ベルトルト「天体観測。」(53)

こんばんは。

・10巻のネタバレあり

・地の文あり

よろしくお願いします。

―844年 春の夜―

ベルトルト(9)「う〜昼間は暖かいけど、夜になるとまだ寒いなぁ。」ガチガチガチ

アニ(9)「ベルトルトぉ。」トコトコトコッ

ベルトルト「やぁ。アニ。」

アニ「お待たせぇ。」

ベルトルト「大丈夫。全然待ってないよ。」ニコッ

アニ「あれ? ライナーは?」

ベルトルト「それがねぇ、急に熱が出たんだって。」

アニ「そうなの?」

ベルトルト「うん。きっと風邪だよ。朝から咳をしてたから。」

アニ「来れないの?」

ベルトルト「うん。残念だけど。」

アニ「そっかぁ・・・」ショボン

ベルトルト「元気出してよ。僕ら二人でいっぱい楽しんでさ、ライナーに話してあげよう。」

アニ「うん。そうだね。」

ベルトルト「さぁ、行こうか。」

アニ「うん。行こう。」



6年前の春。

満天の星空に包まれた夜だった。

時刻は午前二時。

あの日、僕は村外れの丘の麓(ふもと)に望遠鏡を担いでった。

事前に村の人から今夜の天気は聞いていた。

村一番の物知りと評判のお爺さん。

色んな花の名前や難しい言葉を知っている人だ。

風の流れや雲行きを見て天気を予測する事もできる。

その人が言っていた。

雨は降らないらしい。

待ち合わせから二分遅れてやってきたアニと共に、僕は丘陵の道へと足を踏み入れた。

天体観測を始めるために。

ほうき星を探すために。



アニ「今日は雨が降らないんだよね?」

ベルトルト「そうだよ。物知り爺さんが言ってたんだ。間違いないよ。」

アニ「楽しみだね。お星さま、キレイかなぁ?」

ベルトルト「うん。絶対キレイだよ。」

アニ「ワクワクする!」

ベルトルト「はははっ。」



無邪気に笑うアニを見て、思わず笑みが溢れたのを覚えている。

当時からアニは背が小さく、そして僕は背が高かった。

同い年とは分かっていながら、どこかで『守らなければいけない』なんて上から目線の使命感を勝手に抱いていた事実は否めない。

ベルアニって何故か幼少期のものが多い気がする
期待

麓から見上げるだけでも十二分にキレイな星空を、この先にある小高い丘の頂上から見上げる。

その時、この小さなアニがどれほど表情を輝かせるのか、想像するだけでも気分が高揚した。



アニ「暗いね。」



アニが呟く。

午前二時ともなると灯りのついている民家などなく、ましてや村から外れた場所にある丘陵の斜面は奈落の如く暗い。

漆黒のベールに覆われて凹凸も判然としない地面。

自分の体重に望遠鏡の重みが加わった事もあり、何度も足を取られて転びそうになった。



アニ「ベルトルト、待って・・・・・・速いよ・・・」

ベルトルト「えっ?」



後ろを振り返った時、僕とアニの距離は3メートルほど空いていた。

僕はアニの歩調を無視して先へ先へと進んでしまっていたらしい。

深い闇に呑まれないように精一杯だった。

そのせいで。



ベルトルト「あっ。ご、ごめんね。」

アニ「もう。」



顔を膨らませるアニ。

かわいいと思ったのは秘密だ。



アニ「はぐれちゃうよ。」

ベルトルト「ごめんごめん。もっとゆっくり歩くね。」



僕はアニの右隣に並び立ち、彼女のペースに合わせながら慎重に歩を進めた。

その時、ふと気付いた。

元ネタの曲が脳内再生される
期待

アニの肩が小刻みに揺れている。

季節は初春。

夜中ともなればその気温は冬と大差ない。

きっとアニは寒かったんだろう。

僕も指先が千切れそうなほど冷たかった。

手を握ろうかな。

確かそんな事を思った筈だ。

望遠鏡は右肩に担いでいる。

左手は自由だ。

アニの手を握った方が暖かいし、転ばなくて済む。

合理的だ。

僕はアニの震える手を握ろうとした。



ベルトルト「・・・。」ギュッ

でも結局、僕は伸ばしかけたその手を引っ込めてしまった。

理由は簡単。

ただの照れだ。

アニの小さな手の代わりに、冷たい空気の一欠片を強く握り締め、何も言わずに丘陵の頂点を目指した。



ベルトルト「アニ。もう少しだよ。」はぁ はぁ

アニ「うん。」はぁ はぁ



登り始めて約30分。

丘の頂点が見えてきた。

見晴らしが良く、眼下には僕たちの村が一望できる。

昼間にピクニックや虫採りで訪れた事は何度となくあるが、夜に来るのは初めてだ。



ベルトルト「着いた・・・」はぁ はぁ

アニ「やったぁ・・・」はぁ はぁ



何度となく来た事のある丘の頂上。

だが、暗闇の丘陵帯を転ばないよう進む事は、予想以上に僕達から体力を奪っていた。

達成感と深い安堵に包まれ、その場に力なく腰を下ろす。

>>8
そうなんですか?
僕はベルアニっていうとベルトルトがアニに焦らしプレイされるヤツしか知らないんですけど。

>>12
僕も書き込みながら脳内再生してますwww

草花の纏う冷たさが火照った身体に心地良い。

そのまま、示し合わせた訳でもないのに二人とも仰向けに倒れ込んだ。

押し出されて舞い上がった大地の香りが鼻孔をくすぐる。

やっぱり僕は自然の匂いが大好きだ。

あのとき確か、そんな事を思ったんじゃなかったっけ。



ベルトルト「気持ちいいね、アニ。」

アニ「・・・・・・。」

ベルトルト「ははは・・・・・・」

アニ「・・・・・・。」

ベルトルト「・・・・・・アニ?」

アニ「・・・・・・。」

ベルトルト「どうしたの?」

アニ「・・・・・・ベルトルト。」

ベルトルト「なに?」

アニ「お星さまが見えない・・・・・・」

ベルトルト「えっ!?」

不安に怯えるかのようなアニの声。

それに弾かれて夜空へ目を向ける僕。

その視界に飛び込んできたのは、どこまでも延々と広がる漆黒の天蓋(てんがい)だった。

そこに散りばめられている筈の銀色の砂塵は、一粒たりとも見受けられない。



ベルトルト「えっ!? そんな・・・」ガバッ



慌てて上体を起こす。

さりとて、事実は変わらない。

星が出ていない。

麓でアニと待ち合わせた時点では頭上に満天の星空が広がっていた。

それがこの僅か数十分で、暗闇の足下に気を取られている間に、一面の雲に覆われている。



ベルトルト「そんな・・・今夜は雨は降らない筈なのに・・・」

アニ「ベルトルト・・・・・・」



不安げに僕を見詰めるアニ。

僕はそんなアニに返す言葉もなく、呆けたようにただただ頭上を仰ぎ見ていた。

今になって思えば民間人の天気予報が外れる事なんて何も珍しくはない。

だが、あの南東の小さな村が世界の全てだった当時の僕は、死者が蘇るに等しい驚嘆と衝撃をそのとき覚えたものだ。



アニ「雨・・・降るの?」

ベルトルト「ふ、降る訳ないよ・・・」

アニ「お星さま・・・見れないの?」ウルウル

ベルトルト「み、見れるよ・・・そうだ! 望遠鏡! 望遠鏡で見てみよう!」



肉眼では見れなくとも、望遠鏡の力を借りれば何とかなるだろう。

そんな淡く子供らしい期待にすがった。

すがるしかなかった。

立ちすくむアニから目を背け、大急ぎで望遠鏡を組み立てる僕。

分かりきっている現実を振り払うかのように。

そして僕は、見えないものを見ようとして望遠鏡を覗き込んだ。



ベルトルト「・・・・・・。」

アニ「・・・・・・どう?」

ベルトルト「・・・・・・。」

アニ「ベルトルト?」

ベルトルト「・・・・・・ダメだ。」

アニ「そんな・・・・・・」



淡いから打ち砕かれるのか、それとも打ち砕かれる事が明白だから淡いという形容詞を用いるのか。

その真相は分からないが、何にせよ僕の淡い期待は打ち砕かれた。

望遠鏡の力をもってしても、星の一欠片すら見付ける事が叶わない。

完全に空は分厚い雲に閉ざされていた。



アニ「お星さま・・・」ウルウル

ベルトルト「アニ・・・・・・」

アニ「見れないの・・・」ウルウル

ベルトルト「それは・・・・・・」



返す言葉もなく、僕は下を向いた。

星が見れない事も、物知り爺さんの天気予報が外れた事も、何もかもが僕のせいな気がした。

顔を上げているのが辛かった。

と、その時。



ポツ ポツポツ



ベルトルト「えっ?」

アニ「うそ・・・」



サアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ

ベルトルト「わっ!」

アニ「降ってきちゃった・・・・・・」



僕は慌てて組み立てたばかりの望遠鏡を解体した。

元通りバラバラのパーツに戻し、それを肩掛けカバンに納めて右肩に担ぐ。



ベルトルト「アニ、帰ろう。」

アニ「やだ・・・」

ベルトルト「今日は無理だよ。」

アニ「お星さまぁ・・・」

ベルトルト「アニ。このままじゃずぶ濡れだよ。今日はもう諦めよう。」

アニ「うぅ・・・」グスッ

ベルトルト「ほら、行くよ。」クルッ

スタスタスタ



アニ「ま、待ってよぉ!」



アニの気持ちは痛いほど分かった。

僕だって今日を楽しみにしてたんだから。

だけど、無理な物は無理だ。

起きもしない奇蹟を信じてあの場に留まっても、得られる物は風邪と虚無感だけ。

9歳の子供にもそれぐらいは分かった。

だから僕はあえて、予報外れの雨に打たれて泣き出しそうなアニを突き放すようにして、その場を後にした。

そうすればアニは否応なく僕に付き従って下山せざるを得ないから。

アニ「ベルトルトぉ!」パタパタパタッ



