サシャ「無意味じゃありません!」(75)


・『サシャ「ひと味違いますよ?」』の続きです

・いつも通りの超展開&ご都合主義です


―― 朝 物干し場付近

クリスタ「……ううっ、半袖で外に出るとまだ寒いね」プルッ

サシャ「そろそろ長袖に切り替える時期ですかねー」プルッ

クリスタ「寝る前は暑いのに、朝起きると人肌恋しくなっちゃうのも困りものだよね……ねえサシャ、抱きついていい?」

サシャ「いいですよー、どうぞ!」

クリスタ「じゃあお言葉に甘えて――えいっ!」ギュッ

サシャ「どうですか?」

クリスタ「……サシャはあったかいねぇ」ホクホク

サシャ「そうですか? 自分ではよくわかりませんけど」


クリスタ「ふう、満足した。ありがとうサシャ」スッキリ

サシャ「どういたしまして。でも、クリスタも自分から抱きついたりするんですね。ユミルから抱きつかれてる時はあんなに抵抗してるのに」

クリスタ「うーん……ユミルに抱きつかれるのも嫌じゃないんだけどね、私は私のペースでぬくもりを補給したいっていうか……」

サシャ「ああ、わかりますわかります! ごはんは誰にも急かされずゆっくり食べたいですよね!」グッ

クリスタ「うーん……まあそんな感じ、なのかな?」


クリスタ「それにしても、今日は朝からいい天気でよかったよね!」

サシャ「ええ、これなら洗濯物もよく乾きそうです!」

クリスタ「天高く、馬肥ゆる秋……」

サシャ「果実がたわわに実る季節……」

クリスタ「そしてこの澄んだ空気!」

サシャ「降り注ぐ柔らかな日差し!」

クリスタ「吹き抜ける風っ!」

サシャ「さわやかっ!」



サシャ・クリスタ「「第104期訓練へいだーんっ!!」」



コニー「……朝っぱらから何騒いでんだ」


サシャ「あっ、コニー! おはようございます!」

クリスタ「おはようコニー、早いね!」

コニー「おう、おはよ。それにしても元気だなーお前ら」

サシャ「元気の秘訣は早寝早起き、そしておいしいごはんですよ、コニー!」

コニー「じゃあ人のパン取るなよ」

サシャ「最近は取ってませんよ失礼な! 盗みにだって行ってないですし!」プンスカ

クリスタ「ところでコニーは何してたの? それ、工具箱だよね?」

コニー「これか? あそこの納屋の扉の建て付けが悪いって教官に報告したらよ、お前が直せって押しつけられたんだよ。そんで、さっきまで作業してた」

サシャ「あらら……それは災難でしたね」

クリスタ「こんな朝早くから大変だったね。どう? 直りそう?」

コニー「もう少しってところだな。今日明日には直してみせるぜ!」


クリスタ「それにしても、他の訓練兵の子誰も見かけないね。洗濯日和なのに私たちしかいなかったし」キョロキョロ

サシャ「アニのパーカーが干してありましたけど、あれは昨日干したものでしたし……みなさん洗濯しないんですかね?」

コニー「こんだけ早いと厩舎の当番くらいしか見かけねえよな。……あ、でもさっきエレンとライナー見たぞ。二人で並んで走ってた」

サシャ「……へえ、早起きですね」

コニー「今日の午後は立体機動の訓練なのに、朝っぱらからよくやるよなーあいつら」

サシャ「……そうですね」

クリスタ「……サシャ、行こう!」グイッ

サシャ「えっ? どこにですか?」

クリスタ「エレンとライナーのところ! ほら、コニーも一緒に! 案内して!」グイッ

コニー「えー……ったく、仕方ねえなぁ」スタスタ...


―― 営庭の端

ミカサ「おはよう、サシャにクリスタ。それとコニー」

コニー「俺はおまけかよ」

サシャ「おはようございますミカサ。……ところで、エレンの上にのしかかって何してるんですか?」

ミカサ「ストレッチのお手伝い。長座体前屈」グイーッ

エレン「おいミカサー、誰かいるのかー?」ノビー

ミカサ「サシャとクリスタ、それとコニーがいる」

コニー「だから俺はおまけじゃねえっての」

クリスタ「おはようエレン! いい朝だね!」

エレン「おう、おはよううううっ!? ミカサ押しすぎ! 押しすぎ!!」ジタバタジタバタ

ミカサ「まだいけるはず。私はエレンを信じている」グイグイ

エレン「俺そんなに体柔らかくねえってば!」ジタバタジタバタ


クリスタ「ねえミカサ、ところで――」

ミカサ「ライナーなら、さっき井戸のほうへ行った」

クリスタ「よーっし! じゃあそっちに行こう!」

コニー「俺帰っていいか?」

サシャ「私も帰りたいんですけど……」

クリスタ「だめ! 三人で一緒に行くの!」グイグイ

サシャ「えー……」

コニー「もう場所わかったんだから俺いらねえだろー?」

クリスタ「だぁーめぇーっ!!」グイグイグイグイ

サシャ「わかりましたよ、わかりましたから袖引っ張らないでくださいよー」ズルズル...

コニー「次で最後だからなー、クリスタ」ズルズル...



ミカサ「……なんだか三兄妹みたい」ホンワカ

エレン「みかっ……みかさっ、そろそろ手ぇ離して……」メリメリメリメリ


―― 井戸

クリスタ「おはようライナー!」

ライナー「おはようクリスタ。……と、コニーとサシャか。珍しい組み合わせだな」

クリスタ「うん。三人でお散歩してたんだ」

ライナー「そうか、楽しそうでいいな」

コニー「楽しそうなのはクリスタだけだけどなー」ボソッ

サシャ「……」モジモジ

クリスタ「というわけでサシャ、あとはごゆっくり!」ポンッ

サシャ「ちょっ、クリスタ!?」

クリスタ「ほら、コニー行こう?」グイグイ

コニー「また移動するのか? ……あーもう、わかったわかった」スタスタ...


                              \ガサガサ/


ライナー「草むらの陰に隠れたな。……何やってんだあいつらは」

サシャ「なんだか兄妹みたいですね」クスッ


サシャ「改めて……おはようございますライナー。いい朝ですね!」

ライナー「おう、おはよう。……こんな朝早くから何してたんだ? 何かの当番か?」

サシャ「クリスタと二人で洗濯してたんですよ。今はその帰りです。ライナーは走ってたんですよね?」

ライナー「おう。エレンと走ってきたんだ。朝が涼しい季節になったからな」

サシャ「へえ……」ジッ...

ライナー「……嗅ぐなよ?」ボソッ

サシャ「かっ、嗅ぎませんよ!///」カァッ

ライナー「どうだかなー」

サシャ「……さっきあっちでエレンと会いましたけど、これからストレッチするんですよね? もしよかったらお手伝いしますよ」

ライナー「じゃあ、よろしく頼む」





クリスタ(サシャったら真っ赤だぁ……/// でも、ライナーは無反応だなぁ)ウーン...

コニー(ライナーの奴かなり喜んでんな……サシャの奴はなんだ? 風邪か?)


コニー「……ところで、なんで陰からコソコソ見てんだよ。あの二人にモロバレだろ」

クリスタ「ムードっていうものがあるんだよ、コニー」コソコソ

コニー「ムードだぁ?」

クリスタ「私たちは恋愛初心者なんだから、一緒に勉強したほうがいいよ」

コニー「恋愛なあ……んなことしてる暇ねえだろ、俺たちは」

クリスタ「でも……死ぬ時に、誰にも何も思われないのって、悲しいよ?」

コニー「そりゃあ――っておい、死ぬ前提の話するなよ。話が飛びすぎだって」

クリスタ「……うん、そうだね。ごめんね? 変なこと言って」

コニー「まあ気にすんなよ。考えすぎんのは体に毒だぞ」

クリスタ「……夕方、納屋の修理手伝うね? ここまで付き合ってくれたお礼に」

コニー「おー、ありがとなー」


―― 昼 食堂


   ゴロゴロゴロゴロゴロ....


クリスタ「……雲行きが怪しくなってきたね」

サシャ「ですね。洗濯物大丈夫でしょうか?」

クリスタ「降る前に取り込んでこようかな。部屋干しはあまりしたくないけど、もう一度やり直すよりはマシだよね……」ウーン...

サシャ「なら、私がまとめて回収してきますよ。確かクリスタ、教官に呼ばれてましたよね?」

クリスタ「あ、そうだった。……サシャ、お願いしてもいい?」

サシャ「お任せください! 洗濯物は部屋に運んでおけばいいですよね?」

クリスタ「うん、取り込んでもらえるだけでも助かるよ。干すのは後で自分でやるから」

サシャ「わかりました、じゃあ行ってきますね!」タタタッ


―― 物干し場


   ゴロゴロゴロゴロゴロ....


サシャ(うーん、まだもう少しは保ちそうですけどねー、どうなんでしょう……?)

サシャ(あれっ? あそこにいるのは――)

サシャ「こんにちは! アニも洗濯物取り込みに来たんですか?」

アニ「雲行きが怪しいからね。残りは全部あんたのでいいの?」バサッ

サシャ「はい、私とクリスタのです。……うーん、生乾きのが多いですね」バサバサ

アニ「乾いてないのは部屋干しにするしかないね。私も何着か乾いてなかったよ」

サシャ「パーカーのフードとか乾きにくいですもんねぇ」バサバサ

アニ「手伝ってあげたいけど……ごめん、ミーナとミカサの分も頼まれててさ」ドッサリ

サシャ「いいですよ、早く行ってください! 濡れちゃったら元も子もありませんし」

アニ「あんたも早く戻ったほうがいいよ。……じゃあ、お先に」スタスタ...

サシャ「はーい、アニもまた後で!」パチンパチン


サシャ「よし、これで全部っと――」


   ―― ポタッ   ポタッ 


サシャ「あれっ!? 降ってきちゃいましたね、急がないと……」


   ―― ポッ ポッ    ……ザ――――――――――――ッ!!


サシャ「ちょっ……早すぎません!?」アタフタアタフタ

サシャ(えーっと、えーっと……! 寮まではまだ距離がありますし……近くの建物ってあそこの納屋くらいしか……)

サシャ(仕方がないですね、一旦退避!)ガチャッ バタンッ


サシャ「び、びっくりした……」ポタポタ...

サシャ「うう……せっかく洗濯したのに、台無しです……」グッショリ

サシャ(カゴの中身、全部濡れちゃいましたかね……あ、いくつかは無事みたいですね、よかった)ゴソゴソ

サシャ(それにしても……)


   ―― ザ――――――――――――ッ!!


サシャ(窓がないので外の様子がわかりませんが……もう少し勢いが収まるまで、ここで待ってたほうがいいですよね。通り雨だといいんですけど)


―― 食堂

マルコ「教官に聞いてきたよ。午後の立体機動訓練は中止。訓練兵は自室の雨戸の確認、今週の掃除当番は担当区域の雨戸の確認と窓の施錠をしてから食堂に集合だって。このまま自習にするか、他の講義を差し替えるかどうかはまだ決まってないみたい」

ベルトルト「混乱してるね」

ライナー「これから更に荒れそうだって話だからな。教官も右往左往してる」

エレン「ちぇっ、今日の訓練のために朝から気合い入れてたんだけどなー……」

アルミン「秋は天気が変わりやすいから、少し経ったらあっさり止んじゃう可能性もあるけど……仕方がないね、こればっかりは」

コニー「あー、納屋の修理どうすっかなー」

ジャン「他に心配することあんだろ馬鹿」



クリスタ「ねえみんな、サシャがどこにいるか知らない?」


ライナー「……いないのか?」

クリスタ「さっきから探してるんだけど、見当たらないの。ミカサやユミルにも手分けしてもらってるんだけど……」

ジャン「どうせ食料庫にでもいるんじゃねえの? 今なら教官の目もねえだろうし」

コニー「でも最近盗みに入ってないって言ってたぞ、サシャの奴」

マルコ「じゃあどこに行ったんだろうね……あ、ユミルとミカサが来た」

ユミル「女子寮にはいなかったぞ。残ってる奴らにも手当たり次第に聞いたけど、誰も見てねえって」

ミカサ「廊下から簡単に確認しただけだけど、兵舎の中にも見当たらなかった」

クリスタ「ユミル、ミカサ、ありがとう。でもどうしよう……どこに行ったのかな」


アニ「……クリスタ、サシャを探してるの?」

クリスタ「うん。アニ、何か知ってたりする?」

アニ「サシャなら、雨が降り始める直前に物干し場で会ったけど」

ユミル「物干し場だぁ? ……もしかして、まだ外にいるんじゃねえだろうな」

ミカサ「――!!」

クリスタ「わ、私……見に行ってくる!」ダッ

ライナー「ダメだ、クリスタはここにいろ」ガシッ

クリスタ「だって、風も雨も強くなってきてるし……もしまだ外にいるとしたら、サシャのこと放っておけないよ!」

ライナー「もう寮に戻ってるかもしれない。ミカサやユミルと入れ違いで帰ってきた可能性もある。もう一度、中を探してくれ」

クリスタ「じゃあ、外には探しに行かないの!? サシャがいるかもしれないのに!!」

ライナー「そんなわけあるか。俺が見てくる」

ジャン「おいおいライナー……正気か? ほぼ嵐になりかけてるぞ、外」

ライナー「ああそうだな。いい天気だ」

ジャン「こんな時に冗談言ってる場合かよ」


マルコ「せめて教官に報告してからにしないか? 何かいい案をもらえるかもしれないし」

ライナー「そんな大事にしなくていい。洗濯物取り込んで遭難したなんて話、広まるのも嫌だろうしな」

アルミン「待ってよライナー。もしかして、一人で行くつもりなの? 人手が必要なら何人か声かけようか?」

ライナー「山の中を探すならまだしも、その辺で迷子になった馬鹿を一人捜すだけだ。大勢で行っても仕方がないだろ。俺一人で充分足りる」

ミカサ「……私も行く」

ライナー「応援が必要なら後から呼ぶ。……そうだな、一時間経っても戻らなかったら探しに来てくれ」

ミカサ「……わかった。気をつけて」


―― 物干し場付近


   ―― ザ――――――――――――ッ!!


ライナー(……いないな)

ライナー(洗濯物はなし、か。回収だけは済ませたのか)

ライナー「おーい、サシャ! いたら返事しろ!!」


   ―― ザ――――――――――――ッ!!


ライナー(思った以上に雨の勢いが強いな……外にいたとしても、聞こえたかどうか怪しいな)

ライナー(視界も悪い。一旦戻るか? ……いや、もう少し探してみるか)

ライナー(俺ともすれ違いになって、もう寮か食堂に戻ってりゃ問題ないんだが……ん?)

ライナー(あれは……納屋か? 一旦あそこで雨宿りするか)


―― 納屋

サシャ「……?」

サシャ(今、ライナーの声が……気のせいですかね)

サシャ(心細くて幻聴まで聞こえたんでしょうか……)

サシャ「……っくしゅんっ!」プルッ

サシャ(……寒い)

サシャ(濡れた服着てたら当然ですよね……すぐ戻れると思ってたのに)


   ―― ザ――――――――――――ッ!!


サシャ(……雨も風も、全然止む気配ないですし)


サシャ(……そういえば、いくつか着れるくらいには乾いてた気が)チラッ

サシャ(でも、ここで着替えるのってどうなんでしょう?)プルッ

サシャ(……いいや、誰も来ませんし着替えちゃいましょう。窓もありませんし覗かれませんよね)ヌギヌギ

サシャ「ハンカチは……体を拭くにはちょっと小さすぎますよね、端に避けといて……」ゴソゴソ

サシャ「えっと、タオルは……無事なのは一枚だけですね。体が拭けるだけいいとしましょう」フキフキ

サシャ「下着は……乾いてる。これは先に着て……っと」ゴソゴソ

サシャ「シャツもよし……スカートも、履けなくはないですね。これは後からっと」ゴソゴソ

サシャ「えーっと、あとは上着上着……」ゴソゴソ


                                 ――ガチャッ


サシャ(? 誰か入って――)クルッ





ライナー「……あ」

サシャ「」


サシャ「ライナー……? なんでここに……?」

ライナー「いや、雨宿りをしようと……じゃなかった、すまん! 外に出る!!」クルッ

サシャ「!? 待ってください出なくていいですよ! 後ろ向いて壁でも見ててくれればいいですから!」

ライナー「……わかった。終わったら言ってくれ」

サシャ「はい、急ぎますね」モソモソ

ライナー「……なんで下着姿なんだ? サシャ」

サシャ「服が濡れちゃったから着替えてたんですよ。誰か来るとは思ってませんでしたし」モソモソ

ライナー「そうか……濡れちゃったんなら、仕方ないよな……」

ライナー(ずっと前、夜中にミカサが連れてきた時はよく見えなかったが……思ってた以上に……)

ライナー「……」

ライナー「……」ゴンッ!!

サシャ「ひぇっ!?」ビクッ!!


サシャ「……なんで扉に頭突きしたんですか?」

ライナー「いや、何もしてないぞ?」ヒリヒリ

サシャ「だって今、音もしましたし……」

ライナー「気のせいだろ」

サシャ「……まあいいですけど。それにしても、こんなところで会うなんて偶然ですよね。この納屋に何か用だったんですか?」

ライナー「んなわけあるか。お前を探しに来たんだよ」

サシャ「私? ……なんでです?」

ライナー「……迷子は迷子の自覚がないって話は本当だったんだな」ボソッ

サシャ「何か言いました?」

ライナー「なんでもない」


サシャ「お待たせしました、もうこっち向いてもいいですよ」

ライナー「……」クルッ

ライナー(……半袖シャツ一枚に、夏物の丈の短いスカートか)

ライナー「……上着は?」

サシャ「全滅でした」

ライナー「俺の上着を貸してやるから着てろ。シャツだけだと寒いだろ」パサッ

サシャ「えっ、でもそれだとライナーが寒いんじゃありません?」

ライナー「丈夫だからいいんだ、俺は」

サシャ「じゃあ、お借りします……」パサッ

サシャ(上着……ライナーの上着……! 数週間ぶりの……!!)ドキドキドキドキ

ライナー「どうした? 羽織ってないで早く着ろ」

サシャ「そっ、袖を通していいんですか!?」

ライナー「? 当たり前だろ? 汗臭くても文句言うなよ?」

サシャ「言いません言いません言いません!!」ブンブン


サシャ「じゃあ、失礼します……っと、結構ぶかぶかですね」ブカブカ

ライナー「サイズが一回り違うからな。……お前の分の雨具も持ってきたから、上から着ろ」

サシャ「はーい。着まーす」モソモソ

ライナー「着替え終わったら戻るぞ。クリスタやミカサが心配してたからな」グッ

ライナー「……ん?」

サシャ「? どうかしました?」モソモソ

ライナー「……開かない」グッグッ

サシャ「押してダメなら引いてみろ!」

ライナー「どっちもやった。……どこか引っかかってるみたいだな」

サシャ「なら、私が代わりましょうか? 案外あっさり開くかもしれませんし」

ライナー「特に変わらんと思うが……やってみろ」

サシャ「よーっし…………はい、開きませんね!」ガチャガチャ

ライナー「かなり古いみたいだからな、この納屋」

サシャ「コニーが朝直してたんですけどねー、ここ」


サシャ「ん? ……ということは、私たち閉じ込められたってことですか?」

ライナー「そういうことだな。……天気も収まらないし、少し様子を見るか」

サシャ「そうしましょうか。苦労してここから出ても、またびしょ濡れになっちゃうでしょうし」

ライナー「……悪い。俺が来た意味なかったな」

サシャ「そんなことないですよ! 一人でいても心細かったので、来てもらえて助かりました!」ブンブン

サシャ「というか、お手数かけてすみません……しかも巻き込む形になっちゃいましたし……」ショボーン...

ライナー「こっちが勝手に探しに来たんだ。気に病まなくていい」ポンポン

サシャ「……髪濡れてますから、ライナーの手も濡れちゃいますよ?」

ライナー「そうだな、大変だ」ポンポン

サシャ「そうですよ、大変ですよ」



サシャ(……よくよく考えたら、私を探しにこの雨の中来てくれたってことですよね)

サシャ(不謹慎かもしれないですけど……嬉しいなぁ)


ライナー「立ってても仕方ないな。座るか。お前も雨具脱いでいいぞ」パサッ

サシャ「はーい。……あ、ちょっと待ってください」ゴソゴソ

ライナー「……それ、ハンカチか?」

サシャ「はい。直に座るよりはマシですよね、どうぞ」ファサッ

ライナー「どうぞって……洗ったばかりなんじゃないのか?」

サシャ「こうなったら全部後からやり直すつもりなのでいいですよ。気にしないでください」

ライナー「悪いな、助かる」

サシャ「いいえ、こちらこそ。……そうだ、しばらくここにいるんですよね? 上着返しましょうか?」

ライナー「いや、ここを出るまで着てていいぞ」

サシャ「でも、それだとライナーが寒くないですか?」

ライナー「余計な心配はしなくていい。着てろ」


サシャ「そうだ、寒くなってきたら私に抱きつくといいですよ! クリスタが私のことあったかいって言ってましたから!」

ライナー「……は?」

サシャ「というわけで、私が前に座りますね!」ストンッ

ライナー「……」

サシャ「……」

ライナー「………………………………いいのか?」

サシャ「何がですか? ……あ、向きあったほうがよかったですかね? クリスタは私の背中に抱きついてたから、こっちのほうがいいと思ったんですけど」

ライナー「いや、そうじゃなくてだな……」

サシャ「……?」キョトン





ライナー(……なんだ、この状況)


サシャ「そうだ! どうせだから何かお話ししましょうよ。このまま黙ってても暇ですし」ユラユラ ヒョコヒョコ

ライナー「その前に、髪ほどいてくれないか? 目の前で動くから気になる」

サシャ「あ、どうぞどうぞ。いいですよ」

ライナー「……」

サシャ「……?」ユラユラ ヒョコヒョコ

ライナー(……俺がほどけばいいのか)

ライナー「……ほどくぞー」シュルッ...

サシャ「はーい」ユラユラ

ライナー「こら、動くな」


ライナー「……蝶、つけてないんだな」

サシャ「なくしたくないので、訓練の時はつけてないんですよ。今日の午後は立体機動でしたし。……でも、この前ハンバーグ作ってた時はちゃんとつけてましたよ?」

ライナー「そうだったのか? 気づかなかった」

サシャ「二人ともそれどころじゃありませんでしたしねー、この前は」

ライナー「そういや、指はもう治ったか?」

サシャ「ええ、おかげさまで」

ライナー「そうか、よかった」

サシャ「見ます?」

ライナー「いや、治ったんならいい」


―― 同刻 食堂


   ―― ザ――――――――――――ッ!!


ミカサ「……」ソワソワ

エレン「ライナーに任せときゃ大丈夫だって、ミカサ」

アルミン「そうだよ。もしかしたら二人でどこかに避難して、動けなくなってるのかもしれないし」

ミカサ「なら、なおさら助けに行かないと」ソワソワ

ユミル「なあ……まさかとは思うが、おっぱじめたりしてねえよなあいつら」

ミカサ「何を言い出すのユミル」ガタッ


ユミル「もちろん、まだ見つかってない……ってのも充分あり得るんだが」

ユミル「訓練所の端から端まで探したって、いくらなんでも一時間もかかるわけないだろ」

ユミル「今ぐらいの時間なら……そうだな、そろそろ一旦帰ってきて、中にいなかったか聞きに来てもいい頃合いじゃないか?」

ミカサ「……一理ある」

ユミル「だろ? つまり、帰ってきてないってことはそれなりの理由があるわけだよな」

ユミル「アルミンの推測通り、仮にどこかに避難してると仮定して、だ」

ユミル「密室に男女が二人だろ? ……となったら、やることは一つしかないよな?」


アルミン「でもさ、まだ付き合ってないんだよね? あの二人。心配しすぎじゃない?」

ユミル「いや、あの二人に限ってそれは当てはまらないだろうよ」

ミカサ「……何を言いたいの?」

ユミル「だからさー、あの二人って、そういう段階に行くために必要な手順を一切踏んでないだろ?」

ユミル「普通はさ、えーっと、告白して手ぇ繋いでキスして? ……まあ色々省くけど、全部逆なわけだろ? あの二人の場合」

ユミル「だから、その延長でおっぱじめちまう可能性が……あるんじゃねえのかなぁって……」

ミーナ「ズッコンバッコン……」

アニ「……開拓地送り?」

ミカサ「サシャが危ない」ガタガタッ


ユミル「いやいや、流石に昼間っから愛情たっぷり夜の立体機動なんかしないだろ。……なぁ紳士諸君?」チラッ

ジャン「……」プイッ

マルコ「……」プイッ

ベルトルト「……」プイッ

アルミン「……」プイッ





コニー「ところで夜の立体機動ってなんだ?」

エレン「知らねえ。でも危ねえよな、夜に立体機動なんて」

コニー「そうは言うけどよ、訓練場の森の中だってだいぶ暗いぞ?」

ミカサ「エレン、夜の立体機動については今夜私が優しく教えてあげてもいい」

エレン「じゃあいいや知らなくても」

ミカサ「遠慮しなくていい」グイグイ

エレン「いーやーだー!」ジタバタジタバタ


ジャン「まあ……ライナーなら、大丈夫だろ。たぶん。その辺の分別はあるって」

アルミン「うん。ライナーだし。大丈夫だよ。きっと」

マルコ「ライナーだもんね、大丈夫だよね。おそらく」

ベルトルト「うーん、どうかなぁ……?」

ユミル「ふわっふわした意見だな。参考にもなりゃしねえよそれだと」ケッ

アルミン「だって、こればっかりはねぇ……」

マルコ「ちょっと僕らにはわからないっていうか……」

ベルトルト「口出しできない領域だよね、ある意味……」

ジャン「むしろ俺たちに何を言えと」

ユミル「最後に抜いたのいつー?」プーックスクス

ジャン「お前そういうの本当やめろって」


―― 同刻 納屋


   ―― ザ――――――――――――ッ!!


サシャ「雨も風も収まりませんねー。ひどくなる一方ですよ?」

ライナー「さっきのほうがまだマシな天気だったな……まだしばらくは、ここに足止めか」

サシャ「ですねー」ユラユラ

ライナー(上着の肩幅、大分余ってるな……一回り違えば当然か)

ライナー(改めて見ると、こいつの肩かなり細いんだな……これでも、女子では鍛えてるほうなんだよな?)

ライナー「……サシャ、メシはちゃんと食えよ」

サシャ「なんですか突然。毎日三食しっかり食べてますよ?」

ライナー「本当か? 我慢しなくてもいいんだぞ? パンだけじゃ偏るからな、肉だけじゃなく野菜も取れよ?」

サシャ「言われなくてもちゃんと食べますよー」ユラユラ


サシャ「それよりも、ずーっと胡座と腕組みじゃ疲れません? もっと楽にしたらどうですか? 崩してもいいんですよ?」ユラユラ

ライナー「……じゃあ、足だけ」モソモソ

サシャ「ちゃんと伸ばしていいんですよー? 折り曲げたままだと肘掛けみたいでいいですけど」ポフポフ

ライナー「こら、腕のせるんじゃない。……さっきから落ち着きがないな、お前」

サシャ「……実は、ちょっと楽しくて」エヘヘ

ライナー「楽しい?」

サシャ「だって、いつもは見回りの時間を気にしながらやってるでしょう? 外に出かけても門限がありますし」





サシャ「――でも今は、正真正銘二人っきりじゃないですか」


ライナー「……」

サシャ「……?」

サシャ(今日のライナーはいつも以上に黙りこむことが多いですね……あ、枝毛)チョイチョイ



ライナー(……サシャの言う通りだ)

ライナー(誰も来ない、誰もいない……見回りの時間を気にする必要もない……)

ライナー(もし仮に、最後まで行っても……)

ライナー(……いやいや、何考えてるんだ俺は)





ライナー(………………でも抱いてもいいって言ったよな、さっき)


サシャ(あたたかい……返したくないなぁ、上着……)ギューッ

サシャ(これって、こんなにあったかいものでしたかねー……?)ヌクヌク

サシャ(もしかすると、男子だけ素材が違うのかもしれませんね。聞いてみましょうか)ヌクヌク

サシャ「あの、――ひゃっ!?」 ――ギュッ

サシャ「え、あの、ちょっと……ライナー? ど、どうしました?」

ライナー「……こっち向くな。おとなしくしてろ」ボソッ

サシャ(ひぇっ……み、耳元……!)

ライナー「……返事は?」

サシャ「は、はいぃ……///」

サシャ(心臓の音、聞こえそう……や、顔、熱い……///)ドキドキドキドキ


ライナー「……確かにあったかいな、お前」

サシャ「でっ、でしょう……?」ドキドキドキドキ

サシャ(クリスタの時は、全然恥ずかしくなかったのに……おかしいですね……///)ドキドキドキドキ

サシャ(わ、私……この後、どうしたらいいんでしょう……?///)ドキドキドキドキ



ライナー(なんでこいつは抵抗しないんだろうな……)

ライナー(男に後ろから抱きつかれてんだぞ? 普通は逃げるだろ?)

ライナー(……)





ライナー(あー、くそ……………………………………………………………………もう無理)

すいません 誰も見てないと思うんですがちょっと抜けます
遅くても20時には帰ってきます

リアルタイムで見てたよ!
続き待ってます。

やったー見てた人いたー!! >>43さんありがとうございます!
というわけで再開します!


―― 同刻 食堂

ユミル「それでさ」

ジャン「!? まだ続くのかよこの話……もういいって……」

ユミル「まだまだ終わらないんだなーこれが。……で、そういうことってさ、段階踏んで徐々に覚えてくもんだろ? お互いさ」

ユミル「どうやらそっちの紳士様方は、彼女いないくせにそういう知識が豊富でいらっしゃるみたいだけどな?」チラッ

アルミン「……ノーコメントだよ、ユミル」

ユミル「まあ、先に進めるけどさ。……正直、サシャとそういう話したことねえからわかんないんだけどよ。……その」

ジャン「突然歯切れ悪くなったな。さっさと言えよ」

ユミル「……あのさ」





ユミル「もしかすると、サシャにはそっち系の知識……一切ないんじゃねえかなー、って……」


ジャン「……え? マジ?」

ユミル「年がら年中盛ってるお前ら男どもと一緒にするなよ。女子はそういう知識に詳しくなくても別に困らないの。なぁ?」

ミーナ「ノーコメント」プイッ

アニ「黙秘」プイッ

ミカサ「ユミル。セクハラ」

ユミル「ご覧の通りだ」

ジャン「見てもわかんねえよ」

ミカサ「……ジャン、セクハラ」チッ

アニ「最低」チッ

ミーナ「豚小屋出身家畜以下」チッ

ジャン「扱いひどくねえ!?」


ユミル「というわけでだな、私たちはそっちの純情男よりも更に更にピュアなんだよ。となると、行方不明の天然芋女は推して知るべしだろ」

アルミン「まさか、いくらなんでもそんなことあるわけ――」

クリスタ「ねえユミル、さっきからみんなで何の話してるの? 午後の立体機動訓練の話?」

ユミル「見ての通りだ」

ベルトルト「なるほど」

ジャン「納得した」

アルミン「否定できないね」

マルコ「そういうこともあるんだろうさ」

クリスタ「?」キョトン


ミカサ「……つまり、どういうこと?」

アルミン「えっと、サシャのほうから誘うだけ誘って、肝心の部分はお預け、っていう可能性があるってことかな……?」

ジャン「…………マジかよ」

ユミル「ちょいと……いや、だいぶ抜けてるしなあいつ。なくはない話だと思うぞ」

アルミン「そうなったら、もうなんか……色々ぶち壊しだね」

ユミル「そもそも夜の立体機動に突入するっていうありえない前提が必要だけどなー。まあ、仮の話な、仮の話」


―― 同刻 納屋

ライナー「……キスしていいか? サシャ」

サシャ「えっ……?」ピクッ

ライナー「……やっぱり嫌か?」

サシャ「いえ、そうじゃなくて……びっくりしただけです。だって、ライナーから言ってくれたのはじめてですよね?」

ライナー「今日はそういう気分なんだよ。……いいか?」

サシャ「確認しなくても、いつもしてるじゃないですか……いいですよ、どうぞ」


ライナー「……今日は肩と首、どっちがいい?」

サシャ「じゃあ……首で、お願いします。キスマーク、肩だと隠すの大変なので」

ライナー「わかった。……髪あげるぞ? 邪魔だからな」サラッ

サシャ「邪魔ならまとめます?」

ライナー「いや、このままでいい。……おい、耳真っ赤だぞ?」

サシャ「だって、くすぐったいんですもん……」

ライナー(……上着、邪魔だな。脱がしちまうか)グイッ





サシャ「」ピクッ

ライナー「」ピタッ


サシャ「……」

ライナー「……」

サシャ「……何してるんですか?」

ライナー「……いや、上着を脱がそうかと」

サシャ「……」

ライナー「……」

サシャ「……正座」

ライナー「……はい」


サシャ「……なんで脱がそうとしたんですか? 上着」

ライナー「……」

サシャ「ライナー? 黙ってちゃわかりませんよ?」

ライナー「…………すみません」

サシャ「さっき、ここを出るまで上着貸してくれるって言ったじゃないですか」

ライナー「…………………………ん?」

サシャ「なんで取り上げようとしたんですか? ……やっぱり、寒くなっちゃったんですか?」

ライナー「……そっちか?」

サシャ「そっち? 何がです?」キョトン

ライナー「あー……だから……その……」モニョモニョ

サシャ「?」


ライナー「さっき、その……嫌じゃなかったのか?」

サシャ「嫌って……?」

ライナー「だからな、後ろからこう、ほら、抱いたりとかな、そういうのだ」

サシャ「んん……? どうして私が嫌がるんですか?」

ライナー「どうしてってそりゃあ……」





サシャ「ライナーになら何されてもいいですよ、私」

ライナー「」


ライナー「……あのな、例えばだぞ? 例えばの話だが」

サシャ「はぁ。なんですか?」

ライナー「俺が、その……胸、触らせてくれって言ったら、お前はどうするんだ……?」

サシャ「え? 触りたいんですか? ならどうぞ」

ライナー「……」

サシャ「でも胸触って楽しいんですかね? これ、立体機動のベルト巻く時に地味に邪魔なんですよ?」フニフニ

ライナー「……」プイッ

サシャ「あれ? ライナーどうしました? なんで壁のほう見てるんです? もしもーし?」ツンツン


ライナー「……サシャ、正座」

サシャ「はーい」ペタン

ライナー「まず、俺は男でお前は女だ。ここまではいいな?」

サシャ「なんですかそれ。そこまで馬鹿じゃないですよ」

ライナー「そこまで馬鹿だからこういうことになってるんだろ。……いいか? 俺は紳士じゃないし、お前が思ってるほど大人じゃない。わかるか?」

サシャ「あ、それは知ってます。結構子どもっぽいところありますよね、ライナーって。この前ハンバーグ待ってる時なんかちっちゃい子どもみたいでしたよ?」

ライナー「……」


サシャ「でも、それとは別にちゃーんとかっこいいこと知ってますから安心してください!」

ライナー「……」

サシャ「?」

ライナー「そうだよな……すっかり忘れてたが、お前は頭のネジぶっ飛んでるんだもんな……」

サシャ「もしもーし? 大丈夫ですかー?」ツンツン

ライナー「入団式に芋食ったりな……メシのこと以外なーんにも考えてないもんな……」

サシャ「失礼ですよ」ブーブー

ライナー「事実だろ」


ライナー「あのな、この際だから言わせてもらうけどな。……お前にそんなつもりがなくても、もうさっきから誘ってるようにしか聞こえないんだよ。もうちょっと言葉選べ」

サシャ「誘う……?? どこかに行くんですか?」キョトン

ライナー「ああああああああああああもおおおおおおおおおおおおおおっ!!」バンバンバンバン!!

サシャ「え? え?」オロオロ

ライナー「いいか!? お前は年頃の娘なんだからもう少し慎みを持ちなさい!!」バンッ!!

サシャ「なんかお父さんみたいですよライナー」

ライナー「誰のせいだ誰の!! ……もしかしてさっきみたいなこと、誰にでも喋ってるんじゃないだろうな!?」

サシャ「そんなまさかぁ。ライナーだけですよ?」

ライナー「それにしたってお前は身持ちが緩々すぎる! 正直見てて不安だ、もうちょっと自分を大事にしろ!!」

サシャ「あーっ! その言葉ライナーだけには言われたくありませんよ! さっきは寒くて私に抱きついてきたんでしょう? ライナーこそ、もうちょっと自分を大事にしてくださいよ!」


ライナー「……」ゼエゼエ

サシャ「……」ムー...

ライナー「……わかった。もう俺の負けでいい」

サシャ「私が勝ったんですか?」

ライナー「お前じゃない。勝ったのは俺の上着だ」

サシャ「はあ。そうですか」

ライナー「……それで、どこまでならいいんだ? さっきいいって言ったよな?」

サシャ「そ、それを私に言わせるんですか!?」

ライナー「言うまで兵舎に返さん」ズイッ

サシャ「必死すぎません!?」

ライナー「あのなぁ、これでも俺は我慢してるんだぞ!? 色々!!」

サシャ「我慢は体によくないですよ?」

ライナー「ああー……もう、なんで俺は同期の女にこんな情けない説教してるんだ……」グッタリ

サシャ「ええっと……なんか、すみません。よくわからないですけど」


―― 数十分後 納屋の前

ユミル「……止んだなー、雨」

クリスタ「通り雨みたいでよかったねえ。結局一時間ずっと降ってたけど」

ユミル「……で、私たちの目の前には、行方不明者二人の声が聞こえてくる納屋があるわけだが」

ミカサ「それでは突入する」ジャキンッ!!

コニー「なあミカサ、なんで立体機動装置持ってきたんだ?」

ミカサ「状況によっては削ぎ落とす必要があるかもしれない。ので、持ってきた」

クリスタ「何を削ぐの?」

ユミル「クリスタは知らなくていいから」

ミカサ「……準備はいい? ユミル」

ユミル「へいへい。いつでもどうぞ」



―― メキメキッ         ガチャッ...


ライナー「――ってさっきから何回も何回も言ってるだろ! 大体な、上着の一枚や二枚で喚くなよガキじゃあるまいし!」

サシャ「だから、子どもっぽいのはライナーだって同じでしょう!? ていうかさっき人のこと捕まえて迷子って言いましたよね!? ちゃんと聞いてたんですからね私!!」

ライナー「それがどうした、訓練所で遭難する馬鹿のほうが数倍悪いだろ!!」

サシャ「ひっ、酷い……っ! もういいです、ライナーなんか知りません!!」

ライナー「あーそうだな、こっちだってもう知らん! とっとと上着置いてどっかに行け!!」

サシャ「嫌です上着は渡しません! 絶対に返しませんからね!!」ギューッ!!

ライナー「返せって、そんなに引っ張れば皺になるだろ!!」グイグイ

サシャ「いーやーでーすー!! 一人で寒くなってればいいんですライナーなんかぁっ!」ジタバタジタバタ


ミカサ「……」バタンッ

コニー「? おいミカサ、なんで閉めちゃったんだよ」

ユミル「……どうだった?」

ミカサ「膝を突き合わせて、お互いに罵りあっている」

ユミル「……よし、帰るか」スタスタ...

ミカサ「うん」スタスタ...

クリスタ「コニー、工具箱取りに行こうか」

コニー「え? 二人を呼びにきたんじゃねえの? おい?」

クリスタ「夫婦喧嘩は食べられないんだよ、コニー」

コニー「はぁ? ……ってあれ? 扉の蝶番ぶっ壊れてねえ? 今朝つけたばっかりだったのに」

ミカサ「……気のせい。最初から壊れてた」

コニー「えー……? そうだったかぁ……?」ウーン...


―― 夜 男子寮 エレンたちの部屋

エレン「ライナーの奴遅いなー」ゴロゴロ

アルミン「うん。全然帰ってこないね」

ベルトルト「お風呂に行ったきりだね」

アルミン「きっとトイレにも行っただろうね」

ベルトルト「……どっちが先かな。賭ける?」

アルミン「心底どうでもいい賭けだよね。僕はトイレに明日の夕食のパン一つ」

ベルトルト「じゃあ僕はお風呂に賭けるね。後で問い質そう」

エレン「トイレかー。体冷えて腹でも壊したのかなー?」ゴロゴロ

アルミン「そうだね。それでいっか、もう」

ベルトルト「いいよもうそれで。取り敢えずライナーは近いうち僕が説教しておくから」

アルミン「ベルトルトが怒ったら怖そうだなぁ」

ベルトルト「そんなことないよ。優しくするさ」


―― 同刻 女子寮 ユミルたちの部屋

サシャ「……」グスッ

クリスタ「よしよし、泣かないの」ナデナデ

サシャ「らいなーのばかぁー……」プクーッ

クリスタ「拗ねてるねぇ」ツンツン プニプニ

ユミル「で? あの納屋で何やってきたんだよ、サシャ」

サシャ「……何もしてないです」

ユミル「何もしねえであの純情男と喧嘩になるわけないだろ。いいからとっとと吐け」

サシャ「……だってライナーが上着取ろうとするんですもん」ボソッ

ユミル「……………………は? 上着?」

サシャ「貸してくれるって言ったのにぃ……」ギューッ

クリスタ「取られちゃったの?」ナデナデ

サシャ「取られそうになったんですぅ……」グスグス

ユミル「……」


ユミル「えーっと……あいつが、お前の上着を取ろうと……いや、脱がそうとしたんだよな?」

サシャ「……そうですけど」

ユミル「いきなり? その前に何か言われなかったか?」

サシャ「……き、キスしていいかって、聞かれました」カァッ...

ユミル「……あのさ、この前の夜間忍耐訓練の時にさ、あの眼鏡の臨時教官が言ってたろ。ズッコンバッコン開拓地送りって」

サシャ「そういえば、そういうこと言ってましたね」グスッ

ユミル「ズッコンバッコンの意味、わかってるか?」

サシャ「……? 新種のダイコンの名前じゃないんですか?」

クリスタ「私もそう思ってたんだけど……ユミルは知ってるの?」

ユミル「…………あー、なるほどなぁ……やっぱりかぁ……」

ユミル(ライナーの奴、自分の上着に負けたのか……かわいそうに……)


ユミル「いやー……お前が思ってるよりもかなり酷いことしてんぞ、サシャ」

サシャ「……どうしましょう、ユミルぅ」グスグス

ユミル「たぶんお前が一発好きって言ってやりゃあ済む話だと思うけどなぁ」

サシャ「いっ、言えませんよぉ……恥ずかしいですもん……」ボフッ

クリスタ「ダメだよサシャ、布団に泣いた顔押しつけたら」

ユミル「んじゃあれだ、抱きしめてやれ。ぎゅーっと」

サシャ「今日やりましたよ……やってもらったほうですけど……」グリグリグリグリ

クリスタ「サシャ、こすっちゃダメだってばー」クイクイ

ユミル「他にはそうだな…………ん? 待て、まだ好きとか嫌いとかそういう話してないのか? 一度も? 一切?」

サシャ「? してませんけど……」

ユミル「……あっちからも?」

サシャ「ないです」


ユミル「……ダメだこりゃ。あっちもこっちもドツボにハマっちまったパターンだわ。ご愁傷様だな」

サシャ「ところで、ズッコンバッコンってどういう意味なんですか……?」グスッ

ユミル「私じゃなくてライナーに教えてもらいな。実技込みで」

サシャ「しばらく顔合わせられませんよぉ……やっぱり、謝ったほうがいいと思います?」クスン

ユミル「あっちがもっと惨めになるからそれだけはやめてさしあげなさい」

クリスタ「ねえねえユミル、私にもズッコンバッコンの意味教えて?」クイクイ

ユミル「クリスタはさっさと寝なさい。そんな爛れた知識は必要ありません」


ユミル(しっかしこいつら、マジでまだ告白もしてなかったのか……たまげたなぁ……)

ユミル(そもそも、サシャも恥ずかしがるところ違うだろ……なんでキスができて告白できねえんだよ……)



サシャ「クリスタぁ、さみしいのでぎゅってしてくださいぃ……」

クリスタ「はいはい、いいよー」ギューッ

サシャ「うぅー……」グスグス ギューッ

クリスタ「よしよし、サシャは甘えんぼさんだねー」ナデナデ



ユミル(……よくよく考えてみりゃあ、あのクソマジメで正直者の純情男が、どうでもいい女を襲ったりはしないよなぁ)チラッ

ユミル「……ま、何にせよ」



ユミル「……今までのお前の努力は、無意味なんかじゃなかったってことだな。うん」ナデナデ

サシャ「?」



おわり

というわけで終わりです。読んでくださった方ありがとうございました!
きちんと描写できてるかどうかは別として、やっとまともにあすなろ抱き書けたので>>1は大変満足しました。ごちそうさまです
というわけで次回はベルトルトに説教という名のダブルデートしてもらう予定です
お相手は次回のお楽しみ

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