ブサ男「はあ…(明日も学校か…)」 (100)

ブサ男は一人で夜の公園のベンチにいた
初夏の夜は昼のうだるような暑さが嘘のようで、頬に当たる風がわずかにブサ男の体温を下げた
その爽やかな初夏の風とは裏腹にブサ男の気持ちは重く沈んでいた

ブサ男「はあ…」

???「こんばんは」

女性の声がした

ブサ男「え?」

ブサ男が顔を上げると声の主はさらに続けた
暗くて顔の細部までは確認できなかったが街灯の光を背にしたシルエットだけではまさにモデルのような印象だった

???「お隣良いですか?」

ブサ男「あ…はい」

隣に座った女性の顔を見てブサ男の心臓がいつもの1.5倍程の早さで鼓動を打ち始めた
二重でまぶたで鼻筋が通っており、唇がぷっくりとしている
その女がブサ男に向けて笑顔を見せている
女の瞳には優しい中に芯があるようなそのような印象があった

女「涼しいですね」

ブサ男「はい」

女の肩に届くか届かないかの長さの茶髪が風でわずかに揺れている
服装は体のラインにぴったりと張り付いた白地のプリントTシャツにデニム生地のショートパンツ、足元はサンダルとシンプルである
見た目は若く見えるが声のトーンや話し方でブサ男は自分よりは年上だろうなと感じた

女「こんなとこで何してるんですか?」

ブサ男「え、えっと…時間潰しっす」

女「何か悩んでるふうでしたよ…あ!ごめんなさい余計なこと言って!」

ブサ男「いえ…大丈夫っす。悩んでるのは本当なんで」

そう言うとブサ男はガクッと顎をしたに下げた

ブサ男「あなた…は?」

女「家近くだから…ちょっと暇潰しに…」

女も同じようにも頭を下げると髪の毛が垂れて顔が隠れた
髪の毛が垂れたことで首筋があらわになり色っぽさを漂わせている
しばらく沈黙が続いた後に女が顔を上げた

女「あ…急に話しかけてごめんなさいね」

ブサ男「べ、別にいいっすよ」

女「あたし、女っていうの。あなたは?」

ブサ男「ブサ男っす」

ブサ男は自分の鼓動の早さを鎮めるのに必死だった
女に自分の心臓の鼓動が聞こえてしまうのではないかと不安にさえなっていた
女の大きな瞳に吸い込まれそうで全く目を合わせられず短い言葉でしか返答出来ていなかった
女「何で悩んでるのかな?」

女は屈託のない笑顔をこちらに向けている
ブサ男は一瞬その顔を見てすぐに顔を伏せた
ブサ男の頬がわずかに赤くなる

ブサ男「え、えっと…学校の事で…」

女「学生なの?」

ブサ男「はい、高3っす」

女「高3!?私より年下か…大人びて見えたからてっきり社会人かと」

ブサ男「よく老けてるって言われるんで…」

女「あ、いやそんな意味じゃ…」

少し沈黙があった後女が口を開いた

女「えっと、勉強?」

ブサ男「いや、友人関係で…ちょっと」

女「ふぅん」

女はブサ男の悩みがなんとなくわかったようで足を伸ばしてサンダルのヒールでコツコツと地面を叩いていた
ブサ男はそのまま続けた

ブサ男「いじめ…られてるんす」

女「うん」

ブサ男「だから明日学校行きたくないなって…明日が来なければ言いなって思って」

女「じゃあ行かなきゃいいんじゃない?」

心臓の鼓動がドクンと波打つのをブサ男は感じた

ブサ男「親が厳しいんで」

ブサ男はさらに頭を垂れた

女「じゃあ学校行くふりして外でサボるとかは?」

女はサラッと言う

ブサ男「そんなことしたら、学校から親に連絡行くんで」

女「う~ん、難しいね。あたしだったら絶対サボっちゃうな」

ブサ男「それができたらどれだけ楽か」

女「少年の悩みは尽きないね」

女は笑顔だった

ブサ男「俺は真剣なんですよ」

ブサ男はそう言ったものの女と目が合ったとたんそんなことはどうでも良くなり急に自分の悩みがちっぽけに思えておかしくなって笑ってしまった

女「どうしたの急に?」

女が不思議そうな顔をしてブサ男の顔を斜め下から覗き込んでくる
ブサ男はドキッとしたが今は可笑しくて仕方がなかった

女「失礼ね。あたしの顔何かついてるの?」

少し唇を尖らせて女が言う

ブサ男「違います。なんで初対面の人にこんなこと話してるんだろうって思って、そしたら急に可笑しくなってきて」

女「案外全く知らない人の方がそういう話はしやすいかもよ」

ブサ男「そうかもしれないですね。」
ブサ男はチラッと腕時計を見た
もう時刻は夜の10時を回っていた

ブサ男「もうこんな時間だ早く帰らないと怒られる」

女「あら、ごめんなさいね遅くまで」
すると女が立ち上がった
それに続いてブサ男も立ち上がる

座っているときにはわからなかったが、女はスタイルの割には伸長はそれほどでもなく、せいぜい155cm程であった
ブサ男の心臓の鼓動は相変わらず速かったがさきほどまでの居心地の悪い鼓動ではなかった
いじめられて心を閉ざしていたブサ男の心の扉をこんなにも簡単に開けてしまうこの女には何か特別な魅力があるのだとブサ男は感じた
それはもちろん彼女の綺麗な顔も話し方も影響していると思うがそれだけではないような不思議な感覚が、ブサ男を包み込んでいた

ブサ男「じゃあ帰りますね」

女「また、会えるかな?」

ブサ男は思わぬ言葉に戸惑いと喜びの表情で自分でも笑えるくらい不細工な顔になっていた

ブサ男「えっと、はい、また来ます」
と言ってその場で立っている女を背にブサ男は足早に公園を後にした

心臓の鼓動がまだ高鳴っている
ブサ男は完全に恋に落ちていた
それと同時にこんな不細工があんな美人な女性と釣りうはずがないと直感的に感じていたが今はその気持ちに蓋をしてさっきまでの出来事を思い出してニヤニヤしていた

自宅は都心の高層マンションの25階にある
父は開業医をしており母も医師として大病院で勤務をしている
ブサ男はそのような家庭関係で一般的な家庭よりは裕福な暮らしをしていた

ブサ男「ただいま…」

ブサ男はそのまま寝室へ向かおうとしていた
すると父がちょうどリビングから出てきてはち会わせてしまった

父「遅いぞ」

ブサ男「ごめんなさい」

父「どこにいっていた?」

ブサ男「ちょっとコンビニで立ち読みしてた」

父「そんな暇があるなら勉強しろ」

ブサ男「はい…すみません」

肩を落としたままブサ男は寝室へと入っていった
部屋に入ったブサ男はそのままベッドへダイブした
シングルベッドのサスペンショがぎこちなく軋む
ブサ男は夢じゃないことを確かめるために頬をつねった
柔らかな痛みが頬に伝わる
そんなことをしなくてもブサ男の目が耳が女の余韻を残し脳内で再現なく再生されている

ブサ男「女さん…」

ブサ男は仰向けになり天井を見上げる
何故なんだろう
なぜこんなに天井は高いのだろう
今日であったばかりの女との距離を測るようにブサ男は天井へと手を伸ばす届かないと知ったその手はやがて力なくベッドへと横たわった
その途端虚しくなったブサ男は明かりのついた部屋で静かに眠りについた

翌日学校へと出かけるブサ男を見送るものは誰もいない
ブサ男が起きてきたときにはもう両親は出勤している
もうなすっかり慣れている光景だ
ブサ男が小学校に入る頃から今までずっとこうだ
相変わらず足取りが重い
エントランスの自動ドアが開くと朝というのに夏の日差しが一気に入り込み体にまとわりつく熱気がブサ男の全身を一瞬で覆った

学校に着くとブサ男は決まってトイレに向かうことにしている
そこで始業のチャイムがなるまでの15分間
自分の身を隠すようにひっそりと時を刻むのである

キーンコーンカーンコーン

ブサ男が今人生で一番嫌いな音だ
意を決してブサ男は立ち上がる
全身の関節が軋むように動き筋肉が硬直し始めているような感覚をブサ男の体はこの5年間で何度となく感じている
しかし慣れることは決してない
何度体感しても嫌な感覚だ
小学生の頃はまだ明るかった
しかし中学校に上がってしばらくしてからいじめに合い、それから今この時までずっといじめられている
まさにいじめられる体質を持っているかのように

