女「君はボクの何になってくれるんだい?」 (472)

女「だーれだ」

男「……なんのつもりだ」

女「さあ、ボクが誰だかわかるかな?」

男「手を離せ。見えん」

女「もしかして、わからないのかな?」

男「おい、鼻息が当たってるぞ」

女「もっと近づいて、声を聞けばわかるかなと思ってね」

男「……」

女「いつも一緒に帰っているのに、酷いなぁ」

男「ほぼ答えじゃねえか」

女「しかたない、答えを言おう」

男「ん……」

女「ふふっ、答えはボクでした」

男「答えになってねえぞ」

女「君にとっては、これでわかるだろう?」

男「なんだそりゃ」

女「ドヤ顔ダブルピース」

男「脈絡のないネタを挟むな」

女「ふふ、うざかった?」

男「ああ、その顔はうざい」

女「それじゃあ、帰ろうか」

男「おう」

女「夏休みもすぐに終わってしまったね」

男「そうだな」

女「ボク達はなにか、変わっただろうか」

男「お前は少なからず変わったな」

女「ん、どこだい?」

男「今学期からポニテになった」

女「おや、気づいてくれたんだ。嬉しいなぁ」

男「まあ、そりゃな」

女「ふふっ、君はポニーテールが好きかい?」

男「さあな」

女「まあ、ボクのは短いポニーテールだけれど」

男「まあ髪自体長くなかったしな」

女「このくらいの大きさの方が、ビンビン動いて好きなんだ」

男「できれば効果音を変えて欲しい」

女「いいじゃないか、脈打つような効果音!」

男「ポニテに使う効果音じゃねえ!」

女「じゃあピョンピョン」

男「それがいいな」

女「ピョンピョン♪」

男「ウサギの真似はしなくていい」

女「手で耳を表現しました」

男「言わんでもわかる」

女「じゃあ君は亀さんだ」

男「ウサギとカメって、安直だな。俺のどこに亀の要素がある?」

女「え? 君のここには亀さんがいるんじゃないのかい?」

男「どこ見て言ってんだ」

女「興奮すると首を伸ばす」

男「もういい、とりあえずガン見はやめろ」

女「がーん!」

男「ガーン見もだめだ」

女「じゃあ視姦!」

男「余計ダメになってんじゃねえか!」

女「じゃあちょっと触らせてくれ!」

男「もっとダメになってる!」

女「なんならいいんだ!?」

男「逆ギレかよ!?」

女「居直っただけだよ」

男「ほぼ意味変わってねえよ!」

男「……やっぱり夏休みからお前は全然変わってねえ」

女「うん、君も相変わらずだね」

男「ちっ」

女「あ、舌打ち」

男「はぁ……」

女「おや、ため息」

男「いちいち実況するな」

女「ふふ、そういえば知ってるかい?」

男「あん?」

女「秋は移ろいの季節だ」

男「いきなりだな……」

女「夏の暑さは、少しずつ秋、冬と寒くなっていく」

男「……」

女「心も、少しずつ冷えていくんだ」

ポニーテールを軽く揺らして、ヤツはそう言った。

女「『秋』と『飽き』をかけた人はすごいね。的を射ている」

男「そうだな」

女「ふふっ」

ボクらしくないことを言った。

と、ヤツは照れくさそうに頭を掻いた。

男「まあ、たまにはいいじゃないか?」

女「これからはどんどん下衆なネタを突っ込んでいくよ」

いや、それはいらないけど。

男「秋って、なんか行事あったっけか?」

女「修学旅行があるだろう?」

男「ああ、そういえば」

すっかり忘れていたが、そうだったな。

女「と言っても、一ヶ月もあとのことだけれど」

男「10月か。長いな」

女「オマケにテストも挟むよ」

男「うわー」

聞きたくなかったな、それは。

女「大丈夫だよ。手取り足取り命取り教えてあげる」

男「殺されそうなんだが」

大丈夫なのかそれは。

女「だ、だだ、大丈夫だよ……ハハハ」

ドモるな。

女「後ろからグサっ……なんてことは万が一にもないよ」

男「じゃあ言うな」

余計怪しいぞ。

女「でも、夏休みが終わってよかったかな」

男「なんでだ?」

俺はあと二、三ヶ月欲しかったけど。

女「君と話をしながら下校ができるからね」

なんだよそりゃ。

女「学校があるからこそ、この時間はあるんだから」

男「でも、話だったらいつもしてるだろ?」

女「そうだね。ベッドの上でギシギシとね」

男「してねえ」

どんな話してんだよそれ。

女「君の家のベッドってギシギシしないよね」

基本しないだろ。

女「この前激しく動いてみたけどならなかったよ」

男「人ん家のベッドでなにしてんだ」

女「いやいや、ナニはしてないよ」

そんなこと聞いてねえよ!

女「さすがに君のニオイに包まれたらナニもしなくても果てるよ」

男「声が大きい」

下校中になんつーこと言ってんだ。

あと無駄に体を震わすな。

男「あーもういい。この話はおしまいだ」

女「じゃあ君の家のエッチな本の話をしようか」

男「はぁ!?」

もっと嫌な話にチェンジした!?

女「最近、お姉さん物増えたよね?」

男「……」

なんで俺のエロ本事情知ってるんだよ!

女「年上好きの傾向だね」

男「やめろ、この話はなしだ」

女「梨? 別に果物の話はしていないよ?」

男「無しだ!」

いちいちボケるな。

女「むぅ、じゃあどんな話をすればいいのかな?」

くそ、ニヤニヤ笑いやがって。

女「あ、そうだ」

手を合わせて、ヤツはニッコリと笑った。

女「パンツの話をしようか!」

えっと。

なんでそんなにキラキラした目でそんな話を振ってるんだ?

男「興味ない」

女「ボクは興味があるなあ、君のパンツ」

興味を持つな変態。

女「頼むよ、教えてくれ! パンツの柄!」

この通り! って感じでお願いされても。

女「あるいは脱いで見せてくれ!」

男「道端でパンツ脱ぐやつがどこにいる!?」

アホかお前は!

女「いるよ! 君だ!」

指をさすな!

女「じゃあしょうがない……」

そう言って。

ヤツは短いスカートの中に手を突っ込んで。

白い何かを下にズラした。

男「……へ?」

女「ボクは見せたよ。さあ」

いや。

いやいやいやいや!?

何やってんのお前!?

男「ちょっと待て、とりあえず穿け!」

女「君が脱ぐまでボクは穿かない」

ただの痴女じゃねえか!

周りに人がいなくて助かった。

女「ふふっ、どうしたのかな?」

男「お前……本物の変態か!?」

女「そんなこと言わないでくれよ!」

興奮してしまうじゃないか!

と、高らかに声を上げた。。

コイツ、マジでヤバい。

というか、今ノーパンなんだよな?

なのにあんなに短いスカートじゃ、風吹いたらアウトだぞ?

辺りが暗いからってやりすぎだっつーの!

男「……くっ」

もうなんだこの展開。

わけわかんねーけど、パンツ脱ぐしかないのか?

この際仕方ない。

俺はゆっくりとベルトに手をかけた。

女「なんてね」

ヤツはパンツを戻して。

女「ふふ、はしたないことをしてしまった」

男「……はぁ」

女「ため息は幸せが逃げるよ?」

男「うるせー」

ため息くらい吐かせろ。

背中、汗でビッチョリだ。

女「ちなみに言っておくけれど」

男「なんだ?」

女「今日はこれをするためにパンツを二枚穿いてきたんだ」

男「めちゃくちゃ無駄な仕込みだな!!」

パンツの話はもう絶対する気だったのか!

女「おかげでムレムレのムラムラのヌルヌルさ」

男「最後の擬音おかしいだろ」

女「え? 汗だよ?」

男「……」

まだ、混乱しているようだ。

夏休みが終わっても俺とヤツの会話はまったく変わらずであった。

男「ただいま」

妹「おかえりんご!」

男「ただいマンゴー」

妹「うんうん、ちゃんと果物で返してくれたね」

可愛い妹がお出迎えしてくれた。

うむ、幸せだ。

今日は早めに帰ってきたから妹も上機嫌だ。

妹「今日は早いから一緒にゲームできるね!」

男「したいのか?」

妹「うん!」

男「何がしたいんだ?」

妹「んとね、なんでもいい!」

男「じゃあ一人用のゲームやるか」

妹「一緒にできないじゃん!」

男「え? 妹もやるのか?」

妹「わかってて言うなー!」

可愛いからついついいじめたくなる。

男「じゃあ格ゲーでいいか?」

妹「うん」

というか、二人用のゲームなんてそれくらいしかない。

妹「お兄ちゃんの帰りが遅い日、私は頑張って練習していたのだ」

男「一人でやってたのか?」

熱心だな。

妹「ううん、メンタルトレーニング!」

その発想は無かった。

結果から言うと。

妹「なんで空飛ばないの!?」

男「そんなゲームじゃない!」

妹のメンタルトレーニングは完璧に間違っていた。

大体メントレしてもガチャプレイに変わりないんだから、意味がない。

妹「うー……もういいっ、ご飯作ってくる」

男「おーう」

悪いな、手加減しなくて。

帰りが早いととにかくすることもなくダラダラと過ごしてしまいがちだ。

宿題を出されても、まず勉強机に座ることなんてまずない。

飯まで寝るか、漫画を読むか。

オナ……いや、それは言わなくていいか。

たまには何かしたいものだけれど。

男「……何もないな」

何か、することはないだろうか。

妹「お兄ちゃーん」

男「んあっ」

妹の声がした。

どうやら寝てしまっていたようだ。

男「おーう」

ベッドから立ち上がり、ゆっくりと食卓に向かった。

妹「ふふふ……」

妹はニコニコと笑って、食卓を俺に見せないようにしている。

男「ん?」

妹「じゃじゃーん!」

男「……なんだ?」

妹「今日は、お兄ちゃんの大好きなハンバーグでーす!」

男「おー!」

階段を降りている時に、いい匂いがしたのはこれか。

オマケに俺のハンバーグは少し大きめだ。

少しじゃない。尋常じゃない大きさだ。

妹「ふふん、自信作です」

それじゃあ、早速。

男「いただきます」

早速箸で小さく切って食べる。

うむ。美味しい。

男「妹、上手いぞ」

妹「わーい」

手を挙げて喜ぶ妹。

それにしても、どんどん料理が上手くなっていくなぁ。

いつも作ってれば上手くなるのも当然か。

男「ありがとうな」

妹「なーに?」

男「いつも作ってれさ」

妹「お兄ちゃんが作んないんだから、私が作らなきゃいけないでしょ?」

仕方なく、って言い方だ。

妹「でも、それは昔の話」

男「ん?」

妹「今は、作るの楽しいし」

更に妹は付け加える。

妹「お兄ちゃんが美味しく食べてるのみると、嬉しいから」

……おお。

なんか、すげえ照れるな。

男「妹、お前は本当にイイヤツだ」

妹「はいはい、喋らずに食べてね。冷めちゃうよ」

男「はーい」

まるで立場が逆転しているようだ。

でもまあ。

妹は俺よりも要領がいいからな。

おまけに容量も俺よりあるだろう。

何を言ってるんだか。

妹「そーいえばさ」

ニヤついた顔を近づけてきた。

妹「今日調理実習で褒められちゃった」

男「おお、良かったじゃん」

妹「でもね、ちょっと悲しかったことがあるんだ」

どうやら、聞いて欲しそうだ。

男「どうしたんだ?」

妹「なんてゆーか……えーっと」

男「?」

いきなりどうした。

妹「お兄ちゃんに食べてもらえなかったのが。ちょっと心残りで」

男「……」

おいおい、妹よ。

お前が妹じゃなきゃ抱きしめてた。

いや、もうアレだ。

妹でも抱きしめる。

妹「ちょ!?」

男「もう可愛いなあお前は!」

妹「うわ、お兄ちゃんやめて! 離れてー!」

とか言いながら力入れてないじゃん!

男「今度調理実習があったらちゃんと残して持って帰ってきたら食べるぞ?」

妹「ほんと!?」

うお、すげー嬉しそうな顔。

男「もちろん!」

妹「実は持ち帰ってきたよ!」

え。

妹「じゃあ食べてもらおうかなっ」

え、ちょ、ちょっとまって。

ハンバーグ食べて俺もうお腹一杯なんだけど。

あ、でも、調理実習だからそんなに量はないか。

妹「えへへ、ちょっと多めだけど」

男「っ!?」

ちょっとってレベルじゃねえぞ!?

そうだった。

妹はいつも作る分が多かった。

男「こ、こんなに持って帰ったらグループの子達食えなかったんじゃないか?」

妹「ううん、これは別に作ったの」

お兄ちゃんのためにね!

と、顔を染めて言った。

……あはは、俺は幸せものだ。

と、言うわけで。

俺の腹は妹の愛に満ち溢れたわけなんだけれど。

男「気持ち悪い……」

腹がパンパンである。

男「美味しいから食えるけどなぁ」

あと、あんなキラキラした顔で見られたら。

もう、死ぬ気で食わざるをえない。

本当に、美味しくて助かっている。

そして、数時間が経った。

男「……」

俺は、いつも通りボーっと過ごした。

男「何か、すること」

思いつく限り考えてみるが、一向に思いつかない。

思い尽いた、という感じだ。

男「あっ」

ふと、携帯電話に目が行く。

男「……かけてみるか」

いつもだったらそんなことをしないのに。

何故か俺は、ヤツに電話をかけようとする。

男「んー……」

ベッドに一度横たわり、思案する。

こっちから電話して、なんて言えばいい?

別に話すことなんて決まってないし。

用なんて、ない。

男「だからといって……」

他にするようなやつは……

男「……後輩」

いや、ダメだ。

まだ後輩出てないし。

出てない? なんのことだ?

まあ、それは置いといて。

と、言ってると、持っていた携帯が鳴り出した。

噂をするとなんとやら、後輩からである。

後輩『もみもみ! 先輩ですか』

男「こういう時はもしもしって言うんだぞ、後輩」

後輩『あっ、いきなりナカ出しされちゃいました!』

ダメ出しだ。

吹き出しそうになったぞ。

男「どうしたんだ?」

後輩『ふふふっ、実は先輩にお願いがあるんですよー!』

嫌な予感しかしないんだが。

男「一応聞いてやる」

後輩『先輩、電話でエッチって知ってますか』

男「……切るぞ」

後輩『わわっ、やめてくださいー!』

後輩はなんでこんなに性に正直なんだろうか。

……アイツもだけど、コイツは更に素直で、ちょっと困る。

後輩『う~……やってくれないんですか?』

男「何度も言わせるな。やらん」

後輩『じゃあ先輩の喘ぎ声聞かせてください!』

なんでだよ!?

男「嫌だ!」

後輩『私も喘ぎますから!』

男「そういう問題じゃない!」

後輩『うう……先輩はいつもそう』

お前は俺をどんな目で見てんだ。

後輩『今日はこれで失礼します』

男「ああ、そうしろそうしろ」

後輩『先輩の声が聞けたから、なんだか元気バリバリです!』

そうかい。

後輩『あ、でもこのままじゃ眠れません! ムラムラしちゃって!』

うーん。言葉も無い。

男「じゃあ、今日は徹夜だな」

後輩『うー……スッキリして寝ようと思います!』

男「ちょっ」

何を言い出すんだお前。

後輩『それじゃあ、お風呂でスッキリしてきます! おやすみなさーい!』

そして電話は切れた。

……そ、そうか。

お風呂か。

お、俺もお風呂だと思ってたぞ、うん。

男「風呂、か」

そろそろ風呂時ではあるな。

んー、でも。

なんだか、気乗りしない。

風呂は好きなんだが、このモヤモヤした気持ちはなんだろう。

俺は無意識に携帯で、ヤツに電話をかけた。

男「……ええ!?」

いきなり何してんの俺!?

これで出られても、何も言えないぞ!?

だからって切ったらかけ直して来るかもしれないし……。

とりあえず、待とう……。

男「……」

おかしい。

いつもなら、ワンコールで取ってくるのだが。

いつまでたっても、出ない。

男「……しかたねえ」

かけ直してきたら、適当に答えよう。

結局、暇なままだ。

ダメだ、何もない。

ベッドに横たわって、天井の上を見る。

よく知っている天井。

当たり前か、そんなこと。

ゆっくりと上半身だけを上げて。

ふいに、思いついた言葉を漏らした。

男「……散歩」

そういえば、昔。

夜に散歩とか、よくしてたな。

することがなくて、近所をぶらりと。

……あの頃と変わってないのか、俺。

男「……行くか」

とにかく、何かをしたかった。

だから、俺はベッドから跳ね起きた。

ギシッっと音がした。

男「……鳴るじゃねえか」

妹「お兄ちゃん、どこ行くの?」

男「げっ」

見つかってしまった。

妹「ちょっと、何その反応!」

男「いや、別になんでもない」

妹「……それで、どこ行くの?」

男「別に、どこも」

妹「じゃあなんで靴を履いてるの?」

男「出かけるから」

妹「何もなくないじゃん!」

男「いや、出かけるって言ってもアレだぞ。別にどこかに行くとかじゃなくてな」

妹「……散歩ってこと?」

男「そーゆーこと」

妹「お兄ちゃんって時々行くよね」

最近は行ってなかったけど、と付け加えた。

男「外の風に当たりたいんだよ」

妹「ほんとーは誰かと会ってるんじゃないの~?」

口の端を釣り上げている。

男「会ってないよ。一人で歩いてんだ」

妹「怪しいなぁー!」

むふふ、と含み笑い。

何が怪しいというのだ。

男「誰かと歩きたいならお前のこと誘うよ」

俺は妹となら永遠に話せる自信があるぞ。

妹「ふーん」

反応薄っ!!

妹「じゃあ一緒に行ってあげようか?」

男「今日はいいや」

妹「ぶーぶー!」

頬を膨らませて怒る妹。

男「また今度な」

妹「こんな夜遅くに出て、危ないことしないでね」

男「危ないことって?」

妹「例えば……ひ、非行に走るとか!」

そんなこと心配してるのか。

本当にプリティーなシスターだ。

男「まあ、いつものルートだから安心しろ」

妹「お兄ちゃんのいつものルートなんか知らないよ」

そりゃそうか。

一緒に行ったこと、あんまり無いし。

男「まあ、大丈夫ってことだ」

妹「むーっ」

男「なんだ? まだ何かあるのか?」

妹「何もないよーだ!」

ベーッと、舌を出される。

何かにつけて、可愛いやつだ。

男「じゃあいってくる」

妹「さ、先にお風呂入って寝てるからね! 寂しくて泣いても知らないから!」

男「それは悲しいな」

お出迎えしてくれないと俺は死ぬ。

妹「本当?」

首を傾げている。

男「とか言いつつ待っててくれると俺は信じてるぜ」

妹「待つわけないじゃん!」

極めつけはプイッと、そっぽを向かれた。

結構時間を取られたが、やっと家を出る。

久しぶりに、夜に散歩するな。

だからといって、懐かしいとかそういう気持ちはない。

男「ブラっと行くだけだもんな」

別に、深く何かをするという感情はない。

だが、ルートはいつも同じ。

数年経っても、それは同じだ。

数年前のわずかな記憶をたどってみると。

街灯が増えていたりしたなとか。

『犬の糞は持ち帰ってください』などのポスターとか。

案外地味な変化がある。

まあ、だからなんだと言われたらそれまでだ。

「おや」

男「ん」

目の前に現れたのは、

女「やあ、運命だね」

ヤツだった。

男「こういう時は偶然とか奇遇とか言うんじゃないのか?」

女「うん、それもいいかもしれないね」

ヤツの隣には、小さな犬がいた。

あれ、コイツ犬飼ってたか?

