エレン「森にて、触手誕生」(184)

触手×エレン
エロ有り
地の文有り

カプもギャグも救いも無いので苦手な方は回避してください

「早くエレンを見つけないと」
「ごめんね、私が侵入角度を間違えちゃったから……」
「それを言うなら僕だって同じだよ。もう少し距離をとっておくべきだった」

 夕日に煌めく金髪の訓練兵が二人、立体機動訓練場である森を飛び回る。
 互いに相手を気遣いながら、その目はもう一人の班員を探していた。
 それはただでさえ最近この二人とは力量差の出てきたエレンである訳だが、今回は彼も近くで待っていてくれるであろう理由がある。

 今回の訓練目的は巨人討伐ではなく、広い森を少人数制の班で正確に進む事なのだ。
 エレンはきっとどこか目立つ場所で自分たちを待っているはず。

 アルミンはそう確信していた。

「エレンはどこかな?声を掛ける間もなかったから、もし気づいていなければかなり先に行っちゃったかも。悪いことしちゃった……」
「僕らが一緒でないとエレンの成績にも響いてしまうしね。最近は特に立体機動訓練に力を入れているみたいだし……」

 そう言いながらも、アルミンはチラリと隣にいる少女を盗み見た。
 訓練に心血を注ぐ親友の足を引っ張りたくはないと心から思うが、104期きっての美少女と二人きりで森を進む事はなかなかにして得難い体験なのである。
 この少女には普段から番犬よろしく周囲の男共に睨みをきかせる護衛女子が常に付き添っているので、今のこの距離が嬉しいのは尚更のことであった。

(一度二人でいながらルートも外れちゃったし、だいぶ復帰に手間取っちゃったな)

(……夕日を受けた横顔まで可愛い。今日はついているのかも)

 しかし、そんな呑気な事を考えていたアルミンを現実に引き戻したのは、まさに今見とれていた少女の叫び声であった。

「あ!見て、あそこに人が倒れている!」

「……え?」

 アルミンが倒れている人間を視認するよりも早く、クリスタは横たわる影に向かって急速に近づいていく。
 クリスタについて行き、足下の不自然に拓けた草むらを見下ろすと、確かに人間が一人倒れていた。

 しかし、それは異様な光景であったと言える。

 衣類を一切身につけておらず、うつ伏せのままで引き締まった肉体の全てを晒す少年。
 その全身をどろりとした黄色がかった粘液が覆いつくしていたのだ。

「あっ……」

 見つけた者が全裸の少年であると気づいたクリスタは、慌てて目を逸らして頬を染めるという、彼女の見た目を裏切らない初な反応を示した。

(人間だとは思っていたけど、まさか裸だなんて……)

 どうしたらいいのかと助けを求めるように、クリスタは隣にいるアルミンに視線をやったその時──

「あれは……エレン?」

 目を限界まで見開いた驚きの表情でアルミンは小さく呟いた。

 その震えた声に、ゾクリと泡立つクリスタの肌。
 迷わず少年の隣へと降り立ったアルミンの後を追い、クリスタも湧き上がる羞恥心を抑えその姿を見た。

 細身ながらしっかりとした筋肉に黒髪……確かに背格好はよく似ている。
 訓練以外では親しく会話する機会の少ないクリスタは確信をもてずにいるが、エレンと付き合いの長いアルミンの表情は完全にその色を失っていた。

 アルミンは少年の顔のそばに膝をつき、震える手を恐る恐る伸ばすと、伏せられた顔を慎重に動かし夕日の下に晒す。

(お願い……せめて人違いであって欲しい)

 兵士でありながらも、普段から優しく朗らかに笑う目の前の少年。
 倒れていたこの人が、その少年の大切な親友であって欲しくないとクリスタも胸が締め付けられる思いで見守る。

「……っ!そんな……」

 しかし、息を飲んだアルミンの反応にクリスタは絶望を感じ取った。

 クリスタからは、その少年の顔は見えていない。
 しかし目の前のアルミンが苦しげに動かした口元は、確かに彼の親友の名を音もなく告げていたのであった。

 粘液に覆われてしまっているエレンの顔。
 それを無言のまま自分の手拭いで拭いてやっているアルミンに、クリスタはおずおずと小さく声を掛けた。

「アルミン、エレンは……?」
「……息はある。気を失っているだけみたいだ」

 その場の空気は重いが、死んだのではないとわかりほんの少しだけクリスタは安堵した。
 しかしそうなると場違いとも思える自分の存在に居たたまれなさを感じてしまうのも事実で。

(どうしよう……声、かけられないよ……あれ?)

 気づけば一歩、また一歩と後ずさりしてしまう……そしてふと視線を移した草むらの陰に、彼女はまとまって落ちている訓練兵団の団服を見つけた。

「アルミン、こっちに服があったよ!これを着せてあげ──あ……」

 服を手にとり、振り返ったクリスタは、そこで初めてエレンの惨状を知ることとなった。
 クリスタが目にしたのは尻から足にかけての粘液の下に滲み流れる赤──

 兵士である者が見間違えるはずもなく、それは血であった。

「……っ!クリスタ、服を見つけてくれてありがとう。僕が着せるから……悪いけど教官を呼んできて欲しいんだ」
「う、うん……その、私……行ってくる……っ!」

 クリスタが事態を察したようだとわかると、アルミンの青ざめた顔はより一層悲愴さを増すことになってしまった。
 絞り出すようなアルミンの願いに、上手く言葉も紡げないクリスタはそれでも気を強く持ち直して装置に身を任せて飛び出していく。

(早く……服を着せてあげなきゃ……)

──でもなぜエレンがこんな目に……?

 クリスタがいなくなった事で、耐えていた涙が堰を切ったようにその目から溢れ出した。
 本当に泣きたいのは自分ではないと分かっていながらも、止まらない涙は視界を酷く潤ませていくばかりだ。

 ノロノロとした手つきで、親友の体に服を着させる。
 手についた粘液の不快さは思わず眉根をひそめたくなるほどだ。
 しかしそれを全身に浴びたエレンを思うとまた胸が苦しくなるばかりで……アルミンは手近な木に粘液をなすりつけ、横たわるエレンの隣で膝を抱えて助けを待った。

──身の内に湧き上がる、信じがたい衝動に抗いながら……

・・・・・

「……っ!……オレは助かった……のか?」

「目が覚めたか」
「エレン!良かった……気が付いたんだね」

「教官!それにアルミン、オレは……っ!?」

 突然目の前に現れたキースとアルミンの姿に驚き身を起こそうとしたエレンは、自身の両手が拘束されているのに気づき驚愕の表情を浮かべた。

 途端に吹き出す汗と、気を失っていた時よりも更に白さを増す顔色。

「手の縄を……解いて下さい。お願いします、お願い……」

 ガタガタと震えるエレンの姿に、キースはすぐさまその拘束を解いてやった。
 すると、エレンは目に見えて落ち着きを取り戻していく。

 目覚めを嬉しそうに喜んだアルミンも、その異様さを目の当たりしては口を噤む外なくなってしまったのであった。

期待だ・・・エレンハァハァ・・・

「イェーガー、貴様は立体機動訓練場で倒れていたのをアルレルトとレンズの二人に発見されている」
「アルミンと……クリスタに?」
「そうだ。その時の状況から、我々は貴様が何者かにより性的な暴行を加えられたものとみているのだが……どうだ?」

 答えるよりもまず、エレンの目が部屋の隅で気配を押し殺すように縮こまっているクリスタを捉えた。
 そこにいる誰もが、その視線の意味を理解していた。
 エレンは同期の少女がいる場では話したくないのだろう。

「そう……です」

 しかし、それが配慮される場であるならば既にその措置はされているだろうことも明白であった。
 思わず言いよどんでしまったエレンにも、それは理解出来ている。
 何より自分を発見したのがこの二人だと言うならば、隠しても仕方ないことだと、エレンは話す覚悟を決めたように真っ直ぐ教官に向かった。

「ですが、襲ってきた相手は人間ではありませんでした。信じてもらえるか……自信はありませんが」

「何だと……?」

 元よりエレンはかなり肝の据わった男であるということを、彼を監督する立場にあるキースはよく知っていた。

 エレンに襲われた時の記憶があるならば、犯人は容易に捕まえられるものと楽観視していた部分もあったのは否定できない。
 それがどうやら間違っていたようだと、つかの間混乱をきたした頭をすぐさま落ち着かせ、身構えて言った。

「……では貴様を襲った物は何であったと言うのだ?イェーガー。順を追って話してもらうぞ」

 コクリと頷くエレン。
 彼は一度だけ唇を噛み締め、自らの恥辱にまみれた体験を語り始めた──

─────
───


(クソ……昼に走らされた疲れが足にきてるな)

 ジャンと昼食時に派手にやり合った場面を教官に見られてしまい、飯抜きで走らされること二十周。
 最近になり気温を下げた午後の風は森を抜けていく体に心地良いが、いかんせん全身運動である立体機動は疲労が激しい。
 一度立ち止まり、他の二人の様子を見よう……そう思って辺りを見回したエレンは愕然としてしまった。

「あ、あいつらはどこだ!?置いてきちまったか!?」

 エレンと同じ班だとわかった瞬間に「足を引っ張ったらごめんなさい」と声を合わせるように言った金髪コンビは、今はその影すら見えない。
 訓練目的を考えると、早く二人と合流しなければいけないのは明白で。

「どこか姿の探しやすい場所は……お、あれがちょうどいいな」

ついに触手モノか

滾るな

 エレンが狙いを定めたのは巨大な古木であった。

 周囲の木々に比べるとかなり弱ってはいるが、枝は太く、また辺りが見渡しやすく拓けていることも好都合だ。
 エレンは躊躇い無くその枝に飛び乗るとアルミン達を探して森に目を走らせた。

「追い越されてはいないはずだから予定通りならあっちから……ん?」

 疲れた体を休めながら目をこらしていると、ポタリと額を濡らした液体に気づいた。
 途端に、頭上の枝葉がガサガサと音をならして騒ぎ始める。
 強風に揺れたのとは違う、巨大な生物の移動を思わせるその音にエレンは身構え、すぐさま違う木に移ろうと身を翻した。

 しかし、その行動は遅過ぎた。
 いや……初めから逃げる事など出来なかったのかもしれない。
 古木から足を離した瞬間、エレンは“それ”に絡め捕られてしまったのである。

 時が止まったかのように宙に浮く己の体に、エレンは混乱していた。
 四肢を何かに絡め捕られているのはわかるが、後方に捻り上げられて視界の外にあるため、腕や足に伝わるその感触しか情報がない。

(ぐにぐに動きやがって……痛くはねぇけど気色悪い)

 しかし、得体の知れない物との遭遇にも、エレンはなんとか冷静さを取り戻した。
 今己を拘束している物は痛みを与えるのが目的ではないようだ。
 刃を装備出来れば叩き切れるだろう、そう思い拘束に逆らって装置をぐっと鞘に近づける。

 が、それを阻んだのは、まるで子供から危ない玩具でも取り上げるかのような意外な優しさで動く“何か”であった。

 ぬるりとした物が、エレンの両手を優しくこじ開け、操作装置を取り上げる。
 四肢は解放されていない。
 つまり、そこには少なくとも六本かそれ以上のモノが蠢いているということになる。

「な……何なんだよコレは。オレは一体何に捕まって……っ!」

 再びエレンの頭が混乱し掛けた時、それは動き出した。
 エレンをぐるりと反転させ、古木の方へと顔を向けさせる。
 自分を捕らえる物を視認した時、エレンは叫び声すら上げることが出来なかった。

「う……っ!」

 この世には巨人なんてものさえ存在している。
 しかし、こんな怪異は聞いた事がない。

 それはまるで水中に揺れる水草のようであった。
 何本ものぬらぬらと光る黄緑色の触手の集合体。

 本体と呼べそうな部分も見当たらない、意思の疎通など期待も出来ないような化け物がそこにいた。

「ひっ……ひっ!」

 その化け物の異様さから目を離せないでいるエレンをよそに、化け物は触手を駆使し積極的にその強張る体を責め始めた。

 首筋を這い、そのぬめりを塗りつけるかのように肌を舐める。
 いくつもの触手が脇腹を撫で、尻を撫で、胸を撫で上げる。
 絶対に外されない、大丈夫だと縋る気持ちでいた立体機動装置も、ベルトごと眼下の草むらに落ちるのを見送ることになり──

 エレンは、いつのまにか溢れ出した絶望が己の両の目を滲ませていることにも気づけずにいた。

・・・・・

「んっ……んっ!」

 風の吹き抜ける森にいながら体を覆うものが何もないという不安は、エレンから抗う気力を根こそぎ奪い去っていく。
 全身を舐め回され、夕日を煌めかせるほどにぬらぬらと光る体。
 その体の内側では、はっきりとした変化が起き始めていた。

(ああ……)

 永遠とも思える悪夢の中にいたエレンであったが、実のところ化け物との遭遇からはさほど時間も経っていない。
 短い時間で服を脱がされ、不快感しかなかったその触手のぬめぬめとした感触。

 しかし、今ではその優しい動きが物足りなくすら思えてきているのだ。

(自分で触りたい……)

ついに、来たか!!

(足りない)

(化け物のくせに……何をそう優しくしてやがるんだ……)

(大して意識したこともない胸の飾りが、こんな快感をうむ場所だったなんて……知らなかった)

(汚ねぇ粘液を頭からぶっかけられてから……体が熱くて仕方ない)

(頼むから……もっと強くしてくれ。オレの手を離す気がないなら)

「もっと……強く……」

「うわっ……んあっ、あっ!」

 エレンの呟きに呼応するかのように、触手は急にその動きを早めた。
 エレンの立ち上がった陰茎を粘液ごと擦りあげ、明確に射精を促してくる。

「あっ……あっ……」

(ああっ……もう……っ!)

 グチュグチュと遠慮の無い水音を立つ。
 触手はまるで必死にエレンを喜ばせようとする恋人のように、彼の快感を押し上げていく。

 そして、霞みがかった意識の中、解放を待ち望んだ瞬間……それはエレンを襲った。

──ギチッ……

「がぁ……っ!あぐっ……うあ……」

 突如としてエレンの後孔に侵入を果たした触手。
 粘液の助けはあれど、今までの生ぬるい責めから一転して貫かれたその場所は、メリメリと無理に広げられ激しい痛みを訴えていた。

「ぎ……いぃっ!」

 ガクガクと身を震わせ、もがくように手足をバタつかせるエレンだったが、それは無意味な行動であった。
 後孔に侵入した触手は、エレンの抵抗など気にもせずに暴れ出す。

 絶頂の直前まで高まっていたはずの陰茎は既に萎え、触手になぶられようとも反応を示さないでいる。

 そしてその時、エレンの足を血が静かに伝い流れていった。

「ちくしょう……っ!オレは何を考えてるんだよ……っ!化け物にいいようにされて……っ!!!」

「誰か助けてくれよ、オレは……こんなのは嫌だ……っ!」

 後孔を責められる痛みが、エレンを覆っていた霞みを少しずつ晴らしていく。

 しかし助けを求めるその声はまだ小さかった。
 助かりたいのは確かだが、捨てきれないプライドが邪魔をしているのだ。

 こんな姿は誰にも見られたくないという、当たり前の感情がそこにはあった。

 自分を探しているだろう親友に。
 常に自分を気に掛けてくれる家族に。
 同じ森を駆け抜ける同期たちに。
 自分を鍛え上げ、そして評価してくれる上官たちに──

 化け物に尻をなぶられているこんな自分の姿なんて……絶対に、見られたくない。

エレンでおっきするのはホモじゃないよな?…な?

俺もおっきしてるし違うと思うよ

>>25
大丈夫だ…俺はホモじゃないのが確証だ…

・・・・・

「ぐっ……ん……?」

 それは緩やかな変化であった。

 突き上げられる痛みに耐え、悲鳴をかみ殺していたエレンの下腹部に起きた小さな変化。

 幸か不幸か、エレンの体が見つけてしまったのは今まで痛みに埋もれて見えずにいた快感の芽であった。

「あ?んんっ……ひぃっ……」

 訳がわからないといった表情で、次第に大きくなる快感に戸惑うエレン。
 しかし漏れる声を抑えられないほどにしっかりとその快感を意識した時、彼を襲ったのは悔しさだった。

(痛みだけに……してくれよ)

(何が悲しくてオレは……化け物にケツを突き上げられるのが気持ちいいだなんて思わなきゃならないんだ?)

「……やめろ」

「やめろっ!」

「やめろっ!離せっ!離せよぉっ!!!」

「オレはこんなバカみたいな姿を晒したくはないっ!」

 人間として……男としての矜持を保ちたい、負けたくないと、心が悲鳴を上げていた。

 得体の知れない化け物の与える快楽になんて屈したくないのに、それでも高まる射精感に心が折れそうになる。

 再びその鎌首をもたげたエレンの陰茎が、体と心の乖離を如実に示していた。

「もういい、誰に見られてもいいっ!」

「誰かオレを助けてくれ!」

「誰かぁっ!」

 意図せず漏れてしまう喘ぎ声の合間に、エレンは精一杯助けを求めた。

 しかし、触手は相変わらず遠慮もなく後孔への責めを繰り返し、強く陰茎を擦り上げ続けている。
 胸の両乳首をこねくり回す触手も、確実に快感を押し上げる役割を果たしていた。

 もう、保たない。
 エレンの絶望がその色を深めた。

「ああっ……嫌だ……っ!」

「こんなのは知らないっ!オレは化け物にやられて喜ぶような変態じゃないんだっ!」

「助けてくれ……っ!」

「オレは……っ!」

「……っ!」


 それは無情にも、抗う理性のふちから溢れ出していく。

 エレンの眼下に広がる草むらを濡らす雨となったのは、彼の頬を伝い落ちた涙だけではなかった。

・・・・・

「──それから先は覚えていません」

 エレンは俯き、誰の目も見ることが出来ずにいた。

 まだ人間相手なら良かったのかもしれない。
 誰が信じるというのか……未知の生物に弄ばれたなどという話を。

「……覚えているのは本当にそれだけか?」
「え?は、はい。勿論嘘も隠し事もしていません。さっきここで目覚める前の記憶はそれが全てです」

「そうか。では今日はもう休め。アルレルト、レンズ、貴様らは私についてこい」

「……え?教官、でもオレの……」
「聞こえなかったか?今日は休めと言ったのだ。夕食は誰か他の者に運ばせる。窮屈であろうとも、今夜は医務室を出るな。これは命令だ」
「は……はい」

 自分ですら記憶を疑いたくなるこの状況である。
 しかし疑われもしない代わりに、信じると言われた訳でもないエレンの戸惑いは最もであった。

 教官について医務室を出るアルミンが小さく振った手に軽く応え、静かになった部屋のベッドで一人膝を抱える。
 サラリとした髪が俯いた目に影を落とし、ふと気づく。


(あ……オレ、風呂入ったっけ?)

(誰かが入れてくれたのかな?)

(恥ずかしい……なぁ……)

(でも……今更、か)

今日は寝ます

レスくださった方ありがとうございました!
また来ます

おつおつ

これは、支援しなけば!

乙!


続き期待

ごめん、おっきした

・・・・・

 エレンが一人、目を開けたままに見た悪夢を忘れようともがいていた同じ時、アルミンは教官室でキースと向かい合っていた。

 医務室を出た後、クリスタは今回の件を他言しないことを約束し、本人の希望によりエレンへと夕食を運ぶ役割を買って出ておりここにはいない。

 目の前で姿勢を正したままのアルミンにも意識を向けずにいるキースは、どこか普段のその人とは違って見える。
 言いにくい事があるようで、とても慎重に言葉を選んでいる、そんな印象を与える沈黙だった。

「……アルレルト、貴様はイェーガーとの付き合いは長いようだな?」
「はい、小さい頃からの付き合いです」

「では最近の奴についても詳しいか?」
「……はい、男子の中ではたぶん、一番彼を知っているかと……」

「では聞こう……イェーガーには男色の趣味はあるか?」

「……は?えっと……いえ、彼はとてもストイックな性格ですが、性的な興味は女性にあると思い……ます」

「では自分から男に誘いを掛けるようなことも無いと、考えていいな?」
「は、はい。僕は寮でも同室で、彼とは比較的長く時間を共にしています。ですが今までそんな様子は一度も……」
「……そうか」

 予想もしかなった教官の問いかけにアルミンが面食らったのは言うまでもなかった。

(どういう事だ?教官はエレンの話を疑って……?いや、勿論すんなりと信じられるような話じゃなかったのは確かだけど……)

「一つ、宜しいでしょうか?」
「なんだ?」
「……教官は、エレンのいう“化け物”は存在せず、あくまでも“人間”に襲われたのだとお考えですか?」

「いや、現場にあった大量の粘液をわざわざ人間が用意したとは思えん。それにイェーガーの話を聞く限り、全てを奴の幻覚であるとするには本人の記憶がしっかりし過ぎている」

「また、奴の性格を考えると長々と語れる程嘘も上手くないだろう。誰かを庇うにしても、何も無かったと言い張るのでは無く、化け物に襲われたと主張するのもおかしな話だからな」

 少なくとも教官はエレンをこのまま精神に異常をきたしたとして開拓地送りにしたりはしないだろうと、アルミンは安堵した。

 しかし、それならば先ほどの質問の意図は何だろうか。

 確かにこの世でいう“暴行”は多種多様だ。
 襲われるのがか弱い女子供に限った事ではないということくらい、治安維持を担う立場で無くとも知識としては持ち合わせている。

「……倒れていたイェーガーが兵舎に戻る為に荷馬車に乗せられた事は知っているな?」

 アルミンの疑問ははっきりと顔に出ていたらしい。
 教官の口から、エレンも知らないという新たな情報が伝えられる。

 しかしそれは、アルミンにとってはエレンの話と同じくらい信じがたい話であった。

・・・・・

「エレンが……荷馬車の中で副官に襲われかけた……?」

「そうだ。私が副官に見張りを任せた。が、その副官がイェーガーに手を出したと言う訳だ」
「何故ですか!?あの人は……副官はとてもそんな事をするような人には──」
「だから私も疑問に思ったのだ。あいつは最近結婚したばかり……その相手とも長い付き合いだと聞いている」

 アルミンだってそれは知っている。
 いつも厳しい教官のフォローに奔走しているような人なのだ。
 男好きだなんて噂がある訳もないほど、奥さんを大切にしている人。

「!……だからエレンが誘ったのではないかと……そう言いたいのですか?エレンは何者かに襲われて傷ついたばかりの体なんです!それなのにそんな事……っ!」

「落ち着けアルレルト、単なる確認だ。それでなくとも不可解な状況ではある」
「不可解……ですか?」

「そうだ。副官がイェーガーに手を出したと言ったが、それは“中に人を呼んだ後で”行われたのだ」





 エレンの見張りを頼まれた副官は荷馬車に同乗し、暫くした後に小窓から「イェーガーの様子がおかしい、誰か手を貸してくれ」と、そう叫んだそうだ。
 そして荷馬車を止め、中に入った他の上官が見たもの……。

 それは今助けを求めたばかりの副官がエレンを抱き締め、その陰茎を握りこみ熱心に愛撫している姿であった。

 虚ろな瞳でその行為を受け入れるエレンは、その副官の空いた手を自分の胸へと誘っている。

 まるで恋人同士のような二人に上官は驚き、すぐさま副官を引き剥がそうとした。
 しかしその副官の抵抗は凄まじく、荷馬車に積まれていた縄で拘束されてもなおエレンに触れようと暴れていたという。

 そしてそんな騒ぎの中、エレンは急に消えた愛撫の続きを己の手で続けていた。
 そのとろけるようなエレンの表情に上官は異様なものを感じとり、結局はエレンも副官同様、拘束されることとなったのだった。





「──そして兵舎についてもまだ暴れていた二人には鎮静剤が投与された。それからイェーガーは風呂に放り込まれた上で医務室へ、副官は事が事だけに見張りをつけて営倉にて謹慎中という訳だ」

 アルミンは言葉も出なかった。

(エレンは一体どうしてしまったんだ……?)

(自分たちと離れた隙に何が……そして荷馬車の中でエレンに何が起きた?)

「……私はイェーガーの言う古木を調べようと思っている」

「!……副官の事はどうなるのですか?」
「友人が襲われて思うところもあるだろう。しかし、今回の件は二つとも無関係とは思えん。古木の異常を調査し終えるまで、副官の事は保留とする」

 逆らっても意味はないとはっきりわかる、有無を言わさぬ言葉だった。
 アルミンに出来ることといえば、教官室を出る前に調査の折りには協力したいと申し出ることくらいだ。

(僕……夕飯食べてないや)

(明日ミカサをどうやって誤魔化したらいいんだろう)

(……なんて小さいんだ、僕の悩みは)

 戻ったところで今一番支えになってやりたい親友はそこにはいないが、アルミンは部屋に戻るしかない。
 今はエレンの心と体の傷が癒えるのを願うほかなかった。

 翌日の午前中、そして翌々日の午後に、立体機動訓練場には上官五人で構成された調査隊が派遣された。

 上官にとっても見慣れた森であることは確かである。
 探す範囲がわかっているならば見つけ出すのも簡単だろうと調査隊は意気揚々と出発していくが、実のところそう上手くはいかなかった。
 エレンが発見された付近を何度捜索しようとも、エレンが言う“周囲の木よりも明らかに巨大な古木”は発見されなかったのだ。

(おい、古木なんて本当にあるのか?)
(探す範囲は大した広さでも無いのに……普通五人がかりならとっくに見つかってたっておかしくはないよな)

 訓練兵の立体機動訓練を中止し、他の訓練に回してまで森を二日に渡り調べつくしたのにこの結果である。
 いよいよ調査隊の中にもエレンの幻覚ではと疑う者も出てきて、三日目の調査をする必要があるのかという愚痴も聞こえてきた。

 しかしその三日目、ある人物の休暇が明けたことにより、事態は好転することとなる。

「古木……ああもしかして“癒やしの古木”の事かな?君も世話になったのかい?」
「な、何かご存知なんですか!?」
「ああ、話だけは何度か聞いているよ」

 エレンが精神異常だなどと判断されては困ると切羽詰まっていたアルミンが医務室を訪れたのは全くの偶然だった。
 古木の情報をくれたこの人物、それは身内の不幸で五日間訓練所を離れていて今日復帰したばかりの医務官である。

「ここに勤めて長いけどね、時々訓練兵がその古木の事を話してくれるんだよ」

「森が夕日に染まる頃、疲れきった人に反応して姿を現す古木。その幹に触れるとたちまち元気になるってね」

「姿を現す?つまり普通に探したのでは見つからないのが癒やしの古木……」
「ああ、“癒やしの古木”というのは私が勝手にそう呼んでいるだけだよ。でもそれに襲われたなんて話は聞いたことも……」

 医務官の言う“癒やしの古木”が、エレンの言うそれと同じであるとは断定出来ない。
 しかし、実のところアルミンやクリスタ、そしてエレンの救助に駆けつけた者が誰一人としてその“古木”を見ていないこと……それが気がかりな部分であったことは確かであった。

(解決……出来るのかも知れない、エレンの言う化け物がいた古木を見つけられれば!)

 それはこの数日で、一番の希望をもたらしてくれた情報だと言える。
 教官の元へ報告に急ぐアルミンの足取りはいつになく軽かった。

・・・・・

 調査開始から三日目、ついに調査隊は古木の発見を果たした。

 夕日に空が赤く染まり始めた頃、今まで何度もアルミンとクリスタ、そしてエレンから詳しい場所を聞いて探した筈の場所にそれはあった。

 明るい日差しはなくとも目立つ巨大な古木。
 今までの調査でなぜ見つけられなかったのかと疑問も湧くが、怪異を起こし年若い訓練兵を弄んだ化け物がいるという古木の発見に、調査隊にも緊張が走った。

「……いけっ!」
「ハッ!」

 一人の上官が恐る恐る近づく。
しかし、古木の根元まで近づきその幹に触れても辺りは静かなままだ。

 次に屈強な体躯の者が立体機動で古木の枝に降り立った。
 上方へ移動し細い枝をボキリと折るも何の変化も無く、それはただの“折れた枝”でしかない。

 その後も古木の周辺をウロウロとしてみるが、怪しい物音一つせず、澄んだ空気の流れるばかりで普段の森となんら変わる事はないまま。

 意図的に疲労を溜めさせられた二名の上官には同情を禁じ得ないが、最後まで調査隊に怪異が訪れることはなかったのだった。

しくじった、出掛けなければ
夜にまた来ます

おつおつ

いってらっしゃい
楽しみにしてるよ

『古木を発見、しかしただの樹木となんら変わる事はなく──』

「ふむ……」

(どうしたことか……)

 調査隊の報告を受けたキースは一人、まとまらない思考をため息で誤魔化していた。

 そろそろ決断を下さねばならない時期ではある。
 本部への連絡無しに訓練内容を変更し、更には三度調査隊を派遣した。
 事の詳細を知るものは最小限に留めているが、他の訓練兵までもが騒ぎ出しては抑えようもなくなるだろう。

「やはり鍵はイェーガーなのか……?」

 しかし、普通の性的暴行被害と今回の件は違う。
 再度現場に赴いて、エレンが無事でいられるかどうかはキースにも分からないのだ。
 同行させるべきか、否か。

 その夜、キースは苦渋の決断を下さねばならなかった。

・・・・・

(大丈夫だ、大丈夫。皆がいるんだ)

(オレは離れて見ているだけだ、あの古木さえ切っちまえばきっと……)

 巨人と対峙するのとは違う恐怖が、そこにはあった。

 今エレンを取り囲んでいるのは調査隊に加わっていた上官五人、キース、医務官、そしてエレンの護衛を任された成績優秀者のライナーにベルトルトだ。
 そしてその一行の遥か後方には本人たちの強い希望により、アルミンとクリスタが控えている。
 本来ならば女性の参加は拒否したい場面であったが、事情を知る者で連絡要員を確保する為の措置である。
 クリスタには十分に「被害者となる可能性があること」が説かれたのは言うまでもなかった。

 医務官以外は全員立体機動装置を装備し、夕暮れ間近の森を古木目指して進んでいた。

きたか

「教官、古木発見致しました!」

 エレンたちより先を行く上官たちが古木を発見したのは、あの日と同じ、夕日が森を赤く染め始めた頃だった。

「おい、これって……」
「ああ……“昨日とは違う”な。気をつけろ」

 しかしその古木は、前日に調査隊が見たような穏やかな森の一部とは言い難かった。
 その生々しい気配に、斧を構えた上官たちも軽口一つ叩けないでいる。

「これだけの大木だ、挟み込むように立ち、両側から切り込め」
「ハッ!」

 教官の命を受け、斧を構えた上官が二人、まず古木へと近づいた。

 周囲の空気こそ重いものの、今のところ何かに襲われる気配はない。
 二人がその大木を挟むようにして立ち、無言で互いにタイミングを合わせると、一気に古木へ斧を振りきった。

「!?う、うわぁっ!」
「な、なんだこりゃ!?」

 抵抗も少なく、ザクリと幹に深く入った斧。
 しかし、その切り口からは樹液……いや、先日エレンの体を覆ったあの黄色い粘液が大量に飛び出し、上官たちの顔や手を濡らしたのだった。

 こみ上げる不快感に加え、このままでは手が滑って斧など振れない。
 上官は粘液にまみれた斧を他の二人に手渡して拭いてくれるように頼み、自身もその身に降りかかった粘液の除去に取り掛かった。

「チッ、汚ねぇなぁ……」
「全くだ。手がぬるぬるしてなかなか取れん……」

 暫くは愚痴をこぼしていた四人だった。
 しかしその四人は同時にピタリと動きを止め、やがて斧を捨てて静かに歩き出したのだ。

 確かな足取りで、後ろにいたキースや医務官には目もくれず。

──エレンの方へと。

「おい、上官方の様子がおかしいぞ」
「お、おかしいってなんだよ……騒いでるような感じではねぇぞ?」

 木の枝に立ち、辛うじて見える上官たちの様子を窺っていたライナーの言葉に、エレンの声が震える。

 エレンたちのいる場所は古木から三十メートルほど離れた場所だ。
 何か異変があれば余裕で声も届くはずである。

「いや、やっと古木を切り始めたと思ったのに何故か全員こっちに向かって来てるんだ。俺が様子を見てこよう……ベルトルト、エレンを頼むぞ」

「あっ、おいライナー!」

 ライナーはベルトルトの返事を待つでもなく、さっさとガスをふかして飛び出していった。
 その後ろ姿を見送ると、ベルトルトは両手に刃を構える。

「エレンは僕の後ろにいて。装置は構えていた方が良さそうだ」
「あ、ああ……悪いな」

 エレンにとって、本来同じ立場である仲間たちに庇われるのは決して居心地がいいものではなかった。
 しかし今は恐怖が先行している為か、素直に応じるほかない。

(頼むから早いとこ切り倒してくれ!)

 祈るような思いでライナーの向かった先を見つめる。
 柄を痛いほどに握り締めるエレンの両手は、とうにその感覚を失っていた。

・・・・・

「教官、これは一体!?」
「ブラウン!こいつらを取り押さえろ!」
「は……ハッ!」

 古木のそばまで来たライナーは、その場の異様さに面食らってしまった。

 教官ともう一人の上官で暴れる四人を拘束し、医務官は鎮静剤を投与して回っているのだ。
 訳もわからないまま、まだ元気な一人を押さえ込むと、その者を最後に薬の投与は終わったらしい。
 説明を求めるライナーを無視し、キースは次の指示を飛ばした。

「こいつらはもうだめだ、体勢を立て直す!貴様はすぐにイェーガーの元に戻りフーバーと共に奴を連れて逃げろ!」

「ハッ!」

 不測の事態が起こった事をすぐに理解してライナーは身を起こし、そして今自分が来たばかりの方向へ叫んだ。

「ベルトルト!エレンを連れて逃げろ!」

 ライナーはまるで自分の声を追うかのように装置を構えた。
 目の前の木に狙いを定めアンカーを撃ち込み、自身を巻き上げていく力に身を任せる。


 そのライナーの真横を、追い越して行ったものがあった。

(十分に距離をとっていたつもりだった)

(あの日自分を取り囲んだ触手の長さを十分に考慮し、予想する長さの三倍以上も離れて待機した)

(恥を忍んで、仲間の体の影にも隠れさせてもらった)

(それなのに……)

『エレンを連れて逃げろ』

(ライナーの叫びからほとんど間もなく、訓練でも感じたことがないほどの重力に晒された)

(呆気にとられたようなベルトルトの顔も、見えたのはほんの一瞬だけだ)

(逃げる為の立体機動装置も易々と外された)

(おしまいだ)

(犯される)

(……今度は仲間の前で)

 いつの間に現れたのか、古木にはあの化け物の姿があった。

 ぬめついた黄緑色の触手をめいいっぱい伸ばし、目当ての獲物を正確に捕獲する。
 刃を構えていたベルトルトの後ろから呆気なく引きずり出され、ライナーの目の前を高速で通り過ぎ、無数の触手に絡めとられ高々と掲げられたもの……言わずもがな、それはエレンであった。

「うわぁぁぁぁぁぁぁあ!!」

 エレンの口からもれる悲鳴、思い出される悪夢。

 一瞬、何が起こったのか理解出来ずに呆けていた周囲の者も、その声にハッと我に返った。
 そして気づく、最悪の状況だと。

「く……くそっ!俺が声を掛けたからか……っ!?」

 ライナーはすぐさま方向転換し、古木へと引き寄せられたエレンを追った。
 目の前には無数の触手に捕らわれたエレンが、既に滴る程の粘液を掛けられ助けを求めている。

(狙いは……四肢を拘束する太い触手!)

 古木の奥の木を目指してアンカーを出し、通り過ぎる勢いのままに一本の触手を切断した。
 それによりエレンの左腕は一度解放されたものの、すぐさま別の触手が左腕を拘束し直してしまう。

 しかし、切れない物ではないと分かっただけでも良かった。

(いける!こいつはかなり脆いぞ。全部叩き切って──)

「避けろブラウン!上だ!」

「ラ……ライナー!?嘘だろ!?おいっ!!」

「目を覚ませよ!ライナーってば!!」

 鳥肌が立つような触手の感触に耐えていたエレンは、目の前の光景が信じられなかった。

 ライナーは確かに一瞬ではあったが、エレンの左腕に絡んでいた触手を切り落としたのだ。
 この化け物は刃で切れる。
 そう希望を持ったのもつかの間、次にエレンが目にしたのは目の前の木に叩きつけられるライナーだった。

 両足を揃えて触手に捕まれたライナーはぐったりしており、どうやら気を失っているようだ。
 触手はそのライナーを古木の上方の枝へと引っ掛けると、興味を失ったかのように放置した。

 そしてやはり、その全ての触手はエレンへと向かう事になったのだった。

「やめ……い、やだぁ……」

 思い出したくもない記憶だが、あの日の触手は今日よりもずいぶん優しかったと、エレンは頭の片隅で考えていた。

 前回は服も傷つけられることなく脱がされたのに、性急さを増した化け物は鋭利な枝のような触手を体に這わせてくる。
 それはエレンの肌こそ傷つけはしないものの、数少ないエレンの服を確実に切り刻んでいった。

「んっ……くっ」

 ぬめる触手が露わになったエレンの胸を滑る。

 そして前回同様、徐々に熱がこもりはじめる体に霞んでくる意識と理性。
 目には自然と涙が溢れ、またその悔しさからエレンはギリギリと唇を噛み締めた。

「うっ……ん……え?き、教官……教官っ!待ってください!」

 声を押し殺していたエレンが曇りガラスのような視界の中に見つけたのは、新たな絶望。

 キースが足早にこの場から去っていく、その後ろ姿をその目は捉えたのだった。

(置いていかれるのか?ここに?一人で?)

(体勢を整えたらまた助けに来てくれるのか?)

(応援を呼びに……?でも戻ってくる確証なんて……)

(もし見捨てられたら……?)

「い、行かないで……はぁっ……あっ…」

 下着の中に潜り込んだ触手の愛撫に、エレンは熱い吐息を漏らす。
 そしてその隙を縫うように、顔中を撫で回していた触手が一本、エレンの口内へと侵入を果たしたのだった。

 粘液は、想像していたよりも舌に甘い。

(あまい……おいしい……)

(それに……きもちいい)

 エレンの体は与えられる快感に素直な反応を返している。

 ぬめりを利用して陰茎を滑らかにしごき上げられると腰がビクビクとその快感を追って動き、慣れない乳首への愛撫はゾクリと背中を走る電流のようだ。

(ずっとこのままでも……いいのかもしれない)


 グチュグチュと耳すら犯す水音に思考を支配される。

 そしてエレンが抵抗をやめた時、下着の中へと更に数本の触手が入ってきた。

 その触手が目指したのはエレンの後孔だ。
 もぐり込む場所を探すように、触手の先で尻を刺激する。

(あ──)

 唐突に開けた思考の霧。
 “あの痛み”への恐怖は、何よりも体が覚えていたのである。

「ぐぅっ!」

 エレンは口内を蠢いていた触手を噛みちぎり、不快な欠片を吐き出し叫んだ。

「──負けてたまるかぁっ!!!」

「フンッ!」
「ハァッ!」

 絶叫の後、ふと気づけば目の前にはキースとベルトルトが迫っていた。

 立体機動で一息に距離を詰めてきた二人によって触手が数本断ち切られ、エレンの両足が自由を得たのだ。

 すぐさま触手は二人を捕らえようと新たな触手を伸ばすが、二人は冷静に襲い来る触手へ刃を叩き込み続けた。

「ああ……教官、ベルトルト……」

 置いて行かれたのではなかった。
 エレンの体を弄んでいた触手も徐々に減りつつある。

「ぐ……っ!」

 しかし、長い攻防を接近と離脱を上手く使い切り抜けていたキースも、ついに背後からの一撃をくらってしまいその膝をついた。

 化け物の出現に腰を抜かした医務官と上官は既に応援を呼びに行かせているが、戻るにはかなりの時間を要するだろう。

(後はフーバーに頼るしか……っ!?)

「フーバー!何をしているっ!?早く構えろ!」
「ベルトルト!後少しなんだ!早く……え?」

 カシャンと、刃の落ちる音が響いた。
 刃の持ち主はベルトルト。
 彼は何故か古木の真正面に立ちながら、構えもせずにエレンを見つめていた。

「あ?……え?」

 戸惑うエレンをよそに、今度は触手が不可解な動きを見せた。
 未だ両腕を拘束され宙吊りになっていたエレンの体が、立ち尽くすベルトルトの目の前へゆっくりと下ろされていく。

 二人の目が合う。
 ベルトルトはいつもと同じ、いや、普段以上に穏やかで満ち足りた表情を浮かべている。

「ベル──?」

 エレンが仲間の名を口にしようとしたその時、腰に辛うじて引っかかっていたエレンの下着が、ベルトルトの手で脱がされた。
 そして粘液にまみれた手をエレンの尻へと滑らせ、浮いたままの体を引き寄せる。

「なっ……やめ……っ!ベルトルト!?」

「……して、……るよ」
「……な、何?」


「癒やして、あげるよ」

「あ……な、何で……?お前……」


「ヌンッ!!!」

「え!?ハ……ッ!教官!!!」

 エレンがベルトルトの行動に混乱していた時だった。
 異変を感じ取ったキースは一瞬のうちに距離を詰め、ベルトルトを引き倒して組み敷き、その体を力で押さえつけたのだ。

「エレン!」
「遅くなってごめんなさい!」

「お、お前ら逃げてなかったのか!?」

 そして、新たに合流した二人。
 それは、エレン達よりも遥か後方で待機していたはずのアルミンとクリスタだった。

「今助けてあげるからね!」
「ク、クリスタ!?ダメだよ、まだ状況が……っ!」

「くっ……アルレルト、手伝え!そこの縄でフーバーを縛れ、こいつは混乱している!」
「は、はい!」

 到着するや否や、クリスタは果敢にもエレンに纏わりつく触手へと向かって行った。

 キースとベルトルトの活躍でだいぶ触手は減らされているものの、先に切られたものはゆっくりとではあるが再生しているようだ。
 短いながらも太く力強い触手がクリスタを苦しめている。

「そういえばライナーはどこに……あ、あれ?あれは──教官!見てください!古木の上の方!」
「なんだあれは……一本だけ木の上に向かって伸びている触手があるな」

「はい、前にエレンが襲われた時に“本体の居場所は分からなかった”と言っていました。あの太い触手を辿ればもしかしたら……!」

 うっすらとではあるが、絶望の中にも勝機が見えた。

 後はベルトルトの拘束を済ませて古木を調べるだけ。
 しかし、頭では理解しているアルミンではあるが、焦りがその手元を狂わせてしまい、なかなか暴れるベルトルトを捕縛出来ずにいる。

「まだか!?……もういい、アルレルト!縄を貸せ!」
「は、はい!すみま──」

 もたつくアルミンから縄を奪い、キースがその役目を交換しようとした、その時だった。

「アルミーンッ!助けてくれ!これは本当にヤバい……っ!」

 エレンの絶叫。そして──


「……癒やしてあげるよ」

 静かに、クリスタの声が響いた。

「来るな……っ!おい、クリスタ!目を覚ませってば!」

 宙吊りにされたエレンは、それでも自身に触れようと伸ばされたクリスタの手から逃れようともがいていた。

「癒やしてあげたいの」

 べルトルトと同じ言葉をつぶやきながらふわりと笑顔を浮かべ近づくクリスタに、エレンは冷や汗をかく。

 その言葉は、体に湧き上がる熱と同時にエレンの頭の中でずっと響いていた言葉であったからだ。

「マズいな……レンズが粘液を被ってしまったようだ」
「粘液を……ま、まさかベルトルト達は皆、この粘液のせいで……!?」

「恐らく。フーバーも上官達も今のレンズと同じだった」

 キースに押さえ込まれているベルトルト、そして鎮静剤を打たれ転がっている上官達を見ると、確かにその体には粘液が大量に付着している部分があった。

 キースの服にも多少粘液が飛んでいるものの、彼が平静を保っている様子から、どうやら肌に触れなければ平気なようではある。

 しかし辺りは切断された触手から飛び出した粘液だらけで、油断出来ない状況に変わりはなかった。

「アルレルト、貴様は本体の特定と破壊に集中しろ。ここは私が抑える」
「し、しかし教官、ベルトルトとクリスタ二人とも操られているのに──」

「なめるなよ若造。さっさといけ!」
「は、ハッ!」

 キースの強い指示に、アルミンは立ち上がり走り出した。

 目の端にとらえたエレンは近づいてくるクリスタに対し足を振り上げて牽制している。
 エレンにとっても、またクリスタにとっても残された時間は多くはなかった。

(とにかく上へ行かなくちゃ!)

 巨大な古木を慎重に登る。
 しかし、上へ行けば行くほど枝ももろくなり、思うように進路が定まらない。

 そしてアルミンがこれ以上古木は登れないというところまで来た時、すでに辺りの木々は軒並みその眼下に収まってしまっていた。

「あった……あの塊、きっとあれが……」

 化け物の本体。
 それは意外にも呆気なく見つけることができた。
 古木の細く頼りない幹にしがみついた球体のようなそれは、幹が折れはしないかと心配になるようなほどの大きさで、夕日を浴びて燃えるような赤に染まっている。

 そしてそれを強く照らす太陽に目をやれば、陽がおちるのは時間の問題だということがわかった。

 暗闇で出来ることなど多くはない。
 涼やかな風を全身に浴びながらも、アルミンの背中にはじっとりとした汗が滲んでいた。

 辺りの一番高い木から本体を狙ったとしても、その距離は二十メートル程ある。
 細い古木の幹を確実に狙い、ガスの勢いと体重移動で本体目掛けて正確に飛ばなければいけない。
 そしてなにより攻撃が成功した後も、アンカーを刺せる目標が少ない中で落下に備えなければいけないという場面だ。

(僕に出来るか……?)

 アルミンの頭に不安がよぎる。
 ただ森を抜けるという訓練ですら順位は下から数えた方が早く、技術も体力も頭で理解している半分も発揮できていないのが現状だ。
 ミカサであれば躊躇いなく飛び出したであろうこの状況は、アルミンには荷が重い。

 しかし──

(僕しか、いない)

(出来なければ、エレンが危ないんだっ!)

(何としてでも決めてみせる……この一撃で!!!)

 アンカーを刺し、一直線に化け物の本体を目指し飛ぶ。
 轟々と耳元でなる風の音も、アルミンには聞こえていなかった。

(エレンを返せ、化け物め……っ!)

「ああああああああっっっ!」

 刃を構えて、薙ぎ払う。
 水を切るような手応えの無さから一瞬遅れて、幹の硬さがビリビリと腕に響く──が、

「ハァッ!」

 負けじと振り切り、アルミンは化け物を幹ごと切り裂いた。

 弾けるように霧散した化け物。

 空に舞うアルミンには、声にならない断末魔が聞こえていた。

・・・・・

「エレン!」

 顔中に細かい傷を作ったアルミンが古木へと戻った時、エレンはぐったりと地面に突っ伏していた。
 辺りに散らばっていた化け物の触手や粘液は全て消えており、そこは穏やかな夕暮れの森という本来の姿を取り戻している。

「よくやった、アルレルト」
「教官!皆は……」
「気を失っているだけだ。直に医務官達が呼びに行った応援も来るだろう」

 言いながらキースはジャケットを脱ぎ、服を刻まれてしまった裸のエレンにかける。
 アルミンも慌てて自分のジャケットをかけてやるが、ふとエレンの顔に目をやると目立つ赤が目に入った。

 エレンが、触手に弄ばれる悔しさから噛み締めた唇……そしてそのせいで滲んだ血である。
 親友の心の傷を思うと胸が苦しい。
 しかし、今はただその血をそっと拭ってやることしか出来なかった。

「イェーガーは強い。立ち直るだろう」
「……はい、エレンならきっと……」

「……貴様は捕縛の練習をしておけ。いざという時に使い物にならん」
「は、ハッ!」

 目をやればアルミンがあれだけ手こずったベルトルトも、更にはクリスタまでもがきっちりと捕縛されていた。

(終わったんだ……)

 ほっとして、アルミンは思わずその場に座り込んでしまう。

 気づけば辺りはすっかり明るさを失い、肌寒さすら感じる風が流れ始めていた。

・・・・・

「切ったのか、あの木……」
「うん。化け物が居なくなってからは粘液も出なくなったみたいだし、今は切り株だけ残ってるってさ」

 エレンとアルミンが、古木について話したのはあれから五日後のことだった。
 何とはなしにお互いが避けていた話題。
 しかし、ふと二人きりになった時に話を始めたのはエレンの方であった。

「実はさ、この前触手に捕まってぶん回されてた時に思い出したんだけど……俺、あの木を見るのって初めてじゃなかったんだ」

「え?じゃああの、初めて君が倒れた時より前に……ってこと?」
「ああ、休日に自主練習してた時にな」

 エレンはその日、ミカサとの圧倒的な技術差を埋める為にひたすら立体機動装置を駆使し続けたらしい。

 適切な高度も、吹かすガスの量も、最適なルートも、やればやるほど焦りから荒さが目立ってくる。
 余裕の無さは操作を誤らせ、エレンは張り出た太い枝に激突してしまった。

「それがあの古木の枝だったんだ。中が空洞になるくらい脆い枝だったから助かったけどよ」
「もしかして腕を怪我して帰ってきた時のこと?」

「そう、それだ。そんで、幹をオレの血で汚しちまうわ枝は折っちまうわで……古くてもあんな立派な木に悪いことしたなと思ってさ。一応近くの川で水汲んできて洗ったんだけどよ」

「だからさ、もしかしてあの時、オレが枝を折っちまった事に怒って化け物になっちまったのかなって……」

 シュンとしているエレンには悪いと思うが、アルミンは思わず苦笑いしてしまった。

(全く……枝を折った事を気にするくらいの繊細さを、普段はどこに隠し持ってるんだか)

「エレン、たぶんだけど、あの化け物は怒っていたのではないと思うよ」
「な、なんでそんなことが言えるんだよ」

「……倒れている君に服を着せた時、僕も少しだけ粘液を触ったから」

「たぶん操られた人達と、感じ取ったものは同じだと思う。ただエレンを“癒やしてあげたい”って、それだけ。その気持ちが他の人の場合よりも大きくなっちゃったんじゃないかな?」

「いやいや……だってオレ……結構痛い思いしたぜ?」

 面食らったようなエレンをよそに、アルミンは続けた。

「多分ね、エレン……君はストイック過ぎるんだよ」

「……は?」

「君は仲間内の猥談だって大して参加もしないし興味もないだろ?手っ取り早かったんじゃないかな……その……癒やしてあげるのに」

「納得いかねぇ……けど、まぁ全部終わったならよしとするか」

 憮然とした表情になったエレンだったが、アルミンは最近の近寄り難い雰囲気が薄れていくのを感じた。

 エレンも不安だったのだろう。
 化け物からの得体の知れない執着に理由を見いだせずにいて、気の休まらない日々を過ごしていたのだ。

「ね、エレン。新しい団服が貰えるんだよね?貰いに行こうよ」
「そうだな、行くか」

 まだ暫くは、互いに気遣う毎日が続きそうではある。
 しかしそれも教官の計らいにより罰則無しに手に入る真新しい団服に身を包めば、少しは気が紛れてくる──かもしれない。

──数日後

「なぁアルミン、クリスタに言ってくれよ。オレと目が合っただけで顔赤くして逃げるのはやめろって」
「……え?……えぇっ!?本当に!?うわぁ、それってまさか……本当に?」

「ああ。後さ、逃げる前にチンコをチラ見してるのバレてるからなってのも言っておいてくれ」

「……は?」

 最近になりクリスタとの距離を少しだけ縮めたような気でいたアルミンは、エレンにからかわれている事にやっと気が付いた。
 いたずらが成功した時に見せるエレンの笑顔を、アルミンは久しぶりに見たのだった。

「ちょっとエレン!……ふふっ、でも本当なの?」

「本当だって。こっちだって全裸見られて恥ずかしかったのによー。思い出しちゃうだろ?やめて欲しいぜ全く」

 あれほど傷ついていた親友の心が、冗談を言える程に回復したことを、アルミンは素直を喜んでいた。
 エレンが言うには、ライナーやベルトルトも相当あの日の事を気にしてしまっているという。

「ああ、そう言えばライナーは足を引っ張った上にずっと気絶してたってへこんでいたね」

「ああ。でもベルトルトの方が特に酷いな。急に話し掛けてきたかと思ったら毎回『弁解させて欲しい。僕はホモではないんだ、断じて。でもあの時は〜』って。もう十回は聞いたぜ」






 カラカラと笑うエレンは、記憶にないながらも話だけ聞いた副官の事も、一切処罰を求めたりはしなかった。
 ただ一言、「忘れましょう、お互いに」と言っただけで。

「あーあ!……早く皆忘れてくれねぇかなぁ……」

「……大丈夫だよ、すぐに忘れるさ。僕にとっては、癒やしてあげるーって笑いながら言ったクリスタの方がインパクトあったし」

「あれな。実現してたらオレ、触手じゃなくてユミルに殺されるよな、ハハッ」

「私が何だって?腰痛野郎」
「うわっユミル!急に出てくんじゃねぇよ!」
「ああん!?ケンカ売ってんのかてめぇ!人の名前出してバカ笑いしてたのはそっちだろうが」

「うるせぇな、何でもねーって!お前もオレが腰痛で休んでた事は早く忘れろ!」

 つまるところ、それが今回関わった全ての人に対するエレンの望みであった。

 忘れたい、忘れて欲しい。
 そしてアルミン達も思うのだ……忘れてあげたいと。

 互いの願いは流れる時が叶えてくれる。
 厳しい訓練を監督する教官や上官たちも、生傷のたえない兵士を見守る医務官も、自分を鍛え上げることが第一の使命である訓練兵たちも。
 いつかは日々の忙しさの中で、あるいは友人との触れ合いの中で、この記憶を薄れさせていくだろう。


 ……しかし、立体機動訓練場の森には”忘れないで“と囁く声が一つ。

 森を抜ける風が、古木の切り株から出た小さな新芽を微かに揺らしたことを──

エレンはまだ知らない。


以上です。
途中レスくださった方、どうもありがとうございました!

触手万歳!

第一部が終わったんですよね?(にっこり)

面白かった

乙!
おもしろかった!

>>94
続きは全然考えてないのです
今の所続きを書いても救済エンドか絶望エンドかすら思い浮かばず……すみません

第2部マダー

面白かった

とりあえずエレクリ(粘液による)でも書けばいいんじゃないかな、あっ、アルミんも混ぜてね(にっこり)

面白かった乙

>>100
練ってみる
もし続きが出来たらここに書きます

期待してるぞ!

おつ

木の『エレンを癒してあげたい』って思いがスレ違い過ぎててなんだか悲しいから救済ルートオネシャス

古木の擬人化

続編来るかな

下げ失敗すみません

>>1です
遅筆でもう少しだけかかりそうです

おお! 楽しみにしてるぞ!

はじめの方でアルミンがエレンに服を着せる時に粘液に触っているけど正気なのは
何かのあるのかと思ったらなかった

なんだかんだ仕上げられたので投下します

・エレクリ(むしろクリエレ?)
・微エロ
・救済

想像と違うじゃないか!ってなったらすみません

>>109
一応アルミンは最初から手拭いを使っていたのと、手についた少量の粘液もすぐに大部分を除去したので、
(なんでこんな事考えちゃうんだろうドキドキ)程度で済んだという感じでした

〜第二部〜

「クリスタ、お前本当にどうしちまったんだよ」
「ご、ごめん。なんだかボーっとしちゃって」

 ユミルの呆れ声は、目の前でその身を萎縮させているクリスタに向けられていた。

 ここ数日のクリスタは、ユミルでなくとも分かる程にどこかおかしい。
 心ここに在らずといった様相で、どこか訓練にも身が入らないようである。

「ボーっとするにも程があるだろ。一人でルート外れてフラフラと……」
「う……本当にごめんなさい。声掛けてくれなかったらルートを外れた事にも気づかなかった」

 しっかりしてくれよと言うユミルの背中を追いながら、クリスタは溜め息をついた。

 最近の不調の理由は自分がよく分かっているのだ。
 ただそれを、この大切な友人にすら、おいそれとは話せないと言うだけで。

“呼ばれている”

 クリスタがその声に気づいたのは、エレンが化け物から解放された日から一か月ほど経った頃だった。

 初めはそら耳かと思うほど小さな声だったそれは、日を追うごとにはっきりとクリスタの頭に響き始めたのだ。

(怖い……でも……)

(“あの声”と一緒だなんて、誰に相談すればいいの……?)

(やっと以前の姿を取り戻したばかりのエレン?)

(エレンの回復の為に心を砕いたアルミン?)

(……言えないよ)

 関係者がお互いにギクシャクと接していた期間を経て、今があるのだ。
 今更蒸し返すような事も出来ず、クリスタは一人思い悩む日々を過ごしていた。

(ベルトルトにもさり気なく聞いてみたけど、後遺症なんて無いみたいなのになぁ。やっぱりあれかなぁ……?)

 粘液に操られた者同士、もしやベルトルトも声に呼ばれているのではと考えたクリスタだったが、彼には異変は起きていないらしい。

 しかし数日の間、悩みに悩んで出た一つの推測があった。

 粘液の摂取。
 現場で見た限り、ベルトルトの顔には粘液が付いていなかったのに対してクリスタは頭から被ってしまっていた。

 クリスタは、あの粘液の甘さすら覚えているのだ。

(アルミンが化け物を退治した時に粘液は消えたって聞いたけど……何でなのかな)

「こら、クリスタ!」

「は、はぁいっ!?」
「言ったそばからボーっとするなってば!次意識飛ばしてたらチューするぞ、チュー!」
「ごめん!やめてよー!」

 ニヤニヤとしながら顔を寄せるユミルだったが、これはクリスタを元気づけようとしているのだと言う事はクリスタ自身にもわかる。

 だからこそ、早く解決してしまいたかった。
 訓練兵とはいえ、やっていることは常に死と隣り合わせだ。
 自分のミスが仲間に影響を与えることもあり得る。

 それだけでも、クリスタに決断させるには十分過ぎるほどの理由であった。

・・・・・

『癒やしてあげたい』
『癒やしてあげたい』
「絶対に寝てろよ!飯取ってきてやっから」
『癒やしてあげたい』
『……早く来て』
「う、うん……」

 ある日、クリスタの頭に響く声は仲間の挨拶すら聞き取れ無いほどに増幅していた。
 それは大雨の休日で、まだ訓練が無くて良かったと言わざるを得ない状況である。

 絶え間なく響く声は起きた瞬間から始まり、異常な事態を察したユミルはクリスタをベッドから出そうとはしなかった。

(どうしよう……)

(これ、やっぱりあの木だよね?私が化け物の粘液を被った時もずっと頭の中に響いてたのと同じ言葉……)

(あの時エレンが暴れて拒んでくれなかったら、私はきっとエレンの……その……体に触れていたと思う)

(自分が何をしているか理解はしているのに、手を伸ばさずにはいられないかった……幸せな気持ちでいっぱいになっちゃって)

(また……あの時みたいになっちゃうのかな?)

