勇者「失礼します」コンコン 魔王「どうぞ、お入り下さい」ガチャッ (23)

勇者「どうも初めまして、勇者です」ペコリ

魔王「どうも初めまして、魔王です」ペコリ


勇者「…………」

魔王「…………」


勇者「本日は良いお日柄ですね」

魔王「そうですね」


勇者「…………」

魔王「…………」


勇者「早速ですけど、あなたを倒しても宜しいですか?」

魔王「良くはないですけど、その為にわざわざ来られたんですよね?」

勇者「はい。心苦しい限りではありますが」

魔王「それなら仕方がないと思います。ただ、私も抵抗させてもらいますけど、宜しいですか?」

勇者「はい。当然の事だと思いますので」

魔王「そうですか。それを聞いて安心しました」


勇者「…………」

魔王「…………」

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勇者「ふと今思ったんですけど」

魔王「はい」

勇者「抵抗しないでほしいと私が言ったら、あなたはどうされてたんですか?」

魔王「多分、抵抗しなかったと思います」

勇者「そうですか」

魔王「はい。多分ですけど」


勇者「…………」

魔王「…………」


勇者「……という事は、勇者的にはさっきの言葉は言わなかった方が良かったんですね」

魔王「ええ、多分そうだと思います」


勇者「…………」

魔王「…………」


勇者「僕が勇者でなかったら前言撤回してるところですけど、今更そうもいかないですよね?」

魔王「勇者なので嘘をつくのはまずいと思いますよ」

勇者「そうですよね。惜しいことをしました」

魔王「全くですね。今後は気を付けた方がいいと思いますよ」ハハハッ


勇者「…………」

魔王「…………」

勇者「そういえば、私、伝説の剣を持ってるんですよ」

魔王「ほう、それは素晴らしい。少し拝見させてもらっても宜しいですか?」

勇者「いいですよ。これです」つ 伝説の剣

魔王「ありがとうございます、お借りします」ソッ……


勇者「…………」

魔王「……ほほう。これはなかなか」シゲシゲ

勇者「でしょう。天空の塔まで行ってわざわざ取ってきたものなんです。手に入れるまでずいぶん苦労しました」テレッ

魔王「ですが、その苦労に見合った逸品だと思いますよ。これは良い物です」

勇者「ご丁寧にありがとうございます」


勇者「…………」

魔王「…………」

勇者「ところで、今気づいた事なんですけど」

魔王「はい」

勇者「私、今、武器1つも持ってないんですよね」

魔王「ああ、そう言えばそうですね。伝説の剣、私が預かってますし」

勇者「返してもらえなかったら大変な事になりますね」

魔王「そうですね。でも私、魔王ですし、それぐらいの悪さはしてもいいと思うんですよね」

勇者「そうですね。それぐらいは許容範囲ですよね」

魔王「このまま返さなくてもいいですか?」

勇者「良くはないですけど、仕方がないとは思います。伝説の剣を渡したの私ですし」

魔王「おや、洒落ですか?」

勇者「まさか、そんな。ただの偶然です」ハハハッ

魔王「ですよね」ハハハッ


勇者「…………」

魔王「…………」

勇者「あの、魔王さん」

魔王「はい」

勇者「一つ相談しても宜しいでしょうか?」

魔王「私が力になれるかどうかはわかりませんが、それでも良ければどうぞ」

勇者「ありがとうございます。助かります」

魔王「いえ、困った時はお互い様ですから」


勇者「…………」

魔王「…………」


勇者「それで、相談事なんですけど」

魔王「はい」

勇者「武器がない場合でも、私は戦った方がいいんでしょうか?」

魔王「難しい相談ですね。私の立場というものもありますし……」

勇者「ああ、そうですよね。倒されたら困りますもんね」

魔王「いえ、今の状態だとその可能性はまずないので、それはいいんですけど」

勇者「ああ、それもそうですね。武器がないのをすっかり忘れてました」テレッ

魔王「慌てるのは良くないですよね」ハハハッ


勇者「…………」

魔王「…………」

勇者「それで、私はどうしたらいいと思いますか?」

魔王「そうですね。やっぱり一番良いのは隙を見て武器を取り返す事じゃないでしょうか?」

勇者「なるほど。確かにその通りですね。ではそうしてみます」

魔王「はい。頑張って下さい。陰ながら応援してます」


勇者「…………」

魔王「…………」


勇者「もう始めても宜しいでしょうか、魔王さん?」

魔王「ええ、いつでもどうぞ」


勇者「」ジリジリ、ニジニジ

魔王「」ジーッ

勇者「なかなか隙がないですね、流石、魔王さんです」ジリジリ

魔王「ありがとうございます。今後も頑張っていきたいと思います」ジーッ

勇者「しかし、こうも隙がないと困りましたね。取り返すのが難しいです」ジリジリ

魔王「諦めたらそこで試合終了ですよ。最後までベストを尽くした方が良いのではないですか」ジーッ

勇者「そうですね。危うく心が折れるところでした。激励に感謝します」ジリジリ

魔王「いえ、それほど大した事は言っていませんので」ジーッ

【一時間後】

勇者「駄目でしたね、隙が全くありませんでした」シュン

魔王「そうですか……残念です。別の手を考えましょう」

勇者「他にどういった方法があると思いますか?」

魔王「そうですね……。一旦退くというのも戦術の一つだと思いますよ」

勇者「なるほど。勇気ある撤退というやつですか」

魔王「ええ、無謀と勇気は別物ですから」


勇者「…………」

魔王「…………」


勇者「わかりました。ここは一旦退こうと思います」

魔王「それが良いと思いますよ。また後日、新しい武器が手に入ったら来て下さい」

勇者「はい。そうさせてもらいます。それまでお元気で」

魔王「ありがとうございます。折角なので外まで見送りますよ」

勇者「御親切にどうも。それでは御言葉に甘えようと思います」

魔王「あと、武器がないと帰りが大変でしょう。こちらをどうぞ」つ 伝説の剣

勇者「重ね重ね助かります。ありがとうございます」ペコリ

魔王「いえいえ、元々はあなたの物ですし」

勇者「そういえばそうなんですよね」ハハハッ

魔王「全くです」ハハハッ


勇者「…………」

魔王「…………」

勇者「今またふと思ったんですけど」

魔王「はい」

勇者「伝説の剣が戻ってきたので、私、帰る必要がなくなっちゃったんですよね」

魔王「ああ、そういえばそうですね」


勇者「…………」

魔王「…………」


勇者「でも、一度帰ると言った以上、帰らないとまずいですよね?」

魔王「まずいという事はありませんが、お互い少し気まずいですよね?」

勇者「そうですね。やはり今日は帰ろうかと思います」

魔王「その方がいいと思います。また明日にでも来て下さい」

勇者「はい、是非」

魔王「ええ。お待ちしております」


勇者「それではごきげんよう」ペコリ

魔王「いえ、外までお送りするので」

勇者「ああ、そういえばそうでした。またうっかりしてました」テレッ

魔王「意外とおっちょこちょいですね」ハハハッ

勇者「そうですか?」ハハハッ


勇者「…………」

魔王「…………」

【外】

勇者「それではまた。ごきげんよう」ペコリ

魔王「こちらこそ。ごきげんよう」ペコリ


勇者「」スタスタ……

魔王「」クルッ、スタスタ……












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