

男「けどおかしいなぁ、なんで俺が責められなきゃならないんだい?」

エルフ「!?なんでって、それは!」

男「俺は君にあのゴブリンと共にエルフの里に行きエルフを捕まえて来てとしか言ってないんだけどなぁ……確かに君にはちゃんと説明しなかったけどさ」

男「君に同胞を殺めろなんて一言も言った覚えは無いよ?勝手に殺したのは君なんだからね」

エルフ「……」

男「もうお昼だ、下がっていいよ。お腹が空いたらあのボタンを押せばいい」

エルフ「………失礼します」

男「あぁ、ありがとう、よくやってくれた」

エルフ「……」バタン

~犬小屋~

エルフ「……」

犬小屋「どうだった?随分長い間どっかに行ってたみたいだが」

エルフ「私、あの人の考えがよく分かりません…」

犬小屋「……まぁ、嬢ちゃんが何を命令されたかは知らないがな。主人の悪口だけは俺が許さないからな」

エルフ「あの人、普段は何をしているんですか?」

犬小屋「それは俺にはわからねぇ、なんせここにずっと固定されてるから中の様子なんて見れないからな」

エルフ「……目、有るんですね」

犬小屋「主人の粋な計らいでな。一応360°外の様子が見える仕様なんだ」

エルフ「そうなんですか…」グゥー

犬小屋「ん?腹が減ってんのか。ならボタンを押しな」

エルフ「……はぁ、これから先、何をさせられるんだろう」ポチ

エルフ「……」

犬小屋「おぉ!ステーキじゃねぇか、良かったな嬢ちゃん」

エルフ「これ、なんの肉なんですかね…」

犬小屋「あぁ?匂い的に牛肉だろ、食べないんだったら俺にくれよ」

エルフ「……ふふっ」

犬小屋「ん?何がおかしいんだ嬢ちゃん」

エルフ「いや、鼻はともかく口なんてどこにも無いからおかしくなったんです」

犬小屋「主人の粋な計らいよぉ!で?食べないのか」

エルフ「ダメです、これは私が男さんから頂いたご飯なんですからあなたにはあげませーん」

犬小屋「嬢ちゃん……中々生意気な口聞くようになったじゃねーか」

エルフ「えへへ、いただきまーす」パク

エルフ「………」

犬小屋「ん?なんだよその顔、不味いのか?」

エルフ「この牛肉、表面しか焼いて無いんですぅ……ううぅ」

~男の部屋~

エルフ「失礼しまーす」

男「あぁ、夕方なのに急に呼び出してごめんな」

エルフ「いえいえ、ちょっと凹んでましたけど私は男さんの奴隷兼メイドですから」

男「だから奴隷じゃないっての……今回の命令なんだけどね」

男「俺と一緒に街まで買い物に着いて来て欲しいんだ」

エルフ「へ?買い物でしたら私に何がいるかを言って頂ければいってきますよ?」

男「う~ん、君と一緒が良いんだよね。話したい事も有るんだし」

エルフ「そうですか、じゃあ外で待ってますね」

男「あぁ、すぐ行くから待っててね」

エルフ「分かりました!ではでは~」バタン

~街~

男「おばさん、これとこれ、あとこれも」

ババア「あいよ、1600円だよ」

エルフ「チョコレートにお水ですか?」

男「あぁ、まだ買うものは有るけど今はこれで良いんだ」

エルフ「はぁ、あのぉ、男さん?」

男「質問が多いな、どうした」

エルフ「私一人で良かったんじゃないんですか?逃げるのが心配ならゴブリンさんに付けてた首輪でも付けてれば良かったんじゃないかなーって」

男「あぁ、あの首輪ね……あれさ、実は中に毒針とか入って無いんだよね」

エルフ「えぇっ!?」

男「俺はあいつを信用してたからね、まぁ、帰ってこないなら来ないなりの対応をしていただけさ」

エルフ「え、えぇえ…」

男「ゴブリンなんて単細胞の筋肉バカだからね、ちょっと話を刷り込んだら信じてくれたよ……ほら、行こうか」

エルフ「あっ、ま、待ってください」

~路地裏~

エルフ「はわわ」

男「?な、なんだよその言葉」

エルフ「い、いえ、遂に私も犯される時が来たんだなと思うと自然に出ちゃったんです」

男「……確かに人気は無いが俺は君にそんな事はしないと言っただろ、もしかして期待してたのか」

エルフ「ちょっと期待してました!」

男「はぁ…」

子供「ワラ、ワラ」

エルフ「あっ、路地裏恒例の家なき子ですね……ワラってなんなんですか?」

男「水をくれって言ってるんだよ……そうだな、君ならどうする?」

エルフ「え?」

男「目の前に水を求めてる子どもが居る、自分はその水を持っている」

エルフ「そ、そんなの当然です、持ってる水を与えます」

男「ふ~ん、けどさ、お金を出して買った水なんだよ?それに水ならそこに流れてるじゃないか」

エルフ「そこって……ドブに流れてる水の事、ですよね」

男「あぁ、それに彼等に与えたところでなんの見返りも無いんだぞ?それでも与えるって言うのか」

エルフ「そ、そりゃあ……それに、私もこの子どもみたいな生活を送ってたので彼等の気持ちは十分理解してるつもりですから」

男「………そっか、君は優しいんだね」

エルフ「はい!それに男さんも彼等にあげるために買ったんですよね!」

男「う、うん、そうだけど」

子どもA「ワラ、ワラ」

子どもB「ワラ」

男「……水だけじゃない、お菓子もあげよう」

子どもA「!!」

男「それと、あそこのレストランでお腹いっぱい食べさせてあげるよ」

エルフ「……(ちょっと変わり者だけど、やっぱり男さんは根は優しい人なんだなぁ)」

男「ただし、一人だけだ」

子どもA「!?」

子どもB「……」

男「君たちは喉が乾いてる、それにお腹も減ってる、だから俺が救ってやる……ただし、一人だけだがな」

エルフ「えっ!?ちょっ、男さん?」

子どもB「……っ!」ボコッ

子どもA「あうっ!」

男「さぁ、頑張れよ、最後まで立っていた方を救ってやるからな。死ぬ気で戦え」

エルフ「や、やめなさい二人とも」

男「ん、なんで止めようとしてるんだ?」

エルフ「あ、当たり前じゃないですか!それに一人だけって、さっき数人分買ってたじゃないですか!」

子どもA「このっ!このっ」グイッ

子どもB「いだぁあい!ばーっか!」ボコッ

男「確かに数人分買ったな、それがどうかしたのか?」

エルフ「だ、だったらこの二人に同じ量を分け与えたらいいじゃないですか!なんで喧嘩なんてさせるんです?!」

男「………君は、彼等の気持ちを理解してると言ったよな?」

エルフ「はい言いましたよ!って、早く止めましょうよ」

男「じゃあ聞くが、君がこの子とおなじ事を言われていたらどうしてた?」

エルフ「な、なに言ってるんですか男さん!は、はやく彼等を止めないと」

男「長いこと、ろくに食べる事も飲む事もできず…目の前に食糧を出され、それを食べたくば奪い合えと言われ時、君は我慢する事が出来るか?」

男「目の前で別の奴がそれを美味しそうに食べてるとこを見てるだけなんて出来るのか?」

エルフ「そ、それは…」

男「……やっぱり、君は根っからの奴隷だな」

エルフ「えっ?」

男「それを二人で分け合う事を考えられなかっただろう?もしかして、他人を傷つけてまで食糧を手に入れようとか考えてたのか?」

エルフ「ち、違います!私は、その…二人で分け与えようかなと」

男「絶対に考えてなかったよな?」

エルフ「か、考えてました!」

男「………」

エルフ「うっ……か、考えてませんでした」

男「ははは、素直で良いね。ほら、お前達その辺にしときな」

子どもA「ううう」

子どもB「ひっぐ、うぐ…」

男「急にあんな事を言ったのは謝る。それと、これをあげる」ガサッ

子どもA「ワラ!」

男「けどな、これを取り合って喧嘩した時は……分かってるよな?」

子どもA「!……」ガタガタ

エルフ「大丈夫?ほら、絆創膏貼ってあげるからね」

子どもB「うえーん」

男「君、あの子を殴る時に何を思って殴ってた?」

子どもA「……お腹が空いてたから、取られたくなかったから」

男「そっか……君にはコレも渡しておこうか」

男「俺の財布だ、7万位しか入ってないけど。今の君たちには十分過ぎる金額だ」

男「これから君はこのお金で彼を助けて行くんだ、二人で生きて行くんだ。困った時はこの番号に連絡すればいい、きっと君を助けてくれる」

子どもA「……ありがと」

男「けどな?他人を襲ってお金を奪ったりとかはするんじゃないぞ?その事が俺の耳に入ったら二人ともバラバラにしにくるからな」

子どもA「う、うん……あの、お兄ちゃん、あ、ありがと」

男「お礼を言うのはこっちの方さ、それと、ごめんな。あんな事させて」

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