 ゾクリと、クリスタの肌が泡立つ。

 自分の意思など関係無しに体が動くという恐怖は、なかなか忘れられるものではない。

 ましてやクリスタがエレンを襲うというあの時の再現が、このままでは兵舎で繰り返されてしまうかもしれないのだ。
 そんな事が起きたらクリスタはもとより、エレンの評価にすら大打撃になってしまう。

(……なんとか、しなきゃ)

 震える手足を一度ギュッと抱き締め、クリスタは部屋を後にする。
 主の消えたベッドは、ただ冷えゆくばかりだった。

・・・・・

「なぁ、男子寮の方にクリスタいねぇか?」

「え?流石にいないと思うけど……何かあったの?」

 不機嫌そうに兵舎をうろついていたユミルに捕まったのは図書室帰りのアルミンだった。

「あいつここ最近様子がおかしくてな。今日は特に酷かったから部屋を出るなって言っておいたのに……」

 ブツブツと文句を言いつつも、ユミルは本気で心配をしているようだった。
 その姿を目の当たりにして、話を聞いたアルミンの顔も曇る。

「そう……心配だね。こんな雨ではあるけど、街に行ったってことはないの?」

「外出届は出てなかった。つーことは少なくとも探せる範囲内にいるはずなん──あ!クリスタ!」
「え?……わ、わぁっ!」

 気を揉む二人の前に現れたのは、今まさに探していた人物だった。

 しかしその姿はいつものクリスタとは少し、いや……かなり違っていた。

 クリスタが普段から好んで着ている白のワンピースは外の激しい雨にうたれて全身が透けている。
 下着の形、肌の色すら露わになった扇情的な姿でありながら、クリスタは恥ずかしがる様子もなく微笑んで二人へと歩み寄るのだ。

 それはアルミンを慌てさせるのには十分な威力をもつ姿であり、すぐさまユミルの叱責が飛んだ事も、ある意味仕方のない話であった。

「ク、クリスタ!?お前なんて格好でフラついて……あ、ちょ、おいっ!」

 急いで自分のジャケットを脱ぎ、クリスタに着せようとしたユミル。
 しかし、ユミルの手がクリスタの体に触れた途端、クリスタはまるで崩れ落ちるように意識を失って倒れてしまったのだった。

「アルミン!お前の上着もよこせ」
「えっ!?うわぁっ!」

 ユミルは気を遣って目をそらしていたアルミンから上着を剥ぎ取るように奪うと、それでクリスタを隠すように巻き、彼女を抱えて医務室へと走っていく。

「……さ、寒い!」

 取り残されたアルミンは、あまりに急な展開に廊下に立ち尽くして二人を見送るほか無かった。

・・・・・

「クリスタは大丈夫なの?」

「ああ、着替えの最中も起きなかったけど、雨にうたれて冷えたってだけらしい。ただ相当長い間外にいたみたいだけどな」

 少し時間をおいて彼女の見舞いに向かったアルミンは、医務室で穏やかに眠るクリスタの姿に安堵のため息をついた。
 ついでに上着を返してもらい、その代わりにベッド横にハンカチ包みをそっと置く。

「?……なんだよそれは。プレゼントでクリスタの気を引こうってか?」

「ち、違うよ。これはさっきクリスタが倒れた時に落としていったんだ。綺麗な赤い実が包まれてたから、一応拾っておいたんだよ」

 怪しがりながらもユミルがハンカチを開くと、確かに五粒ほどの小さい実がその赤を鮮やかに艶めかせている。

「確かにハンカチはクリスタのだけど……なんだこりゃ。こいつが食いたくてどっかから拾ってきたのか?」

「さぁ……。ねぇ、ユミルはクリスタがどこに行っていたかわかるかい?」
「いや、見当もつかねぇが。何でだ?」

「うーん、もしかしたら……いや、でもなぁ……」

 話を振っておきながらどこか歯切れの悪い返事をしているアルミンだったが、先を促すユミルの視線にその重い口を開いた。

「確かな話って訳じゃないけど……もしかしたら、クリスタはエレンと一緒だったのかなって思って──」

─────
───


「ぼ、僕の上着が……まぁクリスタに貸したと思えばいいか。ん?あれは……?」

 ユミルの背を呆然と見送った後、アルミンの目に引いたのは床に落ちた赤い物だった。

 それは小さな木の実で、ハンカチに包まれていたのがこぼれたようだ。
 見覚えのあるこのハンカチの持ち主はクリスタだったかと思い出し、アルミンは丁寧にそれらを拾った。

(気を失った時に落としたのかな?)

 もしクリスタがこの実を取りに外へ出たのだとしたら、目が覚めて手元に無ければきっとがっかりしてしまうだろう。

 ならば、と思ったアルミンが医務室へと歩を進めようとした時、彼は聞き慣れた声に呼び止められたのであった。

「アルミン!」

「ミカサ、そんなに慌ててどうしたの?」
「聞きたい事があって……エレンがどこにいるか知らない?」
「今度はエレンか……悪いけど僕は知らないなぁ。自主練習するって言ってたからエレンとは朝からずっと別行動だし」

 何か用事なら部屋を見てくるよと言うと、ミカサはエレンの体調を気にしているようであった。

 最近のエレンが一時期の不調を取り戻そうとするかのように熱心に訓練に打ち込んでいるのは誰から見ても明らかだ。

 しかしミカサは休日くらいは休ませたいのだと言い、そのためにエレンを探しているとの事だった。

「ミカサ、エレンが体調を崩してたのは一か月も前の話じゃないか。今はきっと大丈夫だよ」
「でも……兵舎のどこを探しても見つからないから心配で。雨が当たらない場所で、トレーニング出来る場所は限られているはずなのに」

「……休日くらい好きにさせろよ。体調が心配だってんなら尚更鍛える必要があるって事だろ」

「エレン、今までどこにいたの!?そんなずぶ濡れで……っ!」

 エレンなら大丈夫、いや心配だと言い合う二人の前現れたのは、まるで先ほどのクリスタのようにずぶ濡れになったエレンであった。

 エレンの体から滴る水の量に驚くミカサをよそに、エレンはそのまま二人を素通りして寮へと入ろうとしている。

 その姿にどこか話し掛けにくい雰囲気を感じとったアルミンとは対照的に、ミカサはエレンを逃がす気は無いとでも言うかのように彼の目の前に立ちはだかった。

「エレン、一か月前も貴方はそうやって私を遠ざけた。でも心配させるような事をしているのは貴方なのだから少しは……」

「うるせぇな。オレだって人に言いたくない事くらいあるんだよ」

「行かないで!まだ話は終わっていない!」

 アルミンが心配そうに二人を見守る中、エレンはミカサの静止を振り切ろうとした。

 しかしそれよりも一瞬早く、ミカサの手がエレンの腕を捕まえる。

  すると、今までこの場を離れようとしていたエレンの纏う空気が変わり、その目は自分の腕に絡むミカサの手を食い入るように見つめ出したのだった。

「エレン……?その、私──」

 突然向けられたその強い瞳は、ミカサにすら二の句を継がせなかった。

 そしてエレンは掴まれた腕を静かに引き寄せ、未だに腕を放さずにいたミカサの手の甲を口元へと運んだ。
 エレンの唇が、ミカサの指を捉える。

「あ……っ!」

 まさか噛まれるのかと身を固くしたミカサをよそに、意外にもエレンの唇は優しくその指に触れた。

 触れるだけ。
 それでもミカサを驚かせるのには十分だ。

 冷えた指先にエレンの吐息を感じたミカサは、慌ててその手を放すとエレンから距離をとった。

 手を抱くように胸に寄せたミカサの顔は困惑しているようだったが、その頬は微かに赤みを帯びている。

「こ、このようなことは……っ!人前ですべきではない、と思う……」

 混乱の中でなんとか絞り出したその声も、普段とは違うたどたどしさで震えていた。

 エレンはというと相も変わらず強い瞳を逸らしもせずにミカサを見つめている。

 どこか熱を帯びたようなその瞳を真っ正面から受け止め、ミカサは堪えられないといった表情でその場から走り去っていったのだった。

「ちょっとエレン、今のは何のつもり?あれじゃミカサが──」

 このタイミングで幼なじみの意外に乙女な顔を見ることになるとは思わず、アルミンは驚きを通り越して呆れてしまった。
 こんなことをするような男だっただろうかと訝しむ視線をエレンに向けると、彼は「自分でも信じられない」といった表情で固まっていたのだった。

「……エレン?」

「!……何でもねぇ。あいつ最近しつこいからな、ちょっとからかってやっただけだ」

 じゃあオレは風呂に行くからと、これから続くであろうアルミンの追求から逃げるように足早に去るエレン。

 アルミンはこの短時間に起こったいくつかの非日常をまだ処理しきれずに、ただ誰もいなくなった廊下に立ち尽くしていた。

──


「つまりなんだ?てめぇの幼なじみが色気づいて帰ってきたからクリスタと一緒に居たんじゃないかって話か?」

「そんな極端な事言ってないよ!ただエレンも雨にうたれたみたいだったし。もしかしたらクリスタと一緒にいたか、探していたのかなって……」

「エレンも来てくれたのね!?」

 静かなアルミンの言葉に反応し、唐突にベッドから体を起こして満面の笑みで叫んだのはクリスタだった。

「お、驚かすんじゃねぇよ!いつ気がついたんだ……っていうか今なんて言った?『エレンも来てくれたのね』……だと?」

(えー……何その恋人の待ち合わせみたいな感じ……)

 言葉から受け取った印象は二人とも同じだったようだ。
 ユミルはクリスタの肩を掴んで「あんな死に急ぎ野郎はやめておけ!」と説得に必死で、アルミンは希望の芽が摘まれたかのような落胆ぶり。

 しかしそんな騒がしさを生み出した張本人はと言えば、いつの間にかユミルに揺さぶられながらまた眠りの中にいたのであった。

・・・・・

「おい死に急ぎ野郎」
「あ?ユミルか、何か用かよ」

 夕食を食べ終え、さっさと部屋へ移動を始めたエレンとアルミン。
 その二人を呼び止めたのは不機嫌さを隠しもしないユミルである。

(うわぁ……なんか今はすごく嫌な組み合わせに思えるよ)

「お前、今日は随分と雨にうたれたみたいじゃねぇか。誰とどこに行ってた?」

 ユミルの待ち伏せは、言わずもがな今日のクリスタとの関係を言及する為であった。

 自分が話した事がきっかけと知っているだけに、アルミンの背中には人知れず冷や汗が滲む。

「?……なんで話す必要がある?オレが雨にうたれたところでお前に迷惑掛かるわけでもないだろ」

 喧嘩腰の質問に、虫の居所が悪いエレンもつい語気が強まる。
 だが、相手はそれで怯むような女ではない。

「私だってお前が雨にうたれようが風に飛ばされようが知ったこっちゃない。正直に言えよ、クリスタと待ち合わせてたのか?」

 有無を言わさぬ勢いに、面食らってしまったのは隣にいたアルミンだった。

 エレンが襲われた“あの事件”があって以来、クリスタと距離を縮めていたのはどちらかと言えばアルミンの方である。

 それ故に先ほどユミルへ「エレンと一緒だったのかも」と言った時も、さほど重要な話ではないだろうと思っていたのだ。

(まさかユミルがこんなに大事に捉えるなんて……)

 エレンがクリスタと特別に待ち合わせるような仲ではないとわかっているだけに、アルミンは「エレンは早くユミルに本当の事を言えばいいのに!」とヤキモキしてしまう。

「……クリスタにも面倒な“保護者”が一人くっついてんだな」

 しかしそんなアルミンの期待を裏切るように、エレンが言ったのは皮肉の一言だった。
 「言う気はない」と、はっきり示すかのような物言いだ。

 それを聞いて余裕から怒りへと表情を一転させたユミルは、どこか普段とは違う雰囲気を出すエレンに詰め寄る。

「そりゃ世話焼かれ主義の自分を嘆いて言ってんのか?後ろめたい事がないならつっかかってくるんじゃねぇよ」
「!……そうだな、悪かった。少し気が立ってたんだ」

 睨み合いの末、先に目をそらしたのはエレンの方であった。

 食ってかかったことを後悔しているようで、その表情は暗い。

「待て、話は終わってないだろ!?」

 ユミルはふらりと男子寮へまた歩を進めようとしたエレンの腕を引ったくるように掴み叫んだ。

 ユミルとて喧嘩をしたくて声を掛けた訳ではない。
 クリスタの事を何か知ってはいないかと、それを聞かなければ意味がないのだ。

(あ……れ?)

 そばで二人のやり取りをハラハラしながら見つめていたアルミンは、この流れに見覚えがあることに気づいた。

(まるで……少し前のエレンとミカサみたいだ)

「お、おい……お前、どうし──」

 そしてそれは、またもやアルミンの目の前で繰り返されることとなった。

 戸惑うユミル。
 そして自分の腕を掴むユミルの手に唇を寄せるエレン。

 チュッという幼いリップ音が、小さいながらも三人の耳にはしっかりと届いていた。

「!チッ、離せ……っ!」

 予想もしなかったエレンの行動に、ユミルはあの時のミカサ同様にエレンから距離をとる。

 しかし、この続きは先ほどとは少し違っていた。

 エレンはユミルが引いた手をパッと掴むと、視線はユミルを捉えたままでそのスラリと長い指に舌を這わせたのだった。

また来ます

おつおつ

 ユミルの背中に、トンっと冷たい壁が触れる。

 指の股に、腹に、爪に、エレンの舌が絡む。
 ユミルの手を掴む力はさほど強くもないのに、何故か再度振りほどくという動作がとれないでいる。

「お、おいエレ……ンなんでこんな……?」

 目の前で上等な飴をしゃぶるかのように弄ばれているのは自分の右手であるはずなのに、それよりも近づいてくるエレンの瞳から目が離せない。

 何故?
 呟いたユミルの至極最もな疑問に、エレンは意外にもすんなりとその答えを囁く。

「甘そうだったから」

 そんな囁きを、吐息すら感じられる距離で聞いた。
 エレンは唾液まみれのユミルの手に自分の手を絡めている。

(この距離……マズいんじゃないか……?)

 逃げるという選択肢が見つからないまま、互いの唇が今にも触れそうな所までその距離を縮めているのが他人事のように感じられた。

(このまま……受け入れたら……?)

(私は……エレンを……い──)

「さ、流石にそれ以上はダメだってば!エレン!」

 急に、エレンの体がユミルから離された。

 二人の傍らで激しく混乱していたアルミンが、その場の怪しい雰囲気に堪えきれずついにエレンの前進を止めたのだ。

 慌てたアルミンの声にハッとしたのは、今まさに同期の女子に口づけを迫っていたエレンだけではなかった。

(わ、私は今何を……っ!?)

 直前までいがみ合っていた相手の口付けをすんなりと受け入れようとしていた自分に、ユミルは唖然とするしかない。

 更に自分の右手を見れば、唾液にまみれたその手が未だにエレンのそれと繋がれたままでいる。

「き……っ!」

「きぃぃぃぃいっ!!!」

──バキッ

「うわぁっ!」

 エレンの手を振りほどき、その勢いのままエレンの頬へと渾身の右ストレートを叩き込んだユミルは、奇声を上げながら走り去っていった。

「ごっごめん!僕が押さえてたから避けられなく……いやでも無理矢理ユミルにキスしようとした君も悪いって言うか何て言うかその……」

 アルミンが後ろから羽交い締めにしていたおかげで、これ以上ない程にまともに攻撃を受けたエレン。

 しかし当の本人はアルミンの弁解など耳にも入っていないようである。

「……アルミン、今日はもうオレに近づくな。更にろくでもない事をしちまいそうだ」
「エレン……」

 切れた口の端に滲む血を拳で拭い、エレンはアルミンの顔すら見ないで静かにその場を後にした。

 少しだけ見えたエレンの表情は、一言で言えば“諦め”。
 ミカサやユミルに対してとった行動は、きっとエレンの本意ではなかったのだろう。

 遠くなったエレンの後ろ姿。

(今日は誰かを見送ってばかりだな……)

(なんだか疲れちゃった)

 思い出したかのように襲う寒さに一度だけ身震いし、アルミンは部屋へと向かい歩き出したのだった。

・・・・・

 影が走る。
 弱まったとはいえ、外はまだ冷たい雨が降り続いているという身を切るような寒さの中、人目を避けて森を目指す。

 グチャグチャとした泥に足を取られながら、しかし休むことなく走り続けた影。
 それは外套を頭からすっぽりと被ったエレンだった。

(怖い)

(でももう無視は出来ない)

(オレを呼ぶ声──)

(“あいつ”だ)

(倒したはずなのに)

(解決したはずだったのに)

(……なんでまた聞こえるんだ)

(最近になって少しだけ聞こえてきた呼び声。気のせいだと誤魔化せていたのはほんの短い間だけだったな)

(今までは呼び声に抗って、訓練に没頭出来ていたのに)

(もう今日にはフラフラと森の入り口にまで行ってしまうほど強い呼び声になっていた)

(ミカサにも、ユミルにも悪い事をしちまった)

(いっそ抗わないでさっさと呼ばれてりゃ良かったのかもしれない)

(解決しなきゃ。今度は、一人ででも)

 息を切らしたエレンが目指した場所、それは多少時間が経ったとはいえ到底近づきたくもない所だ。

 灯りを持ってきたとはいえ尚暗い森の中を慎重に進み、疲れと緊張から浅くなる呼吸を無理に続けて平静を取り戻そうと足掻きながら辿り着いた。
 見つけたのは不自然に拓けた草むらと、そこに埋もれるように鎮座する巨大な切り株だ。

「やっぱり……お前だったんだな」

 化け物がいた古木の切り株から出た新芽。
 今は禍々しい程に赤い実を数個つけており、ツヤツヤとした葉は雨の恵みを一身に受けているといった様子だった。

「しかしよ、新芽が育ったにしてはもうやけにデカいじゃねぇか。流石は化け物ってところ──」

「待ってたよ」

 忌々しげに切り株を見つめるエレンの前に、ガサリと音を立てて唐突に木の陰から現れた人影があった。

 誰かがいるはずもないと油断していたエレンは思わず数歩退く。
 姿は鮮明に見えなくとも、それが誰であるかは声でわかった。

夜また来ます

おつ

キター、ニッコリ顔で出した要望を叶えてくれてありがとうございます!!

>>148
こちらこそ、初めてエレクリ書きましたが楽しませてもらいました

では最後まで投下します

「クリスタ……お前なんでこんなところに?」

 優しく微笑む目の前の少女は、いつからここに居たのか頭の先から足の先まで余すところ無く雨に濡れている。
 またこの寒さの中、外套一枚羽織ってはいないという姿がその異様さを増していた。

「待っていたの。来てくれて嬉しい。声が届いていないのかと思った」

 それは、どこか普段のクリスタとは違うたどたどしい話し方であった。

 近づいてくるその姿形こそ見慣れた彼女であるはずなのに、エレンに向けられた笑顔の無邪気さは違和感を覚えるほどだ。

「待て、それ以上近づくな。……クリスタ、なんだよな?」

「私?クリスタじゃない。この子は一番借りやすかったから。人間ってすごい、頭の中、沢山言葉が詰まってる……わからないものだらけだけど」

 笑顔を崩さないままの告白に、エレンは寒気が全身に走るのを感じた。
 しかしクリスタはそんなエレンの警戒を気にもせず、木になっていた赤い実を摘んでいる。

「お前……もしかしてあの化け物なのか?」

 エレンの小さな問いかけに、クリスタはピクリと反応した。

「それ私の名前?嬉しい、私には長い間名前が無かったから、とても」

(何がどうなってるんだよ……)

 エレンの目の前の少女は、本人の言葉を信じるならば“クリスタの体を借りた化け物だ”

 この場に着いた時はあの木を再度切ってしまえばいいと考えていたが、そうした場合にクリスタの体がどうなるかなどエレンには見当もつかない。

(オレは一人じゃ何も出来ないのか?……いや、諦めるな。考えろ、クリスタをこのままにはしておけない)

 とにかく化け物と話を続けて策を練ろう。
 エレンがそう心を決めた時だった。

「んっ……」

 ほんの少しエレンが思考に捕らわれた間に、さっと距離を縮めたクリスタの顔が視界いっぱいに広がる。

 エレンの頬にはクリスタの手が優しく添えられ、唇には柔らかな感触。

「んむ……っ!」

 そして差し込まれた小さな舌から受け取ったのは、痺れるような甘さの唾液だった。

「はっ……、クリスタ!何して……っ!」

「……やっと癒やしてあげられる。もう一つ、食べて……?」

「もう一つ……?お前いまオレに何を……」

 震える声で問い掛けるエレンに、クリスタは答える。
 至近距離でペロリと出して見せた舌の上には赤い実が潰れていた。

「これは“私”。今日貴方にあげたくて摘んだのものは……他の人が食べちゃったから」

 クリスタの話が終わるより早く、エレンは自身に起きた変化に気づいた。

 熱、そして働かない頭に霞む視界。

 新たな実を口に含み、今度はゆっくりとその唇を寄せるクリスタ。

 求めていた甘さがそこにある。

 二つ目の実は、クリスタの舌と共にエレンの舌に絡め取られていった。

(柔らかい……)

 同じ部屋の仲間が噂していた、女の唇の柔らかさ。

 経験者は自慢げに、そうでなければ想像するだけでのバカ騒ぎ。
 そしてそんな話で決まって出るのはクリスタの名前だ。

 しかしエレンにとって、草むらに押し倒し、貪るように唇を求め合う相手がクリスタであること──その事実から生まれる感情は罪悪感、それのみであった。

 それは仲間内での圧倒的人気からだけではない。

 己の親友すら彼女にその心を傾けているのだと、エレンが知っているからに他ならなかった。

(オレはクズだ)

(このキス一つで、オレは何人の仲間を裏切っているんだ)

(たった一人の親友を裏切って、化け物に操られているだけのクリスタを汚してまで──)