男「お前、それ」

女「ああ、この子は近所の人の犬なんだ。留守番中の散歩を頼まれていてね」

そう言って、犬を軽く撫でた。

なるほどな。

だから電話に出なかったのか。

男「携帯電話、ちゃんと携帯しとけよな」

女「え?」

キョトンとした声を上げて、ヤツは俺を見た。

女「もしかして、ボクに電話をかけたとか?」

男「まあ、そんなところだ」

女「うーん、惜しいことをしたなぁ」

けれど。

こいつが携帯を携帯していることって、あんまし無いんだよな。

まず、学校にも持ってきてないし。

そして、現在進行形で持ってないし。

女「おや」

犬が急に踏ん張り始めて。

女「ふふっ、ウンチだね」

すかさずスコップで糞をすくって、袋に入れた。

女「こんな道端でできるなんて、犬は羨ましいね」

男「何を言ってんだ」

女「夜のテンションは人をおかしくするよ」

お前はいつも平常運転だろ、それで。

女「こんな時間に出会ってしまったんだ。青姦でも洒落込むかい?」

男「遠慮しておく」

平気で口にするような用語じゃないぞ。

女「遠慮は無用さ。この子も一緒にね」

お前、正気か。

女「あはは、目が怖いよ」

お前がそうさせたんだろ。

洒落にならん。

女「それじゃあ」

そう言って、俺の横を通り過ぎて、

女「また、明日」

と、にこやかに言った。

男「おう」

軽く手を振っているヤツを見届け、俺はまたゆっくりと歩き始めた。

男「あっ」

そういえば、この散歩のルートには、

公園があったな。

男「たまには行ってみるのも面白いかもな」

でも、もし人いたらどうしよう。

……とりあえず、確認してから中に入ろう。

まったく、臆病者である。

男「……」

公園を覗いてみたけれど。

暗くて全く見えない。

男「怖っ……」

幽霊とかは信じないタチだが。

不審者を怖がってしまう。

男「……大丈夫っぽいな」

まあ、こんなに暗いんだし。

人がいるなんてこと、無さそうだな。

俺は恐る恐る中に入っていった。

この公園は、結構馴染みの場所だ。

男「……懐かしいな」

初めてアイツに会った場所だ。

それに――。

男「うおっ」

急に、携帯が鳴り出した。

男「も、もしもし?」

その電話は、クラスメイトの男子だった。

こんな夜遅くに、連絡網が回ってきたようだ。

『明日転校生が来る』、という内容だった。

だからって、別にしなくてもいいだろうに。

先生、本気で忘れてたんだな……。

男「やれやれ」

そんな声を出して、俺は携帯をしまった。

そして――。

「……あの」

と。

か細い声が、聞こえた。

男「えっ」

誰かいたのか。

「……男、くん?」

俺の名を、知っている。

男「そ、そうですけど……」

「……やっぱり!」

だ、誰だ……?

男「あの、どなた、ですか」

「もう、忘れちゃった?」

ピカっと、ライトが点く。

携帯のライトだ。

「私だよ、私」

男「……?」

俺と同い年くらいの女の子。

しかし、見覚えはある。

男「も、もしかして……」

「……」

男「幼馴染か……?」

幼馴染(以下、幼)「えへへ、久しぶり」

男「お前……なんで?」

幼「うーん、戻ってきた感じかな」

こいつは俺の幼馴染だ。

小学校の頃、こいつとよく遊んだ。

それも、ほぼ毎日。

幼「こんなところで会えるなんて、ビックリしちゃった」

男「俺の方がビックリだ」

幼「ここって、よく一緒に遊んだもんね」

そうなんだよな。

幼「私、着いたら絶対最初にここに行こーって思ってたの」

男「さっき着いたのか?」

幼「うん」

と、歯を出さずに微笑む幼馴染。

幼「んーなんだかあんまり変わってなくてホッとしたなぁ」

大きく伸びをして、彼女は欠伸をした。

幼「うわっ、欠伸出ちゃった。男くんに会って、安心しちゃったのかも」

男「それに、もう夜も更けてるからな」

幼「そうだね」

彼女は空を仰いだ。

幼「……星、綺麗だなぁ~」

俺も、夜空を見上げた。

星は、とても鮮明に見えた。

幼「なんだか、帰ってきたのに同じことしてるなぁ」

男「どういうことだ?」

幼「越したところでも、こうやって星空をよく見てたんだ」

ああ、そういえば。

こいつは好きだったな、空を見るのが。

俺が遅れてやってくると、空を見てて。

幼「飽きないなー」

と、言うのだ。

男「……ぷっ」

幼「な、なに?」

男「昔と変わってないな、お前」

ついつい、笑っちまう。

幼「もー、変わったよー」

男「髪型もそんなに変わってないじゃん」

腰まで伸びる、ロングヘアー。

幼「むむ、じゃあ明日はちょっと変えていこうかな?」

男「そのままでいいと思うぜ」

幼「そう?」

男「見慣れてるし、似合ってるからな」

俺はニコッと笑う。

幼「ぷふっ……男くんだって笑い方変わってないっ」

ふふふっ、と堪えるように笑っている。

ん、明日は?

それって、一体……。

男「引っ越して、それで、学校はどこなんだ?」

幼「ああ、学校ね」

彼女はロングスカートのポケットから生徒手帳らしきものを取り出した。

幼「じゃじゃーん!」

そこには、よく見たことのある生徒証があった。

俺と、同じ高校だ。

もしかして、転校生って……。

幼「確か、男くんも一緒の学校だよね?」

男「なんで知ってんだ?」

幼「お母さんから聞いたの。うちのお母さん、男くんのお母さんと仲良いから」

どんどん思い出してくる。

家族ぐるみで仲良いんだよな、俺達。

男「そうだったそうだった。マメに連絡取り合ってるって言ってたな」

という母さんも、今は海外でバリバリ仕事中なわけだが。

幼「妹ちゃんは元気?」

男「元気元気。母さんの代わりみたいになってるよ」

幼「わー、頼もしいね!」

男「最近俺は注意されっぱなしだ」

幼「あはは、立場逆転だね」

俺も、そう思う。

幼「それにしても」

幼馴染は、俺をジッと見つめて。

幼「大きくなったね、男くん」

男「……その、くん付けやめろよ」

小学校の頃付けてなかっただろ。

なんか、むず痒い。

幼「ああ、そうだね。……久しぶりで、ちょっと緊張してたからさ」

まあ、そうだな。

小学校以来って。

本当に、昔のことだもんな。

幼「えへへ、男」

男「改めて言われると照れる」

幼「男が言えって言ったんじゃない」

男「やめろとは言ったけど、言えとは言ってないぞ」

幼「えー酷い!」

男「ははっ」

小学校の頃から変わらない性格。

それに、俺にとってコイツは――

――初恋の人だ。

男「ただいま」

妹「おかえりー」

タオルを首にかけた、パジャマ姿の妹。

男「……ふっふっふ」

妹「あっ……い、今から寝ようとしてたんだよ!」

今はそんなことはどうでもいい。

男「妹よ、聞くがいい」

そう言って、俺はちょいちょいと手招きする。

妹「なぁに?」

俺の口に耳を傾ける妹。

男「実はな……」

そして、次の日のことだ。

妹「お兄ちゃん起きてー!」

男「んあっ」

妹の大きな声で起こされる。

最近は朝起こす時のみ部屋にノック無しで入っていいということにした。

そうしないと、俺はなかなか起きないのだ。

妹「さー、今日も張り切っていきましょー!」

男「妹……元気だな」

妹「あったりまえでしょー! だってだって」

クルクルとファンタジックに回りながら。

妹「幼馴染ちゃんが帰ってきたんだもーん!」

それにしたってテンション高いな。

妹「あれれ、お兄ちゃんあんまり喜んでない?」

男「いや、喜んでるさ」

妹「ふーん?」

ただ、そんなに表に現すほどの喜びではない。

まあ、内側では結構ハイだが。

妹「それに転校生が来るんでしょ?」

男「ああ」

妹「その転校生って、もう確実に幼馴染ちゃんじゃん!」

キャー! と大喜びの妹・

まるで自分のことのように喜んでいる。

妹「もー、お兄ちゃん優しくしてあげないとだめだよ!」

男「わかってるさ」

妹「久しぶりでお兄ちゃんしか頼れないだろうしさ!」

そうなのだろうか。

あいつの社交性なら、どんどん友達を作りそうだけれど。

数年で変わったところはあまりなかった。

身長や顔はとても女らしく、綺麗になっていた。

おまけに、胸もなかなか。

妹「……お兄ちゃん何考えてるの?」

男「んっ、いやぁ、妹がいつも起こしに来てくれて俺は幸せものだと思っただけだ」

妹「だったら早く朝食食べてよね。せっかく起こしたのに遅れたらどうすんのさ」

男「そうだな……じゃああと五分」

妹「お兄ちゃん?」

男「は、はい」

厳しい妹である。

朝は基本的に和食で、ごはんとみそ汁は常である。

男「いただきます」

それだけでは寂しいので、卵焼きや鮭やらが食卓を彩っている。

うん、朝からお腹がいっぱいになりそうだ。

妹「学校で起きたこと、教えてね!」

男「お、おう」

妹、幼馴染のことそんなに好きだったのか。

まあ、頼りない兄貴よりお姉ちゃんの方が良いってことなのか。

うーむ、複雑だ。

妹の家事を眺めつつ、ご飯を黙々と食べる。

男「ごちそうさま」

妹「はーい。置いといていいよ」

よく出来た子だ。

男「時間は……」

妹が起こしてくれるおかげで、毎日遅刻で慌てることはない。

ただ。

男「……もう時間がない」

違う意味で慌てることが多い。

俺は早速顔を洗って、制服に着替える。

教科書は基本的に置き勉だ。

男「じゃあ、行ってくる」

妹「はーい」

玄関の扉を開けると。

女「やあ」

そこにはヤツが立っている。

早いんだよ、お前。

女「朝起きて、気づいたらここにいた」

男「そりゃちょっと病気だな」

女「そうだね。無意識にくまさんパンツを穿いてきてしまった」

言わなくていい。

女「ボクが家で愛用しているパンツをまさか今日に限って穿いてきてしまうとは」

愛用していることすら聞きたくなかった。

女「それじゃあイこうか」

男「イかねーよ」

女「学校に行かないのかい?」

……もういい。

こちらが乗るとすぐに落としてくる。

なんとも悪魔みたいなやつだ。

悪魔の羽と尻尾とか生えてるんじゃないか?

女「お尻を見てどうしたのかな?」

う、無意識に見てしまっていた。

女「そんなにくまさんが気になるのかな?」

違う。

女「くまさんはボクのお尻を守ってくれるんだ」

お尻を手で隠しながら、ヤツは言った。

そんなこと聞いてねえ。

男「そういえば、連絡網回ってきたか?」

女「ああ、うん。お母さんから聞いた」

それがどうかしたの? と言わんばかりに頭にハテナを浮かべている。

男「いや、特に意味はないんだけどな」

女「そうなのかい? もしかして、可愛い女の子が来るかもしれないよ」

……まあ、ハズレてはいない。

女「男の子達はそういう話題をよく華を咲かせるらしいけれど、君は?」

男「さあな」

してたとしても言わん。

女「そうか。じゃあボクとしようか?」

男「なんでお前とせにゃならん」

女「ボクも可愛い娘には興味があるからね」

こいつ、バイか。

男「そんな話はせんでいい」

女「おや、興味がないのかい?」

ないわけじゃないけど。

俺は知ってるんだから。

する必要なんてまったくない。

女「それにしても、不思議だね」

男「あん?」

女「この時期に転校なんてさ」

男「まあ、そうだな」

多分父親の都合だろう。

幼馴染が引っ越した理由は、父親の転勤だったはずだし。

女「まあ、親の都合かな」

男「そうだろうな」

女「ねえ、男の子か女の子か、どっちだと思う?」

男「え……」

女「賭けをしようか」

賭けって。

俺はもう答えを知ってるようなもんだぞ。

以前お前に目隠しされた時同様に。

答えは決まりきっている。

女「君は、どっちだと思う?」

男「……お前から、言えよ」

女「そうかい? じゃあ……どうしようかな」

顎を擦りながら、思案するヤツ。

女「女の子、かな」

男「!」

正解だ。

女「君は、どっちなんだい?」

男「そうなったらオトコって答えざるを得ないだろ」

女「別に、思った方を言っても構わないよ」

そうは言ってもなぁ。

女「負けた方はあんなことやこんなことされちゃうけどね」

どんなことだ。

女「それでは、お答えください」

男「……オンナ」

女「ふむ。そうか」

ヤツはニコッと笑って、

女「結果が楽しみだね」

と言った。

まあ、答えはわかってるんだけど、な。

朝のホームルーム。

颯爽と黒板に名前を書いて。

幼「今日からよろしくお願いします」

と、深々と頭を下げた。

男子は周りのやつと目配せをしたり。

女子はきゃいきゃいとナイショで話をしている。

まあ。

幼馴染は異性にも同性にも人気だったしな。

女「どうやら二人とも正解だったね」

と、隣の席のヤツが言った。

男「ああ、そうだな」

女「おや、反応が薄いんだね」

あんなに可愛い娘なのに、と。

ヤツは不思議そうに言った。

男「いや、まあ」

すると、幼馴染と目が合う。

幼馴染「あっ」

声をあげて、俺に手を振った。

女「おや」

男「……」

そして、こちらに近づいて。

幼馴染「……後ろの席、空いてる?」

男「……あ、ああ」

俺の後ろの席に座ったのだった。

幼「えへへ、良かった近くで」

男「……」

女「……」

ヤツは黙って、教科書の準備を始めた。

幼「これからよろしくね、男」

男「おう」

そして、ホームルームが終わった。

幼馴染は思った通りたくさんのクラスメイトに囲まれた。

こんなことって、現実でもあるんだな。

女「どうやら、知り合いのようだね」

男「おう」

女「じゃあ、答えは知っていたのか」

そうだな。

女「ふふっ、君にもあんなに可愛い女の子の友達がいたなんてね」

ほっとけ。

ヤツも幼馴染も、勉強はできる。

だから授業中にちょっかいを出してきたりはしない。

ヤツは伊達メガネをかけて、真剣にノートをとっている。

幼馴染もしっかりとノートをとっている。

幼「?」

男「っ……」

見ているのがバレた。

そりゃそうか。後ろ向いてたらそりゃあバレる。

視線を戻した途中で、ヤツにニヤリと笑われた。

くそ、バレバレか。

俺もノートを取るか。

黒板では教師がカツカツと文字を羅列していた。

シャーペンを持って、俺は文字を追う。

そしてゆっくりと頭が重くなり、静かに寝息を立てた。

つまり、おやすみだ。

授業終わりのチャイムと同時に反射的に起きる。

男「んっ……」

小さく伸びをして周りを見渡す。

女「ねえ、ご飯だよ」

男「……ああ」

どうやら、昼飯らしい。

今日はいつも以上に量が多かった朝食のせいか、お腹の減りがそれほどでもなかった。

幼馴染「あ、あの、男?」

男「ん」

幼馴染「わ、私もいいかな?」

と、幼馴染は恐る恐る俺に聞いた。

俺は構わないんだが。

男「……いいぞ」

幼「良かったー」

男「お前もいいか?」

ヤツは黙って、ゆっくりと頷いた。

幼「この人は、男のお友達?」

はじめまして、と幼はお辞儀する。

ヤツもお辞儀をするが、声は出さない。

男「中学の頃越してきてな」

幼「そうなんだ!」

ウンウンと首を縦に振りながら、幼馴染も弁当をつつく。

幼「男の弁当大きいね」

男「妹が作りすぎるんだ」

幼「ふふふ、愛されてるねー」

ああ、愛で満ち溢れてるよ。

そのせいで全く残せない。

幸せ太りの可能性もあるぞ。

幼「私は自分で作ってるんだよ」

男「へえ」

小さな弁当には、細工のきいたおかずが入っている。

一言でいうと可愛い。

幼「女さんは?」

と。

黙ったまま弁当を食べていたヤツに、幼馴染は話を振った。

女「……自分」

小さく声を出した。

幼「へえ、女さんも作るんだ」

……というかお前、誰だ。

なんだ今の声。

初めてきいたぞ。

中学からの知り合いなはずなのに。

今の声はなんだ。

いつもより声高かったぞ。

幼「あ、これ美味しそう。食べていい?」

ヤツは目線を逸らしつつ頷く。

コイツ、本当に人付き合い下手だな。

幼「うわっ、美味しい!」

幼馴染は顔を緩ませた。

幼「これ、どうやって作るの?」

女「……今度」

男「ちゃんと答えろよ」

俺の言葉にビクリと反応した。

幼「ちょっと、男。そんな言い方しなくてもいいでしょ」

うぐ。

俺が怒られた。

でも、答えないコイツもコイツだろ。

なんで喋らないんだ。

いつもなら口を開けば下ネタなのに。

しかもその怯えた顔はなんだ。

憎たらしい笑顔はどうしたんだ。

幼「あはは、女さんは、恥ずかしがり屋なのかな?」

女「……」

コクリと、小さく頷いた。

嘘つけ。

なんやこれ

糞やな

くっさ!うんこやんけ!

コイツが俺以外と喋っている所を見たことがない。

そして、今目の当たりにしたことを考えると。

コイツの社交性は皆無に近い、ということだ。

男「はぁ」

ため息を吐いてしまう。

幼「男?」

男「あっ、なんでもねー」

俺は大量の弁当を一気に口に押し込んだ。

女「だーれだ」

男「……なんのつもりだ」

女「さあ、ボクが誰だかわかるかな?」

男「手を離せ。 女「だーれだ」

男「……なんのつもりだ」

女「さあ、ボクが誰だかわかるかな?」

男「手を離せ。見えん」

女「もしかして、わからないのかな?」

男「おい、鼻息が当たってるぞ」

女「もっと近づいて、声を聞けばわかるかなと思ってね」 えん」

女「もしかして、わからないのかな?」

男「おい、鼻息が当たってるぞ」

女「もっと近づいて、声を聞けばわかるかなと思ってね」

そして、やっとこさ授業が終わった後のことである。

幼「男」

男「ん?」

幼「あのね、誰かに学校の案内してもらってって、先生に言われてたんだけど」

男「ああ、じゃあ俺がするよ」

俺に声をかけたのは、つまりそういうことだろ。

幼「あー、ごめん」

男「え?」

女「だーれだ」

男「…… 女「それじゃあ、帰ろうか」

男「おう」

女「夏休みもすぐに終わってしまったね」

男「そうだな

女「ん、どこだい?」

男「今学期からポニテになった」 」

女「さあ、ボクが誰 男「……」

女「いつも一緒に帰っているのに、酷いなぁ」

男「ん……」

女「ふふっ、答えはボクでした」 ?」

男「手を離せ。見えん」

女「もしかして、わからないのかな?」

男「おい、鼻息が当たってるぞ」

女「もっと近づいて、声を聞けばわかるかなと思ってね」

男「ドヤ顔ダブルピース」 」

女「君にとっては、これでわかるだろう?」

男「なんだそりゃ」

女「ドヤ顔ダブルピース」

男「脈絡のないネタを挟むな」

女「ふふ、 女「ドヤ顔ダブルピース ?」

男「ああ、そはうざい」

女「ドヤ顔ダブルピース」

女「いいじゃないか、脈打つような効果音!」

男「ポニテに使う効果音じゃねえ!」

女「じゃ顔ダブルピース 」

男「それがいいな」

女「ピョンピョン♪」

男「ウサギの 女「ドヤ顔ダブルピース 似はしなくていい」

俺じゃないのか。

幼「あのね、女さん」

女「!」

突然の指名に驚くヤツ。

いや、お前以外にいないから、周りをキョロキョロしてもお前だ。

女「……?」

幼「あの、学校の案内してくれる?」

男「え、お前、コイツにさせるのか?」

幼「うん。女さんと、仲良くなりたいから」

女「手で耳を表現しました」

男「じゃあちょっと触らせてくれ!」

男「もっとダメになってる!」

女「なんならいいんだ!?」

男「逆ギレかよ!?」

女「居直っただけだよ」

男「ほぼ意味変わってねえよ!」 」

女「じゃあ君は亀さんだ」

男「ウサギとカメって、安直だな。俺のどこに亀の要素がある?」

女「え? 君のここには亀 10 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします age 2013/09/08(日) 10:38:39.35 ID:woXwgmZt0
しね ?」

男「どこ見て言ってんだ」

女「興奮すると首を伸ばす」

男「じゃあ視姦!」

男「余計ダメになってんじゃねえか!」

女「じゃあちょっと触らせてくれ!」

男「もっとダメになってる!」

女「手で耳を表現しました」

男「言わんでもわかる」

女「じゃあ君は亀さんだ」

男「ウサギとカメって、安直だな。俺のどこに亀の要素がある?」

女「え? 君のここには亀さんがいるんじゃないのかい?」

男「どこ見て言ってんだ」 !?」

男「逆ギレかよ!?」

女「居直っただけだよ」

男「ほぼ意味変わってねえよ!」

幼馴染のヤツ。

小学校の頃から変わらず、真っ直ぐな目をしている。

男「そうか……」

女「……」

俺はヤツの肩をポンと叩いて。

男「っつーことだ」

女「困ったな」

と、苦笑した。

幼馴染きってのご指名だ。

ここはしっかりと案内しろよ。

男「……やっぱり夏休みからお前は全然変わってねえ」

女「うん、君も相変わらずだね」

男「ちっ」

女「あ、舌打ち」

男「はぁ……」

女「おや、ため息」

男「……やっぱり夏休みからお前は全然変わってねえ」

女「ふふ、そういえば知ってるかい?」

男「あん?」

女「秋は移ろいの季節だ」

男「……」

女「心も、少しずつ冷えていくんだ」

女「ちっ」

男「はぁ……」

女「ふふ、そういえば知ってるかい?」

男「あん?」

女「秋は移ろいの季節だ」

男「いきなりだな……」

女「夏の暑さは、少しずつ秋、冬と寒くなっていく」

男「 ポニーテールを軽く揺らして、ヤツはそう言った。」

女「『秋』と『飽き』をかけた人はすごいね。的を射ている」

男「そうだな」

女「ボクらしくないことを言った。と、ヤツは照れくさそうに頭を掻いた。 」

心「男も、少しずつ冷えていくんだ」

男「まあ、たまにはいいじゃないか?」

女「これからはどんどん下衆なネタを突っ込んでいくよ」

いや、それはいらないけど。

男「秋って、なんか行事あったっけか?」

女「修学旅行があるだろう?」

女「と言っても、一ヶ月もあとのことだけれど」

男「うわー」

聞きたくなかったな、それは。

女「大丈夫だよ。殺されそうなんだが」

大丈夫なのかそれは。

男「ああ、そういえば」

すっかり忘れていたが、そうだったな。

 

久しぶりに、一人で帰る。

いつもは会話して帰っている場所も、何も喋らずに帰ると、新鮮だ。

さらに、距離も心なしか遠い気がする。

男「うん」

さっさと帰って、妹と戯れよう。

妹よ、待ってろよー!!

女「だ、だだ、大丈夫だよ……ハハハ」

グサっ……

女「でも、夏休みが終わってよかったかな」

男「 なんだよそりゃ。」

女「学校があるからこそ、この時間はあるんだから」

男「でも、話だったらいつもしてるだろ?」

女「そうだね。ベッドの上でギシギシとね」

男「してねえ」

どんな話してんだよそれ。

女「基本しないだろ?」

俺「君と話をしながら下校ができるからね」

はあと二、三ヶ月欲しかったけど。

ガチャ。

男「あれ?」

鍵閉まってる。

男「……ま、まさか」

妹がまだ帰ってきていない……だと?

いや、それはない。

多分買い物か何かだろう。

俺はスクールバッグに入っている予備の鍵を取り出して、解錠した。

中に入るとそこには……。

男「!!!!!」

脱ぎ捨てられた妹の制服があった。

男「こここ、これは……」

俺に何をしろというんだ。

妹よ、俺を試しているのか。

男「これは……もう……」

アレしか、ない。

男「畳もう」

畳んで、綺麗にしておいた。

いつもならちゃんとしている妹が、どうしてこんなに散らかしていたのか。

まあ、どうでもいい。

男「妹、いないのか」

妹がいないとなると、することないな。

うわ、やばい、ゲームくらいしか思いつかないぞ。

そして、結局ゲームをやっていると。

妹「お兄ちゃん、帰ってきてるのー?」

と、下の階から可愛い声が聞こえた。

愛しのマイシスターである。

男「おーう、おかえり」

妹「ただいまー幼馴染ちゃんは?」

男「知らん」

妹「えー! 今日一緒に帰ったりしなかったの!?」

と言われても。

階段を降りて、妹の場所へ。

妹はエプロンを着けているところだった。

男「幼馴染は前の家とは違うから、多分一緒には帰れないんだ」

妹「え、そうなんだ……」

男「前みたいにはいかないさ」

妹「うー……でも私幼馴染ちゃんに会いたい!」

そんなこと言われてもな。

でも、この時間なら案内はもうとっくに終わってるだろうし。

電話してみるか。

男「じゃあ、電話かけてやるよ」

妹「ほんと!?」

可愛い妹のためだ。

公園で会った昨日、その時についでに教えてあった電話番号。

通話ボタンをプッシュ。

男「……」

妹が目の前でドキドキしながら見つめている。

俺もドキドキするぞ、妹。

幼『もしもし?』

男「おう、幼馴染か」

幼『どうしたの?』

男「いや、実は妹がお前と話したいって言うから」

幼『あっ、そうなの! 私も妹ちゃんと話したい!』

男「じゃあ代わるよ。ほら」

妹は嬉々として電話を持つと、

妹「お、幼馴染ちゃん!?」

と、上ずった声で言った。

別に妹の電話を待っている意味もないので、俺は部屋に戻ることにした。

それにしても、案内はどうだったんだろうか。

あまり気にしていなかった感じだし、一応つつがなく終わった、のだろうか。

階段を上っている途中、インターホンが鳴った。

男「ん?」

今妹は通話中なので、俺がインターホンの受話器をとった。

男「はい?」

声をかけると。

女『ボクだ』

いつもの声が、受話器から聞こえた。

男「どうした?」

女『ちょっとだけ、あがらせてもらってもいいかな?』



いきなりだが、断る必要もない。

男「ああ、いいぞ」

そういって、俺は受話器を置いて、玄関に向かった。

扉を開けると、そこにはヤツがいて。

少し、目が赤かった。

男「お、おい、どうした?」

女「あはは……」

ヤツはペコッと頭を下げた。

女「お邪魔します」

男「あ、ああ」

いつもとは違って、しおらしい感じだ。

とりあえず、俺の部屋に行く。

……なんだか、だんだん抵抗が無くなってきている自分が怖い。

男「で、どうしたんだよ」

女「いやあ、あはは……」

笑顔に元気がない。

なんというか、苦笑という感じだ。

女「やっと、肩の荷が下りた感じでさ」

と、ヤツはいきなりベッドに倒れこんだ。

男「はは、幼馴染の相手は疲れるってか?」

コイツにも苦手なものってあるんだな。

女「疲れるわけじゃないよ。ただ……」

男「ただ?」

女「彼女には、ボクの持っていないものを持っているから」

男「ふうん?」

そりゃ、胸も身長も幼馴染には勝てないよな。

女「む、どこを見ているのかな?」

男「気にするな」

女「気にするよ」

男「そっちはじゃない」

女「ふふっ」

やっと。

ヤツはいつもの笑顔に戻った。

女「今日は許可をもらって中に入れさせてもらったことだし」

男「なんだ?」

女「くまさんを見せようかな」

男「見せんでいい」

女「でも、朝から気になっていただろう?」

ただボーっと見てただけだ。

男「別に気になってねえよ」

女「じゃあ、ボクのお尻に興味が!?」

もっと悪い方向に進んだ!

女「ボクの桃尻にむしゃぶりつきたいというんだね……」

自分で桃尻って言うな。

女「でも、ボクまだ蒙古斑があるんだ」

男「嘘だろ!?」

女「うん、嘘だ」

嘘かよ!

女「そうか……君はおっぱい好き以外にも、お尻好きもあったんだね」

尻を振るな。

女「ケツだけ星人をやってもいいかな?」

男「やめろ」

お前は五才児か。

男「それよりも、だ」

女「ん?」

コイツに、聞いておかないといけないことがある。

男「案内は、どうだったんだ?」

女「案内かい? ちゃんとしたさ」

ヤツは意外にも普通に答えた。

女「その間、色々なことを聞かれたけれどね」

男「ふーん」

まあ、どんなことを聞かれたかは聞かないでおこう。

男「それで、仲良くなれそうか?」

女「彼女自身、とても素敵で可憐で、可愛らしくて、美しい人なのだけれど」

一息置いてヤツは言う。

女「なんだか、敵わない気がした」

敵わない?

どんな表現だよ。

女「ふふっ、なんだか理解に苦しむ顔をしているね」

ヤツは無断で俺のベッドに横になった。

女「理解しなくてもいいさ。多分、一生わからないだろうから」

男「……」

なんだよ、それ。

女「ねえ」

男「ん?」

女「彼女からも、色々と聞いたのだけれど」

彼女ってのは。

多分幼馴染のことだろう。

女「君と彼女は、どんな関係だったんだい?」

コイツ、ストレートに聞くなぁ。

男「別に、普通で平凡で一般的な、普遍なオサナナジミだ」

女「出会いは?」

男「……幼稚園」

女「クラスは一緒だったのかい?」

男「小学校は六年間同じだ」

急にグイグイ来るな、コイツ。

女「よく一緒に星を眺めていた?」

男「っ……まあな」

幼馴染のやつ、色んなこと教えすぎだろ。

女「……君は、彼女のことが好きかい?」

男「え……」

いきなり空気が変わったのは、言うまでもない。

穏やかに昔をほじくり返していた感じではなく。

鋭く、それでいて鈍い、なんとも言えない空気だ。

男「ああ、好きだ」

……でも。

男「……小学校の頃はな」

女「ふうん」

ヤツは意地悪そうに微笑んで。

男「こ、この話は終わりだ。もう答えないぞ」

女「うん。ボクももう質問はしない」

ヤツは更に、俺の枕に顔を埋めて。

女「あー……凄い」

と、のたまった。

男「おい、人の枕の臭いを嗅ぐな」

女「臭いじゃないよ、匂いだよ」

良いニオイなわけねえだろ!

男「やめろ、最近洗ってないんだ!」

女「尚更素晴らしい! くんかくんか!」

男「変な擬音を使うな!」

女「ああああ、嗅覚が君に満ち溢れていく!」

気持ち悪い表現!

男「離れろってお前!」

女「も、もうすこし」

ベッドにいるヤツを引き剥がそうとした刹那。

俺は足を滑らせて転んだ。

そして、ヤツの上に、乗っかってしまった。

女「あっ」

男「す、すまん……」

女「やれやれ、性に正直だなぁ」

そんなつもりじゃない!

まるで押し倒したような形になる。

というか、コイツが俺の方に顔を向けたせいだ。

女「近くで見ると、なんだか恥ずかしいね」

ヤツは唇をペロリと舐めた。

なんか、危険だ。

女「こんなところ、妹くんに見られたらどうなるだろうね」

男「ぐっ……」

俺はすかさずヤツの上から離れた。

男「事故だ事故」

女「そうか、それなら良かった」

ヤツはスカートをパンパンと払って。

女「ボクにも心の準備が必要だからね」

と。

無邪気に笑った。

男「どういう意味だよ」

なんか、準備ができてたらいいみたいじゃねえか。

……て、何考えてんだ俺は。

女「それに、君がボクを襲うことなんてできないだろうしね」

当たり前だ。

いきなりそんなことできるか。

女「ね、さくらんぼくん」

こんの野郎っ!

くそ、悪かったな……。

女「安心してくれ、ボクも処女だ」

男「聞いてねえ」

女「あ……訂正」

訂正?

ま、まさか

女「ボクは美処女だ」

男「自分で言うな」

あとなんだその単語。

女「そういえば、十月の行事についてなのだけれど」

話を変えるのが上手いんだか下手なんだか。

男「なんだ?」

女「今年はハロウィンパーティーもあるらしいよ」

男「ハロウィンパーティー?」

女「うん。なんでも生徒会が催すだとか」

男「へえ……」

女「じゃあ、ボクはこの部屋で催そうかな」

下半身を震わすな。

男「漏らすなよ」

女「ば、バレた!?」

バレバレだろ。

女「なんてね、実は別にしたいとは思ってない」

男「本当か? じゃあ俺が今から長時間トイレにこもっても平気だな?」

女「それは困るなぁ」

男「……行ってこい」

女「うん。……あっ、別に長くても何も言わないかい?」

なんでそんなこと気にしてんだよ

男「別に」

大くらい誰でもするだろ。

女「喘いだらごめんね」

男「お前人ん家のトイレで何するつもりだよ!?」

女「な、ナニも」

ナニもじゃねえんだよ!!

女「と、とりあえずトイレに行かせてくれ」

男「ああ……あんまり長く居座るなよ」

女「ビデで感じるお年頃なんだ」

知るかよ!!

男「……はぁ」

あいつ漏れそうならもっと顔に出せよ。

なんでずっと笑ってんだよ。

汗も全然垂れてた感じしなかったし。

下半身は見事に震えてたけど。

男「……」

待つこと数分。

……長い。

あいつまさか……。

だからといって、アイツもオンナだ。

オトコの俺に「まだか?」なんて言われたくないだろう。

男「……にしたって」

遅いよなぁ。

よし、トイレの前まで行こう。

どうであれ、ちょっと長いしな。

トイレで居眠りなんてことはないと思うけど。

男「……」

ノックをしようとした時、流れる音がする。

そして、トイレのドアが開く。

女「おや、出迎えなんてしなくても良かったんだよ」

タイミングが良すぎるだろ。

男「お前、長かったな」

女「あはは、ちょっと考え事をね」

本当かよ。

男「てっきりしてるのかと思ったぞ」

大きい方を。

女「あはは……喘ぎ声は抑えたはずなんだけどなぁ」

そっちじゃねえよ!

男「お前……!」

女「してないよ」

だったら言うなよ。

女「ふふっ、焦る君を見たくてね」

コイツはいつもいつも。

本当なのか冗談なのか、わからん。

男「そろそろ晩飯時だけど、食っていくか?」

女「えっ、いいのかい?」

男「ああ、その方が妹も喜ぶだろうし」

女「それじゃあ……」

その時だった。

妹「お兄ちゃーん」

男「んっ、なんだ?」

妹「今から幼馴染ちゃんが来るからー!」

と、妹は言ったのだった。

妹「さっき話してたら、急に来てくれることになったの!」

喜びに溢れる声色を聞いて、ヤツはフッと一笑した。

女「じゃあ、ボクはお暇させてもらうよ」

男「えっ……」

女「客人が二人もいたら、困るだろう?」

ヤツは髪を一度解き、ポニーテールにしなおした。

女「幼馴染さんによろしく」

男「……ああ」

俺の部屋に置いていたスクールバッグを持ち、ヤツは階段を下りていった。

俺も、一緒に下りる。

女「君の家にいると、ついつい時間を忘れてしまうよ」

男「そうかい」

俺も、お前がいると異次元に飛ばされた気持ちになる。

玄関まで行くと、ヤツは手を振って。

女「ここまででいいよ。外まで見送らなくても」

男「けどな……」

妹に色々と苦言を言われるので、それはできないんだ。

男「ちゃんと見送らせろ」

女「しょうがないにゃあ……いいよ」

どっから覚えてきた。

妹「お兄ちゃん何つったって……あっ、女さん!」

女「やあ」

妹「ごめんなさい! 私、電話してて気づけなくて……」

女「いや、気にしなくてもいいよ。そういう時もある」

妹は深々とお辞儀をしたが、ヤツは軽くあしらった。

女「それでは、お邪魔しました」

ペコッと軽く頭を下げて、ヤツは扉を開けた。

そこには。

幼「び、ビックリしたー……」

幼馴染がいたのだった。

幼「あ、あれ? 女さん?」

女「……お邪魔しました」

男「お、おい待っ……」

物凄いスピードで、ヤツは帰っていった。

パンツは、見えなかった。

幼「え、えーっと……?」

幼馴染は首を捻って、不思議そうな顔をした。

誰だってそうなるはな。

妹「幼馴染ちゃーん!」

間髪入れずに、幼馴染に抱きつく妹。

幼馴染「うわー、妹ちゃん! 大きくなったねー!」

妹をよしよしと撫でる幼馴染。

妹「うわー幼馴染ちゃんのにおいだー! 変わってない!」

幼「ええ、そんなの覚えてたの? なんだか恥ずかしいなぁ」

こうやってみると、姉妹みたいだな。

幼「あ、来たよ、男」

男「おう」

妹「幼馴染ちゃん、今日はご飯食べてって!」

幼「ええっ、でも……」

妹のキラキラ光線を受けてやられないやつはいない。

幼馴染もどうやら耐えられなくなったようで、

幼「わ、わかった! じゃあお母さんに連絡するねっ」

妹「やった!」

幼馴染はメールを打って、「これでよし!」とつぶやいた。

幼「何を作るの? 私も手伝わせて!」

妹「えーっとねー……」

ハッ、と俺を見て妹は頬を膨らませた。

妹「お兄ちゃんは上に行っててー!!」

男「わ、わかったよ」

新・保守時間目安表 (休日用)
00:00-02:00 10分以内
02:00-04:00 20分以内
04:00-09:00 40分以内
09:00-16:00 15分以内
16:00-19:00 10分以内
19:00-00:00 5分以内

