男「論理的な彼女」 (13)

あげぽよ

――校舎外れの一室

パチン……パチン……

男「……」

女「……」

男「……負けか」

女「やった」

男「ざっと勝率四割か」

女「まだわたしの方が実力は上みたいだね」

男「(……かわいい)」

男「(放課後、こんなにかわいい女の子と部屋で二人きり)」

男「(やってることはオセロだが……)」

男「(都合が良すぎてびっくりするくらいだ)」

男「(やっぱり行動してみるものだな)」

男「ゲームは終わったけど、どうする? 帰るか?」

女「うーん、下校時刻までここで勉強するよ」

男「じゃあ俺もそうしよう」

――三十分後

女「あー、駄目だっ。全然分からない」

男「現代文か。女は成績いいだろ。全然分からないなんてことがあるのか」

女「分からないことだらけだよ。わたしは頭が悪いから、ここに書いてある文章が理解できない」

男「多少苦手にしろ、国語のテストでも充分とってたじゃないか」

女「分からないなりに点の取りようはあるからね。でも結局分かってない」

女「もうやめだ。数学をやろう」

男「……それ、前のテストの範囲だろ。『集合と論理』」

女「復習だよ。まあ、単純に好きっていうのもあるけど」

男「その分野が好きというのも変わってる気が……」

女「分かりやすくていい。そこにいる人が君だとすれば、その人は男性である。
  しかしそこにいる人が男性だからといって、その人が君だとは限らない」

男「まあ、後々まで使う大事な考えだって先生言ってたからな。復習するのもいいかも」

女「君はさっきからわたしのやることを見ているけどあまり勉強してないね?」

男「うっ……」

女「さすがクラストップは余裕ですね。わたしは頭が悪いから、勉強しなきゃいけない」

男「(『わたしは頭が悪いから』……彼女の口癖だった)」

――翌日、教室

「宿題終わった?」 「全然やってない」

男「(基本的に教室では女と話さない)」

「昨日カレシがー」 「またのろけー?」

男「(そして、どうも女は……)」

「文化祭でー」 「マジで?」

女「……」

「昨日の部活でさ」 「やべえ」

男「(どうやら友だちがいないらしい)」

男「(あんなにかわいい子になぜ友だちがいないのか、まったくもって謎だ)」

男「(まあそのおかげで俺のような奴でもつけいることができた……、なんてのはちょっとゲスすぎるか)」

――放課後、校舎外れの部屋

男「なあ」

女「何」

男「女ってあんまりクラスの奴らと話さないよな」

女「ていうか、一切話さないよ」

男「……どうして?」

女「わたしは頭がおかしいから、皆の言ってることが分からない」

男「……?」

男「教室ではいつも本読んでるよな。あれだけ国語嫌いって言ってたのに。何読んでるんだ?」

女「見てみる?」スッ

男「『論理哲学論考』……?」

男「うわ、何だよこれ。超難しそう」

女「小説とかよりはよっぽど読みやすいよ」

男「まあ、確かに女が好きそうな感じではある……。哲学の本だが、論理学よりだな」

女「論理はいいよー、分かりやすくて。特に古典論理は」

男「ふーん……」

女「そろそろやろうか。オセロ」

男「あ、ああ……」

パチン…… パチン……

男「(女はゲームをするとき、一切喋らない)」

男「(雰囲気的に、俺も喋らない)」

男「(女の表情は真剣そのもの)」

男「(俺もボードゲームはかなり強い方だが、女相手だとマジでやらないとあっという間に負かされてしまう)」

~~

男「お、勝った」

女「くそう」

男「最近女の性格が分かってきた気がするぜ」

女「え、わたしという人間の?」

男「いや、打ち方の特徴」

女「ああ……」

女「わたしは頭がおかしいから、人の言っていることが分からない」

男「……」

女「こうして君とゲームをしているときの方が、よっぽど会話できている気がする」

男「オセロが会話か。面白いな」

女「わたしは本気で君を負かす気で打っている。君もそうでしょう?
  そんな中、お互いの手の意図を真剣に探って、自分の手を決める。
  二値原理の、白黒の会話って感じで」

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