教室には教師が入ってくるタイミングを見計らってブサ男も入る

ブサ男の学校は私立の進学校である

悲しいことにいくら頭が良い学校でもいじめというのはどこにでも存在するのである

昼休みブサ男はもちろん一人で昼食を済ませる
午前終業のチャイムが鳴ると同時にブサ男は弁当を持って中庭に面する校舎の陰で黙々と母が作った味気ない弁当を食する

しかし、今日は運が悪かった
ブサ男が食事を終えて休憩をしているといじめっ子集団が中庭にやって来たのだ

いじめっ子A「あれブサ男じゃね?」
いじめっ子Aがブサ男の存在に気づいた

いじめっ子B「ほんとだ!あいつあんなとこで飯食ってたのか!?」

ブサ男は逃げようとした
しかし肝心なときに限ってこの足はガクガクと震えて立つことさえできないしかもここは職員室からは全く遠いところで他の教室からも死角である
誰にも見えない場所が返って仇になった

いじめっこC「ようブサ男!寂しかったんだぜえ!」

いじめっこ達の風貌が不良などとは程遠い
有名私立高校に通うエリートだ
日頃の勉強の鬱憤をブサ男をいじめることで解消しているのだ

いじめっこA「なに逃げてんだよてめえ!」

ブサ男は胸ぐらを捕まれたが無言を突き通した

いじめっこB「てめえシカトしてんじゃねえ!」

いじめっこBの拳がブサ男の鳩尾に直撃した
その衝撃でブサ男はさっき食べた弁当を吐き出しそうになったが寸前で飲み込んだ

その後もお構い無くいじめっこはブサ男を殴り続けた
外からは見えない腹や背中、足

ブサ男「うっ」

その瞬間、ブサ男は吐瀉物を勢いよく吐き出した

いじめっ子C「きったねー!」

と言って3人は一歩後ずさった

いじめっ子A「行こうぜ」

いじめっ子B「おめえの母ちゃんはこんなくせえもん弁当に入れてるのかよ!」

と一通りブサ男を罵ってから去っていった
ブサ男はしばらくそこを動けなかった
予鈴がなるまでは四つん這いのままで静かに痛みと吐き気が収まるのを待った

その日の放課後いつものように靴の中身をチェックしてから靴をはく、今日は何も入っていないようだ
しかし、靴の中から鼻を刺すようなツンとした臭いをブサ男は感じた
ブサ男は直感でわかった
アンモニアだ

いじめっ子A「こいつくっせえ!」

周囲も臭いに気づいているようで鼻を押さえてブサ男を避けて通る
明らかに化学室から盗んだアンモニア水だ

誰からみてもいじめっこ集団の仕業と言うことは明白である
しかし誰も言いつけようとしない
自分が標的になるのが嫌だからだ

ブサ男は臭いと恥ずかしさと悔しさで涙が止まらなかった
それがいじめっこに見られるとまたバカにされるので必死に顔を隠してアンモニアの臭いで一杯になった靴を履いて早足で学校を去った

途中土手の川で靴を洗ったが全く臭いがとれなかった
一体どれだけの量をかけたらこんなことになるのか
ブサ男はそこで考えるのをやめた

臭いがとれなかったので靴と靴下は捨てて家路についた

幸い両親は仕事で家にはいなかった
ブサ男はすぐにシャワーを浴びて体を洗った

ブサ男はそのまま寝室のベッドに潜り込んだ
疲れ果てたブサ男はそのまま眠ってしまっていた

それから一週間が過ぎた
さすがにアンモニア程の嫌がらせは無かったものの地味な嫌がらせは毎日続いていた

いじめに合いながらも勉強に追われていたブサ男は公園に行く暇さえなかったがある日の夜、女にふと会いたくなったブサ男は公園に出掛けた

女「お!やっと会えた!」

と言って女は立ち上がって相変わらずの笑顔をブサ男に向けた

ブサ男「ども」

女「何か元気ないね?」

女が心配そうにブサ男の顔を覗きこむブサ男は一瞬ドキッとして胸が張り裂けそうなくらい嬉しそうだったがあくまで平然を装った

女「何かほんとに元気ないじゃん」

ブサ男はここ一週間の出来事を女に話した
不思議なもので愚痴になるとダムが決壊したかのように次から次へと言葉がブサ男の口から放たれていった
そんな自分に少々嫌気がさしたものの、今は無視した

女「うーん、仕返ししたら?」

うんざりしたような目でブサ男は女を見た

ブサ男「だから…出来たらもうやってますよ」

少し語尾が強くなった

ブサ男「相手は複数だし…勝てるわけないよ」

すると女が少し怪訝な表情で言った

女「違うね、ブサ男は何もしようとしてない」

ブサ男「だってどうしようもないじゃないですか」

女「そうやってずっとうじうじ悩んでるだけなんでしょ!そんなんじゃ何も変わらないよ。ほんとにやり返したいんだったら一人でも復讐できる」

ブサ男は目をいつもの三倍は大きくして女を見つめた
女の言葉にではなく、女の言葉の力強さに心を打たれたのだった

ブサ男「じゃあ、どうしたらいいんですか?俺はもう考えられないです。勉強もしないといけないし…」

女「明日日曜日だよね?明日一日私に付き合ってくれたら教えてあげる」

女「ちょっと服脱いで」

女のいきなりの発言にブサ男は一瞬思考が停止した
ブス男「い、いきなり何言ってんすか!?」

女「いいから!」

そう言ってブ女はブサ男のTシャツを強引に上へ引っ張った
ブサ男の乳首が露わになったところで女は手を止めた

女「やっぱり、痣がいっぱい…どんだけ殴られたらこうなるのよ…」

ブス男「…降ろしてください」

ブサ男は恥ずかしさで顔から火が噴き出そうだった
すでに汗は大量に吹き出ているが

女「ごめんね。でもこれはちゃんとした証拠になる」

ブサ男「え?」

女「でもまだ足りない」

ブサ男「どういうことですか?」

女「ブサ男って鈍感?まあ明日とにかく付き合ってよ!○○駅集合ね」
ブサ男「はい…」

女「あっ!あたしの連絡先教えとくね」

と言って女は携帯電話を取り出した
ブサ男も慌ててポケットから携帯電話を取り出す
ブサ男の電話帳に初めて親以外の連絡先が登録された

次の日はあいにくの雨天だった
「午後からこの雨はさらに激しくなる可能性があるため、お出かけの方は傘を忘れないようにしてください」
お天気キャスターの決まり文句をブサ男は横耳に聞きながらあくせく準備をしていた
ブサ男は激しく後悔していた

ブサ男「なんで俺は黒の服しか持ってないんだ…しかもこんな時期に」

天気が雨なのがせめてもの救いだった

ブサ男「行ってきます」

母「あら、珍しいのねあなたが休日に出かけるなんて」

父「遅くなるなよ。昨日も遅かったんだ」

ブサ男「はい…」

母「まあいいじゃないあなた、ブサ男!楽しんできなさいよ」

ブサ男「うん」
ガチャ

待ち合わせの時刻10分前にブサ男は駅に着いた
女の姿はまだ見えない
携帯を適当にいじりながら女が来るのを待った

女「お待たせ!」

ブサ男は振り向いた
そこには膝の丈までの白のワンピースにサンダルとカンカン帽を被った女がいた
公園での女とのギャップにブサ男はおもわずニヤケてしまった

女「何ニヤケてるの~?変なこと考えてるんでしょ」

ブサ男「え?いや…すいません」

女「ほんとに考えてたの?キモイ」

ブサ男「え?…」

女「うそうそ、ほら行くよ」

ブサ男たちはそのまま大型電気店へと向かった

ブサ男「なんでここなんですか?」

女「まあまあ」

女「ほらこれ!」

ブサ男「ICレコーダー?」

女「これでいじめっ子たちの音声を録音するの。もちろんばれないようにね」
ブサ男「…こんなことできるのかな?」

女「できなきゃ君はそれまでだよ!他にもいたずらされた現物とかをちゃんと保存しとくんだよ。それと最大の武器はブサ男の身体の痣。音声と物、その動かない証拠があれば大丈夫!停学かよければ退学まで追い込めるよ」

ブサ男「…」

ブサ男はこのどん底の生活から抜け出せると思うと高揚したがそれとともに本当に成功するのかという不安もあった
失敗すればもっとひどいいじめに遭うだろう

しかし、もう後戻りはできないと思ったのでブサ男はそれを購入した
もちろんカード払いだ

女「カード!?高校生が!?あんたもしかしてボンボン?」

ブサ男「そんなほどでもないっすよ」

女「まああとで聞くよ。それよりまだ時間あるしお茶行かない?」

ブサ男「はい。いいですよ」

二人は近くの喫茶店に入ってアイスコーヒーを頼んだ
「あーもう最悪。せっかくお気に入りの服着てきたのに大雨だよ~べたべたするし」
ブサ男はたまらず聞いた

ブサ男「あの、なんで女さんは俺にこんなにしてくれるんですか?」

女はブサ男の顔をまっすぐに見て答えた
女「あたしもいじめられてたから…ブサ男と同じように」

ブサ男「え?」

女「だから仕返したの。証拠を集めて先生に突き付けてやった…そしたらあたしをいじめてたやつら停学になったの。卒業前に…もちろん就職決まってた奴らは内定取り消しで進学組も同じ扱いだった…笑ったよ」

女の口は口角が上がっていたが目は全く笑っていなかった
ブサ男は女の心の底に潜む闇を少し垣間見た気がした

ブサ男「そ、そうなんですか」

ブサ男は一気にアイスコーヒーを飲みほした

女「それよりブサ男クレカ持ってたけど、親の?」

ブサ男「はい」

女「やっぱりボンボンなんじゃん。親は何してるの?」

ブサ男「両親とも医者です」

女「え!?うそ!?」

ブサ男「はい」

それから次々と女に質問されたブサ男はその一つ一つに答えていった
住んでる家、通っている学校、生い立ちまで…

女「そっかあ…ブサ男はあたしと住んでる世界が違うんだね…私なんて高卒だし」

ブサ男「女さんの両親は?」

女の顔が少し曇ったのがわかった

女「あたしの父は死んだの。母は今病気で入院してる」

ブサ男「え?」

女「母は今田舎にいるわ」

ブサ男「なんか、すいません」

女「ううん、あたしも色々聞いちゃったし」

ブサ男「女さんは仕事何してるんですか?」

女「えっと…工場のラインで仕分けしてる…」

ブサ男「もしかして給料からお母さんの入院費払ってるんですか?」

女「うん」

ブサ男「すごい…」

女「全然すごくなんかないよ」

ブサ男「すごいですよ!なんか感動しました」

女「そんなことないんだってほんとに…死んだ父の借金も返すの大変で」

ブサ男「そうなんですか…」

ブサ男たちが喫茶店を出たのは午後5時を過ぎていた
すっかり雨は上がっていて地面からは濡れたアスファルトの独特な匂いが漂っていた

女「あたしこれから用事あるから帰るね!明日頑張ってよ!」

ブサ男「はい」

翌日の学校の昼休み、ブサ男はいつもの場所で昼ご飯を食べていた昨日買ったICレコーダーはポケットに入れていた
(大丈夫…昨日何度もシミュレーションしたんだ)
心の中で何度もそう呟いた

そう考えているといじめっ子たちが姿を現した

いじめっ子A「ようブサ男!今日もキモイねえ」

ピッ…電源を入れた
ブサ男「いじめっ子A…どうして君は僕をいじめるんだい?」

いじめっ子A「はあ?面白いに決まってるじゃん」

ブサ男「じゃあ君は?いじめっ子B?」

いじめっ子B「勉強のストレス発散に決まってるじゃん!てかうるさいんだよ!」

ブサ男の腹部に衝撃が走った
ブサ男「うっ!」

また何度も殴られた
ブサ男「はあ…はあ…はあ…いじめっ子C…君は何で僕をいじめるんだ」

いじめっ子C「うるせえよてめえ!黙れ!」

最後の一撃でブサ男は地面に突っ伏した
ピピッ…録音完了

ブサ男は放課後証拠品を持って職員室へ行った
担任にICレコーダーと今までの体験、最後に自分の身体の痣を見せた

担任「わかった…すまなかった…今まで気付いてやれなくて」

ブサ男「いえ…」

次の日いじめっ子達は職員室へ呼び出され、先生たちに問いただされて泣きながら自白したらしい3か月の停学処分だった
思ったよりも処分が甘いなと思いながらもブサ男は学校も事を大きくしたくないのだろうと不服ながらも自分を納得させた

その夜公園へ行った
女がいた
いつも公園に来る時のお馴染みのTシャツにデニムのショートパンツにサンダルだった
女「お!ブサ男!」

ブサ男「女さん」

ブサ男はニヤニヤしていた
明るかったら目も当てられないような不細工だっただろう

女「そんな顔してるってことは成功したんだね!」

女は嬉しさを隠せないでいるようだった

ブサ男「はい!」

ブサ男は満面の笑みを見せた!
その瞬間ブサ男はずしりと重みを感じた

ブサ男「え?」

女がブサ男の胸に飛び込んできてブサ男の背中をきつく抱きしめている
ブサ男の頭は真っ白になっていた

女「よかったね…良かったねえ…」

ブサ男も両手を背中に回そうとしたが直前になって腕を下した

ブサ男「泣いてるんですか?」

女「だって…嬉しいんだもん」

女の涙が頬を伝っている
ブサ男はこの時に一瞬で恋のどん底に堕ちてしまった

ブサ男「一つ聞いていいですか?」

女「何?」

ブサ男の胸の中から顔を上げて上目づかいにブサ男を見つめる
ブサ男は自分の中から湧き上がる欲情を必死に抑えた

ブサ男「女さんて何歳なんですか?」

女「レディに年齢聞くなんて失礼だぞ」

ブサ男「すいません…なんか子供にしか見えなくて」

女はブサ男を睨み付けながら言った
女「23歳だよ」

でもブサ男には怒っている女の表情さえも愛おしく見えてしまう
夏休みに入ったブサ男はそれから女と3日に1回のペースで夜に公園で会って話をした
決して約束はしていない
二人は偶然出逢うのだ

8月の終わり、ブサ男はある決心をしていた
その夜、いつものように公園へ行った

女「あ!今日も来た!」

女は嬉しそうな表情でブサ男を見つめている

ブサ男「ども」

いつものように女は話し始めた
女「なんか今日ブサ男大人しくない?」

ブサ男「え?そんなことないっすよ」

女「ううん…なんか変…なんかあったの?」

ブサ男は一呼吸おいて言った

ブサ男「あの…俺女さんのこと好きみたいです」

こういうときに経験不足が仇となる
全く気の利いたことを言えずブサ男は自分の気持ちをストレートに伝えることになった

女「え?」

ブサ男「付き合ってほしいです」

女「え?え?え?ちょっと待って急にそんな…」

ブサ男「俺からしたら…急じゃないです…」

女「…」

ブサ男「もしかして彼氏とか…いるんですか?」

迂闊だった…こんな可愛い人に彼氏がいないわけがなかった

女「彼氏は…いないよ」

ブサ男「じゃあ…」

女「…」

長い沈黙があった

女「ごめんなさい…」

ブサ男の心臓の鼓動が一気に脈打ち始めた

女「あたしとブサ男じゃ住む世界が違いすぎるよ…」

ブサ男「俺が年下だから?不細工だから?」

女「違うよ…」

女は顔を俯けた

ブサ男「…じゃあ何で…」

女「ごめんなさい…」

女は後ろを振り向いてそのまま足早に去って行った
夏の終わり…ブサ男の恋は一瞬で散っていった・・・

その日からのブサ男はある意味吹っ切れたように勉強に集中していった
親からの圧力もあり国立大の医学部を受験することになったのだ
何度かあの公園に寄ってみたが女の姿はなかった

メールもしたが全く返信もない
電話は怖くてできなかった

季節は変わり冬になっていた
街ではすっかりクリスマスムードでカップルたちが楽しそうにブサ男の横を通り過ぎていくそれをブサ男は横目で見て肩を落とす

ある日、ブサ男は学校で勉強に集中しすぎて帰りが遅くなってしまっていた
時刻は夜の10時を過ぎている
ブサ男は家路へと急いだ

吐く息が白くなっていると否が応でも冬という季節を感じさせられる

ブサ男は近道をするため普段は通らない歓楽街の中を突っ切っていた

ふとすれ違った男女の集団の中に見覚えのある顔を見つけたその集団が通り過ぎたところでブサ男は立ち止った
相手もブサ男に気付いたようだ


間違いない・・・女だ

ブサ男はその場に立ちすくんだ
女もこちらを見つめている
化粧は濃く、髪は伸びていて大人びている
緑の艶のあるドレスを着ているからだろうか
公園で会っていた時の幼さは微塵も感じさせないが、間違いなく女である

