QB「僕らの話をしよう」 (48)

QB「僕らの話をしよう」

QB「今更こんなことを言っても信じてもらえないかもしれないけど、
  僕らだって最初は君たちと同じような文明を持っていたんだ」

QB「驚くべきことに、当時の僕らはいまの君たちにきわめて近かった。
  生物学的特徴はもちろん、感情……つまり必ずしも最善でない選択を
  するような不合理すら、君たちと同様に持ち合わせていたらしい」

QB「これから話すのは、それが如何にして失われていったか、そして
  その結果どうなったのか、という事の経緯だよ。もしかしたらそれは、
  とある喜劇、と呼ぶのが正しいかもしれないけど」

QB「僕たちははじめ宇宙の片隅でひっそりと、それでも日々文明と技術に
  磨きをかけながら暮らしていた」

QB「あるとき、一人の科学者が宇宙の寿命を計算することに成功したんだ」

QB「君たちには話したよね。この宇宙はいずれ死を迎える。
  君たちの文明の用語では『熱的死』と呼ばれる宇宙の終焉。
  エントロピーが極大に達した、どこまでも均等であるがゆえに、
  何者も生まれない世界だよ」

QB「その結果を受けて、僕たちはその結末をなんとしても阻止することに決めた」

QB「これは当然といえば当然の選択だ。終わりが規定されてしまったら、自分たちの営みの意味が
  まるごと否定されたも同然だ。それを知ってなお今までと同様に暮らすなんて、
  できるわけがない」

QB「そのために僕たちが最初に行ったのは……笑わないでくれよ、
  なんと感情をすべての個体から取り除くことだった」

QB「ことの結末を知っている今の僕からしてみれば、まったくとんだ愚策としか
  思えないけれど。それでも、当時としてはそれがベストと思われる処置だったんだ」

QB「ここでいう感情とは、表面的なそれはもちろん、生命がその存続の為に
  個々の根幹に刻んだ『本能』の領域をも含む。
  厳密には両者は違うものなんだろうけど、宇宙全体を永らえさせるためには
  必要がないものとして、僕らはそれらを一緒くたにして自身から切り離した」

QB「結果、僕たちは感情と、単一個体の生死に執着する意志を捨てた。
  遺伝情報からさえ抹消されたそれらは、僕たちの種族からは未来永劫消え去ったんだ」

QB「なぜ感情がそこまで執拗に排除されなければならなかったのか、
  説明する必要があるかもしれないね。それについては君たちの文明の学者が
  いい例を考案しているよ。『囚人のジレンマ』というやつさ」

QB「多少問題の本質からは逸れるかもしれないが、だいたいの理屈はこうだ。
  『個々の利益と全体の利益は必ずしも一致しない』」

QB「個体のそれぞれが自分の本能に従って利益を追求することは、全体としての
  不利益に繋がるんだよ。ことに、宇宙の問題についてはそれが顕著だ」

QB「宇宙の死を招くのはエントロピーだとさっき言ったね。
  そして、そのエントロピーはエネルギーの取り引きに際して排出されるものだ。
  さらに言うと、生命がその本能に従って生きる限り、文明はエネルギー消費を
  増し続ける」

QB「僕たちはそう宿命づけられているんだ。……感情によって」

QB「いわば感情とは、生活の質や種々の利便性を追求せずにはいられない、
  『呪い』に他ならない。これは加速級数的な消費の増加を招き、
  またそのゆらぎから多くの無駄を生み出す、呪いだ」

QB「だからこそ、僕らはそれを捨てた。そして僕らが捨てたのはそれだけじゃない」

QB「生命として自分たちが培ってきたその形態すら、僕らは手放すことを
  躊躇わなかったんだ。さっき言ったろう? 僕らと君たちはきわめて近い、と」

QB「こんな不自由な身体で高度な文明を持てると思うかい?僕たちはなにも
  最初からこんな姿だったわけじゃない」

QB「そう、僕たちははじめ、君たちのような肉体を持っていたんだ。
  だが、僕らはそれをも捨てた。『エネルギー消費を抑える』という目的のために」

QB「君たちと接していて思ったよ。もしかしたら肉体への執着こそが、
  生命を生命たらしめるのではないか、とね」

QB「くくく、まったくお笑いだ。狂気の沙汰じゃないか。
  僕はもはやその感情を理解し得ないが、君たちの目にはそう映るんだろう?」

QB「肉体を手放すことには誰ひとり抵抗しなかったというよ。
  それを拒むために必要な感情は、とうの昔に捨て去っていたんだからね」

QB「ともかく僕らは終焉の回避のため、なりふり構わず打開策を探した。そしてついに知ったんだ」

QB「君たちはもう知っているね。そう、『感情のみがエントロピーを凌画しうる』という事実をさ」

QB「そのときの僕らの狂乱たるや、本当に感情を失っているのかと訝られるほどだったらしいね。何せ、僕らが敵を視認したときには、唯一にして絶対の武器を自ら捨て去っていたということが知らされたのだから」

QB「もしも僕らが感情を捨てていなければ、当時の僕らの絶望・落胆は莫大なエネルギーを生んだことだろう。尤も、感情を捨てていなければこの事実に衝撃を受けることもなかったんだから、それは単なる言葉遊びに過ぎないのだけど」

QB「とまあ、ここまでが僕らの辿った道のりだ。その後の僕らはひとまず感情からエネルギーを取り出すための理論を追い、平行して原初の僕たちと同様の性質を持った生命を探し始めた」

QB「そうして出会ったのが君たちだったというわけさ」

QB「『わけがわからないよ』」

QB「そう僕は何度も言ったけどね。あれだってなかなか複雑な感慨を伴うセリフだったんだよ」

QB「もしかしたら遠い昔の僕らもこういうふうにあれこれ思い悩み、とるに足らない出来事に
  一喜一憂しながら日々を過ごしていたんじゃないか。今の僕らの目には無駄としか映らないそれらは、
  もしかしたら当時の僕らにとっても同様にかけがえのないものだったんじゃないか、ってね」

QB「これは後悔なんだろうか? ……それすらも僕にはもうわからない。すべてはもう遅いんだ」

QB「僕らは君たちからエネルギーを取り出し、宇宙の存続を保証し続ける。
  もはやそれを続けるほかに存在する意味をもたないからだ。
  『生命』と自称することすら憚られる僕らは、世界を支えるシステムにすぎない」

QB「こんなことを言っても君たちの救いにはならないかもしれないけどね。
  僕はただ、僕たちの行動を裏打ちするものについて語っておきたかっただけだ」

QB「語ることに意味なんてないのにね。僕もずいぶん君たちに感化されてしまったようだよ」

QB「話が長くなってしまってごめんね。あと数分で君のソウルジェムは濁りきり、そして君は魔女になる。その瞬間に得られるエネルギーは、僕が責任をもって回収させてもらうよ」

QB「……」

QB「もしも……もしものことだけど、何らかの奇跡や手違いや、その他のありえそうもない出来事によって
  僕らが再びまみえることになるとしたら……」

QB「そのときはまた、僕らの話をしよう」

おわりです

短くてすまん
読んでくれた人の脳内で、あの口調で再生されたら俺の勝ち
保守もありがとうね

こういう独白みたいなの大好きだから勝手に想像してしまった

アニメとの矛盾とか出てたら指摘してちょ

まとめの管理人とか見てて、面白いと思ってくれたら取り上げてくれておk

じゃあの

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