【R-18】モバP「君はフルスロットル」 (484)


※R-18の地の文です

好きで無い方は閲覧注意してください


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ワイワイ ガヤガヤ

「では、おつかれさまでーす!!」

カンパーイ!
掛け声と共にお互いのジョッキをコツンとぶつける

所々で同じような声が聞こえる
騒がしい居酒屋の店内、あたしは珍しく飲みに来ていた

「それにしても、美世君が飲みに来るとは珍しいね」

「せっかく木場さんとちひろさんが誘ってくれたら……」

「突然の誘いにでごめんなさいね。木場さんと話してて美世ちゃんも誘おうって!」

「こうやって木場さんと美世ちゃん、飲み仲間が増えるのは良い事ですよ!」

嬉しそうにグイッとビールを飲み干すちひろさん
ふっと笑いながらお通しを食べている木場さん
そして、あたし……

「美世ちゃんはあんまり飲むイメージが無いですね」

「20歳になってそんなにたってないし、飲むと運転できなくなりますからね」

「それもそうか、美世君は今日は車では無いのかい?」

「うん、今日は歩きなんです!」

珍しい組み合わせだけれど緊張することなく
楽しい飲み会になりそうだった


原田美世(20)
http://i.imgur.com/yvilrmq.jpg
http://i.imgur.com/Iu8LpmV.jpg


「さぁ、今日は日ごろの疲れを癒すためパーっと行きましょう!」

「おいおい、ちひろ君は飲みすぎないようにな」

ちひろさんはさっきから凄く楽しそうだ
きっとこういう場が好きなんだろうな……

ちひろさんがレモンを絞ってくれた唐揚げを口に運ぶ
あっ、ちょっとしょっぱい……
レモン絞りすぎだな……

「……ん? 今日はいやに静かだね?」

「えっ!? い、いや……そんな事はないと思うんですけど……」

唐突に、木場さんから投げかけられた質問に戸惑う
そんなに静かだったのかな?

「ふふっ、知ってますよ~?」

「な、何をですか……?」

早くも顔が赤いちひろさんがニヤニヤしながらあたしの顔をぐっと覗き込む

「どうせ、今日はPさんが来ないのかなぁ~? とかなんじゃないんですか?」

「ふふっ、なるほどね。そう言う事か……」

「なっ!?」

ブッと飲んでいたビールを吹き出しそうになるのを堪えて抗議する
あたしは別にそんなつもりは無かったし、今でも十分楽しい

考えてなかったと言えば嘘になるけど……

「残念ですね、今日はPさんはお仕事ですから」

「まぁ今日の所は私達二人で我慢してくれるか」

「…………」

もう完全に言い訳しても無駄なようだ
少しお酒を飲んでテンションの上がった二人を止める術はあたしにはなかった

こうなれば、あたしもとことん飲もうかな!


------ 事務所

カタカタカタカタ……

ディスプレイに並ぶ小難しい文字を見つめ頭を捻り
最後のシメの言葉を入れて勢いよくキーをタンッ! と叩く

「やっと終わったか……」

すっかり冷めてしまったコーヒーを飲み干し軽く伸びをする
夕方から格闘していた企画書もなんとか片付いた

いきなり欲しいって言うんだから参ったな
こっちはそんな作業ですら手一杯なのに……

でも、それで仕事がもらえるなら恩の字か

すっかり呆けた頭でメールを送りながら
この作業から解放された安堵感にふぅと息を漏らす

夜の10時……
静まり返った事務所には俺以外誰もいなかった

「今頃、ちひろさん達は飲み会か」

今から行った所でお開きの時間だろうな

「ま、今回は我慢しますか……」

パソコンが落ちたのを確認して帰り支度を始める
今日は特別遅いというわけではないが、さっさと帰ってゆっくりしたかった


「よしっ、事務所の戸締りはこれで大丈夫だな」

窓を閉め、各所の電源が落ちている事を確認して外に出る
事務所のカギも閉めたし、今日の業務はこれにて完了だ

意気揚々と車に向かって歩き始める
帰宅時間って言うのはいつでも気分が良いものだ

prrrrr……

「ん? こんな時間に誰だろう……」

ふと、機械的な呼び出し音がポケットの中から鳴り響く
何度も聞きなれた俺の携帯の着信音だ

でもこんな夜遅くにかかってくるのは珍しい
緊急の用事でもあるんだろうか

あれこれ考えながら確認すると着信の主は意外な人だった

着信:千川ちひろ

「……ちひろさん?」

仕事関係でも珍しいのにちひろさんとは……
もしかして、まだ飲み会やってるのかな……

ピッ

「もしもし……」

『あっ、Pさんですか!? た、助けて下さい!!』

「助けって……何かあったんですか!?」

酔っているせいかいつもより早口で喋るちひろさんの声は聞きとりづらい
居酒屋の喧騒も相まって何を言っているのかあまりよくわからなかった

『と、とにかくこっちに来てもらって良いですか!?』

「えっ? こっちにって」

『なるべく早く頼み……み、美世ちゃん! ああっ!』

ツーツーツーツー

まるで事件に巻き込まれた被害者と電話している気分だ
とりあえず放っておくわけにはいかないみたいだな

ちひろさんは木場さんと二人で飲みに行ったはずだけど
今、美世って言っていたよな……

「まさか……」

記憶の片隅に閉じ込めていた思い出したくない思い出が顔を出す
何となくこの電話の真相が読めてきた気がする

「これは急がないといけないな……」

予想が当たっているのであればあんまりゆっくりもしていられない
俺の想像通りならば今頃現場は大惨事だろうな


「千川様は13番の個室になります」

「ありがとうございます」

少し息を切らせながら到着した居酒屋は
もう日が変わるというのに未だに多くの人で賑わっていた
俺は案内された場所に向かって歩を進める

『で、そう言うのが納得いかないんですよ!!』 ドンッ

少し遠めからでもハッキリと聞こえる聞き覚えのある声
どうやら最悪なパターンになってしまったようだ

13番……ここだな
未だに少し個室のドアを開けるのに躊躇するが
ここまで来たら引き返すわけにもいかないだろう

意を決して個室のドアを開ける

ガラッ

「お待たせしました」

「で、お二人はそこはどう思うんですかぁ~?」

「き、木場さん答えてあげて下さいよ……」

「わ、私に振るんじゃない!」

そこには顔を真っ赤にした美世と
逆に顔が真っ青になったちひろさんと木場さんが正座していた
まるで説教でもされているみたいだ

「あっ、Pさん! もう、遅いじゃないっ!!」

あっさりと見つかり美世に足をホールドされる

「んふふー、さぁPさんもゆっくり楽しんでねっ!」

今の彼女には何を言っても効果は無さそうだ
救世主でも見るような目で見つめてくる二人を見るとそうなんだろう

「あの、もしかして美世のやつかなり酔ってます……?」

「えぇ、そうですね……それはもう恐ろしいくらいに」

「私もここまで酒癖が悪いとは予想外だったよ……」

「……まぁ、前もこんな事ありましたからね」

美世は普通に飲んでいる分には大して変わらないのだが
ある一定を超えると絡み酒になる
ちょっと前に一緒に飲みに行った俺はこれで酷い目にあった


「で、俺をここに呼んだ理由は何なんですか?」

「あっ、Pさん無視しないでよっ! ほら、あたしのついだお酒も飲んでよ!!」

「できたら、その……保護者として家まで送ってあげてもらえませんか……?」

「ほらっ、Pさん! 唐揚げ食べる? あたしが食べさせてあげる! あ~ん♪」

「保護者ですか……」

モグモグと口にほおりこまれた唐揚げを味わいながらため息をつく

ちひろさんはギブアップと顔で訴えている
保護者ではないけど送って行かないとまずそうだな

「すまない、私ももうこれ以上は精神力が持たないよ……」

いつもクールな木場さんですら頭を抱えて唸っている
話の通じない相手と話すのはさぞや辛かっただろう
よっぽど参ったんだろうな……


未だにニコニコ顔でこっちを見つめてくる美世に対して
決意を固めて帰る事を促す事にした

「……美世、今日はお開きだ。帰るぞ!」

「えっ? まだPさんが来たばっかりじゃない!!」

「そんな事ないぞ、俺はもう来て2時間以上たってる」

「……あれっ? そうなの……ふふっ、あたし楽しくてうっかりしてたみたい!」

「俺は飲んでないから美世を家まで送って行くよ」

「えっ……い、良いの!?」

「あぁ、良いから早く支度するんだ」

『やったぁー』と子供みたいにはしゃぐ
たまにこういう子供っぽい所があるんだよな、おかげで誘導しやすいんだけど

「じゃあ、俺は美世を連れて帰りますね……」

「ふふっ、流石に手慣れてるね」

「すみませんが、宜しくお願いします……」

標的から外れてホッとしたような木場さんとちひろさん
今夜はきっと二人で飲み直しに行くんだろうな

俺は来たばっかりだが靴を履き直して鞄を持ち、帰る用意をする


「Pさん、ちょっとまって……っとと……」

「危ないぞ、肩を貸すからゆっくり歩け」

「うん……ふふっ、やっぱりPさんって優しいね」

少し照れたように笑みを浮かべる美世に肩を貸して歩く……

本当ならときめくんだろうけど
靴を左右逆に履いてるのが気になってそんな気分にもなれなかった

「ありがとうございましたー!!」

店員に見送られて居酒屋の外に出る
少し風が吹いていて酔い覚ましには丁度良いだろう

「ふふっ、こんなに飲んだのって久しぶりかな……」

「限界突破して飲むなんて珍しいな、何かあったのか?」

美世は控えめな所があるから
こうやって自分を制御できなくなる程飲むのは珍しかった

「わかんない、少しだけそんな気分になったの……」

「…………」

どうにも自分でもあんまり分かってないみたいだ
少しだけ理性を取り戻してきたのか少し物憂げな表情をしていた

「とりあえず車で送って行くよ。吐きそうとかはないよな?」

「う…ん……大丈夫……」

まだ足元がふらついている美世を助手席に座らせて、俺は車のエンジンをかけた


夜の道は空いていて助かる
目的地まではさほど時間はかからなさそうだった

「んっ……もうそろそろ……つく……?」

「あぁ、もう10分くらいかな……」

こうやって何度か美世を送って行く事があったので
マンションまでの道のりは頭に叩き込まれていた

いつも通り美世を部屋まで送って、俺も家に帰って寝る
それで今日も終わりだな……

「そっか、もう終わりなんだね……」

「今日のドライブはここまでだよ」

「ちょっと……残念かな」

「また今度、お酒が入ってない時にな」

「うん、きっとだよ……あれっ!?」

何気ないお別れの話をしていると美世が何か気がついたらしく
素っ頓狂な声をあげあたりをキョロキョロと見まわしている

「ど、どうしたんだ?」

「な、ない……あたしの鞄!?」

「はっ?」

慌てて近くのコンビニに車を止める


「ほ、本当にないのか……?」

「う、うんさっきから探してるんだけど……」

足元を見たり後部座席を確認したり
入ってるわけの無いダッシュボードを開け閉めしたりと
忙しそうにしているが見当たらないようだ

恐らくどこかに置き忘れてきたんだろう

「ど、どうしよう……」

笑顔だったり、はにかんだり、オロオロしたりと今日の美世は変化が激しい
とはいえ、冗談抜きであまり良くない状況のようだ

「鞄には何を入れていたんだ?」

「えっと、お財布とか家とか車のカギとか……」

「貴重品全部か……」

それもそうだよな、失くしていいものだったらこんなに慌てたりはしない

「P、Pさん……」

「……とりあえずさっきの居酒屋に戻ろう。多分忘れているだけだから大丈夫だって」


そう言いながら、また車のアクセルを踏もうとした時
再びポケットの中から聞きなれた音楽が流れ始めた

prrrr……

着信:千川ちひろ

また、ちひろさんからの電話のようだ
今度は何か別の問題でもあったのだろうか……

『もしもし、Pさんですか』

「ちひろさん、飲み会はもう解決したんじゃないんですか?」

『そうですけどもう遅いんで今日は解散です』

「そうですか、それで今度はどうしたんですか?」

『あの、ひょっとして美世ちゃんって鞄を忘れてません?』

「……もしかして」

『あぁ、やっぱりそうでしたか。お店から出る時見つけたんで』

『ひとまず預かってますけどどうしましょう?』

「ちひろさんってもう家に着きましたか?」

『いえ、もうすぐ終電が来るんで、急いで駅に向かってます』

「ちひろさんの家ってかなり遠いですよね……」

『そうですね、東京からだと……』

とりあえず、鞄の安全性は確保されていたようだ
その事だけ美世に伝えると美世は安心して胸をなでおろしていた

しかし、また一つ問題が出てきた

どうやって回収すれば良いんだ?

事務所に毎日来る用事があるちひろさんが預かったまでは良い
でもちひろさんはもう帰宅途中だ

今から鞄を回収しに行くのにはちひろさんの終電に間にあわない……

鞄を回収してちひろさんを家まで送って行くにしても
車で行くには少しばかり遠い距離なので翌日が心配だ……

電話越しに二人でどうしましょうと言いあうだけで一向に話が進みそうになかった


「あの、Pさん……あたしは大丈夫だから」

難しい顔をしていると、ふいに美世が呟く

「ほらっ、鞄が無事だったら一日くらいは何とか過ごせるから!」

そう言って笑って大丈夫だとアピールしてくれる
あまりそういう事はさせたくないんだけどな……

「ちひろさん、美世の方は大丈夫みたいですから」

「すみませんけど明日鞄を持ってきてくれませんか?」

『え、えぇ……わかりました』

とりあえず、鞄を預かってもらう事にして話を終わらせる

「もう大丈夫なの?」

「あぁ、ちひろさんが明日まで預かっててくれるってさ」

「そっか、それなら良かったかな」

「でも、どうするんだ? 今から漫画喫茶にでも泊まるのか?」

「…………」

その質問に美世は答えなかった


まだ酔いが醒めていないのか
少し赤らめた顔で窓の外を見つめて押し黙っている

「……Pさんの家じゃ駄目かな?」

ふと……小さく、でもハッキリと聞こえるように美世が呟く
想定していなかった答えに『はっ!?』と思わず声が裏返ってしまう

「……駄目?」

今度はこちらに視線を向けてハッキリと聞く
その目はしっかりと前を見据えていてとても酔っているようには見えなかった

「……べ、別に良いけど……」

「うん……それじゃあ、お願いしようかな……」

確認が取れたのがわかるとすぐに視線を窓の外に向けて
何事もなかったかのようにボーッと見つめている

「…………」

この時から言いようのない違和感を感じ始めていた
今日の美世は何かおかしい……しかし、それが何なのかは分からなかった


「……着いたか」

いつもの駐車場に車を止めて、エンジンを切る
予定よりは少し遅くなったけどまだまだ許容範囲内の時間だ

「……すぅ……すぅ……」

隣では美世が寝息を立てて寝ている
無理して飲んだ後に鞄を無くしてきっと疲れたんだろう
起こして連れて行くわけにはいかないな……

「よいしょっと……」

助手席から引っ張り出したのに起きる気配は無さそうだ
そのまま背中におぶって鞄を持ちマンションに向かう

「思った以上に軽いんだな……」

こうやって美世を持ち上げるのは始めてだけど
何だか少し恥ずかしい気持ちになってしまい、早足で部屋に帰る

今日は美世をベッドに寝かせて俺はソファーで寝るか……
明日になれば……いつも通りになるだろう……


------ Pの部屋

「……んっ」

夢から覚め、不意に体中を包む布団の感触に違和感を感じて上半身を起こす
まだ見える景色は曇っていてここがどこだかわからない

でも、あたしの部屋では無いみたいだ……

サビついた頭をフル回転させ記憶の糸をたどる
あたし、今日はちひろさんと飲みに行って……

それから先は覚えていない、多分またやってしまったのだろう

「はぁ……」

どうしていつもこうなんだろうか、不安になると何かに逃げて……
欲しい物はずっと前から分かっているはずなのに

今回もまた迷惑かけたんだろうな、後でみんなに謝っとかないとな……

「…………」

月明りが窓から差し込み
段々と薄暗い景色にも目が慣れ始める

見えた所で真っ白い壁に大きな本棚とテレビ
特に目につくような物はない簡素な部屋だ

「……ここ、どこなんだろう?」

辺りを見回すが人の気配は無い

ちひろさん、木場さん?

思いつく二人の部屋を思い出して見たがこんな部屋では無かったはずだ

誰かに連れ去られたのか、それとも望んでここに来たのか
スッポリと抜け落ちた記憶に恐怖を感じ始めて徐々に焦りが出始める

「と、とりあえず誰かいないのかな……」

ベッドから降りて薄暗い室内を散策する
ざっと見た感じはワンルームなんだろう……


「きゃっ!?」

不意に、足元に置いてあった雑誌を踏んでしまい足を滑らせる
まだ身体に力が入らないあたしはそのまま真っ直ぐに前のソファに突っ込んでしまった

「ゴフッ!?」

「えっ?」

ぐにゃりとアタシの肘が何かに当たったようだ
この感触は間違いなく人だろう
気付かなかったけどソファに誰か寝ていたようだ

「あっ……えっと……」

状況が上手く飲み込めずに変な声がでる

なんでこんな事になったのか、なんでこんな事をしてるのか……
よく分からないけどあたしは寝ている人に肘鉄を喰らわせてしまったみたいだ
そして、あたしはその被害者の上に馬乗りになっている

「……ゴホッ……な、何するんだ!?」

「あ、あれっ!? P、Pさん……!?」

顔が見えてようやく全てを理解しはじめた

入るのは初めてだけどここはPさんの部屋で、
酔い潰れたあたしを解放してくれたのがPさんで

あれ? なんでPさんが絡んでくるんだろう?
飲んでいるメンバーにはいなかったはずだけど……


「……こんな事になった理由を聞きたいか?」

未だに頭にハテナマークを浮かべるあたしを見透かしたように
Pさんが状況を説明してくれた

淡々と語られる真実にあたしの顔はどんどん紅潮していく

居酒屋で酔い潰れてPさんを呼べって二人に叫んで
酔っぱらってPさんに絡んで
鞄を忘れて家に帰れなくなって
どうしようって迷った挙句……
ここに行きたいって……あたしが!?

「な、なんで……!?」

「もう一回酔い潰れたら分かるんじゃないか……」

ほとんど記憶の無いあたしに呆れたのか
Pさんはやれやれと言った感じで適当な返事を返す

思いだそうとしても頭が痛むだけだったけど
本当は思い出さなかった方が幸せだったんだろうな

「はぁ……なんか、ごめんね」

顔に両手を宛てて驚いている顔を隠す
自分でも信じられない程の行動をしていたみたいだ


「……なぁ、そろそろどいてくれないか?」

「えっ!?」

言われてから改めて気づかされる
さっきから普通に話しているが
あたしはPさんに馬乗りになったままだ

Pさんもさっきから気まずそうに視線をそらしている
無理やりどかすわけにもいかずにどうしたらいいか困っているみたいだ

再び自分の体温が上がって行くのがわかる

あたし……なんて格好してるの……

きっとこの状態から解消されるのは簡単だろう
よいしょと足をあげてソファから降りればそれで終わりだ

そうすれば……終わりなんだろう

頭では理解しているけど身体は動かない
壊れた車のようにキーを回してもエンジンがかからず動かない

Pさんに触れている手が、重なっている身体が
月明かりに照らされてかすかに見える顔が、
静寂の中で聞こえるかすかな息遣いが全てを狂わせてるのかな?


「……どうしたんだ?」

望んでこうなったわけじゃない

本当に全ては偶然だった

でも、ずっとずっとこうなる事を望んでいたのかな?

ドキドキと早鐘のように心臓が鳴り響く

どうしたら良いんだろう、どうしたら……
こんな気持ちは初めてだった……

運動しているわけではないのに息遣いは少しづつ荒くなってくる
頭がボーッとしてくる……

こんな短い時間なのにあたしはすっかりおかしくなってしまったようだ

「……美世?」

「約束……今、守ってもらうから!!」

「えっ!?」

その日、心のどこかでお互いに超えようとはしなかった一線を超えてしまった


「んっ……ちゅ、んむぅ……はぁ……」

Pさんは驚いた顔をしたが抵抗はしなかった
抵抗しないのなら、オーケーって事で問題ないよね……
あたしは気にする事なく舌を絡ませる

絡み合う舌が、唾液があたしの理性を少しづつ奪っていく
全てを交換しあうように唾液を吸っては自分の唾液と入れ替える
息継ぎの時間も惜しいくらいに唇を重ねあう

かすかに感じる吐息に徐々に思考は停止していき
互いの舌が絡まる度に体中に電撃が走ったかのように身体がピクリと跳ねあがる
目に映る光景はいつしか霞がかかったかのようにハッキリとしないものに変わっていく

「……ちゅ…はぁ……んっ……」

あっ……そう言えばあたし、キスするのって初めてなんだよね……

初めってこんなに激しくするものなのかな?

まぁ、いいかな……一番望んでた人とできたんだから……


「ぷはっ……はぁ…はぁ……」

長い長いキスを終えて口を離す
どれくらいこうしていたんだろう?

おぼろげな頭はとても考えられる状態じゃ無かった
意識はしていなかったけど凄く長い時間だったような気がする

ツーっと、二人の口元を結ぶようにキラキラと一本の糸が垂れる
顔を離すとその糸はすぐに切れてしまった

「……はぁ……はぁ……美世……」

少し戸惑いの入り混じった目をするPさん
きっとこんな事になるとは思わなかったんだろう

お互いに息を荒げながら見つめ合う
吸い込む空気はとても熱くて、酷く蒸し暑さを感じる
熱気を帯びた空気があたしの身体を一層紅潮させる

「……ねぇPさん? あたしは後悔はしてないよ」

質問が来る前に済ました声で自分の気持ちを言い放つ
そう、後悔なんてない。ずっとこうなることを望んでいたのだから

いくら男女の関係になった事ないと言っても
この先、何をするかは流石に知っている
それがどういう意味なのかも……

キス以上に引き返せない一線を超える事になるだろう
でも、あたしはそれ以上に今を失う事がとても怖かった


「……ねぇ、しよっか?」

「み、美世! 自分で何を言っているのか分かっているのか!?」

「ば、バカにしないでよ!? あ、あたしも意味くらい知ってるよ!」

「あ、いやそういうつもりじゃないんだけど……」

こんな時でも変わらない、気の抜けたやり取りも今日は何だか心地よく感じる
こうやって作りだしてくれるこの感じはいつもアタシの事を安心させてくれた
あぁ、やっぱりこの人の事が好きでたまらないんだろうな……

さっきまで決死の覚悟で先に進むつもりだったのに今は不思議と落ち着いていた
あたしは躊躇する事なく自分のジーンズのボタンをはずす

「とりあえず……脱ぐね」

「……あ、あぁ」

諦めたのか、それともやる気になってくれたのか
Pさんはあたしのする事に口出しはしなくなっていた

腰を浮かせてジーンズをずらしていく
人に服を脱ぐのをジッと見られているのは恥ずかしい

ジーンズが邪魔にならない程に下げ終わった後は下着に手をかける
これも、脱がなきゃいけないんだよね……
今更ながら自分の言った事がどれだけ大胆な事だったのかが分かる

少しずらそうと思ったけど
外の外気があたしの下半身をひんやりと撫である違和感にきづく

「あっ……う、うそ……」

あたしのものは信じられない程に濡れていた
今まで気づかなかったけど下着もグショグショに濡れている

「…………」

悟られないようにあたしは下着を一気に下げた


「じゃあ、Pさんのも脱がすね……」

「そ、それくらいは自分で脱ぐよ!? だから、ちょっとどいてくれ!」

馬乗りになったままだから上手く動けないのだろう
Pさんの言葉を無視してズボンもずらす
パジャマに着替えていたので脱がすのは簡単だった

ある程度ずらすとビンとそそり立つようにPさんのモノが
あたしの目の前に飛び込んでくる

初めて見る男の人のモノにあたしは目をパチクリとさせていた

「こ、これを入れるんだよね……」

「そうだけど……」

ドクドクと脈打っている少し触ってみるととっても熱い
これがあたしの中に入ってくるんだよね……

で、でもこんなに大きいのって入るのかな……?

ふぅ、と軽く息をついて決心を固める
今更何も怯える事は無い、受け入れるって覚悟は決めたんだから


「じゃあ、入れるね……」

「大丈夫なのか?」

「うん、大丈夫だよ……」

意を決してPさんの上に腰を落とす

ズブリ

散々濡れていたせいか何かに引っかかる事もなく
アタシの中にPさんが入り込んできた

そして、感じた事もない異物感

「いっ……たぁ……」

下半身に感じる急激に押し広げられたような激痛があたしを襲う
普通の女の子よりも痛いのには慣れてるつもりだったけど
こんなに痛いなんて予想外だった

痛みから逃れるかのように腰を少し動かしてみるが
痛いような気持ち良いような気持ちの悪い感覚が身体を駆け巡る

「お、おいっ……大丈夫か?」

「……はぁ……はぁ……な、なんとか……」

何とか返事を返したものの、しばらくは動く事はできそうになかった

それでも、例えようのない満足感と愛おしさがが胸をいっぱいに広がって
あたしの気持ちは幸せで満たされていた

「……ね、Pさん……やっと、繋がれたね……」

苦笑いを浮かべて語りかける
今、あなたがどう想ってくれているか分からないけど

おんなじ気持ちでいてくれたら嬉しいな……


そして、繋がってから何分たっただろうか?
あたしは気恥かしさとかすかに感じる痛みにモジモジと身体をくねらせるばかりだ

Pさんはあたしの事を心配してくれているのだろう
優しく無理せず落ち着くまでジッとしてろと言ってくれる

でもなんだろう、繋がったままジッとしているなんて
間抜けな感じが耐えられず意を決してあたしは呟く

「う、動くね……」

痛みを堪えながらもゆっくりゆっくりと腰を上下にスライドさせる
さっきよりはマシになってきたけどまだまだ痛みの方が勝っている

こういうのって激しく動かした方が良いんだよね……

でも、今のあたしにはそんな事はできそうにもなかった
気持ちよくなって貰いたいけど、どうすれば良いんだろう

せっかく繋がれたのにぎこちなく腰を動かすことしかできない自分が情けなかった
こんな事なら馬乗りになってするんじゃなかったな

「……美世」

ふいに、頭を撫でられながら名前を呼ばれる
その瞬間、全身をとてつもない快感が駆け巡った

「ひうっ!?」

「ど、どうしたんだ?」

「……はぁ……な、名前……はぁ……」

「えっ?」

「……呼ばれただけで……イッちゃった……」

な、なに……これ……?

名前を呼ばれただけなのに
まともに喋れない、全力疾走でもしたかのように息が切れる
頭がショートしたみたいに何も考えられない

ビクビクと痺れるような余韻がまだ残っている
体験した事もない抵抗できない感覚にあたしは歯を食いしばって耐えることしかできなかった


そんなあたしの反応をみて喜んだかのように
Pさんからとんでもない言葉が発せられる

「少し動くぞ」

はぁはぁと息を荒げるあたしの事なんて気にも止めないみたいだ
必死に止めるように言おうと考えるけど言葉が出てこない

身体はさっきまでとは比べられない程に敏感になっていた
少し動いただけでも全身の力が抜けるような快楽が締め付ける

こんな身体で、そ、そんなことされたらあたし……

「……P、Pさん……はぁ……ち、ちょっとまっ……」

いつものように優しい笑顔で微笑んだ後
微かな願いは無視されゆっくりと少し浮いたアタシの腰にPさんの腰が突き上げられる

「ひぁ! あんっ……だ、だめ……くぅぅん!」

「駄目だよ、そろそろ我慢できそうにない」

一度突かれる度に意識が飛びそうな程の快楽にガクガクと身体が痙攣する
それでも、また突き上げられて強制的に意識を呼び戻される

何度も、何度も、何度もアタシの中を往復し続ける

あたしは抵抗する事も出来ず
口を手で押さえて自分の意志とは関係なく出る喘ぎ声を抑えることしかできなかった

「そう言えばこっちは触って無かったな」

「えっ!? あっ……やぁ……」

唐突にPさんに胸を掴まれ、そのまま優しく揉まれる
少し触られただけなのに胸は熱く熱を帯びて火傷しそうだ
上は脱いで無かったって助かった、直に触れられたらどうなっていただろう?

あたしが上に乗っているはずなのに
これじゃ、あたしの乗りこなされているみたいだった

でもそれでもかまわないかな……
だって、Pさんはあたしのドライバーだもんね

朦朧とする意識の中で
あたしに乗ってくれているのがPさんだと思うと不思議と安心できた


グチュグチュと水っぽい音が室内に響き渡る。この音を聞くのは何度目だろう?
すっかり慣れてしまったけどあたしから出ている音なんだよね

最初はためらいがちだったピストンもいつしか激しいものに変わっていた
もう痛みは無く、動けば動く程に気が狂いそうになる程の刺激があたしを襲っていた

でも、怖くは無かった
ずっと握ったままの両手があたしの心を落ち着かせてくれる
この手が離れない限りはあたしはこのままいつまでだって繋がっていられるだろう

「P、Pさん……あ、あたしちゃんとセックスできてる……?」

「ちゃんとあたしの身体、気持ち良い……?」

この場にそぐわない様な質問をつい聞いてしまう
あたしは他の女の子みたいにプロポーションが良いわけでも可愛いわけでもない
こうして抱いてくれてのは嬉しいけど、Pさんにも気持ち良いと思って欲しかった

そんな心配をよそに問いかけに少し照れたように「うん」と返事してくれた

「よかった……嬉しい」

「Pさんが気持ちよくなってくれると、あたしも気持ち良くなって……んんっ!」

少し腰を動かすとビクビクと全身に快楽の波が押し寄せる
またイってしまったみたいだ、これでもう何回目の絶頂だろう?

Pさんは一度もイってないのにあたしだけは両手で数え切れない程
言葉で、手で、そしてPさん自身でイカされ続けていた


「美世、そろそろ出そうだからどいてくれ……」

「いいよ、いっぱい出して……」

「ち、ちょっとまて! 流石にそれはまずいって!?」

さっき、無視してあたしを突き上げたお返しと言わんばかりに
両手を抑えつけて腰を上下に激しく動かす

「はぁ……こ、このまま……はぁ……一緒に……」

息を荒げ、全体重をPさんにかけて倒れ込む
そのまま唇を重ねて舌を絡める

その瞬間、あたしの中に入っていたものがビクッと跳ねて
ドクドクと焼けるような熱い液体が流れ込んでくる

「!?」

あたしも声に鳴らない声を出して身体が弓なりになる
今までのものとは違う壊れそうな程の快感が襲ってくる

「……あっ……はぁ……はぁ……」

Pさんはだらしなく上に倒れこんできたあたしを優しく抱きしめてくれる
少し目が合って、二人で軽く笑いあった後に唇を重ねる

月明かりに照らされているだけの薄暗い室内で初めて結ばれた
あたしはこの時間が、この夜が少しでも長く続くようにと考えていた……


ねむいので寝ます、続きはまた後日


■君はフルスロットル その2

「ふぅ……」

顔を伝う汗が垂れてしまわないように
こまめに拭きながら作業を進める

蝉の声が延々とリフレインする夏の昼下がり
あたしは一人締め切ったガレージで車をメンテナンスしていた

冷房と呼べるものは使い古した扇風機一つ
休みなしの仕事に文句を言うように音をたてながらも頑張ってくれている
この子がいなければここはたちまち灼熱のサウナになっているだろう

「これでよしっと!」

最後の点検を終わらせてボンネットを閉める
特に異状もなかったみたいだし、これでまた元気よく走れるだろうな

無造作に置かれたパイプ椅子に腰掛け
すっかりぬるくなった水を一気に飲み干す

仕事の後の一杯……とはいかないけれど
汗だくになったあたしにとってはなによりのご褒美だった


右手に持ったスパナをクルクルと回す
考え事をしている時に何気なく回したら簡単にできたので
今ではあたしが考え事をする時の癖になってしまっている

「やっぱりかっこいいなぁ……」

さっきまでいじっていた年代物の車をぼんやりと眺める
今のクルマの性能には到底かなわないけど
昔には昔の良さがある、そんな事を教えてくれる代物だ

こういうのを大事にできるっていいな……

持ち主の愛着を感じられる物というものは見ていて気持ち良い
人づてに頼まれたメンテだけどあたしはこの車を見て二つ返事で引き受けた

大事に……大事にか……

ふと、ある人の顔を思い浮かべる
気が付けばいつもそばに居て
どんな我儘でも嫌な顔一つせず頷いてくれる

何だか少し照れてしまい自然とはにかんでしまう
きっと、大切にされてるんだろうな……


あまり光が差し込まないガレージでぼんやりしていると
ふと、ある光景が頭の中をフラッシュバックする

その思い出はとても鮮烈で今でもハッキリと頭の中に焼き付いている
でも、あたしにとっては思い出すだけでも赤面するような出来事だ
嬉し恥かしとはまさにこんな状態を言うんだろう

結局、あの後は大惨事だった
すっかり忘れていた汚れたソファに唖然としたり
あたしは上手く歩けなくてPさんにタックルしたり
ロマンチックに結ばれたはずなのに
最後はあたし達らしい締まりの無いオチが待っていた

それでもあたしにとっては一生忘れられない夜になった
あの時に聞かせてくれた「好き」の一言は
あたしに不安や沈む気持ちを一瞬で吹き飛ばしてくれた

その日からいきなり何かが変わったわけではないけど
今まで以上に会える時間が愛おしく、楽しみに思えるようになっていた

って……最近こればっかりだよね……

気がついたら同じ事ばっかり考えている
嬉しいのは山々だけれど日常生活にあまり支障が出るのも良くないな

「あっ、そう言えば……」

連日の雨で自分の車が汚れていたのを思い出す
今日は天気も良いしついでに洗車もやっちゃおう


焼けるような日差しがアスファルトに降り注ぎ
いかにも夏と言った蒸し暑さが身体を覆う

あたしはホース片手に愛車に水をかける
ホースからでる水のアーチは光に反射してどことなく幻想的だ

「ふんふふーん♪」

鼻歌を歌いながら愛車の汚れを落としていく
真っ赤なスポーツカー、あたしの自慢の相棒が綺麗になるのは見ていて楽しい

洗車はわりと好きなのでこうやってこまめにやっている
中身のメンテナンスも好きだけど
やっぱり見た目はいつだってカッコよくないとね

「相変わらず楽しそうだな」

ふと、聞き覚えのある声が後ろから聞こえる
見なくても声の主はわかっていたけれど
呼ばれた声に身体は反射的に振り向いていた

「あれ? 仕事はどうしたの? Pさん」

その姿を見た瞬間に顔は満面の笑みに変わり
声はいつもの1.5倍くらいは大きくなってしまう

なんて単純な性格なんだろう……

こんな簡単に明るくなったり
少しかまってもらえなくなっただけで暗くなったりと
いつの間にかあたしの中心になってしまっているようだ

「あぁ、時間調整で午後から休みをもらったんだよ」

上着を片手で持ち日差しを手で遮りながらこっちに歩いてくる
この真夏の日にフル装備で仕事しないといけないとは大変な仕事なんだな

それでも汗一つかいていないのは慣れているのだろうか
額に汗を浮かばせているあたしとはえらく違う

「それでここに来たの?」

「そうだよ、美世ならここに居ると思ってね」

「ふふっ、そうなんだ……」

暇をもらったんならゆっくりすれば良いのに……

そんな素っ気ない考えが少し頭に浮かんだけれど
わざわざ会いに来てくれる、何気ない気持ちが嬉しかった


「洗車してるのか?」

「うん! やっぱり天気の良い日にしてあげないとね♪」

近くの小さな段差に座ってこっちを見ているPさん
この場所で会うといつもそこに座っている特等席だ

「美世の車は綺麗だからなぁ」

「ふふっ、また一緒にこの子でドライブに行こうね!」

「あぁ、楽しみにしているよ」

「……ちょっと待ってね、すぐに終わらせるから」

「別にゆっくりでかまわないよ」

そう言って、頬杖をつきながら楽しそうにこっちを眺めている
別に何か言うわけでもない、こっちが話しかけたら返してくれるけど
Pさんから話しかけてくる事は滅多になかった

毎回思うんだけど、人が洗車してる見て楽しいのかな?

見られるのには流石に慣れたけど未だに疑問に思っていた事だ
今更の事すぎて聞くタイミングを逃してしまっていた


水洗いが終わり、スポンジを叩くようにして洗剤を塗っていく
時折、飛んでいくシャボン玉がキラキラと光に反射している

「……洗剤変えたの?」

「うん、新しいやつ。なんか良さそうだったから!」

「へぇー、相変わらず好きだね」

缶コーヒーを飲みながら新しい洗剤のパッケージを眺めるPさん

あたしはしょっちゅう服を汚してしまうので、洗濯は大得意だ
色んな洗剤を試してみたりとあたしの第二の趣味になりつつある

「そういや、お昼は食べたのか?」

「あっ……忘れてたかな……」

「……だろうと思ったよ、適当に買ってきたから終わったら一緒に食べるか」

さっきから手に持っていたコンビニの袋の中身を見せてくれる
中にはおにぎりやサンドイッチと簡単に食べれる物がいっぱい入っていた

ちゃんとあたしの大好きな鮭おにぎりやタマゴサンドも入っている
こういう細かい気配りができるのってホント凄いなと感心してしまう

「さっすが! ちゃんとわかっててくれるんだね!」

「わかってるっていうかいつもの事じゃないか」

ご飯を見ると急にお腹が空いてしまい、早く食べたくなる
あたしのエンジンがかかってしまったみたいで
洗車するスピードはどんどん上がっていった


「ふぅ……ちょっと休憩っ。Pさん、ピットでメンテしてほしいな♪」

大体やる事も終わって額ににじみ出る汗を服で拭う
これでしばらくは洗車しなくても大丈夫だろうな

「わかったよ、じゃあいつものガレージで食べるのか?」

「うん! そうしようよ!」

もうお腹はペコペコだったのでさっさとご飯が食べたかった
あたしは手早く道具を片づけて、もう食べる準備は万端だ

「その前に、ちょっと頭が濡れてるぞ? 拭かなくて良いのか?」

「これぐらい、たいしたコトない! あたしの髪は撥水性バツグンだから!」

「アホな事言ってないで頭をこっちに向けろよ」

「あっ……拭いてくれるの? さすがPさん♪ メンテは万全だね! 優しいなぁ!」

ワシワシと頭をタオルで拭かれ
タオルの隙間から見える顔を上目遣いに覗いては
飼い主に拭かれる犬のように尻尾を振っている喜んでいる
初めての時は照れ臭かったけど今じゃこれもよくある事だ

実はわかってて拭いて無いんだけどな……

あたしの気持ちを知ってか知らずか
でも、ちゃんと気づいてくれているので満足していた


「へぇー、これが言ってたやつか」

「そうそう、最近は耐久レースの観戦にハマってるんだ」

少し蒸し暑いガレージの中でおにぎりを頬張りながら二人で雑誌を見ている
このガレージに置いてあるのはあたしの趣味のものしかないので
言うまでもなく車かバイクの専門誌しかない

「いっしょに行くならペアチケット取ってあげるよ♪」

「じゃあ、お願いしようかな。また開催日を教えてよ」

Pさんはさほど車に詳しいわけじゃなく、どちらかと言うと走ればそれで良いという人だ

それでも、こうやって嫌な顔一つせず付き合ってくれるし
行けば全力で楽しんで的確な感想を言ってくれる
黙々と一人で作業するのが好きで
人付き合いの得意ではないあたしにとっては変に力を入れずに楽しめる最良の相方だ

「そう言えば最近仕事は忙しいの?」

「んー、ボチボチかなぁ……」

そう言いながらボキボキと首を鳴らす
本人はそう言っているけどあたしから見れば超人的な働きをしているので
それをボチボチなんて言ってのけるのはこの人くらいだろう

「ま、身体資本だから泣き事は言ってられないしな」

そして、欠伸をしながら眠たそうな目でサンドイッチを食べている

普段からこんな生活なんだろうな……
どうしてこうも自分の事には無頓着なんだろう?

人の事は言えないがPさんよりはまだまともな生活はしているだろう


「Pさん、お疲れなのかな?」

「ん? そうでもないけど……」

「あたしのとっておきのコレで、目さましておく?」

そう言いながら軽く手で肩を揉む真似をする
少しでも疲れをとって上げられるならマッサージくらいはしてあげたい

「……は?」

あ、あれ……?

いつもなら『じゃあ、頼むよ』と言って肩を揉んでいるのに
今日に限って何を言っているんだとでも言わんばかりの顔をしている

な、なんかあたし変な事言ったかな……?

少し、考えた後にある考えが浮かんで
顔が瞬間湯沸かし器のように沸騰し真っ赤に染まる

「な……なに期待してたの?」

「えっ!? い、いや別に……」

「Pさん、変な想像とかはしちゃだめだよ! もう!」

しどろもどろになりながらも何とか場をごまかす

少しにやけながら手を前に出してコレとか言って……
前の事を考えたら完全に誘ってるようにしか見えない

「…………」

Pさんも同じ事を考えていたようで
さっきまでの雰囲気が一転して何とも言えない
気まずい空気に変わってしまった


「じゃ、じゃあ肩を揉んでもらおうかな……」

「う、うん。わ、わ、わかった……」

何とかこの空気を払拭しようと提案してくれる
あたしはロボットのようなぎこちない動きで近付き
そっとPさんの肩に触れる

やっぱり大きい肩してるな……

普段は全く考えていないのに
今はそんな事しか頭に浮かんでこない

きっとあたしのどこかにもそういうスイッチみたいなものがあったのかな
この人に簡単にONにされてはOFFにする術は無い

まだ、あの日以外に身体を重ねた事は無いのに
記憶の奥にこびりついた愛しさと期待に胸がドキドキと高鳴る

邪な考えを振り払うように少し力を入れて肩をマッサージする
けれども、いくらそうしても頭には淫らなイメージが付きまとう

き、急に抱きついたら怒られるかな……?

勝手に動き出しそうな自分の身体を理性で抑えつける
でもそれがいつまで押さえてればいいのか答えは出そうにない


「……美世」

不意に、振り返ってあたしの事をジッと見つめる
その目に見られると身体は不思議と硬直し何も喋れなくなる

そのまま、スッと手を優しく掴まれて顔の距離が少し近づいてくる
あたしは自分自身をしっかりと持っている方だと思っていたけれど
この人にだけはこんなにもアッサリと流されてしまうんだな

すっかり蕩けた顔をしながらそんな事を考えているとある事に気づく

「ち、ちょっと待って! Pさん!?」

「ど、どうかしたのか?」

はぁはぁと自分の中に残っていたわずかばかりの冷静な部分に助けられる
流石にこれは主張しとかないとあたし的にも色々とまずい

「ほ、ほら……あたし、さっきまで車いじってたからさ」

「顔とか手とか油で汚れてるし、それにあ、汗だくだから……」

そう、初めての時は飲みに行った後だったので
『ちょっと、酒臭いな』と後で言われて頭を抱えていたのを思い出す

このまま行くと今度は汗臭いって言われるじゃない!?

あんまり格好にこだわらないとは言えそれだけは何としても避けたい
そう思うと恥ずかしさでいたたまれなくなり嫌々と言うように顔を小さく左右に振る

「ま、それならお互い様だよ」

「…………!?」

まだ言い訳を続ける口は口で塞がれて
ささやかな抵抗は一瞬にして崩れ去った

ガレージの中には扇風機の音と蝉の声だけが響き渡っていた


「思ったけど、ここ声とか大丈夫かな……?」

「大丈夫だけど……い、今更そんな事言わないでよ……!」

蒸し暑い室内で抱き合いながらお互いの体温を服を通して感じ合う
ここは人も来ないしうるさくしてもまず周りには聞こえない

聞こえるとしてもきっと止めないんだろうな……

そんな事を思いながら何度も何度もついばむように唇を重ねる
たまに舌が口の中に入り込んで来ては帰さないように絡ませる
ゼロに近いこの距離だとお互いの息遣いや心臓の音までうるさく聞こえる

少し、Pさんが距離を離してあたしのシャツに手をかける
そのままスルスルと胸の上までまくしあげられる

「あっ……」

お腹が出て、下着が見えても特に抵抗はしない
出来るはずもないって言うのが正直な所なんだろう

こんな事なら勝負下着とか着てきた方が良かったのかな……いや、持ってないけど……

前みたいに真っ暗な場所じゃ無い
お互いの顔が、肌が、表情までもがハッキリと見えるこの状況だと
どうにも、恥ずかしさがこみ上げて視線をそらしてしまう


スッと胸を隠していたブラジャーのホックに手をかけられる
ぎこちない手つきで一つ、また一つと繋ぎ目を外されていく
全ての繋ぎ目が外れた後は、だらしなくあたしの背中に垂れ下がっていた

グイッと前を持ち上げられると完全に胸が露わになる
男の人に胸を見せるのは初めてだからこれだけでも心臓が口から飛び出そうだった

「Pさん……さ、触るの……?」

「そりゃ触るけど……おねだりされるとは思わなかったな」

「ち、ち、違うよ!? そ、そうやってジロジロ見られるのが苦手なんだってば!」

まくしあげたシャツを自分の両手で持って胸をはだけさせている
こんな格好をいつまでも見られていたら気が変になりそうだ
Pさん意外には絶対に見られたくは無い

そして、大きな手でグニグニと優しく、少しだけ力を入れたりと緩急を付けて揉みしだかれる
揉まれる手に吸いつくように形を変えてはその度にジンと身体の奥が反応する

「んっ……ち、ちょっとは、恥ずかしいねこれ……」

「ま、まぁそうだよな……」


「あの……変じゃないかな……あたしの……?」

また、何とも言えない質問をしてしまう
裏方タイプのあたしは誰よりも綺麗になりたいとかそういう願望は無い
でも、今だけは誰よりも綺麗でありたいなと思う

油にまみれて汗だくなのに……何かおかしな話だよね……

少し感傷的に気をそらしていると、胸の先を生温かい感触が包む
いつの間にかPさんはあたしの胸に吸いついていた

「えっ……ち、ちょっとあ、汗……あっ……うぅ……」

コロコロと舌先で遊ばれたり、赤ん坊のように吸いつかれたり
何だか遊ばれているような気もするけど
軽い刺激の度に身体はキュッと縮こまってしまい
蕩けるような愛撫に身を委ねるしかできなかった

「くぅ……だ、だめ……き、汚いよ……」

「……そんなことないさ」

「あっ……ひぅっ!?」

また、言葉一つで簡単に理性は吹っ飛んでしまった
あたしのブレーキは完全に故障してしまい
今まで必死に踏ん張ってきた最後の我慢はもう効かなくなっていた

……どうしてそんなこと言うんだろう?

もう貴方に甘えて、愛してもらう事しか考えられなくなる
嫌われたくないから我儘は言いたくなかった

でも、一つだけ許してもらえるなら……
一分一秒でも長くこの時間を一緒に過ごしていたかった


「……触るぞ」

「……うん」

背もたれの無い椅子に座らさせられて背中を支えられたまま
胸からお腹へそして下半身へと手がゆっくりと下がって行く

腰まで下ろしていたツナギは脱がされて
今は下着以外は何も付けていない状態だ

そして、遠慮がちにでもしっかりと力強く、下着の上から指を往復させる
擦られる度に体温が上がり、悩ましい声が口から漏れる

「……あんっ! ……んぁっ……んっ!」

どんどん湿り気を帯びていくのが自分でもわかる
グチュグチュと聞こえるはずもない音が響き渡ってくるようだ

ふいに、上下していた指先が移動して下着の中に入ってくる
突然の感覚にピクリと身体を強張らせるが
俯いていた顔を急に引き寄せられ口の中に強引に舌を挿入される

「んっ、ちゅる……ちゅっ……はぁ……」

上は貪るような濃厚なキス
下は身体の自由を奪われるような優しい愛撫

体中から止めどなく汗が流れ出てくる
蒸し暑い夏の空気がより一層あたしの頭をからっぽにしていき
持て余した両手でPさんの服を掴むのが精一杯だった


数回の絶頂を迎えぐったりとした身体でPさんにもたれかかる
しかし、激しく続けられたキスも愛撫もピタリとストップしまった

「はぁ……はぁ……ど、どうしたの?」

「そろそろかなって……」

お互いの視線があって軽くキスをしたのを合図に
次にしたい事があたしにも理解できた

ふと、キョロキョロとPさんが辺りを見回す
これからと言う時に何かを探しているようだ

あっ、そういうことか……

「あそこなら……できると思うよ」

そういって自分の車のボンネットを指さす
車の中は汚さないようにと気を使ってくれていたのだろう
でもそうなると、あたし一人が寝転がれるスペースはそこぐらいしかなかった

「いや、あれは流石にまずいんじゃ……」

「もうっ! やる時はやる! メリハリが大事だよっ!」

なんであたしがこんなに声を荒げてるんだろう……
言っておきながらこれならしたくてたまらないみたいだなと恥ずかしくなる

でもそんな勢いに決意を固めてくれたようで
自分で歩けそうにないあたしをお姫様抱っこでボンネットの上まで運んでくれる


ドサリと裸になって力なく寝転がった鉄のベットは夏の熱気で温度が上がっていたが
あたしの身体の方が熱かったようで少しぬるく感じる

普段なら良く喋る二人もここにくるまではほとんど喋らず
すっかりと耳に焼き付いてしまった蝉の声が
あたしの意識を現実と繋ぎとめていた

「……じゃあ、いくぞ」

「うん……」

合図と共にゆっくりとあたしの中にPさんが入ってくる
初めての時みたいに痛みは無いかと内心心配だったけど
掴んでくれている手や、長い愛撫ですっかりと蕩け切った身体が
快感と共にその行為を受け入れていった

「くっ……あうっ……!?」

まだ全部入っていないはずなのに
ラストスパートのような刺激に身体を震わせる
自分の身体はこんなにも敏感なのかと恐怖すら覚える程だ

「……大丈夫か?」

「しっかりと……抱きしめててね……」

ジッと心配そうに見つめる視線にはにかんで答える

今度は貴方から最後までしてくれるんだよね?

なら、あたしも最後までしっかりと感じていたい
そんな淡い思いを胸にゆっくりと両腕を巻き付ける


お互いの想いをぶつけあうように身体を重ねる
勢いよく腰を打ちつけられる度に甘い悲鳴を上げながらも
次が来るのを身体全体が待ちわびている

ポタポタとPさんから流れ出る汗があたしに落ちてくる
口の中に入っては少ししょっぱさを感じながらも
それすらこの気持ちを高ぶらせるエッセンスでしかなかった

「……んっ、ああっ! ……んくぅぅっ!」

頭の中はもう何も考えられない
痺れるような快楽に身を委ねるしかない

あ、あと……どれくらいで終わるのかな……?

むせかえるような熱気の中、油くさいの匂いがするガレージで
お互いの汗が混じり合わせながら、胸を揉まれ、舌を絡めあい、身体を重ねあう

巻きつけた手はもう力が入らなくなってきた
下半身はガクガクと震えて自分のものじゃないみたいだ

頭は既に真っ白になっていて目の前のPさんしか考えられない
もう何度これ以上は無理だと思ったか分からない

それでも突かれる度に、抱きしめられる度に、好きだと言われる度に
もう少しだけもう少しだけと淫らに求める自分がいた


ビクビクとあたしの中でPさんが痙攣しているのを感じる
官能的なこの時間ももう終わりは近いみたいだ

「……美世!」

「うんっ! ……はぁ…はぁ……ど、どこでも!」

終わりを告げるように勢いを増してあたしの中を満たしていく
あたしは声を絞り出して意志を伝える、それだけで精一杯だった

そして、あたしの身体がビクッと跳ねた瞬間にPさんのものは引き抜かれる

「えっ……きゃっ!?」

ビュクビュクと飛び出る白濁液が
胸にお腹に顔に手に全身にかかる程に勢いよく
まとわりつくようにあたしに降り注ぐ

これ……凄い匂い……

ツンッと鼻にくる初めて嗅いだ男の人の匂い
汗と混じり合って何とも言えない匂いが漂ってくる

「わ、悪い! つい中以外にって考えてたら」

「ふふっ、大丈夫だよ……」

精液まみれになっているあたしをみてPさんが慌てて謝ってくる
あたしは別に嫌なことなどなかったのでおかしくて笑ってしまった

ヌルリとした液体を身体にこすりつけるように触る
これがPさんのなんだなと思うとこういうのも悪くないかなと思える

洗車……もう一回しとかないといけないな……

はぁはぁとまだ呼吸できない程に疲れ切った身体をPさんに預けて
あたしはそんな事を考えながら意識を失った


少し日が暮れて、照りつけるような日差しが無くなった夕方
再び水のアーチを車の上に描いて洗車をしていた

ただ違う事と言えば今回はあたしが座って
洗車しているのはPさんって事くらいだ

「……別にそこまでしてもらわなくてもよかったのに」

「流石に汚した張本人だからこれくらいはな……」

そんな事を言いながら洗剤を丁寧に車に塗っている

ま、汚れの大半はあたしのせいなんだけど……

今はそんな無粋な事は言わないでおこう
というか、そんな事を言ってもあたしが恥ずかしいだけだ

何だかんだ言ってもPさんも洗車が楽しそうだ
鼻歌交じりに作業をしている背中を見てるとあたしまで楽しくなってくる

「あっ……」

「ん? どうしたんだ?」

「ううん、別に何でもないよ!」

見ているだけで楽しいものなのかとずっと疑問に思ってたけど
Pさんがここに座って眺めている理由がやっとわかった気がする
多分、今のあたしとおんなじ気持ちで見ていたんだろうな

あたしは夕暮れ色に染まる愛車とそれを磨くPさんをボーッと眺めていた


ねむいのでここまで
特に終わりは決めて無いのでボチボチやります


■君はアップルパイ・プリンセス

平日だからあまり混雑していない飛行機の中で
心を躍らせながら窓に映る空の青を見つめている

隣では持て余す時間を潰すように
眠たそうな目でパラパラと文庫本をめくるPさんがいる

「えへへっ、見て下さいPさん。お空が見えますよっ!」

「……そうだな」

もう、さっきからそればっかりです……
でも質問には答えてくれているし、私の事を見てくれてはいるんですよね?

少しむくれながら、視線は下に落したままのPさんを見つめる
ひょんな事から私とPさんは出会い、アイドルとプロデューサーの関係になった
普段は素っ気ないけれど、いざという時はとっても頼りになる人だ
どちらかと言うと男の人が苦手な私だけどPさんだけは別だった

今、私達はお仕事で北の方へ向かっている
今までの仕事と違って今回はPさんと二人きり……
東京から飛行機で少し、簡単な仕事の後はたっぷりとお休みの時間があるみたい

この話を聞いた私は跳ね上がる喜びを抑えられなくて
勢いよくPさんに抱きついちゃったけど、そのまま関節技を決められた

まだ仕事が決まっていない時にフライングして買ってしまったガイドブックを
パラパラとめくりどこに行こうかと想像してはニヤける
私はさっきからそれを繰り返していた

でも、Pさんはさほど楽しそうではない
楽しいと言うよりは仕事と言う名目で貰える休みが嬉しいそうだ

Pさんは観光、一緒に行ってくれますよね……?

興味の無さそうな態度にかすかな不安を覚えながらも
さっきから読んでいる文庫本を少し覗いてみる
そこには難しい言葉がズラズラと書いてあり
チラリと見ただけではとても理解できそうにない


十時愛梨(18)
http://i.imgur.com/SJrkIp6.jpg
http://i.imgur.com/PmdMsLS.jpg


「……気になるか?」

チラチラと覗き見していたのがバレていたみたいだ
いつの間にかこちらに向けられていたPさんの視線にドキリと心臓が跳ね上がる

「えっ!? そ、そうですっ! さっきから何を読んでるんですか?」

「たいしたもんじゃないよ、ちょっと気になって買ったやつだけどな」

そう言いながら、手に持った本のタイトルをこちらに見せてくれる
そこには特に飾った絵もなく『白雪姫』とだけ短く書かれていた

「……白雪姫ですか? でも、このお話ってそんなに長いものじゃないと思うんですけど?」

「毒リンゴを食べて倒れたお姫様は王子様のキスで目覚めてハッピーエンド。一般に知られてるのはこうだな」

「ま、でもこういう昔話には色々考察が入るもんなんだよ。これはそういうのをまとめたやつだ」

ふぅと息をついて、栞を本に挟んで文庫本をパタリと閉じ、読んでいた本の説明をしてくれる

あっ……やっと話してくれるんですねっ!

理由は何でも良かった、それが難しい話しでも理解できなくても
せっかく二人でいられる時間なんだからこうやって私に話しかけてくれる事が嬉しかった

「愛梨はあんまりこういうのは読まないのか?」

「うーん、ファンタジーとかなら読みますけど難しいのはちょっと苦手です……」

「ははっ、好みが別れるしそれもそうか」

「でも、Pさんが面白いって言うなら私も読んでみたいですっ!」

「なら、読み終わったら貸してあげるよ」

自分の趣味に興味を持ってくれた事に気を良くしたのかPさんはにこやかに笑う
その笑顔につられて私も「えへへっ!」と一緒に笑ってしまっていた


「……後1時間くらいで到着だな」

少し談笑していると唐突に腕時計を見ながらPさんが呟く
私も目の前の電子時計を見てみると時間は3時を表示していた
あっちについてからはすぐにお仕事なので今日ゆっくりできるのは今と夜だけになる

3時、だとしたらあの時間ですよねっ!

この時間をさっきからずっと待っていた
Pさんに喜んでもらえるための秘策を用意していたからだ

「……Pさん、お腹は空いていないですか?」

「ん……まぁボチボチかなぁ」

その言葉を待ってましたと言わんばかりに私は自分の荷物から箱を取り出す
この日のために頑張って早起きして用意していたとっておきのプレゼントだ

「今日はPさんへの感謝の気持ちを込めてアップルパイを作って来ちゃいました!」

パカリと目の前で箱を開けて力作のアップルパイを見せる
久しぶりに作ったけど、とっても美味しくできたからPさんにも食べて欲しかった


「…………」

よ、喜んでくれてますか……?

さっきから特に返事もなくジッと目の前のアップルパイに視線を落としている
普段からこうしてお菓子を作ってはPさんに食べてもらっていたけど
このアップルパイには興味がないのか今一つ浮かない表情だ

ちゃんと飛行機内で食べることを考えて匂いがきつくないように仕上げたつもりだし
今回も褒めてくれると思っていたので、予想外の反応に私は徐々に焦りの色を感じ始めていた

「愛梨特製アップルパイ、いーっぱい召し上がれ♪」

ズイッと、もう一度視界の中に入るようにアップルパイを見せ
ちゃんと伝わるようにハッキリと言ってみる
するとPさんは「はぁ」と短いため息をついて私のおでこをグリグリしはじめた

「……毒リンゴの話の後にアップルパイか!」

「あぅ……そ、そういうつもりじゃないんですっ!?」

突然に告げられた沈黙の理由にあたふたと手を振って否定する
言われてみればそれもそうだ、さっきまで白雪姫の話をしていたのに
目の前でリンゴを出されても食欲は沸かないだろう

ま、またやっちゃった……

自分のドジが少し嫌になる、私はいつも少し気づくのが遅いみたいだ
何とも言えないこの空気に私は「あうぅ……」と戸惑うしかできない
アップルパイをチョイスしたのは失敗だったようだ


「そ、そうですよねっ! 食べたくないですよね……」

気持ちは一気に井戸の底に沈んでしまい
目に見えて落胆した表情をしては諦めて箱を閉じようとした瞬間
スッと中から一切れのアップルパイを取り出してPさんがモグモグと食べ始めた

「でも美味いな、流石普段から作ってるだけあるよ」

「あっ……良いんですか!?」

「食べちゃ駄目だったか?」

「そんな事ありませんっ!! あの、Pさん、あーん♪ えへへっ!」

美味しそうにアップルパイを食べるPさんの姿をキラキラとした目で眺める
もっと食べて欲しくて、もっともっと褒めて欲しくて
はやる気持ちでもうひとつどうぞ、と勧めてみたが手のひらで頭を押し返される

調子に乗って怒らせちゃったのかな……?

急接近した距離を離されるように押し返されて気づく
Pさんがこういう事をする時は大体「止めておけ」という合図だ
きっと調子に乗って怒らせてしまっただなと思いシュンと項垂れる

「……まだ1個目食べてるんだからちょっと待ってくれ」

「そ、そうですよね! あっ、Pさん。紅茶は飲みますか?」

受け取った紅茶を飲みながら、1つ目のアップルパイをペロリと食べ終える
私はチラチラと横目で見ながら照れる気持ちを隠すように小さな口でアップルパイをかじっていた

「もう一個貰うぞ」

「はい、どうぞ♪」

えへへっ、やっぱりPさんは優しいですね♪

さっきまでやきもきしていた気持ちもどこかにいってしまい
私はこれからの仕事がとても楽しいものになるだろうと胸を膨らませていた


「まさか、こんなに積もっているとはね」

「Pさん、寒くないですかっ? あっ、私は全然寒くないですけどっ!」

「いや、俺は何とか大丈夫だよ。愛梨は寒いのには慣れてるか」

「くしゅんっ! あっ、ちょっと寒かったみたいですっ……」

「風邪をひかないようにな」

「た、体調管理くらいできますっ!」

飛行機での旅も終り、二人並んで一面に広がる雪景色を眺める
前日から雪が降り注いでいたららしく
今はどこもかしくも真っ白に染まっている

私はこういう景色には慣れっこなので特に目新しい物は無い

Pさんは当日の交通なんかを心配していたけど
そこは雪国育ちの私の強みをアピールするチャンスだと思い
「任せて下さい!」と胸を張って今日のスケジュールを組ませてもらった

私だって、ちゃんと頼れる所があるって見て欲しいですから
普段はまかせっきりですけど、今回は私に任せて下さいねっ!

どうしたものかと、雪景色をボーッと眺めるPさんのために
昨日のうちにまとめてきたメモを取り出し道案内を始める


「……電車は?」

「あ、あははっ……なんか遅れているみたいです……」

「……他には何かあるの?」

「タクシー……でも乗れませんよね……」

電車は信号の故障で遅れているらしく
もしものためにと考えていたタクシー乗り場には行列が並んでいる

そもそも、私のプランは電車に乗れなったらすべてが水の泡になる
仕事場まで歩いて行く程、時間に余裕は無い
もう間にあわない事は確定してしまったようだ

「ど、どうしましょう……あうぅ……」

「少し歩いた所にバス亭がある、混んでるだろうけどバスで近くまで行けるよ」

いつの間にかPさんがポチポチと携帯で別の手段を探している
事前にいくつかの候補を調べていたらしく、こういう事態も想定していたみたいだ

「あっ」と小さな声をあげていると、仕事場までの道のりを淡々と告げられる
一言一言にジンジンと胸が痛くなってくる、言い訳をする言葉も出てこない
頼りになる姿を見せつけられる程に何もできない自分が情けなくなり俯いてしまう

どうしよう……またドジで迷惑かけちゃったのかな……

「これで大丈夫だよ」と携帯で探しだした地図を見せてくれるPさんに対して
「はい、そうですね……」と視線をそらして生返事を返すしかできなかった

「……ありがとな、おかげで俺も調べ物が減って助かったよ」

俯いていると、急にポンッと軽く背中を叩かれてハッとする
見上げるとそこには嬉しそうに笑うPさんの顔があった

「……えへへっ、お安いご用ですよっ!」

涙がこぼれないように目を細めて、変な声が出ないようにギュッと唇をかみしめる
私はこの笑顔が見たくて頑張るけどいつも失敗してばかりだ
でもちゃんと私の事を見てくれていて、泣きそうな時にはしっかりと支えてくれる

「あの、寒いですし、もうちょっとくっついてもいいですか……?」

「駄目に決まってんだろ」

降り注ぐ雪が被らないようにひとつの傘の中で二人並んで歩く
歩調を私に合わせてくれるPさんの隣をトコトコと子供のようについて行っては
少しでも距離が縮まるようにとこっそりPさんのスーツを掴んでいた


その後、仕事は大成功に終わり
私とPさんは今日泊まるホテルで晩御飯を食べていた

「結構豪華なホテルなんだな」

「そうですね、私何だか緊張してきちゃいましたっ!」

いつも仕事で泊まるホテルよりワンランク上の雰囲気がする
よく分からない銅像やぶら下がっているシャンデリア
一つ一つの装飾品がどれをとっても気品溢れるものだ

「ま、愛梨が頑張ったって事でたまにはゆっくりすると良いよ」

「私ががんばれるのはPさんがいてくれるからなんですよっ!」

こんな言葉を恥ずかしげもなく満面の笑みで言ってしまう
今日は二人きりだし、どこか私の気持ちも緩んでしまっているのかも知れない

私はPさんのオンリーワンになれているのかな……?

スープを熱そうに飲んでいるPさんを微笑ましく見守りながら
決して口には出せそうにない一言を流し込むように私もスープを飲んでいた


「あの、Pさん。明日は何か予定はあるんですか?」

「いや、明日は何もないから愛梨の行きたい所に行くといい」

「……えと、一緒に来てくれますよね?」

「ん? なんで二人で来てるのに別行動するんだよ」

スッと心の中につかえていた何かが全てとれさったような気分になる

今の私はどんな顔をしているのかな?
きっと、誰にも見せないような安心しきった顔をしているんだろうな……

照れを隠すように「そうですよねっ!」と大きな声で返事をして再びスープを口に運ぶ
この仕事は私にとって忘れられない仕事になるだろうと信じて


夕食を終えて、少しPさんと談笑した後に私は自分の泊る部屋に戻ってきていた
一日の疲れを落とすようにシャワーを浴びた後、ドライヤーで髪の毛を乾かす

外は雪がちらついていてかなり冷えるみたいだけど
この部屋は空調がしっかり効いていて、私には少し暑いくらいだ

お気に入りのパジャマに身を包み、ベッドに腰をかけながら
明日はどこへ行こうかと考えながらガイドブックをパラパラと眺めていた

「本日のシンデレラガール特集は……」

ふと、静寂が寂しくてつけていたテレビから聞き覚えのある単語が聞こえる
その単語を聞いた瞬間に私の身体は強張り、言いようの無い不安が襲いかかる

シンデレラガール……

不安定な視線に映し出される映像はどの子も可愛くて、とてもキラキラしている
頭では分かっているつもりだったけど、トップに立ち続けるなんて簡単な事じゃ無い
今、アイドルをしている子達は誰がトップに立ってもおかしくないんだと

普段なら気にする事なんてなにもなかったはずなのに
今日は二人でいたせいか今までになかった程に意識してしまう

チリチリと瞳の奥が渇く感じがし、暑くもないのに喉は乾いていく
手足は小さく震えて、よく分からない黒い感情が私の中を螺旋のように渦巻いて行く


だめ……こんな事、思い出しちゃいけないのに……

頭の中にモノトーンの光景が流れ始める
そこには泣きじゃくる私と大丈夫だと背中をさすってくれているPさん
私のために必死に頑張ってくれていた期待に答える事ができなくて
いつまでもいつまでもメソメソと涙を流してはごめんなさいと謝ることしかできなかった

Pさん……私……

いつまでもこんな想いをひきずっているのは良くないって分かっている
総選挙だってもう数ヶ月前の話だ、気持ちの整理はついている

でも、自分の順位を告げられた時に目の前が真っ暗になり
Pさんに捨てられるんじゃないかという絶望感に壊れそうになっていた

一緒にいてくれますよね……?

これ以上、この孤独に耐える事はできそうになかった
私は震える手で携帯を手に取り、一つ一つ文字を打ち始める
はやる気持ちを抑えて送信ボタンを押すと、返事はすぐに帰ってきた


「……どうしたんだ、こんな夜遅くに?」

「…………」

数分後、あたしはPさんの部屋のソファに座っていた
短く「話があります」とだけ書いたメールにただならぬ雰囲気を感じたのか
Pさんはほとんど見せない真剣な面持ちで話を聞いてくれていた

「……あの、迷惑じゃ無かったらですけど。今日、Pさんの部屋で寝て良いですか?」

「俺の? 何言ってんだよ、駄目だって」

急なお願いに驚いた顔をしたけど、あっさりと断られる
それもそうだろう自分の部屋があるのにわざわざこっちで寝たいなんて
Pさんが寝る場所が無くなってしまう
それにアイドルとプロデューサーが一緒に寝るなんて聞いた事もない

「……何か、あったのか?」

さっきまでの元気さは影をひそめていて、小さく震える私の事を心配してくれているのか
いつものように優しく語りかけては私の返事をゆっくりと待っていてくれている

「……Pさん、私のプロデュースで忙しくなかったですか?」

「別にそんな事はないけど」

「これからも、私のプロデューサーでいてくれますか?」

「あぁ、もちろんだよ」

「……私、怖いんです。やっぱり私はPさんがプロデュースしてくれなきゃ、ダメみたいですっ!」

口に出した言葉は本心だけど、どこか自分の気持ちをぼやかしていて
それでも私の気持ちは知って欲しくてベッドに腰かけていたPさんに勢いよく飛びつく

いきなり飛びつかれるとは思っていなかったのか
そのまま二人はあっさりとベッドの上に倒れ込んだ


「いてて……おい、急にどうしたんだ!?」

「……見て、くれませんか?」

ライブでもお仕事でも感じた事ない心臓が破裂しそうな程の緊張に戸惑いながらも
私はプチプチと自分のパジャマのボタンを外していく

目の前に起きている事が信じられないような顔をしているPさん
私はもう完全に感情の箍が外れてしまい下に進んで行く手は止まらない

スローモーションのようにボタンは一つづつ外れていき
左右に分かれたパジャマの間から胸をはだけさせていた

「愛梨……何してんだよ?」

「……私、今までの出来事を思い出すと、Pさんとのことばっかりですっ!」

「…………」

「Pさんと……私、ずっと……」

それから先の言葉は出てこない、少し潤んだ瞳でPさんを見つめる
その先の言葉は私じゃ無くてPさんから言って欲しかった


「同情でこういう事するのはちょっとな……」

「気づいて……いたんですか……?」

しかし、帰ってきた言葉は私の欲しかった言葉とは真逆の物で
私の考えていた事をPさんは全てお見通しだったみたいだ

さっきと同じ感覚が私を襲う、別に何かを言われたわけじゃない
私を捨てるなんてきっとPさんはしないだろう

でも、一度でも良い、Pさんが望むならば何度でも良い
その見えない何かが欲しくて私は必死にすがりつく
気がついたら涙をボロボロと零しながら声を荒げていた

「わ、私は同情でもなんでも良いんですっ!!」

束の間の恋をせがむ、言い訳はせつなすぎて
もう自分でも何を言っているのか分からなくなってきた

でも……きっと、この気持ちを安心させてくれるのはこの人しかいないから
もうこの腕は絶対に離さないという強い気持ちで抱きつく手に力を込める


「……わかったよ、同情はしない」

「えっ……」

ギュッと、Pさんが私の身体を抱きしめる。その力は少し強くて痛いくらいだ
でも心地の良い痛みだった、こんな痛みならずっと味わっていても耐えられる

「……ふうっ……あうぅ……」

抱きしめる腕に力が入るたびに、密着する面積が増える度に
私の体温はどんどんと上がって行く、暑くてもうパジャマを脱ぎ捨てたい

Pさん……わ、私もう暑くてのぼせそうです……

「んっ!? ……あふぅ……Pさん……ちゅるっ……」

突然、強引に、でも優しく口づけをされる
無抵抗な口の中にズポズポと舌が挿入されては
渇いた喉を潤すように唾液のジュースを流され続ける

それだけで私の思考は灼けてしまい
初めて感じる断続的な官能に身体は蝕まれていった

「……俺も我慢はしないからな?」

「……は、はい……好きなようにして……下さい」

Pさんあっての私ですから……何しても良いんですよ?

伝えたかった続く言葉を発する前に再び口を塞がれ
Pさんを困らせた私をお仕置きするように激しくキスをされる

時折、ビクリと身体が跳ね上がっては全身の力が抜ける
それでも舌にねっとりと絡みついてくるPさんは止まる気配は無い

「んっ……ふぅ……はぁあ……」

呼吸もままならないほどの息苦しさも
強く抱きしめられる痛みも
サウナの中に居るような蒸し暑さも
私にとっては全てが愛おしく感じられた

Pさん、ドジばっかりな私ですけど、ずっと……


「あ、あの……本当にこの格好でするんですか……?」

「あぁ、そうだよ」

ベッドの上に座って後ろに居るPさんにもたれかかっている
少し奥の方にある鏡に私の裸が写っていて、すごく恥ずかしい

そして、お尻の間にPさんの熱いモノが当たっているのをハッキリと感じ
何とも言えないもどかしさに身体をくねらせている

「どうかしたのか?」

「え、えっと……やっぱり最初はPさんが見えるようにしてほしいかなって……」

ちょっと遠慮がちにPさんの方を振り返りお願いしてみる
でも、そんな私の願いはすぐに無視され、後ろから伸びてきた手に胸を掴まれる
右手は胸を、左手は私の大事な所をゆっくりと円を描くように動き始める

「ああっ……ん、はぁ……んっ!!」

P、Pさん……これ、す、すごいですっ!

子供がマシュマロの柔らかさを遊ぶように胸をこねくり回されては
ジュクジュクと溢れだしてくる愛液の粘性を楽しむように入口を愛撫される

「痛くないか?」

「んっ……はぁ…はぁ……Pさぁん……」

たまにかけられる優しい言葉や甘い囁きですら敏感に反応してしまう
絶え間なく与え続けられる快感の波に徐々に身体の力は奪われて行く

わ、私……変になっちゃったみたいで怖いです……

時間にすれば何分くらい経ったんだろう、30分くらいかな……
私はすっかりと喋る気力も無くなってしまい、力なくPさんにもたれかかる
口はだらしなく開けたままで、絶頂を感じた時にだけ身体をビクつかせ
もう自分の意志では指先すら動かせそうになかった


ぐったりしている私に気を使ってくれたのか
私の身体を支えていた手がスッと外れる

そのまま私はズルズルとPさんの身体を滑り落ちて行き
最終的にはベッドの上に力なく横たわっていた

「はぁ……はぁ……」

「少し休むと良い、無理ならそれはそれでかまわない」

む、無理なんかじゃないですっ!

終わりを告げられる言葉に酷く焦りを感じ、必死に否定しようとするが
蕩け切った頭はそんな事もできずに呆然とPさんを見つめるしかなかった

どうしよう……せっかくPさんが優しくしてくれてるんですよね……

視線だけをキョロキョロと動かせ、何か私にもできる事は無いかと探してみる
……すると、視界の中にPさんのモノが目に映った

初めて見る男性の性器に少し戸惑ってしまったけど
今の私にできる事と言えばこれだけだろうと思い
スッと手を伸ばして握ってみる

それは火傷しそうな程に熱く
Pさんの気持ちを表すかのように性欲を滾らせている感じがする

「……愛梨?」

「……こ…今度は私が……して…あげます」

ゆっくりと、遠慮がちに握った手をスライドさせてみる
少し擦るとビクビクと気持ちよさそうに反応しているのが良く分かる


「……ビクビクしてます……気持ち良いですか?」

「あぁ……」

スッと頭を撫でられて私の喜びは最高潮に達する

……えへへっ、心臓がドキドキしすぎて変になりそうですけど
Pさんが私を感じてくれるなら嬉しいですっ!

すっかりご機嫌をよくした私は休むことなく手を上下にスライドさせる
たまに聞こえるPさんの声をヒントは気持ち良い場所を懸命に探して
痛くないように、もっと気持ち良くなって貰うようにと手を動かし続ける

「……痛っ!?」

「えっ……す、すいません!? わ、私なにかしちゃいましたか?」

「ちょっと強く握りすぎだ……」

唐突に上げられたPさんの声にサッと血の気が引いてしまい慌てて謝る
強すぎた想いは自然と手に力が入ってしまっていたみたいだ
それでも、気にする事ないよと言わんばかりに頭を撫でてくれる

力を入れずに動かしてみてもPさんの反応は薄い
痛くしてしまってはいけないという思いが枷になってしまい
激しく動かすのをためらってしまう

え、えと……どうしたら良いんだろう

こんなに優しくしてくれているのにまた私は失敗してしまった
弱々しくPさんのモノを触る手がかすかに震えてしまう

何とかしなきゃと必死に考えていると頭の中にある考えが浮かぶ
実行するのは凄く恥ずかしいけれど
これならPさんも喜んでくれるはずだと確信を持てた


「……Pさん! えっと、失礼しますっ!」

えいっと自分の気持ちを鼓舞して、Pさんのモノを胸で挟み込む
そのままグニグニと感触を伝わるように上下に身体を動かしてみる

胸の間にある凄く固い感触がハッキリと伝わってきて
ただ挟んでいるだけなのにPさんの熱に火傷しそうになり
気持ちは少しづつ興奮してしまう

だめ、私が気持ち良くなってどうするんですか……

「こ、これなら……気持ち良いですか?」

「濡れてないからちょっと痛いな……」

上目遣いに見たPさんの顔は少し困り顔だ
さっきから私のする事は今一つPさんを刺激できていない

あうぅ……これもダメなんですね……

また失敗かと落胆していると
急にズボッと口の中に人差し指と中指を突っ込まれて
そのまま舌をグニグニと弄られ続ける

「口を開けたままにするんだ、唾は飲み込むなよ」

「……ひ、ひゃい……」

「そのまま動かし続けるんだ」

上手く喋れないままコクコクと頷いていると
唾液がダラダラと口から溢れ
Pさんの指を伝っては私の胸の上に落ちてくる


それは私の胸の間に少しずつ入っていき
潤滑油となってグチュグチュと淫靡な音を奏で始める
さっきとは明らかに違う感じにPさんは気持ちよさそうに腰を浮かせる

そ、そっか……湿っていれば良いんですよねっ!
何で今まで気づかなかったんだろう……

「……んちゅ……ちゅく……」

少しづつスピードが上がってきた胸の間から頭を覗かせるPさんのモノを口に含む
初めて舐めた男の人のモノは変な味がしたけれど
Pさんのモノならと私は喜んで舌を這わせて舐め続けていた

「……はぁ……愛梨……」

「……き、気持ち良いですか?」

確かめるかのように何度も問いかける
その度に「あぁ」と短く返してくれる

その言葉がもっと聞きたくて夢中になって胸と口を動かし続ける
凄く恥ずかしい事をしているという自覚はもちろんあるけど
私自身も興奮しているのかそんな事はどうでも良くなっていた


「……愛梨!」

Pさんが悲鳴のように私の名前を呼んだ瞬間
ビクビクとPさんの身体が少し後ろに反りかえって
白い液体が私の胸の間からマグマのように噴き上がる

「あっ……」

ビチャビチャと顔に向かってPさんの焼けるような精が放たれては
まるで私にマーキングでもするかのように強烈な匂いをつけていく

「大丈夫か……?」

「えへへっ♪ 大丈夫ですよっ!」

顔についた精液をクリームでも舐めるかのように口の中に運ぶ
それは表現しがたい味でネバネバと口の中で糸を引いて飲み込むのは大変だった

それでもそれを飲み込めば少しでもPさんに愛おしく思ってもらえると思って
ゴクリと頑張って喉を鳴らしては少しづつ身体の中に取り込んで行った

「Pさん……私……」

元々、力の入らない身体で動き続けて疲れたのか、そのままPさんの下半身に倒れ込む
私の中を気が抜けてしまったのか安心したのか良く分からない感情が渦巻いていた


そして、私の身体は転がされてベッドに仰向けになる
少し荒い息をつきながら、愛しさに満ちた瞳でPさんを見つめ続ける

「えっと……」

「このまま続けるぞ」

とうとう、この時が来たんだと私の身体は緊張で硬直する
Pさんの真剣な目を見た私は顔を真っ赤にしながらコクリと頷き

「ト、ト、トッププロデューサーさん限定あいり、先着おひとり様ですっ!!」

あたふたといつもの調子で変な事を言ってしまう
Pさんは少し驚いた顔をしたけど
すぐに「じゃあ貰うよ」と優しい顔に戻って笑ってくれた

「あっ……」

少しづつ、少しづつPさんが私の中に入ろうとしてくる
ギュッと目を閉じてその瞬間を私は待ち続けていた

「…………!?」

ズブリと唐突に私の中に何かが入ってきたのがわかる
身体に杭を打ち込まれたような衝撃に身を硬直させて
ふぅふぅと息をリズムよく刻み激しい痛みに耐え続ける

「うぅぅ……うくぅぅ……」

「痛いなら無理はするなよ……」

「だい、じょうぶです……痛いのなんか……」

「……やっと、Pさんのものに……なれたんですから……!」

本当は結ばれてはいけない関係に背徳感を感じ始める
ダメだって分かっているのに……
相手がPさんならと、そう言い聞かせるように戸惑いを必死に振り払う

白雪姫は少しの間違いで毒のリンゴを食べて永遠の眠りについてしまった
でも、私の中に入ってきた毒は甘く優しく私の身体を蝕んでいく


Pさんがゆっくりと腰を動かし膣内を犯し続ける
洪水のように溢れていた愛液のおかげで次第に痛みは薄れていき
中に入っている物が身体に馴染むように痛みが快感へと変わっていく

「あっ……あんっ……P、Pさん……き、気持ち良いですっ!」

いつも感じている暑さとは違う
高熱にうなされているような熱に艶やかな声が止まらない
初めての怖さから助けて欲しいと懇願するように何度も何度もPさんの名前を呼び続ける
そんな私を心配してくれたのか、Pさんは私の身体を持ち上げて体勢を変える

あっ……これなら怖くないですっ!

向かいあったまま、座っているPさんの上にちょこんと腰を下ろす
身体の密着度はさらに増して、腰の動きが下から突き上げられるように変わる

「うぅ……あうっ!? Pさん、も、もっと強く抱いてて下さいっ!」

突き上げられる度に胸がPさんの身体に擦れて刺激を感じる
声が漏れ続けて閉じる事ができない口の中にPさんの舌が押し込まれる
ズンズンとリズミカルに全身を刺激され続けて
私の思考が、身体が徐々にPさんだけの物に作りかえられていく

人形のようにだらんと項垂れている身体を支えられながら
止まらない腰の動きに絶頂を迎えては全身が反り返る

Pさんの動きには躊躇はない、全力で私の事を愛してくれている
私は消え入りそうになる意識でその事実に全身を震わせて
腰を振って気持ち良くなる、それしか考えられなくなっていた


「P、Pさん……わ、わたしもう……」

「……出すぞ!」

「くっ……あうぅ……は、はい!」

合図と共に私の身体は貫かれるように深く突き上げられて
私の中に遠慮なくPさんの証が注ぎ込まれていく

お腹の中が灼けるような感覚にチカチカと視界が霞がかり
口をパクパクとさせながら身体を大きく反り返らせる

外にも中にも濃厚なPさんの物を注ぎ込まれ
私はもう戻れない所まで来てしまった事を強く感じる

「……愛梨、大丈夫か?」

「は、はい……」

ズルリと私の中からPさんのモノが引き抜かれ
腕の支えが無くなると私はそのまま後ろに勢いよく倒れる

さっきまで繋がっていた結合部には血と汗と精液と愛液が入り混じった
よくわからない液体がゴポゴポと泡を立てながら零れおちている

Pさん、ずっといっしょですよね……?

頭を撫で撫でてくれて優しくキスをしてくれるPさんの身体を抱きしめて
肩で息をしながら、その幸せを全身で感じ続けていた


「……んっ」

窓の隙間から差し込む光に眩しさを感じて目が覚める
あれから私は眠ってしまっていたみたいだ

キョロキョロと辺りを見回していると
私の寝ていたベッドの隣でPさんが椅子に座って寝息を立てている

「あっ……一緒に寝てくれなかったんですね……」

その事を少し残念に思いながらも
それでもこんな風にするのはPさんらしくってクスクスと笑ってしまう

昨日の夜に感じたあの気持ちはまだ収まりそうもなく
気が付けば寝ているPさんを起こさないようにと身体を擦り寄せていた

えへへっ、Pさん♪

スリスリと手に頬を擦り寄せていると、それだけでは我慢できなくなってしまい
私の顔は少しづつPさんの顔に近付いていく

「ネボスケさんにはキスしちゃいますよ?」

起きられると恥ずかしいので聞こえないように小声で呟く
すると、唐突に私の視界が真っ暗になりこめかみに軽い痛みを感じる

「……おい、何してんだ」

目を覚ましたPさんが私にアイアンクローをしているみたいだ
この少しばかりの痛みも今はどこか心地よく感じる


「寝込みを襲うなんて大胆になったな、愛梨」

「そ、そういうつもりじゃ……でもやっぱり、私はもっとして欲しいですっ!」

「するって……何をだよ」

「えっと……キス」

「キスって、一回もしてないけど……」

「えっ……で、でも! Pさんは昨日あんなに激しく!?」

「激しくってなんだ、何もしてないっての!?」

お互いの言っている事が噛み合わない
私は何が起きたかサッパリ分からなかった

頭が混乱している私にPさんが昨日の出来事を説明してくれる
どうやら私はPさんに飛びついた時に避けられて壁に激突し
そのまま意識を失ってしまったらしい
おでこを触るとおっきな絆創膏が貼られている

もしかして……昨日のって全部……

呆れた顔をするPさんを呆然と見つめる
あの激しい行為は全て幻だったのかな……
よく見るとベッドは綺麗なままで乱れた形跡は無い

「まぁ、避けたのは悪かった……痛みはもうないか?」

そう言いながら私の頭を軽く撫でてくれる
Pさんの手の感触に昨日の夢が鮮明にフラッシュバックする
大きな手にそっと自分の手を添えて笑顔で答える

「えへへっ♪ 大丈夫ですよっ!」

今は夢でもいつかきっと……その想いを胸に


ねむいので今日はここまで
美世との話も良いけど変化球をつけるため
他キャラ、他シチュエーションもこんな感じでやってきます

これって美世のPとは違うPなんだよな

>>97
繋がりはないので
別のPの話って思っててもらって良いです

おっつおっつ

他に書いた作品があるなら教えて頂きたい

しかし>>1が書いてる時間とニアミスしたことが無いなぁ


>>132
最近だと、この二つ
書き方も内容もまるでちがいますけど

モバP「雪美の日々」
モバP「雪美の日々」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1370784428/)

モバP「七夕ではなく」

地の文であればこの二つです

工藤忍「ホワイトドロップ」
工藤忍「ホワイトドロップ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1363729791/)

栗原ネネ「いつか見た空の下で」
栗原ネネ「いつか見た空の下で」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1369515151/)

>>133
書き溜めが終わるのが
深夜になってしまうのでそのせいでしょうね


■君はフルスロットル その4

「やっぱり、ここのは美味しいね!」

目の前で、美世が美味しそうに牛丼を食べている
仕事の帰り、丁度夕飯時だったため
俺達はどこにでもあるようなチェーン店に来ていた

「よく食べるな……」

「だって、お腹すいてたんだもん!」

およそデートには似つかわしくない場所だ、
周りを見ると男女で来ているのは俺達しかいない
美世は食事に関して、美味しければそれで良いという考え方なので
二人でご飯を食べに行く時は、こういうチェーン店に行く事もよくある

美世は仕事の時はポニーテールにしていた髪をほどいて
女性にしては少し多いであろう大盛りを頬張っている
仕事が好評価を得られて肩の荷が下りたのか、終始ご機嫌だった

「それにしても、今日は盛り上がってたね!」

「確かに、雰囲気も良い感じだったし、成功だな」

美世の言うとおり、今日のイベントは盛況に終わった
プロデューサーとして己の仕事を全うしてきたという自負はある
しかし、こうしてイベントなんかが成功するのは
これまで彼女が頑張った行いの結果だと思う
そんな美世の努力が認められるのは、素直に嬉しかった


「……でも」

「ん?」

食べ終わったようで、箸を丼の上に置き
俺から目線を逸らしてため息をつく
口元にご飯粒がついていて、少し気になる

「他の子、可愛いよね。みんな、元気で人懐っこくて……」

「そんな事心配してたのか?」

美世が言うなよと言いそうになったが、慌てて別の言葉に切り替える
よくよく考えれば、彼女は初対面の相手にそこまで積極的では無いタイプだ
「そんな事ないよ」と言ってしまえばそれまでだが
それは彼女の期待している答えでは無いだろう

「あたしも、積極的に話せるようにした方が良いかな?」

「積極的にって……何かあるのか?」

「ううん、車に乗ってたなら少し緊張もほぐれるんだけど……」

前向きなのは良い事だが、明らかにその方向性を間違っている
でも美世らしい挨拶だなと、少し苦笑してしまった

「ね、Pさんもやっぱり積極的な方が良いよね?」

「……別に、今の美世のままで良いと思うけどな」

「今のままか……Pさんがそう言ってくれるなら、それで良いのかな……」

俺に対しても消極的だと思っていたようだ
これ以上、積極的になったらどんな事が起こるか想像もつかない

納得したように「うんうん」と一人で頷いている
悩み事が解決したようでなによりだ
もっとも悩み事と言うほどの物なのかはわからないが


美世が積極的にね……

時折、こういう事を言いだすのはお決まりみたいなものだ
アイドルになったのもそうだが、自分を変えたい願望があるのだろう

俺は美世の話を聞いていて、食べ遅れた牛丼を掻き込みながら考えていた
既に食べ終わった美世が、ずっとこっちを見ているので少々食べづらい

あっ、そう言えば……

ふと、一通のメールを思い出す
返事も早くしとかないといけないな、と思っていたが
本当は断ろうと思っていたので、返すのが遅れて逆に良かった

「なぁ、美世」

「ん? どうしたの、Pさん?」

話しかけられるとは思っていなかったのか
キラキラとした目でこっちを見てくる
そんな期待する話でも無いんだけど……

「……とりあえず、ご飯粒ついてるぞ」

「あっ!」と急な出来事に
顔を紅潮させる美世の口元のご飯粒を指ですくう
まだオロオロとしている彼女を無視して俺は話を進めた


「へぇー、おっきなパーティーなんだね!」

「まぁ、あいつのプロダクションはでかいからなぁ」

あれから数日が経ち
日が落ち始め、辺りが暗くなってきた頃
俺達は遠目からでも視界に収まりきらないビルの前に立っていた

「場所はここで合ってるな」

横から覗き込んでくる美世と一緒に
プリントアウトしてきた地図の目的地と
現在地が合っている事を確認する

以前、俺宛に送られてきた一通のメール
それは、友人のプロデューサーからのパーティーへの招待状だった
何でも、プロダクションのランクが上がったらしい
本来ならうちみたいな貧乏プロダクションでは縁の無い話だ

「でも、本当にあたしたちだけ良いの?」

「あんまり大勢で詰めかけても邪魔になるだけだからな」

俺と美世の二人でこのパーティーに参加するように返信しておいた
俺もそうだが、美世もあいつの事は知っている
もっとも、美世は接点が余りないので最初は行くことをためらっていたけど

それに、こんな盛大なパーティーなら、著名な人も大勢来ているだろう
なら、この場は楽しむと言うよりは仕事という意味合いの方が強い
こんな場に慣れる事も美世にとってプラスになるだろう
そう思った俺は、美世と二人で参加することを決めた


「うぅ……だ、大丈夫かな。あたし、変じゃないよね?」

行くことが決まってから、美世はずっとこんな調子だ
手に持っている大きな袋と俺を交互に見つめている

美世の手にしている袋は、ちひろさんに用意してもらった物だ
中にはうちで使う事は無いであろう、水色のパーティードレスが入っている
美世にパーティー衣装なんて持ってないと言っていたので
ちひろさんに相談すると、色んな人を当たって見つけてくれた

たまにはこういう経験をしておくのも、悪くないだろう

「変じゃないさ。さ、とりあえず中に入ろうか」

「う、うん……」

いつもと変わらないスーツ姿なので気兼ねする事は無い俺と
キョロキョロと自信無さげに、俺の後ろにひっついている美世
今日一日はずっとこんな感じになりそうだな……


「……ふぅ」

口から白い煙を吐き、もやもやと漂うそれを眺める
美世が着替えをしている間、俺は一人喫煙所に来ていた
この仕事で煙草を吸うなどご法度だが、どうにも止められない
大仕事をする前はこっそり一服をして、気分を落ち着ける癖がついている

美世は別に良いと言っていたが、俺は彼女の前では吸わないようにしていた
そうなると一日一本吸えるか吸えないかの頻度になってしまうので
こうやってどこかの喫煙所で一服するのは久々だ

外に喫煙所があって助かった、これなら強烈に匂いが付く事もないだろう
まぁ、吸って無い人からしたらあっさりと分かってしまうんだけど

「……そろそろ戻るか」

すっかり短くなった煙草を灰皿でもみ消し、吸い殻を中に入れる
周りを見ると、もうすぐパーティーが始まるらしく
のんびり煙草を吸っていたのは俺だけだったようだ


「……ん?」

不意に、誰かに見られているのに気付く
ボーっとしていて気が付かなかったが
さっきからずっとこっちを見ていたようだ

「…………」

夜の闇の中、大きなビル特有の強烈なライトの光を受けて
キラキラと光る見慣れたポニーテール

控えめ……しかし、しっかりと彼女を引きたてているメイク

色白で透き通るような肩を露出させながら
胸や腰回りのラインが遠目でもハッキリとわかり
まるで、スタイルの良い彼女のためだけに作られたような水色のドレス

胸元には俺が昔あげたネックレスを揺らしながら
じっとこちらを見つめていた

「……ど、どうしたの? やっぱり変かな!?」

「い、いや……」

いつの間にか言葉を失い、見つめてしまっていたらしい
頬を桜色に染めて、いつものように俺に問いかけてくる

毎日見ていたはずなのに、こんなにも惹きつけられるとは思っていなかった
パーティードレスを着た女性は何度も見てきたはずなのに
彼女の姿を見た途端、普段のそれとは違う感覚に戸惑いを覚える
恋人の変化に戸惑うなんて、ベタベタな反応を自分でするとは意外だ

心臓の鼓動が激しくなっているのを感じる
何も言わない俺の事を気にしているのか
さっきから彼女はこの沈黙が恥ずかしく感じているようで
どうしたら良いのかわからず、モジモジとしている

「あ、あの……Pさん?」

「……良く似合っているよ美世」

やっとの事で、一言だけ。それでも素直な感想を絞り出す
それを聞いた美世は、顔を真っ赤にさせながら
それでも嬉しそうに、はにかんで「うん」と短く答えた


参加の案内状を受付に渡して、煌びやかな廊下の中を二人で歩く
進むにつれて、会場に向かう他の参加者達も見え始めた

その姿はセレブと言った感じだろうか……
言葉の意味をちゃんと知っているわけではないが、一言で表すならそうだろう

いかにも金持ちそうな男性や、貴婦人のような女性
プロダクションのパーティーと言えば、業界人ばかりかと思っていたが
こういう人達との繋がりもあるものらしい

「なんか、俺達の方が逆に目立ちそうだな……」

おそらく、ここに呼ばれている人達はコネクションがあるのだろう
廊下で談笑をしている人達もちらほらといる
俺達はこのプロダクションのプロデューサーと知り合いなだけだ
つまり、他に知人が全くいないパーティーになっている

「大丈夫だよ、Pさん!」

いきなり少し大きめの声を出して、美世が俺の腕に身体を預けてくる
ムニュリと薄手の服にしか守られていない胸の感触がダイレクトに伝わってくる
腕に感じた柔らかな美世の感触にドキリとし、俺は慌てて問いただす

「な、何してんだよ!?」

「えっ!? エスコートだけど……」

「そんな抱きつくみたいなエスコートがあるか!!」

「そうなの!? 映画とかでこんな風にしてなかったっけ?」

美世の曖昧な記憶では男性の腕に抱きついて女性が歩いているらしい
もちろんエスコートとはそういうものではない、腕に手を預ける程度で良いのだ
こんな風に歩いていたら「私達は付き合っています」とアピールしながら歩いてるのと変わらない

「そもそも、無理にしなくても良いだろ……」

「あっ、言われてみれば組んでる人あんまりいないね……」

「俺達もいつも通り普通にしてれば良いんだよ」

「ふふっ、そうだね。じゃあ、Pさん。今日はあたしとずっと一緒に居てね?」

「えっ、ずっと一緒にって……何かあるのか?」

「ん? あたしのことはPさんが引っ張ってくれるって信じてるから!」

「……なるほどね、わかったよ」

「一人じゃ、きっとこんな所にいられないから……原田美世をよろしく、Pさん!」

すっかりといつもの調子に戻った美世が悪戯っ子のように笑う
俺がいる事で美世は緊張する事なく振る舞えるようだ
とはいえ、俺自身も美世がそばに居てくれる事で余計な緊張はせずに済みそうだった


「皆様、本日は我がプロダクションのパーティーにお集まりいただき……」

形式的な挨拶と共にプログラムが淡々と紹介される
お偉いさんの挨拶に所属アイドル達によるスペシャルライブ

立食形式でプログラムの進行中も好きな料理を摘んで良いらしいが
俺は周りの目を気にして食事は控えていた
こういう所はどこで誰に見られているか分かったもんじゃない
そういう堅苦しい空気が嫌だったのが最初に断ろうと思ってた理由だ

「ヒールってグリップが効かなくて歩きにくいね……」

「そういや美世がハイヒールを履いてるのは初めて見たな」

「うん、あたしも初めて履くから。みんな電車で来てるのかな? クルマの運転しづらいよね……」

「男が運転するかタクシーだろ。女の人は運転しないだろうからな」

「そっか、それもそうだよね」

隣では皿にいくつかの料理を乗せて、美世がモグモグと食べている
料理の種類は豊富でチラリと見ると、普段はお目にかかれないような料理が並んでいる
美世に取ってこさせてこっそり食べようかと考えたが
今日は歩きにくいとぼやいていたので止めた

「でも、あたしだけ食べてて良いの? Pさんも食べれば良いのに」

「俺はかまわないよ、許可は貰っているし好きなだけ食べると良い」

「ふーん……ね、挨拶はもうしなくて良いの?」

「あぁ、知り合いにはもう済ませてあるからな」

始まる前は意気込んで見知った顔に挨拶しておこうと
美世と会場内を一通り回ってみたが、それ程知っている人はいなかった
10人程度に軽く会釈をして、もう今日の仕事は終わったようなものだ

他のプロダクションのパーティーで自分のとこの宣伝をするわけにもいかない
基本的には大人しくしておいて適当に顔を覚えてもらえればそれで良い

「そっか、ならPさんはあたしと二人で話でもしとこっか!」

「そうすることにしておくよ」

最初は美世が積極的に云々で悩んでいた事の参考になるかと思ったが取り越し苦労だったようだ
挨拶の時も臆することなく話していたし、適度な距離感を持っていた
言っていた通り人見知りするかもしれないけど、順応性はかなり高いのだろう


「あら? 珍しいわね、こんな所に来るなんて……」

美世とあれこれ言い合っていると、後ろからある人に声をかけられる
振り返るとこのプロダクションの中でも数少ない俺の知人が立っていた

「お久しぶりです、礼子さん。今日はライブには出ないんですか?」

「オトナ組はライブじゃなくてお客様のお相手担当なのよ」

全身から妖艶な雰囲気を放ち、見る者を釘づけにする魅力
胸元がしっかりと見えるドレスはグラマラスなこの人が着ると何とも危険だ
これでアイドルというのだから驚きだ。女優と言われても信じてしまうだろう

「……Pさん、この人は?」

「高橋礼子さんだよ、テレビとかで見た事あるだろう?」

小声で美世が俺に聞いてくる。そう言えば美世は初対面だったのを忘れていた
俺自体は仕事で何度かあった事はあるので面識はあった
近寄りがたい雰囲気はあるが、話してみると気さくで良い人だ
度々投げかけられる誘惑じみた発言さえなければだが……

「そっちの子はあなたの所のアイドルなの?」

「えぇ、そうですね。礼子さんは初めて会うと思います」

「は、原田美世です! よ、宜しくお願いしますっ!!」

「ふふっ、高橋礼子よ。宜しく……」

彼女の作りだす独特の空気に飲まれてか、美世はこれまでにないくらい緊張していた
無理もないだろう、俺も初めてこの人と話した時はこんな感じだった
あいつはどうやってこの人をアイドルにスカウトしたんだろうといつも思う
俺はカチコチに固まっている美世の代わりに話を進める事にした


「今日はまた大胆な衣装なんですね……」

「ふふ、見せてるのよ……わざと」

「あんまりやりすぎると言い寄られるんじゃないんですか?」

「あなたが誘ってくれるなら私はかまわないわよ?」

「はぁ……それができる勇気があるなら良いんですけどね」

「そんなにココが見たいなら……あ・と・で・ね」

そう言いながら肩にかかっている紐を少しずらす仕草をする
いつもながらこの人の俺をからかう様は大胆だ
最近はかわせるようになってきたが昔はドギマギさせられたものだ

「……Pさん?」

しかし、このやり取りを快く思っていなかったのが約一名いた。美世だ
初めて見るやり取りに冗談で言っているのが分かっていないんだろう
ジト目と言うやつだろうか、俺の事を座った目で睨みつけてはスーツの裾を掴んでいる

「美世、これは礼子さんの冗談だから」

「ふふっ、美世ちゃんには少し早かったかしら?」

「……どういう意味ですか?」

珍しく礼子さんが火に油を注ぐ、同じように冗談だと言ってくれると思っていた
今の美世を刺激するとどうなるかは一目瞭然のはずなのに

「Pくん、ちゃんと今夜の予定は空けてあるわよね?」

「いや、そんな話聞いて無いですけど……」

「この後は……オトナの時間、ね?」

スッと、唇にあてた指先を俺の胸に当てる
何て事は無い動作だが、この人がやるだけでその一つ一つが厭らしい
この後に何をするかが誰が見ても理解できる程だ


「しませんよ。礼子さん、今日はやけに絡んできますね……」

「あら? そうかしら?」

胸にあてられた指がゆっくりと滑っていく
かすかな刺激に俺の身体はビクリと反応してしまう
言葉ではハッキリと拒絶を示すが、身体は固まって動けなかった

「……それ以上は止めてくれませんか?」

その言葉と共に、俺の横から伸びた手が礼子さんの腕を掴む
華やかなドレスに身を包ませながらも有無を言わせない瞳
久々に見るけど本気で怒っている美世がそこにいた

「冗談なのはわかってますけど、あんまり気分が良くないんです」

「……ちょっと、痛いわね。力入れすぎじゃないかしら?」

「……ごめんなさい、握力は強い方なんで」

さっきまで和やかだった場が重苦しい雰囲気に変わる
ステージではアイドル達が歌って会場を盛り上げている
にも関わらず、ここだけ別空間のように息苦しい
3人の中で唯一の男の俺が、一人だけゴクリと唾を飲み込んでいた


「ふぅ……こんなに敵意を剥き出しにされるなんてね」

「……す、すいません! 礼子さん! 美世、手を離すんだ!」

「う、うん……」

礼子さんのため息一つでハッと我に返り、慌てて美世をたしなめる
美世は少し戸惑いながらも掴んでいた手を離してくれた

「ふふっ、良いのよ。ごめんなさいね、少しからかいすぎたわ」

「い、いえっ、こちらこそ済みません」

どんな理由があったとしても手を出してしまったのは良くない
握られた場所が少し赤くなった腕を見て、俺は何度も礼子さんに頭を下げていた
その横でまだ怒りが収まらない美世が礼子さんを睨みつけてけしかける

「なんなんですか、なんでPさんにこんな事するんですか?」

「彼が魅力的だから、それじゃダメかしら」

「とてもそんな風に見えないんですけど」

「……一つ、聞いても良いかしら? なんでそこまで彼にこだわるの?」

「それは……」

「もしかして、あなた達、付き合ってたりなんかしないわよね?」

「!?」

誘導尋問というやつだろうか、初めからそれを確かめるためにこんな事をしたんだろう
気付かなかった俺もそうだが美世はまんまと乗せられてしまったようだ
こうなると形勢は完全に逆転し、美世もバツが悪そうに視線を逸らしてしまった


「Pくんはどうなの? 付き合ってるのかしら?」

「……えぇ、そうですね。美世とは付き合ってます」

「P、Pさん!?」

俺は少し考えた後に迷う事なく答えた。ここまで追い詰められたら隠しても無駄だろう
色んな人を見てきた礼子さんの目を欺くなんて端から無理だったのかもしれない
特にそれが色恋沙汰なら尚更だろう。俺はこのまま賭けに出る事にした

遅かれ早かれこういう事態が来る事は分かっていた
それでも諦めるわけにはいかない。何とかこの場を凌がなければ

一言で今まで隠し通してきた事が全て崩れ去る状況に心臓の鼓動が早まる
その事を理解しているのか、美世は黙って俺のスーツの袖を掴んでいた

「アイドルとプロデューサーがそういう関係になるなんて……イケない人ね」

「ですね、自分でもそう思う時があります」

「で、どうするつもりなの? 私にはバレてしまったけど?」

「……厚かましいですけど、秘密にしておいて貰って良いですか?」

礼子さんの瞳が俺を見据える。俺も負けじと礼子さんの視線に合わせる
それがどれくらい続いたんだろうか? ほんの数秒の出来事だけど凄く長く感じた
すると突然、礼子さんがクスクスと笑い始めた

「かまわないわよ、幸せそうな二人に水を差すなんてできないわ」

「……ありがとうございます」

「別に感謝される事はしてないけど、それにしても美世ちゃんは少し我慢を覚えた方が良いわよ」

「そうですね……気をつけるように言っておきます」

「ふふっ、さて、邪魔者は去ろうかしら……」

ヒラヒラと軽く手を振りながら礼子さんは去っていった
去り際に「ごめんなさいね」と美世に言っていたが返事は返ってこない
それもそうだ、美世は目の前のやり取りについていけてなかったのだから


「……あ、あのPさん。大丈夫なの?」

「あの人なら大丈夫だよ、信用できる」

「そっか……ごめんね、あたし、今度会った時にちゃんと謝っておくね」

「その方が良いだろうな」

美世は叱られた子供のようにおずおずと俺に聞いてくる
今回の事態は美世が手を出さなければ起きなかった
怒られると思っていたか、さっきまでの勢いは完全に消えてしまっている

「とにかく、相手が礼子さんで助かったよ」

危ない所だったが見る人が見ればバレバレだと、礼子さんなりの警告だったんだろう
少し油断し始めていた俺達にとっては良い緊張感を与えてくれた

「で、でもPさん……」

「もうあんまり気にするな、俺からも礼子さんには謝っとくから。それよりせっかく綺麗になったのに勿体無いぞ?」

「……き、綺麗って……うんっ、そうだね!」

吹っ切れたかのように、美世にも元気が戻ってきたようだ
どっかに感情のシフトレバーでも付いてるんじゃないかと思うくらい切り替えが早い
そんな事言ったら怒られるだろうから言わないけど……

「ふふっ、Pさん!」

「どうかしたのか?」

「スリップしそうになったとき、支えてくれるのって、うれしいなっ!」

「これからもずっとあたしと並走してね、Pさん!」

そう言いながら、俺に腕に身体を預けてくる
今日二度目の美世なりのエスコートして欲しい合図なんだろうけど
さっき言われたばっかりなのに、気をつけて欲しいもんだ

ま、今なら問題は無いだろうだけどな……

いつの間にか、ライブもクライマックスを迎えていた
真っ暗になった俺達の場所は誰からも見えないだろう
少しの間だけなら大丈夫だと、俺は何も言わないでいた


ネクタイを外し、上着をハンガーにかけて一息つく
長かったパーティーも終わりを迎え、俺は家に帰ってきていた

「凄いパーティーだったね!」

俺の後ろではまだ興奮が冷めていないのか、美世がはしゃいでいる
帰る時に何も言わず、真っ直ぐに俺の家に向かったらそのままついてきた
今更ながら泊まる気が満々だったんだろうと呆気にとられる

「今日は帰らなくて良いのか?」

「うん、明日はあたしもPさんもオフじゃない」

明日は急ぎの仕事もないため俺も休みをもらっていた
パーティーで疲れてしまうだろうと思っていたが予想は当たっていたようだ
礼子さんの一件を思い出すと、ドッと疲れを感じてしまい俺はソファーに腰を下ろした

大きなプロダクションではないが、社内でもそれなりの立場があって、収入も悪くない
何より俺はこの仕事が気に入っているのもある
それが一瞬で崩れ去るという恐怖は、考えるだけでも気疲れしてしまう

「あっ、これ明後日にちひろさんに返さないといけないんだよね」

メイクを落とし、いつものラフな格好に着替えた美世が荷物を片づけている
こうして見るとやっぱりいつも通り何も変わっていない
それでも、あの時に受けた衝撃は今でもハッキリと頭の中に焼き付いている
女は変わるものとは良く言ったものだ。これで俺は彼女に二回も一目惚れした事になる


「ん? どうしたの、あたしの顔に何かついてる?」

視線に気がついたのか不思議そうな顔でこちらを振り返ってくる
あれだけの緊張感の中、ハッキリと言い返せたのは美世だったからなんだなと
特に面白い事があったわけじゃないけど何だかおかしくなって笑ってしまった

「えっ!? な、何で笑うの?」

「ははっ……いや、別に何にも無いよ」

「もう! そんなこと言われても、笑われたら気になるじゃない!」

「なぁ、美世……」

「どうかしたの?」

「今からしようか」

「……えっ?」

ふと、自然に自分の口から出たセリフに驚く。そんな事は全く考えていなかったからだ
しかし、いざ言ってしまうと美世の事が愛おしくなり。徐々に気持ちが高ぶってくる
美世は少し驚いた後に、意味を理解したのか顔が茹でダコのように赤く染まっていき
そして、俺の視界が一瞬にして暗くなり顔に柔らかい衝撃が走った

「な、な、なに言ってるの!?」

美世が照れ隠しに投げたクッションが顔面を直撃したらしい
そう言えば今まで美世にしようかと言われた事はあるが俺からは言った事が無い
いつもそういう雰囲気になってしまったらする、といった感じだった


「そう言うのって……ほら、もうちょっとムードとかあるじゃない……」

帰宅直後にセックスしようかと言われては、美世の言うとおりムードもへったくれもない
我ながら美世に対しての言葉の選ばなさに呆れてしまう
気を許しているとは言え流石にこれはいきなりすぎたようだ

「……悪かった、今のは無しにしてくれ」

「そ、そうなの……?」

「あぁ、俺もよく分からないけど気づいたら言ってたんだよ」

「なんなのそれ……」

理解できないといいたげな顔で見られるが俺も理解できていない
本心なんだろうけど美世がその気じゃないなら無理にする必要もないだろう
頭を冷やそうとして立ちあがろうとしたその時、手をグイッと掴まれる

「……する」

「……ホントに?」

真っ赤な顔をして目を合わせようとせず、それでも小さくコクリと頷く
その仕草がたまらなく愛おしく感じ、気が付けば彼女を抱きしめていた


明りを豆電球のみにして、薄暗いオレンジ色に染まる室内
俺は早々に来ていた服を脱ぎ捨てて下着一枚になっていた
こうして流れをに身を任せずに一からセックスをするのは今までなかった
互いに初めての時のような気持ちになり何だか変な感じだ

美世がゆっくりと自分の服を脱いでいくその姿は何だか厭らしい
そして、今日二度目の暗闇と顔面への柔らかい衝撃を感じる

「そ、そんなにジロジロ見ないでよ! 恥ずかしいじゃない!!」

投げつけられたクッションを手元に置いて、明後日の方向を見る
自分で脱ぐと言う行為に羞恥心を感じているのだろうか
いつものような勢いは全く感じられず動きもどこかぎこちない

付き合い始めてから美世と身体を重ねた回数はそれほど多くなかった
互いに仕事もあるし、別にしなくても満足している部分もあったからだ
それ故にセックスを意識させる行為に慣れない部分もあった

「ん、脱いだよ……」

下着姿の美世がドサリとベッドの上に仰向けに寝転がる
緊張しているのか、何もせずにそのままジッとこちらを見つめている

今までじっくりと見る機会がなかったが、美世のスタイルはかなり良い
スラリと長い手足に、着やせするのかステージ衣装の時は目立たないが、胸も大きい方だ
普段からよく動いている事もあって、全体的に引き締まった身体はメリハリがついていて
流線形のボディというのがピッタリな表現だろう

「……どうかしたの?」

「いや、美世は何もしないのかなって……」

「あたしだって、たまに思い切り優しくされたいな……」

「だって、一応女の子だし……ねっ! Pさん……!」

そう言いながら頬を上気させてはにかんでいる
その姿に努めて冷静になろうと思っていた決意は跡形もなく消え去り
気が付けば俺は彼女の上に覆いかぶさっていた


鼻先が触れ合う程に顔の距離が近づく、美世が頷くのを確認すると俺は唇を重ねた
密着させた唇の隙間から美世の口内へと舌を侵入させる

「んっ……ちゅっ……んんっ!」

ディープキスをするのは初めてではないのだけど
先程の美世の言葉を思い出し、いつもよりゆっくりと美世の舌を撫でるように滑らせていく
美世は反射的に俺の肩を掴んでその動きに戸惑いを示すが
考えている事が伝わったのか徐々にこちらの舌の動きに合わせるように絡ませてくる

「ちゅっ……んっ、Pさん……ちゅぷっ……」

彼女の求める、労わるような優しいキスにはなっているだろうか?
免疫の無い美世にとっては自分ももっと動くべきなのか判断に迷っている感じだ
美世も舌を絡ませてはいるが、チロチロと舌先で軽く擽る程度のものなので
全体的な主導権は俺の方にあるみたいだ

あのドレス姿の美世を今は好き放題できているという事実が
脳裏にちらついては燻り始める情欲を必死に抑えてキスに集中する
唾液に塗れた粘膜が幾度となく交差し、美世の吐息が中に入ってくる
くぐもった声ですら心地よく感じ、じわじわと身体が疼き始める

「ちゅぷっ……美世……はぁ……ちゅるっ……」

美世は頬を紅潮させ、額にうっすらと汗を滲ませている
腕の中で四肢を小刻みに震わせてはキスの熱に当てられたのか
目を細めてせがむ様に口内を無防備にしている

今まで何度もしてきたはずのキスなのに、少しペースを変えただけで
互いの理性が焼き切れたかのように抑えていた衝動が止められない
気が付けば、美世の口の端から溢れた唾液が彼女の顔を伝っていた


またいつでもキスができるように鼻先が触れ合う距離は保ったまま
唇を離すと同時に二人分の唾液が卑猥な糸を引く

「今日はなんか変な感じだね……」

「それは俺も思ってたな」

互いの荒い息を感じて、同じ意見だった事に二人でクスリと笑い合う
美世のために気を使っていた事は俺に対しても効果があったようで
キス一つでこんなに違うものなのかと驚いていた

不意に、美世が俺の手をとり自分の胸に押し当ててくる
下着の上からでもハッキリとその膨らみの弾力が手に伝わってくる

「どうしたんだよ、急に……」

「あたしはよくわからないけど……男の人って発散しないと悶々するんでしょ?」

「そりゃするけど、別に溜まってるわけじゃないんだけどな」

「どうだか……あたしとしては自分で払いのけて欲しかったんだけどね」

要するに、このまま性欲を溜めこんでいたら
礼子さんの時みたいに流されそうになりかねない
ならあたしの身体を使って発散させれば良い、と言う事らしい

流されていたわけじゃないんだけどな……

普段はそんな欠片も出さないが、意外に嫉妬深いところもあるようだ
その解決策に自分の身体を差し出す所がなんともいじらしい
当の本人は胸を触らせる大胆な行動に照れながら
口を膨らませてプイッと拗ねる様に俺と目を合わせようとしない

年下にこんなに気を使われるているのが情けないと思う反面
手の平に感じる美世の柔らかな感触と微かな鼓動に
早々に興奮し始めている自分がいた

これじゃあ心配されるのも無理ないか……

そんな自分でも、ちゃんと美世だけを見ているとアピールするように
優しく胸に触れている指を動かしていく
動き始めた俺に安心したのか、美世も逸らしていた顔を元に戻してくれた


「んっ……」

力を入れすぎないようにと、ぎこちない手つきで優しく揉みほぐす
指先に合わせて胸の形が変わっていき、その度に美世は唇を震わせ呻き声を漏らす
胸を揉むというのは意識してやると恥ずかしくて仕方がない

美世は特に気にした様子もなくうっとりとこちらを見つめている
俺は胸を両手で揉み続ける。身体は疼いて仕方なかったが冷静さを失わないようにしていた
微かに身をよじらせる仕草が艶めかしく、気を抜くと一気にもっていかれそうだからだ
その気持ちを誤魔化すように俺は美世の下着に手をかけた

「あっ、やっぱり脱がされるのも恥ずかしいね……」

「どっちもそんな変わらないだろ……」

「そ、そうだけど……」

気の抜けたやり取りの中で露わになった美世の胸は
ほんのりと上気していて高揚しているのが窺える

「あんまりマジマジと見られると恥ずかしいんだけど……」

普段の生活からは想像できない程にきめ細やかで透き通るような肌に目が離せない
そんな視線から逃れるように胸を隠す仕草も、逆に興奮を刺激するだけだった
そっと、美世の腕を掴み隠している胸を出すようにさせる
少し抵抗されるかと思ったけどそんなことはなく、あっさりと両手はどけられた

「うぅ……んっ…あうっ!」

そのまま片方を口に含み舌先で丹念に舐めまわし、もう一方は手で揉み続ける
同じくらい汗をかいたはずなのに、女の子特有の石鹸の様な香りが鼻腔を擽る
大して変わらない行動をしていて、何故こうも良い匂いがするのだろうか?


「……なぁ、こういうのって気持ち良いのか?」

「そ、そんな事……あんっ! 聞かないでよ……!」

バカみたいな事を聞いてしまったが、困惑しながらもちゃんと答えるのが美世らしい
しかし、このまま胸ばっかり攻めているのも芸がないと思い
俺は徐々に空いている手を下腹部の方にずらしていく
そして、美世の布地に指を掛けてずり下げる

「んっ……Pさん……!」

俺も自分のトランクスを脱ぎ捨て、互いに一糸纏わぬ姿になると
再び抱き合って身体を密着させると、肌の温もりと同時に美世の鼓動が伝わってくる
彼女からも背中に腕を回してその柔らかな身体を強く押し付けてくる

美世は肌を密着させるのが好きなようで、抱き合いながら愛撫する事がほとんどだ
正直動きづらいのだけど、幸せそうな美世の表情を見ていると「まぁ、良いか」と思える
激しくする事は無くても、この瞬間に感じる彼女の体温や匂いは俺も大好きだった
他の誰でも得られないであろうこの穏やかな感覚が、美世が特別なんだと強く意識させられる

「Pさん……ゆ、指……くぅっ!」

陰裂に指を這わせると、ピクリと肩を震わせか細い声を漏らして身をよじる
その度に柔肌を強く擦りつけられては、さらに密着感が増していく
粘膜のうっすらとした湿り気と共に、普段は触られる事の無い場所への刺激に震えている


「痛かったらちゃんと言うようにな……」

「んっ……大丈夫だから、好きなようにして良いよ」

毎度毎度の献身的な言葉に胸が熱くなる
こうして勢いに任せないセックスに、初めての様な感覚を覚えているのか
一挙一動が美世にとって負担になっていないか気になってしまっている
そんな俺を安心させるように、投げかける質問には嬉しそうに答えてくれた

そんな彼女を傷つけないように心がけ、中央の溝に這わせた中指に力を込めていく
密着しているせいか美世の吐息の全てが直に感じられる
その感触が心地良くなっていき、俺は絶え間なく入口を刺激し続けていた

グニグニと少し押されるだけの微弱な刺激に
美世はモジモジと内股を擦り合わせては、粘膜を弄られる度に切ない声をこぼす
ゆっくりと、でも確実にその場所から潤みを帯びていくのがハッキリと分かる

「き、今日はなんでそんな……きゃうっ!?」

「さぁ、なんでだろうな? でも、美世も喜んでるみたいだし」

「は、恥ずかしい事言わな……んんっ!?」

照れ隠しの言葉を遮るように、中指を美世の中に侵入させていく
第一関節が入ったくらいで指の腹を撫で擦っていくと
その度に新たな蜜が分泌されるかのようにクチュクチュと卑猥な音が鳴り響く

優しく愛撫されている感覚を身体が感じ取っているのか
滲み続ける愛液に美世は困ったように視線を逸らしている
何もしなければなすがままされてしまうのに、そんな反応の一つ一つが可愛らしく思える


中指一本でも締め付けを感じる膣内に少しづつ指を突きいれていく
いつもこの中に自分のモノを捻じ込んでいるのが大丈夫だろうかと心配になる

「うぅ……あんっ! ……んっ……」

指の根元まで入った所で軽く動かし続けると、美世の声も次第に大きくなってくる
何度か口づけを交わしながら、乱暴な動きにならないように意識して指を這わせる
その動きにリンクするように身体に巻き付いた腕に力が入り、絡みつく舌が震えていた

「……はぁ……はぁ……Pさん、ち、ちょっとまって……」

急に美世が中止を懇願するように、蕩けた表情でこちらに語りかける
その様子は苦痛とは違うまた別の何かを堪えているような感じだ

「悪い……痛かったのか?」

「ううん、そうじゃなくて……ゆ、指が……んっ……」

今は全く動かしていないのに、その微かな指の震えにすら反応している
いつもより敏感になって絶頂を迎えそうなのだろうか?
それならば止める必要もないだろうと、俺は再び指を動かし始めた


「あうっ……だ、駄目っ!? P、Pさん……そ、それ以上したら……くうっ!?」

急に動き出した指に内臓を抉られたかのように美世が悲鳴を上げる
少し動かしただけで、すぐに身体をビクビクと震わせてイってしまったようだ
俺の指がグイグイと何度も締め付けられる

その瞬間、生温かい水の様なものが美世の中から飛沫をあげて噴き出した
それはまるで漏らしているかのようだったが、断続的に水滴が飛び散る様子は少し違うようだ
何度も何度も美世の入口から透明な液体が噴き出し、シーツにシミを作っていく

初めて見た光景に少し驚いたが、性の知識として俺はこれを聞いた事がある
これが「潮を吹く」ってことなんだろう、初めて見たな……
呆気にとられてそんな事を考えている間も、美世は絶頂に身体を震わせていた


「……はぁ……はぁ……」

少し時間がたっても絶頂の余韻に荒い息が収まりきらない美世が、俺の胸の中で小さくなっている
先程の潮のせいで俺の手や、美世の太股、ベッドのシーツはぐっしょり濡れている
愛液とは違い水のようなものなので、それほどベタつく事はなかった

「え、えっと……そんなに感じてたのか……?」

聞こえているのか分からないが、微かに開いている目で俺の事を見つめている美世に
自分で愛撫しておきながらなんとも情けない質問を投げかけてしまう
その後、横顔に柔らかい衝撃が走る。この感触は今日3度目のアレだろう

「も、もう! だから止めてって言ったじゃない!?」

美世が自由な手で掴んでいたクッションが
ボスボスと見た事を頭の中から叩きださせるような勢いで何度も俺を叩く
全然痛くないのだが、顔を真っ赤にさせて慌てる美世は微笑ましい

「わ、わかったから叩くな!」

「うぅ……こんなの見られるのは流石にあたしも……」

腕が動かないように抱き寄せると、美世はあっさりと大人しくなった
それでも潮を吹くのを見られたのが凄く恥ずかしいようで
胸板に顔を密着させて、俺とは目が合わないようにしている

「……まぁ、こんな姿を見られるのも特権って事だな」

「……んっ……Pさん……」

顔を強引に持ち上げて唇を重ねる
そのまま舌を美世の唇に這わせると安心したように目を細める
どうやらさっきの潮吹きで嫌われると思っていたららしい
相変わらず車のように真っ直ぐな考え方は、俺の心をつかんで離してくれそうにない


「……じゃあ、入れるぞ?」

「んっ……わかった」

落ち着きを取り戻した俺達は、中断していた行為を再開する
美世の脚をゆっくりと開き、その中心に向かって狙いを定める
亀頭の先に美世の陰裂が触れるとその熱さに全身がゾクリと震えた

美世がコクリと合図をしたのを確認し、ゆっくりと腰を前に美世の膣内へと入っていく
あれから両手で数える程しか身体を重ねていない美世の膣内は少しきつくを感じる
それでも、ゆっくりとした愛撫で蕩け切った中は徐々に奥へと俺を誘う

「……うぅ……んんっ……P、Pさん……入って……!」

うわ言の様に呟く美世に覆いかぶさり、抱きしめながら少しづつ潜り込ませていく
美世もすがりつくように腕を背中に回してくる
密着感が増し、美世の吐息が耳元にハッキリと聞こえてくる

これだけくっついていると上手く動けないものの
瞼を閉じながら安心しきった声を漏らす美世の姿はとても愛おしく感じた
その愛情を表現するかのように、俺は緩やかに腰を揺らし始めた

「んっ! ……あぁっ! ……中で……!」

すっかりと敏感になってしまった膣内を刺激され、美世の艶声が響き渡る
密着してる美世の胸の柔らかさと程良い弾力に、興奮は際限無く増加して行き
全身で美世を感じながら俺はゆっくりと腰をグラインドさせる

「あうっ! ……P、Pさん、気持ち良い?」

俺の欲望を発散されるために挿入されているにもかかわらず
健気にも俺の事を気にしている美世の言葉に、抱きしめる腕に力が籠る
俺は彼女の滑らかな肌の感触と肉棒を締め付ける圧迫感に
ジリジリと思考を焼かれてしまい「あぁ」と短く返すのが精一杯だった


美世は自ら動かずじっとしているが、その中は俺のモノを放さないようにピッタリと吸いついてくる
少し動くだけでも全体が刺激される快感はとてつもないものだった
徐々に分泌される愛液の量も増していき、結合部がグチュグチュと音を立てる
美世の表情や声色が熱を帯びていく度に俺の欲望も肥大化していった

「ひうっ!? あっ……あぁっ! ……ね、ねぇ……Pさん?」

「……はぁ……どうしたんだ?」

「んっ……もっと、動いて……大丈夫だから」

「…………」

「あたしは……んくっ! ……Pさんの……せ、専用車だから……あうっ!?」

その言葉に燻っていた劣情が一気に燃え上がる
優しくして欲しいと言う美世の言葉を頭に留め
速度はそのままで、腰の動かす幅を大きく
根元まで押しつけるようにして、亀頭を美世の奥深くまで届かせる

「ひっ……あぁ……お、奥に当たって……!」

奥を叩く度に中が勢いよく収縮して締め上げてくる
全体を圧迫する力加減が快感神経を刺激しては
纏わりつくような美世の膣内に、急速に熱が下腹部にこみあげてくる

先程から1ミリの隙間もない程に密着していた美世の肌は火照り始め
うっすらと滲み始めた汗が、わずかに残った隙間を埋めていく
立ちこめる美世の匂いを吸い込むと、美世は恥ずかしげに腰をくねらせる

不意に、横にあった美世の顔が俺の正面に移動してきたかと思えば、唇を塞がれる
俺はそれに答えるように、互いの名を呼びながら唾液を口内で行き来させる
結合部は止めどなく溢れる愛液と、何度も奥深くまで突きいれられる腰に白く泡立っていた

「あむっ……んちゅっ……Pさん……だ、大好き……!」

美世が嬉しそうに呟くと、膣内の締め付けはより一層強くなり、射精を促される
唇が触れる程度の啄ばむような口づけを繰り返しては
上と下で繋がっている事に、二人で興奮を募らせていく

汗に濡れた頬に髪の毛が張りつかせ、喘ぐ姿は艶めかしくて
限界に近い快感に連動するように、美世の身体の震えが大きくなっていく
蕩けるように熱くなった膣内は、挿入しているだけでも射精してしまいそうだった


「はぁ……はぁ……美世、そろそろ……!」

「んっ……あ、あたしも……!」

限界に近い射精感を訴えると、美世も頷きながら絶頂を訴えかけてくる
そして全力で俺にしがみつき、勢い余って立てられた爪が背中に食い込んできた
鋭い痛みに一瞬ビクリとしまったが、今の美世を安心させられるなら安いものだ
俺は痛みを誤魔化すように、強く抱きしめてはそのまま膣奥を責め続けた

「ひあっ!? P、Pさん……だ、だめっ! そんなにされたら……んんっ!!」

美世は切羽詰まった悲鳴と同時に身体を弓なりに反らせ
その瞬間に、膣内がこれまでにない程にきつく全体を締め上げてくる
強烈な締め付けに俺は限界を迎えるのを感じ、美世の中から引き抜こうとしたが
いつの間にか絡められていた美世の脚が腰を引く事を許さなかった

「み、美世……離せっ!」

「だ、大丈夫……だから!」

振りほどこうとしたが美世の脚はガッシリと組みつき離れそうにない
スローモーションのように映る美世の顔はとても穏やかな顔をしている
その顔見てしまった俺は、前か後ろかを一瞬考えた後に迷うことなく腰を深く美世の中に突き入れた


「あっ……あぁぁ……Pさんのが全部……入って……」

根元まで埋没させた肉棒をさらに強く押し付け
ビクビクと脈打っては、美世の中へと精液を注ぎ込んでいく
それは2回や3回じゃ収まる事なく
何度も何度も身体に残っている全ての精液を絞り出すように

美世は大量注ぎ込まれる精液に肌を粟立たせ、全身を震わせる
先程絶頂を迎えたばかりの膣内は収縮を繰り返し
締め付けては最後の一滴まで絞り出すように擦りつけていた

「はぁ……はぁ……美世」

「んっ……Pさん……」

額に滲んだ汗をぬぐう事もせずに、美世の頬を撫でる
すると彼女も嬉しそうにはにかんで、甘えるように頬を擦り寄せてきた
俺達はしばらく繋がったまま、そんな甘い時間を過ごしていた


「やっぱり、ここのは美味しいね!」

この言葉を最近聞いたようなデジャヴを感じる
目の前では口いっぱいに牛丼を頬張る美世がいる

飯時を逃してしまったせいか俺達しかいない店内で
俺は呆れたように頬杖をつきながらその姿を眺めていた

「本当にここで良かったのか……?」

「ん? Pさんも好きじゃなかった?」

嫌いではないけど、およそデートには似つかわしくない場所だ
まぁ、仕事帰りなのでデートってわけじゃないけど……

「…………」

お腹が空いていたのか目の前のご飯を嬉しそうに食べる美世を見る
普段はあまり見せない姿だが、本当はこうやって美味しい物を食べるのが好きなのだろう

ドレス姿の美世、怒る美世に献身的な美世
ここ数日で色んな姿を見てしまったせいか、そのギャップに驚きを隠せない
とは言っても、そこが可愛いところなんだけど

「ね、今度のモーターショーの仕事ってあたしは出れるかな?」

「あぁ、多分大丈夫だと思うよ。先方にはもう話してあるしな」

「ふふっ、やった! 頑張ろうね、Pさん!」

とるのにそんなに苦労したわけじゃないのにはちきれんばかりの笑顔で喜んでくれる

こうやって真っ直ぐに嬉しい気持ちを表現してくれたり
少し姿を変えただけで見違えるほど綺麗になったり
俺が誰かに誘惑されたら本気で怒ったりと

どうにも俺の専用車に飽きる要素は無さそうだ……

「どうしたの、今日のPさんはなんか変だね?」

「別に、いつもと変わらないけどな」

「そっかな、あたしにはちょっと元気なさそうに見えたんだけど……」

「まぁ、さっきから気になってる事はあるけどな」

「なに? なにか心配事でもあるの?」

「……ご飯粒、またついてるぞ」


寝ます、とりあえずここまで


■君はフルスロットル その5

「……よし、これで全部かな」

細かい消耗品をカゴに入れて、忘れ物は無いかとメモを見る
久々の真夏日に、あたしは一人いつもの車用品の店に来ていた
この前何気なくエンジンルームを見ると、へたっていたパーツがいくつかあった

普通なら気にする事もないだろうけど
あたしみたいにしょっちゅう車で移動し同じ車に乗り続けるなら
定期的にパーツは交換してあげないといけない

「あっ、タイヤもそろそろ変えようかな……」

一つの事を気にし始めると、他の事も色々気になってしまう
車以外に特に使う事もなく、お金には大分と余裕があった
良い機会なので新しい物も試してみたいと思い
あたしは宝物を探すかのように、店内をウロウロしていた

「これはちょっと派手すぎるよね……」

今時のインテリアってよく分からないのがいっぱいあるんだな
外だけじゃなくて、内面のインテリアも少し考えてみたけど
あたしにはイマイチピンとくるものがなかったみたいだ

どの道、あたしの愛車に乗る人は限られているし
あたしが満足していればそれで良いのかな

でもちょっと前に、何気なく張ってみたステッカーを
Pさんに褒められて嬉しくなったのを思いだす
自分の愛車が褒められるのは、自分が褒められてるみたいだった

「別に褒められたいわけじゃないんだけど……」

誰に言うわけでもなく、自分に言い訳するようにポツリと呟く
でも、その手はしっかりとカーアクセサリーなんかを吟味している
言葉と行動が伴っていないってこういう事を言うのかな

(誰かさんのせいで、変な趣味を持ち始めたのかな……)

そんな自分がおかしくなってしまいクスリと笑ってしまう
これまでまったく興味が無かった事も、今は楽しく感じる
でも不思議と嫌な感じはせず、むしろ嬉しく思えた


「……円になりますね」

「はい」

財布の中からお金を取り出し店員に渡す
見ている時間は長かったけど、買った物はそんなに無かった
本来の目的だった消耗品はそれほど多く無かったし
インテリアなら見て欲しい本人の意見を聞きたかったからだ

「ありがとうございます。では宜しければこれもどうぞ」

「……これは?」

「当店の3周年記念の福引券です。店の前でやっていますので」

福引……言われてみればそんなことやってたよね……
店に入る前に、いかにもな福引所があったのを思い出す
あたしはクジ運があるわけじゃないので、特に気にも留めていなかった

(どうせポケットティッシュなんだろうな……)

貰った福引券は3回分、いつもなら財布に突っ込んで
そのまま忘れてしまう事が多いけど、近くにあるならやっていこう
ポケットティッシュはいくらあっても困らないし

忘れないように福引券を右手に握りしめ
あたしはぼんやりと店の外へと歩を進めていた


「3回ですね、ではどうぞ!」

張り切っている店員さんの声と共に目の前にあるガラガラを回してみる
福引と言えばこの多角形の回すやつだけど、これ正式な名前は何て言うのかな……?
2、3回回転させるとコロリと白い玉が落ちてきた
福引で白と言えば、ハズレの証
チラリと景品を見たら案の定ポケットティッシュが当たったみたいだ

(1等のカーオーディオ、欲しかったやつだ……)

チラリとみた景品一覧には豪華なカー用品がずらずらと書かれている
当たるわけ無いけど、予算オーバーで手が出せなかった物ばかりだ
少し期待を胸に二回目を回してみたけど、また白い玉だった
店員さんの「残念!」という大きな声でポケットティッシュを差し出してくる

オーディオかぁ、これでレース番組のテーマ曲とか聞いたら楽しそうかな
でも、Pさんに「またそれか」って言われちゃうかな……まぁ、それでもかけるんだけど
言う割には変えようとすると「変えなくて良い」って言うんだもんね

「あ、あの……?」

考え事をしながらガラガラを回していたら、3個目の玉が出ていたみたいだ
ハッとなって慌てて手を離す。4個目が出てなくて良かった
そして、目の前には赤色の玉が転がっている

「お、おめでとうございます!!」

「へっ……?」


「そんな強運なら俺にも分けて欲しいよ」

「今回だけは本当に偶然なんだってば!!」

照りつける太陽が眩しい昼下がり、海岸線を走る車内で
未だに羨ましがっているPさんに慌てて言い返す
悪い気分はしないけど、何回も言われると流石にこそばゆい

目的地はテレビとかで有名なリゾートホテル、このまま行けば後少しだ
この時期は海の近い場所に建っている事もあって、連日満員らしい
でも、あたしとPさんは福引の赤色の玉のおかげで何の問題もなくそこに泊まれる
あの時に特賞の豪華リゾートホテルのスイートルーム宿泊券が当たったからだ

車の店でリゾートホテルの宿泊券って変な話だったけど
この海岸線はドライビングコースとして有名だったらしい
走ってみたいと思ったけど、ホテルに泊まるのはどうしよう?
そんな事を考えているとPさんの顔を思い出し、誘ったら快くOKしてくれた

「夏のレジャーはやっぱり車だよね」

「今日みたいな暑い日はそうだな、道も空いてて良かったよ」

「でもここならバイクで走っても気持ちよさそうな道路だよね。タンデムとか!」

「俺はどっちでもかまわないさ、乗っけてもらう側だし」

「うん、行き帰りの運転は任せてね♪」

「すまないけど頼むよ。でもやっぱりバイクの免許取った方が良いのかな……」

「そう言えば、Pさんって持ってなかったっけ?」

「車があるし乗る事がないからな、興味が無いわけじゃないけど」

「Pさんが免許取ってくれたら、海岸線をツーリングとかも楽しそうだね!」

「そういうのもありだな、でも美世は拓海とはツーリングはしないのか?」

「拓海ちゃんのバイクはあたしのとは違うから……」

窓から見える水平線は、日差しに反射してキラキラと光っている
あんまり海をゆっくり見ることは無かったけど、こんなにも綺麗だったなんて意外だった
海と並んで続いている一本道を愛車で走る。隣にはPさんも居てくれる
それだけであたしは、ウキウキした気持ちがおさまらなかった


「チェックインは夕方までにすればいいんだよな」

「うん、早めに出たから海に寄って行こうかなって!」

「そうだな、少し泳いで行こうか。美世は準備は持ってきているのか?」

「大丈夫だよ! せっかく海の近くなんだから泳がないと損だもんね!」

「それにしても美世が泳ぐなんて珍しいな。水陸両用だったのか」

「す、水陸……そうなのかな??」

「冗談だよ、真剣に考えるな」

Pさんの冗談は置いておいて、あたし自身も泳ぐのなんていつ以来だろう?
カナヅチでは無いけど、学校の授業以外で泳ぎに行った記憶なんてほとんどない
なにせ水着すら持っていなくて、Pさんに頼んで選んで貰ったくらいだ

夏の時期は水着でのお仕事や、水着をモチーフにした衣装を着たステージとか
アイドルの仕事と水着は切っても切れない縁があるんだと思う
あたしはというと、やれキャンペーンガールが良いとかレースクイーンとか
そんな仕事ばっかりをせがんでいたので、水着とは少し違った衣装を着る事がほとんどだ

二人の意見も揃ったところで、海岸近くの駐車場を目指す
真夏日の今日は照りつける日差しが凄く強くて、絶好の海水浴日和だ
車がすぐにサウナになってしまうだろうから、サンシェードを持ってきておいて良かった

東京から数時間、数日のお休みを貰って車で二人一緒に旅行に出かける
別に大したことをしているわけじゃないけれど、日常生活から二人だけ抜けだしたような気分で
あたしはここに来てからずっと、あの福引が当たって良かったと一人にやけていた


「パラソルにシート……これくらいで良いよな」

Pさんが額の汗を腕で拭いながらトランクから荷物を取り出している
あたしはというと……エンジンを止めて車の状態を確認すると
目の前に広がる海に我慢できなくて、服を脱ぎ始めていた

「んーっ、着いたー! さーて、泳ぎに行こっか!」

「えっ、でもまだ水着に着替えてないけど……」

「更衣室に行かなくても、着替えならここで大丈夫だよ!」

「……なんだ、準備してきたのか」

「きっと待ちきれないと思ってたから、運転する前から下に着てきちゃったんだ♪」

着ていたTシャツとデニムのホットパンツを脱ぎすて車にかけると、アッと言う間に水着姿になる
でも脱いでる一部始終を見られたせいか少し恥ずかしい
何度も裸は見られているけど、それと似たように顔が紅潮してしまう

(やっぱり、ちょっとドキドキしちゃうな……♪)

「どうかしたのか?」

「ううん、それよりPさんもはやく水着に着替えて! ほらほら!」

「そんなに慌てなくても、時間に余裕はあるだろ」

「はやく海に行こうよっ!」

Pさんの引っ張り出した荷物を持って、早く着替える様に促す
やれやれといった態度をしているけど顔は嬉しそうだ
あたしは着替え終わったPさんと、二人並んで真っ白な砂浜に向かって二人歩きだす


パラソルを砂浜に刺して、シートを引き、これで休憩場所は完成した
日陰にいても塩気を含んだ風が吹き付けて、海を感じさせてくれる
隣でPさんが荷物のチェックをしながら簡単に片づけをしている

「じゃあ、ボール膨らませるね」

「あ、その前にこれ塗っといてくれ」

「……これ、日焼け止め?」

「あぁ、日に焼けるのは避けたいからさ」

こんな時でも仕事の事を考えていてくれたみたいだ
そう言えば、前に『美世の白い肌が好き』って言ってくれたっけ……
あたしは日焼けすると身体が赤くなるだけで、黒くなることはないのだけれど
肌を傷めないようにと用意してくれていたんだろう

「……ね、Pさん」

「ん?」

「これ、塗ってもらって良い?」

「はぁ? オイルじゃないんだから自分で塗れるだろ?」

「良いじゃない、カーワックス塗るのとおんなじだから!」

「カーワックスって……」

自分でも言っている事がおかしいとは思っているけど、あたしは引かなかった
オイルを塗ってもらうのはメンテしてもらってるみたいだなと前から思っていたので
一度、Pさんにしてもらいたかった。そんな単純な理由だ

「……くすぐったくても我慢しろよ」

「ふふっ、大丈夫だから」

「えっと、こんな感じで良いのか……」

「……Pさん、なんか顔赤いみたいだけど、もう日焼け?」

「お前、わざと言ってるだろ……」

背中に、腕に、身体中に日焼け止めを塗ってもらう
その様子は本当にカーワックスを塗っているようで、少し可笑しい
それにしても全身にこんなことしているのは、周りをみるとあたし達だけみたいだ
自分で言っておきながら全身はやりすぎたと少し後悔していた


「ほらほら、ウインドウォッシャーだよっ!」

「んなもんにあたるかよ!!」

「きゃっ!?」

腰までつかるくらいの場所で、ふざけて水を掛け合っていたら足を滑らせる
ちょっと調子に乗りすぎたみたいだ、口の中に結構塩水が入ってしまった
そんなあたしを見ながらPさんはケラケラと笑っている

「もう! あんまり笑わないでよ!」

「すまんすまん、なんか子供みたいだなって」

「そうかな? 今日は結構攻めてみたんだけど……」

「なにかいつもと違うのか?」

「ヨーロッパの車のフォルムとまではいかなくても、あたしだって少しくらい!」

「おいおい、格好の問題じゃないって」

少し、Pさんに自分ビキニを見せつける様に手を広げてみる
選んでもらった物だけど、普段こんなのは着ないのであたしとしては大分冒険している
それでも、少し照れたように笑ってくれる顔を見ていると
頑張ったかいがあったのかなと、嬉しくなってくる

「Pさんといるから、私、大胆になれるのかも!」

「そう言ってもらえると嬉しい限りだな」

アイドルになってから、大勢のファンの前で歌って
今までに見たことないような世界を経験して、今ではこうやって二人で海に来ていて
目まぐるしく自分の周りが変わっていったけど
こうやっていつでもそばにいてくれたから、あたしは真っ直ぐに進めていた


原田美世(20)
http://i.imgur.com/nvmmJd5.jpg


日も少し落ち始めた頃、海は少し赤く染まり始め
あたしたちは再び目的地に向かって走り始めていた

「Pさん、今日は楽しかった?」

「あぁ、こうやって遠くに出掛けるのは新鮮で良いな」

「あたしね、夏のドライブと海ってドラマみたいで憧れだったんだ!」

「だからあたしも、楽しかったよ!」

いつか、昔どこかで見たような名前も覚えていないようなドラマ
うろ覚えのその映像では、こうやって海岸線をドライブしていたような気がする
その時のあたしには縁のないことだろうなと思っていたのでスルーしてしまったけど
今はこうしてそれが実現できたことが素直に嬉しい

「なんか今日が終わったみたいになっているけど、まだ終わってないだろ?」

「あっ、そうだよね。今からが本番なんだよね!」

「スイートルームね、どんなんなんだろうな?」

「泊まるのに数十万円くらいかかるみたい、凄いよね!」

「あぁ、まさかその場所に美世から誘われるとは思ってなかったよ」

「ふふっ、大事なプロデューサーの為だったらあたし、がんばっちゃうよ♪」

「ったく、調子いいな……」

本当は誰かにあげてしまおうかと思っていたけど、考えなおして良かった
終始ご機嫌なあたしをコントロールするように、今日のPさんは大人しめだ
でもちゃんと要所要所で笑顔を見せてくれるので、それだけで満足だった


「……こいつは驚いたな」

「P、Pさん、あたしたちここに泊っていいの!?」

「そりゃ、そうだろ……」

「で、でもここってあたしの部屋より三倍以上は広いんだけど……」

案内された部屋に入った途端、あたしたちは小市民的な反応を隠せなかった
二人しか泊まらないのに、有り余るような大きなソファに何インチかわからないテレビ
大きな窓から見える景色はここら辺を一望できて、入口から見ても良い眺めだ

「と、とりあえず、ベッドはここだよね……?」

「美世、それ多分腰かけだと思うぞ」

一つ一つの備品が新品と見間違うような綺麗さで、触るのもためらってしまう
話には聞いていたけどここまで凄いなんて、正直予想外だった
あたしは余りの豪華さに逆に落ち着かなくてソワソワしてしまっていた

「はぁ……どうしよう、Pさん?」

「とりあえず、荷物を置いてゆっくりしようか。その内に慣れるさ」

もうこの環境に順応したのか、Pさんはいつもの調子に戻っていた
凄いな、あたしなんてまだどこになにがあるのか分からないのに
Pさんはもう荷物を片づけて、備え付けのコーヒーメーカーでコーヒーを淹れている

(よく分からないけど、Pさんについて行けば大丈夫だよね……)

あたしも同じように荷物を置いて、ソファに腰をかける
前にPさんが奮発して買ったというソファより柔らかく沈み込んでいく
その勢いに少し驚いたけど、なんとかこけずにはすんだみたいだ


「……正直、信じられないな。アイドルになって、Pさんとこうしているなんて」

「俺も美世とこうやっているのが不思議に感じるよ」

少し日が落ち、辺りが徐々に暗くなり始めて、町中にポツポツと明りが灯りだす
ここら辺で一番大きなこのホテルの最上階から眺めるその景色は、まるで夢を見ているみたいだ
あたしたちはテレビもつけず、二人でコーヒーを飲みながら窓際で話していた

「…………」

ふと、事務所のみんなの事が頭をよぎる。あたしだけこんなことしてていいのかな……
アイドルになってファンのために頑張っているアイドルとしてのあたし
Pさんと二人で過ごす時間に幸せを感じているアイドルじゃないあたし

どっちが本当の自分なんだろう? Pさんはどっちも好きだと言ってくれた
でもアイドルのあたしが頑張らないと、Pさんが苦労するのは目に見えている
その事に関して、いつも笑って「気にするな」って言ってくれる……

「ねぇ、Pさん……」

「ん?」

「あたし、Pさんが期待する速さのアイドルにはなれないかも。それでもいい?」

沸き始めた不安に、今までずっと押し殺してきた気持ちを吐き出してしまった
言わないでおこうと思っていたけど、ハッキリさせとかないと、きっと迷惑をかけるから
Pさんが期待してスカウトしてくれたあたしは、今のあたしとは多分違うんだろう

ファンじゃなく、一人の人に心を奪われてしまった
そんなアイドルに、これから先の道を走り続ける資格なんてないと思うから

「美世、俺はさ……」

「…………」

Pさんの真剣な目があたしを見据える。こんな目をするのはほとんどない
今からあの時のあたしに戻れるように、この関係が終わってしまうのかな?
そう告げられればあたしはそれに従おう、離れ離れになるのだけは嫌だから……


「…………」

(な、何も言わないの……?)

ジッと、あたしの見つめたまま動かない。言葉を選んでいるみたいだ
こういう雰囲気だと悪いイメージしか湧いてこない、もう終わりにしようとか……
でも、どんな事でも受け入れないといけない、あたしは唾を飲み込みこの緊張に耐える

(このままPさんに甘え続けるのはよくないよね……)

(心配するなって守ってくれるけど、あたしがこの前みたいにボロを出したら……)

(それなら、最初からそんな心配がないようにしておけば……)

「…………」

「や、や、やっぱり嫌!!」

「えっ……」

沈黙の間に一人で悶々と考えていた結末はとても受け入れられそうになかった
気づいたら大声で叫んでいて、それを聞いたPさんは目を丸くしている
あたしも少ししてから自分のしたことに気がつき、慌てて口を塞いでいた


「なんだよ、いきなり大声を出すから驚いたじゃないか!」

「ご、ごめんなさい……そんなつもりじゃ」

「ふぅ……まぁいいよ。おかげで俺も緊張が解けた」

「うぅ……ごめんね、Pさん」

「ははっ、なぁ美世。俺はさ……」

「うん……」

「プロデューサーって立場なのに、アイドルを好きになってしまったんだ」

「えっ……」

「ダメなやつだよ本当に、プロデューサー失格だ」

「それって……」

「ま、元々一目惚れしてアイドルに誘ったんだ……」

「その子から告白なんてされたら、抑えるなんて到底無理だったよ」

軽く笑いながらいつもの調子でおどけて見せる
それから少し冗談を言っていたけど、あたしの耳には入っていなかった
一言だけ聞こえたその言葉があたしの頭の中を支配していたからだ

(一目惚れって……誰を……あたし!?)

「ね、ねぇ、Pさん……」

「えっ? どうしたんだ?」

「今の話、本当なの?」

「どの部分の事だ……」

「一目惚れってところ……」

「あぁ、本当だよ」

その瞬間、ドシンとした音が静かな室内に響き渡る
何か言うよりも先に身体の方が勝手に動いていたんだろう
自分でPさんに飛びつきながらも、何が起こったのか理解できてなかった


寝ます。サバ中は書き溜めができなかったのでとりあえずここまで
激しい戦いでしたが、なんとか肩書きはとることができました
またボチボチと再開していきます

P「タコメーター付け替えたんだ。どこまで回転上げていいのかを教えてくれ、頼む」

美世「11000まできっちり回せ」

こうですかすみません


「チッ! なんだよ、アイツら速すぎんだろ!」

「ふふっ、全国ランカーだっけ? それなら仕方ないよ」

「でもよ、惜しいとこまでいってたんだけどなー」

その後、あたし達は帰り道を会社の車で走っていた
今度はちゃんと法定速度内で、と思っていたけれど
さっきまでの超スピードに慣れた身体は、意識していないと必要以上にスピードが出る

助手席では拓海ちゃんがブーブーと文句を言い続けている
いきなり運転させられた上に、相手は凄腕だから負けても仕方ないと思うけど
負けず嫌いのせいか、絶対に次は勝ってみせると意気込んでいる

「にしても、美世。今日はえらく大人しいよな」

「えっ……そんなこと……ないと思うけど」

「そうかぁ? いつもなら勝負を捨てるなんてことしねーと思うけどよ」

「なんかさぁ、心ここにあらずっつーか……」

「…………」

「ったく……いつもバカやってるPが一緒にいねーと、張り合いがねぇのか?」

拓海ちゃんの何気ない一言に、あたしは本当に驚いて、息を止めた
慌てて「違うよ」と言い返そうにも、頭の回転がついてこない
何気なく茶化したつもりなんだけど、表現は適切で……

でも、あたしとPさんの仲が良いと言うんだったら、他にもそんな人達はいっぱいいる
それこそ長年連れ添った夫婦と変わらない雰囲気だったり
プロデューサーとアイドルって言うより、もう恋人のそれと変わらなかったり

それにいつもって言ったら、拓海ちゃんも人のことは言えないはずだ
毎回「たくみんスマイル」ってやらされながらも、拓海ちゃんは楽しそうで
口には絶対出さないけど、拓海ちゃんのプロデューサーさんと本当に仲が良いんだなって

(って、違うよね……)

今は人のことをどうこう言っている場合じゃない、質問されているのはあたしだ
礼子さんの時のようにフライングをして許されるとは限らない
拓海ちゃんならあたしとPさんの関係を知ってもきっと黙っててくれるだろう
それはわかってるんだけど、自分から言うのだけは避けないといけない

誠実に、気づかれないように丁寧に行動していたつもりだったけど
他のみんなはそんな事に感心ないのか、必死につけ続けてきた仮面は気づかれず
気を抜いてその仮面を脱ぎ捨てた時にだけ、怪訝に思われてしまう


「なんだよ? 急に黙り込んで……」

「……そうだね、いつも一緒にいたんだし、居ないと少し寂しいかな……」

「へぇー、美世がそんなこと言うなんて珍しいじゃん」

「そうかな? だって、Pさんがいないとこうしてドライブに付き合ってくれる人がいなくなるから」

「ま、アタシも毎日ってわけにはいかねーからな……」

寂しいけれど、その理由はハッキリとしていてあたしらしい
その微妙なラインを表現するのは難しかったけれど、上手くいったみたいだ
拓海ちゃんもそれ以上あたしの態度に追及してくる様子はなさそうなのでホッとした

「でも、今どこにいってんだっけ?」

「東北の方だよ、仕事の話と一緒にお世話になった人に会いにいくんだって」

「そいつは美世の知り合いじゃないのか?」

「ううん、あたしは知らない人……Pさんの先輩らしいけど」

あたしが沈んでしまっているのは、やっぱりPさんがそばにいないせいだろう
成人しているあたしは他の子達と違い、Pさんと離れ一人で仕事することも度々ある
でも今回は今までとは違い距離がある。それが、今のあたしの不調に繋がっている

(こんなこと言ってても、ダメなのはわかっているんだけど……)

ライブの時は、身体のエンジンがフル回転していて大丈夫だった
でも、それが終わって着替え終わってエンジンを止めた時に
「あっ、今日は居ないんだった……」と、そんな気持ちになってしまった

別に離れ離れになることに心配を感じているわけじゃないけれど
寂しいという気持ちは抑えきれずに、それを隠すために自分を偽り続ける
そして、ふとしたときにその反動がドッと押し寄せてくるのに少し疲れたのかもしれない

(もう、早く終わってくれないかな……)


------ 四日前

『えっ!? ど、どういうことなの……?』

『近くに東北の方で大きなイベントがあるんだ、それに美世に出てもらおうと思って』

『そうなんだね……でも、一週間も行くの?』

『そうだな、じっくり下見と話をしたくてさ。後、知り合いに会うんだよ』

『知り合い? Pさんって、東北に知り合いがいたんだ』

『新米の頃にお世話になった先輩プロデューサーだよ。行き先の近くに住んでるから』

『そうなんだね、ちょっと意外かも……』

『ははっ、そう言えば美世には言ってなかったな』

あの時に聞かされたPさんの予定に、あたしは思わず声を上げて動揺してしまっていた
ファンは日本中に居るしアイドルとして遠くに行くというのは珍しい事じゃない
それでも、仕事で一週間も出張するなんて初めてのことだったからだ

『仕事はライブ一件だけに抑えてあるけど、一週間は美世のことは見てやれない』

『ライブは前から決まってたもんね……』

『あぁ、こっちも急に決まったから、断るわけにもいかなくてさ……』

『もう、大丈夫だよ! 子供じゃないんだから』

Pさんは心配そうな顔をしていたけれど、一週間会えない程度で文句を言うほど子供じゃない
携帯で連絡も取れるし、顔が見れないだけってだけなんだし……
自分自身に言い聞かせるように、心の中で大丈夫、大丈夫と言いながら笑顔を返す

『そっか、それなら安心だよ。でも、困ったことがあったら遠慮なく連絡してくれ』

『うん……わかった。お仕事頑張ってきてね』

遠くに行って泊まりで仕事、アイドルを続けていけばこんなこともあるんだろう
Pさんにハンドリングに逆らって困らせてしまうわけにはいかないし
思う通りに進めるように、素直に動けるあたしでいてあげたかった
その時は、感謝の気持ちが溢れていたから、気軽にそう答えられた


------ 三日前

新着メール:0件

『……来てない』

それもそうだ、こっちからメールは送っていないし、今は仕事中だろうから
淡い期待は脆くも崩れ去ってしまって、わかっていたのに肩を落としてしまう
Pさんを支えてあげる。心に決めた決意は一日もたたずにグラついてしまって
あたしは次のピットはどこかと彷徨うように、何度も携帯を見てしまっていた

『そんなすぐに来ないと思いますけど』

そんなあたしにちひろさんがこちらに目を向けないままボソッと呟いていた
さっきから携帯をパカパカしているあたしに内心呆れているのかな……
でもよくよく考えてみれば、ちひろさんと二人きりになることは滅多にない
それなのにあたしは携帯ばっかり見ていて、なんて失礼なことをしていたんだろう……

『ご、ごめんなさい……そういつもりじゃ』

『別にかまわないですよ。にしても、一週間も豪遊なんてPさんだけずるいですね』

『豪遊してるんですか?』

『さっ、どうなんでしょ。私は下見に一週間もかからないと思いますけど』

ちひろさんは興味なさそうに旅行雑誌をパラパラと眺めている
Pさんに買ってきてもらうお土産を何にするか探しているらしい
高価なものって、嬉しそうに言っていたけどいつもこんな感じなのかな……

『……心配なんですか? 浮気されるかもとか?』

『う、浮気っ!? 本当なんですか!?』

『大丈夫、大丈夫。あのPさんがそんな器用なことできるわけありませんって』

聞きたくなかった単語が耳に入った瞬間、身体がバネ仕掛けのように勢いよく跳ね上がる
あたしは冷静さを失ってしまって声を荒げてしまったけど
ちひろさんは満面の笑みで「そんなことはない」と否定してくれてよかった

『それとも、なにか心当たりがあるとか?』

『こ、心当たり……』

『でもまぁ……美世ちゃんは何も心配はいらないと思いますよ』

顔はいつも通りだけど、ちひろさんは内心凄く楽しそうだ
Pさんっていつもちひろさんにこんな風にからかわれているのかな……
素っ気ないけれど、ちひろさんはあたし達の事を見守ってくれている
堂々と言える関係ではないけれど、こういう人がいてくれると安心できるのは確かだ

♪~♪~♪~

ふと、携帯から聞きなれたレースの音楽が流れ始めて
それを聞いたあたしは、すぐに開いて内容を確認する
あたしの隠すこともできなかった笑顔に、ちひろさんはクスクスと笑っていた

新着メール:1件


------ 二日前

『ふぅん、仲良くやってるみたいね……』

『はい、おかげ様で! って、なんかこれも変な言い方ですよね……』

『ふふっ、私は何もしていないわよ』

その日、あたしは礼子さんと二人で喫茶店に来ていた
あの一件の後、Pさんと二人で謝りに行ったら笑って許してくれた
それからというものこうして礼子さんと話す機会が増えた

礼子さんは話が上手で聞かせてくれる話は面白いし
事情を知っている人でもあるので、あたしも気兼ねなく話せる
今日はレッスンが終わった後に時間があったので、二人でこうしてゆっくりしている

『それにしても、美世ちゃんも心配性ね……』

『わかってるんですけど……』

『そうして心配が消えないのはなんでなのか自覚はしてるかしら?』

『……ちょっと、わからないです』

『それはね、自分に自信が無いからじゃないかしら?』

図星だ……これを言われると言い訳する言葉も思いつかない
あたしはファンやみんなに良いと言われても、どうにも素直に喜べなかった
今まで生きてきた中で、そんな事を言われたことがほとんどなかったからだ

でもアイドルを続けている内に慣れてきて、今では自然に喜べるようになったけど
プライベートに戻って、面と向かって言われると今でも違和感を感じてしまう
床にへばりついたオイルのように、自信の無さが残っているんだろう

『でも、ちゃんと愛してもらってるんでしょう……?』

『そ、それはそうなんですけど……』

『なら、あまり心配しても一人相撲になるだけよ』

(礼子さんのこの自信を少しでも分けてもらえれば、あたしも……)

……やめよう、無いものをねだっても何も変わらないだろうし
あたしの考えていることはお見通しなのか、礼子さんが微笑ましそうにしている
その姿を見ると、Pさんの言った通り本当に信用できる人なんだと素直に思える

この人からはあたしに無縁だった、女の魅力というものが溢れ出てて
人との付き合い方や、化粧の仕方なんていうものまで、聞く話の全部が勉強になる
あたしにとって、この人との出会いはきっと大きなプラスになった

『でもね、その……あんまりこういうことは言いたくはないけれど』

『はい、どうかしたんですか?』

『避妊くらいは……した方がいいわよ』

その言葉に、あたしの笑顔はひきつってしまった


------ 昨日

『へぇー、Pのやつがねぇ……』

『うん、今は仕事の話も大体固まったからゆっくりしてるみたい』

『どーせ、そのまま遊んで帰んだろうな』

『たまにはPさんもゆっくりしないといけないからね』

『話が固まったってことは、次は美世も一緒に行くんだろ?』

『うん、多分近い内に二人で下見しながら打ち合わせしようって』

『おっ、じゃあお土産頼んだぜ!』

特徴的なバイクの手入れをしているあたしを、拓海ちゃんが羨ましそうに眺めている
拓海ちゃんは自分のバイクは自分でいじっているんだけど
たまに特殊なパーツをつける時とかは、こうしてお願いしてくる時がある

正直、拓海ちゃんのバイクにかける情熱はあたし以上で、丁寧に手入れしてある
だから見たところで感心するだけで、別に頼まなくても自分でできるはずだ
それでも信用してくれているみたいだし、あたしもこうやってバイクをいじるのは好きだった

『そのイベントって、美世とPの二人で行くのか?』

『うん、そうだけど……それがどうかしたの?』

『いや、二人揃って旅行なんて贅沢だなって』

『り、旅行じゃないよ!? 仕事なんだってば!』

『まぁ、いつも一緒にいるし今更どうこういうもんでもねーか……』

旅行という言葉に過敏に反応してしまったけど、言われてみればそれもそうだ
表面上は二人で仕事にいくだけだけど、仕事以外の時間は旅行しているのと変わらない
慌てて工具を取り出して、お願いされたハンドルを取り付け
林檎のように紅潮してしまった顔が見えないように俯いていた


(そう言えば、こうして二人で旅行するのって……)

以前にリゾートホテルに泊まった時の記憶が蘇って、恥ずかしさがこみ上げてくる

(あんな時みたいになるんだろうな……それはそれでいいんだけど……)

(昨日に礼子さんから言われた事を気をつけないと……いや、そうじゃなくて……)

ここ最近の会えない不満が溜まっていたせいか、次に会える時が待ち遠しい
一週間くらいと思っていたけれど、電話やメールだけじゃとても足りなくて
たった三日間、顔を見なかっただけなのに、少しのことで落ち着きを失うほどになっていた
なるべく考えないように、位置を考えてあたしはハンドルを取り付け始める

『ん? どうしたんだよ?』

『う、ううん。別に何もないよ……』

改造車の雑誌を読んでいた拓海ちゃんがいつの間にかこっちを見ていた
急な視線に苦笑いでしか返せなかったけど、取りあえず返事を絞り出し
大丈夫だよとアピールするようにハンドルをバイクに固定していく

『……そういや、明日のライブって美世もでんだろ?』

『あたしは拓海ちゃんの後に歌う予定だよ』

『じゃあ、あがる時間も一緒だな。終わったら遊びにいこうぜ!』

『いいけど……どこかに行くの?』

『んー、特にねぇけど。たまにはゲーセンとかどうだ?』

『ゲーセンって、ゲームセンターだよね。あたしほとんど行かないけど……』

『まぁ、美世にやってもらいたいレースゲームがあんだよ、ちょっと付き合ってくれよ』

『レースか……うん、わかった。時間はあるから大丈夫だよ』

Pさんの話になって、あからさまに変になったあたしに気を使ってくれたのかな?
なんにせよ、普段しないことをすれば気分転換をできるかもしれない
そうすれば沸き上がり始めた寂しさも、少しは楽になるだろうし……

『へへっ、じゃあ決まりだな。そういやバイクのほ……』

『あっ、もうほとんど仕上がったところだよ!』

『……オイ! 美世! なんでハンドルが三つもついてんだよ!? 器用すぎんだろ!?』


------

思い返すと、いくらボーッとしてたとは言え拓海ちゃんには悪い事をしちゃったな
その後はちゃんと元に戻したけど、ハンドルの数すら気付かないなんて重症だ

(はぁ……電話はまだまだ後だよね……)

気晴らしをすれば、気も紛れるかと思ったけれど。そもそも忘れたいこととかはない
楽しいと感じる気持ちは正常のままで、単純に元に戻ってしまった時の反動が凄いだけだ
ひょっとしたら強く意識してしまう分、逆効果になっているかもしれない

「にしても美世の運転はすげぇよな。初めてとは思えねぇよ」

「人より車に詳しいだけだから、でもあんな風に走ったりはしないよ?」

「アレがいつも通りだったら、Pのやつ腰抜かすだろーな!」

「あたしは見るだけでいいかな……」

今、あたし達が載っているのはチューンされていない一般の乗用車だ
Pさんがいない間の足として、会社の車をあたしに貸してくれた
ATだし、スピードは出ないけれど……あたしはこの車は嫌いじゃない
いつもは助手席に座ってるし、色々と思い出もあるから愛着が沸いているんだろう

少しづつ夜の帳が下りはじめて、早めにつけていたライトが前を照らす
東京の夜は明るいけれど、一瞬だけ暗くなる時に映えるライトの光は
すっかりとこの目に焼き付いていて、思わず目を細めて見つめてしまう

「あっ、美世。ちょっとコンビニに寄ってもらっていいか?」

「かまわないよ、どのコンビニでもいいかな?」

「あぁ、雑誌さえありゃかまわねーからよ」

それなら道は外れるけれど、少し行ったところにあったはずだ
ちょっと遠回りしちゃったし、後でガソリン入れとかないといけないな
レシートはとっとかないと……

(お疲れ様、今日はもうちょっとだけあたしに付き合ってくれるかな……?)

ハンドルを撫でながら、アクセルを軽く踏み続ける
いつものゾクゾクするようなエンジン音ではないけれど
その小さな音は、「頑張る」って返事をしてくれたみたいで嬉しかった


外はもうすっかりと秋で、薄着だったので吹き付ける風が冷たい
日が落ちるのも早くなってきたので、これからどんどん気温は下がるだろうな

「そろそろ冷たいのは止めた方がいいかな……」

飲んでいた缶コーヒーがさらに体温を奪っていくけれど
せっかく買ったのに捨てるなんてできないので、我慢して飲み続ける

コンビニの中では拓海ちゃんが買う雑誌を選別していて
欲しいのはチューンの雑誌とか改造車特集とからしく、ホントに好きみたいだ
あたしは外より中に力を入れるタイプだし、見た目がゴテゴテしているのより
スタイリッシュというかスラッとしている方が好みなのでデコレーションはしない

「最近は調子も良いし、またどこかにドライブ行きたいな」

この前、点検した後に走らせてみると思った以上によく走ってくれたので
近く、自分の愛車でどこかにドライブに行きたいと思っていた
紅葉……高速……理由はなんでもいい、うんざりする程に走れるなら

今度Pさんと仕事に行く時は新幹線か飛行機になるだろうし
遠くの場所に行くのに時間がかかる車は適していないのはわかってる
でもいつかは、車で一緒に遠出してみたいな……

「ねぇ、お姉さん一人?」

ふと、考え事をしていると誰かに声をかけられる
振り向くとそこにはあたしの記憶には思い当たらない男の人が立っていた
なにか困ったことがあったのかな……? 一瞬考えたけど多分違うはずだ……

「友達といますけど……どうかしたんですか?」

「へぇー、そうなんだ。オレ達もちょうどそんな感じでさ」

「良かったら一緒に遊びに行かない?」

この人達はあたしのことをナンパしているんだろうな……
アイドルになって、ナンパに気をつけろって話はよく聞くけれど
まさか自分がナンパされるなんて思ってもいなかった


「ごめんなさい。あたしそう言うのはちょっと……」

「良いじゃん、暇してるんでしょ?」

「これから行くところがあるんで」

何度かこんなやり取りをして、あたしが断っても何度も同じことを言ってくる
よく言えば強引なんだろうけど、嫌悪感しか感じなくてイライラしていた

「お姉さん可愛いしさ、オレも嬉しくて声かけちゃってさ」

「……そうですか」

「ほら、一目惚れってあるだろ? それに近いものっていうか……」

「…………」

「それにお姉さん、髪の毛くくったらアイドルの原田美世にそっくりだしさ」

この人には可愛いって言われても嬉しくなくて、反射的に睨みつけてしまう
それに一目惚れって表現だって、この前言われた時の感じとはまるで違う
いつもそう言われたくて頑張ってきたのに、どうしてこんなに嫌なんだろう……

(あたしは……こんなことのために可愛くなりたいんじゃないのに……)

身体がカッと熱くなっていくのがわかる、もう喋らないで欲しかった
例えそれがときめくような言葉でも、今のあたしの怒りを増長させるだけでしかないから

「じゃ、行こうよ。オレ達の車あっちだからさ」

「離してっ! あたしも車あるから!!」

「そんな車より、こっちのが絶対良いって癖になるから」

「…………!?」

逆なでされ続けていた神経は限界を迎えて、もう抑えられそうになかった
急に手を掴まれて、体中が拒否反応を起こした上に
あたしのために頑張ってくれていた車をバカにされたみたいで
完全に頭に血がのぼってしまって、掴まれた手を無理やり振りほどく


「……もうかまわないで。本気で嫌だから」

「悪い悪い。そんなつもりじゃないんだよ」

「じゃあ、どんなつもりなんだよ……あぁん?!」

威圧するような大声が聞こえたかと思えば
いつの間にか買い物が終えた拓海ちゃんが相手を睨みつけている

「アタシのダチに手ぇだすなんてイイ根性してんなぁ? おい!」

「……す、すいません!!」

場馴れしている拓海ちゃんの威圧は効果抜群だったようで
あれだけしつこかったのに男の人はあっさりと引きさがって
慌てて乗り込んで行った車は、急旋回して走り去っていった

(助かった……のかな……)

「ケッ! ちょっと凄んだだけで逃げるなんて根性ねぇな……」

「……ありがとう、拓海ちゃん……」

「へへっ、あのままほっといたら美世がキレんじゃねーかってな」

「あたり……ちょっとエンジンブロー寸前だったかも」

拓海ちゃんが止めてくれなかったら、間違いなくあたしは手を出していただろう
でもそうなったら、下手したらあたしは殴り返されていたかもしれない……
強気で言ったけど本当は怖くて身体が震えていた

「……悪かったな、美世。アタシがコンビニ行こうって言わなきゃな」

「ううん、こんなこと誰も予想はできないよ」

責任を感じているのか、鼻の頭をかきながら拓海ちゃんが謝ってくれた
あたしは何事もなくすんだことにホッとしていたと同時に
感じていた不快感や恐怖、積もり積もった負の感情に疲れてしまって
すがるようにたった一つのことだけを考え続けていた


「見ろよ、美世。このバイクのカウル、カッコよくねぇか?」

拓海ちゃんは笑いながらさっき買ってきた雑誌の特集記事を見せてくれたけど
そのカウルはあたしの知っているものよりも、何センチか前に出すぎている感じがする
多分、普段見ている世界を二週ぐらいしたらこの領域が理解できるんだろう

「美世のバイクはこういうのやらねーよな」

「あはは……あたしはエンジンとかそっちにしか手を入れないから」

「ま、興味でたらいつでも言ってくれよ。アタシも手伝うから」

「そ、そうだね……」

コンビニから出たあたし達は再び事務所に向かって走り続ける
すっかり遅くなってしまったし、ちひろさんも心配してるだろうから
それに、今日はもう早く家に帰ってゆっくりしたかった

赤信号が見えたのでブレーキを踏んで車を止め、小さく息を吐く
一人でも頑張れるって安心させる為に強がってみたけれど
ドライバーのいない車はまともに動くことはできないみたいだ

「……ん、そういやPの行っている場所ってここだっけ?」

ふと、Pさんという言葉に反応して、拓海ちゃんが見ていた雑誌に目を向ける
それはツーリングの記事で、名物料理や観光スポットが書いてあるだけだったけど
あたしはその記事から目を離すことができなかった

(ここなら……高速で行けばそんなに時間もかからないかな……)

全ての出来事があたしを後押ししているように感じてきて
自分でも驚くぐらいに冷静に、綿密な計算を始める

(きっと迷惑に思うだろうな……)

でも、あたしはもう走り始めた気持ちを抑えきれそうになかった
遠目から顔を見るだけでも良い、たったそれだけのことで安心できるから

「……ねぇ、拓海ちゃん。ここってさ」

「ん?」

「たしか、美味しい料理とかあったよね……」


いったん中断、また深夜辺りに


■君は夏の夜の天女

夏の日差しが照りつける午後、俺は一人大きな家の前に立っていた
その家には豪勢に構えられた門と、中を囲んでいる長い塀がずっと続いている
本来ならこんな所に縁などないのだけど、今回は特別だ

表札をチラリと眺めて、目的地と間違っていないかを再度確認する
何度も来ているが毎回確認しておかないと不安になるくらい立派な家だ

門の脇のところに「小早川」と書かれた表札がかけられている
ここは俺の担当しているアイドル、小早川紗枝の家で間違いない

ひょんなことから俺は、アイドルになりたいと言う彼女に出会った
有名な地主の娘である紗枝が、何故そんなことを言いだしたのか
未だにわかっていないが、俺としても断る理由はない

二つ返事でオーケーして、親の承諾やら契約の手続きなんかをしにきた時に
ここを訪れたのが、初めて来たときだったと覚えている

あの時はあまりの家の大きさにガチガチに緊張してしまって
優しく出迎えてくれた紗枝の両親の前でミスばかりしてしまった
今ではなんとも思わなくなったが、この雰囲気に飲まれない人は少ないだろう

昔を少し思い出して一息ついた後、ネクタイを締め直して気持ちを入れ替える
今日は久々に紗枝の両親に合う予定だった。話は近況報告や、仕事の話など
大事な娘を預かっている以上は、こうした説明義務が生じるのはよくあることだ

あまりの暑さに脱いでしまったスーツの上着を着ようか少し考えたが
額に汗を浮かべてしまいそうなので、手に持ったスーツの上着はそのままに
俺はインターホンを押して、目的の人物が出てくれるのを待った


「遠いとこお疲れさんどす。Pはん」

出迎えてくれた紗枝に案内され、軽く挨拶をして玄関をくぐる
中にはいくらするのか見当もつかない大きな屏風が立てかけてあったり
相変わらず立派な佇まいで、立っているだけでも息苦しい

「遠慮せずに腰かけておくれやす」

先に玄関を上がった紗枝が正座をしながらこちらを見つめている
その顔は冷静だけど、どこか嬉しそうなそんな気がした
俺はなんとなくそんな紗枝を見ているのが楽しくて無言で眺めてしまう

「どうしはったんどすか?」

不思議そうに問いかける紗枝に、慌てて首を振って大丈夫だと返すが
俺はさっきからの紗枝の格好が気になっていたので素直に聞いてみる

「あぁ、これどすか……」

紗枝はさっきから向けられている俺の視線の意味に気付くと
着ていたセーラー服を見せるようにくるりと一回転する

「どうですやろ? Pはんの前で着るのは初めてでしたやろか?」

いつも着物の紗枝がセーラー服が着ているのは本当に珍しい
おそらくうちのプロダクションでも見た人はいないんじゃないだろうか?

「もう、そないに見られたら照れるわぁ……」

最初は嬉しそうにセーラー服を見せていた紗枝だったが
ずっと見ていると恥ずかしそうに頬を染めてしまい
今度は逆に俺が可笑しくなって笑ってしまっていた


小早川紗枝(15)
http://i.imgur.com/5fuuCwp.jpg


縁側に座りながら時間が経つのをボーッと待っている
紗枝の両親は急な用事が入ってしまったらしく
約束より早く着た俺は、時間を持て余すことになっていた

「すんまへんなぁ、お父はんもお母はんもなんや急に用事や言うて……」

元々そうかもしれないと聞いていたので「別にかまわないよ」と返すと紗枝は少しホッとしている
玄関を上がってから通された客間も、何畳あるかわからない程の広さで
落ち着かなくなった俺は、紗枝に頼んで縁側で待たせてもらうことにした

日差しは強いものの、日陰になっていて、吹き付ける風が心地いい
予定が狂ってしまったけど、別に急ぐ用事があったわけでもない
こうしてゆっくりできるのであれば、逆に良かったのかもしれない

「Pはん、お茶のおかわりはいかがどすか?」

隣には紗枝が俺のことを気にして先程から世話を焼いてくれている
しかし、お嬢様の紗枝がみずからあれこれしてくれることなど今までなかった
お茶を入れ替えたりしてくれるのは、お手伝いさんの仕事だったはずだ

「……今日はみな外に行ってはるんどす」

怪訝に思った俺の考えを見透かしたように、紗枝はそう答えた
一人っ子の紗枝を残して家を空けるなんていうのは本来なら問題だろう
俺は反射的に紗枝を見ながら「なんでだ?」と問いかけてしまっていた

「うちがそう言うたからどす。今日はうち一人で大丈夫やって……」

少し差し込んでいる強い日差しに、絹の様な髪をかき上げて反射させ
そっと、俺の手の上に自分の手を重ね合わせて軽く握りながら
とても15歳には見えない落ち着いた様子で、俺の方を見ながらはにかんでいる

合図とも取れるような仕草に、俺は瞬間的に紗枝の考えていたことを理解した
紗枝はこうして二人きりになることを望んでいたんだと……

「うちのこと、軽蔑しますやろか……?」

「別に」と短く答えると、俺は紗枝を自分の方に抱き寄せていた
突然のことに力が入っていなかったのもあったが
小柄な紗枝の身体は、力を入れると簡単に俺の腕の中に収まる
紗枝は短く「あっ」と言ったが、抵抗はせずに俺の袖を掴んでいた


アイドルであり、未成年、おまけに紗枝の実家だということを気にせず唇を重ねあう
一つでもバレればただじゃすまないことは承知している
それでも腕の中に感じる紗枝の温もりが、モラルの壁を破壊していく

紗枝とこういうことをしたのはいつからだっただろうか?
初めは何気ないことだったと思う。一緒に仕事をしていて
何かの拍子に身体が軽く触れ合ってしまった。その程度のことだ

あの時も同じように紗枝の赤く染まった顔と、控えめに掴まれた手
そんな微かに感じた気持ちに抑えがきかなくなって抱き寄せていた

「う……うぅん……Pはん……」

普段は後ろから俺のことを支えてくれ、他のみんなを助けているのに
こうして抱き寄せると、紗枝は一転して俺に甘えてくる

一度してしまうと、二度目は特別なことではなくなる
それがいいのか悪いのかは正直分からない
でも、紗枝も同じ気持ちでいてくれることにどこか安心感を持っていた

「んんっ……あぁ………」

グチュグチュと乱暴に紗枝の口内を自分の舌で掻き回しても紗枝は抵抗しない
そのまま胸に手を当てて軽く撫でると、小さく身体を震わせている
紅潮した頬に少し不安そうな表情。紗枝の全てが俺の興奮を駆り立てていく

息継ぎのために唇を離すと、溢れだした唾液が二人の間に糸を引き
その糸が切れる間もなく再び舌を絡めあい、紗枝を責めたてていく

俺は乱暴に、でも壊さないように細心の注意を払っていた
少しでも冷静な部分を残しておかないと俺はきっと紗枝のことを何度も求めてしまう
それは子供がお気に入りのものを、誰かに取られることを嫌がるような、そんな幼稚な感情だ

掬い上げるとサラサラと零れおちる髪に、シルクのように滑る肌
紗枝を作り上げている全てを感じれるように、触れた手を往復し続ける

歪んだ独占欲、例えこの感情がそうだとしても
考えるのは後にしよう。今だけは紗枝のことを考えていたい


俺は紗枝のことを抱えあげると、そのまま客間の方に移動していく
畳んでいた自分のスーツを足で広げて、その上に紗枝を下ろす
この上着なら汚れてもかまわないし、他に適当な敷物もなかった

「Pはん……ここで…しはるんやろか……?」

紗枝は起き上がることもせず、戸惑いや期待の入り混じったような瞳で俺を見ている
自分ではあまり意識はしていないようだが、先程の紗枝は自分の腕を俺の身体に回して
途中からは積極的に舌を絡めて唾液をすすり、何度も俺の唾液を呑み込んでいた

それだけでは飽き足らず、顔を舐めたり手や身体を何度も撫でられたりもした
こんなふうに二人きりで、身体を重ねあうのが楽しくて仕方ない。そんな感じだ
普段は奥手な紗枝らしくもない、けれど愛らしいその仕草は俺を動かすには充分だった

紗枝の問いに短く「あぁ」と答えると、紗枝は顔を真っ赤にして何も言わなくなった
しかし力無く横たわるその身体は、好きにすれば良いという意志表示をしているようで
俺は遠慮なくスカートをまくりあげると、紗枝の足を広げて顔を近づけていく

「Pはん……ど、どないしはるんどすか……」

戸惑う紗枝をそのままに、紗枝の腰を自分の顔の方に引き寄せる
下着をずらすと、俺の眼前には紗枝の秘裂が露わになっていた

「そ、そないなところ……Pはん、やめとくれやす……!」

何度も挿入はしているが、こうして明るい場所で目のあたりにするのは初めてだ
少し力を入れて抵抗する紗枝の足を抑えつけるとそのまま舌を這わせて舐め上げていく

「あ、あぁ……Pはんが……うちの……」

やめるつもりは無いことを感じ取ったのか、紗枝は手を顔に当てて恥辱に耐えている
しかしやめられるものではないし、やめるつもりもなかった

そのままピチャピチャと潤いを与えるように唾液を擦りこんでいくと
やがて俺の唾液とは違うヌルリとした液体が分泌され始めていった


「んんっ……Pはんがうちのを……舐めて……お、奥まで……あぁんっ!」

紗枝の下半身がもぞもぞと動きだして、小刻みに揺れている
俺は足を抑えつける手に少し力を込めて、そのまま舐めこむ
いつか、紗枝に奉仕してもらった時のように
大きく秘裂をなぞるように舌を這わせては、中に舌を突き込んでいく

「んあっ……P、Pはん、もう堪忍しとくれやす……そ、そないにされたら……ひあぁ!」

一瞬、紗枝が身体をのけ反らせるのがわかると
俺は指で紗枝の秘裂を指で押し広げながら、中を舌で掻き回す
蜜をすすりあげては、そのまま上にスライドさせて肉芽を舌先で転がす

「きゃうっ!? Pはん! そ、そこだけは……うち……」

軽くなぞっただけでも、紗枝はビクビクと身体を痙攣させて快感に抗えないでいる
荒々しい感情に任せて舐め続けると、トロリとした濃い愛液が溢れて口の周りを浸してくる

俺は熱に犯された頭で、紗枝の肉芽を舌だけじゃなく口で包むようにしゃぶり続ける
紗枝もまた、今すぐにもいきそうなのを堪えて、俺の頭を手で抑えながら快感に耐えている
しかし限界が近いのは丸分かりで、俺はとどめを刺すように少し強めに吸いついた

「んひぁ! Pはぁん! あ、あぁっ!」

紗枝は大きく俺の名を呼んで、ガクガクと小さな身体を震わせていた
俺はその姿に絶頂を迎えたのだと確信し、舌を秘裂から離し紗枝を見つめる

紗枝はどこを見ているのかわからないようなうつろな瞳をしていて
肩で大きく息をしながら、快感の余韻に身を任せている
力が入らなくなったのか、口元からツーっとよだれが垂れていて
キラキラと反射するそれは妙に艶めかしく、俺の目に写っていた


俺は再び紗枝の身体を抱き寄せて、唇重ねる
紗枝はその行為に安心したようにおずおずと舌を絡めてくる
先程絶頂を迎えたばかりでまだ意識はハッキリとしていないのだろう

「はぁ……はぁ……Pはん?」

不意に、問いかけてきた紗枝の頭を撫でながらどうしたと聞き返すと
紗枝は俺の身体を抱きしめる腕に力を込めて胸に顔をうずめる

「うち……かまへんから、Pはんの好きにしてもうてかまへんから……」

それだけ言うと、緊張の糸が切れたかのように力を抜いた
胸元にかかる紗枝の熱い吐息が、これから先の行為に対しての躊躇を一蹴し

俺は紗枝の身体を横向きにさせ、そのままにしててと言うと
紗枝はどうするか理解していないまま小さくコクリと頷く

そのまま紗枝の片足を持ち上げると
ズボンを下ろして露出させた自分のモノをあてがう

「Pはん……うち、横向きでええんですやろか……?」

不思議がる紗枝に、そのままでいいからと優しく伝える
今の紗枝に負担をかけないためには紗枝が動かない体位が良いだろう

かといって正常のままでは芸が無いような気がする
それなら紗枝が横向きになればどうだろう? そんな単純な好奇心からだった

俺は自分のモノを少しづつ紗枝の中に押し込んでいくと
既に奥までもがびっしょりと濡れきっていて
ヌチュリとした粘着音と共に、絶頂の余韻が残り
少しきつい紗枝の中を自分のモノで隙間なく満たしていく


時間切れ、寝ます
続きはまた明日

書き忘れてましたが他のアイドルとは別のPになります。


■君はフルスロットル その7

『燃えるね、真夏のチェイス!』

ファンの歓声に包まれて美世が大声で叫ぶと
その声に呼応するように、地鳴りのような歓声が耳に響き渡る
この盛り上がりを見るだけでも、今日のライブは大盛況のようだ

照りつける日差しをものともしない美世の元気な姿に
ファンだった人はより熱狂して、ファンでは無い人も大声で応援している
何度も見ているけど、ライブというのはいつ見ても良いもんだ

(にしても美世って、やっぱり凄いな……)

ステージの上で元気に走りまわって、歌う美世の姿は
普段ののほほんとした感じからは想像もできない程にしっかりとしていて
どうやったらあんな風に切り替わるのかいつも疑問に思う

(曲が終わる……そろそろ、交代の時間か……)

今日は他のアイドルとの共同イベントなので、美世が歌うのは一曲だけだ
一曲なんてのはすぐに終わってしまって、次のアイドルに交代する事になる
まだまだ彼女のステージを見てみたいと思う故に、少し惜しい感じがする

「さってと、迎える準備をしますか」

個人的には最後まで美世のステージを見ていたいと思うけど
プロデューサーとしての仕事があるのでそうもいかない

俺は帰ってくる彼女のために、タオルやドリンクなど必要なものを手にして
終わった後に邪魔にならないようすぐに引きあげられる準備を始めた


原田美世(20)
http://i.imgur.com/hb9uZCE.jpg


「ピットイン! ドリンクちょうだい、Pさん♪」

「お疲れ様。ほらっ」

やがて曲が終わり、歌い終わった美世が俺の方に小走りにかけよってきた
まだまだ夏の暑さが消えない午後の野外ステージは暑かったようで
額にうっすらと汗を滲ませては、手渡したドリンクを一気に飲み干している

「暑いからしっかりと水分補給しとかないとな」

「うん! ガソリンが無くなりそうだったもん!」

時々こういう表現に美世はガソリンで動いてるのか? と聞きそうになってしまうが
聞いたら目が座わらせて「冗談に決まってるじゃない!」と口を尖らせるので
あえてそれが自然かのようにふるまうのが癖になってしまっていた

目の前で給油……じゃなくて水分補給をしている美世はかなり喉が渇いていたようで
少しボーッと見ているだけであっという間にドリンクを一気飲みしてしまった

「ぷはぁ! 美味しかった!」

「さて、じゃあ俺達は控室に戻ろうか」

「うん……あっ、Pさん?」

「どうしたんだ?」

「今日のあたしのステージ、どうだったかな?」

良いことをして、褒められるのを期待する子供のように俺の顔を下から覗き込んでいる
どうもなにも会場の盛り上がりを見れば充分だと思うのだけれど
美世は今日のライブに満足しているらしく、感想を言わないと気が済まないみたいだ

「……良かったよ、流石は美世だな」

「ふふっ、じゃあゴールのお祝いにふたりでシャンパンかけたりしちゃう?」

「レースじゃないっての……」

そんなこんなでいつもと変わらない調子で二人で控室に向かい歩いて行く
それにしても、興奮が収まらずにはしゃぐ美世を見ていると
このライブの一番の成果は美世が楽しめた事なんだなと思える


控室に戻った俺達は、打ち合わせにリハーサル、そして本番と駆け抜けてきた反動か
備え付けのソファに座ると急に疲れがドッと押し寄せてきてしまい
帰る用意をしないといけないのだが、後回しにして少し休憩していた

「うーん、今日はよく寝れそうかも……」

隣で腰を下ろしている美世も、さっきまでの元気が少し影を潜めて
手を上にあげて身体を伸ばしたりと、ライブの疲労感は隠せないみたいだ
俺も少し疲れていたが、頑張ってくれた美世のためにもまだ仕事が残っている

「ふぅ……肩こっちゃった。Pさん、メンテナンス、してくれる?」

「了解、んじゃそこに寝転がってくれるか?」

「うん、ありがと、Pさん♪」

アイドルを始めた頃、仕事に疲れてぐったりとしてた美世にマッサージをしてあげると
身体がほぐれて凄く喜んでくれたので、これも毎回の日課になっている
どうせならちゃんした人にやって貰う方がいいと思うけど、そこまでじゃないらしい

しかし距離の近い間柄とはいえ、女の子の身体に触れるのはやはり恥ずかしい
最初の頃は柔らかく手に吸いついてくるような肌の感触に
否応無しに反応してしまう自分を抑えるのに必死だったものだ

「んっ……そこ、もうちょっと強くしても良いよ……」

そして意識はしていないんだろうけど、この反応に困る美世の声に
なんとも言えない気持ちになっていたのも記憶に新しい
まぁ、今はもっと凄い声を何度も聞いているので何とも思わないけど……

「にしても、俺のマッサージで気持ち良いもんなのかね……」

「あたし、いつもはメンテする側だけど、Pさんにメンテされるのは好きだよ……」

首を軽く捻ってこちらを向きながら、嬉しそうに美世が笑っている
この顔を見ていると、俺は何も言えなくなってしまうわけで……
いつかちひろさんに言われた通り、俺は美世に甘いんだろうと痛感する


美世に一通りマッサージした後、俺達は二人でテレビを見ていた
俺達の控室はこの後に使う予定は無いらしく、好きな時まで使ってても大丈夫だ
休憩がてら何をするわけでもなくライブの中継をずっと眺めていた

「このライブって凄く人気の子が一杯出てるんだね」

「ん? そうだな、イベントとしてはかなり大きいからさ」

「すごいな……これがアイドルか……」

美世はテレビに映るアイドル達を食い入るように見ては感嘆の声を漏らしている
自分もアイドルなのに他の子が気になって仕方ないようだ
人気に差はあったとしても、美世も負けてはいないと思うんだけど……

「……そう言えば、Pさんは気になるアイドルとかいるの?」

「気になるアイドルね……」

ふと、美世が珍しい質問を俺に問いかけてくる
付き合いは長いがこんなことを聞かれるのは初めてで素直に驚いていた
そんなことを聞いて美世はどうするつもりなんだろうか?

「うーん……やっぱり、島村卯月ちゃんとかかな」

「ふーん……」

軽く答えたつもりが、部屋の空気が一瞬で凍りついたのを感じる
チラリと見た美世の目は明らかに座っていて
その視線がこちらに向いているというだけで変な汗が溢れ出てくる

(しまった……まずいことを言ってしまった……)

乗せられてついつい言ってしまったが、その答えは美世にとって気に入らないもので
よくよく考えたら、プロデューサーとして美世と答えてやるのがベストだった

しかし今更そんな事を思っても取り消せるわけもなく
押し黙ったままジッとこちらを見つめている美世の視線に耐えるしかない

「そっか、Pさんって卯月ちゃんみたいな子が好みなんだね……」

「お、おい、どこに行くんだ。美世?」

おもむろにソファから立ち上がると、美世は一直線にドアの方に向かっていく
俺の言葉などまるで聞こえてないようなその仕草に
美世の機嫌はもの凄く悪いんだろうということがひしひしと伝わってくる

ガチャリ

「あ、あれっ……?」

冷たく響き渡る金属音に、美世が部屋の鍵をかけたのだと理解はしていたが
その意図は未だにわからず、こちらに向き直りジッとオレを見ている美世に
すがるような目で「何をしてるんですか?」と問いかけることしかできなかった


寝ます、とりあえずここまで


全身の力が抜け切ってしまい、壁にもたれかかって息を落ち着ける
雨の中を全速力で走って旅館に戻ってきた私は自分の部屋に戻ってきていた
びしょ濡れですれ違う人に凄く驚かれたけど、適当にごまかして濡れた服もそのままだ

「……くしゅん!」

髪の先からポタポタと雫が垂れていて、指先が自分でも驚くくらいに冷えていた
くしゃみと共にゾワッとした寒気が背筋を通り抜け、意識がボーッとしてくる
風邪をひいてしまったのかな? 早く身体を拭かないと……

窓から見える景色はもうすっかり日も落ちていて真暗だ
窓を打ちつける雨音だけでも今は大雨が降っているんだってわかる
こんな中を走ってきたんだなんて未だに信じられない

明日は仕事だから今日ここで風邪を引いてしまうわけにはいかないから
ノロノロと立ちあがり、置いてあったバスタオルで身体を拭く

(Pさん……大丈夫かしら……)

服を脱ぎ捨て、別の服に着替えて敷いてあった布団の上に寝転がる
一度寝転がってしまうと地面に縛りつけられたように身体が重い
火照りが残っていて、荒い息はまだ止まりそうにない

最後の力を振り絞って、布団の中に潜り込み目を閉じる
そう言えば、今日の美世ちゃんはどこか変だったな……

心なしか化粧の仕方も変わったように思えるし
いつも颯爽としているけど、今日はいつにも増してきびきびとしていて
と言っても、それはいい意味で前に会った時より綺麗になっている気がする

「なにか、あったのかな……?」

その理由は、電話していた時の美世ちゃんぐらいしか思い当たらない
私達の前で見せる明るさとはまた違った、安心しきったような顔していた
あれは、間違いなくアイドルじゃなくて一人の女の子の顔だ

「まさか……そんなことはないですよね……」

徐々に途切れていく意識の中で、浮かんだ考えを否定しておく
例えそうだったとしても、なにかを言うつもりにはなれない
それどころか、どこか羨ましいなと思いながら、意識は深い闇の底に引き込まれていった


「んっ……」

息苦しくなって、目が覚める。全身が鉛のように重くて身体は起こせない
喉と鼻が詰まってしまっていて上手く呼吸ができず、口を大きく開けて空気を吸い込む
でも喉を通り抜ける冷たさに驚いてしまって、思わず咳き込んでしまう

「ゴホッ……!」

「大丈夫ですか!?」

「えっ……!?」

不意打ちのような声に驚き、飛び起きて声のする方向に振り向く
すると、襖が開いて、その小さな隙間からPさんが顔を覗かせる

ここにいるということは、仕事が終わっているはずなのに
いつもと変わらないスーツ姿のままで、優しげな顔をしているPさんが
私の目にはやけにまぶしく見えた

「あっ、すいません。勝手に部屋に上がってしまって……」

「何度か電話をしたんですけど、折り返しがなくて」

「それにびしょ濡れになって戻ったって、従業員の人に聞きましたんで……」

まだ頭の中がボーッとしていて、言っていることが耳に入ってこない
私にとってPさんは年下だけど、いつも自信に満ち溢れていてとても頼りになる人だ

姿を見ただけで私は我知らずに胸の鼓動が高鳴り、頬のあたりが熱くなる
でもPさんは何も答えない私に困ったみたいに喋り続けていた

「部屋まできたら返事がなくて鍵も空いていたんで、悪いと思いましたけど入ってみたら三船さんが辛そうに寝てて……」

「大丈夫ですか? かなり熱があったみたいですけど……?」

Pさんは袋からスポーツドリンクを取り出すと、寝ている私のそばまできて差し出してくれる
よく冷えたペットボトルで熱くなった手が冷やされるのが凄く気持ちいい
ここでようやく状況を理解したけど、私は高熱にうなされていたみたいだ

あんな雨の中を走ってろくに身体も拭かず寝てしまっていたのだから、風邪を引いて当然だ
スポーツドリンクを少し飲んで、感傷的に笑いながら馬鹿な自分の行動を後悔していた
私、Pさんに支えてもらってばかりですよね……私だって大人なのにな……


やっぱり私みたいに頼りない人間は、アイドルとしてふさわしくない……
私なりに思い悩み、暗い考えが頭の中を支配していたけど
それでも、こうしてPさんと一緒にいると心が温かくなって癒されてしまう

「……心配してくれたんですね……Pさんはやっぱり優しいです……」

「あははっ、そんな、大げさですよ」

スポーツドリンクで喉を潤し、なんとか作りだした笑顔をPさんに向けると
Pさんは照れたように視線を逸らす。そして、なにかを見つけ驚いていた

そこには部屋の隅に脱ぎ捨てられたワンピースや下着なんかが散らかっていて
全部、私が部屋に入った時に脱ぎ捨ててそのままにしてしまっていたものだ
自分のだらしなさを見られてしまって、私の体温が一気に上昇してしまう

「あっ……え、え、えっと、その……これは、違うんです!!」

慌てて立ち上がろうとすると、腕に力が入らなくてバランスを崩してしまい
視界が横に傾くのと同時にガッシリとしたなにかに抱き寄せられる
Pさんが咄嗟に私のことを支えてくれたみたいで、地面にぶつかることはなかったみたいだ

「だ、大丈夫ですか?」

「……あっ……す、すみません……その……あ、汗が……」

「あぁ、かまいませんよ。服の方は気にしないで下さい。その、見ないようにはしますんで……」

「そ、そ、そういうわけには……!!」

「いやいや、とにかく今はゆっくり休んで下さい。結構酷い風邪ですよ?」

風邪の影響は思ったより酷くて、私を寝かせようとするPさんに抵抗できなかった
Pさんの腕の感触が消えてしまったことに寂しさを覚えてしまったけど
指摘された通り、これ以上迷惑をかけ続けるわけにもいかないので大人しくしておかないと……

「まだ、熱は下がりませんね……」

(こんなに……近くに……)

私を覗きこみながらおでこに手を当てられて、気がつけばPさんの顔が目の前にある
恥ずかしさと戸惑いで、私は半ば反射的に身をよじってしまっていた

「……これだと、明日の撮影はお休みした方がいいですね」

「えっ……そんな、私、大丈夫ですから!」

「気にせず明日はゆっくり休んで下さい。一日くらいはなんとかなりますし」

「……で、でも……みなさんにご迷惑が……」

「体調が悪くなるのはよくあることなんで、それくらいみんな慣れてますよ」

「とりあえず、一日休んで様子を見ましょう。無理してもいいことないですよ?」

突然告げられたPさんの言葉に思わず身体を起こして否定しようとするけど
あっさりと再び寝かされてしまって、説き伏せられてしまう
明日に良くなる保証なんてどこにもないし、仕事場で倒れてしまったら余計に迷惑がかかる

そんな当たり前のことですら忘れてしまい焦る自分が恥ずかしかった
慣れているなんて言っても、Pさんが謝って回らないといけないんですよね?
自分せいでそんなことをさせてしまうことに思わず唇を噛みしめてしまう


「すみません。オレがもうちょっと早く迎えに行けば濡れることもなかったんでしょうけど……」

「……謝らないで下さい……私のせいですから……」

でもいつものように私を責めることをしないPさんは、逆に謝ってくれる
美世ちゃんの誘いも断ったし、ここまで走って帰ってきたのも全部私の気まぐれで
今日だけは、その優しさに申し訳なくなって押し黙ってしまう

「……そうだ、お腹減ってませんか?」

「お、お腹……ですか?」

「えぇ、色々買ってきたんですよ。食べれそうなら遠慮せずにどうぞ」

暗くなってしまった空気を一蹴するように、Pさんがパンと手を叩いて奥にあった袋を持ってくると
その袋の中からゼリーやパンなど、病人でも食べやすいものが沢山出てくる
さっきまでは喉が痛くて食欲は沸かなかったけど、食べ物を見るとお腹が急に減ってくる

いつからか風邪をひいてもずっと一人で、こうして誰かに看病されるとは思ってもみなかったけど
でも、こうして身体の心配をされたり食事のことまで見てもらうとなんだか照れくさい
まるで子供の時に戻った時みたいだけど、Pさんにして貰えるならと嬉しくも思えていた

「今は食欲はわかないかもしれませんけど、なにかほしいものはありますか?」

「えっと、ゼリーなら……すみません」

「謝らなくて良いですよ。はい、どうぞ」

「…………」

「……どうしたんですか? やっぱり別のにします?」

「あのPさん……食べさせ……あ、なんでもないです……」

思わず口から出てしまった言葉に自分で驚いてしまい、慌てて飲み込む
どんどんその優しさに溺れてしまっていて、とんでもないお願いをするところだった
子供の頃を思い出していく内に、自然と食べさせてくれるのかなって期待してしまうなんて……

「ははっ、しんどいなら食べさせますけど……」

「も、もう……Pさん……そんなに子供じゃないですよっ」

「ですよね。まぁ、焦らずゆっくり食べてくださいね」

「あ……あの、やっぱりお願いできますか……?」

風邪のせいで顔が熱くなっているんじゃないってわかるくらい、恥ずかしさが込み上げてくる
大胆なことをを言っている自覚があるだけに、顔を直視できなくて目を逸らしてしまう
そんな私が面白かったのか、Pさんは小さく笑いながらゼリーの蓋を剥がし始めてくれた


「はい、どうぞ」

「あ、あの、あーんとかはあり……ますか?」

「えっ!? 言った方がいいですか!?」

「あっ、いえ……い、言うのかなって……」

「別にかまいませんけど……じゃあ、あーん」

「は、はい……」

遠慮がちに運ばれてくるスプーンを口に含むと、口の中に冷たい感触が広がってくる
鼻が詰まってて、味はよく分からないけど心なしか美味しく感じられたのは気のせいじゃないと思う

そのままゆっくりと咀嚼して呑み込み、再び運ばれてくるスプーンを口に含む
いい歳して私はなにをしてもらってるんだろう? と、問に思ったけれど
今は余計なことは考えずに甘えてもいいんですよね……?

「これで終わりです。食べきれたみたいで少し安心しました」

「これ……だいぶ……恥ずかしいですね……」

「まぁ、食べさせてもらうなんて中々ないですからね」

「あまり言わないで下さい……ドキドキするので……あの……その……」

「ははっ、少し食べたなら後はしっかりと寝て早く治してくださいね」

Pさんに促されて再び身体を寝かせると、布団をかけ直して、冷却シートをおでこに貼ってくれた
過剰なまでにあれこれしてくれていることも、ここまでくれば流石に慣れてきたけど
それでも恥ずかしさは拭えなくて、布団を深く被って照れる顔を隠してしまっていた


「すみません……ここまで看病してもらって……」

「無理はさせられませんしね。三船さんも昔はご両親に看病して貰ったんじゃないですか?」

「そうですね。風邪をひいたら凄く心配されました……」

「大事な娘が風邪をひいたらそりゃ心配しますよ」

「それが、今でも親が心配性で……困っているんです……。私、もう大人なのに……」

「親にとってはいつまでたっても娘は子供ってことですよ」

最近、心配されるというのは『良い人はいないのか?』といった将来のことばかりで
それはとても言えそうにないので、悟られないように苦笑いで誤魔化す

Pさんに出会ってアイドルになって、止まっていた時間が進むように前に進むことはできたけど
逆に進むことができなくなったこともあって、親の期待に答えることは凄く難しいんだろうな……

「さってと、寝るのを邪魔しちゃ悪いですから、オレはそろそろ行きますね」

「Pさん……その、もう少しだけ……いてくれませんか?」

「でも、オレがいたら落ち着かなくて眠れないと思いますけど」

「いいんですよ……いてくれた方が落ち着きますから」

「はぁ……だったら、邪魔しないように黙ってますね」

「黙ってるのもいいですけど……。Pさん、もっとお話しましょ」

「……わかりました。眠くなるまで付き合いますよ」

普段は言えない我儘も、自然と口に出すことができていた
だって、Pさんが嫌だって言わないし、優しく見守ってくれるから
私はいつだって自分でも驚くくらい大胆なことができてしまうんですよ?

こうして二人きりで向き合っていると私生活の事、お仕事の事、話したいことは尽きなくて
もう数時間くらいは話したんじゃないかと思えた頃、私はいつの間にか眠りについてしまっていた


「んっ……」

今日二度目の目覚めに、鈍くなってしまった思考を戻すように頭を振る
周りを見渡すと、辺りはすっかりと暗くなってしまっていて
窓から差し込む微かな光でなんとか部屋の輪郭が見えるほどだ

手元に置いてあった携帯電話で時間を確認すると、もう深夜になっていて
ここに帰ってきたのは6時頃だから、ほとんど寝て過ごしていたことになる

「……ふぅ」

ずっと寝ていたお陰で、全身を支配していた重い感じは消え失せて、羽でも生えたかのように身体が軽い
まだ本調子とはいかないけれど、少なくとも風邪はかなりマシになったみたいだ
これも色々気を使ってくれて、看病してくれたPさんのおかげなんだろうな

「あれ……?」

ふと、寝る前までそばにいてくれたPさんがいなくなっていることに気づく
ざっと部屋を見渡してみても、どこにも姿は見当たらない
資格になっている襖の奥をみてもいなくて、少なくともこの部屋の中にはいないみたいだ

「…………」

多分、私が寝たのを確認して部屋に帰っただけ……
眠る私を見てても仕方ないだろうし、Pさんも寝ないといけないから……

だけど、さっきまで独占できていた時間の名残が残ってしまっていて
暗い部屋に一人いるだけで、例えようの無い孤独感が込み上げてくる
今までは一人でずっと頑張ってきたけれど、今日は色々ありすぎた

やがてその怖さに耐えきれなくなってしまい、慌てて携帯を手に取り電話をかける
でも、数コール待っても反応はなくて、鳴りやまないコール音に身体の力が抜けていくのを感じる


「……どうしたんですか、三船さん?」

「えっ……!?」

力無く座りこんでいると、ふいに肩に手を置かれてかけられた声に身体が跳ねあがる
振り返るとそこには、さっきとは別の袋を持ったPさんが立っていて
今の状況が理解できないのか、心配そうな顔で私を見ている

「いきなり電話がきたんで、ビックリしちゃいましたよ」

そっか、近くにいたのに気付いてなかったんですね。私……
泣いている子供をあやすように、Pさんはかがんで視線を合わせて笑顔を向けてくれている
少し息を切らせているのを見ると急いできてくれたんだろう

多分、マナーモードにしていた携帯の振動音や部屋に入ってくる音
そんなハッキリ分かるような音にすら気付かないほどに動揺していたなんて……

「あぁ、これですか? また何か欲しいものがあるかなって、買いだしに行ってきたんですよ」

そう言って、袋の中から飲み物や飴なんかが一杯出てくる
深夜なのに寝ることもしないで、ずっと心配してくれてたんですね……

感じていた孤独から解放された安心で、大声をあげて泣きそうだったけど
潤んだ瞳から涙が零れ落ちるよりも先に私はPさんに飛びついていた

「えっ!? み、三船さん……?」

「お、お願いですから……! もう一人にしないで下さい!!」

「え、えっと……は、はい……」

ずっと隠してきたけれど、落ち着いたら少しづつでも聞いてもらおう
昔のことやこれからのこと、話したいことは沢山ありますから
でも、後少しだけこうして一緒に居させてもらっていいですか?


初めて会った日から少しづつ近づいて行く距離が嬉しくて
だからこそ、少しでも離れてしまうのが怖くて、そばにいれるだけで満足しておこうと思ってた
それが今はお互いの吐息の音が聞こえるほど近い距離にいる
私はもう、この人から離れることはできないんだろうなと、心のどこかで思っていた

「……あの、三船さん。大丈夫ですか?」

自分から飛びついておいて、恥ずかしさで言葉が出ずに小さく頷いて返事をする
Pさんも流石に驚いたのかさっきから苦笑いばかりで、どうしたらいいか分からないみたいだ
今引き離されるのと泣いてしまうだろうから、私は精一杯の力でしがみついていた

「その……少しの間……Pさん……」

「は、はい!? な、な、なんでしょう?」

徐々に私の顔が近づいていって、やがて互いの唇が重なり合う
初めて触れるその人の感触に、私の身体は徐々に熱を帯びていった


「い、色々見えてませんか……? 大丈夫でしょうか……」

「え、えぇ……大丈夫ですよ。ちゃんと隠れてますから」

少し間が空いたせいか、自分自身の信じられない行動に頭が追いつかない
男の人と女の人がキスして抱き合ってたら、その後にすることは決まっているわけで
身体を覆うわずかなバスタオルで、なるべく素肌が見えないようにと身体を小さくしていた

あの後、キスをする勢いが止まらなくて、そういう空気になってしまったけど
身体に汗をかいていたので、先にシャワーを浴びたかった
だけど離れるのは嫌だったから、こうして二人でお風呂にきている

「でも、恥ずかしいなら二人で浴びなくても……」

「あの……1人だと不安ですし……Pさんそばにいてくださいね……」

たかがシャワーを浴びるだけなのに、私はなにを不安がっているんだろう……
Pさんがそばにいてくれるのはとても嬉しいけど、その視線は明らかに私の身体を見ていて
抱きついた時よりも顔が赤いのが自分でも分かる。目元までも染まってるみたいだ

でも私自身も人のことは言えなくて、さっきからPさんの一点が気になってチラチラと見てしまう
それは興奮してそそり立っていて、見えないように隠していても隠し切れていない

「Pさん……あの、出しておいた方が良いんでしょうか……?」

「はぁ!? な、何を言ってるんですか!?」

「こ、声が大きいです……! あの、こういうのは……処理しないと大変だって……」

「いや、そうなんですけど……」

「私で良ければ……その、お手伝い……させてください」

「お、お手伝い!?」

顔は無理矢理笑顔を作っていたけど、声はわずかに震えてしまっていた
まだ言われたことを理解していないPさんに、次に言いたいことも言えない内に
手を取り、二人でバスルームの中に転がり込む


「三船さん、これって……」

「これでも私、Pさんよりお姉さんですから……」

先にお湯を溜めておいたからバスルームに充満した湯気がしっとりとまとわりつく
今は裸でも寒くないけど、湿気を帯びた空気を吸い込むだけでも頭の中が少し落ち着いてくる

冷静に考えると、さっきから言っていることが、支離滅裂なのは自分でも分かっているけど
今は何も考えずに喜んでもらうことだけをしようと、濡れた髪をかき上げ決意を固める

「えっと……失礼しますね……」

まるで自分に言い聞かせるようにそう言って、棒立ちになっているPさんの足元に膝をつく
大浴場とは違って部屋にあるバスルームは簡素なもので、二人だとかなり狭い
私はPさんの腰に巻かれているタオルを掴むと、一気に引っ張った

すると、バネ仕掛けの玩具のようにビンと私の目の前にPさんのモノが飛び込んできて
角度も丁度、その先端が私の鼻先スレスレの距離まで突きつけられていた
独特の匂いが鼻腔を擽り、吸い込む度に病気にでも犯されたみたいに身体が反応してしまっていた

「こ、れ……Pさんの……」

「そ、そ、そうですけど! いや、普段からこんなにしてるわけじゃないですよ!?」

慌ててるPさんの言葉も、目の前に見せつけられているモノの前では説得力が無くて
静めて欲しいと言っているかのように、ビクビクと脈を打っている
それが直視できなくて視線を逸らしながら、私は固まって動けなくなってしまっていた

「あの、三船さん?」

そんな私を心配したのか、Pさんが声をかけてくれるけど言葉を返すことができない
ずっと憧れてた人のモノが眼前に迫っているというのに何もできない私を見かねたのか
慌ててタオルを掴んで隠そうとするPさんの手を、私は反射的に掴んで止めさせる

「駄目です! たまには私から……Pさんに……!」

「うわっ……」

やっと戻ってきた自分の意志が消えてしまわない内に私はPさんの肉棒を握りしめていた
触れてみるとそれは凄く熱くて、私の手に喜んでくれているようにブルッと大きく震える
その反応に、Pさんが私なんかに感じてくれているのが嬉しくて、握りしめた手を前後し始めていた


「これで……大丈夫ですか……?」

「ち、ちょっと待って下さい! あ、いや、ホントにまずいですって!」

Pさんは身を軽くよじって逃げようとするけど、私の手がそれを阻止していた
普段の私とは違う雰囲気に戸惑って上手く拒否できないんだろうな……

「私はPさんのお手伝いをしてるだけですから……な、なにかしてあげたいって!」

肉棒をしごいているのは私なのに、なにかしてあげたいというのは変な話だ
変だけど、もっと私を感じて欲しくてスライドする手が止まらない

「えっと、じゃあ、そのもう少し優しく……」

その言葉が聞こえた時、互いにハッとしたように目があってしまう
とうとう言ってしまったという顔をしているPさんの顔を見た瞬間
身体の奥底がジュンとして、その言葉だけで少し感じてしまっていた

「優しく……こう、でしょうか?」

てっきり無理矢理止められるものだと思っていただけに、安心して無駄な力が抜けていく
先の近くを柔らかく握ると、無理せず一定のリズムでしごき上げていく
ニュチャ……ニュク……とても口で表せそうにない音が響き渡って
暴れる肉棒を窘めるように手が滑る度、逆上せてしてまいそうなPさんの匂いがより強烈に香ってくる

「いい、ですか? Pさん?」

しごきながら、変なことをしてしまわないようにPさんの顔を見上げ続けている
せつなそうな顔をして身体を震わせくれてるなら、今は気持ちよく感じてくれているんですよね?
その姿や漂ってくる香りに、私はボーッと何か酔ってしまったようになってしまっていた

「き、気持ち良いですけど……そろそろ……!」

Pさんが逃げるように腰を引こうとすると、私はそうさせないように握っていた手に力を込める
「えっ!?」と大きな戸惑いな声が叫ぶと同時に、握りしめていた肉棒の先から
溜めこんでいた熱い迸りが一気に噴出していく様子がスローモーションで見える


それはちょうど、私がPさんの肉棒の先に視線を合わせたと同時だったと思う
ビュク! ビュルルッ! と音が聞こえてきそうなくらいの勢いで
弾丸のように白い炎が真っ直ぐに私の顔に飛んできていた

「きゃっ!?」

それが至近距離にいた私の顔に命中するのは当たり前のことだった
一度目の噴射に目を丸くした私に対して、追い打ちをかけるように二度目が発射される

間欠泉のように断続的に噴き出される精液が、頬や瞼、鼻の頭や唇と至る所に降り注いでいく
その勢いに驚いて目をそむけると、今度は髪の毛にまで何度も纏わりつくように噴射されて
顔や頭が牡丹雪のような白濁に染められてしまっていった

「んっ……Pさん……」

「ご、ごめんなさい!? 大丈夫ですか!?」

いきなり顔に射精されて頭が真っ白になってしまい、茫然自失の私
目を開けようとすると精液が垂れてしまって、開けることができなくて
口を開こうとすると、なだれ込むように口の中に入りこんでくる

目の上の精液を手で拭い、目を開けるとPさんが酷く慌てていた
それもそうだ、自分の担当するアイドルと一緒にお風呂に入って
あまつさえ顔に精液をかけてしまったんだから、動揺するのは当然だと思う

けれど、ある程度まで高まってしまった気持ちは私にも制御できなかった
Pさんもきっと、同じように止めようにも止められなかったんですよね……

「も、もう……Pさん……こんなに……」

「あんなにされたらそうなりますって……」

うなされるように、私は小さく呟いて唇をわななかせていた
こうして、私の手でPさんがこんなにも精液を出してくれて……
それがわかると私は衝動に身を任せて、Pさんの肉棒に吸いついていた

「み、三船さん!?」

驚いて、仰天したようにビクリと跳ねあがるPさんの肉棒
私は顔をぶつけるくらいの勢いで、呑み込むようにそれを口に含んだ
Pさんは思わず腰を引こうとするけど、私は腰に手を回してしがみついていた


「んんっ!? んちゅ……」

喉の奥を貫かれるくらいの大きさに、最初は驚いてしまったけど
離さないようにぎこちなく舌を必死に動かし続ける

Pさんの暴れる肉棒を吸い上げ、舌を絡め続け
わずかに残った精液を舐めとり、尿道口に残った精液も吸いだしていく

「ど、どうしてここまでするんですか……?」

「んっ……だって、こんなに出されて……私の顔、精液だらけにされて……」

「それに……こ、こんなに近くにPさんのが……」

「そうなんですけど……」

「……今日はいつもの私と違う気がするんです……。だから、Pさんにいつものお返し……しちゃいます」

いったん肉棒を吐き出して、心の奥につかえていた思いを絞り出していく
その間も、離れることを恐れるように唾液に濡れた肉棒は握ったままで

いつもは言えなかったことを少しだけでも吐き出せたせいか、驚くほど気持ちは軽くなって
言いたいことだけ言うと、また猛然と肉棒に吸い付き始めた。もう今は恥ずかしさや怖さはなくなっていて
吹っ切れたように濡れた髪を揺らしながら、顔を前後させて抽送を繰り返していく

「んっ、んくっ……んちゅっ」

こんなことはするのは実は初めてだけど、次第に刺激する方法が理解できてきて、リズムを刻むことができた
浅ましく舌を滑らせては、肉の幹を擦りあげて、垂れそうになる唾液を零さないように吸い上げて締め付ける
自分のしている行為に目がトロンとしてきて、今の私は凄くだらしない顔をしているんだろう

口が肉棒で塞がれている分、上手く呼吸が出来ずに鼻だけで息をするのも苦しくなってくる
私は「手伝う」と言って手でPさんに奉仕をして射精をさせてあげることができた
そこまでなら当初の予定通りそうだったんだろうけど……

今は違う。私の欲望、欲情が口での奉仕を続けさせている
乾いた喉を潤すように、寂しさで空いた隙間を埋めるように
Pさんの肉棒に吸い付き、貪り尽くしていた


やがて、少し力を失っていたPさんの肉棒がまた荒々しく立ち上がり始める
あれだけ精液を放ったのに、少しも硬さや大きさを失っていなくて
新たな疼きを静めることを求めるように、私の口の中でさらに膨張を続けていた

「はぁ……はぁ……また、大きくなってます……」

再び肉棒から口を話して、顔を上げるとPさんは困ったように笑っていた
嫌じゃないってことは……まだ、続けててもいいんですよね……?

「あっ、ちょっと待って下さい三船さん」

「えっ……ど、どうしたんですか……?」

「タオルがはだけてきてますよ……」

手とは違って身体を動かす抽送だったせいか、いつのまにか身体に巻いたバスタオルが解けてきていた
胸元はすっかりとはだけていて、Pさんから見ると私の胸は丸見えになってしまっている
思わず小さな悲鳴をあげて、手でバスタオルを抑えて隠すけど、もう随分前から見られてしまってるだろう

「えっと、あっち向いてるんでその間に直して下さい」

「わ、私だって……恥ずかしがってばかりじゃ……えいっ!」

気を使ってくれたPさんの言葉を無視して、勢いよくバスタオルを取り払って立ち上がる
Pさんの目の前で私は頭からつま先まで、一糸まとわず露わになった

しかし、勢いよく立ちあがったのはいいものの、呆然と私の身体を眺めるPさんに驚いて
思わず両手で胸と大事な部分だけを隠してしまっていた

「あの……Pさん……その……視線が……気になります」

「えっ!? あ、あぁ、済みません」

「あっ……見てはいけないってわけじゃなくて……」

「む、難しい注文しますね……じゃあ、こうしましょうか」

「えっ……こ、こんな格好……!?」

Pさんはそう言うと、私の肩を掴んで背を向けさせる。これだと前は見えないから大丈夫かなと思った矢先
そのままバスタブの縁に手をついて、ヒップを突きだすような格好に誘導される
ある意味前を見られるより恥ずかしい格好に顔が一気に紅潮する。これだと、私のが全部見えて……


今日一日で衝撃的なことは沢山あった。寂しさのあまりPさんに抱きついてしまって
そのまま二人でバスルームに入って、手や口でPさんのモノに奉仕を続けて
そして、今はこうしてPさんの前に一糸まとわぬ姿で秘裂を晒している

この格好にされるっていうことは……私、今からPさんに……
一生できそうにない心の準備に、心臓の鼓動が聞こえそうなほどバクバクと高鳴っていた

私が大人げなくうろたえている間に、Pさんが私のお尻を掴んで開くと、その間にある秘裂へと肉棒をあてがっていく
自分でもいつ濡れたか分からない程に湿った淫部に、クチュリとその先端を埋め込まれた瞬間
ゾクゾクと背筋を快感が駆け抜けて、身体が否応なしに反応してしまっていた

「三船さん……本当に、良いんですか?」

「あうぅ……こ、ここまで来て止めるなんて、言わないで下さい……」

自分の身体に自信があるわけじゃないけど、手や下手な口でするよりも
男の人にとってはココでする方が気持ち良いんですよね……?
私ので気持ち良くなって貰えるなら、私にはこれくらいしかできませんし……

少しだけ、Pさんの先端が私の中に入りこんでいるのを感じる
さっきまで口にくわえていただけに、それが私の中に入りきるかは不安だった
そんな私の気持ちを感じ取ったのか、さっきからPさんも動こうとはしない

「え、遠慮しないで下さい……Pさんの好きなようにして下さって……かまいませんから」

「……わかりました。痛かったら言って下さいね」

Pさんがそう言って、お尻を掴む手に力が入ったかと思うと、ヌチュリと何かが私の中を満たしていった
内臓が擦りつけられるような感覚に身震いしてしまい、反射的に身をよじってしまったけど
がっしりとPさんの手に腰を掴まれていて、挿入から逃げることができない

「ひぅっ!? あ、あぁぁぁっ!!」

丁度、角度的にもいい位置にあったのか、Pさんの肉棒が一気に膣奥まで埋まっていく
その大きいものは私の中を無理矢理かきわけていって、奥の奥、全て埋まりきって突き上げる
膣内が擦り上げられるだけで全身の力が抜けて崩れ落ちそうな快感に、思わず悲鳴が上がってしまった

「ひんっ……Pさん、き、急になんて……」

うろたえたまま潤んだ瞳でPさんの方に振り返ると、Pさんはバツが悪そうに謝ってくれていた
けれど、私の膣内には、根元までずっぽりとPさんの肉棒が埋没してしまっていて
さっきみたいに擦り上げられると、どうなってしまうんだろうと恐ろしくなっていた


考えたところで、もうPさんのが私の中に挿入ってしまっているんですよね……
Pさんの肉棒は私の膣内をみっちりと占領してしまって、そのままでも苦しいくらいだ
それでも、Pさんが中にいると感じられると、心は不思議と満たされていった

(これが……Pさんの……)

口でくわえた時もそうだったみたいに、驚きと快感の波がひっきりなしに押し寄せてくる
でも今は口でくわえていた時とは別次元で、私の中を狭いと主張をしているようなPさんの肉棒が
膨張を続けてミチミチと私の中を広げていく感じは、衝撃と例えた方があっていると思う

ふと、脳裏にPさんの姿が蘇ってくる。初めて出会った頃はこんなことをするとは思っていなかった
あの頃の私は自信がなくて、いつもPさんの後ろにくっついていっていたけど
今はPさんとなら、自分を隠さずに話をできるようなった

いつもそばにいてくれて、気づかない内に支えてくれて
それに気づけた時、自然と惹かれていたんだと思う

「あうぅん!! Pさんの、大きすぎて……ぜ、全部奥まで……」

「後少しですから、我慢してください。美優さん」

「んんっ! ず、ずるいです……こんな時だけ、名前で呼ぶなんて……!!」

膣内全体を擦りあげられて、身体中が痺れて力が入らない
立っていられないくらいの快楽の連続で苦しくて悲鳴を上げる

それでも名前で呼ばれるだけで、何もかもそれが悦びに変わっていった
ズリュッと、Pさんが動いて先端を残して引き抜かれると
もう一度、奥まで貫いて掻き回して欲しいと腰がくねってPさんを求めている

そのままパンと大きな音がバスルームに響き渡り、再び膣奥まで挿入される
すっかりPさんの肉棒に馴染んでしまった私の中は、さっきまでの異物感や苦しさは消え失せて
この人のものを受け入れるためだけの穴に作り替えられたかのように、快感しか感じられない

「美優さんの中……」

「わ、私の中……気持ち良く、ないですか……?」

「ぎ、逆ですよ!」

ゆっくりと引っ張り出されては、重々しく突き込まれ。粘着音と共にお尻がプルリと震える
自分では意識してないのに、引き抜かれる度に名残惜しそうに膣内がひくついて
再び埋没されると、歓喜したように纏わりつき収縮を繰り返しているのがわかる

「あ、あぁっ……Pさんのが挿入ってきて、私の中いっぱいに……!」

はしたない声をPさんに聞かれるのも止めることができずに、悲鳴を上げ続ける
やがてピストンの速度が上がっていってパンパンと派手な音を響かせて
お尻が波打つその振動ですら、体中を掻き毟りたくなるような痺れに変わっていく


もう荒々しい快感を求める声ですらうわ言のように掠れてしまって
それくらい、私の中に埋まり続けるPさんのものは甘美なものだった
みっちりと中を圧迫して、それでいて優しく全体を擦りあげてくる

突き込まれれば頭の中が真っ白になってしまって声が漏れ
引き抜かれると、急激に込み上げてくる寂しさに胸が押しつぶされそうになる
その感情の波がどんどん私の身体をいやらしく、淫靡なものだと認識させていった

「あうっ!? Pさん、好きです! 大好きなんです!!」

勢いに任せて自分でもとんでもないことを口走っている自覚はあるけど
今は理性的に考えることができずに、感情に任せて全身をPさんに委ねていた
しかし、この甘い時間にももうそろそろ終わりが近づいてきたことを感じる

何度か迎えた絶頂の中、一際大きい波が私の奥底から湧き上がってくるのを感じる
ビクビクと震えるPさんの肉棒の感触も、Pさんもきっと限界が近いんだろうと教えてくれた

「P、Pさん……私、もう駄目です! こ、これ以上されるとっ!!」

「くっ……美優さん、力抜いてて下さいね!」

「は、はい……あぁぁっ!!」

ビクビクと身体が震えあがったと思うと、全身が激しく痙攣する
私の身体はもう絶頂が来るのを待つだけになってしまっていた

でも、Pさんは挿入をやめてくれなくて
その激しさに止めどなく溢れ出てくる愛液や、汗が周りに飛び散っていく

そして、その時は案外呆気なく来てしまって、私の奥深くに突きいれた時
中を掻き回す肉棒が今までにない程に膨張していることに、押し広げられる感触で気付く
でも、Pさんは最後の最後で腰を引き私の中からそれを引き抜いてしまった

「いやっ! ぬ、抜かないで……中に下さい……!!」

「そ、それは駄目ですよ……!!」

非難の声はあげても、身体はもう言うことは聞かなくて、そのままヘナヘナと床に座りこみ
そのまま力無くバスタブの縁にもたれかかって、だらしなく口を開けて荒い息を繰り返す
最後の最後に引き抜かれた悲しさに、私は蕩けた瞳でPさんのすることを眺めていた


「えっ……きゃっ!?」

Pさんはそのまま肉棒の先端を私の身体に固定すると容赦なくその中身を私にかけていった
さっきは顔にかけられて、今度は胸を集中的に射精され、白濁の粘液がまとわりついて行く

「や、やぁぁ……駄目です……かけられたら私……んんっ!」

もう露出した全身を隠すことさえせずに、Pさんの弾ける精液を体全体で受け止めていく
ツンと鼻をつく独特の匂いが漂っていき、一際大きな絶頂が身体中を駆け巡っていく
今まで感じた事もないような快楽に、私は糸の切れた人形のように力無く倒れ、ビクビクと身体を震わせていた

そんな私に遠慮することなく、Pさんの射精は続いていく
放たれる白い欲望の炎は私の身を焦がしていき、乾いていた欲望が満たされるのを感じる
私は無意識に胸の上にへばりついた精液を手で掬い、ゆっくりと咀嚼していた

「はぁ……はぁ……す、すいません! 大丈夫ですか、三船さん?」

「んっ……大丈夫です。少し、驚きましたけど……」

「立てますか?」

「Pさん……」

「えっ……」

「……美優でお願いできません……か?」

「……わかりました、美優さん。立てますか?」

「はい……!」

Pさんの手を取り、立ち上がると同時にそのまま身体をPさんに預ける
きっと、夜が空ければまたアイドルとプロデューサーに戻らないといけないんですよね?
でも、今だけはこうしていられるのなら、私はきっとまた前に進むことができますから……


寝ます、今日はここまで


■君はフルスロットル その9

手に持ったアイドル特集雑誌をパラパラとめくる
趣味の欄は『家事全般』、『読書』と女の子らしいものから
『ウサミン星との交信』なんてものまで多種多様だ

あたしの紹介欄は『趣味:クルマ・バイクいじり』
こんなことを書いてるのは他に拓海ちゃんくらいかな

今更ながら、Pさんにプロデュースしてもらって人気が出てきて
それほどお洒落に興味のないあたしでも、綺麗になったんだと思える
でも、それはまだ第一段段階で、あたしは常々計画を考えていた

「えっ? 趣味に料理をですか?」

「そう! あたしも女の子らしい趣味の一つや二つをもっとかないっとって!」

「えっと、いい趣味だとは思いますけど……」

「だよね? ね、茄子ちゃん。手始めになにから始めるのがいいのかな?」

「でも、美世さんは料理もできるんじゃないんですか?」

「できるけど、もうちょっと、なんかこう、凝った料理やつが作りたいなって」

あたしの知り合いの中で、一番の相談相手の茄子ちゃんを連れてきたのはいいものの
さっきから苦笑いをしているところを見ると、返答に困っているっているのは見え見えで
持ってきてもらった料理の本を二人で見ながら、あたし達は二人で頭を捻らせていた

「手間暇かけるものだと、これなんかはどうでしょう?」

「美味しそうだね。でもこれ、凄く時間がかかるんだね……」

「でも、私の持っている本だと他に良いのはないんです」

「ううん、凄く参考になるよ! ありがとう、茄子ちゃん!」

持っていたアイドル雑誌を置いて、茄子ちゃんの本を手に取って見てみる
考えていた計画というのは、新しい趣味を探してみようという思いつきで
クルマ以外の趣味を考えたら、自然と料理をピックアップしていた

以前から、Pさんの家に行ったとしても、料理を作ったのは数えるほどしかなくて
それに休みの日といえば、あたしはクルマをメンテしてばっかりしていて
少しは女の子らしいこともしておかないとと、前から思っていたからだ


「それにしても、いっぱい本を持ってるんだね。茄子ちゃんはなにか得意料理はあるの?」

「私は、おせち料理は得意ですよ♪」

「…………」

「ど、どうしたんですか? 私、変なこと言いました?」

目を細めて、茄子ちゃんの全身をまじまじと見ながら考えてみる
家に帰ってくると、彼女がエプロンをして『おかえりなさい』と迎えてくれて
そこにはちゃんとお風呂や料理が用意してあって……

(だめだ、勝てる要素がなに一つないかも……)

「み、美世さん! そんな見られると恥ずかしいですよ!」

女のあたしから見ても茄子ちゃんは可愛いと思う
自然体でいるだけで、あたしにはないものを沢山持っていて
つまり、見ていて参考になる部分は凄く多い

それは買う本一つとってもこんなにも差が出ているわけで
茄子ちゃんが隠し芸以外の本も読んでいるのと違って
あたしの部屋にはクルマやバイク関係の本だけで溢れかえっている

「……ごめんね、少し気になったことがあったから」

「ふふっ、そうなんですね。でもどうしたんですか? 今日は少し元気ありませんね?」

「うーん、元気が無いわけじゃないんだけどね」

項垂れながら本の中身を見ると、細かく書かれている内容に頭が痛くなる
いつも感覚で済ませていただけに、改めて知ることばっかりで
クルマ関係ならすぐに頭に入ってくるのに、他になると全然だと思い知らされる

(これも情熱の違いなのかな?)

壁は思った以上に高かったけど、今のあたしはまだ諦めるわけにはいかない
一度やると決めた以上は最後までやりきってから諦めることにしよう
Pさんを驚かせる為にはそれくらいはしないといけないもんね


喫茶店で二人、しばらく新しい趣味について話しあった後
あたしは特に行くあてもなく車を走らせていた
助手席では茄子ちゃんが珍しそうに外の景色を見つめていている

「なにか珍しいものでも見えた?」

「いいえ、そうじゃないですよ。美世さんの車に乗せもらうのって、久々ですから」

「言われてみれば、二人だけで遊ぶのも久しぶりだね」

互いに忙しくなった今じゃ、あまりこうして出かける事もない
前に一緒に遊んだのはいつだったかな……
一ヶ月前だった気もするし、それ以上だったかもしれない

忙しい中時間を作ってくれた茄子ちゃんのためにも
あんまりあたしの話ばっかりしてても悪いし
少しでも茄子ちゃんに楽しんでもらわないといけないかな

「茄子ちゃん。どこか行きたいところはあるかな? 今日はどこにでも付き合うよ!」

「でしたら、少しドライブをお願いしてもいいですか?」

「うん、わかった! 適当に走るね」

平日のお昼、車も少なくて時間はまだまだ有り余っている
ドライブするには絶好の日になるだろうなと思いながら
あたしはアクセルを踏み込み、街の外へ出るコースへと車を走らせた


「うーん、走ったね!」

「ふふっ、お疲れ様です。あれだけ運転してたのに、元気なままで凄いですね」

「ま、長時間運転は慣れてるからね」

思い切り身体を伸ばすと、関節からボキボキと音が鳴るのが聞こえる
実家に帰る時ほど運転はしてないけど、それでも今日はかなり長距離を走った

久しぶりの茄子ちゃんとのドライブは、互いに話すことも尽きなくて
時間を忘れてしまってついつい引き返すタイミングを失ってしまっていた
同い年ってだけで余り共通点がない二人だけど、だからこそ妙に馬が合うんだろうな

「美世さん」

「ん、どうかしたの?」

「急に料理を趣味にしたいって、作ってあげたい人でもできたんですか?」

「えっ!? あ、あの、い、いや、そんなのじゃないんだけど」

「ふふっ、そうなんですか」

急に料理なんかしたいって言いだしたら変に思われるかなと思っていたけど
まぁ、適当にごまかせばなにも疑われることはないと油断していた
でも、茄子ちゃんは全てをわかったとでも言いたげに笑っている

(しまった、バレたかな……)

一応気にして話したはずだし、あたしの行動におかしな点はなかったはずだ
Pさんの名前は一度も出さなかったし、それに趣味を増やしたいという名目もあった
だったら、茄子ちゃんはなんでそのことに気づいたんだろう?

って、今は茄子ちゃんの勘の鋭さに感心している場合じゃない
今はなんとかその話は打ち切るようにしないと
礼子さんの時みたいにまたPさんに迷惑をかけてしまう

「ほ、ほら、あたしは趣味の一環としてね!」

「Pさんもきっと喜んでくれると思いますよ」

「えっ? そ、そうかな?」

「やっぱり、Pさんのために作る気だったんですね」

「あっ……」

誤魔化すつもりが誘導尋問と言うにはあまりにもお粗末な、単純なひっかけにかかってしまった
気にしていたつもりなのに、一瞬で自分の口から暴露してしまうとは予想外だった
と言うより、頭の良い茄子ちゃんには誘った時点でバレていたのかと思えるほどだ


頭を抱えてうずくまるあたしの背中を、茄子ちゃんは優しく撫でてくれた
すっかり動揺してしまった今の気持ちは、それだけで少し気分が落ち着く

バレてしまったのはもう仕方ないとして、あたしにとって一つ疑問が残る
今期は礼子さんの時みたいにあからさまに自分から行動に出たわけじゃないのに
茄子ちゃんはいつからPさんのためにって気づいていたんだろうって

「あの、茄子ちゃん。いつから気付いてたの?」

「……正直に言うと、誘われた時からですかね」

「そ、そんなにあたしが誘うのって変だった!?」

「変というか、まぁ、車以外のことをしたいって、珍しいなって思いましたから」

「そんなにおかしいかなぁ……」

「おかしいとかじゃないですよ。でも、美世さんが新しく何か始めるなんて、きっとそうなのかなって」

「うーん、やっぱりそっちなんだね。あっ、茄子ちゃん。このことは……」

「ふふっ、わかってますよ。黙っておきますから」

たったそれだけのことで、すぐにPさんと結びつくのが思いつくのは茄子ちゃんくらいだろう
茄子ちゃんは普段はのほほんとしているけど、でも人のことに関しては鋭い方だ
単純思考のあたしが隠し事をするには、一番まずい相手だったのかもしれない

それでも、茄子ちゃんに相談したのはあたしなりにも考えがあった
仲が良いというのとはまた別で、こうしてきっと応援してくれると思っていたし
それにいずれ茄子ちゃんには気づかれるだろうなと心配していたからだ

アイドルとプロデューサーと言う関係上、ベラベラと喋るわけにもいかないだけに
仕事をしている時は意識してしまって、どうしてもぎこちなさが出てきてしまう
見る人が見ればすぐにわかると言ってた礼子さんの忠告は、未だになおりそうにない

「美世さんがそこまで考えているなら、私も全力で力になりますよ~」

「……なんか楽しそうだよね、茄子ちゃん」

「そんなことありませんよ♪」

「はぁ、でも茄子ちゃんが手伝ってくれるなら少しは上達するのかな」

「私にできるならなんでも! Pさんと美世さんの縁結びをお手伝いしますね!」

実際は縁結びどころかその何歩も先まで進んでしまってるんだけど……
今はそのことは言わないでおこう、というよりそこだけは隠しておきたい


少し休憩して、再び車に乗り込んだあたし達はなにをするわけでもなくゆっくりとしていた
引き返すにはまだ少し余裕はあるし、あたしの疲れを茄子ちゃんが心配してくれたからだ

さっきより嬉しそうに、茄子ちゃんは持ってきた本を眺めていて
教えてもらう立場のあたしじゃなくて、茄子ちゃんがなにか作るのかと思えてくる

「美世さんはどんなものを食べて欲しいとかはあるんですか?」

「んー、そこなんだよね。何にも思いつかなくて……」

「でしたら、いつも作っているのになにかを足すと良いと思いますよ」

「なにかって、おかずを増やしてみるとか?」

「そんな感じです。今できることから広げてみるのが一番ですよ」

言われてみて初めて気づくけど、茄子ちゃんの言う意見は的を射ている
驚かせるためにと思って、何段か飛ばして考えてしまうのはよくある失敗例だ
でも、あのPさんが少し作り方を変えたくらいで気付くとは思えない

あたしのことをよく分かっているのがPさんとは言っても
車のタイヤを変えてみたり、スピードを少し上げてみても何の反応ないし
いちいち細かいことに口を出す人じゃないのは、あたしが一番よく知っている
小言を嫌う、あたしにへの心遣いが、今は一番厄介な問題になっている

「……とりあえず、それは試してみるね」

「そうですよ、小さなことからコツコツとですよ!」

「ま、今はまだあたしも意識し始めたばっかりだからね」

「でしたら、美世さん! 帰りにホームセンター寄っていきませんか?」

「ホームセンター? なにか必要なものでもあるの?」

「違いますよ~、美世さんのお料理に使う道具を一緒に見に行きましょう」

あたしのことなのに、茄子ちゃんはもうすっかりやる気満々だ
その勢いにあたしの方が押されてしまって、ノーとは言えなくて頷いてしまっていた

でも、道具を揃えるのは悪くない考えだと思う。車いじりも良い道具があると変わってくる
大体はPさんの家の物を使ってるけど、揃えるとしたら包丁とかそこら辺になるのかな?
他には、盛りつけ用のお皿とか、エプロンとか身に付けるもの……

「なるほど! その手があったよね!!」

「えっ!? は、はい……」

グルグルと考えを巡らせていると、不意にある考えを閃いた
いきなり大声を出したあたしに茄子ちゃんは凄く驚いていたけど
あたしは気にすることなくホームセンターに向かい車を走らせた


「よし! これで準備はバッチリかな!」

それから買い物をした後、茄子ちゃんを家に送り、あたしは一人でPさんの家にお邪魔していた
タイミングの良いことに、今日は家に遊びに行っても問題ない日だったから
善は急げと、仕事で少し遅くなるPさんの家に先にあがらせてもらっている

チラリと時計を見ると、そろそろPさんが帰ると言っていた時間が近い
勢いで頑張ってみたものの、あまり長い時間は待っていられそうにもないので
早く帰ってきてくれないのかなと、一人でソワソワしていた

「ただいまー」

キッチンで右往左往していると、やがて玄関の方からPさんの声が聞こえ
その声を聞いた瞬間に、心臓が跳ねあがって、身体がカチコチに強張っていくのを感じる

ついにこの瞬間が来たんだと頭では理解していても、身体がそれについていかない
今から玄関で待ってもらって、いつも通りに戻ろうかとも考えたけど
こちらに向かってくる足音は思ったより早くて、もう間に合わないだろう

「ただいま、今帰ったけど」

「あっ、あの、お、お、お帰り……」

「…………」

「ど、ど、どうしたの?」

「えっ、なに……その格好?」

あの時はこれは名案だと思ってて、予想通りPさんは凄く驚いてくれた
それは素直に嬉しい。嬉しいけれど、あたしにとってそれは凄く恥ずかしいことで
面と向かってその理由を聞かれると「何してるんだろう?」と完全に正気に戻ってしまっていた

「あのさ、もしかしてそれ、裸エプロンって……やつか?」

「し、し、下着は着てるよっ!」

「そ、そうなのか……」

流石に全部脱いでエプロンだけになる勇気はなかったので、予防線として下着だけは着ていた
でもそうしたところで裸同然の格好を見られていることは変わりないわけで
自分でしておきながら、恥ずかしくてソファーの裏に小さく縮こまってしまっていた


時間切れでここまでです
続きはまた明日


「じゃあ、脱がしていいのかな?」

ここで遠慮されると逆にあたしの方が恥ずかしくなって来てしまう
なんとかかすれた声で「うん」と短く返して頷くと
エプロンにPさんの手がかかり、そのまま下半身の布がずらされる

「ぬ、脱がすんじゃないの!?」

「いや、こういうもんだと思ってたからさ」

こんな薄い布一枚じゃ、ある意味裸になるよりも恥ずかしくて
必死に隠そうと伸ばそうとしても大事な所が隠れていなくて、ほとんど機能していない

制止を懇願するように潤んだ瞳でPさんを見つめてみても
Pさんは特に気にした様子もなく、視線が上下させてあたしの全身を見ている

薄い生地の下から尖り始めている胸の先端や、
既に湿り気を帯びている秘部の中まで見られていると思うと
これからされることが分かっていても、恥ずかしくてたまらなくなる

「明るいんだから、あんまり見ないで欲しいんだけど……」

勢いで始まることは何度かあったことだけど、明るい場所ではやっぱり慣れない
あまりの恥ずかしさに耐えかねて文句を言うと、Pさんが小さく頷く

大きな手が胸に伸びてきて、下から持ち上げるようにして掴まれる
指を小刻みに動かされる度、静かな部屋に「んっ」と自分の声が響き渡るのが聞こえて
Pさんの手指が触れているだけで、火照った乳肌が敏感になっていくのを感じる

「なんか、Pさん凄く余裕あるよね……んっ!」

「いやー、そんなことはないと思うけどな」

顔は冷静な振りを装っているけど楽しんでいるのは簡単にわかる
その証拠に手がふにふにと動いていて、その度に胸がいやらしく形を変えて歪んでいって
あたしは顔が沸騰したんじゃないかって思えるほどに熱くなっていた


(Pさんが余裕だと、いいようにされてるみたいにしか思えないんだけど……)

Pさんの手の動きが変化して、胸の輪郭をなぞるように指先がスライドしていく
優しい手つきで撫でられると、布が上から揉みしだかれる微かな感触でも
敏感になっている神経が、指先の指紋の溝まで感じとれるみたいだ

(胸はまだ隠れてるはずなのに……)

十本の指が丸い胸の表面を渦巻くように這い回って、中心へと近づいてくる
布の下から見たことないくらいに期待に震えている胸の先端は
バレないで欲しいとずっと思っていたけど、もう気づかれてしまっていた

「ひぅっ……!」

エプロンの下から潜り込んできた指に先端を撫で上げられ、悲鳴が漏れる
その声に反応したみたいに、焦らされていた敏感な部分を何度も責められると
感電したみたいな痺れが胸から伝わって、全身が反射的に悶えてしまう

「あんっ! Pさん……くぅんっ!」

甘い声に我慢できなくなってように、Pさんが胸に吸いついてくる
唇に挟まれて、舌でねっとりとねぶられて本能のままに出る声が抑えられない
そのまま荒い快感の波に流されないように、手で口を抑えて必死に抵抗する

そんなあたしに気を良くしたPさんが、だんだん荒っぽく責めたててくる
下や横から胸は揉まれて、先端は舌で何度も弾かれて、吸われつづけていた

あたしは、自分の胸がPさんに弄ばれるのに、快感に悶えながらも見入っていた
身体の一部がPさんの自由にされている感覚に、癖になるくらいの妖しい快感を感じて
普段からPさんに言っている繋がりを意識できる貴重な時間なんだって思える


Pさんは満足したのか、飽きたのか分からないけど、私の胸から手と口を離す
そして、そのままあたしの足を掴んで遠慮がちに左右に開いていく
あたしはいつもの時間が来たんだってわかって、身体に緊張が走っていた

(一応見えないから効果はあったのかな?)

足を完全に開かれても、長めのエプロンをしていたせいで大事な部分は隠れている
そのせいか気持ちには少しだけ余裕があって、見られていてもそれほど恥ずかしくない

「エプロン、ずらしても大丈夫?」

「えっ!? あっ、だ、大丈夫だよ……」

(そりゃそうだよね……)

言うまでもなく、このままじゃ先に進まないので、Pさんの手であっさりとめくられる
秘部は無防備な状態にされて、視線がそこに集中しているのを感じるけど
でも、のぼせあがった身体は抵抗する気力は沸いてこなくてなすがままだ

「そんなに見ないでよ、Pさん……」

毎回言うのもお決まりだけど、やっぱり恥ずかしいので抗議だけはしておく
本当は、今にでも手で隠したくてしまいたいけど、そうなるといつまでも進まなくて
あたしもせっかくのこの時間に水をさしたくないので、じっと耐えることにしていた

「じゃあ、触るから」

「う、うん……」

合図と一緒に、Pさんの指がゆっくりと周りを這って中心に向かってくる
寝転んだままだと、Pさんがよく見えないのが怖くて、あたしは肘をついて身体を起こす
なんとなく、これからどう運転されるのかって、好奇心も少しだけあった


指があたしの秘部の縁をゆっくりと撫でて、もどかしい感覚が下半身を駆け巡る
秘裂に指があてがわれて、そのまま外に引っ張られていくと
にちゃっと粘っこい音がして、秘裂に外気に触れて少しヒンヤリとした

「Pさんって……んんっ! いっつも、こんな風にしてるんだね……」

「されてる美世に言われると恥ずかしいんだけど」

「だって、あたしだって恥ずかしいんだから……これでおあいこっ!」

「その格好は自分でやったんじゃないか」

駄目かな……、今はなにを言ってもPさんに勝てる気はしない
それでもこのままされ続けると、恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだったから
せめてもの抵抗で、あたしはエプロンの裾を口でくわえて声が漏れないようにする

その行動をOKの合図と受け取ったPさんが、もっと大きく秘裂を広げていく
自分の中が、こんなにいっぱいに外の空気に触れるのはほとんど記憶にない
無防備にさらされてしまった淫裂が、Pさんの視線に恥ずかしさを示すみたいにヒクヒクしてる

「やっぱり明るい場所だと、緊張するな……美世もそんな格好だし」

改めてPさんの口から言われると、今の状況が生々しく響いて、もっと緊張してくる
でも『今のあたしはエプロンを加えてるので返事できませんよ』と伝わるようにプイと視線を逸らす
顔が熱いから赤くなってるだろうし、Pさんもいちいち言われなくても分かってるはずだ


行為を再開した、Pさんの指がぬかるみを撫でる。入口やその中にまで指が触れてきて
顔を出している肉芽までしっとりと滑った指で撫でまわされて、下半身に力が入らなくなる
落ち着いている時ほど、その鮮烈な刺激ははっきりと感じられて腰が跳ねてしまう

「んんっ! んっ!?」

時間をかけられて与えられる快感に、布を噛みしめる歯により一層力が入ってしまう
自分で口を塞いでいて正解だったかもしれない。なにもせずに声が漏れてしまっていたら
あたしはどんなに大きな声で喘いでしまっていたか想像もつかない

快楽が怖くなって、反射的に閉じようとする足をPさんの手で掴まれてしまい
手が使えなくなったPさんは、顔を近づけて、あたしの肉芽を舐めはじめた

「んっ!? Pさん、ダメッ! 舐めないでっ……あうっ!?」

舌が肉芽を舐め上げると、甘痛い快感がビリビリと全身の神経を走っていた
自分でも気づいていない内に、散々愛撫された身体はとっくに限界寸前だったみたいだ
耐えきれずにくわえていたエプロンを口から離してしまって甘い声が響いてしまう

「ああっ、やっ……Pさぁんっ!」

淫裂からぶしゅっと噴き出る感覚がしたかと思うと、全身が硬直して痙攣する
ローテーブルに背中がひっついて、指に力を込めて押さえようとするけれど
腰が浮きあがってPさんの顔にぶつかってしまった


Pさんから与えられる絶頂の余韻は、長く続いて身体の震えがおさまらない
きっと、Pさんの目にはまたやらしいあたしが映ってるんだろうな
悪い気はしないけど、そう思われるのもなんとも言えないかな……

「背中、大丈夫?」

「はぁ……はぁ……ちょっと打ったかも」

勢いよく後ろに倒れこんでしまったので背中を少し打ってしまった
でもそんな微かな痛みは気にならずに、身体はぐったりとして力が入らなくて
このままPさんにしてもらえるのをどこかで期待して動こうとはしなかった

「続き、ベッドでしようか」

「……ううん、このままでいいよ。動けそうにないから」

「美世がそれでいいなら俺はかまわないけど……」

あたしのことを気にしているPさんに、またエプロンの裾を加えて大丈夫だとアピールする
さっきは駄目だったけど、今度は離さないように気をつけなきゃダメかな……
これ以上、大きな声が漏れないように、あたしは息を飲んでPさんを迎える準備をする

Pさんがあたしの言葉に反応して、身体を密着させると濡れた秘部に熱いPさんの感触を直に感じた
その滾ったモノがあたしの秘裂を滑っていって、膣の入口に先端の丸みがあてがわれて
太股を引き寄せられて、そのままPさんが中に侵入してくるのがハッキリとわかった

さっきイッたばかりだから、少し狭くなったあたしの中が引き攣るような感じ
歯を食いしばって、併り出そうな悲鳴を必死になって堪える
ミシミシと中を広げられていく感覚が音になって、頭に伝わってくるみたいだった

「ひうぅっ!! ああっ……」

Pさんが太股を抱え直して、少し力を入れて腰を押し上げると、その圧迫感を奥まで感じる
もどかしい部分を一気に擦りあげられたみたいな感覚に
どう頑張っても、勝手に溢れてくる声が止められなかった


こうしてされている安心感が大きすぎて、脚をPさんの腰に絡めて、もっと奥へって促してしまう
中で脈打っているのを感じる度に、あたしで喜んでくれてるんだって嬉しくなってくる

「んっ……Pさん、興奮してる?」

「な、何が?」

「この格好、どう思ってるのかなって……」

「……正直、かなりキテる」

ふと、ここまできてPさんがどう思っているのか気になって聞いてしまう
なんとなく分かっていたけど、やっぱり言ってもらえるだけで全然違ってて
色々あったけど、その言葉が聞けただけでも今回はよしとしておこうかな

奥まで埋まっていたPさんのモノが、愛液をまとわりつかせて引きずり出されると
絶頂の余韻が残っている肉壁が擦られて身体がまたビクついてしまう

グッタリと寝転んでいるところにPさんが腰を使い始めると
されてるんだって、犯されてるんだって感じがしてくる

熱くて大きな肉塊に中を掻き回されて奥に突っ込まれる
Pさんの欲望が粘膜越しに伝わってくるみたいで、あたしの気持ちも昂ぶり始める

先端が出入りを繰り返すごとに、奥へ奥へと進んできて
勢いは止まずに一番奥の器官がコツコツとノックされると
いつもみたいに頭が真っ白になりそうな、愉悦が湧き上がってくる

(あぁ……ちょっと今日はきついな……)

狭くなった膣内を擦られる感覚は、電気みたいな激しい刺激とは違って
ズンって響くみたいな感じがする。テーブルに寝てるせいで腰が丁度良い位置にあるのか
いつもよりずっと深く、激しく、あたしの中に入り込んでくる


「んっ……んんっ……!!」

加えているエプロンの裾のお陰で余計な声は漏れないのはいいけど
これじゃあ、口を塞がれてされてるみたいだなって思っていた

瞳を潤ませて、恥ずかしさに耐えながら、口を塞ぐあたしはPさんにどう見えてるんだろう?
それでも、快感が湧き上がってくる度に腰が溶けていくような錯覚に襲われて
Pさんの腰に脚を絡めて催促するあたしは変に、思われていないか少し心配だった

「美世、そろそろっ……!」

圧迫感の中、愉悦が混じり合って、頭が揺さぶられていく中
ボーッとしてしまっていたあたしは、Pさんの苦しそうな声を聞いて
急に意識が現実に引き戻されていく

このまま精液を中に注ぎ込まれてしまったら、あたしはまた悪い癖が出てしまいそうだ
Pさんに乗られてるって実感がわいて、またしばらく離れられなくなってしまう
それを考えるだけで期待に媚肉が震えて、Pさんを締めつけてしまっていた

「うんっ……んっ!!」

首を縦に振って自分の意志を伝えると、Pさんが身を乗り出し、胸を掴みながら、腰を押し付けて揺さぶってくる
限界まで縮こまった膣内でPさんのモノがグッと膨らむのを感じると
すぐにそれが弾けて、熱い液体が激流のように流し込まれていく

(Pさん……射精して、また中にいっぱい……)

あたしの女の子の器官に肉塊が密着して、灼熱の滾りを噴き出し続けている
子宮にまで注ぎ込まれているんだって思うと、一番奥までPさんに満たされていって
駄目だって頭ではわかっていても、全身が喜びに震えてしまう

(ガソリン入れられてるって思えば……って、そんなに簡単な話じゃないよね……)

膣内射精されてるのに、車に例えてしまっている自分がなんだかバカバカしかった
でも、これもPさんが相手だからそう思えるんだって思うと嫌な感じはない


なんとも言えない喜びに酔っていると、Pさんが腰を動かして残った精液を絞り出す
最後の最後まで注ぎ込まれるその行為に、今度は被虐的な悦びが湧き上がってくる
あたしはもっとそれを続けて欲しくて腰をねだるようにくねらせてしまっていた

「ぷはぁ……これ、もういいよね」

「美世、それってもしかして叫ばないためにしてたのか?」

「うん、そうだけど。どういうつもりだと思ってたの?」

「い、いや……興奮させるためにかなって」

「……そんなわけないじゃない。そんなことしなくてもPさん凄く激しかったし……」

「そりゃ、こんな格好されたらさ」

これで終わりと思っていたところに、Pさんが両脚を抱えて、腰をグッと押しつけてくる
身体が浮きそうな感じに、怖くなって手を伸ばしてPさんにしがみつく

Pさんはそれに応えて上から抱きかかえて、身体を密着させてくれた
あたしが腰を擦りつけて、快楽を貪っていると、Pさんもそれに合わせて腰を動かして
互いの動きが相まって、膣奥を再び擦りつけて行為を再開する

「あっ……ま、まずいかも……んぁっ!!」

絶頂の余韻が色濃く残ってる身体を強く抱きしめられる
そして、唇を重ねて燻っていたエンジンをまた動かし始める
Pさんを見つめると、もう一回はしないと止まりそうにない


「はぁ……はぁ……場所、変えるか?」

「ううん……このままでいいから……きゃっ!!」

その時間でさえももどかしくて仕方ないと、あたしはPさんの口に舌を差しこんで
感情に任せて掻き回して、Pさんの舌にねっとりとしゃぶりつく

中を圧迫しているPさんのが大きくなっていくのが分かると
口づけを激しくして、そのまま揺さぶられる腰に身を任せる
いつの間にか、恥ずかしさなんかは消え失せていた

「んっ……Pさん、もっと……!!」

そのまま、時間を過ぎるのも忘れて、あたしとPさんは舌を絡めて
口を吸い合いながら、腰を密着させて揺さぶり合って
もう何度目か忘れた、絶頂へと気持ちを昂ぶらせていった


「美世さん。あーん」

「はーい」

口に放り込まれたピョッキーを、リスみたい少しづつかじって食べる
机に頭だけ乗せて垂れているあたしを見かねて、茄子ちゃんが食べさせてくれた

あれからPさんと結局いい感じになって、あたしは有頂天になっていた
それで、そのきっかけを作ってくれた茄子ちゃんにお礼を言おうと思って
こうして茄子ちゃんと二人で抜け出してご飯を食べに来たのは良いけど……

『エプロン? なんの話ですか?』

『えっ、茄子ちゃんの見せてくれた本に書いてなかったっけ?』

『うーん。私、そんな本なんて持ってなかったと思いますけど……』

『あれ? お、おかしいな。エプロンが効果的とかあったと思うけど』

『あぁ、エプロンを変えると気分も変わりますって言うのはありましたね』

つまりあたしは、料理を作る気分が変わるくらいの内容を勝手に勘違いして
あそこまで暴走してしまったわけで、これがレースなら開始早々コースアウトして
大恥をかいてしまうほどの失敗をしてしまっていた。しかも、それが勘違いと気づかないで

「はぁー。うまくいかないよね、こういうのって」

「よくわかりませんけど、元気出して下さい美世さん。失敗したわけじゃないんですから」

「失敗したわけじゃないんだけど、ないんだけどね……」

それはしっかりとPさんの記憶には残っていて、茄子ちゃんもなにしたかなんとなく気づいているんだろう
あたしが満面の笑みで話しかけた時、茄子ちゃんは自分のことのように喜んでくれてたし
今もあたしの話が楽しみで仕方ないって感じだ。もう話すことはほとんど残ってないけど

「私、美世さんがこれからも上手くいきますようにって祈ってますから」

「ありがと。茄子ちゃんに祈られると上手くいくような気がするかも」

脱力してしまった気持ちを抑えきれずに、あたしはさっきからずっとブーブーと不満を漏らしていた
でも、結局は茄子ちゃんの幸運に助けられて、変なことにならずに済んだのかもしれないと思うと
なんとなく間違いではない気がする、エプロン買う時も長めが良いとか微妙にフォローされてたし

「あっ、美世さん見てください! この前に応募した懸賞の当選メールが来ました♪」

さっきから子供みたいにはしゃいでる茄子ちゃんは相変わらずの幸運に恵まれてて
この子には敵わないなと心の中で思いつつも、やっぱり友達で良かったなと
また自分の周りに応援してくれる人がいてくれたことに、あたしも自然と笑っていた


今日はここまでです

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