新・保守時間の目安 (平日用)
00:00-02:00 15分以内
02:00-04:00 25分以内
04:00-09:00 45分以内
09:00-16:00 25分以内
16:00-19:00 15分以内
19:00-00:00 5分以内

どうやらオトコの俺は除け者らしい。

非常に悲しいが、トボトボと階段を上っていった。

男「……さっきのアイツ……」

幼馴染を見るなり、走り出した。

男「……何か、あったのか?」

一応、幼馴染にも聞いてみるか。

飯ができるまでの間、俺は漫画を読んでいた。

大分前に妹から借りた少女漫画。

へえ、少女漫画も読んでみると面白いもんだ。

スイスイ読んで、読み終わった。

漫画を閉じた瞬間、

妹「お兄ちゃーん!」

幼「できたよー」

という、二人の姉妹からのコールが来た。

姉妹ではないが、本当に息ぴったりだな。

というわけで食卓に行くと。

男「……なんだこれ」

食卓に所狭しとたくさんの料理が並んでいる。

幼「張り切っちゃったね」

妹「うん、腕によりをかけて作ったよ!」

男「……これ、みんなで食える分か?」

妹「あー、私達はちょっとだけ食べさせてもらえればいいから!」

幼「食べてくれる人の笑顔が見たいだけだもん」

「ねー」と。

二人合わせて言っている。

五人前はないか、これ。

妹「幼馴染ちゃんの分よそうねー!」

幼「わー、ありがとー! じゃあ私は妹ちゃんの分~」

きゃいきゃいするのはいいけどな。

男「お、俺の分は~?」

妹「はい、これ全部!」

幼「お口に合うかわかんないけど」

いや、待て待て。

お前ら合わせても一人前も満たしてねえよ。

男「へ……これ全部?」

妹「うんっ」

腹が爆発するぞ。

最初は美味しくてガツガツ食えた。

しかし、朝食昼食の蓄積分で俺には限界が近づいていた。

やばい。これはリバースする。

幼「だ、大丈夫男?」

大丈夫じゃない。

妹「えへへ、お兄ちゃんは完食することだけが取り柄だもんねー」

残しづらくなった。

男「う、うおおおお!」

愛しの妹のため、俺は水をフルに活用して飯を流し込んだ。

何度も嗚咽を繰り返したが、なんとか全てを食うことができた。

ただ、もうこれ以上中に入れたり衝撃を加えられたら。

間違いなく戻す。

幼「わー、お粗末さま!」

男「ご、ごちそうさま……」

幼馴染と妹に飯を作らせるのは危険だと、俺は気づいた。

今更遅いけどな。

妹「よーっし、じゃあ私はお皿を洗いまーす!」

幼「あ、私も」

妹「いいのいいの! お兄ちゃんの相手してあげて!」

本当に、何から何まで母親みたいになってるな。

幼「そ、そういうなら……えっと、男、大丈夫?」

男「大丈夫じゃない」

幼「あはは、無理しなくてもいいのに」

じゃああんな量作んないでくれよぉ……。

男「出されたもんは食べる主義なんだ」

というか、妹に『完食することだけが取り柄』とか言われちまったし。

めちゃくちゃ低評価を受けていて正直沈んでいる。

幼「そういうとこ、やっぱり変わってないね」

男「そうか? お前も人の手伝いしたがりは変わってなかったな」

幼「あはは、そうかもね」

男「で、どうだったんだ」

幼「なにが?」

男「案内、アイツにしてもらっただろ」

幼「うん、してもらった」

ニコッと満面の笑みを浮かべる幼馴染。

男「アイツ、ちゃんとしてくれたか?」

幼「結構ちゃんとしてくれたよ」

へえ。

あの感じだと、

女『……ここ、職員室』

とか言って、最低限のことは言わない気がしてたんだが。

幼「結構しっかりと説明してくれてさ」

男「そうなのか?」

幼「そこであった事件とかも教えてくれたよ」

……アイツ、やるな。

幼「あとはね、男の話もしたよ」

男「俺の?」

やっぱりしたのか。

幼「男ってさ、私がいなくても大丈夫だったんだねー」

男「どういうことだ」

幼「だって、小学校の頃よく泣いてたじゃん」

うぐ。

男「よ、よく覚えてないな……」

幼「嘘ー! すぐ泣いてたよ!」

男「……それが、なんの関係がある?」

幼「私、引っ越すとき心配だったんだ、男のこと」

なんだよそれ。

幼「小学校がだんだん上がっていくに連れて、どんどん泣かなくなってたけど」

そう言うと一旦、幼馴染はコップに入ったお茶を飲んだ。

幼「私が越す時に、泣いてたでしょ?」

男「……覚えてない」

幼「それでね、いっつも私男が泣いたらよしよししてたから、『私がいなくなったらどうなっちゃうんだろー』って思ってて」

恥ずかしい。

幼「でも、そんなことなかった。男は、女さんと一緒にいて、少し強くなったみたい」

男「……」

強くなった、と言えるのだろうか。

まあ、下ネタの反応は早くなった。

嫌な成長だ。

幼「女さん驚いてたよ。『彼が泣いているところなんて見たことない』ーって」

男「そうかい」

幼馴染とよく遊んだことは覚えているが。

よく泣いていた記憶はすっぽ抜けている。

人間、自分の都合の悪いところは忘れちまうもんだな。

幼「あの頃の泣き虫さんじゃなくなったんだねー」

男「うるせー」

妹がニヤニヤしながらこっちを見ている。

くそ、聞かれた。

幼「女さんには最近の男のこと教えてもらって、私は昔の男のこと教えてあげたんだ」

男「なんだその生産性のない話題」

幼「あるよ! あるある!」

男「……?」

まあ、共通の話題ってことではあるのか。

幼「なんかさ、女さんって凄く知的で、物静かな娘だよね」

俺のイメージと齟齬が有り過ぎて誰かわからん。

頭が良いのは認めるが。

物静かはダウトだ。

わかってないなぁ、幼馴染は。

俺もコップに入っているお茶を飲む。

幼「でね、男は、女さんみたいな人が好きなの?」

お茶を吹き出してしまった。

男「な、なんでそんな話になる!」

お茶以上と腹ン中のまで吹きそうになったぞ!

幼「えー、でもすっごく仲良さそうなんだもん」

男「いや、そりゃ中学から一緒なの、高校では俺とアイツしかいないし」

幼「結構な進学校なのに、よく入れたね、男」

うるせえ。

そういえば後輩って勉強できるんだろうか。

……いないやつの話をするのはやめておこう。

男「俺の努力が実を結んだのさ」

妹「女さんのおかげのくせに、よくいうよ」

妹、それは言わないでくれよ。

幼「へえ、勉強教えてもらってるの?」

男「ああ、まあ」

幼「へー? やっぱり仲良しじゃん!」

男「……」

まあ、否定はしないでおこう。

幼「それでなんだけど」

男「ん?」

幼「修学旅行の班とかって、決まってるの?」

そういえば、まだ決まってなかった気がする。

なにしろ、テストが終わった後のことだし。

男「いや、まだ」

幼「じゃあさ、男と女さんと私で一緒になろうよ! あと誰か二人くらい誘ってさ!」

思い出した。

幼馴染は、こういうことはテキパキやるタイプだったな。

委員長やってたくらいだし、当たり前か。

男「そうだな」

どうやら話を聞くに、アイツと仲良くなったみたいだし。

妹「ええっ、お兄ちゃん修学旅行行くの!?」

男「行くよ」

妹「……わ、私を一人置いていくつもり!?」

そんな悲しそうな目をしないでくれ。

男「幼馴染……俺は今行こうか行くまいかちょっと揺さぶられてしまった」

幼「男、私もだよ……!」

軽度のシスコンを患っているので、しかたのないことだ。

幼馴染も……いや、シスコンとは言わないけどな。

そして。

幼馴染が転校してきて、ゆるやかにと九月が過ぎ去った。

木の葉の色は赤く色づき、俺達は衣替えの移行期間と共に、十月が到来したのである。

女「テストはもうすぐだ。これからドピュドピュ教えていくからね」

テスト週間に入ったのであった。

男「ドピュドピュ教えてもらうのは嫌なんだが」

女「じゃあ、パンパン?」

お前の擬音センスは本当に酷いな。

男「ドンドン教えてくれ」

女「ドンドンって……叩かれたいのかい?」

太鼓じゃねえんだから。

女「生憎、ボクにはそんな趣味は持ち合わせていないよ」

むしろ叩かれたい。

と、ヤツは口走って。

女「おっと、今のはカットで」

できるかよっ。

女「それじゃあ、今回のテスト範囲なんだけれど」

と言って、ヤツは小さな紙を取り出した。

男「え、なんでお前そんなの持ってんだよ」

女「先生が口頭で言っていたから、メモしていただけだよ」

クソ、こういうとこだけは優等生だ。

女「……もしかして、範囲がわからないのかな?」

男「……」

まったくわからん。

男「まあなんだ、とりあえずその紙をだな」

ヤツの持っている紙を取ろうとしたが、上にあげて。

女「だーめ☆」

と、いたずらっぽく言った。

ムカつく。

女「簡単に見せるほど、ボクは甘くないよ」

男「なんだよ急に」

女「桃尻だけど甘くないよ」

全然うまくねえし。

桃尻は甘くないじゃないのか。

主に桃だろ甘いのは。

ボケに真剣にツッコミを入れる必要はないな。

男「見せてくださいお願いします」

女「それじゃあ『三回回ってニャンっ』して」

なっ……。

女「してくれたら、見せてあげるよ」

と。

小悪魔のような微笑みを浮かべながら言いやがった。

女「ふふっ」

まだ小さいポニーテールを手で遊ばせながら笑ってやがる。

男「……」

この際仕方ない。

コイツの前でなら別に大したことでもない気がしてきた。

俺は立ち上がって、一回転、二回転。

そして、三回転――

幼「こんにちはー」

男「にゃんっ!!」

と、叫んだのだった。

幼「へ!? あの……あれ!?」

男「……幼馴染」

タイミング悪すぎる。

幼「え、えーっと……」

妹のやつ、また勝手にあげたな。

妹よ俺に何も言わずに客をあげるのどうにかできないもんかね。

幼「男がテストの勉強困ってるかなーと思って来たんだけど……」

男「……」

俺は顔を赤くしながら座る。

幼「あ! 女さん!」

女「……」

小さく一礼。

幼「『二人で勉強しよう』とか言ってなかったから、心配できたんだけど」

なんだ、私必要無かったね。

と、幼馴染は苦笑した。

男「いやあ、そんなことないぞ幼馴染!」

いい時に来てくれたな!