予想通り、アニは僕の後をついてきた。

きっと僕の事を恨んでるだろうな。

そう思った。

でも、それで良い。

このままここに残って彼女に風邪を引かせるぐらいなら、僕はいくらでも憎まれ役になってやる。

僕はそのまま、見えないリードにつながれたアニを率いるかのようにして、雨音の作り出す喧騒と言う名の静寂と暗闇の帰り道を駆け抜けた。

一旦離れます。

ベルアニかわいいな

同郷3人の幼少期は想像するだけで切なくなる....。自分も歳だなw続き待ってるよ。

戻りました。

>>30>>31
ありがとうございます。
複雑な気持ちにさせられますよね、この三人は。

では、残り僅かですが再開します。

戻りました。

>>30>>31
ありがとうございます。
複雑な気持ちにさせられますよね、この三人は。

では、残り僅かですが再開します。















ベルトルト「はぁ〜・・・・・・どうにか無事に降りられたね。」

アニ「・・・・・・。」

ベルトルト「アニ・・・・・・」

アニ「・・・・・・。」ふいっ

ベルトルト「・・・・・・っ!」



僕から目を逸らし、アニは背を向けた。

そしてそのまま駆け出してゆく。

降りしきる雨の中、遠ざかってゆくアニの背中。

ただでさえ小さなアニが、更に小さくなってゆく。

だが、僕は気付いていた。

僕に背を向けた刹那、アニの肩が震えていた事に。

今なら分かる。

あれはきっと、寒さや冷たい雨のせいじゃない。

だけど、当時の僕にはそこまで想像が及び得なかった。

それをもって当時の僕を鈍感だのどうだのと否定しようなどとは思わない。

ただ一つ、今も思い出す。

アニの震える手を握れなかった事を。



―850年―

ねぇ、アニ。

君は今、空も見えないその地下牢で、あの日の雨よりも冷たい水晶の中で、どんな夢を見ているのかな?

その夢が悲しい物ではない事をただただ願うばかりだよ。

子供なりにずっと分かっていた。

こんな力を持たされた僕達に明るい明日なんてないって。

だけど、例え暗い明日が待っていようとも、それまでの時間を明るく過ごしちゃいけないなんてルールはない筈だろ?

そう言い聞かせてきたんだよ。

明日の存在を無視してきたんだ。

明日が僕らを呼んだって、返事もロクにしなかった。

そうやってずっと、逃げてきたのかもね。

だけど、例え暗い明日が待っていようとも、それまでの時間を明るく過ごしちゃいけないなんてルールはない筈だろ?

そう言い聞かせてきたんだよ。

明日の存在を無視してきたんだ。

明日が僕らを呼んだって、返事もロクにしなかった。

そうやってずっと、逃げてきたのかもね。

ねぇ、アニ。

僕は君の事を守らなきゃいけないって勝手に思ってたけど、何故そんな風に思ったのか、今なら分かるよ。

『守らなきゃいけない』じゃない。

僕は君を『守りたかった』んだ。

小さくて、かわいくて、壊れてしまいそうなほど繊細な君を。

だけど、当時の幼い僕は臆病だから、ただただ君の前でお兄さん面して心を落ち着けることしかできなかったんだ。

情けないね、ホント。

ねぇ、アニ。

あれから6年経ったよ。

背が伸びるにつれて、伝えたい事も増えてったんだ。

今度、また笑って話せる時が来たらさ、伝えるよ。

全部伝える。

だから、笑わないで聞いて欲しいな。

任務の為に作り上げた『氷の女アニ』じゃなくて、僕がよく知ってる小さな小さな『アニ・レオンハート』としてさ。

僕の大好きな女の子のままで。

ねぇ、アニ。

もうすぐ全てが終わるよ。

もう、こんな思いはしなくて良くなるんだよ。

だから、あと少しだけ、そこで待っててね。

全て終わったら、君を迎えに行く。

必ず。

必ず迎えに行くから。

だから

ベルトルト「ライナー・・・やるんだな!? 今・・・! ここで!」

ライナー「あぁ!! 勝負は今!! ここで決める!!」

一緒に故郷に帰ろう。

今度こそ

二人で

手を繋いで







ほうき星を探そう。







おしまい

以上です。
「天体観測」が好きすぎて書いた。
後悔はしてない。
ありがとうございました。


ところで、今までに書いたSSやお気に入りのSSを紹介するブログを最近作ったんですけど、
それをここで宣伝してくのって、
やっぱダメですよね?

あと、そうだ。
>>39は連投ミスです。
ごめんなさい。

一応載せときます。
http://blog.m.livedoor.jp/nonpoint0911/?guid=ON
では、お付き合い下さった皆様、
どうもありがとうございます。
失礼いたします。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom