『愛情と友情と尻とアシカ』 (100)

ー 帰り道 ー


男「///」テクテク

女「」テクテク


男「女さん、その……一つ聞いてもいいかな?」

女「何?」

男「女さんってさ……俺の事、どういう風に思ってる?///」

女「え、別に……。そんな事、これまで一回も考えた事ないけど……」

男(あっ、これ、ダメだ……。完全に脈なしだよ……)

女「でも、男君がそれを考えて欲しいっていうなら、私、これ以上はないってぐらい真剣に考えるよ?///」

男(えっ、なに、コレ、どっち?)

女「ね、男君。私は考えた方がいいのかな? 考えない方がいいのかな?」

男「えっと……出来れば考えて欲しいけど……」

女「わかった。ちょっとめんどくさいけど考えてみるね。私、男君の為に頑張る!///」

男(あ、ダメだ、完全にわかんない、これ…………)

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ー 翌日 ー

ー 教室 ー


男「……って事があったんだけど、男友はどう思う?」

男友「可哀想な話を聞いてしまったなと」

男「おい、男友。こっちは真面目に聞いてるんだぞ。冗談抜きで答えてくれよ」

男友「………………冗談、言わなきゃダメだったのか?」

男「………………おい、マジか」


男「なあ、男友……やっぱりあれは脈がなかったのかな……?」

男友「なに言ってんだ。あるに決まってるだろ? さっきのはホントに冗談だよ。元気出せよ」

男「ホントか?」パアッ

男友「ああ、お前を励ます言葉はいくらでも用意してあるぞ」

男「正直って残酷。泣きたくなるだろ」

ー 廊下 ー

女「……って事が昨日あったんだよね。女友、どう思う?」

女友「リア充爆発しろと」

女「なにそれ、怖い」

女友「それか、彼氏がいない私に対する当てつけかと」

女「可哀想だよね」

女友「お前が言うか、それ」


女友「……で、女はどう思ってるの? 男君の事」

女「それ、昨日、男君からも全く同じ質問されたよ?」

女友「だから、聞いてるんだよ、バカヤロウ」


女「うん。それで、昨日、死ぬほど考えたんだけどね」

女友「うん」

女「どうでも良かったんだよね」

女友「小悪魔どころか悪魔だな、おい」

ー 教室 ー

男「で、昨日、女さんの言葉とか態度とかニュアンスとか雰囲気とか、そこら辺を色々考慮した上で、俺なりに死ぬほど考えてみたんだけど」

男友「さっきの俺の意見は無視か?」

男「やっぱり、脈がないような気がするんだよな……」

男友「質問まで無視されたよ」


男「めんどくさいとか言われてる時点で、きっとどうでもいいんだよな……。後の言葉は社交辞令とも考えられるしさ……」

男友「諦めんなよ、一応まだわかんないんだろ?」

男「何で一応つけた」

男友「男……諦めたらそこで試合終了だぞ。野球は九回裏のツーアウトからが勝負だからな」

男「そんなギリギリなの、俺。まだ告白もしてないのに」

ー 廊下 ー

女「で、その事を、今日、男君に告白するつもりなんだけど///」

女友「別の意味に聞こえるけど、実際には止め刺しに行くんだよな?」

女「女友、どうやったら、この気持ちを上手く伝えられるかな?///」

女友「殺し方に美学を求める殺し屋か、おのれは」


女友「その……女。……悪い事は言わないから、それ、男君には伝えない方がいいと思うよ」

女「そうなの? じゃあ、そうするね!」

女友「……男君よりも、むしろ女の将来の方が心配だな。女はまず人を疑う事から覚えた方がよくないか?」

女「わかった! そうするね」

女友「だから、それを直せと」


女「女友って言葉づかい荒いけど、本当に女?」

女友「とんだ流れ弾だな、ちくしょう」

ー 教室 ー

男友「とにかく、まだはっきりしてない事でウジウジするなよ、男らしくないぞ。それに、もう済んでしまった事じゃないか」

男「何で失敗した事になってるの、俺?」

男友「男だったら、当たって砕けちまえ!」

男「お前は励ましてるのか、俺の事を嫌ってるのか、はっきりしてくれ」


男「……はあ、元々こんな事を男友に相談した俺がバカだったよ」

男友「そうだな、お前は本当にバカだよ。大バカだよ」

男「そこまで言われる事したの、俺?」

男友「だけど、そんなバカ、嫌いじゃないぜ、俺は」

男「何言ってんだ、こんな時に」

ー 廊下 ー

女友「まあ、もう済んじゃった事は仕方がないとして」

女「そうだね。仕方がないよね//」テヘ

女友「うん。……結構本気で飛び後ろ回し蹴りしていいか?」

女「嫌だけど、女友がどうしてもって言うなら、検討してみるよ!///」

女友「考え直せよ、私、少林寺拳法四段だぞ?」


女友「……それにしても、女は男君の事、本当にどうでもいいのか? わざわざそんな事聞くぐらいだから、女に気はあるのは間違いないと思うよ? 試しに付き合ってみるとかそんな気はないの?」

女「全くないかな」ニコッ

女友「笑顔で言うなよ、可哀想だろ」

ー 教室 ー

男友「それにしても、男は女さんのどういうところが好きになったんだ? どこに惚れたんだよ?」

男「やっぱりそれは……明るくて、素直なところかな?//」

男友「そうか……。俺と同じなんだな……」ボソッ

男「えっ! 男友、ひょっとしてお前も……」

男友「ああ。俺もそうだよ。明るくて素直なところが俺のいいところかな」

男「お前は俺を苦しめて何が楽しい」


男友「まあ、安心しなって、男。女さんを盗る気は俺にはないからさ」

男「女さんとほとんど話した事のないお前がどんな心配してるんだ」

ー 廊下 ー

女友「でもさ、女。それだったら何で昨日わざわざ自分から、男君と一緒に帰ろうとか言い出したの? 帰り道が一緒って訳でもないのに」

女「だって……/// 男君と仲良くなれば、いつも一緒にいる男友君とも色々話す機会が出来るんじゃないかなって思ったから……///」モジモジ

女友「想像以上にバカで悪魔だったよ、この子」


女友「という事は、女は男友君の事が好きなの?」

女「うん!/// 一目惚れだったの!///」

女友「声が大きい。ここ廊下だぞ」

女「ウン、ヒトメボレダッタノ」

女友「小声で言えと誰が言った」


女友「つまり、言い方は悪いけど、女は男君を利用しようとして近付いたって事か?」

女「うん! その通りだよ!」

女友「少しは悪びれような。純真無垢な顔して言うんじゃないよ」ペシッ

女「いたっ。何で叩かれたの、私??」

ー 教室 ー

男「あーあ、参ったなあ……。今日、女さんと会うのが少し怖いよ……。部活、休んじゃおうかな……」

男友「そして、明日も休む事になると……。典型的なダメ人間への第一歩だな」

男「自分の事は棚にあげちゃったな」


男「男友……今日ぐらいはお前も付き合えよ。幽霊部員」

男友「そして、帰りにはフラれたお前が屍部員になっていると」

男「マジで容赦ねえ」

ー 廊下 ー

女「ねえ、女友。私がした事って、ひょっとしていけない事だったの?」

女友「いけないとまでは言わないけどさ……あまり良くない事だとは思うよ」

女「そうなんだ……。わかった! じゃあ、男君とはもう金輪際話さないようにするね!」

女友「待て! それは逆に良くない!」


女友「なんつーか……。女はちょっと他人にも自分にも正直過ぎるんだよね。策略を巡らすタイプの方がまだ可愛げがあるよ」

女「じゃあ、策略を巡らしてみるよ!」

女友「まだって言っただろ、まだって。ドブ川に突き落とすぞ?」

女「女友が怖いよ!」

女友「私はお前の方が怖い」

ー 教室 ー

男友「とは言っても、俺は本当に今日用事があって、部活には出れないんだよね」

男「普段は?」

男友「パーティーの準備をしなきゃいけないからさ」

男「年がら年中お祭りなの、男友の家?」


男友「どうする? 男が会いづらいって言うなら、昼休みにでも俺が女さんのところに行って昨日の事を聞いといてやろうか? 一応、同じ部活だから少しぐらいは話しをした事あるしな」

男「……念の為に聞くけど、どうやって尋ねるつもり?」

男友「男の事をどう思っているかって」

男「変化球を覚えようか」

男友「男が女さんの事を好きらしいんだけど、その事についてどう思ってるかって」

男「死球を覚えてどうする」

男友「男から頼まれて、昨日の事について聞きに来たんだけどって」

男「もう少しひねろうか」

男友「うん」グイッ

男「フォームじゃねーよ」

ー 廊下 ー

女友「はぁ……もう……。女がこんな調子じゃ仕方がないか……。私が昼休みにでも男君のところに行って、昨日の事について上手く言っておくよ」

女「なんて言うの?」

女友「んー……。まだそういうのはわからないから、今まで通りお友達のままでいましょうね、的な感じかな」

女「誤魔化すのは良くないと思うよ?」

女友「友達ですらなかったのか?」


女友「とにかく、私も同じ部活なんだし、男君とはそれなりに話すんだから、変な雰囲気になったら気まずいでしょ。女に任せておいたら、大変な事になりそうだし」

女「大変な事になったら、私も困るんだよね?」

女友「何で今、困ってないんだ、おい」

女「代わりに女友が困ってるから」

女友「身代わりの術かよ、これ」

とりあえず女はクズなのでさっさとしね

ー 昼休み ー

ー 教室 ー


男友「さてと……メシも食ったし、男の為にそろそろマウンドに立ってくるか」

男「なに、この、胸に込み上げてくる微妙なイラつき感」

男友「大丈夫だ、男。俺に任せとけ。きっちり逆転満塁サヨナラホームランを打たれてくるから安心しろ」

男「それは期待していいの、俺?」

男友「奇跡を待つより捨て身の努力ってやつだな」

男「かなりピンチだって事はよくわかった」

ー 廊下 ー

女友「じゃあ、女は一応ここで待っててね。今からちょっと行ってくるから」

女「頑張ってね、女友!」

女友「なに、この、胸に込み上げてくる微妙なムカつき感」

女「女友ならきっとやれるよ! ファイト!」

女友「確かにお前を今すぐ蹴り飛ばしたい」

女「女友の健闘を祈ってるね!」

女友「聞けよ、人の話を」

ー 教室 ー

ガラガラ……

女友「」キョロキョロ

女友「いた」


女友「男君、ちょっといいかな?」

男「あれ、女友さん。どうしたの?」

女友「昨日の事でちょっと話があってさ」

男「昨日?」

女友「女の事って言えばわかるかな?」

男「えっ!」

ー 廊下 ー

ガラガラ……

男友「さてと……女さんの教室は……」

女「あれ? 男友君! 久しぶりー!」

男友「あれ? 女さん?」テクテク


男友「良かった、丁度今、女さんを探してたところだからさ」

女「えっ///」ドキッ

男友「ちょっと話がしたいんだけどいいかな?」

女「うん。ちょっとと言わず、ずっとでもいいよ!」

男友「ずっとはいいかな、少しでいいよ」

女「あっ、うん……」シュン

ー 教室 ー

女友「……って話になってさ。それで女の代わりに私が来たのね」

男「ああ、うん、そういう事か」

女友「それで女からの返事というか答えなんだけど……」

男「うん……」ドキドキ

女友「全部、保留って事にしといてくれないかな? 女も自分の気持ちがよくわかってないみたいだし(ごめん、男君、嘘ついて……)」

男「保留、か……(良かったような、良くなかったような)」

ー 廊下 ー

女「で、男友君。私に話って何の話?」

男友「ん? ああ、なんか今日、男がやけに元気がなかったからさ。女さん、何か理由を知らないかなって」

女「男君? 元気がないの?」

男友「うん。で、昨日、男と女さん、一緒に帰ったって聞いたから。その時、何かなかった?」

女「あったよ」

男友「うん」

女「…………」

男友「…………」

女「あったよ!」

男友「ああ、大丈夫。聞こえてるから」

ー 教室 ー

女友「ところでさ、男君」

男「何?」

女友「あのさ、一応、確認したいんだけど……。男君って女の事が好きなんだよね?」

男「えっと///」

女友「うん。大体もうわかった」


男「まあ、今更隠してもしょうがないか。……そうだよ///」

女友「ああ、やっぱ、そうなんだ」

男「うん///」

女友「だよね。女、可愛いしね。その……あまり力にはなれないかもしれないけど、私も応援するよ。……が、頑張ってね!」

男「そう? ありがとう、女友さん」ニコッ

女友「あ、うん……。じゃあ、私はこれで……(うう……そんな笑顔を見せられると、罪悪感が半端ないよ……)」

女友(ごめん、男君!)タタタタッ

ガラガラ、ピシャン……

男「……女友さん。いい人だよなあ」

ー 廊下 ー

男友「で、何があったの?」

女「それは女友に口止めされてて言えないの」

男友「女友さんに?」

女「うん。話さない方がいいって」コクン

男友「へえ……(どういう事だろ?)」

女「あっ、でも、それ以外で私が男友君の力になれる事があったら、何でも話すよ///」

男友「そっか。………………じゃあ、男の事を好きか嫌いか教えてくれる?」

女「好きでも嫌いでもないかな?/// わりとどうでもいいよ///」

男友「……oh my god……」

女「?」


女友「…………jesus……」

ー 教室 ー

ガラガラ……

男友「ただいま……」

男「おう、お帰り」

男友「男、例の件だけどな」

男「うん?」

男友「いい知らせと悪い知らせの二つがあるんだ。どちらから聞きたい?」

男「二つ?」

男友「そう。二つ。俺的には悪い知らせから聞いた方がいいと思うけど」

男「じゃあ逆で」

男友「男、本当にそっちからでいいのか? 後悔しないか? 取り消すならマジで今の内だぞ」

男「なに、その深刻な感じ。ちょっと怖いんだけど」

ー 廊下 ー

女友「おい、こら、女」

女「何?」

女友「とりあえず蹴るからな」

女「何で!? 嫌だよ!」

女友「大丈夫、手加減はしてやる」

女「ホントに!?///」


女友「」ゲシッ!

女「痛い! やっぱり痛いよ! 何するの!?」

女友「それはこっちのセリフだよ! 私の心は痛みっぱなしだよ、さっきから!」ゲシッ! ゲシッ! ゲシッ!

女「私のお尻も痛みっぱなしだよ、さっきから! 痛い! 痛いってば! ふぎゃっ!」

ー 教室 ー

男「……で、いい知らせって何?」

男友「……さっき女さんから直接聞いたから間違いないけどな。女さん、お前の事が好きだってさ」

男「!?///」ガタッ

男友「おいおい、落ち着けよ、男。気持ちはわかるけどさ」

男「でも、さっき、女友さんが来て、まだわからないとかそんな事言われたんだけど?///」

男友「女心は変わりやすいもんだぜ」

男「いや、五分も経ってないのに。逆にすごい心配だよ、俺」

ー 廊下 ー

女「ああ、もう、ひどいよ。全部、女友のせいだからね……」グスン

女友「それ、男君と私のセリフだな」

女「おかげでお尻が痛いよ……」グスン

女友「しかもそっちか、テメ、こら」


女「女友、何で急にこんなひどい事したの?」

女友「だから、それは男君と私のセリフだっつーの」

女「仲いいね!」

女友「ごめん、やっぱもう一発いっとくわ」

女「ひえっ!」

ー 教室 ー

男友「とにかく、良かったな、男。これでめでたく両想いだぞ」

男「そうだな/// ありがとう、友!」

男友「いや、俺は大した事はしてないから気にするなよ。本当におめでとう、男!」

男「ああ、すごい嬉しいよ!///」


男「で、一応聞くけど、悪い知らせって何だ? 今の俺なら何を聞いても平気だぞ!」

男友「悪い知らせの方は、良い知らせが全部俺の嘘だって事だ」

男「うおおおおおおおおい!!!」

男友「更に、女さんが、男の事はどうとも思ってないし、わりとどうでもいいと言っていた」

男「ぬわあああああああっ!!!」

ー 廊下 ー

女「今度は足がジンジンする……」グスン

女友「私の心はさっきからズキズキしてるよ」

女「女友、いい人だから」

女友「何でお前は心が痛まない」

女「だって、私、質問されたから正直に答えただけだよ?」

女友「うん。正論吐かれると返す言葉がないね」


女「そもそも嘘をつくのは良くないと思うんだよね」

女友「元凶のくせして話の前提から覆しやがったよ」

女「嘘をついてまで得られる物は少ないと思うんだ」

女友「失う物も数えろ」

女「嘘つきは泥棒の始まりって言うし」チラッ

女友「おまけに私を泥棒扱いか、おい」

ー 教室 ー

男「ダメだ、さっきのはダメージがでかすぎる…………」

男友「だから、悪い方の知らせから聞けとあれほど」

男「元凶のくせしていばり始めたよ、くそ…………」

男友「嘘も時には必要だと思うんだ」

男「場合を選ぼうか…………」

男友「選んだつもりだったんだけどな……。悪い知らせしかないって先に聞いたらショックだろ?」

男「殺すなら一思いに殺せ…………。なにその中途半端な優しさ…………」

男友「嘘も方便って言うしさ」

男「それなら、最後までつき通せよ…………」

男友「いや、それは流石にバレるし」

男「結局、何がしたかったんだ、お前は…………」

ー 廊下 ー

女友「はぁ……。もう男君に会わせる顔がないよ……」

女「女友、落ち込まないで! 私で出来る事があったら何でもするよ!」

女友「お前のせいだぞ、おい。痛めつけた後に優しくするとか、洗脳作業かよ、これ」

女「私のせいなの?」

女友「うん」

女「ごめんね、女友……。私、どうすればいいかな……?」シュン

女友「どうもしないで。それが一番いいから」

女「わかった! 女友の為に何もしないね!」

女友「ちくしょう。なんだか悔しい」

ー 教室 ー

男「はぁ…………。もう女さんと顔あわせるのも辛いよ、俺…………」

男友「辛い事から逃げ出してちゃ、人として成長出来ないぞ。どんなに辛い事だろうと現実とちゃんと向き合えよ」

男「どの口がそれを言う…………」

男友「男がもっとモテるやつだったら、俺もこんな事を言わずに済んだんだけどな……」

男「理不尽さを感じるけど当たってるから反論出来ないのが悔しい…………」

男友「元気出せよ、男。女なんてフラれる為にいるようなもんなんだから」

男「慰める気があるなら、せめてもっと本気を出して慰めてくれ…………」

ー 授業終了後 ー

ー 廊下 ー

女友「はぁ……。私、今日、男君とどう顔会わせていいかわかんないから、悪いけど部活休むよ」

女「ホントにごめんね、女友……。私、こんなつもりじゃなかったんだけど……」

女友「あっ…………ううん。こっちこそごめん、女はそこまで悪くないのにね。八つ当たりだね、きっとこれ……」

女「そんな! 八つ当たりだったなんて、ひどいよ、女友!」

女友「雰囲気ぶち壊しか、おい」

ー 教室 ー

男「ふぅ…………」トボトボ

男友「あれ? 男、部活はどうしたんだ? サボる気か?」

男「俺に行けと?」

男友「顔が般若になってる」


男「いや…………。流石に今日は女さんと会いたくないからさ。休むよ」

男友「あまり落ち込むなよ。この後にはお前の残念会が待ってるんだからさ」

男「それで励ましたつもりか、お前」


男友「……ま、とにかくさ、今日の夜は俺の家に来いよ。パーティーの準備して待ってるから」

男「ひょっとしてパーティーってホントだったの?」

男友「うちの親も心配してたからな。男の為に甘酒と七面鳥を用意しとく、って言ってたし」

男「なにその組合せ。てか親にまで伝えちゃったの」

ー 帰り道 ー

男「はぁ…………」トボトボ

女友「はぁ…………」トボトボ


男「……辛いなあ」トボトボ

女友「……辛いなあ」トボトボ


男「……明日からどう女さんと顔会わせればいいんだろう」トボトボ

女友「……明日からどう男君と顔会わせればいいんだろう」トボトボ


男「!?」

女友「!?」


男「女友さん!? 部活は!?」

女友「男君!? 部活は!?」

ー 事情説明後 ー

男「ああ、そっか……。それで嘘を……」

女友「本当にごめんね、男君」シュン……

男「いや、気を使ってくれたんだろうから、女友さんは悪くないよ」

女友「でも、逆に傷つけちゃって……」シュン……

男「気にしないでいいよ。それに、遅かれ早かれどうせわかる事だったろうし」

女友「うん……ごめん……」シュン……

男「それに、例え女さんが、今、俺の事に全然興味がなくても、その内、好きになってくれるかもしれないからさ……。今、好きな人がいるなら話は別だろうけど」

女友「oh……no……」

男「そういえばさ、女友さん」

女友「な、何?」アセアセ

男「女さんに、今、好きな人いるかどうか知ってる?」

女友「天然の苦行僧かよ、おい……」ボソッ

男「?」


男「どういう事?」

女友「男君……その……。質問に答える前に、先に一つ私から質問してもいいかな?」

男「何?」

女友「男君は女のどういうところが好きになったの?」

男「えっ……その……/// ……明るくて素直で正直なところかな?///」

女友「正直か……。わかった。私も腹をくくるよ」

男「いきなり、何?」

女友「女に好きな人はいる」

男「えっ………………」

女友「しかも、それは男友君」

男「………………なに、この展開、死にたい」

男「……」グスン

女友「あの、男君……元気だして……」

男「うん……」グスン

女友「今日はさ……悪い事ばっかりだったから、明日からはきっといい事しかないよ」

男「うん…………」グスン

女友「これ以上悪いようにはならないから」

男「うん………………」グスッ、グスッ

女友「私で良ければいつでも慰めてあげるよ。辛くなったら電話してきなよ」

男「うん……………………」グスッ、グスッ

女友「男君…………大丈夫……?」

男「大丈夫……大丈夫だから…………」グスン

ー 夜 ー

ー 男の家 ー


プルルル、プルルル

男「……はい」ガチャ

女友『もしもし……男君?』

男「ああ、うん。どうしたの……?」

女友『ちょっと心配になってね。こっちからかけちゃった。……迷惑かな?』

男「そんな事ないよ、ありがとう」

女友『少しは元気になったかな……? あの時の男君、結構ヤバかったから』

男「まあ、うん……」

女友『ホントに大丈夫……?』

男「うん……多分」

女友『……声にやっぱり元気ないね』ハァ……

女友『男君。ご飯とか、ちゃんと食べた? 食べないと元気出ないよ』

男「うん……。食べたよ」

女友『何食べたの? 言っとくけど、お菓子とか、そんなのはご飯の内に入らないよ』

男「甘酒と……七面鳥を」

女友『コノヤロウ、なにがっつり食べてんだ。私の心配を返せ』

男「いや、そうじゃなくて。なんか、残念会みたいなの開いてくれたからさ。それで……」

女友『……ああ、そうなんだ、ごめん……。まあ、そういう痛い事をするのも時には悪くないと思うよ』

男「止め刺すの、ここで」

女友『それでどうだったの、残念会?』

男「何でそこを拾うのさ」

女友『だって、男君の事を心配してわざわざ開いてくれたんでしょ? そういう事をしてくれる友達、そうはいないよ。いい友達がいて良かったねって』

男「今日の中で、最もきつい一言かな……」

女友『?』


女友『なんか、聞いちゃまずかったの?』

男「残念会……開いてくれたの、男友だから」

女友『…………一種の拷問か』

男「まだチャンスはあるから、諦めんなって励ましてくれたよ」

女友『…………ちょっと夜襲してくる』

男「いや、待って、落ち着いて」

男「男友も悪気があってした訳じゃないから」

女友『悪気があってしてたら、刺されても文句を言えないレベルだよ』

男「あいつはバカだけど、悪いやつじゃないんだ。それだけは確かだよ」

女友『別の意味で、その気持ちすごいわかる』

男「だから、俺の事はもうすっぱり諦めて、女さんの恋の応援をしようかなと。案外、男友とお似合いかもしれないと思ってさ」

女友『ごめん、私の方がなんか泣けてきた』グスッ……

男「女友さんもさ、協力してくれるかな?」

女友『望むところだよ!』

男「ありがとう。女友さんってホントにいい人だよね」

女友『そのセリフ、ノシつけて返すよ……』グスッ

男「何か気にさわる事言った、俺?」

ー 翌日 ー

ー 教室 ー


男「男友……ちょっといいか?」

男友「ん? 何?」

男「今度の休み、女さんとダブルデートする気ないか?」

男友「ダブるデート?」

男「留年するデートみたいになってる。発音おかしい」

男友「Doubleでー、と」

男「今度は関西人に変わった」

男友「Double date」

男「うん。良く出来ました」

男友「Repeat after me」

男「それはいらない」

ー 廊下 ー

女「つまり、私と女友とで二回デート?」

女友「何が悲しくてお前と二回もデートしなきゃいけない」

女「わからないから、デートするかしないかは一晩じっくり考えてみるね!///」

女友「私を焦らしてどうする、リトルデビル」


女友「実は男君からの提案でね。女と男友君との仲を取り持ってあげようかと」

女「男君、スゴイいい人!///」

女友「全くだよ。いい人過ぎて昨日泣けてきたよ」

女「私、お礼に何したらいいかな?/// 私で出来る事だったら何でもしてあげたい///」

女友「それ、もう誘い文句になってるから。本人の前では絶対に言うなよ」

ー 教室 ー

男友「ふーん……。女さんの事はもうすっぱり諦めたんだ」

男「まあ、そういう事。それで最後の思い出作りって訳じゃないけど、吹っ切る為にも水族館に遊びに誘おうかと。二人きりだとあれだから、四人でって事で」

男友「俺と男と、男と女さんか。……あれ、一人足りなくないか?」

男「というか、お前とデートはおかしい」


男友「……ああ、女友さんも来るんだ」

男「女さん一人だと来づらいだろうからって。昨日の夜、電話で女友さんとそんな話になってね」

男友「へー、偶然だな。俺も昨日の夜、女友さんと少し話をしたよ」

男「何の話をしたんだ?」

男友「天誅とか、そんな話」

男「夜襲くらったのか」

ー 廊下 ー

女「ねえ、女友! 私、ダブルデートとか初めてなんだけど、どうしたらいいかな?///」

女友「普段通りにしてればいいんじゃない?」

女「男君とどうでもいい会話をするって事?///」

女友「死者にまだ鞭打つつもりか、おのれは」


女友「そこらへんは、私と男君とで適当にうまくやるから、女は何も考えない方がいいよ。うまい事二人きりになったら、その間に男友君とどうでもよくない会話をしなよ」

女「わかった、そうするね! ありがとう、女友!///」ギュッ

女友「暑苦しいから近寄るな、巨乳。ポヨンポヨンしてて腹立つ」

女「女友の胸は貧相だからね!」

女友「せめて、控え目とかオブラートに包めよ、おい」

ー 教室 ー

男友「それで、昨日の夜、いきなり女友さんが訪ねてきて、悪いけど男君の事で天誅を食らわすとか言われてさ」

男「そうか」

男友「理由は言えないが、とりあえず一回蹴らせろと言われたな」

男「恐ろしく理不尽」

男友「少し考える時間が欲しいから、返事は明日でもいいかな? って答えたら無言で思いっきり尻を蹴られた」

男「保留するお前もどうかと思う」

男友「のたうち回る俺を上から見下ろして、赤い月を背中に女友さんは、次にまた同じような事をしたら私は必ず尻を蹴りに来ると」

男「カッコいいのか悪いのか」

男友「最後に、この事を男君に話してもまた来る、と言って女友さんは悠然と去っていったよ」

男「とりあえず、今すぐケツにフライパン入れとこうか」

ー 廊下 ー

女「それにしても、男君と女友、やっぱり仲良かったんだね///」

女友「お互いつきあうのが大変な友人のせいでそうなった」

女「私のおかげだね!///」

女友「何で嬉しそうなんだ、オメーは」


女「ね、女友。この際、男君と付き合っちゃいなよ///」

女友「それ、私がスゴい策略家みたいな感じにならないか? 失恋の痛手を狙って落とすとか嫌だぞ」

女「付き合う事自体は嫌ではないんだ?」

女友「別に嫌いじゃないからね、男君の事」

女「だけど、好きでもないと」

女友「言葉にすると身も蓋もなくなるからやめようか」

女「言葉にしないと伝わらないよ?」

女友「結構、正論吐くからこの子困る」

ー 教室 ー

男友「それにしても、昨日の女友さん、男の事でかなり怒ってたみたいだったな。何を怒ってたのかは謎のままだけど」

男「一番大事なところスルーでいいのか?」

男友「ひょっとして女友さん、お前に気があるんじゃないのか?」

男「いや、多分、それはない」

男友「そうか? 多少は気がなきゃ、夜中にわざわざ人の尻を蹴りに来ないとは思うけどな」

男「改めて聞くとどういう状況だ、それ」


男「多分、女友さんはいい人過ぎるんだよ。他人の痛みを自分の事以上に感じるような人だと思う」

男友「尻を思いっきり蹴られたけどな、俺」

男「それはお前が悪い」

男友「そうか……俺が悪いのか……。今から女友さんのところに行って謝りに行った方がいいかな?」

男「どう言って謝る気だ?」

男友「昨日は尻を蹴らせるような事をして、申し訳なかったと」

男「なにそれ、酔った勢いで部下に蹴る事を強要したドMの上司みたい」

ー 廊下 ー

女友「あのさ……前に女には勧めてあれだけど、やっぱり付き合うとかってとりあえずでするような事じゃないと思うんだ。好き同士じゃないとダメだと思う。でないと、相手にも悪いし失礼だよ」

女「お互い好き同士になれば問題解決だよ?」

女友「悩みなさそうで羨ましい。いや、羨ましくはないけど」

女「どっちなの、女友?」

女友「そこ、掘り下げるところじゃないから」

女「じゃあ、どこを掘り下げればいいの?」

女友「掘り下げなきゃ死ぬのか、お前は」


女友「……とにかく、この話はここまで。女は私の事なんか放っておいて自分の事だけ考えなよ。折角のチャンスなんだから」

女「そうだね! そうする///」

女友「ちょっとぐらいはためらえよ。悲しくなるだろ」

ー 教室 ー

男「まあ、女友さんについては、男友は謝りに行かない方がいいと思うし、むしろ何もしない方がいいと思うぞ。でないと、また尻を蹴られかねないからさ」

男友「俺の尻のためにもそうするよ」

男「なんか、もうちょっと深刻な話をしてたはずなんだけどな……」

男友「俺の尻の危機だぞ? 深刻じゃないのか?」

男「ごめん。深刻だった」


男友「……まあ、何にしろ水族館には行くよ。尻の件もあるし」

男「いい加減尻から離れたい」

男友「男の思い出作りの為にもな」

男「尻の後に取って付けた様に言われても」

男友「どうせなら楽しい思い出にしようぜ」

男「もう尻しか思い出せない気がする」

ー 休みの日 ー

ー 駅前広場 ー


女友「」タタタタタッ……

女友「男くーん」

男「あっ、女友さん」

女友「ひょっとして待ってた? 結構早めに来たつもりなんだけど」

男「ううん。大丈夫だよ、まだ、待ち合わせ時間まで10分以上あるし」

女友「そういえば、他の二人はまだ来てないね」キョロキョロ

男「ああ、男友はたいてい時間きっちりに来るから」

女友「それ、女もだね。まっ、丁度いいか」

男「?」

女友「今日の予定。あの二人をくっつける作戦を一つ考えてきたからさ」

男「それなら俺も一つ考えてきたよ」

男&女友「どんな作戦?」

男&女友「アシカ作戦」

男&女友「ん?」

男「……その……女友さんの考えたアシカ作戦ってどんな作戦?」

女友「作戦って言えるほどのものじゃないけど、とりあえず女と男友君を二人きりにした方がいいかなと。男君も、二人が仲良さそうにしてるところ見るの、辛いでしょ?」

男「そうだね。出来れば見ない方が助かるかな、やっぱり……」

女友「だから、アシカのショーを二人で見せたらどうかなって。女、アシカ好きだって言ってたし」

男「男友もアシカ好きだから。というか、俺の考えてた作戦と全く同じ」

女友「偶然だけど都合がいいね。じゃあ、それで決まり」

男「それじゃ俺たちは適当に理由つけて、先にあの二人をアシカショーに行かせて……」

女友「私たちは別のところで待ってて、そのまま行かないようにすればいいと」

男「うん。そんな感じでいいと思う」

女友「OK。それでいこっか」

ー 10分後 ー

女「おはろー!」トコトコ

女友「おはろ。女にしては珍しく時間より早いね」

女「ホント!? ごめんね、もう少し時間を潰してくるから!」クルッ

女友「ちょっと待て、こら、バカヤロウ」ガシッ

男「いや、早く来すぎた俺たちも悪かったし」

女友「ばっさり裏切られたよ、ひでえ」


ー その二分後 ー

男友「おーす」トコトコ

男「お前は時間ぴったりだな、相変わらず」

男友「すぐ向こうの物陰で、まだかまだかと来るタイミングをはかってたからな」

女友「何でそんなに時間厳守したがるんだ、バカヤロウ」

女「時間をきっちり守ったのにバカとかひどいよ、女友!」

男友「時間は守らなきゃいけないって教えられたからさ、俺。女友さんはそうやって教えられなかった?」

男「まあ、時間通りに来たのにバカはちょっとひどいかな……」

女友「私が悪いみたいになってる、なにコレ辛い」

男「じゃあ、全員揃った事だし、そろそろ行こうか」

男友「みんなの分の切符はもう買っておいたからさ。はい」

男「サンキュー、流石だな」

女「ありがとう、男友君!///」

女友「ありがとう。意外にも気が利く。少し見直した」

男友「なにせ待ってる間、めちゃめちゃ暇だったからな」

女友「ふざけんな、バカヤロウ。私からの評価、さっきから下がりっぱなしだぞ、おい」

女「切符をわざわざ買っておいてくれたのに、何でそんな事言うの、女友!」

女友「また私が悪くなるの!? おかしくない、コレ!?」


女友「」チラッ……

男「……」

男「ん、まあ、気が利いてたのは確かだから……」

女友「四面楚歌だよ、ちくしょう。今すぐ瓦割りたい」

ー 水族館 ー

ー 巨大水槽前 ー


女「わあー!/// 見て見て、女友! あれ、シロナガスクジラだよ!」

女友「いるわけねーだろ、バカヤロウ。そいつはミンククジラだ」


男友「おい、男!/// あれ、シロナガスイルカだぞ!」

男「何でもかんでもシロナガスをつければいいってもんじゃないぞ。あれはシナウスイロイルカだ」


女友「はぁ……。二人とも何であんなに大はしゃぎ出来るんだろう……」

男「男友はいつもの事だけど? あいつ、水族館大好きだし」

女友「女が水族館好きかは知らないけど……まあ、あのテンションはいつもとそんな変わらないか……」

男「そうだね。まあ……楽しそうでなりよりだけど…………」

女友「……見てて複雑ってところ?」

男「多少は」

女友「……少し離れる?」

男「うん。そっちの方がいいかな……」

女「見て見て、男友君!/// あれ、シロナガスシャチだよ! スゴい可愛い!///」

男友「ホントだ! デケー!/// カッコいい!///」

女「こんなおっきいのに可愛らしい感じがいいよね!///」

男友「だよな! こんなでっかいのに大人しい感じがスゴくいい!///」

女「わかる!/// それスゴいわかる!///」


男友「あっ、こっち来た!///」

女「ホントだ!/// こっち来た!///」


男友「…………」

女「…………」


男友「……途中でいきなり方向転換とかないわ…………」

女「……期待させといてひどい…………」


男友「あっ、またこっち来た!///」

女「ホントだ!/// またこっち来た!///」

男「…………」

女友「…………」


男「あっ、ハラジロイルカだ……こっち来た」

女友「そうだね」

男「うん」


女友「…………」

男「…………」


女友「……なんか、男君の方にばっか寄ってくるんだけど?」

男「気に入られたのかな?」

女友「さあ?」

男「そうだといいんだけどね」

女友「だね」


女友「…………」

男「…………」


女友「なんかさ……。男君って、天然のなごみ系だよね。一緒にいると自然と落ち着く。……女だったらさぞかしモテたと思うよ」

男「今、誉められたんだよね?」

女友「誉めたくはなかったけどね。女としてなんか悔しいから」

男「なんというか、返事に困る」

女友「そういう時は、とりあえずシロナガスをつけとけばいいよ」

男「なんというか、シロナガス困る///」

女友「マジか、おい」

ー ペンギン水槽前 ー

女「男友君!/// あれ、キングペンギンだよ! 可愛いー!///」

男友「おおっ!/// こっちにはエンペラーペンギンが!」

女「キャー!/// ロイヤルペンギンもいるー!/// 」

男友「あっ、フンボルトペンギン…………」

女「ホントだ…………」

男友「うわい!/// スネアーズペンギン!///」

女「ホントだ!/// 超激レア!///」

男友「あっ、飼育係の人…………」

女「寒そうだよね…………」

男友「ヒゲペンギン、いたー!///」

女「こっちにはマカロニペンギンもー!///」

男友「ガラパゴスペンギン、来たー!///」


女「三匹ともイワトビペンギンが追い出しちゃった…………」

男友「しかも、残ったのはマゼランペンギンばかりだよ、ひでえ…………」

ー チョウチンアンコウ水槽前 ー


男「女友さん。チョウチンアンコウだね」

女友「そうだね」

男「うん」


女友「…………」

男「…………」


女友「なんか女の子らしく、カワイーとか言った方がいい?」

男「可愛いの、これ?」

女友「ううん、全然」

男「なら、言わなくてもいいんじゃない」

女友「そう?」

男「うん」


女友「…………」

男「…………」


女友「カワイー」

男「何で言ったの?」

ー もうすぐアシカショーの時間 ー

男友「男! 早く来いって! アシカは待ってくれないんだぜ!///」

女「女友! 早く! アシカが待ちくたびれちゃうよ!///」

男「わかってる、わかってる。今、行くから」

女友「……どれだけアシカ好きなの、あの二人」


ピンポンパンポーン♪

『まもなく1Fアシカプールにてアシカショー午後の部が始まります。繰り返します。まもなく1Fアシカプールにて……』


男友「ヤバいぞ、男! 最前列のいい席がとられちまう!」アセアセ

女「マズイよ、女友! かぶりつきがとられちゃうよ!」アセアセ


男「あっ、ごめん。その前にちょっとトイレ行ってくるから(棒) 悪いけど先に行ってて」

女友「あっ……ごめん、女。靴紐がほどけちゃった(棒) 先に行っててくれる?」

男友&女『OK! わかった!』ダダダダダッ


男&女友『……これで良しと』

ー 2F 休憩所 ー

女友「……それにしても、男友君と女、すっかり意気投合しちゃったね」

男「意気投合というか、なんというか」


女友「……ああいうの見てるの、やっぱ辛い?」

男「…………まあ、うん」

女友「泣きたくなったら、泣いてもいいんだよ?」

男「そこまでじゃあないけど……」

女友「けど?」

男「心がモヤモヤして……感情外に出さないようにするのが大変かな……」

女友「……男君、無理しすぎじゃない? もう少し気持ちが整理されてからこういう事すれば良かったのに……」

男「うん……。でも、すぐにじゃないと未練が残りそうな気がしたから。それにこのままにしといたら、男友の事、段々嫌いになりそうで怖かったし」

女友「まあ、恋の炎ってのは何でも燃やし尽くしちゃうからねえ……」

男「思わぬ人からスゴい意外なセリフ」

女友「優しくしてやればつけあがりやがって、コノヤロウ」

ー 1F アシカプール ー

女「男友君、ここにしよう!/// ここ!」

男友「そうだね!/// そこにしよう!///」

ストッ


女「///」ワクワク

男友「…………」


男友「女さん、やっぱりこっちの方が見やすくないかな!/// こっちにしよう!」

女「そうだね!/// そっちの方が見やすそうだよね!」

ストッ


男友「///」ワクワク

女「…………」

ー 2F 休憩所 ー

女友「男君、ちょっとさっきの発言、失礼じゃないかい?」

男「でも、少なくとも自覚は持った方がいいと思う」

女友「ぐ……わかった。もう二度と言わない」

男「そうだね。そっちの方がいいと思うよ」

女友「フォローぐらいしろよ、ちくしょう」

男「あっ、でも、別に女友さんが女らしくないとか、そんなつもりで言ったんじゃないよ」アセアセ

女友「思わぬ方向からまた被弾だよ、おい」


男「……でも、そうだよね。恋の炎って何でも燃や……あっ、ダメだコレ、俺には絶対言えない///」

女友「更に辱しめまで与えるのか、オメーは」

ー 1F アシカプール ー

女「……男友君、今から大事な話があるんだけど」

男友「かつてないまでに真剣な顔。なに、いきなり」

女「あのね、この席は確かに見やすいと思うの。でも、あまりに中央過ぎて、アシカショーのお手伝いを選ぶ時にアシカトレーナーさんが選ぶのをためらうんじゃないかとも思うの」

男友「あっ……! 言われてみれば確かに」

女「それに逆光になってるから、ここだときっとアシカトレーナーさんの目につきにくいと思うんだよね。これはもう致命傷だよ」

男友「そっか……そうだよな。そこまで考えてなかったよ、ごめん」

女「ううん、いいの。男友君、わかってくれたから!///」

男友「今からでも遅くはないな。移動しようか」

女「うん!/// 二人でベストの席を探そう!」

ー 2F 休憩所 ー

男「まあ、それは置いとくとして」

女友「軽い感じでなかった事にするのか、コラ」

男「えっと……大丈夫だよ。女友さんが、俺に気を使ってそういう事をわざと言ってくれたってのはわかってるからさ」ニコッ

女友「勘違いされて涙が出そう。こんな気持ち初めて」


男「……で、話を戻すけど、男友と女さん、上手くやってるかな。もうそろそろアシカショーが始まる時間だけど」

女友「ああ、うん、そうだね。どうせ女の事だから、アシカに夢中で、男友君と二人きりだって事にも気付いてないだろうからさ。ちょっとメール打っとくか」

ピッピッピッ……

女「……送信終わりと」

男「何て打ったの?」

女友「今、男友君と二人きりだから、どうでも良くない話をしろと」

男「何でそんな遠回しな言い方なの?」

ー 1F アシカプール ー

ピピピピ、ピピピピ

女「あれ、女友からメール?」


女「えっと……(えっ! ホントだ! いつのまにか男友君と二人きり///)」

女(チャンスだね、これは!///)

男友「?」


男友「どうしたの、女さん?」

女「あ、あのね、男友君!///」


『皆さん、大変お待たせしました。それではこれより、アシカショーを始めます』


男友「待ってました!///」パチパチ

女「きゃー!///」パチパチ

ー 2F 休憩所 ー

『皆さん、大変お待たせしました。それではこれより、アシカショーを始めます』


男「始まったか……」

女友「みたいだね」

男「女さん、上手くやってるかな……」

女友「内心ではフラれてしまえとか、思ってない?」

男「10%ぐらいは思ってるかも」

女友「正直だね。そういうところ、嫌いじゃないけどさ」

男「正直が嫌いだったら、女さんとは友達になれないんじゃない?」

女友「そこらへんは似た者同士って事かな? 女といるとそりゃ苦労はするけど、絶対に嘘はつかれてないって思える分、かなり楽なんだよね」

男「男友は時々嘘つくけどね。……ちくしょう」

女友「何を思い出したんだ、おい」

ー 1F アシカプール ー

ピョーン

テケテケ


女「きゃー!/// 賢い!/// 可愛い!///」

男友「うおー!/// スゴい!/// 流石!///」


アシカトレーナー「…………」

観客「…………」


女「ね、ね、男友君!///」

男友「何? 女さん!///」

女「私ね、アシカの事大好きだよ!///」

男友「俺も大好きだよ!///」

女「ホントに!/// 嬉しい!///」

ー 2F 休憩所 ー

女友「まあ、男友君がどう思ってるかは知らないけど、女、何だかんだで積極的だから、興奮した勢いで今頃告白してるかもね」

男「告白か…………。なんか急に辛くなってきたな……」

女友「泣きたくなったら泣いてもいいんだよ? カッコつけたってカッコよくないんだからさ」

男「さらりと酷い事言われた」

女友「あっ、えっと、そういう意味じゃないから。男君は確かにそんなカッコよくないけど、カッコつけてもしょうがないって意味で」アセアセ

男「何これ、さっきの仕返し。ホントに泣きたくなってきたんだけど」

ー 1F アシカプール ー

女「ね、ね、男友君!///」

男友「何? 女さん!///」

女「私ね、アシカの事も好きだけど!///」

男友「うん!///」

女「でもね!/// アシカよりも、男友君の方が好きなの!/////」

男友「俺はアシカの方が好きだよ!///」

女「」

ー 2F 休憩所 ー

男「さてと……そろそろアシカショーも終わりだし、二人のところに行こうか」

女友「そうだね。放っておくと、女、迷子になりそうだし」

男「それにしても、複雑だな……。何かあっても微妙に嫌だし、何もなかったらそれはそれで嫌だし」

女友「娘の恋の応援をする父親の心境か」

男「それ、言い得て妙」

女友「とりあえず、否定する事から始めようか」

ー 1F 巨大水槽前 ー

男友「///」テクテク

女「」トボトボ…………


男「いきなり何かあった予感」

女友「それは予感じゃなくてほぼ完璧な推測だ、バカヤロウ」


男友「おー、男!/// すごかったな、アシカショー」テクテク

男「うん。でもその前に、男友、ちょっとこっち来ようか」


女「」トボトボ…………

女友「女……悪いけど少し話を聞かせてくれる?」

男友……

シロナガス面白い

ー チョウチンアンコウ水槽前 ー

男「なあ、男……。女さんとさっき何かあったのか?」

男友「あったよ」

男「うん」

男友「…………」

男「…………」

男友「あったよ!」

男「何で二回言った」

ー 巨大水槽前 ー

女友「女……アシカショーの時、何かあったの?」

女「」グスッ……ヒック

女友「女、泣かないで。一体、何があったの?」

女「私……私ね……」グスッ

女友「うん」

女「アシカに負けたの……」グスッ、グスッ

女友「何でアシカと格闘する事になったんだ、おい」

ー チョウチンアンコウ水槽前 ー

男「……で、女さんと何があったんだ?」

男友「それは言えない」

男「何で?」

男友「理由も言えない」

男「……?」

男友「あっ、でも、俺は女友さんには口止めされてないぞ!」

男「なに、ケツの心配してるんだ」

ー 1F 巨大水槽前 ー

女「ねえ、女友……私、どうやったらアシカに勝てるようになるかな?」グスッ

女友「体を鍛えろとしか言いようがないけど」

女「わかった……。頑張って鍛えてみる……」グスン

女友「何だったら、私が通ってる道場に来る?」

女「そうしたら、アシカに勝てるようになる?」グスン

女友「さあ……。誰も勝負した事ないだろうから、それはわからないけど……」

女「そうなんだ……」グスン


女友「……というか、さっき一体何があったの。もう少し詳しく話して」

女「あのね……あのね……」グスッ

ー チョウチンアンコウ水槽前 ー

男「とにかく、さっき何かがあったと」

男友「ああ」

男「そして、それは言えないと」

男友「うん」

男「それで女友さんに口止めはされてないと」

男友「そう」

男「何もわからないのと同じなんだけど」

男友「俺はわかってるから」

男「つまり、記憶を共有する装置を発明しろと」

男友「そんな事は言ってないけど」

男「うん、知ってるから」

女友「」ダダダダダッ、キキィ!

男「ん?」

男友「ん?」


女友「男友君、ちょっと話があるんだけどいい?」

男友「? いいよ」

女友「それと男君、悪いけどしばらくの間、女のところに行ってくれないかな? 女、今、一人だし、情緒不安定になってて心配だから」

男「女さんが? わかった、すぐ行く」タタタタタッ


女友「さて……これで邪魔者はいなくなったか……。男友君。覚悟はいいかい?」ゴゴゴゴゴ

男友「なに、この雰囲気。物凄く尻の危険を感じるんだけど」

女友「女を泣かせた罪、その尻で償ってもらうよ!」

男友「ちょっと待って! 心の準備が!」

女友「問答無用!!」


女友「せいやあー!!」ビュン!





ドッゴーンッッ!!!

ー 巨大水槽前 ー

女「」グスッ、グスッ……

男「女さん……! 一体どうしたの?」

女「……男君……?」グスン

男「何で泣いてるの、女さん!」

女「私ね、アシカ以上の存在じゃなかったの……」グスッ

男「そこまで自分を卑下するなんて……! 本当に何があったの?」

女「ううん。本当にそうだったの。嘘とかじゃないの」グスン

男「??」


\ ぐわああああああああああっ!!!! /


男「今の悲鳴は……!」

女「まさか、男友君!?」タタタタタッ!

男「あっ、待って! 俺も行くよ、女さん!」ダダダダダダッ!

ー ペンギン水槽前 ー

女友「」スタスタ……


女「女友! 男友君知らない!?」タタタタタッ

男「女友さん! 男友は!?」ダダダダダダッ


女友「……向こうで悶絶してる」


女「ありがとう、女友!」タタタタタッ

男「…………Oh」ダダダダダダッ


女友「二人とも、ちょっと待った!!」ズサッ


女「えっ!」キキィ!

男「えっ!」キキィ!


女友「こっから先は通さないよ!」


女「そんな!?」

男「なに、これ、どういう事」

女友「女、あの男友はダメだよ! あんなの好きになったら女が不幸になるよ!」

女「そんな事ないよ! これだけは絶対に間違ってないよ!」

男「……俺、かなり複雑なんだけど、コレ」


女友「そんな事あるよ! アシカの方が好きって言っちゃう最低男なんだよ、アレは!」

女「男友君は悪くないよ! 私もアシカ好きだもん! アシカの事を悪く言わないで!」

男「何でアシカについて議論してるの?」


女友「とにかく、男友の事はもう諦めなよ! あんな男、アシカと付き合ってればいいんだよ!」

女「アシカはみんなのアイドルだよ! 男友君が一人占めするなんてダメだよ!」

男「ダメだ、完全にわかんねえ、もう」

男「その……話の途中で悪いけど、女友さん。男友は俺の大事な友達なんだよ。あいつが尻をかかえて悶絶してるっていうなら、俺は助けにいかなきゃいけない」

女友「えっ、何で男君が男友君の尻の事を知っ」ハッ

阿修羅「……そうか。喋ったんだね、男友君」ゴゴゴゴゴ

男「女友さんがいつのまにか阿修羅になってる!」ブルブル

女「女友が本気を出してる! 怖いよ!」ブルブル


阿修羅「女、もう男友君の事はすっぱり忘れなよ」ゴゴゴゴゴ

女「嫌だ! 私は男友君の事が好きだもん!」

阿修羅「たかが一目惚れなんでしょ? それに、女だったらもっといい男がすぐに見つかるよ」ゴゴゴゴゴ

男「俺の立場って一体……」

阿修羅「とにかくここから先は一方通行だよ。どうしても通りたければ私を倒してからにしな!」ゴゴゴゴゴ


女「うう……!」ブルブル

男「くっ……!」ブルブル


男(ダメだ、足がすくんで動けない……!)

女(怖い! 怖いけど、でも……!!)


女「ええいっ!!」ダッ!

阿修羅「女!? あんた、蹴られたいの!?」

女「蹴られたくないよ!! でも、私よりも男友君の方が心配だから!!」グシュッ

阿修羅「な…………!」


女「待ってて、男友君!! 今行くから!!」タタタタタッ


阿修羅「………………くっ」

男「………………友情が愛情に負けるってこの事か……」

男「……女さん、強いな」

女友「……そうだね。私も流石に女を本気では蹴れないしね……」ハァ……

男「………………」


女友「…………その……男君、ごめんね……」

男「いや、俺に謝られても……。それに事情がまだよく飲み込めてないんだけど、俺」

女友「ああ……そっか……」


男「……で、何があったの?」

女友「……女がね、男友君から、アシカの方が好きって言われたって……」

男「俺にはしょっちゅう言ってるな、それ」

女友「それでいいのか、おい」

ー チョウチンアンコウ水槽前 ー

男友「ぬぐおおおおお……」ゴロゴロ

一般人「」


女「!! 男友君! 大丈夫!」タタッ

男友「女……さん?」

女「大丈夫!? 男友君! どっか痛いところある!?」

男友「さっきから尻が割れるように痛い……!」

女「お尻は元から割れてるよ! きっとこれ以上は割れないから大丈夫だよ!」

男友「そうなの? でも、割れるように痛いんだけど……!」

女「それなら、さすってあげるね!」

男友「それ、色んな意味でヤバイからやめて……!」

ー ペンギン水槽前 ー

男「まあ、あまり良くはないけど、でも『好き』と『大事に思ってる』は、あいつの中で完全に別物みたいだからさ」

女友「それでも、どうかと思うけど」

男「……うーん……例えばさ、ハンバーグを大好きなやつはいても、ハンバーグを何より大事に思ってるやつはそうはいないだろ? それと一緒だよ。色々と素直に受け止め過ぎだから、あいつ」

女友「つまり、男君よりアシカの方が好きだけど、アシカより男君の方を大事に思ってると」

男「まあ、多分///」

女友「デレんな、可愛く思えるだろが、コラ」


男「それに、男同士だからさ。アシカより好きって言われても微妙に困るし」

女友「そこは困んないから、別に」

ー チョウチンアンコウ水槽前 ー

男友「ぐうう……!!」

女「男友君、ホントに大丈夫!? 私で出来る事があったら何でも言って!」ユサユサ

男友「とりあえず、体揺さぶるのやめて……。尻がジンジンするから」

女「わかった! 他には!?」

男友「いや、特には……」

女「じゃあ、ここでずっと見てるね! 何かあったらすぐに言って!」

男友「うん……ありがと……」


女「」ジーッ

男友「ぐ…………」


女「」ジーッ

男友「…………」


女「」ジーッ

男友「…………」



お客「」ヒソヒソ……


女「」ギロッ


お客「」ビクッ

ー ペンギン水槽前 ー

女友「まあ、私の方の事情はそんなとこだよ……」ハァ

男「なるほどね……。それで、ついカッとなって凶行に及んでしまったと」

女友「今更ながら後悔してるから、その言い方やめて。犯罪者の常套句とかキツい」

男「まあ、俺が言うのもなんだけど、男友はそこまでひどいやつじゃないよ。アシカの件も悪気があってした事じゃないと思うし」

女友「それ弁護人の常套句だから」

男「俺なんか女さんにどうでもいいとか言われてるし」

女友「女はとりあえず尻を蹴っといた」

男「こうしてまた隠れた犯罪が表へと」

女友「誘導尋問か、おい」

ー チョウチンアンコウ水槽前 ー

男友「その……女さん…………」

女「なに!?/// 男友君!」

男友「俺の事……怒ってないの? 女友さんがあれだけ怒るって事は……俺、結構ひどい事言ったんだと思うけど……」

女「大丈夫! 私もアシカ大好きだよ!」

男友「うん。それ聞いた」

女「だから……男友君の事、怒ってないよ。ちょっぴり悲しかったけど……」

男友「…………」

女「それに、その内、アシカより好きになってもらうからいいんだ……。アシカよりも可愛いって言ってもらえるよう努力もするよ! 私、頑張るから!///」

男友「…………」

女「だから、またこうやって遊びに行きたいな……。もうダメかな……男友君……」

男友「…………」

ー ペンギン水槽前 ー

女友「…………」

男「…………」


女友「……なんか、今日は本当に色々とごめんね。男君に嫌な思いさせただけだね、私……」

男「そんな事ないよ。って否定しにくいのがキツいね」

女友「…………だよね」

男「でもさ、女友さん」

女友「…………何……?」

男「今日一日で、女さんの事を完全に吹っ切る事が出来たよ。……ありがとう」

女友「…………そっか。まるっきり迷惑かけっぱなしだったって訳でもなかったんだね。そこは素直に嬉しい」

男「ただ……男友の尻については……その……」

女友「わかってる、後で謝っとくから。許してくれるかはわからないけどさ……」

男「俺も一緒に謝りに行くよ。元はと言えば原因作ったの俺だし」

女友「やれやれ、いい人過ぎだね、男君。私を責めればそれで済む事なのにさ。逆にお礼まで言って」

男「女友さんこそ。手段はともかく、俺や女さんの為に二回も男友の尻を蹴って……。いい人過ぎだよね」

女友「誉めてんのか責めてんのかどっちだ。返答に困るだろ、おい」

男「そういう時はシロナガスをつければいいと思うよ」

女友「無茶言うな。そんな事言うの、アレだ。その……」

男「?」

女友「……シ、シロナガス恥ずかしいだろ…///」モジモジ

男「///」キュン

ー チョウチンアンコウ水槽前 ー

男友「女さんには悪いけどさ……」

女「悪いの!?」ビクッ

男友「その……俺の一番大事な友達がさ……女さんの事を好きだったんだよね……」

女「あ……うん……」

男友「どうでもいいとか言われたやつだけどさ……」

女「あ……えと…………ごめんなさい…………」

男友「別に謝る必要はないよ。女さんは本当の事を言っただけなんだから。下手に嘘をつかれて、ずっと期待させられとくよりは、潔くてまだそっちの方がいいかなと俺は思うし」

女「…………」

男友「それに、手痛い思いをすれば、嫌いになって忘れやすいだろうから……。新しく好きな人も出来やすいだろうし……」

女「でも、私、そこまで深く考えてなかったから……。やっぱり、ごめんなさい…………」

男友「俺に謝っても仕方がないし、多分、男に謝っても仕方がないんじゃないかな……? それより……」

女「なに……?」

男友「さっきも言ったけど、男が女さんの事をつい昨日まで好きだったからさ……。なのに、昨日の今日で、俺が女さんと遊んだり、付き合ったりとかは出来ないよ。…………男に悪いから」

女「でも……そんな……!」グシュッ

男友「だから、女さん。少し待っててくれるかな」

女「待つ……? 何を……?」

男友「男に新しく好きな人が出来て……そしてその時、俺が女さんの事をアシカよりも好きになっていて、女さんがまだ俺の事をアシカよりも好きでいてくれたら……」

女「私と付き合ってくれるの!///」

男友「いや、その時は俺から言うよ/// だから待ってて///」

女「うん!/// 私、待ってる!///」

ー ペンギン水槽前 ー

男「その……女友さん」

女友「何? 急に改まって」

男「良かったら、またこんな風に四人で遊びに誘ってもいいかな?」

女友「どうだろね。私はともかく男友君が嫌がると思うよ。違うな、男友君はともかく私が嫌がるか」

男「そっか。そうだよね……」シュン

女友「…………」


男「……じゃ、戻ろうか。いい加減、男友を回収しとかないと、警備員につまみ出されそうだし……」トボトボ

女友「……男君」

男「ん? 何? 急に真剣な顔になって」

女友「いい加減、色々と自分や他人に正直になれないの嫌になってきたからさ。ちょっと一回だけデレていいかな?」

男「?」

女友「だから、デレていいかどうか聞いてるの。……で、いいの、悪いの? どっち?」

男「えと……どうぞ」

女友「押しが足んないよ、男君。誘うなら最後まできちんと誘いなよ。二人きりの方がいいって暗に言ってるんだからさ///」

男「…………え」

女友「何、間の抜けた声出してんのさ?/// ……ほら、早く行くよ、女の事、心配だし///」スタスタ

男「あ、ちょ、ちょっと待ってよ、女友さん!」タタタッ







 

ー 三ヶ月後 ー

ー 演劇部 部室 ー


ガラガラ……

女「おはろー!」

男友「おーす」


男「///」ビクッ
女友「///」ビクッ


女「…………」

男友「…………」


女「あの、ごめんね……。いきなり開けて」

男友「なんか、申し訳なかった……。俺たちに構わずキスしてくれてていいから……」


女友「出来るか!/// バカヤロウ!」

男「どうして見なかったフリをしてくれない……///」

男友「まあ、アレだ……うん……。仲良き事は美しきかなと」

女「ドンマイ!/// 二人とも」

男「やめて、マジで。恥ずかしくて死にたい」

女友「察しの心をもう少しだけ持てよ、バカヤロウ……」


男友「うん、まあ、とりあえずそれは置いとくとして」

女「今度やる劇の台本を書いてきたから持ってきたよ!」

男「……そうか」

女友「というか、今度のは本当にまともなの? この前、女が書いて持ってきたやつは、一人を除いて登場人物が全員バカばっかりだったんだけど」

女「大丈夫だよ! 今度の台本は自信作なんだから!」

男友「と、女が言っているから、多分、大丈夫だろ」

男「元幽霊部員に保証されても」

女「今は私の彼氏だよ!///」

男「それで保証の信頼度が上がるとでも」


女友「……まあ、とりあえず題名を言いなよ。それで七割方、判断つけるからさ」

女「あのね! 題名はね!」

男友「『愛情と友情と尻とアシカとシロナガス』さ!」

女友「却下だ、バカヤロウ。この前のにシロナガスをつけただけじゃねーか、それ」












終劇

おつおつ


初めて読んだ 男女系SSがこれ
スレタイにつられて本当に良かった

>>1です
依頼出してきました
乙、ありがとうございます

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