男「こいつがさ、テストの範囲見せてくれなくて困ってるんだよ」

幼「え? そうなの?」

男「幼馴染もチェックしてるだろ? 範囲」

幼「え、えーっと……」

これで勝てる!!

幼「私、範囲とか考えずに勉強してるから、いちいち覚えてないよ」

へ?

女「……ボクも」

なっ!?

幼「もしかして、女さん、男のために範囲チェックしてあげてるの!?」

そ、そんなことないだろ!?

女「……」

う、頷いてやがる……。

すげー迷惑かけてるじゃん、俺……。

幼「うわうわー、男は本当に酷いねー!」

男「う、うるせえ!」

というかなんで今回に限って範囲を教えるのを渋ったんだ。

なんか、恥ずかしくなる結果になっちまったじゃねえか!

女「……早くやろう」

男「あ、ああ……」

というかそれよりも。

キャラ変わりすぎだっつーの!!

いつもならここで、

女『さあ早くヤろう!』

とか言い出すところなのに。

黙々と勉強を始めやがった。

この状態のヤツは、なんか話しかけづらい。

男「……あの、幼馴染」

幼「なに?」

男「ここ教えてもらうか?」

必然的に、幼馴染に教えてもらうことになる。

>>390
訂正。
×男「ここ教えてもらうか?」
○男「ここ教えてもらえるか?」

幼「うん、いいよ」

まあ別にいいよな。

三人で勉強するんだから、どっちかに聞くのが妥当だし。

今のアイツは、どうも苦手だしな。

男「ふむふむ」

幼「……てことで、こうなるんだよ!」

男「なるほどな。わかりやすくていいな」

ちょっと、ちょっかいを出してみるか。

男「誰かさんより、教え方上手いよなぁ」

チラリと見てみる。が、

女「……」

ヤツは、我関せずといった感じ。

逆に腹が立つ。

って、俺はなぜコイツにちょっかいを出そうとしてるんだ。

今は目の前の勉強に集中だ。

幼「……んん?」

首をひねる幼馴染。

幼「ねえねえ女さん」

女「?」

幼「これ、わかる?」

女「……」

ヤツは問題文を読むと、サッサと文章を書き上げた。

そこには解説がびっしりと書いてあるようだ。

幼「ふんふん……なるほど! 女さんありがとう!」

女「どういたしまして」

……仲良いな、こいつら。

どうやら、学力的にはヤツの方が少し上のようだ。

幼「じゃあじゃあ、ここは?」

女「……」

幼「な、なるほど!」

俺には理解できない次元の話をしている。

まあ、いいさ。

俺は目の前のことに集中すればいいんだ。

わからないことがあれば幼馴染に聞き。

範囲はヤツにもらった紙を見て把握しつつ。

テスト週間は勉強詰めだった。

その結果――。

男「……うおおおお! オール八十点!」

女「ふふっ、おめでとう。明日は太陽が降ってくるね」

一大事過ぎるだろ、それ。

幼「女さん凄い! 全部満点!!」

女「……」

ペコッと頭を下げた。

もっと喜べ。

幼「私も満点あるけど、全部じゃないや」

もういやだこの超人ども。

短期間でやるやつと、いつもやってるやつの差なのだろうか。

納得がいっちまうのがまた情けない。

テストは何の問題もなく終了し、次はみんなが待ちに待った、修学旅行の話である。

約束通り、俺とヤツと幼馴染は一緒の班になった。

幼馴染目当てでやってきた男子二人と、女子が一人。

合計六人の班ができあがった。

幼「修学旅行♪ 修学旅行♪」

ルンルン気分の幼馴染。

女「……」

伊達メガネをクイッと上げながら、うつむいているヤツ。

なんか、真逆な二人だな。

ルートに関しては、みんなの行きたいところを集結させて、幼馴染がそれをしっかりまとめたものになった。

凄いな。ちゃんと遅れた時のケースも考えられてる。

こりゃ、修学旅行は面白くなりそうだ。

女「ボクは、そう思わない」

と。

帰り道に、ヤツはそう口にした。

男「なんだよ」

他人がいる時と同じような声だ。

女「……ボク、いる必要があるかな?」

男「なっ」

何言ってるんだコイツ。

男「急に変なこと言うな」

女「変じゃないよ」

至って真面目さ。

と、微笑みながら言った。

いや、変だろ。

女「できれば、君とは違う班になりたかったかな」

男「……」

どういうことだよ。

女「ほら、いつも一緒にいるんだから、修学旅行くらい離れてもいいかなって」

そんなことしたらお前。

誰とも話さねえじゃねえか。

いや、でも。

幼馴染は、二人の時は話をしてたって、言ってたな。

案外、複数人数の時だけがダメなのか?

男「まあ、もう班は決まったんだし、変えられねーよ」

女「そうだね」

でも。

女「欠席という方法も、あるよね?」

男「……は?」

女「顔が怖いよ。冗談に決まってるじゃないか」

……いや。

コイツは、冗談で言ってなかった。

いつもなら本当か嘘かよくわからないけど。

今のは、ハッキリとわかるくらいに。

本当のことを、言っていた。

長年一緒にいるとこうなるんだろうか。

やれやれ。

欠席なんて。

俺が絶対にさせない。

男「来いよ、絶対」

女「……さあね」

ヤツは苦笑交じりの声を出した。

ごめんなさい、寝ます。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

おはようございます。

自分の考えでは夜明け前に終わらせるつもりだったのですが、バイさるで思うように書けず……。
今日は携帯の方でちょこちょこ書いていき、家に戻ったらすぐにまた書き始めようと思います。

携帯の方は間隔がまちまちなので迷惑をかけると思いますが……ごめんなさい

イライラとした気持ちで帰宅する

妹「お、おかえり……?」

怒りをあらわにする俺に、妹は、何か嫌な予感を感じているようだ。

妹「どうしたの?」

恐る恐る、俺に声をかける妹。

妹「まさか、テストの点数……やばかった!?」

男「いいや、テストは良かった」

妹「そっかー」

多分、妹は。

『テストについて』の怒りでは無いことに、気づいている。

ただ、そのことについては聞かない。

大人な妹だ。

男「飯は?」

妹「まだ作ってないよ。あとのお楽しみに♪」

鼻歌を歌いながら、妹はキッチンに向かった。

エプロンも随分、様になるようになったな。

と、妹の成長に和んだ後、俺は自分の部屋に向かった。

修学旅行はもうすぐだってのに、アイツは……。

男「はー」

そりゃため息も吐きたくなる。

ベッドに横たわって、もう一度ため息。

男「……なんだってんだよ」

アイツ、何が面白くないってんだよ。

決定的な何かがあるのは確かだろう。

だが、それはわからない。

幼馴染とは仲が良いみたいだし。

他のメンバーだって別段嫌なやつがいるわけでもない。

強いて、他に何かがあるとすれば……。

男「……俺、か?」

確かにヤツは、

女『できれば、君とは違う班になりたかったかな』

と言っていた。

男「……」

俺は、何かアイツにしたのか。

しかし、ヤツが言ったことはほぼ本当の気持ちの発言だった。

長年一緒にいるから、わかる。

男「……どうすりゃいい?」

こんな気持ちで修学旅行を迎えたくなかった。

誰かに相談できればいいんだが。

妹に話すようなことじゃないし。

幼馴染に言うとややこしくなりそうだ

男「……」

ここで後輩の名前を出ないのは可哀想だな。

あ、それにだ。

後輩は一週間遅れてテストがあるんだったな。

修学旅行の都合で、俺達はテストが早い。

テスト中に迷惑だから、電話するのは忍びない。

……んー、なんか無理矢理理由を作ってる感じだな、俺。

後輩と真面目な会話をしたことがないからだろうなぁ。

などと考えていると。

携帯が、鳴り出した。

男「どっかで聞いてるのか?」

と、言いたくなるくらい良いタイミングで、後輩からの電話だった。

男「……」

通話ボタンを押す。

男「もしもし」

後輩『ぐすっ……も、もしもし……』

!?

なんでいきなり泣いてるんだ?!

男「お、おい後輩!?」

後輩『せ、先輩ぃ~……ううっ』

男「なんでそんな鼻声なんだ!?」

後輩『あう……あの……今、私……』

そのあと鼻をすする音が数秒続いた。

男「ど、どうしたんだ?」

後輩『私……今、先輩の家の前いるんです』

へ?

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom