僧侶「さっきはごめんな」勇者「気にしないでよ」(45)


勇者「まだ一緒に旅をし始めて間もないからね」

勇者「こんなご時世だ」

勇者「最後に信じられるのは自分だけ」

勇者「でも少しずつ信頼してくれたら嬉しい」

僧侶「ああ、ごめんな」


僧侶(魔王討伐の旅の途中で勇者と出会った)

僧侶(普通なら心強い仲間ができて、いざ!ってな感じなんだろうけど)

僧侶(俺はこの勇者を信頼しきれないでいる……)

勇者「どうした? 私の顔に何かついているか?」

僧侶「いや……なんでもない」


僧侶(なんでもない訳ないよなあ)

僧侶(そう、こいつの顔を俺はよく知っている)

僧侶(知っているというより、思い出したが正解か)

僧侶(否応なく思い出す)

僧侶(そりゃそうだ)

僧侶(かつて一緒に旅をした仲間なのだから)


僧侶(魔王が現れた時代が百年前にもあった)

僧侶(その時、魔王を討ち果たした勇者と魔法使い)

僧侶(その勇者が……俺)

僧侶(そして魔法使いが……今の勇者)

僧侶(なぜか俺には前世の記憶がある、理屈はわからん)

僧侶(どうやら勇者には記憶はないらしい)


僧侶(つっても、俺もだいぶおぼろげだけど)

僧侶(でも、そうだ)

勇者「なんだ? さっきから?」

僧侶(記憶にある最後の瞬間……)

僧侶(薄れゆく視界に残る、こいつの姿)



僧侶(俺は)

僧侶(前世で、こいつに殺されたんだ……)


僧侶(もちろん俺がそうであるように、こいつも昔の魔法使いじゃない)

僧侶(俺が気にし過ぎているだけ……)

僧侶(でも……)

僧侶(記憶があって、それを隠しているのなら)

僧侶(限りなく黒い)

僧侶(いま記憶がなくてもいずれ思い出すってこともあるか)

僧侶(このまま旅を続けるべきか?)


勇者「なあ、次に行く街を決めたいんだが」

僧侶「ん? ならこっちだな」

僧侶「今後の道のりを考えると、比較的安全だ」

僧侶「商人がよく使っているから物資も調達しやすい」

勇者「君は相変わらず物知りだな」

僧侶「ま、まーな、昔行ったことがあるんだ」


僧侶(大事な事が3つ)

僧侶(ひとつは、魔王を倒すこと)

僧侶(もうひとつは、何故こいつは俺を殺したのか、それを知ること)

僧侶(そしてもうひとつ)

僧侶(俺が死んで、その後、こいつはどうなった?)

僧侶(それが知りたい)


勇者「ははっ、なんだそれ、君は冗談も上手いなあ」

勇者「ふふっ、いや、ちょっと待ってくれ、止まらない」

勇者「ふふふ」

僧侶「………」

僧侶(わかったことがひとつある)

僧侶(俺はこいつに惚れてたんだなあ)

僧侶(痴情のもつれ、なんてことじゃなければいいけど)


勇者「百年前の勇者と魔王だって?」

僧侶「うん」

勇者「そうだなあ、うん、いいかもね、参考になると思う」

僧侶「まあ道すがらでいいんだ、目的は魔王討伐だからな」


ありがとう、頑張ります


僧侶「明日からの行程はこんな所かな」

僧侶「ん、勇者はどこまでいったんだ……」

僧侶「帰って来ないな」


女将「あれ、もうすぐ夕飯だよ」

僧侶「勇者探してるんですけど」

女将「ああ、あの子なら裏通りにいたよ」

女将「夕飯が冷めないうちに帰っておいでよ」

僧侶「はーい」


僧侶「夜はこのあたりは薄暗いなあ……」

僧侶「ああ、いた……」

勇者「………」

僧侶「おい、何してんだ、夜は冷えるぞ」

勇者「! ああ、君か」

勇者「すまない、戻ろう」

僧侶(……何見てたんだ?)

僧侶(教会……?)


僧侶「で、さ」

僧侶「次の町は少し危なそうなんだよ」

勇者「そうだね、人間だけじゃなく亜人も多く暮らしていると聞くし」パクパク

勇者「魔王に考え方がよってるものも多いだろうね」モグモグ

勇者「女将さん、おかわりー」

僧侶(いい食べっぷりだなあ……)


僧侶「あ」

勇者「ん?」

僧侶「頬にソースがついてるぞ」

僧侶「ほらここ」

勇者「……!」

勇者「あ、ありがとう……」

僧侶(次の町では何かわかるといいけれど)


僧侶「ふう」

僧侶「随分大きい町だな」

僧侶「集合まではまだ時間がある、か」

僧侶「こっちはスラムか……」

僧侶「まあ、行ってみるか……」


僧侶「ああまた頼むよ!」

僧侶「え? いや、それはいらないって!」

僧侶「ああ、じゃあな!」

バタン

僧侶「くっそ、あの爺さんめ、情報料とか言って随分ぼられたな」

僧侶「……」

僧侶(ほんといろんな種族が暮らしてるもんだ)


僧侶「おっと」ドン

「……」

僧侶「すまんな」

僧侶(浮浪者か……)

「……」

「……!?」

「~~~~! ~~~~!!」

僧侶(なんか後ろの方が騒がしいな……)

僧侶(面倒に巻き込まれないうちにさっさと戻るか)


僧侶「で、噂では魔王の居所はここから更に北にあるらしい」

僧侶「そっちは他になにかあったか?」

勇者「大方はさっき話した通りだけど」

勇者「こんなものを見つけたよ」

勇者「じゃん」

僧侶「何だそれ、絵本……?」

勇者「うん」

勇者「君が言っていた百年前の物語さ」


僧侶「………」

勇者「……と、言う話らしいんだけど」

勇者「私たちの言語じゃないからさ」

勇者「なんとか翻訳してもらったから細かいとこまではわからないんだ、ごめんね」

僧侶「……ちょっと外出てくる」

勇者「? ああ、気分でも悪いか?」

僧侶「そんなとこ、すぐ帰る」

勇者「気をつけて」


僧侶「……吐きそうだ」

僧侶「魔法使いは……」

僧侶「勇者を庇って魔王と相打ちになった」

僧侶「そして勇者は国に帰って騎士団長になった」

僧侶「俺の記憶とは違う」


僧侶「いや……まあ、所詮絵本だしな……」

僧侶「ふー……」


僧侶(……?)

僧侶(昼間の浮浪者か……?)

「~~~!」

僧侶(なんだ、俺に向かって叫んでるのか?)

僧侶(言葉がわからん)

「っ~~~!! !!!」

僧侶(フードを取った)

僧侶(女か?)


………

「~~~~~!!!」

僧侶「なんだよ、離せ!」

僧侶(くそ、凄い力だ……!)

「!」「!」「!」

僧侶「ぐぁ!」


僧侶「痛つ……っ」

「!」「!」「!」「!」

僧侶「近寄るな!」

僧侶「や、やめてくれ!」


やめて!

ヤメテヨ! ネ……

………

………


僧侶「はっ」


僧侶「はっ……はっ……」

僧侶「いて……」

僧侶「夢か……」

僧侶「あの女……」

僧侶「なんとか追い払ったが……」

僧侶「夢に出るとか、どんだけ怖かったんだ俺は」

僧侶「はは……」


勇者「僧侶? 起きてる?」

僧侶「勇者か? ああ今起きたところだ」

勇者「入ってもいいかな」

僧侶「どうぞ、起き抜けだけど」

勇者「お邪魔します」


勇者「酷い顔してるよ」

僧侶「そうかもな、変な夢を見た」

勇者「あの逃げてった女の人のことかい?」

僧侶「ああ、そうか、お前が来てくれたんだったな」

僧侶「助かったよ」

勇者「あの人は知り合いなのかい?」

僧侶「いや、あんな知り合いはいないよ」

勇者「ふうん」


勇者「まだ朝まで時間があるね」

勇者「少し冷える」

僧侶「そうだな」

僧侶「どうしたんだ?」

勇者「え?」

僧侶「いや、何か話があったんじゃないのか?」

勇者「ああ、うん、そうだね」


勇者「僧侶ってさ」

勇者「色んなことよく知ってるよね」

僧侶「うん? 褒められてるのか?」

勇者「はは、どうだろうね」

勇者「なんというか、経験が豊富というか、さ」

僧侶「……ああ、まあ、一人旅も長かったからかな」


勇者「そうだねえ、うん、そうだね」

勇者「頼りにしてるよ」

勇者「ごめんね、こんな夜更けに」

勇者「おやすみ、また明日、いや今日か」

僧侶「ああ、おやすみ」


ガチャッ

バタン


僧侶「………」


なんかサスペンスというか、ホラーになってきた
また明日続けます


僧侶「勇者、朝だぞ。 起きてるか?」

僧侶「……入るぞ?」

僧侶「………」

僧侶「いねえ……」


僧侶(三日も町中探しまわったが結局見つからなかった)

僧侶(勇者は俺の前から姿を消した)

僧侶(どこへいったんだ)

僧侶(記憶を……取り戻したのか?)

僧侶(ううん)

僧侶「先へ……進むか」


僧侶「………」

僧侶「………?」

僧侶「!?」バッ

サッ

僧侶「今のは……あのフードの女?」


僧侶(特に何をしてくる訳でもなく、ただ後ろをついてくる、か)

僧侶「こわっ」


「~~~!!」

僧侶「?」

僧侶「あいつ……魔物に襲われてやがる!」

僧侶「なんだ、身も守れないのか……!?」

「~~~!」「!」「!」

僧侶「……」

「!」「!」「!」「………!」

僧侶「……くそっ」


僧侶「はっ、はっ」

僧侶「おい……」

僧侶「大丈夫、か?」

「~~~?」

僧侶「なんだ、お前……、まだ、こどもじゃないか」

僧侶(14、5ってとこか?)



「~~~!」キャッキャ

僧侶「なんだ、お礼を言ってるのか?」

僧侶「あー、うん、うん、わかったわかった」

僧侶「ほら、このまま町に戻れ」

僧侶「ほら、あっちあっち」

僧侶「じゃあな」


僧侶「………」

僧侶「………」

僧侶「ううん」

僧侶「おい」

少女「?」

僧侶「着いてくるなよ! ほら、もう帰れって!」

少女「~~~!」ニコッ


僧侶「……なんだってんだ、まったく」

僧侶「勇者がいなくなったと思ったら、今度は妙な奴が着いて来ちまったな……」

僧侶「自分の食い扶持は自分で稼げよ!」

少女「~~~」コクコク

僧侶「ほんとにわかってんのか……」ハア


………

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