女の周りにはスーツを着た屈強な男が二人いて女のほかに同じような格好をした女性がいた

ブサ男「女…さん」

ブサ男は走っていた
嬉しい気持ちと気まずい気持ちが入り混じっているが身体が勝手に動いていた
女の目の前でブサ男は屈強な男に止められて両腕を羽交い絞めにされた

屈強な男「なんだガキ!」

ブサ男は構わず叫んだ

ブサ男「女さん!女さんですよね!」

女「…」

屈強な男2「なんだこの不細工なガキは!知り合いか?女?」

女「知らないです」

ブサ男「知らないってなんだよ!あんたそんなきれいな格好して!こんな怖そうな人たちと何してんだよ!」

屈強な男「うるせえな!ガキが!」

ブサ男の腹部に今まで味わったことのないような衝撃が飛んできた

ブサ男「ううっ」

ブサ男はその場にひれ伏しうずくまった
屈強な男「こいつはな俺らの大事な商品なんだよ!こいつとセックスしたけりゃ3万払えよお坊ちゃん!それともお前こいつのことが好きになったのか?止めとけ止めとけこいつは何人もの男とセックスしまくってる薄汚れた淫乱女なんだぜ!がきんちょにはちょいと早いわ!」

屈強な男たちはげらげらと笑っている
女は無表情のままである

屈強な男「いくぞ!時間がない客が待ってる」

女「はい」

ブサ男「なんでなんだよ…」

女は立ち止った
ブサ男「なんで身体なんか売っちまうんだよ…俺の知ってる女さんはそんな人じゃなかった…」

ブサ男が顔を上げて言った
すると女が振り向いてブサ男の方へ歩み寄ってきた
ブサ男は一瞬笑顔をこぼした
女「だからあなたとあたしは住む世界が違うって言ったじゃない。あたしはあなたみたいなガキで不細工なんか全然興味ないの」

無表情で女は言った
その瞬間ブサ男の頭の中は真っ白になった

屈強な男「早く来い!女!」

女が立ち上がった瞬間ブサ男の手の甲に冷たい滴が落ちてきた
その時のブサ男はこれが何なのか全く理解できていなかった

ただ、ブサ男の火照った体を冷ますにはあまりにも少なすぎたのだった
女がブサ男から離れていく姿が次第に涙で歪んでいった

ブサ男「女…さん」

ブサ男は歓楽街の中心で人目もはばからず泣いた

降り始めた雪がブサ男の火照った体を次第に冷ましていった
家までどうやって帰ったのかはあまり覚えていない

8月の終わりに遡る

女「なんで、あんなこと言うのよ…ブサ男」

築30年のアパートの玄関前に着くと男が二人立っていた

男「やっと帰ってきたか」

女「なんですか?」

男「今年の6月に死んだお前の親父の借金が600万も残ってんだよ。いい加減返せよ!それとも金がないのか?」

女「月々少ないけどちゃんと返してるじゃないですか」

男2「この世界にはな!利子っていうもんがあんだよ!利子!知ってるか?」

男「お前の月々収めてる金じゃその利子分にもなりゃしないんだよ」

女「…違法でしょ」

男2「金借りてる分際で何ぬかしてんだこら!」

女が身構える

男「まあ待て」

男が男2を制止する

男「とにかくこのままじゃ完済は無理だ」

女「じゃあどうすればいいの…」

男「体を売れ」

女「え?」

男2「そしたら半年くらいでお釣りが出るぞ」

男2がげらげら笑っている

女「…ほんとにそれで完済できるの?」

男「ああ…貯金もできてお前の母さんの治療費も出せるぞ。どうせこのままじゃお前はのたれ死ぬだけだ」

女「考えさせてください」



女「ブサ男…やっぱりあたしとあんたじゃ住む世界が違いすぎるよ」

その日の夜中女は男からもらった連絡先に電話をした・・・

時は流れてブサ男は高校を卒業した

あの冬の日以来胸の真ん中がぽっかりと空いたような感覚があり、ブサ男の心を次第に冷たくしていった
その穴はもう勉強で埋めるしかなかった
勉強をすることでしか紛らわせることができなかった

大学は無事合格し、4月からめでたく医大生になる
両親は喜んだ

ある日の夕方、携帯にメールが届いた
登録していないアドレスからだった
でもそのアドレスにブサ男は見覚えがあった…紛れもない・・・

「ブサ男…ごめんなさい。今更だとあなたは思うかもしれないけれどあたしはあなたに出会えて良かった。あの日あなたに出会っていなければあたしはたぶんこの世にはいなかったと思う。
借金は全部返済できたので今日最終便の飛行機で田舎に帰ります。最後に・・・やっぱりこの先はあたしが言う資格がないです…さようなら」

ブサ男は携帯を閉じた

(何を言ってるんだよ今更…知らねえよ)

気持ちとは裏腹に身体が勝手に動いた

気づいたらブサ男は家着のまま走っていた

3月のまだ冷たい空気の中息を切らしながらブサ男は走った…ただ一人の女性を想いながら…

もう今は一つのことしか考えられなかった…女さんに会いたい!