「嫌なの?おかしい。私の足元に来る人間達は皆これが好きだったのに」

「……え?」

 心の内の葛藤を、正確に言い当てられたエレンは少なからず動揺した。

 体を押され、今度はエレンが草むらに組み敷かれる。

 そして、クリスタの視線が真っ直ぐにエレンを捉えた。

「唇を合わせて、体を重ねて、心を満たす。人間はそうやって癒やし合っていた。……貴方は違うの?」

「お、オレは……」

「“この変化”も、その人間達と一緒なのに?」

 するりと伸ばされたクリスタの手が、エレンの高ぶった陰茎をズボンの上から撫でる。

 大袈裟な程に、エレンの体が震えた。
 期待した刺激が与えられ、体中の熱が集まるような気さえする。

「こっち?」

 そう言いながらクリスタはエレンの体のあちこちに手を伸ばした。

 服をめくり上げ、その引き締まった体にキスをして、乳首に舌を這わせエレンの反応を見る。

 それはまるで初めて体を重ねる恋人同士のように、手探りで始まる見よう見まねの性行為であった。

 クリスタの手や舌は、癒やしそのものだった。

 触れたそばから熱が生まれ、気づけば体の疲れは少しも感じられない程に回復している。

 しかし、体が元気になればなるほど、みなぎる精気も無視出来なくなってきてしまった。

「もう、やめてくれ……っ!」
「きゃっ!」

 エレンはなけなしの理性をかき集め、のしかかっていたクリスタの体を突き飛ばした。

 小さな悲鳴にまた心が乱れるが、距離をとって呼吸を整え、体の内に湧き上がる欲と戦う。

「なんで……なんでオレなんだよ!?オレはお前の枝を折ったんだぞ?憎くないのか!?それともこれが仕返しなのか!?」

 エレンの叫びに、今まで笑顔を絶やさなかったクリスタの表情が変わった。

「ち、違う!私は貴方を癒やしてあげたくて……仕返し、違う」
「こんなのは癒やしじゃないんだ!オレはこんな事は望んじゃいない!」

「嘘!私、長い間ここで人間を見てた。私にはわかる、私を癒やすのは雨と光だけだけど……人間は触れ合いで心を満たしていたもの!」

 それは、不幸にも孤独の中で心を持ってしまった古木の悲痛な叫びであった。

 呼びかける相手も触れ合える相手もおらず、いつしか現れた人間に体を傷つけられる日々。
 鋭いものが体をけずり、枝葉は千切られる。

 最初は憎しみの対象であった人間……しかし長い長い孤独の中で様々に変わり行く人間は、その場から動くことさえ叶わない古木にとっての唯一の慰めだったのだ。

 だから疲れに倒れそうな者には自らの力を分け与えてきた。
 太い枝を伸ばし、その体を休ませる足場となった。

 しかし、結局人間は人間同士で仲睦まじく寄り添うだけだ。
 古木はそれを見るだけ。

「貴方は他の人間と違った。折れた枝を気にしてくれた。水をくれた。……初めてだった、光以外の暖かさ。だから──私の全てを掛けてでもあなたを癒やしてあげたかった」

 そう言うと、クリスタは立ち上がり、するりと濡れたスカートを地に落とした。

 白い太ももが露わになる、シャツを脱ぐ、下着を脱ぐ……雨に濡れたクリスタの体は、本当に兵士かと疑いたくなるほど滑らかな肌をしていた。

「ダメだ……」

 目を反らそうとしても、年の近い女子の裸から目を離すのは並々ならぬ精神力が必要だ。

 高ぶった陰茎がズボンの中でその硬さを増し、エレンの理性を揺さぶる。
 口内は乾き、声が上手く出せない。

「受け入れて欲しい、温め合いたいの」

 そんなエレンを優雅に見おろしながら、水の滴る髪の毛を軽くかきあげて、クリスタは微笑んだ。

 暗い森の中、ランタンの頼りない灯りに照らし出された一糸纏わぬその姿は、それでも清廉さを失ってはいない。

 しかし、誰も触れたことのないだろうその体を、クリスタは躊躇い無くエレンへと重ねた。

「クリス……っ!やめろ化け物!」

「嬉しい、もっと名前を呼んで。嬉しい……」

 抗うエレンに向けられた曇りのない笑顔に、今度は心苦しさが込み上げてくる。
 形容しがたい葛藤がそこにはあった。

(喜ぶなよ……違うんだ、オレはお前なんか……)

 上機嫌といった様子のクリスタは少し体を起こすと、今度はエレンのズボンへと手を掛けた。

 触れ合うほどにみなぎる精気は解放を待ち望み、一生懸命ズボン脱がそうとしているクリスタのぎこちない手つきにすらその興奮を高めていく。

 そしてついに、下着をずらされ外気に触れた陰茎にクリスタの指が絡んだ。

「!……もう、いい、もういいから……っ!」
「……え?」

 愛おしそうにエレンの陰茎に唇を寄せようとしたクリスタを、エレンは必死に抱き寄せた。
 驚きに身を引こうとするその体を、力一杯抱き締める。

「なぁ、オレはもう癒されたよ、十分だ」

 それはまるで子供をなだめるかのように優しい声だった。

 濡れて冷えたクリスタの体をいたわるように包み込み、その髪をふわりと撫でる。

「もういいんだ。お前……お前が人間を癒やすには自分の力を削らなきゃいけないんだろ?──さっきまで実をつけて元気にしてた木が枯れかけてるじゃねぇか」

 エレンの言葉に、クリスタはハッとして木に視線をやる。

 古本からはえた木は葉も実も鮮やかさを失い、今にも倒れんばかりにしおれていた。

「あ……あれはまた力をためれば元通りに……」

「聞いてくれよ、オレは知らなかったんだ、命を削ってまでオレを癒やそうとしてくれてたなんて。それを知っただけで十分だ、お前は体じゃなくてオレの心を癒やしてくれたんだ、わかるだろ?オレはいま暖かい気持ちでいる、伝わるよな?」

 エレンはそう言いながら落ちていた外套を手繰り寄せ、クリスタの体を隠すように巻きつけた。

 それから改めてクリスタを抱き寄せ、言葉を続けた。

「もう周りに比べてお前だけ枯れちまうような無理はするな」

「……お前の寂しさはオレがどうにかしてやるから。もう自分の命を削ったりしないでいい、新しい体で精一杯綺麗な葉を茂らせてくれよ」

──オレたちはお前の体を傷つけないで済む世の中を目指してる。武器を持たないような人間が沢山森を訪れるような平和な未来の為に生きてるんだ。

「だから……だから今は体をクリスタに返してやってくれ。なんでこんな事に巻き込んじまったかわからないが、こいつもオレと共に戦う大事な仲間なんだ。オレはオレの癒やしの為にこいつを傷つけたくはないんだよ」

 頼むからと、懇願するかのようなエレンの囁き。

 一瞬の沈黙の後、クリスタはその口を開いた。

「……人間は不思議。私の見てきた人間は必死に体を求め合っていたのに。体が無くても癒やしてあげられたのね、嬉しい」

 それは穏やかな声であった。
 エレンやクリスタを混乱させたのとは違う、静かな声だ。

「私がこの子の中から消えても私を忘れないでいてくれる?」

 それでもエレンから離れがたいと言うかのように、彼の首もとへスリスリと顔を寄せ甘えた仕草をする。
 それは今まで古木が見てきた人間がしてきた仕草だったのであろうか。

「忘れない、約束する」
「約束……知ってる、人間にとって大事なもの。わかった。ありがとう。あと……もう一度私の名前を呼んでほしい」

 きっとこれが最後だという時に、エレンはふと微笑んだ。
 “化け物”が名前では、何かの拍子にまた化けて出てきそうだなと。

「あれは名前じゃねぇよ、今つけてやる。そうだな──」

─────
───

・・・・・

「お、今日も晴れた。良かったなぁクリスタ、お前は雨の日外出禁止だから」
「もう、体調もよくなったんだからそんなこと言わないでよ」

「……本当に何も覚えてないのかぁ?確かエレンも同じ日から風邪ひいて──」

「!お……覚えてないってば!エレンの事も知らないって何回言ったらわかるの!?」

 数日後、盛大に風邪をひいたエレンとクリスタがようやく体調を戻した頃、クリスタはしつこいユミルの追求から逃げ回っていた。

「エレンも覚えてないっつーし、怪しすぎんだよお前ら!あんな死に急ぎ野郎はやめておけって言ってんのに!」

「エレンは別に悪い人じゃないでしょ。ユミルの方がエレンを気にしすぎなんだよ!」

「そ、それはあのスケベ野郎が人の指を舐めたりするから……っ!」

「あ、やっぱり気にしてたんだ。なんか様子がおかしいと思ったら……」

「こ、この野郎!かまかけやがったな!?」

「言われるのが嫌なら私のこともほっといて!」

 二人はわいわいと騒ぎがら食堂へ来ると、いつも通りの食事を始めた。
 しかし、ユミルの話を聞きながらもクリスタが意識してしまうのは目の端にうつるエレンだ。

(あ、こっちを見た……)

 最近よく絡むようになった二人の視線。
 だがそれは顔を赤らめたエレンがすぐに目を反らしてしまいいつも長続きはしなかった。

──


 あの日、クリスタは夜も明けきらない頃に兵舎の隅でエレンに起こされた。

 既に雨はやんでいたがお互いにびしょ濡れで。
 少しでも寒さを凌げるようにと堅く絞られた重い外套を意味もなく羽織っていた。

「私……なんで外にいるのかな?医務室にいたはずなのに」

 何も覚えていないというクリスタに、エレンの表情は複雑に変化した。
 安心したような、しかしいたたまれないような、苦々しい気持ちを押し殺した表情だ。

「オレも……覚えてないんだ。このままじゃ誰かに見つかるかもしれないし、風邪ひいちまうから……とりあえず帰ろうぜ」

「うん、じゃあ……」

 そのまま大した会話をするでもなく、クリスタは外套をエレンに渡すと医務室へ向かい歩きだし、エレンはその後ろ姿を見送った。

「……ごめん」

 それは誰にあてた謝罪の言葉だったのか。
 部屋へ向かうエレンの足取りは重かった。

──


(本当は……全部覚えてるんだけど)

 操られていた間、クリスタにはエレンの考えていることが全て伝わってきていた。

 化け物への恐怖、誘いに負けそうな悔しさ、クリスタへの申し訳なさ、アルミン達への罪悪感……全てが手に取るように伝わったのだ。

 その中には起きた事をクリスタにどう説明すればいいのかという彼の嘆きがあった。

 操られていたとはいえ、互いに裸体を晒して触れ合ったのだ。

  男である自分に比べ、衝撃も恥ずかしさも段違いであろうことを気遣ってのこと。

 だからクリスタは先手を打ったのだった。

──自分は何も覚えていない、と。

 それは、操られて積極的に体を求めにいった自分の事を、それでも大事に思って手を出さずにいてくれたエレンの誠意に対するせめてもの礼であった。

 エレンの体に舌を這わせ、その高ぶった陰茎を握り締めた時、抑え込まれた意識の彼方でクリスタはもう清い体で兵舎へ戻ることを諦めていたのだった。

 「借りやすかったから」と、化け物は言っていた。

 あの日エレンに食べさせようと持ち帰った実は、全てユミルが食べたのだ。
 しかしその彼女よりも、自分が弱かったから呼ばれてしまったのだ、自業自得だとクリスタは考えていた。

『何もなかったことにしよう』

 ただでさえ親友を裏切ったと苦しんでいる状態なのに、自分が覚えていると知ればエレンの心はどれたけ傷つき、思い悩む種となってしまうのだろうか。

 それを考えたら、何も覚えてないと言い張ることぐらいクリスタにとっては何でもなかった。

(でも……少し複雑な気分なの)

(男の子に力一杯抱き締められたのは初めてだったから)

(『お前の寂しさはオレがなんとかしてやる』──そう言われたのは私じゃないのに……すごく、羨ましかった)

(……忘れるよ、それがエレンにとって一番いいことだと思うから)

(でも……)

(このドキドキは暫く忘れられそうにないの……)

「……全く、エレンもエレンだよ。目があっただけであんな顔をされたら嫌でも意識しちゃうもん……」

「なんか言ったか?あ、クリスタ!またエレンを見てたんだろ〜!?」

 ふと口をついて出た愚痴は、あろうことか隣にいたユミルにまで聞こえてしまったらしい。

 彼女に事の真相がバレてしまったら大変だ。
 エレンが受ける被害は甚大な物になるだろう事は想像に難くない。
 ここは口を噤むのが最善だと、クリスタはよく理解していた。

 ……しかし、連日のように「エレンとは何の関係もない」と主張し続けていたクリスタにも、少しだけ言いふらしたい事があった。

 それは……

「なんでもないってば!ただ……」

──エレンのネーミングセンスは最悪って言っただけ!


俺が木ならこんなこと言われたら惚れてしまう

>>173
お前学校でも木みたいだったもんな

って終わりか

乙でした。凄い良かった

>>174
え、なんで知ってんのこわい

以上です
読んで頂いた方、レスくださった方、ありがとうございました

救済話だったのでエロぬるめでした
アルミン絡ませたら絶望話になりそうだったので今回はこんな感じで終わります

第二部は>>110から

乙。凄い丁寧な文章で好きだ

他にも書いたのがあれば読んでみたいけど、あります?

乙!
エロありなのにじんわり来たわ

>>1は他にも進撃書いてる?
聞いてもよければ教えて欲しい

>>178
>>179
地の文ありで書くのは今回初めてだから他は全部台本形式なんですが、

進撃はユミル「キュンとしたいお年頃ってか?」
が最近の奴で、他にも10本くらい

一つ前は聖☆おにいさんクロスでイエスとブッダ「進撃の巨人?」
ってのを書きました
読んでもらえたら嬉しいです
どうもありがとう

>>180
ありがとう、探してみるわ

>>180

あなただったのか

全部好きだわ

書いてくれてありがとう、これでニッコリ顔の誰かも安心して消えることができるよ

>>180
ありがとう、けっこう読んでたわ
アルミンが成績不振で悩んでたやつとか好きだ

全部読んでみます

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