アスカ「Wirst du mich auch lieben?」(243)

シンジがうすら笑いを浮かべながらアタシを見て いる。

「どうしたの、アスカ?」

どうしたもこうしたもないわ。シンジの奴ったら 調子にのってんじゃないわよ。

「あんたねぇ、いつまでも調子に乗ってるんじゃ …」

無いわよ…。

そう言おうとしたのに、その言葉は目の前の奴に 遮られて最後まで言えなかった。

「…ごめんねアスカ」

コイツはホントにわかってんのかしら。いえ、分 かってるわけ無いわ、なんたってあのバカシンジ なんだから。

「…そうやってすぐ謝る、ホントは悪かったなん て思ってないんでしょ、このバカ」

「そんなこと無い、アスカには悪いことしたなっ て思ってる」

「ふん、信用出来ないわね。あんたって実は結構 嘘つきだものね。それに、ついでに泣き虫」

この言葉を聞いて少しシンジはうろたえる。

はん、良いきみね、少しはこいつに仕返ししな きゃ惣流・アスカ・ラングレーの名が泣くというも んよ。

建ってしまった。

「ゴメンね、アスカ。あの日は風が強かっただろ、突風と電車が同時に来たから支えてあげたんだよ」

「言い訳なんて聞きたくないわ、鼻の下伸ばしてたくせに」

「な!伸ばしてなんかないよ!」

「どうだか…口では何とでも言えるものね」

シンジの焦った顔が見れて内心ではほっとする。

アタシはうまくやれてる、アタシはこいつにアドバンテージを取れているんだ。

こいつの手綱はアタシが握っている。アタシがこいつを支配してやるんだ。

なのに。

こいつは生温い笑みを絶やさない。まるで、子供をあやすみたいに。

バカにしてんじゃないわよ。

「あんただって子供の癖に…」

ホントムカつく、アタシ自身にもこいつにもだ。

なんでこいつはアタシにこんなでかい態度をとっているの。

なんでアタシはそんなこいつの態度に、悪くないなんて思ってしまうんだろう。

「怒らせちゃったかな?」

そのくせ朴念仁な所は相変わらずだ。

やっぱり気に入らない。

「知らない、自分で考えなさいよ」

アタシが顔を背けると、それと同時に後頭部 に床の感触を思い出させ、ゴリっと耳障りな音と、それなりに自信を持っている髪が 床と擦れ、 シュルっという音がした。

「ったく、いつから…」

いつからこんな風になったんだろう、昔はエヴァでもなんでもアタシが上でこいつが下だったのに、いつまでも続くと思っていたのに。

今はそれが逆になっている。

なんで…。

「えっと、アスカ」

なんでこいつが上でアタシが下なんだろう。

「うまく言えないけど、アスカは…」

なんでアタシは、こいつの下にいるの?

「汚れてなんかいない…だから、その…」

なんで…

「…アスカは綺麗だよ、だから」

なんでアタシは、シンジに乗られているんだろう。

「だから泣かないで…アスカ」

「うっさい…」

アタシはこいつをアタシのものにしようとしたんだ。


いつから?

そうだ、アタシの心があの使徒に暴かれるたあの日の夜。

あの夜の前まではまだアタシが上でアタシが シンジの面倒を見ていたのに…気付いてしまった。

アタシはシンジをどうしようもないくらいに…。

今日はここまで

あいつを倒さなくちゃいけない。そうしないとアタシはエヴァに乗れなくなる。

衛生起動上に位置する、15番目の使徒「アラエル」

最近は失敗続き、そのせいかシンクロ率も下がる一方だ。

ここで名誉挽回とアタシは単独で使徒殲滅をするためにリフトを起動させた。

「アスカ!どうしたんだよ!発信命令は出てないだろ!」

「あんたは黙ってなさいよ!シンジの癖に!」

スピーカーから耳障りな声が聞こえる。シンクロ率400%なんて冗談みたいな数字を叩き出した エースパイロット様の声だ。

うるさいのよ。

同情のつもり?

今となっては、いや、今も昔も変わらず憎たらしい声。

アタシの居場所を奪ったやつ。目障りな同居人。

そんなことを思っていたらスピーカーから違う音が流れた。

「アスカ、聞こえる?」

聞こえてるわよ、そう思っても口に出すことはなかった。
それを知ってか知らずか指揮官である上司殿は話 を続ける。

「単独先行の重大さ、あなたならわかるわよね」

「チャンスをあげるわ、使徒を殲滅できたら 無罪放免」

「頑張りなさい」

知ったふうな口を聞いて。解ったふりしないでよ。

「わかってるわよ」

つまり、失敗したら次はない。アタシはエヴァから降ろされる。この作戦部長はそんな女だ。

そんなことになったら。アタシの居場所が無くなってしまう。

離されてしまう。

だから、あんな奴に負けるわけにはいかない。

所定の位置についてポジトロンライフルをとり、 使徒に迎撃体制を取る。

「このポジトロンライフルで」

雨が降る空はアタシの心を写しているみたいだ、 鬱陶しい。

いつまでもプカプカ浮いてる使徒に牽制の一撃。

やはりと言うべきか。使徒に届くことすらなく、 大気圏に消えていった。

「やっぱりダメね」

ポジトロンスナイパーライフルならどうか、 そう思ったところで。

使徒が光を放った。

話に聞いた使徒の荷電粒子砲、もしくはレーザー攻撃かと思った一撃はただの光でアタシの弐号機は無傷と言ってよかった。

「ちっ!」

苦し紛れにポジトロンライフルを放つ。だけどなんの干渉もなく、弾は光のなかを進んでいった。

「アスカ、離れて!」

「言われなくたって!」

アタシはミサトに言われる前に光をよけてポジトロンスナイパーライフルを取りに行く。

光には物理ダメージは無かった。そのはずなのに。

「なんなのよ、このキモチワルイ感じは」

弐号機にポジトロンスナイパーライフルを取らせて充填しながら、そのまま使徒に照準を合わせる。

その時使徒の光が再び弐号機を照らした。

「くっ」

キモチワルイ。

だけど…。

「関係ない」

アタシはライフルの照準を素早く終え、使徒に発射した。

もしかしたら、この時アタシのシンクロ率は 久しぶりに高い水準を誇ってたのかもしれない。

でも、そんなのは関係なくライフルの一撃は使徒のATフィールドによって弾かれた。

ダメか。

そんな諦めの思いが一瞬よぎった時。

よくアニメやコメディドラマで流れる心がついた時の音。そんな音がアタシには聞こえた気がした。

バリン!

「くっ!うぁ!」

痛い、痛い、痛い、痛い、イタイ、イタイ、 いたい。

光が痛い。

心が痛い。

体が痛い。

キモチワルイ。

キモチワルイ。

助けて。

たすけて。

タスケテ。

誰か。

加持さん!。

「すまんなアスカ、また今度にしてくれないか」

嘘つき、いつもアタシを子供扱いして本気で取り合ってくれないじゃない。

「惣流の奴、最近体つきが良くなってきたな」

聞こえてんのよ、大学のロリコンども。

「惣流いいよなぁ、もし俺と付き合えたら…」

笑わせないでよ、誰があんたらみたいなガキ共なんか。

「高慢ちきな女やのう」

うるさい、バカジャージ。

「顔はいいんだけど、性格がねぇ…」

だまりなさいよ、メガネ野郎。

「シンクロ率が落ちてるわよアスカ、真面目にやって」

真面目にやってんのよ、偉そうな事言うな。

「アスカ、わかってるわよね?」

都合のいい時だけ家族面してる女の考える事なんて分かんないわよ

「アスカはもうちょっと、ひとをいたわった方が 良いんじゃないかな」

なんでヒカリまでそんな事言うのよ…!。

どうしてみんなアタシを褒めてくれないの?アタシはこんなに頑張ってるのに。

「どうしたんだい、アスカ、せっかくママがお人形を買ってくれたのに」

あんなのママじゃないわ!あたしのママはママだけだもん!

やめて…。

「あなたはあの子の父親ですけど、私はいつでも 母親を辞められるんですからね」

こっちからおことわりよ!あなたはほんとうののママじゃないもん!。

やめて、もうやめて…これ上苦しませないでお願い、助けて、ママ…!

「アスカちゃん…」

ママ、ねぇ、ママ!

「アスカちゃんは良い子ねぇ…」

ママ!それはただの人形よ!本物はあたし! あたしなの!あたしを見て!

「あなたアスカちゃんをどこに隠したの!アスカちゃんを返しなさい!」

あれは人形よママ!あんなのはいらないのよ!どうしてあたしをおこるの!?あたしがいっしょにいてあげ るのに!

あたしが良い子じゃないからママは見てくれないんだ。だからあたしは泣かない。強くなるの。

ママ!ママ!あたしなれたのよ!エヴァンゲリオンのパイロットに!

あたしは強くなれたのよ!あたしは良い子になったの!だからあたしを見て!

ママ!

「……………………」

ママ…?どうしたの?ねぇ…ママ?

なんで、てんじょうからぶらさがってるの?

森の中でうずくまってると小さいアタシが話しか けてきた。

「ねぇ、どうして泣いてるの?」

ママが死んじゃったの。

「どうして死んじゃったの?」

ママが天井にぶら下がってたの。

「どうしてそうなったの」

アタシが良い子じゃなかったから。だからマ マは 死んじゃったの。

「どうして」

アタシが悪い子だったの!だからママはママをや めちゃったの!

「そうなんだ…」

ママ

「じゃああたしが本物でいいよね!」

え?

「あたしが本物!だってママはあたしをいいこねっていってくれたもの!」

あんた、なに言って…!?

「ダッテママハアタシヲエランダンダモン!」

顔を上げると目の前のアタシはママの抱いていた人形に変わっていた。

「アタシガホンモノダカラ…」

いや…

「アンタハイラナイノ、ソウヨネ!ママ!」

ママ…?ママがいるの?!ママ!アタシが本物のアスカよ!。

「そうね、アスカちゃん。ママあんな悪い子は知らないわ」

いや…!。

違うのそれじゃない!アスカはアタシ!。

「ダッテサ!」

イヤ…!

「アンタナンテイラナイノヨ!ダカラ!」

お願いやめて!

助けて。誰かお願い、誰か。

助けて、加持さん…。

ママ!

「アンタハヒツヨウナイノヨ」

「貴方は必要ないのよ」

イャアアアアアアアアア!。

ダレカ…タスケテ…。

タ…スケ…テ。

シ…。

意識が途切れ、目を覚ましたら既に戦闘は終わっていた。

弐号機から降ろされて、その弐号機が輸送されていく姿を体育座りで見ながら一人でつぶ やく。

「負け…」

そう、負けた、無残に負けた、無様に負けた。

話を聞けばあの人形女の一撃で使徒は殲滅、 アタシは人形に助けられたことになる。
つまりアタシは、また人形に負けたんだ。

「アナタナンテイラナイノヨ!」

あの言葉を思い出すと、むねを掻きむしりたくなる。

アタシは要らない子なの?

アタシはだれからも必要とされないの?

アタシを誰も見てくれないの?

アタシは誰にも愛されないの?

アタシは…

「アスカ…ここにいたんだ…」

後ろから声が聞こえる、誰かなんて振り返る必要はない。

わかってしまうから、解りたくもないのにあの忌々しい声が誰のものかが。

「なんの用よ…来ないでくれる?邪魔だから」

「え、えっとその…心配したんだアスカが大変そうだったから…」

後ろのバカの声を聞いて笑いがこみ上げてくる。

「クックックッ、アハ、アハハハ」

それはもちろん嘲笑だ、笑えてしょうがない。心配したんだですって、最高よね。

「心配してくれてありがとう」

「そ、そんな」

僕はそんな大したことはしてないよ、シンジだったらいいそうな言葉だ。

「遠慮すること無いの、褒めてんのよ。 よくもまぁ、そんな気休めにもならないくだらない言葉を言えるものね!」

アタシは振り返ることなくシンジに言った。

「くだらないって…」

ぼそっとシンジの呟き、いつもは適当に流しているのに無性にイライラする。

「アンタ、このアタシを笑いに来たんでしょ!。 単独先行したうえでこの有様、おまけにあの人形女に助けられた!」

笑えて仕方ないわよ。と、最後に付け足してアタシはシンジに返した。
シンジはそれから黙っている。もしかしたら帰ってしまったのかもしれない。

確認するために振り向く気もしない、ふん、どうでもいいわ、アタシの周りには誰もいないし誰も来てくれない。

だってコイツは…。

「でも…」

なんだいたんだ、でもでもでも。バッカみたい。

「無事で良かったね、アスカ…。」

その言葉を聞いた瞬間頭の中で何かが切れる音がした、それと同時に体を少し横にし首をシンジの方に向けてシンジを睨みつける。

「良かったですって?!ちっとも良くないわよ!」

「あ、アスカ?」

出来る限りの大声を出してから、アタシは機関銃のようにまくし立てた。

「これだけの失態を犯しといて、はいすいませんでしたで済むわけ無いでしょ! 考えれば分かる事 でしょ!必要が無くなったら上はどうすると、どうなると思ってん の!? なんでそんな事もわかんないのよ!」

シンジを威圧する様に睨みつける。それに気圧されたのか、答えようとはしない。

でもアタシはそんなことは許さない。分からないくせに、知りもしないくせにアタシにふざけた事言うな んて。

「答えろシンジ!」

「僕は…本当に、本当にアスカが心配だったんだ」

昔のアタシだったらそんな言葉を聞けば嬉しく思っていただろう。もしそれが本心でなかったとしても。

「嘘ね」

でも、今のアタシには届かなかった。

言われたシンジは驚き傷ついた様な顔でこちらを見る。 何故かアタシはそんなシンジの顔が見れなくてつい目をそらしてしまった。

「だってあんた来なかったじゃない…」

助けに来てくれなかった。誰も来てくれなかった。

それじゃあアタシはシンジに来て欲しかったの?

「そんなあんたを信じろですって?は!冗談!… 無理に決まってんでしょ」

そんな、そんなことあるわけ無い。アタシは誰の助けも要らないアタシは1人で何も出来ないような奴とは違う。

「だって…しょうがないじゃないか…」

また、言い訳するつもり?!

そう思いまた顔をシンジに向け睨みつける。

「なによ…あんた、もしかして泣いてるの?」

シンジは涙を流していた。
それに気づいた、気づかれたシンジは慌てて涙で濡れた顔をプラグスーツで拭う。

「泣いてないよ」

プラグスーツは水を弾くタイプだから涙なんて吸収しない。そのせいで顔は涙でぐちゃぐちゃだ。
泣いてないなんて言ってもごまかせるわけ無い。

「泣いてんじゃない」

「泣いてないっ!」

そう言ったら今度はシンジが怒ったみたいで。拗ねたみたいにまるで子供みたいに声を張り上げた。

泣いてたから元々赤かった顔が怒ったせいで更に赤くなってる。
その姿がおかしくてさっきみたいな感じじゃなくて本当に笑ってしまった。

「アハハ!なに泣いてんのよ!泣き虫シンジ!」

「な!泣いてなんか!」

何よ、こんな状態の奴に当たることなんて出来ないじゃない。

仕方ないからアタシは立ち上がりキープアウトテープの前に居るシンジに近づく。

キープアウトテープによって作られた境界を見ながら、ホントはあんたが来るもんじゃないの?なんて自分勝手なことを考えてみる。

でも冷静に考えたらもしシンジが来なくても作戦上は問題ない、単独先行したのはアタシなんだから。

現にあの人形女は来なかったじゃない。
いや、流石にあいつとシンジを比べちゃいけないかな…。

「あんた、ハンカチくらい持ってない訳?」

顔を近づけて目の前の泣き虫に話しかける。 そしたらこいつ目をそらしやがった。

もしかして殴られると思ってビビってんのかしら?はん!いい気味ね!。

「持ってないよ…そんなの」

目をそらしながら話すシンジにイラついて蹴っ飛ばしそうになるけど。 今のアタシじゃ本気の後ろ回し蹴りをお見舞いしそうだから、特別にこらえ てやった。

「まぁ、持ってたら使うわよね、ほら」

「な、なに、これ?」

なにってハンカチに決まってるでしょ馬鹿じゃないの?。LCLで濡れてた奴だけどこいつにはこれで十分よ

「使いなさいよ、ほら遠慮しないで」

シンジはありがとうと呟きハンカチで涙で濡れた顔を拭った。そういえば鼻水も垂 らしてたかもしれない。

まぁいっか、洗うのシンジだし。落ち着いたみたいだから話を元に戻す。

「ありがとう、アスカ」

こいつはそれしか言えないのかしら、ボキャブラリーが無さ過ぎるわね

「別に良いわ、で?何がしょうがないのよ」

ふざけた事言ったらぶっ飛ばすわよ!とは言わなかった。だってまた泣かれたら面倒だし。

「う、うんでも、あの」

またボソボソ言ってる。はいはい何よ、もう怒ったりしないわよ、多分ね。

「そ、そっち行ってもいいかな?」

「え…?」

その言葉を聞いたら一瞬、ほんの一瞬だけど 泣きそうになった。 なんだろうこの気持ちは、あの使徒の攻撃とは違う痛さ。甘痒いみたいなそんな。

「だ、ダメならいいんだ!気にしないで」

「はん!良い度胸ね!入りたいなら勝手に入れば!」

アタシはキープアウトテープを踏んづけてシンジを通らせ、気を取り直して元の場所にシンジと並んで座る。

シンジがしゃべり出すまで待ってみる。別に恥ずかしくて黙っていたわけじゃない。

「行こうとしたんだ…アスカのところに」

そしてシンジはゆっくりしゃべり出した。

アタシの悲鳴を聞いた時いてもたってもいられず、碇司令、自分のパパの命令を聞かずにリフトを勝手に動かしたこと 。

結局リフトは止められて、数回の押し問答のあと、無理やりよじのぼろうとしたらLCL濃度を上げられて気を失った。

本当は助けに行きたかった、でも出来なかったと。

それを話終えたらシンジの奴また泣き出しちゃった。ゴメンネなんて有りきたりな事を言いながら。

「悪かったわよ…」

そういいながらアタシはシンジの涙を拭く。 もう自分で吹く事なんて出来ないくらいに泣きじゃくってるから。

ったく、もう認めてやるしかないわね、シンジの想いを。

「ぅえ?で、でもアズカの言ぅ通りだずけられながっだんだよ?」

しゃっくりしながらだから聞き取れなかったところも有るけど、どうせまたマイナス思考してるんでしょ。

「だからもう良いわよ、そんなメソメソ泣いてる奴に当たれるほどには落ちぶれてないわよ。 それ に、アンタはここに来てくれたじゃな い。」

ここってのはもちろんキープアウトテープの中だ、あれは来れなかったんだからしょうがないの よ。

またメソメソうるさいから黙らせて、泣き止 むまで待つ。そして落ち着いたみたいだから。
また話を再開する。

「あんたはここに来てくれた、だからもういい の」

「でも」

ったく、グジグジうるさいのねぇこいつは。

「ったく!うるっさいわねー!じゃあシンジ!あ んたは罰として…」

それを聞いて身構えるシンジ。

「とびっきりのご馳走と最高の湯加減のお風呂を 入れること!分かったわね!」

「う、うん、わかった」

それを聞いて少し嬉しそうに立ち上がるシンジ、 何こいつ、もしかしてマゾってやつ?

シンジがビルを降りて行って待機させてあった、チルドレン送迎用の車に乗り込んだのを見てからアタシはようやく立ち上がる。

「さーてと、帰ろっかな」

そういえばご飯やお風呂について文句言ったのは久しぶりな気がする。そんな事を考えながらビル の階段を1階分降りてから立ち止まる。

「いい加減でてきたら?ミサト」


「あっちゃゃ~バレてた?」

そしてアタシは保護者兼出歯亀女に話しかける。決まってんじゃない、アタシをなめんじゃないわよ。

とは言ってもアタシがシンジに近付いて行くときにミサトがいるって分かったから、アタシがシンジの事殴るのかと思って焦って気配を出しちゃったんだろうけど。

「当然でしょ、最初から分かってたわよ」

でも多少の嘘は方便ってやつよね。

「参ったわね~」

ミサトはヘラヘラしながら隠密行動は結構得意なんだけど衰えたかしら、なんて呑気な事言ってる。

「それより何の用よ?話も終わったしシンジ には 何もしてないわよ」

本当は泣かしちゃったけど、でもあれはシンジが 勝手に泣いちゃっただけだもん。

それを聞いてミサトは真剣な顔をして。 いつもの作戦時に使う、フルネーム呼びを使ってから、話し出した。

「単独先行の罪、分かってるわよね?」

それを聞いて、さっきまでの高揚感が一気に冷める。

足元がグラつく。

意識が遠くなる。

嫌だ。帰りたくない。

せっかくアタシは気づけたのに。アタシ自身の思いに気づけたのに。

ヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダ

「アスカ?アスカ!」

ミサトの声で気が付く。

「ごめん、少しボーッとしたみたい」

アタシは努めて何でもない様に見せてごまかす。そしたらミサトはため息をついた後に。

「まぁいいわ、シンジ君のことや零号機のア レの こともあるし。 ちょっちイレギュラーが有り過ぎ るから今回は多目に見るわよ」

この件について碇司令は好きにしろだなんて丸投げだしねとポツリとこぼした。

「あっそ」

平静ぶってはいるけどホントは嬉しくて、怖くて仕方なかった。そんなアタシを知ってか知らずかミサトは話を続ける。

「命令違反はしたんだからそれなりに罰は受けてもらうわよ」

「な、なによ…」

また心臓が破裂しそうになる、目がくらむ、何だってのよまったく。このアタシがビビってるってわけ?

