男「花火をしよう」女「ばっちこい」(26)


女「おとこー、お天気いいよー」

男「……ん」

女「快晴ですよー、雲一つないお天道様ですよー」

男「んー……」

女「でもでも、実は少しだけ雲がありました。ただの晴れでした」

男「…………」

女「晴れですよー!」

男「なんだよ! 晴れてても外は真っ暗だよ!!」

女「……怒った。遊んでもらいたかっただけなのに……ぐすん」

男「おんな……」


女「わ、たし、ただっ、おとこと、ひっく……あそびたくて、ぐすっ」

男「……顔を隠す手をどかしなさい」

女「……ふわ~」

男「あくびで涙を出そうとしない」

女「騙せなかった」

男「無理でしょ。この流れで罪悪感を感じる男子は人生が茨道だよ」

女「起きちゃったね?」

男「……起きたよ」

女「お願い聞いてもらってもいい?」

男「なに? 現実的なものにしてよ」


女「また釣りをしてみたいのですが、いいでしょうか?」

男「釣り? なんで?」

女「なんでって、面白かったから?」

男「ほんとに? 本当に面白かったの?」

女「うん」

男「よかった……誘ってよかった……」

女「だからね、行こうよ海に」

男「そうだね! すぐに準備を……あ」

女「どうしたの?」

男「餌が……ない……」


女「無いと釣れないの?」

男「不可能じゃないけど餌があれば釣りやすいし、あるに越したことはないよね」

女「うーん……でも行きたいなぁ、海」

男「釣りはまた今度だね」

女「海行きたい」

男「行きたいって言われても……」

女「うーみー! ひろいうーみー! おっきなうみー!」

男「おんなさん?」

女「ん?」

男「もしかして、海に行きたいだけ?」

女「うん。海、面白かったから」


男「…………」

女「あれ? 落ち込んだ」

男「女なら……女ならいずれ、釣りにだって興味持ってくれるはず……」

女「大丈夫?」

男「海ね。海に行きたいのね」

女「うん」

男「海に行く理由が無いから釣りに誘ったのね」

女「そういうことです」


男「残念ながら釣りはできません」

女「うみ……」

男「でも海で遊ぶことはできます」

女「どうやって? おいかけっことゴミ拾いくらいしかすることないよ」

男「花火をしよう」

女「ばっちこい」


*

女「コンビニで花火なんか売ってるんだね」

男「夏休みも半ばだからね。買ってもらえる風物詩は並べたいでしょ」

女「うーん、夜風潮風はたまらないね! ぬくい!」

男「帰ったらしっかりシャワー浴びなよ」

女「べったべたするもんね」

男「どれからする?」

女「手持ち花火から攻めよう」

男「手に持てるものだけでもけっこうな種類あるよ」

女「きりたんぽみたいな花火もらうね」

男「そこまで寸胴じゃないよ。せいぜいガマの穂だよ」


女「似たようなものだよ。火、つけていい?」

男「バケツに海水を汲んでるからちょっと待ってて」

女「男のも選んでおくね」

男「俺も女のと同じでいいよ」

女「男もきりたんぽ好きだね」

男「花火の商品名を知らないだけです。行ってくるね」

女「いってらっしゃーい」

女「『がまのほ』ってなんだろう。……蛙に帆なんてあったっけ?」


男「ただいま」

女「おとこー」

男「ん?」

女「がまのほってなに? 美味しい?」

男「食べられないきりたんぽのこと」

女「食品サンプル?」

男「その表現は近からず遠からず。バケツは脇に置いておくよ」

女「んー……食べられないきりたんぽ」

男「そんなに気になる?」

女「うん。とっても気になる」


男「ただの植物だよ。ちょっと面白い特性を持った変なやつ」

女「どんな風に?」

男「こすると種子がぶわって出る」

女「ぶわって出るんだ」

男「うん。ぶわって」

女「面白いね。ぶわっ」

男「火、つけるよ」

女「……ぶわっ!」

男「わっ?! な、なに?」

女「びっくりするかなと思って」

男「火を扱うんだから驚くに決まってるでしょ」


女「つーけーてー」

男「はい」

女「最初はオレンジ色だ」

男「俺のにも点火っと……おおー、綺麗」

女「リンゴ色になった」

男「鮮やかな赤色だね」

女「わー……」

男「楽しい?」

女「うん! すっごく楽しいよ!」

男「……」

女「あれ? なんで顔を逸らすの?」

男「なんか明るさが目にきた」

女「あー、花火ってけっこうチカチカするもんね」

男「花火じゃないけど花火ってことでいいや」


女「次これしよ」

男「設置する花火?」

女「うん」

男「点火してくるから離れててね」

女「はーい。……ここら辺?」

男「そこらへん。つけるよー」

女「はーい」

男「つーけたー!」

女「おいでー!」

男「言われずとも!」


女「おかえり」

男「ただいま」

女「いってらっしゃい」

男「なんで?」

女「だって花火が。物静かなもやしっ子状態だから」

男「あー、あれは息してないね。様子見てくる」

女「途中で消えちゃったのかなぁ」

女「あらら、覗き込むのは危ないよー」

女「……あ、点いた」

男「あっつい!!」

女「おとこー!!」


男「顔面を火傷したかと思った」

女「大丈夫? 熱い場所ない?」

男「吹き出し口から顔を外そうとしてたタイミングでよかったよ、本当に」

女「さっきの全然見れなかったね」

男「もう1つ設置型があるし、それやってみようか」

女「もう覗きこんだらダメだよ」

男「しないしない。さっきのは退避の時間を長めに設定してた親切な作りだったのかもね」

女「おとこ……、次のはかなり用心しないと危険かも」

男「なんで?」

女「もしかしたら意地悪な職人さんが点火後、火薬にゼロ秒到達の悪戯を仕込んでいる可能性が」

男「そんなことがあったら裁判沙汰だよ」


女「まだかなまだかな」

男「すぐに見れるよ。あ、ほら」

女「ほわー……」

男「闇に弾ける緑色の花火。風情あるなぁ」

女「スイカ色だね」

男「ははは、上手。夏らしい表現だね。お、赤色に変わった」

女「スイカ色だ」

男「黒が種で赤が果肉?」

女「スイカだよね」

男「スイカだね。ラストは白色か」

女「スイカ色だ」

男「これも?」

女「皮と赤い果肉の狭間」

男「スイカ万能すぎない?」



女「はぁー……、綺麗だったね」

男「うっとりするほど?」

女「うん。七色十色に散らばる花火は毎年眺めても飽きないよ」

男「そこまでハマってくれると花火師さんの苦労も報われるかもね」

女「さてさて、メインディッシュの時間ですよ」

男「メインディッシュ? 盛り上がりの山は過ぎた気がするんだけど……」

女「おとこは大事な花火を忘れていますよ?」

男「ロケット花火は買ってないし、ねずみ花火も無いし……なに?」

女「正解は線香花火でした」

男「俺のイメージではデザートでした」


女「線香花火は雅よのお」

男「風流あるよね。あ、落ちちゃった」

女「私は最後まできっちり」

男「すごいね。俺はどうしても終わりまで続かないんだよなぁ。これで仕舞いの三本目」

女「おとこのために私が手伝ってあげよう。えいっ、くっつけ」

男「あっ、なにを――」

女「えへへ、最後まで一緒にいようねー」

男「……」

女「なんで顔を逸らすの? 落ちちゃうよ?」

男「明るさが目にきた」

女「線香花火にも負けちゃったかあ……」


*

男「浜辺は清潔が命。ゴミは全部持った?」

女「私が持てるのは花火が入ってた空袋くらいだよ。おとこが花火とバケツ持っちゃってるから」

男「よし、帰ろうか」

女「そういえば本番の花火大会はいつだったっけ?」

男「今日のは予行演習?」

女「おとこと花火を一緒に見る練習」

男「本番当日は悪天候らしいよ」

女「そんな……」

男「風物詩も天候には勝てないさ」


女「花火大会が中止になったら嫌だなぁ……」

男「そのときは鬱憤晴らしに何かしようか」

女「夏の終わりまで部屋の隅っこで、うじうじじめじめしてるかも」

男「そっか」

女「晴れないかなぁ……やだなぁ……」

男「じゃあさ、中止になったらまたここに来ようよ」

女「また海? なんで海?」

男「花火をしよう」

女「ばっちこい」

おわり

このシリーズ好きよ
おつ

面白かったよ
ばっち乙

この二人は幼馴染なん?

相変わらずアホの子でかわいいなww

いいねぇ

ばっち乙

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