魔王「俺は悪なのか?」(13)

国王だか精霊王だか女神だかに勇者に選ばれた俺は

冒険者の酒場で仲間を集めて旅に出た

道中、苦しい事もあったが魔王を倒して世界が平和になった事でチャラとなった

…筈だった…

魔王を倒して故郷に凱旋する俺たちを待っていたのは両親と幼馴染み、大臣や国王だった

勇者が魔王を倒したと喜び、1週間に渡る大宴会が催された

その時は誰もが平和を喜び楽しんだ

大宴会も終わり、俺たちに日常がやって来た

とは言え、戦いの毎日を送ってきた勇者の性分なのか戦いに関連した何かをしてないと落ち着かない

俺は剣術道場を開いた

大臣には必要ないと言われたが英雄の権力で黙らせた

それからは充実した日々を過ごした

平和の中でありながら非常時を想定した修行を門下生たちと行う事で俺の精神は徐々に平和に沈みつつあった

魔王討伐から半年が過ぎた

何故か体調が優れない

熱が下がらない

体にちからが入らない

頭がボーッとする

俺の意識は闇に飲まれていった

朦朧とした意識の遠くで俺を呼ぶ声が聞こえる

…いや俺を呼んでる訳じゃない

俺の方に向かって呼んでるだけだ

次第に意識を取り戻すと見知らぬ天井が見えた

「何処だ…?ここは…」

言葉を声に出すと驚いた。俺の声じゃない別人の声が出る

状況がわからず起き上がろうとすると傍にいた白フードが俺に気付いた

「良かった!気付かれたのですね!」

白フードはとても嬉しそうにピョコピョコ跳ねた

白フードは俺を勇者とは呼ばなかった、どうやら誰かと勘違いされてるらしい

俺は体が本調子ではない事を悟られて献身的な世話を受けている

当然、白フードがだ

だいぶ調子が戻ってくる頃には白フードが何者なのかがわかった

その正体はゴーゴンの子供だった

目を見つめると石化させられる魔物だ

性別はどっちだろう?声からは幼さを感じられるが男とも女とも聞こえる

容姿にしても白いローブをすっぽりと纏っている。幼いからか凹凸は見られない

「君は何故俺を助けるのか?」と訊ねてみた

「貴方が命の恩人だから」と答えられた

子供とはいえ魔物を助ける人間がいる事に驚くが恩返しをする魔物にも驚いた

この子の恩人とやらに会ってみたくなった

……………
………


俺が自宅で気を失ってから今に至るまでどれくらい経っただろうか

辺りはやはり見覚えの無い一室

国内ではない何処かに連れてこられた…

…誰に?何の目的で?

流石に人違いの好意を受けるのは畑違いだと思い魔物の子に全てを話した

魔物の子は泣きじゃくった

まるで俺は悪人じゃないか

しかし…

魔物の子には悪いが泣いてる所に訊ねてみた

「君は俺を誰と勘違いしたのか?」

すると泣きながら答えてくれた

「…ま…王…さま…」

……………

そういえば

俺が倒した魔王の側近だか従者だかにゴーゴンが居たような

まさか、そいつの子供!?

確認してみる

まさにだった

…あぁ…ショックだろうな

魔王だと思って看護してたのがよりによって人違いな上に魔王を倒した勇者だもんなぁ

「君は、俺を殺す権利がある」

声に出ていた

自分の母親を殺した相手が目の前にいる

魔族は悪だからと一方的に殺戮してきた

欠片も疑問に思わず

俺は覚悟していた

いつかこんな日が来ると

だからこそ平和に酔いしれた

しかし彼ら魔族に何もしてやらなかった罪悪感

それらがツケとなって今があるとしたら

俺はこの子に喜んで殺されよう

……………
………

俺は殺されなかった

未だに生きている

その理由は

俺が

魔王を継いだからだ

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