「碇司令にならって、2週間ワタシの当番のゴミ捨てやお風呂掃除もろもろを貴方に丸投げします」

「じょ、冗談じゃ」

無いわよって言おうとしたけど。ミサトの笑顔が般若みたいだったから口答えはしなかっ た。

「んじゃ、ワタシ遅くなるからあとよろしくねん」

「はいはいわかったわよ、やれば良いんでしょ」

そう言って、階段を降りて行こうとするアタシを今度はミサトが止める。

「あ、そうだアスカ、貴方帰りにリツコの所によってきなさい」

「リツコのとこ?なんでよ」

怪訝な顔をするアタシにミサトは話を続ける。

「今回は大変だったでしょ。じっくり検査してもらった方がいいわ」

別に良いわよ、なんて顔をしてたのかな、ミサトはまた「命令よ」って言ってきた。
アタシは仕方ないから分かったわ、と空返事して階段を降りて行く。

「アスカ」

3段ほど階段を降りたあと今度はミサトから声をかけられた。
その顔は何かを押し殺しているように見える。

「心の傷はそう簡単には癒えないわ、大丈夫だと思ってたらいきなりズシンと来るものよ」

一つ一つ言葉を選んで話してるみたい。ったく似合わないことしちゃって。
家族ごっこも大概にして欲しいわね、また期待しちゃうもの。

「辛かったら相談して頂戴、その程度には役に立てるから。 後、シンジ君にも頼ってあげて」

シンジにですって?あんな泣き虫に頼ったら可哀想よ。

「シンジの事はともかく、考えてみるわよ」

それじゃあと言ってアタシは今度こそビルの階段を降りていく。 大丈夫に決まってるわ、アタシは大丈夫。

アタシは待機させてあった送迎用の車に乗り込みネルフに向かった。

ネルフについたら直ぐに更衣室に行き軽くシャワーを浴び、LCLをながして制服に着替える。 シンジがお風呂を沸かしといてくれるんだし問題ないわ。

リツコの部屋に行ったら検査の後に薬を渡された。 これが何なのかは出撃後やエヴァに搭乗するテストの時にたまに渡されるから解っている。

「精神安定剤…」

1日分なんて量じゃない、丸々1週間分だ。しかも「足りなくなったら言って頂戴ね」なんておまけ付き。

「アタシも舐められたもんね」

それともアタシが思っている以上に心にダ メージを負っているのかしら。でもそんな筈ないわ、アタシはそんなにヤワじゃ無いもの。

第三新東京市行きの電車に乗り込んでひとり呟く。

「アタシは…」

必要ないのかな… あいつは、シンジはどう思ってるんだろう…。

どれくらいボーッとしてたのか、気づいたら地上についたアナウンスが電車内で響く。

駅から出たアタシは我が家であるコンフォー ト 17に寄り道せずに向かった。 我が家ね…まさか アタシがこんなこと思うなんて、変なの。

部屋の前についたらエアロックを開けたときのプシュっという音を聞いて家に入る。

「ただいま」

靴を脱いでリビングに向かったら、シンジがバーゲンで売ってそうな私服の上にエプロン姿というこの家ではいつもみかける姿でアタシを迎えた。

しかしこれ程までにエプロン姿が似合う中学生もなかなかいないんじゃないの?。

「あ、おかえり、アスカ」

何が嬉しいのか、犬みたいな目をしてアタシを迎えるシンジ。何か懐かしい感じがするのは気のせいかしらね。

キッチンを見ると玉ねぎをみじん切りしているところだった。

あまり、作業は進んでないみたいね。先に帰ったのはシンジだしアタシはリツコのところで検査を受けてきたからけっこう時間はたってる筈なのに。

「今日の晩御飯はなに?随分時間がかかってるみたいだけど」

それを聞いたらシンジは少しすまなそうな顔をして、事の顛末を話した。

「う、うん…実は階段を降りていく途中でミサト さんにあってね、それでミサトさんにお金貰ったから買い物に行ったんだよ。
買物に悩んで時間がかかっ ちゃったんだ」

微妙に話がずれてきそうだからアタシが結局何つくんのよって顔をしたらやっと今日のメインディッシュの話をした。

それにしても普段のシンジにしては随分饒舌ね。

「あのね、今日はハンバーグを作ろうかと思って」

ハンバーグか、シンジのハンバーグは嫌いじゃないわよ。と言ってもママの作るハンバーグ が一番だけどね…。

「ミサトさんにおおめにお金貰ったから奮発していいお肉買ったんだ」

っ…なんて顔すんのよ、そういえばシンジのはにかんだ顔を見るのは随分久しぶりな気がする。

シンジが400%のシンクロ率出した時以来かな。 違うわね、もっと前の…ジャージ、鈴原の乗ったエヴァを倒した時以来だ。

アタシがシンジにちゃんと教えていたらあんな事にはならなかったのかな…。 シンジだって苦しんでるかもしれないのに、 アタシは自分のことばかり考えてる。

「アスカ?」

いけないまた考え込んじゃった。

「なんでもないわ、考え事してただけ。」

そうなの?とシンジは簡単に信じた。 …ミサトのリツコのとこに行けってのはこれを見抜いてたってのもあるかも。

「出来上がるまで時間かかるから座ってなよアスカ。それとも自分の部屋に行く?あ、お風呂も湧いてるけど」

こいつのかいがいしさは凄まじいわね。少し前まではぽろぽろ涙こぼしてたってのに。

「良いわ、それよりアタシも下処理くらいやってやるわよ。 味付けはあんたに任せる」

これは1種の気の迷い、一生に一度有るか無いかのね。

「え?だ、大丈夫だよ!無理しないで」

その言い方にカチンと来てアタシはもう1本の包丁を持ち、シンジをどかしてシンジがみじん切り用に刃を入れた玉ねぎを切っていく。

アタシが包丁を使ってる姿を初めて見たシンジは驚いた顔をしてる。

「ドイツでは1人だったから…たまにだけど自分で作ったりしてたのよ」

最後に、味付けはまだ苦手なんだけどねっと付け足した。 ドイツの思い出はママがいなくなってか らは必死にエヴァの訓練をした事しか覚えていない。

「大学はあっという間だったわ、勉強したこと以外殆ど覚えてないの、飛び級だったし… 小学校や中学校なんてなおさらよ」

覚えてる事と言ったらママとの思い出、パパは研究室に籠りきりでたまにパパが帰ってくる日によくママとハンバーグを作っていたっけ。

『ママ!あたしおてつだいする!』

『アスカちゃん、あなた本当に大丈夫?』

『あたりまえでしょママ!あたしをこどもあつかいしないでちょうだい!』

「そう…なんだ」

シンジもつられて声のトーンが下がる、そしたらシンジがまたオロオロしだして、僕が変わると言ってきた。

「あの、アスカ、本当に休んでていいよ。ご飯出来たら呼ぶから、ね?」

なによアタシが怪我するとでも思ってんの?昔とは違うのよ、指を切るなんてヘマするわけ無いでしょ。

『ママぁ、ヒック、ゆびからちがでてるのいたいよぉ!』

『大変!アスカちゃん大丈夫!?』

『ごめんね、やっぱりアスカちゃんには早かったわよね』

『そんなことないもん…ちょっとゆだんしただけだもん…』

シンジがアタシを気遣うけど、アタシは手を止めずに玉ねぎをみじん切りする。

『ママ、めがいたいよぉ、なみだがとまらないの』

『だから言ったでしょ、大変だからママがやるわよって』

『むぅ!そんなことないわ!すいちゅうメガネをつかえばへいきよ!』

やっぱり玉ねぎを切るのは嫌い、ハンバーグを作ってるママのお手伝いの時も目が痛くてしょうがなかったわ。

ママが作ってくれたハンバーグ、ママと作ったハンバーグ、私の大好きなハンバーグ、大好きなママが作ったハンバーグは…もう食べられない。

『ねぇママ、ママが元気になったらまたあたしとハンバーグつくろう?ね?』

『あなた誰?知らないわ』

「だから玉ねぎってきらいよ、手伝うんじゃなかったわ、もう、涙が止まらないじゃない…」

こんなにも涙が出るのはこの玉ねぎのせいだ。こ んなにかなしいのも涙が出てるから自分は悲しいんだって思い込んでるだけ。

アタシは…アタシは泣いてなんか…。

「う、うぅ、ママぁ」

包丁をまな板に置き顔を手で覆う。こんな情緒不安定で情けない姿をシンジなんかに見せられない。

玉ねぎ切ってたらいきなり泣き出す女なんて異常だ。きっとシンジも頭のおかしい女だって思ってる。

そしたら、シンジがアタシの肩を触るか触らないかっていうくらいに抱いてきた。 それにつられてアタシはビクッと肩を震わせてしまい、シンジは手を離してしまう。

いや、やめないで。

「シンジ…」

アタシはアタシらしくない小さい声でシンジを呼 ぶ。 そしたらシンジはさっきよりも少しだけ強く肩を抱いてくれたの。

「アスカ、部屋に行こう?」

「ごめん、ごめんね、シンジ…」

こんな姿シンジに見せたくなかった。アタシがしっかりしなくちゃって、泣き虫なシンジ を守ってあげなくちゃって思ってたのに。

これじゃあたしの方が泣き虫みたい。昔のアタシはもういない、泣き虫アスカじゃないって、そう思ってたのに。

シンジはアタシの部屋の前で立ちどまる。どうしたのって聞こうとしたけど、シンジに今のアタシの声を聞かせたくないから喋れなかった。

「アスカの部屋、開けるからね?」

なに言ってんのよって思ったけど、そっかアタシが勝手に入るなって言ったんだっけ。
バカね、いいに決まってるじゃない。

アタシは泣きながらコクンと頷くと、シンジ はふすまを開けてアタシの部屋にアタシと一 緒に入る。
シンジがアタシをベッドに座らせたら、シンジは少し間を開けて隣に座る。

バカ…朴念仁。

ダムが決壊したみたいに涙が止まらない。今のシンジはアタシの手を握っている。

こんな所もバカシンジだ、さっきみたいに肩を抱いて欲しかったのに。でも恥ずかしくてそんなこ とは言えない。

「ごめんね、アスカ」

どうしてシンジが謝るのよ。シンジは何も悪くない、アタシが勝手にやって勝手に泣いたのに。

迷惑かけたのはアタシなのに、シンジの邪魔したみたいなものじゃない。

シンジはこんなアタシに優しくしてくれる、エヴァに乗ることしか価値のない。

そのエヴァすら下ろされるかもしれない、誰からも必要とされないアタシを…。

「アスカはここで待ってて、御飯は僕が持ってくるから。あ、お粥作れるけど、それとも今日は御飯はいらない?」

「ううん、食べる」

落ち着いてきたアタシは自分がおなかすいている事に気付き答える。それを聞いたシンジはビルの屋上の時みたいに優しく言った。

「うん、わかった」

ドクンと心臓が高鳴る、どうしようアタシ…自分の気持ちに気づいたつもりだったのに、こんなに、こんなにシンジの事が好きだったんだ。

「アスカ、ちょっと待っててね」

シンジは何かを思いついたのかアタシの部屋から出ていった。それが何か無性に心細くなってしまいこぼれそうになった涙をこらえる。

戻ってきたシンジはタオルを持ってきていた。 そういえば顔が涙でぐちゃぐちゃだ、ってことは アタシはそんな顔をシンジに見られてたってこと?

アタシってば何て恥ずかしい事を。

「はい、アスカ」

そう言ってシンジに手渡されたタオルはお湯で絞って暖かくしてあった
。暖かいタオルで顔を拭うととても気持ち良い。

それを見届けたシンジは立ち上がった後に急いで作って持ってくるからと言ってアタシの部屋から出よう とする。

「シンジ!」

アタシは大声を出して止めてしまったけど、何を言おうとしたのかアタシ自身分からなかった。

シンジがいなくなってしまう、そんな風に感じてしまったから、ただそれだけだった。

「どうしたの?」

「なんでもない、ありがとうね」

「うん」

そう言って今度こそ出て行ってしまったベッドに横になって睡魔が襲ってくるのを感じながら、見慣れた天井を見る。

少し前のアタシは見飽きた天井なんて呼んでんでいた気がする。

『行かないで!アタシのそばにいて!』

アタシはこう言いたかったのかもしれないな、シンジがママみたいに居なくなっちゃうってそんな風に思っちゃったからかも。

「ふわぁ」

あくびを一つするとどっと睡魔が襲う。タオルの暖かさと疲れでストンと眠りに落ちてしまいそうだ。

御飯が出来たらシンジが起こしてくれる…。そうしてアタシはまどろみに身を任せた。

誰も見てないのかな

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ありがとう、アレな展開があるけど一応LASなので気長にお願い。
今後とも応援してね。

side-shinji

アスカの部屋から出て、中断していた玉ねぎのみじん切りを再開する。 玉ねぎは均等に細かくなっていてアスカが料理をしてたのは本当みたいだ。

素早く飴色にするため大皿にキッチンペーパーを敷き玉ねぎを広げてラップをして電子レンジで3分ほど加熱する。

フライパンに油を引いて弱火にかける。そのあと玉ねぎのみじん切りを炒めていく。

ご飯は浸漬を終わらせて炊き上がるのを待っているし、スープはソーセージにたっぷりの 野菜を入れたポトフ、これは味を整えて弱火 で一煮立ちさせたら完成だ。

サラダも形を揃えて水に浸してるからハンバーグが出来れば完成だ。もう一品つくろうかとも考えたけど今のアスカはそんな食べられないかも しれないし。 僕も大食いってわけじゃないからそれでいいかと思う。

目の前では弱火でゆっくりと炒められている玉ねぎがある。

…アスカが泣き出したのはビックリしたけど。それ以上にアスカだって泣く事はあるんだなって思ってしまった僕は嫌な人間だなって思う。

そんな事を考えながら僕はビルでミサトさんに言われた事を思い出していた。

『シンジ君、貴方に頼るなんてムシが良すぎるのは分かってる、あなただって辛いのに…』

『構わないですよ、僕は大丈夫です。僕は結局あの時何もできなかったんです、そっち の方が僕にとっては…』

『アスカに言われちゃいました。結局来なかったじゃないって』

『とりあえずリツコに連絡とっといたから今日か明日にアスカの診察結果が届くと思うわ』

『遅くなっちゃうけど、必ず家に帰るから。アスカの事…お願い』

『あの子ああ見えて脆い所があるから…』

『そうかもしれません、今日初めてアスカの心に触れた気が、いえ、触れてくれた気がしたんです』

『ごめんね、大人なのに役に立てなくて…ワタシがしっかりしなくちゃいけないのにワタシはまだ加持君のことを…』

僕はあのビルでアスカに誓ったんだから。 …でももしかしたら僕は行こうとすらしなかったのかもしれないんだ。

それは…。

そこで意識を戻す、すると無意識に玉ねぎをかき混ぜてはいたけど玉ねぎが濃い飴色になっていてあと少し気づくのが遅かったら玉ねぎが焦げてし まう所だった。

「あっと」

気付いた僕は火を止めバットに玉ねぎを敷きあら熱とりをした。

ハンバーグのタネは出来上がってるから、後は冷ました玉ねぎを加えれば形を整えて焼くだけ。

今日は煮込みハンバーグにでもしようか。

「実は今日もなんだけどね」

なんて誰に言うでもなく一人つぶやく、煮込みハンバーグだと生焼けだったなんてことが 無くなるから ハンバーグを作るときは専ら煮込みハンバーグなんだよね。

さて次は弱火で煮込んでいたポトフの味見でもしようかななんて思っていた所で家の電話がなった。

僕の携帯電話は殆ど鳴らない、元々友達は少ないし、その元々少ない友達も僕が自分から逃げたせいでかかってくることはない。

「はい、葛城です」

そんな想いを電話越しに感じさせないように平静を装う。電話の主は今は出来れば聞きたくなかった声の一 人である。

「もしもし、シンジ君?」

リツコさんの声だった。

「ーーーそれじゃ、診察結果をFAXで送るわね。 それとミサトに、一応医師免許と医学知識はある けど私は機械工学専攻だから今度からはちゃんとした医者にお願いしてって言って頂戴」

「色々とやらなくちゃいけない仕事ややりたい仕事があるのよ、それこそ医者まがいの仕事とか」

「あ、はい、すいません、わざわざありがとうございます」

「…シンジ君も大変ね、ミサトったら仕事に逃げるところがあるから」

「いえ、そんなことは…はい、はい、有難うございました。失礼します」

耳元でブツンと回線が切れる音が聞こえる。その音を聞いてふぅと溜息をつきながら受話器を置く。

自分が覚えてるのは最初と最後だけだった。他にもなにか言ってた気がするけどよく覚えていない。

あのアスカの不調の話なんて聞きたくなかったのかもしれない。

でも、何だかんだでやってくれるリツコさんはいい人だよな…。 ミサトさんの事良く分かってるか らああいう風に言えるんだ。

僕はアスカの事を分かっているのかな?

「分かってるわけ無いよな、アスカの事を分かろうとしなかったんだから…」

正直アスカが泣いたときはどうして良いか分からなかった。

ビルの屋上で慰めてくれたアスカ。口が悪いところもあるけど、それでも強く凛としている所はかっこいいななんて思っていた。

だけど…違った…。

アスカは辛くなったり苦しくなったら泣いてしまう様な、そんな女の子なんだ。

「アスカは強い子だって勝手に思い込んでただけって事か」

そしてまた電話がなり、受話器を取ると電子音が鳴り出し紙が排出された。

FAXに書かれていた文面は難しい言葉が沢山有ったけどなんとか読み取った。

曰く、使徒による精神攻撃時のエヴァ内の言動と診察時の記憶の説明に若干の違い及び欠落が有り、軽度の記憶障害が見られる。

軽度の記憶障害…アスカが…。次の文を読み必死で頭の中で整理する。

曰く、精神衰弱が起こっており、一時的に情緒不安定のためイライラしたり、泣き出すなど、こちらも軽度の自律神経失調症の兆候があり注意が必要。

それと、精神の自己防衛の為の自傷行為や特定の人物に対する依存の可能性がある。

そして最後に。

精神退行の恐れあり、対象者のケアと理解を求む。

他には薬の説明文が有ったけど難しすぎて読み解くのを断念した。

具体的な病気の症状はよくわからない、自律神経失調症なんてTVで聞いた程度の知識 (しかも の時は興味が無かったからあまり覚えていない。 )しかない。

何でこんな難しい文章にしたんだろう…。

もしかしてアスカに読ませるために書いたのかな、でもアスカは読まないで捨てる気がする。

そうか、ミサトさんに見せるためか。でももうちょっと簡単に書いて欲しかったな、そうすれば僕にだって…。

「アスカはあの時僕の事を…」

辛い思いをしたのに僕の事を心配してくれた、な んて情けないんだろう、僕はそんなアスカの前で泣いてしまうなんて。

しかも慰められてしまった、僕は男なのに。

ウジウジしちゃってもぉー!おっとこの子でしょうが!。

男の癖になっさけ無いわねぇ。

そんな事を言われる度に別に好きで男に産まれてきたんじゃないよ、なんて思ってたけど。

「しょうがないか、悔しいけど僕は男なんだもんな」

そういえばポトフはどうしてただろうかと鍋の中を見たら野菜がクタクタになっていた。

アスカって野菜が歯ごたえのある方が好きだったっけ。

「参ったな」

気を取り直してポトフの味を整えたあと、ボウルの中で水冷していたサラダに使うレタスとトマトを取り出し、水切りする。

分からないな、何でこんなにアスカの事を気にしてるんだろ。

アスカの診断書はともかく 美味しい料理を食べて欲しい、昔の僕はこんな事思わなかったはずだ。

何時から僕はこんな風に料理の取り組むようになったんだろう、そんなことを考えながらハンバーグの形を整え、 油を引いたフライパンにハンバーグのタネを投入した。

side-asuka

何であんたがそこにいるのよ!

何にもしてくれない。

あたしを助けてくれない!

抱きしめてもくれないくせに!

アンタなんてキライよ!みんなキライキライ!ダイッキライ!

アタシハアンタガノゾムコトナラナンダッテシテヤレルノニ!

XXXなんてダイッキライ!

「う、うぅん」

キモチワルイ…。

シンジが起こしてくれる、そんなことを考えていた気がしたけど結局一人で起きてしまった。

もう忘れてしまったけど、夢の内容はあまり楽しい物じゃなかった様な気がする。

シンジは持ってきてくれると言ってたからここで待ってようかしら。 だけどシンジの様子が気になってシンジが居るであろうキッチンを見るためにふすまをあける。

すると。

何でこいつはアタシの所に来てくれないの?アタシの所に来なさいよ。

アタシの傍に…アタシの物に…。

「………」

時間が止まったみたいにアタシ達は動かない、けどしびれを切らしたシンジが先に動いた。

「わ、解ったよ持ってくるから…」

待っててって最後にボソッと言って出てっちゃった。 シンジの根負けって奴ね、アタシに歯向かお うとするなんて100年早いのよ。

「ったく、何顔真っ赤にしてんのよあんたは」

こうしてシンジとの心理戦(ワガママ)に見事打ち勝ったアタシは、勉強机にある鏡に映った顔の赤いアタシに毒づいた。

そうこうしているとシンジがお盆を持って入ってきた。

シンジはアタシの目の前にお盆を置き座った。へぇ、シンジにしては解ってるわね… 。

「…」

アタシ達は黙々とシンジの作ったご飯を食べてる。 数分前に2人で頂きますって言ったあとは数回話した後は今みたいに黙ったまま箸をつついている。

見た目は完全に洋食なのに箸で食べてるなんて変なものね何て考えながら。

って考えながらじゃない…言えば良いじゃない何やってんのよ、アタシは惣流・アスカ・ラングレーなのよ。

この空気を壊すべく先に口火を切ったのはシンジだった。

「久しぶりだね…こんな風に食べるの」

「そ、そう?」

そう、じゃないわよそうじゃ、シンジみたいな返答してんじゃないわよ。

「うん、多分トウジの時からだと思う、アスカが委員長の家に泊まる回数が増えたのは」

「そのあと僕がネルフを出て行こうとして、ゼルエルとの戦いでエヴァに取り込まれて…」

「やめなさいよ」

空気が重くてイヤ、だからアタシはシンジの話を遮った。 あのシンジのことだから嫌味で言った訳じゃないのは解っている。

「ごめん…」

「謝るのはアタシの方。悔しかったのよ、何もかもが」

シンジがえ?と不思議そうな顔をしてこっちを見てくる。 何よその顔は、アタシが何も感じない冷血女 とでも思ってたわけ?

「ジャージ、鈴原の時はシンジに教えなかった。 だからアタシがどうにかしようと思ったけど結局出来なくて、シンジに…戦わせちゃった」

アタシは目の前の美味しそうなご飯を見ながら…ちがう俯きながら話を進める。

「ゼルエルの時だってあんたは来ないと思ったから、代わりにアタシが奴を倒そうとした。これも負けてやっぱりシンジが戦って勝って、そのせいでシンジは1ヶ月戻って来な かった」

「どうしていいか分からなかった、 シンジを憎むアタシが嫌いだった。 シンジにどんな顔をすれば良いか分からなかった」

ついに言ってしまった、アタシがこいつを憎んでた事。アタシの数年間の努力をたった数ヶ月で抜きさっ たこいつへの恨み。

アタシのアイデンティティーをぶち壊したシンジが許せなかった。

「…笑っていて、欲しい」

シンジを見るとシンジは顔を赤くさせながら話を続ける。

「前みたいに僕をからかったり、馬鹿にしたりして笑っていて欲しいんだ。 あの時だっていつもの様に僕を馬鹿にして、 ただ一言お帰りって言って くれればそれで良かった」

「今日はアスカが自然にただいまって言ってくれた事が、僕はとても嬉しかったんだ」

アタシはシンジにあたってばっかりだったのにこいつはアタシに笑っていて欲しいだなんて。

脳天気にも程がある、どこまでお人好しなのよこいつは。

「バカ」

「うん」

「シンジのバカ」

「うん」

「…バカシンジ」

「うん…」

それしか言えないの?このバカは、嬉しそうにしてんじゃないわよ変態。

「あんた、バカァ…?」

やっぱりこいつは馬鹿だ、どうしようもない馬鹿だ。 シンジは笑顔でこいつには似合わなくてある意味シンジらしい事を言ってくる。

「久しぶりだね、その言葉を言ってくれたのは」

もう、我慢出来なかった…。

「バカ、バカシンジ…」

許さないんだから。

このアタシを二度も泣かせるなんて。

「風呂は命の洗濯か…」

ミサトの言葉を思い出しながらシンジのいれたお風呂にはいってる。

シンジと食べた御飯はおいしかった。前みたいに賑やかに食べてた訳じゃなくて会話が途切れながらだったけど。

「前は殆ど話さなかったんだから…」

お湯をすくって顔につける。何だか顔がはれぼったくて目はシパシパして痛いくらい。

「よく考えたらキッチンのアレはシンジのせいじゃないわね」

独り呟く、お風呂に居る時は独り言が多くなる。

「ここには誰もいないのね」

そう、アタシは独り。

アタシを守ってくれる人がいない世界、ママがい ない…加持さんがいない…シンジだっていない孤独な世界

「やだな」

なんだろう寒気がしてきて体にぽっかり穴が空く感じがする、さっきまでは暖かかったのに。 こういう現象は、そうだ思い出した。

フラッシュバック。

「ヒ、い、やぁ…!」

苦しい、苦しい苦しい。ざわざわと虫が手足から 頭へと登ってくる感じがする。

思い出したくないのに、せっかく忘れたと思っていたのに嫌な記憶が嫌な気持ちがどんどん溢れてくる。アタシ知らない、アラエルの時にこんなの、こんなの…。

頑張ってほんの少しでも満たされていた今の事を思い返す、シンジの事、加持さんの事、ふとミサトの言葉を思い出す。

大丈夫だと思った後からズシンとくるものよ。

「怖い、こわいよ、ママ」

助けて

私は子供じゃない!早く大人になるの。ぬいぐるみなんて、お人形なんて私には要らないわ!

パパもママも要らない、一人で生きるの!

一緒に死んでちょうだい。

一緒に死んであげるから、だからママをやめないで。

嫌っ!こんなの思い出させないで!せっかく忘れ てるのに掘り起こさないで!

寂しいの?

違う!側に来ないで!私は一人で生きるの!

誰にも頼らない!一人で生きていけるの!

いや!やめて!アタシはママの人形じゃない。

アタシはあんたみたいな人形になりたくないの!。人形に成るくらいなら死んだ方がましだわ。

嘘ばっかり…。

アンタハアタシニナリタカッタノヨ。

「い、イヤァ…!」

汚れちゃった汚されちゃった。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ、汚いものがどんどん溢れてくる。

あいつに、シンジに全部吐き出したと思ってたのに。

怖い、怖い、怖いよママ。

助けて、加持さん。

「シンジ…!」

「アスカ?どうかしたの?」

なんでシンジが?そんなことより言わなくちゃ、 言わなきゃ…アタシはおかしくなる。

あたしをたすけてって、そうしないとあたしはあたしじゃなくなっちゃう。

「何でもないわよぉ!それより何でここにいんのよー? あぁ!アンタもしかして覗く気ー!?」

「ちち、違うよ!た、タオルを用意してたの!」

あぁそうだった、すっかり忘れてたわ。弱みなんか見せられない、頼ることができない、ア タシはそんな女だった。

「怪しい~!それかアタシの着てた服使って如何わしい事でもしてたんでしょ!」

「…っあ、何を」

アレ?シンジの様子が…変わった?シンジご狼狽えた瞬間全身が泡立つ感じがした。

「アタシの入浴シーンでナニやってんのかなー?」

この機を逃しちゃ行けない何故だかアタシはそう思ってた。もっとだもっと炙り出せ、こいつの考えてる事を。

「な、何言ってんだよ…アスカは…そんな事するわけないだろ。」

ダメだ、逃がしちゃいけない、今を逃したら…。

「待ってシンジ」

アタシは浴槽から上がりドアに向かい手をかける。

「な、何アスカ?僕はホントにた、タオルを持って来ただけで…」

「…」

胸の鼓動がうるさいくらい聞こえる、身体が燃え尽きてしまいそう。アタシはいけない事をしようとしてる、これをやってしまったらもう戻れないかもしれない。

「…アスカ?大丈夫?」

「シンジ…」

「…アタシの如何わしい写真はあんたを満足させてる?」

「な、何を!?ぼぼ、僕はケンスケからそんなのも、貰ってない」

そう言ってシンジはスタスタと出ていった。シンジがね、あのシンジが…。

「アタシで…ねぇ」

シンジがアタシをそういう目で見ていたのは前からもしかしてと思ってたけど、遂に確信に変わった。

別にアタシは相田からなんて聞いてない、如何わしい写真だってエッチな写真と限定されるわけじゃない。

「へえ、そうなんだ…クスックスクス」

このこみ上げてくる感情はなに?笑いが止まらなくなりそう。さっきは凍える程に寒く感じてたのに、今は胸の奥が焼けるように疼いてる。

惣流の奴、最近体つきが良くなってきたな。

惣流いいよなぁ、もし俺と付き合えたら… 。

少なからず自身のある身体はシンジを惹きつけていたんだ。あいつらと同じ、やる事しか頭に無いような猿と同じなんだ。

シンジだってエヴァのパイロットである前に 1人の男って事ね。

「じゃあ、簡単じゃない…」

言いながらにやりと笑う、こんな簡単な事だったなんて。シンジをアタシの物にする方法。

こんな事考えるアタシはきっと普通じゃない、ワタシの性根は腐っているんだ。醜く汚く腐りきっている。

それでもアタシはあいつが欲しい、あいつをアタシの物にしたい。こんな役立たずで汚れたアタシでもシンジを手に入れることが出来る。

この時のアタシは間違いなく、オーバー・ ザ・レ インボーで見せた以上の下卑た笑みを浮かべていた。

side-shinji

バスタオルを用意し終わって、アスカが入っているお風呂場から出ていく。

「バレちゃったのかな、アスカに」

そんなはずは無い、僕は一度だってそういう現場を見られてないし、自分の部屋では極力やらずにトイレやお風呂場で済ませてるんだから。

あの動揺だってアスカにからかわれたからあんなに焦っちゃったんだ。

「でもやりづらくなったのは確かだよなぁ」

テーブルを拭きながらつぶやく。

食器は洗い終わった、ミサトさんの分はラップに 包んであるし洗濯は…最近量が少なかったから直ぐに終わった。

と言ってもまた量が増えそうだけどね。

「さて、いい加減疲れたし部屋に行こうかな」

こうして僕はアスカの部屋の向かいにある納戸に入る。

今日は色んな事があったな、アスカに怒られてアスカの前で泣き出して、それにアスカが久しぶ りにご飯のリクエストをして来てくれた。

初めてアスカの涙を見た日。 初めてアスカの部屋(元々僕の部屋だけど)に入ってしかもご飯を食べた日。

「全部1日で体験したんだよな」

ベッドに腰掛けながら振り返る、何だかとても長い時間を過ごした気がする。 それほど迄に密度の濃い1日だった。

「だめだ、ホントに眠くなってきた」

まだお風呂入ってないのに、横になりながら時計を見ると今の時間は9時をちょっと過ぎた位。

アスカの言葉を思い出す。

「憎まれてたのか…アスカに」

なんだか悲しくなってくる。本当に嫌っている人にはアスカはあんな事言わないのは解ってるつもりだけど。

「実際に言われると辛いよな…」

お風呂はいいや、もし12時くらいに起きたら入ることにしよう。僕はふすまの方に向けていた体を反対にして壁を見る状態にして寝る。

少したったあとアスカがふすまを挨拶抜きで開けてき た。

どうしようそのまま狸寝入りを決め込むか。そんな事を考えていたらゆっくり一歩一歩近づいてくる。

そしてベッドに両膝を乗せた状態で僕に話しかけてきた。耳元にギシッと聞こえる音はまるで死刑宣告に聞こえた。

「ねぇ、シンジィ…聞きたい事があるんだけどさ」

来た。

どうしよう、心臓がバクバクする、アスカに殺される。ミサトさんに知られてしまう、どうかアスカに心臓の音が聞こえませんように。

「アタシの裸ってそんなに興奮するの?」

え?

「え?」

驚いて頭をアスカの方を向けてしまった。しかも心の声が口に出ちゃったみたいだ。

僕の顔はこの位置じゃ見えないからそれが助かったと思う。僕は案外顔に出やすいタイプだから。

だけど問題はそこじゃない。アスカはオナ ニーしてんの?なんて聞き方じゃなくて、オナニーして る事を前提に話を聞いてきた。

「な、何が? アスカ、き、君が何を言ってるのか分からないよ」

なんて言い方してるんだ僕は、こんなのオナニーしてるって言ってる物じゃないか。

「オ、オナニーなんかしてる訳な」

「そんな事言ってんじゃないのよ」

そう言ってアスカは膝立ちを解いてベッドに本格的に座ってきた。 俗に言う鳶座りという奴で僕を見下ろしてく る。

「あんたはアタシの裸をオカズにしてオナ ニーしてんのかって聞いてんのよ」

背中が熱い、僕が壁際に寝ているとはいえ、 1人 用のベットにアスカが乗り上げたからアスカの膝が背中に当たってる。

膝は骨で硬いはずなのにアスカの体が柔らかいのか。プニプニとした感覚がある。

アスカの肩を抱いた時も鍛えてある癖にやっぱり女の子だからなのか凄く柔らかくて、いい匂いがしてドキドキした。

「ねぇ、どうなのよぉ?…それとも、アタシなんかじゃ興奮しないっての?」

僕が何も言わなかったからなのか、さっきまでの背筋がゾクゾクするような甘ったるい喋り方が、 まるでナイフの様な鋭さを持った言葉に変わる。

どう答えればいいんだ、さっきから口が、喉が、 舌が動かない。

オナニーなんてしてない、そんなこと言ったってアスカは聞かないし、やってるのは事実だ。

それじゃあ、アスカをオカズにしてるって言えば良いのか?。
イヤイヤそれこそダメだ、同居人をオカズにしてオナニーしてますなんて言えるわけ無い。

どうする。

「オナニーはしてる…アスカでも」

「へぇ、そう…そうなの」

アスカの声色が機嫌のいい物に変わってほっとする。 何故僕がオナニーしている事で嬉 しそうにしてるのか分からないけど、今は この状況から 抜け出すことが第一だ。

なのに。

「アタシでもって…どういう事よ」

どういう事だよ、何でアスカは怒ったのさ? アスカでもって言ったから?

もって言ったのが駄目だったの?もう無理だ、逃げ出したい。いっそ殺してくれて構わない。

「あんた、いい加減にこっち向きなさいよ」

そう言ってアスカは僕の肩を掴み無理矢理仰向けの状態にして僕に馬乗りになり手は僕のみぞおち 辺りに置かれている。

「クッ…アスカ…」

まずい、僕はどうなるんだ。

って決まってるさ、アスカでオナニーしてるって言ってしまったんだ、マウントポジ ションでタコ 殴りは避けられない。

生命の危機を感じてるのにアスカの柔らかい女の子の感触がお腹に伝わってきてドキドキする。

こんな時でも劣情ってのは催すんだなと現実 逃避して考えていた。

「言いなさいよ、アタシでもってどういう 事?」

もう逃げられない。覚悟を決めた僕は横にしていた顔をア スカの方に向けて話そうとした。

「う…」

目の前のアスカはさっきまでの泣いてた時み たいな赤い顔とは違う、上気した顔をしていて思わず情けない声を出してしまった。

しかも服装はたまに着ているネグリジェだけど、 セットで着ている羽織が無いせいで体のラインを主張していて。

アスカ…とても綺麗だ。

よく中学生男子は猿並だと言われるけど本当なんだな。今更ながら思い知ったよ。

こんな時に生命危機のドキドキよりも勝ってしまうなんて。恐怖心が振り切れたのか、噛みながらも話すことができた。

「ほ、他には友達から貰った本でしてま…す」

友達って言ったって僕にはトウジとケンスケくらいしか友達いないのに。

「で、他は?」

「他って?」

これ以上何を言えって言うんだよ? まさかエロ本の隠し場所を言えって言うの?

「あんた、他の人間をオカズにしてんの?」

他の人間?ミサトさんとか綾波とかってこと?それは。

「して、ないよ、身近な人でしてる…のは。 ア、 アアスカだけ…だよ」

それを聞いたアスカの顔は一瞬ドキッとするような可愛らしい笑顔を浮かべたあと、僕のお腹に乗せていた手を僕の肩に置いてから言った。

アスカはグイッと勢いよく顔を近づ けて、後少しでキスしてしまうくらいの距離で止まった。

「へぇ、あんたアタシでしてたのアタシだけでしてたんだ、何それ?あんた変態じゃない、変態」

「アスカ、か、顔」

近いよ。

そう言おうとしたら、アスカがゆっくり最初の馬乗りの状態に戻る。ホットした束の間アスカが信じられない事を してきた。

「アスカ!ぅあ!や、やめて!」

「何でよ、気持ちいいんでしょ?だってあんたアタシでオナニーする変態なんだから」

アスカが僕のペニスをズボンの上から刺激してきた。

「駄目だったら、アスカ!アァ!」

「よく言うわね、あんたさっきからずっと勃ててた癖に」

やっぱりバレてた、アスカのふとももやお尻に何回かぶつかってたし。なんてもう冷静に考えられない、駄目だこれは本当にまずい。

最近はシテ無かったから今にも暴発しそうだ、こんな事になるんだったらこっそりトイ レでしとけばよかった。

「このアタシがしてんのよ?あんたがいつも妄想してることをアタシがやってるの、気持ちいいよね?シンジ」

そう言ってアスカはパンツの中に手を入れて直接刺激してきた。

「アスカ!やめて、お願いだから!」

駄目だ、もう出る。体がびくんと跳ねたあと、アスカの手に包まれたまま射精してしまった。

「アァ…」

溜まってたからか、アスカにされたからかは分からない、あるいはその両方かもしれな い。

とても気持ちよかった。

アスカ、何で…。

そう言おうとして、視点を天井からアスカに 向けると、パンツから手を抜いていて、 僕 の精子がこびりついた手をまじまじと見つめていた。

「随分出たわね」

僕は虚脱感が体を支配しているのをなんとか奮い立たせて、起き上がろうとする。

けどアスカに乗られているせいで、起き上がれない。

「ご、ごめんアスカ、汚いからそれ拭かなくちゃ!早く!」

そんな僕の事を一瞥したアスカはどこうとせずに精子のついた手と僕を交互に見た。そしてアスカは手についた精子を舌で舐めた。

「な…!やめて!汚いから!」

アスカは僕の言うことなど聞かずに精子を綺麗に舐め取ってしまった。

最後にちゅぽんと音を立てるその姿はご飯をつまみ食いした時に指を舐める行儀の悪い姿と重なって見えてとても嫌な気分になった。

汚してしまった。アスカを。

実際に汚されたのは僕かもしれないけど、オナニーしたあとになるマイナス思考がそれを助長させる。

「噂には聞いてたけどやっぱり不味いわね」

しれっとそんな事を言ってのけるアスカが信じられなかった。

やっぱりアスカみたいな女の子はもう経験してるって事なのか。

そりゃそうだよな、みんなから人気があって活発で太陽みたいにキラキラしてるんだ、こんな僕と違ってモテるに決まってる。

射精後の開放感と罪悪感がグチャグチャになって、顔には出なかったけど泣きそうになった。

そんな僕の事なんて解るはずのないアスカは普段のアスカでは想像できないとろけるようなしゃべり方で話す。

「ねぇシンジぃ、気持ちよかったんでしょ?だってあんなにいっぱい出したんだから」

馬乗りの状態で僕を見下ろすアスカ、普段からみくだすような視線を何度も送られていたけどアスカの蒸気した女の顔を見るのは初めてだった。

「もう…やめ…てアス…カ…ァァ!」

疲労感を振り切りなんとか言った拒絶の言葉もアスカがまたパンツの中に手を入れ僕のペニスを刺激した事で最後まで言う事が出来なかった。

さっき達してしまったばかりで敏感になってるからか大きな声を出してしまう。

「我慢しなくてもいいのよシンジ、あんたが妄想 してた事をアタシがやってあげてるんだから」

マズイ、もしミサトさんにこんな状態を見られたら大変な事になる。 僕はアスカを守るってミサトさんと約束したんだから。

言うんだ、これ以上はいけない、これ以上やられたら。僕はアスカを傷つけてしまう。

「くぁ、み、ミサトさんが帰ってきちゃうよ、だから…駄目…だ」

その言葉でペニスを刺激していた右手の動きが止まる。助かった。

ミサトさんの名前を出したらアスカのとろけるような表情が少しいつものアスカに戻って見えた。

「確かに今日は帰ってくるかもしれないわね、 でも考えて見なさいよ使徒が来た時は帰ってくるのは殆どが夜中よ」

アスカの言葉を聞いて、やっぱり無駄だったのかと後悔する。

ミサトさんは言った、『絶対帰ってくる』って、 つまり無理矢理時間を作ってくれるって事。

そういう時はアスカの言う通り夜中の3時4時に帰ってくるなんて事はザラにある。

「今は何時だと思ってるのよ?教えてあげよっか?シンジ?」

またアスカの声がねっとりと湿度を含んだ喋り方に戻っていく。

「くぁ…」

それと同時にアスカは僕のパンツの中で固まっていた右手を再び動かす。

「今はまだ9時、時間はたっぷりあるわ十分すぎるほどにね」

僕のペニスから流れるカウパーのせいでアスカが右手を動かす度にクチュっという音がしてきた。

「この先をしてみない?それはとても気持ちのいいことよ」

アスカのとろけるような喋り方が僕の脳をドロドロに溶かしていくのを感じる。

でも駄目なんだ、アスカは使徒との戦闘で傷ついてしまったんだ、だからこんな僕にでもこんな事 をしてしまう。

リツコさんが言ってたんだ特定の人物に依存するって、身近な人間は僕しかいない、だから自分を守るためにアスカは僕にこんな事をする。

冷静になった時にアスカはきっと傷ついてしまう、アスカを傷付けてしまう。

僕はこんな風に関係したくないんだ。

「アス…カ」

気力を振り絞った最後の拒絶の言葉もアスカには届かなかった。

アスカはペニスを刺激しながらゆっくりと僕の体にピタリとくっついてきた。

駄目なのに、駄目なのに。

至近距離から感じるアスカの甘いシャンプーの匂いが。

ふんわりと香るボディーソープの匂いが。

中学生の女の子にしては発育のいい胸が。

アスカの好き通るように白い、蒸気した桃色の肌が。

僕の頬を優しく撫でる左手が。

アスカ自身から感じる『女』の匂いが。

僕を狂わせる。

「ねぇシンジィ…あんたが…」

僕の一欠片の理性を取り払うのは甘い猛毒。

「あんたが望む事ならアタシは何だってしてあげる…」

その言葉を聞いて僕の最後の理性は吹き飛んだ。

苦痛と快楽に歪むアスカの表情が見える。肌と肌がぶつかり合う音と、クチュクチュと秘部が擦れ合う水音が聞こえる。

頭の中に響くのはお前は最低だと僕が僕自身を責める、非難の声と僕のくだらない言い訳。

だってしょうが無いだろ、僕は散々断ったんだ。 アスカは経験があったから、こんな僕なんかを誘ったんだ。

僕は悪くない、僕は…。罪悪感を誤魔化すようにアスカに何度も何度も腰を打ち付け最後に醜い劣情をアスカの真っ白なお腹の上に吐き出す。

息を荒らげながらアスカを見ると辛そうな表情、 シーツを見るとアスカと僕のあいだには真紅の斑点。

そんな…嘘だ、嘘だ…。

使徒との戦闘で外傷は無かったはずだ、アスカは痛がってただけなんだ、アスカは…アスカは清純な女の子だったんだ。

僕はもう傷つけないって決めたのに。

僕がアスカを守るって決めたのに。

僕はまた、アスカを傷付けてしまった。

僕は謝ってすむ訳がない、取り返しのつかない事をしてしまった。

最低だ…。

やっぱり俺は最低な人間だ。

と言うことで第一部は完結となりました。
第二部も制作中なのでよろしく。

アタシの心を覗いた使徒、「アラエル」アタ シはあいつに心をあばかれ、犯され、汚された。

そのあとは、あの人形女に助けられるという、人生の汚点ともいうべき失態を犯してしまった。

ビルでうずくまっているとシンジがやって来てアタシを慰めてくれた。 アタシは散々シンジに辛く当たったんだけどシンジはアタシを…。

コンフォート17でもシンジはアタシのために 美味しいご飯を作ってくれた。 ここでもアタシを慰めてくれる。優しいシンジ。

アタシの事をこいつが一番わかってくれる、わかろうとしてくれる。

だからアタシはシンジがどうしても欲しかった。 アタシの物に、アタシだけの物にしたかった。

だれも手出しできないように、アタシしか目に入らないようにするために。だからアタシはシンジにアタシの初めてを捧げ た。

シンジはアタシに優しくしてくれる、大切にしてくれる。汚されたアタシを綺麗にしてくれる。

でも足りない、これじゃアタシは満たされない、だってアタシが欲しかったものは。

本当に欲しかったのはこれじゃないの。でも…離れる事は出来ない。離れたらアタシはシンジを感じる事が出来なくなる。

シンジはアタシを見てくれなくなる。そしてアタシは汚れていく、シンジがアタシを抱きしめてアタシは綺麗になれる。ずっとその繰り返し。

ねぇ、シンジ…。

あんたは…。










「Wirst du mich auch lieben?」
あなたは私を愛してくれますか?







アタシは1人起き上がって、眠ってるシンジに向かって問いかける。

聞こえて無い、だからアタシはシンジに聞いた。 もし起きててもドイツ語じゃ何を言ったかわからないはず。

日本語でなんか言えるわけ無い。英語だってもしかしたら解ってしまうかもしれない。だからアタシはドイツ語で眠っているシンジに問いかける。

知りたい、でも知りたくない、もし知ってしまったらアタシはどうにかなってしまう。

もしそれがアタシの望む言葉だったら天にも登る心地だろう。

でも…もしもこいつがアタシの望まない言葉を言ったならアタシは、きっと心が壊れてしまう…。

そこで体が肌寒さでブルリと震える。

いくら終わらない夏が続いてると言っても朝方だと産まれたままの姿にシーツ1枚は流石に肌寒い。

「常冬のドイツに比べたら大したことは無いけどね」

なんて1人ごちる。

アタシは今シンジの部屋でシンジと一緒に寝ている。もう一人の同居人であり保護者役の上司は仕事に行ったまま帰ってこない。

あの日案の定午前を回ってしかもアタシ達が起きる頃に帰ってきたミサトの言葉を思い出す。

「貴方たちを何としても守ってあげるから、 約束する」

そう言ってミサトは夕食として作ったシンジ のご飯を朝食として食べたあと自分の部屋に入って眠りについた。

ミサトは家に帰る日が増えるかと思ってたらそんな事はない。 確かに自分の為じゃなくてアタシ達の為に動いてくれてるのは解る。

けど結局帰ってこないんじゃ、前と変わんないじゃない。

「ミサトは解ってるようで全然解って無いのよね」

でも不思議と前みたいに怒りは湧いてこなかった。それはアタシ達を見てくれてるから、不器用なりの優しさがあるからだと思う。

アタシはシンジの寝顔を眺めて、汗で張り付いた前髪を手櫛で治してやる。
それがくすぐったかのかシンジはアタシの手から逃げるように顔を背けた。

チクリ。

シンジは全くの無意識なのに、アタシはシンジに否定されたかのような気分になって心が微かに痛む。

それからシンジはムニャムニャとうわ言を言っているみたい。

「あ…」

あすか…。

そう言ってくれるのかと思って心臓がトクンと高鳴る。

アタシは脳内でシミュレートする。

こいつが寝ぼけ眼でアタシを呼んで、アタシはそれをからかいながらおはようのキスをする。

アタシはいつか、いつの日か出来たら良いなと妄想する。もちろんキスなんてこんな関係になったからといってもそんな回数は重ねていない。

アタシからはキスはほとんど出来てない。なんでかわからないけどしたくないなんて思ってる。

シンジはシンジだから余りしてこない結局体を重ねる回数の方がキスより上になってしまっている。

シンジはうなされる事もなく安らかに眠っている、今日は大丈夫みたいね。

シンジはまたムニャムニャと何か言おうとして、アタシはまた片手で手櫛を再開する。

「あ…やな…み…」

あの女の名前を呼ばれたアタシは血流が止まる錯覚を感じた。

「…っ?!」

同時に手が一瞬止まり、手が額、目、頬、 唇、顎 と下がっていきシンジから離れる。

なんで、どうして。

アタシはあんたにアタシを捧げたのに、それなのになんで人形女の名前なんか呼ぶのよ。

そんなシンジなんて…。

離した手をシンジに再び向けてシンジの首を大切なものを扱うように両手で覆う。

ゆっくりと、でも確実に両手に力を入れていく。するとシンジの頸動脈から血の流れる振動を感じる。

ドクン、ドクン。

初めて体を重ねた日はアタシと同じように、シンジの心臓は破裂しちゃうんじゃないかってくらいにドクドクと高鳴っていた。

シンジの顔を見ると少し苦しそうな顔をしているのを見て両手を離す。所詮人殺しの真似事、本当に出来るわけ無 い。

シンジを殺す事なんて出来るわけがない…。
お風呂に行こう…。

落ち込んだ気分を振り切るためにシーツをめくり汚れちゃった下着とスカートを持ち、着ていた上着を羽織ってお風呂場に向かう。

時間は6時5分。

あともう少しでシンジはアタシ達のお弁当作 りや朝ご飯作りに起きる時間。

アタシはゆっくりと時間をかけて、お風呂に入って汚れた体を磨く。

その時間でアタシはこのはれぼったい顔と赤い目を何とかしなくちゃいけない。

アタシはボソッと誰に言うでもない捨て台詞を吐いてアタシはシンジの部屋をあとにした。









「Der Junge, den ich liebe, erwidert meine Liebe nicht」

私が愛している少年は私を愛していません。









「Der Junge, den ich liebe, erwidert meine Liebe nicht」

私が愛している少年は私を愛していません。







side-shinji

「 Der Junge, den ich liebe, erwidert meine l iebe nicht」

アスカの聞きなれない言葉が聞こえて完全に目を覚ます。

多分ドイツ語だろうと体を起こしながら考える。

アスカにからかわれたのが悔しくて前にドイツ語の勉強をしようかと興味本位で本屋でドイツの文化の特集をした雑誌を買ったけど
ドイツ語は全くわからなかったのでドイツ語を覚えようなんて考えはスパっとやめて今は本棚の肥やしとなっている。

でもなんとか単語だけなら少しだけ覚えてた「ich」は私、「liebe」は。

「愛…」

アスカは何て言ったんだろう。

愛、愛か…。

僕はアスカをどう思っているんだろう。アスカは僕にとって大切な人だ、初めてアスカの涙を見たあの日。

ミサトさんに言われたからじゃなくて、本当に僕はこの子を守りたいって思った。

だけど僕はアスカを守れてるとは思わない。 だってそうだろ?これ以上アスカを傷つけない、そう決めたのに僕はアスカを傷つけてしまった。

初めての行為が終わったときの事、シーツに描かれた赤い斑点が僕を現実に引き戻した。

痛がってたのは僕が余裕が無くて乱暴に動いたせいでアスカに痛い思いをさせてたと決めつけてた。

アスカはきっと経験があったからあんな事をしたんだと、僕は不可抗力でアスカが誘ってきたんだから、僕は被害者だしょうがなかったんだ、そんなくだらないいい訳ばかり考えてた。

アスカとシテいるときはとても気持ちいい。

だけどアスカの快楽に歪む顔を上から眺めながらもどこか冷めた感覚がある。 冷めた僕が僕を責める。

『お前は最低だ』

『アスカを守るって決めたくせにお前はアス カに溺れてるだけでアスカを守ってはいない』

『離れるのが怖いから都合のいい距離からアスカを縛ってるだけだ』

そしてそんな頭の中の罵倒を追い出すようにアスカを強く突き上げる。

何度も、何度も、何度も。

アスカが涙を流す、決して嬉しいからじゃないそんな訳が無い。

むしろアスカは…。

だけど僕ははそんなアスカの姿を見て内心ほくそ笑む。あのアスカが今だけは僕の下で嬌声をあげる。

『いい眺めだよ、アスカ。』

口には出さないけどいつも思ってる。この時だけは僕がアスカを支配してるんだ。

僕にお姉さん面して命令ばかりするアスカ。いつも活発でキラキラと太陽のような笑顔を浮かべていた 、あのアスカを。

「そんなアスカを僕は…」

僕はこれで良かったのかなミサトさん、綾波。

「いいわけ無いに決まってるだろ」

苛立ちを紛らわすためにシーツを蹴飛ばす。

時計を見れば6時15分。

少し考え過ぎてたみたいだ。今日のメインは揚げ物の唐揚げだしなんとかなるか。

味は調味料に一晩漬けたから染みてるはずだし、後は片栗粉を付けて揚げるだけ。

副菜のポテトサラダは昨日のうちに作っておいたし、冷凍食品で隙間を埋めればいい。

朝ごはんはトーストにスクランブルエッグとベーコン昨日の残りのマセドアンサラダにすれば時間はかからないはずだ。

体がムズムズするけどアスカが出てきたあとにサッとシャワーを浴びてその時着替えればいいや。

そして僕はアスカのリクエストの唐揚げを作ろうと昨日の服を着てキッチンにむかう。

結局僕はアスカへの答えをまた出さなかった…。

side-asuka

お風呂からあがってタオルで髪を拭く。ロングだとブローに時間がかかってアタシ達は遅刻しそうになる事もある。

達ってのはシンジが待ってくれてるから。

きっかけは髪が決まらなかったときにシンジが先に行こうとしたのを、アタシがここぞとばかりに女の子の特権を使って罵倒したからだと思う。

制服を着てまだ少し水を含んだ髪をタオルで束ねてお風呂場を出たアタシは、髪をブローするためにアタシの部屋に入る。

だれも聞いてない事を確認して、アタシは呟く。

「別に待っててくれなくても良いのにね」

昔と違って今のアタシはそんなことを思ってたりするのはアタシだけの秘密。

ベッドに腰掛けドライヤーのスイッチを入れる、時間をかけて乾かす度に大変だし切っちゃおうかななんて思うけど、結局は毛先を整えるだけで実行に移したことはない。

切らない理由は二つ。

一つ目はママがアタシのロングヘアーを、紅茶色の髪を褒めてくれたから。

二つ目は…。

「アスカ、もう少しでご飯できるよ」

シンジがコンコンとふすまを叩いてからふすまを開けてアタシに話しかける。こいつったらもう制服に着替えてる。

髪は若干濡れてるからアタシが髪をブローしながら物思いに耽っていた間にシャワーを済ませてきたんだと推測する。

烏の行水とはよく言ったものね、アタシは絶対に真似できないわ。そんな事したらせっかく綺麗に伸ばした髪が傷んじゃうんだから。

「待ってて、もうちょっとで終わるわ」

ドライヤーを止めて最後に洗い流さないトリートメントを髪になじませコームですく。

よし、完成。

「こうしてアタシのツヤツヤの髪は保たれてるってわけよ、解った?」

ブローする前のトリートメントをし忘れて最後にしたのはちょっとした不注意だけどね。

アタシはのほほんとしたシンジに髪の毛の手入れの大切さをとく。だけどこいつはあまり興味がないみたい。

「そうなの?」

夜はアタシの髪を優しく何度もすいてくれるのに。 こいつはその手触りが日頃の努力の賜物だってわかってるのかしら。

なーんて。

「バカシンジにはわかんないわよねぇ」

「うん、そうだね」

シンジは最近、さらに細かくいえばあの夜を越えた日から簡単にごめんって言わなくなった。

「じゃあ行きましょ」

シンジを回れ右させてテーブルに向かう。

今のシンジは本当に悪かったなとこいつが思った時に言うだけ。アタシはそれが嬉しくて、それでいて少しムカつ く。

「いただきます」

「いただきます」

メニューはトーストに、ベーコンを乗せたスクランブルエッグと残り物のマセドアンサラダ。

開口一番パンにかじりつく、食パンはもちろん6枚切りタイプ。

4枚切りなんて大きすぎるし、8枚切りなんて薄過ぎてダメ。いつの日かもう覚えてないけどそれをシンジに話したら『アスカらしいな』ですって。

その時アタシは気恥ずかしさからシンジにあんたに何が分かんのよ!なんて怒ったふりしてた。

食事が終わって学校に行くための準備をする。といってもバッグを用意したりとか簡単な物、シンジの方はナプキンでお弁当を縛ってバッグに詰め込み終わる。

「用意出来たよ」

シンジの声、戸締りも終わったみたいね。

どうせ黒服が外部から警戒してるから空き巣なんて入らないんだろうけどさ。

「じゃ、行きましょ」

アタシが先に出てシンジが家のエアロックをかける。そしてアタシが前でシンジが後ろっていういつも通りの並びで歩いていく。

エレベーターもそう通学路もいつも通り、何も変わらない。

アタシを捧げる前と後で何も変わらない。

アタシ達の距離はきっかり1m。

手は繋がない…。

学校のチャイムがなると同時に第壱中学の老先生小田原の根府川ってところに住んでたらしい通称根府川先生が入ってくる。

本当の名前は知らない。

「きりーつ!礼!」

ヒカリのキリッとした挨拶にあわせて少し気の抜けた挨拶で合わせるアタシ達。

「おはようございまーす」

ヒカリの着席!と言う合図を待たずにのろのろと座り出す。ヒカリはこれについて「みんな弛んでるわっ!」てぼやいてたっけ。

早速先生のセカンドインパクトの昔話を頭の中から排除して物思いにふけ る。

結局リツコからもらった薬はあまり飲まなかったわね。

薬を飲めとシンジがうるさかったから仕方なく1 週間分は飲んでおいたけど、おかわりの催促はしなかった。

飲む必要はなくなった、例えそれが仮染めでまた離れてしまうかもしれないけど一応は手に入れたから。

だから嫌な夢は見なくなった。それだけでもアタシの行動は価値のある物 だったとアタシは思いたい。

だけど人間は欲深い生き物だなと左前の席にいるシンジを見てつくづく思う
。アタシはもっとこいつが欲しい、まだ足りない、全然足りない。

でもどうすればいいの?。

あの日の夜に誓った、シンジをアタシのモノにしてやる。けど蓋をあけてみればアタシがシンジのモノになったようなもの。

最初はアタシがリードしてたのに段々シンジ が調子に乗ってきて、最近はシンジがアタシの主導権を握っている。

アタシはシンジに与えられてばかりで何もしてやれない、何もできない。

『こんな役立たずのアタシでもシンジをアタ シのモノに出来る』

お生憎様、今のアタシも大して変わんないわよ。

「ーーくん、惣流くん」

「は、はい!」

どうやら根府川先生がアタシをさしてたみたいね。

「この問題分かるかね?」

パソコンを見ると何も書いてないから黒板を見る。

中学の授業、しかも数学なんて…。起立して問題を答える。

「ーーです」

悩む素振りを見せずに即答すると教室がざわ めく。この程度考えるまでも無いわよと内心思いながら周りを見渡す。

ヒカリも凄いわね~って顔をしてこっちを見てる。前に嫌味じゃなくて本心でそんな大したことないのにって言ったら、「まぁ!嫌味ね!」ってプリプリしてた。

ヒカリのたまに見せるあの顔はとても可愛らしいと思う、アタシでは到底出来そうにない。

どうしてヒカリはアタシにそんな顔してくれるんだろう。アタシもエヴァパイロットなのに。

ヒカリから視線をずらすとシンジと目が合う。 シンジは何を考えてるのか分からない世にいう真顔でアタシを見る。

アタシもなんの感情を見せない真顔でシンジに視線を返す。

少しの間見つめ合った後視線をずらして席につく。

後々知ったけど アタシとシンジの空気に何か感じ取ったのはどうやらふたりいたみたい。

「きりーつ!礼!」

ヒカリのキリッとした号令に反比例していつもどうりの気の抜けた返事で4時間目を終える。

1時間目の時以来大した事も起きずに時間が流れていき今に至る。
強いていうならば、相田とヒカリが真剣な顔して何か話してた事くらい。

「シンジ、お弁当頂戴」

シンジの机の前に行きシンジにお弁当の催促をした。

「はい、アスカ」

シンジがアタシにお弁当箱を手渡そうとする。

「アスカ、お弁当一緒に食べましょ」

そこでヒカリがタイミングよく話しかけて来たからアタシはヒカリの方に向いた。

いつも一緒に食べてるのにあらたまって誘ってくるなんて珍しいのね。この時ヒカリに注意を向けてたから、シンジの渡すお弁当に注意が向かなかったの。

そのせいでアタシはお弁当箱を持つシンジの手ごと触ってしまった。

「!!」

驚いてアタシは手を離してしまう。シンジはお弁当を渡したと思っていたから 余り強く持っていなかった、そうなれば当然お弁当箱は落ちる。

ガコッ!とお弁当箱が落ちる音が鳴った。幸い机の上でやり取りしてたからお弁当は大した被害を負ってなかった。

「ご、ごめん!アス」

シンジが慌ててお弁当箱を拾うより早くお弁当箱を拾うアタシ。

「い、良いの!気にしないで。さぁヒカリ行きましょ!」

シンジに最後まで言わせないでヒカリを連れて足早に教室から退散して屋上に向かう。

あの時シンジの手に触れたアタシの右手がとても熱くなったのを覚えてる。そして何故だか無性に泣きたくなった事も…。

side-shinji

アスカは急いで委員長と共に教室から出て行ってしまった。

去り際に見たアスカは何かを耐えてるような顔をしていた気がする。僕はまた気付かない内にアスカを傷つけてし まったのだろうか。

その時誰かに後ろからぽんと肩を叩かれた 。

「なに黄昏てんだよっシンジ」

「ケンスケ…」

肩を叩いたのはケンスケだった。

「色男が台無しだぜ」

ケンスケは前と変わらない態度で僕に接してくる。トウジを救えなかった、トウジに大変な怪我をおわせてしまった僕に。

ゼルエルを倒してこの世界に戻ってきてから何回かはケンスケに話しかけられたけど 、僕からケンスケに話しかけた事は殆どなかった。

そのせいですっかり疎遠になってしまったというのにまだこんな僕に話しかけてくれる。

「なんでって顔してるな。まぁつもる話もあるし場所変えようぜ、な?」

「解ったよ」

僕は覚悟を決めた。例えケンスケに殴られようとも構わない、僕はそれだけの事をしたんだから。

ケンスケの後を付いて来たら懐かしい場所に案内された。ケンスケは僕に背中を見せたまま話し出す。

「さて、ここらへんでいいだろ」

昔トウジに殴られた場所である校舎裏だ。違う所はケンスケが渡り廊下側にいて僕が校舎を背にしている事。

今度はケンスケにここで殴られるのか、なん だかケンスケらしいなと内心は逃げ出したいのに冷静に考えてた。

「ケンスケ…僕は」

ケンスケは僕の話を遮って話す。

「なぁシンジ…お前トウジの乗ったエヴァ潰したんだってな」

心臓が破裂しそうなほど高鳴る。

口が乾いて酸っぱく感じる。

覚悟してたはずなのに膝がガクガクと震えてきた。

何も喋る事ができない。怖くて今にも吐きそうだ。

「なに黙ってんだよ、俺は質問してるんだぜ?」

ケンスケは依然背中を見せてるからどんな顔をしているか分からない。

「そう…僕が使徒に汚染されたエヴァを破壊した」

厳密に言えばダミープラグがだけど僕はそう思ってない。僕がちゃんと戦えばトウジのエヴァを倒してトウジを助け出す事が出来たかもしれないんだ。

僕がトウジに重傷を負わせたのも同然だ、だからこれは僕のせいなんだ。

「そうか…」

そう言って僕の方を向くケンスケ。

その顔はポーカーフェイスを維持してるため内心はどのような状態なのかわからない。ゆっくりとケンスケが近付いてくるけどなんとか後ずさらないように足に力を込める。

足を止めて僕を見据える、そこからは問題なく僕を殴れる距離だ。歯を食いしばり両手に力を込めていつ殴られても いいように準備する。

そしてケンスケの右手が動く。

「な~にビクビクしてんだよ」

動いた右手に僕はデコピンされた、ケンスケにされた事はただそれだけだった。

「まさか俺がお前の事殴るとでも思ってたのかよ」

呆けた顔でケンスケを見ながら頷く。ケンスケは僕の顔を見たらおもしろそうに笑い出した。

「戦闘訓練積んでる人間に一端の中学生が勝てる訳ないだろ」

「それにもし俺が本当にやったらボディーガード達に袋にされちまう挙句に海に浮かんでるかもしれないしな」

トウジに殴られた時だって黒服は来なかったのに何を大げさな。僕が不思議な顔をしていたのを見抜いたケンスケ は真面目な顔をして答える。

「俺はトウジみたいに優しくないからな…」

ケンスケの言いたい事がやっと解った。ケンスケはやるからには2~3発殴るなんてそんな軽いレベルじゃないぞって言いたいんだ。

「…ダミープラグって言うんだろ?アレ」

なんでケンスケが知ってるんだよ。

「どうしてケンスケが!?」

驚いて声が大きくなる、ケンスケが知ってるはず無いのに。ケンスケは慌てて顔の前で指を立てて静かにしろとジェスチャーを出す。

「俺は見逃してもらってるだけだ、他の民間 人に知られたらまずいんだよ」

僕はごめんと頭を軽く下げてケンスケの話を聞く。

「あの時動かしてたのはお前じゃなくてダ ミーシステムって奴なんだろ」

ケンスケの問に僕はうんと言えなかった。アレは僕の責任だから。

「機密事項か?違うだろ、負い目を感じてんだお前は」

そうだよ、当たり前じゃないか。

僕がケンスケと目を逸らして黙っているとケンスケは溜息をつく。

「お前あの時以来トウジの病室に行ってないだろ」

あの時、それはトウジのエヴァを破壊した後にト ウジの病院に行った事を言ってるんだろう。
どうして知ってるの?って聞こうとしたけどトウジ本人に聞いたんだろうと考える。

もう二度とエヴァには乗らない。この街にも帰って来ないと決めたからせめてトウジに会ってから出ていこう。

病室はトウジ1人だけ、しかも寝ていたからとてもホッとしたのを覚えてる。僕は用意していた手紙を置いてトウジの病室を後にした。

「トウジ怒ってたぜ、絶対安静だってのに起き上がろうとするしな」

「そうだよね、当然だよ…」

「おまえっ!」

諦めた様な言い方が気に触ったのか、ケンスケが僕の両手で胸ぐらを掴んでくる。ケンスケがこんなに怒った姿を見たのは初めてだった。

「お前本当に分かんないのか!?。 あいつはあいつごとエヴァを破壊された事に怒ってるんじゃない!」

ケンスケが僕を押して校舎に押し付ける。

「お前が空き巣みたいな事して手紙だけ置いて行った事に怒ったんだよ!」

「それ以降病室に行かずにそれで済ませた事に怒ってんだ!」

ケンスケは息を切らして僕から離れる、興奮が収まらないのか肩が動き大きく息をしながら話す。

「足を、潰されたことより、お前が来てくれなかった事の方が、トウジは、辛かったんだぞ」

ケンスケの言葉を聞いて俯いてしまう。僕はなんで、なんでこんなに馬鹿なんだろう。

アスカの事といい結局僕は何も解ってないじゃないか。自分が傷付かないように言い訳してるだけ、 それで皆を傷付けてる。

ケンスケを見るけど視界が歪んでよく解らない。そうか、僕は泣いているんだ。

「ごめん、ごめんよケンスケ…」

ケンスケはさっきと違って優しく言ってきた。

「ばーか、俺に言ってどうすんだよ。 そのセリフはトウジにとっとけよ、それとその涙もな」

そしてケンスケはにこっと笑う、優しくないなんて嘘だ。トウジのために、自惚れかもしれないけど僕のためにも怒ってくれている。

「ありがとう、ケンスケ」

「よせよ、照れるだろ」

ケンスケがはにかむ。

僕には勿体無いくらいのいい友達だと本心で思う。

「なぁシンジ、今日空いてるんだったらトウジんとこ行かないか?」

ケンスケは少し真面目な顔をして言う。それを聞いて、心臓がドクドクと高鳴る。

やっぱり怖い、今更行く事が、トウジに会うのが怖い。顔が強ばってる僕の肩をガシッと両手で持つケンスケ。

「お前だって、本当は行きたいんだろ? お前はそのままにして何も感じないやつじゃないし、俺はそんな奴にはハナから言わない」

ケンスケの意志の強い目に見られて、ケンスケの言葉に諭されて僕はやっと決心がついた。

「解った、僕も行く」

ケンスケはにっこりと笑って肩をぽんと叩いた。

「よし決まりだな、で、言っといてなんだが本当に今日で大丈夫か?」

今日の予定を考えて特に急ぎの用事は無かったなと確認する。

「うん問題ないよ、それに今行かないと決心が鈍る気がするんだ」

「解った、俺がトウジに連絡しとくから放課後一緒に行こうぜ」

話が一区切りついたなとケンスケは安心した顔をする、それは僕も同じだった。

「そういえばメシ食ってなかったな」

ケンスケの言葉で思い出す、お弁当を食べないままだった事とお弁当を渡した時のアスカの事。

「うん、すっかり忘れてたよ」

「あそこのベンチで食おうぜ、久しぶりにさ」

僕達は塗装が禿げて鉄の匂いがする鉄製のベ ンチで昼食を取った。

ここは屋上が雨で濡れてる時に使ってたベンチだ。

隙間があるタイプだから水捌けがよくて、 雨上がりの晴れた日によく使ってたなとケンスケとご飯を食べながら思い返す。

時間が経っていたから僕達は急いで食べる。そのせいで喋る事は無かったけどケンスケと食べるご飯はとても美味しく感じた。

ふいにケンスケが食べるのをやめて話し出す。

「もう一つ話が有るんだけどさ…」

ケンスケが別の話をしようとしたら、学校のチャイムが鳴った。昼休みの終わり、そして清掃の時間を告げるチャイムだ。

「やべっ!」

ケンスケの焦りの言葉を合図に急いでご飯を食べる僕達。先に食べ終わったケンスケが立ち上がる。

「もう一つ話したい事が有ったんだけどなまぁいいや、それはまた後で話すよ。じゃあな先行ってるぞ!」

僕は残ってるご飯を無理矢理胃に押し込み適当にお弁当を包んだ後ケンスケを追いかけた。

side-asuka

掃除の時間、アタシはヒカリと一緒に机を前に動かす、アタシは専らヒカリの指示された事をやっている。

誤解しないで欲しいから言っとくけど、普段はヒカリと一緒に男共に指示している。ヒカリはアタシの事を気遣ってくれてるのかアタシを気にしながら作業してるみたい。

見かねたヒカリが心配そうな表情でアタシに話しかけてきた。

「アスカ…大丈夫?。 気分が悪いなら保健室一緒 行ってあげるよ?」

ヒカリったらお節介。別にアタシの事なんて気にしなくていいのに。

「大丈夫よ、別に大したこと無いわ」

でもヒカリは納得してないみたいでアタシに休んでろと言ってきた。

「わかったわ、それじゃ椅子置いといてあげ るから そこで休んでてね」

ヒカリは教師用の椅子に有無を言わさずアタシを座らせる。こういう時のヒカリはアタシに負けない位頑固だから渋々従う。

ホントどうしちゃったんだろなアタシ。それはやっぱり昼休みのアレのせいなんだろうな。

屋上に駆けるアタシとそれに引きづられる様に付いてきたヒカリ。

「ア、アスカ…ハァ…どうしたのよ一体」

ヒカリの第一声は息を切らしながらのアタシの行動に関する疑問の言葉だった。辛そうなヒカリを尻目にアタシは呼吸の乱れなくヒカリの質問に答える。

「ごめんねヒカリ、別に大したことじゃないのよ」

大した事は無い、無いに決まってる。ただシンジの手を触ってしまっただけなんだから。

でもヒカリはアタシの言った事なんて無視して話してくる。

「大したこと無いのに、か、階段を駆け足で登らされたら、たまらない、わ」

呼吸を整えたヒカリが真剣な顔をしている。

「アスカ、碇くんと何か有ったの?」

ヒカリの質問にドキッとするが顔には出さずに答えた。

「いったいどうしたのよヒカリ、バカシンジとなんか何もないわよ」

「…アスカって本当に踏み込んで欲しくない時ってそう言うわよね。まるで最初からそんなもの無かったって風に する」

でもヒカリには通用しないみたいね。こういうヒカリの気遣いはとても嬉しく思うし、また酷く疎ましく感じる時もある。

知って欲しくない、知られてはいけない。話せるわけ無い。

「何でも無いって、それで終わりじゃダ メ?」

もしアタシたちの関係を知ったら純情無垢なヒカリは赤面どころかアタシを軽蔑するだろう。

もしかしたら絶交なんて事もあるかもしれない。いや、それは無いわねとすぐに自分の言葉を否定する。

だって。

「見過ごせるわけ無いじゃない、友達が今にも泣きそうな顔をしてるのよ」

だってこんなにヒカリは優しいんだから。

でも。

「ごめんねヒカリ、どうしても言えないんだ。言ったらヒカリはアタシを軽蔑する」

「そんなこと…」

ヒカリの言葉を今度はアタシがつっぱねる。

「そうなのよ」

ヒカリが黙りアタシたちしかいない屋上を沈黙が支配する。何かを堪えてるみたいで顔をうつ向かせていたが、 顔をあげてニコッとヒカリは笑って言った。

「そっか、それじゃしょうがないわね。 取り敢えずご飯にしましょ」

「取り敢えず」か、うやむやにする事は出来なさそうね。

アタシたちはお弁当を包んであったナプキンを敷いた段差に腰掛けて食べる。

ついとっさに屋上に来ちゃったけど、ヒカリってこういう所で食べた事があんまり無さそうだから悪いことしちゃったかな。

ヒカリがお弁当を開けたからアタシもつられてお弁当を開ける。

お弁当はアタシのリクエストの唐揚げが目を引いて、昨日作っていた野菜が多いポテトサラダが彩を与えていた。 他は冷凍食品らしいものが多い。

まぁしょうがないわよね…だって昨日は…。

ヒカリはアタシのお弁当を見て嘆息する。

「これ碇くんが作ってるんでしょ?男の子なのに凄いわよねぇ」

ヒカリのお弁当だって自分で作ってるのにシンジのお弁当を褒めてる。それが嬉しくて声のトーンが上がる。

「そうかもね」

そしたらヒカリが目を丸くしてアタシを見てきた。何よ?アタシ何か変なこと言った?

ヒカリに聞くとヒカリはそんなこと無いわとフルフ ルと首を動かし否定する。

「前のアスカだったら、こんなの全然まだまだね! なんて言いそうだったからビックリしちゃって」

ヒカリがアタシの声まねをして説明する。そうかな…そういえばそんな風だった気がする。

アタシも甘くなったものね…四方六方に睨みきかし てたこのアタシが「そうかもね」なんて言っちゃうんだから。

お弁当を残り三分の一くらい食べ少し思い返していたらヒカリが頬を赤らめて聞いてきた。

「あのさ…私の勘違いかもしれないから怒らないでね?」

来たわね。

アタシは何としても誤魔化さなくちゃいないと息を飲む。





「もしかしてさ…アスカと碇くんって付か合ってる?」








「もしかしてさ…アスカと碇くんって付き合ってる?」



ヒカリの言ってることの意味がわからなかった…。アタシは視界の角に捉えていたヒカリの顔を見るけど何も言い返せない。

「…」

アタシが思考停止して何も言い返して来ないのを照れ隠しと考えたのかヒカリは話続ける。

付き合ってる?誰が。

アタシとシンジが?

ヒカリは何を言ってるの?

「前もすっごく仲良かったけど結局同居人ってだけだったみたいだし」

前なんて無い、アタシ達はなんの進展もないんだから。

ただ、見捨てないで欲しい。アタシだけを見て欲しい。

「付き合ったばかりでギクシャクしちゃって、だから一時間目や四時間目の終わりのときに…」

アタシのことを…。

我慢出来なくなってアタシはヒカリの話を遮る。

「何でよ…」

胸が詰まる、喋るだけがこんなに苦しかったなんて。

「え?」

ヒカリは聞き取れなかったのか、疑問符を浮かべてくる。それにアタシは今のアタシの精一杯の声で返す。

「何で、アタシとシンジが付き合ってるって話になるのよ…!」

ヒカリを睨んでるつもりだけどヒカリは臆した気配もなく、それどころか心配の色を浮かべた顔でアタシを見る。

「アスカ…」

「アタシとシンジは…」

そんな関係じゃない。これは紛れもない事実、でも事実だからこそ認めた くない。

認めたくなんか無い。

もし認めたら、思いが溢れてしまう。アタシはこんなにもシンジを想っているのに。

「シンジはアタシの事なんてなんとも思ってないんだから…」

最後の言葉は聞き取れないほどに小さくなっていく。

アタシはダメだ、あの時以来涙もろくなってしまった、昔の泣き虫アスカに戻ってしまった。

「アスカ、ごめんね…!無神経だったね、ほんとにごめんね…!」

アタシはまた泣いてしまった。昔のアタシならヒカリにだって弱味を見せな かったのに…。

アタシは世界で数人しかいないエヴァパイロット、 それが1人の男の子の事でこんなにも悩むなんて。

「アスカ…どうしても言えないの? 私約束するわ絶対に、絶対誰にも言わないから、ね?」

アタシは顔をうつ向かせたまま首を横に振る。ヒカリは本当に言わないでくれるんだろうけど、でも言えないの。

言いたくないの、言ったらシンジに迷惑がかかるの。

アタシだけの秘密アタシとシンジだけの秘密なんだから。

「どうしても…言いたくないのね?」

その問にアタシは頭を動かさずに俯いたままでいる、それを肯定と受け取ったヒカリは話しを続ける。

「ねぇアスカ、それじゃあこれだけは教えて」

こんなに取り付く島も無いくらい黙ってるのにヒカリは優しい声で話してくれる。

「アスカは碇君の事をどう思ってるの?」

それにつられてアタシは顔をあげてヒカリの顔を見る。アタシがどう思ってるか…。

そんなこと…。

「シンジはアタシの事…」

そういいながらアタシはヒカリから目をそらす。ヒカリは首を振ってアタシを見る、その表情は真剣で、とても優しい顔をしていた。

「碇君がどうとか関係ないの、アスカが、貴方自身が碇君をどう思ってるかよ」

ヒカリはアタシの手をそっと握る、その優しさがとても嬉しかった。

「アタシは…」

シンジの事を考える…。

もし、こんな関係に成ってなかったら。仮染の幸せすら味わう事が出来なかったら、アタシは壊れてたのかもしれない。

今のアタシよりももっと…もっとダメになってたのかも、もしかしたらシンジをもっと苦しめてたのかもしれない。

アタシに優しくしてくれるあのシンジを、そうなんだアタシはシンジをこんなにも…。

「…好き…よ」

アタシはヒカリに嘘をついた、だって好きじゃ足りないから。アタシの想いを口に出したら大人たちが小娘が何を 言ってるんだかと鼻で笑うに決まってる。

でもしょうがないじゃない、そう思ってるんだから。

「そっか…」

ヒカリは自分の事のように喜び、優しい笑顔をしていた。

「アスカと碇くんが今どういう状況なのかは解らない、 でもまだ好きって伝えてないならちゃんと伝えるべきだと思うの」

ヒカリはアタシの眼をじっと見て言う。アタシはシンジとの関係を何一つ話してないのにこんなにも親身になってくれてる。

告白か…。

結局アタシは問題を先送りにして逃げてただけなのかな。アタシはアイツと重なって秘密を共有した事で1つに成ったふりをしていただけなのかもしれない。

今朝だってアタシは、シンジがアタシと同じ気持ちだったならって考えてた。

シンジがアタシの事をを好きだって言ってくれたらって。

アタシがこういう関係を選んだのに。またアタシは右に向けていた顔を背け呟く。

「…アタシは間違った事をしたのかな」

シンジにあたり散らしたアタシは結局自分の都合でシンジに縋ってる。ヤな奴ねアタシ、こんなにも醜くて汚いの。

そしたらヒカリは語気を強めて言った。

「人を好きになる事に間違いなんてないわ!」

ヒカリは怒ったように言ってくる。ポツリと呟いた言葉はアタシがきちんと好きって言わないでこんな関係に逃げた事に対しての意味。

本当はあんなセリフを言うのは恥ずかしい癖に無理してくれてる。

「ねぇアスカ、ちゃんと伝えようよ、今のままじゃきっと後悔するわ」

ヒカリの顔を見る、どう言っていいかわからず、ヒカリから目をらす。

「しっかりしてアスカ、あなたは惣流・アスカ・ラングレーなのよ」

ヒカリがアタシの右手に両手を置いて言う。アタシらしさ、アタシが惣流・アスカ・ラングレーである事。
こんなうじうじしてるなんてアタシらしくない。

うん…そうよね、いつかは言わなくちゃって思ってた。シンジから、何よりも自分から逃げてたのね、アタシは。

あの時からアタシは軽くだけど家の手伝いをするようになった。アタシが入れたお風呂でアタシがお風呂に入っているとき。

たまに作るようになった御飯をシンジと食べているとき。シンジとこんな関係になってからふと思うときがある。

もしアタシが加持さんの時みたいにアプローチしてたら、シンジとはちゃんとした関係になってたんじゃないかって。

意地をはって何でもないふりをして、気づかないシンジが悪いんだってそうやって自分を誤魔化してた。

「怖いよね、告白しなきゃずっと友達としていられるのに」

怖い、そうか怖かったんだ、シンジのことが。シンジの優しさが。

シンジのことを好きでいることが。

こんな子供らしくない子供みたいな事はいい加減やめなくちゃダメよね。

「そうよね…うん、頑張ってみる」

それを聞いたヒカリは顔を綻ばせる。

「うん、そうやって前に進んでいく方がアスカらしいわ」

「それに…絶対にありえないって私は思うけどね、 もし、もし思うように行かないなんてことになったら…」

1拍開けてヒカリは続ける。

「その時は新しいお洋服買ったり、カラオケでノドが枯れるまで歌ったりとかさ」

「アスカの気が済むまで遊び回りましょう。ね?」

ヒカリの優しさが嬉しくて、何も言い返せないまま三分の一くらい残った表面がパサパサになったお弁当を包む。

「ヒカリったら乙女チック」

「わ、私はアスカのこと!」

アタシは恥ずかしさを紛らわそうと、ポツリとにくまれ口を叩いて立ち上がりヒカリに背を向けたまま佇む。

見上げた空はアタシの気持ちなんて関係ないと言ったふうな青空で、アタシはそんな間抜けなくらいに青い空に感謝した。

「…アスカ?」

眩しい光が瞬く空は、アタシの眼を滲ませる。

「…」

「…最近雨降ってないわよね」

アタシはそれ以上何も言わないまま空を見上げ続ける。

「そうだね」

ヒカリの独り言みたいにか細い声が続いた後は、2 人とも何も言わなかった。

右手にシンジが作ってくれたお弁当を持って空を見上げてる姿は何だか間抜けだ。山の頂きから入道雲がまるでその山から吹き出すかのように佇んでいる。

スカートがパサリとはためく音と早く流れる雲にようやく気付いて今日は風が強かったんだなと初めて理解した。

少しの間を置いてヒカリが告げる。お昼休みの終りが近づいてると。

「戻ろっか、アスカ」

ヒカリの言葉を合図にアタシは左腕で目元をぐいっと一閃した。

「そうね」

アタシはヒカリがお弁当を持って立ち上がったのを横目で確認し、ヒカリを従えて屋上の階段へと向かった。

今日、買い物にでも誘ってみよう。

少しずつ距離を詰めていけばいい。

急ぐ事は無いはずよ。

夏はまだ終わらない。

意識を記憶の底から引きずり出し周りを見ると全部前にあった机が今度は逆の位置に動かされていた。

後ろの壁掛け時計を見ると5分くらいぼうっとしていたみたい。アタシは屋上で誓った言葉を思い出し、錆び付いた様に重い体を立たせた。

「ヒカリ、手伝うわよ」

アタシは開口一番ヒカリに話しかける。するとヒカリはさっき程ではないにしろアタシに心配そうな目を向けて言った。

「大丈夫 ?」

「失礼ね、アタシを誰だと思ってんのよ」

そういうとヒカリはくすりと笑ってくれた。

「それじゃ箒でゴミ集めてくれる?ちりとり持って くるから」

アタシは頷きヒカリが持っていた箒を受け取る。

廊下を駆け足で走る音が聞こえ、何処かのクラスの先生が大声で注意したその足音はアタシ達のクラスで止まった。

「遅刻よ!」

「悪いね、ベンチの鉄臭いにおいが懐かしくってさ」

「…まったく、どうせ前みたいに掃除時間中なのにお手洗いにでもよったんでしょ」

相田の言い訳に呆れたのか、ヒカリは珍しくそれ以上言ったきり追求はしなかった。

廊下を走ったせいで先生に大声で注意されていた奴 らの正体は、更にヒカリにたいしても悪びれる様子のない相田ともう一人。

「遅れてごめん」

先生に注意されたからか相田から少し遅れて入り、 ヒカリの言葉にすまなそうにしている奴の顔を拝んでやるためにアタシは近寄る。

「遅かったじゃない、シンジ」

アタシは幼稚なことをやっているなと思いながらも黙ることができないアタシは腰に手を当て体を前にそらせてシンジに顔を近づける。前が開いて鎖骨が見えても気にしないフリ。

「どうせ本当は更衣室でも覗いてて遅くなったんでしょ?」

今のアタシの顔は赤くなってるかもしれないわね、 前はシンジがうろたえるのをおもしろがってやってたけど昔と違って内心ドキドキしてる、今の方がヤルことはヤッテルのに。

だって今のシンジはこんな事じゃ動じなくなってるから、そんなアタシたちはキスしそうな程に顔を近づけてるだけにしか見えない。

「ごめんね、ケンスケと大事な話してたんだ」

「ふーん、あっそ」

体を元に戻して興味なさげに言う。

大事な話って何よとは言わなかった。昔のアタシだったら言うまで許さないってシンジを困らせてたんだろうな。

「遅れちゃった分一生懸命ケンスケと一緒に掃除するよ」

「え、オレも?」

相田のとぼけた返事を聞いたヒカリが目くじらをたてる。

「事情はどうあれ遅れたんだから、掃除やりなさいよ」

ヒカリは廊下に配置してある水拭き用のバケ ツを指さしていった。

「せっかくシンジと男同士の青春の証を建ててきたというのにこの仕打ちとは…世知辛いねぇ」

相田は続けて言う。

「オレたちは熱き闘争の果てにこの友情と成長を勝ちえたんだ、な、シンジ?」

シンジが苦笑いを浮かべながらも相田に相槌を打とうとするが、アタシの声に遮られそれは行われなかった。

「もお!良いからシンジと一緒に雑巾がけやりなさいよぉ!」

何故かアタシは相田の言いようにイラついて少し大きな声を出してしまった。

しまった。

一瞬静まり返る教室だけどいつものグループ かと認識したらまた活気を取り戻していく。

相田は何か値踏みするような鋭い目付きに変 わり、ヒカリはアタシを心配そうな顔で見ている。
そしてシンジはというと昔みたいにオドオドしないでアタシに謝ってきた。

「ごめんねアスカ、ほら行こうケンスケ」

シンジは相田の肩を軽く叩き相田とともに教室の外に出ていった。アタシは何故かシンジの態度が気に入らなく て本人に聞こえない小さな声で悪態をつく。

「何よ大人ぶって、自分だって子供の癖 に…」

俯いて呟いた言葉はヒカリにも聞こえなかったとア タシは思いたい…。

掃除は滞り無く終了し今は6時間目となっている。後数分で授業が終わるせいか教室の空気がはやる気持ちで充満しているのがよくわかる。

「はい、これで授業を終りにします」

先生の声を聞くやいなやヒカリが間髪入れずに挨拶をし、アタシたちは早く帰りたいが為にこの6時間目だけは元気良くヒカリに続く。

「ありがとうございましたー!」

バッグに教科書を詰め終わり身支度を整える。

行くわよ、アスカ。

善は急げよと早速シンジの所に向かうと、相田とヒカリが話していてシンジもその輪の中にいた。

明日早いので寝ます、それでは。

「…っていうことで頼むよ」

「分かったわ…頑張ってね」

相田はヒカリと他人に聞かれない程度の大きさで話していて。それが終わったのか相田はシンジに先に行ってるからなと片手を挙げて去って行った。

すかさずシンジに話しかける、この時バッグを持つ手が湿ってるのは暑いからで他意はない。たかが買い物に誘うだけ、何ら問題はないのよ。

「ねぇシンジ、ちょっといい?」

前は有無を言わさず荷物持ちやらせてたってのに、 それが今はちょっといい?だなんてね。どうせシンジはぼけっとした顔でこっちを見るんだから気負う必要はないのよ。

だけど振り向いてアタシを見たシンジの顔 真剣で、出撃時よりも迫力があった。

「…」

一瞬の沈黙。アタシは二の句を告げる事が出来なかった。

「ん?どうしたのアスカ?」

シンジの顔はいつものぼけっとした顔に戻ってアタシを不思議そうな顔で見る。

「えっと、アンタ今日用事なかったわよね? 確か食材も少なくなってきたし良かったら買い物行かない?」

アタシは内心ドキドキして心臓が破裂しそう だったけど平然とやってのけたつもり。

ファーストの方はどうだか知らないけどアタシとシンジはシンクロテストも定期検査もないしこいつは余程の事がない限り断らない。

もし、もしつまんない理由で断ったら昔みたいに首根っこ掴んて引っ張ってやればいいのよ。

でも。

「ごめんねアスカ、今日ケンスケと一緒にトウジの所にお見舞いに行こうと思うんだ」

シンジはすまなそうな顔で謝ってきた。弱々しい顔じゃなくて自分で決めた事だから曲げられない、そんな意志を持った瞳。アタシが好きなシンジの数少ない表情の一つ。

「なんだ、つまんないの。じゃあしょうがないわね」

しょうがなくない。

「今まで行ってなかった、でもケンスケのお陰で行く勇気が出たんだ」

そんなの断っちゃいなさいよ。別に良いじゃない、 前から行ってないんだから今行かなくたって。

せっかくアタシが誘ったのよ、荷物持ちなんて言い訳しないで買い物に行こうって。

「ごめんね、僕が帰りに買い物に行くからさ」

一人で行くの?。アタシを置いて?

「じゃあアタシも行くわ、そうすれば問題ないわよね」

ヒカリが何か言おうとしたけど、それをシンジが遮る。すまなそうな顔じゃなくて振り向いた時の真剣な顔で。

「僕だけで行きたいんだ、じゃないとアスカに甘えちゃうから、だから、ごめん」

そう言ってシンジは去っていこうとする。アタシ以外にそんな顔しないで、アタシ以外の理由でそんな顔しないでよ。

「シンジ!」

振り向いたシンジはまたぼけっとした顔をしていて少し安心した。

『行かないで、アタシの傍にいて。』

そう言いたかったけど、口から出た言葉は違っていた。アタシが買い物に行くわよと告げてから話を続ける。

「アタシが作っといてあげるからさっさと帰ってきなさいよ、あんまり遅いとアンタの夕飯をペンペンの餌にするからね」

そう言うとシンジは微笑み、何も言わずに教室を出ていった。アタシはシンジが出ていったドアを見つめ、 背後に居るであろうヒカリの方に振り向かずにいた。

「アスカ…」

ヒカリの気遣った声。いつもはとてもありがたいが今はそれすらも鬱陶しく感じる。

甘えちゃうからですって?怒りがフツフツと沸き両手を思いっきり握り締める。

「ふざけんじゃないわよ…!」

甘えたいなら素直に甘えれば良いじゃない、アタシはそんなにヤワじゃ無いわよ。

あんたがうなされてたのは知ってた、鈴原にそして相田にも謝っている寝言聞いたことだってある。

あんた位なら簡単に背負える、なのにアイツは何も言わない、アタシは何時もアイツに与えられてるだけ。

アタシを、『惣流・アスカ・ラングレー』を舐めるな。

「ヒカリ」

「な、何?アスカ?」

大きく深呼吸した後、極力感情を表に出さずヒカリの方に振り向く。

「あのバカはアレだし、買い物付き合ってく れ る?」

「も、もちろんそのつもりよ!」

ヒカリはブンブンと勢いよく縦に頭を振り、 自分の机からバッグを取る。

「あ、アスカそれじゃ行きましょ、ね?」

ヒカリに押されて教室のドアに向かう。何をそんなにソワソワしてんのよ。

ふとドアのガラスに映った顔を見てアタシは納得する。怒りを押し殺したアタシの顔は能面みたいだった。

下駄箱で靴を履き変え玄関を出るとケンスケがベンチで座って待っていた。校内と違ってセミのシャワシャワと言う鳴き声がよりクリアになって聞こえる。

「案外早かったな、もう少しかかると思ってたよ」

僕に気付いたケンスケはセミの鳴き声BG Mに片手を挙げて言った。鞄を右手から左手へ握り直しケンスケの所まで歩いていく。

これからトウジに会いに行くんだ。そう思って僕はそんな行動をとったのかもしれない。

「準備出来たよ…」

「よし、じゃあ行くか」

ケンスケが立ち上がり僕の前を行く。この時の僕は間違いなく使徒との戦闘時より緊張していた。

逃げちゃダメだ。トウジから、僕自身から。覚悟を決めてケンスケから少し遅れて僕は歩き出す。

『またんき付いとるんかい!』

僕は逃げちゃいけない。

『男の癖に情けないやつ』

僕は逃げない。

だって僕は男だから。そうだよね、ミサトさん、綾波。

ケンスケと駅のプラットホームで電車を待つ。時刻表を見ると少し前に電車が出たみたいで次の電車まで時間がかかりそうだ。

桃源台中央駅と書いてある看板の隣、備え付けの針時計を見ると4時40分位を指していた。

ケンスケの話だとトウジの病室はネルフの中央総合病院の長期入院用の特別病棟に移ったらしい。僕が来た時は集中治療室で治療が終わって安静にしていた第一特別病棟に居たからずっとそこだと思っていた。

ケンスケは真っ直ぐ前を見ながら僕を見ずに言った。

「お前さぁ、惣流と何が有ったんだ?」

ケンスケが沈黙を破る、その内容は僕が想像していた物と全く違っていた。

「え?」

ケンスケの方を見る。

トウジとの事を聞かれるのかと思っていたから思わず間抜けな声を出してしまう。

アスカなら「何ぼけっとしてんのよ!」って言いそうだなとふと考えたあと ケンスケの質問に僕は焦らず至って自然に答えた。

「別になにもーー」

「そういうまどろっこしいのは無しにしようぜ」

僕の誤魔化しなんて最初から聞く気なんて無いみたいで、ケンスケは僕の逃げ道を塞ぐ。

「…」

少しの沈黙の後、僕もケンスケにならって前を見ながら話す。

「アスカがちゃんと持ったか確認しないで手を離しちゃったんだ」

「それで?」

それで?って何?ケンスケはいったい何を聞きたいんだろう。

まさかアスカとの事を言ってるの?。

「惣流はお前と手が触れたのをなんであんなに取り乱したんだ?」

ケンスケは昔はそんなこと無かっただろと付け足す。

ケンスケが話しかけてきたのはアスカが飛び出してからだったはず、という事はケンスケはあの時の状況を見てたって事か。

答える事が出来ない、それを言ったらアスカとの関係がバレてしまう。

「…」

それは避けなくてはいけない、アスカをまた傷つけてしまう。アスカにまた背負わせてしまう。

ケンスケがまた話し出す、でもそれは助け舟というよりは僕の領土に進行してくるような感じだった。

「俺さ、隠れて付き合ってる奴ら見分けるの結構得意なんだよ、シンジ」

「うん」

僕とアスカは付き合ってはいない、僕は都合の良距離からアスカを縛っているんだ。

アスカが僕から離れないように。

「それに付き合ってる訳でもないのに関係持ってる奴らとかな、シンジ」

「…うん」

ケンスケの後に言った言葉で心臓が鷲掴みにされたような気がした。さっきまでは暑いと感じてたのに水をかけられたかのように一気に肌寒く感じる。

「ケンスケ…僕は」

やっと口にできた言葉はそれだけ。

「そうか…」

ケンスケはそれだけで僕の言いたいことが分かったのか解らないけど一言だけ呟いた。

遠くに病院行きの電車が見えて来たときスピーカーから中央総合病院行きのアナウンスが響いた。

電車が僕達の前に止まりドアが開く、僕達はそれに無言で乗り込んだ。他の車両も同じで人はまばらにいる程度。

僕達はプラットホームが見える方向に座りこむ。それと同時に発車を告げるアナウンスと高音な合成音が流れて電車は動き出した。

丁度階段を登ってプラットホームに来る人が見えた。アスカと委員長の姿だった。

なんでと一瞬思ったけど委員長とは話がついてるから、アスカの買い物に付き合ってくれてるんだろうと考える。

『俺達だけで行きたいんだ、トウジの見舞い』

その時僕は、離れていくアスカを眺めながらケンス ケの言った事を思い出していた。

今日は此処まで、旧エヴァのゲンドウや新劇のシンジみたいに
良かれと思った事が裏目に出るのがエヴァだと思ってるので今後ともそういう風に作っていきます。

プラットホームの階段を登るとネルフの中央総合病院にむかう電車が発車していた。

アレにシンジが乗ってるのね。

ボーッと電車を眺めていたけどヒカリの声で我に帰る。

「アスカどうしたの、もう少しで電車来るわよ」

シンジ達の乗った電車の反対側の線路から電車がやって来る。

目の前で電車が止まり、 ドアのエアロックの外れる音がしてドアが開き、アタシたちは電車に乗り込む。

シンジ達の電車とは反対の方向に進んでいく。行き先は加持さんと水着を選びに行ったデ パート。

加持さんか…最近見ないわね。前はあんなに加持さん加持さん言ってたのに。今にして思えばアタシはパパと恋人、2つの思いを 加持さんに重ねてたんだ。

ファザーコンプレックスだったのかもしれないわね。あの時は加持さんにアプローチしてたけど今は前ほど加持さんの事を思ってない、つくづく調子のいい女だとアタシも思う。

だってそれ以上にアタシはきっとあいつを… 。

あいつのことを…。

あい…。

「アスカ、アスカ!」

ヒカリが電車内では比較的大きな声でアタシを呼ぶ。

「な、なによ」

ちょっとムスッとした返事をしてしまったけどヒカリは気にしないで話を続ける。

「何って電車の行き先よ、いつものデパートに行くって事で良いの?」

そういえば買い物に付き合ってと言っただけで何処に行くとは言ってなかったわねと学校から駅に向 かった時を思い出す。

「うん、悪かったわね無理言っちゃって、コダマさんとノゾミに迷惑かけちゃったかな」

ヒカリは首を左右に降りそんなこと無いと 言ってくれた。

「乗りかかった船だもの、どこまでも付き合うわよ」

そう言ってくれたヒカリはとても優しい顔をしている。よくもこんな性悪女の友達でいてくれるなと感心する、アタシだったらアタシ自身と友達になりたいとは絶対思わないだろう。

2人で黙ったまま目的地に付くのを待っていると、 目的地を告げる電車のアナウンスが聞こえてきた。

「…ねぇ、アスカ」

ヒカリは少し躊躇ったあとアタシに話しかけてきた。 空気が変わったのを感じて、アタシは無言でヒカリの方を向く。

「辛くなったら我慢しないで私に話してね?」

電車が止まりドアのエアロックが外れ、車両にいた数人が外に出ていく。アタシはヒカリより早く立ちヒカリの方を向いて言った。

「さっ、行きましょヒカリ」

何も言わないアタシに、ヒカリはしょうがないわね と言う顔をしたあと立ち上がるのをみて、アタシはヒカリを連れて電車を降りた。

発車した電車を眺めながら聞こえるか聞こえないかくらいの大きさで呟く。

「ありがと…」

「うん」

なのにヒカリは当然のように答えてくれてつくづくアタシはいい友達を持ったなって思う。今日はアタシ特製のハンバーグをシンジに食べさせてやるために駅から徒歩5分のデパートに向かう。

「ヒカリ、行こっか」

「ええ」

さて、行くわよアスカ。

夜は決戦。

そろそろストックが無くなってきたので今日は此処まで。
しかも冒頭のモノローグは第3部の話なのでどうか気長に待っててください。

side-sinji

僕達は電車を降りてネルフ中央総合病院の第一特別病棟、トウジのいる病室に向かっている。

「やっぱりネルフの正規IDは違うな、面倒な手続きが皆無だもんな」

前を歩くケンスケが振り向き少し羨ましそう に言う。ケンスケの話では普通の人の面会は身分の確認等で少し時間がかかるらしい

そんな事全然知らなかったよとは言わなかった。 ここには使徒との戦闘で搬送された事は何度も有るけど見舞いに言った事は1度しか無いのだから。

いや、あんなの見舞いじゃないよな…。

トウジの前いた病室に手紙だけ置いていった時と、 昼休みの初めてみたケンスケの怒った姿を思い出して直ぐにそんな考えを否定した。

そうこうしている内にトウジの病室の前に来てしまった。ケンスケが僕の方を見て言う。

「行くぞ、準備は良いか?」

内心逃げ出したくてたまらない、今すぐ家に帰りたい。

今更ながらアスカと一緒に買い物に行けばよかったと思い出す。

アスカ…。

僕はまたトウジから逃げ出して、またアスカに逃げるのか。またアスカに縋るのか。

そんなの、いいわけ無いに決まってるだろ。

「シンジ?」

僕が黙ってるのを気にしてケンスケが聞く。だけどもう大丈夫。

「行こう、ケンスケ」

顔を上げて僕はケンスケを見る、ケンスケは薄く笑うとトウジの病室をノックしてドアを開けた。

「トウジ、入るぞ」

トウジの病室に入るとトウジは起き上がって右足のマッサージをしていた。僕が潰し、切断させてしまった右足を。

マッサージを中断させて、上部を持ち上げて背もたれの状態にしたベットによりかかる。

「おお、おまえらよう来たの」

トウジは学校で会った時と同じように気さくに挨拶をしてきた。僕達はベッドに近づきバッグを隅に置く。

「悪いなリハビリ中だったか?」

開口一番ケンスケが言ったことはリハビリの 事についてだった。リハビリの進捗状況などを聞いたのは電車に乗ってからと病院に向かってからだった。

トウジの怪我はネルフのサポートで鈴原家には金銭的な負担は殆ど無いらしい。

そして今は車椅子から降りて松葉杖で移動できるまでに回復したようだ。これだけの話でも僕にとっては驚く事ばかり で本当に僕は何も知らない、知ろうとしな かったんだなと痛感した。

「ヘルパーさんに友達が来る言うて、時間をずらしてもろたんや、だからこれはただのマッサージや」

トウジとケンスケの話に意識を向けると会話の内容が少し飛んでいるのを感じて僕はまた 一人で悩んでいたんだなと思い返す。

「なんやさっきから、一言もしゃべっとらんやないかシンジ」

トウジの怪訝そうな顔が僕に向けられる。

トウジは僕が元気がない時はこうやって心配してくれる。果たして僕にそんな資格があるのだろうか。

少なくとも今の僕には無いはずだ、だけど僕は決めたんだ。 もう逃げないって。

「トウジ聞いて欲しいんだ、僕は君に謝らなくちゃいけない」

僕は意を決してトウジの目を見据える。目を見て話すのは僕はとても苦手だけど勇気を振り絞る。

「別にかまへんよ、お前が来たんやからこれでチャラといこうやないか」

トウジはそういうけど僕は納得できなかった。ここで適当に流しては行けない気がするから。前ミサトさんに変なところで意地っ張りだって言われたっけ。

それが今になってわかった。

「僕自身のケジメとして聞いて欲しいんだ」

トウジの顔色が変わる、少し怒気を孕んだ真剣な眼差しは校舎裏に呼び出された時以来のものだ。俯いてため息をついた後、トウジは射貫くような眼差しで僕をみつめる。

「ほんなら言うてみい、おのれの詫びっちゅう奴を」

僕はトウジの言葉にうんとうなづいた。

「僕はトウジに大変な怪我を負わせてしまった、ごめん、本当にごめん」

「シンジ、わしがそんな」

僕はトウジの言葉に被せて話を続ける。

「恐かったんだ、トウジになんて言われるか…ケン スケに委員長になんて言われるか恐くて仕方なくて、それで…」

声がうわずっていくのがわかる、視界が滲んでいくのがわかる。でも止める事が出来ない、僕はまた逃げたくはない んだ。

「手紙だけ置いて僕はトウジから逃げ出したんだ…」

「お見舞いに行かなくてごめん…トウジ」

涙を拭うけど未だぼやけてトウジの顔が良く見えない、トウジは怒った顔をしているのかな。それでもいい、トウジが許してくれるまで何度でも僕は通い続けるんだ。

「シンジ…もう泣くなや、お前さんの気持ちはよう分かった」

「トウジ…」

「確かにな、足がのうなってしもた事やお前さんが手紙だけ置いて行った事を何とも思って無い言うたら嘘になる」

「せやけどさっきも言うたけどな、お前がこうしてちゃんと見舞いに来てくれた、わしはそれが嬉しいんや」

「ありがとな、シンジ」

くそ、せっかく涙が干いたのにそんな優しい顔で、 そんな優しい声で言われたらまた泣いちゃうじゃないか。

「ったく、男なんやからそんなメソメソすんなや、 な?」

「ごめ、あ、ありがとうトウジ」

良かった本当に良かった、僕はずっとずっとこうしたかったんだ、また3人で仲良く出来る日をずっと待っていたんだ。

こんな僕を許してくれて本当にありがとう、トウジ、ケンスケ。

その後は本当に久し振りにトウジ達と3人で楽しく話した、今の僕達を見たら委員長はきっと三馬鹿って言うだろうなと思う程に。

僕の話の後立ち話もなんだから座れと言ったから、 壁際に用意してあるパイプイスに座りながら時間も忘れて話し込んだ。

「気にすんなって言うたのは何もそれだけやあらへ ん、実はなネルフの赤木っちゅう人が特別な義足を用意する言うてくれたんや」

「リツコさんが?」

医者まがいの仕事ってもしかしてこの事だったのかな?機械工学専行とか言ってたし。

「なんでも体の電気、何やったかな」

「電気信号じゃないのかそれ」

「そうそうそれや、それを義足が感知して動すゆうんや」

エヴァも脳内の電気信号とかを読み取って動かすって言ってたしそれを応用したものかな。

「エヴァもそんな風に動くみたいだから技術の応用かもしれないね」

ケンスケはしれっと相槌を打つ。

「技術の進歩で人が健全に生きられるとはいい世の中になったもんだな」

ケンスケの言い方に いつもの休み時間の時みたいにトウジは軽く噛み付いた。

「何やけったいな事言いよって、ほんなら義足出来てもお前には指1本触らさんとこか~」

「俺なりの気遣いたぜ本当に嬉しいんだだ」

「だから頼むよ触って見たいんだネルフの技術の結晶をさ」

「そうそうはっきり言うもんやで、お前の魂胆なんか見え見えやっちゅうねん」

言われたケンスケは慌てて本音を話す。そんな姿を見て懐かしさで一杯になった。トウジはケンスケから僕の方に向いて言う。

「だからシンジ、あまり気にする事あらへん。お前はお前の出来ることをしたらええ、頑張れな」

胸が一杯に成るけど出来る限り我慢してトウジに返した。

「うん、ありがとう」

ケンスケは壁掛け時計を見る、つられて僕らも見たら対面時間が終わりに近づいていた。

「何やもうこんな時間か、ちょうどええここでお開きといこか」

イスを片付けてバックを持ってドアに向かう、するとトウジに呼び止められた。

「シンジ、わしら以外の事で何か悩んどる事はないか?」

心臓がどきりと高鳴る、トウジの病室に入る前とは違う息苦しさを感じる。

「そ、そんな事は…」

「…まぁ暇な時でええ、また来てくれやわしだったらいつでも相談にのったるさかい」

「うん、必ず…」

最後に挨拶をして僕達はトウジの病室を後にした。

夕暮れがさした道を第三新東京市行きの電車に乗るために放課後よりも風が強くなった道のりをケンスケと歩いて帰る。

緊張の糸が切れた僕はケンスケと昔を思い出しながら顔を突き合わせて楽しく話していた。

「あいつさ、入院してから委員長と随分仲が良くなったんだ。だからだと思うよお前の事を聞いてきたの」

ケンスケの話すトーンが少し下がりトウジが僕に悩み事はないかと聞いてきたときの話をする。

「きっと最初の頃の自分と重なったんだろうな」

トウジと委員長がそんな関係だったなんて僕は知りもしなかった。そうか、だからケンスケは委員長に僕達2人で見舞いに行くって話したのか。

考えてみたら面倒見のいいあの二人はお似合いなのかもしれない。

「でも、僕はアスカとそんな正しい関係じゃないんだ」

2人は正しく中学生らしい関係でいると思うとなおさら僕とアスカは歪な関係を結んでるんだなと感じ る。僕とアスカは彼氏彼女というような物じゃな い。

「駅で聞いた時にお前達が面倒な事になってるのは解った」

確かにこんな関係は普通じゃない、でも僕はアスカを面倒だなんて思ってないよ。

「俺達の事を考えてくれてるのは嬉しいよ、わだかまりも消えたしな」

ケンスケのお陰で僕は自分の事を嫌いにならずに済んだ、トウジに会う機会を、謝る機会をくれたのはケンスケのお陰なんだ。

僕の顔を見ながら話していたケンスケはついと前を向いて言った。

「明日は祝日で学校は休みだ、だから今度は惣流と向き合ってみたらどうだ」

「アスカと…」

「トウジが明日も来るのかって聞かなかったのはそういう理由もあると思うよ」

アスカと向き合うか…。今までの事を思い返して考えると結局僕はアスカと向き合って来なかった。

今朝だってそうだ何時までも考えるだけ考えて結局答えを出してない、その癖僕は今でもアスカに求められれば拒む訳でもなくアスカと関係している。

それどころか僕は自分自身を抑えられなくなった時に僕からアスカを抱きしめた事だってある。僕はずるい男だ。

「駅で探りをいれたけど別に俺はお前と惣流が恋人だろうがセフレだろうが構わないし聞くつもりもない、それでお前達が納得してるんならな」

ケンスケがずっと前を向いたままなので僕も前を向いて歩く。何故だかケンスケが少し怒ってる様に見えて恐かった。

「だけどどう見てもお前達が現状を納得してる様には見えないんだよ」

僕もこんな関係は良くないと思ってる、だけどどうして良いか解らないんだ。またアスカを傷付けてしまいそうで怖くて仕方ない。

「…」

僕が黙ってるとケンスケはため息をつく。それに釣られて僕は何とか話す。

「解ってるんだ僕だって…こんな事良くないって」

思いの丈をケンスケに言うと直ぐにケンスケは否定してきた。

「いいやお前は何も解ってないね」

僕はまたケンスケを見る、西日が眼鏡に反射してケンスケはどんな表情なのか解らななかった。

「どうせお前はこんな関係を辞めなくちゃいけないと思ってるんだろうがそれは違う、要はとても簡単な話だ」

ここでケンスケが僕を見て話す、怒ってる様に見えたのはうそだったのかと思える程に穏やかな顔をしていた。

「惣流に正式に付き合ってくれって言えば良いんだよ」

アスカに付き合ってって言う?

「現状がどうだろうとどうでも良い、嘘から出た真って言葉だってあるだろ」

付き合うだって?こんな関係をズルズル続けてアスカを自分の都合の良い距離に置いてる癖にそんな事出来るわけない。

「そ、そんな無理だよ…!」

「あのなぁ、まさか今更断られるとでも思ってんのか?惣流がそんなつもり無かったって言うとでも思ってんのかよ?」

「ケンスケ?」

僕を見るケンスケの顔が少しずつ怒りを孕んだ顔になっていく。

「って言う事は惣流は好きでもない男に言い寄って股を開くような頭も股も緩い、程度の低い女だっていう事だよな?シンジ」


違う、アスカは、アスカはそんな女の子じゃない。 優しくて強くてとても可愛いらしい女の子なんだ。

アスカはずっと頑張ってたんだ。小さい頃からエヴァに乗るためにずっと訓練して僕なんかとは比べ 物にならない位に一生懸命頑張ってきたんだ。

そんな事言うなんて、アスカを悪く言うなんていくらケンスケでも許さない。

「違う!アスカを悪く言わないでよ…!」

僕は声を荒らげてケンスケに言い返す。周りには僕達以外誰もいなくてほっとする、喧嘩かと思われたら大変だから。

ケンスケは軽くため息を着いた後諭す様に話を続ける。

「惣流が好きでもない奴にそんな事しないのはお前が一番解ってるだろ?ってことはお前が好きだからそういう関係になったんじゃないのか?」

アスカが僕の事を好き?まさかと思うけど考え直す、アスカは好きでもない奴にそんな事をする女の子じゃない。 そうだよそれを否定したら僕はアスカを侮辱している事になる。

ケンスケが察しよすぎなのが気になる。
ミサトの代わりさせて言い訳ができれば、
「選択が裏目に出る」ってテーマがブレやしないか?

すみません〉〉191は添削しわすれてたので無しの方向で。

では少しばかり再開します。

「あのなぁ、まさか今更断られるとでも思ってんのか?惣流がそんなつもり無かったって言うとでも思ってんのかよ?」

「ケンスケ?」

僕を見るケンスケの顔が少しずつ怒りを孕んだ顔になっていく。

「惣流は好きでもない男に言い寄って股を開くような頭も股も緩い、程度の低い女なのかって聞いてんだよ」

違う、アスカは、アスカはそんな女の子じゃない。 優しくて強くてとても可愛いらしい女の子なんだ。

アスカはずっと頑張ってたんだ。小さい頃からエヴァに乗るためにずっと訓練して僕なんかとは比べ 物にならない位に一生懸命頑張ってきたんだ。

そんな事言うなんて、アスカを悪く言うなんていくらケンスケでも許さない。

「違う!アスカを悪く言わないでよ…!」

僕は声を荒らげてケンスケに言い返す。周りには僕達以外誰もいなくてほっとする、喧嘩かと思われたら大変だから。

ケンスケは下をむき軽くため息を着いた後落ち着いた様子で僕に話を続ける。

「 すまない熱くなっちまった、結局俺がウダウダ言った所で当事者はお前と惣流だ、 まさか俺と惣流がってわけじゃないんだからどう答えを出すかはお前次第なんだよ 」

「お前はどうしたいんだよ、お前は…」

ケンスケが1度俯き意を決したように僕を見て言った。





「お前はアスカをどう思ってるんだよ」



ケンスケがアスカって言った…その聞きなれないケンスケの言葉で心臓を鷲掴みにされた気がした…。

その時脳裏にアスカが僕以外の誰かととても仲が良さそうにしている姿が浮かび上がり更にはアスカがその誰かと関係している姿をイメージしてしまっ た。

嫌だ…行かないでよアスカ、僕の傍に居てよ、僕は、僕はアスカが!

…この時やっとわかった気がする。どうして僕はこんなにもアスカとの関係を悩んでいたのか。アスカに対する僕自身の気持ちが分からなかったからだ。

アスカと過ごして来た日は色々あったけどこれ以上無い程に充実していた。

アスカとオーバー・ザ・レインボーで初めてあった 時は気の強そうな子だなと苦手に思っていた、ユニ ゾンの時に同居して訓練するなんて聞いた時最初は とても嫌だった。

ユニゾンの訓練が終わった頃にミサトさんの家にア スカが残ると聞いた 時にはアスカと居るのが余り嫌じゃないと思うよう になって、アスカに納戸は暑いから交換しろと軽口を叩いた事だってある。

アスカが浅間山の内部で大変な事になった時は考え る間も無くB型装備で突っ込んで行ってしまった。

僕がシンクロ率でアスカを抜いた時から僕達の関係は変になってしまい、それから僕はアスカの考えが分からなくなった。

トウジのエヴァを潰し、ゼルエルとの戦いでエヴァに飲み込まれてからは僕に対するアスカの視線が敵意を孕むものになっていた。あの時から僕はアスカが怖かったんだ。

アラエルの戦闘によって僕とアスカは普通じゃない関係になってしまった、だけどあの時とは違ってアスカの気持ちを少しでも解る様になりたいってアスカを守りたいって思えるようになった。

そしてケンスケの言葉でアスカを失ってしまう、僕以外の人とアスカが仲良くしている事がとても恐ろしい事だと感じて僕はやっと自分の気持ちが解っ た。

「ケンスケ、僕解った気がする。僕自身の気持ちが」

ここまで来てやっと自分の気持ちに気づくなんて僕は本当に馬鹿だよ。僕がアスカを守る方法はケンスケの言った通りこんな簡単な事だったんだ。

やっと解った僕の本当の気持ち、アスカは僕の物だという独占欲、 アスカを誰にも渡したくない、 僕は…。

僕が守るんだ、大切で…大好きなアスカを。

それを聞いたケンスケは微笑んで言った。

「やっと自分の気持ちに気づく事が出来たんだな、シンジ」

「うん、ありがとうケンスケ」

僕はアスカが好き…そう心で呟くと今までの憂鬱な気持ちが嘘みたいに心が澄み渡る感じがした。

前を見ると少し先に第3新東京市行きの駅が見えてきた。僕達の家コンフォート17に帰るための駅。

切符を買いプラットホームで電車を待つ、僕は桃源台中央駅行きの切符を買った、ケンスケは僕と違う駅に降りる切符を買ったみたいだ。

「大した理由じゃないよ、二つ前の駅の先に行きつけのカメラ屋が有るのと飯を買うってだけさ」

桃源台からだと近くに無駄に高いコンビニ位しか無いからなと最後に付け足した。

「お前は良いのか?飯はお前が作ってる様なもんだろ」

「アスカが作っといてくれるって言ってたから多分大丈夫だよ」

もし作ってなくても確か家には後1日分の食材は残ってたなと思い出しながらケンスケに答える。 そこで何故かケンスケは不思議な顔をする。

あのって、ケンスケはアスカは食べる専門だと思ってたのかよと一瞬思ったけどアスカが御飯を手伝ってくれたりたまに作ってくれる様に成ったのはつい 最近のことだと思い出す。

「そうだよ…少し前からだけど」

もしかしてアスカはあの事が有ったから手伝ってくれる様に成ったって事か?だとすると僕はとんでもない馬鹿で鈍感な人間だってことになる。

ケンスケは僕を穴が見つめたあと大きくため息をついた、そしてその後は僕の予想通りの言葉をケンスケに言われた。

「そこまでされていながらよくもまぁ自身が持てないなって感じだよ、ギネス級の鈍感っぷりだな」

ケンスケの言葉がグサリと突き刺さりいつもの様に 自己嫌悪をしそうになるけど、ここで落ち込んでいたらだめだと思い我慢する。

「全く惣流も大変だよな、鈍感なシンジを好きになるなんて」

「そんなに言わないでくれよ、僕だって反省してるんだ」

「悪い、俺には全く付け入る隙が無いくらい勝ち目が無かったんだなってお前が羨ましくー」

電車が来るアナウンスと電子音が鳴りケンスケの言葉がかき消される。さっきケンスケは何て言ったんだ?

勝ち目が無いってどういう事?さっきだってアスカって名前で呼んだしまさか、まさかケンスケはアスカを…。

「ケンスケ、それってまさか…それじゃあ」

「電車来たぜ、行くぞシンジ」

ケンスケに釣られて電車に乗り込む、僕はケンスケにそれじゃあ何で僕なんかにそんなに親身になって話してくれたんだよって聞きたかったけど、その時の僕はケンスケに聞く事が出来なかった。

side-asuka

ヒカリに付き合ってもらった夕飯の買い出しは思ってた以上に楽しかった、ハンバーグにすりおろした山芋をいれると柔らかくなるとか食材を選びながら色々な事を教えてくれた。

他にも美味しそうなクレープ屋さんで買い食いとかもした、思ったよりも時間が掛かっちゃったからもしかしたらシンジと鉢合わせするかもしれない、もしそうなったらシンジにも手伝って貰おうと電車に揺られながら考える。

「結構掛かっちゃったわね、ペンペンお腹好かせてないかしら」

ヒカリが言うまでペンペンの事をすっかり忘れてた…でもあいつはペンギンである事を疑うくらい賢いから適当になにか食べてるだろうしよしとしよ う。

「この分だと碇君と鉢合わせするかもしれないわね、碇君は携帯持ってきてないんでしょ?」

シンジはエヴァパイロットの癖に携帯を持ってきてはけないという学校の校則を律儀に守っているお陰でアタシはこんな無駄な博打を打つハメに成ってしまった。

「…そうね、もしそうだったら手伝わせれば良いのよ」

アタシの答え方が気になったのかヒカリはアタシをまじまじと見てから言った。

「わざわざ回りくどい事しなくても碇君に一緒に作ろうって言えば碇君はやってくれると思うけどな」

何よ、ヒカリってエスパーなの?どうしてこうも簡単に解っちゃうのよ。アタシは少しむすっとした顔をしているとヒカリはクスリと悪戯っぽく笑って 言った。

「顔に出てるわよ、美味しいハンバーグの作り方碇君にも教えてあげたいなって」

ヒカリったら自分のレシピを美味しいって自画自賛するなんて生意気。だからアタシはヒカリに出来る限りの反抗をする。

「その自身は鈴原が美味しいって食べてくれるから?」

それを聞いたヒカリは顔を赤くする、ふんだ、アタシばかりやられてばかりなのはしゃくだからいいきみだわ。

なのにヒカリは顔は赤いままだけどアタシににこりと笑って返す。

「ええそうよ、鈴原って病院の御飯は味が薄くて敵わないって喜んで食べてくれるの」

鈴原とヒカリの進展具合をからかうつもりで言ったのにこれ程までに腹を括った関係だとは思わなかったアタシは敗北を認めヒカリの言った通りだと認めるほかなかった。

「もうアスカったら本当に意地っ張りなんだから」

アタシが、あいつが知りたがったら教えてあげてもいいわって言ったのが余程面白かったのかヒカリはクスクスと笑ってる。

ひとしきり笑い終えたヒカリはポツリと呟く。

「うまくいくと良いね、アスカ」

「そうね」

「碇君とアスカはひいき目無しでもとってもお似合いなんだからね」

「そうかな…」

「碇君はきっと、アスカの事好きだと思うよ」

「…そんなこと?」

「そうなの」

ヒカリと話してるといつもこうだ、アタシは子供みたいに駄々をこねてヒカリが優しく諭してくれる。 しかもそういう時はたいていヒカリが正しいなって 思えてしまう。

だからアタシは今回はヒカリが正しいんだと願いを込めてヒカリとここにはいないあいつに向けて答える。

「そうだといいな…」

>>192
すいません寝ぼけてたのでメモから改訂前のコピペをしてしまいました。

ってのは言い訳にすらならないので改訂前を説明すると

ケンスケは自分の好きなアスカがシンジの事を大好きなのを痛いほど解っていたのでさっさとくっついて貰うためにあんな事を言いました。

>>192さんの言う通りケンスケが物分かりが良すぎるのとシンジが他人の言葉で自分の恋心を自覚するのは薄っぺらいなと改訂しました

それと基本的にケンスケはハッタリが上手い世渡り上手キャラなので、シンジにかまをかけて憶測で物を言ってるだけでいずれ出るあの人と違って本質が解ってる訳じゃないです。

最後にテーマは何一つぶれていません、誘われたシンジはともかくアスカはシンジが自分の事を好きだと思っていないからです。

両想いと彼氏彼女の関係は全く別ものです。


電車に乗る前にケンスケの言った言葉がどうしても気になって僕はケンスケに聞く、ケンスケは少し考える素振りを見せたあと呟いた。

「自分の好きな子が誰を見てるかなんて案外わかるもんだよ、ましてやその相手が自分の友達だとすればな」

僕はケンスケに何も言えなかった、言う事の何もかもがケンスケに対して悪いと思ってしまったからだ。

僕達は第3新東京市行きの電車に乗っている、僕は桃源台中央駅で降りてケンスケは2つ前の駅で降りるみたいだ。

駅に着いた事を知らせるいつも通りの案内を聞いてケンスケは吊革から手を離して僕に振り向く。

「そういえばここの駅でたまに綾波を見るんだよな、案外鉢合わせするかもな」

「それじゃあなシンジ、明後日学校でな」

僕もケンスケに手を振って返す。綾波か、逢えたら良いな、あの時僕に勇気をくれたお礼が言いたい。今なら言える気がするから。


「うん、またねケンスケ」

ケンスケはドアを出て左を向いた後笑って左を指す、釣られて僕はその方向を見ると一際目を引く髪色の女の子が乗車して来た。

電車が動き出し手を振り返すケンスケが見えなくなるのを確認すると僕から見て右隣の車両に移り、ビニール袋を持ちながら吊革に手をかけ座席が空いてるのに座らない女の子に話しかけた。

「今晩は、綾波」

綾波は一瞬瞳が大きく開き左を向いて僕を一瞥する、その赤い瞳を見ていると吸い込まれそうな錯覚を感じた。

「碇君」

「ずいぶん風が強く成ってたけど綾波は大丈夫だった?」


その問いかけに綾波はまるで父さんみたいにただ一言問題ないわと呟く、会話が途切れそうになるのを僕は乏しい会話力でなんとか繋ぎとめる。

「何処か買い物にでも寄ってたの?」

僕を一瞥した綾波は青色の髪を振り、流れる景色を眺めながら答えた。

「ネルフの検査の帰り道に食べ物の調達」

ネルフの検査か、そういえば綾波はシンクロテストの回数は僕達と殆ど変わらないのに検査の回数は随分多かったなと思い出す。


「そうなんだ、何かここでお気に入りのモノとか売ってたりするの?」

「別に、私の居住地には近くに何もないというだけよ、食品売り場が近いからさっきの駅で買うだけ」

会話は余り続かなかった。僕もお喋りってわけじゃないし綾波は無口と言っても差し支えない程だから当然直ぐに会話は無くなる。

それからは2人で黙ったまま桃源台中央駅への道のりを残り一駅へと減らしていた。

「碇君」

珍しく綾波の方から話しかけて来て綾波はまたこちらを見て射抜くような瞳を僕にぶつける。


「弐号機パイロットの人はどうしたの?」

まさか綾波からアスカの事を聞かれるとは思わなかったから少し驚く。

「ああ、アスカは別行動だよ、僕はトウジのお見舞いに行った帰りでアスカは買物に行ってるんだ」

綾波はそれを聞いた後は「そう」とだけ呟いてまた前を向いたから僕は話は終わったんだなと思っていた、だけどそれは違っていた。

「どうして貴方達はいつも辛そうなの?あの時私が余計な事を言ったから?」

綾波が僕とアスカの関係について話をしてきた事にドクンと心臓が高鳴り驚いたけど、もう僕自身の答えは出ているから綾波の疑問に迷いなく答えた。


「ううんそんな事ない、むしろ僕は綾波にお礼が言いたいと思ってたんだ。」

「お礼?」

「うん、あの時綾波が僕に言ってくれなければもしかしたらアスカの所には行かなかったかもしれない、その時僕はきっと後悔していた筈だから」

僕は綾波がアラエルを倒したあとアスカの所へ行く事を迷っていた、父さんが出撃を許してくれなかったとはいえ結果としてはアスカを助けに行く事は出来なかったから。

アスカに助けに来てくれなかったと罵倒されてしまうかもしれないと自分勝手に怖がっていたから。

ちょうどエヴァから降りてきた綾波にアスカの状態を聞くと綾波は首をゆるゆると振った後答えた。

『それは貴方自身で確かめる事、そして私よりも碇君のするべき事。弐号機パイロットもそれを望んでる筈』

と返した後、ほんの少し口角を上げて僕に頑張ってと言ってくれた。素っ気ないと思われるかもしれないけど僕には綾波の精一杯の応援だと感じた。


そんな事でと言われるかもしれないし僕自身何故だか解らないけど綾波の『頑張って』という一言が懐かしく感じて勇気が出た、だから僕はアスカの居るビルに登る事を決めたんだ。

その事をそっくりそのまま言う事は出来ないからオブラートに包んで説明した。

「あの時綾波と話せて良かった」

「私と?」

うんと答えた後話を続けようとした所ちょうど同じタイミングで桃源台中央駅に着いた。

僕達は電車から降りて僕は綾波に話を続け、変わらず綾波は僕を見る。


「僕は綾波のお陰でアスカとちゃんと向き合おうって思える様に成れたんだ」

「私は碇君の方がその役目に適していると思っただけ」

今迄の過程がどうだろうと関係ない僕はやっとアスカへの恋心を自覚する事が出来たんだから、ほんの些細な事だし綾波は何とも思っていないだろうけど僕は綾波のお陰だと思ってる。

だから僕は綾波に親愛の念を込めて微笑んで言った。

「綾波、君のお陰だよ、本当にありがとう」

さっきまでは僕の眼を見て話を聞いていた綾波はハッとした後急に目をそらし下を向いた。


「そ、そう…良かったわね…」

綾波の声は不思議と上ずって聞こえた、僕は何か変な事言ったかなと考えていたら、急に強い風が吹き、更にここには降りない電車が高速で駆け抜けた事で突風が起こった。

綾波は俯いたままだったから対処できず風に煽られバランスを崩し線路側によろめいた。

「あっ」

綾波が言ったのか僕が言ったのか解らない声がした後僕は咄嗟に綾波の手を捕まえて力一杯引っ張った。

綾波が持っていたビニール袋ががさりと音がして僕の足に当たる、ペットボトルでも入っていたのか思った以上に痛かったけど綾波は線路に落ちる事なく無事だったから良しとしよう。

「碇君、痛い」

綾波が抗議の言葉を間近で発した事で僕は綾波を抱き締めたままだった事に気付き慌てて綾波から手を離す。


「ご、ごめん綾波!つい咄嗟に身体が動いちゃって」

綾波は僕から離れた後俯いたままゆっくりと呼吸を整え僕を見て言った。

「大丈夫、びっくりしただけ」

気のせいか綾波の顔が赤くなってる気がする。その後綾波の顔は一瞬にして元の顔に戻り僕の後ろを見る。

「どうしたの綾波?」

綾波は僕の眼を見ながら言う。

「さっき、向かいのホームに弐号機パイロットがいたわ」

「アスカがいたの?」

「ええ、向かいの電車が通った後には居なくなってしまったわ」


さっきまでアスカが居たなんて偶然も有るもんだな、もしかしたら急げばアスカに追いつけるかもしれないと思い綾波とプラットホームを降りる。

綾波の住むマンションに行くT字路に差し掛かり、僕は綾波に別れを告げる。

「それじゃあ僕はこれで、今日は風が強いから転んだりしないでね」

「碇君も」

綾波がT字路の僕と違う道を僕の足を痛打したビニール袋片手にスタスタと歩いていくのを確認した後僕は少しづつ歩くスピードを上げ早足になり最終的にはジョギングする位のスピードで走る。

アスカ、僕はやっと自分を好きになれる気がする、トウジやケンスケと仲直りが出来たんだ。今まで綾波に言う事が出来なかったお礼の言葉が言う事が出来たんだ。

アスカ、僕はやっと自分の気持ちに気付けた、僕はそれがとても嬉しいんだ、今の僕ならあの雑誌の曲を心を込めて弾ける気がする。

僕は、アスカへの暖かい気持ちを秘めてコンフォート17に向かった。

今日はここまで、破の食事会破棄のシーンはみんなが前向きに進んでるのに悪気なく台無しになる感じがこれぞエヴァって感じで好き

side-asuka

桃源台中央駅につくまではヒカリと何気ない話をしながら電車に揺られていた。

桃源台中央駅に着くアナウンスが流れ電車は少しずつスピードを落としていきドアのエアロックが外れる。アタシとヒカリは食材が潰れないようにプラットホームに出る列の最後尾について電車から降りた。

「アスカは直ぐに帰るの?それとも…」

ヒカリがなにを言いたいのかは解る、アタシもそうしたいと思ってたところ。

「アタシはシンジを待ってみる、先に帰ってるかもしれないけどね」

「うん解った、それじゃまた明日、ううん明後日ね」

手を振るヒカリにアタシも空いてる方の手で手を振り返す。ヒカリはプラットホームを降りて第3新東京市に消えていった。

ヒカリの明後日って言葉で思い出す、そうだった明日は祝日で学校は休みだったんだ。エヴァで出撃が無ければの話だけどそうすれば明日はシンジと…。

シンジと一緒にいられると考えると心臓がトクンと高鳴る、急がずに着実に一歩ずつ進んでいけばいいんだから焦る必要はないわ。

時計を見るとアタシ達が降りてから10分が経とうとしていた、シンジは学校に携帯を持って来ないから何処に居るかわからない。

相田なら携帯を持ってきてそうだけどアタシは相田の番号を知らない、もし知っていたとしても相田経由でシンジの居所を知りたいとは思わない。

「ったく、シンジのバカはどうして携帯持ってこないのよ」

もしかしてと試しに鳴らしたものの数回コールしても出ないから通話ボタンを切る、例えペンペンに出られてもペンギンの言葉はわからない。

暇つぶしにバカシンジと表記された携帯の発信画面を1つ戻し電話帳を眺めていると加持さんの名前が書いてあった。

加持さん、最近連絡取ってないし電話位大丈夫かなと寂しさと退屈を紛らわす為に発信画面に移り発信のボタンを押した。

この時の気持ちは昔みたいな恋焦がれるような、甘えたいような気持ちではなく小さい時からの知人に対する挨拶の電話位の認識だと思う。

数回のコールののち電源が入っていないか電波の届かない所にあるというお決まりのアナウンスがなり、溜息をつき切断ボタンを押し携帯を閉じてポケットにしまおうとする。

その時後ろでドアが開く音が聞こえたからポケットにしまい振り向く。

電車から降りるシンジの姿が見え、シンジに声をかける。

「シン…!」

声を最後まで出さずに飲み込んだのは向かいのプラットホームにいたのがシンジとアタシ以外の唯一のエヴァパイロットのファーストが一緒に居たからだ。

シンジがファーストに何か話した後シンジはこれでもかという位の優しい笑顔をファーストに向けていた。

うそ、嘘よ。

どうして…?

どうしてシンジはあんな笑顔をあいつに向けるのよ?

周りの世界が何も見えなくなり何も聞こえず何も感じずアタシの目はあの二人だけを映し出す。

けれどその後に起こった事に比べればシンジが笑った事なんて大した事は無かった。

電車が通り過ぎた後シンジから顔をそらしていたあの女の手を引きシンジが抱き締めた。

その光景を見た瞬間一気に胸が苦しくなり水をかけられたかのように身体が凍え言い様の無い喪失感がアタシを襲った。

いや…!いや!イヤァ!

アタシはその光景をこれ以上見ないために髪を翻しプラットホームにいる人達を吹き飛ばす勢いでかけていった。

どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?

どうして!?

「どうしてよ…!?」

プラットホームからコンフォート17まで殆ど休む事無く走りエレベーターで上に向かった後は自宅である11-A-2号室に駆け込んだ後肩を大きく動かしながら玄関で叫ぶ。

買い物の時に卵は1パック残っていたと思い出して買わなくて良かったと思う、もし買っていたら全速力で走った衝撃で割れていた事だろう。

「何でなのよぉ!」

見たくなかった、あんな物見たくなかったよあんな物…。怒りと悲しみを鞄に込めて壁に投げつける

「何で、シンジがファーストなんかと抱き合ってんのよ!?」

アタシの数十分前の記憶はシンジに対する思いでグチャグチャに成っていた。

シンジがあの女に微笑んだかと思ったらシンジがあの人形女の手を引いて抱き締めた。

シンジはいつもアタシを壊れ物を扱うみたいに抱いてくるだけ。

アタシはあんな風に激しく、ギュッと潰れそうになるくらい抱きしめられた事なんて一度も無い!

「なのに何であの人形にあんな…あんな事…」

片腕で自分の身体を抱きしめてアタシは震えている事が分かった、それに頬が焼ける様に熱い。

このままだとシンジが帰ってくるかもと靴を脱ぎ投げ付けた鞄を拾いリビングに向う。

顔を洗った後は買い物袋をテーブルに置いたままイスに座りその買い物袋を眺める。

デパートに行くまではシンジにハンバーグを作ろうと思ってたのに身体が錆び付いたみたいに動かない、身体だけじゃなくて心も同じ。

じわりと涙が浮かんでくる感じがして、誰もいないのに顔を見せない為に腕を枕にして顔を落とす。

「また負けた…あの人形女に」

あの寝言はそういう事だったんだ、またアタシは人形に負けた…。

ママだけじゃない、シンジもアタシから離れていく。ママが居てくれればそれで良かった、他には何も要らない。

大好きな人が居ればそれで良かった。

ママが要ればそれで良かったの、アタシはママさえいればパパが帰ってこなくても幸せだった。

『アタシガホンモノナノ!』

でもママはもういない、人形と一緒に居なくなっちゃった。ママにとって人形が本物だったから。

「アタシはニセモノ…」

テレビをつけたりせずリビングの照明が照らすこの部屋はペンペンが冷蔵庫に篭り誰も居なくて誰も喋らないからアタシはこの世界でたった1人という錯覚に陥る。

1分か10分かわからないけどぼーっとしていたら玄関のエアロックが外れる音がしたあとに足音が聞こえた後リビングに明るいボーイソプラノの声が響く。

「ただいま、アスカ」

シンジはあんな事をした癖に、いやあんな事をしたからかとても気の晴れたような顔をしてリビングに顔を覗かせた。

アタシは沸々と湧いて来た大きな悲しみと小さいけど確かな憎悪を抱きながら顔を上げ笑顔を浮かべてシンジに返した。

「お帰りシンジ」

良かったわねアスカ、放課後の願いが叶いそうよ。

夜は決戦。

side-shinji

結局アスカに追いつく事はなく僕達の家、11-A-2号室についてしまったな。

ドアのエアロックを解除し中に入り薄暗い壁を探り照明のスイッチをいれる、アスカがこういうのをつけないのは珍しいな。

リビングの光はついてるから居ないとも考えられないけどテレビの音も何かを切ってる音も聞こえない、何かを作ってる匂いもしない。

靴を脱ぎリビングに向かうと顔は見えないけどビニール袋越しにテーブルの椅子に座っている赤く煌くアスカの髪が見えた。

「ただいま、アスカ」

僕はその髪を持つ女の子に少なからずドキドキしながらただいまの挨拶をする。

アスカはのそりという擬音が合うような緩慢な動きでうつむかせた顔を上げた後たまに見せるようになった、辛い思いを表に出さない様に我慢している笑顔を浮かべ言った。

「お帰りシンジ」

どうしたんだろうアスカ、何か嫌な事でも有ったのかな。何か力に成れればと僕はアスカに「どうしたのアスカ具合悪いの?」って聞いた。

するとアスカは片方の眉をピクリと動かした後片方の口角を持ち上げるニタリと笑う。

「具合?あんまり良くないかな、あんなお熱い所を見せつけられたらねぇ」

お熱い所?アスカは僕の事を言ってるみたいだけど僕は誰かとそんな事をした記憶は全然無い、だから僕は素直にアスカの言葉を否定した。

「アスカはきっと勘違いしてるよ、僕はそんな事誰ともしてない」

「そう、言わないわけ、どうしてもアタシの口から言わせたいのね寝言の女の事を」

アスカは不機嫌さを見せた笑みすら消してゆっくりと立ち上がる。僕を見据える眼はこれまでに感じた事の無いとても冷たい印象を持っていた。

「見ちゃったんだ、駅のプラットホーム。そこであんたとファーストが仲良さそうに抱き合ってる所」

プラットホームの言葉を聞いてやっと理解する、アスカはあの時同じタイミングで電車を降りただけじゃなくて僕達を見てたんだ。

「思わず熱くなっちゃったわよ、優しく微笑んだシンジがファーストの手を引いたかと思ったら抱き締めてるんだから、何処のテレビドラマよって感じ」

アスカはまた引きつった笑みを浮かべて話ていく。僕はそんなアスカの顔を見ているのがとても辛かった。

「ご丁寧にファーストはあんたに抱き締められながらアタシの眼を見てくれたわよ。つまりアタシはあんた達の引き立て役って訳よね」

綾波があの時僕達の事を見ていたって言ってくれればこんな面倒な事にならなかったのになんて情けない事を考えながら僕はアスカの言葉を遮る。

「違うよ誤解だよアスカ、あの時は電車に煽られて綾波が落ちそうになったから必死で引っ張っただけなんだ」?
紛れもない事実を言ったのにアスカはさっきよりも怒った顔をして僕を睨む。

「そんなんでアタシに信じろっての?見え透いた嘘をつくわね…!」

アスカの取り付く島も無い否定の言葉を聞いてカチンと来た僕は少し語気を強めて返す。

「本当の事なんだからそれ以外何を言えってのさ」

アスカは一瞬狼狽えたように見えたけど直ぐに元の調子に戻って捲し立てる。

「何が強風に煽られたですって?馬鹿な事言ってんじゃないわよ、離れてるとはいえあんたがファーストに微笑んだ後はアタシには何も起こらなかったし感じなかった!」

アスカは息を整えるとさっきまでの勢いは消え話し出す。

「なんでよ、なんであんたはアタシを見ないのよ、なんであんな人に言われたとおりにしか動かない人形女となんか…」

アスカの綾波に対する言い方が気になったけどそれは今は気にしない事にする。

「アスカ、それは誤解だって…」

「あんたが優しく微笑んでくれた事はあの時以来殆ど無いし、あんなに壊れそうな程強く抱きしめられた事なんて一度だって無いのよ!」

とっさとはいえ綾波を抱き締める形になってドキドキしなかったと言ったら嘘に成るけど何か突出した気持ちを抱いた覚えは決して無い。

錯乱しているアスカに僕の気持ちを伝えるにはどうしたら良いんだ、僕はアスカにこんな風に誤解されたくないのに。

「じゃあどう言えば良いの?」

「どう言えば…っですって?」

「僕は綾波とそういう関係じゃないって言っても信じてくれない。どう言えばアスカは信じてくれるの?」

アスカはまなじりをあげて僕を見る、タレ目のアスカとは思えないくらいに目がつり上がっている。

「そうやってアタシの事を子供扱いしてんじゃないわよ…」

「僕はそんなつもりで言ったんじゃない、アスカにどう言えば解らないからそれで?」

僕の話を遮りアスカの声がまた荒々しくなる、心無しかさっきの駅の話よりも刺々しさが増している気がする。

「それが気に入らないって言ってんのよ!アタシと同じ年の癖にその何でも解ってますみたいな面した言い方が!」

「加持さんの真似ごとのつもりか知らないけど似合わないのよ!」

「救ってやってるつもりなわけ!?自惚れんじゃないわよ!」

アスカの言葉に僕も熱くなる、何でだよ何で冷静でいようとしちゃいけないんだよ。
僕が冷静で大人になればみんなを傷付ける事なんて無くなるんだ、僕がトウジに一生の怪我を負わせることだって無かった。

使徒がアスカを、いやそれ以前に僕がアスカを苦しめる事が無かったのに。

あの日からアスカを守るって決めてあの夜からアスカを苦しめない様にって頑張って来たのに。
好きなアスカを守りたいって僕の気持ちを何でわからないんだよ。

「僕が子供だったからいけないんだ僕がウジウジしてなければみんなが傷付く事は無かった!それを何で解ってくれないんだよ!」

「それにアスカがあんな事になる事も無かったんだよ!」

ずっと言わなかった僕の気持ち、もう我慢できない。

「アタシが何だってのよ!」

「アスカより先に帰った時にミサトさんに言われたよ、アスカをお願いって」

「あの日アスカの部屋に入った後リツコさんからの連絡でアスカは思っていた以上に傷ついているって知らされた!」

「だけど僕はそんなこと言われなくてもアスカを守るって決めてた、だから僕はずっと…!」

「ミサトさんもリツコさんもケンスケもトウジも洞木さんも綾波も本当はみんな、みんな怖いよ!」

だけど僕は、僕はアスカが言った通り男なんだ、逃げちゃいけないんだだから僕は決めた臆病で卑怯な自分を変えなくちゃいけないと。

「それはアスカを傷付けてしまったあの夜があったから僕はこんなに頑張って来たんじゃないか!」

アスカは僕を真っ直ぐに見つめる、僕にはその顔が何を表しているのか解らなかった。

僕とアスカは何も話さないまま沈黙が訪れる。

「アタシの…」

少しの沈黙の後アスカが呟く、さっきとは違い勢いの無い言葉がリビングに澄み渡る。

「アタシのせいなの…?」

一瞬アスカの言葉の意味が解らなかった、僕は加持さんみたい人じゃない結局今でも臆病で弱虫なままなんだと言いたかっただけなのに。

「ち、違うよそんな事無い!こんな形に成っちゃったけど僕はアスカが居てくれたからがんばろうって思える様に成ったんだ!」

アスカが悪いんじゃない、アスカは何も悪くないんだ。それなのにアスカは髪が振り回される程に首を振って否定する。

「やっぱりそうじゃない!アタシは嫌がるシンジに迫ったのよ、そのせいであんたは今までずっと悩んでてた!」

「アタシがシンジを傷付けた、そのせいでシンジは他の奴らを気にするように成ってアタシだけを見てくれなくなっちゃったんだ!」

今度はアスカが噴き出す様に話し続ける。こんな事言うんじゃなかったと何時までも学ばない僕を憎らしく思った。

「アタシはヒカリやママ、大好きな人さえいればそれで良かったの他には何も要らないの!」

アスカは俯き消えそうな声で話を続ける。

「アタシはシンジがいてくれればそれで良かったのに…!、どうしてアタシだけを見てくれないの?」

「そっか、あたしが…」

アスカは顔をあげて話す、雰囲気が変わったその顔はとても弱々しく何かに縋ろうとする様はアスカのイメージとはかけ離れた物だった。

「あたしがシンジを汚した悪い子だからシンジはあたしだけを見てくれなくなったの?」

アスカが少し舌足らずな喋り方に成り年不相応な大人びた雰囲気から幼い雰囲気に変わった感じがした。

今のアスカの顔を見た瞬間に僕はさっきまでとは違う焦りを感じている事に気付く。

何時ものアスカじゃない、まるでリツコさんの、リツコさんのFAXに書いてあった…。

「あたしが悪い子だからママはママをやめちゃった!シンジもあたしが悪い子だからあたしを見てくれなく成っちゃったの!?」

今の僕は冷静なのか?緊張で頭がおかしくなってるのかもしれない、どうしよう今のアスカにかける言葉は…。

「アスカそれは違うよ、みんな君の事を嫌ってなんかいない」

「嘘よ、ママもパパもみんなあたしの事がきらいなの、あたしが綺麗じゃないから、良い子じゃないから!」

アスカは少し俯きスカートの裾を掴み唇を噛みしめる、その姿は泣くのを必死で我慢している小さい子の様に見えた。

「あたしが悪い子だからシンジもあたしがきらいなんでしょ!」

辛そうなアスカの最後の言葉を否定したい一心で僕の頭は一瞬にして沸騰してしまった。

「僕は、僕はアスカの事が!」

僕はアスカの手をぎゅっと掴み肩を触れようとした瞬間にアスカの顔が恐怖で染まる。

「ひっ、やぁ!」

アスカに勢いよく手を払われそしてその勢いで体勢を崩しテーブルに体をぶつける。

「っつ!」

アスカは自分のした事が信じられないという様子で僕を見つめる。

「あ、ごめ…アタシ…!」

視線を先に外したのはアスカ、アスカは僕をすり抜けて早足で玄関に向かう。

「ア、アス…カ!」

アスカを掴もうとする手は空中を撫でるだけで僕の足は出ていくアスカを玄関までしか追いかける事が出来なかった、僕の心はアスカに否定されたショックで一杯だった。

ドアが開き空気圧で吸い込まれる風を受ける。アスカは制服姿のママ逃げる様に階段を降りていった。

僕はアスカを追い掛ける事が出来なかった、初めて見るアスカの恐怖した顔、その理由がこの僕のせいだなんて。

ミサトさんごめんなさい、僕は…僕は結局どうしようもない子供だったんだ。

アスカ、僕は…僕はね。

「僕は…ただ、アスカに好きって言いたかったんだよ…」

無念さを誤魔化す為に言った言葉は誰もいない玄関を僕の声で虚しく満たし響かせただけで誰の返事も帰ってこなかった。

伝えたい人はもうここに居ない。

何とか第二部が終了、これでやっと終わりが見えてきました。

最終的にはハッピーエンドになるのでお楽しみに。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年01月05日 (日) 03:27:07   ID: CU6ySZ2V

おもしろい。続きはよ

2 :  SS好きの774さん   2014年01月10日 (金) 23:05:10   ID: cldGl5yo

続き知ってる方いません?
無さ気なんだが…

3 :  SS好きの774さん   2014年09月10日 (水) 04:55:05   ID: 99nTs75O

続きが気になるので知ってる方いたら教えて下さい。

4 :  SS好きの774さん   2015年11月13日 (金) 12:59:36   ID: 7HRS6Q0Q

続きはないんでしょうか?
気になる〜

5 :  SS好きの774さん   2015年11月20日 (金) 02:10:58   ID: cC3rohLp

完結させる気も無いなら最初から書くな。

6 :  SS好きの774さん   2016年03月13日 (日) 23:42:35   ID: CDAQxHZX

続きが読みたいです……!!

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