「( ^ω^)ブーンが兵士になるようです」 (1000)
( ^ω^)「来たお」
(´∀`) 「来たって……何がだモナ」
( ^ω^)「おまwwwwwwwwww募兵に決まってるお。そのために今までこうして山で修行してたんだお」
(´∀`) 「そうだったモナ。で、旗の色は?」
ブーンは珍しく真面目な顔をしていた。
登っていた木から落ちそうな位に乗り出すと、遠くをにらつけている。
( ^ω^)「黄……多分、黄だお」
(´∀`) 「おぉ、ついに来たか。俺たちの元へ白以外の旗が」
春と呼ぶにはまだ少し早い気がする肌寒さが二人を包み込む。
それでも山の草木はもう春が来たと考えているようで、そこかしこで若芽が顔をのぞかせている。
聞こえるのは風が吹くたびに擦れあう葉の音と、朝方に仲間を呼び集める小鳥達の鳴き声。
その中に、小枝が折れる乾いた音が混ざり出す。
( ^ω^)「急ぐお。山を降りたら募兵が終わってましたなんて事になったら、もう一年浪人生活だお」
(´∀`) 「無職の楽だが、精神衛生上あまりよくないモナ」
( ^ω^)「全くだお。いくら親公認とはいえ、兵士になれなきゃただ飯ぐらいなんだお」
(´∀`) 「念願の白以外の旗だもな。ここは一気に決めてやるモナ」
( ^ω^)「そうだお。今日から兵士になるんだお」
二人はできるだけ呼吸を一定に保つように意識して、山を駆け下りていった。
半刻程、走り続けるとようやく辺りは平坦になり視界が一気に開けた。
そこからさら進むと徐々に道は整備され、山の頂上から一刻も走れば、道の左右はどこを見ても
人の手によって植えられた作物で埋めつくされている。
/^o^\ 「よう、ごくつぶし共」
畑仕事をしていた男が大声をあげて、農具を左右へ大きく振っている。
( ^ω^)「おじさん、今日も仕事がんばってるんだお」
/^o^\ 「あたりめぇよ。俺は真面目な農民様よ。暇なら今日も手伝ってけ」
(´∀`) 「それが今日は珍しく暇じゃないんだモナ」
( ^ω^)「そうだお、今日で無職とはおさらばなんだお」
/^o^\ 「……するってぇと、とうとうか?」
( ^ω^)「そうだお、募兵だお」
/^o^\ 「そうか。おし、しっかり気張って来いよ」
(´∀`) 「おうだモナ」
( ^ω^)「おっおっ」
/^o^\ 「あいつらには俺から伝えといてやらぁ、急いでんだろ?」
( ^ω^)「……助かるお。父ちゃん達によろしく頼むお」
(´∀`) 「出発する時には挨拶はいらないって言われてきたモナ。強がりだってのはわかってるけど……頼んだモナ、おじさん」
二人はなじみの男に深く頭を下げると山を降りる時よりもずっと早く走り出した。
男は何年も前から見続け、今はじめて何倍も大きくなったと気がついたその背中が見えなくなるで見守り続けた。
/^o^\ 「オッジサーン(生きて戻って来いよ)」
まもなく、二人は生まれ育った村に足を踏み入れた。やましい事など一つも無いが不思議と人目を避けたい衝動にかられる。
なじみの誰かにあえば決心が揺らぎそうで、認めたくは無いがそれが怖かった。
だがその恐れを、覚悟で振り払う。
村の家はどれも古く、中にはいつ崩れてもおかしくないものまである。
あれだけ多くの作物を育てていながら、これだけ貧しい暮らしを強いられている現状。
それこそが二人が兵士になる事を選ばせ、今こうして前に足を進ませる覚悟の源であった。
村の外周には塀が無く内と外の明確な境界線が無い。
だが村の北東部に、周囲の建物より立派な門が一つだけ建てられており、そこだけがはっきりと内外を隔てている。
この無用の長物を使うのは年に何度か、白旗を掲げてやってくる愚か者の一行だけであった。
村の中で一際浮いた存在である門「白旗門」のすぐそばに身なりの良い男が二人、
近くの者から借りたのか、木材を使って簡単な机を支度していた。
|/゚U゚| 「準備、整いました」
(=゚ω゚)「じゃあ、始めようか」
|/゚U゚| 「では、早く来たものからここへ」
男は即席の机を指差した。
一番目の村人が前に来ると、男は懐から紙を取り出し話し始めた。
( ^ω^)「聞こえないお」
ブーンとモナーは机から一番離れた場所に陣取っていたため
二人の位置からはどんな会話がされているのかが聞き取ることはできない。
それから男が何かを紙に書き込むと、二人目が呼ばれる。
来た順番通りに机の前に呼ばれ、終わるともう一人の男の方へ行く流れのようだ。
一人目の男は、もう一人の男へ軽く頭を下げてから少し距離を開けて腰を下ろした。
(´∀`) 「何を話してるんだモナ」
二人はそわそわしながら呼ばれるのを待つ。
顔は分かるが名前は知らない。
ブーンとモナーはあまり同世代の村人との接点を持っていなかったので
先に話しの終わった者達に内容を聞く事になかなか踏み切れなかった。
そうして、大した時間が経たないうちに先にいた三人組みの最後の一人が呼ばれて行った。
( ^ω^)「いよいよ、次だお」
(´∀`) 「ここで、下手なこと言ったら兵士にしてもらえないかもしれないモナ」
( ^ω^)「それは困るお。もうこれ以上職歴なしはきついお」
(´∀`) 「それどころか……あの腰の刀でズバッといかれたり」
|/゚U゚| 「次の者」
( ^ω^)「はいですおっ」
ブーンはモナーよりわずかに早くここに着いてしまった事を呪いながら、机の前へ立つ。
( ^ω^)「……立派な刀だお。人一人くらい真っ二つにできそうだお」
刀の柄には美しい飾りがつけられている。
紫と白の紐が柄から垂れ、男が動くと二色の紐が絡み合って解ける様は蛇のように見えた。
|/゚U゚| 「ではここに、名前と出身を」
( ^ω^)「はいですお」
ブーンは声が裏返っていたが、そんな事を気にする余裕はなかった。
震える手でできるだけ綺麗に文字を書こうと、ぐっと腕に力を込めた。
|/゚U゚| 「……ん」
男が小さく声を漏らす。
反応したブーンが顔を上げると男と目があった。
|/゚U゚| 「いや……、文字が書けるのか。さっきの三人は書けなかったが」
( ^ω^)「書けますお。小さい頃に教えてもらったおかげだお。でもそのせいであんまり遊べなかったお」
|/゚U゚| 「そうか。お前の歳で文字が扱える農民など、そうそういないだろうに」
( ^ω^) 「ですお!だからブーンを兵士に雇うと、大変お買い得だお」
ブーンの緊張はさっきまでと比べると大分解けていた。
( ^ω^)「あと出身って、ブーンはこの村の出身だお」
|/゚U゚| 「あぁ、どこの民かを書いてくれ。よく分からなければ親のもので構わない」
( ^ω^)「あぁ……、そう意味ですかお」
ブーンの暮らす国「総」
元は一つの国であったが、ある時を境に三つに別れていた。
南に「安房」、北西に「下総」、北東に「上総」
それぞれの国は自分達は別々の民であると主張し、総を統一しようと三つ巴の戦をほんの五十年前まで繰り広げていた。
その戦で多くの人が死に、物が減った。
元々の戦力が拮抗していた三国は、どこか一つが大勝する事は無く
ただ各々の国力が削られていった。
陸続きの三つの大国、南西の「武」、東の「野」、北の「盤」がそれぞれに内乱を抱えていたため
国力の弱まった「総」が侵略される事は無かったが、逆に他国へ協力を求めることもできず
延々と三つの民族による戦は続けられていった。
五十年前に「総王の息子」が疲弊しきった三国の長を集め、再び一つの「総」を再建した。
その過程にはどこの民も、ただ生活を苦しくするだけの戦にうんざりしきっており、
「各国の代表」を名乗る者達が自国内、たとえ自分の屋敷の中であっても身の危険を感じ始めた事。
「総再建」に賛同する多くの民と、それを率いる「総」から離れなかった忠臣達によって
構成された「総軍」が、三国のうちのどの軍よりも力を持った事。
これらを最たる要因として「各国の代表」を名乗る者達の打算により「総」は再び一つとなった。
だが、五十年では三つの民が再び一つの「総の民」になるには十分ではなかった。
息子が、恋人が、夫があの国との戦で殺された。
そんな思いはいつまでも残り続け、誰もが望んでいたはずの総の再建が成った後も
民族間の溝は残り続けていた。
( ^ω^)「さて困ったお。騎士さんと違う出自なら間違いなく出世は望めないお」
商人の付き人はどんなに優秀でも、親方と違う出自では暖簾を分けてはもらえない。
これはこの時代、子供でも知っている常識であった。
|/゚U゚| 「ん、どうした?」
( ^ω^)「いえ、なんでもないお」
ブーンは平静を装い、男へ作り笑顔を向ける。
( ^ω^)「おっおっ」
男の着物の胸元が少しはだけ、さっきまで右胸に見えていた小さな花の刺繍、その裏側が目に入った。
表となんら変わらぬ美しい模様が裏側にも浮かび上がっている。
表裏、どちらから見てもほとんど変わらない刺繍の飾りつけ。
( ^ω^)「上総だお!」
そういうとブーンはカナ文字で書き記す。
念のため書き終わったところでできるだけ自然に視線を上にやると男の顔には特に不満の色は見えなかった。
|/゚U゚| 「では、次の者」
(´∀`) 「緊張するモナ」
( ^ω^)「……上総だお」
モナーの方を向いて小さく呟くとブーンはもう一人の男の辺りへ向かった。
おそらくモナーには今の言葉は聞こえていなかったが、ブーンは言わずにはいられなかった。
二人で騎士になる。その目的がこんなつまらない事で叶わなくなるなどとても我慢ならなかった。
(´∀`) 「下総モナ」
モナーは最後の質問にそう答えると小刻みに震える手で書き記す。
少し離れた場所からはブーンが祈るような視線を送っていた。
|/゚U゚| 「──次の者」
男の意外な声にブーンは机に釘付けになっていた視線を引き剥がし、
モナーは体を勢い良く反転させる。
( ´_ゝ`)「はい」
机に進みだした男を二人は知らなかった。
歳はおそらく同じくらい。細身の体になかなか整った顔立ちと白い肌。
およそ場違いな風貌である。
(´∀`) 「今の時期、この村にやってくる物好きなんているもんかモナ」
モナーがどっかりと腰を下ろした。
( ^ω^)「そこにいるお、三人も」
考えたところでわからない。二人はすぐにそこへ至ると、黙って青年の姿を見続けていた。
(´∀`) 「字、書けるみたいだモナ」
青年は質問に答えをすらすらと紙へ書いている。
( ^ω^)「結構売りになると思ったんだけど、そうでもないかもしれないお」
(´∀`) 「村の外じゃ読み書きなんて当然なのかもしれないモナ」
( ^ω^)「でも、あの人は褒めてくれたお」
(´∀`) 「嫌味かもしれないモナ。こんな貧しそうな村で読み書きできるなんてには珍しいって事なんだモナ」
( ^ω^)「確かにここは……裕福な街なんかとは比べ物にならないお」
兵士に学は求められない。ただ騎士や家を守るための刀と盾にさえなる事ができれば十分であった。
だが、ただの兵士で終わるつもりがなければ、読み書き計算はある程度できなければ全く先が見えない時代でもあった。
出世を考えなくとも周囲に見栄を張りたがる公家、徹底した実力主義の商家、
自分達にとってこの二つなら兵士になるのは難しい事ではないと考えていた。そして今実際にこの場に来ている。
だがその期待は今、村の外から来たたった一人の青年に打ち砕かれていた。
(=゚ω゚) 「よし。それじゃあ行こうか」
全員に簡単な質問を終えると村長の屋敷の場所を尋ねられた。
モナーが答えると、その場でしばらく待つよう伝え、二人は教えられた場所の方へ早足で消えていった。
それから一刻から二刻後、戻ってきた後の第一声であった。
(=゚ω゚) 「君達は今日の今から私の家で一緒に働いて暮らしていくわけで。あぁ、肩書きは兵士なんだけど私はあんまり規律とかは重く見ていないからね」
両手を大げさに振り回しながらこれまで黙っていた男が、休み無く一気に話し続ける。
(=゚ω゚) 「気楽に、気楽にいこう。いやまず、兵士見習いってことになるのかな。うん」
そこで初めて話しを止め、一度ゆっくりとした呼吸を入れた。
(=゚ω゚) 「私はイヨウ、商家七位のイヨウ家の主だよ。よろしくね。それから彼がニンジャ。僕なんかより何倍も腕が立つからね。その辺りは僕より彼に教えを請うのが正しいとおもうよ」
|/゚U゚| 「よろしく頼む」
村を出た時、既に日はやや傾いていた。
六人の青年達は誰も欠ける事無く、イヨウの後について歩いている。
進む方角は常に西。人の往来よって作られた道からは大きく逸れる事はないが
しっかり整備された道はまだ一度も通っていない。
(=゚ω゚) 「少し休憩にしよう。君達も疲れてきただろう」
日は村を出た頃よりも大きく傾き、空もやや赤みを帯び始めていた。
大きな川に簡素な橋がかけられている。それを渡らずにイヨウが振り返った。
川は浅いところならば底が見える。
川べりだけが茶色い土がむき出してやや不自然さを感じさせたが、ここまで休みなしで歩き続けていた青年達は
それよりも喉を潤したいと川の淵へ向かう。
( ^ω^)「もう足が棒だお」
( ´_ゝ`)「あの、お屋敷までの道程は残りどの位なんですか」
(=゚ω゚) 「そうだね。このまま道なりに歩き続けていれば朝には到着するさ」
(´∀`) 「朝まで……」
(=゚ω゚) 「だけど、朝まで歩き通しなんてさすがに厳しいだろう」
( ´_ゝ`)「えぇ、まぁ」
(=゚ω゚) 「だから朝は屋敷の中で迎えられるようにしようか。うん、そうしよう」
( ^ω^)「……どういう事だお」
(=゚ω゚) 「あっ。それから、そこの川の水は絶対に飲んだらいけないよ」
ブーン達は両手に水を掬い、この話しが終わり次第それを口へ含もうとしていた。
(=゚ω゚) 「どうもねぇ、上流での方の街が胡散臭い事をやってるらしくてね」
ニンジャが腰に下げていた皮袋から小さな水筒を出し三人で分けるよう言いながらそれを配った。
(=゚ω゚) 「薬だか毒だか何を作ってるのかわからないけど。まぁ、とにかく飲んだらダメ。精神がえらい事になってしまう」
( ^ω^)「……ゴクリ」
(=゚ω゚) 「何かに使った水をそのまま川に垂れ流してるそうだよ。だから口に含むのもあんまり良くないね。まぁ唇を湿らすくらいにしておきなさい」
(´∀`) 「世間こえぇ……」
短い休憩が終わると、空のほとんどが赤く染まっていた。
(=゚ω゚) 「足元に気をつけるんだよ。できるだけ私達が歩いたところを歩くようにね」
( ´_ゝ`) 「歩くようにって……、足跡全く見えないんですけど」
(´∀`) 「足跡がどうのって事よりも、前も全然見えないモナ」
|/゚U゚| 「昼でも日の光はほとんど届かないからな」
ニンジャが上を指す。
その先には隙間を無くすように葉が重なりあい一面緑の天井を作り出していたが
今の一向には夜の闇が普段よりもずっと近くにあるように感じるだけであった。
(=゚ω゚) 「それから苔もところどころに生えているからね。転ばないようにって言ったって無理だと思うから、いつでも転ぶかもしれないって頭の隅に置いておくと良い」
イヨウが足を盛り上がった木の根に足を乗せると、左右に滑るように移動させる、
(=゚ω゚) 「そうしておけば、転んでも大けがにはつながらないからね。いつでも手を出せるように意識して、頭は守るようにしよう」
一向は一刻前にそれだけのやり取りだけをして、国境を跨ぐ「フタワ森」へ入った。
フタワ森は三国の戦の時もほとんど戦場にならず、古いものから新しいものまで大小様々な木々が隙間なく枝葉を伸ばしている。
過去に一度だけ下総が安房を攻める際、不意を付くためにフタワ森を抜けて軍を進めようとしたが
まともに進軍がままならず命からがら引き返した話は有名であった。
重装備をしてこの森に入る事は自殺行為であるが、いかに軽装かつ少数であるとしてもこの森を抜ける事は容易ではない。
しかし、森に沿って迂回するのと比べると遙かに掛かる時間は少ない上、敵に見つかる心配もほとんど無いため
下総の軍がここを無事突破していたら、歴史は変わっていたかもしれなかった。
(=゚ω゚) 「止まるよ」
イヨウが口に指をあてて静かにするように求める。
ニンジャが音を立てないよう、慎重に足の置き場を探してイヨウの前へ進む。
(=゚ω゚) 「音を立てない、動かない」
二人は目くばせをしながら、小さな声でやり取りをしている。
(=゚ω゚) 「だめだね。今さら他の道を進むことなんてできないし……。何よりこんなに近づくまで気がつかないなんて」
|/゚U゚| 「この暗さに加えて、こっちは少数といっても後ろに何人も連れているんです。目も耳も大して利かないのなら仕方ないかと」
(=゚ω゚) 「そうだね。うん。まぁここで気がついただけ、良かった。でも、相手には悪い。本当にね」
|/゚U゚| 「彼らも覚悟はしているのでしょう。騎士にせよ兵士にせよ。もしそれが無いとしたら、それこそが問題。遅かれ早かれいつかは」
ニンジャの話はこれまでよりずっと起伏のない口調だった。
イヨウは何も見えない空を見あげ、大きく息を吐く。
ブーン達には二人が話している内容が全く理解できなかった。
遠くで小さな灯りが二つか三つ、左右に揺れながらこちらへ近づいてきている事に気がついた時、これから何をしようとしているのか
それに気がついて三人は血の気が一気に引いていく感覚に襲われた。
( ´_ゝ`)「[ピーーー]気だ。[ピーーー]気なんだ。あの二人は、良くはわからないがこちらへ寄ってくる人を殺そうとしている」
ウトジャの顔色は闇の中で確認できないが、きっと蒼白であっただろう。
声に力はなく、最後に残った理性だけで震える声を小さく絞っている。
(´∀`) 「灯りはいくつだモナ」
( ^ω^) 「五つ、六つ、たぶん七つだお。まだ後ろにもあるかもしれないけど、今見えるのはそれだけだお」
( ´_ゝ`) 「仮に、仮にだ。最低の人数の七人だとして。こっちは八人。実際そのうちの六人はただの素人。もしも、向こうもこちらを襲う気だとしたら」
ブーンとモナーは山で修行をしていた。素人相手なら負けない自信は十分に持って村を出た。
だが、今この状況でそれを自分達から口にする事はできなかった。口の中は乾ききり、ひたすら明かりが七つ以上増えないよう
祈りながら遠くを眺め続けていた。
ウトジャの呼吸は見る間に早く浅くなり、無言の間に響くのは息を吐く音だけだった。
一向の異様な空気に一番後ろの三人組が不安そうにあたりを見回す。
イヨウとニンジャの会話はブーン達の位置では聞こえたが、さらに後ろの彼らの耳までは届いていなかっただろう。
しかし、誰も彼らに今の状況を教えようとはしなかった。
ブーンは身を隠すため腰を低くしながらも、できる限り素早く走り出せる体勢でじっとしていた。
両腕はモナーとウトジャの襟首をしっかり掴み、後一瞬でも間があれば腰を上げ振り返っていただろう。
しかし、すぐにブーンは恐ろしかったあの灯りが徐々にその勢いを失っている様に目を奪われていた。
戦いがはじまったらその隙に、二人を引きずってこの場から逃げるつもりだった。
勝てるわけが無いのだからこんな所で死ぬわけにはいかない。
ニンジャやイマツが注意を引いている間にできるだけ遠くへ。
この暗さなら逃げ切ることだって難しくはないだろう、そう考えていた。
だが、ブーンが二人の首を引っ張るように腕を引き、立ち上がり反転するよりも先に、ニンジャは一番前にいた男を斬り捨てていた。
男の体から出ていく血はブーンが思っていたよりもずっと多かった。そんな事を考えている間に、ニンジャは二人、三人と相手を減らす。
四人目からは足は止まり、何人かは背を向けて逆方向へ走り出した。
ほんの数分後には、斧と灯りを持った男達は全員地面に転がっていた。
少し離れたところからテマスの悲鳴が聞こえた。
(=゚ω゚) 「ご苦労様。嫌な事をさせたね」
声の聞こえた方から近づいてくる人影にイヨウは変わらない調子で声を掛けた。
|/゚U゚| 「構いませんよ。ただ……」
転がる灯りに照らされたニンジャは、刀を二度三度振って血を払ってから鞘へ納める。
その慣れた手つきは、暗にこんな状況が何度もあったのだと物語っている。
|/゚U゚| 「刀と帷子を洗いたいのですが。このままでは少し」
ニンジャは全身返り血で真っ赤に染まり、強烈な血の匂いを放っている。
青年達は必死に嗚咽を堪えていた。
(=゚ω゚) 「そうだね、じゃあ少しだけ遠回りだけど川の方へ進もうか」
イヨウがまた先頭を歩き出す。それからすぐに振り返った。
(=゚ω゚) 「みんな、怪我はないかい?」
一刻も歩かないうちに小さな川にたどり着いた。途中何度か立ち止まると、耳をすませては二人で難しい顔で話し合っていたので道を知っているようではなかった。
川の淵まで着くとすぐにイマツはできるだけ離れないように休憩を取るように伝え、帷子についた血を洗いながらしているニンジャの傍に座った。
ブーン達は休憩を告げられると向かい合い、力なく腰を下ろすとすぐに話し始めた。思い出したくは無かったが、思い出さずにはいられなかった事を吐き出す。
(´∀`) 「あの偉そうな男は死んだモナ?」
( ^ω^)「たぶん」
( ´_ゝ`)「あの場にいた敵はきっと全員死んだかと。いや、殺さましたよ」
オトジャは小声で話し合っている二人の方を顎で示す。
( ´_ゝ`)「よくはわかりませんが」
そう前置きすると一度深い呼吸する。
( ´_ゝ`)「イヨウ家はどこか面倒なところから恨みを買ってるみたいですね。商人なんてそういう相手から目をつけられたら終わりですよ。あぁ、いい選択だと思ったんだけど、そうでもなかったかもしれない」
( ^ω^)「でも、さっきの奴らが恨みを買った全部なら、これで終わりだお」
オトジャはハッと目を大きく見開いた。
( ´_ゝ`)「なるほど、そうですね。僕はあいつ等がただの使い走りだとばかり。仮にも商家の七位。この国の名門中の名門、騎士であるイヨウ殿にあんな態度で掛かって来るものだから、てっきり相手はもっと巨大な集まりかと思っていました」
全く予想外の考えに対し、単純に興味を持った様子でオトジャは嫌味なく、少し早口で考察を始める。
( ´_ゝ`)「たしかに、あの十人に満たない人数で一国に、五十もいない名士を襲おうとしたのがさっきので全員だとしたら」
(´∀`) 「いや、たしかにそのめんどうな相手はまだいそうだモナ」
モナーはブーンが話を聞きながらどんどん元気がなくなっていくのを見かねて割り込んだ。
(´∀`) 「そもとも、騎士相手にあの人数でどうのってのよりも」
モナーは顔を三人で作った円の中心へ寄せた。
(´∀`) 「騎士とお供で二人きりってのはどうだモナ。それもどうやら狙われているようだし、それを知っていた様でもあるモナ」
( ´_ゝ`)「たしかに、たしかに」
(´∀`) 「うちの村の間抜けな領主様だって何人も引き連れて募兵に来るってのに、危険な中を二人で遠くまで来る。帰りにしたってこんな森を突っ切ろうとする。おかしくないモナ?」
( ^ω^)「とにかく、おかしいところだらけだお……」
(=゚ω゚) 「さぁ、屋敷まではあと少しだよ」
イヨウは全員の顔が確認出来るまで、森と平野の境目で青年達を励ます。真上より随分傾いていた月明かり、そこに浮かぶ一行の表情はどれも疲労の色が濃い。
( ^ω^)「やっとこの真っ暗な森ともおさらばだお」
( ´_ゝ`)「あぁ、地面に置いた足が滑らない。これだけでもすごいありがたい」
辺りには誰かが身を隠せるような木や建物はほとんど無いので、一行の緊張はいくらか緩み余裕が生まれていた。
(´∀`) 「もうあと数刻で東の方が明るくなりそうだモナ」
自分の脚を揉んでいるモナーの声はかすれていた。
(=゚ω゚) 「ここからしばらくは真っすぐ進むよ。そこで一つ用事を済ませてしまおう」
|/゚U゚| 「なに、方向は屋敷と同じだ。遠回りにはならない」
まだ目的地ではない。イヨウの言葉で落胆した六人にニンジャが慰めるように言う。しかし、その落ち着いた口調とは逆に青年達の体が強張った。
二人はそれに気づいた様子だったが、何も言わずにま歩き出すと後についてくるように促す。
真っ赤な帷子も強烈な異臭も大分消えていたが、一行の頭の中に焼きついた数刻前の光景は全く薄れてはいなかった。
ニンジャの一挙手一投足に皆の目がいき、警戒をする。
そうして森に入る前より三つの塊は間隔を広げて、開けた道を静かに進んでいく。
(=゚ω゚) 「私だ」
周りの民家より一回り小さな家の前までくると、イヨウは短い間隔で引き戸を二度叩く。
次の瞬間、ブーン達は声を上げそうになるのを無理矢理口を閉じて堪えていた。
イヨウには決して声をださないよう、村が見えたところで告げられていた。話しは変わらぬ調子だったが、
森の中の一件以来の真面目な顔に一行は不安を感じ、物音一つにも注意を払うようになっていた。
しかし、引き戸が素早く動き指二本分の隙間が出来てから数秒置いた辺りでその注意はほとんど吹き飛んでいた。
獣の様な視線が一行の端から端へ、じっとりと移動していく。
森で感じたあの空気に再び体が包まれ、青年達の体は一気に硬直した。
ξ゚⊿゚)ξ 「どうぞ」
意外な声であった。
獣の様な空気を放っていた、目の持ち主が戸を一人分だけ開けるとイヨウを中へ促す。
(=゚ω゚) 「やぁ、色々心配かけてしまったかな」
ξ゚⊿゚)ξ 「いえ。──彼らが?」
(=゚ω゚) 「あぁ、そうだよ。うちでこれから働いてくれる子達」
(´∀`) 「女の子だモナ」
モナーはあまりの驚きで注意をすっかり忘れていたが誰もそれを気に留めなかった。
( ^ω^)「女の子だお」
( ´_ゝ`)「そうですね」
|/゚U゚| 「さぁ、早く中へ」
ニンジャに急かされ全員が入る。奥には火がおこしてあり進む程徐々に辺りが確認できるようになっていた。
( ´_ゝ`)「うわぁ」
オトジャが大きな声を上げると尻餅をついて何かを見上げている。
(´∀`) 「どうしたモナ」
モナーが二部屋しかない小さな民家の中を大げさに走り駆けつけた。
(´∀`) 「うわぁ」
そして同じように腰から落ちると上を見上げていた。
ξ゚⊿゚)ξ 「静かにしないか」
一行を招きいれた女の声がすると、奥の部屋から顔だけを覗かせると残りの四人には「驚かないように」とだけ言うと顔を引っ込める。
(=゚ω゚) 「まぁ、最初は驚くけど声は上げないようにね。小さな声ならまぁ、大丈夫だろうけどあんまり大声はちょっとね」
イヨウは悪戯っぽく笑うとブーンの背を押してどんどん奥の部屋の方へ進めて行った。
半分開いた襖に手を掛け、ブーンはゆっくりと引いていく。
( ^ω^)「うわぁ」
ブーンが後ろに倒れこみ見上げる先には、巨大な馬が静かに立ちはだかっていた。
黄赤の鱗に覆われた巨体でイヨウを包むように寝そべり、まるで犬のように首や頭を擦り付ける。
三つ指の先にある分厚く鋭い爪を体の下に敷き、甘える仕草は見た目とのあまりの差に一行を驚かせた。
(=゚ω゚) 「この子はとても賢いからね。ほら、そんなに離れなくても何もしないよ」
馬が頷くように鼻息を鳴らす。
(=゚ω゚) 「じゃあ手短に、簡単な紹介だけしてしまおうか。落ち着いたらまたゆっくり時間をとるとして」
イヨウが暖炉の周りの三人の女を手を向ける。
(=゚ω゚) 「妻のデレだ」
三人の中では一番年齢の高そうな女が軽く頭を下げる。
ζ(゚ー゚*ζ 「大変だとは思うけど後少しだけがんばってね。」
声は明るく、淡い光から照らされた顔も若々しい。着ている着物も薄暗い中にあっても、鮮やかな色であると伺える。
しかし、一行の思い描いていた身分のある者の妻の想像よりはいくらか地味な身なりでははあった。
(´∀`) 「……きれいだモナ」
モナーがぼそりと声を漏らす。周囲の誰にも聞こえない程小さい声だったが馬だけが少し反応したように見えた。
(=゚ω゚) 「こっちが娘のスナオね」
川 ゚ -゚) 「よろしくお願いします」
デレの隣の女が立ち上がり頭を下げた。一行が恐縮して立ち上がり深く頭を下げると、両手で座るように促す。
身なりはデレと同じような質のよさそうな着物ではあるが少し地味な印象を受ける。
顔立ちもデレに似ているがうっすら見える目はイヨウにそっくりだった。
( ^ω^)「娘って言うことは……、デレさんは結構な年齢だお」
モナーは深く考え込んでいるようで、難しい顔をして足元を見つめていた。
(=゚ω゚) 「そしてうちで働いてくれてるツンだよ。まぁこんなに小さな頃からうちにいるからもう娘も同然なんだけどね」
ξ゚⊿゚)ξ 「ツンだ。イヨウ様の元で働かせて頂いて五年になる」
続きを待っていたがそこで話しが終わりだと分かるまでしばらくの、青年達は聞く体勢のままじっとツンを見ていた。
(=゚ω゚) 「それからこっちが僕の馬。騎士にとって馬の名は特別なものだからまだ教えられないんだけどね。仲良くしてやってよ」
首を二、三度上下させる馬は話の内容を理解しているように見えた。
( ^ω^)「あの、すいません」
ブーンが弱々しい声をあげる。
(=゚ω゚) 「なんだい」
( ^ω^)「あの……ブーンの後ろにいるのは、何だお」
恐怖で引きつった顔の後ろには、荒い息を立ててしきりにブーンの匂いを嗅ぐ馬がいた。
|/゚U゚| 「あぁ、それは私の馬だ」
( ^ω^)「しかし、馬ってほんとにでかくて強そうだお」
ブーンの周りを真っ黒な馬がぐるぐる回っている。最初こそ恐怖を感じていたが、今はもうその巨体に視界を塞がれても手で軽く押してどかしてやる程になれた。
それを見ていたオトジャが誰も話していないのを待って切り出した。
( ´_ゝ`)「あの……、お二人とも歩いて村まで来たんですよね。馬がいるのなら、それに乗って移動した方がもっと早かったんじゃ」
(=゚ω゚) 「いやぁ、馬じゃとてもあの森は走れないからね。どうしても遠回りになってしまうし、何より目立っちゃうよね。あまり目立つのさ、ね」
イヨウが馬の背を軽くたたくと、体を少し持ち上げて前足を外へ出す。たしかに、あの根が盛り上がり苔でぬかるんだ森を走るのには不向きに見えた。それからすぐに、森の一件が頭に浮かぶ。
(=゚ω゚) 「それに帰りは、有望な若者達と一緒のつもりだったからさ、じゃあ徒歩でいこうかって」
( ´_ゝ`)「なるほど」
(=゚ω゚) 「さて、じゃあそろそろ行こうか。完全に夜が明ける前には帰りたいからね」
イヨウが腰を上げると、それに習うように一行が立ち上がった。部屋に緊張が走ったが誰もそれに気がついていない様に振舞う。
川 ゚ -゚) 「ほらお母さん」
スナオが着物の裾を踏んでしまってうまく立ち上がれないデレの手を引きあげる。
ツンは部屋の隅から大く平たい板を二つ、部屋の中心辺りに重そうに運び出していた。
ξ゚⊿゚)ξ 「じゃあ、これを馬に着けるから。あなた達も手伝って」
(´∀`) 「これはなんだモナ」
(=゚ω゚) 「足跡を消すために馬に引いてもらうのさ。列の一番後ろの馬が板を引きずれば僕らのも馬のもまとめて消せるだろ?」
( ´_ゝ`)「なるほど、なるほど」
(=゚ω゚) 「僕らがこの村にいるって事が知られたらまずいからね。皆に迷惑をかけちゃう」
( ´_ゝ`)「──あの、これ道具二個ありますよね」
オトジャが少し考えてから口を開いた。
(=゚ω゚) 「そうだよ。僕の手作りの、世に二個しかないお手製だ」
( ´_ゝ`)「全員で一列になり一番後ろの馬が引けば、これを着けるのはどちらか一頭でいいんじゃないでしょうか」
オトジャの話を聞くとイヨウが嬉しそうに笑った。
(=゚ω゚) 「そうなんだよね。どっちか一頭がつければ十分なんだよ。重いし、あまり時間を掛けるのは良くないから一つにしたいんだけど」
イヨウが二頭の顔を順番に目をやる。馬はその目を見ようとはせずに首上下させ頭を震わせていた。
(=゚ω゚) 「嫌がるんだよ。自分だけ着けられるの不公平だって思っているんだろうね。いやぁ、賢い。馬も君も」
一行は日が出ないうちに屋敷へ着くため、道中を早足で進む。目的地は村を出るとすぐに目に入った。まだ薄暗い中でも分かる、大きな屋敷である。
(=゚ω゚) 「じゃあ、すこし待ってね」
イヨウは屋敷まであとほんの少しというところで、一行の足を止めさせた。
特に合図は無かったがニンジャが辺りを警戒しながら門の前まで一人で進む。
待たされている位置からは、木製の門は随分丈夫なつくりに見えた。
さらに屋敷を囲う壁も過度に思えるほどしっかりとしている。これ程頑丈に外と隔離されていると、この屋敷に住むイヨウがよほど何かを恐れているのだろうと、勘繰りたくもなってしまう。
ニンジャが門を体全体で引くと、僅かに隙間ができた。それを何度か繰り返しようやく人一人が通れる大きさまで隙間が広がると、警戒しながら中を覗き込む。
( ´_ゝ`)「ここって、イヨウ家のお屋敷ですよね?」
オトジャがブーンとモナーにだけ聞こえるように言う。
(´∀`) 「変だモナ」
( ^ω^)「変だお」
( ´_ゝ`)「ですよね」
屋敷を誰かに乗っ取られたのか、しかし誰に。屋敷を奪ったところで騎士なれる訳ではない。確かに堅牢なつくりの屋敷だが、こんな田舎にあっては無用の長物だろう。
それを危険を冒してまで奪う価値があるだろうか。三人が声を潜めて話し合っても答えは出ない。
「よし、行こうか」
イヨウの視線の先には手招きをしているニンジャがいた。
|/゚U゚| 「部屋は随分荒らされていますが、それだけです。目当てのものがみつからず暴れて行ったのでしょう」
(=゚ω゚) 「だろうね」
イヨウは落ち着いていた。その様子が不思議と見ているものを落ち着かせた。
門の中には大きな屋敷と先ほどの民家くらいの建物が併設されている。庭は広く、背の低い草花がよく整えて植えられていた。
(=゚ω゚) 「よし、お前達も無事だな」
イヨウがニンジャの足元に集まっていた犬達を抱える様に抱き締めた。それまで静かにしていた犬達が一斉に鳴き声を上げながら尾を振り回す。
それもすぐにイヨウが口の前で指を一本立てて見せると静かになった。
ニンジャが馬のために扉をもうすこし広くあけると、二頭は窮屈そうに耳を体につけて通りに抜ける。
(=゚ω゚) 「取り合えず屋敷に入ろうか。簡単にこれからの事を話して交代で休みをとろう」
屋敷の中はツンが一番前を歩いた。イヨウ達家族は二頭の馬で挟む様にし、後ろにはニンジャがつく。
(=゚ω゚) 「恐らく三日もすれば応援が来ると思うよ。だからそれまで何とか耐えないといけない」
屋敷の中で一番丈夫だからと、イヨウの私室に集められた。そして全員が部屋に入ると、ツンが戸の側と窓の側に馬を移動させた。
( ´_ゝ`)「あの、質問してもよろしいでしょうか」
(=゚ω゚) 「いいよ」
イヨウがオトジャの方を向く。
( ´_ゝ`)「私たちは何から三日間耐えなければいけないのでしょうか?」
オトジャの疑問は全員が抱いているものだった。一行の顔はイヨウに向けられる。しかし、意外なところから声が上がった。
ζ(゚ー゚*ζ 「あなた、何も言わずにこの子達を連れてきたの?」
優しい口調は変わらないが、その奥には怒りが感じられた。
ζ(゚ー゚*ζ 「いえ、まさかこんな危険な事。説明もしない訳がないわよね」
それまでのイヨウの笑みと、今の笑みを比べると強張っているのはすぐに分かった。口角は上がっているがヒクヒクと時折痙攣している。
(=゚ω゚) 「我々を、いや。イヨウ家の持つ黄札を狙っているのは商家第五位のゼア」
イヨウはデレから向けられる指す様な視線に耐えきれず「前にも言った様にね」と付け足した。
(=゚ω゚) 「でも」
青年達が不安の色を見せてすぐにイヨウは強い口調で話し出す。
(=゚ω゚) 「いくら五位の騎士っていったって、大義もなしに他家を攻めるなんて事は出来ない。自国内で戦を起こすなんて事したらすぐに周りに潰されちゃうからね」
イヨウは目の端でデレを確認する。まだジッと睨みつけられているのはすぐに分かった。
(=゚ω゚) 「だから、あんな姑息な手を使うって訳さ」
イヨウは少しだけ間を空けたが、またゆっくりと話しを続ける。
(=゚ω゚) 「うちの兵士を殆ど引き抜いて、あんたの家なんてすぐに潰せるんだぞって脅すのさ。でもまぁ、もう攻めては来ないと思うけどね。向こうも表立っては動けないし、子飼いも……ねぇ」
言葉を濁したがすぐに森での一件が一行の頭に浮かんだ。
(=゚ω゚) 「そんな訳で新たに君達を迎えたって訳なんだけどね。さすがに兵士がほぼいない状態でなりふり構わず攻められたらまずいしね、いくらなんでも相手もそこまで頭が悪いとは思えないけど。何より僕らはともかく妻と娘達が危ない」
急いで一言付け加えた。
(=゚ω゚) 「っと、一番最初に話した事の繰り返しになっちゃったね」
イヨウの顔には汗の粒ができていた。
|/゚U゚| 「三人一組で敷地内の見回りをしてもらう。時間は、そうだな」
(=゚ω゚) 「朝まで後どれ位かな」
|/゚U゚| 「十刻は無い位かと」
(=゚ω゚) 「じゃあ、五刻交代かな」
|/゚U゚| 「ではまず、お前たち三人に頼もう。辛いだろうがもうしばらく頑張ってくれ」
前の方にいたブーン、モナー、オトジャが指された。
そのまま後についてくる様言われ、ニンジャが部屋を出る。
|/゚U゚| 「取り合えずこの鎧を着てくれ」
ニンジャが大きな六つの籠を奥の部屋から運び出す。中に入っているのは仮面まで付いた全身鎧だった。
|/゚U゚| 「最近じゃあ式典でも使われないような旧時代の品だが、たまには役に立つ」
( ^ω^)「重そうですお」
ブーンは何もしていなくても痛む脚をさする。
|/゚U゚| 「何、心配する程じゃ無いさ」
ニンジャが少し笑うと片手で鎧を持ち上げた。
|/゚U゚| 「実は木でできている。昔どこかの商人がな、イヨウ様が商家九位になった時に勝手に置いて行ったんだがな。なんでも十二砦の兵士長の鎧を模した品らしい」
鎧を裏返すと確かに木目が見えた。
|/゚U゚| 「まるで本物の鉄製ような物言いで置いて行くものだから、初めて持った時は驚いたな。それでだ。二刻半これを着て見回りをしてもらう」
( ^ω^)「時間になったらどうするんですお」
|/゚U゚| 「そしたら着替えさ。別の鎧にな」
ニンジャは別の籠の包みを開けてみせる。中には色や形の違う鎧が入っていた。
(´∀`) 「めんどうだモナ」
|/゚U゚| 「まぁ、そう言わないでくれ。どこかから覗かれているかもしれないんだ。少しでも兵が多いと見せたいところだろう」
遠くで犬が吠え出す。三人は槍を持つ手に力を込め、あらん限りの力で駆ける。動くたびに鎧同士がぶつかってうまく速度が出なかったが無言で急ぐ。
|/゚U゚| 「交代の時間だ」
ニンジャが外へ出てきていた。口調は変わらないが疲れた様子が感じ取れる。恐らくこの屋敷を出た時からまともな休みを取れていない事は青年達にもわかっていた。
|/゚U゚| 「変わった事は無かったか?」
( ^ω^)「無いですお」
|/゚U゚| 「そうか。ご苦労」
合図をすると犬達はすぐに静かになり、庭に散っていった。その後ろ姿を確認してからニンジャは三人の槍を受け取ると屋敷の中へ促す。
ζ(゚ー゚*ζ 「どうぞ」
屋敷内へ戻るとデレとスナオが濡れた手ぬぐいと握り飯を三人に手渡す。モナーは恥ずかしそうに礼を言うと、耳まで真っ赤になっていた。
ζ(゚ー゚*ζ 「さあ、お部屋の用意をしてますからね。ゆっくり体を休めて」
部屋まではスナオが案内してくれた。
川 ゚ -゚) 「あの」
引き戸を閉める途中で手を止めた。
川 ゚ -゚) 「ありがとうございます。うちに来てくれて」
(´∀`) 「なんの、モナ達は募兵が来るのを待っていたモナ。こっちがお礼を言いたいくらいだモナ」
川 ゚ -゚) 「でも、詳しい話は聞いていなかったんでしょう」
三人には笑顔を取り繕った。
川 ゚ -゚) 「父に悪気は無かったと思うんですけど、どうしても私たちの事になると他に頭が回らなくなってしまうようで」
川 ゚ -゚) 「もし、もしですけど。嫌だったら言って下さい。私も口添えしますから。父があなた達を辞めさせないなんて事は無いと思いますが……、安全に帰れるくらいのお金は出させますから」
(´∀`) 「モナ達はその位の事じゃ辞めないモナ」
( ^ω^)「そうだお」
川 ゚ -゚) 「……ありがとう」
スナオは笑顔でそう言うと「ゆっくり休んで下さい」と戸を閉めた。
(´∀`) 「……良い子だモナ」
足音が聞こえなくなってからモナーが呟く。
( ^ω^)「ブーン達にできるなら……守ってあげたいお。この家の人はみんな良い人だお」
( ´_ゝ`)「騎士とその家族なんて、どこも偉そうに周りを見下すのが趣味みたいな連中だと思ってたんですけどね」
( ^ω^)「頑張るお」
三人が頷いた。丸々とした月は完全にその姿を隠そうとしていた。
青年達の兵士として、初めての夜が明けようとしている。
第一話 終わり
夢の中で助けを求められた。
相手はの顔はどんなに目を凝らこらしてもわからなかったが、背は低く声は少年特有の高さが感じられた。
しかし、話しの調子は歳とは不相応に落ち着き重い。それが誰なのかはすぐに分かった。
ブーンは今の生活に心底飽きていた。朝から晩まで畑を耕す。合間には少しの食事を二度挟み真っ暗になれば眠りにつく。
父は最初から無く、母が死ぬとすぐに商人に売られた。
村に自分を養うだけの余裕がなかったのか、単に小金が欲しかっただけなのかは分からない。今となっては知るすべもないが、その事に対する興味もここにきてしばらくすれば無くなっていた。
数年が経ち体がしっかりしてくると、より過酷な場所へ売られると聞いていたがついに明後日別の商人に引き渡すと告げられた。
( ゚∋゚) 「明日の朝には出立だ。なぁに、そう遠くはない。だが、明後日から畑を耕す代わりの小僧を買わんといかんからな。少しばかり早めに出るぞ」
商人はブーンの両手より少し長い鎖を首輪に結び付けると、反対側を柱に括り付け鍵を掛ける。仕事以外は常にこの鎖で柱に結び付けられるている。男の手際も慣れたものだった。
代わりに仕事用の畑端から端までは優にある鎖を外した。
(^ω^ )「助けに行くお」
( ゚∋゚) 「ん」
商人は特別巨体ではなかったが、がっしりとした体格だった。しかし、今のブーンの体格は背丈も体の厚みもそれを上回る。
( ゚∋゚) 「何か言ったか」
意外だったからか、男にははっきり聞き取れていたがつい聞き返していた。
(^ω^ )「助けに行くんだお。すぐに」
長い鎖を男の首へ巻き付け締め上げる。男は何か言いたげだったが言葉にはなっていない。ただ、空気が漏れる音だけが続く。
徐々に音が小さくなっていく。それが完全に消える直前、ブーンは男の首から鎖を解いた。
男はほとんど動かない。僅かに口から空気の出入りがあるようではあるが、泡を噴いて白目を見せている。
このままでは死んでしまうかもしれないが、それはブーンにとってはたいした事では無い様に黙々と絡まった鎖をほどく。
そのまま無言で男の懐をまさぐり見なれた鍵束を取り出すと何年もの間こんな場所へ繋ぎ止めていた鎖を外す。
箪笥から男の服の中で作りのしっかりしてそうな物を探して着替える。多少、小さいがが着れない程ではない。
後は男がいつも大事そうにしている壷に入っている金を全て革袋へ移した。一緒に入っていた街への許可証は懐へ突っ込んだ。
/^o^2\「はいはいお兄さん。ちょっと見て行ってよ」
(^ω^ )「おっおっ」
緊張から解放され、安堵しながらただ足を進めていると、前に男が立ちはだかった。
/^o^2\「面白い物から綺麗なものから汚い物からつまらない物までなんでもあるよ」
右手にある色々なものが雑に並べられている店を指す。
(^ω^ )「なにいってるんだお」
/^o^2\「兄さんは観光かい? いやぁ、そんな事はなかろうよ。門から入ってきた若い男。観光に来るのは金持ちのお子様位だ。
兄さんの姿から察するに悪いが金持ちの息子さんには見えないな。身なりは悪くはないが派手さがない。お供もいない」
ブーンはいきなり目の前に現われ、話続ける男に戸惑っていた。
/^o^2\「そうなると、考えられるのはお仕事と。商売人さ。ここで買った物を他所で売る」
/^o^2\「さぁ。さぁさぁ。うちの店は掘出し物がいっぱいだ。安くしておくぜ」
(^ω^ )「先を急ぐんで失礼するお」
ブーンは前で大げさな身振り手ぶりで話す男をかわそうとする。
/^o^2\「それは残念。まぁ、何か入り用になったら来ておくれ。うちは色々な置いてるからね。知りたいことがあったら教えてもやるよ。安くな」
(^ω^ )「その時はよろしく頼むお」
それだけ言ってブーンは前もしっかり見て歩き出す。
/^o^3\「お兄さん、商人さんだろ? いい焼き物があるんだ、見ていかないか。金持ちの好きそうな逸品なんだ」
/^o^4\「それよりもうちの鎧見てきなよ。男なら鎧くらい持ってないとね。腕の良い職人が作ってるから質は保証するよ」
/^o^5\「外から来たのかい? うちは他のどの宿よりずっと安いよ。その分狭くて汚いが死ぬ程じゃあない。どうだい?」
街に活気が溢れていた。
うっすら記憶に残る故郷の村を思い出そうとするが、うまくいかない。
それでもここまで活気のある村ではなかった気がする。むしろ誰もが下を向いて歩いている様な村だったと思う。
(^ω^ )「とりあえず色々見てから決めさせてもらうお」
店主達は積極的だったが素直に引き下がった。そしてまた別の通行人に声を掛ける。
(^ω^ )「さて、これからどうしたものかお」
街の中の通りは良く整えられていた。主要な通りには石一つない。等間隔で並んでいる木々の下に座って休んでいるとその理由はすぐに分かった。
整えられた道は、人と同じ位に荷車が行き交っている。そのどれもが、鎧であったり焼き物であったり交易品を載せて街を出入りしていた。
この街の中では荷車の通り道は気にする必要は無い、商人にやさしいつくりになっていた。
(^ω^ )「しかし、商人が多いお」
荷車を引くのは商人自身か、体の大きな下男。どちらにしても必ず、大きな荷物を運ぶ商人がいた。
(,,゚Д゚) 「そうだろそうだろ。ここは国で一番の市場だからな。許可証のだって金さえあれば手に入る。治安も悪くないから店を開くにはもってこい」
不意に横からの馴れ馴れしい声に驚いた。
(,,゚Д゚) 「この街に店を持つのを夢見た旅商人が危険を覚悟で交易品を運ぶ。あんたもそんな明日の店主を夢見る口かい」
(^ω^ )「まぁ、そんなところだお」
ブーンは少し考えてから、そう答えた。
(,,゚Д゚) 「ふぅん。あてはあるのかい? 何がどの辺りで高く売れるのかとか、どこで何が売っているかとか、そもそも金があるのかも俺は心配だな」
(^ω^ )「心配には及ばないお」
無意識に革袋に手を当てていたが、気がついてすぐに離す。
(,,゚Д゚) 「そうか。まぁ何かあったら遠慮なく言うんだぜ。礼は出世払いでいいからな」
(^ω^ )「じゃあ一つ、いいかお」
(,,゚Д゚) 「なんだい」
男は少し嬉しそうな顔を見せた。
(^ω^ )「このあたりで人の集まる場所を教えて欲しいお」
(,,゚Д゚) 「それなら決まってるぜ」
手で賽を振る真似をしながら言う。
(,,゚Д゚) 「賭場だ。あまり品の良い奴はいないから、くれぐれも気をつけな。まぁ、見たところあまりカモにはされなそうだから大丈夫かな」
ブーンの体を見回す。男は頷きながら肩や背を軽く触りだすと、その硬さに少し驚いているようだった。
(^ω^ )「あ、後一ついいかお」
わざとらしく、今思いついた様な表情を作る。
(^ω^ )「王都に入るにはどうしたらいいんだお?」
ブーンはできるだけ興味が無いような口調で言った。男はまた驚いた顔をしたが、すぐに話し出す。
(,,゚Д゚) 「おぉ、これまた急だな。ふむ……。そうだな。あんたは良いとこの知り合い、例えば親戚がいたりするかい?」
ブーンは首を振った。
(,,゚Д゚) 「じゃあ、商人はいるかい? 商家への誘いが来る位の」
また首を振る。
(,,゚Д゚) 「でかい町の要職なんかには?」
首を振る。
(,,゚Д゚) 「厳しいね。王都はここ最近、相当に入り辛くなっているんだ。ちょうど王が変わった辺りからだな」
(,,゚Д゚) 「昔から許可証を持っていた商人でも、取り上げられたのがいるって聞くぜ。」
(^ω^ )「それでもなんとかしたいんだお」
自然と語気が強くなっていく。
(,,゚Д゚) 「……」
男は顎をさすりながら小さくうなっていた。
(,,゚Д゚) 「あぁ、そうだな。無くもないな」
(^ω^ )「なんだお」
隣に座る男の肩を掴み、急かすように揺する。
(,,゚Д゚) 「兵士だよ、兵士」
男が途切れ途切れにそう答えると、ブーンは手を離し、急いで詫びた。
(^ω^ )「それで、兵士って言うことは騎士に仕えるのかお?」
(,,゚Д゚) 「そうだな。そうすりゃ王都へ入る事とはできるぜ」
男は歯を見せて笑う。
(,,゚Д゚) 「いつでもって訳じゃないぞ」
男が思い出したようにそう告げた。
(,,゚Д゚) 「年に一度だ。それで、期間は三日くらいかな。騎士の位を決めるために王都に集まるんだ。それで王に許可をもらう。王から直接、印を押してもらうらしい」
(^ω^ )「おっおっ。王様にも会えるのかお」
(,,゚Д゚) 「らしいな。まぁ俺は騎士じゃないから正確なところはわからないが。って、おい。どこ行くんだ」
(^ω^ )「どこって、兵士になりに行くお」
(,,゚Д゚) 「お前……。あてはあるのか?」
(^ω^ )「ないお。とりあえず賭場に行って話を聞いて回るお」
(,,゚Д゚) 「よく分からんが、行動力だけはあるようだな」
男が手を出した。
(^ω^ )「なんだお」
ブーンが男の手を軽く握り、揺らした。
(,,゚Д゚) 「いや、握手じゃない。金だよ。ここは何でも手に入る良い街だ。それでも、ただで手に入るものは何もない。仮に手に入ったとしたらそれは何か裏がある。それがここの常識だ」
(,,゚Д゚) 「ギコだ」
(^ω^ )「ブーンだお」
一番小さい銅を二枚、取り出す。
(,,゚Д゚) 「一枚で十分だ。これから色々大変だろう。そんな時に金はなかなか役に立つ。大事にするんだぜ」
一呼吸置いてギコが歯を見せて笑う。
(,,゚Д゚) 「ロクでもない騎士の下に就いちまって、そっから逃げ出す時なんかにな」
(^ω^ )「ギコさんは冗談が怖いお」
(,,゚Д゚) 「すまんな。だが騎士なんてのは大半がロクな奴じゃないぞ。まぁ俺が知ってる奴だけだがな。お前も気をつけるんだぞ。だめそうな奴なら他を当たるんだ」
ギコの顔は徐々に真面目な顔になっていった。
(,,゚Д゚) 「今は戦がないが、始まっちまったら上にいる騎士が有能か無能かは自分の命に直結する問題だからな」
改めて言葉にされ、ブーンの表情が少し曇った。
(,,゚Д゚) 「すまん、すまん」
着いてくる様にと手で合図をしてギコが進みだす。ブーンは無言でその後を追った。
(^ω^ )「ありがとうだお」
賭場の前まで案内してくれたギコに礼を言って入り口へ進む。
(,,゚Д゚) 「金を出す時はできるだけ少なくな。この街の人間は金を稼ぐ事に誠実だからな。多く出しても平気な顔で受け取るぞ」
ギコは小さく手を挙げると来た道を戻って行った。
賭場の外観は、このあたりにある中では一番立派だ。
中に入ると、すぐに数段だけの下り階段がある。それを越えると一気に視界が開けた。
耳障りな大声が飛び込んで来る。
何人もの人が輪を作り、全員が一点を見つめている。異様な空間だった。
(^ω^ )「あの」
ブーンは集団と反対側で静かに作業をしている中年の女に声を掛ける。
(^ω^ )「ちょっと聞きたい事があるんだお」
少しだけブーンの方を見たがそのまま手は動かし続ける。
(^ω^ )「この街で兵士になれそうな家はあるかお」
女は手を止めて短い間考え込むように顎に手を当てた。
それから右手をブーンの前に差し出す。
(^ω^ )「頼むお」
ブーンは銅一枚を手に置いた。
/^o^6\「あそこに座っている男。黄で染めた帷子の男だ。あいつはこの街の商家の騎士の下で働いてる」
女が雑にブーンの前に取っ手のついた器を置く。
/^o^6\「今日新しく兵士を一人雇うらしい。あとは自分で話してみな」
それだけ言い終わると、女はまた食器を拭いて棚に並べる作業を再開していた。
(^ω^ )「ありがとうだお」
ブーンは出された飲み物に口を付け苦い顔をしながら、男の元へ向かう。
意外なほどに目的に向かって順調に進んでいる。そう思っているからか、初めての苦い酒も二口、三口と良く進む。
(^ω^ )「あの」
振り向いた男は兵士にしては細身で、薄暗い賭場の端では一層頼りなく見える。
/^o^7\ 「なにかな」
(^ω^ )「あなたは兵士様ですかお?」
/^o^7\ 「ん、あぁ。そうだよ。商家四位の元で働いてる」
体をブーンに向けて座り直す。
予想よりもいくらか上の四位という言葉に、ブーンは驚いたが表情は変えないように努めた。
/^o^7\ 「君は?」
(^ω^ )「ブーンだお。兵士になりたくて聞いて回っていたらあなたの事を聞いたので」
/^o^7\ 「あぁ。珍しいね。外がどうかは知らないけれど、この街じゃ男はみんな商人を目指す」
男は少し酒を含む。それを見て同じように右手の器を口元へ添えた。
放たれる警戒の色が少しずつ薄れていった。
/^o^7\ 「そりゃ、頭さえよければ儲かる仕事だ。何より死なない。だから他より少し裕福なこの街じゃ兵士のなり手は貴重さ」
(^ω^ )「おっおっ」
/^o^7\ 「でも悪いね。もう商談はまとまってしまったんだよ」
(^ω^ )「商談?」
/^o^7\ 「あぁ。兵士を一人買ったんだよ。出来るだけ力のありそうな若い男をね。かなり値は張ったが、うちの騎士さんも満足してくれるだろ」
男は「君くらいの体格なら文句無いんだけど」と付け足した。
/^o^7\ 「うちの騎士さんはケチが服を着てるのさ。だから君みたいな掘り出し物に投資はしちゃくれないんだ。必要なものは必要なときにできるだけ安く買う」
肩をすくませながら話す男をブーンは静かに見つめていた。
/^o^7\ 「そんなわけでね。申し訳ないけど、兵士はもう探していないんだ」
(^ω^ )「そうですかお」
/^o^7\ 「ここで待ち合わせでね。まぁ、仲介屋なんて言ってたけどあれは人買いだね。いや、でも売りもするから人売りかな」
笑いながら酒を飲む。ブーンはその姿から目を離さない。
今後のことを考えると酒の味を楽しむ気にはなれず、色々と考えを巡らせている様に難しい顔になっていく。
/^o^7\ 「あぁ、君には悪いことをしたしね。そうだ、せめて宿屋くらい紹介させてくれ。俺の名前を出せば街で安くそこそこの部屋をあてがってくれると思うぜ」
(^ω^ )「助かりますお」
少しは気まずさを感じているような口ぶりだった。
/^o^7\ 「また次に機会があったら君に声を掛けるよ。この街じゃ募兵は期待できないからね。買う方がよっぽど早いし簡単だ」
そう言うと辺りを気にしながらブーンに顔を近づける。
/^o^7\ 「だけどね、そうするとどうしてもだめなんだ。忠誠心っていうのかな、国のためにとか騎士のためにってのがどうにも希薄でね」
さらに男は声を小さくしていく。
/^o^7\ 「さらに悪いのを引っ張ってくるとこれがまた。金目のものなんかを盗んで逃げるなんて事もあってね」
兵士から紹介された宿屋はたしかに、良い部屋を与えてくれているようだった。
他の部屋より一回りか二回り広く、風呂までついている。布団もしっかり干されていたようで、これまで当然だった湿った薄布とは感触が違う。
昼ごろは部屋に通された時は、まだ外が賑やかだったにも関わらず部屋の中までは音も入り込んでこなかった。
歩き続けて疲れきった体には、すぐにでも休める部屋がありがたい。
/^o^7\ 「ちくしょう、騙された」
そう言いながら男がいきなり戸を開けて入って来たのは日が少し傾いた頃。ブーンは眠りについて数刻が経っていた。
(^ω^ )「──なんですお」
ブーンの声は寝起き特有の低さと、不機嫌さが混じっていた。
/^o^7\ 「あの野郎、商談を蹴っ飛ばしやがった」
男はそんな事は気にしていない様で、早口で話す。
(^ω^ )「商談?」
ぼやけた視界を戻そうとブーンは目の辺りをごしごしと擦る。
部屋の入り口の辺りであわただしく行ったり来たりを繰り返すのは、この宿を紹介してくれた商家の兵士だった。
/^o^7\ 「兵士を買うって話だ。くそっ。半分だ。半分を前金で渡していた」
男は責めるようにブーンに怒鳴る。
/^o^7\ 「商人ってのは何より信用が第一。何度かこの街に出入りしているような奴が人一人の売り買いする額欲しさで信用を捨てるなんて割に合わない」
イライラしたように頭を掻く。ブーンはまだ意識がはっきりしないようで、力なく頷いていたが話しが頭に入っていない様だ。
/^o^7\ 「だから前金で半分渡したんだ。なのに、あいつは来ない。今日の昼にあそこで受け取るはずだった」
人を「受け取る」という言葉が気に障ったが黙って続きを聞いていると、どうやら今日「受け取る」予定だった若い兵士というのがどうやらブーンの事だと分かった。
確信は無いが何度か聞いた、ブーンを買ったあの商人の名前を、兵士が憎らしそうに口にしていた。
/^o^7\ 「あの金は、俺が主人から預かったものだ。今日中にあの額で用意できないとなると俺がまずい。何をされるわけじゃないが、間違いなく俺の立場は悪くなる。それはうまくない」
口調は早く、小さくなっていく。
/^o^7\ 「俺はこんなところで躓くわけには行かない」
この兵士にも何か思うところがあるようだったが、今は黙って続きを聞こうとブーンは立ち上がって椅子に腰を下ろす。
/^o^7\ 「それでだ。俺がここに来たのは、君にこんな事を報告するためじゃない」
顔をブーンに向けると精一杯の笑顔を作る。声は賭場の時に少し近づいた。
(^ω^ )「おっおっ」
/^o^7\ 「君は兵士になりたいって言っていたろ」
(^ω^ )「はいですお」
/^o^7\ 「幸いにも。いや、俺にとっては不幸だが、一つ席が空いたんだ。今なら、俺はそこへ君を入れる事ができる。どうだい」
(^ω^ )「おっおっ」
/^o^7\ 「すぐに払える金は残った半分だけだ。だが必ず。必ず残りの金も払う。まぁ、俺が自腹を切るしかないからそう早くには用意できないんだが、でかい仕事が終わったらすぐにでも払うさ」
男はブーンに頼るしか無い事を隠す様に、あくまで提案という形で話をしている。
(^ω^ )「悪くないですお」
どこまで好条件を引き出せるか、試してみたい気もあったがそこは我慢をする。
/^o^7\ 「そうだろ。条件なんかはできるだけ良いものになるように俺から掛け合う。きっと、よその新兵よりもずっといい待遇だ」
近くへ小走りで寄ってくると、作り笑顔の不自然さを消しブーンの手を握ると上下に大きく揺らした。
/^o^7\ 「君が良いというなら今すぐに、屋敷へ行きたいんだが。もうあまり時間が無いんだ」
外はやや赤みを帯びてきたがまだ夜というには早い。だが、男の焦りはすでにぎりぎりだというような感じでそわそわと窓の外を見てはブーンにすがる様な目で話しをする。
(^ω^ )「……行きましょう」
唐突ではあったが、願っても無い話だった。多少驚きはしたが、ブーンにとっては願っても無い。立ち上がり、革袋を掴むと男の方へ進み出す。
屋敷に着くと真っ直ぐ、離れへ向かって歩き出す。
/^o^7\ 「主人には明日紹介をしよう。あの人は気難しくてね。多分今行っても会ってはくれないし、いきなり機嫌を損ねるのは君にとってもよくは無いだろう」
男が振り返った。少し前までの、絶望しきった顔をは打って変わって明るいものになっている。
/^o^7\ 「それから、君の担当は馬房守だよ。兵士として屋敷と騎士を守る事とあとは馬の世話」
(^ω^ )「馬ですかお?」
/^o^7\ 「あぁ、見たことないだろう? 騎士が近くにいないと爺さんくらいの年代じゃないと見た事は無いだろうね」
(^ω^ )「はいですお」
/^o^7\ 「最初は大変だろうけどすぐに慣れるさ。君はこれからここで生活をしてもらうからね」
男が扉を開けると獣特有の匂いが全身にぶつかってくる。
奥で黒い影が動いた。
/^o^7\ 「馬房守ってのはとにかく自分より馬を守らないといけない。もし馬に何かがあったら真っ先に責を問われるのは馬房守だ」
ブーンは横から入ってくる声より、広い馬房の奥の黒い影に集中していた。
/^o^7\ 「あれが君がこれから一緒に生活する馬だ」
影が一気に縦に広がる。
(^ω^ )「おっ」
それが影でなく、全身が真っ黒な馬そのものである事に気がつくのは、目が暗闇に慣れてきた頃だった。
(^ω^ )「襲ってきたりは、ないですかお?」
/^o^7\ 「前の馬房守は襲われたりはしなかったかな。ただ全然馬が言う事を聞かなくてね。結局主人の機嫌を損ねて辞めさせられたよ」
/^o^7\ 「あぁ、でも大丈夫。二年経ってもさすがに、改善されなくてさすがに無理だとなってからの事だからね」
ブーンを驚かせないよう、すぐに男が後に続ける。
/^o^7\ 「あの人は一度金を払ったら、できるだけ買いなおすなんてしたくはないのさ。だから二年以内に扱えるようになれば問題ないさ。じゃあ、今日はもう休むといい。馬は基本的に大人しいからね。襲ってきたりはしないさ。それじゃあ、お休み」
(^ω^ )「……おやすみなさいですお」
体を強張らせて扉の中へ入る。窓は高い位置に四つ有るので月の光があれば真っ暗にならずに済みそうだった。
他に目に付くのは宿屋よりもずっと状態の悪い寝具が一式と椅子と机。柱一本置きに備え付けられた灯りと、馬の世話に使う道具がいくつかだけだった。
奥を見ると馬はもう横になっている。時折、何か短く鳴き声を上げるだけであとは大人しくしていた。
体は疲れきっていたのですぐに横になったが、なかなか眠りにはつけない。
結局のところ、どんな事をしても結果は変わらなかったのだ。そんな考えが頭から離れなず、これまでの事を色々を思い起こす。
不思議とこみ上げて来る笑いをブーンは隠さなかった。
馬が少しだけ体を起こして様子を伺っているのが分かったが、しばらく笑いは止まなかった。
結局、頭の中が落ち着き深い眠りに着いたのは頃には、丸々とした月が完全にその姿を隠そうとしていた。
第二話 終わり
( ^ω^)「おはようございますお」
/^o^丁稚\ 「やぁ、おはよう」
丁稚の一人と入れ替わりで外へ出る。
屋敷に青年達が来てから一月が過ぎた。
荒らされた屋敷の修繕と周辺の見回りはとてもあの人数でこなせるものではなく、来てすぐの頃は全員がせわしなく動き回っていた。
ようやく数日前に作業の目処も立ち、屋敷の雰囲気が落ち着きはじめた。
(=゚ω゚) 「あぁ、ちょっと」
イヨウが寝巻きのまま屋敷の中から手招きをしている。
(=゚ω゚) 「今日はちょっとお願いがあるんだ」
ブーンが尋ねる前に答えると「僕の部屋で少し待ってて」といって奥へ消えていく。
( ^ω^)「おいすー」
(´∀`) 「お、ブーンも一緒みたいだモナ」
( ´_ゝ`)「そうみたいですね」
部屋にはモナーとオトジャが所在なさげに立っていた。
( ^ω^)「イヨウさんがお願いって言ってたけど、何だお?」
モナーとオトジャが顔を見合わせる。
(´∀`) 「モナ達も同じだモナ」
( ´_ゝ`)「内容は集まってから話すと。眠そうなイヨウさんが」
(´∀`) 「まぁ、最近まで目が回りそうな忙しさだったモナ。イヨウさんなんていつ寝てるか分からなかったモナ」
( ^ω^)「たしかに。朝から晩まで何かしら忙しそうだったお」
イヨウの机にはまだ作業の途中なのか、紙が散乱している。
(=゚ω゚) 「ごめんごめん。ちょっと寝坊しちゃったよ」
大きなあくびをしながらイヨウが部屋へ入ってきた。
(=゚ω゚) 「いやいや。少し落ち着いたと思ったらどっと疲れがね。歳はとりたくないね」
イヨウは三人に向き合う形で椅子に腰を降ろす。
( ´_ゝ`)「私達を呼んだ理由ですが」
(=゚ω゚) 「あぁ、そうだね。えっと、何から話したら良いかな」
イヨウが顎に手を当て考え込む。
(=゚ω゚) 「えっと。今、この屋敷に丁稚が随分いるだろう。何人いるか知っているかい?」
( ´_ゝ`)「私が会った事あるのは八人位ですか」
オトジャがモナーとブーンの方を向く。
(´∀`) 「モナもそのくらいだモナ」
(=゚ω゚) 「うん、十人だよ」
顎をさすりながらイヨウは答えると、椅子から立ち上がる。
( ^ω^)「会った事ない人もいるみたいだお」
(=゚ω゚) 「そうだね。朝と夜で分かれたり、屋敷の外で働いてもらっている人もいるからね」
部屋の中心に腰を降ろすと三人にも座るよう手で合図をする。
(=゚ω゚) 「ところで。不思議に思わないかい?」
四人の輪の中心へ顔を寄せてイヨウが言う。
( ^ω^)「何がですお」
(=゚ω゚) 「丁稚さ。本来、丁稚なんていうのは商人見習いだろ? それが今、君達と同じように見回りをしたり屋敷の修繕をしてる」
(´∀`) 「あぁ、確かにそうだモナ」
(=゚ω゚) 「ここだけの話ってほどでもないかな。商人やその周囲の人なら誰でも知ってる事なんだけど」
イヨウが不意に背筋を伸ばし、顔を後ろに持っていく。
(=゚ω゚) 「その前に、他の説明をしなくちゃ」
少し腰を浮かべて足を楽にすると、三人にも足を崩すように合図する。
(=゚ω゚) 「兵士ってのは特別でね。戦が起きると領主の治める町や村の住人は兵士として徴兵される。基本的には領主の下で働く事になるね」
(=゚ω゚) 「戦の時だけの特別な決まりごとだから普段は平民として暮らしている。まぁ無職じゃなければこういう人たちは兼業軍人っていうのかな」
(=゚ω゚) 「あとは君達みたいに、募兵に応じて戦のない時でも騎士の下で働いている人間。あ、ちなみに平時の武器携帯が許されているのは後者の方だけだよ」
(=゚ω゚) 「で、後者の兵士は当然普段から兵士として働いているわけだね」
(´∀`) 「はぁ」
(=゚ω゚) 「ここからがミソなんだけど。兵士を持つ事が許されているのは騎士だけなんだ」
(=゚ω゚) 「だけど大商人だったり、公家の血筋みたい金のありそうな家ってのはどうしても敵ができやすい。うちですら大変なんだからね」
イヨウが全員の顔を見回し、歯を見せて笑った。
(=゚ω゚) 「それなのに兵士を雇えないってなると、家も家族も守れないかもしれない。それじゃあ困るって事で、お金があるところは違った名目で兵士と変わらない仕事をこなす人間を雇うんだ。うちに来てる十人みたいにね」
( ^ω^)「じゃあ、屋敷にいる丁稚さんは兵士と変わらないって事ですお?」
(=゚ω゚) 「そうだね。だからしばらくは君達がいなくても屋敷は何とかなるかな。もともと一晩か二晩の間、何もなければ大丈夫だと思っていたしね」
三人が息を呑んだ。
(=゚ω゚) 「あぁ、もちろん君達を手放す気はないよ。むしろ逆さ。出来るならずっとうちで働いて貰いたいんだよ」
取り繕うようにイヨウが急いで付け加える。
(=゚ω゚) 「こんな言い方はどうかと思うんだけど、君達は掘り出し物なんだ。はっきりいって僕達はあまりあの村に期待はしていなかった」
(=゚ω゚) 「だけどあまりに急ぎだったんでね。後から金さえ払えば勝手な募兵を許してくれそうな領主は近場には一人だけでね」
ブーンとモナーが顔を見合わせると苦笑した。
(=゚ω゚) 「失礼な話しだが一人も来てくれないかと、村が見えた時は不安になったさ。だけど、結果は違った。大違いだよ」
(=゚ω゚) 「六人の立派な子がついて来てくれたし、三人は読み書きまでできる。相場の二倍三倍は当然の人材さ。残りの三人だってすぐにものにしてくれそうだ。やる気に満ちている」
何もない空間を見つめるイヨウはいつもよりもやさしい口調で語った。
(=゚ω゚) 「どこまで話したかな。あぁ。それでね、ニンジャと少し話して決めたんだけど君達には少し商売の手伝いをお願いしようかなって。三年位したらとは、考えていたけどうちもあまり余裕も無いしね」
(=゚ω゚) 「丁稚がいる間に君達を早く一人前にして、その下に一人ずつ位、今後新たに募兵した子をお願いしたくてね」
(´∀`) 「でも、まだ見回りの順路と屋敷の修繕についてしか教わっていないモナ」
それを聞いてイヨウが声を上げて笑う。そうやって歯を見せて笑う顔は三人よりも年下に見えた。
(=゚ω゚) 「もちろんこれからみっちり刀の扱いについて教えてくれるさ。ニンジャがね。彼は自称できない子だったらしくてね。わからないところがわかるから、教えるのがうまいんだ」
イヨウが短く咳払いをした。
(=゚ω゚) 「あと、いや、ほんの興味なんだけどね。その……計算とか……できたりする?」
強張った笑顔を作り、自然な様子を繕っている。
(=゚ω゚) 「いや、なんでもないんだ」
( ´_ゝ`)「ある程度なら」
(´∀`) 「モナも」
( ^ω^)「ブーンもだお」
(=゚ω゚) 「え……本当に?」
イヨウの声が大きくなる。勢い良く前に手を着くとグッと顔を中心に寄せ、笑顔から不自然さを一気に消す。
(=゚ω゚) 「足したりできるの?」
( ´_ゝ`)「まぁ」
(=゚ω゚) 「引いたりは?」
(´∀`) 「できるモナ」
(=゚ω゚) 「掛けれる?」
( ^ω^)「桁があまり大きくなければ大丈夫だお」
(=゚ω゚) 「割っちゃう?」
息を止め答えを待っているイヨウを横に、三人が見合わせて小さく頷く。
(=゚ω゚) 「……聞いてみるもんだ。いや、本当に。いや、本当。うん。本当に」
イヨウは腕をダラリとさせて立ち上がると、早足で部屋から出て行った。
部屋はしばらくの間、静けさに覆われた。
( ^ω^)「なにかまずい事いったかお」
( ´_ゝ`)「普通に考えたら損はないと思いますけど」
(´∀`) 「喜んでるみたいだったけど、良くわからないモナ」
以降は言葉は交わさずに、不安に駆られた青年達はお互いの顔を見合わせる。
(=゚ω゚) 「ほら、早く早く」
さほど時間を置かずに間隔の短い足音が聞こえた。
開いたままの戸から見えたイヨウは親を急かす子供のような、期待ともどかしさを足した顔に見える。
(=゚ω゚) 「ねぇ、ほら聞かせてあげてよ」
前を向きなおした顔は、感情のあまり感じさせないイヨウにしては珍しい満面の笑みだった。
左手はデレの右手をしっかりと握って、三人が話し出すのを今かと待っている。
(´∀`) 「何をモナ?」
(=゚ω゚) 「ほら、あれだよ。さっき話していた」
ほとんど間を置かずに、待ちきれずにイヨウが言葉を続ける。
(=゚ω゚) 「読み書きはできる?」
( ´_ゝ`)「あ。はい、できます」
イヨウが視線を少しずらす。
( ^ω^)「できますお」
(´∀`) 「できるモナ」
視線で促されて、一人ずつ答える。
ζ(゚ー゚*ζ 「あらまぁ、すごいわ」
(=゚ω゚) 「そうだろ、そうなんだよ。でもまだだよ」
視線が再び三人に向けられる。
(=゚ω゚) 「ね」
( ´_ゝ`)「えぇ。一応、一通りの計算もできます」
( ^ω^)「ブーンもだお」
(´∀`) 「できるモナ」
ζ(゚ー゚*ζ 「あら、本当? 私はいまだに計算は少し苦手」
デレが驚いている顔をしているが、口調はあまり変わらない。
ζ(゚ー゚*ζ 「やっぱり、真面目にお勉強しないとだめね。私はすぐに眠くなってしまってもう」
(=゚ω゚) 「いやね。将来的には読書きを学んでもらって仕事を手伝ってもらいたいと思ってたんだ。その後には、計算なんかも見に着けてくれたなら商売の手伝いまでってね」
( ´_ゝ`)「商売ですか?」
(=゚ω゚) 「そう、商売。まぁ、とにかく」
イヨウが左手のデレの方へ体を向けた。
(=゚ω゚) 「すごいだろ、彼ら。僕が募兵したんだよ。いや、頑張ったよ。うん」
ζ(゚ー゚*ζ 「偉いわね」
デレに頭をなでられると、イヨウは動物の様に目を細めていた。
(=゚ω゚) 「では続きを話します」
デレが部屋から出て足音が消えると、普段以上に真面目な顔で言う。
(=゚ω゚) 「とりあえず一月はみっちり訓練だね。ニンジャに鍛えてもらうよ」
( ^ω^)「刀を使うんですかお」
急変振りに戸惑いながらもうブーンが尋ねると、イヨウはすぐにいつも通りの柔和な顔に戻っていた。
(=゚ω゚) 「そうだね。もちろんそれだけじゃないけど、君らは最低でも自分の身くらいは守れるようになってもらわないといけないからね」
三人が小さく頷く。
(=゚ω゚) 「素人相手なら負けないってくらいになったところで、僕かニンジャと一緒に他の町やら村へ行く仕事について来てもらうよ」
(´∀`) 「緊張するモナ」
(=゚ω゚) 「まぁしばらくは勉強だからね。僕達がどんなものにいくらで売ったり買ったりしてるか見てるだけで構わないよ」
イヨウが立ち上がり伸びをする。三人も座ったままで、少し姿勢を崩した。
(=゚ω゚) 「よし。そういうわけだから、さっそく行こうか」
後についてくるように、手招きをすると部屋から一人先に出て行った。
(=゚ω゚) 「ここがうちの道場だよ。あまり立派なものじゃないけどね」
屋敷の中でも大きな間取りの部屋に家具は無く、壁にいくつか木刀が掛けられているだけで後は何もない。
( ´_ゝ`)「ほぉほぉ」
( ^ω^)「うちの家よりこの部屋の方が大きいお」
(´∀`) 「同じくモナ」
(=゚ω゚) 「ははっ。まぁ、僕が建てた屋敷じゃないからあんまり自慢できないんだけどね」
イヨウが三人を見回して笑う。
(=゚ω゚) 「とりあえず壁に掛かってるので素振りでもしていてよ、すぐにニンジャを呼んでくるからね」
部屋の中に三人だけになると、それぞれ壁から木刀を取る。
(´∀`) 「やっぱり、山で拾った木の枝なんかとは違うモナ」
( ^ω^)「たしかに、大分振りやすいお。それに、これだけあれば良い棒の取り合いにはならないお」
縦に横にと、木刀を試すように二人が振るった。
( ´_ゝ`)「山って。二人は山で剣術でも学んでいたんですか?」
( ^ω^)「あぁ、剣術なんて立派なものじゃないお。ただ木の枝で剣術の真似事、ちゃんばらをしてただけだお」
(´∀`) 「まぁ、それでも二人の間じゃ剣の稽古のつもりだったモナ」
( ^ω^)「恥ずかしいお」
( ´_ゝ`)「冗談のつもりだったのに……」
( ^ω^)「オトジャはどっかで習ってたのかお」
( ´_ゝ`)「いやぁ。習ってたような、習ってないような」
(´∀`) 「どっちモナ」
( ´_ゝ`)「見様見真似で少しだけ。でも真似をしていた相手に師は居ないので、型なんかはきっとめちゃくちゃだと思いますよ」
オトジャがはにかみながら言う。
( ^ω^)「じゃあ、後で誰が一番か勝負だお」
(´∀`) 「いいモナ。でも、 同じ木刀ならお互い言い訳はできないモナ」
二人がやや口角を上げて睨み合った。
|/゚U゚| 「悪い。少し待たせたか」
ニンジャは入ってくると、すぐに木刀を手に取り腰を降ろす。ただそれだけの動きに部屋の空気が張り詰めた。
三人は向かい合う形で並びなおす。
|/゚U゚| 「さて、何から始めようかと考えたんだが。まずは現状君達がどの程度の腕前か把握する必要があるな。それから一月の時間の割り振りを決める」
( ´_ゝ`)「割り振り?」
|/゚U゚| 「訓練と勉強だな」
ニンジャが笑った。
|/゚U゚| 「兵士としてはもちろんだが、商人としてもゆくゆくは半人前位にはなって欲しい。それがイヨウ殿の願いだ。励んでくれよ」
半人前とはいえ荷が重い。三人の感情が部屋に広がっていく。
( ^ω^)「勉強ですかお」
沈んだ顔でブーンがこぼす。
|/゚U゚| 「なに、足したり引いたりだけが勉強じゃない。もちろん必要だが、それは騙されない程度なら取り合えずはよい。それよりも商人としての知識を学んでもらう」
( ^ω^)「一応、ブーン達はただの兵士って事でここにきたんですお」
兵士としての仕事が身につく前から、その次の事まで言われブーン達は動揺していた。
|/゚U゚| 「商家の兵士はどこもこんなものさ。できる奴は、兵士と商人を掛け持った様な仕事をする。まぁ、序列は一番か二番目くらいの兵士だがな」
ニンジャが難しい顔をする青年達に向けて「その分、禄は多いぞ」と付け加えるとブーンとモナーの表情がわずかに晴れた。
|/゚U゚| 「正直、こんなに負担を掛けるのはどうかと思っているんだ。イヨウ様も私もな」
|/゚U゚| 「だが、うちには余裕がない。数を増やして補うよりも、少ない数で広く深く仕事をこなして貰いたい。その分はもちろん金は見合うだけの額を用意する」
( ´_ゝ`)「余裕が無いと、仰りましたが」
オトジャが右手を小さく挙げて話し出す。
( ´_ゝ`)「そんなにお金が無い様には見えないのですが。それに、見合うだけの額と支払うのなら、結局は人数を増やしたのと変わらないのではないでしょうか」
|/゚U゚| 「あぁ、そうじゃないんだ」
ニンジャが小さく息を吐くと、これまでより低い口調で話を続ける。
|/゚U゚| 「金なら有るんだ。それこそ商家七位には多すぎる位だな」
(´∀`) 「それなのに余裕がないモナ?」
|/゚U゚| 「あぁ、無いな。金は有るが、それでもイヨウ様は七位なんだ」
( ^ω^)「どういう事ですお」
|/゚U゚| 「商家はな、金がいくら有るかで位が決まる。四年に一度、王都に商家が集まるんだが、その時点でいくらあるかがそれからの四年間の位になる」
( ´_ゝ`)「あまり下位のものが金を持ちすぎると面白くない。もし自分が抜かれているとしたらなおさら」
|/゚U゚| 「そういう事だ。今のイヨウ様の資産はざっと商家五位に並ぶ程だ」
( ^ω^)「そんなにですかお」
( ´_ゝ`)「それは、目をつけられるわけだ……」
オトジャが隣の二人にも聞こえるかどうかの大きさでこぼす。
|/゚U゚| 「まぁ、どうしたって劇的に現状が改善できるような要因は無い。何事も地道に進めるしかないな」
|/゚U゚| 「しばらくは金に見合うだけの力をつけないとな。もちろんそれはイヨウ様一人でなく、イヨウ家としてのな」
三人を見回すニンジャの顔は厳しいものだった。
|/゚U゚| 「そのために。さぁ、誰からにする。好きなように打ち込んで来い。お前達の腕を見てやろう」
木刀を握る右腕を大きく振り回すと、風を切る音が部屋に響く。青年達の背筋に気持ちの悪い感覚が走った。
(´∀`) 「参ったモナ……」
モナーが仰向けに倒れこんだ。
|/゚U゚| 「悪くなかったぞ。ただ、型も何もあったものでは無いな」
モナーの近くにはブーンが寝転がり、そのすぐ横にはオトジャが壁に体を預けて座り込む。
全員の胸が爆発しそうなくらいに膨れては、背と付きそうなくらいに萎む動きを繰り返す。
|/゚U゚| 「オトジャ」
( ´_ゝ`)「はい」
|/゚U゚| 「お前だけ何か少し違う感じがするな」
( ´_ゝ`)「えぇと……、何がでしょうか」
|/゚U゚| 「お前はあまり体格には恵まれていない。それでも先ほどの刀の扱いはまるで、力自慢のそれだった。それと、めちゃくちゃではあるが。何か、決まり事でもあるかのような動きだったな」
三人を立て続けに相手をしただけあって、ニンジャの息も多少乱れ、話の間に何度か呼吸が割り込んでいた。
( ´_ゝ`)「あぁ、そうですね。確かにそうです」
オトジャも大きく呼吸を間に挟む。極力失礼の無い様体を起こそうとするが、ほとんど背中は壁から離れなかった。
( ´_ゝ`)「私が参考にしているのはそういう人でした。まさに、力任せに武器を振り回すような人ですね。他に参考になるような人がいなかったので」
|/゚U゚| 「そうか。それとブーンとモナー、お前達は、ほとんど同じだな。どんな状況でどんな手を出すか、良く似ている」
ブーンはなんとか首を壁に引っ掛けて、ニンジャを視界に入れた。
( ^ω^)「そりゃそうですお。ブーンとモナーは他に参考にできるような人も、手合わせできるような人もいなかったですお。いっつも、二人で棒切れをもって打ち合うくらいしかできませんでしたお」
|/゚U゚| 「そうか。それでこれ位できるのなら筋は良い様だな、これまで何度かこういった事をしてきたがやはりお前達はなかなか見所はあるかもしれん」
(´∀`) 「本当モナ?」
|/゚U゚| 「あぁ、私がしっかり教えればすぐに自分の身くらいは守れるようになるさ。師もいないのにそれだけ出来るのだからな」
(=゚ω゚) 「準備できたよ」
不意に聞こえてきた声の方で、イヨウが細い木の枝を持って道場の中を覗いている。
|/゚U゚| 「それじゃあ次だ」
( ´_ゝ`)「次?」
|/゚U゚| 「今度はお前達の頭が、どの位かを見せてもらわないとな」
(=゚ω゚) 「そうだよ。そうしないと何から初めていいかわからないからね」
イヨウが説明しながら、枝で空中に円を描く。
(´∀`) 「今……、すぐモナ?」
モナーが少しも動きたくないという調子でかすれた声を絞り出す。
(=゚ω゚) 「明るいうちの方がいいね。でもほら、もう空が赤いね」
イヨウの口調は変わらないが、急かされた三人は覚悟を決めて力を振り絞り立ち上がる。
(=゚ω゚) 「こっちこっち」
それぞれがニンジャに挨拶をして道場を出る。
すぐにイヨウは足を止めた。
(=゚ω゚) 「じゃあ始めようか」
三人が立っているのはなんて事の無い屋敷の庭だった。
これまでに何度も通った、イヨウの部屋から出てすぐで場所。厩もすぐの位置に在るので、いつも獣のにおいが漂っているところだった。
(=゚ω゚) 「はい、一つずつね」
( ^ω^)「なんですかお?」
(=゚ω゚) 「枝だよ」
どこからかさっき持っていたのと同じ様な枝をそれぞれに配る。
(=゚ω゚) 「じゃあ始めようか。足元にいくつか問題を書いておいたからね 」
言った通りに地面には文字が長々と書き記されており、それと同じものが両隣にも並んでいる。
(=゚ω゚) 「いやね、紙もなかなか安くなくてさ。悪いんだけど今日のところは、これで勘弁してね」
イヨウが両手を顔の前で合わせて笑っている。
(=゚ω゚) 「じゃあ、暗くならないうちに頼むよ」
そういうと三人が視界に収まる位置に腰を降ろし、子供が何かを期待するような視線を送る。
( ^ω^)「結構な量あるお……」
(=゚ω゚) 「良い。三人ともすごく良い」
( ´_ゝ`)「ありがとうございます」
隠すことなく感情を表すイヨウに、オトジャが少し戸惑いながら言った。
(=゚ω゚) 「単純な計算なら問題なさそうだね。あぁ、でもさすがに商人向けのは難しかったね」
地面に書かれた三人の答えを眺めている。
(´∀`) 「そりゃあ 他国の街の名産やら相場なんて知らないモナ」
( ^ω^)「はじめて名前を聞いた野菜の目利きの仕方だって分かるはずないお」
三人が頷くと、イヨウは笑顔で答える。
(=゚ω゚) 「でも正直いうとね、道場でニンジャとの打ち合い見てた時は不安だったんだよ」
(=゚ω゚) 「ニンジャやさしいからね。あぁ言ってはいたけど、正直に言ったら素人と大差ないというよりそのものでさ」
三人の表情が曇ったがイヨウは構わず続ける。
(=゚ω゚) 「いやでもこれで安心だ。後は少し知識を頭に入れたら特訓だね。刀を握ってない時間の方が少ないくらいになるよきっと」
イヨウが立ち上がると小枝を放り投げた。
(=゚ω゚) 「とりあえず、一月後を目処に簡単な仕事の手伝いをお願いするね。慣れてきたら大きな仕事の手伝いや、小さな仕事は君達だけでって事になるかな」
(=゚ω゚) 「あぁ、君達が一人前になって屋敷を留守にする事が増えたら募兵もしないといけないなぁ」
( ^ω^)「すでに兵士以外の仕事をさせる気だお」
(=゚ω゚) 「商人を守るために兵士を同行させるのと、自分の身を守れる商人とじゃ同じ事をしても掛かるお金が違うんだよね。人手不足のうちには一石二鳥だからさ。期待してるよ」
(´∀`) 「……商家兵士の道は険しいモナ」
(=゚ω゚) 「さぁさぁ、今日は疲れたでしょ。食事を済ませたら、もう休んで良いよ」
履物を脱ぎ屋敷に上がると、デレが濡れた手ぬぐい配る。
( ´_ゝ`)「ふぅ」
( ^ω^)「生き返るお」
イヨウがわざとらしい咳払いをして話し出す。
(=゚ω゚) 「できない事はこれから出来る様になれば良いし、知らない事はこれから憶えれば良いからね、うん。明日から大変だろうけど、頑張ろうね」
そう言って三人にやさしく笑いかける。それを見てデレも嬉しそうに笑う。
第三話 終わり
(^ω^ )「おはようございます」
偉そうな男は一瞥もくれずに屋敷から門へ向かって進んで行った。
両隣を歩く男達と比べると頭一つ分背が低い。そんな男が肩を怒らせて二人を従える姿には違和感がある。
(^ω^ )「……公家二位のお偉い方は、馬房守なんかに挨拶出来ないみたいだお」
隣りでブーンと同じ高さから男を見下ろしていた馬が、笑うように鳴いた。
この屋敷で働く事になって一月が経ち、最も変わったことはニシカワとの関係だった。
どこまで理解できるのかはわからないが、「進め」「戻れ」「待て」の意味は分かっているようで、決まった時間になれば食事の催促をしたりもする。
三食を全て同じにすると機嫌が悪くなり、果物を最後に出してやると大きな体を振り回して喜んだ。
最近では屋敷の誰よりもブーンに良く懐き、綱から手を離してもしっかり後について歩いて来る。
世話をすればするほど、あまりの賢さに驚くばかりだった。
(^ω^ )「おいでニシカワ」
いつまでも、「おい」と呼ぶのもどうかと勝手に呼び名まで付けてやった。
ニシカワは鼻を震わせて後をついて来る。
/^o^4\「おや、楽しそうだね。今日も騎士さんが乗らない日かい」
騎士が遠くへ行ったのを確認してから屋敷から外へ出ると、すぐの場所にある店から中年の女が手を振っている。
(^ω^ )「えぇ」
/^o^4\「まぁ、あの人が乗る日は外に出すなってのもかわいそうだね。夜中に少しばかり乗るだけなのに」
女が手ぬぐいで洗った手を拭いて、奥の棚から果物を手に取るとブーンを見た。
それに気づいてから、ニシカワの視線は果物とブーンを行ったり来たりしている。
(^ω^ )「……ありがとうですお」
ニシカワが目を細めてかぶりつく。
/^o^4\「そうよね。こんなに良い子なのに騎士を選べないんだから」
(^ω^ )「あの人はあの人で、良い人ですお」
ブーンが言うと隣で荒い鼻息がなった。
/^o^4\「そうなの? あまり良い噂も聞かないしねぇ。早く交代してほしいもんだわ」
(^ω^ )「……それじゃあ。この子のご飯を買いに行かないといけないので、この辺で失礼しますお」
/^o^4\「あらあら、時間とって悪かったわね。それじゃ、またね」
女がニシカワの首を何度か撫でた。
それが終わるのを待ってから、ブーンは軽く頭を下げて歩き出す。
(^ω^ )「普通に暮らしている人たちはみんな良い人だお」
ニシカワが返事をするように頭を動かす。
(^ω^ )「やっぱり、ここに住んでるから性格が悪くなるってわけじゃないんだお。お金か地位か、その両方か。いやでも、やっぱりあの人は生まれつきあんな性格な気がするお」
隣で縦に動く頭がさっきよりも早くなった。
特殊な経緯から作られたツダの街は、大きな三つの区画に分けられる。
それぞれの区画は同じ形をしていて、一つに組み合わせると綺麗な円になった。区画の境目は頑丈な鉄格子が降ろされ、夜は互いに行き来が出来なくなっている。
区画は民族毎に分けられ、「安房」「下総」「上総」の民が決まった場所で当たり前のように生活をする。
円の中心近くは地位の高いものや金のあるものが競うように屋敷を構え、ツダの中央通りに沿った場所で暮らす事は、民族の中で上位であるという証明となっていた。
ブーンが大きな商店の前で足を止める。
騎士の屋敷からはそう離れていない、同じ中央通りにある商店はかなり大きい。大抵の物ならここで売っている事と、その全てが上質である事から金持ち御用達になっていた。
体面もあるため、馬に関しては騎士も金を惜しむ事は無い。良いものを食べさせて良く運動させ、誰に見られても恥ずかしくない状態を常に保つ事を望んでいた。
そのためブーンも収入に見合わないこの店の常連だった。
▼・ェ・▼「いらっしゃい」
奥から男が出てくる。
不思議な髪型をだらしなく手でいじっていた。
(^ω^ )「おはようございますお」
ブーンが頭を下げる。少し前、騎士に対しての時よりいくらか深い。
▼・ェ・▼「やぁおはよう」
店には他の客が数人と、倍以上の下働きがいた。
店の者は皆、せわしなく動き回っているが、ブーンに近づいてくる男一人だけが違った空気を持っていた。
▼・ェ・▼「いつものかな」
少し離れたところで足を止める。
(^ω^ )「はいですお」
ニシカワの方を向いて頷くとすぐに振り返り、ポンと手を叩いた。
▼・ェ・▼「おぉい」
すぐに女がやってきて、二言三言話すとまたどこかへ消える。
▼・ェ・▼「お代はツケだよね」
(^ω^ )「ツケでお願いしますお」
▼・ェ・▼「そう。じゃあ私はこれで。最近人手が足りなくてね。印を押すだけじゃ店が回らなくなっちゃって、まいっちゃう。 それじゃあ、また、ご贔屓に」
頭を掻きながらもといた場所へ戻っていった。その動きはあくまでゆったりとしたもので独特の雰囲気を持っている。
(^ω^ )「やっぱり、このお店は広いお」
ブーンが商品が来るまで、暇つぶしに店を見回す。
広い店内を沢山のモノが埋め、その間を縫うように丁稚や下働きが駆けている。
奥からは度々怒鳴り声が聞こえてくる。商人とはいえ、中央通りに店を構える程になるとやはり、騎士に仕えるのと大差のない厳しさがあるのだろう。
むしろ、ここで働く者達の目はブーンと同じ屋敷で働く者達よりもずっと必死さが伺える。
lw´- _-ノv「あなたは騎士様?」
不意に掛けられた言葉にブーンは、何よりもまずトゲトゲしさを感じた。
lw´- _-ノv「私騎士が嫌い。何より嫌い」
声のした方には野菜や果物を持った女が立っていた。
(^ω^ )「おっおっ。ブーンはただの馬房守ですお。下っ端ですお」
ジッと目の奥まで貫くように睨み付けてくる女に言った。
lw´- _-ノv「そうなの? じゃあそんなに嫌いじゃないわ」
女の目から力が抜けていった。落ち着いて見ると女は、恐らく美しい部類に入るのだろう。
化粧をしているわけでも着飾っているわけでもない。どちらかといえば、見た目には無頓着に見える姿をしていたが、顔立ちは悪くなかった。
(^ω^ )「もしブーンが本当に騎士だったら、斬られていたかもしれないですお。ブーンはあまり優しい騎士を知らないですお」
lw´- _-ノv「そうね。でも私は嫌いなの」
ブーンが大きく息を吐いた。ニシカワを同じように息を吐く。最近はよくブーンの行動を真似るようになっていたが、今は気にしない事にした。
(^ω^ )「どうしてそんなに騎士が嫌いなんですかお?」
lw´- _-ノv「この国は腐敗しているじゃない。その原因は騎士のせいでしょ」
(^ω^ )「腐敗、ですかお? 少し、詳しく教えて欲しいですお」
lw´- _-ノv「あら、こんなのそこらの子供だって知っているじゃない」
ブーンの真面目な顔に女は驚いた様子だった。
(^ω^ )「ブーンはちょっとした事情で、山奥で暮らしている職人なんかより世間の常識に疎いんですお」
女が少しだけ笑う。声にも表情にもほとんど出さなかったが、少しだけ雰囲気が明るくなる。
それを隠すように女は商品をブーンの前に出した。
(^ω^ )「また来ますお」
ブーンは何度か食い下がったが女は仕事が忙しいと、結局続きを話そうとはしなかった。
強引に荷物を渡すと奥へ引っ込む。それを見てブーンはニシカワに声を掛けて屋敷へ向かって歩きだした。
▼・ェ・▼「仲良くなれそう?」
不意に声を掛けられ女がびくりと体を揺らす。
lw´- _-ノv「誰とですか」
男が意味ありげに笑う。
▼・ェ・▼「ブーン君とシューがだよ。見たところ歳も近そうだし話しも合うんじゃないのかな」
lw´- _-ノv「あの人は山暮らしの職人よりものを知らないので。話は合いません」
話し方に普段より感情が込められているのを感じ、男がまた笑う。
▼・ェ・▼「そうなの。じゃあ色々教えてあげたらいいのに」
lw´- _-ノv「ビイグル様」
▼・ェ・▼「はい何でしょう」
話が終わる前に口を挟む。ビイグルと呼ばれた男はすぐに応じ、続きを待とうと口を閉じた。
lw´- _-ノv「私がこの店で浮いているからか、騎士が何より嫌いだからかわかりませんが。あまり気を回していただかなくて結構ですので」
ビイグルは少しだけ難しい顔をして、考え込む素振りを見せる。
▼・ェ・▼「でも心配でね。文字やら数字を使う仕事は誰よりできるのに、将来は商人になりたいってわけでもないんでしょう?」
▼・ェ・▼「私もご両親に色々言われて預かったけれど、個人的には他に大事なこともあると思うんだよね」
ビイグルが髪を掻きながら話す。終わる頃には髪はボサボサになっていた。
/^o^5\「ちょっと、ご主人」
見なりの良い中年の女が、装飾品をまとめた一角で手招きをしている。
▼・ェ・▼「あぁ、行かなきゃ。うーん。まぁ、私が言いたいのは全部シューのやりたいようにやったらいいよって事」
lw´- _-ノv「良くわからないんですが……」
声の方へ歩き出したビイグルは、背中ごしに腕を挙げて答えた。
▼・ェ・▼「彼、いつも三日くらいでまた来るからさ、今度はもう少し相手をしてあげたらどうかな」
▼・ェ・▼「金だの家だの出世だの、それから体面なんかも気にしないでいい人が近くに一人ぐらいいるといいと思うよ。うん」
lw´- _-ノv「考えておきます」
シューが小さくため息をついてから答えた。
▼・ェ・▼「そう。なら明日中がいいかな。実はね、いつもより少なめにしちゃったんだ、彼に渡すの。だからきっと明後日には、また来るよ」
振り向いて笑う顔は少年の様だった。
/^o^7\ 「おぉ、買い物かい」
屋敷の前まで戻ると、手を振りながら男がブーンの方へ小走りで近づいてくる。
(^ω^ )「そうですお。七号さんは騎士さんと一緒じゃ無いんですかお?」
/^o^7\ 「俺はちょうど使い走りが終わったとこだ」
ブーン何かを思い出した様に「あっ」と呟く。
(^ω^ )「そういえば、この街じゃ騎士は嫌われているんですか?」
七号が目を見開いてブーンを見つめる。
/^o^7\ 「ん、知らなかったのか」
いきなり質問した事よりも、その内容に驚いたような話し方だった。
(^ω^ )「え、やっぱりそうなんですかお。今日そんな話しを聞いたんですお。でもあまり深くは教えてもらえなくて」
/^o^7\ 「そうだろうな。まぁ、ここはまだマシな方だな。住んでる大抵のやつは難しい立場だからなぁ」
七号が周囲の屋敷をぐるりと見渡す。
/^o^7\ 「騎士に目をつけられたら、無茶な理由をつけて店や家を潰されかねない。そうなると表立っては悪い事は口に出来ないだろ」
小声で話しながら、目は忙しく辺りを警戒している。
/^o^7\ 「実際に何度か俺も見たしな。そりゃ嫌われるさ。俺が見た中で一番ひどかったのは、そうだな……。商家の騎士と同じ商品を、周りより安く売った商人の店が襲撃された事かな」
(^ω^ )「……襲撃ですかお」
/^o^7\ 「あぁ、しかもな。この街の中でだ。おかしいだろ? あんだけ出入り口を厳重にしているのに、どこからならず者どもが入ってきて出て行ったのか」
(^ω^ )「じゃあ、街の中の人がやったんじゃないんですかお」
/^o^7\ 「そうなると同じ区画の人間だけだな。夜は移動が出来ない。普通はそう考えるし俺もそう思っていた。だが騎士はすぐに、これは外から何者かが侵入したんだとって言って門にいた兵士を処分してこの一件を終わりにしちまった」
(^ω^ )「それはひどいお」
/^o^7\ 「あぁ、ひどい。でも逆らえないんだな。世襲の公家なんて気位ばっかり高いし、商家はとにかく金に汚い。ひどいひどい」
七号は騎士の部屋をちらりと見る。
(^ω^ )「騎士はそんな事をして許されるんですかお」
/^o^7\ 「騎士はたとえ十位でもな、自分の領地なら王以外には指図を受けずに振る舞える。知らなかったのか?」
ブーンは迷ったが、小さく首を縦に振った。
/^o^7\ 「騎士を信じて何代か前の王が考えた法だが、今じゃ一番の悪法かもな。大抵のところは国の納める税以外に、いいかげんな名目で何倍も搾取する」
さっき程驚く様子は見せないまま、七号は話を続けた。
/^o^7\ 「まぁ、武家は割とマシだって聞くがな。公家や商家は誰からも嫌われるのが普通だ」
(^ω^ )「基本的に嫌われているんですかお……」
/^o^7\ 「そらそうよ。それから、そんな大嫌いな騎士のために働く兵士も、少なからず嫌われるもんだ」
(^ω^ )「……そうなんですかお」
/^o^7\ 「だから俺は不思議に思ってたんだよ。何でお前は嫌われて無いんだってな」
(^ω^ )「別にブーンはそんな気はしませんお」
七号が力なく首を振る。
/^o^7\ 「え……。だってお前、俺なんか、挨拶しても無視されるんだぜ……」
/^o^7\ 「あぁ そうだ。明日は乗るって行ってたな。うちの親分が」
しばらくの沈黙を七号が破る。
ニシカワが驚いた様に、大きな目をさらに大きくすると、ブーンに頭を擦りつけた。
/^o^7\ 「しかし、街の人間に嫌われて無いってのはまだわからなくもないが、そこまで馬に好かれるのはわからないな」
七号はジッと、犬や猫のようにブーンにまとわりつくニシカワを見ている。
(^ω^ )「外に出るときは大抵ニシカワがいるからみんな珍しがって寄って来るだけですお。だから街の人に好かれているわけではないと思いますお」
/^o^7\ 「うーん」と唸る七号はあまり納得していない様子だった。
(^ω^ )「そういう事だから、残念だけど明日の散歩は無しだお」
ニシカワが水滴を払うように全身を振るわせる。
/^o^7\ 「おぉ、おぉ。嫌がってるなぁ。やっぱり親分は馬の扱いが下手なのか?」
(^ω^ )「ブーンは騎士じゃないので乗り方は知りませんお。ただ、あんなに乱暴に扱っても嫌われるだけだと思いますお」
/^o^7\ 「そうかそうか。じゃあ、ブーンなら馬も喜んで乗せるんじゃないか」
七号がいうとニシカワが大きく頭を上下させた。
/^o^7\ 「ははっ冗談だ。だが、馬ってのは人の言葉がわかってるのかね。ここ最近、急にそう思うようになったよ」
屋敷の中に入るように両手で促しながら続ける。
/^o^7\ 「さぁ、それは置いておいてだ。せっかく今日は親分が居ないんだから酒でも飲もうか。良い酒を買うだけで満足するなんて勿体ないからな。俺達が飲んでやろう」
(^ω^ )「またですかお……」
(^ω^ )「うぐぅ……痛いお」
腹から落ちて体は「く」の字になっていた。
腕、脚、首と順に力を入れてみる。どこの筋肉も痛みは伴うもののしっかり動いた。それから、ゆっくり上体を少しだけ上げる。
(^ω^ )「……ん」
その途中、これまで何も感じていなかった事に違和感を感じた。その大きな違和感は、しっかり目を見開いて周りを確認すると途端に消えた。
(^ω^ )「うおぉ」
ブーンが体をすばやく捻る。
(^ω^ )「ぐっ」
体が地面に落ちる鈍い音と、苦痛の声があがる。
ニシカワの背に乗っていた。ほんの短い間だったが、梯子から落ちてニシカワの背に落ちていた。
そのおかげで直接地面に叩きつけられるよりはマシだったが、今はその方が何倍も良かったとブーンは感じている。
/^o^7\ 「いいか、馬の背には絶対乗ったらいかんぞ」
馬房守としての最初の朝、七号が真面目な顔をして言った言葉が頭に浮かんでいた。
/^o^7\ 「前の馬房守は馬に乗ったせいで、屋敷から追い出された」
(^ω^ )「はぁ」
/^o^7\ 「そりゃあ、大変だったんだぞ」
(^ω^ )「そうなんですかお」
ブーンはどうして馬に乗ってはいけないのか、乗っただけで屋敷を追い出される程の事なのか理解できない様な顔で七号を見つめていた。
/^o^7\ 「なんで乗っちゃいけないか分かるか?」
七号がそれを察して尋ねる。
(^ω^ )「分かりませんお」
/^o^7\ 「馬ってどうやったら手に入るか知ってるか?」
(^ω^ )「分かりませんお」
/^o^7\ 「お前は、俗世と関係を絶ったどっかの職人に育てられたのか?」
(^ω^ )「そんな様なところですお」
七号が小さくため息をつき、頭を掻き何から話したらいいか小声で整理し始めた。
/^o^7\ 「ええと、馬はな、王から下賜されるものなんだ」
(^ω^ )「……王から」
ブーンの顔が途端に神妙なものになった。
/^o^7\ 「そうだ。王がこいつは騎士だって認めた奴にな」
/^o^7\ 「戦の前は随分と数がいたらしいけどな。院やら砦の兵士さんを除けば、今じゃ馬を持ってるのは騎士だけだ」
/^o^7\ 「つまり、馬ってのは単純に移動や戦の時に役に立つってものじゃなくて特別なものなんだよ。そこらの奴が勝手に乗るなんて事は許されない」
/^o^7\ 「なんとなく分かるか?」
(^ω^ )「なんとなく分かりますお」
七号が「うん」と言い、次に話す内容を考え出す。
/^o^7\ 「……それからな、馬ってのはどうにも扱いにくい生き物でな、自分の認めた相手じゃないと乗せようとしない」
/^o^7\ 「聞いた話じゃ数が減ってからそれがひどく顕著になったらしい」
(^ω^ )「はぁ」
/^o^7\ 「今の馬は、普段はおとなしく綱で引かれてる様な奴でもな。背に乗られたら大暴れして、蹴り殺しちまう事だって珍しくない」
七号が一度、間をあけてから話を続けた。
/^o^7\ 「前の馬房守はな、大怪我して庭に転がっていた。馬房はもうボロボロさ、壁なんて穴だらけで参ったよ」
(^ω^ )「……なんという」
/^o^7\ 「それを知った親分は激怒してなぁ。大変だったんだぞ。そいつを斬るって聞かなくて。なんとか皆でなだめても、街からの追放だ」
/^o^7\ 「怪我の手当も満足にできないままな」
何もない空間を見つめていた七号の視線がブーンに向く。
/^o^7\ 「だからいいか、馬の背には絶対乗ったらいかんぞ。決まりだからってだけでなくて、死にたくなかったらな。前の奴だって、お前ほどじゃないが嫌われてるわけじゃなかったんだ」
言い終わると今度はニシカワに視線を向けた。
(^ω^ )「わかりましたお」
/^o^7\ 「あと一つ、秘密を教えてやる。うちの親分はなぁ、実は馬に認められていないんだ」
七号が耳元でソット話し出した。
(^ω^ )「おっおっ?」
/^o^7\ 「馬に乗る前にな、秘密の香を焚いてるんだ。それを嗅ぐと馬は大人しくなる。本当は騎士に認められる様な人間はなら、馬にも認められて然るもんなんだがなぁ」
七号が肩をすくめる。
/^o^7\ 「まぁあんまり綺麗な方法で出世した人じゃないからなぁ。ちなみに、騎士で馬に認められてないってのは最上の恥じの一つだから他言するなよ」
七号が歯を見せて笑った。
(^ω^ )「どうして、そんな事を教えてくれるんですかお」
ブーンの顔は少し落ち着いたのか、うっすら笑みが浮かんでいた
/^o^7\「ん、だってこれからは お前の仕事だからな。誰にも見つからない様に親分が乗る前に、あの香を焚いて馬を落ち着かせるのがな」
馬房の奥の棚を指差した。
(・∀ ・)「俺達って地味じゃないか?」
( ・3・)「そら地味よ」
(´・_ゝ・`)「まぁ確かにな」
(・∀ ・)「読み書き計算は出来ない、武器なんてここに来るまで持ったことも無い」
( ・3・)「馬も初めて見た時はびっくりしたな」
(・∀ ・)「びっくりしたな」
(・∀ ・)「地味すぎて全く注目されない俺達に、見てくれてるもびっくりしているだろうな」
(´・_ゝ・`)「見てくれている人?」
( ・3・)「畑ばっか耕してたもんな」
(´・_ゝ・`)「見てくれてる人?」
(・∀ ・)「まぁそのおかげで力だけは付いたんだから良いじゃない」
( ・3・)「あら立派な力こぶ」
(・∀ ・)「でも早いところ文字くらい使えるようになって、訓練にもっと時間を裂けるようにならないとな」
( ・3・)「あぁ。そうしないと全然話しに絡めなくなりそうだしな」
(´・_ゝ・`)「話に?」
(・∀ ・)「あぁそうだ。この間さ、教えてもらったところ見に行ったんだ」
( ・3・)「前に教えてもらったところ?」
(・∀ ・)「うん。顔文字がまとめてあるサイトなんだけど」
(´・_ゝ・`)「顔文字? サイト?」
(・∀ ・)「そしたらまぁ驚いた驚いた」
( ・3・)「変なのあった?」
(・∀ ・)「素直クール・素直ヒート・素直シュール・素直キュート。素直なんとかって名前がいっぱいだった」
( ・3・)「おうふ」
(´・_ゝ・`)「何この疎外感」
(・∀ ・)「まいったわ」
( ・3・)「まいったな」
(・∀ ・)「つまりさ、一話に出てきてる『川 ゚ -゚) 』はスナオじゃなくてクーにします、ごめんなさいって事なんだ』
( ・3・)「いたしかたないな」
(・∀ ・)「ないよな」
(´・_ゝ・`)「こいつら……」
(・∀ ・)「変な話ここまで」
変な話 終わり
(=゚ω゚) 「鎧もしっかり付けるんだよ。急ごしらえでたいしたものじゃないけど無いよりずっといいからね」
(=゚ω゚) 「慣れるまでは邪魔だろうけど、ほらしっかり付けないと」
( ^ω^)「っぐ……。どうもですお」
イヨウが紐を強く絞めるとブーンが短く息を漏らす。
(=゚ω゚) 「何かあったらニンジャの言うことを聞いてね」
|/゚U゚| 「では、行ってまいります」
いつまでも話し続けそうなイヨウを遮る。
ζ(゚ー゚*ζ 「それじゃあ、くれぐれも気をつけてね」
デレもそれを察して続けると、四人もそれぞれに挨拶を済ませ屋敷を出る。
(=゚ω゚) 「おいおーい」
門を出てすぐの辺りでイヨウが走り寄って来た。
(=゚ω゚) 「村や町に着いたら文鳥を寄越すんだよ」
|/゚U゚| 「タカネキに着いたら連絡しますよ」
(=゚ω゚) 「いや、道中立ち寄ったところ全部でお願い。そこの作物だったり、その収穫量。あとはどこと取引しているのかが知りたいな」
|/゚U゚| 「……わかりました」
ニンジャは少し間を置いてから答えた。
(=゚ω゚) 「後はまぁ、端書き程度に近況もね」
言いながらイヨウは屋敷へ向かって歩き出す。
|/゚U゚| 「さぁ、できるだけ早く用事を済ませてしまおう」
イヨウの背を見送りながら三人が頷く。
ζ(゚ー゚*ζ 「心配?」
(=゚ω゚) 「心配」
ζ(゚ー゚*ζ 「すごく?」
(=゚ω゚) 「すごく」
イヨウとデレはしばらく黙り、一行の旅が無事である事を祈った。
(´∀`) 「タカネキは遠いモナ?」
周囲が全て平野になり、危険が無い事を確認すると一行の緊張はすぐに緩んだ。
|/゚U゚| 「そうだな、まぁ、五日位だな」
(´∀`) 「そんなにモナ」
|/゚U゚| 「五日といってもお前達が屋敷に来た時のようなものじゃないぞ。夜はできるだけ宿に泊まるし、歩くのは普通の道だ。真っ暗な中を急ぐわけじゃ無い」
三人がその時の事を思い出そうとすると、多量の返り血に濡れながら少しも表情を変えないニンジャが浮かんだ。
|/゚U゚| 「相手方にはあらかじめ余裕を持って日にちを伝えてある。道中も出来る限り安全を優先させる様にも言われている。多少の金は問題無いともな」
(´∀`) 「太っ腹モナ」
|/゚U゚| 「……悪いところだな」
( ´_ゝ`)「えっ」
オトジャが驚いた様子で答えた。
|/゚U゚| 「イヨウ殿は少し、甘い」
本当はそれが「少し」で収まるとは思っていない口振りだった。
|/゚U゚| 「だが、良いところでもある」
( ´_ゝ`)「そうですね。はい」
オトジャがすぐに答えると、ニンジャは満足そうにうなづいた。
|/゚U゚| 「あぁ、そうだ。一応伝えておくが、お前達が読み書きなんかが出来るから大切に扱っているわけじゃないぞ。あの人はいつも、あぁなんだ」
|/゚U゚| 「赤の他人であればまだ商人として、金を優先できる。まぁ実際は適当なところで折り合いを付けるが」
続ける前に一度咳払いをする。
|/゚U゚| 「だが、一度身内になってしまうと自分より周りが大事になる。兵士にも、フタワの村人にも家族同然に振る舞う」
|/゚U゚| 「器用なのか、不器用なのかよくわからないがあの方はそういう人なんだ」
森で人を斬った時よりもよっぽど感情の感じられる様子で話す。
|/゚U゚| 「万が一に備え、少し距離を置いた方が良いと進言したが、済まなそうに笑うだけだった。もうそれがあの人の性質なんだろう」
ニンジャが小さくため息をつく。
|/゚U゚| 「お前達が来てすぐの頃は、あまりに辛そうで今後は起きをつけあそばせなんてとても言えやしなかった」
|/゚U゚| 「だから、イヨウ殿を裏切るような、悲しませるような事はしないでくれよ」
小さく言ったニンジャの背中は、森にいた鬼とは似ても似つかないものだった
|/゚U゚| 「荷物を置いたら簡単に周って来るか。調べものもあるしな」
( ´_ゝ`)「この村についてですか? イヨウさんに頼まれた」
|/゚U゚| 「そうなんだが……まだフタワから一日程度の場所だ。イヨウ殿はわざわざ調べなくてもミサキについて知ってるだろうな」
( ´_ゝ`)「なら、どうして村や町での調査を頼まれたんでしょう」
オトジャが首を傾げた。
|/゚U゚| 「過保護だからな」
( ´_ゝ`)「は?」
オトジャの顔がさらに傾く。
|/゚U゚| 「言っていただろう。状況を逐一教えて欲しいと」
( ´_ゝ`)「あぁ。でも、あれは端書きで良いと」
|/゚U゚| 「あれは嘘だ」
オトジャが言い終わるより先にニンジャが話し出す。
|/゚U゚| 「商売より部下が心配なんて言えないからな」
ニンジャの口角がわずかに上がった。
( ´_ゝ`)「……はぁ」
|/゚U゚| 「さぁ、そろそろ行くか。お前達はミサキの村は初めてか?」
(´∀`) 「初めてだモナ」
部屋から外を眺めていたモナーが素早く振り返る。
|/゚U゚| 「そうか。なら三人でゆっくり見て回って来るといい。私は店をいくつか回って手紙を書かないといけないからな」
|/゚U゚| 「お前達は食事の支度が終わるまでに戻って来れば良い」
(´∀`) 「調べものは手伝わなくて大丈夫モナ」
|/゚U゚| 「あぁ、調べるといっても顔なじみの商人に最近の景気を聞くだけだからな。好きにしていて構わんさ」
(´∀`) 「好きにさせてもらうモナ」
(´∀`) 「オトジャはこれまで色んな村や町を見てきたモナ?」
三人で外に出て小さな村を見て回る。商店を覗いたり、路上に商品を並べている商人に話しかけたり、なんて事の無い民家を眺めたりしていた。
その途中、モナーが思い出した様に言った。
( ´_ゝ`)「えぇ、まぁ。ツダやツドあと王都の様な出入りに厳しいところは行ってませんが」
( ^ω^)「じゃあ…ここは、ミサキはどのくらいだお?」
オトジャが不思議そうな顔をして「豊かさが、ですか?」と聞くと二人が黙って頷く。
ブーンの声はいつになく真剣だった。モナーも無言で二人を見つめ、一気に周囲が緊張感に包まれる。
オトジャもそれを感じたのか、慎重にゆっくりと口を開く。
( ´_ゝ`)「私も十前後の村しか見てきていませんが」
二人がそれを聞いても興味を失わずに、自分を見ている事を確認すると続ける。
( ´_ゝ`)「恐らくその中でも一番下かと。この村の領主である公家の騎士は他にいくつかの村と一つの町を持っているので、この村にはたいして力を入れて居ないのでしょう」
( ´_ゝ`)「近くには他の騎士が直接治めているところもありますから、旨味が少ない。だから最低限、税を取れるくらいの整備もしてないんでしょうね」
話す前の様子と打って変わり、二人の興味はどこかへ消えてしまったようにみえる
( ´_ゝ`)「あの、どうかしましたか」
( ^ω^)「ブーン達の村は……この村より貧しかったお」
オトジャは「しまった」と苦い顔をする。二人の村にいたのはほんの数刻だったので、すっかり計算に入れるのを忘れていた。
(´∀`) 「あぁ。しかも、あそこは騎士が直接治めてるモナ。屋敷は離れた所に建てて、村に来るのは税の徴収と募兵くらいだけど……」
オトジャが驚いた様に二人の顔を見る。とても冗談を言っている様では無い。
( ´_ゝ`)「……そうですか」
騎士の領地は一つに限られてはいない。有力な騎士になればいくつも町や村を治めている。
そうなると当然、騎士が不在の領地もでてくる。
ほとんどの場合、騎士は領地で一番豊かな所を本拠とし、その他の領地は自分の部下か領地ごとに代表を選出し、代理として治めさせる。
単純に領主としての能力の他に、騎士としての格を見る上で本拠が重要とされるので、面子のためにも大きな差が出る。
本拠でありながら貧しい。オトジャは信じられないと思ったが、二人の様子を見るとそれを口には出す事はできなかった。
(´∀`) 「まぁ、いかに無能な騎士の下で暮らしてたかって知りたかったモナ」
モナーがオトジャの肩を軽く叩く。
(´∀`) 「自分の村がどこよりも貧しかったのはつらいモナ。でも、もう下が無いならそれも悪くないモナ」
( ^ω^)「二人で一番にするお」
二人が頷きあう。
( ´_ゝ`)「私も……私にもできる事があれば手伝わせて下さい」
悲しそうな目で辺りを見回す二人にオトジャは力強く言う。
( ´_ゝ`)「何ができるかわかりませんが、領主を持たずに栄えている村を私はいくつも知っています。きっと今より豊かにする手は沢山ありますよ」
( ^ω^)「おっおっ」
二人が笑うと、オトジャもそれに笑顔答えた。
( ´_ゝ`)「誰もが医者に掛かれ、飢えや寒さで苦しむ者も無く、ならず者は兵士を恐れて近づかない」
( ´_ゝ`)「騎士がいる本拠は規模の差はあれ、大体がそうでしたね」
オトジャが言う。
( ´_ゝ`)「ただ、騎士の居ない場所の差は大きかったですね」
( ´_ゝ`)「騎士がいなくても長に選ばれた者や統治を任された兵士なんかが優秀なところは、本拠に迫るものもありましたよ。逆も勿論有りますが」
( ^ω^)「能力しだいかお」
( ´_ゝ`)「えぇ。でも領主の居ない所も多いですよ」
(´∀`) 「そんな所があるモナ?」
( ´_ゝ`)「えぇ、国が出来た時に無かった場所で、その後王に統治を申し出ていない所ですね」
オトジャが一瞬驚いた顔をしたが、それを隠すように一息で話した。
( ´_ゝ`)「他には騎士が放棄をした場合ですね」
( ^ω^)「放棄なんてするのかお。どんなに貧しくても、自分の金が減るわけじゃないお」
(´∀`) 「たしかに、金は掛けずに税だけ入ってくれば損はしないモナ」
二人は頷き合う。
( ´_ゝ`)「えぇ。だからまず、金です。他の騎士に売るんですよ。事前に王に統治を請う様、長に伝えておいてね」
( ´_ゝ`)「勿論、そこでも金が動くでしょうね。」
(´∀`) 「金で……、金で村が買えるモナ?」
モナーが鼻先が触れる程オトジャに近づく。
( ´_ゝ`)「え、えぇ。買えますね。むしろ金で買えないものほうが少ないんじゃないですか」
オトジャが一歩下がり、二人の間に少しの間隔を作る。
( ´_ゝ`)「だから商家は強い。戦に出た事も無く、刀を飾りとしか見れない者の多い商家。それが今では王に次ぐ影響力を持っている」
(´∀`) 「……金で村が買えるモナ」
( ^ω^)「……金で買えるんだお」
二人はオトジャの声が耳に入らないかの様に一点を見つめたまま呟いている。
( ´_ゝ`)「あの」
( ^ω^)「決まったお」
(´∀`) 「あぁ、決まったモナ」
( ´_ゝ`)「あの」
( ^ω^)「オトジャのおかげだお」
(´∀`) 「ありがとうだモナ」
( ´_ゝ`)「あの、何が決まったんですか?」
これまでよりいくらか早口で言う。
( ^ω^)「ブーン達の目標だお」
( ´_ゝ`)「目標ですか?」
オトジャが二人を見つめると、嬉しさと険しさが混じった様な不思議な表情をしている。
( ^ω^)「村を買うお」
(´∀`) 「とりあえず金を貯めて、税の助けや新しい農具なんかを手に入れるつもりだったモナ」
(´∀`) 「……でも、いくらそんな事をしても村は、いつまで経っても変われないモナ」
( ´_ゝ`)「村を買うなんて言ったら、とてもじゃないですけど、そこらの兵士なんかじゃ手が出る額じゃないと思いますよ?」
( ^ω^)「がんばるお」
(´∀`) 「まぁ、二人いれば負担は半分だモナ」
( ´_ゝ`)「はぁ」
呆れた様子で首を振る。
( ´_ゝ`)「今の今まで、兵士になった理由は無かったんですか?」
(´∀`) 「いやぁ、無くも無いモナ」
( ^ω^)「そうだお。とりあえず村のために兵士になるって理由はなったお」
(´∀`) 「でも、何をどうしたらっていうのはさっぱりだったモナ」
オトジャとは対照的にモナーとブーンが互いの顔を見て笑いあっている。
( ´_ゝ`)「はぁ」
( ^ω^)「簡単に言ったら、金が有ると無いじゃ大違いだから金になる兵士になったってわけだお」
( ´_ゝ`)「確かに力のある家に生まれでもしない限り、一番稼げる仕事の一つだとは思いますけど」
(´∀`) 「そうなんだモナ」
モナーが割り込む様に話し出した。
(´∀`) 「金があれば村のためになる。兵士になれば金になる。だから兵士になりたいけれど、領主は無能。とても仕える気にはなれなかったモナ」
(´∀`) 「だからずっと他の騎士さんが来るのを待っていて、そこに来たのがイヨウさんだったモナ」
( ^ω^)「つらい時期だったお」
ブーンが目を閉じ、昔を思い出す。
( ´_ゝ`)「良く分かりませんが、分かりました」
( ^ω^)「難しかったお?」
( ´_ゝ`)「いえ。……はい」
( ´_ゝ`)「ここ十数年の間、全く戦は無いですが、隣国に悪い噂がないわけじゃない」
大きく呼吸をしてオトジャが話し出す。
( ´_ゝ`)「兵士になるという事は命を掛けるという事。それなのに明確な理由や目標が無いまま、あなた達はなったんですから」
( ´_ゝ`)「そりゃあ、そう簡単には理解できません」
(´∀`) 「まぁ、力を抜いたら良いモナ」
( ´_ゝ`)「……とりあえず、お金は半分じゃないです」
体を思い切り伸ばしてから言った。
(´∀`) 「お金モナ?」
( ^ω^)「なんのお金だお」
( ´_ゝ`)「さっき言っていた村を買うお金ですよ。半分じゃない」
( ^ω^)「……また何か面倒な決まり事でもあるのかお? 二人の場合は割り増しで払えとか」
( ´_ゝ`)「そうじゃないです。三等分にしましょう」
( ^ω^)「どういう事だお」
( ´_ゝ`)「幸い、私の目的にはお金が掛かりませんから」
( ^ω^)「掛かりませんって……、本当に良いのかお?」
(´∀`) 「モナ達は余裕なんて全くないから、ありがたく受け取っちゃうモナよ?」
( ´_ゝ`)「えぇ、構いません。私としても目的が二つになれば張り合いも出ますし、お互い良い事だけなら構わないでしょう」
( ^ω^)「……ありがとうだお」
モナーとブーンが頭を下げた。オトジャが制止してもすぐには顔を上げようとしない。
なんども頭を上げる様に言い、ようやく姿勢を戻した二人の目にはうっすら涙があった。
オトジャが何も言わずに、二人が話せるようになるのを待った。
屋敷に行く前に身奇麗にしようと、ニンジャが早めに宿の準備をした。
三人の後にニンジャが風呂に行ってから、どれくらい時間が経っただろうか。オトジャは今、ニンジャが来たらなんと説明したら良いかを考え始めていた。
(´∀`) 「ところで、オトジャの目的はどんな事だモナ?」
モナーの言葉にオトジャは苦虫を噛んだ。
( ´_ゝ`)「それは……」
気まずそうなオトジャからは、なかなか次の言葉が出てこない。
( ^ω^)「別に、言いにくい事だったら言わなくても構わないんだお」
(´∀`) 「そうだモナ。そのうち、言ってもいいと思った時にでも聞かせてくれたらそれで良いモナ」
( ^ω^)「もちろんずっと言わなくなったそれはオトジャの自由だお」
(´∀`) 「そうだモナ」
( ´_ゝ`)「ありがとうございます」
オトジャが顔を下に向けて隠した。
( ^ω^)「お礼を言うのはこっちだお」
( ´_ゝ`)「いえ、すごく嬉しいんです。だからお礼が言いたい気分なんですよ」
三人が長い間、気恥ずかしそうに笑いあう。オトジャと二人が会ってから数ヶ月。
初めて、見る事の出来なかった互いの内側を見る事が出来た気がしていた。
|/゚U゚| 「じゃあ、そろそろ相手さんの屋敷に行くぞ」
ニンジャが計った様に部屋に入って来た。
|/゚U゚| 「久しいな」
( ´ー`) 「お元気そうで何よりです。……そちらはニンジャさんの?」
ニンジャの後ろに並ぶ三人を見る。
|/゚U゚| 「いや、イヨウ殿のな」
( ´ー`) 「あぁ、そうでしたか。」
恰幅の良い男がニンジャの前に出て戸を開ける。
( ´ー`) 「さぁ、遠いところからありがとうございます」
|/゚U゚| 「何、新米達の勉強もかねてだ」
戸を開けると、ニンジャはすぐに中へ入っていく。普段のニンジャからは想像しずらい無遠慮な動きだった。
( ´ー`)「さぁ、君達も」
男が笑顔で手招きをする。
( ´_ゝ`)「失礼します」
イヨウの屋敷より二周り小さい屋敷は、派手さは無いが美しさを感じさせるつくりだった。
女中に通された部屋で四人が一列に腰を下ろした。
後から来た男がヘコヘコと頭を下げ申し訳なさそうに一段高い場所に座る。
( ´ー`)「武家九位のネーヨです。以後よろしく」
ブーン達に向かってそれだけ言うと、笑顔が薄れ「早速ですが」とニンジャの方を向く。
その声にニンジャが答えるように折り畳まれた紙を出した。
( ´ー`)「では、……失礼」
頭を何度か下げてから、手に取り右から左へゆっくり視線を動かす。
しばらくして、それまで遅いながらもつかえることなく進んでいた視線が急に止まった。
( ´ー`)「んっ」
不自然な咳ばらいし、ちらりとニンジャの顔を見る。ニンジャはそれに対して、まばたきで何かを答える。
|/゚U゚| 「あぁ、そうだ。馬の調子はどうだ。前にすぐに腹を下して心配だと言っていただろう」
膝を軽く叩いて、ニンジャが切り出した。
( ´ー`)「……あぁ、それがまだ治らないのです。私も何とかしてやりたいのですが、人以外を診れる医者には心当たりも無いもので。いや困った」
一瞬間をおいて、何かを理解したようにネーヨが答える。
|/゚U゚| 「そうかそうか。ちょうど馬にも良く効く薬を持ってきた。イヨウ殿が持っていってやれとな」
( ´ー`)「おぉ、それは有り難い」
|/゚U゚| 「馬屋はどこだったか」
「ご案内しましょう」とネーヨが立とうとするとニンジャが両手で制止する。
|/゚U゚| 「なに、少し様子を見て薬をやるだけだ。誰かに案内させればよい。それよりも、さぁ続けてくれ」
床に落ちた書状を拾い上げるとネーヨは申し訳なさそうに受け取り、人を呼んだ。
( ´ー`)「ニンジャ殿を馬屋にご案内してくれ」
女中が頭を下げて答えるとニンジャが「少しの間頼むぞ」と言って部屋から出て行く。
( ´_ゝ`)「……なにこれ」
ブーン達はお互いの顔を見合わせていた。
( ´ー`)「……悪いお話ではないですね。いや、むしろ良い話だ」
しばらく続いた問答が止むとネーヨが納得した顔で頷く。二人は激しい動悸に襲われていた。
( ´ー`)「うん。決めました。イヨウ殿のお世話になりましょう」
戸が大きな音を立てて開くと、ニンジャが広い歩幅で元いた場所へ戻ってきた。
図ったような場面で部屋に戻った事については誰も口にしなかった。
|/゚U゚| 「……どうだった?」
わざとらしく、何も聞こえていなかった様にニンジャが隣のモナーに聞く。
(´∀`) 「取引してくれるそうだモナ」
|/゚U゚| 「おぉ、それは良かった。まさか、ちょっと席を外した間に話しが決まってしまうとはな」
ニンジャが笑うとネーヨも笑顔を見せた。
( ´ー`)「いやいや、一安心だ。値段以上の価値がこの村にはあるお話しでしたよ。早く屋敷の外に出て皆に伝えてやりたいです」
|/゚U゚| 「来年からはきっと民の仕事も楽になるぞ」
屋敷を出るまで二人の機嫌は良いままだった。
( ´_ゝ`)「あれは本当の事なんですか?」
宿屋への帰り道でオトジャが言う。屋敷から出るなりすぐに切り出した言葉はかなり早口だった。
(´∀`) 「もちろん本当の事モナ。まぁ、都合の悪そうな事は最初から口にしてないから嘘は無いモナ」
対照的にモナーの言葉は落ち着いている。
( ´_ゝ`)「私達は何の取引をするか程度しか聞いていませんでしたよね」
( ^ω^)「そうだお。農具とだけ言われてたお」
( ´_ゝ`)「……えぇ。今回はニンジャ殿に付いて、おおまかな商談の流れや盗人相手の実戦が目的だとばかり」
オトジャが納得いかない感情を押し[ピーーー]ように言った。
(´∀`) 「これまで立ち寄ってた村で商人に話を聞いたモナ。畑は一杯あるのに農具が売ってなかったから、不自然に思ったんだモナ」
(´∀`) 「売れそうなものを置いてないなんておかしいモナ。だから、どうして農具を置いてないかを商人に聞いたら一発だったモナ」
今にも倒れそうだったモナーの顔はすっかり元通りになっている。
( ^ω^)「やっぱり、そのあたりは大商人の孫だお」
ブーンが嬉しそうに言う。
(´∀`) 「たまたま、気になっただけだモナ」
( ´_ゝ`)「大商人?」
( ^ω^)「あぁ、モナーの爺さんは凄い人なんだお。商人なのに商家並の影響力があるとか……って聞いたお」
(´∀`) 「まぁ、村の大人が言ってただけモナ。俺も年に一度会うかどうかだモナ」
( ^ω^)「ブーンはモナーのお母さんに勉強を教わったんだお」
(´∀`) 「金も店もいらないからって、碌な家に嫁ぎもせずに家を出た六番目の娘だモナ。おかげでうちは何も無いただの農家モナ」
苦笑して話すモナーを、オトジャは無表情で見つめていた。
( ´_ゝ`)「お名前は何と」
( ^ω^)「確かマルミミさんだったお」
あまり言いたくなさそうな顔をするモナーの後ろからブーンが言う。オトジャの体がほんのわずかだけ跳ねるように動き、小さく唸りながら考え事をするように顔に手を当てる。
( ´_ゝ`)「……。すみません。私は聞いたことは無いですね」
(´∀`) 「ほら、やっぱり大した事無いんだモナ」
ブーンは納得いかなそうに「それでも、村で読み書きや計算を教えてくれたから、大した事だお」といって口をぐっと結ぶ。
(´∀`) 「あれは爺さん関係なしに、母親が普段から使わないと忘れるからってだけでやってた勉強会だモナ」
( ^ω^)「……それでも大した事だお」
ブーンは語気は普段よりやや荒くなっていた。
|/゚U゚| 「大成功だったな」
ニンジャが宿の店主に右手だけで挨拶をすませ部屋に入る。
一仕事を終え気の晴れた様子のニンジャが、三人の間に生まれた奇妙な気まずさを薄めた。
|/゚U゚| 「なに、初めてにしては上出来だ。商家はとにかく結果が全て。だが、うまくいかなかったり納得のいかない事があったなら次は直して向かえば良い」
成功という言葉を素直に受け止められない二人に向けてか、ニンジャは部屋の誰を見るわけでもなく話し出す。
|/゚U゚| 「極端に言ってしまえば過程はどうだっていいんだ。最後に成功すればとりあえず商家はいい。だから今回は誰が見ても成功なんだ。……武家はまた違うがな」
三人それぞれの肩や頭に手をやる。
|/゚U゚| 「どんなに優秀だったとしも、まだ見習いなんだからな。同じ位の歳の時は私もイヨウ殿も、お前達と大差なかっただろうよ」
ニンジャは「一応騎士と比べて遜色ないんだからな」と付け加える。
一体なにが遜色ないのかは分からなかったが、二人にとってはありがたかった。
|/゚U゚| 「さぁ、今日は早く休めよ。明日は昼前には出立だぞ」
それだけ言うとニンジャは早々に自分の布団へ向かい、背を向ける形で横になった。
( ^ω^)「……おやすみだお」
(´∀`) 「お疲れだモナ」
三人は少しの不自然さを引きずったままだが、明日の朝には忘れようとしているようだった。
|/゚U゚| 「あぁ、屋敷に帰るわけじゃないぞ。ツダへ寄る」
思い出した様に、向こうを見たまま伝えるとすぐに小さな寝息をたてる。
第五話 終わり
(^ω^ )「おはようございますお」
ブーンはわざと大回りをして、いつもと同じ方向から店に入る。
lw´- _-ノv「……いらっしゃい」
シューが少し離れたところから出迎えに来た。
▼・ェ・▼「いらっしゃい」
一番に気が付きながら、作業を続けていたビイグルが前掛けを整えながら近づいてくる。
▼・ェ・▼「ゆっくりしていってね」
ニシカワを優しく撫でると「それじゃあ、よろしくね」と、また忙しそうに戻っていった。
(^ω^ )「今日も忙しそうだお」
lw´- _-ノv「そうね。今日もいつもと同じで良いの?」
(^ω^ )「いつも通りでいいお」
シューが商品を取りに行こうとするが、数歩歩いて振り返った。
lw´- _-ノv「あぁ、そうだ。今日門の辺りで何していたの?」
(^ω^ )「……おっおっ。門の辺りになんて行ってないお」
lw´- _-ノv 「そう。別に言いたくないのなら構わないんだけど」
シューが商品を詰めに行く後姿をブーンは笑顔を繕って見つめる。
lw´- _-ノv 「はい」
慣れた手つきでいつもと同じものを同じだけ袋に詰め、終わるとすぐにブーンの方へ差し出した。
(^ω^ )「どうもだお」
シューはほとんど表情を変えなかったが、ブーンは気まずそうに腕を組んだり頭を掻いたり落ち着かない。
(^ω^ )「今日は良い天気だお」
lw´- _-ノv 「そうね」
毎日通うようになってから、商品を受け取った後もしばらく話し込む様になってきた。
ビイグルに頼まれたからという事もあったが、今ではブーン自身も喜んでシューに話しかけるようになっている。
lw´- _-ノv 「それじゃあ、仕事に戻るわ」
しかし、すぐに奥へ向かって歩き出す後ろ姿だけで、今は話をする気が無い事は明らかだった。
(^ω^ )「……ありがとうだお」
/^o^7\ 「お前は難しいだろうな」
一週間前、七号に次はいつ王都に行けるか尋ねた時の言葉が浮かんできた。
(^ω^ )「なぜですお」
/^o^7\ 「いくら騎士といってもな、場所が王都となれば連れて行ける兵士は極限られる」
/^o^7\ 「昔からの慣わしなんだけどな、過去にちらほらいたんだ。王を討って成り代わってやろうって輩がな」
七号が首をすくめた。
/^o^7\ 「そんな事をしても誰も付いていくわけがないのにな。……だからせいぜい連れて行けるのは三人だな」
/^o^7\ 「今年がそうだったし、うちの親方の出世はしばらく望めないしな。今の位じゃ三人がせいぜいだろう」
(^ω^ )「ブーンは王都に行きたいんですお。なんとかその三人の中に入れて欲しいですお」
言い終わるよりも先にブーンが話し出していた。
/^o^7\ 「それもだなぁ。三人ってのも兵士の順位で決めてるから難しいだろうな」
七号が短く息を吐くと、ゆっくりブーンの顔を見つめる。二周り以上の背の高いブーンを見上げる形だ。
/^o^7\ 「かわいそうだが、馬房守はな。兵士の序列の中から外れているんだ。馬房守はどこまでいっても馬房守であって、兵士としての出世が無いんだ」
七号はすぐに「世間でどうなのかは知らないがうちには無い」と、すまなそうに続けた。
(^ω^ )「じゃあ、そろそろ帰るお」
いつもの野菜や果物が詰められた袋を、ニシカワの鞍に結びつける。
lw´- _-ノv 「そう」
(^ω^ )「また明日だお」
lw´- _-ノv 「……また」
手を振るブーンには応えなかったが、ほんの短い間だけ見送る。
シューとの関係をここまで戻すのに、一週間が掛かっていた。
(^ω^ )「よく分からないけど、とにかく良かったお」
ニシカワも大きく首を縦に振る。
何が原因でシューとの間に溝が出来たのかは相変わらず分からなかったが、とりあえず悩みの半分以上が解決した様な気になっていた。
(^ω^ )「……うん、見えないお」
後ろを振り返り、ビイグルの店がもう視界に入らない事を念入りに確認した。
問題がないと分かると左胸をポンと叩く。それから屋敷への帰り道から外れて進みだした。
(^ω^ )「待たせたかお」
(,,゚Д゚) 「少しな。まぁ、ほんの数刻だ」
先週と同じ場所でギコが腕を組んで立っている。
周囲には同じ様に、門から入ってくる誰かを待っている商人風の人が多くいたが、ギコだけが入り口に背を向けているのですぐに分かった。
(^ω^ )「悪かったお」
先に店に寄った事で遅れてしまったので、申し訳なさそうにブーンが言う。
(,,゚Д゚) 「俺は商人でお前は客だ。気にするな」
ギコが右の掌をブーンに向けた。
(,,゚Д゚) 「それで、例の件だが」
(^ω^ )「どうだったお」
ブーンの目が大きくなる。ニシカワも何かを感じ取ったのかギコを見つめている。
(,,゚Д゚) 「あぁ、なんとかなったぞ。だが条件を満たすのは一つしかなかったからな。これが駄目ならどれか一つ位は譲ってくれ」
安堵したあとすぐに不安な表情へ変わる。
(^ω^ )「それも難しいお」
(,,゚Д゚) 「とにかく、まずは見てからだな」
(^ω^ )「おっおっ」
ギコが先導し、大通りから外れた路地へ一向が進み出した。
(,,゚Д゚) 「ここだ」
ギコが丈夫そうな木戸を手の甲で叩く。
(^ω^ )「大分古そうだお……。でも、つくりは悪くない気がするお」
ブーンは全体が視野に入るように少し後ろに下がり、焦点を少し上に持っていった。
路地へ入ってからすぐの場所。そこは裕福な商人達の所有する倉庫が並ぶ通りだった。
人通りは少なく、背の高い倉庫が並ために日当たりも悪い。
大通りに近いので商店主達から人気が有り、門からすぐ近くの割りに借りるにしても買うにしても金が掛かる。
通り沿いに店でも持っていなければ、環境が悪く値の張るだけの建物の前に二人は立っていた。
(,,゚Д゚) 「中も見せよう」
ギコが戸を引き灯りの準備をする。
(,,゚Д゚) 「いいぞ」
すぐ投げかけられた声に促され、ブーンが中に入る。
建物の戸は周囲と比べるとかなり大きい。ここを作らせたのが大きな商品を扱う商人だったのだろう。
ブーンにとってその点は満足だったが、建物の中も同じく自分を満足させるものか不安だった。
大きなブーンでもかなり余裕のある戸を越えて中へ入る。日のほとんど差し込まない中で、目が暗さに慣れるまで手探りで慎重に進んだ。
(^ω^ )「おぉ、素晴らしいお」
中は高さだけでなく幅もかなり大きかった。闇に目が慣れ、弱々しい灯りに照らし出された部屋を見た瞬間、ブーンの不安は消えていた。
ブーン二つの部屋を行ったり来たりし、窓の位置や天井の高さを気にする素振りを見せる。
それが一通り済むと今度は入り口まで戻り、その場から視界に入る範囲を確認する。
ギコは不思議そうな顔はしたが黙ってその様子を見守っていた。
(^ω^ )「ふんふん。……ほう。このくらいかお」
ブーンがまた奥の部屋に行き、指で壁を叩き耳を澄ます。
いつの間にかニシカワも部屋の中に入ってきていたが、ブーンは特に気にしていないようだった。
(,,゚Д゚) 「そいつも少し頭を下げれば家に入れるみたいだな。入りさえすれば快適だろう、天井の高さも十分だ。こんな家は中々ないぞ」
ギコが右手を目一杯伸ばして見せるが天井には全く届かない。
(,,゚Д゚) 「まぁ、こんな日当たりの悪いところより、お屋敷に立派の家があるんだから関係ないか」
その言葉が聞こえていないように「ここに決めるお」とブーンはニシカワの背に乗せた皮袋を取り出す。
(,,゚Д゚) 「おぉ、そうか。それは良かった。駄目だといわれたら他は天井が低いか、入り口の小さいところしか無くてな」
(^ω^ )「おっおっ。それは良かったお」
ブーンが皮袋の中を片手で弄る。
(,,゚Д゚) 「なにより大通り近くで人通りの少ない場所なんてのは、この区画じゃここくらいだからな」
笑いながら話すギコにブーンはあらかじめ聞いていた、近辺の相場より少し多い額を差し出した。
ブーンが動き出したのはそれから一月後だった。
これまでと何も変わらない生活を心がけ、好機を待ち続ける。
薄れてきていた、目的のために動いているという感覚が前以上に強く蘇っていた。それが焦る気持ちを抑え、一月程度は特に苦ではなかった。
/^o^7\ 「親分が今夜乗るそうだ。香の準備を頼むぞ」
(^ω^ )「……はいですお」
ブーンはつとめて普段どおりを装う。
だがその内では「報われた」という言葉を何度も浮かび上がっている。
/^o^7\ 「それじゃあ、よろしくな」
七号が馬房の扉を閉めて屋敷に戻るまでに掛かるのに必要な時間。それをブーンは数を数えながら試算する。
(^ω^ )「……来たお。とうとう、これが最初の一歩。ここからやっと始まるお」
屋敷の戸を開けている頃合で、そう言いながらニシカワの体を優しく撫でてやる。
心地良さそうに目を細めるニシカワとは対照的に、喜びと恐怖のないまぜになったブーンの表情は硬いものだった。
日が沈みきる少し前、ブーンは馬房の中にある棚で香器と火の準備をしていた。
(^ω^ )「さて、じゃあこれを嗅いでくれお」
ブーンが目印に引かれた線よりかなり少なめに乾燥させた香草を入れると小さな火種を入れる。
それを手に持ち、近づいていくとニシカワは首をグイっと後ろにもっていき拒否するが、ブーンはその分だけ腕を伸ばして許さない。
やがて嫌がりながらも香を吸い込むと、徐々に仰け反る形だった首が前に垂れてくる。
(^ω^ )「ごめんお。これで最後だから我慢してくれお」
ブーンがそう言って撫でても、ニシカワは何も感じていないように微動だにしない。
/^o^7\ 「……そろそろいいか?」
周囲が真っ暗になった頃、松明を片手に七号が馬房へやってきた。
(^ω^ )「はいですお」
/^o^7\ 「おぉ、そうか。じゃあちょっとだけ預かるぞ。帰ってきたらゆっくり休めるように支度をして待っててくれ」
七号はわずかに申し訳なさを感じさせる口調だった。
それが分かったブーンも何も感じていないようにニシカワを引き渡す。
門が大きな音を上げて開かれ、また閉まるのを耳で確かめてからブーンは立ち上がる。
(^ω^ )「さて、いくかお」
ブーンが馬房の屋根裏へと上がっていく。腰には丈夫そうな縄をいくつも垂らし、顔には黒い布を被っている。
目の辺りだけに開けた穴からしっかり外が見える事を確認してからそれを懐に突っ込む。
そして一本の縄を腰から取ると、一番丈夫そうな柱に何重にも巻きつけて硬く結び目を作った。
それから七号と酒を盗んだ時、一緒に頂戴した短刀を手探りで藁の中から探し出す。
それを腰に挿すと、窓を覆う戸をゆっくり開けてゆっくり一つ呼吸をした。
屋敷を囲む塀と馬房の屋根裏は大した距離ではないし、屋根裏の方がわずかに高い位置にある。
それでも地面から離れた場所から見ると、その距離は何倍にも感じる。
(^ω^ )「……おっおっ」
ブーンは柱に結んだ縄を短めに掴むと勢いをつけて飛び出す。
恐怖で顔は引きつり、助走の間は膝に力が入らず転びそうになったがそれでも気力で飛び出した。
長い直線の中で、近くに灯りがほとんど無い場所。裕福な家の少ない、門近くの区画でブーンが額の汗をぬぐう。
(^ω^ )「こんなもんかお」
真っ直ぐな道を横切るように張った縄を指ではじく。縄はほんの僅かに震えるだけですぐに直線に戻る。
(^ω^ )「……これで準備は終わりだお」
ブーンはまた布を被り、闇の中に紛れるように無数にある細い脇道の一つに進んでいった。
それと入れ替わるように、長い直線の入り口へいくつかの人影が差し掛かる。
/^o^7\ 「ちょっと、ちょっとちょっと」
七号が馬を追いかけながら大きな声を上げている。息は切れ切れで、なんとか後ろにつけているという様子だった。
他の数名はもう諦めたように、その後ろを歩いている。
/^o^7\ 「あまり早く走られたら、とてもとても着いていけませんよ」
後ろを見てくれと言う様に、指で後ろを指しながら七号が言う。
馬上の騎士は煩わしそうに右手を七号に向け、待っていろというような仕草だけを見せて馬の腹を強めに蹴った。
外へ出る時に使った縄を手探りで掴むと、一気に塀の上まで駆ける様に上る。
行きの様に飛び移る事が出来ないので、馬房の二階まで戻るのには大分時間が掛かった。
念のため、馬房の門を内側から閉じた事を後悔しながら必死で開けたままの窓を目指す。
それでも七号達が慎重に騎士屋敷まで運ぶのよりはいくらか早かった様で、息を整えるのに十分な時間を置いた辺りで屋敷の門が騒がしくなった。
周囲を警戒し抜き身の刀を持った七号が、開いた左手で騎士を抱える部下に早く入れと合図を出す。
その様子はツダに屋敷を構える家の兵士筆頭のもので、それが普段見せる姿と違う事は夜の暗さの中でもすぐにわかった。
/^o^7\ 「ブーン、開けろ。大事だ」
屋敷の中に騎士を運び込むとすぐに七号がやってきた。
(^ω^ )「……なんですお」
できるだけ自然に、戸をゆっくり開ける。途端に身震いするほどの殺気に当てられた。
/^o^7\ 「すぐに来てくれ。お前くらいしか向こうから寄ってきそうな奴がいない」
元々、細身だった七号が顔色まで真っ白になると、今にも倒れそうな雰囲気がある。だが、それ以上にブーンは恐怖を感じ取っていた。
(^ω^ )「すぐに、行きますお」
ブーンが頭の中で描いていた流れでは、ここで何があったのかを確認するはずだったが、そんな事は頭から跡形もなく消えていた。
急いで灯りを消すと外に飛び出す。屋敷から出るまでに七号が早口で事情を説明していたが、その話に驚くのも忘れて夢中で駆けていた。
/^o^7\ 「おぉ、帰ったか」
ブーンが振り返ると、七号が笑いながら馬房へ入ってくるところだった。
/^o^7\ 「いやぁ、よかった。なんでも別の区画まで行っていたらしくてな。上総区の商人が保護してくれていたらしい。怪我ひとつなく元気なもんだろ」
(^ω^ )「……それは、良かったですお」
/^o^7\ 「お前も一安心だろう。これで屋敷を追い出される心配も無くなるしな」
笑う七号から悪い印象は受けない。
きっと本当に馬房にいるのがニシカワだと思っているのだろう。
ブーンはそう感じると「助かりましたお」と笑って答える。
たしかにニシカワと良く似ている。これまでと同じように連れて歩いても誰も別の馬だとは気づかない。
そもそも、別の馬に変わることがありえないのだから疑いようがない。
そのため、ブーンとの間に微妙な間隔を開けて歩く馬を見ても誰も何も思わなかった。
「しまった」という言葉がはっきりとブーンの頭に浮かんだ。そして、少しの間を空けることなく「殺さなければ」と続く。
右手に握った短刀を突き出すことが出来ないまま、いくらかの時間が流れた。
「あの時と同じ様にしてしまえ」
「いや、あれは死んでいない。殺してはいないはずだ」
そんな問答が脳裏で繰り広げられた。
lw´- _-ノv「やっと見つけた」
シューがブーンの横を通り抜け、ニシカワの前へ進み出す。シューの背が向けられた時に「今だ」と聞こえたが、ブーンの右腕はピクリとも動かなかった。
lw´- _-ノv「何をしようとしてるか知りもしないけれど、普通の事じゃ無い事は分かるわ。馬が居るし」
シューが恐る恐る手を出すと、ニシカワはそれを受け入れるかのように顔を近づけた。
それを見てすっと腕を伸ばして首を撫でてやる。
lw´- _-ノv「この街から出るの?」
シューは背中越しに訊いた。
(^ω^ )「……そのつもりだお」
ブーンはためらったが、じっと見つめるシューに根負けし小さく答えた。
lw´- _-ノv「本当に?」
シューが勢い良く振り返ると、ブーンに詰め寄る。
驚いたブーンは急いで抜き身の短刀が当たらない様に後ろに引く。
(^ω^ )「本当だお」
短刀を腰に戻す。その顔には、はっきりと諦めの表情が浮かび上がっていた。
lw´- _-ノv「この子を連れて、街を出るのは大変でしょう? ただでさえ検閲が厳しいのに」
(^ω^ )「そのあたりは、少し考えているお。……むしろ問題なのは、シューにこの場所にニシカワがいるって知られた事だお」
ブーンがわざとらしく戸の前に立ちふさがるかのように移動する。
lw´- _-ノv「私の頼みを聞いてくれるなら口外しない」
(^ω^ )「おっおっ」
lw´- _-ノv「利害が一致したら、わざわざ不利益になる事は言わないでしょう?」
シューからは恐れの色が少しも感じ取れない。
(^ω^ )「頼みかお?」
lw´- _-ノv「そう、頼み」
ブーンは大げさにため息をついたが、シューはそんな事は気にしていないというように話し出す。
lw´- _-ノv「街から出たいのよ、私」
(^ω^ )「出れば良いお」
lw´- _-ノv「出れないのよ。私は街から出れないようになってるの。お店の主人は出来るだけ街の中でなら不自由しないように計らってくれているけどやっぱり駄目」
理解できないブーンを置いてシューは話し続ける。
lw´- _-ノv「私は街から出たい。自由が欲しい。ここから出れば危険な事も多いでしょうけど、それでも私として生きたい」
一度街には入れたのなら出る事も出来る。それが出来ないという事がどういう訳か、ブーンは訊いても良いのか迷っていた。
lw´- _-ノv「とにかく」
シューがポンと手を叩くとブーンの意識は再び話に向けられた。
lw´- _-ノv「あなたが街から出るときに連れて行って。この子を連れて行くならどうせ真正面から堂々とって訳じゃないんでしょう?」
(^ω^ )「……おっおっ」
返答を催促するようにシューが続ける。
lw´- _-ノv「それだけで秘密が守られるなら安いものでしょう」
第六話 終わり
(・(エ)・) 「よし、通って良いぞ」
門兵がブーン達に中へ進むように手で合図している。
(´∀`) 「通行証が必要なんじゃないのかモナ? そんなもの持ってないモナ」
モナーが訊くと門兵が鼻で笑った。
(・(エ)・) 「騎士さんのお連れだったら、そら特別さ。ほら、とっとと行きな」
ニンジャも三人の方を向いて手招きをしている。
( ^ω^)「本当に、いらないみたいだお」
三人が小走りで門をくぐると、門兵はまた立ちふさがる様に定位置へ戻り門が閉められる。
( ´_ゝ`)「ニンジャさんが見せた通行証には、身分まで書いてあるんですか?」
オトジャが進み出すとすぐに尋ねた。
|/゚U゚| 「ん。いや、通行証なんて持ってないな」
( ´_ゝ`)「でも、何か見せてましたよね。門のところに居た兵士も通行証って言ってましたし」
ブーンとモナーは、これまで訪れたどの町や村よりも整えられた街並みに目を奪われ、すぐに疑問を忘れていた。
しかし、オトジャは周囲の景色よりもどうして街に入れたかに興味を惹かれていた。
せがむ様に見つめてくるオトジャに、ニンジャが少し間を置いてから答えてやる。
|/゚U゚|「これだ」
言いながら門兵にみせた紙を取り出すとそれをオトジャに渡す。
|/゚U゚|「私が騎士になった時に馬と一緒に、王から下賜された身分の証書だ」
オトジャの体がビクリと揺れた。
( ´_ゝ`)「お返しします」
ニンジャは「もういいのか」と言って懐へ戻した。
( ´_ゝ`)「そんな大切なものお預かりできませんよ」
|/゚U゚|「……あまり人目につく場所で出すものでもないしな」
ニンジャはうっすら笑みを浮かべる。
( ´_ゝ`)「でも知りませんでしたよ。騎士は通行証が無くても街に入れるんですね」
|/゚U゚|「まぁな、王が立場を証明したものだからな。色々便利な使い方もできる。新しい街に行く度に、幾日もかけて許可を待っていては商売にならないだろう」
ニンジャのものの考え方が、商人のそれになっている事がオトジャには不思議に感じられた。
街に入ってから一刻近く歩き続けた。前を歩くブーンとモナーが振り向くと、ニンジャたちが追いつくのを待ってから早口で話し出した。
( ^ω^)「目的の店はどの辺りですかお」
(´∀`)「遠いとはきいてたけど、結構奥まで来たモナ」
二人の語気も普段よりいくらか興奮の色を帯びている。
|/゚U゚|「まだまだ、この程度じゃ街の中心へは半分以上あるぞ」
( ^ω^)「……そんなにですかお」
二人は驚いた後、にわかには信じられない事を確認するように、また早足で進みだす。
( ^ω^)「そもそも」
しばらく黙って歩きつづけていたが、唐突にブーンとモナーが振り返り口を開いた。
(´∀`)「どうしてここへ来たモナ?」
( ^ω^)「えっと、ツダだったお?」
|/゚U゚|「まぁ、着けば分かるさ」
ニンジャは、コウダの宿と同じ言葉を繰り返すだけだった。
その口調からは、良い事か悪い事なのかも察する事ができず三人の中で不安は増すばかりだった。
道幅がかなり広くなり、周りの店は徐々に大きいものが増えてきた。
行き交う人々の服装もいくらか質の良さそうなものが良く目に付くようになった辺りで、ニンジャが何かに気づいた様子を見せた後に頭を下げた。
三人が驚いてあたりを見回すと、少し離れた所から小柄な男がこちらを見つめていた。
|/゚U゚|「お久しぶりです」
男の前まで行くと再びニンジャが頭を下げた。
▼・ェ・▼「やぁ、いらっしゃい」
男が出てきた店はかなり大きく、周囲のものとと見比べると軽く倍以上はありそうだった。
店内には色々な商品が並べられ、何屋なのか分からない。これまでに何度か見た、雑貨屋に近いがその品も質もまるで規模が違う。
▼・ェ・▼「疲れたでしょ。何日掛かったのかな? いや、とりあえず上がってよ」
ニンジャがこれまでより浅く頭を下げて中へ進む。
▼・ェ・▼「その子達」
戸惑う三人を見て男が言った。
|/゚U゚|「えぇ」
ニンジャが頷き、後に続くように伝える。男は優しげに笑い手招きをしていた。
▼・ェ・▼「紹介して欲しいけど、まぁ一息ついてからが良いよね。ここ何日間はずっと忙しかったろうしさ」
奥に進むと、外から見るよりもさらに広い印象を受けた。
廊下では壁に掛けられた絵や芸術品が大きな存在感を放ち、前を歩く小柄な男の気配は消えそうなほどに薄い。
▼・ェ・▼「ほとんど貰い物なんだよね」
後ろで忙しく視線を動かす三人に気づくと、男が両手で左右の壁をなぞる様にして話す。
▼・ェ・▼「いや本当に現金だよね。駆け出しの時は誰も相手にしてくれなかったのにさぁ」
歩きながら小さく息を吐いて首をすくめる。イヨウの屋敷を往復するぐらい歩いたところで男が止まった。
▼・ェ・▼「はい、どうぞ」
戸を引き振り返る。
着いた部屋は途中に見たものより少し小さな部屋だった。
全員を中に入れた後に男も続いたが、何かを思い出した様に首だけを廊下側に出して「おうい」と声を上げる。
lw´- _-ノv「はい」
ほとんど音を立てずに現れた若い女は二言三言、言葉を交わすとすぐに来た道を引き返していく。
▼・ェ・▼「あぁ、良いよ良いよ。足は崩しちゃって。僕は君らの上司じゃないんだからさ」
▼・ェ・▼「僕はビイグル。ここで商人をやってるよ」
咳払いを一つしてからビイグルが言った。
▼・ェ・▼「あぁ、そうだ。君達が手伝ってくれてるイヨウは僕の弟なんだ。これも何かの縁だよね」
ビイグルは驚いた様子の三人向けて大げさに笑いかける。口角を上げたその顔はどことなくイヨウに似て見えた。
▼・ェ・▼「至らない弟だけど、どうかよろしく頼むよ」
頭を下げるビイグルに恐縮し、三人はそれよりも深く頭を下にやった。
(´∀`)「イヨウさんの兄弟だったのは驚いたモナ」
▼・ェ・▼「まぁ、昔からあまり似てるって言われなかったからね。驚いたかな」
頷く三人を見て、またビイグルが満足げに笑う。
▼・ェ・▼「うん。じゃあ君達の名前を聞いても良いかな」
|/゚U゚|「数日の間、この街に滞在する」
ビイグルにあてがわれた大きな部屋で、寝支度をしていると不意にニンジャが現れて告げる。
( ´_ゝ`)「急がなくて良いんですか」
手を止めたオトジャにニンジャは小さく畳まれた紙を広げて見せた。
|/゚U゚|「あぁ、我々が出発してすぐに文鳥がビイグル殿宛てに来ていたそうでな。ツダで色々なものを見聞きし、触れて商人として成長して欲しいそうだ」
(´∀`)「商売に関してなら王都以上、この国一のツダで見聞を広げろなんてさすがイヨウさんだモナ」
( ^ω^)「でも、イヨウさんの方は大丈夫なのかお」
( ´_ゝ`)「丁稚さん達もいるから大丈夫ですかね」
|/゚U゚|「あぁ、そうだ。あの丁稚達はイヨウ殿に仕えてるわけじゃないぞ。イヨウ殿が主人に助力を求めたために僅かな間だけイヨウ家に来てくれている」
ニンジャは言い忘れていた事を軽い口調で補足した。
( ^ω^)「じゃあ、まずいですお。早く帰るお」
ブーンがニンジャに詰め寄った。
|/゚U゚|「問題ないだろう」
ニンジャが間を置かずに言う。
( ^ω^)「どうしてですお」
ブーンは食い下がらず、語気もいくらか強くなっていく。
|/゚U゚|「丁稚達の主人はイヨウ家の事情を良く理解してくれている」
|/゚U゚|「ビイグル殿だ」
それでも納得いかないと、ブーンが口を開くとニンジャが短く言い放つ。
今度は少し考える様子を見せた後に続けた。
|/゚U゚|「屋敷に居る丁稚はビイグル殿が各地に出している店の中で、屋敷に近い場所を選んで寄越してもらっている。そういう意味じゃ直接の主従とは違うかもしれないな」
(´∀`)「そんなすごい人なのかモナ」
これまで黙ってブーンとニジャの様子を見ていたモナーは乾いた笑い声を上げていた。
|/゚U゚|「商家に属さない、商人としては五指には間違いなく入る人だからな」
|/゚U゚|「私はイヨウ殿へ近況の報告や、ビイグル殿との商談がある」
ブーンとモナーがが唸りながら身を起こすと、あいさつ代わりにニンジャが言った。
寝付くのが遅れた二人が布団を出ると、ニンジャが着替えを終え屋敷に向けるのであろう手紙を書き始めていた。
|/゚U゚|「お前たちは街を回ってくる良い。ここは商いを学ぶには絶好の場所だからな、くれぐれもおかしなものを掴まされない様に気をつけてこい」
( ´_ゝ`)「さぁ、早く着替えて下さいよ。もうほとんど食事の支度が終わってましたから」
急かすオトジャの声はいつもより少し高い。早く街を見て回りたいという気持ちが抑えきれていないようだった。
三人が支度を終えるとニンジャを先頭にして朝食の用意された部屋へ移る。
▼・ェ・▼「おはよう。さぁ、すぐに支度ができるからね。適当に座ってよ」
並ぶ食事はイヨウの屋敷で出てきたものと大差の無い、豪商といわれる家で出されるものにしては質素であった。
ビイグルの前に並ぶものも他と差がない事からすると、あまり贅沢を良しとしない家のようだった。
▼・ェ・▼「そういえば、君たちは街を見て回るんだよね」
( ´_ゝ`)「はい、後学のために色々見て回りたいと思ってます」
オトジャがほとんど間を置かずに答えると、ビイグルは優しく笑う。
▼・ェ・▼「うん、この街はきっと勉強になるね。……だけど気をつけてね」
細くした目を大きく開き、ビイグルが声をひそめてゆっくり語り出す。
▼・ェ・▼「日が沈む少し前に大きな鐘が九つ鳴る。全部が鳴り終わる前に必ず屋敷に戻ってこれる様にして。これは絶対ね」
( ^ω^)「……わかりましたお」
首をかしげながら答える。
(´∀`)「でもどうしてモナ」
答えようとしたニンジャを片手で制止し、ビイグルが口を開いた。
▼・ェ・▼「君達は一番近くの下総門から来たんだよね」
|/゚U゚|「……そうです」
三人が顔を見合せて首をかしげている様子を見てニンジャが答えた。
▼・ェ・▼「ツダはね、三つの区画に分かれているんだ」
ビイグルが空中に指で円を描くと、それを三等分に切っていく。
▼・ェ・▼「ここは三つの国の旧国境が交わる上に造られた街でさ、そのせいなのか総でも一番民族意識が色濃く残ってるところなんだよ。そりゃあ、なんかあったらすぐ揉めて大変だったらしいんだ」
▼・ェ・▼「まぁ、戦でやりあった相手と急に同じ国の民になるって言われてもそう簡単にはいかないんだろうけどさ」
▼・ェ・▼「その辺話すと長くなっちゃうから簡単に言うと、とにかくツダの住人は他民族と最高に仲が悪い」
( ´_ゝ`)「はぁ」
▼・ェ・▼「だから、もともとは一つの大きな街だったツダを三つに区切っちゃったってわけ」
ビイグルの指が前に描いた円を何度もなぞる。
▼・ェ・▼「それぞれに安房、下総、上総の民が分かれて住んでいる。自分の出自と違う区画に住んでいる人を知らないね、少なくとも僕は」
▼・ェ・▼「で、夜になると別の区画と出入りできなくなる。鉄の格子が降ろされちゃうからね」
( ^ω^)「……どうしてですお」
▼・ェ・▼「治安のためかな、一応は戦争も終わって一つの国になったからね。表だって事を起こすのは難しいから、よからぬ事をするには夜が良さそうだし」
首をかしげるブーンにビイグルが「うーん」と考えてから付け加える。
▼・ェ・▼「ほら、事が公になったら他の二つに攻められる理由を与えちゃうでしょ。一方的にやられたら堪らないだろうからさ」
(´∀`)「鉄格子が降りるのを知らせるのが鐘の音なのかモナ」
モナーが合点がいったようで深く頷く。
▼・ェ・▼「そうそう、そういう事。ただ、一つ目の鐘が聞こえたところですぐに屋敷に向かっても、一番離れた所からだとギリギリだからくれぐれも気をつけてね」
( ^ω^)「はいですお」
( ´_ゝ`)「九つ目の時点で下総の区画にいれば良いんですよね」
▼・ェ・▼「うーん。あまり良くないかな。もしそうなったらすぐ近くの家なり店に飛び込んで、鐘が鳴ったから泊めてくれって言ったほうがいいなぁ」
▼・ェ・▼「ツダはね。いや、今は王都もなんだけど、夜の外出が禁止されてるんだよ」
▼・ェ・▼「そんなわけだから、時間だけはくれぐれも気をつけてね」
( ^ω^)「了解ですお」
▼・ェ・▼「明日は誰かを付けられるように手配しておくから、今日はとりあえず観光をしてくると良いよ」
( ´_ゝ`)「ありがとうございます」
▼・ェ・▼「おや、随分早かったね」
商品を持ち込だ男と商談中だったのか、ビイグルは難しい顔をして男と見慣れない道具を交互に見比べていた。
( ´_ゝ`)「……えぇ」
オトジャが軽く頭を下げると商人風の男はより深く頭を下げた。
(´∀`)「あわやボコボコにされるところだたモナ」
▼・ェ・▼「……あぁー、答えちゃったのか」
(´∀`)「鐘の音がどうのって気にするまでもなく帰らざるを得なかったモナ」
ビイグルは少し笑っていた。
(´∀`)「笑い事じゃないモナ」
( ^ω^)「これはもう、外で歩けないかもしれないお」
▼・ェ・▼「大丈夫だよ。この街の商人なんて一日に何人もの人と会うんだ。一人や二人変な人がいても明日には忘れてるからさ」
▼・ェ・▼「さすがに今日はもう外に出ないほうが良いだろうけどね。明日は一人付けてあげるから、この街がどんなところか良く見ておいてよ」
▼・ェ・▼「僕はもうここで暮らして随分になるからさ、余所じゃ普通じゃないことも当たり前だと思っちゃってたみたいだ」
ビイグルが頭をかいてすまなそうに笑う。
商人風の男は所在無げに話が終わるのを待っていた。
lw´- _-ノv「シューです」
一昨日に見た女だった。それだけ言うと、すぐに歩きだす。
腰の少し上まで伸びた髪や白い肌が下働きの女には不似合いだが、シューには良く似合っていた。
( ´_ゝ`)「シューさんはここで働いて長いんですか?」
ビイグルの「いってらっしゃい」という言葉を背に受け、屋敷を出るとすぐにオトジャが言う。
このまま何も言いださなければいつまででも、この気まずい無言が続くと感じていた。それを回避するための勇気の一言だった。
lw´- _-ノv「四年になります」
(´∀`)「シューさんは何歳なんだモナ」
lw´- _-ノv「十五歳です」
( ^ω^)「ブーンとモナーと同じだお」
( ´_ゝ`)「私も十五歳ですよ」
(´∀`)「そういえばオトジャの歳を知らなかったモナ」
( ´_ゝ`)「聞かれませんでしたしね」
( ^ω^)「あれ、じゃあシューさんは十一歳からビイグルさんのところで働いてるのかお」
lw´- _-ノv「えぇ」
( ´_ゝ`)「十一歳で丁稚といったら相当優秀ですよね。雑用ならともかく、商いの手伝いなんて読み書きできないととても務まらないんでしょう?」
lw´- _-ノv「えぇ」
話はすぐに尽き、また沈黙に包まれる。
シューに付いて行く三人は今日一日が不安でたまらない。何か話さなければと思いながらも、糸口が掴めずただ静かに街中を歩いていく。
lw´- _-ノv「昨日はすぐに屋敷に帰ったんですか?」
シューの声が耳に届くと、三人は下を向いていた顔をすぐに前に向けた。その表情は一気に明るいものへ変わる。
( ´_ゝ`)「えぇ、少し歩いて目に付いた店に入ったらすぐに」
(´∀`)「どこの民だっていうから、答えただけだモナ」
二人は感情をこめて早口で言う。
lw´- _-ノv「下総以外って?」
( ^ω^)「そうだお。そしたらあんたらに売れる物は一つもないって」
( ´_ゝ`)「周りにも殺気立った人が集まってきて驚きました」
lw´- _-ノv「これまであなたたちはとても恵まれた所で暮らしていたみたいですね」
(´∀`)「うーん、実感がないモナ」
lw´- _-ノv「毎日別の民族との争いがどこかで起こるような事はなかったでしょう?」
( ^ω^)「たしかに。ブーン達の村は旧国境近くだったから色んな民族の人が暮らしてたお」
(´∀`)「あぁ、だからモナ達の村では誰がどこの民族かなんてのは気にしてなかったモナ」
これまで感情の乏しかったシューの表情が驚きの色を帯びた。
( ^ω^)「小さな村だからかもしれないお。人がたくさんいればきっと色んな問題も出てくるお」
(´∀`)「たしかにモナ」
二人の育った環境がどれほどこの街と掛け離れているのか、シューは伝える苦労にため息をつく。
lw´- _-ノv「しばらくここで生活するのなら、まずは商いに関する事よりもその辺りを知ってもらいましょうか」
シューは街の外周へ向かっていた一行を止めると、中心部へ向かうと告げて歩き出した。
lw´- _-ノv「まず、ツダはとにかく民族間の対立が大変激しいです。その原因は反乱を恐れた何代か前の王が、街を作る際に民族毎に住む場所を明確に分けた事に由来しているといわれています」
何か問題でも起こす前にとにかく、最低限のことだけは教えておこう。そんな考えからシューの歩きながらの講義が始まった。
lw´- _-ノv「先代王がそんな法は国のためにならないと自由に住む場所を選んで良いと取り決めましたが、今になっても別の区画に住む人は殆どいません」
三人が頷くのを確認して、シューが続ける。
lw´- _-ノv「さらに各区画が独立した街の様に機能していて、それぞれの区画に領主が存在します」
(´∀`)「一つの街なのに領主が一人じゃないモナ?」
シューが「えぇ」と言って続ける。
lw´- _-ノv「ここ下総の区画を治めているのが公家二位で安房が武家四位、上総は商家二位です」
( ^ω^)「……騎士団も別々なんだお」
lw´- _-ノv「えぇ、そこがまたこの街を政治的に複雑にしているところです」
lw´- _-ノv「街を作る際の取り決めで各区画を三家で分けるとしたそうです。王都に次ぐこの街が他家の物になるのは大きな痛手ですから、そうなる位ならば均等に分けてしまおうと考えたんでしょう」
フッと空気を体に取り込む。それから少し辺りを見回し、誰もいない事を確認する。
lw´- _-ノv「そのせいで区画間には民族だけでなく騎士団の問題まであるんです」
シューの話は周囲に人がいると必ず止んだ。そして少しだけ歩く速度を上げて、また人気が無くなると再開する。
lw´- _-ノv「あなた達だけなら、兵士だとは分からないからまだ良いです」
三人は旅のために動きやすい格好をしており、この街では良く見る丁稚に近い。
彼らもまた忙しく店や街を駆け回るので、何よりもまず動きやすさを大事にし次に客に対して失礼にならない程度の清潔さが続いた。
lw´- _-ノv「……もし鎧を着たりした時は極力自分達の所属は言わない方が無難でしょう」
( ^ω^)「たしか、この区画の領主は公家だったかお」
lw´- _-ノv「えぇ、まぁ公家は商家とさほど仲が悪いというわけでもないのでまだ良いでしょうけど」
シューが言葉を濁して足だけを進める。
(´∀`)「……武家とは仲が悪いモナ?」
lw´- _-ノv「えぇ」
シューは「ニンジャと一緒の時は気をつけろ」と、言いたかったのだろうが言葉にはしなかった。
三人も聞こえたわけではないが頷いてみせた。
それからしばらく、常に誰かしら人の居る通りが続く。幅の広さときれいに整えられた路面から主要な道である事が伺えた。
lw´- _-ノv「ここ」
不意にシューが大きな屋敷の前で止まった。
だが、目の前にあるのは門ではなく大きな塀だった。
( ´_ゝ`)「ここですか?」
シューは何も言わずに地面を見つめて何かを探すようなそぶりを見せる。
( ´_ゝ`)「門はまだ随分先のようですけど」
lw´- _-ノv「門からなんてとても入れないわ、門からじゃなくても入れないけど」
三人は理解ができないといった様子で、膝に手を当て地面を睨むシューを見守った。
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
lw´- _-ノv「よいしょ」
シューは手のひらに隠れる大きさの石を掴むと、もう一度辺りを確認してから屋敷の中へ放り投げる。
( ´_ゝ`)「えっ」
山なりの軌道を描いて塀を越えていく。石は敷地内の大きな建物に当たり小さな音を上げた。
呆気にとられたオトジャの口からは間の抜けた声が漏れていた。
( ´_ゝ`)「何をしているんですか」
思い出したようにオトジャがシューに詰め寄った。その表情からはいつもの冷静さが完全に消えている。
( ´_ゝ`)「公家の屋敷に石なんて投げたら……、国の権威を自称する彼らの矜持を傷つければ、すぐ首をはねられますよ」
普段のオトジャとは掛け離れた荒い語気だった。
( ´_ゝ`)「彼らの安い矜持は屋敷に石を投げ入れただけでも傷がつく。……すぐに、ここから離れましょう」
シューの背を押すように手を回すと、後ろの二人に怒鳴るように言う。
( ^ω^)「……わかったお」
ブーンとモナーは、屋敷に石を投げ入れた事よりもオトジャの変わり様に驚いていた。
だが、きっとその言葉には従うべきなのだと感じて脚に力を込める。
lw´- _-ノv「……その必要は無いです」
シューはグッと脚を固定しオトジャの腕に抵抗した。
lw´- _-ノv「ここは知り合いが詰めている場所なので、……大丈夫」
( ^ω^)「そうなのかお」
lw´- _-ノv「えぇ、だから戻りましょう」
(´∀`)「いや、あせったモナ。いきなり首をはねられるとか言うもんだから」
( ^ω^)「ブーンも必死だったお」
二人はホッとしたのか普段よりも柔らかい表情で頭をかいたり深呼吸をしていた。
それを見つめるオトジャの顔はまだ硬いままで、警戒を解く気配はない。
(^ω^ )「何をしているおっ」
突如、怒声と共に地面が揺れるような感覚が全員を襲う。
(^ω^ )「その手を離せお」
どこから現れたのか、それすら理解できないオトジャに男は短刀を突きつける。
( ´_ゝ`)「ちょっと待ってくださいよ」
説明をしようとしたのか、あるいは説明を求めようとしたのか。
しかし、男はオトジャが口を開く事を許さず短刀を首筋にぴたりと沿わせる。
オトジャはゆっくりシューの背中に当てていた手を引く。
(^ω^ )「下がれお。それから手を頭の後ろに、三人ともだお」
隙をうかがっていたブーンとモナーも大人しく指示に従う。
(^ω^ )「はやく、こっちに来るんだお」
男はシューの手を奪うように掴むと三人に対峙する形で距離を置く。
(^ω^ )「……騎士さんは今日は屋敷に居ないから隙を見て駆け込むんだお。そしたら大声で七号さんを」
前を向いたまま男がシューに語りかけていたが、途中で呻きながら体制を崩し地面に手を突いた。
lw´- _-ノv「ごめんなさい。悪い人じゃないんだけど、抜けたところが色々あって」
男が三人を睨み付けジリジリと後ろに下がっている時、シューはその膝裏を思い切り蹴飛ばしていた。
そして倒れこんだ男の持つ短剣を踏みつける。
lw´- _-ノv「この人達はお客さんよ」
男はその言葉が耳に入らないようで、まだ立ち上がれずに手で足をさすっている。
立ち上がるにはしばらくの時間が掛かった。
その間、シューが話しかけていたが声を絞っていたので三人には聞こえない。
ただ、その顔からは安堵の色が伺えた。
(^ω^ )「……おっおっ」
男が屋敷の塀に手を当てて立ち上がると恥ずかしそうに笑いながらオトジャの方へ寄って行く。
(^ω^ )「その……、なにやら勘違いしていた様で、申し訳ないお」
( ´_ゝ`)「いえ、確かにあそこだけ見れば悪漢に見えるかもしれません。まぁ、怪我もなかったので気にしないでください」
オトジャは額に浮かんだままの脂汗を袖でぬぐう。
(^ω^ )「そう言ってもらえると助かるお」
男は頭を掻きながらはにかんだ笑顔を見せた。少し前までの殺気に満ちた表情とは似つかない。
あまりの変わり様に強烈な不自然さを感じたが、すぐにそれを忘れさせるほど柔和な雰囲気を持っていた。
( ´_ゝ`)「オトジャといいます」
(´∀`)「モナーだモナ」
誰が言い出した分けではないがそれぞれが名乗る。
( ^ω^)「ブーンですお」
(^ω^ )「ブーンですお」
四人が聞き間違いでもしたかという様子で、ほぼ同時に名乗った二人を見た。
シューは誰にも見えない様に何かを思い出した顔をした後、四人の様子を改めて観察する。
lw´- _-ノv「不思議な事ってあるのね」
二人が「同じ名前だ」と言い合っている間にシューが立つ。
lw´- _-ノv「同じ名前な上に顔まで似ている人がいて、それがこうして出会うなんて」
お互いに名乗りあった時と同じ顔で二人のブーンがまた顔を見合わせる。
( ´_ゝ`)「……そう言われれば確かに」
(´∀`)「……そっくりだモナ」
オトジャとモナーは二人のすぐ傍まで来ると視線を何度も往復させる。
たしかに二人の顔は兄弟といわれても信じられる程に似ていた。
ただ、突然現れたブーンの方が一回り体が大きく、体つきもしっかりしていた見分けが付かない事は無い。
それでも十分、珍しい事に違いはないので一同はしばらくその場で二人の顔の見比べては違いを探していた。
( ^ω^)「おっおっ」
(^ω^ )「おっおっ」
lw´- _-ノv「でも不便よね。顔はともかく、名前がまるきり同じってなると。……姓はある?」
( ^ω^)「あるわけ無いお。ブーンはただの兵士見習いで、農民の出だお」
(^ω^ )「一介の馬房守が持っているはずないお」
lw´- _-ノv「そうよね」
>370,371
毎度ありがとうございます。
記憶喪失とかにした方が素敵な事になった気がしてきました(;´Д`)
lw´- _-ノv「なら、あだ名でいいんじゃないかしら。一つくらいあると助かるんだけど」
( ^ω^)「ないお」
(^ω^ )「ないお」
ブーン達が即答すると、シューは三人には分からない程度に不満な顔を見せる。
それからすぐに顎に手を当て黙り込む。僅かな時間そうしていると、思いついたように「あぁ」と言い男を指す。
lw´- _-ノv「ニシカワね」
(^ω^ )「え、いや。ちょっと待つお」
シューが半歩、男の方へより小さな声で話し出す。
lw´- _-ノv「良いじゃない、ニシカワの名前知っているのってほとんどいないでしょう」
(^ω^ )「それはまぁ、馬房守が勝手に馬に名前付けたなんて知れたら大変だお」
lw´- _-ノv「なら問題ないわね」
二人が小声でやり取りをしている間、向かい側でも別のやり取りが行われている。
(´∀`)「あだ名なんてなかったモナ。ブーンはブーンって呼ばれてたモナ」
ブーンは何も思いつかなかったので、モナーに聞いてみたが答えは同じだった。
オトジャにも何かあだ名を付けてくれと言ったが困るだけで答えは出ない。
ブーンは忙しく頭を左右に傾け、小さく唸りながら再び過去の記憶を遡っていく。
( ^ω^)「ナイトウ」
ブーンが空中を見つめたまま言った。
( ^ω^)「ナイトウで良いお。そういえばブーンは村でそう言われていたお」
(´∀`)「……ブーン」
ブーンはモナーにだけ見えるように少し笑って見せた。
lw´- _-ノv「なら、とりあえずの呼び名はそれで良いかしら」
ニシカワとナイトウが頷く。
lw´- _-ノv「それじゃあ、色付きを着て来てちょうだい」
シューは二人が納得したのを確認すると一つ息を吸って言う。
(^ω^ )「え、いやだお」
lw´- _-ノv「良いから」
ニシカワは何か言おうとしたが諦めた様に開いた口を閉じると屋敷へ戻っていった。
その後姿からは、少し前に突如現れ短剣を振り回していた男は消えている。
(´∀`)「……シューさんはニシカワには結構言うモナ」
( ^ω^)「ちょっと怖いお」
しばらくして、屋敷へ戻ったがニシカワが再び姿を見せると恥ずかしそうな様子で近づいてきた。
(´∀`)「おぉ」
( ´_ゝ`)「正装ですか」
向かってくるニシカワは上等な鎧を身に付けていた。しかし、表情はさっきよりもずっと浮かない。
(^ω^ )「一目でばれるから嫌だお」
左胸をトンと手のひらで叩く。
そこには白地の鎧に一際目立つ赤で紋があった。
lw´- _-ノv「こっちへ」
三人が良く分からないと表情を浮かべるのとほとんど同時にシューが言うと歩き出す。
(´∀`)「あぁ、なるほどだモナ」
シューが向かった先は屋敷の出入り口である巨大な門の前だった。
開かれたままの門には半円が描かれている。両方をつなげると綺麗な円になり、中の模様はニシカワの左胸のものと一致する。
lw´- _-ノv「鎧の色は白、つまり公家。胸の門はここ、二位の騎士。公家の二位の騎士に仕えているって事がこの姿を見るだけですぐに分かるわ」
シューがニシカワを指で指す。
(^ω^ )「あぁ、ほらもう。明らかに警戒されてるお」
上総から下総の区画へ移動してすぐにニシカワが肩を落として言う。
シューが急に他の区画へ行こうと言い出した。ニシカワはかなり嫌がったが結局押し切られ、先頭を歩かされている。
(´∀`)「たしかに、門を越えた辺りから妙な雰囲気だモナ」
周囲は平静を装ってはいるが、時々ちらりと一行に向けられる視線には明らかに否定的な感情がこめられていた。
そんな中をニシカワはしっかりと前を向き、瞳を忙しそう動かして進む。その様子は一行を警戒させ、それがまた周囲を刺激していく様に向けられる目の数が増えていく。
少し前まで気の良い若者という印象だったニシカワが今ではすっかり兵士になっていた。
lw´- _-ノv「さっきも言ったとおり、鎧を見ればすぐに素性が分かってしまうの。だからどこかの兵士が他の区画に行く時なんかはまず着ない」
ニシカワが何か言いたげに口を開いたが諦めた様に閉じる。
一行の進路から人が消え、周囲ではヒソヒソと何かを話している声が聞こえてくる。耳に入らなくとも、その内容があまり良いものではない事は彼らの表情からすぐに分かった。
そしてそれは奥に行くほど顕著になり丁度区画の中央のあたりではすでに、聞き耳を立てる必要の無いくらいの大きさになっていた。
( ^ω^)「ブーン達って何か悪いことしているのかお」
( ´_ゝ`)「いえ、多分問題ないと思います」
( ^ω^)「でもさっきからものすごい罵声が飛んできているお」
lw´- _-ノv「何も悪い事はしていないわ。ただ、これがここの、ツダの普通なの」
シューは向かいから来る商人風の男とすれ違うのを待ってから続ける。
lw´- _-ノv「まだまだ民族間の溝は深い。他の場所じゃここまで表に出てくる事はそうないでしょうけど、特殊な経緯の、ここだとすぐに表に出て来てしまうわ」
lw´- _-ノv「門から遠いほど、中心から離れるほど、排他的になるわ」
かなりの時間歩き続け、一行は門に入ってすぐのころとは比べ物にならない程殺気立った雰囲気にさらされていた。
その中でシューは、まだひどくなるから覚悟しておく様にと告げていた。
だが、ナイトウはすぐに何か別の事を思いついたように後ろに振返り早口で話し出す。
( ^ω^)「じゃあ、ビイグルさんはものすごい他の民族が嫌いなのかお」
lw´- _-ノv「その辺りはあまり簡単じゃないんだけど。ある程度立場なんかのある人なんかはあまりそういった感情は表に見せない事が多いわ」
( ´_ゝ`)「やはり、あれだけの規模のお店があるなら立場もありますしね」
lw´- _-ノv「まぁ、あの人はあまりどこの民族ってのは気にしていないみたいだから。大してその辺は考えてないと思うわ」
シューが言い終わるかどうかのところでニシカワが立ち止まった。
(^ω^ )「武家の屋敷だお」
lw´- _-ノv「じゃあ少し遠回りして門に沿って進みましょうか。面倒な事にならない様にね」
(^ω^ )「そうした方が良いと思うお。騎士さんはともかく七号さんに迷惑は掛けたくないお。ビイグルさんにも」
シューが頷き三人に「もう少し危険になるけど気をつけて」とだけ伝える。
それから大きな手ぬぐいを取り出した。手ぬぐいとしては不自然な真っ黒に染められたもので生地もかなり丈夫そうなものだった。
lw´- _-ノv「はい」
(^ω^ )「おっおっ」
ニシカワがそれを受け取ると人気の無い路地に消えていく。
(´∀`)「どこに行ったモナ」
lw´- _-ノv「すぐに戻るわ」
シューが短く答える。三人は不安そうな面持ちだったがシューは言葉を付け足す事も無くただ待っていた。
言葉通りにすぐに戻ったニシカワは大きな荷物を抱えていた。その姿は公家屋敷の前で出会ったときに戻り、色付きはなくなっていた。
lw´- _-ノv「中心部で門側で色付きはさすがに危ないから、担いででも隠していた方が良いわ」
真っ黒な手ぬぐいは色付きと同じくらいの大きさに膨れ上がっていた。
一行が門のすぐ傍まで来たところで、再び安房の区画へ向けて進路を取る。
周囲の視線からすでに敵意は消え、ニシカワの抱える大きな包みに対する好奇のものだけになっていた。
(´∀`)「こうして見ると、上総も下総も変わらないモナ」
( ^ω^)「たしかに、フタワの人達とも同じだお」
( ´_ゝ`)「どこの場所も民は皆しっかり仕事をしているんですね」
張り詰めていた緊張が解けると、ようやく周囲を観察する余裕が出てきたのか三人は思った事を話し合っている。
普段と変わらない、そんな雰囲気にようやく戻ってきたところでまたニシカワが足を止めた。
lw´- _-ノv「どうしたの」
ニシカワはシューに問いかけられても黙って前を睨み付けていた。
/^o^女\「こいつだ、こいつが盗んだんだ。私じゃないよ」
商人風の男に腕を捻り上げられた女が必死に叫んでいる。
女は街でよく見る造りの服を着ていたが、随分痛んでみすぼらしい。
髪を振り乱し、喉が裂けそうなほどに声を張って自分の無実を訴えている。
しかし、男はそんな言葉に耳を貸さずに女を店まで連れて行こうとしていた。
/^o^女\「本当だよ。だって、そいつは上総の民じゃない。私ら上総の者を苦しめてやろうって考えているんだから」
男の足が止まった。
/^o^男\「本当か」
/^o^女\「あぁ、本当だとも。しっかり見たよ。昨日こいつが別の区画から入ってくるのをね」
男が迷ったように女と、指差された先に居る者を交互に見る。
/^o^男\「それだけじゃ、分からんな。別の区画に行っていて、上総へ戻ってきたのかもしれん」
男が後から追いかけてきた小姓に女を預け、力なく座っている者へ近づいていく。
/^o^男\「おい、あんたは上総の民か」
声を掛けられても返事は無い。男がイライラしながら何度も同じ事を問うと、何度目かにゆっくりと首を横に振って答えた。
/^o^男\「決まりだな」
座っている男とも女とも分からない者の腕を掴む。
小姓に捕まっていた女はすぐに解放され、今では周囲の人垣に混じって笑っている。
(*゚ー゚)「……私は、盗みなんてしません。嘘だって、ついたりしません」
捕まった者が乱暴に腕を引かれて行き、一行の横を通る時に擦れる声で訴えてる。
だが、周囲からはそんな声を掻き消すほどの罵詈雑言が飛び交っている。
lw´- _-ノv「門の近くは排他的なだけじゃない。社会的な弱者が多く居るわ。だから常に腹の中には怒りがあってそれをどこかにぶつけたがっている」
軽蔑するようにシューが辺りを見回す。
lw´- _-ノv「八つ当たりだって構わないの。誰か、自分達より弱い者を見つけると攻撃する。そんな事で今の生活を耐えている人達よ」
「追い出せ」や「帰れ」と言った声がしばらく続いた後、一行を戦慄させる言葉が周囲から上がる。
/^o^女\「殺せ」
一瞬、周囲に静けさが戻った。だが、すぐにその声に呼応し周囲からは「殺せ」という声が続き、どんどん大きく膨れ上がっていく。
商人風の男が困った様にため息をつくと、辺りで一番道幅のある場所へ行き、そこで突き飛ばすように手を話す。
瞬く間にそこには人の輪が作られ、その中心へ向けて大勢が「殺せ」と唱え続ける。
( ^ω^)「なんだか大変だな事になってるお」
(´∀`)「このままじゃあいつ殺されちまうモナ」
( ´_ゝ`)「あの様子じゃ盗みなんて出来ない事くらいすぐに分かるでしょうに」
三人がほんの少しの間黙る。
( ^ω^)「どうするお」
(´∀`)「やるしかないモナ」
( ´_ゝ`)「見殺しにするわけには行きませんよね。もしそんな事をしたらきっとイヨウさんとニンジャさんは怒りますよ」
( ^ω^)「武器は無いけど、とにかくあの人を連れて逃げ出せば良いんだお。きっと何とかなるお」
努めて明るく、答えなど決まっている様に会話をする。
三人の手足は明らかに震えていたが拳を握り、地面を強く踏みしめなんとか真っ直ぐ立ち続けている。
部外者の自分達がここで騒ぎを起こせばどうなるのか、手を出したせいで自分達が変わりに殺されるのではないかという事には触れないようにしていた。
( ^ω^)「……良し。行くお」
lw´- _-ノv「待って」
シューが三人が走り出す直前に声を掛けると、背中を押して店と店の間の隙間へ押し込める。
lw´- _-ノv「これを付けなさい。あなた達は街を出れば良いけど、もしかしたらビイグルさんに迷惑が掛かるかも知れないんだから」
そう言ってシューが差し出したのは綺麗に染められた手ぬぐいだった。
( ^ω^)「こんな感じかお」
(´∀`)「あぁ、十分だモナ。オトジャもちゃんと隠せてるモナ」
( ´_ゝ`)「それじゃあ……、いきましょうか」
三人の会話はいつもより大分早口だった。
ナイトウは緑、モナーは黄、オトジャは白の手ぬぐいをそれぞれ顔に巻きつけ、目以外はすべて覆う。
lw´- _-ノv「顔は……、大丈夫そうね。無理だと思ったらだったらすぐに逃げてね。捕まって顔が知られるたらまずいわ」
シューは余った紫と桃に染められた手ぬぐいをしまう。
lw´- _-ノv「あなた達は良い事をしても悪い事をしても、自分だけでは終わらない。仕えている騎士さんに必ず影響があるわ。政治的に弱い立場だったなら、下手を踏めばすぐに周りに潰される。領地や札を奪う機会を狙わない騎士なんていないもの」
ゆっくりと三人は頷き、人垣に向かって一気に走り出す。
すでに中心ではニシカワが何人も相手に暴れていた。
足元で倒れこんだ者に誰も近づけないように、四方を睨みながら襲い掛かってきた者から殴り飛ばす。
辺りを囲む町人達よりもニシカワの背丈は頭二つ分は抜け、体格は少なく見積もっても一回りは違った。
周囲にできた輪は拳で一人、二人と削られていく。あるものはしばらく呻いてから這う様に逃げ出し、またあるものは立ち上がる事なく倒れている。
返り血か、ニシカワの血か、赤く染まった体に真っ赤な手ぬぐいで隠された顔はまさに鬼だった。
/^o^男\「殺せ、そいつもきっとよそ者だ。上総の敵だ」
苦しそうに叫んだのは、騒ぎの中心にいた商人風の男だった。
/^o^男\「使え。これであいつを[ピーーー]んだ」
いつの間にか輪の外に居た男は、小姓が抱えている木製の農具を地面にぶちまける。口からは血が流れ、歯は欠けた痛々しい姿だった。
/^o^男\「金はいらん。いや、それだけじゃない。そいつを殺した奴はうちで雇ってやっても良い」
ニシカワの真っ赤な姿で薄れ始めた周囲の殺意が再び燃え上がる。
ニシカワを囲む人垣の厚みは半分程度になり、外側に居た町人達は農具を取ろうと駆け出していた。
それよりもいくらか早く、モナーとオトジャは農具に群がる町人達の前に回り込む。
二人の足元に、ニシカワを殺せと言った商人はすでに倒れている。
(´∀`)「一気に来たモナ」
( ´_ゝ`)「できるだけ余計な怪我はさせない様にしましょう。あんまり大事になるとうまくないですし」
(´∀`)「確かにモナ。でも何より優先は、モナ達が無事に逃げ出すことだモナ」
( ´_ゝ`)「えぇ、捕まったら最悪殺されますね」
(´∀`)「恐ろしいモナ」
モナーは冗談の様な口調で言うと肩をすくめる。
内側に居た町人達は、ニシカワから注意を逸らす事ができずに動けずにいた。
それ程に、ニシカワからは何か、一瞬でも警戒を怠れば殺されそうなものを感じさせていた。
人垣の厚みは大体が二人分。厚いところでもまれに三人が並ぶまでに減ったせいか、誰も迂闊には動き出そうとしない。
( ^ω^)「おおおおおっおっ」
周囲が叫び声を認識するよりも早く、ナイトウが中心に向けて一気に突っ込む。
隙間を縫い、それでも邪魔になった町人はそのまま吹き飛ばすように押し通った。
ニシカワに全神経を集中させていた町人は後のナイトウに気づかないまま、簡単に吹き飛んだ。
( ^ω^)「遅れたお」
ニシカワの隣にナイトウが並び立つ。
(^ω^ )「……帰らなかったのかお」
その言葉にナイトウは手ぬぐい越しでも分かるように笑って返した。
( ^ω^)「大丈夫かお」
(*゚ー゚)「……えぇ。私は大丈夫です。でもあなた達までこんな事に」
女だった。ナイトウはそう思ったが口には出さない。
女の格好は男女の違いが分かるようなものではなかったので、それを口にする事は、はばかられた。
( ^ω^)「気にしないで良いお。好きでやった事だし、無事に逃げてみせるお」
(^ω^ )「とにかく、早いところ逃げ出すお。長引いて良い事は一つもないお」
( ^ω^)「おっおっ」
ナイトウとニシカワは女を間に挟むようにして陣取る。
(^ω^ )「……一気に突っ切るお」
ニシカワが飛び込んできた一人を跳ね返しながら叫ぶ。
(^ω^ )「さぁ」
地面に伏している女に手を差し出すとをゆっくり起こし、そのまま苦も無く小脇に抱える。
(^ω^ )「舌を噛まない様に気をつけるお」
女は驚いた様子だったがすぐに大人しくする。
( ^ω^)「よし、行くお」
ナイトウが両腕で体を守りながら突っ込む。何人かが拳が振り下ろすが、当たるよりも先に払いのけ、その殆どは反対の腕で殴りつけ地面に叩きつけた。
打ち漏らした数人はすぐ後から来るニシカワが自由な右腕でなぎ払う。
( ^ω^)「退散するお」
人垣を抜けるとナイトウが叫ぶ。
(´∀`)「やっとかモナ」
( ´_ゝ`)「ほら、さっさと行きましょう」
オトジャに促されてモナーが手に持った農具を出来るだけ遠くへ投げ捨てた。
二人がニシカワの後ろへ付くと、後は黙って来た道を戻っていく。
後ろから追いかけてくる町人達はすぐに振り切る事が出来たが、一行は止まる事無く門まで向かった。
第七話 終わり
(`・ω・´)「右家十位の選定は喪の明ける三年後とする」
部屋の四隅と戸の前に居る兵は合わせて六人。そこまで王の声は届かなかったが、近くに腰を下ろす騎士四人の様子から只ならぬ状況である事は伝わっていた。
(-@∀@)「王よ、そんな事を仰られては……。あの者の治めていた村は荒れ、延いては国の荒廃に繋がりますぞ」
沈黙を最初に破ったのは左家一位のアサピー。その様子はまるで自分がその領地を治めるつもりであったかのようだった。
王はそれが不快である事を隠しながらも強い口調で話し出す。
(`・ω・´)「だから言っただろう。それまでは私が代わって統治をする。それともお前は私の統治では不安だと言うのか」
(-@∀@)「……いえ、滅相もございません。ただ、王はご多忙の身故これ以上のご負担を三年もの長きに渡っては」
王は片手を挙げアサピーの話を遮る。
(`・ω・´)「そのために右家一位フィレンクトに私の補佐をさせる。元々右家の領地だったのだ、民の理解も得やすかろう」
(-@∀@)「……はっ」
その声からは「面白くない」という感情が透けていたが皆がその事は捨て置いた。
何か言ったところで、何かしらの理由をつけてそれを正当化する事にアサピーは長けている。その事は国中の誰もが知っていた。
(`・ω・´)「では、もう下がって良いぞ。これから国葬の準備がある」
(-@∀@)「……失礼致します」
アサピーは頭を下げるとズカズカと戸の辺りまで進み兵を払いのける様に外へ出ていく。
(-_-)「失礼致します」
(´ー`)「失礼致します。どうかお気を落とさず」
前家一位のヒッキーと後家一位ネーヨが深く頭を下げて外へ出た。
(‘_L’)「良いのですか」
二人が外へ出ると、フィレンクトは兵士に聞こえない声で言う。
(`・ω・´)「良いさ。さぁ、フィレンクトも下がって良いぞ」
フィレンクトが頭を下げる。形式通りの動きで王の前から下がろうとしたところで「あぁ」と王が声を掛ける。
(`・ω・´)「……それから、明日は一日暇を与える」
(‘_L’)「王よ」
力なく首を振る。その目は僅かに赤くなっていた。
(`・ω・´)「なに、明日は朝からずっと自室で仕事だ。騎士も何人か周りに付けるからな。わざわざ一位のフィレンクトが護衛に当たることもないだろう」
(‘_L’)「しかし」
王が真っ直ぐにフィレンクトを見た。
(`・ω・´)「部下としてでなく、親として死を悼んでやって欲しい」
(‘_L’)「……はっ」
(`・ω・´)「さぁ、もう下がれ。奥方も不安であろう。どうか付いてやってくれ」
(‘_L’)「ありがとうございます」
先ほどよりもさらに深く頭を下げて立ち上がった。
(`・ω・´)「フィレンクト」
もう一度、フィレンクトの背に声を掛ける。
(‘_L’)「はっ」
(`・ω・´)「私はこの国の民を守って見せるぞ」
フィレンクトは力強く頷くと兵士に見せまいと流れる涙を素早く拭いた。
別の話 終わり
(^ω^ )「どうして、自分は上総の民だって言わなかったんだお」
二人は倉庫の並ぶ通りにいた。いつも通り、人通りは全く無い。
(^ω^ )「嘘だったとしても連中はそれさえ聞いたなら君にあんな事をしなかったお」
ニシカワはもう一度誰もいない事を確認してから、顔をしっかりと覆う手ぬぐいをはずしていく。
(*゚ー゚)「言えません。私は上総の民ではないので」
(^ω^ )「じゃあ、下総か安房なのかお」
(*゚ー゚)「……いえ」
女は少し間を空けて答えた。
(^ω^ )「ならそう言えば良かったお。どこの国の人間だって言えば、きっと連中はどうでも良くなってたお。外よりも内が気になるっていう、仕方の無い連中だったお」
(*゚ー゚)「下野なんです」
意を決した様子で女が言った。真っ直ぐにニシカワの目を見つめていたが、言い終わると瞳は左右に小さく揺れだした。
(^ω^ )「おっおっ」
それだけの事を言うのになぜ改まる必要があるのか、ニシカワは理解できない様子で女を見返す。
(*゚ー゚)「故郷です。生まれてから少し前までずっと下野で暮らしていました」
(^ω^ )「そうなのかお。ならそう言ったらきっとあんな事にはならなかったお」
女は驚きと安堵がないまぜになった表情でもう一度ニシカワの目をしっかり見据える。
(^ω^ )「さぁ、もう終わった事をあれこれ言ってもしょうがないお」
手ぬぐいを出来るだけ綺麗にたたむと大事そうに懐にしまいこむ。
(^ω^ )「少しばかり当てがあるからそこに行くお。君はなんだか放って置くと、とても不安だお」
(^ω^ )「あぁ、いたお」
ニシカワ達は、門から真っ直ぐ続く大通りまでへ来ていた。
そこで門の方をずっと見つめている男へ向かって進む。
(^ω^ )「しばらくぶりだお」
(,,゚Д゚)「おぉ、珍しいな。何か入用かな」
(^ω^ )「ちょっと頼みがあるんだお」
それを聞くとギコは姿勢をニシカワの方へ向ける。
(,,゚Д゚)「おっと、そちらは」
ギコが手のひらで女を指した。
(^ω^ )「あぁ、えっと。そういえば名前も聞いてなかったお」
ニシカワがすまなそうに言うと、女が小さく首を振りながら笑ってみせる。
(*゚ー゚)「しぃです」
(,,゚Д゚)「ギコだ。色々手広くやっているから何かあったら言ってくれ。しばらくはツダにいるつもりだからな」
商人としての癖なのか、慣れた口調で言うとしぃに握手を求める。
(^ω^ )「それで、その手広くやっているギコさんに頼みたい仕事があるんだお」
(,,゚Д゚)「どんなだい」
(^ω^ )「しぃの事を頼みたいんだお」
しぃの背をやさしく押し、前に出す。
(,,゚Д゚)「この子の何をだ」
(^ω^ )「しばらく、面倒を見てほしいんだお」
(,,゚Д゚)「……え」
(^ω^ )「いや、ちゃんと見てないと、どうにもその内とんでもない事になりそうで不安なんだお」
ギコと同じようにしぃも驚いた顔をしてニシカワの事を見ている。
(^ω^ )「衣食住から一切合切頼むお」
(,,゚Д゚)「仕事ならやらんことも無いがどのくらいの期間だ。それ次第じゃ受けられんぞ」
ギコは色々な勘定を始めていたが、しぃはあまりの事に口を開けたまま固まっていた。
(^ω^ )「遅れたお」
公家屋敷前をうろうろしていたシューの肩が小さく跳ねた。
lw´- _-ノv「遅いわ」
シューが素早く振返ると、不機嫌そうに言う。
(^ω^ )「悪かったお。ちょっとあの子が心配なんで知り合いに預けてきたんだお」
lw´- _-ノv「鎧、倉庫に置いてきたから。夜にでも取りに行って」
シューが興味なさそうに言ったのを聞いてニシカワはすまなそうに礼を言う。
(^ω^ )「シュー」
また背を向けるシューに声を掛ける。面倒そうにゆっくりとニシカワの方を向き、無言で次の言葉を待っている。
(^ω^ )「下野っていうのは良くないのかお」
少し驚いたのか、下がっていた視線が上がる。
lw´- _-ノv「下野ねぇ。いきなりどうしたの」
(^ω^ )「あの子が、しぃがそこの生まれだって言ってたお」
lw´- _-ノv「そう。下野の」
顎に手を当て、何かを考える素振りを見せた。
lw´- _-ノv「下野はもう無い様なものよ」
(^ω^ )「どういう事だお」
lw´- _-ノv「あなたが何も知らない事にはもう驚かないから、教えてあげるけど」
シューが歩きながら付いてくるようにと手で合図をした。これをするのは、誰もが知っていて当たり前の事を教える時だった。
lw´- _-ノv「下野は上野に滅ぼされたわ。もう十年近くも前にね」
屋敷から少し歩いて人気のない路地に行くとシューが振返る。
(^ω^ )「十年も前にかお。でも、しばらく前まで住んでいたって聞いたお」
シューがまた顎に手を当て考え込む。
lw´- _-ノv「他国への侵攻は国造り神の教えに反する。そんな事をすれば他国から一斉に攻められかねないわ」
(^ω^ )「でも下野は上野に滅ぼされんじゃないのかお」
lw´- _-ノv「そう。滅ぼされたわ。でも表向きには上野と下野が同盟を結んだ事になっている。上野王と下野王がそう言っているのだから他国は干渉できない」
(^ω^ )「おっおっ。それなら問題ないんじゃないのかお」
lw´- _-ノv「王が本心でそう言っているならね。でも他国じゃほとんどがそんな言葉信じていないわ。下野王は上野王に従わざるを得ない状況にある」
lw´- _-ノv「上野は今の王になって急激に軍備に注力しだしたわ。あくまで内部の安定のためと言っていたし、国造りの神の教えを破るわけが無いと思っていた」
lw´- _-ノv「だけど、下野は滅ぼされた。そして対外的には存続しているかの様に見せる事で周囲の国が攻める口実も与えない」
lw´- _-ノv「今、周囲で最も恐れているのは上野なのよ」
(^ω^ )「でも下野は別に悪くないお」
lw´- _-ノv「上野の支配下である以上、下野だと言ったところで扱いはきっと変わらない。……いえ、そこは正直に下野と言わないで上総の民とでも言えば良かったのに」
(^ω^ )「あぁ、嘘は嫌だったらしいお」
lw´- _-ノv「命が掛かっているのに」
信じられなそうにシューが言った。
(^ω^ )「シュー」
そんな事が実際にあるのかと、頭を抱えている横でニシカワが思い付いた様に呼ぶ。
lw´- _-ノv「なに」
思案の邪魔をされたせいか、少しだけ不機嫌さの篭る声が返る。
(^ω^ )「ブーンはこの街をでるお」
シューの目が僅かに大きくなったが、それ以外は普段どおりだった。それを見てブーンは続きをゆっくりと話し出す。
(^ω^ )「決めたんだお。今の話を聞いてからか、しぃが襲われるところ見たからか、ブーンにも良く分からないお」
(^ω^ )「早く、すぐにでも動かないと、とは思っていたお。でも踏み切れなかったお」
ブーンは恥ずかしそうに頭を掻いている。
(^ω^ )「ここで七号さんの下で騎士さんの不満を言いながら、ビイグルさんの店に通って、シューと一緒に倉庫で話して歳をとって、ただなんとなく暮らしていくのも良いと思ってきてたお」
頭を掻く手は止まり、胸の前で硬く拳を握る。
(^ω^ )「でもやっぱりだめなんだお。やっぱりこの国は歪なんだお。この国だけじゃない他の国だってそうだお」
(^ω^ )「そんな所に一人にしておくわけにはいかないんだお。もう、すぐにでも進まないといけないんだお」
(^ω^ )「手遅れになったら意味が無いんだお。それはブーンの命なんかじゃとても取り返せない、もっとずっと尊いものだから、ブーンがこの街で暮らしていく事なんかと秤に掛けられるものじゃないんだお」
lw´- _-ノv「そう」
いつもと変わらない様子で静かに話を聞いていたシューがフッと髪をかきあげた。
(^ω^ )「世話になったお」
ブーンが真っ直ぐシューの目を見る。
lw´- _-ノv「いつ街を出るの」
(^ω^ )「準備が出来次第、すぐにだお。多分、そんなには掛からないと思うお」
lw´- _-ノv「そう、じゃあ私も早く支度を済ませるわ」
(^ω^ )「……おっおっ」
当たり前のようにそう言うので、ニシカワはそれがおかしい事にすぐには気が付かなかった。
(^ω^ )「ちょっと待つお。ついてくるつもりかお」
lw´- _-ノv「私の頼み、聞いてくれる約束でしょ」
ニシカワが不思議な事を言っている様にシューが答える。
(^ω^ )「それは、なんとかしたいけど、一緒に来たらとても危険だお」
大げさな身振り手振りを交ぜてニシカワがいかに危ないかをあれこれ話したが、それが終わるかどうかのところでシューが話し出す。
lw´- _-ノv「構わないわ」
(^ω^ )「死ぬかもしれないんだお」
lw´- _-ノv「仕方が無いわ。まともな手段じゃ外に出れないだろうし。あなたも、私もね」
ニシカワが何か言いたげな顔をしたが、しばらくそのまま何も言わずため息をつく。
(^ω^ )「それなら、どうしてここを出れないのか、聞いても良いかお」
lw´- _-ノv「ここを出たら考えるわ」
シューの視線はニシカワからずっとはずされたままで、手は着物の衿を握っては離しを繰り返している。
(^ω^ )「……わかったお。でも、二人で行くなら少し準備が増えるから、今日明日に街を出るって事はできないお」
lw´- _-ノv「えぇ、私もゆっくり準備をしておくわ」
シューが視線が再びニシカワに戻される。
(^ω^ )「とりあえず、倉庫で少しでも馬の乗り方を覚えておいて欲しいお」
lw´- _-ノv「あら、もう歩く位なら出来るわ。外には出られないから走った事は無いけれど」
何があっても、自分に付いて来るつもりだった。ブーンは改めてそれを痛感させられたといった様子で片手で頭を抱える。
(^ω^ )「……充分だお。ブーンの後ろに乗れば良いけど、自分でも扱えた方が何かあったときに便利だお」
何かあったとき、という言葉を放つブーンの顔はいつもと変わらない。ただその裏には強い覚悟を感じさせる。
シューはそれを理解して、ただ頷いて答えた。
(^ω^ )「それじゃあ、しばらくの間は今まで通りに。目処が立ち次第伝えるお」
lw´- _-ノv「分かったわ」
路地から顔をのぞかせ、通りに誰もいない事を確認するとブーンはすぐにその場を後にする。
(^ω^ )「さて、これでますます失敗できなくなったお」
自分一人だけなら失敗しても構わない。どこかでそう思っていたが、シューの命まで自分に懸かっているとなるとなると些細な事にも妥協はできない。
今一度、今後の事を考え直さないといけない。
ブーンは頭に描いていた青写真を捨て、一からあれこれを思案しながら屋敷へ足早に向かう。
失敗はできない。
手などとても届かないようなはるか高みの目標、それだけにどこか実感のわかなかった何か。
それが一気にはっきりと見え、現実味を帯びてきた。
せめて街を無事に出ることが出来なければ、シューが死ぬかもしれない。
ブーンは自身の命よりもその事ばかりが頭から離れなくなっていた。
lw´- _-ノv「あなたの新しい名前も考えないとね。同じ名前が二人も居たら不便だもの」
シューは倉庫の戸を僅かに開き、その隙間に語り掛ける。
辺りに人影はないが返事とも取れる声が短く上がる。
翌日、ニシカワはギコのもとを訪れていた。
何かしたい事、欲しい物があってもどうすれば良いか分からない時はここへ来る。
最近ではそれが当然の様になっていた。
(^ω^ )「それじゃあ、よろしく頼んだお」
話を終えて帰ろうとするニシカワをギコが呼び止める。
(,,゚Д゚)「あぁ。ただいつ出来るかは分からないぞ」
しばらく、ニシカワは顎に手を当て考え込む。
早く欲しいが下手なものを掴まされた方がよっぽどうまくない。何しろ下手を打てばシューまで危ないのだ。
(^ω^ )「こればっかりは時間よりも、精巧で間違いないものじゃないと困るお。時間は二の次だお」
(,,゚Д゚)「分かった。出来上がり次第、連絡しよう」
ギコは頷くと、どうやって依頼をこなしたら良いか考え出す。
(^ω^ )「それから、しぃはどうだお」
ニシカワがこれまで以上に周囲に気を配りながら小声で尋ねる。
(,,゚Д゚)「家でまだ休んでいる。昼ごろから買い物だけどな。いつまでもあの格好じゃあな」
ギコがいつも通りの大きさでそう答える。それを受けてニシカワは不自然に辺りを警戒することをやめた。
(^ω^ )「面倒を掛けるお」
(,,゚Д゚)「その分のものは貰ってるんだ。気にする事じゃない。……あぁ、そうだ。大分先になると思うが、お前から貰った分で足りなくなった時はどうする」
(^ω^ )「その時はまた取りに来て欲しいお」
言い終えるとニシカワが思い出したような声を上げて付け加える。
(^ω^ )「もし、ここにいない時はきっと別の場所で有名になっているはずだからそっちに頼むお」
ギコが不思議そうな顔をしたが、ニシカワはそんな事気にせず「くれぐれも頼んだお」と帰っていく。
lw´- _-ノv「アオにしたわ」
倉庫でシューに会うのは三日ぶりだった。
ビイグルの店は夜になれば少なくとも二人の番が前に立つ。そのため簡単に出歩くことのできないシューは中々この場所に来る事が出来ない。
その彼女が、久しぶりに倉庫で会ったニシカワに発した第一声だった。
lw´- _-ノv「この子の名前」
薄暗い部屋の中でも分かるほど、大きな疑問符を浮かべるニシカワに向けてシューが言う。
その隣に座るアオが一つ鳴いた。
(^ω^ )「……おっおっ。まぁ、嫌がっている様子も無いし、シューがそうしたいなら別にいいお」
lw´- _-ノv「嫌がるわけないわ、一緒に決めたんだもの」
アオがまた答えるように鳴いた。
(^ω^ )「でも、なんでアオなんだお。色で決めるならクロかと思ったお」
lw´- _-ノv「それだとあの子と区別できないじゃない」
(^ω^ )「……あの子」
また疑問符が浮かぶがすぐにシューが続ける。
lw´- _-ノv「屋敷のあの子よ。あなたが世話している」
(^ω^ )「あぁ、たしかにそうだお」
屋敷で世話しているもう一頭の馬。騎士が失態を隠すためにどこからか連れてきたのは確かに黒馬である。
lw´- _-ノv「ほとんど真っ黒なんだけど、本当に少しだけ青が入っているのよ」
「でも、またなんでアオになるんだお」とニシカワが言うと、座っているアオの毛を少しだけ逆立てて見せるとそう語った。
ニシカワが鼻の先とアオの毛先が触れるほど、顔を近づけて目を凝らす。
(^ω^ )「うーん。言われてみればそんな気もするけど、良く分からないお」
lw´- _-ノv「暗い青色ね。だからその子はアオ」
シューに優しく首筋を叩かれてアオが目を細める。その様子から、すっかり彼女にも慣れているのが良く分かった。
アオと一緒に名前を決めたというのも、あながち嘘でないかもしれないとニシカワは思い始めていた。
lw´- _-ノv「帰ったらあの子の毛並みも良く見てみるといいわ。あの子は青じゃなくて赤が入っているから、比べたら少しは分かりやすいかも」
(^ω^ )「じゃあ屋敷の子はアカかお」
ニシカワがアオの頭を撫でてやると「もっと」と催促するように掌に強く押し付けてきた。
lw´- _-ノv「そうね。あの子が嫌じゃなければそれでいいんじゃない」
lw´- _-ノv「あぁ。でも、すぐに分かる様な大きな違いじゃないから目を凝らさないとだめね。本当に微妙な違い。日の当たり具合の違いかもしれないって思うくらいのね」
そうシューが続けた。
(^ω^ )「たしかにそうだお。そもそも目立って違う部分があったら別の馬だって分かってしまうお」
lw´- _-ノv「そうね」
それからは、お互いに何も言わないまま倉庫で過ごす。
元々、二人は一緒にいても何かを話すという事は殆どしなかった。今日はこれまでの中でも珍しい日である。
あくまで友という関係でなく協力者。目的のための手段であり、相手のために何かしようとう思想は持ち合わせていない。
さらに言うのなら、未だに相手が何をしたいのかも知らないままである。
ただ、そうであっても自分の失敗は相手を危機にさらす。それは面白くないので極力避けたい。
そんな思いがこの倉庫での歪な関係を作り上げていた。
一人や二人で生活をするには十分な広さだが、馬に乗って歩くにはあまりに狭い室内。そこで今日の訓練を終えるとシューが「それじゃあ」とだけ残して戸を静かに引く。
(^ω^ )「……次、ここで会った時。詳しく、考えを話すお」
そう答えて見送ると、シューの目が少しだけ大きく開かれた。実際にどうだったか、ほとんど顔が隠れていたので分からないが、ニシカワにはそう感じられた。
英雄ドクオ。
様々な苦難を乗り越え先々代の王を救った、今でも多くの国民に慕われる偉人。
彼の大半の逸話は大人が子供にする、おとぎ話として伝えられており総で最も有名な人間の一人である。
(^ω^ )「英雄ドクオの話を知っているかお」
その名をニシカワが急に口に出す。
いつも通り、薄暗い倉庫でお互いの作業だけをしていた。
ただ、前回別れる時の言葉が、室内の空気を鋭く張り詰めさせていた。
それを壊すべく、限界まで張った縄を思い切り断ち切る時の様に、息を一つ飲んで発した声だった。
lw´- _-ノv「えぇ、小さい頃良く聞かされたわ。ドクオの様に国のために動きなさいって。ただ、十分な働きをしたのならその見返りはしっかり受け取りなさいって。……商人の家だったから」
内心では「来た」と思いながらも、シューはいつも通りの対応を心がけた。
ただ、緊張のためか余計に長くなってしまったと言い終えてから思い少し後悔した。
(^ω^ )「それをやるお」
「どれをやるの」とシューが尋ねる前に、ニシカワが語りだす。
(^ω^ )「暗殺の計画を知らせるため、騎士証を持たないまま王都に入った話をやるお」
本当はもっと仰々しい名前があったが、公の場で身分のあるもの以外は皆、騎士の持つ身分を表す書類の事は騎士証や武家証、公家証と呼んでいた。
シューにもそれは伝わったようで少し考え込む仕草をしていた。
(^ω^ )「入る事が出来るなら出る事だって出来るお」
lw´- _-ノv「そうね。この子を、アオを連れて外に出るなんて騎士が居なければできない。でもあなたの目的のためにはアオが必要なんでしょう。……なら、こうするしかないかも」
多くの逸話の内の一つを二人は話していた。
ドクオが王都近くの町で偶然手に入れた情報に、数刻後に王を暗[ピーーー]るというものがあった。
王が年に数度だけ、少ない手勢で街の中を練り歩く祭りを狙ったものだという事は明らかだった。
ドクオは自身の手勢にそれを伝える間も惜しいと、馬に跨り一人で夜通し走り続け王都に向かう。
日が昇る少し前、王都を守る巨大な門までたどり着くと、すぐに兵に門を開けるように迫った。
しかし、門兵は頑なにそれを拒む。王の守りが薄くなるこの時期は特別厳しく出入りを管理される。
よりによってその時期に、ドクオは騎士証を持っていなかった。貴重品はすべて筆頭兵士に持たせてしまっていたのである。
だが、ドクオは「この馬こそが騎士である事の証明。王より賜ったのは騎士証とこの馬であり、その内の一つがこの場にある事こそが自身が騎士である証明である」と門兵が折れるまで説き続け遂には門を開けさせた。
そして、王の暗殺を狙う者はドクオの届けた情報を元に全員が捕縛され、王の命はとりあえずのところ助かったのである。
lw´- _-ノv「この子がいれば大丈夫かしら。普通に考えて馬を騎士以外が扱うなんて事はないもの」
(^ω^ )「確かに、アオ達がいれば大丈夫だとは思うお。でも何かあってからじゃ遅いんだお」
ニシカワが懐に手を突っ込む。
(^ω^ )「騎士証を用意してもらったお。……ただ、ブーンは文字が扱えないから確認してほしいんだお」
そう言いながらシューへ取り出した小包を渡す。
渡す時に手が触れないようにしたが、シューはそんな事は気にしていないようにニシカワの掌から取っていく。
(^ω^ )「とりあえず、兵士に顔を知られてたらまずいから出来るだけ下位の騎士のものを作ってもらったお」
lw´- _-ノv「……こんなものを、どうやって」
(^ω^ )「秘密だお」
出来るだけ、不正に関してはシューを関わらせたくなかった。それに、何かがあってギコに迷惑を掛けたくもない。下手をすれば、しぃにも火の粉が及ぶかもしれない。
何度か食い下がられたが、ニシカワは「秘密だお」と答えるだけだった。
lw´- _-ノv「……えぇと」
納得はいかない。だが、何度聞いても教えてはくれないと悟った様子で、シューが手渡された小包に視線を向け、中を取り出す。
十位ジョーンズと書かれた上質な紙に、公家を表す印が押されているものが一つ。
一面は黒で染められ、文字と印の白色が良く映える。
十位ネーヨと書かれた同じ様なものがもう一つ。こちらは文字と印は武家を表す紫色だった。
lw´- _-ノv「本物なんて見たことないから、細かいところは分からないけど」
シューは表と裏を何度もひっくり返したりしながら話し出した。
lw´- _-ノv「一応書かれている内容は、騎士である事を王が証明するものね」
(^ω^ )「なら大丈夫だお」
ニシカワの声は安心したのか幾分柔らかなものになった。
lw´- _-ノv「もしかしたら、本物とは全然ちがうかもしれないのに。信じて良いのかしら、これ」
(^ω^ )「門兵だって騎士証なんて早々お目にかかることなんてないお。多少違ったとしてもそういうものなんだって、馬上から言えば信じるしかないお」
アオも同意するように鳴く。二人が言うのなら、一人で何を言っても負けてしまうと、シューは諦めた様にため息をついた。
lw´- _-ノv「それで、どっちを使うの」
シューが二枚の騎士証をニシカワの前に差し出す。
ニシカワが不思議そうな顔でその二枚とシューを交互に見た。
(^ω^ )「……両方だお」
ニシカワが紫の騎士証を抜き取った。
lw´- _-ノv「街を出るのに両方必要なのかしら」
(^ω^ )「当然だお。そっちはシューの分だお」
シューは驚いていた。それでも初対面の相手であれば分からない程度のものだったが、彼女にしてはかなり大きく感情の動きを表面に出していた。
lw´- _-ノv「騎士に女はいないわ」
(^ω^ )「じゃあ男装だお。それに夜遅く、辺りが真っ暗になってから決行するつもりだからきっと気づかれたりしないお」
lw´- _-ノv「だけど」
シューの言葉を遮るようにまたアオが鳴く。シューも同じようにため息をついて諦めた。
(^ω^ )「そのために、屋敷の馬。アカも連れて行くお」
シューがさらに深いため息をついている。
(^ω^ )「あの騎士さんのところに馬を置いておくのはどうにも心配なんだお」
街を出たところで約束は終わり。
その後は彼女と一緒に行くつもりはニシカワになかった。危険なものになるだろうし、何より覚悟がなければ出来ないような無謀な行動。巻き込むわけにはいかない。
そうなればシューはそこから一人になる。女の一人旅の危険など挙げるのに苦労しないが、そんな多くの危険を少しでも避けるためには、どうしても偽造の騎士証と馬を無理にでも彼女に持たせておきたい。
そのためにニシカワが色々と考えた結果がこの策だった。
これが通らなければ適当な理由をつけて延期をする。別の策が出来るまで、辛いがのらりくらりと彼女の言葉のない催促に耐えるつもりだった。
不服そうだが、受け入れた様子のシューを見てニシカワはホッとした様子で天井を仰ぎ見た。
(^ω^ )「準備はこれでほぼ終わりだお。後は機がくればすぐにでも動くお」
lw´- _-ノv「機?」
(^ω^ )「うちの騎士さんが我慢できなくなったらだお」
シューは理解はできなかったがそれ以上は聞かなかった。
ニシカワが極力、詳細を自分に伝えないようにしている事は強く感じている。
信頼していない自分に対して必要以上に内容を話す事はどれほど危険な事か、これから行おうとしていることを考えればすぐに分かる。
むしろ、すでにやってしまった事から考えればこれだけの事を伝えただけでも、多すぎるとも感じる。
彼が「しない」「できない」と判断したのならそれに異を唱えることはしまい。そうシューは決めていた。
(^ω^ )「それじゃあ、今日はこれで戻るお。出発する日が決まったところで伝えるけど、きっと当日になるからいつでもいけるようにしておいて欲しいお」
lw´- _-ノv「わかったわ」
外へ出るニシカワを見送るとシューはアオに体を預けてる形で腰を下ろす。
この計画。これからする事だけでなく現状も含め、自分は何か役に立っているだろうか。
きっと何も役に立っていない。
たしかに、形としては彼を脅すものになっている。だが、今の関係が脅す者と脅される者に見えるだろうか。
ここから出たいという我侭で行動を起こしたものの、まだ自分は何も出来ていない。
自分の意思で生きていくと決めたが、自分の力では何も為せていないし、この先もおそらく無理だろう。
無力感が体の中を一杯にしていく。
彼に迷惑を掛けてまで、自分のしたい事をしたとして、それが何になるのか。
いや、それならばそれで良い。最後は自分の問題なのだから。
怖いのは自分が居る事で彼の目的が果たせない。そんな事になってしまったらどうしよう。
鼓動が早くなっていく。本当にこのまま、進んでいっていいのだろうか。自分の足でなく、彼の背に乗り、彼に運んでもらい。
それが何になるか。何を得るか。
きっと何も得ないだろう。だが、それには耐えられる。今と何も変わらない。それならば死んだようにでも生きていく事は出来る。
ただ、彼の迷惑になるのが怖い。何のためにこんな大それた事をしようとしているのかは知らないし、聞くつもりも今は無い。
だが、それは彼にとって命を掛けるに値することなのだろう。
そんなものの基に行動する彼と自分を比べると、自分がとても小さくて弱く感じてしまう。
lw´- _-ノv「……消えよう」
彼の前から姿を消そう。どれだけの間か分からない。とりあえず彼が出発するまでの間、そう長くは無いであろう時間だけ別の区画にでも行けば良い。
どこの店でも雇わせる位の自信はあった。読み書き計算に加えて商いの基本は身に着けている。
きっと大丈夫だ。
名残惜しむように、自分を奮い立たせるようにアオを撫で、立ち上がる。いつもより体が重く感じてよろめいたが、アオが首を伸ばして支えてくれた。
lw´- _-ノv「ありがとう。……元気でいるのよ。出来るだけ守ってあげてね、あんまり賢い方じゃないみたいだから」
一歩一歩に時間を掛けて戸の前に立つ。
力を込めて、一気に引こうと息を吸う。
(^ω^ )「おっおっ」
眼前に突如ニシカワの顔が現れた。
(^ω^ )「危ないところだったお」
ニシカワが体を捻って倉庫内に滑り込むと戸を閉める。そのまま先程、座っていた辺りを中腰で歩き回っていた。
(^ω^ )「あぁ、合ったお」
ニシカワの手には騎士証が握られていた。
(^ω^ )「せっかくシューが確認してくれたのに忘れて帰るところだったお」
lw´- _-ノv「そう。そうね。それを忘れたら大変だもの、しっかりと持っておいて。ドクオの様に忘れたらダメよ」
(^ω^ )「おっおっ」
ニシカワが大げさに騎士証をしまうところをシューに見せる。
lw´- _-ノv「……ねぇ、私はあなたの役に立っているかしら」
(^ω^ )「当たり前だお。ブーンは文字は全く扱えないし世情にも疎くて参っちゃうお。シューにどれだけ助けられているか分からないお」
シューが「何でもないわ。忘れて」と言うより早くニシカワが話し出す。
(^ω^ )「それに、シューが居なかったらきっといつまでも、この倉庫で時間を潰して、年だけとっていってたお。それかここが見つかって終わりか、どっちかだお」
(^ω^ )「……じゃあ、今度こそ帰るお。ちなみにブーンの予想だとここ数日で多分出発になるお。準備は忘れずにしておくお」
ニシカワは気恥ずかしそうに戸へ向けて早足で向かう。
今まで自分の体の中にあった、とても重くて、とても邪魔だったモノがスッと消えていた。
なんて事のない言葉だが、自分の求めていた事に対しての答えではないが、それでも迷いを払うのには十分だった。
決死の覚悟の末に生んだつもりだった考えは容易く崩れ、今はただ、彼について行こうと思っている。
そんな自分が腹立たしくもあり、好ましくもあった。
lw´- _-ノv「あなたこそ、忘れ物をしないようにね」
ニシカワは照れたように、少しだけ笑って見せて外へ出て行った。
明かりが漏れない様、紙で包み込み小さな火を灯す。
(^ω^ )「準備は良いかお」
夜に互いが合うのは何か違和感がある。これから大仕事をするにも関わらず、それはしっかり感じられた。
lw´- _-ノv「えぇ」
シューが小脇に抱えられそうな革袋を二つ、軽く叩いてみせる。
もしかすると、あれも必要これも必要と大量の荷物を持ってはこないかとニシカワは心配していたが杞憂に終わった。
(^ω^ )「おっおっ。それじゃあブーンはこれからアカを連れて来るお。そしたら一つ二つ準備をしてすぐに出発だからこれに着替えておくお」
シューと同じ様な二つの革袋のうち、一つを置いて中を取り出す。
lw´- _-ノv「……随分良いものを揃えたのね」
目利きの様に、渡された男装用の着物を見つめる。
(^ω^ )「なんてったって騎士だお。良いものを着てないと怪しまれるお」
lw´- _-ノv「……そうね」
シューは納得した様に答えると、着物を体に当て大きさを確認し始めた。
(^ω^ )「じゃあ、また後でだお」
ニシカワがもう一つの革袋を慎重に置くと、素早く待ちの中へ消えていく。
(^ω^ )「大丈夫ですかお」
倒れた騎士に駆け寄り抱き起こす。
騎士からはっきりとした言葉はない。唸る様な言葉がいくつか漏れるだけだった。
(^ω^ )「誰かが、騎士様を狙っているのかもしれないですお。さ、こちらへ隠れてくださいお」
ニシカワが騎士に肩を貸し、そこから一番近い見張り番の居る店へ連れて行く。
(^ω^ )「朝まで、このお方を頼むお。高貴なお方だから決して失礼のないように、後で必ず礼はするお」
二人の番は驚いていたが騎士の身なりを見ると、一人を主人に報告へ行きもう一人が中への案内を買って出た。
(^ω^ )「騎士様、私はお馬を連れてまいります。危険でしょうが、騎士様のお馬を命に代えても守るのが私の仕事ですので」
意識のはっきりしていない騎士に、暗示のように語り掛けるとニシカワは走り出した。
そして、すぐに騎士の倒れていた近くに張った黒塗りの縄を外す。それが終わると急いで置物の様に動かないアカを連れて倉庫へ戻った。
(^ω^ )「戻ったお」
戸を最後まで閉め切ってからニシカワが小さく言った。
lw´- _-ノv「早かったのね」
香を焚いていたシューは、言うよりも先にアカの鼻先にそれを持っていく。
(^ω^ )「騎士さんが同じ手に引っかかってくれて助かったお。後はこれから念のために仕掛けておいたのをいくつか回収して」
ニシカワが言い辛そうに間を置いてから続ける。
(^ω^ )「ブーン達が誰か分からない者に殺されて、死体は見つからない場所に隠されたか、街から持ち出された様に見せたら終わりだお」
lw´- _-ノv「それは必要なのかしら。たしかにそうでもしないと犯人だと知られるかもしれないけど」
意識がはっきりしてきたのか、アカの顔が動いたのでそれに合わせてシューが香を動かした。
lw´- _-ノv「この街に戻ってこない限り影響はないんじゃないかしら。顔も隠せば他の村や町でも大丈夫でしょう」
(^ω^ )「おっおっ。七号さんやビイグルさんに迷惑は掛けられないお。だから犯人じゃなくて被害者に見えるようにして出て行くお」
lw´- _-ノv「そう」
シューはそれだけ答えると、アカを優しく撫で、ニシカワに聞こえない程度の大きさで語りかける。
lw´- _-ノv「どうかしら」
(^ω^ )「……おっおっ」
ニシカワは驚きを隠せないままに頷いた。
lw´- _-ノv「この子の調子は悪くないわ。きっと香をできるだけ少なくしたのが良かったのね」
アカに跨ったシューが倉庫の中を何度も往復している。
もうずっと前からそうしていたかのように、どちらも慣れた様子で移動する。
アオに乗り、並んで進めば自分の乗馬はきっと雑に見えてしまうだろう。
ニシカワは少しの劣等感と、その何倍もの驚きを感じていた。
(^ω^ )「それだけ動ければもう大丈夫だお。少し辛いかもしれないけど、アカにはもう少しだけ頑張ってもらいたいお」
アカはシューの意見を求めるように視線を送る。
lw´- _-ノv「お願い」
シューが撫でると、体に付いた水滴を払うように一気に体を震わせた。
アカの目はしっかりと前を捉え、生気に満ちている。
それを見て、はやく出たいと催促する様にアオが立ち上がり、アカに並ぶ。
巨大な二頭の黒馬が視界をいっぱいに埋める。
こんな光景を見る事になるとは、少し前ならば想像すらできなかった。
泥の様に底に沈んでいた世界が、一気に加速し動き出している。
これからの事を考え、無意識に握り締められたニシカワ手は汗で濡れている。
(^ω^ )「行くお」
口が隠れる高さまで、防寒用の手ぬぐいを巻きつけ、一気に戸を開けた。
アオが「出てもいいのか」というような目で自分を見てきた時、なんと酷な事をしてきたのかと痛感する。
(^ω^ )「もう狭くて暗い場所に隠れなくたって良いんだお」
嬉しそうにアオが外へ出る。ニシカワは「すまなかったお」と謝っていた。
二人は門に付くと騎士証は出さずに門兵に名乗る。
/^o^兵\「公家十位ジョーンズ様、武家十位ネーヨ様ですね」
若い門兵が上ずった声で言うと深々と頭を下げる。
/^o^兵\「すぐに、門兵長を呼んできます」
文字の扱える兵士は少ないのでまずは騎士証を出さずに名乗るだけで良い。読めなければ読める者を呼びにいくのでそれを待つ。
ここに来る途中でシューがニシカワに伝えた通りだった。
走り出す門兵に対しニシカワが馬上から「火急の件だ。すぐに頼むお」と伝える。
騎士らしく、偉そうでイライラした様子を演じた。
/^o^兵\「直ちに」
門兵は大した距離の無い、屯所に全力で駆けていく。
屯所からは状況を説明している門兵の大声がここまで届いていた。何度も「騎士」という単語を出してとにかく非常事態であると伝えている。
静かになった後にまた大声が聞こえ、再び静かになる。それを何度か繰り返した後、先ほどの門兵が全速力で戻ってくる。
その後ろには松明を持った人影がゆっくりとこちらへ向かっていた。
/^o^兵\「門兵長です」
門兵の指した先には門兵長といわれた人影がまだこちらへ向かって歩いているところだった。
(・(エ)・)「よろしくどうぞ」
最後まで急ぐ事の無かった門兵長は悪びれず、笑いながら会釈程度に頭を下げる。
片手に持った松明で浮かび上がる顔は、門兵とさして歳の変らない若者のものだった。
lw´- _-ノv「一刻を争う事態が起こっている。今すぐに門を開けろ」
公家に扮したシューが低い声で言う。
急いだ様子を見せない門兵長に対して怒りが篭った声だった。
(・(エ)・)「いや、それなんですがね」
一つ咳払いをしてシューの方を見る。そうしながら松明を向けようとしたが、シューはアカを一歩移動させて松明の明かりを避ける。
(・(エ)・)「規則じゃ鐘が鳴ったら門は明けちゃならないんです。明日の日が出る迄ですがね」
(・(エ)・)「これだけ堅牢な壁をもっている街、ツダとはいえ門を開けてしまえば盗賊連中は何の苦労も無く入れるってもんですから」
門兵長がわざとらしく、残念そうなため息をつく。
(・(エ)・)「いかに騎士さんとは言え、ねぇ」
lw´- _-ノv「一刻を争うと言っている」
(・(エ)・)「そうなんですが、規則がですね」
(^ω^ )「……盤が国境を越えたんだお」
門兵長はほんの少しだが驚いた様子を見せた。
/^o^兵\「そんな、いくら関係が良くないとはいえ攻めて来るなんて」
門兵長は「なるほど」と手を叩く。
(・(エ)・)「最近、文鳥でのやり取りがほとんどできなくなっています」
大げさに声を小さくし、耳打ちをするように顔を近づける。
(・(エ)・)「先々週から少しずつ。先週の終わりごろには一割うまくできれば良い位にまでになってしまいました」
lw´- _-ノv「文食いだろう」
それを嫌ったシューが下がった手ぬぐいをしっかり口元まで上げ直して言った。
(・(エ)・)「えぇ。私も部下を連れてできるだけ文食いを狩ってはいるんですが……。数は減るどころか、増える一方でして」
/^o^兵\「明らかに人の手で、辺りに文食いが撒かれています」
(・(エ)・)「ツダは今、孤立しているわけです。何かあってもすぐに気づけないし、知らせることができない」
(^ω^ )「だから、私たちが行くんだお」
(・(エ)・)「えぇ。文鳥が使えないとなったら今、何よりも早く情報を伝えることができるのは馬に乗れる方だけ。つまり騎士様。それは明らかです」
lw´- _-ノv「なら、すぐにでも門を開けてくれ」
(・(エ)・)「……承知しました。一応騎士証を確認させてください。緊急時こそ必要な事をしなくてはいけませんからね」
二人が懐から騎士証を取り出し、門兵に手渡した。それをそのまま門兵長に渡し、代わりに松明を預かる。
(・(エ)・)「えぇと、公家十位ジョーンズ様。武家十位ネーヨ様ですね。……お二人はなぜツダへ」
lw´- _-ノv「各地を周って事態を伝えている。多くの町や村でもここと同じように文鳥が使えない状況だ」
(・(エ)・)「おぉ、それは大変だ」
門兵長は変わらぬ口調のまま言った。
(・(エ)・)「えぇ、急がないといけないのは分かっているんです」
(・(エ)・)「ですがね、少し。いや、大分気になることがありまして」
口では了承したような事を言いながら、一向に門を開けようとしない門兵長に催促をすると変らぬ口調でそう返す。
少し話したところで感じた、この門兵長の器量はかなりのものだった。
二人の騎士が現れ、他国が攻めて来ていると非常時を告げているにも関わらずこの落ち着き。
さらにこの騎士が、その非常時が偽りのものでないか、そんな疑いまでもっている。
二人は「組み難し」と感じて少しでも早くここを通り抜けてしまいたいと思っていたが、相手はそうさせまいとしている。
(・(エ)・)「武家十位ネーヨ様」
門兵長がわざとらしく騎士団と序列をつけてニシカワの方を向く。
(・(エ)・)「私の様な仕事をしていると、役人みたいな事まで覚えてしまうし、それと違うものを見るととても気になってしまいまして」
(^ω^ )「……なんだお」
ニシカワは自分の動悸が一気に加速していくのを感じていた。
この短刀だけで二人を切り倒し、門を開けて外へ出られるだろうか。いや、きっと詰め所の中にはあと数人いるはずだ。
門兵が戻った時に二人の他にいくつかの声が聞こえていた。なら、先に詰め所の方へ行き、それからなら。
ニシカワの頭の中はそんな事を考え始めていた。
(・(エ)・)「たしか、昨年にネーヨ様は九位になられたはず。しかし、まだ騎士証は十位のなので、それがどうしてなのかと不思議に思っておりまして」
(・(エ)・)「騎士証も同時に王の使いから届けられているはず。ですがなぜ、古い十位の騎士証を」
門兵長はどれだけ時間を掛けても答えを待つという意思の表れか、僅かに姿勢を崩す。
(^ω^ )「……おっおっ」
ニシカワは言葉につまり、質問に対する答えよりも、腰に隠していた短刀の方に手を回すべきかを考え出す。
lw´- _-ノv「武士の評定は二年後、そこで初めて王より下賜される騎士証こそが己が身分を証明するもの」
lw´- _-ノv「使いより受け取った仮の騎士証を持ち、より高い序列であると見せてまわる。そんな事を誰よりも自身を律する武家の騎士がすると思うのか」
強い語気で言い放ったのはシューだった。
(・(エ)・)「それは失礼を。卑しい身ゆえ、高貴な方の感覚が分からないもので」
そう言った門兵長の顔は最初と何も変っていない。
lw´- _-ノv「さぁ、早く門を開けよ。今この一瞬が後の歴史を分けるかも分からないぞ」
さすがに厳しいと、門兵長が難しい顔を見せる。
自然に浮かんだというよりも作った様なものだったが、初めて別の表情を見せた印象を二人は受けた。
(・(エ)・)「分かりました。開けましょう。本当は、いけません。ですが特別です」
/^o^兵\「……門兵長」
若い兵士が不安そうに門兵長の顔を見る。
(・(エ)・)「構わないから、開けてくれ。国のため、民のためならば規則なんてものは守るに値しない」
そっと手を背に回す。
(・(エ)・)「人を守るための規則で、国が傾き人が死ぬならそんなもの無い方が良い。私たちの仕事は街を守る事ではなくて人を守る事だ。人が生きるに街が必要だから、街を守る」
門兵長は優しく、兵の背を叩いて門の方へ押した。
(・(エ)・)「門を開けなければ危ないというのなら、私たちの仕事は門を開ける事だろう」
/^o^兵\「……はい。承知しました」
兵士の声は元の大きなものに戻り、全力で走り出した。
/^o^兵\「兵士長」
ニシカワとシューが門へ向かい、離れたところで一人の兵士が姿を現す。
/^o^兵\「公家十位ジョーンズ様は商家二位クックル様の屋敷に居られます」
(・(エ)・)「……間違いはないな」
その声は背を向けて門へ向かう二人には聞こえない様、抑えたものだった。
/^o^兵\「はい、やはり先日上総区画から入られていた事を確認しました。念のため別の者を屋敷に向かわせましたところ、クックル様がジョーンズ様を呼ばれ本人で間違いない事と証言されたそうです」
(・(エ)・)「良し、安房区画へ行った者達を呼び戻せ。手口からして奴らは、普段相手にしているただの賊ではないぞ」
兵士が頷くとすぐに走り出し、また暗闇に消える。それを見送りながら、兵士長は大きく息を吸い込んだ。
(・(エ)・)「門を閉めろ、そいつらは騎士じゃない」
二人の後ろから放たれた叫び声には強い怒気が含まれていた。
振り向くシューに対してニシカワが「走るんだお」と叫ぶとアカは一気に加速していく。
(・(エ)・)「生きたまま捕らえろ。馬がいるんだ、これは何かある」
こうなる事を予想していた様に、四方から兵士が飛び出してきた。
しかし、人の比にならない速度で走るアカは、人間には遅れを取らないであろう囲いを一気に抜け出す。
その後ろでニシカワは、門までにある数本の灯火を倒しながら追いかける。
途中、シューに向かって投げられた槍を短剣で叩き落し、そのままアオの巨体を兵士にぶつけた。
兵士は軽々と飛び、民家の壁に叩きつけられると力なく倒れこんだ。
(・(エ)・)「貴様」
少し前までの無表情の男が、今は怒りをあらわに槍を振りかぶっている。
その射線上にはニシカワが居て、その奥にはシューが居る。
あの男は怒りながらも、二人を狙える位置から攻撃してくる位は頭が回る。やはり組み難い。
ニシカワがそう考えている間に、槍は兵士長の手を離れ一気に近づいてくる。
さっきの兵士の時とはまるで違う速度に加え、灯りを自ら奪った事で視界はほとんど無い。
目を閉じた錯覚の中ニシカワが必死に短剣を振り抜く。
これを外せば死ぬかもしれない。
そう思いながら、あらん限りの力で振り下ろした右腕にはずしりと重い感触があった。
すぐにニシカワは「門へ、シューとアカの居る場所へ行くお」とアオに伝える。
アオもそれを理解し、瞬く間に兵士達を置いて門へと向かっていった。
門はまだ、なんとか馬が通ることのできる程度の広さで動きを止めている。
lw´- _-ノv「急いで、この子だけじゃそんなに持たない」
焦るシューを乗せたアカが兵士達を門に近づけまいと暴れまわっている。
その足元にはいくつも松明が落ちており、悶絶する兵士達の姿が暗闇に浮かぶ。
しかし、それも数には耐え難く、徐々に集まってくる兵士達に押されている。
(^ω^ )「行くんだお」
門が再び動き出しても、アオの脚なら間に合う。
ニシカワがそう判断できる距離に達するとすぐに叫んだ。
lw´- _-ノv「……でも」
躊躇するシューに大きく「早くするんだお」ともう一度叫ぶ。
ニシカワを心配そうに見つめてから、シューが手綱を強く握り門を離れる。
走りだしたアカの上から何度も、不安げに振り返る。その度に姿勢を崩してはアカが落とすまいと慌てて重心を移動させる。
それを見送ると、遠巻きで攻めあぐねていた兵士達が一気に門に取り付いた。
以前は重く、とても人の手では御す事ができないだろうと思った門がゆっくりと動き出す。
何人かが得物を手に門の前に立つと、向かってくるアオを睨みつけている。
あくまでそれが虚勢であると、その場にいる誰もが分かっていた。
騎乗した者を相手に門兵程度が立ち向かったところでどうにかなる事はまずない。
「騎士が戦で圧倒的な力を持つのは馬によるところが大きい」
何度かそんな事を耳にしていたが、ニシカワも実際に試してみてそれがはっきりと実感できた。
現に、今も一瞬にして門を駆け抜けていた。
アオの進路上にいた二人の兵士のうち一人は横っ飛びで何とか回避し、もう一人は間に合わないまま斜め後ろに吹っ飛んでいった。
/^o^兵\「両区画へ向かっていた兵士と近隣の番が協力していますが、僅かに敵方が多勢のため押されています」
(・(エ)・)「そうか」
視線は遠くへ駆けていく二頭の馬を睨みつけたまま答える。
(・(エ)・)「……門を閉めろ。すぐにだ」
門兵長の声は普段よりもいくらか低い。
/^o^兵\「良いんですか」
(・(エ)・)「良いも悪いもない。どうするのが最も民のためになるのかだ」
手で近くにいた若い門兵に合図を送り、急がせる。
(・(エ)・)「それが終わったら二手に分けて敵を排除する」
場が凍る中、年長の門兵を呼ぶともう一方の指揮をする様伝え、全員に向けて声を張る。
(・(エ)・)「年長の兵士を前に若い者はその後ろに。全員何よりも命を惜しめ。なに、いつも通りやれば絶対に死なん」
門兵長はまるで最初からそうするつもりだったかの様に、門兵達に指示をしていく。
訓練と変らない時間で門は閉じられ、戦闘の支度も整えられた。
(・(エ)・)「行くぞ、敵がツダから出て行く素振りを見せたら深追いはするな。今は街から排除できればそれで良い」
すぐ隣にいる、門兵の中では年長の者だけに聞こえる大きさでため息をつく。
(・(エ)・)「口惜しいな。あの馬に乗った二人、うまくすれば捕らえられずとも仕留めはできた」
/^o^兵\「確かにそうですが、一人は我々が何もしなくとも助からないでしょう」
(・(エ)・)「そうだな。……ただの盗賊ならそれで構わない。だが、馬に乗ってた事がな。奴等の素性が少しでも分かれば良かったんだが」
そう言うとまたため息をついた。
(・(エ)・)「それに加えてこの襲撃だ。戦が始まるかもしれん」
/^o^兵\「それはないでしょう、他国へ侵略すればどうなるか、少し考えれば分かります」
(・(エ)・)「そうなんだがな。過去何人か狂王がいたのは事実だからな」
/^o^兵\「門兵長、準備完了しました」
若い兵士が目の前まで来ると大きな声で報告をする。
手を挙げて答えてから門兵が並び終わるのを確認すると、門兵長は慣れた様子で一団を二つに分ける。
そして静かな夜に似合わぬ、金属のぶつかる音を立てながら、瞬く間に闇の中に消えていった。
その様子から、この集団の錬度が相当であることは明らかだった。
自分の前に誰が居て、後ろに誰が居るか。そんな事には影響されず、どこに誰が居ても決まった動きを間違いなくこなす。
そんな完璧な集団の整った足並みから、僅かに外れていく人影が一つ。
訓練された彼ら故に、その一つの存在を認識できないままどんどん進んで行く。
区画の中ごろに着く頃には完全に集団から離れ、誰にも気づかれないまま路地へ潜り込む。
/^o^兵\「いや、本当にう、まくいって良かった。いくら釣りの代わりにしてもやりすぎだな、これは」
緊張からか、息は荒い。男は必要以上に目深に被っていた兜を脱ぎ捨てると、ずるずると腰から落ちて座り込んだ。
(,,゚Д゚)「釣りは返したんだから、後はそっちで何とかしてくれよ」
ギコはびっしりと額に浮かび上がる汗を拭いながら呟いた。
悔やむのだって後で良い。
今、なにより優先すべきは彼を生かす事。
頭ではそう思っていたが、感情がついて来ない。
すでに、何度か悲鳴とも取れる声を上げ、涙が止まらない。
少し離れたところで、背中に注意を払ってアオが走る。馬上のブーンの腹には門兵長の投げた槍が深々刺さり、背中を赤く染めていた。
(^ω^ )「シュー、これを。……ブーンは字が読めなかったけど、シューならきっとうまく使えるお。……きっとこの先、一人になっても役に立つお」
ブーンが力なく、懐から取り出したのモノは地図だった。
アカを近づけ一度見ただけだが、シューにはそれがかなり精巧なものに感じられた。
店で見た一般人向けのものよりもずっと細かく、騎士や有力商人用のものに近い。
こんなものをどこで手に入れたのか。
そんな疑問が浮かぶよりも先にシューは怒声をあげていた。
lw´- _-ノv「ふざけないで。あなたは死んだらいけない。これから医者のいる町や村を探して診てもらう」
返事はなかった。
lw´- _-ノv「その傷じゃ、医者が診たから助かるなんて簡単な事は決してないわ」
シューが早口で話し続ける。
まるで話すのを止めればブーンが死んでしまうような感覚に襲われているかの様だった。
lw´- _-ノv「だから、諦めたら絶対に助からない。諦めなくても助かるかどうかなんて分からないのだから」
(^ω^ )「……でも、ちょっと難しいお。もう、痛みも、感じなくなってきたお」
lw´- _-ノv「死なない。死んだらいけない。あなたがもし、死んだなら」
シューはアカの腹を片足で強く叩き、アオとの距離を近づけさせると声を今まで以上に張り上げる。
lw´- _-ノv「私はこの子達を連れて、あの人形みたいな門兵の親分に復讐してやるわ。きっとすぐに私達は殺されるでしょうけど、必ずあいつも殺してやるわ」
(^ω^ )「……それはちょっと、困るお」
lw´- _-ノv「なら諦めないで、絶対死なないようになさい」
弱ったニシカワを連れ、医者の居そうな大きな町にするか、とにかく近くの村を目指すかシューは迷った。
「ツダみたいな国で有数の街の近くでは、町や村は発展しないんだよ。大樹の周りじゃ木は育たないものね」
ビイグルが昔話していた事が頭に浮かんでいた。
lw´- _-ノv「……早くしないと」
ニシカワはアオの首に体を預けたままの格好になり、徐々に体から生気が抜けていくのが見てとれる。
シューは姿勢を崩しそうになりながら、できるだけ急いで地図を開く。
lw´- _-ノv「しばらく、できるだけ平らな場所を走って」
理解できるか分からないが、アカそう伝えて視線を地図へ向けた。
月明かりが当たるよう角度を調節しながら、ツダに近づかない方向で、できる限り近い町か村を探す。
lw´- _-ノv「あった。ヤクエン……小さい。でも他の町は」
ヤクエンと書かれた村は周囲の町はもちろん、村よりも一回り以上小さく描かれていて、地図上では名前が振っていなければ見逃してしまうほどの大きさで記されていた。
ただ、それでもそこに賭けるしかない。ヤクエンよりも大きなモノはどれも倍以上遠くに位置していた。
シューは地図をもう一度良く見て、進む方向を確認する。そして目印を見つけると、慎重に地図を懐にしまう。
両手を手綱に戻したところで緩やかな曲線を描くように進路を変え、ニシカワを励まし、祈りながらシューは進んでいく。
第八話 終わり
(・∀ ・)「いやね、私最近文字を覚えてきまして」
( ・3・)「あら素敵。でも、私も計算を覚えてきました」
(´・_ゝ・`)「毎日きつい剣の修練にも励んでるしな」
(・∀ ・)「成長してるな」
( ・3・)「成長してるね」
(´・_ゝ・`)「まぁ、元々何も知らなかったしできなかったから」
(・∀ ・)「極めつつあるな」
( ・3・)「あるね」
(・∀ ・)「ところでさ、大切な話があるんだ」
( ・3・)「申してみ」
(・∀ ・)「ネーヨさんが二人いるみたいになっちゃってるんだわ」
( ・3・)「あー、二人なー」
(´・_ゝ・`)「え?」
(・∀ ・)「それでさ、訂正したいんだけど」
( ・3・)「訂正な」
(´・_ゝ・`)「え?」
(・∀ ・)「別の話で出てきた人、あの人良く見たらネーヨさんじゃなかった。うん」
( ・3・)「たしかに、たしかに」
(´・_ゝ・`)「……なにそれ」
(・∀ ・)「あの人はエクストさんでした」
( ・3・)「知ってた」
(・∀ ・)「やっぱし?」
( ・3・)「うん」
(´・_ゝ・`)「こいつら……」
(・∀ ・)「変な話ここまで」
変な話 終わり
|/゚U゚|「よし、今日はここまでにするか」
ニンジャが木刀も下ろし右手で額の汗を拭う。
(´・_ゝ・`)「ありがとうございました」
向かい合うデミタスからは滝の様な汗が滴っている。
(・∀ ・)「いやいや、最後は惜しかったな。あと少しニンジャさんが悪手でお前が好手を出してればあるいはって感じだった」
( ・3・)「まだまだだな。そもそも、まだ利き手じゃないしな」
(・∀ ・)「そう言うなよ。相手は国でも五指に入る腕なんだろ」
( ・3・)「イヨウさんがそう言ってたけどな。実際に試合を見た事があるわけでないし」
(=゚ω゚) 「さぁ、次は勉強だよ」
ぼるじょあが言い終わる前にイヨウが道場の戸を勢い良く開いた。
そのイヨウの話が終わる前にまたんきとぼるじょあが駆け出す。
(=゚ω゚) 「いやね、君達の成長が著しくて僕も力が入っちゃうよ」
イヨウが「よいしょ」とデミタスを立たせる。
(=゚ω゚) 「これからは君らにこの家を引っ張ってもらわないとね」
(´・_ゝ・`)「……えっ」
デミタスの口から声が漏れたが、イヨウは笑っているだけだった。
ξ゚⊿゚)ξ 「勉強が嫌で逃げ出した馬鹿二人を捕らえました」
デミタスの汗が引いた頃、縄を曳くツンがツンが道場の入り口に現れた。
その縄の先にはまたんきとぼるじょあが繋がれている。
(=゚ω゚) 「よし、今日はここまでにしようか」
イヨウが本を閉じて大きく息を吐く。
(´・_ゝ・`)「ありがとうございました」
またんきとぼるじょあは、顔から机に倒れこんだ。
(=゚ω゚) 「今日のは難しかったかな。でも、二年と少しでここまで来たのは驚きだし、もう立派に丁稚としてはやっていけるね」
(´・_ゝ・`)「本当ですか」
そう尋ねるデミタスの声は嬉しそうだ。
(=゚ω゚) 「本当さ。それに君らは丁稚じゃなくて兵士なんだからさ。腕だけじゃなく頭も使える人材なんてそうは居ないね、うん」
イヨウもそれに嬉しそうに答える。
そのやり取りの中、またんきとぼるじょあの顔が徐々に上がっていく。
(・∀ ・)「まぁ、確かにあの三人に比べてたからなぁ。普通に考えたらなかなかすごいよな、俺達」
( ・3・)「あぁ、間違いないな」
(=゚ω゚) 「うん、間違いないんだ。だから、そろそろだね」
(´・_ゝ・`)「なにがそろそろなんですか」
イヨウがわざとらしく咳払いをしてみせる。
(=゚ω゚) 「君達もただの兵士見習いとしてでなくて、商家の兵士として働いてみても良い頃かなって」
(=゚ω゚) 「色んな村や町を回ってあれを買ってこれを売って、色んな契約を結んで情報を集めてって、公家や武家じゃまずない仕事だよ」
日が傾いた頃、イヨウの屋敷が少し賑やかになる。
今年、イヨウの家に来た少年達がそれぞれの言葉で、数日の仕事から帰ってきた兵士を迎えていた。
( ´_ゝ`)「ただいま戻りました」
屋敷に着くなり、イヨウの部屋に入るオトジャは皮鎧と刀を取っただけの旅装束のままだった。
(=゚ω゚) 「はい、お帰りなさい」
( ´_ゝ`)「えぇと、今回の内容ですけど」
ナイトウとモナーが横に並ぶとすぐにオトジャが口を開く。
しかし、両手を胸の前に突き出したイヨウがすぐに制止した。
(=゚ω゚) 「まぁま、それは後で良いからさ」
三人が意外そうな顔をしたが、イヨウは気にせず三人を自分の前に座らせる。
(=゚ω゚) 「おうい、飲み物をお願い」
ほとんど同時に茶を持ったデレが入ってくる。
(=゚ω゚) 「さぁ、飲んで飲んで。最近扱い始めたものなんだけど、結構おいしいんだよ」
( ^ω^)「おっおっ」
イヨウの様子は明らかにおかしかった。
いつもなら何よりも先に仕事の結果を尋ねてくる。
それが三人の知る、数少ないイヨウの、商家らしい部分だった。
もっとも、その理由が金でない辺り、やはり商家らしくはないとも思っている。
自分の用意した条件で相手は納得したか、相手が自分と取引した事で周囲の生活は楽になりそうか、そんな事ばかりが中心になった。
この数年の間で、イヨウが商売の対価として真に欲しいものは金ではないのだと三人は理解していた。
相手が騎士であれば、必ず領民に卸す価格を指定する。
そういった契約をする商人は少なくないが、それが安く、売る側の利益を少なく設定するのはイヨウ以外には僅かだ。
その誰もが変人と言われるし、イヨウがそう言われているのを外で何度も聞いた事がある。
しかし、そんな騎士の元に居る事が、いつの間にか心地よく、誇りでもあった。
(=゚ω゚) 「実は君達に話があるんだ。話って言うか相談かな、うん」
(=゚ω゚) 「王都に行く気ないかな」
何度か口を開いては閉じを繰り返してからイヨウが言う。
( ´_ゝ`)「王都ですか?」
(=゚ω゚) 「そう、ツドにさ」
(´∀`)「仕事なら当然行ってくるモナ」
(=゚ω゚) 「いやね、仕事ではないんだよ」
その後に「まぁ、僕のためにはなるから仕事っていったら仕事なのかも」とイヨウが続けた。
( ´_ゝ`)「……どういう事でしょう」
(=゚ω゚) 「うん、話すと長くなるんだけどさ」
イヨウが三人に茶を促す。
(=゚ω゚) 「まず、国っていうのは王だけいても成り立たないけど、王がいないのも結構困るんだ」
(=゚ω゚) 「まぁ、王が居る事を前提に政治やらなんやらができているのが大きなところなんだけど」
(=゚ω゚) 「だから、この国を良く思わない人や国が狙う対象として王はものすごく効率が良い」
(=゚ω゚) 「そりゃあ、一人消すだけで国を傾けられるんだからさ」
( ^ω^)「王様は危険って事かお」
(=゚ω゚) 「そうだね。それで、王に危険が及ばない様にするとしたら、皆で守るしかないよね」
(=゚ω゚) 「敵対してる勢力をどうにかするのも良いけど、根こそぎ危険を摘み取れはしないだろうしさ、現実的に考えて」
(=゚ω゚) 「で、話は変るんだけど王は常に身辺に院家っていう兵士達に守られている。この院家ってのは王に絶対の忠誠を誓っている集団ね」
(´∀`)「たしかに、周りに居る兵士に裏切り者がいたら警護が厳重でも危険は多いモナ」
(=゚ω゚) 「だから周りに置くのは院家だけなんだ。だけど本当に信用できる人間なんてそういない」
(=゚ω゚) 「でも院家だけじゃ絶対的に数が足りないから、それ以外は王とは直接の接点の無い場所で王の身辺を守る。厳密に言ったら王ではなくて王都を守るって感じになるかな」
(=゚ω゚) 「ちょっと話がそれちゃったかな。それで話は戻るんだけど王都に行くのはどうかなって思うんだ」
イヨウが茶をすする。
それが喉を通り過ぎたのを見計らってオトジャが口を開いた。
( ´_ゝ`)「仕事じゃないんですよね」
(=゚ω゚) 「うん、そうなるね」
(´∀`) 「仕事じゃないなら遊びかモナ」
(=゚ω゚) 「もちろん遊びじゃないよ。……うぅん」
どう表現するのが適切か、イヨウが腕を組み思案している。
(=゚ω゚) 「正確に言うと、うちの仕事じゃないって事かな。君達が王都に行くとなると、イヨウ家の兵士じゃなくなるんだよね」
( ´_ゝ`)「私達は役に立ちませんでしたか」
オトジャの声は冷たい。
(=゚ω゚) 「……いや。君達を手放すのはすごく辛い。本当の事を言ってしまえば、君達にはずっと、君達が嫌だって思うまで居て欲しいんだよね」
珍しく低い声と、ゆっくりと首を振るイヨウの様子は三人を信頼させるに足るものだった。
( ^ω^)「ならどうしてなんだお」
(=゚ω゚) 「王都の門兵はさ、数年毎に各家から推薦者を募って作りなおされる」
(=゚ω゚) 「信用の置けるものでも定期的に入れ替えて任に着かせる。そうした方が、王や王都にとって危険が少ないらしいんだよね」
イヨウが、いつの間にか三人の後ろに立っているニンジャに「何でだろうね」と言って首をかしげる。
(=゚ω゚) 「……それで、推薦をする条件として、読み書きと数字を扱える事に兵士として二年以上経験。あと現在の王都門兵でない事」
(=゚ω゚) 「これだけの人材、普通に考えればわざわざ手放して王都にやろうって騎士はいないんだけどね。まぁ、見返りとしては王の覚えがとても良くなる事と出世に役に立つかもしれないって事がある」
(=゚ω゚) 「でも、それを天秤にかけても普通に考えるとなかなか推薦はしない。だから毎回、健康な若者ってくらいの条件で再度募集が掛かる」
そのあとに「もちろん、それでも採用されるのはある程度家系の辿れる位の家に限定されるけどね」と付け加えた。
( ^ω^)「どうして、イヨウさんは王都に行かせたいんだお」
一瞬、イヨウの表情が暗くなった。
(=゚ω゚) 「商家としては行かせたくない。絶対にね。君達はとても有能だし、そう簡単に代わりになれる人なんて居ない」
(=゚ω゚) 「いや、一人の騎士だとか、雇い主だとか抜きにしても、本当は行かせたくはない。だってほら、家族に代わりなんて居ないでしょ」
( ´_ゝ`)「……なら」
オトジャが身を乗り出すと、イヨウが手の平を見せ優しくそれを静止する。
(=゚ω゚) 「でも、君達の事を考えると、送り出すべきなんだ」
(=゚ω゚) 「君達の目的が何かは知らない。君達が言うまで知るつもりもないし、なにより、それは僕にとってはどうでも良い事だからね」
(=゚ω゚) 「大事なのは、大事な君達の目的だから、それを何より尊重すべきって事だけ」
イヨウが音を立てて茶をすする。
(=゚ω゚) 「騎士になりたいんでしょ」
(´∀`) 「どうして知ってるモナ」
ひねり出したモナーの声からは驚きの色がうかがえる。
三人はこれまで「騎士になりたい」とイヨウの前で口にした覚えはなかった。
商家の兵士が、騎士になるという事。それは普通に考えれば商家の騎士として、国中の金を取り合うイヨウの敵になる。
これ以上に無いと思えるほど良くしてくれる恩人に対し、とても言えるもので無かった。
(=゚ω゚) 「いやさぁ、やっぱりいきなり強いお酒を若い子に飲ませるのは良くないよね。顔を真っ赤にして、呻くように『必ず騎士になる』って言って寝ちゃったからね」
(=゚ω゚) 「でも、本気なんでしょ」
前を見たまま、三人が「はい」と答える。
(=゚ω゚) 「うん、なら決まり。……おーい、準備をお願い」
ζ(゚ー゚*ζ「はーい」
言い終わるのと殆ど同時ににデレが入ってくる。
紙をイヨウに渡し、振り返ったデレの目はいつもより赤い。
(=゚ω゚) 「……まず、王都で門兵として働く。これが一般人が騎士になる上で絶対必要な事だよ」
まだ三人は、騎士になる事と王都に行く事が繋がっていない。
だが、それを忘れていた事をイヨウの言葉で思い出しハッとする。
すみません。単純に文字にするのがとても遅いからです。
時代考証なんて大層な事まで手が回りませんが、できるだけ不整合の起きないように今後の事を妄想程度はしてます。
なので頭の中だけではサクサク進んでおります。
(=゚ω゚) 「騎士の特権の一つで親族を自分の跡目にする事ができるんだ。まぁ、今は殆どが世襲だから君達も知っていると思うけど」
(=゚ω゚) 「これが一番簡単で、多い騎士になる方法だね。……実は、それ以外にも騎士になる方法があってね」
イヨウが少し笑って見せる。
(=゚ω゚) 「王の推薦。これがあれば間違いなくなれるね。騎士に」
三人の顔からははっきり落胆の色が見える。
(´∀`) 「そりゃあ、王様が言えばなれるだろうけど、簡単に推薦してもらえるわけないモナ」
( ^ω^)「そうだお。騎士になるより王に推薦してもらう方が難しそうだお」
(=゚ω゚) 「いや、騎士になるにはこれくらいしか方法がないんだよ。もう一つあるにはあるけど、もっと大変でね」
少しの沈黙の後に、ため息をついてから話し出す。
(=゚ω゚) 「新しい騎士団を作るんだ。過去に商家がそうしたみたいにね。そうすれば十人の騎士を自分の手で決める事ができる。もちろん自分を一位の騎士にする事もね」
(=゚ω゚) 「でも、これは王を含めて他の騎士団の一位全員が認めないといけない。だから、全くもって現実的じゃないよね。自分達の力が相対的に減っちゃうんだから、もちろん嫌がるさ」
三人が期待しない様にとイヨウが早口で話した。
(=゚ω゚) 「それで、僕も遡れるだけ遡って調べてみたんだけど、少なくとも二桁は例があるみたいだよ。世襲以外で騎士になったのは。それに戦の時なんかは一度に何人もってのもあったみたいだし」
励ますようにイヨウが言う。
( ´_ゝ`)「……門兵をやると王の推薦が貰いやすくなるんですか」
(=゚ω゚) 「うん。どっかの地方の騎士の下に居ても王に憶えられるなんて事はそうそうないだろうしね。僕の調べた限りでは、戦で名を売った人以外は全員が門兵経験者だったよ」
(=゚ω゚) 「つまり、今の時代で騎士になるにはやっぱり門兵が一番って事だね。もちろん、殆どの門兵は騎士になれないけどね。ただ、何もしないよりはずっと良いね」
( ^ω^)「ありがとうですお」
ナイトウが頭を下げる。
すぐにオトジャが続き、少し考えた素振りを見せてからモナーも続けた。
イヨウが何度か頭を上げる様に言い、ようやく三人が真っ直ぐ立つ。
(=゚ω゚) 「……一応聞くけれど」
それぞれの顔をゆっくり見てからイヨウが話し出した。
(=゚ω゚) 「金を稼ぐだけなら、商人でもできる。特に君達だったらすぐにでも任せたい店や販路もある。……だけど、それだじゃ、だめなんだよね」
三人が頷いた。
/^o^兵\「それじゃあ、後は頼んだぞ」
そう言って先任の門兵が背中越しに手を振って離れていく。
( ´_ゝ`)「これが引継ぎですか」
( ^ω^)「下総の区画を一周しただけだお」
(´∀`) 「……ちょっと文句言ってくるモナ。こんなんじゃとても守れやしないモナ」
どんどん離れていく背中に向けてモナーが向かって進む。
(・(エ)・)「止めた方が良い」
同時に肩を抑えられてモナーが後ろに仰け反った。
(・(エ)・)「彼らはわざとやっているんだ」
男が倒れない様にモナーに手を添える。
王都の門兵としてやってきた三人は、すぐに一つの部屋に連れられた。
それから、一刻もしないうちに部屋の中には同年代であろう十五人が集まる。
さらに一刻後、待たせた事に悪びれた様子もなく来た男がその場で説明したのは、自分達が守るのが下総の区画である事と失敗は許されないという事だけだった。
/^o^兵\「最後に引継ぎだ、着いて来い」
そう言って出た「引継ぎ」というのも、有力者の屋敷を周る道順を伝えるだけのもので、それ以外の情報は一切与えられなかった。
新たに王都下総区画を守る若者達の怒りが、今にも爆発しそうであったところに「後は頼む」と、無責任に王都を守る任を放り出した。
モナーが大袈裟な素振りを見せなければ、他の誰かが駆け出していただろう。
(´∀`) 「……どうして止めるモナ」
モナーが大袈裟ともとれる身振り手振りを混ぜる。
(・(エ)・)「この代の下総区画の門兵には有力者の子息がいない。だから彼らは我々に気を使う必要はない」
男は大袈裟な動きは見せないが、十分周囲にも届く声で話す。
(・(エ)・)「それどころか周りの区画に来ているであろう、有力者達の子息の活躍を目立たせるために我々に失敗をさせる様に金でも握らされているかも知れない」
(´∀`) 「じゃあ、どうしようも無いって事かモナ」
モナーが力なく腰を下ろす。
それを見た周りの若者達は「あいつ等の思い通りになってたまるか」と周りの住人に重要な場所や不安な事が無いかを聞きはじめる。
今後、自分達の拠点となる兵舎に戻り、改めて今後の事を話し合う。
その中心に居るのは自然と、兵士としての経験のある四人になっていた。
門と区画内の警備は十二人を三組に分けて担当し、残る四人一組は兵舎で休みを取る。
少ない人数で門兵として働きながら四日に一度は各組が休みを取れる様にと、クマーが考えた案に反対する者は誰も居なかった。
(・(エ)・)「各組四人で一日を回すのは厳しいだろうが頑張ってくれ」
( ´_ゝ`)「そうなると、組の中でも交代で一人ずつ休ませて、警護は三人で行う形ですかね」
( ^ω^)「三日続けて働くなら、そうでもしないと無理だお」
(´∀`) 「少しの間ならこれでもなんとかなりそうモナ。ただ、長期的に考えたらちょっと現実的じゃないモナ」
(・(エ)・)「そうだな。できるだけ早く人を増やす必要がある」
( ´_ゝ`)「そうなると肝心な……。私達の使えるお金ですけど」
オトジャが先任の兵から渡された資料の中から、一枚の紙を取り出す。
( ´_ゝ`)「えぇと。……金判七枚ですね」
兵士の様な危険を伴う仕事をしても、手にする事の無いであろう金判という言葉を聞き、周囲の若者達から声が上がる。
(・(エ)・)「だが、その全てを我々の金にはならないだろう」
( ´_ゝ`)「えぇ。仕事に必要なものを買い揃えるのも、ここから出す必要があるとも書いてありますし」
(・(エ)・)「……それに」
落ち着かせようとする二人の言葉を耳にしても、まだ兵舎の中はざわついている。
(・(エ)・)「皆、聞いてくれ。今後の事を考えると、我々は圧倒的に数が足りない。私はこの金を使ってさらに四人、門兵を雇うべきだと思う」
(´∀`) 「……それが妥当だモナ」
文字を扱える四人以外もその言葉には敏感に反応し、不満を口にするわけではないが空気が張り詰める。
(・(エ)・)「だが、それでもまだ余裕はある。残りの金を等しく分けても銅判五枚は約束できる」
(・(エ)・)「いくつかの田畑を耕しても手に入るのは月にするとせいぜい三枚、これはそれよりも十分多い。兵として働く危険に見合うものであるだろう」
クマーが背を向けたまま、輪の外にいる若者達に対して言った。
王都も門兵が一斉に入れ替わり一月が経った。
(´∀`) 「他は特に無いモナ」
月の初日に各班で起こった事を報告する場を持とうと、クマーが設けた場に四人が集っている。
そこで最後の一人のモナーが話を終えた。
きれいに五月雨式に組んだ仕事のおかげで四人がこうして揃うのも一月振りなる。
それだけに色々と話したい事があったが、まずは仕事と難しい顔を突きあわせていた。
(・(エ)・)「やはり、うちの班だけじゃなかったか。何をしても感謝されるのは」
( ´_ゝ`)「そうですね。全く、嬉しさよりも嘆かわしさの方が強いです」
それぞれが、ため息をついた。
( ^ω^)「前の兵は本当に何もしていなかったみたいだお」
(・(エ)・)「おそらく、騎士の屋敷の周囲の見回りと出入りの管理くらいだろう」
(´∀`) 「多分それで合ってるモナ。王都でこれだけ盗みがあったなんて、普通に考えたら理解できないモナ」
モナーが四人の輪の真ん中に置かれた紙束を指で叩く。
(´∀`) 「番兵を置けない様な店の多くが被害にあってるモナ。ここにある分以外はきっともう処分されてるから全部は把握できいないモナ」
( ´_ゝ`)「兵舎の裏には、資料を燃したと思える灰もありましたしね」
オトジャがまた大きなため息をついた。
( ^ω^)「最初は驚いたお。普通に見回りとしているだけで不思議な目で見られるし、何か困った事は無いか聞けばどうしてそんな事をって言うんだお」
クマーが渋い顔で天井を睨む。
(・(エ)・)「おそらく、何年も録な門兵が居なかったんだろう。住人もすっかりそれに慣れてしまっている」
(´∀`) 「多分戦が無い事、それと他の街より圧倒的に多い番兵のおかげで、運良くこの程度で済んでたモナ」
( ´_ゝ`)「でしょうね。でも、その土壌があるからこそ腐ったとも考えるられますけど。何にせよ、我々が普通にしているだけで非常に評価されるんです。全部が全部悪いわけじゃない」
肩をすくめたオトジャが言った。
(´∀`) 「たしかに、この短期間で驚く位に門兵として受け入れてくれた感じはあるモナ」
(・(エ)・)「そうだな。本当は喜んではいけないんだろうが、今はこの状況に感謝しよう」
クマーが緊張を解くように、座ったまま背を伸ばした。
(・(エ)・)「正直なところ、俺はかなりの不安を抱えていた」
(・(エ)・)「三つ区画のうちの一つとはいえ、いくつもある大きな屋敷には我々よりもずっと手だれの番兵がいるとはいえ、街の中央には王直参の兵がいるとはいえ」
クマーが手の平を拳で打つ。
(・(エ)・)「民の命や生活を、門兵の皆を守れるのか」
一度、口を閉じたクマーの方へそれぞれが体を向けなおす。
夜間の外出が禁止されている王都、その静けさを改めて感じながら三人は続きを待った。
(・(エ)・)「……だが、今は大分楽になった。その土地の、街の人に認められたんだ。門兵としてこれはとても大事な要素だ」
(・(エ)・)「状況は悪くない。我々ならこの区画と民も仲間も守れるさ」
( ^ω^)「そうだお」
クマー自身に言い聞かせるかの様な言葉にナイトウが同意する。
それとは別にモナーとオトジャは難しそうな顔を浮かべている。
(´∀`) 「ちょっと、良いかモナ」
モナーが咳払いの後軽く手を挙げて注意を引いた。
(´∀`) 「今のままでも絶対無理って事は無いと思うモナ。でも、より確実に、……正直なところ、多少楽するために贅沢を言うとだモナ。各班にもう一人ずつくらい増やせると助かるモナ」
( ´_ゝ`)「私も同意見です。理想を言えば文字が扱える人でしょうか。今の体制だと我々の身に何かあれば、途端に全体が崩れかねない」
(・(エ)・)「そうだな。たしかに殆ど休みなく働き続きなうえ、何かあれば武器を振るって街を守らなければならない」
クマーが右手で顎をさする。
(・(エ)・)「弱音を吐くわけではないが、この先一年、二年とそれを続けられるかというと難しいだろう」
(・(エ)・)「ある程度落ち着いてから、と考えていたが。なるほど確かに、今の状況なら考えても良いかもしれないな」
( ^ω^)「そうなると、やっぱり王都で募集かお」
(・(エ)・)「あぁ、募兵のためにここを空けて行くわけにはいかないだろう」
( ´_ゝ`)「志願者もこの中、王都に居るんですから読書きは期待できそうですね」
オトジャの声には明るい感情が込められている。
(´∀`) 「それはそうだろうけど、そもそも志願者が居ればだモナ」
モナーが付け足すと深いため息をつく。
( ^ω^)「……皆は来ると思うかお」
(・(エ)・)「どうだろうな。俺なら来ないだろうか。他の場所ならまだしも王都で暮らしていた人間が、門兵に志願するというのはあまり想像できないな」
(´∀`) 「生活に困っているわけでもないのに、わざわざ危険に飛び込むって事は普通しないモナ」
( ´_ゝ`)「私は、……可能性は少なくないと思うんですよ」
予想外の言葉に全員がオトジャの顔を見る。
オトジャは人差しで虚空に何かを描きながら話しだした。
( ´_ゝ`)「王都に暮らしているのは全員が国の中でもそれなりの出自でしょう」
「あぁ」とクマーが頷いた。
( ´_ゝ`)「でも、だからといって良いところの子ってだけで全員が楽に暮らしていけるわけじゃない」
( ´_ゝ`)「競争の無い場所に居られるのは、身分やら家柄が高くないと難しいと思うんです」
「昔よりも、です」オトジャが後に続けると、モナーが少し開けた口を閉じた。
( ´_ゝ`)「今は成り上がりの商人は珍しくない。彼らはとても勤勉で何でも意欲的で、位の高い人間にできない事や思いつかない事をどんどん実現していく」
( ´_ゝ`)「そうして気づけば有力者たちの構図をどんどん変化させていった。私の知っているここ数年だけでもです」
( ´_ゝ`)「私達はそんな人たちにたくさん会ってきました」
ナイトウとモナーが誰かの顔を思い出す様な遠い目を浮かべる。
( ´_ゝ`)「……もちろん、それ以外の理由はあるでしょうが。その結果として生まれているであろう、将来が完全に約束できない位置にいる人たち」
( ´_ゝ`)「そんな人が来てくれると思うんです」
(・(エ)・)「オトジャは誰がそれにあたると考えているんだ」
( ´_ゝ`)「騎士や元騎士の遠縁や、そこそこの商人の家。さらに言えば、そこの次男や三男でしょうか」
( ´_ゝ`)「継ぐ家や家業の無い人にとってここはそれなりに、検討するに値する場だと思うんです」
(´∀`) 「なるほどモナ。たしかに、ここならきっと身の危険は無いモナ」
(´∀`) 「坊ちゃん達には王都の兵として守ったっていう箔が付くし、どこぞの騎士やら大商人が今のよりいくらか良い待遇で雇われそうだモナ」
(・(エ)・)「我々にも悪くないな。有力者とのつながりができるかもしれないわけだ」
( ´_ゝ`)「えぇ、私はなかなか良い手じゃないかと思うんです」
オトジャが力強く頷く。
閉門日は数少ない門兵達の休日になる。
過去に王都が様々な敵に攻められた日。
翌年からその日は、たとえ騎士であっても門を開ける事は許されなくなる。
月に閉門日が無いのは一年通して二度しかない。大抵の月に一日は休みがある事になる。
当然、門に関する仕事以外は通常通りだがそれでも他の日と比べれば断然負担は軽い。
門兵にとっては別班の仲間と酒を飲みに行ったり、親しくなった街の娘に会いに行ける数少ない日であった。
その貴重な休みにナイトウ、モナー、オトジャは兵舎の裏から木材を運び出していた。
( ´_ゝ`)「門を背にする形で良いですよね」
(´∀`) 「良いと思うモナ。あんまり奥でやってお偉いさんに何か言われるのも面白くないモナ」
( ^ω^)「なにより近いのが良いお」
両手に木の板を抱えのろのろと進む。
ここでの生活でまた一回り体つきはしっかりしてきたが、うまく掴めない木材相手ではなかなかうまく生かせない。
/^o^酒\「お、門兵さん達」
眠そうな男が三人を見つけると親しげに片手をあげて寄ってきた。
( ^ω^)「おはようだお」
/^o^酒\「これから人集めかい」
( ^ω^)「そうだお。酒場のご主人は今帰りかお」
/^o^酒\「あぁ、やっと片付けが終わったとこだよ。人集めの件、たくさんくると良いな。うちも、ちゃんとお客に宣伝しておいたからな」
( ^ω^)「ありがとうだお」
/^o^酒\「その代わり、うまくいったら高い酒いれてくれよ」
酒場の主人は杯をあおる真似をする。
( ^ω^)「まかせるお」
兵舎から門までの短い道中で何人もに声を掛けられ、気づけば後で店に行く約束を三つも結んでいた。
(´∀`) 「皆が協力的で助かるモナ」
( ^ω^)「まったくだお」
ちょうど一月前に募兵の実施を口づてに広めた。
一月でどれだけの人の耳に入るかが不安だったが、門に着くころには大分薄れていた。
閉じた門の前に着くと、三人それぞれが手に持った木材を降ろしていく。
慣れない作業に苦労しながら、なんとか開始の時間を告げる鐘より早く組み上げる。
(´∀`) 「よし、準備できたモナ」
( ^ω^)「さっそく始めるお」
( ´_ゝ`)「実際のところ、来てくれますかね」
オトジャが即席で作った机の傾きを調整しながら呟いた。
(´∀`) 「なるようになるモナ。来ても、来なくてもだモナ。希望者なしだって今より悪くなるわけじゃないんだモナ」
モナーがどっかりと、椅子として使うために運んできた木箱に腰を下ろす。
( ∵)「失礼します」
声とほとんど同時に正午を告げる鐘が鳴った。
( ∵)「こちら、募兵の受付でよろしいでしょうか」
机の前で背筋をまっすぐにのばした青年がまっすぐにモナーを見つめる。
いきなり現れ、不自然な程にはきはきと話す青年に気圧されたモナーは、頷くだけで答えて見せる。
( ∵)「ビコーズと申します。是非、門兵に加えて頂きたく参りました」
青年は今にも机を飛び越えそうなくらいに身を乗り出す。
鼻の先が触れそうな程近づいてきた分、モナーは後ろにのけぞって距離を開ける。
(´∀`) 「……あぁ、そうモナ」
希望者が来た安堵よりも、青年の言葉や所作に対する驚きが強かったのかモナーの態度はかなり素っ気ないものになっている。
( ^ω^)「それじゃあ、これに名前を書いて欲しいお」
( ∵)「承知しました」
青年の体がまたまっすぐに戻る。
モナーは「助かったモナ」と呟いてナイトウに乾いた笑顔を見せた。
それを気にする様子もなく、差し出された紙へビコーズが名前を書き出す。
均整のとれた、美しい字だ。
それを見て三人が目だけで会話をする。
「合格」
口にはしないが全員の考えは一致していた。
(´∀`) 「ビコーズ……君。数字は扱えるかな」
( ∵)「ビコーズで結構です、先輩」
筆を止め、体をモナーの方に向けてから口を開く。
( ∵)「教養として一応は身につけております。ただ、それで商人の様に生きていけるかとなると不安はあります」
(´∀`) 「いやいや、それで十分だモナ」
三人がまた目で会話し、深く頷く。
(´∀`) 「ならとりあえず簡単な説明だけでも済ませるモナ」
兵舎で簡単な話しをしようと言いながらモナーが席を立つ。ビコーズは大きな声で「よろしくお願いします」言いながら深く頭を下げ、またモナーを困らせていた。
( ´_ゝ`)「なら今度は私が」
そう言ってオトジャが空いた木箱に腰を下ろした。
( ´_ゝ`)「せめて角の丸い木材でもあれば良かったんですけど」
角ばって固い、座り心地の悪い木箱の上で少しでもマシな態勢を探して何度も座りなおす。
( ∴)「失礼します」
その作業を、短く大きな声が中断させた。
( ´_ゝ`)「……あぁ、はい。なんでしょう」
「よいしょ」と、顔をあげた先には背筋をまっすぐにのばした青年がまっすぐにオトジャを見つめていた。
( ∴)「こちら、募兵の受付でよろしいでしょうか」
( ´_ゝ`)「はい、そうですよ」
商人として働いていた時に身に付けた笑顔。
それがこんな場面でも自然と表に出てきていた。
それに気がつくと、今度はそれが可笑しくて作った笑顔が本物に変わった。
それからすぐに驚いた顔へと移る。
( ´_ゝ`)「……ビコーズ君」
口にしながら「そんなわけがない」と思い、声は消え入りそうな小ささになった。
少し瞳を動かせば、視界にはモナーと一緒に歩くビコーズの背中が見える。
( ∴)「いえ」
対照的に、前に立つ青年は無表情のまま答える。
その様子がまたビコーズに似ている。
( ´_ゝ`)「いや、申し訳ないです。君に良く似た人に会ったものでして」
わざとらしく座りなおし、気を落ち着ける。
何から話せば良かったか。
消え失せていた、頭の中で想定していた流れを素早く描きなおす。
( ∴)「ゼアフォーと申します。是非、門兵に加えて頂きたく参りました」
( ´_ゝ`)「え、えぇ。そうですよね。うん」
両手を胸の前でポンと叩く。
( ^ω^)「それじゃあ、これに名前を書いて欲しいお」
( ∴)「承知しました」
ナイトウがゼアフォーの前に紙を置くと、当然の様に文字を書き込んでいく。
( ∴)「……先ほど」
素早く書き終えたゼアフォーが言う。
書かれた文字は美しく、これもまた教養の高さを伺わせた。
( ∴)「ビコーズと、私に良く似た者に会ったとおっしゃいましたが。その者とはお仕事で会われたのでしょうか」
( ´_ゝ`)「いえ、彼も私たちと一緒に働きたいと来てくれたんですよ。ほんの少し前ですよ」
ゼアフォーは相変わらず無表情のまま「なるほど」と答え、紙を逆さにしてから差しだす。
( ´_ゝ`)「はい、確かに」
一度、二度と咳払いを繰り返す。
聞きづらい。そんな雰囲気は感じてはいた。
誰に対しても、何に対しても同じ感じなのかは当然わからない。
少なくとも、今のゼアフォーに対しては何か話しかけるという事自体がはばかられる。
それでも、不意に湧き出た興味には勝てなかった。
今後一緒に仕事をするのなら知っておく必要がある。
そう自身の中で理由づけてから切り出す。
( ´_ゝ`)「ビコーズ君とは知り合いなんですか」
短い沈黙の間、その場の三人は動かない。
( ∴)「知り合い、そうですね」
( ´_ゝ`)「瓜二つ、というわけではないと思うんです。ただ、雰囲気というんですかね」
( ´_ゝ`)「そう、背格好とか見た目なんかではない。それらとは別のものに近いものを感じたんですよ」
取り繕うように、早口で言う。
不自然だ。そう気がついたのは全て言い終えてからだった。
( ∴)「……確かに。そう思われるのも無理のない事かも知れません」
初対面の相手にこんな事を聞かれては気を悪くするだろう。
そんな風に気を揉んでいるところに、感情の読めないゼアフォーが答えを返してくれた。それだけでいくらか救われた気がする。
( ∴)「お互いの家。……私とビコーズの家は三代前まで辿れば、同じところに着きます」
( ´_ゝ`)「宗家と分家、ですか」
( ∴)「いえ。どちらも分家です。宗家は公家七位になりますが」
この場に、いくら王都とはいえ、その一区画の募兵に来ているという事で二人が分家である事はある程度予想はできた。
あるいは、さして大きな影響力を持たない家の宗家であるかのどちらかだろうと。
だが、騎士に連なる家である事は予想外だった。
予想外の事態に鼓動が加速していく。
最大限、自然な挙動を意識して額の汗を拭う。
それから助けを請う様にナイトウの方へ視線をやった。
彼も予想外だったのだろう、滝の様な汗を隠す様に背を向ける途中だった。
「ちょっと、ちょっと待って」
荷をまとめていると背中越しに大きな声が投げかけられた。
声の調子からは大きな焦りが感じられる。
( ´_ゝ`)「もしかして三人目でしょうか」
( ^ω^)「意外すぎたお。正直、一人くれば良いかと思ってたお」
( ´_ゝ`)「私もです」
募兵をすると触れて回った時、多くの人が協力的ではあった。
皆が客や知り合いに伝えておくと言ってくれた。
だが、その誰からも「どうせだれも賛同しないだろう」という口では言い表せない、雰囲気の様なものを感じていた。
長い間、壁に囲まれごく限られた人間以外は中に入ってこない。
この街の人が悪いわけではない。この街の文化が、何かを守るために戦う、武器を持つというものがないのだ。
それだけに、内側で募兵したところで成果があるかは疑問であった。
( ゚∋゚) 「もう募兵は終わりですか」
走ってきた男が、肩を大きく上下させて呼吸している。
( ´_ゝ`)「とりあえず一旦終わりにしようかと思っていまして」
( ゚∋゚) 「そんな。店で聞いた時間からまだそんなに経ってはいないでしょう」
男が日の位置に目をやり、指をさした。
( ´_ゝ`)「えぇ。ただ、すぐに二人集まったので」
( ^ω^)「募兵に来てくれたのかお」
( ゚∋゚) 「そうです。そうですよ」
( ^ω^)「おっおっ。じゃあここはブーンに任せて、オトジャ達は戻って報告しておいて欲しいお」
( ´_ゝ`)「……分かりました。じゃあ後で荷物を運びに戻ってきますよ」
兵舎への道中、色々な思いが頭の中を巡る。
ゼアフォーが終始無言であったのも考え事をするにはちょうど良かった。
最後の男が条件通りであれば、読書きのできる兵士が三人増える。
いつ駄目になるか、不安であった区画の守りにも希望が見えてきた。
戦のない時代とはいえ王都の守護が自分達に掛っている。
気がつけば両手は自然と拳を作っていた。
第九話 終わり
乙ニダ!
1.高慢 (Pride) 2.嫉妬 (Envy)
∬ ウェー、ハッハッハ ∧_∧,、, イルボンめ!
∫ ∧_,._∧ <#`Д ( (二( ̄ ̄○
~━⊂<. `∀´,>つ-、 /⌒\ / / |  ̄ ̄
/// ./_/::::::/ ./ \ / ノ
|:::|/⊂ヽノ|:::| /」 | /ー' '
/ ̄ ̄ ̄ ̄旦 ̄/| ( ト、
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3. 暴食 (Gluttony) 4.色欲 (Lust) 5. 怠惰 (Sloth)
Λ_Λ ', ' ' ガツガツ ∧∧ ウリナラ国技 働かなくてもケンチャナヨww
<* `∀´> < `∀´> レイプマンセーww デモしてゴネればいいニダww
( つ▽φ . _ (  ̄つ * ∧_∧ ∧_∧ *
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ /| |\ \ ̄∧∧ (´)丶`∀´>) (<`∀´ r >'') +
/ \犬/ \キムチ/ // ( ヽ,,,)( lll|)") + 〉 ノ * ヽ 〈 *
/ . └┘ .└─┘ .// > ⊆ ノ / / ヽ ヽ
⊂(_フ_____ノ
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6.. 強欲 (Greed) 7.. 憤怒 (Wrath)
賠償金おかわり! ファビョーン!!
! ̄ ̄ ̄ ,! ((⌒) , ,
ゝ__川ノ ヾ ヽ ド━ l|l l|l ━ン!⌒;;)
∧_∧ / / (⌒ヾ ∧_∧ ⌒)/) .,
< *`∀´>/ (⌒(;;;ゝ;;(⌒∩#`Д´>'') ,⌒); ))
「先生、ニシカワさん、さようなら」
小さな子供たちが口々にそう言って外へ駆けていく。
lw´- _-ノv「えぇ。転ばない様に」
頷きながら駆けだした小さな少女が、外に出てすぐに転んだ。
ため息をついた少し年上に見える少年がやさしく引き起こす。
砂を軽く払ってやり、今度は手を引きながら遠ざかって行った。
lw´- _-ノv「今日は泣かなかったな」
(^ω^ )「大分、先生も板についてきたみたいだお」
シューはまるで聞こえていない様に反応しない。
lw´- _-ノv「……まだ自分の名前、ニシカワにしておくのね」
(^ω^ )「おっおっ」
ニシカワが何も無い、空中へ視線を移した。
少し間を開けても、シューはまだ答えを待っている様子だったのを見てニシカワが続ける。
(^ω^ )「ブーンは誰かとあんな馬鹿な事をしたのは初めてだったお」
シューが「いつの事か」と言いたげだった。
(^ω^ )「ツダでしぃを助けに行った時だお。正直なところ、突っ込んだものの一人でどうにかするのは難しいと思ってたお」
(^ω^ )「でも、すぐに三人が来てくれたお。あんな騒動に加担して自分たちに得なんて一つもないのにだお」
(^ω^ )「もう会う事が無いとしても、そんな事があったと忘れたくないんだお」
lw´- _-ノv「あなたにとっても得なんて一つもなかったけどね」
(^ω^ )「おっおっ」
ニシカワは何も答えずに頭を掻くだけだった。
(^ω^ )「まぁ、そのすぐ後にした馬鹿な事はこれのおかげで忘れなくて済みそうだお」
腹のあたりさすって見せる。
lw´- _-ノv「傷は残ったのかしら」
(^ω^ )「当然だお」
lw´- _-ノv「そう」
(^ω^ )「肌の色は他よりいくらか黒ずんでいるし、触れば感触も全然違うお。でも、もう大丈夫だお。ブーンは生きてるお」
開いたままの戸を男が汗を拭いながらくぐる。
ヽ|・∀・|ノ「いやぁ、あの時は本当に驚いたよ」
入って来たのは二人よりも一回り以上年上に見える男だった。
背はニシカワよりは小さいが、他の男と比べれば多少大きい位だろう。顔は良く日に焼け、赤黒い。
髭は無く、髪は短く切り揃えられ、身だしなみにはある程度気を使っている事がうかがえた。
(^ω^ )「おっおっ。おかえりなさいだお」
ヽ|・∀・|ノ「うん、ただいま」
男が背負った荷物を大事そうにゆっくりと降ろした。
ヽ|・∀・|ノ「ふぅ。……いやいや、今だから言えるけど、絶対助からないと思った」
男が右肩、左肩と交互に回す。
ヽ|・∀・|ノ「人のお腹を切ったり貼ったりするお医者先生と違って、僕は大して経験の無い、それも薬師だけどすぐに分かったよ。あぁ、彼は残念だけどもう……って」
乾いた笑い声に気づいた男が「いや、だって血の量がすごかったでしょう。ここに着く随分前から出血してただろうし」
ヽ|・∀・|ノ「まぁ、本当に簡単な処置はしてあったのも良かったね。それでどうこうなるモノとも思えなかったけど」
ニシカワが腕を組み、薄れつつある記憶を探ってみせる。
(^ω^ )「なんとなく、傷の辺りを押されてた様な記憶はあるお」
ヽ|・∀・|ノ「胴体は止血が難しいからね。今度から怪我する時はできるだけ止血しやすいところにした方が良いよ。きっと、前よりずっと死ににくくなる」
(^ω^ )「……気をつけますお」
ヽ|・∀・|ノ「でもまぁ、君は何度も危ない状態になりはしたけど、奇跡的に自分の足で立って歩いているんだよね」
(^ω^ )「先生の薬のおかげですお」
ヽ|・∀・|ノ「そう言ってもらえると嬉しいね。でも僕の薬はあくまで君の体が頑張ってるのを手助けしただけだよ」
ヽ|・∀・|ノ「感謝するならやっぱり、ヤクエンまで質の良さそうな手ぬぐいを真っ赤にして傷を抑え続けてた彼女と」
ヽ|・∀・|ノ「ここが色々な薬草の産地だったっていう事かな。僕がここに居るのもそれが理由だからね」
(^ω^ )「助かったお」
シューはニシカワの礼に「別に」とだけ答える。
その様子を見て男が口角を少し上げてから話しだす。
ヽ|・∀・|ノ「もし、君が助からないなんて事になっていたら、僕はシュー君に殺されるかと思ったよ。ただの薬売りに対して、治せ治せって聞かなくてね」
ヽ|・∀・|ノ「僕にしてみれば専門外も良いところだったから、とにかく消毒やら止血やら痛み止めやら、毒にならない組み合わせでできる限りの事はしてみたよ」
ヽ|・∀・|ノ「いや本当に、あれだけ横で捲し立てられたら諦める事もできなくて困ったもんだったよ」
シューは黙ったまま、凍るような視線を男に向け続けた。
翌日、一日のうちで一番暑くなる時間。
いつもと同じ様にシューの下へ子供たちが集まっていた。
(゜3゜)「……うーん。『ご』ですか」
lw´- _-ノv「それは『さん』ね」
(゜3゜)「いつもここでつまずくなぁ。どうしても逆になる」
部屋で一番大きな少年が後ろに倒れこみながら頭を掻く。
lw´- _-ノv「最初はひとつも読書きできなかったんだから、随分ましになったでしょう」
(^ω^ )「『しち』だお」
少年が「でも」と言うのをニシカワの声が遮った。
lw´- _-ノv「『さん』」
シューが短く答えた。
それを見た、少年よりも一回り近く小さな子たちが元気に笑う。
呆れた様子でシューが開いたままの戸から外を見た。
lw´- _-ノv「ん、そろそろ日が少し傾いたかしら」
日は頂点よりいくらか傾き、短かった影は大人一人を覆える位に伸びている。
(^ω^ )「もうそんな時間かお」
笑い声が止む。それから、子供たちは口にはしないが不満そうな顔を浮かべた。
(^ω^ )「さぁさぁ。ブーンも手伝うからお仕事を早く終わらせるお。急がないとアオ達がお腹をすかせるお」
ニシカワが「よいしょ」と立ち上がる。
少女が「アオにご飯あげても良い」と尋ねると「もちろんだお」と頭をなでてやった。
それからはすぐに、外へ駆けだしていった。
(^ω^ )「おっおっ、足元に気をつけるんだお」
あわてて筆を置いて、ニシカワも後を追いかける。
lw´- _-ノv「相変わらず、何もない」
畑仕事の手伝いを終えた帰り、シューの声からは珍しく怒りが感じられた。
ヤクエンへ来て三月か四月が経った頃、ようやく傷の癒えたニシカワは初めて村の見て回った。
lw´- _-ノv「何もない」
その時もシューの言葉から静かな怒りを感じたのを思い出す。
言われて周囲を見回すと、村にある建物はどれも古く傷んでいる。
背の高い植物はほとんどない。
膝より下の草花は、雨が少なくなる前だというのに白に近い茶色に染まっている。
稀に見える、群生する緑の草花はとても食べられたものではない薬草だと教えられた。
ポツポツを見える畑の作物は小さく細い。
そのどれもがツダで見た野菜や果物と比べると、同じものとは思えない。
必要なものしかない。必要なものすら十分にない。そんな光景がシューには「何もない」と見えるのだろう。
昔、ヤクエンは金山と銀山に挟まれ、多くの鉱夫の住む豊かな村だった。
しかし、総が統一された数年後、金銀が枯渇したため鉱夫全員が一斉に仕事を失った。
実際のところかなり疑わしかったが、騎士のその一声でこの村の状況は大きく変わる。
元々、作物を育てるのに適した土地ではなく、鉱山が使い物にならなければここでの生活は難しい。
それでも代々この地に住んでいた者の多くは村に残り、痩せた土地で畑を耕す辛い生活を送っている。
そうニシカワは聞いていた。
たしかに、ツダに比べれば何もかもが下回っている。
衣食住、どれをとっても差は歴然であった。
だが、不思議とニシカワに驚きはなかった。
ツダの前、人買いの元で過ごしたあの場所。
それから記憶にほとんど残っていない、生まれた村か町も、きっとヤクエンに近い環境だったのだろう。
ニシカワは、シューの騎士に対する怒りに、同意できずにいた。
/^o^8\「今日もごくろうさんです」
松明が作りだす小さな光の球。そのすぐ外で老いた男が手を挙げてた。
ちょうど夜の闇との境目だがニシカワは声ですぐに誰かが分かり、頭を下げる。
はっきり見て取れる距離まで進むと、男のこけた頬は、それが年齢によるだけのものとは思えない印象を与える。
家の前にある腰かけに男が座ると、隣を手のひらで叩く。
(^ω^ )「おっおっ、失礼するお」
ニシカワがそこへ腰かける。
/^o^8\「お疲れでしょうに」
(^ω^ )「好きでやっている事ですお」
/^o^8\「ほほっ。ただ、こんな寂れた村を襲うモノ好きもそうはおらんでしょう。どうか、もっと楽に」
顎髭をなで、可笑しな事でも言うような男に対して、ニシカワは頭を縦とも横ともとれない方に動かす。
たしかに、あの三人を捕まえて以降、村は平和だった。誰に聞いても、ここ数年は他の賊に襲われた記憶はないと言う。
それだけ、ここが貧しいという事なのだろう。ニシカワはそう思ったが、それはおくびにも出さずに笑って見せた。
/^o^8\「お二人が来てから、ほんの少しだが活気というか生気というか。そう、何かこう希望の様なものを皆から感じていてね」
男が薄らと笑っからて話しだす。
自分の腹の中を覗かれ「気にするな」と、言われた様な気になる。そんな笑いだとニシカワは感じた。
/^o^8\「今の時代、生まれた家が良くなければ成り上がるのは難しい。戦が無いですから」
/^o^8\「もちろん、それはとてもありがたい事です。もちろんね」
大げさに両手を左右に振る。男の動きは、見た目よりずっと若い。
/^o^8\「だけど、そうなると必要なのが頭になる。偉くなる、金持ちになるにはね。荒れていた時代の様に、体一つでってわけにはいかない」
/^o^8\「だが、頭を作るには金が掛る。そうなると生まれた家が悪くっちゃ上には行けない」
/^o^8\「そうなるとずっと貧しいから、子供も孫もずっと同じ暮らし。だから、ここには活気が無かった。子供のころからそれが見えてますから」
一つ話すたびに左手の指を一本ずつ立てる。
/^o^8\「だが、もしかしたら、その連鎖が止まるかもしれない。そんな気持ちにさせるのです。あなた方は」
右手で立って指を折り曲げ、左手は拳になった。
(^ω^ )「おっおっ」
/^o^8\「歳をとるといけない。色々なモノが弱くなってすぐに人に頼ろうとしてしまう」
/^o^8\「いや全く、だめだな」
それからニシカワにもはっきり聞こえる大きさで息を吐き出す。体の中にあるすべての空気をひり出す様な深いものだった。
それは「気にするな」と、言おうとしたニシカワを制止するには十分な不自然さだった。
/^o^8\「馬を連れ、大きな傷を負い、真夜中にここへ来たあなた達には何か、とても大きく人には明かせぬ理由があるのでしょう」
一息で言い終えた男の目はさっきとは違う、虫の様な、冷たいものに変わっていた。
自分より、ふたまわり以上も小さな男にニシカワは間違いなく圧倒されている。
額から噴き出た汗が自身にそれを気付かせ、あせらせた。
/^o^8\「それは村にも悪い影響を及ぼすものではないでしょうか」
ニシカワが考えを巡らせるよりも早く、男が続ける。
/^o^8\「村にはめんどう事はごめんだ、と言う者も少なくありません。吹けば飛ぶような、地力のないこんな村です。何がきっかけで消えるかなんて分からない」
/^o^8\「賊に手を出した事で激昂した仲間が報復にくるのではないかと騒ぐ者もいる」
男が何も言えずに黙っているニシカワの肩に手を置き「気にするな」と言うように優しくさする。
その不条理さに気付いてなお、ニシカワは怒りよりも安堵を先に感じていた。
/^o^8\「いや本当、歳をとりたくはない。色々なモノが弱くなって何に対しても疑り深くなってしまう」
/^o^8\「全く、だめだな」
男の乾いた笑い声が静かな夜に良く響いた。
/^o^8\「あぁ、そうでした」
男の自嘲気味な笑いが止まる。それだけで、辺りはすぐに静かな夜に戻った。
/^o^8\「あなた達はいつまでこの村に?」
その言葉を聞いた時、ニシカワは目を丸くして驚いた。
少しの起伏も無くただ真っ直ぐに投げられた言葉は、周りに影響される事なく自分の考えを教えろと言っている様だった。
もし、文字だけのやり取りが自分にも出来たのなら、言葉の裏の感情を読み取る事ができないなんて事は珍しくないのだろうか。
そんな疑問が沸いて出た。
「長い方が良いですか? それとも短い方が?」そう尋ねて楽になりたい気持ちをグッと押さえてニシカワは考えを巡らせる。
答えは、考えればすぐに出た。
(^ω^ )「傷が癒え、準備ができ次第……出来るだけ早くに出ますお」
言い終えると、いつの間にか震えるほど込めていた、松明を握る手から力を抜く。
七号の下で戦い方を教えてもらい、以前よりもずっと強くはなった。
だが、まず間違いなく死という結果に繋がる目的にシューやアオ、アカを連れていくのは気が引ける。
それでいて、別れる気にもなれず、目的のためには無為ともいえる時間を過ごしていた。
そういう意味では、ツダに行く前よりも弱くなっていたのかもしれない。
ニシカワが頭を掻く。
/^o^8\「そうですか。そうですか」
男の言葉からはかすかに、残念そうな印象を受ける。
/^o^8\「差支えなければ」
/^o^8\「いえ、騎士でもないのに馬を連れ、大怪我をして夜半に駆け込んできたんです。差支えはあるでしょう」
/^o^8\「それでも、もし良ければ聞かせてもらえはしませんか。あなた方のお話を」
/^o^8\「もちろん、都合が悪い様であれば誰かに言うなんて事はしません。もし、言おうものならこの命を差し上げましょう。残り短いこんなもので良ければですがね」
顎髭を撫でながら、笑う男からはついさっきまでの、言い知れない違和感は消えていた。
(^ω^ )「遅くにすまないお。でも、一番にシューに話さないといけない事があるんだお」
アオとアカのために借りた小屋。
そこへシューが来るとすぐにニシカワが言った。
シューは聞こえているのか分からない、無反応のままアカの隣に腰を下ろした。
(^ω^ )「どうしてブーンがツダに行き、逃げたのかと」
(^ω^ )「ブーンがこれから何をするのか、……したいのかだお」
lw´- _-ノv「そう」
シューは隣で甘えてくるアカを撫でてやる。
(^ω^ )「ブーンは、王を救うお」
一つ、息を吐いてからブーンが言う。
シューは何も答えず、ただ次の言葉を待っていた。
(^ω^ )「この先、危険な事だらけだと思うお。どんなに気をつけて、できる事を全てやってもきっと生きては達せられないお」
(^ω^ )「それでも、ブーンは王を救うお」
lw´- _-ノv「どうして、王を救いたいの」
驚きの色は無く、淡々とした口調で尋ねる。
(^ω^ )「助け欲しいと言われたんだお」
lw´- _-ノv「あなたは王と面識があるの?」
(^ω^ )「ないお」
lw´- _-ノv「じゃあ、どうやって」
(^ω^ )「夢だお。夢で助けてくれと言われたお」
lw´- _-ノv「それだけ?」
(^ω^ )「そうだお。それだけだお」
lw´- _-ノv「そう」
シューの視線はアカに合わせたままだった。
(^ω^ )「だけど、それでブーンは救われたんだお」
(^ω^ )「それまでブーンは死んだ様に生きていたお。いつ終わるかも分からない、退屈で苦しい日がずっと続いてたんだお」
(^ω^ )「ただ、それから抜け出したいとも思っていなかったお。そうしたところで、何をしたら良いかも分からなかったお」
(^ω^ )「ただ、それが王の為にと考えればブーンには何でもできたんだお」
(^ω^ )「今、こうしてここにいるのもそのおかげだと思っているお。ブーンは王を救うという目的ができて、はじめて人生が始まったんだお」
lw´- _-ノv「……それで、あなたはどうしたい?」
シューの言葉はどこか優しい。
(^ω^ )「ブーンにも少しは蓄えがあるお。シューならきっとそれで生活の基盤は整えられるお」
lw´- _-ノv「あなたはどうしたい?」
変わらず、シューの言葉は優しい。
(^ω^ )「ここで、別れるお」
一つ、二つと間を空けてニシカワが答える。その時の顔は自然と下を向いていた。
(^ω^ )「シューがアオの事を黙っている代わりに、街の外へ連れ出す約束は果たしたお」
lw´- _-ノv「そうね」
(^ω^ )「だから――」
lw´- _-ノv「でも、だめ」
短くシューがそう言う。
一瞬、間を空けてニシカワが顔を上げた。表情からははっきり驚きが見て取れる。
lw´- _-ノv「私はこうしたい」
lw´- _-ノv「死ぬ様な思いをして王都に行きたいし、王を助けたい」
lw´- _-ノv「それを目指した結果、死ぬ事になってもそれは仕方がないと思う」
ニシカワが「でも」と言うと、シューはすぐに覚悟を告げた。
lw´- _-ノv「私はツダに来る前のあなたを知らない」
lw´- _-ノv「ただ、死んだように生きる。その辛さは知っている」
どんな辛い事を聞かされるのか。それを受け止められるのか。
そう考えてか、ニシカワの体が一気に強張った。
(^ω^ )「おっおっ」
アオが横に座り、小さく鼻を鳴らした。
「一人じゃない」とでも言っている様で、ニシカワにはそれがとても心強い。
lw´- _-ノv「ツダに来る前にあなたが居た場所。私にとってのその場所がツダだった」
lw´- _-ノv「もちろん、ビイグルさんはとても良くしてくれたわ」
ニシカワの心配そうな顔を見てシューが付け加えた。
lw´- _-ノv「むしろ、私がなぜあの店に出されたのかを知っているからこそ良くしてくれたのかもしれない」
lw´- _-ノv「あと一年もしないうちに、結婚する予定だった」
lw´- _-ノv「対等な家柄でなかったの。だから、ほとんど売られるようなもの。きっと、屋敷に一度入ったら死ぬまで外に出るのは十もない」
lw´- _-ノv「直接言った事はないんだけどね。ビイグルさんは顔の広い人だから、きっとどこかから聞いていたんだと思うわ」
(^ω^ )「それは辛いかもしれないお。でも、食べるのには困らないだろうし騎士の屋敷ならどこよりも安全じゃないのかお」
lw´- _-ノv「……私はね、今日明日の食べ物を心配して生きた事はないわ。だけど、それが何より大切な事は十分知っているつもり」
lw´- _-ノv「だから、この村の人達の事を決して下に見たりはしない。むしろ、辛い状況で必死に生きる彼らを尊敬している」
(^ω^ )「……なら」
シューは目を閉じ、ゆっくりと首を横に振る。それを見たブーンは少し止まってから口を閉じた。
lw´- _-ノv「いいえ、ブーン。それはできないの。あなたはきっと怒っているでしょうね」
lw´- _-ノv「何よりもまず生きる事と死なない事。生きるには食べる事。死なないためには安全が」
lw´- _-ノv「口で分かっていると言う事なんていくらでもできる。そう思われても仕方がないと思う。」
lw´- _-ノv「だけどブーン。あなたも分かっていない。もし、私が嫁いだらどんな風に生きるか」
lw´- _-ノv「生きると言って良いのかわからないけれどね」
シューが口角が僅かに上がる。しかし、それを見てもブーンが釣られて笑う事は無い。
lw´- _-ノv「私はきっと人としては生きられない。物の様に、家畜の様に生きる事になる」
lw´- _-ノv「そりゃあ、綺麗に着飾っているでしょうね。でも中身は空っぽ。ただ、居るだけ」
lw´- _-ノv「ずっと思っていた。結婚する日まで顔も知らない様な男のために、私は居るんじゃないってね。誰のためでもない、私は私のためにいる」
lw´- _-ノv「だから、私は決めていた。ビイグルさんの迷惑にならない場所で、屋敷に連れられる前に命を断つ」
(^ω^ )「死んだ方がマシなんて思う事もあるかもしれないお」
lw´- _-ノv「あなたはこれから、王を助ける道中でそう思うの?」
(^ω^ )「……思わないお」
lw´- _-ノv「なら、分かっているでしょう」
ニシカワが大げさにため息をついた。
「あの人はそんな事も気づかなかったのかしら」と話しかける様にシューがアカを撫でる。
lw´- _-ノv「それで、何かあったのでしょう。それとも何かしようとしているのかしら」
シューの視線はアカに向けられたままで、声の調子も何気ない事を聞いているかの様な軽いものだった。
それがきっと、何か悪い事であったとしても話しやすい様にと気を使っての事だとニシカワはすぐに察した。
(^ω^ )「悪い事じゃないて、……と思うお」
(^ω^ )「ブーンの目的を村の人達に話そうと思うお」
lw´- _-ノv「そう」
(^ω^ )「ここの村の人達は知りたがっているんだお」
lw´- _-ノv「でも、全部は言えないわね。少なくともこの子たちの事を正直には言えない」
lw´- _-ノv「道具の様にこの子たちを扱う愚かな騎士から救い出しました。そう言っても信じてくれるかしら」
ニシカワの表情が暗くなるが、シューは止めずに続けた。
lw´- _-ノv「結局、私たちもこの子達を自分の目的の為に使おうとしている事実は変わらない」
lw´- _-ノv「私達が今、こうして、この子達と一緒にこの村に居るけれど、それはこの国の規律を破らずに生活していたら絶対にあり得ない事だった」
lw´- _-ノv「私たちは決して正しい行いをしているわけじゃない。これから成そうしている事もね。それは分かるわね」
すっかり視線の下がったニシカワの顔の下に、アオが頭を入れて無理やり上げる。
lw´- _-ノv「でも、少なくとも私はこれで良かった。今こうしていられるこれがね」
lw´- _-ノv「この子達もきっとそう」
同意を表すためか、アオとアカが小さく鳴いた。
lw´- _-ノv「……だけど、それをそのまま彼らに伝えるのは得策じゃないわ。それはきっと、私達を良く思わない人を刺激するわ」
lw´- _-ノv「何も素直に全てを話さないといけないわけじゃない。目的は彼らを安心させることであって、不安にさせる事じゃないんでしょう」
(^ω^ )「もちろんだお」
シューが頷くと少しの間、目を閉じる。
lw´- _-ノv「なら、まずこの子達は下賜されたのではなく、野生から家畜にした馬を買を両親が買った」
lw´- _-ノv「屋敷でその馬が生んだのがこの子達で、小さい頃から一緒で良く慣れてはいるけど、国の管理されている立派な出自なんかじゃない」
lw´- _-ノv「それから目的は、王を救い出すっていうのも過激だから、手助けがしたい位にしておいた方が良いわ。謁見がしたいとか、国の為に働かせて欲しいとかもっと平和なもの」
lw´- _-ノv「できるだけ世間知らずの金持ち商人の次男三男が考えそうな理由が良いわ。彼らも呆れはするでしょうけど、疑わないでしょう。馬を買える位の商人の子だもの。きっとまともな頭じゃ無いって思われてお終いね」
(^ω^ )「なるほどだお。ただ、そんな馬が居るとは知らなかったお。数は結構いるのかお」
lw´- _-ノv「さぁ、知らないわ。私も見た事はないもの。ビイグルさんにそんな馬も居るって前に聞いた事があるだけ」
目を開けたシューはそれが大した事では無いかのように答えた。
/^o^8\「なるほど、なるほど」
次の日、朝一番に男の家へ向かい、考えた通りの旅の理由や馬に関しての話しを伝えた。
/^o^8\「たしかに、王は城内に味方も少なくお困りとの噂。あなた方の様な人材であればきっと喜ばれるに違いない」
/^o^8\「それで、早いうちとはいつ頃に村をでられるのかな」
男の声に感情は無かった。
lw´- _-ノv「近くの村で仕度を済ませたらすぐ。数日程度で出ていくつもりです」
/^o^8\「その方が良いでしょう」
(^ω^ )「……何かあるのかお」
男はニシカワの問いが聞こえていないかのように、止まったまま二度、三度と呼吸を続けた。
/^o^8\「この村に長い事居ては危ないかもしれません」
ようやく口を開くと、力なく首を横に振った。
/^o^8\「私は村の皆から頼まれていたのです」
「あなた方になら」そう言ってからゆっくりと、重い口調で話しだす。
/^o^8\「味方に引き込めないかと」
(^ω^ )「味方かお」
/^o^8\「えぇ。ただ、私達の仕様としている事を考えれば、それはいささか綺麗すぎる言葉かもしれませんが」
男の様子はどんどん暗くなっていった。
/^o^8\「武器を持った賊をあっという間に倒してしまう腕前と立派な馬。加えて文字まで扱える」
/^o^8\「領主なんかよりもよっぽど騎士らしいあなた方に、長い間みじめな生活を強いられてきた我々は希望を見出してしまったのです」
「何をするつもりか」そう切り出そうかとしていると男が自ら口を開く。
/^o^8\「我々は、王に直訴を行うつもりです。この村を、人を救って頂くために」
/^o^8\「今年もきっと冬を越せない子供、年寄りが出てくるでしょう」
/^o^8\「もう、村の者たちは耐えられないのです。大きな町で立派な屋敷を構える金持よりよっぽど必死に働いている自分達が、食べるものも食べられずに死んでいく」
/^o^8\「大切な子供を、親を守れずに死なせてしまう。それが怖いのです」
lw´- _-ノv「それでも、正規の手順を踏まずに王に会おうとすれば」
/^o^8\「無論、行くのは覚悟のある者だけ。その中でも身の軽い者だけです」
/^o^8\「騎士でもなければ名字すら持たない我々が王都に入り、王に会うには手荒なことも必要でしょう」
/^o^8\「そうなれば万が一、願いが受け入れられたとしても最悪、……いえ、おそらく誰もこの村には帰って来られはしないでしょう」
/^o^8\「だがしかし、決意は揺らがない。結局、長などと呼ばれていても私になんの力もありません。」
/^o^8\「この状況の解決策を出す事が出来ず、彼らを止めることもできない。……これから死にに行く者たちに、座して死を待てと言う勇気が無いのです」
男の目から涙がこぼれ、嗚咽でうまく言葉も続かない。
lw´- _-ノv「何をしても、どんな手を使っても、あなたは王に会いたい?」
シューがニシカワの着物を引く。声は男に聞こえない程度だった。
(^ω^ )「おっおっ。会って、救い出すお」
lw´- _-ノv「たとえ、人を捨てて鬼になっても?」
(^ω^ )「……鬼にでも何にでもなるお」
ニシカワが頷く。
lw´- _-ノv「そう」
lw´- _-ノv「協力します」
理解できない。男の顔はそう語っている。
lw´- _-ノv「王に力を示す事が出来れば、私達は形は気にしません。もしも、罪を問われる事になればあなた方に構わず逃げます」
lw´- _-ノv「馬で逃げれば追ってはこれませんから。そのまま他国の王へ売り込みに行きますよ」
そんな事が簡単にできるはずがない。そして失敗すれば死ぬ。
ニシカワはそう思ったが口にはできない。
lw´- _-ノv「それから、動くのは来年に。今年の冬を越すくらいの蓄えは何とかします」
lw´- _-ノv「王都に行く者たちには最低限の戦い方は学んでもらいます。王都の門を無理やり開ける事になるかもしれませんから」
/^o^8\「お、おぉ、なんと」
見る見る男の顔には生気が宿る。
lw´- _-ノv「その覚悟はおありでしょうか」
/^o^8\「もちろんですとも。明日の朝にでも村の全員に伝えましょう」
間髪いれず、男が答える。
気がつかないのか、気づいた上でこの僅かな光明を疑いたくないのか、男はすぐに信じるに足るとは思えない提案を受け入れた。
ただ、その様子は当初とは随分違う若々しく血気にはやっている。
それを見ながらニシカワは、問いが自分にも向けられていると感じていた。
元々、勝ちの目がない勝負。シューはその勝負をとにかく荒らし、綻びを生ませ勝ちの可能性を作り出そうとしている。
事を為すため、この村の人達を捨て駒にする事も考えている。
当然、それを望んでいない事は分かるし、シュー自身も強い覚悟を持って恐ろしい業を背負うつもりでいる。
だから、シューは申し訳なさというか、不安というか、男が不審に思うような要素を全て押し込めて話す事ができたのだろう。
(^ω^ )「もちろんだお」
ニシカワは覚悟した。
どんな事をしても王を救う。
誰も理解できないであろう、たかが夢で頼まれた願いのために自らの命に加え何も知らぬ大勢の命を賭けた。
第十話 終わり
( ^ω^)「おっおっ」
( ゚∋゚) 「……くっ」
( ^ω^)「そこだお」
木刀の切っ先がクックルの喉元にツンと触れる。
( ゚∋゚) 「やはり、ナイトウ隊長にはかないません。三か月経ってもまだ一太刀も当てられない」
( ^ω^)「最初から考えたら随分上達しているお。そりゃあブーンも苦労して身に付けた武道だお」
ナイトウが木刀を脇に戻す。
( ^ω^)「まだまだ負けられないお」
大きく胸を張る。
( ^ω^)「さぁ、交代だお」
クックルが一つ頭を下げて後ろの列に加わる。その隣の若者が「よしっ」と自身を鼓舞するように呟き、ナイトウの前に立つ。
兵舎の裏に造った訓練場。
質素な屋根を組み立て、地面にある石を取り除いて平らにならしただけのその場所。
そこでほぼ毎日、四つの内どこかの隊が剣や槍の扱いを学ぶ。
/^o^酒\「今日も調子が良さそうじゃないか。ナイトウさんや」
( ^ω^)「おっおっ。こんにちわだお酒屋さん。何かありましたかお」
周りの兵士たちも大きな声で「こんにちわ」と続ける。
/^o^酒\「何も。平和そのものさ、門兵さん達のおかげでな」
酒屋が笑いながら両手の酒瓶を持ちあげる。
/^o^酒\「余り物だがね。良かったらもらってくれよ」
始めは民からは明らかに避けられていた。屋根の材料を譲ってもらえないかと店を回った時は、ろくに話も聞いてもらえなかった。
石をどけている姿には奇異の目を向けられ、誰かが話しかけてくるどころか必要以上に距離を置かれていた。
何が状況を変えたのか。
真摯に仕事へ、街と民を守る事へ尽力していた事はもちろんだが、転機はこの街の人間であるビコーズやゼアファーが加わった事が大きかった。
そこから徐々に、よそから来た出自の卑しい出稼ぎ達としてではなく、彼らの為に命を掛ける門兵として扱ってもらえるようになっていった。
/^o^9\「おう、ナイトウさん。クックルの坊はどうだい」
見回り中のナイトウに、年老いた男が近づいてくる。
その顔は明るく、友人に話しかける様な雰囲気だった。
( ^ω^)「おっおっ。もう立派な番兵だお」
ナイトウは少し前を進むクックルを指差した。
/^o^9\「ははっ。ナイトウさんは優しいからな。本当はまだまだなんだろうが」
男はそう言いながら何度も頷く。
/^o^9\「そうかい、そうかい。そりゃあ良い。お世辞でもそう言ってもらえるんだ。悪いもんじゃない」
/^o^9\「あいつもこれから自分一人で生きていけるようになってもらわないと。……親父さんが帰ってこなくなって」
少し考えた様子を見せた後、男が続ける。
/^o^9\「言いたくはないが、きっともう生きてはおらんだろう。だから、坊には早く一人前の男になってもらわんと俺も死んでも[ピーーー]ないからな」
( ^ω^)「クックルも大事にされて幸せ者だお」
/^o^9\「ははっ。こんな爺に心配されても、若い男はうれしかないさ。早いとこ嫁でもつれてきてくれんかね。そうすりゃ俺だけじゃない、近所の皆は大安心だ」
( ^ω^)「それは良いお」
/^o^9\「そうだろ? なぁ、ナイトウさんや。どこかに良い娘さんは居ないもんか」
( ^ω^)「まずは自分をなんとかしないと、人に紹介する余裕なんてないお」
/^o^9\「ははっ。そりゃあ、間違いない」
( ゚∋゚) 「ナイトウ隊長!」
かなり離れたところからクックルが呼んでいる。
/^o^9\「おうおう、元気なもんだ。仕事の邪魔をして悪かったね」
( ^ω^)「気にしないで欲しいお。それじゃあ、坊が呼んでいるからブーンは行くお」
( ゚∋゚) 「喧嘩! 喧嘩ですよ! はやく!」
クックルは全身を使って「早く」と伝えている。
( ^ω^)「すぐ行くお!」
ナイトウは男に向けて軽く手を挙げた後、クックルへ向かって走り出した。
/^o^?\「えぇい、はなせ! はなせというのに!」
クックルが「ここです」と言うより早く、聞こえた声で場所はすぐに分かった。
隣の商家が支配する区画まであと少しの場所。そこの壁際から声がする。
駆けるナイトウの頭には悪い事ばかりが浮かぶ。
区画と区画の境目に近いほど、円の外周の壁側に近いほど治安が悪い。
つまり、今向かっている場所はこの区画でもっとも治安が悪い場所の一つだった。
( ^ω^)「やめるお。私刑はだめだお!」
数人の男が小さな輪をつくり中心へ向かって、上から下へ拳を振り下ろしている。
少し外れたところで若い女が弱々しく、地面にへたりこんでその様子を見つめていた。
/^o^男1\「おぉ、門兵さんかい。こいつが、そこの女の子を無理やり連れて行こうとしてたんだよ」
/^o^男2\「だから、俺達が助けてやってよ。門兵さん達のとこへ連れてこうとしてたんだが、往生際が悪いやつでな」
/^o^男3\「そうなんだ。だから少し、仕置きついでに大人しくさせようとな」
( ^ω^)「そうかお。でも、どんな事があっても勝手はいけないお」
/^o^男1\「でもよぉ」
( ^ω^)「何かあった時、兵でない皆が私刑を加えていたなんて事が公になったら、ブーン達は皆を守る事が出来ないお」
/^o^男1\「ナイトウさん」
( ^ω^)「そこのお兄さんを守るんじゃないお。彼をここから無事に兵舎まで連れて行く事は、皆を守るためなんだお。だから、この場は任せて欲しいお」
/^o^男1\「……おし、後は頼んだぜ。そこの子は何かされたってわけじゃなさそうだが、念のため医者に診てもらった方が良いかもしれねぇな」
( ^ω^)「おっおっ。そうするお」
男達が輪を崩し、狭く薄暗い場所を後にする。
残された男はうずくまったまま、弱々しく呻きながら過剰な程に頭を両腕で覆っている。
( ^ω^)「クックル、そこの女性をイシャさんのところまでお連れするんだお」
( ゚∋゚) 「はい」
クックルが女に肩を貸す。ゆっくり女の歩幅に合わせて進んでいった。
( ^ω^)「さて、あなたはブーン達と一緒に兵舎に行くお」
返事はなかった。
( ^ω^)「ほら、立つんだお」
ナイトウが後ろから、両腕で赤子を持ち上げる様にして男を立たせる。
/^o^?\「やめろ。やめろ、やめろ!」
男が腕をブンブンと振り回し、ナイトウの手を振りほどく。その時も顔は下に向けたまま、不格好な動きであった。
(・(エ)・)「すぐに書類を作ってきます。少々お待ちを」
ナイトウはこれまでのクマーに不自然な丁寧さを感じたが、口には出さない。何か考えがあるのだろう、そう感じていた。
だから、ナイトウはクマーが戻るまでの短い時間を無言で過ごす。その考えを壊してしまわない様に何もしない。
幸い、男も話すつもりはないようで、視線を伏したまま大人しく座っていた。
普段であればこの後の処置を説明したり、馴れないながらも不心得を諭したりする。
不安そうにする相手にはそうしてやる事が安心につながる様だったが、今はそれをしない。
元々、女に乱暴しようとした男だ。優しい言葉を掛けてやるつもりは微塵もない、それで良いじゃないか。
憐れに思ってか、話しかけてしまいそうになるのをなんとか止める。
(・(エ)・)「お待たせしました。こちらにお名前を」
戻ってきたクマーがさっそく男の前に紙を置く。
いつもの「文字は使えるか」の質問は無い。男も間を置かずに従う。
(・(エ)・)「……確かに。では、こちらに血判を」
クマーが短刀を取り出すと、その柄を男に向けて出しだした。
本来は絶対にそんな事はしない。いくらか話を聞いたらそれで終わり。
まだ日が出ていれば家に帰し、夜遅ければ朝までは兵舎の一室に泊らせる。
当然、すぐに解放できない様な大事であれば話しは変わってくるがここに来てからはまだ酔った男同士の喧嘩程度しかまだ起きてはいない。
前はそうでは無かった事が、残されたいい加減な資料や住人の話から知っていたが、門兵達の働きもあってか治安は非常に良くなっている。
ナイトウはクマーの行動が理解できない。
ただ、それを男に察せられてはいけない気がしてとにかく無表情を意識する。
(・(エ)・)「よろしければ、私の血をお使いになりますか」
クマーが短刀に親指を付ける素振りを見せる。
/^o^?\「嘗めるな」
男が短刀を奪い取ると、ゆっくりと右の親指に刃を沿わせた。
(・(エ)・)「……確かに」
男が自らの血で紙に名を書き、判を押すと投げる様にクマーに渡す。
それを受けたクマーの口角が僅かに上がる。
実際にはそうでなかったかもしれないが、ナイトウは不思議とそうであると確信めいたものを感じていた。
良いものか悪いものかは分からないが、何かの企みがうまくいっている。
ナイトウは安堵していた。分からないながらも、それが今のところは失敗していない。それならば良いと思った。
(・(エ)・)「では、お送りします。夜は物騒ですから」
念入りに血の染みた紙が乾いた事を確認してからしまう。
/^o^?\「いらん。一人で十分だ」
語気は強い。男からは少し前までの不安さは消えているようだ。何かを諦めた様な、ふっきれた表情を浮かべている。
(・(エ)・)「隣の、商家の区画への門は閉じております。お一人で夜の内に帰るのは難しいでしょう」
/^o^?\「くそ、良く知っているな。気味の悪い」
(・(エ)・)「我々はどうしてもまず人を疑って入ってしまう。門兵ですから。街の為、民の為、そして騎士様の為どうしようの無い事」
クマーは男の言葉など聞こえていないかの様に話す。
(・(エ)・)「その上、貴い身分の方々に疎い門兵はあなたのお言葉を伺ったところで門は開けないでしょう」
(・(エ)・)「それが嘘であったなら、騎士様を危険に晒す事になります」
(・(エ)・)「愚直な程の真面目さがだけが取り柄の者たち、普段から金を握らぬよう厳しく言いつけておりますゆえ」
/^o^?\「あぁ、分かった。頼もう。……ただし、屋敷の前までだ」
男が何度目かの諦めた様子で割って入る。
(・(エ)・)「承知しました。ただ、残念ですな。商家様にも一度お会いしてみたかったのですが」
/^o^?\「ふん。お前が本当に使える様ならそのうち紹介してやらない事もない。だが、今はとにかく早く戻せ」
(・(エ)・)「えぇ、大切な方からお預かりしたご子息が居なくなったとあっては、大変ご心配されているでしょうから」
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
ということで(∩゚∀゚)∩age
日が真上に来るよりも大分前、ナイトウと隊の仲間が兵舎から門へ向かう。
/^o^男\「聞いたぜ、ナイトウさん。大活躍だったそうじゃないか」
( ^ω^)「大した事じゃないお。当たり前の仕事をしただけだお」
あの男は屋敷の寝所でまだ眠っているだろう。
モノの考え方を何一つ変えられず、何の罰も与える事もできなかった。
すぐにでもまた同じ事を繰り返すかもしれないあの男にだ。
その鬱屈した心情が口は勿論、表情にも漏れぬよう気を使う。
( ゚∋゚) 「三回目ですね」
クックルが言う。
自分達の仕事は価値がある。人の為になる。それを肌で感じ、嬉しくてたまらない。そんな様子だ。
( ^ω^)「おっおっ」
言えない。民には勿論、隊の仲間にも真実は伝えられない。伝えてはいけない。
( ^ω^)「別の区画の人間だったから、クマーが夜の内に引き渡したお」
最初に声を掛けられた後、不思議そうな隊員にそれだけ告げた。
わざわざ夜の内である事や、男が言った住処を簡単に信じた事を誰も不自然に思わない。
それが、どれだけ彼らからの信頼を得ているかを感じさせた。
そしてその分だけ心が痛んだ。
第十一話 終わり
(゜3゜)「ねぇねぇ、ニシカワさん。俺にも槍を使い方を教えておくれよ」
ごく簡単な槍の扱いを村の男達に教えていると、少年がニシカワに駆け寄ってきた。
青年と呼ぶにはまだ少し早い、若さよりも幼さを感じさせる子供だった。
(^ω^ )「おっおっ。まだポセイドンには早いお」
ニシカワが屈んで優しく頭を撫でる。
少しでも人数が欲しいのが正直なところだったが、この計画に参加すれば生き残る事は大人でも難しいだろう。
もしかすると全員が討たれる事だって大いにあり得る。
そこへ、この小さな少年を入れようとはニシカワはどうしても思えなかった。
「なら、大人なら良いのか。年寄りなら良いのか」
すぐにそんな言葉を、頭の中のもう一人の自分が言い出した。
何も答えられず、浮かんだ笑みは自嘲するようなものだった。
(゜3゜)「そんな事ない、きっと役に立つよ。周りの奴よりもずっと力だってあるんだ」
ポセイドンはその笑みを大人が子供をあやす時のモノだと思ったのか、言葉に怒気を込める。
(^ω^ )「仕方ないお」
ニシカワが自分用の槍を持ちだすと「持ってみるお」と渡してやった。
ポセイドンの表情はパッと明るくなる。
それがおもちゃを与えられた子供の様で、ニシカワには辛かった。
(゜3゜)「ぐえっ」
ポセイドンが蛙の様な声をあげる。
同時に腕の腱が切れたかのように、彼の両手は真っすぐ下に伸びた。
(^ω^ )「おっおっ。やっぱりポセイドンにはまだ早かったかお」
ニシカワにそう言われたためか、ポセイドンはまだ槍を離さない。
今にも槍に全身を引っ張られて倒れこみそうになるのを必死に耐えている。
だが、それが限界で腕は一向に上へ上がらない。
(゜3゜)「ぐおぉ」
ポセイドンの顔を紅潮させ、歯をむき出しにして力んでいる。
(^ω^ )「そこまでだお。これ以上やったら体を壊してしまうかもしれないお」
ニシカワは少し無理をして、それを片手で取り上げる。
それがなんて事の無い事の様な顔を作ってから、勢いよく地面に突き立てる。
(^ω^ )「さぁ、そろそろシューが様子を見に来るお。早く戻るんだお」
ポセイドンは何か言いたげだったが諦めたようにため息をつくと、がっくりと肩を落として歩き出す。
/^o^村1\「……ニシカワさん」
やり取りを黙って見ていた村人だった。
(^ω^ )「これがあの子のためだお」
遮るようにそう言うと、ニシカワは他の槍よりもずっと重い特注の馬上槍を両手で持ち上げた。
シューが今日の授業が始めて少し経つと、いつもよりも静かな事に気がついた。
lw´- _-ノv「今日は大人しいわね」
シューがポセイドンの横に立つ。自分から声を掛ける事が少ない彼女には、非常に珍しい光景だった。
(゜3゜)「俺は賢くなるからな」
ポセイドンが大きな声でそう言うと、また本に視線を戻した。
周囲の少年少女は驚きを隠せなかったが、すぐにハッとして静かになった。
授業中は喋らない。この決まりはすでに皆の小さな体に浸透しきっていた。
シューが話しかけた時には部屋の中に居る全員が彼女を見て、ポセイドンが答えた後には彼を見ていた。
lw´- _-ノv「そう、ならもっと勉強しないとね」
(゜3゜)「あぁ、分かってる。すぐに大人よりも賢くなってやるさ」
lw´- _-ノv「……そう」
シューの口調は変わらないし、ポセイドンも何も気にした様子は見せない。
この子の考えに「真ん中」は無い。
そんな印象をシューは持っていた。
昨日、ニシカワからポセイドンが肩を落として行った話を聞いたあたりから、何かあるとは思っていた。
力で戦えなければ頭で、という考えだろう。シューはそれが実に子供らしい発想だと思うが、間違っているとは思っていない。
今の自分がまさにそうなのだから、それを否定する気は全くなかった。
/^o^村2\「あのポセイドンが勉強なんてなぁ」
/^o^村3\「いや全くだ。少し目を離せば畑仕事を放って遊んでた悪ガキが、今は正座して文字とにらめっこだ」
/^o^村2\「いつまで続くか、分かりゃしないが……。先生方には感謝しないとならねぇ」
(^ω^ )「ブーンはあの子たちの大事な仕事の時間をもらって、申し訳ないと思っているんだお」
言われた男は大げさな右手を振る。
/^o^村2\「それはそうだけどな。シュー先生が、家の手伝いをしなけりゃ勉強を教えないっておっしゃったそうでな」
/^o^村3\「毎日、帰ってきたらすぐに農具持って出かけてくってポセイドンの親父が喜んどったわ」
(^ω^ )「おっおっ。そういう事かお」
/^o^村2\「それに、ニシカワさんがこうして働いてくれてるからな」
/^o^村3\「あぁ、子供の手よりもずっと頼りになる。空いた穴の上にでっかい山ができるな」
男たちが手ぬぐいで汗を拭いながら笑う。
何度も使っては洗っていたのだろう、もう薄い土の色が手ぬぐいを染めていた。
/^o^村2\「なにより……。何も知らない、力もない俺達に戦い方も教えてくれとる」
/^o^村3\「俺達は皆、先生方からもらってばっかりだ。何かあればなんでも言ってくれ。返しきれないもんを貰ってるんだ、なんだってするぜ」
二人の村人がまた大声で笑う。その言葉には何も隠されていない、彼らの本心そのものなのだろう。自然で、綺麗な笑顔だとニシカワは思った。
「何ももらってない」事は決してない。村の命をもらった。
目的の為に何人かは間違いなく死に、さらにその中の何人かはあの子達の家族だろう。
少しでも生き残れるように戦い方を、残されても生きられるように知識を村に与える事が、せめてもの罪滅ぼし。
あまりに大きな罪の前に消えてしまいそうな贖罪だが、今できるのはそれだけしかない。
だから、感謝なんてしないで欲しい。ニシカワは湧きあがる怒りにも似た感情をかき消すように力いっぱい農具をふるう。
(゜3゜)「連れてって」
そう言って戸の前から動かなかったのが朝の事だった。
呆れたシューに、好きにしろと言われてニシカワが折れた。
それから近くの町へ来て、村の食糧を買い集める。
親子連れで国境越えの旅に出る。そう言っていくつもの店で食糧を買っては外に待たせているアオの背に結び付けた。
(゜3゜)「あぁ、ここで買うよりもあっちの店で買う方が得だよ」
何軒目かの店の前でポセイドンが言う。
(^ω^ )「どうしてだお」
(゜3゜)「数は多いけど、一つ当たり金額にしたら少し高いからさ。一つや二つってなら大差ないだろうけど」
ポセイドンは周りに誰が居ない事を確認して続ける。
(゜3゜)「うちはたくさん買っていくでしょ。少しの差も十や二十も積み重なればかなりの違いさ」
(^ω^ )「おっおっ。そんなに違うものなのかお」
(゜3゜)「分からない?」
(^ω^ )「分からないお」
ポセイドンは顎に手を当てて考えた後、自分より小さい子に話す時と同じように話す。
(゜3゜)「少ない店で安く買うのと、何軒も周って俺達がたくさん買っているのがばれないようにするの、どっちが大事?」
ニシカワが視線を上にやってしばらく考えた後「お金よりも気付かれない方が大事だお」と答える。
シューが何よりも大事なのは、目的が外に知られない事だと何度も言っていたのをニシカワははっきり覚えていた。
(゜3゜)「じゃあ、ここで買おう」
(^ω^ )「おっおっ。でもポセイドンはもうそこまで数字を扱えるようになってたのかお
(゜3゜)「あぁ、だから俺も使ってくれよ。きっと役に立つ」
(゜3゜)「知っているんだ」
その言葉を耳にした時、ニシカワは確かに背筋に冷ややかなものを感じた。
(^ω^ )「何をだお」
いつも通りに尋ねた。吹き出しそうな恐怖は笑顔の裏に必死に隠す。
(゜3゜)「隠さなくても良いよ。俺はもうそんなに子供じゃない」
歳の割に大きいとはいえ、十に満たない子が当然の様に言う。しかし、不思議とおかしさは感じなかった。
シューはポセイドンと同じ年頃ですでに結婚相手が決まっていたそうで、以後は大人として扱われていたらしい。
また、経緯はどうあれ周りには同じか少し年上で同じ扱いを受けているものも少なくは無かったという。
当然、騎士や一部の有力な家に限った話ではあるが、世間では全くあり得ないという話ではない。
だから、ポセイドンの事も若すぎるという理由だけで頑なに危険から遠ざけ様とするのはどうかと思うと忠告されていた。
自分がその状況に置かれたなら、周囲の迷惑を考えない手を使ったとしても、それに加わろうとするからとも言っていた。
(^ω^ )「……何をだお」
彼が、一緒に戦いたいというならもう拒みはしない。少し考えた後そう決めて、ゆっくり尋ねる。
(゜3゜)「戦うんだろ。村や子供のために」
ニシカワは頷かない。だが、否定しない事が肯定であると感じるには十分だった。
(゜3゜)「俺も戦うさ。力が足りないなら、足でも頭でも使って。五つや六つ離れた兄貴達が命を掛けるなら俺も同じだ」
(゜3゜)「少しだけ生まれるのが遅かったからって、何も知らずにただ待っているのは御免だ。下の子達の様に戦えないなら仕方がないが、俺は戦えるだから」
(^ω^ )「命が惜しくないのかお。この先、どれだけ楽しい事があるかもわからないお」
(゜3゜)「惜しくないわけがないだろ。これからどれだけ楽しくて面白い、気持ちの良い事があるか想像もつかないんだぜ」
そう言って笑うのは、どこにでも居る子供だった。
(゜3゜)「だけど、このままだと……、その何倍も気持ちの悪い事が待ってるんだって分かっちまう」
(゜3゜)「大人たちが隠れて生活が昔よりずっと辛くなったって言っているのを知ってるしな。親父の今の歳にもなれず、俺はこの世から居なくなってるかもしれない」
(゜3゜)「なら、やるだけやってみるさ。何もしなくても碌な事にならないんならな」
自分よりもいくつも下とは思えない子供の言葉を聞き、ニシカワは自分の過去を振りかえる。
狭い部屋に繋がれ、家畜同然に飼われていた生活。思い出せる記憶の大半はそれで埋め尽くされている。
蹴られ、殴られ、何も感じなくなって、ただ死んでいないだけ。どれだけの時間をそうして過ごしたか、もう自身の年齢も定かではない。
その生活に戻るか、危険なうえに恐らく失敗をする賭けに出るか。
たしかに、答えは決まっているかもしれない。ニシカワは表情には出さないが、なるほどと頷いた。
(^ω^ )「そんなに、村の状況は悪いのかお」
ニシカワはまだ、村での生活が命を掛けるほど危機的状況だとはは感じていない。
そんな思いから出た言葉だったが、それはポセイドンを怒らせたようで彼が気色ばんで話し出したのに驚かされた。
(゜3゜)「悪いさ! 良いわけがあるかい? 大人たちは毎日、野良仕事をしているのにあんなに痩せっぽち。子供たちだって歳の割にみんな小さいだろう」
(゜3゜)「俺達の村はまっとうな、普通の村に見えるかい? ニシカワさん」
激しい怒りを堪えているかのような口調である。それを見て、聞いたニシカワはやはりこの子は大人だと感じた。
ただ、思い通りにならない事に対して泣いて怒るだけで解決しない事を理解している。
普通の子供はきっと、彼ほど大人ではないだろう。普通を知らない自分には、比較できる経験が無いのが悔しかった。
(^ω^ )「悪かったお」
(゜3゜)「……いや、俺も悪かったよ。急に大きな声を出したりして」
(^ω^ )「言われたら納得できる事ばっかりだお。でも、気がつかなかったお」
(^ω^ )「皆がしっかり働いてよく笑って、うまくいかない事なんて一つも無いかのような雰囲気だったお」
(゜3゜)「それはそうさ。ニシカワさんやシュー先生が来てくれたおかげで、今年はきっと誰も死なないで済む。どんなに感謝しても足りないよ」
(゜3゜)「ただ一年延びるだけだとしても、こんなにうれしい事は無いって大人たちは思ったんだ。もちろん俺も」
ニシカワは余りに達観した目の前の子供に、以前の自分の姿を重ねた。
(^ω^ )「……おっおっ」
(゜3゜)「だけど、少し余裕ができると途端に皆が思い出したんだ」
(゜3゜)「これまで何度も思っては、そんな事は絶対に出来ないって何度も捨ててた事をさ」
(゜3゜)「無能な……、少し違うかな。私欲の為に村を、ヤクエンを捨てている騎士を追い出す」
(゜3゜)「村に住んでいるわけじゃないから、領主の座からって意味ね」
不思議そうな顔をしたニシカワにポセイドンが言う。
(゜3゜)「長から言われたんだろう。助けて欲しい、協力してくれないかって」
(^ω^ )「おっおっ」
(゜3゜)「だから俺は出来る事を全部やる。二人が危ない橋を渡っているんだ、本当なら村の全員がその前を歩くべきなんだ」
(゜3゜)「村の女や子供は許してもらっているんだ。なのにこれ以上は。俺が行かないわけにはいかないだろう」
もう、ニシカワには「お前も行かなく良い」とは言えない。言えばどんな事をしても参加するだろう。
それが良い方向に働くとはとても思えない。なら、受け入れる事が一番彼にとっては安全、というより生き残る可能性がいくらか高くなる。
ニシカワにはそう思えた。
(゜3゜)「無理だと分かっているんだけど」
悩むニシカワに小さな声を向ける。
(^ω^ )「どうしたお」
途中までで黙るポセイドンに続きを促すと、照れたように笑って見せた。
(゜3゜)「……無理だってわかっているんだ。それででも、できるなら次の騎士は、領主はニシカワさんやシュー先生が良いな」
それは今までとは違う、年相応の子供の顔だった。
lw´- _-ノv「決行は次の式典。武家の位を改めた後」
帰ってくるなり、シューが村の者に伝える前にと、ニシカワに話しだした。
(^ω^ )「その日は王都に入れるのかお」
念のため着ていた革鎧を外しながらニシカワが尋ねる。
lw´- _-ノv「何も無ければ入れない、他の街と同じね。でも、普段よりもよっぽど警戒は薄いわ。四年に三度のお祭りだもの」
lw´- _-ノv「期間中は普段よりも警戒が緩い」
(^ω^ )「そうなのかお」
lw´- _-ノv「騎士の位が改められる。場合によっては新たな騎士が生まれる日。それに、門兵より強いであろう騎士が手勢を連れて集まっている」
lw´- _-ノv「わざわざ、そこを狙う敵は居ないだろうって考えているのよ」
(^ω^ )「……おっおっ」
ニシカワが苦笑する。
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lw´- _-ノv「ただ、私達がやろうとしているのは街を攻め落とす事じゃない。王と話をしたいだけ」
(^ω^ )「入れたとして、城まで行けるかお。こっちは実戦経験もない素人達だお」
lw´- _-ノv「絶対無理ね。間違いなくその前に鎮圧させられる」
(^ω^ )「……なら」
lw´- _-ノv「だから、式典の最後よ」
(^ω^ )「最後かお」
lw´- _-ノv「王はほとんど城から出られない。だけど、式典の最後だけは街を歩いてまわり民に姿を見せるわ」
lw´- _-ノv「これも、あくまで慣例だから絶対かと言われたら確約はできない。けど、まず間違いないと思う」
lw´- _-ノv「幼い王を公家や商家が都合よく操っているなんて噂はどこでも耳にする」
シューが「まぁ、噂とは言い切れないけど」と付け加えた。
lw´- _-ノv「……もっと悪いと、とっくに王は死んでいて一部の騎士たちの私欲のために政治が行われているなんて噂まである」
lw´- _-ノv「だから、王は生きている。今の政治は自分がやっているって見せる必要があるのよ」
lw´- _-ノv「先王がそれを辞めた年に直轄の村々で暴動が起きてから、その意味合いが強くなったの」
(^ω^ )「そうなのかお」
lw´- _-ノv「ちなみに、全部ビイグルさんに聞いた話だから」
lw´- _-ノv「どうする?」
(^ω^ )「何がだお」
lw´- _-ノv「今考えている事が、奇跡的に全部うまくいけば王に直接会える。ほんの短い間だけね」
シューの言葉はいつもより冷たい。そう感じるものだった。
lw´- _-ノv「村の皆はこの場所を救いたい。親や子の居るこの場所をね。領主の無能のせいか私欲のためかは分からないけど、今の状況を何とかしたいと思っている」
lw´- _-ノv「そのために命を掛けて、王に直訴しようとしている。でもそれは彼らの目的。あなたの目的とは違う。」
シューがニシカワの目を見る。
lw´- _-ノv「村を救ってくれと伝える事が、あなたの言う王を救う事になる? あなたはどうすれば王を救う事になると考えているの」
言われたニシカワの目が大きく開く。そして、息をするよりは少し大きく口は開いては閉じるを繰り返していた。
lw´- _-ノv「……何も考えていなかった?」
短い沈黙の後、シューが言った。
(^ω^ )「何も考えていなかったお。ただ、王は辛い立場に置かれていて、そこから助け出されるのを望んでいる。ただ、そう考えてブーンは動いて来たお」
(^ω^ )「どうすれば王を助ける事になるのか、それも考えないまま今日まで動いてきてたお。……そのせいで、シューを危険な目にも合わせたお」
lw´- _-ノv「それは気にしなくて良いわ。利害が一致していたから行動を共にしたの」
シューが「それに実際に怪我したのもあなただしね」とニシカワの腹のあたりを見る。
(^ω^ )「怒らないのかお」
lw´- _-ノv「そんな事だろうと思っていたから」
lw´- _-ノv「あなたは人と何か違う、あるはずの考え方がなかったり、誰も起こそうとしない行動を起こしたりね」
lw´- _-ノv「だから、私が理解できない考えの基に動いているか、何も考えずにぼやけた目標に向かっているんだろうなってね」
ニシカワは恥ずかしそうに笑った後、顎に手を当てて考え込む。
(^ω^ )「……考えても、きっと答えは出ないお。だから話して、聞いて、王が望む方法をしたいお。ブーンはそう思うんだお」
顎にあった手がいつの間にか頭を抱える様な形になっていたニシカワは小さな声で言う。
lw´- _-ノv「王と話したいのね」
(^ω^ )「そうだお。それから王が望んだ事をしたいんだお」
lw´- _-ノv「なら、王を連れ去りましょう」
おつ
おつ
おつおつ
おら荒らすならもっと気合い入れてやれやカス
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腐ったスレは駆逐しなきゃ(使命感)
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あげときますね^ ^
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ふもっふ
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君が死んでからもう1年。
君は今も僕を見守ってくれているのかな?
君は、僕の生まれて初めて出来た彼女だった。
すごく嬉しくて、幸せだったなあ。
突然、白血病だって医者に宣告されてから、君は病室で日に日に弱っていった。
「病院ってひまねえ」って笑う君を見て、僕はいつも泣いていたんだ。
君の為に、僕の小汚いノートパソコンをあげたら、君はすごく喜んでくれたよね。
ネットをするようになった君がいつも見ていたサイト、
それが「2チャンネル」だった。
ある日君はいつものように、笑いながら言った。
「ほら、見て今日も950ゲット出来たよ。」
「あまりパソコンばっかいじってると身体に障るよ」
なんて僕が注意すると、「ごめんねえ。 でもね、これ見てよ。
ほら、この951のひと、950げっとぉ!なんて言っちゃってさぁ、ふふ」
僕は黙っていた。君がすごく楽しそうで、僕は何も言えなかった。
「ほらみて、この951のひと、変な絵文字使ってくやしぃ~!
だって。かわいいねえ。 ふふ。」
僕はまだ黙っていた。笑う君を見て、どうしようもなく悲しくなった。
「憶えててくれるかなあ」 君がふと言った。
「…この951のひと、私がいなくなっても、あの時変な奴に950をとられたんだよなー
なんて、憶えててくれないかなあ……無理かな……憶えてて、ほしいなぁ……」
それから数ヶ月後、君は家族と僕に見守れながら息を引き取った。
君はもうこの世に居ない、なのに僕は今F5を連続でクリックしている。
君の事を、951のひとが忘れないように、いつまでも、いつまでも忘れないように。
天国にいる君と一緒に、今ここに刻み込む
950 ゲ ッ ト
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