弟「あ、兄貴…は、恥ずかしいから目…瞑ってろよ!」 (3)

兄「……」
 グッと想像してみる。”彼女”の慣れない女装姿を。
 グッと想像してみる。”彼女”の恥らしさに満ち、赤く染まった頬を。
 グッと想像してみる。その先の”彼女”の動きを。第一声を。

兄「……まだか?」

弟「…ま、まだだ…ばかっ!」
 まだか……。そういやまだ30秒も経ってないのか…?そりゃ無理だわなぁ。
そう思いながら、改めて弟に渡した道具を思い出してみる。
茶髪のロングヘアのウィッグ、ふと思いだして倉庫を漁って取り出した姉の中学の時のセーラー服一式。

後は、ニーソックス……。種類は詳しくないが、これも適当に漁ってきた、姉の物だ。
もし、バレたら俺はどうなるんだろうか。1日中無視、とかだろうか…。
姉のことだ、恐らく笑って許してくれるだろう……。まぁ、万に一つもバレる事など無いのだが……。

兄「まだか……?」

弟「も、もういいぞ…バカっ…」
やっと…やっとだ、やっと”彼女”に会える……。あの時の、俺の前から消えてしまった時の…あのままの姿の”彼女”に…。
何年苦しんだだろうか、何年この日を待ちわびただろうか。何年……俺の時は止まったままだったんだろうか……。
今、今からだ。今から俺と”彼女”の人生がまた始まる。
――俺は、瞼をそっと開けた






ぼくのお兄ちゃんは狂ってしまった、姉さんが死んだあの日から。

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