空港へ着いたのは夜の7時を過ぎていた
女がどこの田舎か知らなかったがどの便ももうそろそろ最終便が出る時間帯だった
ブサ男は必死に女の姿を探した

ブサ男「はあ・・・はあ・・・はあ・・・最終便ってまだ残ってるんですか?」

空港内の職員に尋ねた
職員は不思議そうな顔をしていた
それもそうである部屋着の不細工な男が息を切らしているのだ

職員「あと10分で○○行きの最終便が出ます」

ブサ男「ありがとうございます!」

ブサ男は最後の望みをかけてボディチェックのゲートへと走った
ゲートの前にはもう見送りをしている人以外はもう誰もいない
女らしき人の姿も見えない
ブサ男は膝をついた



(遅かった…)

ふと顔を上げてガラスによって仕切られているゲートの向こう側を見た
見覚えのある髪、体、顔がそこにはあった
ブサ男は考えるよりも先に叫んでいた

ブサ男「女さん!!!」

女がこちらを見た
驚きすぎているのか、目を見開いて固まっている
ブサ男はゲートの入り口まで走った

ブサ男「女さん!!」

女がゲートのそばまで駆け寄ってきた

女「なんで?」

女の顔はもうすでに涙で濡れている
ブサ男「最後のあいさつに来ました!俺・・・あなたのことが大っ嫌いです!!」

女が顔を上げた

ブサ男「勝手に俺のプライベートずかずかと聞いてきて!勝手にデートに誘って気づいたら勝手にいなくなって!俺の気持ちをあんたは弄んでたんだ!」

女は嗚咽を上げている

ブサ男「俺は不細工だよ!童貞だよ!あんたみたいな淫乱女なんかとは全然違う!」

ブサ男は涙でほとんど視界がぼやけている

ブサ男「でも!俺とあんたが生きてる世界は一緒なんだよ!全然違うなんか勝手に決めつけんなよ!」

女が警備員の制止を振り払ってゲートを抜けてきた
そのままブサ男の胸に飛び込んだ
勢いよく抱き着かれたブサ男は最初何が起きたのかわからず後ろによろけてそのまま倒れこんだ

女「ごめんなさい…」

ブサ男は言葉を放つことをやめない

ブサ男「勝手に人の心に入ってきて…勝手にあんたのことを好きにさせて!あんたほんとに勝手な人だよ!」

女「ごめんなさい!ごめんなさい!」

ブサ男は今度は思いっきり女の背中を抱きしめた

ブサ男も嗚咽をもらしていて言葉が出てこない

女「あなたがいたから…あなたに助けてもらったの!あの時あなたに出会ってなければ…あたしはもうここにはいなかったかもしれない!」

言葉にならない声でブサ男は叫んだ

ブサ男「じゃあ…なんで…離れていったんだよ!俺が…俺が全部守って!あんたの全部守ってやったのに!」

女「ごめんなさい……………ありがとう」

二人は泣いた…一生分の涙をここで流した

時は流れてブサ男は大学生になった
その時、携帯にメールが届いた
「元気にしていますか?あたしは元気にしています。何とかこっちでも仕事を見つけることができました。
今は仕事と母の介護で大変だけど充実した生活を送っています。今は難しいけどいつかブサ男が立派なお医者さんになったらあたしを迎えに来てほしいな。
って何言ってんだろうあたし。それでは体に気を付けてください。さようなら」

ブサ男はニヤケていた
相変わらず不細工である
でもその顔にもう迷いはなかった
心地よい春の風がブサ男の身体を優しく包んでいく


fin

最後まで読んでくれた人ありがとう!!
つたない文章でしたが申し訳なかったですが何とか最後まで書けました!

皆さんありがとうございます!すごく嬉しいです!

ありがとうございます!
続編はまたいつか書きます!

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom