幽霊「俺が成仏できない理由」 (17)

以前書いたSS
幽霊「なんで俺は・・・成仏できないんだ」
に対し、主人公が成仏できない理由が書かれていないのが不満との意見を頂きました。

成仏できない理由になるかはわかりませんが、
彼が幽霊になる前の話を書いてみました。

蛇足になるかもしれませんが、読んでいただけたら幸いです。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1378386785

幼女に拾われて最後に老婆となった幼女が往生する奴?

>>2 そう、それです。

>>2 そう、それです。

平凡な俺、平凡な毎日。
特別なことなどない、日常。
朝起きて、仕事へ行って、上司に怒鳴られ、あくせく働いて、帰って寝る。
そんな日々。

何をしても、空が灰色な気がした。

そんな俺の空が、ある日色を変えた。

「赤ちゃんができたの。」

妻が、そう言った夜から。

めでたい、そう思った。
喜ばしいことには間違いなかった。
二人の子どもができたのだ。
ただ、実感がわかない。
妻の腹だってまだ膨らんでないし、
その中に子どもがいるとも思えない。

ただ、その腹がだんだんと膨らんでいき、
いつしか中から蹴る様になって、
やっとこの腹の中に人が入っているという事実を認識できた気がした。

それでもまだ、血の通った人間が入っていると頭でわかっても、
すっきりできていなかった俺は、
やっと、その赤ん坊を手に抱いた時に、

ああ、俺たちの子どもなんだ

と分かった気がする。

朝起きて、仕事へ行って、上司に怒鳴られ、あくせく働いて、帰って寝る。
その生活は変わらないけれど、
家に帰ると、赤ん坊がいる。
最初は泣いてばかりだったけれど、
段々笑うようにもなった。
あーうーとうなっていたのが、言葉を話すようになった。

おとうさん

はっきりと言った訳じゃない。
でも俺にはそう聞こえた。
初めて呼ばれた、その嬉しさが忘れられない。

一緒にお風呂に入った。
小さな体は白くて柔らかい。
傷つけないように、優しく洗ってやった。

貴重な休みも、全部一緒に過ごした。
遊園地やプール、動物園に水族館。
連れていってやりたい場所はいっぱいあった。

幼稚園の入園式も、お遊戯会も、
どれもとびきりの笑顔で輝いていた。
きっと卒園式も小学校の入学式も、
一番きらきらするはずだ。

我が子の姿を形に残したくて、
今まで興味のなかったカメラも買った。ビデオカメラも買った。
アルバムも何冊にもなった。

「最近生き生きしていますね。」
「そうかな?」

仕事場で、たまにそんな会話をするようになった。

「まだ『ぬ』と『め』を書き間違えちゃうんだよね。」
「それはだんだんと覚えていきますから、焦らなくて大丈夫ですよ。」

職場の同僚と、そんな会話をすることもあった。

ただ、あの子の未来が楽しみだった。
小学校にあがれば、好きな子もできるだろう。
中学校では、どんな部活に入るのかな?
高校に入って、初めての彼氏を紹介されたらどうしよう?
大学じゃ、どんな勉強をするんだろう?
どんな仕事に就くんだろう?
いつか結婚するんだろうな。
白いウェディングドレスを着て、俺がその横を歩くんだ。
幸せな家庭を築くんだろう。
子どもは何人できるだろう?
俺もいっぱい貯金してお年玉あげなくちゃな。
ひ孫まで見れるかな?
きっと可愛らしいおばあちゃんになって、幸せな人生の終わりを迎えるんだろう。

あの子の未来を考えるだけで、幸せだった。
俺が、幸せな未来への道を作ってあげたい。
ずっと、あの子の幸せを守ってあげたい。

「そういえば、親父とお義父さんがランドセル買ってやりたいって言ってたな。」

俺は仕事帰りの駅から家への道を歩きながら、ふと思い出した。
親父もお義父さんも、気が早いんだから。
入学式まであと3ヶ月以上ある。

「まずはクリスマスプレゼントだろう。」

そう、もうすぐクリスマス。
俺は今日、あの子の好きなウサギのぬいぐるみを買ってきた。
クリスマスの朝、ツリーの下にあるこの包みをあけて、
あの子はどんな顔をするだろう?

今月のはじめに書いた、サンタさんへの手紙。

さんたさんへ
うさぎのめいぐるみがほしいです。
おねがいします。
りん

まだへたくそな字で、相変わらず「ぬ」と「め」は逆だったけれど、
一生懸命、書いていた。

『サンタさん、お手紙よんでくれたんだ!』

そう喜ぶ姿が容易に想像できる。
思わず、顔がほころんでしまう。

「来年は何お願いするのかなー。お財布に優しいといいな。」

そう言ってみたけれど、別に、どんなものだっていいんだ。
あの子が望むものなら、なんでも与えてやりたい。
甘やかしすぎかもしれない。
でも、そうしてやりたいんだ。
ずっと、あの子が望む限り。


「長生きしなきゃなー」

暗い夜道を一人歩く。
どうせ誰もいないんだし。
そんな心の余裕が、最初で最後の誤りだった。

カーブを抜けて猛スピードで向かってくる車。
目に刺さるライトと急ブレーキの音に、かたく目を閉じた。

平凡な俺、平凡な毎日。
特別なことなどない、日常。
朝起きて、仕事へ行って、上司に怒鳴られ、あくせく働いて、帰って寝る。
そんな日々。

それでも、あの子がいるから。
瞼の裏に移った空は、突き抜けるような真っ青な空だった。



おわり

読んで下さった方、ありがとうございました。

今から探して読むわ。とりあえず乙



幼女に拾われて多少は救われたんかね


成長する姿を本当に近くで見れたけど成仏できなかったんだよな

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