とある魔術と超能力者 (39)

このSSはとある魔術の禁書目録の二次創作です。

・メインとなるのは科学側はレベル5、後魔術サイドです。
・多分大体シリアス。
・レベル5が大体マジキチ。
・一巻あたりからの再構成アレンジ。


その辺注意してください。




SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1373895545






 この街の闇に手を出した者は、その身を持って知ることになる。




 狂犬に手を出すのであれば、その腕を食いちぎられる覚悟を持たなければならないという事を。




 ――その日は雨だった。

 世界に蔓延する科学の中枢にして頂点、学園都市に降り注ぐ雨には意外な事に、有害物質は一切と言っていい程含まれない。

 学園都市の外で巻き散らかされた有害物質は土壌に還り、水に還り、空へ還り、文明に降り注ぐ――それが自然のサイクルに介入した人間が受けるべき咎であるのだが、学園都市はその罪ですら拒絶した。

 ナチュラルをアーティフィシャルで再現する。星の与えた恩恵に対する仕打ちは人間以外からすれば暴虐以外の何物でもないのかもしれない。

 自然を冒涜し続ける自然科学を研究し、一つの独立国家のような立場にまで上り詰めた学園都市。

 その存在自体が、他国からは冒涜だとすら称される。

 しかし、学園都市は存在し続ける。

 国という大きな存在に疎まれているにも関わらず。

 所詮は都市であるにもかかわらず。



 世界の一角を支配する存在として。



 
 ――神裂火織は雨が嫌いなわけではない。



 しかし、それは雨をその身に浴びぬ環境が整っていての話であり、ワビサビを愛する大和撫子な彼女でも濡れ鼠になる事に情緒があるとは感じる事が出来なかった。

 極上の絹糸にも似た長い黒髪は雨を浴び、艶やかな色気を醸し出していた。

 彼女が身に纏っているのは白いTシャツにジーンズという、一見すればラフな格好である。

 だが、ジーンズの片側は足の付け根までカットされ、Tシャツも裾を結び腹部を露出させているというノーマルな服装を無理やり大胆にしているような、そんな不自然が見える姿見だった。

 そんな衣装が、更に雨に濡れることによって体へ張り付き、その恵まれたボディーラインを際立たせている事も神裂火織が今宵の雨を不快に感じている理由の一つかもしれない。


(……まぁ、そもそもこの?仕事?自体が、憂鬱というのもあるんですが)


 瞼を閉じれば、今も双眸はあの頃の光景を幻視する。

 この世に二つと存在しない、愛おしかった彼女の笑顔。

 殺しの世界に身を置く神裂、そして道を同じくするもう一人の少年は。何度彼女に心を癒されたかわからない。

 しかし、その笑みは今や追憶の彼方。

 再び視界に世界を映せば――轟々たる雨音に思考は飲み込まれ、瞼の裏側に映っていた過去の世界は儚く消える。

 同時に、神裂火織の顔から感情が消え失せ、刃のように鋭い凍て付くような表情が浮かび上がった。

 使命という言葉を免罪符に、行おうとしている悪行をその身に刻み込む。


 
「……もうすぐ?人払い?のルーンを刻んだ地点だ。そこに追い込めば邪魔は入らない」


 立ち込める水煙を引き裂き、夜も更けた学園都市のビル屋上を駆けるのは神裂火織だけではなかった。

 一人は、神裂の後ろを追う形でビルとビルの間を跳ぶ、赤い髪と黒の神父服に身を包んだ少年。

 長身痩躯の少年はあまりにも実年齢とかけ離れた外見であった。

 右眼の下にはバーコードを象ったタトゥー、周囲に立ち込める雨の匂いにすら負けない程の、むせ返るような化粧品の香り。

 全ての指に嵌められたシルバーの指輪や毒々しいピアスなど、一見して神に仕える様な存在ではない。

 あまりにも聖道をある国相応しくない少年は、雨を浴びて火の消えたタバコを吐き捨て、神裂の見据える方向へと目を向けた。



 ステイル=マグヌス。



 神裂が所属する組織が誇る、最年少天才魔術師である。







 そして、もう一人。




 二人に追われている純白が、そこにあった。




 所々に金色の刺繍が施された、絢爛なティーカップを思わせるデザインの修道服に身を包むのは少女。

 濡れた銀色の髪の間から除くのは緑水晶の様な瞳と白い肌、それだけで彼女が日本人では無い事に確信を持てる。

 人形めいた美しさを持つ少女の記号はIndex-Librorum-Prohibitorum。

 禁書目録。インデックス。

 世界最大、世界最悪の知識を持つ魔道の図書館。それが彼女であった。



 神裂とステイルは彼女を捕縛するために、英国から相反するサイドの頂点にまでやって来ている。



「……少し、軌道がずれたね」


 ボソリと。

 雨音に飲み込まれかねないような声で、ステイルは呟く。

 しかし神裂の耳はステイルの呟きを聞き洩らさなかった。

 神裂の肉体を構成するのは、紛れもなく人間と同じ細胞である――が、肉の器に収められた力は、常人とは比べ物にならない。

 数にして二十程度。

 七十億分の二十に選ばれた幸運とその恩恵を得て、神裂は今の立場に身を置いている。


「修正します」


 スラリと。

 西部劇の拳銃のように、腰にぶら下げられた長刀を神裂は抜いた。

 その長さは二メートル超。

 剣術の玄人であろうとも、この冗談を超えた長さの白刃を扱いきる事は不可能であろう。

 この刃を自らの四肢のように扱えるのは、世界でも神裂火織ただ一人。

 降り注ぐ雨粒すら切り裂くであろう名刀。苛烈な使い込みに耐えてきた業物。


 それを――神裂はインデックスに向けて、躊躇なく振るった。



「……ッ!」



 インデックスと神裂、両者の距離は三十メートルほど開いている。

 しかし、剣圧と呼ぶべきか、神裂が刃を振るえばそこにあった空気は押し出され、鎌鼬のように空間を引き裂きながらインデックスの小さな体へと迫った。

 よもや神裂が目測を見誤ろうこともなく、鎌鼬は寸分の狂いなくインデックスに直撃する。

 通常であれば、その肉体は十程に分割され、雨粒と水煙に血だまりと血しぶきを交えながらアスファルト舗装された路地へと堕ちていくはずだった。

 だが、インデックスの肉体は威力に押され数メートル移動したものの、その衣服にすら刃による傷は存在しなかった。

 鋼すら切り裂く神裂の刃を受け止める布。

 そのような矛盾が通常の理に存在するわけもなく、それはインデックスの纏う修道服が異能の力に守られている事を意味している。

 神裂はそれを知っている。

 知っているからこそ、愛すべき少女に刃を向ける事を一瞬も躊躇しなかった。


「軌道修正は無事完了しました。……後三十秒ほどで目的地点です」


「了解してるよ。まずは僕の術式で退路を塞ぐ。それから神裂が彼女を捕縛し――






 不意に、不自然に、ステイルの声が途切れた。

「……ステイル?」


 立ち止まり、振り向いてみれば――そこにステイルの姿は存在しなかった。



 常人をはるかに超えた神裂の肉体、その聴力も並大抵ではない。

 しかし、神裂の耳が捉えていたのはステイルの話し声、それと轟々と降り注ぐ雨粒が建造物を叩く音だけだった。


「……」


 サメをメインにしたパニック映画を神裂は思い浮かべた。

 知らぬうちに海の奥底に引きずり込まれ、巨大な顎に食いちぎられ、残るのは海水を染める血液のみ。

 ステイルは素人ではない。例え学園都市製の兵器が襲ってきたとしても返り討ちにできる、そう確信できるほどの手練れだ。


 だが――神裂の悪寒は、それ以上のものを想像した。


 国際法で禁止される様な兵器、日本政府が決して許すことはないであろう悪意に満ちた兵器。

 そんなチャチなものではない何かに、ステイルは引きずり込まれたのではないかと。

 そしてそれは。







 自分の所へもやってくるのではないかと。






「こんばんわ。こんな雨の中、散歩かな?」






 それは、とても軽快な声だった。

 降り注ぐ豪雨の中にはとても似つかわぬ、爽やかとも言える声。

 だが、だからこそ、その似つかわぬ不気味さが神裂の危機感を煽る。

 例えるならば、無邪気な子供が発する無意識ゆえの、純朴さが生み出す残酷さ。

 それがそのまま肉付き、声帯を得て音を発しているような悪質さ。

 神裂は、これと似た雰囲気を知っている。

 過去に何度も討ち滅ぼしてきた邪悪。







 それらによく似た、それら以上に深く黒い科学サイドの悪が、そこにはいた。



 整った顔立ちの、少年だった。

 その風貌の端麗さと匂い立つような気品さは、身に纏う学生服と酷く不釣り合いである。

 しかし、アンバランスなのは衣服だけではない。

 栗色の髪や振る舞いは、爽やかな好青年のように見える。

 だが、何故か少年には近寄りがたい雰囲気が纏わりついていた。

 顔に浮かぶ笑みには非情なまでに相手を思う感情が欠落している。



「……貴方は」

「人に尋ねる前に名乗れ、っつーテンプレ台詞も言ってみてぇが、相手は女だ。俺の方から紳士的に接しよう。俺は垣根帝督だ。アンタは?」

「失礼、私は神裂火織と申します。……あなたこそ、散歩ですか?」

「ああ。俺は雨を愛する風流な日本男児なんだ」


 あからさまな嘘を垣根はついた。

 神裂が今現在立っている隣のビルの屋上に垣根は立っているが、そのビルに階段らしきものは見当たらない。

 つまりは、普通の手段で屋上に到達する手段は存在しない。 


「傘も差さずに散歩とは、変わり者ですね」

「そっちこそ。まぁ濡れた女には色気があるからな、歓迎だが」

「……この豪雨の中、傘をさしていないにもかかわらず一切濡れていないあなたほど変わってるという自覚はありません」


 垣根はその言葉に、ニコリと笑みを返した。

 同時に、神裂の背筋を氷の如く冷たい物が撫でた。

 現実味すら失せてくる目の前の少年に、神裂の警戒心は最大まで引き上げられる。

「……ステイルを何処へやったのですか?」

「ん? 知らないな。俺にとって重要なのは、今の所アンタだけだ」

「……」


 神裂はインデックスに向けた時と同じく、愛刀を鞘から引き抜く。


「おお、刀か。かっこいーよなぁ。武器としちゃ槍とかの方が使いやすいんだが、そこはまぁロマンって奴だよな」


 垣根はクスクスと笑う。

 そこには奇妙な事に、悪意はあっても、敵意はなかった。


「アンタは強いんだろうな。下手をしたら俺の方が返り討ちに会うほどに。まぁだからこそ俺は来たわけだが」

「……?」


 不可解な垣根の言葉に、神裂はその胸中を探りかねる。

 そんな神裂を尻目に、垣根はまるで舞台を演じているかのような大仰な仕草で天を仰ぎ、右腕を暗雲立ち込める空へと突き上げた。



 瞬間。

 垣根帝督の背に、ありえない物を神裂は見た。

 鋼と電子の街にはあまりにも相応しくない、リアリティの中に生まれたファンタジー。

 神裂が身を置く世界では誰もが知識としては知っている、けれど実物を見た存在など歴史上存在するのかもわからない、堕天使を想像させる六枚三対の翼。

 同時に、突き上げられていた右腕には一本の槍が握られていた。

 全体が白く、淡く発光している。

 所々が捻れていたり、翼を思わせるディティールが凝らしてある点はいかにも人工物チックであるが、刺突部分を除き滑らかな曲線で作られたソレは不自然なまでに生物的であった。

 長さは神裂の刀とほぼ同等か、それよりもやや長大であろうか。

 しかし、槍と刀では扱い方があまりにも違う。ただし神裂は刀の扱いに関しては右に出るモノが居ない、正真正銘の達人である。

 コレが真に刀と槍の決闘であれば、神裂の圧倒的有利な戦闘である事は間違いない。





 ――ただし。







「おいおい。まさかとは思うが、この垣根帝督様がたった一度の驚きで相手を満足させるような、そんな引き出しの少ない男だと思っちゃいないだろうな?」






 雨音を消し飛ばす、凄まじい轟音が響き渡った。

 空を引き裂き落ちてきた稲妻が、垣根の持つ槍へと突き刺さる。

 普通であれば、人間の耐えうる限界値をはるかに超えた電圧で内臓の内側から焦がされ、垣根帝督と言う生物は終わりを迎えるはずであった。

 しかし、垣根帝督はそこに君臨するように立っていた。

 稲妻を受け、青白く輝き紫電を纏う槍を構えながら、垣根帝督は笑みを浮かべていた。

 垣根帝督には、ありとあらゆる常識が通用しなかった。




「さぁ来い、学園都市の外からの来訪者。外の可能性を俺に見せてくれよ」








 ――
 ――――
 ――――――






 ステイル=マグヌスは見えない何かに引きずられ、雨粒よりも早く地面へと落ちていた。




(ぐっ……!? 何だ、僕は今何の力に引きずられている……!?)


 長く考えている暇はない。後数秒でステイルの肉体は地面へと叩きつけられ、無数の水溜りに入り混じる事になってしまう。


「…………チィッ!」


 ステイルは強引に体をひねり、正面を地面に向ける。

 すると、眼下にはステイルのちょうど真下辺りに立つ人影が一つ見えた。

 土砂降りのせいで細かくは見えないが、あれがステイルを地獄へと引きずり込もうとしている魔手の正体であるのならば――



「都合がいい!」


 ステイルは袖から数十枚のカードを取り出す。

 一枚一枚に常人には理解不能な文字と記号が描かれており、学園都市では紙切れとしか認識されない札。

 しかし、これこそがステイルの最大の武器。

 科学サイドと対をなす、ステイルが所属する側の神秘――魔術である。


 ステイルが札を地面に向かって投げつける。

 すると、札が一瞬だけ光を放ったと人影が認識した刹那、一枚の薄い紙から発生したとは思えない程大規模の火炎を伴う爆発が巻き起こった。

 爆風が別の札を巻き込み、それが起爆しまた別の札を――と連鎖的に爆炎は広がり、最終的には降り注ぐ雨を蒸発させ、大気を燃やし尽くしながら人影の立つ地面を飲み込まん程の業炎と化した。


「……ッ!」


 人影は、まるで見えない力に引っ張られるかのような不自然な挙動でその場から離脱する。

 一方、ステイルは爆風で落下の衝撃を相殺し、そのまま雨粒と共に地面にたたきつけられるよりかは軽度のダメージでの着地を成功させた。


「……っはぁ……。やれやれ、誰かは知らないけれど……あんまり無茶はさせないでほしいね。僕は神裂と違って雨が大嫌いなんだ。タバコも湿気るし」


 服に着いた埃と煤を払いながら、ステイルは襲撃者を見上げた。


 

 襲撃者は、ビルの壁面に立っていた。

 物理法則、重力と言う人間が生まれながらにその身に受ける星の力を無視しているとしか思えない、不可思議な状態。

 辺りに魔術の気配は存在しない。つまりはアレは、科学の力でそこに立っているわけだが……


「……僕らの業界にも君みたいのは居るけどね。いざ相手にするって言うのは心苦しい物があるんだよ。人の事は言えないけれど、科学サイドは反吐が出る。君の様な人間がこうやって僕の前に立つような事があるだなんてね」


 ステイルは呆れか怒りか、はたまたその両方か――深く嘆息する。

 煙草の一つでも吸い、紫煙と共に燻る不快感を吐き出したい気持であったがこの雨ではそれすら敵わない。不快度指数は跳ね上がるばかりだ。



 そして、改めてステイルは襲撃者の“少女”を見上げる。


 整った顔立ちの、年相応の愛らしさを残した少女であった。

 肩までの茶色い髪をヘアピンでとめた、中学生くらいの少女はこの時間帯にはふさわしくない、学生服姿である。

 どう見ても何か不可思議な武器や道具を隠しているようには見えないが、少女は学校指定の靴で地面と垂直の壁に両足だけで立っている。


「フフ、偉そうな口ぶりね。小さな女の子を追い掛け回しておいて」


 少女の口から辛辣な言葉が吐き出され、ステイルはピクリと顔筋を動かし反応する。


「……あの子を知っているのかい?」

「知らないわよ。初めて見たんだし、知るわけがない。けれどわかる事もある。アンタともう一人があの子を追いかけまわし、刀を向けてたって事とかね」

「理由があるんだよ。納得してもらえないかな」

「理由なんてどうでもいいのよ。だから納得もしない」


 嘲笑。
 
 まさに嘲るような、ステイルの全てを見下した嗜虐的な笑みを浮かべながら、少女――御坂美琴は言い放った。

「悲劇的なドラマがあったかも知れない。涙を誘う理由があったかもしれない。譲れない誇りがあるのかもしれない……けれど、それが何?」

「……」

「簡単な事よ。悪い事をした奴には罰が当たる、ってだけ。その罰を当てるのが諸々の理由により私ってだけだから」


 バヂッ、という耳障りな音が響いた。

 それは夜闇よりも黒い雲から落ちた稲妻ではなく、少女の細い体から発せられる紫電の弾ける音であった。







「内臓が焦げて、筋肉は痺れ、頭は狂うかもしれないけれど……うん、まぁ手加減する気持ちだけは持っといてあげる」



 ふふっと、美琴は悪戯っぽい笑みを浮かべた。
 

投下終了。

半年くらい前にネウロが学園都市入りした話とか、球磨川と咲ちゃんが学園都市に視察に来る話とか書いてましたがイギリスに行くために中止し、向こうで書いてよし日本に帰るぞと思った矢先PCが壊れあばばばばばば状態になりました。

その勢いでカッとなって書くSS。

よろしくお願いします。

週一くらいで更新予定

HTMLしておきます

イギリスの人帰ってくるといいね

わざわざお勧めスレでも成りすまして宣伝して、中途半端にSS投下して
りょうせぃ君は一体何がしたかったのかな?

りょうせぃなにしてんだよ

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