オルオ「俺もリヴァイ兵士長みたいになりてぇなー」 (266)

ペトラ「ん……? ごめん、なんて?」

オルオ「だから、リヴァイ兵長だよ。すっげぇカッコイイよなリヴァイ兵長!」

ペトラ「リヴァイ兵長? って確か……」

オルオ「は? オイオイ、お前兵士のクセにリヴァイ兵長も知らないのかよ!」

ペトラ「むっ……私だって話くらい聞いたことあるよ。すごく強いんだよね?」

オルオ「バカお前、強いなんてもんじゃねぇよ! 
    目にも止まらぬ速さで瞬く間に巨人をばったばったと……」

ペトラ「オルオは見たことあるの? 兵長が戦うとこ」

オルオ「……ねぇけど……」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1378200313


ペトラ「やっぱりないんじゃない。人から聞いた話を自慢げに語っちゃって、馬鹿みたい」

オルオ「うるせぇな! 良いか、俺は卒業したら調査兵団に入って、リヴァイ兵長に仕える!
    そんで間近であの人の戦いを見るんだ! 
    そしていつか、兵長の右腕と呼ばれる男にまでなってやるんだからな!」

ペトラ「はいはい、わかったわかった。頑張ってね」

オルオ「お、お前信じてないな! 俺は本気だぞ!」

ペトラ「別に信じてないとか言ってないって……」

グンタ「オイ、何やってんだお前ら」

エルド「夫婦漫才も良いが、そろそろ行かないと訓練に遅れるぞ」

オルオ「だっ……誰が夫婦だって!? そんなんじゃないんだが!? バ、バーカ!」

ペトラ「そうだよ、なんでオルオなんかと! こんな老けてる顔イヤだよ!」

オルオ「それを言うなよお前……」

エルド「気にしてたのか」

ペトラ「とにかく……ホラ、早く行くよ。今日はオルオの好きな立体機動でしょ?」

オルオ「! そうか、そうだったぜ。よしっ、気合入れて行くか!」

グンタ「単純なヤツだな……」




俺は、リヴァイ兵長に憧れてた。
まず、新しく兵士長に任命された男が異常に強いらしいという噂が広まり……
そこからはあっという間だった。
人類最強の男であり完全無欠の英雄、リヴァイ兵長。
そんな男が居るという話を聞いて、憧れないヤツはどうかしてる。

だから当然、俺の進むべき道は決まっていた。
調査兵団に入ってリヴァイ兵長に仕えることだ。
そしてリヴァイ兵長に認められ、リヴァイ兵長の横で戦う。
リヴァイ兵長の右腕となる……それが俺の夢だった。

リヴァイ兵長の部下にふさわしい男になるため、たくさん努力した。
まぁ、元々才能もあっただろうが……その才能と努力が実り、
俺の実力は同期の中じゃそれなりのものだった。

オルオ「――ふんッ!!」

訓練兵1「あぁ、くそ! またオルオかよ!」

訓練兵2「お前憲兵団行かねぇんならもうちょい俺らにも活躍させろよ!」

オルオ「バーカ、それとこれとは話が別だよ! 悔しかったら実力で俺に勝って……」

エルド「ふっ!!」

オルオ「あぁっ!? この野郎エルド! そいつは俺が狙ってたんだぞ!」

エルド「知るか、余所見するお前が悪い」

オルオ「くそっ! なら次の獲物を……」

ペトラ「はぁっ!!」

オルオ「今度はお前かよォ!?」

ペトラ「何よ、別に良いでしょ?」

オルオ「何なんだよもう! お前らがその気なら俺だって本気出してやるからな!」

エルド「ん、本気じゃなかったのか? 不真面目なヤツだな」

オルオ「う……うるせぇ! 100%を120%にするってことだよ!」

グンタ(立体機動中によく喋るなこいつら……)

……確かに俺の実力は周りの誰もが認める程ではある。
しかし最近、少し面白くないことがある。

ペトラ「ふー、やっぱり立体機動は疲れるね」

オルオ「…………」

ペトラ「な、何よオルオ。そんなに睨んで……」

オルオ「なんでもねぇよ……」

エルド「今日の立体機動はペトラに遅れを取ってたからな、悔しいんだろ」

オルオ「!?」

図星だ……。
そう、ペトラのヤツが最近になって腕を上げてきやがったんだ。
入団当初は俺の足元にも及ばなかったクセに……。

ペトラ「あれ、そうだった? あんまり意識してなかったけど……。
    っていうか別に早ければ良いってわけじゃないんだからそんなの気にしなくて良いのに」

オルオ「くっ……オイ、ペトラ! 言っておくけどな……!
    最近ちょっと成績伸ばしてきたからって、調子に乗るんじゃないぞ!」

ペトラ「は……? 別に誰も調子に乗ってなんか……」

オルオ「まだまだ俺の方が上なんだからな! 
    今までも、これから先もずっとだ! 良いな!」

ペトラ「さっきから何言って……行っちゃった」

グンタ「最近のあいつはよくああなるな。それも決まってペトラが相手の時だけだ」

エルド「どうもオルオはお前に妙な対抗心を燃やしてるようだな、ペトラ」

ペトラ「うん、そうみたい……。別に対抗心燃やすのは構わないんだけど、
    ああやって理不尽に文句言われるのはなんていうか、ちょっとイラっと来る……」

グンタ「ははっ、まぁ適当にあしらっておけよ。
    だが確かに最近のお前の成績の伸びはかなりのもんだと思うぞ」

エルド「あぁ。この調子なら上位10人も狙えるんじゃないか?」

ペトラ「そ、そう? あはは……まぁ、頑張ってはいるからね」

エルド「そう言えばお前とはこういう話をしたことなかったが、
    卒業したら兵団はどこにするつもりなんだ? やっぱり調査兵団か?」

ペトラ「? 『やっぱり』って、なんで?」

エルド「イヤ、オルオと同じ兵団に入るつもりなのかと思ってな」

ペトラ「は……? な、何よそれ。そんな、オルオと2人セットみたいな言い方やめてよね!」

グンタ(エルドのヤツはからかってるのか素なのか分からんな)

ペトラ「わ、私より、2人はどうなの?
    2人もかなり成績良さそうだけど、もし10位以内に入ったらやっぱり憲兵団?」

エルド「イイヤ、俺達は調査兵団に行くつもりだ」

ペトラ「えっ、そうなの?」

グンタ「あぁ。10位に入ろうが入るまいがな」

ペトラ「それは前からずっと? そう決めてたの?」

グンタ「元々調査兵団に憧れてたってのもあるし、
    前から決めてたと言えば決めてたんだが……。
    ほら……破壊されただろ、ウォール・マリア。それで更に決心が固まった」

エルド「俺も似たようなもんだ。
    これ以上巨人どもに俺らの居場所を奪われてたまるか、ってな」

ペトラ「ふーん……。そっか、実は……うん。私も」

グンタ「! お前も調査兵団に?」

エルド「なんだやっぱりそうじゃないか」

ペトラ「オルオが行くからとかじゃなくて! 私が行きたいから行くの!」

グンタ「そうか。……そういうことらしいぞ、オルオ!」

オルオ「!?」

ペトラ「えっ、オルオ?」

エルド「お前、部屋に戻ったんじゃなかったのか……」

オルオ「た、たまたま便所のついでに寄ってみただけだ……」

グンタ「嘘つけ。ずっと居たクセに」

エルド「ん、待てよ。ずっと居たってことは……」

オルオ「オ……オイ、ペトラ! 聞いたぞ! お前……イ、イラっと来るとか言うなよな!」

グンタ「あぁそうか、あれも聞いてたんだよな」

ペトラ「イヤ、だってほんとのことだし……」

オルオ「お、お前なぁ! そういうのは思ってても本人に言うもんじゃないだろぉ!?」

ペトラ「だからオルオが居ないとこで言ったつもりだったんだけど」

オルオ「ぐっ……。エ、エルド、グンタ……こいつちょっと怖いんだが……」

エルド「そりゃお前……イラっと来てるからじゃないのか」

グンタ「良いじゃねぇか。陰口をこそこそ叩かれるよりは面と向かって言われる方がマシだろ?」

オルオ「それはそうかも知れねぇけどよ……」

ペトラ「まぁとにかくオルオ? もう変なことで文句言ったりするのやめてよね」

オルオ「わ……わかったよ」

ペトラ「まったく、本当にわかってるんだか……」

オルオ「あっ……そ、そうだペトラ。お前調査兵団に入りたいってのはマジか!?」

ペトラ「そのつもりだけど……それが何」

オルオ「イヤ……お前、俺があれだけ訊いても全然教えてくれなかったじゃねぇか……」

グンタ「? そうだったのか?」

ペトラ「あー……まぁ、うん」

エルド「そりゃまたなんでだ? 別に隠すことでもないだろうに」

ペトラ「ま、まだ決まってなかったのよ、オルオに訊かれた時は」

オルオ「最後に訊いたの昨日だったと思うんだが……」

ペトラ「良いでしょ別に! 迷ってたけど今日決めたの! 何か文句ある!?」

オルオ「イ、イヤ。そうか、今日決めたんだな。
    しかしそうか……お前も調査兵団か……」

ペトラ「な……何よ」

オルオ「だったらお前、もっと腕を磨かねぇといけないよな?
    今のままじゃとてもじゃないがやっていけないぞ。
    まぁ確かに最近は成績伸ばしてきてはいるけどよ、まだ全然ダメだろ?
    立体機動の使い方もまだまだだし、まぁ、なんだ。せめて俺と同じ程度にはならないとな」

ペトラ「」イラッ

グンタ「お前がこいつに話さなかった理由がわかった」

オルオ「しかしあれだ……お前が俺に並ぶなんてことは多分この先ないと思う。
    つまりお前は俺より弱いわけだから、だから、なんつーか……まぁ、うん。
    弱いヤツは強いヤツに助けてもらわないと生きていけねぇよな。だが甘えるんじゃねぇぞ?
    まずはお前がちゃんと自分で出来る努力をしてさ、それでもダメだった時は……あれ?」

エルド「ペトラならもう部屋に戻った」

グンタ「なんというか……お前の悪い癖だな。早く治した方が良いぞ」

オルオ「は……? え、何が……?」

エルド「確かに、今はあいつも我慢できてるようだがいつか爆発するかも知れんしな。
   っと……もうこんな時間か。俺達も部屋に戻ろう」

グンタ「そうだな」

オルオ「…………」

そうして俺達は部屋に戻り、消灯された。
しかし俺はなかなか寝付けなかった。
2人の言ってた言葉がずっと頭から離れなかった。

俺の悪い癖?
ペトラのヤツがいつか爆発する?
そりゃつまりペトラの怒りが爆発するってことだよな……。

……言い過ぎたか……。
最近のあいつに焦りを感じていたとは言っても、確かに大人気なかったかも知れん。
謝った方が良いか。
あいつのことはあまり怒らせたくないしな……。

うん……謝っておこう。
明日、素直に今日のことを謝ろう。
……将来の同僚と不仲になるのは御免だからな。

翌朝、食堂に行くといつもの席にペトラは座っていた。
……見たところ普通だな。
怒ってるようには……イヤ、駄目だ。
謝ることに決めたんだ。

オルオ「よ……よう、ペトラ」

ペトラ「あぁ、うん。おはよう」

オルオ「…………」

ペトラ「……何? また何か変なこと言うんじゃ……」

オルオ「て……訂正する」

ペトラ「は?」

オルオ「昨日の……お前が俺に並ぶことはないって言ったの、訂正するよ」

ペトラ「…………」

オルオ「お前なら、その……俺に並ぶことくらいは出来るかも知れねぇな……と、
    思い直したからさ……まぁ、なんだ、なんつーか……」

ペトラ「……イヤ、えーっと……」

オルオ「あれだ、だから……そう、将来は同僚になるんだし……。わ……悪かったよ」

ペトラ「……ぶふっ!」

オルオ「!? な、なんで!?」

ペトラ「あははははっ! 何? もしかして私が怒ったと思ったの?」

オルオ「は……!? で、でもだってお前……!」

ペトラ「っていうかどうしたの急に?
    謝ったりするなんてオルオらしくない。何かあったの?」

オルオ「イ、イヤ、それは……エルドやグンタに……」

ペトラ「言われて? ふーん……それで私が怒ってると思って反省したんだ」

オルオ「うっ……ま、まぁそんなとこだ」

ペトラ「オルオの性格がひねくれてるのは昔からでしょ?
   呆れることはしょっちゅうだけど、いちいちそんなことで怒ったりなんかしてたらもたないよ」

オルオ「そ、そうなのか……?」

ペトラ「まぁでも、たまにイラッとしてるのは本当だし、これを機に少しは改善……」

オルオ「くそっ、気にしすぎて損した気分だ……。しかしだとするとアレだなペトラ。
    お前はもう少し歯に衣着せた言い方を学んだ方が良いんじゃないか?
    昨日のお前の態度のおかげで誤解が生まれたわけだしさ。
    あんなことを続けてみろよ、相手が俺だったから良かったものの他の奴らなら……」

ペトラ「」イラッ

――そんなこんなで、ペトラとは無事『仲直り』できた。
あの後一発腹に食らいはしたが、とりあえず一件落着だ。

そして今、俺はペトラを連れて街を歩いている。
その目的は……

オルオ「何やってんだよペトラ! 早くしろよ! 出発しちまうぞ!」

ペトラ「わかってるってば。わかったから袖引っ張らないでよ、伸びちゃうじゃない!」

オルオ「急がねぇと見逃しちまうだろ! お前リヴァイ兵長の顔も知らないんだから、
調査兵団に入るんなら早めに見ておくべきだろ兵士的に考えて!」

ペトラ「それはそうだけど……!」

そう、今日は調査兵団の壁外遠征の日。
いつもは俺1人でも見に行くんだが、ペトラがリヴァイ兵長を見たことないってんで
今回は連れて行って見せてやることにした。

しかしやっぱり人が多い。
野次馬だけでなく兵団の先輩方もかなりの数居て、
この人数の中で兵長を見つけるのはなかなか……

オルオ「あっ……! オイ、居たぞ! あそこだ!」

ペトラ「えっ、どこ?」

オルオ「ホラあそこだよ! 真ん中の、ホラ! 見えるか!?」

ペトラ「! あの人が……」

オルオ「リヴァイ兵長ぉおお! 巨人共を蹴散らして来てくださぁああい!!」

ペトラ「うわっ!? ちょ、ちょっと、いきなり大声出さないでよ」

リヴァイ「…………」

ペトラ「っ!」

オルオ「あっ!? オイ、今こっち見たよな!? 俺を見たんだ! 兵長ぉおおおお!!」

ペトラ「……あれが、あのリヴァイ兵長……」

そうして調査兵団は壁外へと出て行った。
しかしその後もしばらく俺の興奮は続いた。
なんせあのリヴァイ兵長と目があったんだ。

兵長は俺の声を聞いてくれただろうか?
イヤ、聞いてくれたに違いない。
聞いてくれたから俺を見てくれたんだ。

エルド「……どうしたオルオ。随分機嫌が良いようだが」

オルオ「へへっ、そうか? そう見えるか? へへへへっ」

グンタ「なんだよ。何か良いことでもあったのか?」

オルオ「教えて欲しいか? んん? 
    あー、でも自慢になっちまうしなー、どうすっかなー」

エルド「そうだグンタ。こないだの兵法講義のことで質問があるんだが良いか?」

グンタ「あぁ。だったら部屋に戻ってノートを……」

オルオ「オイ!? もうちょっと訊いてくれたって良いだろ!?」

エルド「でもお前話したくなさそうだったし」

オルオ「そ、そんなことはねぇよ。
    お前らがどうしても知りたいってんなら、話してやらなくもねぇぞ……?」

エルド「イヤ、別にそんなに……」

オルオ「うっ……! な、なぁ、グンタ? お前は知りたいよな?」

グンタ「……ハァ……。あぁそうだな。聞かせてくれ」

オルオ「やっぱりな、聞きたそうな顔してると思ったんだよ!」

エルド(グンタ……良いヤツだな)

オルオ「ふふふっ、実はな、今日……」

ペトラ「リヴァイ兵長と目が合ったの」

オルオ「!?」

エルド「リヴァイ兵長って、あのリヴァイ兵長か?」

グンタ「なるほど……そりゃ確かに嬉しいかも知れんな」

オルオ「ペ、ペトラ! お前なんで言うんだよ!? 俺が自慢したかったのに!」

ペトラ「なんでって……イラッと来たから」

オルオ「!? お、お前……」

ペトラ「大体目が合ったなんて、そんなに自慢するようなことじゃないでしょ?」

オルオ「は!? なんでだよ、人類の英雄だぞ!?
    お前まだ兵長の凄さがわかってないのか!」

ペトラ「そうじゃなくて! 調査兵団に入ったら一緒に戦うことになるんだし、
    目が合ったくらいで大騒ぎしなくても良いでしょ、ってこと」

オルオ「!」

エルド「ははっ、そうだな。違いない」

グンタ「そりゃそうだよな。同じ兵団に属するんだから、
    目が合ったくらいでいちいち喜んでたらキリがねぇよ」

オルオ「お、おう……。そうだな、俺は将来リヴァイ兵長の右腕となる男……。
    あんな小さいことで大喜びするような男じゃないはずだ!」

ペトラ「……まぁ右腕かどうかは知らないけど」

エルド「そう言えばペトラ、なんでお前はこのことを知ってたんだ?
    自慢話の内容をよ。オルオから聞いたのか?」

ペトラ「実は私もその場に居たの。調査兵団に入るんならリヴァイ兵長の顔くらい
    知っておくべきだってオルオに無理矢理連れて行かれて」

オルオ「なんだよ、無理矢理ってことはないだろ?
    誘ったときお前も結構乗り気だったじゃねぇかよ」

ペトラ「それは、まぁ……有名人だし、凄い噂ばっかりだし……」

グンタ「で、どうだった? 実物のリヴァイ兵長はよ」

ペトラ「あ、うん。オルオほどじゃないにせよ、やっぱり実際に見ると感動したよ。
    リヴァイ兵長の話は何度も聞いたことあったから、『これがあのリヴァイ兵長か』って」

エルド「その気持ちはよく分かる。俺も初めて見た時はそうだった」

ペトラ「でもちょっとなんていうか、目つきが怖かったかな……?」

オルオ「バーカ、それが良いんだっての! あれが本物の戦士の目ってヤツだよ!」

ペトラ「そういうものかなぁ? でも、うん……実際に兵長や
    先輩達の姿を見て、調査兵団に入るのが楽しみになってきたかも」

オルオ「俺はずっと楽しみにしてるけどな!
    この調子で腕を磨いて、立派な兵士になって調査兵団に入ってやる。
    卒業まできっとあっという間だぜ。お前ら、俺に遅れを取るなよ!」

エルド「ははっ、心配するな。お前より上の成績で卒業してやるからな」

グンタ「成績にはそこまで拘りはないが、まぁ腕は磨くさ。人類に貢献するためにな」

今日はこのくらいにしておきます




楽しみなことを待つってのは長いようで、本当にあっという間だった。
そう、俺はずっと楽しみにしてたんだ。
調査兵団に入り、リヴァイ兵長と共に戦うことをずっと。
そしてリヴァイ兵長の右腕となることが俺の夢。
リヴァイ兵長のことを知ってから数年間、待ちに待ってようやく……
その夢へと指先が届く日がついにやってきた。

班長「オーイ、新兵集まれ! 制服が届いたぞ!」

オルオ「やった……! オイお前ら! ついにあのあれだぞ、自由の翼のあれだぞ!」

エルド「嬉しい気持ちも分かるが落ち着け」

グンタ「イヤしかし、実際興奮するぞ、これは……」

ペトラ「ついに私たちが、あの制服を……!」

班長「おーおー、そんなに喜んでくれるとは。こっちも配り甲斐があるってもんだ」

オルオ「どうだ、似合うか!?」

ペトラ「あははっ、うん似合ってる似合ってる。私は? どう?」

オルオ「へー、お前にしちゃなかなか悪く……」

ペトラ「」イラッ

オルオ「冗談だって! 似合ってる似合ってる!」

ペトラ「本当! ふふっ、もう素直に褒めれば良いのに!」

エルド「いつにも増してはしゃいでるなあいつら……」

グンタ「オルオはともかく、ペトラもあそこまではしゃぐとは少し意外だな」

エルド「ところでグンタ……どうだ、似合ってるか?」

グンタ「……ははっ、あぁ似合ってるよ」

オルオ「しかしなんというか……いよいよって感じがするよな。こいつを着るとさ」

ペトラ「本当に調査兵団に入ったんだ、って実感が湧いてくるよね」

オルオ「あれだけ憧れた自由の翼をついに俺達が背負うことになるんだ。
    壁外に出て巨人を狩りまくるのが待ち遠しいぜ!」

ペトラ「私たち新兵が壁外遠征に参加できるのはまだ少し先なんだよね?
    それまでにもっと訓練して、もっと腕を磨かなきゃ」

オルオ「あぁ! だがまさか調査兵団に入ってまでお前やエルド達と同じ班になるとは思わなかったぜ」

ペトラ「本当に。まぁこの班編制もいずれは変わるんだろうけど、
    しばらくは今までみたいに4人で大体一緒に居ることになるね」

オルオ「……へっ、良いかペトラ? 嬉しい気持ちは分からんでもないが、
    だからと言っていつまでも訓練兵気分が抜けねぇようじゃ困るんだからな!」

ペトラ「…………」

オルオ「俺達はもう訓練兵のガキンチョじゃない。自由の翼を背負った調査兵団なんだぜ!」

ペトラ「はいはい分かった分かっ……あっ!」

オルオ「なんだ? どうしたペトラ」

ペトラ「あそこ、見て!」

オルオ「ッ……!」

ペトラの指す方に目を向けると、そこには2匹の馬に乗った、2人の調査兵が。
その人達の顔を見た瞬間俺は居ても立っても居られなくなり、走り出してしまった。

ペトラ「えっ、オルオ!? 待って……!」

ハンジ「いやー、今期も例年通りの数が入団してくれて良かったね」

リヴァイ「まぁな……。だが人材が不足していることには変わり……」

オルオ「は、初めまして! リヴァイ兵士長、ハンジ分隊長!」

ペトラ「ちょ、ちょっとオルオ! なんでそういきなり……!」

リヴァイ「…………」

ハンジ「えーっと。あぁ、君達もしかして新兵?」

オルオ「はっ! 今期に調査兵団に入団しました! オルオ・ボザドと言います!」

ペトラ「お、同じく! ペトラ・ラルです!」

ハンジ「へぇー、新兵なのにリヴァイはともかく私のことまで知ってるんだね」

オルオ「はい! 勉強しました!」

ハンジ「あははっ、なかなか勉強熱心だ。関心関心」

ハンジ「ま、それはともかく……2人ともようこそ、調査兵団へ」

そう言って、ハンジ分隊長は馬から降りる。
それと一緒にリヴァイ兵長も降り……

ペトラ「……えっ?」

オルオ「あ……あれ?」

リヴァイ「……なんだ」

オルオ「い、いえ! その……お会いできて光栄です! リヴァイ兵長!」

ハンジ「はは、やっぱり人気だねリヴァイ。えーっと、オルオだっけ?
    君はもしかして、リヴァイに憧れて調査兵団に入ったクチかな?」

オルオ「……! は、はい! リヴァイ兵長の武勇伝はかねがね……」

リヴァイ「ちっ……」

オルオ「!?」

オルオ「あ、あの……自分が何か……?」

リヴァイ「オイ、ガキ共。ここがどれだけ危険な兵科かは分かってるよな?」

オルオ「そ、それはもちろん!」

リヴァイ「そうか。それは結構なことだが……初陣で死ぬ覚悟くらいはしておくんだな」

ペトラ「っ……!」

ハンジ「あっ、リヴァイ……まったく。 あはは、ごめんね2人とも。
    ただまぁ、彼の言うことも間違いじゃない。リヴァイと少しでも長く一緒に戦いたければ、
    それなりの覚悟と努力はしておいた方が良いよ。それじゃっ!」

オルオ「は、はい……」

ペトラ「失礼します……」

そうして、ハンジ分隊長はリヴァイ兵長の後を追うようにしてその場を去る。
俺とペトラはしばらく、その後姿を呆然と眺めていた。

エルド「……オイオイ、お前ら随分思い切ったことをするな」

オルオ「! お、おう……」

グンタ「いくらリヴァイ兵長が好きだからって、まさかいきなり話しかけに行くとはよ」

ペトラ「あ、イヤ、それはオルオが勝手に……私もびっくりしたよ」

エルド「しかしあれだな……リヴァイ兵長は意外と小柄なんだな。
   ペトラと大して変わらないように見えたが」

グンタ「あぁ。俺も馬に乗った姿を遠目にしか見たことなかったが、
    あそこまで小柄だとは思わなかったぜ」

ペトラ「うん……なんていうか、ちょっとイメージと違った。
   背丈もだけど、もうちょっと優しい人かと……」

エルド「俺達は会話の内容までは聞こえなかったが、そんなに厳しい人だったのか?」

ペトラ「厳しいっていうか……怖い人っていう感じが」

グンタ「……? オイ、オルオ。さっきから珍しく黙ってるが、お前はどう思ったんだ」

オルオ「待ってくれ……今俺の中の兵長のイメージを調整中だ……」

エルド「なるほど……こいつもそれなりにショックを受けたらしいな」

グンタ「怖い人、か。たまたま機嫌が悪かったとか、そんなんじゃないのか?」

ペトラ「そうだったのかな? だったら良いんだけど……」

翌朝

エルド「よぉ、ペトラ」

ペトラ「うん、おはよう……あれ? オルオ、目の隈どうしたの?」

オルオ「まぁ、ちょっとな……」

グンタ「どうも昨日はよく寝られなかったらしくてな」

ペトラ「……もしかして、兵長のイメージが崩れたせいで?」

オルオ「っ……くそっ、まだだ。まだ、たまたまご気分が優れなかっただけの可能性が……」

翌朝

エルド「よぉ、ペトラ」

ペトラ「うん、おはよう……あれ? オルオ、目の隈どうしたの?」

オルオ「まぁ、ちょっとな……」

グンタ「どうも昨日はよく寝られなかったらしくてな」

ペトラ「……もしかして、兵長のイメージが崩れたせいで?」

オルオ「っ……くそっ、まだだ。まだ、たまたまご気分が優れなかっただけの可能性が……」

なんだよこれ……ふざけんなよ
ほんとなにこれ……

連投すみませんでした

エルド「あ……オイ、噂をすれば……」

オルオ「!」

リヴァイ「…………」

オルオ(お前ら、粗相のないようにしろよ!)

グンタ(わかってるよ)

エルド「おはようございます、リヴァイ兵長!」

グンタ「おはようございます!」

リヴァイ「……あぁ」

オルオ「お、おはようございます!」

リヴァイ「……オイ、お前」

オルオ「はいっ!?」

リヴァイ「シャツのその染みはなんだ」

オルオ「こ、これはその……昨日、食事をこぼしてしまいまして……」

リヴァイ「そのままほったらかしか……きたねぇな」

オルオ「も……申し訳ありません!」

リヴァイ「てめぇの身なりくらい人に言われなくても整えろ」

オルオ「も、申し訳ありませんでした! 以後、き、気を付けます!!」

グンタ(リヴァイ兵長……汚れとか気にする方なんだな)

ペトラ(せ、清潔なのは良いことだけど、でも……)

リヴァイ「…………」

エルド(っ……! オイ、ペトラ何してる! お前だけ挨拶してないぞ!)

ペトラ「えっ、あっ……! おっ、おはようございますっ!! リヴァイ兵長っ!!」

リヴァイ「……うるせぇな。耳元でいきなり大声出すんじゃねぇよ」

ペトラ「えっ!? あ、もっ……申し訳ございませんっ!」

その場に固まる俺達を尻目に、兵長はそのまま歩き去っていく。
しかしまさかシャツの染みを怒られるとは思わなかった。
ちらと横を見ると、他の3人の表情は強張っている。
多分俺も同じような顔になっているんだろう。

エルド(ペトラの言ってたことがよく分かったぜ……)

グンタ(これは確かに……)

ペトラ(怖いよぉ……)

と、その時。
そのまま過ぎ去るかと思っていた兵長が、ふいにぴたりと足を止めた。
そして俺達の方を振り向き、

リヴァイ「オイ、お前ら。何をボサっとしてる」

一同「は、はい!?」

リヴァイ「時間も守れねぇのか……もうすぐ朝食が始まるだろうが」

一同「も、申し訳ありませんッ!! 今行きますッ!!」




その日の夜、俺達は1つのテーブルに集っていた。
話のネタはもちろん、リヴァイ兵長についてだ。

ペトラ「ね、どうだった2人とも。私の言った通りだったでしょ?」

エルド「あぁ、確かにありゃあ怖い」

グンタ「それにしてもずいぶんきっちりした性格の人のようだな。
    他人の服の汚れを気にしたり、時間を厳守したりよ。
    いや、もちろんそれは良いことなんだがなんというか……」

エルド「イメージと違ったな。俺はもう少し、型にははまらないような人だと思っていた。
    お前はどうなんだオルオ?」

オルオ「ま、まだ分からねぇよ! 兵長とまともに会ったのは2回目だぞ!?
    そんなもんで兵長のことが分かるはず……」

ハンジ「やぁやぁ新兵諸君。仲良く揃ってリヴァイ兵長の噂話かな?」

オルオ「え!? ハ、ハンジ分隊長!?」

グンタ「も、もしかして聞いて……?」

ハンジ「ちらっとしか聞こえなかったけど、兵長がイメージと違うーとか
    そんな話をしてたんじゃないかな? どう、当たり?」

エルド「いえ、それはその……!」

ハンジ「あははっ、やっぱりそうか! 大丈夫だよ、そんなに焦らなくても。
    リヴァイに憧れてここに来る子は大体そうなるからさ」

ペトラ「その……リヴァイ兵長って、どんな方なんですか?」

オルオ「!? オイ、ペトラ! お前そんな直接……!」

ハンジ「良いよ良いよ、私の知ってるリヴァイについて簡単にだけど教えてあげよう」

グンタ「その……ここ、座りますか?」

ハンジ「ん? あぁ大丈夫、やりたいこともあるしすぐ行くから。
    まぁそうだね。リヴァイのことを簡単に言ってしまえば、神経質なおっさんってとこかな」

ペトラ「……えっ!?」

ハンジ「潔癖だったりもするしね。だからその辺は気を付けておいた方が良いよ。
    細かいとこをいちいち突っ込んで文句言ってきたりするから」

エルド「は、はぁ……」

ハンジ「あぁ、もちろん良いところだってあるよ。
    まぁでも、良いところについては君達で見付けてあげて!」

オルオ「え! お、教えては……?」

ハンジ「悪いけど、また今度ね。リヴァイより巨人の方を優先させたいからさ!」

ペトラ「き、巨人の方……?」

グンタ「ではやりたいことと言うのは、巨人の研究ですか」

ハンジ「そんなとこだね。とは言っても、今までのデータの確認やら整理やらだけど」

エルド「大変そうですね……俺達に手伝えることはありますか?」

ハンジ「気持ちだけ受け取っておくよ。
    巨人たちとは私自身がしっかり向き合いたいからね!
    その方が感動も興奮も大きいってものさ!」

オルオ「そんなにすごいんですか……。巨人のデータというのは、一体どんなものが?」

ハンジ「ん?」

オルオ「え? えっと、今までには巨人に関するどんなデータが集まってるんでしょうか」

ハンジ「聞きたい? ……みんなも聞きたい?」

ペトラ「聞かせてもらえるんですか? だったら少しでも聞いておきたいです!」

エルド「はい、敵のことはよく知らなければなりませんし」

ハンジ「そっかぁ、聞きたいかぁ……。ここ、座っても?」

グンタ「? それはもちろん……しかしお仕事の方は良いんですか?」

ハンジ「あー良いの良いの、いつでも出来ることだから。
    さてそれじゃあ、聞かせてあげよう。
    今まで巨人達のどんな素晴らしいデータが集められてきたのかを……」

そして俺達は知ることになる。
ハンジ分隊長に巨人のことを訊くなんてことは絶対にしてはいけない、と。




オルオ「あっ、リ、リヴァイ兵長……お、おはようございます……」

ペトラ「おはよう、ございます……」

リヴァイ「……お前ら揃いも揃ってなんだその面は」

エルド「いえ、その……ハンジ分隊長から、お話を……」

グンタ「巨人について、夜通し……」

リヴァイ「ちっ、あのクソメガネ……前にもう少し厳しく言っておくべきだったか」

ペトラ「え、その……前にも……?」

リヴァイ「良い教訓になっただろ。まぁ少しは同情するが、さっさと気合を入れなおせ。
     一晩寝てないぐらいで腑抜けた訓練をするんじゃねぇぞ、良いな」

オルオ「は、はいっ……!」

やっぱりリヴァイ兵長は厳しいと、そう思った。
それからハンジ分隊長は変人だということが分かった。
巨人の研究に熱意を注いでいるとは聞いていたが、まさかあんな人だったなんて……。

そして、数ヶ月が経った。
日々の訓練と日常の中で、何度も兵長と接する機会はあった。
その中で俺達は、ハンジ分隊長から聞いた話と合わせながら兵長のイメージを再構築していった。

エルド「現物のリヴァイ兵長は本当にハンジ分隊長の言うように……神経質な人のようだな」

グンタ「あぁ。それに粗暴で……正直怖い」

ペトラ「まさかあんなに近寄りがたい人だったなんて……」

オルオ「そ、そんなの関係ねぇよ! リヴァイ兵長が人類最強なのには違いないだろうが!」

ペトラ「それはそうだけど、>>540
近寄りがたい人だっていうのも違いないことだよ……」

オルオ「うっ……ま、まさかお前ら、兵長に幻滅したとか言うんじゃないだろうな……」

やっぱりリヴァイ兵長は厳しいと、そう思った。
それからハンジ分隊長は変人だということが分かった。
巨人の研究に熱意を注いでいるとは聞いていたが、まさかあんな人だったなんて……。

そして、数ヶ月が経った。
日々の訓練と日常の中で、何度も兵長と接する機会はあった。
その中で俺達は、ハンジ分隊長から聞いた話と合わせながら兵長のイメージを再構築していった。

エルド「現物のリヴァイ兵長は本当にハンジ分隊長の言うように……神経質な人のようだな」

グンタ「あぁ。それに粗暴で……正直怖い」

ペトラ「まさかあんなに近寄りがたい人だったなんて……」

オルオ「そ、そんなの関係ねぇよ! リヴァイ兵長が人類最強なのには違いないだろうが!」

ペトラ「それはそうだけど、近寄りがたい人だっていうのも違いないことだよ……」

オルオ「うっ……ま、まさかお前ら、兵長に幻滅したとか言うんじゃないだろうな……」

エルド「幻滅とまではいかないが……」

グンタ「元のイメージが良すぎたんだ。なんせ『完全無欠の英雄』だからな」

ペトラ「まぁでも確かに……優しくないからこそ、たくさん巨人を狩れるのかも」

エルド「なるほどな……。周りに厳しく、非情に徹することができるから強いってのもあるかも知れん」

オルオ「い、良いじゃねぇかそれでよ……。
    どんな時も冷静に、非情に戦えるってのは凄いことだろ!」

ペトラ「冷静に、非情に……。一体どんな戦い方をするんだろ」

グンタ「どうだろうな……早ければ次の壁外遠征で分かるだろう」

オルオ「そ、そうか。次からはいよいよ、俺達も参加できるんだよな」

ペトラ「それが私達の初陣……か」

エルド「……兵長の戦いぶりを見るのも良いが、まずは……死なないようにしねぇとな」

――そしてついに、その日はやってきた。
俺達新兵が初めて参加する壁外遠征……俺達の初陣だ。

エルド「……いよいよだな」

グンタ「あぁ……。流石に緊張してきたぜ」

オルオ「オ、オイ、ペトラ……お前顔色が悪いんじゃねぇのか?」

ペトラ「オ、オルオこそ、手、震えてるじゃない……」

オルオ「震えてないんだが!? ふ、震えてたとしても武者震いってヤツなんだが!?」

なんて、そんな会話をする時間もほとんどなく。
門が開き、そして団長の合図と共に、俺達にとって初めての巨人の領域への進行が始まった。

オルオ「っ……! や、やってやる! 巨人共を、殺しまくってやる!!」

今日はこのくらいにしておきます
なんか色々ミスってすみませんでした




オルオ「! 今度は左か……」

壁外に出てどのくらい経っただろうか……。
今のところは順調に、予定通りに進んでいる。

通常の巨人との接触は上手く避けられているし、
奇行種も外側の先輩方が上手く倒してくれている。
ここまで戦闘の機会が訪れないのは、予定通り。
……しかし、ここからは……。

班長「見えたぞ、市街地だ!!」

オルオ「っ……!」

班長「ここからは戦闘は避けられん! お前ら新兵にも戦闘に参加してもらうことになる!
   建物が多いから立体機動には有利だが、気を引き締めていけよ! 死ぬんじゃねぇぞ!!」

オルオ「は、はい!!」

いよいよ、この時が来た。
初めて巨人と戦う、その瞬間が……!

調査兵「早速居たぞ! 前方に2体!3m級と4m級!」

オルオ「っ!」

見ると確かに、小型の巨人が2体前方に見える。
周りの建物と比べると、随分小さい。

オルオ「へっ……なんだ3~4m級か! その程度なら大したこと……」

と、そこまで言いかけて気付く。
……おかしい。
たかが3m級だろ?
人間だって、でかいヤツは2mくらいあるんだ。
だから人間と大して変わらないサイズのはずなのに……。

ある程度の距離まで近付いて、わかった。
でかい。
なんだよあれ。
3mって、あんなにでかかったのかよ……!

班長「今だ!! 立体機動に移れ!!」

オルオ「ッ……はっ!!」

班長の合図で全員馬から飛び降り、建物の上へと移動する。
馬は巨人の横を素通りし、そのまま去っていった。

オルオ「に、人間以外には興味ねぇってのはマジなんだな……うッ!?」

調査兵「目視できる巨人は7体! いずれも10m級以上!!」

班長「ここからは各人が判断して動け! 良いな!」

そうして、班長達は巨人の方へと飛んでいく。
ま、まずい、ぼさっとしてると1人で取り残されちまう……
と思ったと同時に、

エルド「オイ、オルオ! 呆けてる場合じゃないぞ!」

グンタ「巨人がでかいのは分かりきってたことだろ!」

オルオ「お前ら……! う、うるせぇな分かってるよ!」

ペトラ「それより私達も早く行こう! 巨人の数が多いところに援護に行かなきゃ!」

オルオ「っ……そ、そうだ。俺はあいつらを狩らなきゃいけないんだ。
    そうだ、リヴァイ兵長みたいに……!」

グンタ「やる気が出てきたのは良いが無茶は……。ッ!? 下だ!! 避けろ!!」

オルオ「!?」

グンタの掛け声で、全員が反射的にその場を離脱する。
その瞬間、巨大な手が俺達の居た場所を叩き潰すように覆った。

オルオ「うぉおッ!?」

ペトラ「ぐっ……あ、危なかった……!」

グンタ「7m級、ぐらいか!? この野郎いつの間に……!!」

エルド「建物の影に隠れて居やがったのか……!」

グンタ「どうするエルド!? 先輩方はみんなでかい奴らの方へ行っちまったぞ!」

エルド「俺達でこいつをやるんだ! それしかない!」

オルオ「くそっ……エルド、グンタ! 離れちまったが今そっちへ……」

エルド「いや待て! 正面の俺達が注意を引きつける!
    オルオかペトラ、どちらかが背後から仕留めてくれ!」

オルオ「っ! そうか、確かにこの位置なら……! 
    ペトラ、こいつは俺がやる! お前はそこで待機しろ!」

ペトラ「わ、わかった!」

よし、やってやる!
こいつが俺の獲物第一号……

 「や、やめろぉおおおおおッ!!」

オルオ「ッ……!? ひ、悲鳴!? どこから!?」

ペトラ「今のまさか……!」

俺が巨人に向けてアンカーを射出しようとした時、まったく別の方向から悲鳴が聞こえた。
そしてその悲鳴が聞こえた瞬間、ペトラは向きを変えて、

ペトラ「わ、私は向こうの援護に向かう! その巨人はみんなに任せた!」

オルオ「あっ!? オ、オイ、ペトラ!?」

グンタ「くそっ! 今の悲鳴、まさかやられたのか……!?」

エルド「分からん、しかし……! オルオ! お前も向こうの援護に向かえ!!」

オルオ「で、でもお前らは……!」

エルド「ペトラを1人にする方が危険だ! 早く行け!!」

オルオ「くっ……わかった! 頼んだぞ!!」

そう言い残し、俺はペトラの後を追った。
俺達は恐らく全員、さっきの悲鳴の主に気付いている。
高確率でアレは新兵……つまり俺達の同期の1人だ。
顔も思い浮かぶ。

同じ釜の飯を食った仲間の悲鳴だからこそペトラは焦って援護へ向かい、
そして俺もそいつを助けなければならないと強く思い、今こうして向かっている。

オルオ「オイ、ペトラ! 場所はわかってるのか!?」

ペトラ「オルオ! うん、大体の方向は……あっ! い、居た、あそこ!!」

ペトラ「ッ……あれ、4m級……!? まさか4m級一体に!? なんで……!」

オルオ「そんなこと考えてる場合じゃねぇだろ! まずはあいつを助けるのが先だ!
    お前が囮をやれ! 俺が仕留める!」

ペトラ「わ、わかった……頼んだよ!」

そうして、まずは先を行くペトラがそのまま4m級の前を飛んで注意を引き付けた。
それを確認して俺はまっすぐ巨人に向かって飛び、

オルオ「うぉおおおお! 死ねぇえええ!!」

ペトラ「っ! や、やった!」

オルオ「はぁ、はぁ……どうだ! クソッタレ!!」

ペトラ「それよりオルオ! 彼は……!」

そう言って、ペトラは巨人に襲われていた奴の元へ降り立った。
俺も少し遅れてそいつの様子を見に降りる。

新兵「ぁ、ぅ……」

ペトラ「っ……酷い……」

オルオ「だ、だけどまだ息はあるよな……!?」

そう、まだ生きてるし、意識もあるみたいだ。
しかし……どう見ても戦える状態じゃない。

オルオ「な、なんでだよ……! お前、4m級なんかに
    やられるようなヤツじゃねぇだろうが! なのになんで……」

ペトラ「オルオ!!」

オルオ「ッ!?」

何が起こったか分からなかった。
一瞬遅れて、突然ペトラに体当たり……イヤ、飛び付かれたということが理解できた。
そしてさらにその一瞬後、さっきまで俺が居たところに、でかい影が飛び掛った。
それでようやく分かった。
3m級が建物の影から俺に襲い掛かり、ペトラが間一髪で助けてくれたということが。

オルオ「あ、危ねぇ……! すまんペトラ、助かった……!」

ペトラ「お礼はあと! それより早く彼を屋根の上に……」

オルオ「!? 後ろだ!!」

ペトラ「なっ……くっ!!」

オルオ「っ……! 大丈夫かペトラ!!」

ペトラ「だ、大丈夫、なんとか避けられた。でもなんで、いつの間に……!?
    さっきまで巨人なんて居なかったはずなのに、なんで……!」

オルオ「し、知るかそんなこと! とにかく一旦離脱だ! 
    俺が注意を引くからその隙に、早くそいつを屋根の上……」

そこまで言って絶句した。
巨人は……2体なんかじゃなかった。

オルオ「う、そだろ……ま、まさか! こいつら、全部……!」

ペトラ「た……建物の影に、隠れてたって言うの……!?」

気付けば、俺達は大量の巨人に囲まれていた。
そうか……そうだ。
この市街地は建物が多くて立体機動には適している……。
だが建物が多いってことは、死角が多いってことだ……!
高所を飛んでる間は良いかも知れんが、
低所を飛んだり、こんな風に地面に降りたりすると……

新兵「ぅ……ぁ……」

オルオ「っ……!」

やっとわかった……。
こいつの怪我は、4m級1体にやられたんじゃない。
恐らく低所を飛んでいて、そして……建物の影から現れた大量の巨人にやられたんだ……!

俺もペトラも、そのことに気付かなかった。
そして判断が遅れた。
そのせいで今俺達は3人とも、逃げ場を失っている。
3~7m級の、様々な大きさの巨人たちに……完全に包囲されている。

オルオ「ぁ、あ……」

どうする、どうする、どうする……!?
建物にアンカーを刺して離脱する?
無理だ、巨人との距離が近すぎる。
ワイヤーでも本体でも簡単に掴まれちまう。

こいつらを全部倒す?
それとも一体だけでも倒して離脱する?
無理だ、数が多すぎる。
とてもじゃないが、たった2人でなんとかなる状況じゃない……!

オルオ「く、るな……来るな、来るなぁあ……!」

ペトラ「ぃ、ぃぁ、いやぁっ……!」

俺達は後ずさりすることすら出来ず、2人揃って地面に座り込んでしまった。
体に力が入らない。
ただ、目の前に迫る巨大な手を濁った視界で眺めることしか……。

そしてとうとう、視界全てが真っ黒な影に覆われた……次の瞬間。
その黒い影が突然消え去った。

オルオ「……え」

俺とペトラ、それぞれに一番近く迫っていた巨人が2体ほぼ同時に倒れたのだと、すぐにわかった。
しかしわかったのはそれだけ。
一体なぜ突然巨人が倒れたのか……それを理解するより早く、周りの巨人が次々と倒れていく。

そして一番でかい7m級が倒れた時。
倒れたそいつの上に見えた……自由の翼。
それを見て、初めて理解できた。

リヴァイ「オイ……そいつは無事なのか」

オルオ「リ、ヴァイ……兵長……」

無意識に出た俺の呼びかけには答えず、
兵長は巨人の死体から飛び降りて俺達の目の前に立つ。

リヴァイ「さっさと答えろ。そこに倒れてる新兵は生きてるのか、どうなんだ」

ペトラ「あ……い、生きて、ます……」

リヴァイ「……そうか」

そう呟くと、兵長はそいつの横に屈みこむ。
そして傷に触れないように抱き上げた。

新兵「へ、い、ちょう……」

リヴァイ「喋るな。……お前らはいつまでそこに座り込んでる。早く立て」

兵長はそう言い、俺達に視線を下ろし……そして気付いた。

リヴァイ「……お前ら……漏らしたのか」

オルオ「う、うぅ……」

ペトラ「っ……ひぐっ」

リヴァイ「…………」

気付かれた。
よりによって漏らしたことを気付かれた……。
もう……マトモに兵長の目を見ることが出来ない。

と、そう感じたのと同時に、リヴァイ兵長の方が俺達から視線を外した。
しかし単に逸らしたのではなく、何かに気付いてそちらを向いたという風に見えた。
釣られて俺達もその目線を追う。
するとその先には……

ペトラ「ひっ!? ま、また、巨人……!」

リヴァイ「ちっ、数が多いな……。一旦屋根の上に登るぞ!」

オルオ「あ、えっ……」

リヴァイ「何してる……さっさと立て! 死にてぇのか!」

オルオ「っ……!」

兵長に怒鳴られ、俺達は慌てて立ち上がろうとする。
しかし……

ペトラ「は、はい、あれ? えっ……な、なん、で……」

オルオ「あ、足が……なんで、ク、クソッ……!」

リヴァイ「……腰まで抜けやがったのか」

そう呟くと兵長は……俺達に背を向け、
そして俺達2人を残して屋根の上へと飛んだ。

ペトラ「へ……兵、長……」

オルオ「ハ、ハハ……そりゃ、そうだ……」

……見捨てられた。
俺達は兵長に、見捨てられた。
当然だ。
あのリヴァイ兵長のことだ、心底幻滅したに違いない。
兵士のクセに泣きながらションベン漏らして腰まで抜かすヤツなんか必要とされるはずがない。
俺達はリヴァイ兵長に……見捨てられたんだ。

ペトラ「ぅっ、ぇぐ、ひぐっ……」

俺達がうなだれて泣いている間にも、巨人の足音はどんどん近付いてくる。
腰が抜けた状態で立体機動なんて出来るわけがない。
もうあと数十秒程度であの足音はここまでたどり着き、でかい手で掴まれて……

オルオ「ッ!?」

ペトラ「えっ……!?」

リヴァイ「ちっ、重てぇな……。掴まってろ、飛ぶぞ」

そうして兵長は、俺とペトラを抱えたままアンカーを射出し、屋根の上へと飛ぶ。
……泣いて腰を抜かしたションベンまみれの俺達を抱えて。

屋根の上に降り立つと……そこにはエルドとグンタが居た。

エルド「へ、兵長! その……」

リヴァイ「お前らはこの2人を屋根の中央まで移動させろ。
そこなら安全のはずだ。もうでかいヤツは片付けたからな」

グンタ「は、はい!」

オルオ「……ぁ……」

その時になってようやく俺は……実感を持って現状を理解した。
そして、情けなさやら恥ずかしさやらその他色々な感情がごちゃまぜになって、

オルオ「ぅぐっ……ぐすっ」

ペトラ「ぇっ、ひぅっ」

リヴァイ「……小便漏らしたぐらいでピーピー泣くな。情けない」

オルオ「え……」

リヴァイ「小便なんざいくらでも漏らせ。その程度でいちいち泣くな。
     泣くなら帰っていくらでも泣け。恥じるなら帰っていくらでも恥じろ。
     それとも文字通り死にたいくらい情けないか? 
     だったらいつまでもそこで腰を抜かして泣いていろ。そうすれば簡単に死ねる」

ペトラ「っ……!」

リヴァイ「それが嫌ならさっさとそのだらしねぇ足腰を立たせろ」

オルオ「はっ、はい……!」

リヴァイ「……俺は下を片付けてくる。間もなく増援が来るはずだ。
     それまでには二本足で立っておくんだな。可能なら戦闘にも参加しろ」

そうして兵長はアンカーを射出し、あっという間に姿を消した。

エルド「兵長、1人で大丈夫だろうか……大丈夫なんだろうな」

グンタ「あぁ……あの戦いぶりを見ても兵長を心配できるやつが居たら見てみたいくらいだ。
    それよりさっさと中央に移動するぞ!」

オルオ「あ、あぁ……」

グンタ「! もう立てるのか?」

ペトラ「な……なんとか。まだちょっと、震えてるけど……」

エルド「そりゃ良かった。……っていうかお前ら……漏らしたんだな」

オルオ「っ……! だ……誰にも言うなよ」

エルド「……あぁ」

ペトラ「ぜっ、絶対だよ! 言わないでよ、絶対!」

グンタ「わかったから早く中央に行け!」

エルド「――よし。一先ずはこれで安心……。っ!」

ハンジ「良かった! 無事なようだねみんな」

グンタ「ハンジ分隊長! それに他の先輩方も……!」

ハンジ「っと、この子はちょっと手当てが必要かな。君、大丈夫?」

新兵「……は、い……」

ハンジ「なら良かった。誰かこの子に手当てを!」

調査兵「はっ!!」

ハンジ「……ごめんよ、長い間この場を新兵だけに任せっきりにしてしまって。
    私達の方も数が多くて手こずってしまったんだ。それで、この付近にまだ巨人は居る?」

エルド「さっきまではかなりの数が居ましたが……既に兵長があらかた片付けてしまいました」

ハンジ「なるほど、そこは流石リヴァイと言ったところかな。
    まぁそれでもまだ、チラホラ居るようだし……どう? 君達はまだ戦闘に参加できそう?」

グンタ「俺とエルドは大丈夫ですが、しかし……」

オルオ「は、はい! 行けます!」

ペトラ「私たちも参加します! 大丈夫です!」

ハンジ「そうか、心強いね。なら行こう! 出来るだけ誰か先輩と一緒に行動するんだよ?」

オルオ「はいっ!!」

グンタ「……オイオイ、お前ら本当に大丈夫なのか」

ペトラ「大丈夫……もうあんな情けないところなんて見せられないよ……!」

グンタ「そうか、元気になったみたいで何よりだ」

エルド「……そりゃ結構だが、俺の上だけは飛んでくれるなよ」

オルオ「は? なんで……。ッ!!」

エルド「頭からションベンをひっかけられるのは勘弁……」

ペトラ「やめろよエルドぉおおおおおお!!」

オルオ「てめぇイジる気だな!? 
    それでしばらくイジる気だろ!? チクショオオオ!!」

グンタ「イジらねぇから任務に集中しろ!! ……だが俺の上も飛ぶなよ!?」

オルオ「チクショオオオオオオ!!」

ハンジ(へぇ……大した子達だ。この状況であんなに元気で居られるとはね)

今日はこのくらいにしておきます




オルオ「くっ……ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……」

ペトラ「ハァ、ハァ……!」

班長「大丈夫かお前ら! あんまり張り切り過ぎると体力の方がもたねぇぞ!」

ペトラ「いえ、大丈夫です……まだやれます!!」

班長「そ、そうか。なら良いんだが……おっ!」

エルド「煙弾……! 撤退命令だ!」

グンタ「ってことは、生き残れたのか……!」

班長「オイオイ、そいつはまだだ。帰り道にも当然巨人は現れるんだからな!
   壁内に戻るまでが壁外遠征だ! 気ぃ抜くんじゃねぇぞ!」

オルオ「は、はいっ!!」

――しかしそれ以降、俺達が巨人と戦うことはなかった。
行きよりも人数は減ったが索敵はしっかりと機能し、上手く巨人との戦闘を避け続け、
そしてついに……壁内へと辿り着くことができた。

オルオ「い、生き残ったんだよな、俺達、生き残ったんだよな!」

ペトラ「生き残った……本当に、生き残れた……!」

リヴァイ「…………」

オルオ「あっ……リ、リヴァイ兵長!」

ペトラ「あ、あの、見苦しいところをお見せしてしまって、その……」

リヴァイ「あの後、戦闘には参加したのか」

オルオ「は、はい!」

リヴァイ「……そうか」

リヴァイ「聞いたが……お前ら、同期を助けようとしてああなったらしいな」

オルオ「! は、はい……」

リヴァイ「なぜ自分達が死に掛けたかは分かっているか」

オルオ「も……もっと早くに、他の巨人の存在に気付いていれば……」

リヴァイ「……仲間を助けたい気持ちは当然だし実際に救えりゃ立派なことだが、
     判断を間違えれば仲間はおろかてめぇの命すら失くすことになる」

ペトラ「はい……」

リヴァイ「お前らは同期を発見した時点で他に巨人が居ることを想定しておくべきだった。
     そしてその上で判断するべきだった……そいつを助けるかどうかをな」

オルオ「た、助けるかどうか……?」

ペトラ「それってつまり……!」

リヴァイ「自分1人が救える命には限りがある……。
     それを分かってないと、自分も仲間も命を落とす。このことを覚えていろ」

ペトラ「っ……」

リヴァイ「……お前らもだ」

オルオ「え?」

そう言って兵長は、俺達から視線をずらす。
その先を追うとそこには、少し離れて立っているエルドとグンタが居た。

リヴァイ「今の話は聞いていたよな?」

エルド&グンタ「は、はい!」

リヴァイ「……とにかくそういうわけだ。以後気を付けろ」

兵長は俺達全員に向かって、そう言った。
そして背を向け立ち去る。
……かと思えば、立ち止まり、首だけ振り向いて言った。

リヴァイ「お前ら2人はとっとと体と服を洗って来い」

ペトラ「っ!」

オルオ「は……はい」

そうして今度こそ兵長は、その場を去った。
残された俺達はしばらく兵長の背中を目で追った後、顔を見合わせ……

ペトラ「……洗ってこよっか」

オルオ「あぁ……」




オルオ「……よぉ、遅かったな」

ペトラ「ん……」

エルド「はぁ……しかし疲れた。今になってどっと体が重くなってきやがった」

グンタ「初陣の後だからな。だが本当に……よく生きて帰れたもんだぜ。俺達4人とも……」

エルド「特にお前ら2人だ。本当にもう駄目かと思ったぞ」

ペトラ「そう言えばあの時、エルド達はいつから……?」

グンタ「巨人を倒して駆けつけた時には、もうお前らは腰を抜かしてたよ」

オルオ「お、俺らが食われそうになってんの黙って見てたのかよ!?」

エルド「そんなわけねぇだろ。当然助けに行こうとしたさ」

オルオ「お、おう、そうか……」

エルド「だが突然後ろから声がかかって引き止められたんだ。
    『お前らはそこで待機しろ、俺が行く』ってな。それが兵長だった」

グンタ「で、返事をする間もなく飛んで行って、
    あっという間に巨人どもを蹴散らしたってわけだ」

ペトラ「2人を引き止めたって、もしかして……」

エルド「……あぁ。あのまま行ってたら、俺らもやばかったかも知れん」

グンタ「それで、さっきの説教だったんだよな。
   『判断を間違えると仲間も自分も死ぬ』ってのはあの時の俺らにも言えることだったんだよ」

ペトラ「ねぇ、3人とも……あれ、どう思った?」

グンタ「『あれ』?」

ペトラ「兵長が言ってた……『自分1人が救える命には限りがある』って」

オルオ「……そりゃ、『だから無茶してまで他の奴らを助けようとするな』
    『本当にそいつを救えるのかどうか正しい判断をしろ』……ってことだろ」

エルド「あぁ。時には非情な決断も必要だってことを兵長は言いたかったんだと思うが」

ペトラ「…………」

グンタ「どうした、今言った以外に何かあるか?」

ペトラ「ううん……なんでもない。みんなの言う通りだと思うよ」

オルオ「つまりだ。兵長みたいに自分の命も仲間の命も守れるようになりたければ、
    もっと力をつけないと駄目ってことだな」

オルオ「なぁお前ら……俺は決めたぞ」

ペトラ「……? 何を?」

オルオ「俺は一生! リヴァイ兵長に付いて行く!!」

エルド「何を今更……。今までもそうだっただろ」

オルオ「バッカお前! 今まで以上だよ! 惚れ直したんだよ俺は!!
    少し前までは、兵長の強さは仲間を切り捨てられる非情さにあると思ってたが、
    それは完全に間違いだった! 
    仲間を切り捨てる必要なんかない程の強さこそが、兵長のかっこ良さだったんだ!」

グンタ「ははっ……まぁ、その気持ちは分からんでもないな。
    実際に命を救われたんだしよ。特にお前は直接な」

エルド「……ってことはペトラ。お前もか?」

ペトラ「だから一緒にしないで! 私はオルオとは違うよ!
    ……兵長に一生付いて行きたいっていうとこは同意するけど」

グンタ「!」

エルド「ほう……」

ペトラ「な、何?」

エルド「ペトラ、お前……本当の意味で兵長に惚れたか?」

オルオ「!?」

ペトラ「なっ……!? 何言ってるのよエルド! そ、そんなこと、いや、あの……!」

グンタ「なんだ……こりゃ満更でもなさそうだな」

オルオ「ばっ……ちょ、調子に乗るんじゃないぞペトラ!
    お前なんかが兵長と結婚するだと!? ふざけんな! 釣り合うかそんなもん!!」

ペトラ「ち、違うよ!! 別にけっ、結婚とかそんなの!!
    これは憧れと尊敬!! 上司に対する憧れと尊敬なの!!」

オルオ「はッ、どうだかぁああ!? その割りには顔が真っ赤だが!?」

ペトラ「ッ……!」

オルオ「お前なんかが兵長と結婚とか100年早いんだよバァアアカ!!
    少しは身の程を弁え……」

ペトラ「うるさいッ!!」

オルオ「おぶん!?」

エルド(うわっ、グーかよ)

グンタ(結構本気だったな今)

ペトラ「憧れだって言ってるでしょ!? 兵長は上司! 私は部下!」

オルオ「すげぇ痛い……」

ペトラ「エルドとグンタも!! こんなことでからかって兵長の耳に入りでもしたら
    どうなるかくらいわかるよね!? オルオと違って2人なら!!」

エルド「そ、そうだな」

グンタ「悪かったよ、冗談が過ぎた……」

オルオ「痛い……」

ペトラ「まったく……もう二度とこの話はしないでよね!
   それじゃ私部屋に戻るから。じゃあね!」

グンタ「……行っちまった」

エルド「しかし、まさかあそこまで怒るとはよ……」

グンタ「自分のことで兵長がネタにされるのが嫌だったのかも知れん……。
    自分だけでなく兵長までからかわれてるような気がした、とかな」

オルオ「ズキズキする……」

エルド「なるほど……。ペトラの奴、どうやら相当にリヴァイ兵長を尊敬しているようだ」

グンタ「あぁ。とにかく、この話題は封印することにしよう」

オルオ「血ぃ出てない……?」

エルド「医務室行ってこい」

――こうして、俺達の初陣は終わった。
結果ははっきり言って散々なものだったが、それでも……生きているだけ良い。
生きていさえすれば挽回が利く。
それに生きていさえすれば、まだリヴァイ兵長と共に戦える。

今回の件で、俺は今まで以上にリヴァイ兵長に強い憧れを抱くようになった。
ペトラはもちろん、多分エルドとグンタもだ。

それから自分たちの実力も知った。
俺達は確かに訓練兵の中では上位の成績だったが、やっぱりまだまだ兵士としてはヒヨッコだ。
もっと腕を磨いて、調査兵として胸を張れるようになる。
そしていつか、リヴァイ兵長の右腕になって兵長の隣で戦うんだ。

そしていつか、俺は……。

今日はこのくらいにしておきます




エルド「――いずれはこうなるとは思っていたが意外と早かったな」

グンタ「俺とエルドが同じ班で、オルオとペトラが1人ずつ別班か。
    しかし俺は全員がバラけると思ってたからそっちの意味でも意外だぜ」

オルオ「そりゃお前アレじゃねぇのか……ぶふっ!
    デキてると思われてくっ付けられたんじゃねぇのか!」

ペトラ「あのねぇオルオ……」

エルド「……だったらお前ら2人同士も同じ班じゃないとおかしいと思うが」

オルオ「は!? そ、そりゃどういう意味だよオイこら!!」

ペトラ「ちょっとやめてよ! 私とばっちりじゃない!」

グンタ(息は割と合ってると思うけどな……)

エルド「まぁ、とにかくだ。これからは今まで程この4人で集まることはなくなるだろうな」

グンタ「そうだな。陣形でも近くに配備されるとは限らないだろうしよ」

ペトラ「だよね……。やっぱりちょっと寂しくなるかな」

オルオ「……へっ、何言ってんだよペトラ!
    お前そんなんでリヴァイ兵長に付いていくつもりか? 俺は全然寂しくなんかないぜ? 
    これからも腕を磨きまくって、お前らの知らないうちに腕を上げまくってやる。
    そんでお前らの知らないうちにリヴァイ兵長の右腕になってやるんだからな!」

ペトラ「むっ……。ふん、私だって今よりずっと強くなるんだから!
    オルオこそ、張り切り過ぎて無茶して巨人のエサにならないように気を付けてよね!」

オルオ「馬鹿め! 誰が巨人のエサなんかになるか!
    お前の方こそ死ぬんじゃねぇぞバーカ!!」

――その日から俺達は別々の班になり、それから何度か壁外遠征をこなした。
会ってゆっくり話すことは少なくなったが、それでもまったく会えないというわけじゃない。
遠征から帰ってくるたびに互いの姿を確認して無事は確かめられたし、
時間さえあれば軽く会話を交わすこともできた。
そんな風にして日々は過ぎていき、俺達は生き延び続け……
そしてまた今回も壁外遠征を無事終えた。

調査兵「はぁー、今回も生き残れた……お前のおかげかもなオルオ。あんときゃ助かったぜ」

オルオ「ん? あぁ……まぁな。これから一生感謝しろよ?
    あの状況、俺かリヴァイ兵長でもなけりゃ手助けできなかったぜ?」

調査兵「お、おう。確かにリヴァイ兵長ならなんでも出来るだろうな。
    ……おっ。見ろよ、噂をすればなんとやらだぜ」

オルオ「何! あっ……本当だ、流石リヴァイ兵長!
    遠征の後でも表情に余裕が……んん!?」

調査兵「なんだ、どうした?」

オルオ「な……なんであいつが、リヴァイ兵長の隣に並んでるんだ……」

調査兵「あいつって……あぁ、ペトラか。さぁな、たまたまじゃねぇのか?」

オルオ「そ、そうだよな! たまたまだよな!」

調査兵「しかしペトラもすげぇよな。リヴァイ兵長の隣に居るってのに、見ろよあの顔。
    俺だったら緊張しまくって表情ガッチガチになっちまうぜ」

オルオ「顔? か、顔がどうしたって?」

調査兵「いや、だからなんつーか……ホラ見ろよ。普通に話しかけてるしよ」

オルオ「……あ、あいついつの間に、あんな……」




オルオ「……あ!」

ペトラ「ん? あっ、オルオ! 今回も生き残れたんだ!」

オルオ「お、おう。まぁな」

ペトラ「良かったね。次からもこの調子で頑張ろう。それじゃまたね!」

オルオ「えっ!? オ、オイ待てよ!
    同期ともうちょいゆっくり話そうとかそういう気持ちはお前には……」

ペトラ「そうしたいのは山々なんだけど……ちょっと無理。
    呼び出されてて、もうすぐ時間だから」

オルオ「呼び出され……まさかリヴァイ兵長にか!?」

ペトラ「? なんでそうなるのよ」

オルオ「ち、違うのか? じゃあ誰だってんだよ」

ペトラ「班長だよ。多分今回の反省とかそういう話だと思うよ。
    っていうかオルオのとこもそういうのあるんじゃないの?」

オルオ「あ……あぁそう言えば」

ペトラ「まったく、しっかりしてよね。それじゃ、もう行くよ」

そう言ってペトラは去っていった。
その後ろ姿に何か一声かけようかとも思ったが、何故か言葉が思い浮かばなかった。
だから黙って俺も背を向け、

ペトラ「いつまでも訓練兵気分じゃ困るとか言って、本当はオルオが一番寂しがってるんじゃないのー!?」

オルオ「っ……!?」

ペトラ「そんなんじゃリヴァイ兵長の右腕になんてなれないよー! じゃあねー!」

オルオ「だっ……誰が寂しがってるって!? バーカ! バァアアアアカ!!」

そのまま俺は、ペトラの姿が見えなくなるまで抗議の声を上げ続けた。




その日以降、俺はあいつらに必要以上に関わりに行くのはやめた。
また寂しがってるとかって馬鹿にされたくないからだ。
まぁ遠征のあとに姿を確認したり、たまたま会えば軽く会話くらいはしたが……それだけだ。

そして、俺達は壁外遠征を毎回生き残った。
何度も死ぬような目に遭いはしたが、それでも自分の力で切り抜けた。
そうやって生き延び続け……少なくない月日が経った。

調査兵「今だ、オルオ!!」

オルオ「任せろ……! 死ね!!」

調査兵「よし、やった……。ッ! 右側より巨人多数接近!!」

オルオ「ちっ……! あの数、俺らだけじゃ対処は……」

 「ぐっ、ぎゃぁああああ!!」

調査兵「あ、あいつやられやがった! このっ、巨人どもめ……!」

オルオ「ば、馬鹿、よせ! 数が多すぎる! 俺らまでやられるぞ!!」

調査兵「じゃあどうしろってんだよ!?」

オルオ「増援を待つしかねぇだろ! 時間を稼ぐんだ! 可能な限り接近は避けろ!!」

調査兵「くそっ……!!」

調査兵1「オイ、状況はどうだ!!」

調査兵2「っ! 助かった、増援か!」

オルオ「ん……? オイ待てよ、ずいぶん多くねぇか!?
    いや、多いに越したことはねぇんだけどさ! 他のとこは大丈夫なのかよ!?」

調査兵1「撤退命令が出たんだ! 早急に撤退するためにこっちに多く人員が割かれたんだよ!」

オルオ「は!? まだ限界まで進んでねぇだろ!? なんでもう撤退するんだ!?」

調査兵1「説明はあとだ! とにかくここに居る奴らをさっさと片付けるぞ!!」

オルオ「あ、あぁ!!」




そうして、増援と協力して撤退の邪魔になる巨人どもを排除した。
撤退の理由はその後に聞いたが……正直信じられねぇ。
イヤ、信じたくねぇ。
壁が破壊されたかも知れないなんて、そんな……。

オルオ「くそっ……また超大型が出たってのか……!?
    ふざけんなよクソ巨人が……! なんだっつーんだよクソっ……! 」

調査兵「本当に壁が破壊されたのだとすれば、駐屯兵や新兵だけでいつまでもつか分からん……!
    鎧の巨人でも出てきたら今度こそ人類滅亡の危機だぞ!」

オルオ「冗談じゃねぇぞクソが……!」

調査兵「そろそろローゼが見えるはずだが……。ッ!?」

オルオ「な、なんだ!? 今……!?」

オルオ「オイ、お前ら今の見えたか!?」

調査兵1「み、見えたことには見えたが、何が起こったんだ!?」

調査兵2「俺の見間違いじゃなけりゃ……あ、穴が閉じたように見えたぞ!
     と言うか、内側からふさがれたように見えた! どういうことだ!?」

オルオ「俺にもそう見えたがあり得ねぇだろそんなこと! 何がどうなってんだ!?」

エルヴィン「○○班は壁際の巨人の注意を引きつけよ!
      他の全員は壁を登れ! 壁内での判断は各自に任せる!」

オルオ「っ……考えても仕方ねぇ! 登るぞお前ら!」

調査兵「あ、あぁ!」

――トロスト区は酷い有様だった。
壁に穴が開けられてそれなりの時間が経っていたんだろう、かなりの数の巨人が侵入していた。
ただ誰が考えたのかは知らねぇが、壁際に大多数の巨人が集められていたおかげで
俺達の仕事は思っていたよりも少なくて済んだ。
壁外から帰って来た直後でもこなせる程度の仕事量だったのはラッキーだ。

しかしやっぱりどうしても気になるのは、門のとこに居た兵と、巨人の死骸。
それに門を塞いでいた大岩だ。
あの岩をどうにかして動かして穴を塞いだらしいが……。

オルオ「なぁ、あの噂マジだと思うか?」

調査兵「……人間兵器、って奴のことか? どうなんだろうな……」

オルオ「今は憲兵団がそいつの身柄を預かってるらしいが……
    早く俺らにも詳しい情報を聞かせて欲しいもんだよ」




情報自体は思ったより早く入ってきた。
正直半信半疑だったが、人間が巨人になって穴を塞いだってのはマジらしい。
ただ極秘に研究していた人間兵器ってのはやっぱり単なる噂で、
本当のところは人類側はそいつの巨人の力について何も分からないと聞いた。
巨人になった本人でさえもだ。

そしてどうやら、そいつの身柄を調査兵団で預かるように今、団長たちが動いているんだそうだ。
……確かにその巨人の力ってのが本物なら利用した方が良いってのは理解できるが……。

調査兵1「何なんだろうな、巨人の力ってのは……。っつーか大丈夫なのか、そいつ……?」

オルオ「さぁな……俺に分かるわけねぇよ。まぁ、一度そいつの顔を拝んではみたいよな。
    今期の新兵と聞いたが、一体……」

調査兵2「オルオ! 居るか!!」

調査兵1「……? オイ、呼ばれてるぞオルオ」

調査兵2「! 居たか。オルオ、団長がお呼びだ。今すぐ部屋へ向かえ」

オルオ「は? だ、団長が? なんで……」

調査兵2「それは団長から直接聞くんだな。ホラ、さっさと行け!」

急かされるがまま、俺は団長の部屋へと向かった。
しかしなんだって急に呼び出しなんか……?
呼び出されるようなことをした覚えはないぞ?

と、歩いている間ずっと考えていたが結局理由に見当も付かないまま、部屋へと着いた。
息を整え、扉をノックする。

オルオ「エ……エルヴィン団長、オルオ・ボザドです!」

エルヴィン「あぁ、入ってくれ」

オルオ「はっ! 失礼します……えっ?」

扉を開けた時……一番初めに目に飛び込んできたのは、見慣れた3つの顔だった。
そう、エルド、グンタ、そしてペトラだ。
3人とも少し驚いたような、あるいは予想通りというような、そんな顔でこっちを見ている。

なんでこいつらがここに居るんだ?
こいつらも団長に呼び出されたのか?
一体団長は何をお考えなんだ?

その旨を質問しようと3人から視線を外し、初めて気付いた。
部屋にはあと1人……リヴァイ兵長が居たということに。

エルヴィン「これで全員揃ったな。3人は待たせてすまなかった。では説明を始めよう」




エルド「――特別、作戦班……!」

オルオ「お、俺達が、リヴァイ兵長のもとで……!?」

ペトラ「しかしそんな大切な任務を、私達が……」

リヴァイ「なんだ……何か文句でもあるか?」

ペトラ「い、いえ! 文句だなんて、ただ……」

グンタ「な……何故、我々なのでしょうか?」

リヴァイ「……お前らには実力も実績もある。
     何より生き方を学んだ……理由はそれで十分だと思うが。
     お前らがこの作戦に適任だと俺が判断し、選んだんだ」

オルオ「っ……! こ、光栄です!」

リヴァイ兵長の班に俺が、しかも兵長自身の指名で……。
こんな重要な作戦を任せるのにふさわしいと考えてくれたんだよな?
それって、兵長が俺の実力を認めてくれたってことだよな……!?

ちらっと視線を横にやると、やっぱり3人もかなり嬉しいようで目を輝かせてた。
昔っから落ち着き払ってたエルドも、グンタも、そして……。

オルオ「……!」

オ……オイオイ、ペトラ。
お前、確かにお前も兵長にかなり憧れていたのは知ってるが、
そりゃお前、その顔はいくらなんでも……。

ま、まさかマジでそうなんじゃないだろうなこいつ!?
ペトラの奴、マジでリヴァイ兵長に……!?

い……いや待て、落ち着け。
ペトラはあの時否定してたし、そのことでからかわれるのは本気で嫌そうだった。
どうなんだ……実際どうなのか気になるが訊いたりしたらまた殴られそうだし……。

って、なんで俺はそんなにこのことを気にしてるんだ……。

そりゃまぁ……アレだよな。
ペトラがリヴァイ兵長とくっ付くってのが気に食わねぇからだよな。
そうだ、ペトラなんかがリヴァイ兵長と釣り合うワケがねぇんだよ。

……イヤでも、あいつも一応はリヴァイ兵長に実力認められたんだし……。
そうだよな、昔とは違うんだよな。
うん、そうだ、昔とは違うんだ。
俺も少しは大人になろう。
あいつがリヴァイ兵長をどう思ってたって関係ねぇんだ。

それより俺自身のことだよな。
俺ももっと……。
そうだ、せっかく兵長の右腕って夢にまた近付いたんだ。
俺自身、もっと理想の俺に近付こう。
もっと、リヴァイ兵長みたいに……。




エルド「それにしてもまさか俺達がリヴァイ兵長に腕を見込まれるとはよ。
    驚いて良いのやら喜んで良いのやら……」

グンタ「何にせよ、気合入れていかねぇとな。異論がなかったってことは
    団長や分隊長方も期待してくれているはずだ。それを裏切るわけにはいかん」

ペトラ「でも今日くらいはもうちょっと喜んでても良いよね!
    だって本当に夢みたいな話だもん……あのリヴァイ兵長に指名されるなんて!
    あ、そうだ。確かオルオの夢もリヴァイ兵長のもとで戦うことだったよね?」

グンタ「さぞ嬉しいだろうな、オルオ。今夜は眠れないんじゃないか?」

オルオ「……ハァ、まったくお前ら浮かれやがって……。
    嬉しい気持ちも分からんでもないが、いつまでもそんなんじゃ困るぞ?」

ペトラ「……ん?」

オルオ「ま、お前ら程度じゃ仕方ないかもな。
    とにかくさっさと気合入れなおして、せめて俺の足だけは引っ張ってくれるなよ?」

エルド「……どうしたお前。なんというか……磨きがかかってないか」

オルオ「磨きか……フッ。まぁ俺の実力が上がったことが分かるってんなら、
    お前もそれなりに腕は磨き上げてきたようだな」

グンタ「いや、エルドが言ってるのはそういうことじゃないと思う」

ペトラ「えーっと、オルオ? 何か嫌なことでもあったの? 話だけでも聞こうか?」

オルオ「なんだ、心配してんのかペトラ?
    俺の心配をしていいのは俺の女房になった奴だけだぜ?」

ペトラ「な、何? え?」

オルオ「ま、そういうわけだ。それじゃあ俺は元の班員に別れを告げてくるとするか。
    俺が居なくなって右往左往しないように活の1つでも入れてやらねぇとな。
    それじゃあお前ら、明日からよろしく頼むぜ」

エルド「……なんだったんだありゃ。あいつ、いつからあんな喋り方になったんだ」

グンタ「思えば俺らはずいぶん前からマトモに会話を交わしてなかったからな……。
    ペトラ、何か知らないか?」

ペトラ「わ、私だって同じだよ。本当に何なのあの喋り方……」

エルド「まさかとは思うが……リヴァイ兵長のマネをしてるんじゃないのか」

ペトラ「は!? リ、リヴァイ兵長のマネ!? あれが!? どこがよ!!」

グンタ「イヤ……確かにあり得ない話じゃない。
    あいつはきっと、リヴァイ兵長みたいになりたいんだ。あいつの理想の姿にな」

ペトラ「そんなまさか……だ、だとしても似てなさ過ぎる……」

エルド「だが多少鬱陶しいことに目を瞑れば害はないだろう。
    ヒーローに憧れてマネをする子どもみたいなもんだ。そっとしておいてやろうぜ」

ペトラ「子どもならまだ可愛いから良いよ! でもオルオだよ!?」

グンタ「良い歳して何考えてんだって話でもあるしな……」

ペトラ「でしょ! それにあんな間違った兵長像を見せられるなんてヤダ!
    明日にでもオルオに直接言ってやる!」

エルド「イヤ、まぁ待て……俺から言い出しといてなんだが、
    まだ兵長のマネをしてると決まったわけじゃない。
    たまたま今日は何かしらの理由でそういう喋り方だったのかも知れんしな。
    もう少しだけ様子を見といてやろう」

ペトラ「たまたま今日は……ね。だと良いんだけど……」

今日はこのくらいにしておきます




昨日は我ながら、なかなか格好良く決まってたな。
アレだけからかわれてた夫婦ネタも俺の方からクールにかましてやったし、かなり良い感じじゃねぇのか?
よし、この調子だ。
今日もリヴァイ兵長のようにクールに決めよう。

グンタ「ん。よぉ、やっと来たかオルオ」

エルド「時間ぎりぎりじゃないか。何してたんだ?」

オルオ「フッ、悪いな……身だしなみを整えてたら遅くなっちまったぜ。
    清潔を心がけるのは常識だからな」

ペトラ「……オルオってそんなに綺麗好きだったっけ?」

オルオ「なんだ、知らなかったのかペトラ。
    まったく、これから同じ班で一緒にやっていくってのにこれじゃ先が思いやられるな」

オルオ「お前も女なんだから身だしなみには気をつかえよ?
    兵士とは言え清潔感のない女は、男に見向きもされなくなっちまうぞ?」

ペトラ「い、言われなくたってそのくらい気を付けてるよ! 余計なお世話!」

エルド(……これは間違いないな)

グンタ(あぁ……たまたま昨日だけ、ってわけじゃなさそうだ)

ペトラ(何なのよもう……)

オルオ「しかしまだ来ないのか例のガキは? そろそろ時間のはずだが。
    兵長に面倒を見てもらえるからって、甘えてお手を煩わせてるんじゃないだろうな」

エルド「……お前、新兵に妙なケンカ吹っかけたりするなよ」

オルオ「フン……そりゃあ向こうの出方次第だ」

オルオ「調子に乗った新人にナメられないようにしないとな。それも先輩の仕事だろ?」

グンタ「そりゃお前の持論……。っ! オイ見ろ、どうやら来たようだぞ」

グンタの視線を追うと、遠くから馬に乗って駆けてくる影が2つ。
先を走るのがリヴァイ兵長で、そして後ろに居るのが……

オルオ「……あいつがそうか……生意気そうなツラしてやがる」

ペトラ「あのねぇ……」

オルオ「おっと、お喋りはここまでだ。……おはようございます、リヴァイ兵長!」

リヴァイ「全員揃っているようだな。
     言わなくても分かると思うが……こいつが例の新兵だ」

エレン「は、初めまして! エレン・イェーガーです!」

エレン「その……こ、これからよろしくお願いします!」

ペトラ(この子が、巨人の力を持った人間……)

エルド(巨人の力なんて聞いたからどんな奴かと思えば)

グンタ(想像していたより普通だな……)

オルオ「…………」

リヴァイ「早速だが移動するぞ。行き先は分かっているな?
     エルド、グンタ。お前らが先頭を進め。オルオとエレンが2番目だ」

一同「はっ!」

オルオ(俺がこいつの隣か……ちょうど良い。ちょっとビビらせておくか)




エレン「…………」

オルオ「オイ、エレンとか言ったな」

エレン「は、はい!」

オルオ「このリヴァイ班について多少話は聞いているようだが、
    まだガキのてめぇには俺らの凄さは今ひとつ理解できていないだろう」

エレン「はっ? い、いえそんなことは……」

オルオ「そこでだ、良いことを教えといてやる。
    この俺、オルオ・ボザドはな……巨人討伐39体、討伐補佐9体の実績を持っている」

エレン「さ、39体……!」

オルオ「他の奴らも討伐数では俺には及ばねぇにしろ、なかなかの実力だぜ?
    あいつはエルド・ジン。討伐14体、討伐補佐32体。
    隣の奴はグンタ・シュルツ。討伐7体、討伐補佐40体。
    そして後ろのはペトラ・ラル。討伐10体、討伐補佐48体だ」

エレン「っ……!」

エルド(ハァ……何を言ってるんだあいつは)

グンタ(戦績を語ることで牽制でもするつもりなのか?)

ペトラ(自慢してるようにしか聞こえないけど……)

オルオ「そして言わずもがな、人類最強のリヴァイ兵長。
    どうだ、分かっただろ? 俺達リヴァイ班は巨人殺しの達人集団なんだよ」

エレン「は、はい。わかりました……」

エレン(巨人殺しの達人……本当にその通りだ。ここに居る人たちは全員……)

オルオ「今ので十分俺らの凄さは伝わったな。
    良いな新人……ここに居て好き勝手できるなんて思うんじゃないぞ?」

エレン「えっ!? 好き勝手だなんてそんな……!」

オルオ「あ? なんだ、何か文句でもあるか? あぁ?」

エレン「い、いえ……すみません」

オルオ「……ふん」

これでよし……。
我ながら良い仕事をしたな。

オルオ「――旧調査兵団本部。古城を改造した施設だけあって……」

あれからしばらく、新入りに色々と教えてやっている。
ま、後輩の世話をするのも先輩の役目だしな。
その程度のことはやってやるさ。

オルオ「しかし……このでかいお飾りがお前を囲っておくには最適な――」

エレン「…………」

だが……どうもこいつ、さっきから兵長のことばかり気にしているように見える。
先輩がわざわざ話しかけてやってるってのにこの野郎……。
これはまた説教が必要だな。

オルオ「調子に乗るなよ新兵……」

エレン「はい!?」




兵長「――全員馬を繋げ。準備が出来次第、施設の清掃作業に取り掛かる」

一同「はっ!」

エルド(……オイ、なんでオルオの奴は口が血まみれなんだ)

グンタ(俺らには声しか聞こえなかったんだが……)

ペトラ(……エレンに変なこと言ってる時に舌を噛んだんだよ)

エルド(あぁ……そんなことだろうと思った)

オルオ「くっ……痛ぇ……」

ペトラ(……似合わないことするからそうなるのよ……)

オルオ「チッ……俺としたことがミスをしてしまったな。
    まぁ些細なものとは言え、どんな優秀な人間にも失敗は付き物だが……」

ペトラ「乗馬中にぺらぺら喋ってれば舌も噛むよ」

オルオ「……最初が肝心だ……あの新兵ビビっていやがったぜ」

ペトラ「オルオがあんまりマヌケだからびっくりしたんだと思うよ」

くっ……流石に舌を噛んだのはごまかしきれないか。
し、しかしまぁ……奴が驚いたってんならそれで良いと考えよう。
ここで取り乱すわけにはいかねぇしな……。

オルオ「……何にせよ俺の思惑通りだな」

ペトラ(あ、もう駄目だ言おう)

ペトラ「……ねぇ。昔はそんな喋り方じゃなかったよね?」

オルオ「!」

ペトラの奴やっと気付いたか!
そうだよ、俺はリヴァイ兵長の姿に近付くためにこうして格好良く……

ペトラ「もし……それが仮にもし……リヴァイ兵長のマネしてるつもりなら……
   本当に……やめてくれない? イヤ……まったく共通点とかは感じられないけど……」

オルオ「……!!」

なっ……や、『やめてくれない』!?
それに、共通点を感じられないだと!?
そんなはずはない、かなりリヴァイ兵長っぽいはずだ!
そうだきっとペトラの奴、俺の変化に動揺してるんだ、そうに違いない!

と、とにかく落ち着け、ここで取り乱すわけにはいかないぞ……!
リヴァイ兵長っぽく、冷静に返すんだ!

オルオ「フッ……俺を束縛するつもりかペトラ?
    俺の女房を気取るにはまだ必要な手順をこなしていないぜ?」

ペトラ「舌を噛み切って死ねばよかったのに」

相変わらず歯に衣着せねぇなこいつ……。
ま、まぁしかし、このくらいは慣れっこだ。

ペトラ「巨人の討伐数とかもペラペラ自慢して……」

オルオ「安心しろ。お前らの自慢もついでにしといてやったからな」

ペトラ「まったくみっともない!」

オルオ「まぁそう言うな。あのガキを抑止するには効果的だと思うが?
    俺達の実力を知れば巨人になって暴れだそうなんて考えることもなくなるだろ」

ペトラ「エレンは巨人の力を人類のために使うって言ってるんだし、
    今そんなことする必要なんてないと思うけど」

オルオ「念には念をってやつだ。
    俺くらいになるとあらゆる可能性を考慮して手を打つのさ」

ペトラ「ハァ……まったく」

エルド「オイ2人とも、作業を始めるぞ! ペトラ、お前は施設の中だ!」

ペトラ「あ、うん! 今行くよ」

グンタ「オルオ、お前と俺は機動装置を使って外から窓を磨くんだそうだ」

オルオ「まさか機動装置を掃除に使う日が来るとはな……。ま、これも仕事のうちか」

エレン「あの、すみません! オレはどこを……」

エルド「お前も屋内だ。上の階から片付けていけ、とのことだ」

エレン「はい、了解です!」

そうして、今日は日が暮れるまでずっと清掃作業をした。
リヴァイ班の初仕事が掃除ってのは少し拍子抜けしたが、当然文句なんかない。
兵長は綺麗好きなんだから当然だ。

そんなこんなで全員飯を済ませ、その後少しだけ話をし……ハンジ分隊長が現れた。
そこで何も知らねぇエレンの馬鹿が巨人のことについて訊きやがったから、
俺達はすぐ退散し、こうして場所を移して雑談を続けることにした。

エルド「エレンの奴、これは下手すりゃ徹夜だな」

オルオ「ま、通過儀礼みたいなもんだ……。
    少しは同情するが、調子に乗らせるよりはずっと良いさ」

ペトラ「まだそんなこと言ってるの?
   今日エレンと少し話してみたけど普通に良い子そうだったよ」

グンタ「それについては同感だな。態度を見る限り真面目な新兵だ。
    巨人の力なんてもんを持ってるのが信じられんくらい、至って普通のな」

オルオ「それは結構なことだ。どうやら俺の牽制が効いたようだな」

ペトラ「あんなのが無くたって真面目な子だと思うよ」

グンタ「しかし巨人の力を持ったのがああいう奴で良かったな。
    きっちり人類のために働いてくれそうだ」

エルド「早速明日実験するんだったよな。暴走なんかしなけりゃ良いんだが」

ペトラ「もし暴走したら、殺さなくちゃいけないんだよね……」

オルオ「……なんだペトラ。まさか迷ってるんじゃねぇだろうな。
    俺はやるぞ。リヴァイ兵長は俺らならそれが出来ると思った指名してくれたんだしな」

ペトラ「わ……分かってるよ、そんなこと。私だって覚悟はできてる。
   出来れば殺したくないけど……殺さなきゃいけないと思った時はちゃんとやるよ」

エルド「そうだな。それに……俺達の方が殺されちまう可能性だってあるわけだしよ」

グンタ「明日か……。そんな事態にはならないよう、祈っておこう」

――しかし、その翌日。
実験は行われなかった。
それどころではない事態になったからだ。
というのも……

ハンジ「ああぁあああぁぁああ!! 嘘だ、そんなぁあああああ!!」

駐屯兵1「兵士がやったらしいとの話だが、一体何を考えてんだ……」

駐屯兵2「それほど巨人が憎かったってか? 馬鹿なことを……」

オルオ「フッ……見ろよ、ハンジ分隊長がご乱心だ」

ペトラ「……フン!」

オルオ「ぐおっ!?」

オルオ「ぐっ……いててて」

くそっ、ペトラめ……何も本気で肘鉄食らわすことはないだろ……。
あいつだって普段のハンジ分隊長には呆れてた癖によ。
しかも俺を置いてさっさと行っちまいやがって……。

それはそうと、これはまたエライことが起きたもんだ。
何だって貴重な被験体を……。
一体誰が何のためにやったってんだ。

エルヴィン「……オルオ」

オルオ「っ! エルヴィン団長……?」

エルヴィン「君には何が見える? 敵は何だと思う?」

オルオ「は? あの……何のことでしょうか?」

エルヴィン「……すまない、変なことを訊いたな」

オルオ「……?」




エルド「まったく……とんだ騒ぎを起こしてくれたもんだ」

グンタ「今は新兵の方で犯人探しをしてるんだとよ。
    新兵がそんなことをするとは到底思えんが……」

ペトラ「でも一体、誰が何の目的で……」

エルド「団長は何か分かってるのかも知れんが……。グンタ、お前あの質問の意味は分かったか?」

グンタ「いいや、さっぱりだ」

ペトラ「質問って団長に? もしかして、『敵は何だと思う?』って?」

オルオ「! まさかお前らも俺と同じ質問をされていたとはな……」

エルド「ってことは全員か。団長が何人かに話しかけているのを見はしたが、
    あれは俺らと同じ質問を……となるとエレンもだろうな」

グンタ「それで、どうだ。お前らはあの質問の意味は分かったか?」

ペトラ「ううん、全然。でも私だけじゃなくてみんなも分からなかったなんて……」

オルオ「フッ……なんだお前ら、分からなかったのか?」

エルド「……お前には分かったのか?」

オルオ「全てが分かったと言えば嘘になるかもな」

ペトラ「ふーん……じゃあどのくらい分かったの?」

オルオ「どのくらいと訊かれて答えられるようなもんじゃない。
    しかしまぁ、ヒントをやらんでもないぜ。ま、簡単にはやれないがな。
    まずはお前らなりの答えを出して、俺に見せてみろ。
    なに、正解は期待していない。大事なのは過程だ。
    お前ら自身で頭を捻り、そして何かしらの答えを出す。それが大切なんだよ。分かるか?」

グンタ「……まぁ、団長があの質問で何かを見ようとしていたことは確かだ。
   答えられなかった、ということも恐らく判断材料にはなっているだろう。
   今俺達に出来ることは団長の下す判断に従うことくらいだな」

オルオ「…………」

今日はこのくらいにしておきます

――そして、その日の夜。
例によって食後に班員みんなで話をする。
話題は当然今日の事件と、それから新しく調査兵団に入団した新兵についてだ。

エルド「20人弱か……思ったよりは入ったな」

グンタ「よくもまぁ、あの襲撃を経験してウチに入ったもんだ」

オルオ「それなりの覚悟は出来てるんだろうぜ。ま、少しは期待できそうだな」

エレン「あの、ペトラさん……。流石にそいつらの名前までは分かりませんよね……?」

ペトラ「うん、顔もはっきり見たわけじゃないし……。やっぱり気になる?」

エレン「その……はい」

リヴァイ「…………」

エルド「まぁ数日中には分かるだろうさ。昼間にお前が言ってた奴らが入ってると良いな」

エレン「はい……」

グンタ「どうしたエレン、さっきから元気がないように見えるが。体調でも悪いのか?」

ペトラ「えっ、そうなの? 大丈夫?」

オルオ「オイ……まさか巨人の力と何か関係してるんじゃねぇだろうな」

グンタ「だとするとまずいな。念のためハンジ分隊長に……」

エレン「えっ!? い、いえ、それはちょっと……! 違うんです、ただ少し寝不足で……」

ペトラ「あっ……」

エルド「……やっぱり徹夜だったのか」

リヴァイ「ならとっとと寝ろ……。
     お前は人一倍体調管理に気を遣わなきゃならねぇってことを忘れるな」

エレン「は、はい。では、失礼します……」

オルオ「ったく、言われねぇと体調管理もできんとは……。世話の焼けるガキだぜ」

グンタ「昨夜はハンジ分隊長に付き合わされていたんだったな。すっかり忘れてたよ」

エルド「ハンジ分隊長と言えば、今日の実験はいつに延期になったんだろうか」

ペトラ「まだ決まってないんですか、兵長」

リヴァイ「さぁな……だがそう間は開かないはずだ。
     あいつのことだ。被験体を失った今、新たな実験に余計に熱が入るだろうしな。
     早ければ明日の昼……遅くても数日中にはやるだろう」

グンタ「なるほど……それは確かにエレンには早く寝てもらわないと困りますね。
    寝不足で巨人になったりすればどう影響するか分からない」

リヴァイ「……実験が始まる前に話しておくことがある。
    エレンにも話す予定だが、お前らには先に話しておこう」

ペトラ「話しておくこと……?」

リヴァイ「暴走したあいつを殺さずに止める方法を思い付いた」

ペトラ「えっ……! ほ、本当ですか!」

グンタ「それは一体どんな……!」

リヴァイ「単純な話だ。うなじごとエレンを巨人から切り取れば良い」

オルオ「……!」

エルド「うなじごと……し、しかしそれではエレンの手足も
    一緒に切断してしまうことになりませんか?」

リヴァイ「なるだろうな。だがお前らも知ってるはずだ。あいつの手足はまた生える」

オルオ「……もし……失敗して、例えばエレンの首を飛ばしたりすれば……?」

リヴァイ「さぁな。生えるかも知れんが……死ぬと考えた方が良いだろうな。
     要するにこの方法が成功するかは、やった奴の技量次第だ。
     腕の足りない奴がやればまず失敗する」

部屋に緊張感が走ったのが分かった。
そりゃそうだ。
この方法は兵長に改めて言われるまでもなく、物凄く難しい方法だ。
もしかしたら自分がやって失敗するかも知れない、と全員が多少不安には思ったはずだ。

だが誰一人として、それを口には出さなかった。
なぜなら……兵長が俺達にこの方法を提案してくれたからだ。
腕の足りない奴がやればまず失敗するような方法を提案して、任せてくれたからだ。
それはつまり、俺達ならやれると兵長は信じてくれているということだからだ。
そうだ、兵長は……俺達を信頼してくれているんだ。

オルオ「……了解しました。その方法でやってみせます、必ず!」

エルド「エレンが暴走した時は、そうやってあいつを無力化しましょう」

グンタ「手足を切り落としてしまっても……死ぬよりはずっと良い」

ペトラ「その……ありがとうございます、兵長。この方法を、教えてくださって……」

リヴァイ「……俺はこれからハンジの奴と話をしてくる。
     まぁ……気合は十分なようだが、あまり気負い過ぎねぇことだ。良いな」

そう言い残し、兵長は部屋を出て行った。
後には俺達4人だけが残される。

エルド「うなじごと切り取る、か。難易度は高いが……もしもの時は成功させないとな」

ペトラ「うん……今からもう、ちょっと緊張してきたよ」

オルオ「フッ……なんだペトラ。成功させる自信がないのか?」

ペトラ「そうじゃないよ。そうじゃないけど、やっぱり……知性を持った巨人と
    戦うかもしれないって考えたら……」

グンタ「イヤ、しかし暴走状態のエレンからは知性を感じられなかったと報告書にはあっただろ。
    だから仮に巨人化したエレンと戦うことになったとしても、そりゃ知性のないただの巨人だ」

エルド「……知性がある状態のエレンと戦うってことは、
   それはつまり暴走でなく意図的……エレンが敵だってことになるからな」

ペトラ「ちょっと、エルド……縁起でもないこと言わないでよ」

オルオ「……まったくだ。確かにあいつは化け物かも知れんが、
    一応その化け物の力を人類の役に立てるつもりでは居るはずだが……?」

エルド「仮定の話だ。俺だって別に、本気でエレンが人類の敵だと思ってはいない」

オルオ「フン……第一あのガキに俺達と戦う度胸があるとは思えねぇ。
    なんせ、俺が散々ビビらせておいてやったからな」

グンタ「エレンがビビったかどうかはさておき、
    今の段階でエレンを疑ったってしょうがないことは確かだ」

ペトラ「うん。私達は事態に応じて取るべき対処が取れればそれで良い」

オルオ「…………」

取るべき対処、か。
俺達の仕事はエレンを守ることだが……万が一の時に取るべき対処は決まってる。
……まぁ、万が一なんて起こらねぇとは思うがな。

――そして、翌日。
兵長の言っていた通り、早速今日実験を行うことになった。
……が、結果から言うと実験は失敗した。
涸れ井戸の中でエレンは巨人にはなれず、しかも噛み傷も塞がらないらしい。

エルド「そう気を落とすな」

エレン「し……しかし」

オルオ「まぁ……思ったよりお前は人間だったってことだ」

エルド「焦って命を落とすよりはずっとよかった……これも無駄ではないさ」

グンタ「あぁ……慎重が過ぎるってことはないだろう」

そうだ……焦ればお互いの命がやばくなるかも知れないんだからな。
人間を殺すのも、殺されるのも、どっちもごめんってことだ。

エルド「今日は失敗したわけだが、次の実験はいつやるんだろうか?」

グンタ「まずは失敗した原因を明らかにしないことにはどうしようもないな」

オルオ「それに手の傷が塞がるのも待った方が良いんじゃねぇか?
    もう噛むところが……」

エレン「うっ!」

ホラ見ろ……スプーンもまともに持てやしない。
それ以上傷口を増やしたところで……

……次の瞬間。
俺の隣で突然起きた爆発で、その場に居た全員が吹き飛ばされた。

爆発だと……何が起きた!?
っ……エレンだ、エレンが巨人になったんだ。
なぜ!?
なぜ今なんだ、拘束できる涸れ井戸の中ではなく、なぜ今やった……!
自由に動き回れるからか……!?
じゃあなぜ自由に動き回れる今やったんだ、許可もなく、今……。

……そうなのか、やっぱりそうなのか、こいつは……!
こいつは従順な新兵のフリをした、人間の皮を被った巨人で、人類の脅威……。
こいつは、人類の敵なのか……!?

エルド「エレン……! どういうことだ!? なぜ今、許可も無くやった!? 答えろ!!」

オルオ「答えろよエレン!! どういうつもりだ!!」

グンタ「いいや……そりゃあ後だ。 俺達に……いや人類に敵意が無いことを証明してくれ。
    証明してくれ早く! お前には……その責任がある!」

オルオ「その腕をピクリとでも動かしてみろ! その瞬間てめぇの首が飛ぶ!!
    できるぜ! 俺は! 本当に!! 試してみるか!?」

ペトラ「兵長! エレンから離れて下さい! 近すぎます!」

リヴァイ「いいや離れるべきはお前らの方だ。下がれ」

ペトラ「なぜです!?」

リヴァイ「俺の勘だ」

エルド「どうしたエレン!! 何か喋れよ!」

オルオ「妙な動きはするな!!」

グンタ「早く証明しろ!!」

オルオ「エレン!! 答えろ!!」

エルド「お前は人類にとっての――」

エレン「ちょっと!! 黙っててくださいよ!!」

 「っ……!!」

黙ってろだと、こいつ、明らかだ。
明らかに反抗的、攻撃的……!
なぜ兵長はこいつを庇う、こいつは意図的に許可を破ったというのに……。
どうする、これ以上放って置くのは危険か。
何か行動を起こす前に腕を、いや四肢を切り落として……いや、首を、うなじを……!

ハンジ「エレぇン!! その腕触っていいぃぃぃ!?」

グンタ「っ!?」

ハンジ「ねぇ!? いいよねぇ!? いいんでしょ!? 触るだけだから!!
    うおおおおお! あッ……つい!!」

な……何をしてるんだあの人は……。

ハンジ「皮膚無いとクッッソ熱ッいぜ!! これ!! すッッげぇ熱いッ!!」

モブリット「分隊長!! 生き急ぎすぎです!!」

ハンジ分隊長、なんて危険なマネを……!
相手は巨人だというのに……いやしかし、エレンは今、何もしなかった……。
どういうことだ、動かなかった理由が? 動けないのか?
分からない、分からないがしかし、まだ駄目だ、警戒を……

ハンジ「ねぇ!? エレンは熱くないの!?
    その右手の繋ぎ目どうなってんの!? すごい見たい!!」

エレン「! んんんんんん!!」

オルオ「オ……オイ、エレン! 妙なことをするな!!」

なんだ、ついに攻撃を始め……!?

……と思ったが違った。
エレンは腕を引き抜いて……巨人化を解いた。
つまり、もうエレンは……?
いやしかし、一体なぜ……。

こいつは、一体……。




エルド「お前ら……どう思う。エレンはなぜ、あそこで許可を破って巨人化したんだ……?」

グンタ「分からん……。何か意図があったのか、何なのか……。
    それにあの姿、なぜ腕だけだったんだ……」

オルオ「俺達を殺すために巨人になろうとしたが失敗してあぁなった……。
    俺はそう思っていたが……どうだ。あり得る話だろ」

エルド「……俺もそのつもりで対処していた。あるいは別の意図……悪意があったとな。
    しかしエレン本人は自ら巨人化を解き、人類に敵意はないと主張している。
    嘘をついているようにも見えん……恐らくエレンの言ってることは事実だ」

ペトラ「じゃあやっぱり……巨人の力の暴走だったのかな。分からないことだらけの力なんだし、
   時間差で変身しちゃうなんてことも、もしかしたらあるのかも……」

グンタ「ハンジ分隊長は何か思い当たることがあるらしいが……」

ペトラ「もしエレンがわざと許可を破ったんじゃなかったら……私たち、酷いことしたよね」

エルド「……まぁな。俺達の誤解で本気の殺意を向けたことになる」

グンタ「それもまだ15歳の子どもにな……」

オルオ「俺達は自分のすべきことをしただけだ……それが間違いだとは思わねぇ」

エルド「しかし判断を間違えた可能性は高い」

オルオ「っ……そりゃそうだが……」

ペトラ「……謝ったら許してくれるかな」

エルド「エレン自身も、自分の立場と俺達の対処については理解しているはずだ。
    許さないということはないだろう。
    だがやはり俺は……過ちに対する代償も必要だと思う」

オルオ「……そりゃご尤もだが、しかし何をすりゃ良いんだ。自分で自分の頭でも殴るか?」

グンタ「手を……手を噛むってのはどうだ。エレンが巨人化する時のアレだ。
   エレンの痛みを俺達で少しでも理解してやるためにも良いかも知れん」

ペトラ「そっか……。エレンは自分の手を噛み切って人類の役に立とうとしてくれるんだよね。
   その痛みと覚悟を踏みにじった代償としては、ささやかだけど確かに良いかも知れない」

オルオ「……まぁ、異論はねぇな」

エルド「決まりだな。何かの意図があって巨人化したのではなく、
    意図せずに許可を破ってしまったことが分かれば……自分の手を噛もう」

グンタ「エレンのように噛み切れとは言わん。訓練や実戦に支障が出ては本末転倒だしな。
    ただし痛みはしっかりと感じるよう強く噛んで、そして心に刻もう。
    俺達は互いを信頼しあわなければならないってことをな」

――そこからあまり時間を置かず、ハンジ分隊長が戻ってきて、そして説明が始まった。
あの巨人化は何だったのか、エレンは意図的に許可を破ったのか、結果は……

オルオ「いッ……!? オ、オイ、ペトラ。もっと優しくやったらどうだ……」

ペトラ「文句があるなら自分でやってよ」

オルオ「チッ……大体が必要ねぇんだよ治療なんか! 噛み切ったわけでもねぇだろうが……!」

エルド「念のため消毒しとかないと後々やばいことになるかも知れないだろ。
    お前、手が腐って落ちても良いのか?」

オルオ「こ、こんなことで落ちねぇよ馬鹿!
    ……ペトラ、消毒液は十分だろうな!?」

ペトラ「十分だから安心して」

グンタ「……くくっ」

オルオ「!? な、なんだてめぇ、何がおかしい……」

グンタ「いや、すまん……オルオを笑ったわけじゃないんだ。
    ただな、自分達で噛んだ傷を自分達で治療してるってのが……。
    何をしてんだろうなと、ふとおかしく思ってな」

エルド「オイオイ、お前の提案だろ。手を噛むってのはよ」

グンタ「そうなんだが……。まぁなんというか、
    少し安心して気が抜けたというのもあるかもな」

ペトラ「それって……エレンが敵じゃなくて、ってこと?」

グンタ「あぁ。これまでは一体あいつをどういう目で見りゃ良いのか、
    俺自身よくわかっていなかったが……これではっきりした」

グンタ「エレンは俺達の仲間だ。そしてリヴァイ班の任務は、エレンを守ることだ。
    あいつを守ってやらなきゃならねぇと、改めて意志を固めることができたよ」

オルオ「……フン。仲間だと言ってもあいつはまだ新米のヒヨッコだ。
    まだまだ一人前だとは認められねぇな」

ペトラ「またそんなこと言って……」

オルオ「それに守ってやるとは言っても
    あいつが暴走した時には抑えなきゃならねぇことには変わらん。
    敵意が無いからと言って手足を切り落とす覚悟が鈍るようじゃ困るんだがな」

エルド「まったく……相変わらず素直じゃないなお前は」

オルオ「……は?」

オルオ「何を……言ってるエルド? わけの分からないことを……」

エルド「お前、消毒液がかなり沁みているようだが。
    俺達の中で一番強く噛んだんじゃないのか? エレンの痛みと覚悟を知るためにな」

オルオ「!?」

グンタ「なるほど、言われてみりゃ確かに」

ペトラ「それじゃ口ではあんなこと言いながらも実は罪悪感とか結構……」

オルオ「な、何を言ってる馬鹿め! たまたま力の加減が出来なかっただけなんだが!?
    俺は顎の力も強いんだよ! 全身鍛えてるからな!」

ペトラ「はいはい、分かった分かった」

オルオ「も……もう治療は終わったな! 俺はもう寝るぞ!」

今日はこのくらいにしておきます
次は多分明後日に来ます

そうして俺は1人部屋へ向かった。

ったく、どいつもこいつも人をからかいやがって。
つい強く噛んじまっただけだってのに。
しかし……これだけ強く噛んでも、エレンのように噛み切れることはないんだな。
じゃああいつ、どんな力で自分の手を噛んでるんだ。
よっぽど思い切りいかねぇと……

エレン「! オルオさん……」

オルオ「っ……!? て……てめぇこんなとこで何してやがる。
    ガキはもうおねんねの時間のはずだが……?」

エレン「いえ、便所に行ってて……」

オルオ「チッ……じゃあさっさと戻れよ」

エレン「…………。あ、あの、オルオさん! えっと……手、大丈夫ですか?」

オルオ「……は?」

オルオ「オイオイ……ガキンチョの癖にいっちょ前に俺を心配するつもりか?
    それにてめぇがいつもやってることだろうがこれは」

エレン「いつもと言うか……。オレと違って先輩方の傷はすぐには……」

オルオ「うるせぇな、余計な心配だって言ってんだよ……。
    それとも何か? 俺のことをナメてんのか?
    たかがこんな傷で弱音を吐くような男だと思ってるってことか?」

エレン「い、いえ! そんなつもりは……!」

オルオ「大体これは俺らが勝手にやったことだ……てめぇに心配される筋合いなんかねぇ。
    いらん心配をするくらいなら自分の心配をした方が賢いと思うがな……。
    上手く巨人を操れなきゃ怪我するのはてめぇの方だってことを忘れたんじゃねぇよな?
    しかも俺らがほんのちょびっとしくじりゃ死ぬんだぜ? 分かってんのか?」

エレン「は、はい……分かってます」

オルオ「……まぁ、この俺の手にかかればまずそんなことはねぇだろうがな。
    そこは安心しとけ。仮にてめぇが暴走しても今朝言った通り半殺しに留めておいてやるよ」

エレン「っ!」

オルオ「とにかくだ……てめぇは余計なことを考えるんじゃねぇ。
    俺らは俺らの仕事をやるからガキはてめぇのやるべき事だけを考えるんだな」

エレン「は……はい! 巨人の力で人類の役に立つよう、努力します……!」

オルオ「! ……フン、わかりゃあ良いんだ。
    ならとっとと寝ろ。また寝不足になっても知らねぇぞ」

エレン「それじゃあ、その……おやすみなさい」

オルオ「……ったく、いちいち言わないと分からねぇとは。世話の焼けるガキだぜ……」

ペトラ「エレン、私達のこと信じてくれるって?」

オルオ「!? ペトラいつの間に……! 
    ……フッ……ぬ、盗み聞きとはなかなか良い趣味をしてるじゃねぇか。
    だがその趣味はこれを機に捨てることだな。どうせ持つならもっと高尚な趣味を……」

ペトラ「ごめんごめん、たまたま聞いちゃったんだよ。それで、エレンはなんて?」

オルオ「フン……これからは自分のやるべき事に集中するんだとよ。
    どうもあいつは集中力が足りないようだったからな。
    まぁ、ちょっときつく説教してやったら大人しく言うことを聞いたが」

ペトラ「自分のやるべき事に……。私達のことを信頼してくれたってことかな」

オルオ「…………」

オルオ「……言っとくがな、ペトラ。
    俺はあいつの信頼を得ようとしたわけじゃねぇぞ……」

ペトラ「ふーん?」

オルオ「こんな傷ごときで心配されることが気に食わなかったからな……
    調子に乗ったガキに大人として説教したってだけだ」

ペトラ「そう。まぁオルオが言うならそうなのかもね」

オルオ「……なんだお前、何か言いたいことがあるのか……」

ペトラ「ううん、別になにも。それじゃ、私はもう寝るね。オルオも早く寝なよ」

オルオ「…………」

ペトラのヤツ、妙に引っかかる態度を取りやがって。
……まぁ良い、確かに俺も眠くなってきた。
今日は色々あったからな……明日に備えて寝るとしよう。




翌日。
昨日は実験で色々あったが今日はごく普通の訓練をした。
長距離索敵陣形を想定した馬術が主で特にキツイわけでもなかったんだが……

ペトラ「エレン、今日の訓練での体調は大丈夫だった?」

エレン「あはは……大丈夫ですよ、本当に。問題ありません」

オルオ「チッ……今日だけで何回訊くつもりだよペトラ」

ペトラ「だって昨日実験があったばっかりなんだし……。
    それに兵長だって、エレンは人一倍体調に気を付けなきゃいけないって言ってたでしょ?」

エレン「あの……心配してもらえるのはありがたいんですが、本当に大丈夫ですから」

ペトラ「そう? だったら良いんだけど……」

ペトラ「でももし何かおかしいと思ったらすぐ言うのよ?」

エルド「ははっ。なんだペトラ、まるでエレンの姉か母親みたいじゃないか」

エレン「えっ!?」

グンタ「となるとエレンはペトラの弟か子どもか?」

エレン「ちょ、ちょっとエルドさん、グンタさん!
    確かにオレはまだ新米ですけど、一応訓練兵を卒業した兵士なんですから……!」

ペトラ「もう、2人して……。ごめんね、エレン。変に心配しすぎちゃったかな」

エレン「あ、いえ、そんな謝る必要は……」

エルド「まぁしかし、心配するのも無理はない。
    巨人化ってのがかなりの体力を消耗するのは事実なんだろ?」

エレン「確かにそうですが……。でも昨日のは腕だけでしかも不完全でしたし、
    それにもう丸1日以上経ってますから」

グンタ「ふむ……なるほどな。実を言うと俺も少し気にかけていたんだが、
    本当に何もなさそうで安心したぜ」

オルオ「俺はまったく心配していなかったぜ?
    おっと、だからと言って調子に乗るなよエレン」

エレン「は、はいっ?」

オルオ「俺がお前を心配しなかったのは、一人前だと認めたからだとかそんな理由じゃない。
    ガキは甘やかさねぇってのが俺の方針だからだ。
    てめぇくらいのガキってのは年上に優しくされるとすぐ付け上がるからな」

エレン「はぁ……」

オルオ「調査兵ってのは壁外から生きて帰って初めて一人前だ。
    それまではまだまだお前はガキンチョのままなんだよ。分かったか?」

エレン「は、はい、わかりました」

オルオ「わかりゃ良いんだ。ホラ、さっさと城に戻るぞ。お前らも早くするんだな」

ペトラ「オルオの話が終わるの待ってたんだけど」

グンタ「エレン、何もあいつの説教に律儀に付き合うことはないんだぞ」

エレン「えっ?」

エルド「次からは適当に流しておけ。どうせ大した内容じゃないんだ」

オルオ「なんだてめぇら……何をコソコソ話してる?」

エルド「なんでもないさ。早く戻ろう」




その後は一旦解散し、各々が部屋に戻った。
しかし今日の訓練で思ったが、あいつら……特にペトラはエレンに甘いな。
ったく……昨日の一件があったからか知らんが、だからと言って甘やかすようじゃ困るぜ。

……だがまぁ良い。
あいつらがどうだろうと、俺は俺のやり方で行けば良い。
なんせ俺の目標はリヴァイ兵長だからな。
兵長のような厳しい指導に徹すれば良いんだ。
あいつらはせいぜい優しい先輩でもやってれば良い。
俺はその間にどんどん兵長の姿に近付いていってやるんだ。

っと……まずい、そろそろ晩飯の時間だ。
遅くなると兵長の気分を害してしまう。
もう部屋を出るとしよう。
それにリヴァイ兵長を目指すってんなら、時間にも厳しくいかねぇとな。

そうして俺は部屋を出て、飯の場所へと向かう。
と、その時ふと気付いた。

……ペトラの部屋に明かりが点いてる?
なんだ、あいつまだ部屋に居るのか?
もう出ねぇと飯の時間に遅れるってのに……。

……仕方ねぇな、呼びに行ってやるか。
まさか新兵だけでなく同期の世話まで焼かなきゃならんとはな。

ペトラの部屋の前に着き、そして一応ノックしてやってから、扉を開ける。

オルオ「オイ、ペトラ何やって……」

その瞬間、開けられていた部屋の窓から一気に風が吹き抜け……
そして俺の顔に何か、紙がぶつかった。

オルオ「んぶっ!?」

ペトラ「えっ!? オ、オルオ!?」

オルオ「くっ……なんだこりゃ。何の紙……。っ!」

ペトラ「か……返して!」

そう叫び、机に向かっていたペトラは勢い良く立ち上がる。
そして俺の方へ走り、奪い取るようにしてその紙を俺の手から引き離した。

オルオ「返してとは何だ、人聞きの悪いヤツめ……」

ペトラ「あ、あぁごめん、つい……。……何の紙か、見た?」

オルオ「……手紙のように見えたが。お前の父親宛のな」

ペトラ「! ま、まさか内容までは……」

オルオ「……安心しろ。親父さんへの手紙ってことくらいしか分からなかったぜ」

ペトラ「そ、そっか……。じゃあ中身は読んでないんだよね?」

オルオ「だからそう言ってるだろ。お前はこの俺を誰だと思ってる。
    他人のプライベートも尊重できないようなヤツだと思ってるのか?
    その程度の分別はつけて振舞っているつもりだったんだがな……」

ペトラ「……だったら人の部屋に入る時はもうちょっと気を遣って欲しいけど」

オルオ「は? オイオイ、何を言ってるペトラ。
    開ける前にちゃんとノックしただろうが。聞こえなかったのか?」

ペトラ「返事する前に開けたじゃない。あれじゃノックなんてしてないようなものだよ」

オルオ「チッ、うるせぇヤツめ……。お前の親父さんの苦労が知れるな」

ペトラ「ウチのお父さんはちゃんと私が返事するまで待っててくれるよ」

オルオ「フン……どうせそれもお前が口うるさく文句言ったからじゃねぇのか?
    やれやれ、もし俺の娘がお前みたいなヤツに成長したらと思うとぞっとするぜ」

ペトラ「娘が出来たらの話だけどね。
    その前に結婚できるかどうかの心配をした方が良いと思うよ」

オルオ「う、うるせぇな……! お前こそどうなんだよ! お前だってリ……」

エレン「あ、あのー。お2人とも?」

ペトラ「! エレン、どうしたの?」

オルオ「邪魔をするなエレン……。今こいつと重要な話をしていたところだ」

エレン「イヤ、しかし……リヴァイ兵長に呼んで来いと言われて……」

オルオ「……あっ」

ペトラ「――なんで呼びに来たオルオが忘れてるのよ!」

オルオ「うるせぇ! 大体お前が手紙に熱中して時間忘れてたのが悪いんだろうが!」

ペトラ「そ……それはそうかも知れないけど……!」

オルオ「クソッ……とにかく急ぐぞ!」

ペトラ「ね、ねぇエレン。兵長、やっぱり怒ってた……?」

エレン「お、俺にはちょっと分かりません。いつも怖い顔してるから……」

そうこう言ってる内に、もう部屋は目の前だ。
そして俺とペトラは部屋に入って、兵長の姿を確認すると同時に……

オルオ「っ……お、遅れて申し訳ありません! リヴァイ兵長!」

ペトラ「も、申し訳ありません!」

リヴァイ「……遅ぇ。待たせやがって……」

オルオ「っ……!」

ペトラ(や、やっぱり怒ってる……)

エレンは分からないと言ってたが、俺達から見りゃ一目瞭然だ。
眉間のシワの寄り方がいつもより……。
エルドとグンタも当然それに気付いているんだろう、表情がこわばってる。

リヴァイ「遅れてきた理由は当然あるんだろうな……。2人揃ってクソが長引いたか?」

オルオ「い、いえ。そんなことは……」

ペトラ「その……父に手紙を書いていたら、じ、時間を忘れてしまって……」

オルオ「お、俺は……も、申し訳ありません。単なる不注意です……」

リヴァイ「……チッ。2人とも食事が終わったらこの部屋を清掃しろ、良いな。
     分かったらさっさと席につけ」

2人「は、はい!」

エレン(や、やっぱ厳しいな、リヴァイ兵長……)




そういうわけで俺は今、床と壁の境をこすっている。
俺としたことが失態だったな……兵長の機嫌を損ねてしまうとは。
それに罰で掃除をさせられるなんて、エレンのヤツにどう思われただろうか。
先輩としての威厳を、ここからまた回復しなければ……。

ただ、さっきから何故かずっと頭から離れないことがある。
……ペトラが親父さんに書いた手紙についてだ。

あの時は咄嗟に「中身は読んでない」と答えたが、
本当はほんの一部分だけ、一瞬だけ、目に入った箇所があった。
そこには……リヴァイ兵長に全てを捧げる、とかいうようなことが書いてあった。

全てを捧げるってのはそりゃつまり……やっぱそういうことだよな。
イヤ、まぁ分かってたことではあるんだが。
あぁ……そうだ、分かってたことじゃねぇか。
改めて確認したってだけだろ。
なのになんでこんなに頭から離れないんだ?

……まぁ、文字で見たからたまたま記憶に焼き付いたってだけだろ。
別に深く考えることも、気にすることもない。

そうだ、ペトラが兵長のことをどう想ってたって関係ないんだよ。
今までと何も変わるもんか。
俺はただ今まで通り、兵長を目指して努力すれば……

ペトラ「ねぇ、オルオ」

オルオ「っ!?」

ペトラ「……何よ、そんなにびっくりすることないでしょ?」

オルオ「さ……作業に集中していたからな。それで何の用だ」

ペトラ「イヤ、流石にそろそろ終わっても良いんじゃない? 時間も時間だし……」

オルオ「あ、あぁ。確かにそうかも知れんな……」

ペトラ「それじゃ、私この雑巾片付けたらそのまま部屋に戻るね。
    オルオはそっちのホウキをお願い」

オルオ「あっ……待て、ペトラ!」

ペトラ「ん? 何?」

オルオ「お前、リヴァイ兵長に……」

ペトラ「え……?」

オルオ「…………」

ペトラ「……オルオ?」

オルオ「……リヴァイ兵長に、自信を持ってこの部屋を見せられるんだろうな?
    見ろ、まだあそこに少し汚れがあるみたいだが?」

ペトラ「あー……ほとんど目立たないけど、確かに兵長なら気付くかも」

オルオ「だろ? フッ……俺が居て良かったな。
    俺が気付かなければ明日も罰が継続するところだったぜ? 感謝しろよペトラ」

ペトラ「はいはい、ありがとう。それじゃ、早くやっちゃおう」

オルオ「あぁ、そうだな」

……俺は今、何を訊こうとしてた?
というか、訊いてどうするつもりだったんだ?

クソッ……なんだってこんなことに頭悩ませなきゃならねぇんだ。
まぁ良い、とにかくこの作業に集中するとしよう。
そうすりゃこの妙な考えもどこかへ消えるだろ。
掃除が終わる頃には、元通りになってるはずだ。

今日はこのくらいにしておきます




思ったとおり、掃除に集中するうちに手紙のことはほとんど気にならなくなっていった。
頭の中から消えたってわけじゃないが、隅の方へ追いやられた。

というより、そんなことを考えられるほど俺の脳みそは元気じゃなくなった。
一度汚れを気にし始めると止まらなくなり、かなり遅い時間まで掃除が続いてしまったからだ。
そのおかげで掃除の後はほとんど何も考えず、部屋に戻ってすぐに眠り込んでしまった。

ペトラ「――ふわぁ……」

オルオ「オイオイ、欠伸とはだらしねぇなペトラ。もう1日は始まっ…………ているんだぜ?」

エルド「今お前噛み殺しただろ」

オルオ「……うるせーな」

グンタ「しかし、そんなに遅くまで掃除をしていたのか?」

ペトラ「うん……やればやるほど汚れてる所が見付かってきて」

オルオ「観察眼が良いってのも困りモンだぜ……」

エルド「さて、そろそろ部屋に着くが……どんなもんか見てやるか、グンタ」

グンタ「ははっ。あぁ、そうだな」

エレン「! おはようございます!」

エルド「よぉエレン。今朝も早いな……おっ?」

ペトラ「どう? なかなかの物でしょ」

グンタ「ほう……ずいぶん頑張ったな。これなら兵長も満足してくれそうだな」

オルオ「当然だ……。言われた仕事は完璧にこなすのが俺だからな」

エレン「オレもびっくりしました、こんなに綺麗になってて。
    その、お疲れ様でした。オレも手伝えたら良かったんですけど……」

エルド「兵長に手伝うなと言われたからな。本当は俺も手伝いたいと思ってたんだが」

オルオ「口だけは達者だな、エルド……」

エルド「オイオイ、心外だな。俺は心の底から……。っ!」

オルオ「あっ……! おはようございます、リヴァイ兵長!」

一同「おはようございます!」

リヴァイ「あぁ。…………」

兵長は一言そう言った後、部屋全体を軽く見回した。
俺とペトラは固唾を飲んで兵長の反応を窺う。
あれだけ頑張ったんだ。
きっと、多分、恐らく、文句なんかは言われないはず……

リヴァイ「……席につけ。飯にするぞ」

オルオ&ペトラ「っ! はい!」

そのままいつも通りに食事が始まり、そして終わった。
食後も兵長に何か言われるということはなく、
そこでようやく俺達はいつも通りの1日が始まったことを確信した。

ペトラ「良かった……。やり直しにならないかと思ってハラハラしたよ」

オルオ「俺は大丈夫だと信じていたぜ? 不安など無かった……。
    自信を持って兵長に見せられる出来に仕上げたつもりだったからな」

ペトラ「あぁそう……」

オルオ「それからエレン……お前また調子に乗ってるんじゃねぇよな?」

エレン「はいっ!?」

エルド(また始まった)

グンタ(よく飽きないな、こいつも)

オルオ「あの清掃は俺達に与えられた罰だった……。それは認めよう。
    失態を犯した者には罰が与えられて当然だからな。
    しかし俺達はその試練を乗り越え、見事兵長の信頼を取り戻せた」

エレン「はい、まぁ……」

オルオ「失いかけた信頼を取り戻す……。これが一人前の兵士に求められる資質・能力だ。
    そして俺達はそれを実践してみせた。
    わかったなエレン。既にあの失態は過去の物だ。
    俺達が自らの心に刻み反省すべきものではあるが、いつまでも……」

リヴァイ「全員集まれ。訓練を始めるぞ」

オルオ「っ! はい! ……とにかくそういうことだ、わかったな……!」

エレン「え……は、はい」

エレン(よくわからなかった……)




エルド「今日の訓練はここまでだ。戻るぞ」

エレン「はい、了解です」

オルオ「…………」

……今朝はタイミングが悪くて最後まで言いたいことを言えなかった
あれで威厳を取り戻せたかどうか、今ひとつ分からんな……。
それなら……よし、ここで1つ先輩としてやるべきことをやっておくとするか。

オルオ「オイ……エレン」

エレン「はい?」

オルオ「『はい?』じゃねぇよ、とぼけた返事しやがって……お前気付いてないのか?
    てめぇの馬術がどれだけお粗末かってことを……」

エレン「えっ……。オ、オレ、今日の訓練でそんなに……?」

オルオ「ハァ……やっぱり気付いてなかったのか」

エレン「は、はい。あの……どこがおかしかったんでしょうか」

オルオ「てめぇ訓練兵時代に何やってたんだ。
    せめてこの程度の馬術はこなしてもらわねぇと困るんだが?」

エレン「す、すみません。それで、どこを直せば……?」

オルオ「なんだ、そんなことも分からないのか? やれやれ……。
    自分のどこがお粗末かも分からねぇようじゃますます程度が知れるってもんだぜ」

エレン「はい……すみません。それで、どこが……」

オルオ「些細ではあるが致命的な穴……この俺じゃねぇと気付けないくらいの些細なものだ。
    ま、新兵に少し期待し過ぎたな。お前ごときがこの些細な穴に気付けるはずが……」

ペトラ「どこが悪いのか早く教えてあげたら?」

オルオ「フッ……まぁ待てよペトラ。お前も俺のこの観察眼によって見付けた
    エレンの欠点を早く知りたいことだろう。だがな、そう簡単に教えてやるってのも……」

エルド「エレン、お前は馬の向きを変える時に体に余計な力が入っているようだ」

グンタ「あぁ。そのせいで少し軸がブレ気味になっている。強いて言うとすればこのくらいだ」

ペトラ「あ、なんだそのこと?」

オルオ「!?」

エレン「そ、そうだったんですか……気を付けます」

ペトラ「でも本当に些細なものだし、別にそれほど気にする必要は……」

オルオ「い……いや、そんなことはねぇぞ。
    今は些細なもんだが、これが後々致命的な事態を引き起こすかも知れん」

エルド「まぁ確かに直せるなら直すに越したことはないが、
    意識しすぎて余計おかしなことになっても困るしな」

グンタ「つまり、あまり気にするなってことだ」

オルオ「くっ……! オイ、エレン……1つコツを教えておいてやる……。
    体の力を抜いてリラックスするんだ。そうすりゃ余計な力は入らずに済む……」

ペトラ「……それ、当たり前じゃない?」

オルオ「う、うるせぇよ! 良いかエレン、分かったな!?」

エレン「は、はい。どうもありがとうございます」

オルオ「ったく……どいつもこいつも甘すぎるぜ。
    そんなんだからガキを調子に乗らせることになる……俺のようにもっと厳しくだな……」

エレン「えーっと……」

エルド「ほっとけエレン。ホラ、さっさと帰るぞ」

エレン「えっ、あ……はい」

――その日からも、俺達が行ったのは一般の兵士が訓練と変わらないものだった。
本来ならエレンの巨人化の訓練なんかもしなければならないんだろうが、
とてもじゃないがたった1ヶ月でなんとかなるとは思えない。

団長やハンジ分隊長もそう判断したのか、
特に力を入れたのはエレンに今回の壁外調査を生き延びる術を教えること……。
つまり長距離索敵陣形を叩き込むことだった。

それから、どのようなことが起きた時にどのように対処すれば良いのか、
基本的なことを教え、覚えさせる訓練を、毎日続けていった。

オルオ「――以前言ったことは、まぁそれなりには出来るようになったようだなエレン。
    だがまだ完璧とは言えん。当たり前だがな」

エレン「はぁ……」

オルオ「まぁお前程度ではたった1ヶ月で完璧を目指すってのがそもそも不可能だ。
    俺くらいになればそれも可能だろうがな……」

エレン「そうですか、すごいですね……」

ペトラ「良いよエレン、いちいち褒めてあげなくても」

オルオ「フッ……嫉妬かペトラ? まぁ、俺の才能を羨む気持ちは分からなくもないが……」

グンタ「ところでエレン。お前の初陣まで残りもう数日を切ったわけだが、
    何か訊いておきたいことなんかはないか?」

エレン「訊いておきたいこと、ですか?」

エルド「なるほど、確かに何かあれば訊いておいた方が良いな。
    明日からは恐らく、これ以上新しい知識を入れることはない。
    今ある知識を確実に定着させて実践するための訓練が主になるだろう。
    訊いておきたいことなんかがあれば今日のうちに訊いておいた方が良いぞ」

エレン「……特にこれまでの訓練での内容には質問はないんですが……。
    その、本当に巨人の力を使う特訓はしなくても良かったんでしょうか?
    結局あの実験が最初で最後でしたし……」

ペトラ「……やっぱり、巨人の力を使いこなす自信がないままっていうのは不安?」

エレン「はい……。オレの仕事は、この力を人類のために役立てることですし……」

グンタ「まぁ気持ちは分からんでもないが、今の時点でそこまで不安になることもない。
    前にも言ったが、今回の壁外調査はお前をシガンシナに送るための試運転だ。
    現段階で必ずしもお前が巨人の力を使いこなせていなければならないわけじゃない」

エルド「それに特訓したところで、ほんの1ヶ月で使いこなせるようになるとも限らないしな。
    リスクの高い方法を試すより、まず生きて帰れる確率を上げる方が先だ」

エレン「……そう、ですね。確かにそうかも知れません」

オルオ「ったく……大体考えが甘いんだよエレン。
    この1ヶ月で、ただの馬術や立体機動ですら俺の言った通りのことがこなせなかったんだぜ?
    そんなお前が巨人の力なんてもんを使いこなせるようになると思うか?」

エレン「そ、それは……」

オルオ「なまじガキの癖にでかい力を手に入れたからと言って、すぐのぼせ上がりやがる。
    大方、今回の壁外調査で早速巨人の力を使って暴れ回るつもりだったんじゃねぇのか。
    なぁエレン、図星だろ?」

エレン「っ……ただオレは、自分の力を一刻も早く調査兵団の役に立てたいと……!」

エルド「意気込みは十分だが、それにはまだ少し早すぎるな。
    役に立ってもらうのはお前がその力を使いこなせるようになってからだ」

エレン「で……ではやはり、今回は……」

グンタ「あぁ。巨人の力は使うべきじゃない」

グンタ「だが絶対に使うなと言ってるわけじゃない。
    お前自身が危険になった時には巨人となって危機を脱するべきだ。
    本当にどうしても仕方がなくなった時に限ってな」

エレン「それはつまり……自分の命を守るためだけに使えと、そういうことですか?」

グンタ「あぁ、その通りだ」

エレン「…………」

ペトラ「エレン……もしかして不満?」

エレン「! いえ、不満ということはないんですが……。
    力を持っていながらまだ役に立てないというのが、少し悔しい気持ちもあります」

ペトラ「だけど、仕方ないことなの。あなたが力を使いこなせる確証がない以上、
    無闇に頼るべきじゃない。そのことはエレン、あなたもわかってるでしょ?」

エレン「……はい」

ペトラ「それじゃあ……約束して。
    巨人の力は、あなたの命が危うくなった時だけ使うって。
    決して積極的に戦ったりするために使ったりはしない、って」

エレン「わ……わかりました。約束します」

ペトラ「うん。ありがとう、エレン」

オルオ「チッ……こんな当たり前のことは改めて言うまでもないと思っていたがな」

エレン「うっ……すみません」

オルオ「調査兵団に入ってたった1ヶ月でいっちょ前に俺達の役に立とうとするってのが甘いんだよ。
    ガキならガキらしく、まずは基礎基本を徹底することだな。
    てめぇが人類の役に立てるようになるのは、今回の壁外調査が終わってからだ。
    その後にゃたっぷり時間があるからな。俺達もじっくりしごき上げてやるぜ」

ペトラ「オルオの言い方はアレだけど……
    巨人の力のことを考えるのはまた今度っていうのは確かにその通りかもね。
    まぁ初陣が終わったらきっと、巨人の力を操るための本格的な訓練が始まると思うし、
    そうなったら私達ももちろん協力するから、頑張って使いこなせるようになりましょう?」

エレン「は、はい! ありがとうございます」

グンタ「オイオイ、2人とももう終わった後の話か? そりゃちょっと気が早いと思うが」

エルド「グンタの言う通りだな。まずは生きて帰ることが先だ」

ペトラ「そっか、そうだね。訓練はまだ数日あるし、その間に少しでも生存率を上げる努力をしなきゃ」

オルオ「フン……あの程度の距離の壁外調査で何か起こるとも思えんがな。
    これまでに比べりゃお散歩みたいなモンだろ。
    まぁ、新米のガキにとっちゃ果てしなく長い道のりに感じるかも知れんが。
    残り数日の間にせいぜい覚悟を決めておけよエレン」

エレン「はい!」

今日はこのくらいにしておきます
多分明日で完結します




その数日が過ぎるのはあっという間だった。
明日はエレンにとっちゃ初陣……。
そしてリヴァイ班としてと見れば、俺達にとっても初陣になる。

グンタ「なんだ、エレンのヤツはもう寝たのか? またずいぶん早いな」

ペトラ「明日に備えて、ってことなんだろうね。あんまり気負いすぎないと良いんだけど」

エルド「なに、ここ数日のあいつを見る限りでは大丈夫だろう。
    緊張するようなヤツでもなさそうだしよ」

オルオ「そいつは何よりだ。緊張なんかして俺達の脚を引っ張ってもらっちゃ困るからな」

ペトラ「それにしても……もう明日か。
    私達が同じ班で壁外に出るのなんて何年振りだろ?」

エルド「言われてみれば確かに久し振りだな、このメンバーで戦うってのは……。
    訓練じゃほとんど確認する暇がなかったが、連携なんかは上手く取れるだろうか?」

オルオ「フッ、安心しろ……。俺がお前らの考えを読んで、合わせて動いてやる。
    この俺の実力があればその程度は造作もないことだ」

グンタ「まぁ明日に限っては巨人と戦う機会は無い可能性もあるがな。
    出来ればそうであることを祈ろう」

ペトラ「だよね、それが一番。……そう言えばリヴァイ班って、あとどれくらい続くのかな?」

グンタ「そうだな……少なくともエレンが巨人の力を
    使いこなせるようになるまでは存続するんじゃないのか?」

エルド「暴走したエレンを抑えるのも俺達の仕事だしな。
    ただ、一番の仕事はあいつを守ることだ。
    それを考えれば、エレンが役目を全うするまでは続くかも知れん」

ペトラ「……そっか」

エルド「それで、なんだ。それがどうかしたのか?」

ペトラ「ううん、別になんでも……」

オルオ「あぁ、さてはお前……俺達と離れたくないと思っていやがるな?」

ペトラ「っ!」

オルオ「やれやれ、相変わらず感傷的なヤツだ……。
    多少腕は上げてもその辺はガキの頃とほとんど変わっちゃいないな。
    まぁ、なんだ。生意気ではあるがなかなか可愛いとこも……」

ペトラ「ち、違うよ! 私はただ、兵長のもとであとどのくらい戦えるのかなって思っただけ!」

オルオ「! お、おう、そうか……なるほど……」

グンタ「ははっ、まぁ気持ちはわからなくもないな。
    兵長の班で戦えるなんて滅多にないことだろうしよ。お前は特にそうだろ、オルオ」

オルオ「……。……フッ、何を言ってる? 俺は将来は兵長の右腕になる男だぜ?
    リヴァイ班にただ所属している程度で喜ぶようなレベルじゃねぇんだ。わかるか?」

エルド「オルオは昔からそこだけは変わらないな。
    お前、人類にではなく兵長に心臓を捧げてるんじゃないのか?」

オルオ「! ……そう言えばペトラ。お前あれ以降、手紙は書いたのか?」

ペトラ「手紙ってお父さんに? 書いてないけど……なんで?」

オルオ「……なんとなくだ」

グンタ「手紙か……俺も一通くらいは出しておけば良かったかも知れんな。
    まぁ今回の壁外調査が終わったら家に寄りはするだろうが」

エルド「そうか。そろそろ家にも顔を見せた方が良いかもな」

グンタ「そりゃあお前は特にそうだろ。恋人が待ちかねてるだろうしよ」

ペトラ「そうだエルド、結婚はいつするの? 交際を始めてからもうかなり長いんでしょ?」

オルオ「なに、結婚だと? エルドのヤツが……」

エルド「……結婚か。いつかしようとは思っているんだが、なかなかその……機会が訪れなくてな」

グンタ「何を言ってる。プロポーズのチャンスなんか今まで何度もあっただろ。
    まさかお前、ためらってるのか?」

オルオ「……ちっ、意気地のないヤツめ。結婚するならさっさとしろよ」

エルド「まぁ……するにしてももう少し先だな。
    まずは今回の壁外調査が終わって、リヴァイ班としての仕事が少し落ち着いてからだ。
    そうなってから追々考えるさ」

ペトラ「仕事を優先するのも良いけど、出来るだけ早く決めてあげた方が良いと思うよ」

エルド「わかったよ。やれやれ……まさかお前らに結婚のことをせっつかれるとはな。
    そういうお前らは結婚なんかまだまだ先だろうに」

ペトラ「あはは、まぁね……。特にウチは多分お父さんがそういうの厳しいからなぁ。
    仮に結婚したいって言ってもまだあと数年くらいはさせてもらえなさそう」

エルド「ん? そりゃ結婚したい相手が居るってことか?」

ペトラ「えっ!? 違うよ、そうじゃなくて! 例えばの話!!
    それより、うん。私も今回は家に帰って顔くらい見せようかな!」

オルオ「…………」

グンタ「じゃあ今回は全員実家に寄るってことか。
    しかし大丈夫か? 4人が一度に抜けたりして」

オルオ「……ん? オイ、ちょっと待て。俺は一言も実家に寄るなどと言ってないんだが?」

グンタ「なんだ、寄らないのか? 昔は壁外調査から帰るたびに顔を見せに行ってただろ」

オルオ「まぁ……寄るつもりではあるが」

エルド「やっぱりそうじゃないか。今回も飯を食って来るんだろ?」

オルオ「……あれは親が勝手に作ってるから、仕方なくだな……」

ペトラ「その割にはいつも満足そうな顔して兵舎に戻ってきてたよね」

オルオ「う、うるせぇ! それより見ろ、もうこんな時間だぞ!
    俺達も明日に備えて寝ておくべきじゃないのか! なぁ!」

グンタ「ははっ……あぁ、そうだな。それじゃあ解散するとするか」

エルド「あぁ。明日は頑張ろうぜ」

オルオ「良いなお前ら、せいぜい俺の脚は引っ張っ」

ペトラ「おやすみ、みんな。また明日ね」

オルオ「…………」




翌朝

エレン「あ……おはようございます」

エルド「よぉ、エレン。よく眠れたか?」

エレン「始めは少し寝付けませんでしたが、なんとか」

グンタ「寝付けなかった……緊張してるのか? そういうガラには見えなかったが」

エレン「やはり流石に、少し……。それから同期のことも気になって……」

ペトラ「そっか、エレンと仲が良かった子達もウチに入ったんだっけ」

オルオ「この期に及んで他人の心配とはずいぶん余裕こいてやがるじゃねぇか、エレン」

エレン「そ、そんなことはないんですが……」

エルド「まぁ気持ちはよく分かるが、自分の事にはしっかり集中しろよ?
    あんまり他人ばかり気にかけていると自分がやばくなるからな」

エレン「……はい、わかってます!」

グンタ「意気込みは十分だな。まぁ、何度も言うが今回の壁外調査は距離が短い。
    その分新兵達の生き残る確率は高くなるだろう。
    気休め程度だが、そう考えておけば良いさ」

ペトラ「それに今期は全員、あのトロスト区襲撃を生き延びたんだから。
   生存率は例年に比べてグッと高いはずだよ」

エレン「! そうですね……ありがとうございます」

オルオ「ったく、いちいち元気付けてやらなきゃならんとはな。手間のかかるガキだぜ」

ペトラ「オルオ何も言ってないじゃない」

グンタ「さて、エレン。もうあと数時間もしないうちに壁外へと出るわけだが……
    1つ確認しておくぞ。お前が巨人の力を使うことが許されるのは、
    お前の命が危うくなった時だけだ。それは覚えているな?」

エレン「っ……はい! 覚えてます……!」

オルオ「まぁ、そんな機会は訪れないだろうがな。
    なんせお前の周りはこの俺達が取り囲んでいるんだ。
    そんな中でお前に出番なんか訪れると思うか? 答えはノーだ。
    良かったなエレン、行って帰るだけの簡単なお仕事だぞ?」

エレン「はは……」

エルド「まぁそうだと良いな。それを現実にできるよう、頑張るとしようぜ」

ペトラ「うん。今日までやれるだけのことはやったし……あとは最善を尽くそう!」




そう、今回の壁外調査はエレンをシガンシナに送るための試運転。
距離も短い上に、俺達が居るのは陣形で最も安全な配置。
だから何も問題ない。
何も問題は起きない……と思っていた。
しかし違った。

この壁外調査は、突如現れた女型の巨人……その中身のヤツを捕獲するためのものだった。
一時はどうなることかと思ったが待ち伏せしていたエルヴィン団長達の手により、
女型巨人を捕獲することに成功した。

この作戦が知らされていなかったことについてエレンのヤツが何か言ってたが、まぁガキの戯言だ。
5年というラインで団長が線引きをして諜報員を炙り出そうとしたってんなら、
俺達に知らされていなかったというのも仕方のないことだしな。

グンタ「それにしても諜報員とは……一体誰なんだろうな。
    もしかしたら俺達の知っている顔の可能性もあるわけだろ?」

ペトラ「私達の知り合いに人類の敵が居るなんて、考えたくないけど……」

オルオ「フン……俺は知ってる顔の中に敵が居るとは思えん。
    居るとすりゃあ新兵だな。エレン、お前らの同期だよ。
    どうだ、何か心当たりのあるヤツが居るんじゃねぇのか?」

エレン「そんな……! オレの同期にだって、そんなヤツが居るなんて考えられませんよ!」

エルド「確かに自分の知り合いに敵が居たとは思いたくないな。
    まぁ可能性としては駐屯兵団や憲兵団だってことも考えられるんだ。
    今あれこれ頭を悩ませたって仕方ないさ」

グンタ「そうだな。とにかく女型の捕獲には成功したんだ。
    中身の正体が分かるのも時間の問題だろう。その時を待つとしようぜ」

エルド「しかしエレンをエサにしておびき寄せようとするとは、団長も思い切ったことをしたな。
    試運転だとか言いながら、まさかエサだったとは……。
    おっと、気を落とすなよエレン。知らされていなかったのは俺達も同じなんだからな」

エレン「はい……わかってまず」

オルオ「なんだ、いっちょ前に不満かエレン? それだからお前はガキなんだ」

エレン「はいっ? いえ、別に不満ということは……」

オルオ「お前は何も知らずエサをやらされていたことに不満だろうが、
    俺達はそんなことはないぜ? たとえ何も知らされていなくてもな。
    なぜなら俺達はエルヴィン団長に信頼され、そして団長を信頼しているからだ。
    ガキのお前にはまだわからないだろうがな」

ペトラ「……さっきも似たような話しなかったっけ?」

オルオ「フッ、甘いなペトラ……。
    似てるようで実は違うのさ。この違いが分からないのか?
    まぁ仮に、似た話題であったとしてもだ。
    こうして繰り返して言うことは決して無駄じゃない……。
    ガキってのは何度も言ってやらねぇとすぐ忘れ……」

と、その時だった。
森の奥から尋常でない悲鳴が聞こえたのは。

エレン「!?」

ペトラ「な、何!?」

恐らく森全体に響き渡るほどの悲鳴。
それはしばらく続いたかと思えば……今度は突然、ぴたりと止んだ。

エルド「な……なんだったんだ、今のは」

グンタ「方向から考えてもあの女型巨人の悲鳴ってことで間違いはないんだろうが……」

エレン「何か異変があったんじゃ……! む、向こうに居る人達は大丈夫でしょうか!?」

エルド「……仮に異変があったのだとしても下手に動くわけにはいかない。俺達はここで待機だ」

エレン「っ……」

ペトラ「何もなければ良いんだけど……」

オルオ「そう不安を感じる必要はないと思うがな……。
    俺にはなんとなく分かるぜ。あれは痛みと恐怖の悲鳴だ」

エルド「……まぁその可能性もあるだろうが」

グンタ「だと良いだが……」

エレン「えっ? ど、どういうことですか?」

オルオ「わからねぇか? しょうがねぇな……つまりだ。
    中身をうなじから切り出すことに成功したってことだ。
    その時に手足を一緒に切り落とされたもんで、ビビッて悲鳴あげちまったんだろうぜ」

エレン「それって、作戦が成功したってことですか……!?」

ペトラ「そういうことだね。だとすればじきに撤退の合図があるはずだよ。
    中身を拘束したり色々準備はあるだろうけど、その後にね」

あの悲鳴は、女型の断末魔……きっとそうに違いない。
寧ろそれ以外ならじゃあ何なんだって話になるしな。

そしてそれから少し経ち……やはり俺達の予想通りだったことがわかった。

エレン「! 青の煙弾、ということは……」

グンタ「どうやら終わったようだ……。馬に戻るぞ! 撤退の準備だ!」

オルオ「だそうだ。中身のクソ野郎がどんなツラしてるか拝みに行こうじゃねぇか」

エレン「本当に、ヤツの正体が……?」

ペトラ「エレンのおかげでね」

エレン「え? オレは特に何も……」

ペトラ「私達を信じてくれたでしょ?」

ペトラ「あの時、私達を信じてくれたから今の結果がある。
    正しい選択をすることって、結構難しいことだよ?」

オルオ「オイあんまり甘やかすんじゃねぇよペトラ。こいつが何したって言うんだ?
    みっともなくギャアギャア騒いでただけじゃねぇか」

エレン「うっ……」

オルオ「ま、最初は生きて帰ってくりゃ上出来かもな。
    だがそれも作戦が終わるまでは評価できん。良いかガキンチョ。
    お家に帰るまでが壁外遠征だからな」

エレン「もう、わかりましたって……」

エルド「……お前ら2人とも初陣でションベン漏らして泣いてた癖に立派になったもんだな」

オルオ「!?」

ペトラ「ぎゃあああああ!!」

ペトラ「言うなよ! 威厳とかなくなったらさぁ!!! どうするんだよエルド!!」

エルド「事実だろ? 俺は漏らしてないからなエレン」

オルオ「馬鹿め!! 俺のが討伐数とかの実績は上なんだが!? 上なんだが!? バーカ!!」

エルド「討伐数だけでは兵士の優劣は語れない」

オルオ「うるせぇバーカ!」

エレン「ペトラさん! 空中で撒き散らしたってことですか!?」

ペトラ「エルドぉおおおおおおお!!」

グンタ「お前らピクニックに来てんのか!? 壁外なんだぞここは!
    ……ちなみに俺も漏らしてねぇからなエレン!」

と、その直後。
木々の隙間から、緑の煙弾が見えた。

グンタ「! おっと……きっとリヴァイ兵長からの連絡だ。
   兵長と合流するぞ! 続きは帰ってからやれ!」

そう言い、グンタも煙弾を打ち上げて俺達の居場所を知らせる。
兵長と合流するってんなら仕方ない……今は大人しくしといてやる。

だが覚えてろエルド……絶対許さねぇ……!
言わないと言ってたのに今更約束を破りやがってこの野郎……。
しかもよりによってエレンの前で!
帰ったら酷い目に遭わせてやるからな!

そんなことを考えている間に、視界の端に1つ、立体機動で飛ぶ影が映った。
どうやらリヴァ……待て、何かおかしい。

グンタ「リヴァイ兵長……イヤ、違う! 誰だ!?」

次の瞬間。
そいつは急に向きを変え、そして……

エレン「!? グンタさん!?」

エルド「っ!?」

オルオ「なッ……」

ペトラ「……嘘」

……見えた。
今、見えた。
はっきり見えた……!
あいつはリヴァイ兵長じゃない……。
あいつは今……グンタのうなじを刃で削ぎやがった!!
グンタを、殺しやがった……!!

っ……許さねぇ、グンタを、よくも、よくもグンタを!!
このクソ野郎、今すぐそっちに行って俺がてめぇを……

 グンタ『エレンは俺達の仲間だ。そしてリヴァイ班の任務は、エレンを守ることだ。
     あいつを守ってやらなきゃならねぇと、改めて意志を固めることができたよ』

オルオ「っ……! エレン止まるな! 進め!!」

ペトラ「誰だ!!」

エルド「エレンを守れ!!」

エレン「……! グンタさんが……!」

っ……俺達の仕事はその場の感情に身を任せることじゃない。
俺達はこいつを……エレンを守らなければならないんだ!
しかし……!

オルオ「チクショウどうする!? エルド! どこへ向かえば良い!?」

エルド「馬に乗る暇はない! 全速力で本部に向かえ!!」

オルオ「女型の中身が!? それとも複数居るのか!?」

ペトラ「クッソ……よくも! かかってこい!! 刺し違えてでも倒す!!」

エレン「女型が!? どうして……! 捕まったんじゃなかったのかよ!?」

……そして、稲光にも似た閃光が走った。

エルド「やはりか……来るぞ!! 女型の巨人だ!!」

オルオ「ッ……」

クソッ、どういうわけか分からねぇが、事実ははっきりしている!
女型の捕獲には失敗したんだ!
ヤツは何らかの手で逃げ出し、俺達を見付けた。
そして、グンタを殺した!
こいつは……!

エレン「くそ……よくも! 今度こそやります!! 俺が奴を!!」

エルド「だめだ!! 俺達3人で女型の巨人を仕留める!
    エレンはこのまま全速力で本部を目指せ!!」

エレン「オレも戦います!!」

エルド「これが最善策だ! お前の力はリスクが多すぎる!!」

オルオ「なんだてめぇ……俺達の腕を疑ってんのか!?」

ペトラ「そうなのエレン? 私達のことがそんなに……信じられないの?」

エレン「……! っ……我が班の勝利を信じてます!! ご武運を!!」

……そうだ、それで良い。
俺達の仕事はお前を守ること。
そのためにお前には戦わせない。
これがそのための最善策。

だが……それだけじゃない。
こいつは、こいつだけは……俺達が殺す!!

エルド「うぉおおおおおおお!!」

っ!
オルオが陽動に行った……今だ!!

オルオ&ペトラ「ふっ!!」

よし、目を削いだ!
視力を奪った!

オルオ「っ!」

クソ女型が……うなじを守りやがって。
そのまま目の回復を待つつもりか?
そんなことさせるかクソが!!

うなじを守る手が邪魔だ。
だがすぐにその腕を上げられなくしてやる。
エルドもペトラも当然、同じことを考えている。

俺達3人で……肩周りの筋肉全部!
削いでやる!!
その腕を落とす!!
そして報いを受けろ!
グンタを、大勢の仲間を殺した報いを!
てめぇにあいつらと同じ気持ちを味わわせてやる!!

オルオ「っ! 落ちた!」

ようやく腕を下ろしたか!
てめぇが死ぬのも時間の問題だ!!

エルド「次は首だ!! 」

オルオ「首を支える筋肉を削げば!!」

ペトラ「うなじが狙える!!」

さっきはほったらかしにして済まなかった、グンタ……。
だが待ってろ、もうすぐだ!
俺達がお前の仇を取ってやる!
俺達が今!!

エルド「今すぐそのうなじを――」

 バクッ

オルオ「ッ……!?」

ペトラ「エルド!!」

嘘、だろ……。
く、食われた……?
エルドが、エルドが食われた……!?
なんでだよ、なんでだ、馬鹿な、あり得ない、死んだ、エルドが、食われ、なんで……。

目が、治ってる……片目、片目だけ治った、治したのか……!?
クソッ、クソッ、クソッ、クソッ……!
まずい、ここからどう戦う、グンタもエルドも殺されて!
な、なんとかするんだ、なんとか、ペトラと2人で、なんとか……

オルオ「ッ……!」

ペトラ「なんでよ!! まだ目が見えるわけがない!!」

ペトラ「まだ、30秒も……!」

ペトラに視線を移して、気付いた。
ペトラは体勢を崩していた。
そしてそのことに気付いたのは俺だけじゃなかった。
エルドを吐き出した女型は……ペトラに向かって足を踏み出した。


……やめろ、やめろ。
ふざけんな、やめろ、やめてくれ、頼む、やめてくれ……!
やめてくれ、やめろ、やめてくれ……!
死ぬな、頼む、ペトラ、お願いだ、ペトラ、俺は……!


   『あっ……そ、そうだペトラ。お前調査兵団に入りたいってのはマジか!?』

   『だったらお前、もっと腕を磨かねぇといけないよな?
   今のままじゃとてもじゃないがやっていけないぞ』

ペトラ「片目だけ!? 片目だけ優先して早く治した!?」

   『しかしあれだ……お前が俺に並ぶなんてことは多分この先ないと思う』

ペトラ「そんなことが、できるなんて……!!」

   『弱いヤツは強いヤツに助けてもらわないと生きていけねぇよな。だが甘えるんじゃねぇぞ?』

オルオ「ッ……ペトラ!! 早く体勢を治せ!!」

   『まずはお前がちゃんと自分で出来る努力をしてさ、それでもダメだった時は……』

オルオ「ペトラ!! 早くしろ――」

   『俺がお前を助けてやるよ』

  ブヂュ

オルオ「……なぜだ。刃が通らねぇ……」

……もし。
もしリヴァイ兵長なら、この刃は通せただろうか。
きっと通せただろう。

もしリヴァイ兵長なら、こいつを殺せただろうか。
きっと殺せただろう。

そしてリヴァイ兵長なら……きっとペトラを助けられただろう。

やはり俺は、足りなかった。
ガキの頃からリヴァイ兵長に憧れ、リヴァイ兵長を目指した。

だが駄目だった。

だから……ペトラは死んだ。
みんな死んだ。

リヴァイ兵長なら、グンタも、エルドも、ペトラも。
みんな守れた。
俺がリヴァイ兵長ならみんな守れた。

俺がリヴァイ兵長ならペトラを助けられた。
俺がリヴァイ兵長ならペトラは死ななかった。
俺がリヴァイ兵長ならペトラに……

……俺もリヴァイ兵長みたいになりたかったな。


    グシャッ

おしまいです
付き合ってくれた人ありがとう、お疲れ様でした

改めて辛い…
他に書いたssがあれば教えて欲しいです

乙ありがとうございます

>>261
サシャ「もう、嫌だ……暴力なんて……」
エレン「……は?リヴァエレ?」
エレン「流石だな!名探偵アルミン!」
エレン「同期にホモとレズしか居ない……」
「進撃のラッキースケベ」

多分このくらいです
バカみてぇなSSばっかりです

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom