七海「七海千秋でーす。超高校級の……」日向「知ってる」 (99)

超高校級のネタバレ注意

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日向「『希望更正プログラム』が用済みって……どういう意味だよ……?」

霧切「どうもこうも、言葉通りの意味よ。あのプログラムはもう役目を終えたの」

日向「そ、そうかもしれないけど……」

十神「全てが上手くいった今、もうアレは必要ない、ということだ。近日中に全データを消去する」

日向「ま、待てよ! だったら……あいつらはどうなる……?」

苗木「……七海さんとウサミのことだね?」

日向「あいつらも……一緒に消すってことか?」

十神「……当然だ」

日向「っ! 何で平然とそんなことができるんだよ! お前らの仲間なんだろ!?」

霧切「待って。勘違いしないで欲しいわ。私たちだって反対したのよ……勿論十神くんも」

日向「え……?」

十神「……」

苗木「『希望更正プログラム』の消去は……未来機関本部からの命令なんだ……」

霧切「……これは未来機関本部の最後の譲歩なのよ。あなたたちをこの支部に匿うことを黙認する為の……」

十神「未来機関は恐れているんだ。江ノ島盾子のウイルスがプログラム内に残っている可能性を」

日向「そ、そんなことあるわけないだろ! あいつはもう……居なくなったはずだ!」

苗木「実際に相対した僕たちならそう思うだろうけど……本部の人たちは情報を見聞きしただけだから、確信を持てないんだよ……」

日向「じゃ、じゃあ……七海とウサミのデータだけ別の場所に移すことはできないのか?」

十神「言っただろう。本部の連中はあくまで可能性を疑っているんだ。2人のデータ内にウイルスが紛れ込んでいる可能性すらもな」

日向「……」

苗木「……ごめん、日向くん。僕たちにはもう止められないんだ……」

霧切「あなたの言ったように、2人は私たちの仲間よ。私たちだって……なんとかしたい」

日向「そう……だよな……悪い」

十神「……二日後に、ジャバウォック島への最後の船が出る。それが最後のチャンスだ」

日向「チャンス……?」

十神「……別れを済ませる最後の機会だということだ」

日向「……」

………………

…………

……

九頭竜「お、おい! そいつはマジなのか!?」

日向「こんな嘘なんてつくわけないだろ……」

花村「な、何それぇ!? 無茶苦茶だよ!」

豚神「無茶苦茶でもない、と僕は思うな……本部の人たちの言い分だって、理解できないわけじゃない……」

終里「なんかよくわかんねーけど、それって七海が殺されるってことだろ!? なら、黙ってらんねー! 助けに行くぞ!」

弐大「しかし、一口に助けると言っても、わしらに何ができる?」

………………

…………

……

九頭竜「お、おい! そいつはマジなのか!?」

日向「こんな嘘なんてつくわけないだろ……」

花村「な、何それぇ!? 無茶苦茶だよ!」

豚神「無茶苦茶でもない、と僕は思うな……本部の人たちの言い分だって、理解できないわけじゃない……」

終里「なんかよくわかんねーけど、それって七海が殺されるってことだろ!? なら、黙ってらんねー! 助けに行くぞ!」

弐大「しかし、一口に助けると言っても、わしらに何ができる?」

辺古山「私たちの身の安全を保障するためでもあるのだろう? 下手をすれば、恩人である苗木たちにも迷惑がかかる……」

小泉「だからって……このまま千秋ちゃんたちが消されるのを黙って見過ごすなんて……」

ソニア「ほ、本部の方々をなんとか説得しましょう!」

澪田「いやー……そいつは難易度ナイトメアじゃないっすかね……」

日向「そもそも、俺たちは未来機関に意見できるような立場じゃない……」

西園寺「んー、正直あんなキモウサギと鈍臭いオタク女のことなんかどうでも良いけどさー」

九頭竜「てめぇ……!」

西園寺「……でも、まだお礼言ってない」

西園寺「私たちの目が覚めたのって、あいつらのおかげなんでしょ? だったら、ちゃんとお礼言いたいよ……」

小泉「日寄子ちゃん……」

狛枝「……それで、日向くん」

日向「?」

狛枝「僕たちは、彼女に逢う機会はあるのかな?」

日向「二日後に、最後の船が出るらしい。それが最後のチャンスになるって十神が……」

狛枝「最後のチャンス……なるほどね」

狛枝「……だ、そうだよ?」

日向「……?」

狛枝「まあ、今日のところは解散にしない? 準備もあるだろうしさ」

小泉「準備も何も……二日後だし……」

ソニア「何を準備したら良いのでしょう……」

狛枝「ほら、心の準備とか」

九頭竜「こんな別れ方を……受け入れろってのか……?」

日向「狛枝、お前は……納得できるのか? それとも、どうでもいいと思ってるのか?」

狛枝「はあ……心外だな。僕なんかでも、一応人の心は持ち合わせてるつもりなんだけどね」

日向「だったら……お前はなんでそんな冷静でいられるんだ」

狛枝「そんなの簡単だよ。僕はいつだって希望を信じているんだ」

狛枝「仲間の消滅という絶望に立ち向かう決意……それにより君たちの希望は輝く。それこそが、不可能を可能にする希望。絶対的な希望だ」

狛枝「だから、こんなところでくよくよし続けて欲しくはないな。また僕を失望させないで欲しい」

辺古山「相変わらず、だな……お前は」

狛枝「大丈夫。全部上手くいくって。希望と絶望は隣り合わせに……僕らの側に在り続けるんだからさ。あははっ」

………………

…………

……

日向(……仲間の消滅……絶望に立ち向かう決意……か)

日向(そんなの……どうしろっていうんだ……)

日向(七海……俺はどうしたら良いんだ……お前はこんな終わり方を受け入れられるのか……?)

日向(俺は……)

コンコン

日向「?」

ガチャ

左右田「よう。ちっと時間良いか?」

日向「左右田……田中、罪木……?」

田中「ふん……その顔を見るに、意気消沈、と言ったところか……」

罪木「お、お邪魔しますぅ……」

日向「何か用か?」

左右田「ああ、大事な話があんだよ」

罪木「あ、あのですね……実は私たち……」

左右田「だーっ! まだ言うんじゃねぇよ! ギリギリまで秘密だっつったろ!?」

罪木「ひいぃっ! ごめんなさぁい!」

日向「なんなんだよ……?」

田中「慌てるな……愚鈍なる貴様にもわかるように我らが言語化してやる」

左右田「その大事な話の前に……一つ、謝っときたいことがあってよ」

日向「?」

左右田「俺たち、知ってたんだよ。プログラムの消去のこと」

日向「なっ!?」

罪木「たまたま苗木さんたちの話を聞いちゃって……黙っててごめんなさい……」

田中「それも遠い過去の話だがな……」

日向「か、かなり前ってことか? 本部からの命令って最近の話じゃないのか?」

左右田「いや、消去の話のは前々から出てたんだけど、本部と苗木たちがかなりモメたらしくてよ……ま、結局はゴリ押されちまったってわけだ」

日向(苗木……)

田中「ふっ……だが彼奴らの足掻きは無駄ではない……良い時間稼ぎになったぞ。俺様の計略発動までの時間稼ぎにな! ふはははは!」

左右田「てめぇの計画じゃねぇだろ!」

罪木「あ、あんまり大声出すと外に聞こえちゃいますよぉ!」

日向「……」

左右田「……とりあえず、ついてこい。支部の外だから気ぃつけろ」

………………

…………

……

日向「な、なんだここ? 工場……いや、研究施設……?」

田中「ふっ……ようこそ、俺のラボへ」

左右田「てめぇのじゃねぇよ」

罪木「元々、希望ヶ峰学園にあった施設を移築したものみたいです……色んなところに校章がありました」

日向「だ、誰が? 何のために?」

罪木「わかりません……私たちが来たときには無人で、機能もしてませんでしたから」

左右田「ま、俺にかかりゃ再稼働させんのも朝飯前だけどな。ま、やったのは電力供給くらいだけどよ」

日向「……それで、ここは何の施設なんだ?」

左右田「あー、あんま言いたかないけどよ……こりゃ、"人体実験施設"だな」

日向「……は?」

日向「人体実験って……そんな……」

左右田「……もしかしたら、日向には一番身近だった場所かもしれねぇな。ほら、おめーが脳をいじくり回されたっていう……」

罪木「そ、左右田さん!」

左右田「! わ、悪い……」

日向「いや、良い……」

田中「希望の地に隠されていた、禁忌の魔窟……我らの手によって、それを復元したのだ」

日向「それで、何のために俺をここに連れてきたんだ?」

罪木「ええと、それは……」

田中「待て」

左右田「あ? どうしたんだよ」

田中「一つ、問おう。日向創よ」

田中「貴様は……命を懸ける覚悟はあるか?」

日向「え……?」

田中「七海の……愛する女の為に、その命を危険に晒す覚悟はあるかと訊いている」

日向「あ、愛するって……俺は別に……」

田中「良いから答えよっ! 凡愚がっ!」

日向「…………ある」

日向「あいつに救われた命だ。あいつの為なら何だってやってやる……!」

田中「……ふふ……ふははは! 良い答えだ!」

田中「ならばとくと見るがいい! 俺様の……世界の理に叛逆せし研究成果を!!」

バサッ

日向(!? ……なんだ、これ)

日向(バカでかい試験管みたいな機械の中に……人が漬けられてる……?)

日向(人……あれは、あの姿は……)

日向「七、海……?」

左右田「この施設、どうやら"人を造る"実験もしてたみてーだな。人工的な天才ってのを一から造ろうとしてたんじゃねぇか?」

日向「そ、そんなファンタジーな……」

左右田「あり得ねー話じゃないだろ。っていうか、実際その為の機械がここにあったわけだしな」

日向「そ、それを使ってお前らは七海を造ったっていうのか?」

罪木「わ、私は医学的な知識を少し提供しただけで……ほとんど何もしてないんですけど……」

田中「ふっ……俺様を誰だと思っている? 数多の滅ぶべき種族をこの手で救い続けてきた"超高校級のマッドサイエンティスト"田中眼蛇夢だぞ!」

左右田「だから何でもかんでも自分の手柄にすんじゃねぇよ飼育委員! 一から十までお前がやったわけじゃねぇだろ!」

日向「……どういうことだ?」

左右田「いくら何でも田中一人でこんな大それたことできるわけないだろ。他の支部の本部に関わってない奴らにも協力仰いだんだよ。"超高校級の生物学者"とか色々いたからな……」

日向「……ってことは、苗木たちも"これ"に一枚噛んでるってことか? お前たちじゃ他の支部に連絡なんて取れないもんな?」

左右田「あ、やべ、これ言っちゃ不味かったか?」

田中「軽率……貴様の弱点だ、左右田和一」

左右田「う、うっせー! いつかはバレることだ!」

田中「しかし、これは許される行為だったのだろうか……空っぽの器とはいえ、禁忌の人体錬成……ふふ、四肢の一つも持って行かれるやもしれんな」

日向「空っぽの器……?」

罪木「ええと……その人は七海さんの姿をしてるだけで、まだ"誰でもない"んです……記憶とか人格とかを一から造るのは途方もないことですから……」

日向「なるほど……」

左右田「そこで! 最後の仕上げが『あのプログラム』ってわけよ!」

日向「つまり……七海のアバターをこの体にインストールさせるってことか?」

左右田「ま、ざっくり言うとそういうことだな」

左右田「あ、後こっちも忘れんなよ!」

日向「ウサミ……のぬいぐるみか」

左右田「へへっ。こっちは俺が一人でシコシコ造ったんだぜ! 誉めろ!」

日向「ウサミのアバターも移せるのか?」

左右田「さあ……わかんねぇ。あのプログラムは『人の脳にアバターをインストールするシステム』だったからな……」

田中「やってみなければわからん。どの道、回り出した歯車はもう誰にも止められんのだからな……」

日向「そうだな……やるしかない」

罪木「でも、その前に一応皆さんにも話しておいた方が良いですよね……」

左右田「まあ……本部にバレたら俺たち全員危険なわけだしな。勝手にやるわけにゃいかないだろ」

日向(七海……俺は……)

日向(俺はやるぞ……! 今度は俺がお前を助ける番だ!)

………………

…………

……

一同「…………」

日向(みんな言葉を失ってるな……)

狛枝「まあ、そういう反応が当然だよね」

日向「狛枝。お前は知ってたのか?」

狛枝「いや、左右田くんたちが何かを企んでることはなんとなく知っていたけど……」

狛枝「でも、そんなファンタスティックな作戦だったとは思わなかったよ! 流石だね!」

九頭竜「そ、そりゃ考えもしねーだろ……人を造っちまうなんて……」

花村「ところで、その機械の中の七海さんは裸だったの? それなら是非一度お目にかかっておきたいんだけど」

小泉「あんたは黙ってて」

左右田「悪いな日向。ばっちり見ちまってよ」

日向「な、なんで俺に謝るんだよ……」

西園寺「でもさー。ただ七海おねぇを助けるだけなら、データだけこっそり抜き出しちゃえば良いんじゃないの?」

辺古山「確かに……その方が簡単な気がするな」

左右田「あー……それがそもそも無理なんだよな」

ソニア「何故です?」

左右田「あのプログラム作ったやつの話だとさ。入力コードはあっても出力コードは無いらしいんだよ」

終里「? 日本語で頼む」

澪田「唯吹にもさっぱりっす!」

豚神「外部からデータを入れることはできても、データを出すことはできない、ってことだね」

左右田「ま、厳密に言うと無い訳じゃねぇな。唯一の出力手段が『アバターのインストール』ってわけだ」

弐大「つまり……七海たちを救い出すには前の方法しかないというわけか」

罪木「でも……色々問題があって……」

小泉「問題?」

罪木「そもそも、七海さんの体をどうやって島に連れていくかです……」

終里「? 抱えていきゃいいだろ?」

辺古山「もしや、機械から出ることが適わないのか?」

田中「いや……肉体の活動は既に始まっている。それについては問題は無い」

日向「問題っていうのは船に乗るときの話だ。もし本部の人間に見られたら、確実に怪しまれる」

狛枝「ただでさえ警戒されている僕らが懸案事項であるプログラムに近づこうとしてるんだから、彼らが検閲しに来る可能性は高いだろうね」

九頭竜「まあ……間違いなく来るだろうな」

終里「そんなもん、俺と弐大のおっさんでぶっ飛ばしてやんよ!」

弐大「荒事を起こしてどうするんじゃあ……少し頭を冷やさんかい」

辺古山「……」

九頭竜「『命じられれば私がやる』とか思ったんじゃねぇだろうな。止めとけよ。どの道俺たちゃ全員運命共同体だ」

辺古山「……はい」

西園寺「じゃあどうすんの? バラバラにして鞄に詰め込む?」

澪田「まさかのスプラッター!?」

狛枝「あはは。まあ、なんとかなるんじゃない?」

日向「な、ならないだろ……」

狛枝「なるよ。信じれば必ず道は開ける……希望はいつだって僕らの味方だ」

狛枝「それに……僕らにはまだ、心強い味方がいるじゃないか」

一同「?」

狛枝「さあ……どうなるかな。日向くん……未来は君に微笑むのかな? 結果はどうであれ、僕はそれを見届けるのが楽しみだよ。最近、退屈で死にそうだったからね……」

日向「……」

………………

…………

……

澪田「うはー……マジで千秋ちゃんにクリソツっすね」

左右田「ま、基礎データだけはあのアルターエゴが持ってたからな」

西園寺「スゴいねー! あの機械があればダッチワイフ製造し放題だねー」

花村「是非作って欲しいな!」

田中「ふん……俺様がこんなことをするのはこれが最初で最後だ……」

日向「……とにかく、港に向かおう」

日向(本部の人間が……来てないことを祈って……)

………………

葉隠「うーっす! 元気してたかおめーら!」

日向「……あれ?」

西園寺「くっそ増えるわかめじゃん。なんでここにいんの?」

朝日奈「私もいるよー!」

豚神「何故君たちがここにいるんだい?」

腐川「てめぇぇぇ! 豚足ぅぅぅ!」

豚神「!?」

腐川「その恰好でそのナヨい口調やめろや! 後、痩せろや!」

小泉「葵ちゃん、ここに未来機関本部の人たちが来てたりしない?」

朝日奈「うん、来てたよ」

花村「や、やっぱり!?」

終里「どこだ? どこにいやがる? 正々堂々かかってきやがれ!」

左右田「戦う気満々じゃねーか! やめろ!」

葉隠「いや、来てたんだけども、今は全員おねんねしてるべ……」

日向「ど、どういうことだ?」

葉隠「い、いやー、偶然通りがかった殺人鬼に襲われて何が起きたかわからないまま気絶しちまったみてーだなー。物騒な世の中だべー」

朝日奈「い、いやー、偶然通りがかった殺人鬼に襲われて気絶で済むなんて運が良い人たちだよねー」

腐川「だってあいつら全っ然萌えねーし! 殺す価値もねぇ!!」

一同「……」

朝日奈「だ、だから、代わりに私たちが……えーっと、けん……けん……」

日向「検閲?」

朝日奈「そうそれ! それしまーす!」

葉隠「えー、15人だな。うし、乗っていいべ」

澪田「軽ぅい!!」

終里「え? 七海入れて16人じゃねーのか?」

左右田「お前な……」

葉隠「あーあー、何も聞こえねーし何も見えねーべ」

………………

…………

……

日向「……ここに来るのも久しぶりだな」

小泉「一応、思い出の場所ってことになるのかな」

澪田「場合によっちゃトラウマルームになってたっすけどね!」

豚神「でも、こうして僕らは再会することができた」

日向「ああ……七海のおかげでな」

七海『それは違う……と思うよ?』

日向「! 七海!」

七海『……みんな、久しぶり』

小泉「千秋ちゃん……久しぶりだね」

九頭竜「おう、元気にしてたか」

七海『うーん、割と元気……かな。ちょっと眠いけど』

左右田「へへっ、おめーが眠そうじゃないときなんてあんのかよ」

辺古山「まあ……立ったまま涎を垂らしているイメージが定着するくらいだからな」

七海『えー……私、そんなイヤなイメージだったんだ……』

七海『それで、今日は何の用?』

日向「……お前に会いに来たんだ」

七海『……なんか嘘っぽいなぁ』

日向「嘘じゃない。まあ、それだけじゃないんだけどな」

西園寺「もー、雑談は良いからちゃっちゃとやっちゃおうよー」

弐大「礼は言わんで良いのか、西園寺よ?」

西園寺「…………後で」

七海『?』

左右田「始めるにあたって、誰か一人、もっかいプログラムの中に入らねーといけないわけだけどよ……」

花村「七海さんを迎えに行く役ってことかな?」

左右田「ま、そんなもんだ。んで、その役は日向にやってもらう」

澪田「みんなで行っちゃダメなんすか?」

左右田「全員で行ったら、万が一の時に何もできなくなっちまうだろ」

ソニア「万が一……とはなんですか?」

日向「……七海とウサミは他のアバターとは別物だし、今回はインストール先もこのプログラムに適したものかわからない」

左右田「規格外のことが多すぎて、致命的なバグが起こるかもしれねーんだよ」

罪木「最悪、一緒に入った人にもバグの影響が出るかもって話で……入る人はなるべく少ない方が……」

九頭竜「そ、そんじゃあ日向だけにその危険な役をやらせるってのか?」

日向「やらされるわけじゃない。俺が望んでやるんだ」

日向「田中の言う、"命を懸ける覚悟"ってこういうことだろ? 俺は七海を助けたい。七海の為なら、何だってやってやるって誓ったんだ」

罪木「日向さん……」

狛枝「なるほど……七海さんは、まさに君にとっての希望と呼ぶに相応しい存在なんだね」

田中「俺様は止めんぞ。貴様の覚悟、しかと見届けさせてもらう」

七海『……待って、みんな』

七海『みんなは……何の話をしてるの?』

七海『命を懸けるとか、私の為とか……あんまりして欲しくない話をしてる気がする』

ソニア「七海さん……」

日向「……今、そっちに行く。大丈夫だ。俺たちを信じてくれ」

七海『信じてるけど……何か、良くないことを考えてるなら止めて欲しい……』

日向「良くないこと……じゃないさ」

左右田「おう、七海とウサミの体はセット完了だぜ!」

日向「……それじゃあ、行ってくる」

小泉「……行ってらっしゃい」

狛枝「幸運を。日向くん……」

………………

ザザーン ザザーン

日向「ここは……砂浜か」

日向「とりあえず、七海とウサミを探さなくちゃ……」

ウサミ「その必要はありまちぇん!」

日向「うわっ! う、ウサミ……久しぶりだな。元気だったか?」

ウサミ「うふふ、お久しぶりでちゅねー。また会えて嬉しいでちゅ」

ウサミ「……ってそうじゃないでちゅ!」

日向「?」

ウサミ「やいやい! あなたたち、千秋ちゃんに何するつもりでちゅか!」

日向「あー……」

ウサミ「返答次第ではただじゃ起きまちぇんよ!」

日向「それも含めて、2人に話したいことがあるんだ。七海を呼んできてくれないか?」

ウサミ「……」

日向「2人を危険な目には遭わせない。俺たちは、2人を助けに来たんだ」

ウサミ「……なるほど、そういうことでちたか」

日向「……?」

ウサミ「日向くん。あなたたちは……少し優しい性格に育ち過ぎちゃいまちたね。先生、嬉しいやら悲しいやら、ちょっぴり複雑でちゅ」

日向「……もしかして、お前たちは知ってるのか? プログラムの消去のこと……」

七海「……うん。知ってた」

七海「だって、私たちの仕事は終わっちゃったからね……いつかは来る結末だよ」

日向「そうか……なら、話は早い」

日向「2人とも、俺たちと一緒に来てくれないか? 一緒に外に出よう」

七海「……」

ウサミ「で、でも、そんなの不可能でちゅよ……」

日向「不可能じゃない! みんなが協力してくれて……そのための準備も出来たんだ! だから……」

七海「……ごめん、日向くん」

日向「!」

七海「……ダメ……だと思う。そんなの許されないよ。みんなの気持ちは……ありがたいけど」

ウサミ「……」

日向「ダメとか許されないとか……誰が決めたんだよ」

七海「……」

日向「七海……お前はイヤか? 俺たちがしてることって、迷惑か?」

七海「……その訊き方はズルいんじゃないかな」

日向「……ここまで来ておいて難だけど……無理強いはしない。俺はお前たちの意志を尊重する」

七海「……私は……」

ウサミ「……千秋ちゃん」

七海「?」

ウサミ「千秋ちゃんは迷っているんでちゅよね? プログラムとして生まれた自分と、今の自分の気持ちの間で……」

ウサミ「でも、もういいんでちゅよ。あちしたちはもう、お役御免なんでちゅから……」

ウサミ「最後くらい、自分の気持ちに正直に生きて良いと思いまちゅ」

ウサミ「もう……自分に嘘なんてつかなくていいんでちゅよ」

七海「私、は……」

日向「……」

七海「……」

七海「ホントに……良いのかな」

日向「……この件には苗木たちも、もちろん不二咲のアルターエゴも協力してくれたんだ」

七海「え……?」

日向「あいつらもお前が外に出ることを望んでる」

七海「……」

日向「後は……お前の気持ち次第だ」

七海「……わかったよ」

日向「!」

七海「約束、したもんね。また色んなこと、日向くんに教えてもらうって」

日向「ああ……!」

七海「……私ね、今まで"自分の気持ち"なんて考えたことなかった。そういう風にできてないから」

七海「多分、これも日向くんから教わったことなんだ……と思う」

七海「……私、生きたい。またみんなと一緒に、同じ世界を生きてみたい」

ウサミ「千秋ちゃん……あちしは感動してまちゅ。千秋ちゃん自身そう思えたことが、何より嬉しいでちゅ」

………………

…………

……

ウサミ「では、卒業試験を始めまちゅ! 先生最後の大仕事でちゅ!」

ウサミ「……って言っても、何もすることはないんでちゅけどね。日向くんと千秋ちゃんはもう希望のカケラなんて必要ないくらいらーぶらーぶでちゅから。うふふ……」

七海「……」

日向「……じゃあ、押すぞ?」

七海「うん。ウサミちゃんも一緒に……」

ウサミ「……それはできまちぇん」

七海「え……?」

ウサミ「卒業は生徒役にしか意味のないプログラムのはずでちゅから。先生が卒業だなんておかしな話でちゅよね?」

ウサミ「それに、さっきのみんなの話は聞かせてもらいまちた。バグのこと……」

ウサミ「可能性は少しでも減らした方が良いと思いまちゅ。あちしのせいで日向くんを危険に晒すわけにはいきまちぇん!」

七海「……そんなこと言ったら、私だって……」

日向「……俺が今更、そんなこと気にすると思うか?」

七海「……」

日向「ウサミ、お前も押してくれ。卒業ボタンを」

ウサミ「で、でも……」

日向「お前たちがただ黙って消えるのなんて、俺たちには堪えられない。だから、最後まで一緒に足掻いてくれ。たとえ、それが無駄だと思っても……」

日向「これは……希望の為のプログラムなんだろ? だったら信じよう。お前たちの希望を」

日向「……俺は2人の希望を信じる」

ウサミ「……」

七海「……ウサミちゃん、行こ?」

七海「信じようよ。私たちの希望と、日向くんの言葉を」

ウサミ「……そこまで言われてやらないわけにはいきまちぇんね」

日向「……ありがとう」

七海「お礼を言うのは私たちの方だよ」

七海「……ありがとう、日向くん」

日向「後で、みんなにも言ってやれよ」

七海「……うん」

ピピピッ

………………

…………

……

「……きろ……おい、……」

日向「ん……」

左右田「お、起きたか」

澪田「おっはー! 創ちゃん!」

日向「あ、ああ……」

小泉「おかえり、日向」

豚神「記憶や意識に異常はないかい?」

日向「……無い。大丈夫だ」

罪木「よ、良かったぁ……」

ウサミ「日向くん!」ガバッ

日向「うわっ!」サッ

ウサミ「うぅ……華麗にかわされまちた……」

日向「き、急に飛びつくからだろ!」

ウサミ「きっと、この体に慣れてないせいでちゅね……次は捕らえてみせまちゅ」

左右田「へへっ、慣れりゃカンフーだってできるようになるぜ。俺の自慢の作品だからな」

日向「……上手くいったんだな」

田中「貴様とウサミに関しては……な」

日向「……は?」

日向「ど、どういうことだ!? まさか七海だけ……!?」

弐大「待ったれや。落ち着かんかい。まだ目を覚ましてねぇ、ってだけじゃあ」

左右田「卒業プログラムは正常に起動した……はずだ」

日向「……なら、心配しなくていいんだな?」

辺古山「そう思いたいが……」

狛枝「まあ、まだ目を覚ますまで安心はできないね」

西園寺「バグってなきゃ良いけど……」

九頭竜「不吉なこと言うんじゃねえよ。とにかく、帰ろうぜ。ここに居たって仕方ねぇだろ」

………………

…………

……

苗木「おかえり、みんな」

日向「……ただいま」

霧切「まさか本当にやるとはね。仰天だわ」

狛枝「あはは。だったらもっと驚いた顔をすべきじゃないかな」

日向「……ごめん。迷惑かけたな」

十神「ふん。貴様等には既に多大な迷惑をかけられている。この程度のこと、もはやどうとも思わん」

十神「それより貴様……いつまでその格好をしているつもりだ……!」

豚神「……ごめん。なんか落ち着くから」

ウサミ「えぇと……教師ウサミ、ただいま帰還しまちた……」

苗木「おかえり。それと、お疲れ様」

ウサミ「……こんなことをして良かったんでちょうか……」

十神「良い訳ないだろう」

ウサミ「でちゅよね……」

十神「……だが、もう過ぎたことだ。今更お前たちを消したところで、俺たちの罪は免れん。好きにしろ」

霧切「ここにはあなたを縛る規則もない……もう、自由にしなさい」

霧切「七海さんが起きたら、彼女にもそう伝えて」

ウサミ「……わかりまちた!」

………………

…………

……

日向「……」

ウサミ「日向くん……もう三日も寝てまちぇんよ……」

ウサミ「千秋ちゃんの面倒は私が見ておきまちゅから、日向くんは……」

日向「……いや、ここにいる」

日向「目が覚めたとき、俺が傍にいなくてどうする……」

ウサミ「……」

日向(本当に、七海はこっちに来れたんだろうか……)

日向(この身体の中に……お前はいるのか……?)

日向(もう新世界プログラムが無い今、俺は信じるしかないんだ……)

日向(七海……俺は……)

日向(早くお前に……逢いたい……)

………………

ザザーン ザザーン

日向(あれ……? ここは……?)

日向(ジャバウォック島……? なんで……)

日向(砂浜に誰か座ってる……)

日向(あれは……)

日向「七海!」

七海「……」

日向「おーい、七海!」

日向「そんなとこで何やってるんだ?」

七海「……」

日向「……海、眺めてるのか? 珍しくゲームやってないんだな」

七海「……海の向こうには何があるのかな?」

日向「え? そりゃ……色んなものがあるぞ。七海の知らないものもたくさん……」

七海「誰も……教えてくれない……」

日向「え……?」

七海「みんな……いなくなっちゃった……ウサミちゃんも……」

日向「な、七海……?」スッ

日向(!? なんだこれ……身体が透けて……?)

日向(それどころか……まるで俺にも気づいてないみたいな……)

日向「お、おい七海……!」

七海「……一人って、寂しいなぁ」

日向「七海……」

七海「日向くんに……もっと色んなこと……教わりたかったな……」

日向「な、なみ……」

七海「……約束、だったのにな……」

日向「……」

………………

日向「な……なみ……」

日向「……?」

日向「あ……俺……いつの間にか寝てたのか……?」

日向(夢……か……? ひどい夢だ……)

日向(七海……)ゴシゴシ

七海「……」

日向「……」

七海「……悪い夢でも見た?」

日向「……」

七海「……あ、おはよう、日向くん」

日向「……」

日向「七海っ!!?」ガバッ

七海「!」ビクッ

日向「七海!? 七海だよな!?」ムニムニ

七海「いひゃい、いひゃい。何でほっぺたを……」

日向「夢……じゃないんだよな……?」

七海「夢か現実か確かめるときは、普通自分のほっぺたをつねるんじゃないかな……?」

日向「ホントに七海なんだよな? あの七海だよな?」

七海「……」

七海「七海千秋でーす。超高校級の……」

日向「知ってる」

日向「俺のことも……ちゃんと覚えててくれてるんだよな?」

七海「……覚えてない」

七海「……って言ったらどうする?」

日向「……」ムニッ

七海「い、いひゃい……ごめんなひゃい……」

七海「……日向くん、ちょっと見ない間に暴力的になった」

日向「……悪かったな」

七海「でも……これがリアルな痛みなんだね。私の知ってる感覚とちょっと違う……気がする」

七海「気がするだけだけどね」

日向「……」ギュッ

七海「……日向くん?」

日向「良かった……本当に……」

七海「……」ギュッ

七海「あったかい……これがリアルな日向くんのあったかさなんだね」

日向「……プログラムの中で七海を抱きしめたことなんてなかったろ」

七海「……そうだね」

七海「……日向くん、泣いてる?」

日向「……泣いて、ない」

七海「そっか……じゃあ……」

七海「泣いてるのは、私だけだね……」ポロポロ

日向「七海が泣いてるの見るの……初めてだな……」

七海「ぐすっ……そういう風に……できてなかったから……」

七海「どうしよう……止め方がわからないよ……」ポロポロ

日向「……気が済むまで泣けば良い」

七海「うっ……ひぐっ……」

七海「うわぁぁぁぁぁん!!」

………………

…………

……

七海「……」

七海「……大変お見苦しいところをお見せしました」ゴシゴシ

日向「ははっ、ホントに酷い顔だぞ」

七海「むっ……酷い寝顔を晒してた日向くんに言われたくないなぁ」

七海「面倒見てる最中に寝落ちして逆に面倒見られるなんて、男の子としてどうかと思う」ビシッ

七海「……って、小泉さんなら言いそうだよね」

日向「……確かに」

日向「……」

日向「……ちょっと待っててくれ」

七海「?」

日向「……」スタスタ

ガチャ

日向「いつまで廊下にいるんだ、お前ら……」

一同「……」

左右田「あー……いつから気づいてた?」

日向「かなり前から。ウサミの耳が扉の隙間からちらちら見えてた」

ウサミ「ほわわっ!? あちしのせい!?」

ソニア「良い雰囲気でしたから……入りづらくて……」

七海「……もしかして、私が泣いてるの見られてた?」

花村「バッチリね!」

弐大「うむ、実に爽快な漢泣きじゃったぞ! がっはっはっは!」

九頭竜「いや、女じゃねぇか……」

七海「……恥ずかしいなぁ」

澪田「うひょー! 照れた顔がたまらんっす!」

小泉「千秋ちゃん……改めておかえり。ぐすっ……」

七海「うん、ただいま小泉さん」

田中「肉体の調子はどうだ、七海よ」

罪木「えっと……体調が優れないときは、いつでも言ってくださいね?」

七海「うん、大丈夫。多分」

辺古山「しかし、あれだけ泣いていたんだ。さぞや喉が渇いたことだろう」

終里「腹も減ったんじゃねぇか?」

七海「……どうにか忘れてくれないかな」

西園寺「……七海おねぇ」

七海「西園寺……さん?」

西園寺「なんで疑問系なのさ!」

日向「まあ……変わり果ててるからな」

七海「ふむふむ……立派になったねぇ」チョンチョン

西園寺「……七海おねぇ、そんなキャラだったっけ?」

七海「制限が無いから。思ったこと言えるって……楽しいね」

ウサミ「全くでちゅねぇ」

西園寺「まあ、そんなことよりさ……その……」

七海「?」

西園寺「……あ、ありがとう。私たちのこと助けてくれて……」

七海「……うん。こちらこそ、ありg」

西園寺「はいはい! お礼言い終わった! この話はおしまい!」

七海「えー……」

九頭竜「照れてんだよ。許してやれ」

………………

七海「ええと……ただいま、で良いのかな?」

苗木「おかえり、七海さん」

十神「……」

霧切「十神くん。安堵の表情が隠しきれてないわよ?」

十神「……やめろ。茶化すな」

霧切「それにしても……本当にそっくりそのまま身体を造ったのね」

七海「そうなの?」

霧切「ええ……鏡を見てくるといいわ」

七海「後で見てこよっと」

十神「……おい、日向」

日向「? なんだ?」

十神「こうなった以上、七海の姿を本部の人間に見られるわけにはいかん。勝手にどこかに行かないよう、常に目を光らせておけ」

日向「……ああ。言われなくても……もう離れるもんか」

霧切「……だからって、ずっと手を繋いでいなくてもいいのよ?」

日向「そ、そうだな……」

七海「でも、この方が落ち着くからこの方がいい。日向くんの手、あったかくて気持ちいいし」ギュッ

日向「……」

苗木「……」ニコニコ

十神「……いちゃつくだけなら、さっさと部屋に戻れ」

七海「いちゃついてるわけじゃないけど……とりあえず戻ろっか、日向くん」

アルターエゴ『待って、千秋ちゃん』

七海「あ……」

アルターエゴ『おかえりなさい。無事で、良かった……』

七海「うん……ありがとう」

アルターエゴ『友達、たくさんできたんだね。大事にしなきゃダメだよ?』

七海「……うん」

アルターエゴ『それと、お幸せに。ふふっ……』

七海「?」

………………

日向「……食堂に行くか? みんな待ってるだろうし」

七海「……」

日向「?」

七海「……もうちょっとだけ日向くんと居たい」

日向「……そうか」

七海「ごめんね?」

日向「いや、俺ももう少し七海と2人で過ごしたかったから……」

七海「……」

七海「うーん……なんだろうね。この感じっていうか……気持ちっていうか……」

七海「……よくわかんない」

日向「その内わかる……んじゃないかな」

七海「そうなの? 日向くんが教えてくれる?」

日向「い、いや……俺には教えられない……と思う」

七海「……なんか煮え切らない返事だなぁ」

日向「お前、いつもこんな話し方してるぞ……」

七海「……ま、いっか。なんでもかんでも教えてもらってたら面白くないもんね」

日向「まあ、自分で勉強するのも大切だな」

七海「でも、約束は約束だよ? 色んなこと、教えてくれるって」

日向「ああ、約束だ」

七海「……じゃ、みんなのところ行こっか? なんかお腹空いちゃった」

日向「そうだな。そろそろ……」

七海「……と、思ったけど」

日向「?」

七海「……ねみぃ」

日向「…………」


   おわり

っていうね
おやすみ

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